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再来、プニムでGO! 9 +
「きみは完全に包囲されている! 遠距離攻撃をやめて投降しなさい!」
拡声器片手に、イリアスが叫んでいる。視線の先は王城の塔の屋根の上だ。そこには殺気でZOC大を形成したプニムが一匹、寄らば斬るとばかりに仁王立ちしている。
それを囲んで、虫取り網を手にした騎士たちが幾重にも包囲網を完成させている。が、誰も彼も及び腰だ。その人垣を割って、僕らはイリアスに近づいた。それとほぼ同時に、あちら側からガゼルたちも駆けてきた。
「イリアス、状況はどうだ?」
「あ、レイド先輩……。だめです。見ての通り、近寄ると岩石が降ってきます」
ここに到着するまで、何人もの兵士が担架で運び出されていくのとすれ違ったからよくわかる。みんなHPがごっそりけずれていたっけ。
「私たちのほうもダメだ。裏から回ろうとしたが、あらゆる世界のユニット召喚獣がそこらじゅうを警戒していた」
「召喚能力は保たれているんですか? さすが誓約者……」
イリアスは畏怖を込めた目で、今はすっかりぷにぷにボディなエルゴの王を見上げた。
「ハヤト、降りてくるんだ!」
レイドが声を張り上げる。
「このままじゃきみはいつまでもプニムのままだぞ! エルゴの王の身にもしものことがあったら、リィンバウム全体に影響があるかもしれないんだ! さあ、プニム病を治そう!」
「ぷにいいい!」
塔の上で、プニムが激しく首を振っている。
「ハヤト!」
見かねて僕も慣れない声を張り上げた。
「聞いてくれ! 僕らはリィンバウムが心配なんじゃないんだ! このままプニム病がひどくなって、きみの身に何かあったら……!」
考えただけでぞっとした。無色の派閥で、父上の下で、希望も望みもなく暮らしていた頃の気持ちがよみがえってくる。
「きみは僕がやっと手に入れた、唯一つの居場所なんだ! 僕から僕のいるべき場所を、きみという人を取り上げないでくれ!」
叫ぶうちに涙があふれそうになって声がかすれた。プニムなハヤトをみつめると、彼もまた、僕を見つめて「ぷにぃ……」とうめいた。
まっすぐにその大きな瞳を見つめ、僕はうなずく。
彼は、僕をあの闇からすくい上げてくれた彼なら、わかってくれるはずだ。心をこめて、僕は叫んだ。
「……城の召喚士がいやなら、無色のコネを使って、イケメンでもジャニ系でもガチムチでも、好きなタイプの30代男子を用意するから!」
「ぷにいいいいいいいい!!!!」
なぜか怒りの遠距離攻撃・岩石が降ってきた。おかしいな、説得がいい感じだと思ったのに。
「ジャニ系やガチムチは趣味じゃないんだろう。意外とわがままなところがあるな、ハヤトは」
「いや……レイド先輩、それは違うんじゃないかと……」
降り注ぐ岩をかいくぐりつつレイドが言うのに、同じく岩をよけながら、イリアスが言いにくそうな口をはさんだ。
「じゃあ、ロマンスグレーとかそのあたりでしょうか」
「そうかもしれないな。それを提案してみようか」
「いやその、レイド先輩」
「無駄っぽいからやめとけよ。苦労してんな、あんたも」
イリアスがなぜかガゼルに肩をたたかれている。ともあれ僕らは降り注ぐ岩石に追われ、大幅な後退を余儀なくされた。
状況は完全に膠着状態だ。
「このままじゃ埒があかねえぞ。どうするよ」
ガゼルが苦い顔をするが、僕には自信があった。
「大丈夫だ、さっきも言ったけど、僕に秘策がある」
ガゼルが目を見開いた。
「秘策?! おい、何だよそれ、教えろよ」
「少し待ってくれ」
僕は言う。しばらく、呼びかけることもせずに待ち、待ち、待ち……、
「おい、キール! そろそろ教えろよ!」
じれたガゼルがついに僕の襟をつかんだその時、ようやくそれが起こった。
「見てくれ」
僕の指を追ってガゼルの目が塔を振り返る。
プニムが揺れていた。ぷにぷにとではなく、うつらうつらと。
「プニムはすることがないと眠ってしまうんだ。プニム病患者も、同じさ」
「……いや……だからって……」
ぷにぷにボディが大きく船をこぎ、そのままバランスを崩して落下した。ぷにぷにボディが衝撃を吸収し、地面に落ちたプニムは2・3回弾んで鼻ちょうちんとともに城の中庭に転がった。
「……この状況でフツー寝るか?」
ガゼルのぼやきは風に消え、
「今だ!」
と騎士たちがとびかかった。手にした虫取り網が、いっせいに振り下ろされる。
「団長! 目標を捕らえました!」
「よくやった!!」
歓喜がどよめきとなってひろがる。と、その中で、
「ぷ……ぷに?」
周りのさわがしさに、プニムが目を覚ました。
「ぷに? ぷに?」とあたりを見回し、自分の上に虫取り網がかぶさっていることを視認し……、
間の悪いことに、「むむ、何の騒ぎだ?」とイムラン・マーンが城から出てきたのだった。
「ぷにいいいいい!!」
怒りとも恐怖ともつかない叫びが、そのぷにぷにした口から発せられた。天が、にわかにかきくもる。
「何だ?」
「おい、見ろ、竜巻だ! 竜巻が来るぞ!」
騎士団から悲鳴が上がった。突如発生した何本もの竜巻が王城を取り囲み、天を覆う黒雲からは、いかずちが鳴り響く、それを割るようにして、
「何だ、あの光は!!」
まばゆい光が、一つ、二つ、三つ、四つ、降りてくるのが見えた。
「……四界のエルゴだ……」
僕は呆然とつぶやく。
12.08.13