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転がる石にはコケは生えぬ

A rolling stone gathers no moss. (転がる石にはコケは生えぬ)という言葉があります。出典はイギリスの諺で、本来は「活発な活動を続けている人は、いつも生き生きとして健康であり、仕事や住居を変えてばかりいる人は、地位や財産を得ることができない」という意味ですが、大西洋を渡って時を経、アメリカでの捉え方は「転がっていなければコケが生えてしまう。常に変化し続けることに価値がある」と、真逆の意味になりました。
 捉え方の違いはmoss をどう捉えるかの文化・感性からきているようで、アメリカ人はコケをカビのようなマイナスのイメージと捉えています。アメリカにはMos Burger を「コケのハンバーガ−」(mosのs がひとつ足りませんが)という、そんなブラック・ユーモアもあるくらいです。
 我慢は美徳であると教えられてきた古い人間は、「使っている鍬は光る」・「流水は腐らず」・「たびたび植えかえる木は根が張らない」の同義語として理解してきました。私が日本でも真逆の意味に取る人のいることを知ったのは、この10年、20年のことです。
 最近の若者は、この就職難でもすぐに会社を辞めてしまうという話をよく耳にし、「石の上にも3年」と父親から諭されていた私は、やはり現代っ子は嫌なことがあると我慢することができず、安直に仕事も辞めてしまうのかなと考えていました。しかし、私の考えは最近少し変化しつつあります。
 そのキッカケは少し年上の女性(おばさん)の言葉でした。「ひとつの仕事を10年続ければ、それはそれで立派なことよ。その10年で、その人なりにいろいろ考えて結論を出したはずだから。会社が嫌だったのか、その仕事が自分に向いていなかったのか、もっとしたい仕事が見つかったのか、それはどんな理由でもいいのよ。大切なことは現状を打破し、新しい生活に挑戦しようとすることを評価してあげなくてはいけないんじゃないの」
 ここに、若者たちの仕事に対する考え方をいくつか紹介します。一人目の若者の退職理由はこうです。彼は私立有名K大学を卒業、超1流企業に就職し、2年で退職しています。「高度成長のときはいいのですが、『リーマン・ショック』以降、世界経済は不安定になり、会社の方針、上司の命令に首を傾げたくなることが多くなり、組織の歯車としてこれでいいのかということを考えるようになりました。自分は何を求め、何をしたいのか、そして自分にとっての幸せは何であるのかということを考えるようになりました。地位の獲得? 生活の安定? 心の満足? その結論として、自分は心の満足をえらびました。」文系だった彼は、現在医学の勉強をしているそうです。
 また、30代前半の女性からからこんな話も聞きました。彼女も名前を聞けば誰でも知っている大企業に勤めています。「私の会社は早い時期からひとつの仕事を任されます。そんな環境の下、できる人間はみんな転職して行くんです。残る人間は出世というライフプランなり、豊かさというライフスタイルなり、自分の描く人生を追いかけて、ミツバチのように毎日仕事に精を出している人と、もうひとつのタイプはそんな人たちとは真逆で、公務員のように必要以上の仕事はやらず、お茶を濁して退社時間と退職年齢を待つ人という2つに大別できます。私も今の会社に10年。こんな会社の空気の中、離職、転職を考えることが多くなりました。」
 最後に、もう一人の若者の転職の理由を紹介します。「親の期待に応え、自分もそうすることが一番と思い込み、それなりの大学を出て、就職しました。社会人になって数年経ったころ、自分の人生はベルト-コンベイヤの流れの方向に行くだけで、それまでの人生に自分の意思の不在を感じました。家族ができたり、歳を取ったりすると柵や拘束が多くなります。若いうちに自分の人生を見つめ直すことが必要と気付きました。自分の心と対話して、自分のしたいことは何か、好きなことは何か、嬉しいことは何かを考えました。心の強さ、弱さなどの深層も分析しました。このことについて学生時代に多少の疑問を感じたことはあったのですが、家庭も、学校も何も触れてくれませんでした。今、私は自分の意思で転職を決めました。」
 これらの若者の話を聞いて、同じ歳の頃の私と比べたら、ずっと立派だと感心しました。このような不透明な時代は、時代に流されるままに生きていく若者ばかりではなく、こんな時代だからこそ自分の生き方を大切にしたいと悩み、行動している若者もいるのだと知りました。これから「転がる石にはコケは生えぬ」という言葉を、対極の二つの意味に理解したいと思っています。どちらが正解であるのかは、個人の人間性に照らし合わせて捉えることにします。

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