スローライフとスローフード

 1989年パリで"このファーストライフという全世界的な狂気に立ち向かうことだ"と勇ましくうたった「スローフード公式宣言」が採択された。その後運動が拡大した結果2005年3月で「スローフードジャパン」の会員は約2000人、全世界の会員はいまや108国、8万人を数えるとのこと(2005.8月現在)。

 そもそもこの運動が産声をあげたのは1986年夏、南フランスに近いイタリアの小さな田舎町"ブラ"であり、現在国際本部もそこにある。この運動はさまざまな成果をあげ、今も発展中であり、リーダーたちは何とかその速度をスローに出来ないかと頭を悩ませている程だという。その運動は世界的な規模の食や食材の均質化に対して、地方に残っている食文化を楽しみ育成することや、絶滅の危機にある食材をリストアップして保護運動を展開したり、生態を壊す食物生産への反対キャンペーン、学校を通して子供たちに食文化の豊かさを体験してもらう活動などがあるという。

 しかるに会の創設者の一人で、あの傑作な「スローフード宣言」を創作した詩人にして哲学者のフォスコ・ポルティーナはかく言う。
「技術というものが、もし人間を越えて進んで行く時には、わしらはノーと言うべきじゃないかね。― 一に生産、二に生産、三に利潤。この理念こそが、我々をファーストライフ症候群へと追い立てる。スローライフの実現なしに、スローフードの実現など無理なんだ。― しかるにスローフード協会は、資本主義原理に支えられた商業ベースのあたりまえのグルメ団体に近づきつつあるではないか。何だかエリート意識が臭わないかね。わしの考えでは、スローフードの運動は、人類の崇高な遊び心に支えられるべきなんだ。遊び心を宗教に変えてはいかん。宗教ならもうある。資本主義とか、もう2000以上も生き延びてきたものとか。」

 最後に、劇作家のダリオ・フォはいう。
「料理を作ってみなければ本当のスローフードはわからないよ。もっとも大切なことは、自分で料理することなんだ。」
みなさんはこの意見にどう思われますか?


引用は「スローフードな人生」島村葉津著
新潮社 2000年








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