マリリンの幻の家

 マリリンといえばマリリン・モンローのことであり"セクシーな女優"の代名詞として知られていて、彼女の謎の死によりその実像について多くの人が語り継いできました。

 作家のノーマン・メイラーは著書「マリリン」でその真実に迫ろうとし、作曲当時少年の面影の残るロックミュージシャンのエルトン・ジョンとバーニー・トーピンのコンビは「Candle In The Wind(風の中の火のように)」の中で"グッドバイ ノーマンジーン(マリリンの本名)君の生き方はまるで風の中のキャンドルのようだった。僕がまだ子供じゃなかったらめぐりあっていたかった・・・・"と彼女への想いを切々と歌いあげました。彼女は華やかな女優としての活動の反面、ナイーブで傷つき易い女性であったことも真実のようです。

 さて彼女が劇作家のアーサー・ミラーと結婚していた時でした。コネティカット州の、斜面が小川に続く広い土地に自宅を建てたいとフランク・ロイド・ライトに依頼してきました。以前ライト婦人は、ニューヨークの劇場でマリリンの映画を見てきて感動し、ライトに向かって大声で叫びました。"フランク、あんな女優は初めて見たわ。あなたもきっと好きになるはずよ!才能があって、生き生きとしていて、とても自然なの・・・あまりに魅力的なためにセクシーな役をあてられているけれど、あなたは彼女の自然な演技を気に入ると思うわ"と。その時ライト夫妻は、その後のマリリンから彼女の家の設計を依頼されるなど、思っても見なかったことでしょう。

 ライト設計の、ニューヨークのグッゲンハイム美術館も完成間近の頃、二人はニューヨークのプラザホテルのライトの部屋で面談し、マリリンの家の計画を始めました。計画では、一階には映写設備やフィルム収納を備えた大きな円形の居間、二階にはマリリンの大きな衣装部屋や育児室と子供の部屋がありました。マリリンは自分の子供を非常に欲しがっていて、子供達の部屋はこの設計の重要なテーマでもあったのです。

マリリン家ではなかったけれど、同時代の円を使ったシリーズの幻の計画に終わった家
ラウル・バイリガレス邸/1952年
マリリンが住みたいと夢見た円形の大きな居間/1957年

フランク・ロイド・ライト 幻の建築計画  著:ブルース・ブルックス・ファイファー
グランドプレス 1987年


 フランク・ロイド・ライトの設計になる家で、不幸だった少女時代を思い、あこがれ望んだ子供たちと一緒に楽しく暮らしたいと望んだ彼女の夢は、その後の彼女のいたましい死によって終わったのでした。セクシーな空間づくりが上手だといわれたライトが、マリリンの家をつくりあげていたらどんな家になっていたことでしょう。


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