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今年もバレンタインでしたから +
『ダンナ、とりあえず雅臣さんにでも連絡して、看病に来てもらったほうがいいんじゃありやせんかい』
「……休むものか……何が何でもこの逆チョコを……」
『ダンナ、聞いてくだせェって。ほんのちょっとだけあっしを降神するんでもかまいやせんから。そしたらあっしが電話をしまさァ』
「オオスミめの陰謀かこれは……あの女……そのうち抹殺してくれる……」
熱のせいでベッドから起き上がれないらしい契約者は、なかばうわごとと化してきた独り言をぶつぶつつぶやいている。オニシバは軽くため息をついた。
まあ、どうせ雅臣さんは夕方にァここに来るはずだ。毎年、ダンナがもらう義理ちょこめあてにやってくるんだから、最悪それまで待てばいいか。
そう達観しつつ……ふらりと部屋を出てキッチンへと向かった。テーブルの上には、昨日作った大量の逆チョコ。その一番下に隠すようにして、一つだけ、ほかとは色の違う袋に入った小さなチョコがある。
『さてさて、こいつをどうするかねェ』
そう言って持ち上げようとした指は、当然包みをすり抜けた。オニシバは苦笑する。
こいつァあっしからの逆ちょこでさァ。
……とでも言って渡してやったら、どんな顔をするだろうかと思ってたってのに。
今日のこの日を過ぎてから渡すんじゃ、そいつァちょいと粋じゃねェ。
『ダンナ、ちょいとあっしを降神してくだせェよ』
「チョコが……オオスミめ……」
『聞こえてやせんかい』
見つからずに作るのは簡単だったってェのに、最後の最後でうまくいかねェもんだ。
ま、いいってことよ。来年のお楽しみってことにしておくかい。
そう思いながら伸ばした手は、やっぱりチョコをすり抜けた。
09.3.11