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鬼の霍乱、それから(後)

編では、佐藤愛子さん、外山滋比古さん、むのたけじさん、塩川正十郎さん、村山富市さんの5氏の「85歳を過ぎてもピンピンな人の生活習慣」を紹介したが、特別な健康法を取り入れていることはなく、身体のために何かしていることを敢えて挙げるなら「歩くこと」くらいであった。
 5氏に共通する点は、健康で長生きしている秘訣は精神面であり、生活の規則性、リズムを大切にしているということ。生き方、考え方が前向きであり、「健全な精神は健全な肉体に宿る」のではなく、逆に「健康な肉体は健全な発想から生まれる」ようである。
 佐藤愛子さんは夫の莫大な借金を背負うなど波瀾万丈の人生を振り返って笑う。
「今は平和=幸福であって、苦しいことから逃げることも利口な生き方のひとつになっています。苦しいことから逃げずにそれを受け入れ、乗り越えようとすることが私たちの教育でした。今の人たちの多くは、嫌なことから目をそらしてばかりいるから、苦難に立ち向かえない。辛い時代になると、底力がない。我慢できない。弱い人ばかりになってしまったような面は否めません。苦難はないより、あったほうがいい。それによって、より強くなればいいんですから」
 村山富市さんは大分の駅で偶然に出会ったフランキー堺さんからの言葉を今でも覚えているという。
「巡り合わせは誰にでもある。大事なのは避けて通らないことです。乗り越えれば新しい展開が開けてくる」
「わしの時代は、将来の自分がどうなるとか、何かの目標に向かって歩いていくことができる今の時代と違って、選択肢がまるでなかった。ただ与えられた道を一生懸命にやるしかなかった。現にわしの人生は、自分の意思とは関係ないところで物事が決まり、そのまま背中を押されるようにして進んできた。与えられた仕事を一生懸命にやった。今日をいい加減に生きてきた人間は、明日もいい加減になる。わしはそう思うんじゃ」
 議員時代と変わらない、横柄さとは無縁な村山さんの質実な言葉である。同じ政治の道を歩んだ塩川正十郎さんは、人生で一番大切にしてきたものは「責任」という。
「自分の周りで起きたことは全部、自分の責任として対処してきた。他人のせいにしてはいけない。これは私の信念ですが、『伸びるときは他人に任せ、退くときは己で決せよ』を実行してきた。人間は弱い動物ですから、ついつい我が出てしまう。理屈をこねるほど、本質を失ってしまいますから」
 外山滋比古さんは、40代〜60代の中高年層にメッセージを伝えている。
「とにかく脳をよく使って活性化して欲しい。そのためには『必要に迫られる』こと。たとえば、細君から離婚を迫られたり、悪態をつかれたり、仕事を失いそうになったり、先の見込みがなかったり。実は、そういう状況がいいんです(笑)。ある種の緊張感を生みます。現状を嘆くのではなく、『何かを始めよう』となる。眠っていてもこなしていけるようなぬるま湯的な環境のままでは、人間はどんどん退化していきます。若い人と競争しなければいけない環境でも、きちんと前を向いていれば、若く健康でいられるはずです」
 歳をとるということは、坂道をゆっくり下っていくことと考える人は多い。しかし、むのたけじさんは「死ぬるときが生涯の頂上」と思って生きている。高齢者に対してこう檄を飛ばす。
「体力の減退は当然感じている。しかし、ものを考えるということに関しては、今が一番鋭いと思う。人間は一日生きていれば、何かを経験しているわけですから。歳をとって、自分から衰えて、世話にならなくてはいけないという感覚には陥って欲しくない。自ら立って、自ら律する。この二つの「じりつ」あってこそ、人です。年寄りは、自分が歳をとったことに甘えて、自分を見失いがちですが、老人には経験という蓄積された賢さがある。老人は自信を持って、自ら立って範を示して欲しい。私はそうやって生きて、死んでいきます」
 健康で長生きは多くの人の望んでいること。そのためには日々の生活が重要である。肉体が衰えていくことを止めることはできないが、体力の衰えとともに気の持ちかたまで後退するようでは、肉体の衰えに拍車をかけることになる。無理せず、しかし億劫にならず身体と頭脳を使い、明るく前向きな考え方をしていることが、いつまでも健康でいられる術であるようだ。
 遺伝の影響が強いといわれているガンや脳卒中のように、自分の意思ではどうにもならない病気もあるが、多くの病気は生まれてからこれまでの生活形態と習慣の蓄積から生じることが多い。数十年の生き方が身体に現れる。肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、決まった部位を痛める職業病などはその例である。
 5氏のインタヴィューの中でひとつ気になったことがある。「ストレス」という言葉が出てこなかったことだ。ストレスは病気の天敵であると言われているが、その言葉を誰ひとり口にしていない。私のように勝手に生きている人間にもストレスはある。ストレスの蓄積は思考をネガティブにし、行動をニグレクトにし、健康に負の影響を与えることは明らかである。
 ストレスを感じない一番は、他人のことを考えずに、傲慢に、KYで、自己チューに生きることであるが、これも一種の病気で、普通の人にはなかなかできない。凡人が鬱積したストレスを対処するには3つの方法しかない。強い忍耐力を持つ。発想を変える。そして気分転換。多くの人は限界前に何らかの気分転換を講じる。溜まる前から小出しにガス抜きする人もいる。しかし、このどちらの気分転換も完全な解消法にはなっていない。おそらくこの5氏は不快感、煩わしさ、悩みなどをストレスにさせない思考が身に付いているのではないか。ストレスを寄せ付けない発想をしているのではないか。だから、健康の話が精神論に及ぶのだろうと思っている。
 人間は自分にもわからないところで、日々変化している。新陳代謝によって新しい細胞が生まれ、古い細胞は角質層、垢となり消えていく。だから、幼児の顔も数十年経つと、ちゃんと老人の顔になる。身体はこのように意識しなくても自然に変化していくのであるが、心はその人の性格、考え方、行動によって、もっと大きな変化をもたらし、個人差も生む。我々アラカンの人間が、アラフォーの人より若く見られることは滅多にないが、50歳前後の人より若く見られることはたまにある。健康とは遺伝、運、性格、行動、環境、職業など、自分を取り囲むあらゆる複合要素の総和が具象化したものと考えている。

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