※ 廃坑の対ユーマ戦でオニシバの名が散った直後に書いたものです。
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ひらりひらりとはらはらと +
桜が舞っている。
ひらり、ひらりと風にひるがえり、一枚、二枚、遠い空から舞い落ちてくる。
淡い淡い桜色は夜の闇に照らされ白く浮かび上がる。その一枚が頬に触れて溶けて流れた。
ああ、雪だ。桜ではなく雪だ。
桜は溶けて雪となるのか。
そんな夢を見て、目覚めた。
うすくまぶたを開き、廃坑の床に倒れ伏していることを自覚する。倒れた時に打ったのか、腕がだるくしびれていた。
そして、頬を濡らす冷たい感触。廃坑の空気に冷やされたそれを、タイザンは溶けて流れる雪だと思った。
ならばこれは、あの夢の続きなのか。
立ち上がる。少しよろけたがどうということもない。もやのかかったような頭も同じことだ。
ちゃんと覚えている。自分のしてきたことも、なすべきことも、光の中で砕けたただ一つの名も。
行かなくては。重い足を引きずり、タイザンは歩き出した。伏魔殿へ戻るのだ。やらなくてはならないことが残っている。進むのをやめる理由はもうない。
ついさっき、なくなった。
発光する鬼門へと、吸い込まれるように歩く。ぬれた頬を廃坑の空気が冷やしてゆく。
これは花降る夢の続きだろうか。桜が溶けて、雪に………。
緑の光に包まれ、ただ、思う。
ならばその桜は、あの名が散って変じたものにちがいない。
伏魔殿の灯火があたりを照らし、全てが緑色の向こうに沈んだ。
05.7.7