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不定期連載小説
「たんぽぽ荘」
−31.マッドマダラ−
「もう貸すなよ」
僕が漫研からカメラを返してもらった事を話すとぽつりと言った。
村止さんにしてみれば袂を分かった漫研に何の義理があるんだと言うことだろう。
この話はこれで終わり、あとは相変わらず村止さんの漫画を読ませてもらう。
漫研に村止さんが在籍していた頃は下宿を訪ねるとクラブの方向性について激論をかわしたものだが一旦退部してしまうとその話題もなくなる。
新しく立ち上げる創作同人誌研究会の準備も一段落したので今はもう話題もない。
必然下宿を訪れてもそこにある何か読み物を読むだけになってしまった。
「ところで村止さんは何か作品をお書きにならないんですか?」
思いついて唐突に聞く。
「うん。書かないこともない」
今まで村止さんのイラストを見たことはある。
先回の文化祭に出品していた同人誌には村止さんの筆による一つの記事と挿絵が掲載されていた。
その挿絵はメジャー系ではなくハードロック調のちょっと凄いものだった。
村止さんはレッド・ツェッペリンやマイケル・シェンカーといったアーティストの音楽を好んでいたのでその影響だろう。
当時はやりの言葉で言えば”ハードロック”である。
この分野の音楽を反社会的なイメージでとらえる人もまだ当時は多かった。
既存の価値観を覆すという意味では確立された組織である漫研にあえて反旗を翻すという村止さんの行動はこの辺の影響かもしれない。
僕はこういった個性的な人物がどんな作品を描くのか、もっと読んでみたかったのだ。
「実はな」
村止さんは続ける。
「今抱いてる企画がある」
「どんなものですか?」
「主人公はイギリス人とドイツ人の混血で車と同じ早さで走る事のできる狂気の暗殺者だ。」
「へえ」
「ここにちょっと描いてみた絵がある。見てみるか?」
「はい」
村止さんは角のすり切れたノートを取り出した。
「これだ」
広げられたノートには村止さん独特のイラストが描かれていた。
確かに凄い絵だった。
少し歪んだ口、斜めに構えた体、そして小さく点のように描かれた瞳が狂気をよく表現している。
僕は背筋がぞくぞくするのを感じた。
「タイトルは」村止さんが言う。
「『マッドマダラ』だ」
「マッドまだら! ぷっ。」
なぜだか僕は無性におかしくなって吹き出した。
「も、もう一度言ってください」
怪訝な顔をする村止さんにお願いする。
「マッドマダラ」
「ぷっ。ははははははははは・・
笑いが止まらない。
「も、もういちど」
「マッドマダラだよ」
「まっどまだら。まっどまだら。ははははははははは」
「お前俺に喧嘩売ってんのか」
しまいには村止さんが怒りだしたが僕の笑いは止まらなかった。
後で思い出してもどうしてあんなにおかしかったのか分からない。
女性には箸が転んでもおかしい年頃というものがあるらしいが、そういったものだったのかもしれない。
とにかくこの時の僕には『マッドマダラ』という凄まじいネーミングはとんでもなくおかなものだった。
気の毒なことにこの後村止さんは自分の作品の話をしなくなってしまった。
−32.ジャイアント馬場−
この頃僕には二階の田中君の部屋で深夜番組を観るという習慣がついていた。
田中君というのは商経学科で僕と同学年の兵庫県出身。
彼はサーファーで、インドアタイプの僕とは合いそうにはなかったので、入学当初はあまり近づかなかった。
それが夜な夜なやっていたトランプ『ナポレオン』とテレビの話題で最近親しくなったのだ。
何と言っても彼の部屋にはテレビがある。
当時の貧乏学生にはテレビは高級品で手の届かないものだった。
この時期たんぽぽ荘の同級生でテレビを持っていたのは竜田君と田中君くらいだった。
水曜日の全日本プロレスを欠かせなくなってしまった僕は夜十一時四十五分になるとタンポポ荘の二階に上がる。
旧館の入り口右側にある階段を上がって左側、最初の部屋が田中君の部屋だ。
当時全日本プロレスではジャイアント馬場が頑張っていて、大変楽しかった。
馬場はどうみても動きは遅いのだが大抵決まる空手チョップと十六文キックは最高に気持ちがいい。
いきなり乱入してくる上田馬之助や、剣を持ってはいても絶対握りの方でしか攻撃しないタイガー・ジェットシン。
チェーン持ってるけど床しか叩かないブルーザー・ブロディなど面白さ目白押しだった。
ゴングの音とともに番組のタイトルが出ると二人で盛り上がる。
「ばー馬場ーば、ばばばば。
馬場ば馬場ばば馬場ばば、ばっばー・・・」
おなじみの全日本プロレス中継のテーマに合わせて勝手に作った馬場のテーマを二人で歌う。
気分はマックスだ。
そして馬場の登場。
「あー。馬場ー。馬場ー」
二人で歓声をあげる。
馬場がやられると
「馬場ー。どうした馬場ー」
馬場が優勢になると
「馬場ー」全部馬場である。
幸い二階の人達は留守がちで少しくらい大きな声を出しても文句は出なかった。
番組が終わる頃にはへとへとになってはいたが、馬場のおかげで毎週水曜日には幸せな気分で寝ることができた。
(三三に続く)
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