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はい、司令室。
東部司令部に電話を入れて、司令室につないでもらえば、耳に優しい声がすぐさま聞こえてきた。この司令室の主が自分で内線を取ることなど全く予想すらしていなくて、少しだけ口ごもった。本当にちょっとした用事で、ハボック少尉かブレダ少尉に何か良いアドバイスをもらえないかなと思って電話しただけだったから。
ちょっとした戸惑いの少しの沈黙に、受話器の向こう側からも沈黙が返る。慌てて、間違い電話に思われる前に名乗った。
アルフォンス?
声が驚きを伝えた。途端に申し訳ない気持ちになる。
――ああ、大丈夫だ。 忙しいことに変わりはないが、電話が受けられないほどではないよ。
明るい声。声だけでも分かる、その表情の豊かさが。それにちょっと安心して口を開いた。
ギッと椅子がしなる音が聞こえる。その次にはポンとペンが机に投げ置かれた音。仕事の手を止めて、椅子に座り直したのだと思う。話を聞けるよ、大丈夫。そう言われた気がして、言葉を続けた。
南部? 今、この時期に、か? 君の兄はバカなのか? ああ、いや、すまない。あー、まあ、私の率直な感想であることに違いはないが…。色々事情がありそうだな。
その率直という感想こそ全てだった。だからこそ、大佐にわざわざ相談するようなことは避けたかったんだけど…。下らない事情を説明すれば、笑いを堪えた声が返る。
――そうか。ならば、君の役に立てそうだ。近々、君の兄は大手を振って東部行きを宣言するだろう。東部も暑いが、南部に比べれば幾分マシだ。恐らく…。
こちらもそれなりに暑くてうんざりしていることに変わりはないが。ため息と共に、予言のような言葉が告げられた。
ふふふ。それは、今は言わないでおこうか。私の楽しみが減るからね。イーストシティへ着いたら、ちゃんと東方司令部に顔を出すように。
大佐の途切れない質問に答えながら、近況とか、南部で流行っているものの話をしていると、つい長電話になりそうな気がして、慌ててお礼を言って電話を切る。気安く接してくれるけど、東部の長であるこの人の時間を無駄に使うことは本当に申し訳ないことだから。
「よし!」
すぐにここを立つ準備に取り掛からなくちゃ。することは多い。きっと大佐がああいう謎めいたことをいうからには、兄は数日中に東部行きを宣言するんだろうし。