『いいものを作るには心のときめきが大切』
石彫名人 八柳伸五郎師を訪ねる

1月24四日(日)、仲間6人で雨に煙る真鶴を訪れた。

石定(森田定治氏)さんの手引きで石彫名人・八柳伸五郎師にお目にかゝり『石彫ばなし』をお聞きするためである。

八柳(やつやなぎ)一門は石工の世界では別格の存在で、靖国神社の狛犬をはじめ関東各地の寺社で地蔵像などの名作を残している。

八柳師の工房では、師の彫った狛犬・地蔵像・おびただしい石蛙が出迎えてくれた。

師は若い時から興がのったら蛙を彫ってきたという。秋田に生まれ15才で厳しい職人の世界に入った師にとって、蛙は厳しさに耐え一人前に飛躍しようとする心の反映だったかもしれない。

これらの蛙たちに『あすなろ蛙』と勝手に名づけた。一同『いいなあ、いいなあ』と言いながら今にもフトコロに入れかねない雰囲気、師はあっさり言った「なくなったら、また彫ればいいさ」。

工房で、又、真鶴の魚をつゝきながらの師を囲む会は五時間に及んだ。
師が語る職人の世界、彫師の心根、石や道具の話、そして師の人生感、世相感は含蓄に富んだものだった。

『彫師には心のときめきが大切、これが興きたときには手は筆のように自在に石を刻む』『石彫りは3ミリを削るかどうかの葛藤の世界』『彫師の心が作像の顔に出る厳しい世界、素直さがないといい作像は出来ない』などなどメモ20枚になった。

師は最後に声を落としてつぶやいた「損得を尺度にする今の世に職人は育たない、私らで最後かもしれないな」…

八柳師と石定さんのお蔭で心満たされた一日を過ごすことができた。狛犬を寄進する機会があったら、八柳伸五郎師に作像をお願いしよう…皆の一致した感想であった。

        (三宅稜威夫 1999年12号より

八柳師と円丈会長(八柳工房にて) 落語狛犬奉納の日