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ポピュリズム

ンドンオリンピックでは、史上最多の38個のメダルを獲得し、マスコミは大騒ぎであった。オリンピック開会式は7月27日、閉会式は8月12日であったが、この間、日本国はマスコミに踊らされ、正にオリンピック狂騒局(協奏曲?)の期間であった。TV局によっては、明らかに視聴率目当てとしか思えない番組を、閉会して1ヶ月近く経った今でも、オリンピック関連の番組を流し続けている。オリンピックの番組に押され、然程報道されなかったさまざまな時事問題が世界、国内にはあった。個人的に気になった記事を羅列すると…(朝日新聞より)
 7/31 国が1兆円支出し、東電国有化
     9月から東電値上げ
     シリア国内戦局激化
 8/1  65歳まで雇用義務づけ、高齢法改正案を可決
 8/2  茶のしずく、アレルギー発症2205人
 8/3  アナン氏、国連シリア特使辞任へ
 8/6  東電、テレビ会議録の映像を編集・加工し報道機関に提供
     火星探査機NASAのキュリオシティが軟着陸に成功
 8/9  いじめで逮捕・補導の中学生、半年で100人超
     記述問題、苦手くっきり 学力調査、中学の理科離れ進む
 8/10 韓国大統領、竹島に上陸
     消費増税関連8法が成立 参院本会議で可決
     食料自給率39%のまま 農水相発表
 別にオリンピックのTV番組の放映を否定しているのではなく、暗く鬱になるニュースの多い時代に、一時でも自国の選手の活躍を応援することは、国内を明るくする清涼剤になり、スポーツで自立しようとする若者にはこの上ないmotivateになる。普段はあまりTVを見ない私も興味のある競技は見た。感動するシーンもあった。
 あれから1ヶ月。政局は解散、総選挙への流れになっている。マスコミのオリンピック報道と政局がリンクして、頭に浮かんだ言葉がある。ポピュリズム(Populism)である。この数年マスコミでもよく使われるようになり、意味をはっきり把握していなくても、何となくこんなことを言っているのだろうという人は多いだろう。語源は勿論、中学生のときに覚えたあのpopular(大衆的な、人気のある)である。『知恵蔵』には、「政治に関して理性的に判断する知的な市民よりも、情緒や感情によって態度を決める大衆を重視し、その支持を求める手法、あるいはそうした大衆の基盤に立つ運動をポピュリズムと呼ぶ。ポピュリズムは諸刃の剣でもある。」と説明している。
 何が諸刃の剣であるのか説明する。ポピュリズムの始まりは1891年に米国の農民が中心になって結成した人民党(People’s Party=通称ポピュリスト党)にあり、不況にあえいだ農民たちが、政治活動を通して政策を要求し、政治家を選別したことに始まる。プロではない草の根の人々が、自分たちの要求を政治に反映させるために動いた。この形を「大衆運動型」あるいは「下からのポピュリズム」と呼ぶことにする。
 これに対して、もうひとつの形は1930年代から50年代の南米などでみられた、権威主義体制を目論むカリスマ的な政治家が扇情的かつ無責任なスローガンを叫んで大衆動員を図ったもので、作為的に大衆的支持を得て形成したものであり、これは「大衆扇動型」あるいは「上からのポピュリズム」と呼ぶことにする。この「上からのポピュリズム」が政治を危ういものにすると言われている。
 最近では、新党「国民の生活が第一」を結成した小沢代表や、大阪市の橋下徹市長の手法が「ポピュリズム」と批判されることがある。政治家が有権者に「痛み」を強いることを躊躇して正しい政策を決められないこと、もっと極端に言うと、有権者の反発を恐れるあまり、本来進むべき道と真逆の政策を選択してしまい、政治家が機動的かつ適切に政策を遂行できない現象のことで、選挙で政治家を選ぶ民主主義国家で起きやすい病理だとも言える。民主党が政権を取りたいがために、美味しい話だけをマニフェストに載せたが、何一つ実行できず、支持率が急落したように、「大衆迎合型」への対応を誤れば、民主主義そのものが危機に直面することになる。
 さらにその影響は、グローバル化した現代では一国の中にとどまらず、国際経済や地域安全保障にも波及していく恐れがある。ギリシャの財政危機において、その破綻が自国の放漫財政に始まり、ユーロ基盤を脅かすようになったにもかかわらず、ギリシャ国民の多くが反対し緊縮財政に応じず、ギリシャに対する支援余力があったドイツなども、国民の反発を恐れてなかなか大胆な対策をとれず、事態を悪化させていったのもその一例である。
 小沢代表の手法がポピュリズムと呼ばれているのは、「消費増税反対」「脱原発」などの主張が、国家全体の持続可能性を考えておらず、大衆迎合によって選挙に勝ちたいがためのスローガンと考えられているからである。これに対し橋下大阪市長の手法に対する批判は、「大衆迎合型」と「大衆扇動型」の二つが混在していて、それとはなしに民意を束ねると言うときは「大衆迎合型」に近く、また「独裁」を是とするかのような発言のときは、「大衆扇動型」と言える。
 橋下市長著作の「体制維新――大阪都」を1年ほど前に読んでみたが、彼の主張は地方自治が国の決定に従うだけの行政で、それを打破するためには道州制の導入と、大阪市を東京23区のようにしたいという地方自治の問題点の指摘が主であった。そのためには国政での権力を掌握して法改正をしなくてはならない。そこで、次回の総選挙は「大阪維新の会」の同志を立候補させるというのである。
 それにしても、橋下市長の人気は長く続いている。国政の不甲斐無さが第一の理由であろうが、TVでの報道も大きい。彼はあのように辯が立ち、自己アピールも巧い。話題性のあるフレイズ作りも巧い。タイミングよく国民が注目するアドバルーンを揚げる。ただ、「維新八策」のような方向性を示す抽象的なものはあっても、具体的な公約や政策はまだ公表されていない。岡目八目的に地方自治から国政を眺め、その不備、不満を述べている感も強い。防衛、外交などの行政は地方自治にはないし、国策としてのエネルギー、産業育成、医療福祉等の行政は地方とは異なる。日本国全体をまとめて舵を取る国政能力がどれだけあるかということは未知である。
 それにしても、政治不信は年々酷くなっている。主義や信念を貫く政治家が少なくなってきた。政党も「烏合の衆」に成り下がっている。橋下人気はそんな政界への不満の表れかもしれない。小泉チルドレンは初当選した83人のうち65人が次の総選挙に立候補したが、小選挙区での当選者はたった3人だけだった。小沢ガールズや民主党の1年生議員も現状ではほとんどが同じ道を辿るだろうと言われている。これなどは、作為的に大衆的支持を得ようと「国民に迎合」し、美味しいことばかり言って何もできない政党、政治家の一例である。余談になるが、橋本市長が総選挙に送る一年生議員は「橋本ベイビーズ」と呼ばれているとか。もしそうなら、政治に関してチルドレン以下ということになる。
 ポピュリズムの本当の怖さは今日のマスコミの体質にある。報道の第一義はあくまで取材による真実の伝達である。専門家による難解な用語の説明、あるいは裏に隠されている事実の暴露は歓迎だが、特に最近のTVでは、司会者(MC)やコメンテーターが耳触りのよい主観を述べ過ぎるようになってきた。新聞でもtrend・○○ranking・○○支持率など薄べったい内容が多く、読ませる記事が少なくなった。これらも視聴率、販売部数の拡大を目論む、一種のポピュリズムと言える。特に主婦向けのワイドショウでは、出演者全員に同意見を述べさせている場合もあり、「国民に迎合」されるように構成されている節がある。(「タケシのTVタックル」は真逆の意見をぶつけ合っているが、あれはentertainment showである。」)
 高度成長やバブル景気の時なら、だれが総理大臣になろうと、どの党が与党になろうと、公務員が「親方日の丸」気分で仕事をしようと問題はなかった。しかし、その付けが今に回ってきた。日頃より政治、経済に関心を持ち、これからの日本をより良くするために投票所に行くのも、何も考えず美味しい話を鵜呑みにしたり、マスコミの扇情的報道に感化されたりして投票所に行くのも、どちらも同じ1票。そうなるとポピュリズムに飲み込まれる愚民の1票が怖い。
 原発の問題にしても、消費税にしても、誰だってゼロがいいに決まっている。各自、価値観や大切にしたいものは違って当然である。だからこそ、自分にとっての幸せとは何かを責任と覚悟を持って考え、自分の意見を持つことが必要になってくる。できるなら思考の視野を広く、深くし、一国民の立場として客観的に考えたい。答は歴史が証明するしかない。
 自分の人生を振り返ると、「あの時、もっと頑張っていれば」、「もう少し我慢できていたら」と思うことは、誰の人生にもあったはずである。老頭語録に「現在の自分は過去の自分が創った。未来の自分は現在の自分が創っている」という愚見を載せてあるが、日本国民がその文言の「自分」を「日本」に換えて考えてくれたら、日本は必ずよい国になる。あなたの子供たちやこれから生まれてくる子供たちも幸せになれる。
 気候、地勢、伝統、文化、技術、治安、国民性、どれをとっても日本の生活環境は世界の中では恵まれているほうである。大地震は怖いが、地震国だからこそ温泉に浸ることができる。人口が過密気味ではあるが、秩序があるから維持できている。自然災害にも見舞われるが、美しい四季を楽しむことができる。その日本国が危ない。1000兆円を超える大借金国になってしまったばかりでなく、何よりも古き良き美徳の心構えが失われつつあるのが怖い。「千里の堤も蟻の一穴から」(A little leak will sink a great ship.)という言葉もあるように、日頃から日本がどの方向に進んでいるのか、国民一人一人が注視する必要がある。そして、責任と覚悟を持って意思表示することである。

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