+ 身なりを整えるとして +
雅臣さんが遊びに来たとき、タイザンはふと気づいて言いました。
「お前のジャケット、ずいぶんくたびれてきているな」
雅臣さんがいつも着ている白いジャケットです。多少型がくずれ、袖口などは少しほつれているのでした。
「ああこれ、いつも着てるからな」
『My Favoriteだからね!』
霊体のキバチヨも楽しそうに言いますが、タイザンは顔をしかめました。
「あまりみっともない格好をするな。それなりに小遣いは渡してるだろう、新しいのを買ったらどうだ」
「いやー、天流宗家さがしで色々と金が要って。どこかの大企業重役様がお恵みをくださるといいんだけどな〜」
「小遣いは渡してるだろう」
もう一度言ったタイザンに、雅臣さんは笑いながら立ち上がり、
「あ、コーヒーでもお入れしましょうか。肩をお揉みしたほうが?」
「自分の小遣いで買え」
タイザンはそっけなく言って新聞を手に取ります。
「いやー、気前のいい兄貴を持って幸せだなー」
「そうかよかったな。誰のことかさっぱりわからんが」
あくまで冷たいタイザンに、雅臣さんは愛想笑いを引っ込め、
「ボーナス出たんだろ? タイザンって高給取りなのにケチだよなあ、キバチヨ」
『HAHAHA、タイザンの言うとおりお金をためるんだね』
「なんだよひどいな。オニシバ〜、お前からもなんか言ってやってくれよ」
人の式神に勝手に援護射撃を要請する雅臣さんを、
『さァ、そいつはキバチヨさんに言ってもらわねェと』
オニシバは笑って受け流すのです。
「ひどいなあ。お前も俺の味方してくれないのかよ」
『あっしァダンナの式神でさァ、雅臣さん』
「そう言うなよ〜。ほら、ペアルック着てる仲だしさ」
「ペアルック?」
タイザンが新聞から顔を上げました。雅臣さんは自分の白い上着のすそを引っ張って見せ、オニシバの白いロングコートも指差すのです。
「白い上っ張り仲間だろ?」
『ああ、そういやおんなじような』
タイザンが急に立ち上がりました。
「新しい上着を買いに行くぞ雅臣」
「え? 何で急に」
「いいから支度しろ。黒でも赤でも、好きな色を買ってやる。いや赤はダメだ。私とかぶる」
それから一瞬だけ、オニシバをじっと見たのです。オニシバは思わずひるみました。
「……駅前のデパートで良いな? 金は私が出してやるから、さっさと行くぞ」
「おい、待てよタイザン!」
あわててカップのコーヒーを一気に飲み干す雅臣さんの後ろで、
『……今、なんだかにらまれやせんでしたかね?』
『HAHAHA、自分は白が似合わないんだって思ってたんじゃないのかい?』
引き気味の霜花にこっそりささやかれ、付き合いの割と長い青龍があきれながら笑っておりました。
12.12.25
タイザンは赤に限りますね。
でもあのDVD鑑賞回の普通のスーツもばっちり見たかった。。