+ 8 式神 +
突然の闇に包まれた社長室で、集まった一堂 つまり、現社長ソーマと、タイザンを連れてきた雅臣と、バイトのリクとヤクモ、そして地流の部長たちは、驚いてしばし動きを止めた。
「しまった、もうそんな時間か。今日は近くでクリスマスの花火が上がるから、ビル中の電気が消えるんだ!」
ソーマがあせった声を上げた。
「それにあわせて電気系統のメンテいれちゃったから、しばらくビル中停電状態だよ」
オオスミが勝ち誇った声で笑う。
「ふふん、なら袋のねずみじゃない。自動ドアもエレベーターも動かないんでしょ?」
「そういう緊急時の避難に必要なものは動くんだよ。ビル内の自家発電装置で」
「なんですって! じゃあ逃げられちゃうじゃない!」
オオスミが社長室直通エレベーターのボタンを連打しているころ、タイザンとオニシバはすでに1Fへと降りていくエレベーターの中だった。
「オオスミめが……、あやつだけはいつか仕留めねば」
「物騒なこと言いやすねェ。大戦はもうしめェになりやしたぜ」
「大戦とかそういう問題ではない。オオスミの抹殺は、全人類とか地球の未来とか、そういうもののためだ」
と、突然エレベータが止まり、扉が開いた。まだ途中の、闘神士用フロアだ。全階が停電しているらしく、ここも非常口の緑の光以外は、しんと静まって暗い。
「オオスミか? さては災害時の避難システムでも作動させたな。……ここでじっとしていたら捕われて終わりだ。とにかくエレベーターからは出るか」
2人は長く暗い廊下へと踏み出した。左手は外壁に面していて、一面ガラス張りになっている。昼間ならば地平線までの眺望が得られるのだった。
「オオスミめがすでにどこかで罠を張っているかもしれぬな。慎重に行かねば」
そんな契約者の緊張感などどこ吹く風でオニシバは笑った。
「そのあとはダンナ、どうなせェやす? オオスミの姐さんを撒くだけ撒いて、また社長のぼっちゃんがたのところに戻りやすかい?」
タイザンはあきれて、横を歩くオニシバを見上げた。式神のほうはそしらぬふりだ。
「戻るわけなかろう。またこのビルで働くなど、ありえん」
「そうですかい? あっしにゃァ、ずいぶんと心がゆれていたように見えやしたがね」
タイザンは少し、言葉に困った。
「……地流の裏切り者だぞ、私は」
「そいつァおあいこだって、親分さんたちも言ってくれてたでしょうよ」
「ナンカイさんたちの気が知れぬ」
「またダンナは素直じゃねェことを。あっしはちょいと嬉しかったんですがね。あんな大勢の兄さんたちが、うちのダンナに戻って来いって言ってくれるのを見て」
突然、窓の外で光が散った。花火だった。驚いて足をとめたタイザンの眼前で、続けざまにいくつもの花火が開く。
「で、どうしやす、ダンナ」
窓からの光を白いコートに浴びて、オニシバが言った。タイザンはしばらくその、赤に青に照らされるオニシバの黒眼鏡を見ていた。
「……おまえはミカヅチ社に戻りたいのか? ずいぶんと熱心に勧めるではないか」
花火がふいに止み、オニシバはまた闇の中に薄ぼんやりと見えるだけになった。そちらのほうから押し殺した笑い声が聞こえるようでもある。
「戻りてェも戻りたくねェもあっしにゃありやせんよ。あっしァただダンナの行きてェところに一緒についてくだけだ。
まァ、あっしァダンナのいるところだったら、どこだってかまいやせんがね」
また大きな花火が上がり、闇の中に一瞬だけオニシバの姿を照らし出してすぐに消えた。
タイザンは言葉もなく、闇の中にうっすらと見えるばかりのオニシバの姿と向かい合っていた。
「……私、もだ。私も……」
と、背後のエレベーターが動く音がした。
「タイザン! いるんでしょ、観念して出てらっしゃい!」
タイザンははじかれたようにまた走り出し、ついで、言いかけた言葉を修正して叫んだ。
「私も、オオスミのおらぬところならどこだっていい!」
駆ける2人を、また上がり始めた花火があざやかに照らした。
09.01.07
オチがオオスミ部長かい!というセルフ突っ込みを入れつつ、
今年もちょっといい感じで、大雪祭り08終了です。
少しブランク入っちゃいましたが、
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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