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人生「かきくけこ」

暦を過ぎた頃から、それまで以上に「人生」の本質を考えるようになりました。この歳まで自分なりに人並みに遊び、人並みに楽しんできた人生だったと思っています。しかし、健康で強欲である私は蓄えなどないのに、これからも年相応に人生を謳歌できたらと考えています。
 これまでの人生と老後のことを考えていたら、頭に浮かんだ言葉にひとつの共通項を見つけました。それらは全て「かきくけこ」で始まる熟語でした。そこでタイトルを人生「かきくけこ」にしました。それでは、60数年間生きてきた私の実体験からの「人生に大切なもの」を聴いてください。
 新年会の会場に移します。

 今田君に「何か話してくれ」と言われると思っていました。40年の歳月だけでなく、最近では(彼が腰の痛みから回復してから)たまに一緒にゴルフをしたり、お酒を飲んだりしていますので、嫌な予感はしていました。それでは、今回は人生に大切な「かきくけこ」について話します。
 まず何よりも大切なこと、これは言うまでもなく、またみなさんに異論もないと思いますが、「」の健康です。健康は人間に限らず全ての生き物の第一義です。健康であるためには、環境、食事も大切になります。植物に水と日光と適温が必須であるように、動物である人間は多少の負荷をかけた定期的な全身運動と、毎日の食生活が何よりも大切です。健康と過ぎ去った時は万能のお金でさえも買うことはできません。
 次に「」の快楽です。快感でもいいです。この言葉を聞いて、一瞬ドキッとした人は狭い意味での性的イメージを持った人です。助平ですねー。
 私は大学生の時に亀井勝一郎全集10巻を買って読みました。その中に「邂逅」と、この「快楽」が鮮明に私の脳裏に半世紀焼きついてきました。読みやすい形になって改訂された文庫本が昨年夏に出版され、この歳になってもう一度読んでみたら、著者の言わんとすることが手に取るように分かったのです。
 人生の目的は楽しむことです。人は快楽を享受するために生れてきたのです。長い人生には努力、我慢をしなければならないことも当然ありますが、究極は人生の終わりに「生まれてきてよかった」と思えるかどうかということです。ここで言う「快楽」とは、I君やT君のような狭い意味での快楽ではありません。私も血気盛んな頃はそう考えていましたが、今では何のわだかまりもなくこの言葉を口にすることができるようになりました。
 恋愛、友情、家族、旅、芸術、スポーツ。あるいは、賭け事、ショッピング、TV、ネット、ゴロ寝。それらがあなたに心地よさ、歓び、生きがい、充実を与えてくれるならば、それはあなたにとっての快楽です。ただ快楽には、いかに深く、そして長く心に刻まれるかという質が問題であることを忘れてはいけません。
 そして3つ目は「」の苦労です。これは人生の隠れた部分にあたるものですが、生きていくことに苦労は付きものです。H君、K君、M君、今苦労していますねー。人生を楽しむためには心知体の充実が必要です。そのためには億劫な心は敵であり、自主的、能動的行動を心掛けるべきです。適時(その時、その時)に努力、我慢、苦労をし、どれだけ耐えられるかは、本物の快楽を得る試金石と考えています。
 怒哀苦は人生のスパイスです。スパイスには香辛料のほかに趣、興という意味もあり、人生、怒哀苦があるからこそ、喜楽快がより深みのあるものになります。食べ物に胡椒や七味をふりかけると、味に深みが出るのと同じです。「人生、苦あれば楽あり」です。水戸黄門の主題歌は「♪人生楽ありゃ苦もあるさ」と、逆になっていますが…。
 4つ目は「」の考察です。「人間は考える葦である」というパスカルの言葉はあまりにも有名です。しかし、考える人間の減少に伴い、短絡的、自己中心的人間、平然と嘘をついたり騙したりする人間が多くなり、時代とともに住みにくい世の中になってきています。
 また、人間は勝手に「地球の君主」を名乗り、環境破壊、宗教・国家間の軋轢や格差から国際問題も不安定さを増し、核戦争にでもなれば、ごく一部の動植物を除いて死滅するという状況もあり得ます。
 昨年の11月にHPに書いたことの繰り返しになりますが、人間だけでなく会社、国、自治体も信頼できなくなり、訳のわからない人間が増加し、正常な人、いや正常な人こそストレスの溜まる時代になって行くでしょう。
 そんな時代こそ、長く付き合ってきたり、波長が合ったり、趣味が同じであったり、理解してくれたり、尊敬できたりする人を大事にしてください。そして、個人でいくら快楽を求め頑張って生きても、政情不安な社会では幸せにはなれません。政治に関心を持ち、読書をし、「生きていく」ことを考察する人間になってください。
 最後まで考えたのが「」でした。どうしても一語に決められず、金銭共生が残りました。「き」はあなた方の価値観、人生観に相応しいほうを選択してください。
 金銭は老後になってから、生きていくために特に大切になります。無収入の生活を夫婦二人で10年間暮らしていくには、ローン、借金がなくても文化的生活を送るには現在の貨幣価値で4000万円、カスカスの生活でも2500万円程度必要と言われています。あとは車の買い替え、リフォーム、大病をした時などの多額の臨時出費で、これは老人には大きな痛手になります。公務員や一流企業の社員のように、そのすべてを年金で賄えればよいのですが、そうでない人がほとんどで、そのような人は今から老後の蓄えを始めておくべきです。そうしないと、私のような悲惨な老後生活者になってしまいます。
 一方、共生は考え方によっては金銭の対極にあります。個に対して公の概念です。家族が、日本が、世界が平和で健全であってこそ、お金の使用価値も、用途目的も膨らみます。家族、友人、地域、そして広く地球上全ての生物が安心、安全に暮らせる環境基盤の確立があってこそ、個人の快楽も享受できます。
 すなわち、共生によって生まれた環境の中にこそ、個の幸せや楽しみは存在します。もちろん未経験なことなので、死を目前とした時に何を思うか分かりませんが、美しい自然、好きだった人、楽しく過ごした時などが頭を横切った時、「生まれてきてよかった」という気持ちになるのではないでしょうか。
 その時突然、「先生はあえてどちらを選びますか?」というM君の鋭い質問がありました。私は「金銭」と答えました。世界情勢も、日本国の借金も年金も、これからどうなるか分かりません。そうなると、最低限の生きていくお金だけはまず貯めておくという自衛策を選びます。あなた方の年齢、40代50代の時にそのことに気づいていたら、もっとお金を貯めてもっともっと老後の人生を楽しむことができたのに…。そう思っています。あなた方の人生が幕を閉じるまで、日本と世界はそれなりの平和を維持し、一方、国家債務、格差はますます拡大していくと考えて、お金を貯蓄しておいたほうが賢明ではないでしょうか。

 最後に総括として伝えたいことがあります。「人生に大切なもの」は「子育てに大切なもの」と酷似しているということです。生産者の責任・義務として、子どもが「生まれてきてよかった」と思ってくれるように、どの親も独り立ちするまで育んでいきます。
 何よりもまず元気に育ってほしいと願います。特に幼児期までの親の肉体的、精神的、金銭的苦労は大変です。親の快楽のためにかわいがり過ぎてはいけません。育てながら社会に順応できるように、好かれる人間になるように、叱ることも大切です。いろいろ試行錯誤しながら考察しなくてはいけないことが、その過程には多くあります。教育費も多く使ったからといって、比例して立派な人間になるとは限りません。
 一流大学を出ても、年収1000万円以上稼いでも、名声や地位を得ても、人生の歓びの根幹にはなりません。人生の本物の快楽は、やはり「心・知・体」の鍛えられた個性の上に成り立つと考えます。人は「生きていく上での大切なこと」を、若い時には考えず、仮に考えたにしてもよくわからず、社会人になったり、子どもができたり、歳をとったりして気付くようになるのです。悲しい宿命です。「人間は万物の霊長」という言葉がありますが、皮肉な言葉に聞こえてきます。

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