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いい加減

の歳まで私はいい加減に生きてきた。友人、家族からは好きに生きていると言われることが多いが、自分の中ではいい加減という言葉のが私の人生に合っているように思う。
 いい加減という言葉には二つの意味がある。ひとつは、一貫性や明確さを欠いて、それに接する者に、嘘・ごまかし・でまかせ・行き当たりばったりという印象を与える様子と、辞書には書いてある。
 もうひとつは、ちょうど程よい状態、すなわちひどすぎない程度、ほどほどという意味である。私のいい加減はこの意味での人生であった気がする。
 私が子供の頃には給湯器などなく、お袋が風呂場の浴槽に手を入れて「いい加減に沸いていますよ」と、親父によくこの言葉を使っていたことを思い出す。遊んでばかりいて、ちっとも勉強しない私が「いい加減にしなさい!」と叱りつけられた言葉でもあった。
 11月の中旬、中3生の高校受験対策の授業開始にあたり、こんな話をした。
「人生はマラソンのようなものだと言う人もいるが、俺はそうは思わない。人生は短距離走の繰り返しだ。マラソンみたいに休まずコツコツ同じペースを維持して走り続ける人生なんて俺にはできない。かと言って好きなことだけして、だらだら生きていたら、そんな人生で終わってしまう。長い人生、人には頑張らなくてはいけない時がある。勝負しなくてはいけない時がある。高校入試までの3ヶ月間は初めての全速力で駈け抜けなければいけない期間だ。距離にしたら20〜30mくらいのものだ。これくらいなら耐えられるだろ? これからの長い人生、そういう時が幾度か訪れ、もっと長く全速力で走らなくてはいけない時もくる。その時の予行練習と思って、自分のできる限りの力をぶつけてもらいたい。」
 余談好きの私は話を続ける。
「登り坂を終えて視界が開け、美しい景色が目の前に現れたら、そこで休憩してその自然美をしばらく眺めているだろ? これからまた頑張らなければいけない時に頑張ろうという気になるだろ? 人生四六時中、張り詰めた気持ちでいたら疲れちゃう。やるべき時はやる、そうでない時はのんびり人生を楽しむ。いい加減な俺は、『息抜いて生き抜いて』きたんだよ。」
 話しているうちに、面白い話が頭に浮かんで、ますます横道にそれて行く。目の前に座っているY(母親もMPSの卒業生A)に話しかける。
「Y、もし俺の歩いている道にお前を見かけたら、親しくなろうと声をかけるだろうよ。お前のようなかわいい子を見逃さないからな。」Yは話の急展開に、先生の嫌味が始まったという嫌な顔をして聞いている。
「でも、もし俺が今のYと同じ状況にいたら、こんな俺でも声をかけないと思うよ。次のチャンスがあることを願って、残念だけど黙って見送るだろうな。お前にとってこれからの3ヶ月はそれほど大切な期間だと言うことだ。」オチは一応教師もどき文言にして終わる。
 こんなことを言っては子供たちの冷ややかな目線に晒されて、今も授業を続けている。
 どうも私は真面目と言う言葉が好きになれないでいる。「真面目一方」・「糞真面目」・「真面目腐る」など、いいイメージがない。「真面目っぽく」している輩も多い。「真面目に生きている」と言う人間より、いい加減に生きている私のほうが人としてすべきことをしっかりこなして生きていると、歳をとるにつれ思うようになってきた。
 自分を常識的な人間、あるいは選ばれた人間だと思い込んでいる人ほど扱いにくい人間はいないと言われているが、真面目だと思い込んでいる人も同様に扱いにくい。彼らは自分の生活行動を正しいと決め込んでいる。一方、私のように愚かで、自分勝手で、いい加減の人間は、minimum standard(最低基準)、すなわち負の行為だけでなく、無の行為を日常生活の中で意識して生きている。そうしないと、欲望だけを求めて生きている人間は、堕落していくだけなのである。
 正道とか邪道とかの判断は別として、求道者や道徳家のように感情を排斥し禁欲的に生活することは、多くの凡人にはなかなかできないことである。そうなると、好き勝手に生きる人間は、他人への迷惑を最小限に抑え、人並みの義務を果たし、自分に正直に生きる術を身に付けるしかない。
 物心付いた頃から、私は面前で親に褒められることがなく育てられた。「お前は石橋をたたいて、危なくても渡って行ってしまう。」だから「わたる」と名付けられたというわけでもないだろうが、親父から言われたこの言葉を今でも覚えている。それほどどうしようもないガキだった。そんな人間が真面目な、立派な、優秀な人間になれることはないので、いい加減な人間になるしかなかった。しかし、両親のおかげで「いい加減」のいいほうの意味の人間になれたことに感謝している。自分で勝手にそう解釈して生きてきた。今もいい加減に生きている。

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