+ その32 陰陽大戦記 いくぜ大雪まつり編 + 『ダンナ。実はあっしから打ち明けなきゃならねェことがありやして……』 「……なんだ? そんな真剣な顔をして」 『へい。実はあっしのオニシバってェ名前ですが…………』 「……ああ」 『実はあっしァ…………柴犬じゃなくてシェットランド・シープドッグなんでさァ』 「しぇ……なんだと?」 『シェットランド・シープドッグ。 だからこれからはあっしのことはオニシェットランドと呼んでいただくわけにゃァいきやせんかね』 「オニ……」 『オニシープドッグでもかまいやせんが』 「……………………」 『ダンナがあっしをオニシバと呼ぶたび、ダンナをだましてるようで胸が痛むんでさァ――』 「…………ハハハ。らしくもない冗談など言ってもウケは狙えぬぞ、オニシバ。 次のネタはもう少し考えて来い」 『………………そうですかい。ダンナがそういうことにしときてェんなら、あっしァもう何も言いやせん』 「ちょっ……頼むからそこで遠い目になるな!」 |
+ その33 陰陽大戦記 いくぜ大雪まつり編2 + 昼寝から覚めると、オニシバが小さくなっていた。そして増えていた。 部屋じゅうにハムスターサイズのオニシバが駆け回っている。 テレビに登るわカーテンにぶら下がるわコーヒーカップをひっくり返すわやりたい放題で、30までは数えたがあんまり走り回るのでとても正確な数など把握できぬ。 そしてみな細く甲高い声で何かぺらぺらしゃべっているがとても聞き取れない。そもそも常軌を逸した早口なのだ。 なぜこんなことになったのだろうかとつらつら考え、ソファで眠り込む前に、テレビで流れていた番組のせいではないかと思い当たった。 『可愛いワンちゃん豆柴特集!』とかいう題で、一回り小さい柴犬が登場していたように思う。 この時代にはこんな柴犬がいるのだな、ずいぶんと賢そうだ……とかつまらないことを半分独り言のように言ったのは覚えているが、別におまえも豆になれなどと命じた覚えはない。 だから、奴が怒っているのかふざけているのかすねているのか、はたまた私の願いをかなえたつもりなのかまるで判らぬ。 それではこちらとしても対応に困るのだ。怒ればいいのか笑えばいいのか謝ればいいのかまったくわからぬではないか。 「…………飽きたら、元にもどれよ」 とりあえずそう声をかけたが、聞いているのかおらぬのか、奴らはやたら走り回り、たまにこけたりするばかりだ。 |
+ その34 陰陽大戦記 いくぜ大雪まつり編3 + 「早いものだ。あと一月たらずで新年になるのか」 『へい。来年はねずみ年ですぜ』 「ねずみ年……。誰か子年生まれではなかったか?」 『そういえば、ガシンさんがそんなことを言ってましたっけね。 恥ずかしがりやのねずみ年生まれとかなんとか』 「どの口が言うのだそれを。あやつの辞書に恥ずかしがりなどという単語があるものか。 図体ばかり大きくなりおって。……待てよ」 『どうしやした?』 「ねずみ年生まれということは、ガシンは12の倍数の年でなくてはおかしいではないか。 あやつは自称17だ」 『……ダンナ、封印されたことと時渡りしたこと覚えてやすかい』 「そうか、ガシンめ本当は来年で24になるのだな? 天流宗家がまだ子どもだから、自分も十代としておいたほうが近づきやすいと踏んだか」 『いやダンナ、だから封印と時渡り……』 「前々から17には見えぬと思っていたが、そうか……。 あやつも一応頭を使っているのだな」 『…………納得がいっちまったんですねェ、ダンナ』 |
+ その35 陰陽大戦記 いくぜ大雪まつり編4 + 「やっほータイザ〜ン! 可愛い弟のガシンさんが遊びに来たぜ〜!」 「そんな身内はおらぬ。帰れ」 「またまた〜。ホラこれお土産のデラックスメガ牛丼! ボリュームたっぷり!」 「その手のものは口に合わん。帰れ」 「まあまあそう言わず〜。そういえばそろそろ冬のボーナスの時期だよな。実はこのメガ牛丼買ったら財布がすっからかんでさ〜。そうだ俺には世界的企業の重役はってる頼れるお兄様がいたじゃないかって思い出したところなんだけど」 「やはりそれか貴様。……今年はいまさら不況のあおりが来て、管理職は全員ボーナスカットだ。 残念だったな」 「そんな冗談にだまされるガシンさんじゃないぜ。本社の天流討伐部長様なんだから今年もがっぽり出たんだろ?」 「出なかった。わかったら帰って天流宗家を探せ」 「……そっか、そうだよな。天流討伐部の業績もひどいものだもんな。 部下の暴走を抑えきれない上司が責任取らされてボーナスカットは当たり前だよな……」 「(ぶちっ)きさま私の部下管理能力を何だと思っている! 去年より200%アップの業績向上でボーナスも5割増しに決まって……(ハッ)」 「わーい、さすがタイザンお兄様。じゃ、可愛い弟の小遣いはその5割増し分だけでいいや」 「帰れ!!!」 |