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メディアに物申す

の4週間、川上君のことが頭をよぎるたびに気持ちが塞いでいました。「川上順君の思い出」を書いているときも、辛い気持ちになりキーボードを叩く指がなかなか先に進みませんでした。
 今でも「どうしてこんなことになったんだ」「何があったんだ」という思いが、頭の中を駆け巡っています。遺された親族や知人は何があったのかを一番知りたいものです。順君の人となりも少しはわかっているつもりです。熱血漢で、強い意志を持ち、自分の考えを突き進む面もありました。だから余計に納得したいのです。仮に順君と記者の谷さんに魔の差した過失や無謀があったにしても、真実を知ることによって心の整理ができます。
 事故直後から、可能な限り新聞、TV、ニュースウェブを見ましたが、自局である日本テレビの報道は酷いものでした。他人事のように簡単な情報を流すだけで、2日もしたらそのことに触れもしませんでした。
 新聞社・テレビ局は、事故、事件、不祥事が自社、自局に関係する場合、小さなニュースとしか扱いません。本来、一番知りえる情報を持っているはずの当事者が不味いことに蓋をする姿勢に、以前から強い怒りを覚えていました。これでは相撲協会や公務員と同じ隠蔽体質で、そのような新聞社やテレビ局に事件、不祥事の追究をする資格はありません。
 報道局次長は記者会見に集まった50人以上の報道陣の前で、「社会部長からの報告を受けており承知していた」「(取材は)無理な場合は断念して帰るように指示した」と言っています。さらに、「(取材は)本人の希望もあったと聞いている」「事前の装備としては十分だった」「それほど無理をさせる取材だという認識はなかった」と付け加えています。果たしてそれは事実なのでしょうか。
 入山する2、3日前の会議で、地上からの映像が欲しいということで、カメラマンは順君に、記者は登山経験には乏しいが、救助ヘリ墜落事故発生時の取材から拘っていた北さんに決定されたという報道があります。
 2人を案内した山岳ガイドによると、2人は同局の報道番組「真相報道 バンキシャ!」(日曜後6・00)のための取材で山に向かったと証言しています。さらにガイドは、順君に「土曜日(31日)にどうしても行かないとまずいんです」と言われたそうです。
 ある放送関係者は「編集作業などを考えると映像素材は前日までに欲しい」と説明しています。2人がガイドの「危険だ」という助言を無視して再び入山したことについては、「翌日(1日)のオンエアに間に合わせるために必死だったのでは」と指摘しています。
 バンキシャは事故直後の放送の冒頭で、福沢朗アナ、鈴江奈々アナがいつにない神妙な顔で謝罪していました。二人のアナはうっすら涙目になっていたという人もいます。しかし彼らも上層部の命令のままを言葉にしただけで、日本テレビ自体がバンキシャ用の撮影と認めていませんので、その事故が当番組に関係していることは明かにしませんでした。「真相報道・・・」とは、何という皮肉なタイトルでしょう。
 バンキシャといえば、過去には捏造、虚偽証言、やらせなどのあった悪評の高い報道番組です。その裏側には、日本テレビの体質も大いに関係しているような気がしてなりません。前出の報道局次長の「なぜ、事前の打ち合わせと違う行動をとったのか分からない」という、責任転嫁のような言葉がそれを裏付けています。
 テレビ局にとって映像は命です。テレビ局の映像に対する過剰取材に警鐘を鳴らす関係者もいます。「ガイドに止められたくらいで、現場を目の前にして何でノコノコ引き返してきたんだ!いい画が撮れるまで帰ってくるな!それでもプロか!」こんなリークもあるほどです。
 メディアは良識の府であり、使命のひとつに「真実の追究」があります。メディア関係者自身も何の臆面もなくこの言葉を口にしています。日テレの社長も「有能で意欲的な2人を失い、残念な思いでいっぱいです。原因を究明し、再びこういう事態が起こらないようにしたい」と記者会見では言っています。しかし、「真相報道 バンキシャ!」の放送中止の噂はあっても、残念ながら事故を内部検証し、それを放送する気配は一向にありません。もう真実を放送してくれることはないと、個人的には諦めています。
 メディアにとって、情報は商品です。商品は売れなければいけません。他の企業と同様、利益を最優先します。商品が売れているかどうかの判断は発行部数、視聴率です。彼らにとって真実を追求することよりも商品が売れることのほうがはるかに重要です。真相究明よりセンセーショナルな内容のが商品価値が上がることも知っています。メディアが「社会の木鐸」であるという言葉はもはや過去の遺物になってしまったようです。
 すべてのメディアは自局の事故だからといって蓋をして世間の関心が薄れるのを待つのではなく、ジャーナリストらしく自社で独自に「遭難事故を検証する番組」を制作、放送すべきだろうと考えます。それが犠牲者への心からの弔辞であり、報道に携わる者全体への警告にもなると考えます。今回の遭難死したことを受けて、一部のテレビ局が自局の報道姿勢に問題がないかの見直しを急いでいるという記事がありました。これが実践されるなら、メディア業界の一条の光です。

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