さ  く  ら

願はくは花の下にて


昨夜も十時近くまで会社で仕事だった。
帰宅時には日暮れまで降っていた雨もあがり
湿分を含んだ、ふっくらした春の空気が漂っていた。

最寄り駅で電車を降りたときは随分にお腹も空いていた。
夜も十一時近くなると食事の摂れる店も余りない。
堪らず或る店に飛び込んだ。カウンターにあるメニューから
春野菜 天麩羅の盛合わせを頼み、
先ずは生ビールのジョッキを傾けた。

天麩羅の具にあったタラの芽は子供の頃の
懐かしい記憶を思い起こしてくれた。



零時過ぎに店をでた。頬に受ける夜風は心地よかった。
それにしても暖かい夜である。ほろ酔い気分で歩き始めた。
街角の外灯に照らされて朧に何か白く見える。

公園に植栽された桜だった。
そう云えば今年は開花宣言があってから
随分経って花の観ごろを迎えたようだ。




朝遅く目が覚めた。しばらく前から、休みの日に
引越先の物件探しを ・・・ と考えていた。
しかし、週の疲れが取れず今日も
そのような気分に為れない。

枕もとのラジオからは明日の日曜日には、
天気が崩れるとの予報が流れている。
ことしの桜も今日が見納めかも知れない。

結局、昼近くになってベッドから抜出た私だった。



部屋の掃除を済ませ、昼過ぎに食事に出掛けた。
街には穏やかな春の陽射しが降り注いでいる。

食事の後、腹ごなしに近くの川岸まで歩いていった。
川沿いは桜の並木になっていた。花は満開である。
此処まで歩いて15分ほどの所に一年も住んでいながら、
こんなに立派な桜並木が在ることなど全く気づかなかった。

心に余裕の無い日々を過ごしていたのだろうか?
きっとそうなのだろう。 桜も目に入らないほどの。







それにしても、みごとな桜並木である。

春風が桜の枝先を揺らすたび、
陽射しを浴びた枝先から花びらが川面に舞い落ちる。
川面に落ちた花びらは流れ
水面近くまで上がってきた大きな鯉が
それを追うように揺ったりと泳ぎ下って行く。
長閑な春の午後。  小一時間ほどの散歩。

さくらさき
さくらちる
     さりゆくものの美しさ



ところで昔から桜花は観る人の心を揺らすものらしい。
そう、春風になびく桜の枝先のように さら さら さら と。

特に、この世の無常を詠んだ和歌や俳句など、
最近の私には身につまされるものが多いのである。


 明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは   親鸞

散る桜 残る桜も 散る桜                   良寛


然しまぁ 〜 本当に つん に似合うのは、やはりこれかなぁ 〜


酒無くて何の花見の桜かな


さて、部屋に戻りビールとカメラでも持って出直して こょ〜っとぉ 〜 。



    つ ん
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