+  太白神社のご一行  +





      ・ 場面1 ・

 ある日のことです。天流闘神士吉川ヤクモさんの実家、吉川家の居間ではヤクモさんの父・モンジュさんとその闘神巫女イヅナさんがお茶を飲みつつくつろいでおりました。そんなときのこの2人の話題はいつだって一つのところにむかうのです。
「今回もヤクモ様がご無事にお帰りになって、安心いたしましたね」
 微笑むイヅナさんに、モンジュさんもゆったりと笑顔を向けます。
「ヤクモのことだ。心配はいらないだろう。式神が5体もついていることだしな……」
 それを聞いたイヅナさんは、異議を唱えるように眉を寄せました。
「確かにヤクモさまは立派に成長なさいましたが、まだたった17歳でいらっしゃるのですよ。やはり心配です。ご無理をなさる方ですし」
 どなたかに似て、と続きそうになった言葉を、危うくイヅナさんは飲み込みました。そんなこととは知らないモンジュさんはカラになった湯飲みを座卓に置いてたずねました。
「ヤクモは何時頃帰るといっていた?」
「夕食には間に合うようにするとおっしゃっていました」
 久々に伏魔殿から出てきたヤクモさんは、息抜きがてら近所の幼馴染たちと遊びに行っているのです。もちろん、幼馴染たちはヤクモさんの背後によけいなもんが5体もくっついていることは知りませんが。
「そうか、なら夕飯にあいつの好物でも作ってやることにしよう。イヅナくん、手伝ってもらえるかな」
「はい、モンジュ様」
 と、立ち上がったイヅナさんの体がぐらりとゆらいだのです。モンジュさんが慌てて抱きとめなければそのまま床に崩れ落ちていたでしょう。
「イヅナくん? ……イヅナくん!」
 抱えた姿勢のままイヅナさんの肩を揺すりますが、まったく反応がありません。ぐったりとしてしまっています。
 同時に前触れもなく、廊下側の障子が開きました。
「ただいまとうさん、イヅナさんは……」
 ひょいと顔を出したヤクモさんは、イヅナさんを抱えているモンジュさんと目が合った瞬間全ての動きを停止しました。
 その体勢のまま数秒。
 すーっ、ぱたん。
「待て待て待てヤクモ、黙って去らないでくれ!」
 静かに閉められた障子を必死で開けて呼び止めたモンジュさんを、立ち去ろうとしていたヤクモさんは多少青い顔で振り返ります。
「いいんだよとうさん。俺反対しないから。正直イヅナさんのことならかあさんって呼べるよ」
「なんだその練習してたみたいな滑らかな口調は!」
 すらすらと述べる一人息子の姿に、モンジュさんはかなりショックを受けました。
「誤解するなヤクモ、俺はおまえのかあさん一筋だ! ……じゃなくて、イヅナくんが倒れたんだ、手を貸せ、ヤクモ」
「イヅナさんが!?」
 ヤクモさんはさっきとは多少違う感じに青くなりました。慌てて駆け寄り、名を呼んだり肩を揺すったり、癒しの符を使ってみたりしましたが、やはりイヅナさんは目をあけません。
 親子はそろってうろたえました。
 そもそも、2人とも闘神士として幾多の戦いをくぐりぬけ、どんなピンチでも動ぜず対処してきたはずですが、それも闘神士モードに切り替わっていればこそです。自宅の居間で、いつもご飯を作ってくれる人が倒れるなどというシチュエーションには経験値をつんでいません。ヤクモさんは遠い昔に、自宅の社で、いつもご飯を作ってくれる人が石化するシチュエーションを経験していますが、それだって泣き崩れるのが精一杯だったのです。
「病院! 病院に連れて行ったほうがいいんじゃないか?」
 モンジュさんがそう言うまでの5分間、2人してそのことすら気付かないほどのうろたえっぷりでした。ヤクモさんも言われて初めてそうするべきだと気付き、ようやく建設的な方向に頭を働かせ始めます。そうだ病院だ、と2人はうなずきあい、そしてヤクモさんは唐突にドライブを出しました。
「式神、降神!」
 ほーおうちの子はこんな派手な降神をするのか、などとモンジュさんが感心して見ているうちに障子の向こうから飛び出したのは、
「雷火のタカマル、見参!」


      ・ 場面2 ・

 炎とともに舞い降りたタカマルは敵式神に向かって突撃しようとし、そしてその対象がいないことに気付きました。代わりに契約者とその父親がこっちこっちと落ち着きなく手をふっています。2人は一生懸命、床に倒れた女性を指さしているのでいた。
「この人を病院まで運んでくれ」
「出来る限り速く、かつ細心の注意を払ってな」
「駅前の総合病院はヤブで有名だから、避けてくれ」
「信頼できる病院じゃなくちゃだめだな。となると……」
「区役所の近くの、あの大きいとこはどうかな、とうさん」
「あんな遠くまでか? 時間がかかりすぎるじゃないか」
「タカマルは飛ぶの速いから大丈夫じゃないかな」
 ああだこうだと言い合う2人を前に、タカマルは状況がつかめず途方にくれました。と、ヤクモさんが右手に下げたままのドライブから、ぬぬぬっと霊体が現れます。
「なになに? バトルじゃないの?」
「一体何の騒ぎでおじゃるか?」
「ヤクモ様と父君が言い争っているでありますな」
「ってことはバトルの相手は親父さんかよ! 後味わりぃなあ〜」
 でもヤクモがそうしろって言うんならがんばろうね、と式神たちはうなずきあいます。デンジャラスな意見の一致に、タカマルは大汗をかいて割ってはいりました。仲間たちに今しがたの命令を説明します。
「あのねっころがってるお姉さんを?」
「あれは倒れているのであります」
「ありゃ〜、こいつぁまずそうだねえ」
「どれどれ。ふうーむ、これはただの貧血でおじゃるな」
 さすがに榎族、サネマロは博識です。てきぱきとタカマルに脈やら測らせ、さっさと診断を下しました。
「じゃあやっぱり区役所の近くのとこしかないよ」
「そこは遠すぎるとさっき言ったじゃないか」
 ここから近く、かつ一番信頼できる病院について熱く討論している吉川親子のことなど見向きもしません。
「タカマル、そちは降神されているから物にさわれるであろ。そこの座布団を足の下に敷いてやるでおじゃる。それからなにかかけてやるものを用意するでおじゃるな」
「かけてあげるもの? 水をかけるならボクに任せてよ」
「タンカムイ、そちはちょっと黙っているでおじゃる」
「なあ、病人ならおかゆ作ってやったほうがいいんじゃねえか? 台所台所っと」
「そんな心配は後ですればよい。物事には手順というものがあるでおじゃる」
「小官は何をすればよいでありますか」
 吉川家の居間はますます混乱を深めてゆくようです。それもこれも、ヤクモさんとモンジュさんが救急車を呼ぶことも思いつかないほど冷静さを失っているからなのでした。
 タカマルはやっと見つけた毛布を押入れから引っ張り出しながらしみじみ思うのでした。
 一人で伏魔殿を探索し、冷静な戦術で敵を蹴散らしているあのヤクモも、ちゃんと17歳のこどもだったんだなあと。


 イヅナさんの顔色もだんだんよくなってきました。もう少しすればちゃんと起き上がって、ヤクモさんとモンジュさんを安心させることでしょう。 

05.7.6



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アニメに巫女が出てきますように祈願・第二弾。
イヅナさんはヤクモの弱点だったりするとうれしいなあ。
あとはツクヨミと契約青龍が出てきてほしいけどそれはさすがに無理ですね。
それにしてもリクドウの安定しない口調が毎回悩みの種です。