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ランチタイムのご一行 +
ある日のことです。天流闘神士ヤクモさんご一行はその日も伏魔殿の探索をしていました。ご一行、というのは言うまでもなく、吉川ヤクモさんご本人とその式神、青龍のブリュネ・消雪のタンカムイ・雷火のタカマル・黒鉄のリクドウ・榎のサネマロの計6名です。一般市民の目からは一人さびしく歩いているように見えるヤクモさんも、実は背後に5匹もの式神をくっつけていてそれはにぎやかな道中なのでした。ただし5匹はヤクモさんにくっついて自動的に移動できるので、『歩いている』のはやっぱりヤクモさん一人なのですが。
・ 場面1 ・
「さすがに腹が減ったな……」
バトルを終えてヤクモさんはそうぼやきました。この間ご飯を食べてからもう大分時間がたっています。持ってきた食料は底をつき、このあいだ通りすがりの神流闘神士から追いはぎしたおにぎりもずいぶん前に食べてしまっていたのでした。今5匹がかりで追いはいだ神流闘神士は不届きにも手ぶらだったのです。
「そりゃあ大変だ! ここは一つ任せてください!」
がぜん張り切って声をあげたのは黒鉄のリクドウでした。
「ああ、そういえばおまえは料理が得意だったな」
ヤクモさんの言葉にリクドウはしきりとうなずきます。
「料理なら任せといてください! そうですなぁ、さっと作れてボリュームのある丼物なんかどうですか?」
「そう……だな、嫌いじゃないな」
本当はけっこう好きなはずなのですが、口から出たのは素直じゃない返事でした。丼物と聞いた瞬間、なぜかヤクモさんの頭には『天流闘神士として、丼物好きってのはどうだろう』という考えが浮かんだのです。なぜなのかは自分でもわからなかったので、つとめて気にしないようにしながらそういう返答をしたのでした。
ヤクモさんの内心の葛藤など気付かず、リクドウは嬉しそうに続けました。
「じゃ、丼物にしましょう。雷火丼と消雪丼、どっちにしますか?」
「……え?」
「雷火丼と、消雪丼」
・ 場面2 ・
「……食べるのか?」
30秒後、ヤクモさんはようやくそう尋ねました。ずざざざざっと音を立てて後ずさり涙目でぷるぷるしているヘンなイルカ……もといタンカムイを思わず背中でかばいながらです。ちなみにタカマルは上空へと一直線、今ちょうど成層圏に突入したところでした。
「はい! うまいですよ!」
リクドウはすっごく元気にお返事を返してきました。ヤクモさんの式神はみんな元気なお返事が得意なのです。イマイチ5人そろわないのが欠点でしたが。
「……雷火丼だと、タカマルを?」
無意識に左手で闘神符をにぎりつつたずねたヤクモさんに、リクドウはアッハッハと快活な笑い声を返しました。
「イヤですなあヤクモ、タカマルが食べられるわけないでしょう!」
その言葉に一同はほっと胸をなでおろします。
「雷火丼は、若鶏の唐揚げを卵でとじて、ピリッと辛いチリソースをかけた丼ですよ。卵の黄色とチリソースの刺激で稲妻をイメージしてみました!」
なるほど、タイガース丼みたいなもんか、とヤクモさんは納得しました。なぜそんなたとえが浮かんだのかはやっぱり分かりませんでしたが。とにかく名前はイメージであってそのものではないのでしょう。ヤクモさんも一安心です。
「けっこうおいしそうじゃないか。食べてみたいな。消雪丼はどんななんだ?」
笑顔で尋ねたヤクモさんに、リクドウは不意に沈黙しました。やがて平坦な声で、
「…………ますから」
「……え?」
「……イルカは……食べられますから」
− 完 −
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