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「あぁん? おめぇら、こんなとこでなにやってんだ」
 彼は、僕らを見るなりそう言った。かなりガラが悪く聞こえる口調だけれども、実際はかなりいい人なのを僕らは知っている。マーン3兄弟の一人、キムラン・マーンだった。
「なんであなたがここに……」
「あぁん? ここは城だぜ。俺がいて当たり前だろうが」
 そういえばそうだった。僕が納得する間に、彼は「んん?」と身を乗り出した。
「そのプニム……プニムじゃねえな。プニム病か?」
 本当に驚いた。彼が一目でそこまで見抜くとは。今更ながら、彼らマーン3兄弟がサイジェントを代表するサプレスの召喚士であることを思い出した。……見抜けなかった僕は、まだまだ習練が足りない。
「わかるの? そうよ、このプニム、本当はハヤトなの!」
 勢い込むリプレに、キムランは「ハヤトだって?!」と目をむいた。
「おいおいどうすんだよ! 誓約者がプニム病じゃ、リィンバウムはどうなっちまうんだ! 早く治さねえと……ああ!」
 彼は天を仰ぎ、
「そうか、お前らのアジトにゃ治せるやつがいねえんだな。わかったぜ、ハヤト!」
 深くうなずくと、握りこぶしに親指を立て、ぐっとこちらに突き出した。
「他でもねえ、このサイジェントの勇者の危機だ。このキムラン・マーンが一肌脱ごうじゃねえか」
 その輝く笑顔を硬直したまま眺め、5秒。
 ………………プニム病は、年齢30歳以上、霊属性の召喚術を使える男性のキスで治すことができる……。
「ぷにぃぃぃい〜!」
 悲痛な叫びとともに、ハヤトが僕の胸に飛び込んできた。
 ……いや、横から見ていたリプレによるとそれは、反射的にキムランとは逆方向に跳んだ彼の軌道に、たまたま僕がいただけというものだったらしいんだけど。でもそのときの僕には、恐怖に震える彼が、僕の助けを求めて飛びついてきたとしか思えなかった。
 彼が、あの戦いで僕を守ってくれたハヤトが、恐怖に震えて僕に助けを求めている!
 ……胸の辺りで、きゅーんと音がした気がした。同時に使命感が燃え上がった。
 任せてくれハヤト、今度は僕が、全力で君を守ってみせる!
「あぁん? なんでぇ、逃げるなよ」
「それ以上近づかないでください!」
 僕はロッドをキムランに突きつけた。左手でしっかり抱きしめたぷにぷにハヤトがやたらじたばたしてるのは、キムランにおびえてのことと思っていたけれど、リプレによると、単に僕に逃亡を阻まれていたからだけらしい。
「あなたに、ハヤトは渡しません!」
「あぁん?」
 キムランは僕をねめつけ、
「さてはてめぇ……。そのぷにぷに具合が気に入りやがったな? 独り占めしようって魂胆だろう!」
 あちらも指を突きつけてきた。とんでもない言いがかりに僕は憤慨する。
「見損なうな! 僕はプニムのぷにぷには好きじゃない! どうせなるならポワソがよかったのにと思ってるくらいだ!」
「ぷにっ?!」
 僕の腕の中で、プニムがショックを受けた様子で硬直したけど、そのときの僕にはその理由がわからなかった。
「どっちでもいいんだよ! とにかくそいつを渡せ! てめぇにゃ元に戻せないだろ!」
「誰が渡すものか!」
「しゃらくせえ! 来いや、ガルマザリア!」
「パラ・ダリオ! 誓約者のために力を貸してくれ!」
「ちょっと、やめなさいキール!」
 叫んだリプレが、ふと小首をかしげた。
「あら? そういえば……」
 同時に、
「ぷにぃぃぃいいいいいい!」
「なっ……!」
「うわあっ!」
 突然のプニムの雄たけびが、魔力の爆発を伴って僕たちを吹き飛ばした。キムランとは反対側に倒れこんだ僕の腕から、プニムがすり抜ける。
「ハヤト!」
 倒れたまま叫んだ僕を振り返りもせず、彼は屋根の上を弾んで遠ざかる。
「追いかけないと!」
 身を起こそうとした僕に、「ねえ、キール」と一人だけ踏みとどまっていたリプレが心ここに非ずという様子で話しかけてきた。
「忘れてたけど、マーン3兄弟の人たち、みんな20代じゃなかった?」
「えっ……」
 後頭部を抑えながら起き上がったキムランが、「あったり前だろうが」と痛そうに言った。
「俺たち3人はみんな20代だ! 城の召喚士の中でよさそうな奴を見繕ってやろうってんだよ。決まってんだろうが」
「………………」
 僕とリプレは顔を見合わせ、
「ごめんなさい」
 同時に頭を下げた。
 ……いや、それよりハヤトだ! 僕は彼が弾んでいった方向を見やり、そこに膨れ上がるとんでもない魔力を感じてぞっと足がすくんだ。

12.07.21



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