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式神戦隊ご一行 +
『流派戦隊・インキルジャー!!!』
勇ましい名乗りとともに流れ出したオープニングテーマに、五行の式神たちはいっせいに手を叩きました。画面の中では、バトルスーツ姿の若者達が悪の手先をばったばったとなぎ倒しているのです。
「すごいなあ。かっこいいね、インキルジャー!」
タンカムイが大喜びで話し掛けてきました。ヤクモさんは年のわりに人間ができているので、「そうだな」と同意してあげます。
「ボクたちも5体いるんだから戦隊になれるね!」タンカムイは嬉しそうです。「ボク、ヤクモブルー!」
「では、まろはヤクモグリーンでおじゃるな」
「オレはヤクモブラックで、タカマルが」
「ヤクモレッドか。ふむ」
主人公色をもらって、タカマルはまんざらでもなさそうです。
「で、ブリュネが……」
楽しそうに言いかけたタンカムイがはたと止まりました。みんなの視線がブリュネに集まります。
「自分も……ヤクモブルーではないかと思うでありますが」
おずおずと、しかし力をこめて言ったブリュネの言葉に、座はしばし沈黙に包まれます。ブリュネとタンカムイは半ばにらみあい、他3体とヤクモさんは2人を見比べるのでした。
「ブリュネは、ヤクモピンクね!」
突然タンカムイが明るい声で言いました。
「で、ヤクモはボクらの司令官。ぴったりだね!」
「タンカムイ、待つであります」
「あとは秘密基地があるといいなあ。裏の隠し社がいいかな」
「タンカムイ、今の提案は受け入れ難いであります」
「あっ、モンジュさんとイヅナさんにも役がいるね。どうしようか?」
「タンカムイ! 聞くであります!」
とうとう大声をあげたブリュネに、タンカムイは不機嫌そうに振り返り、
「……ヤクモホワイトでもヤクモイエローでもいいよ。パープルでもゴールドでもビリジアンでも」
「自分は青龍であります! ヤクモブルーは自分の役目であります!」
「だめ! ヤクモブルーはボク!」
本格的にケンカになってきました。ぎゃいぎゃいと言い合う2体に、
「ブリュネは土属性なんだから、どっちかって言うとイエローじゃないか?」
ヤクモさんが声をかけました。ブリュネは愕然とし、タンカムイは目を輝かせたのですが、
「でも、その理屈で言うと水属性のタンカムイはブラックだよな」
続いた言葉に目をむきました。
「ブラックなんて好きじゃないよ! ボクらしくないよ!」
「……いや、ある意味いちばん、タンカムイらしいでおじゃる」
「うむ」
「確かにな〜」
ぼそぼそっと言い合ったサネマロとタカマルとリクドウに、射るような視線が刺さりました。どこからとはあえて述べませんが。ヤクモさんはさらに続けます。
「ブルーはサネマロ。タカマルはレッドのままで、リクドウはホワイトになるな」
「ワタクシがホワイトですか〜」
真っ黒な4本の腕を広げ、大げさにリクドウが天を仰ぎます。
「ちょおっとそれは似合わないんじゃないですかね〜」
「確かに、元のほうがいいのではないか?」
タカマルたちはうなずきあいましたが、それを聞いたタンカムイとブリュネはまたにらみ合いを再開します。
「せっかくのヤクモさまのご提案でおじゃるが、見た目からして元のほうがいいでおじゃる。まろがグリーン、リクドウがブラック、タカマルがレッド。ブルーはタンカムイでいいでおじゃろう」
悠然と述べたサネマロに、猛然とブリュネが反論しようとしましたが、
「で、ブリュネ。そちはドラゴンでおじゃる。ヤクモドラゴン」
どこからか取り出した扇で自分をあおぎつつ言ったサネマロの言葉に、ぴたりと止まりました。
「最初は仲間ではないでおじゃる。我らのピンチにいずこからともなくやってきて、敵を倒して去っていくでおじゃる。頼もしい味方か、恐ろしい敵か。謎の戦士ヤクモドラゴンでおじゃる」
「……うむ、まあ、それならばブルーをゆずってもいいでありますが……」
口ではしぶしぶのようなことを言いながら、このおいしい設定をかなり気に入ったようです。こういうことをさせたらサネマロの右に出るものはいないのでした。つまりさらりと人を丸め込む術ということですが。
「では、決まりでおじゃるな。ヤクモグリーン、ヤクモブラック、ヤクモレッド、ヤクモブルー、ヤクモドラゴン。5体そろってヤクモ戦隊ヤクモンジャーでおじゃる」
「……『ヤクモ』は一回だけにしないか?」
ヤクモさんはかなり切実に主張したのですが、
「父上と闘神巫女はどうするのだ?」
「あの2人を抜かしちゃあけじめがつきませんよ〜」
多少小声だったのがいけなかったのか、次の議題に移られてしまいました。
「イヅナさんは秘密基地のお姉さんがいいよ。モンジュさんは敵の大ボス!」
「こりゃタンカムイ、ヤクモさまの父上に向かって無礼な」
「敵などと、言語道断であります」
「しかし、他の役はもう空いていないし……」
5体は難しい顔で考え込みました。ヤクモさんが「そこまで真剣に悩むことか?」と口走りそうになったころ、
「……おっ、アレがあるじゃねえか!」
リクドウが6本ある腕の一対を打ち合わせました。それを見てタンカムイもなにやらひらめいたように、
「そうだ、一番重要な役を忘れてたね」
「おお、そうでおじゃった」
「なるほど、アレがなくては戦隊とはいえぬ」
「必要不可欠なアレでありますな!」
5体はうなずきあい、次の瞬間、完璧に揃った動きで右腕を斜め上に掲げたのでした。
「「「「「巨大ロボ・スーパーモンジュ発進!!!」」」」」
ヤクモさんの頭が柱に激突する、痛そうな音が静かに響きました。
「ヤクモ。おまえの式神たちはどうかしたのか? 昼頃から、妙にきらきらした目でこっちを見て来るんだが……」
夕食の席で、モンジュさんが首をひねります。
「…………ハハハ」
ヤクモさんは曖昧に笑うのが精一杯だったのでした。
08.1.11