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「いたぞ!」
 ガゼルが指差す先には、一生懸命はずんでフラット玄関のドアノブをひねろうとするプニムの姿があった。プニムの背丈では、とてもノブに手が届かないんだ。
「ハヤト、落着くんだ。とりあえず食堂に戻って、対策を考えよう」
 レイドが冷静に話し掛けたが、ハヤトははじかれたように振り返り、駆け寄ろうとする僕らを見て「ぷにい!」と悲鳴のような声を上げた。玄関を開けようとすることをやめ、そのまま僕らの右手をすり抜けて駆け去ろうとする。
「待て、ハヤト!」
「ぷに!」
 とっさに彼の前に立ちはだかったレイドは、プニム渾身のジャンピング体当たりを食らってふっとんだ。あまりのことに僕らの足が凍りついた隙をついて、ぷにぷにハヤトは廊下を奥へ走り去る。きっとどこかの部屋の窓から脱出するつもりなんだろう。
 そして、弾き飛ばされたレイドは座り込んだまま立ち上がろうとしない。ガゼルが恐る恐る声をかけた。
「大丈夫かよ、レイド……」
「私としたことが……プニムの一撃で吹き飛ばされて反撃もできないとは……鍛錬が足りなかった……」
 本気でショックを受けているらしい。
「いやレイド、あの馬鹿力で体当たりかまされて、ふっとぶだけで怪我もしねえ辺り、すげえと思うぜ」
「僕もガゼルに同感だ。AT極振りのハヤトの攻撃でダメージ0、さすがDF重視のポイント割り振りをしてきただけのことはあるよ」
「……おまえさんは何の話をしとるんだ?」
 エドスに奇異の目で見られつつ、「それより」と僕は話を元に戻した。
「ハヤトを捕まえなくてはいけないだろう。きっと今ごろ、窓から出て行ってしまっているはずだ」
「あんな小さい生き物が街のどこかへ隠れたら、見つけ出すのは難儀だぞ」
 エドスの言葉に僕らはうなずきあう。内心では、
「おなかがすいたら帰って来ないかしら」
 リプレのつぶやいた一言に、一番うなずきたかったんだけど。
「他の連中も集めるか? 今この辺りにいるのは……、ジンガが街にいるだろうし、スウォンは森で、あとはアカネと、元アキュートのやつらと、イリアスたちくらいだけどよ」
 ガゼルの言葉に僕は首をかしげる。
「いや、あかなべのシオンさんもいるだろう。まず彼に頼むべきじゃないか? 絶対に捕まえてくれそうじゃないか」
 僕が異を唱えると、ガゼルは急に小声になって、
「……そうだけどよ……どんな手段で捕まえるのか、考え出すと怖いじゃねえか」
 エドスが大きくうなずいた。レイドもうなずきかけて慌てて我慢したらしかった。そして話を変える。
「目がいいし、猟師だし、スウォンには協力を頼みたいな。他のメンバー全員を呼びに行く暇はないから、探している途中で出会ったら助けを求めることにしよう。
 キール、すまないけどスウォンに知らせに行ってもらえるかな。私たちでハヤトを追うよ」
「わかりました」
 ハヤトを見つけた際に起こるであろう追いかけっこおよび乱闘で役に立てる自信はない。フラットから出るなり通行人にプニムの行方を聞き込み始める彼らを背に、僕は建物の合間を縫って城壁の途切れる方へと急いだ。と、その途中でだ。
 細い路地の奥に、小さな紫の背中が見えた。

10.02.20



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モナは戦力外通知ですの(酷)