+  伏魔殿のご一行  +





  + 場面1 +

 ある日のことです。天流闘神士吉川ヤクモさんは火属性の敵を探しながら伏魔殿をうろうろしておりました。
 というのにはわけがあります。
 そもそもこの間、ヤクモさんと五体の式神たちは、神流闘神士ショウカクと大火のヤタロウに襲われたのでした。大火ということは火属性。わくわくしながら出番を待っていた水属性のタンカムイでしたが、ヤクモさんは大火族に有利な榎族のサネマロをまず降神し、続いて返し技要員にブリュネ、とどめ要員にタカマルを降神したのでした。
 出番のないままバトル終了となったタンカムイはむくれまくりです。だだっこぱんちでひどいよずるいよと訴えました。味方消雪に直接攻撃されたヤクモさんは困り果て、次のバトルでは必ず降神すると約束させられたのでした。
 しかし、水属性とか土属性の相手にタンカムイをぶつけるわけにもゆきません。というわけでなんとしても火属性とのバトルに持ち込むべくヤクモさんは神流もしくは妖怪捜索に尽力していたのでした。
「そのつもりで探すと出てこないもんだな……」
 ヤクモさんは額の汗を拭ってぼやきました。もう大分長いこと探していますが、こんなときにかぎって神流は影も形も見えないのです。
「なあに、平和が一番でおじゃるよ」
 この間一番に降神されたのをいいことに、サネマロが無責任な一言を放ちました。案の定タンカムイがむっとします。ヤクモさんは慌てて仲裁に入ろうとしましたが、丁度そのとき、ブリュネが「あれを!」と声を上げました。
 その指差す向こうには砂煙が上がっています。よく見るとそれは疾走する生物の姿でした。炎をまとったその生物は、暴れる少女を肩の上に担ぎ上げ、雄たけびをあげながら駆けているのです。
「うおおおおおおーっ! ミヅキぃーっ! 俺が必ず伏魔殿から出してやるからなーっ!!」
「きゃーっ! 下ろしてーっ! 誰なのあなた!」
 …………火属性のワルモノ発見……。
 期待に胸を高鳴らせながら、ヤクモさんは神操機を握りしめました。




  + 場面2 +

「待て、そこの妖怪! その子を下ろしてやれ!」
 神操機を構えつつ、ヤクモさんはワルモノの前に立ちはだかりました。ワルモノは人の姿をしていましたが、ヤクモさんの17年の人生の中では人間というのは目から火を出したりはしないものでしたから、これは妖怪であろうと推測したのです。おそらくワルモノはどこかで罪もない少女をさらってきて、巣に持ち帰って食べる途中なのでしょう。5体の式神たちもまったく同じことを考え、我らで少女を助けだそうと義侠心に燃えておりました。
 ワルモノは足を止め、ヤクモさんたちをにらみつけました。
「なんだと?! 誰だ貴様は! 天流の闘神士か?!」
 ヤクモさんたちは知らないことでしたが、この火を噴く生き物は最近石にけつまずいても天流闘神士のせいというくらい天流に故なき恨みをつのらせておりましたので、自分の邪魔をする者はみんな天流というように自動的に考えるようになってしまっていたのです。しかしこの台詞を聞いたヤクモさんたちはやはりこれはワルモノで妖怪に違いないと考えました。そもそも少女の担ぎ方からして、およそ人が人を担ぐやり方ではありません。
「式神、降神!」
 ヤクモさんはさっそく戦闘態勢に入りました。それを見たワルモノは少女を地面に降ろし、自分も神操機を取り出します。その際、
「危ないから俺の後ろに隠れていろ」
とやさしく少女に語りかけたのですが、残念ながらあの派手な降神エフェクトのせいでヤクモさんたちにも少女にも聞こえはしませんでした。
「消雪のタンカムイ、見参!」
 元気よく飛び出してきた式神の姿に、ワルモノも神操機を掲げます。
「式神、こう……」
「きゃーっ! イルカさん!」
 背後で上がった黄色い歓声に、ワルモノの動きが止まりました。その脇を少女が駆け抜けます。
「可愛いイルカさん、私を助けて! ここから出して!」
 そして一直線にタンカムイの胸に飛び込みました。タンカムイは驚いた顔をしましたが、ほほなど染めつつ、
「もう大丈夫、ボクに任せて!」
などとがぜんやる気になっています。可愛い少女に頼られれば式神だって悪い気はしないのです。固まったワルモノの手からぽろりと神操機がこぼれ落ちるのを見て、ヤクモさんはなんだか悪いことをしたのかなという気がしました。しかしすでに少女はイルカにべったりです。どうしようもありません。
「……うぉおおおおお―――ッ!!!!!! おのれ天流――――っ!!! 式神、降神!!」
「あれはっ……白虎のランゲツ?!」
 トラウマ直撃の式神が現れ、ヤクモさんも目がマジになりました。
 最強の式神VS最強の闘神士のバトルが今、実に無意味に始まったのでした。

 伏魔殿は今日も平和です。 

    − 完 ー 

05.6.1



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最近どんどんいい男になってゆく飛鳥ユーマ氏にお疲れ様の気持ちを込めて。
……いやあの担ぎ方を見て爆笑しつつ、伏魔殿だしヤクモと遭遇するんじゃないかと。
そして遭遇しちゃったらこうなりかねないなと、そう思ったものですから。