一ノ森遭難の詩
(1879m) 2002.3.17


異常気温か この春は 梅と桜が 競い合う
冬眠中の 見の越が 谷間に築く 駐車場
小屋平への 県道は 雪が深いか 閉鎖され
うぐいす鳴ける ぶなの道 我等三人 登りける
春が来ないと 動かない リフト鮮やか 化粧して
西島からは 尾根づたい 坂急なれど 道近し
そこここ残る 硬い雪 恨めしそうに 天仰ぐ
昨年登った 塔の丸 矢筈山(やはず)見下ろす 剣山
狭い四国の 島なれど 見渡す限り 山の波
役目終えたる 測候所 鉄塔残り 時流る
熊笹風に さやさやと まるでさざ波 寄する音
縦縞(たてじま)模様 次郎笈 どっしり構え 勇姿冴え
剣山の頂上
次郎笈を望む
村営ヒュッテ
一ノ森への とりつきは けっこう急で 坂落とし
予定通りの 三時間 一ノ森山 春めける
村営ヒユッテは 雪かぶり 時の来るのを 待っている
笹に攻められ 白骨林 昔話を 語りかけ
寒風避けて 陽溜まりで にぎり弁当 頬ばれリ
帰りは北面 下り坂 ロッジの横に 来てみれば
雪に埋もれて 道がない 一瞬 我は ためらえり
雪道「車長」 先頭で 足跡たどり 就いて行く
*「車長」=しゃちょう。毎回、彼の車で
 行くことから、このあだ名がついた。
 実際、会社の「社長」である。
左は山で 右は谷 雪は凍りて シャリシャリと
山の斜面を 埋めつくし 谷まで続く 急角度
四十五度は 切っている 避け場ない道 凍り道
靴にアイゼン 取り付けて 確かめながら ()うように
下山始めて 一時間 ますます斜面 急になる
つかまった木が 枯れ枝で バランス崩し 転落す
あっと云う間の 出来事で 何が何だか 解らない
たった一本 生えていた 木にぶつかって 止まりける
体半分 逸れてたら まっ逆さまに 谷底へ
宮尾登美子の 小説の 「天涯の花」 主人公
キレンゲショウマ 守り住む 珠子現れ 受け止める
(まぼろし)か  (ほの)かな香り  ぬくもりが」
雪の斜面
登山靴
()で下ろし (ひざ)立てて 谷底見れば 岩ばかり
帽子に靴と 背にリュック 両手に手袋 杖持てり
我の身代わり してくれた ペットポトルが 消えていた
もしもそのまま 落ちてたら 六十七(才)の 生涯を
一ノ森にて 終わりけり 此の世と別れ してたろな
根っ子の枝で 顎を打ち 上下唇 裂けていて
(あふ)れる血潮 雪染める 西島までは まだ遠い
二人が足跡 深くつけ 更に自分の 杖で掘る
一歩一歩が 命懸け 我等のほかは 誰もこず
キレンゲショウマ 雪の下 珠子も花も 夏を待つ
雪が解けたら もう一度 命拾った 一ノ森
訪ねてみよう 一ノ森 珠子も待って 居るだろう
一の森頂上から
「衝撃の  くちづけ今も  忘られず」
山のリストへ MENUに戻る

ホームページ内にある写真や詩の無断転載等を禁止します。Copyright (C) Takeshi Tsugiya All Rights Reserved.