Index>Essay>北欧の森林文化とエコロジカルハウス

北欧の森林文化とエコロジカルハウス

スウェーデンとフィンランドは潤沢な森林資源を活用した循環型社会の構築を目指しています。
国産の木材を使った省エネ住宅は、建設に必要なエネルギーやCO2排出量を抑え、廃棄物も削減。
LCCO2を含む建築のライフサイクルの環境負荷を最小限にしています。
実際の事例を紹介してみましょう。

日本に最も近いヨーロッパ

日本からフィンランドは空路で9 時間。じつは日本から最も近いヨーロッパです。
国土面積に占める森林の割合は69%で、日本の66%に近く、気候や日照時間こそ違いますが、森林資源に恵まれている点では共通しています。
循環型資源の木材を活用してエネルギー消費量を抑え、環境負荷を最小限にするエコハウスの取り組みを紹介します。

スウェーデンの地中熱利用住宅

最初に、スウェーデン北部のブーデンという、人口約2 万8000 人の小さな町にある住宅を紹介します。  この住宅は、1648 年に建てられたログハウスの農家を、地元の老舗眼鏡メーカーがゲストハウスとしてリフォームしたものです。
外観デザインは、板を貼り直してベンガラの塗装を施し、19 世紀末から20 世紀初頭に広まった北欧の住宅建築のスタイルを踏襲しています。
構造材のログ(丸太)は350年前の材をそのまま使っており、1 階はエネルギーを無駄にしないために中央にお湯を使うスペースを集中させており)、
2 階は8人まで宿泊することができる寝室になっています。
 スウェーデンでは一般の住宅でも、地下と地上の温度差を利用して暖房と給湯のエネルギー効率を高める、地中熱利用システムが普及しています。
この方法はエアコンの室外機を地下に埋めているようなもので、熱交換の原理で熱源の3 倍から5倍の熱が得られるヒートポンプを利用したセントラル・ヒーティングシステムです。
北欧は掘削費が格安なため、手軽に地下200m前後の安定した熱を利用できます。
この住宅は珍しい例で、1m くらい掘ったところに数十m の水道管を張り巡らせて地中熱を得ています。
北部寒冷地のため、地下浅くても地上との温度差が大きく、ヒートポンプと1500 リットルの貯水タンクを組み合わせた暖房・給湯システムにより、
年間2万kwh(約7メガジュール)のエネルギーが得られ、母屋とゲストハウスの2棟の暖房と給湯がまかなえるのです。 地中熱利用は安定したエネルギーが得られるので、日本でもこれから増えていくと思います。



リンドースのテラスハウス

次は、スウェーデン南西部の北海沿岸の都市、イエーテボリ市のテラスハウスです。
市中心部から郊外へ約20km の位置にあるリンドースで住宅公社が宅地開発を行い、20 戸のテラスハウスを分譲しました。
イエーテボリ市は「持続可能な社会」の実現をタイムテーブルにのせるプロジェクト「イエーテボリ2050」という目標を掲げていますが、このテラスハウスは「無暖房住宅」として省エネ効果が評価され、2003 年のイエーテボリ国際環境賞を受賞。2005 年には愛知万博「愛・地球賞」を受賞しました。
 このテラスハウスはなるべく装置や機械類に頼らずに家電の排熱や太陽エネルギーを活用する「パッシブ」な手法を取り入れた設計がされています。
他にもフィルターに熱を蓄える熱交換機を設置して室内の暖かい空気を逃さないようにしたり、日本ではオーバースペックなほど断熱性の高い3重構造の特殊な窓が採用されたりしています。
 なお、住戸ごとに屋根から大きめの排気塔が出ているのは、「居室の換気」「トイレ換気」「厨房の換気」の3 ラインに分離して換気を行っているからです
。  住んでいる人たちも特別に環境意識が高いというわけではない、普通の人々です。
建設コストは断熱性能を上げるために少し割高ですが、暖房費など維持費の相殺で回収できるようになっています。

フィンランドのエコ住宅

次のラナーンペルト・ハウスは、フィンランドの国立技術研究所上級研究員のペッカ・レッパネンさんが3年がかりでつくった、
長年にわたるエコ住宅研究の集大成です。
建設エネルギーを最小限に抑え、生活に必要な暖房や水使用量、廃棄物削減など、環境負荷を削減しようという考え方を実践しています。
 材料も無駄になる端材を減らすため、外壁の板材や構造柱を120mm という従来より短いサイズでモジュール化し、
建設費をなるべく安くするために地元にある木を使う地産地消を試み、建築資材とエネルギーコストを6 分の1 に抑えたそうです。
 スウェーデンはオール電化住宅が多いのですが、フィンランドはハイテク暖炉を併用する方針です。
この住宅ももちろん暖炉なのですが、砂時計型の暖炉の下部分で薪を燃焼させると、熱が循環して徐々に空気が上の燃焼室に上昇し、完全燃焼します。
そのため1、2本の薪で一晩暖かさがもち、外気温が―40℃でも室内は20℃前後に保たれています。
また、室内も空気循環されるように設計されています。
 暖炉のエネルギーの40%は室内暖房へ振り分けられ、残りの60%は暖炉の背後に巡らせた送水管に水を流して余熱から湯を得て、
隣接する2300 リットルの貯蔵タンクに蓄えて床暖房と浴室やキッチンの給湯に利用しています。
 このようにエネルギー消費の効率化を徹底した設計がされ、断熱も万全です。
建物の壁は3 層構造で、構造フレームの外壁の外側に25mm 厚の防風板を張り、屋根の上にも貼っています。
これは、構造壁の補強にもなっているのです。
外壁内側は断熱材を充填し、断面でいうと壁が300mm、屋根と床材は400mm の古新聞を再生したセルロースウールという木質系の断熱材を使用しています。
窓は2枚のガラスの間にある空気層の中央に特殊フィルムを挟んだ、断熱性能の高いガラスを使用しています。
室内の汚れた空気をきれいな空気と入れ替える時も、フィンランドの国立技術センターで認証を受けている熱交換器で暖まった空気は逃がさないようにしています。
これは標準的な家に設置するもので、価格も70 万円ほどです。新築の場合は設置を義務付けられています。
また、暖炉を使わない夏場用に屋根に13.2 uのあまり大きくない太陽熱温水パネルを設置し、暖炉システムの温水タンクに直結させています。

木造5 階建ての集合住宅

ストックホルムから空路で45 分、スカンジナビア半島中部に位置するスンスバル市は工業都市、港湾都市として栄えてきました。
スンスバルでは2020 年までに持続可能な社会を実現するための「アジェンダ21」を掲げ、
住民の力を引き出して、環境教育の充実や行政の環境マネージメントなどを行うための独自の目標を掲げています。
 この都市の市電操車場跡地に、木造5〜6 階建ての公営住宅5 棟を建設するプロジェクトが2000 年に始まりました。
このプロジェクトには2つの大きな目的がありました。一つは、ローコストでクオリティの高い賃貸住宅を提供すること、もう一つは地場産業である木材需要を掘り起こすことです。
 このプロジェクトでは、「ソリッドウッド・システム」という、幅95mm 厚さ22mm の無垢材5 枚をクロスして積層させて108mm 厚にした、
無垢材より強度が高い積層材が開発されました。
鉄筋コンクリートに匹敵する性能(比強度等)があり、防火壁にもなる、
しかも建設コストはRC に比べ15〜20%抑えられるという優れもので、「ソリッドウッド・システム」は床スラブや構造壁として使用されています。
ユニットの組み立てはすぐ横につくった作業場で行われ、クレーンで吊り上げてそのまま施工する方法で5階建ての集合住宅を建設しています。
 この小家族向け住戸は寝室の外側に窓付きのバルコニーがあり、冬は寝室の保温に役立っています。
住人の20 代の女性は、室内と屋外の緩衝地帯となるバルコニーが一番気に入っている場所なのだそうです。
 駆け足でしたが、以上のように北欧では多様な森林資源の利用が進んでいます。
木質廃材をバイオ燃料や発電に利用するなど、日本でもバイオマス利用が始まりましたが、
植物は建材だけでなく、幅広い資源・エネルギーの可能性を秘めています。
日本独自の循環型資源の活用が期待されています。

当ウェブ・サイト内の写真、文章の著作権は井上雅義に帰属しており、無断での転載、使用は禁止します。連絡先:masa-ino@violet.plala.or.jp