1990年  「New Moon」 (1990/6/21発売) の頃    
きかせてあげたい NHKみんなのうた Various Artists (1990)  アポロン音楽工業  


1. コロは屋根のうえ [作詞作曲 大貫妙子] CD2-2曲目

古川葉子: Vocal

1990年5月21日発売

1. Koro Wa Yane No Ue (Koro's On The Roof) [Words & Music: Taeko Onuki] CD2-2nd track by Yoko Furukawa from the album of various artists "Kikaseteagetai NHK Minnna N Uta" (I Want You To Listen NHK Everybody's Songs)" May 21, 1990
 
 
「コロは屋根のうえ」は、「みずうみ」1983、「メトロポリタン美術館」1984に続く大貫さん三作目の「NHKみんなのうた」で、初回放送は1986年12月〜1987年1月。大貫さんが歌ったオリジナル録音は、1991年6月に発売されたベスト・アルバム「Pure Drops」に収められている。子供向けの歌でありながら、大人も楽しめるファンタスティックな歌詞とメロディーを持った曲だ。当時「NHKみんなのうた」曲集が多くのレコード会社から発売されたが、契約の関係でオリジナル録音を使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例だった。以前はミュージック・テープを販売していたアポロン音楽工業が制作した本作CDでは古川葉子が歌っている。

彼女は、同社から発売された他の「NHKみんなのうた選集」アルバムの多くで、いろんな曲を歌っている。それ意外は彼女に関する資料がないことから、一定分野に特化したアポロンの専属歌手だったようだ。

編曲者のクレジットはないが、ほぼオリジナル通りの伴奏(キーも同じ)なので、同一譜面を使っているものと思われる。

なお本曲が収めらた2枚組CDのCD2-17曲目には1988年初出の井上美哉子による「メトロポリタン美術館」も収められている。この手の録音は、別のアルバムに使い回されることが普通なので、本曲についても本CDよりも以前の収録アルバムがあるかもしれない。

[2024年9月作成]


 
Long Long Way Home  鈴木祥子 (1990)  Epic (Sony)   
 

1. 青い空の音符 [作詞 大貫妙子 作曲 鈴木祥子 編曲 佐橋佳幸] 8曲目

鈴木祥子: Vocal
門倉聡: Synthesizer, Acoustic Piano
西本明: Hammond Organ, Wurlitzer Piano 
佐橋佳幸: Guitar, Co-Producer
美久月千晴: Acoustic Bass Guitar
青山純: Drums
浜口茂外也: Pandero
向井ヒロシ、佐橋佳幸、井上リエ、鈴木祥子: Back Vocal

藤井丈司: Programming, Producer

1990年11月21日発売

1. Aoi Sora No Onpu (Note For The Blue Sky) [Words: Taeko Onuki, Music: Shoko Suzuki, Arr: Yoshiyuki Sahashi] 8th Track

 
80年代の音楽はテクノ、シンセ、打ち込みで覆いつくされて飽和状態になったが、その終わり頃に電子音楽とアコースティック・サウンドを上手く噛み合わせた新しい感覚の音楽が出てきた。そう書いてぱっと頭に思い浮かぶのが、スザンヌ・ヴェガの「Luka」1987 全米3位だ。鈴木祥子(1965- 東京都出身)もそういう流れにあった人だと思う。ドラム奏者として原田真二や小泉今日子のバックバンドで演奏した後、1988年にソロデビューし、他アーティストへの楽曲提供(代表作は小泉今日子の「優しい雨」1993)も積極的に行い、現在もマイペースで活動中。

アルバム「Long Way Home」は4枚目のアルバムで、YMOのアシスタントとして世に出て、幅広いジャンルの音楽を手掛けた藤井丈司がプロデュースとプログラミング、ギタリストの佐橋佳幸がコ・プロデュースを担当している。突出した曲はないけど、どの曲も水準以上の出来上がりで、トータルアルバムとしての色合いが強い。全10曲すべてが彼女の作曲(1曲のみ佐橋との共作)。作詞は自作が半分で、他は大貫さんの他に杉林恭雄(くじら)、西尾佐栄子、戸沢暢美が詩を提供している。洋楽志向が強い人のようで、英語のタイトル(歌詞は日本語)の曲や、ジャケットの歌詞には曲の英語名が記されている。西海岸の風が吹き抜けるような爽快な曲の印象が強いが、スローな曲を歌ってもロックを感じさせる歌唱スタイルが彼女の持ち味だと思う。

大貫さんが歌詞を提供した1.「青い空の音符」は、彼女が得意とする男女の別れの歌で、鈴木はそれに彼女としてはしっとり感のあるメロディーを付けて、比較的おとなしい感じで歌っている。それでもドラマー出身の人らしく、グルーヴ感に溢れた歌唱になっているのが面白い。間奏においる佐橋のギターソロ(前半はスライドギター)が聴きもの。

他の曲について。「夏のまぼろし」(作詞作曲 鈴木祥子 編曲 佐橋佳幸、藤井丈史)6曲目は、Sir Nikolai Kadokovという人(インターネットに情報がないので変名っぽい名前)のピアノのみの伴奏による曲で、若くして亡くなった人の事を思いながら、これからの人生を音楽で生きていこうという決意を歌う、本作の中では異色の存在。なお本曲は、1995年に矢野顕子が弾き語りアルバム「Piano Nightly」でカバーしている。

大貫さんの感性豊かな歌詞にキリッとした感じの曲を付けて、颯爽と歌う鈴木がかっこいい。

[2024年9月作成]


 
1991年  「New Moon」 (1990/6/21発売) 「Drawing」 (1992/2/26発売)の頃  
音楽物語 星の王子様  (1991)  東芝EMI   





 

1. メインテーマ 星の王子様(インストルメンタル)」 [作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック1
2. 星の王子様(朗読)[作 Antoine de Saint-Exupery 和訳 内藤濯 音楽 服部隆之] トラック2〜20
3. メインテーマ 星の王子様 [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック21

薬師丸ひろ子: Vocal (3)
中島朋子: 朗読 (王子) (2)
森本レオ: 朗読 (わたし ほか) (2)
岸田今日子: 朗読(ばらの花) (2)

1991年2月20日発売

写真上: CD 音楽物語 星の王子様 東芝EMI
写真下: 本 星の王子様 岩波書店

3. Main Theme Hosi No Oji Sama (Main Theme Little Prince) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura, Takayuki Hattori] 21st Track by Hiroko Yakushimaru from the album "Ongaku Monogatari Hoshi No Oji Sama"(Music Story Little Prince) Febuary 20, 1991
 
 
「星の王子さま (原題 "La Petit Prince")」はフランスの飛行士・小説家アントワーヌ・サン=テグジュペリが書いた名作で、1943年に出版された(彼は翌1944年に従軍中の飛行機の行方不明で亡くなっている)。内藤濯による翻訳は1953年岩波書店から出版され、2005年に翻訳出版権が満了したため、以降数多くの翻訳が出ている。本CDは内藤濯による翻訳の朗読に服部隆之(服部良一の孫、服部克久の息子)が音楽をつけ、冒頭と末尾に本作のために作曲されたメインテーマを入れて「音楽物語」として制作した作品だ。朗読者は中島朋子、森本レオ、岸田今日子(2006年没)、メインテーマの作詞が大貫さん、作曲が矢野顕子という超豪華版。

CDをスタートさせると序曲として1. 「メインテーマ 星の王子様 (インストルメンタル)」が始まる、ピアノとオーケストラによる演奏で 1分11秒経って「わたし」役の森本レオの朗読が始まり、演奏はそのバックでフェイドアウトする。朗読内容を内藤濯訳の原本と比較すると、朗読には小説が長過ぎるため、作品の在り方と進行に影響を与えない部分をカットしていることがわかった。飛行機が砂漠に墜落するプロットは、サン=テグジュペリの実際の経験に基づいて書かれたものとのこと。第2章で中島朋子の王子さまが登場し、ヒツジの絵を巡る会話となる。第3章の最後でオケによる音楽が入り、第4-6章(バオバブの木)はカット。第7章は花に関する会話。ここでピアノによる音楽が入り、第8-9章では王子の星で岸田今日子のバラの花が登場し、王子との会話。そこでは森本は語り手の役。ここでオケが入る。

第10章から自分の星を出た王子の他の星での話で、まず王さま、第11章はうぬぼれ男、時折短いオケが入り第12章は呑み助、第13章は実業家、第14章は点燈夫、第15章は地理学者で、各人物(森本)と王子との会話。ここでテーマのメロディーを含むオケが入り、第16章で王子は地球にやってくる。第17章はヘビ、第18章(花)-19章(こだま)はカット。第20章はバラの花、第21章はキツネとの会話。ここでキツネが秘密と称して「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ、肝心なことは、目に見えないんだよ」という有名な語句を話す。オケ入って第22章(スイッチマン)-23章(あきんど)はカット。第24-25章はわたしと王子が井戸を探す話。第26章は王子が自分の星へ帰ってゆく話。ハープによる音楽が挿入される。飛行機の故障が直る示唆があるが、わたしがその後どうなったかは書かれていない。第27章は結びで、オケをバックに助かった6年後のわたしの想いが語られる。

朗読に長けた3人はベスト・セレクション。約73分のうち95%は朗読で、音楽の比重は少ない。この時間からメインテーマを含めてCD一枚の収録時間ぎりぎりに収めたことがわかる・

最後に薬師丸ひろ子による 3.「メインテーマ 星の王子様」が流れる。同年少し後に発売された彼女のアルバム「Primavera」に収められた同曲と別ミックスで、アレンジが若干、歌詞がかなり異なる。その違いは「Primavera」で話そう。また作曲者の矢野顕子は、1995年のアルバム「Piano Nightly」において本アルバムの歌詞でセルフカバーしている。 素晴らしい曲なので願わくば大貫さんもセルフカバーしてほしいな〜

薬師丸ひろ子による「星の王子さま」オリジナル・バージョンは、他のベスト盤やボックスセットに収録されておらず、配信もないため聴けるのは本作品だけとなっている。

[2024年9月作成]


  
NHKみんなのうた 大全集2 Various Artists (1991)  キング  

 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子] 7曲目

新倉芳美: Vocal

1991年3月5日 キングより発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki] 7th song by Yoshimi Niikura (in various artists) from the album "NHK Minna No Uta Daizenshu 2" (Anthology 2 For The Songs For Everybody) March 5, 1991
 
 
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月〜5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが普通で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。本件はその中のひとつで、キング・レコードが制作したものだ。

新倉芳美 (2017年没)は、新倉よしみの名前でシングル盤2枚(1枚目「八色の幸福/狭山慕情」1980は歌謡曲、2枚目「白いページの中に/さよならへつづくハイウェイ」1981はニューミュージック)を出した後、子供向けの歌やアニメソングを多く歌ったシンガーで、中森明菜の専属仮歌シンガーとしても知られている。本曲はシンセサイザー、打ち込みが目立つ伴奏で、くせのない彼女の声はとても聞きやすい。なお編曲者は不明。

[2024年9月作成]


Primavera  薬師丸ひろ子 (1991)  東芝EMI 
 

1. 星の王子さま (Mattina Version) [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗] 7曲目
2. Destiny [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一 編曲 坂本龍一、成田忍] 9曲目


大村雅朗: Keyboards (1)
鶴来正基: Keyboards (2)
松原正樹: Electric Guitar (1)
成田忍: Guitar (2)
吉川忠英: Acoustic Guitar (1)
荻原基文: Bass
浜口茂外也: Whistle (1)
中村哲: Sax (1)
迫田到、石川鉄男: Synthesizer Operator (1)
木本ヤスオ: Synthesizer Operator (2)
綿内克幸、前田康美: Chorus (2)

1991年3月13日発売

1. Hoshi No Oji Sama (Mattina Version) (Little Prince Morning Version) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura] 7th Track
2. Destiny [Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Sakamoto, Arr: Ryuichi Sakamoto, Shinobu Narita] 9th Track
by Hiroko Yakushimaru from the album "Primavera" (Spring) March 13, 1991


薬師丸ひろ子8枚目のアルバムで、「Primavera」はイタリア語で「春」の意味。

大貫さん作詞、矢野顕子作曲の1.「星の王子さま」は、約1ヵ月前に発売された「音楽物語 星の王子さま」にも収録されているが、本作では「Mattina Version」という副題(「Mattira」はイタリア語で「朝」の意味)がついていて、以下のとおりアレンジが異なっている。

A = 音楽物語 星の王子さま、B= Primavera (Mattina Version)

@ Aはシンセサイザーのイントロから、Bは朝を思わせる小鳥の声とシンセサイザーのみ
A Aはファースト・ヴァースの第2節が「王さまも、うぬぼれも、実業屋も」に対し、Bは「大人たちは ひらけない 宝の箱」に歌詞が変えられている
B オーケストラのアレンジが異なる。 Aのほうがオケの動きが多く、目立っている。
C Aはファースト・コーラスの後はオーケストラのみ、Bは中村哲のソプラノ・サックスが入る
D Aはセカンド・ヴァースの第2節が「呑み助も、点燈夫も、地理学者も」に対し、Bは「いつの日か 消えてゆく ひとつの命」に歌詞が変えられている
E Aはセカンド・コーラスの後はオーケストラの演奏のみでフェイドアウト、Bは中村哲のソプラノ・サックスソロが入る。結果Aの3分15秒に対し、Bは3分44秒と演奏時間がその分長くなっている。

@小鳥の囀りを入れて朝の雰囲気を出したのは、アルバムの構成(特に次の曲「私の町は、今朝」)に合わせるためと思われる。AD歌詞を変えたのは、Aが原作の登場人物を歌うことで、原作との一体化を図っているのに対し、Bは薬師丸のソロアルバム用に普遍的な内容の歌詞に変えたものだろう。Bオーケストラのアレンジが異なる点については、Aの編曲者に服部隆之が入っていたが、Bでは大村雅朗のみになっていることから、大村がオケのアレンジをしたものと推測する。なおABともレコード会社が東芝EMIであることから、キーボード、シンセサイザー、ベース等のバッキング・トラックは同じものを使用しているものと断定してよいだろう。

2.「Destiny」はいかにも坂本龍一らしいメロディーの曲。歌詞・メロディー・歌唱いずれも聴けば聴くほど味わいが深くなる佳曲。ギターでアレンジャーとして名を連ねている成田忍は、フュージョン、テクノポップのバンドを経験して、ギタリスト、作曲・編曲家、プロデューサーになった人。キーボードの鶴来正基は、沢田研二やThe Boomなどやアニメソングの編曲を手掛けているが、主にライブで本領を発揮する人らしい。ベースの荻原基文はセッション・ミュージシャンで、板倉文、清水一登、斉藤ネコ、青山純等による音楽ユニット、キリング・タイムのメンバーだった。バックコーラスの綿内克幸はシンガー・アンド・ソングライターで成田忍とバンドを組んでいたことがある。前田康美はサザンオールスターズのサポートで有名な人だ。

他の曲では「愛は勝つ」のKAN(1962-2023)が作曲した「私の町は、今朝」(作詞 風総堂美起 編曲 清水信之)8曲目と、シングルとして1月30日に先行発売されてNTT"パジャマ・コール"CMイメージ・ソングとなりヒットした「風に乗って」(作詞作曲 上田知華 編曲 清水信之)10曲目が素晴らしい。そのため、7曲目から最後の10曲目までの流れは最高!

それにしても薬師丸の歌声は何故こんなに心に響くのだろう。27歳になって天性の表現力に益々磨きがかかったようだ。

大貫さんが作詞した2曲はいずれも素晴らしい出来です。

[2025年9月作成]

 
De eaya  中山美穂 (1991)  King   

 

1. メロディー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 林有三, ATOM] 1曲目
2. Crazy Moon [作詞作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 3曲目
3. ひとりごと [作詞 中山美穂 作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 10曲目


中山美穂: Vocal
Atom: Keyboards, Synthesizer, Programming
林有三:Keyboards (1)
吉川忠英:Guitar (1)
斉藤毅 Group: Strings (1)

1991年3月15日発売


1. Melody [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yuzo Hayashi, ATOM] 1st Track
2. Crazy Moon [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 3rd Track
3. Hitorigoto (Monologue) [Words: Miho Nakayama, Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 10th Track
by Miho Nakayama from the album "De eaya" March 15, 1991

 
中山美穂(1970- ) 21歳の時13枚目のアルバム。タイトルは「でいいや」という日本語をスペイン語風にもじった造語だ。無国籍でダンサブルな曲が大半を占めていて、ATOMという井上ヨシマサ(キーボード、シンセサイザー)と久保幹(プログラミング)の二人からなるユニットが編曲と打ち込みを含む演奏の大部分を担当している。

冒頭の曲1.「メロディー」は、本アルバムの中で歌詞・メロディー共に大貫さんらしさが出た曲で、編曲・キーボードに林有三、ギターに吉川忠英、ストリングスに斉藤毅(ネコ)のグループが加わり、アコースティックなサウンドに仕上げられている。2.「Crazy Moon」はマンボ風のアレンジによるダンス・チューンで、大貫さんの曲作りも軽めな感じ。バックで聞こえるパーカッションやブラス・セクションも全部シンセ演奏と打ち込みによるもの。全11曲中7曲につき中山本人が詩を書いているが、ダンス曲のための歌詞を書くということが彼女にとって最適だったかどうか微妙な感じがする。「Mana」(作詞 上田知華 作曲 井上ヨシマサ 編曲 ATOM)2曲目など、ボ・ディドリー・リズムを使用するなどの聴きごたえがある曲はあるものの、この手の音楽にいまひとつ食指が動かない私の個人的な好みかもしれないが....。

そのなかで、彼女が書いた詞に大貫さんが曲をつけた3.「ひとりごと」はスローな曲で、彼女の本心をはっきり感じることができる作品だ。そして大貫さんのメロディーが歌詞にぴったり寄り添っていて、両者相まって素晴らしい曲に仕上がった。それを受けたドリーミーなアレンジ、お風呂場で歌っているかのようなヴォイス処理もぴったり嵌っている。

他の曲に比べて、大貫さん提供曲が群を抜いており、特に3.「ひとりごと」は名曲といってもよいレベル。

[2024年9月作成]


夢で逢えたら  森丘祥子 (1991)  Warner Pioneer  
 

2. 突然の贈りもの  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 小西康陽] 2曲目

森丘祥子: Vocal
小西康陽: Synthesizer, Arranger, Producer
中山努: Electric Piano
斉藤誠: Electric Guitar
野宮真貴: Background Vocal

1991年4月25日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yasuharu Konishi] 2nd track from the album "Yume De Aetara" (If We Meet In Dreams) by Shoko Morioka, April 25, 1991
 

森丘祥子(1967-  本名 柴田くに子、岐阜県出身)は 1984年雑誌ミスセブンティーンのラジマガ賞を受賞し、3人組アイドルグループ、セブンティーンクラブのメンバーとして本名でデビューした。ちなみに他の二人は工藤静香(後にソロ歌手として大成後、現木村拓哉夫人)と木村亜希(後の清原和博夫人→離婚)。同グループはシングル2枚とCM、バラエティー番組等に出演後1年で解散し、柴田は1990年に森丘祥子の芸名で歌手デビューしたが、シングル、アルバム各2枚を出した後に活動が途絶えた。

本作は2枚目のアルバムで、ピチカート・ファイブの小西康陽がプロデュースとアレンジを担当している。1984年結成のピチカート・ファイブは熱心なファンを獲得したが一般的な知名度は低い状態が続き、商業的成功を収めたのは1993年頃という状態だった。従って本アルバム制作時の小西はまだ売れていなかった時期になるが、ニューミュージック(当時はそう言われていて、現在はJ-Popとかシティ・ポップと呼ばれるようになった)の名曲カバーというマニアックな企画になっている。

彼らしいニューウェイブ調のアレンジの中で、2.「突然の贈りもの」は飛び抜けて過激だ。森丘は原曲通りのきれいなメロディーを素直に歌っているが、セカンドヴァースが終わるまで、伴奏のほとんどが打ち込みのドラムスとシンセベースのみで、ベース音もあるべきコード進行を無視したミニマムな音で決めている。その分ヴァースの終わりに入るシンセの音と野宮真貴のハミングがきらっとした光を放っている。そして間奏部分からエレキギターやキーボードが入りメロディックな演奏になってゆく。小西の偏執的な趣味性が遺憾なく発揮されたアレンジだ。ハミングの野宮真貴は当時ピチカート・ファイブの3代目ボーカリト、中山誠はオリジナル・ラブのメンバー、斉藤誠はサザン・オールスターズのサポートメンバーで、渋谷系というか青山学院派のミュージシャンが揃っている。

他の曲について (かっこはオリジナル・リリース)

1. 夢で逢えたら(Remix) [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)
2. 突然の贈りもの [作詞作曲 大貫妙子] (大貫妙子 「Mignonne」1978)
3. 恋のブギウギ・トレイン [作詞 吉田美奈子 作曲 山下達郎] (アン・ルイス シングル 1979)
4. ムーンライト・サーファー [作詞作曲 Panta] (石川セリ 「気まぐれ」 1977)
5. 愛がなくちゃね [作詞 矢野顕子、ピーター・バラカン 作曲 矢野顕子] (矢野顕子「愛がなくちゃね」 1982)
6. ユー・メイ・ドリーム [作詞 柴山敏之、Chris Mosdell 作曲 鮎川誠、細野晴臣] (シーナ & ザ・ロケッツ「真空パック」1979)
7. ライディーン [作詞 小西康陽 作曲 高橋幸宏] (イエロー・マジック・オーケストラ「Solid State Survivor」 1979)
8. ソバカスのある少女 [作詞 松本隆 作曲 鈴木茂] (ティン・パン・アレー 「Caramel Mama」 1975)
9. ブルー・ヴァレンタイン・デイ [作詞作曲 大瀧詠一] (大瀧詠一 「ナイアガラ・カレンダー」 1977)
10. トゥインクル・クリスマス [作詞作曲 EPO] (EPO 非売品シングル 1986)
11. 夢で逢えたら [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)

11.「夢で逢えたら」は大瀧詠一の大名曲。吉田美奈子が「自分の音楽でない」と抵抗したため、直後にシリア・ポールに歌わせた実質的セルフカバーを出し、その後の数多くのカバーがある。森丘のバージョンはキリン「ワインクラブ DANCE」のCMソングになった。1.は間奏部の語りのみを延々と繰り返すリミックス・バージョン。3.「恋のブギウギ・トレイン」はダイエー1980年のヴァレンタイン・キャンペーン CMソングで、山下達郎はライブアルバム「Joy-Tatsuro Yamashita Live」 1989でセルフカバーしている。7.「ライディーン」はYMOの傑作インスト曲に小西が歌詩を付けた珍品で、よりソリッドなリズムのアレンジが面白い。8.「ソバカスのある少女」は鈴木茂と南佳孝(ゲスト)が歌ったうロマンチックな歌だったが、私的には南佳孝が鈴木のバックで出した1977年のカバー・シングルのほうに愛着を覚える。10.「トゥインクル・クリスマス」はEPOが札幌マルサのキャンペーン配布用に制作した非売品シングルで、アレンジャーが当時メジャー・デビューして間もなかった小西康陽だったという縁がある曲。そういえば大貫さんは前年の1985年に同様の企画で「森のクリスマス」を録音していたね。なおEPOの録音は、「森のクリスマス」とともに 2012年MIDI制作のコンピレーション・アルバム「Winter Tales II」に収録された。

1970〜1980年代の名曲を題材に、小西が1990年代のグルーヴで焼き直すことで新たなサウンドを生み出している。この手のマニアックな音楽が好きな人向けのアルバムだ。特に「突然の贈りもの」は数多くのカバーがある名曲であるが、ここでのアレンジは最も特異かつ独創的なものになっている。

[2024年8月作成]


 
Miracle Love/あいたい気持ち  牧瀬里穂 (1991)  Pony Canyon    

 

1. 会いたい気持ち I Dream Of You [作詞作曲 大貫妙子 編曲 中村哲] CDシングル2曲目

牧瀬里穂: Vocal

1991年10月30日発売

1. Aitai Kimochi I Dream Of You (I Want To Meet You I Dream Of You) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Satoshi Nakamura] CD Single 2nd Track, October 30, 1991

 

牧瀬里穂(1970- 福岡県出身)は、1989年12月山下達郎の「クリスマス・イブ」が流れるJR東海「クリスマス・エクスプレス」のCMで有名となり、1990年に出演した映画でトップスターへの仲間入りを果たした。そんな彼女が歌手に挑戦して最初に出したシングルが本作だ。メインは竹内まりや作詞作曲の「Miracle Love」(編曲 小林武史)で、本人が出演した三菱電機のビデオカメラ、郵便貯金のCMに採用され、売り上げ30万枚の大ヒットとなった。

大貫さんが書いた「会いたい気持ち」はそのカップリングにあたる。編曲の中村哲は、サックス、キーボード奏者、編曲家で、ホーン・スペクトラム、プリズムに参加した人。米国西海岸を思わせる爽やかなサウンドの曲だ。本曲は1993年9月に発売された彼女唯一のアルバム「PS. RIHO」には未収録で、2002年のベスト盤「My これ!クション 牧瀬里穂 Best」に収められた。なお彼女は1995年3月のシングル盤を最後に音楽活動を止め、女優業に専念している。

なお「Miracle Love」は、翌年に竹内が出したシングル「マンハッタン・キス」のカップリングとしてセルフカバーされた。こちらは夫君の山下達郎アレンジなので、牧瀬のバージョンとの聴き比べの面白さがある。

[2024年9月作成]


   
1992年  「Drawing」 (1992/2/26発売)の頃   
Super Folk Song  矢野顕子 (1992)  Epic (Sony)      
 

1. 横顔 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 矢野顕子] 4曲目

矢野顕子: Vocal, Piano

1992年6月1日発売

1. Yokogao (Face In Profile) [Music: Taeko Onuki, Arr: Akiko Yano] 4th Track by Akiko Yano from the album "Super Folk Song" June 1, 1992

 
文句なしの歴史的名盤。

矢野顕子(1955- 東京都生まれ、青森県育ち)は1976年「Japaese Girl」でデビュー後、コンサートの一部でピアノの弾き語りを演っていた。その模様は2枚目のライブアルバム「長月 神無月」1976のA面で伺うことができる。そして1982年からピアノが1台あれば何処へでも赴くという弾き語りライブ「出前コンサート」を始める。そして10年後の1992年満を持して制作したのが本作だ。録音にあたっては、スタジオではなく音響の良いコンサート・ホール(東京都千駄ヶ谷の津田ホールと長野県松本市のハーモニー・ホール)を借り切り、一切のテープ編集拒否にこだわって納得がゆくまで何度も録り直したという。その模様は同年公開された映画「Super Folk Song 〜ピアノが愛した女〜」(坂西伊作監督 その後VHS, DVDで発売)で観ることができる。弾き語りといっても、ジャズ、フォーク、ロックを跨いだ音楽性と比類なき演奏力・感性によって空前絶後のスタイルを確立し、彼女の琴線に触れた名曲をカバーするという離れ技をやってのけたのだ。

各曲毎に本人のコメントが付いていて、大貫さんの名曲1.「横顔」(アルバム「Mignonne」1978収録)は「世界有数のソングライターである大貫妙子は私の大切な友達でもあります。もっと歌いたい曲もあるのですが、早くうまく歌えるようになりたいと思います。そしたら又、聴いてきださいね」という彼女にしてはしおらしい内容。原曲とアーティストに対する尊敬の念がはっきり出ていて、歌が入る部分はピアノ演奏の独特なタイム感覚はあるものの比較的大人しいプレイだ。それに対して間奏とエンディングになってピアノのみになると、思い切りはっちゃけた感じに変貌するのが凄い。彼女はその後も本曲を演奏し続け、2007年発売のDVD「音楽のちから 吉野金次の復帰を願うコンサート」で大貫さんと共演、さらに2018年のアルバム「ふたりぼっちでゆこう」で二人のデュエットによる正式録音が実現した。

他の曲について。「Super Folk Song」(作詞 糸井重里 作曲 矢野顕子 編曲はすべて矢野顕子なので以下記載省略)1曲目は、糸井のアルバム「ペンギニズム」1980のセルフカバー。ナンセンンスながらもイメージが無限大に広がってゆく歌詞を縦横無尽に歌いこなしている。「大寒町」2曲目はムーンライダーズのベーシスト鈴木博文が書いた曲を素直に歌っていて、あがた森魚の名盤「噫無情(レ・ミゼラブル)」1974がオリジナル。「Someday」(作詞作曲 佐野元春)3曲目は1981年佐野4枚目のシングルが初出。ここでは原曲のメロディーとリズムを大幅に崩して自由気儘に歌っている。「夏が終わる」(作詞 谷川俊太郎 作曲 小室等)5曲目は、デビュー前に小室のアルバム「いま生きているということ」1976の録音に参加し、同曲でピアノを弾いたのが原点。草の名前が並んだ歌詞の中にカミソリのような鋭い言葉が差し込まれる恐ろしい曲だ。「How Can I Be Sure」(作詞作曲 Felix Cavaliere, Eddie Brigati) 6曲目はアメリカのグループ、ヤング・ラスカルズ1967年の曲で全米4位のヒットを記録。いかにも山下達郎が好きそうなメロディーだね。

「More And More Amor」(作詞作曲 Sol Lake) 7曲目は、ジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーが1966年に出したライトな感じのアルバム「California Dreamin'」収録のインストルメンタルのカバーで、矢野はピアノを弾きながらメロディーをハミングしていて、若い頃聴いたジャズへの愛着が伺える。「スプリンクラー」(作詞作曲 山下達郎)8曲目は山下11枚目のシングル 1983から。「おおパリ」(作詞 イッセー尾形 作曲 矢野顕子)9曲目はイッセーの劇の幕間に使用された曲を歌ったもの。「それだけでうれしい」(作詞 宮沢和史 作曲 矢野顕子)10曲目は1992年5月2日にThe Boomが矢野とのコラボとして発表した曲をソロで取り上げたもの。「塀の上で」(作詞作曲 鈴木慶一)11曲目は、はちみつぱいのアルバム「センチメンタル通り」1973に収められていた名作。「中央線」(作詞作曲 宮沢和史)12曲目はThe Boomのアルバム「Japaneska」から。矢野はコメントで「中央線沿線に生まれ、長い時間そこで過ごし、そしてまた遠くの地に移っていった私のようなものにとって、宮沢さんがこの曲を書いてくれたことは大きなプレゼントでした」と述べている。最後の「Prayer」(作詞 矢野顕子 作曲 Pat Metheny) 13曲目は親交のあるギタリスト、パット・メセニーが矢野のために書いた曲に歌詞をつけたもので、歌詞・曲ともに素晴らしい作品。パットは16年後の2008年に制作されたライブ・アルバム「Tokyo Day Trip」で本曲をインストでセルフカバーしたが、これも最高の出来だ。

ということで全曲を紹介したが、そうする価値がある捨て曲がないアルバムなのだ。以前に矢野が大貫さんの曲を歌った「いらないもん」1981は実験的な曲だったため、本アルバムの「横顔」が本格的に大貫作品を歌った最初の曲ということになる。

[2024年10月作成]


Garden   原田知世 (1992)  For Life     
 

1. Walking [作詞 大貫妙子 作曲編曲 中西俊博] 4曲目

原田知世: Vocal, Co-Producer
中西俊博: Violin
桑野ストリングス: Strings
Unknown: Piano, Guitar, Bass, Drums

鈴木慶一: Producer


1992年8月21日発売

1. Walking [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Toshihiro Nakanishi] 4th Track by Tomoyo Harada from the album "Garden" August 21, 1992

原田知世10枚目のアルバムは鈴木慶一プロデュース(原田はコ・プロデュース)で、全11曲中彼女の自作は2曲で、鈴木慶一は作詞作曲が2曲、作詞のみが1曲、作曲のみが3曲。編曲は鈴木と原田が2曲(彼女の自作曲)、鈴木が5曲という内訳。当時の鈴木はムーンライダースの新作のための曲作りとかち合ったため、一部の曲につき親しいアーティストに作曲作詞や編曲を依頼したそうで、結果的にそれが作品の多様性に貢献している

ジャケットに掲載された鈴木の言葉によると、鈴木は制作にあたり彼女の事を徹底的に知ることから始めたという。鈴木と原田の共同作業(鈴木は「庭いじり」と呼んでいて、それがアルバムタイトルになっている)は、曲作りとアレンジにおいては各自がコンピューターでサンプルを作って持ち寄り、音の良し悪しにつき話し合いながら決めていったそうだ。結果として鈴木好みの音楽に仕上がったように聞こえるが、同時に原田の感性が強く反映された作品となった。シンセサイザーと打ち込みを中心としたサウンドで、少々奇をてらった感はあるが、1990年代の新しい波のなかで歌詞・メロディー・演奏すべてにおいてクリエイティブであることは確か。いままでのお仕着せの企画を歌うアイドル歌手的な立ち位置を抜け出して、主体性を持って自ら創造に携わるアーティストに変貌を遂げてゆくキャリア転換期の作品といえよう。

大貫さんが作詞しバイオリニストの中西俊博が作曲・編曲した1.「Walking」は、その中でも息抜きとなるアコースティックな音つくりになっていて、スローなリズムを奏でるリズムセクションとストリングスをバックに中西のバイオリン・ソロが甘く響くスタンダード・ジャズ風に仕上がっている。初期はか細く不安定だった彼女の声は、この頃になると進化を遂げて厚みのあるノンビブラートの個性を確立している。各曲の歌詞の下にはクレジットが表示されているが、本曲については中西とストリングスのみの記載でリズムセクションのミュージシャン達の名前はなかった。

また本作の最後には1985年の7枚目のシングル「早春物語」(作詞 康珍化 作曲 中崎英也)の再録音が収められていて、これも中西編曲によるストリングス中心の音作りとなっており、6年間における彼女の音楽的・人間的成長を目の当たりにすることができる。

「Walking」はニューウェイブ調のアルバムのなかにあって異色のクラシカルな曲で、大貫さんらしい持ち味がしっかり生かされている。

[2024年9月作成]


ツレちゃんのゆううつ イメージ・アルバム (1992)  Pony Canyon   
 





1. 夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 有賀啓雄] 1曲目
2. 色彩都市 [作曲 大貫妙子 編曲 vivre ensemble] (Instrumental) 8曲目
3. 横顔 [作曲 大貫妙子 編曲 vivre ensemble] (Instrumental) 9曲目 

羽田恵理香: Vocal (1)
かしぶち哲郎: Keyboards, Synthesizer, Drums
羽毛田丈史: Keyboards, Synthesizer, Piano
浜田均: Vibraphone (3)
武川雅寛: Violin (3)
千代正行: Guitar
渡辺等: Wood Bass (3), Cello (2)

注: vivre ensemble = かしぶち哲郎、羽毛田丈史

写真上: 紙ボックス 表紙 1992年9月18日発売
写真中: CDジャケット 表紙
写真下: CDシングル盤 表紙 1992年7月17日発売

1. Yume Kara Samenaide〜Tsurechan No Yuuutsu (Don't Wake Me Up From My Dreams〜Melancholy Of Tsurechan) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuo Ariga] 1st Track, Sung by Erika Haneda
2. Shikisai Toshi (Colored City) [Music: Taeko Onuki, Arr: vivre ensemble] 8th Track, Instrumental
3. Yokogao (Face In Profile) [Music: Taeko Onuki, Arr: vivre ensemble] 9th Track, Instrumenta
from the album "Tsurechan No Yuuutsu Image Album"(Melancholy Of Tsurechan Image Album) September 18, 1992

Note: vivre ensemble = Tesuro Kashibuchi, Takefumi Hakeda


三島たけし作の漫画「ツレちゃんのゆううつ」は集英社「ヤングジャンプ」に1988年から1993年まで連載され、単行本は全13巻発売された。小学一年生の夢野ツレオは母親と二人暮らし。飛んでる彼女と恋人のような会話をし、マセた女の子の友達に振り回されて、時に憂鬱になりながらも楽しく暮らしているという筋で、動きのない静止画像のような画面や母親の長い足のデフォルメなど、ポップなイラストレーション風の描写が特色の漫画だ。

1992年9月1日刊行の単行本第8巻に合わせて発売されたのが本CDで、漫画自体はアニメ化されていないため、原作のイメージに合わせて制作されたアルバムになっている。紙ボックスとCDジャケットの装丁センスの良いデザインに三島が書いたイラストが満載で、見ているだけでも楽しい。音楽担当は、ムーンライダースのかしぶち哲郎(1950-2013) と作曲・編曲・プロデュースを数多く手掛けた羽毛田丈史(1960- ) の二人からなるユニット、vivre ensemble (「共に生きる」、「一緒に住む」、「一緒に行く」という意味)だ。そして歌い手は、アイドル・グループCoCoのメンバー羽田恵理香と、子供向け、アニメソングを多く手掛けたセッション・シンガーの新居昭乃(1988年に大貫さんの「メトロポリタン美術館」を歌った人)。一編の漫画のためのイメージアルバムといっても手抜きは一切なく、わくわくするような新鮮なアイデアがいっぱい詰め込まれていて、原作が持つペカペカしたふわふわ感が見事に表現されている。制作者達の当該漫画に対する愛着の成せる技だろう。

大貫さんが作詞・作曲した「夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ」は主題歌に相当する位置づけで、軽くポップなテクノサウンドをバックに羽田が歌う。音程面で若干不安定な歌唱なんだけど、それがむしろ歌の雰囲気にあっている感じ。編曲は作曲家、プロデューサーの有賀啓雄(2023没)。なお本曲は7月17日に羽田恵理香名義のシングル盤で先行発売された。2.「色彩都市」、3.「横顔」は大貫さんの代表曲のインスト・アレンジで、アルバムに仕立てるための曲数不足を補うために製作された感があるが、単なる埋め合わせでなく、むしろvibre ensembreの二人が嬉々として取り組んだような形跡がある。前者はリズムが強調されて、曲の持つカラフルなイメージがさらに増幅されていて、特にラストのサンバっぽくなるあたりは最高!後者は一転しっとりしたジャズのアレンジで、バイオリン(ムーンライダースの武川雅寛)、ヴァイヴ、ピアノがソロを取っている。特にバイオリンの切ない響きが愛おしい。なお原作者と大貫さんの関係については不明だが、ツレちゃんのお友達で細野妙子という女の子がいて、そのキャラが何となく大貫さんに通じるものがあり、彼女に対する作者の思いが込められているのは明らかだ。それにしてもこの苗字は確信犯だね?

その他の曲も捨て難い。羽田が歌う「With Me」(作曲作詞 Bob Crewe、Sandy Lizar, Denny Randell 日本語詞 及川眠子 編曲 有賀啓雄)3曲目は、作者のクレジットから調べてみたら、あのフォーシーズンズやフランキー・ヴァリの作曲(「Can't Take My Eyes Off You」など)やプロデュースをしたボブ・クルーで、曲は彼が制作したガールズ・グループ、ザ・ラグ・ドールズの「Dusty」1965 全米55位が原曲だった。女性版フォーシーズンズにビーチボーイズの香りを付けたサウンドの原曲も素晴らしいが、オリジナルに敬意を表したアレンジに日本語詞をつけて、羽田の可愛い声を載せた本作のプロダクションも最高。なお日本語歌詞を書いた及川眠子は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニング曲「残酷な天使のテーゼ」1995の歌詞を書いた人だ。なお本曲は上述のシングル盤「夢からさめないで〜ツレちゃんのゆううつ」のカップリングとして収録された。「星のHeartache」(作詞 及川眠子 作曲 かしぶち哲郎 編曲 vibre ensembre)6曲目は、羽田が歌うキュートなヨーロピアン・テクノポップ。なおこの曲については、テレビ番組などでの歌唱で使われた全く異なるアレンジがある。

新居昭乃の歌は3曲。「Nocturne」(作詞 森由里子 作曲 羽毛田丈史 編曲 vibre ensembre)4曲目は素敵なボサノヴァで、フランス語を散りばめた歌詞と囁くようなボーカルがコケティッシュ。「月に祈りを」(作詞 及川眠子 作曲 かしぶち哲郎 編曲 vibre ensembre)7曲目はかしぶちのカラーが良く出た作品だ。「ツレちゃんのゆううつ」(作詞 三島たけし 作曲 新居昭乃 編曲 vibre ensembre)10曲目は、作者が書いた歌詞に歌手の新居が作曲したドリーミィーな作品。新居は他に面白いインスト曲「きょうは 晴れ のち 曇り ときどき 雨 〜Morning Song〜」(編曲 vibre ensembre)2曲目の作曲も担当している。ちなみに「Nocturne」と「ツレちゃんのゆううつ」の2曲は、ずっと後の2019年に発売された新居のコンピレーション・アルバム「Another Planet」に収められている。

三島たけしは、その後1998年「少年ガンガン」に「MD五エ門」という漫画を発表したが不評だったようで、単行本1冊のみで終わってしまい、その後は作品発表の記録がない。

原作の漫画と本作の音楽ともに、今ではすっかり忘れ去られてしまったが、大貫さん以外の作品も含め、そのまま埋もれさせるには誠に勿体ないファンタスティックな作品。

[2024年9月作成]


 
1993年  「Shooting Star In The Sky」 (1993/9/22発売) の頃 
Everlastig Love / Not Crazy To Me  中森明菜 (1993)  MCA Victor    

 

1. Everlasting Love [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] シングルA面

中森明菜: Vocal
坂本龍一: Keyboards、Synthesizer
Others: Unknown

1993年5月21日発売

1. Everlasting Love [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] Single A-Side by Akina Nakamori form the single May 21, 1993

 

中森明菜27枚目のシングルで、カップリングの「Not Crazy To Me」 [作詞 Nokko 作曲編曲 坂本龍一] と共にA面扱いで発売された。ワーナーを離れMCAヴィクターに移籍して初めてのリリースで、アルバム「Unbalance + Balance」と同時期に制作されたが、アルバムには「Not Crazy To Me」のみ収録された。

シンセサイザーが穏やかなリズムを刻む重厚なスローバラードで、中森の歌の上手さが際立っている。陰影のある大貫さんの歌詞と漂うような坂本のメロディーが素晴らしい。一方「Not Crazy To Me」はダンサブルな曲で、両曲合わせてオリコン10位のヒットを記録した。

なお本曲は、上記のアルバムが2002年「Unbalance + Balance +6」としてリイシューされた際にボーナス・トラックとして収録された。

[2024年10月作成]


1994年  「Shooting Star In The Sky」 (1993/9/22発売) 「Tchou」 (1995/4/19発売)の頃 
T'en Va Pas  Creole (1994)  For Life   
 


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 Creole] 6曲目

キャット・ミキ : Vocal
駒沢裕城: Pedal Steel Guitar
桜井芳樹: Gut Guitar

角田敦: Producer

1994年2月18日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  Febuary 18, 1994

1990年代の音楽は、目覚ましい技術進歩でシンセサイザーやコンピューター・プログラミングによる打ち込みなどが以前より遥かに安価かつ手軽にできるようになり、その恩恵をフルに生かした若い人たちが新しい音楽を作り始めるようになった。また演奏面でも以前のようなフルバンドを必要とせず、サウンドの全てまたは多くをプログラミングにより自分の手で生み出すことが可能になったのだ。それは以前よりもソリッドでメタリックな肌触りの音となったが、ダンス・ミュージック、DJの隆盛と相まって音楽界を席巻してゆく。そして1980年代との違いは、今までの古き良き伝統を頭ごなしに否定せず、むしろその良さを積極的に取り入れようとする度量の大きさにあり、その考えは2000年代以降も引き継がれて、現在の肥沃な音楽世界の土壌を生み出したといえる。

本作はそういう機運の黎明期の作品のひとつといえる。クリオールは、後にダンス・ミュージック、DJの分野で大成しJDDA (Japan Dance Music & DJ Association) の代表理事となるプロデューサー、作曲家、DJの角田敦を中心とした音楽ユニット。ユニット名の「クリオール」という言葉の元々の意味は、西インド諸島、中南米、インド洋西部、ルイジアナ州で生まれたスペイン・フランス人のことであるが、そこから派生して「異質なものの混淆から生まれて元とは異なる新しい存在になったもの」を意味する。ここではブラジル音楽を核として、様々な他の要素を取り入れることで新しい音楽を創り上げている。

大貫さんが日本語詞(元の詩と内容が全く異なるため「訳詞」ではない)を書いた1.「彼と彼女のソネット」は、フランスの歌手エルザが歌った1986年の「T'en Va Pas」がオリジナル(その名前が本アルバムのタイトルになっている)。日本語バージョンは1987年の原田知世が最初で、その少し後に大貫さんが「A Slice Of Life」でセルフカバーしている。いずれも原曲に近いリズミカルなフレンチ・ポップ風サウンドだったが、ここではガットギターによるアルペジオとペダル・スティールギターのみでリズムなしという大胆なアレンジが施されている。ギターの桜井芳樹は、クリオールのほとんどのセッションに参加したユニットの主要人物で、現在はロンサム・ストリングスというグループで活躍中。駒沢裕城はかつて荒井由美などティンパンアレイ系のセッションで大活躍した人だ。ここでの原曲をスローテンポに調理した試みは意外なほどうまくいっていると思う。ボサノバの歌唱に典型的な感情を押し殺したようなボーカルも良い。歌っているキャット・ミキはインターネットの資料が少なく、詳細不明(匿名シンガーかもしれない)であるが、フジテレビが制作した新感覚の子供番組「ウゴウゴ・ルーガ」1992 第1期のテーマソング「こどもなんだよ」(作詞 キャット・ミキ 作曲 近田春夫)というモノスゴイ曲を残している人。

他の曲について。アルバム帯のキャッチフレーズに「都市生活者のライフ・スタイルをスケッチするアンティミスト・ミュージック。シンプルでハートフルなアコースティック・サウンドが心地いいクレオールが贈るフェイク・ボサノバ」(「アンティミスト」とはフランスの印象派絵画の作風で、家族や友人の日常的な情景を親密な情感で描くことで「親密派」と訳される)とあるが、ガットギターやピアニカ前田によるピアニカなどの生楽器に対し、キーボードがシンセサイザー、打楽器は打ち込みであることがミソ。これも「クリオール」たる所以だろう。ブラジル風のリズムを打ち込みで処理することにより、新しい感覚のグルーヴが生まれていて、大貫さんの「Samba de Mar」1981(「Aventure」収録)を深化・発展させたようなサウンドなのだ。近田春夫作詞作曲による「Deja-vu」(編曲 クリオール)3曲目や、気怠い感じの「Holiday」(作詞作曲 森若香織 編曲 クリオール)4曲目、「海へ行こう」(作詞作曲 佐藤清喜 編曲 クリーオール、佐藤清喜)11曲目などが面白い。一方キャット・ミキによるアカペラ歌唱「みんな夢の中」(作詞作曲 浜口庫之助 高田恭子1969年のヒット曲)もある。

参加メンバーは、1970年代からずっと最先端で活躍してきた近田春夫と関係ある若い人達で、後に冨田ラボで一世を風靡する冨田恵一の名前もある。近田のような先人が打ち立てた音楽をベースとして新しいものを創造しようとする気概を感じるアルバム。ちなみに彼らは、同時期にほぼ同じメンバーで「Criola」というユニットのアルバムも出している。

大貫さんの「彼と彼女のソネット」のカバーの中で、最も大胆なバージョンのひとつ。

[2024年9月作成]


  
Sweet Revenge  坂本龍一 (1994)  gut (For Life)   





 

1. 二人の果て [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] 3曲目
2. 君と僕と彼女のこと [作詞 大貫妙子 作曲編曲 坂本龍一] 13曲目

坂本龍一: Vocal, Keyboards, Computer Programming (1), Producer
今井美樹: Vocal (1)
高野寛: Vocal (2), Guitar (2)
Lawrence Feldman: Flute (1)
David Nadien: Strings Section Leader (1)
Cyro Baptista: Percussion (1)
Towa Tei: Studio Vision, Akai S-3200, SP-1200 (1), Drum Programming (2)

写真上: アルバム 1994年6月17日発売
写真下: シングル「二人の果て」 1994年11月18日発売


1. Futari No Hate (The End Of Two) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 3rd Track
2. Kimi To Boku To Kanojo No Koto (You, Me And Her) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Ryuichi Sakamoto] 13th Track
by Ryuchi Sakamoto from the album "Sweet Revenge" June 17, 1994
 
坂本10枚目のアルバムで、個人レーベル「グート」からのリリース。今回挑戦したヒップポップ・ラップ曲と、従来からのフランス映画音楽、ボサノヴァ、現代音楽風の曲からなる。

大貫さんが詩を書いた2曲は「フランス映画音楽」路線で、坂本・大貫のコラボ作品の曲調に近い。アンニュイなムードの詩とメロディーがヨーロッパ的な知的退廃の世界を醸し出していて、英語主体のアルバムの中で日本語で歌われていることもあって全体のなかで清涼剤的な役割を担っている。1.「二人の果て」の男女の愛の行き着く果ての情景はフランス映画「男と女」を連想する気怠いイメージ。坂本とユニゾンで歌っているのは今井美樹で、同時期に発表された彼女のアルバム「A Place In The Sun」のサウンド・プロデュースと作曲を担当していた縁からの参加だろう。エンディングのスキャットでボサノヴァのリズムになるところがお洒落。なお本曲はシングル盤で発売され、そのジャケット写真は大貫さんのアルバム「Mignonne」のオマージュ(パロディ?)になっている。また今井が出演した明治製菓のチョコレート「Melty Kiss」のCMで使用された。2.「君と僕と彼女のこと」は男性二人と女性の複雑な三角関係を描いた曲で、短いドラマを観ているような味わいがある。サウンド的に大貫さんが歌って自身のアルバムに収めても全く違和感がない感じ。ここでは高野寛が坂本と一緒に歌い、ギターも弾いている。なお本作は海外版(International Version)が別途制作されていて、そこではこれら2曲は同じバッキング・トラックに異なる内容の英語歌詞(作詞 Vivien Goldman) が付けられていて、各「Sentimental」、「Water's Edge」というタイトルで外人シンガー(Vivian Sessoms, Andy Caine)が坂本と歌っている。

他の曲について。ヒップポップ、ラップ曲については、自分の持ち味であるフランスやブラジル音楽、現代音楽のエッセンスを織り込んだ「SweetでRadical」な音楽を目指したというが、私はこの手の音楽はよくわからないのでなんとも言えない。ただ聴き手からみて坂本龍一が挑戦する必然性が本当にあったのかなという感じがする。私的にはボサノヴァ的な曲が好きで、「Anna」(作曲編曲 坂本龍一)9曲目、「Psychedelic Afternoon」(作詞 David Byrne 作曲編曲 坂本龍一 作詞者は元トーキング・ヘッズの人)11曲目がいいね。またボサノヴァとラップをかけ合わせた「Interuptions」(作詞 Latasha Natasha Diggs 作曲編曲 坂本龍一)12曲目もクリエイティブな感じでとても良いと思う。映画音楽・現代音楽路線では、もともとはベルナルド・ベルトリッチ監督の映画のために書かれたという「Sweet Revenge」(作曲編曲 坂本龍一)7曲目は坂本らしいサウンド。大貫さんの2曲とインストルメンタル以外はすべて英語の歌で、アズテック・カメラのロディ・フレイム、元フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのホリー・ジョンソンなど著名なシンガーが参加している。

大貫さんが歌詞を提供した2曲は、日本版においてであるがアルバムのムードを決定付ける重要な曲だと思う。

[2024年10月作成]


French Lips  Various Artists (1994)  日本コロンビア    
 

1. 哀愁のアダージョ(彼と彼女のソネット) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 池田健司] 8曲目

T. Yumi: Vocal
池田健司: Programming, Arrangement, Co-Producer
吉永多賀士: Producer

1994年7月21日発売

1. Aishu No Adagio (Kare To Kanojyo No Sonnet) "Adagio Of Sorrow" "His And Her Sonnet" [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Kenji Ikeda] 8th Track from the album "French Lips" by Various Artists, July 21, 1994

 
1990年代の新感覚女性アーティスト達がフレンチ・ガールズ・ポップを歌う企画盤。仕掛け人は全曲でプロデュースを担当した吉永多賀士(Takashi "Gitane" Yoshinaga) のようだ。アーティスト4名によるオムニバス・アルバムで、全9曲中2曲を除き日本語で歌われている。また本場もののカバーは6曲で、残り3曲は日本で創られた和製フレンチポップという構成。

大貫さんが日本語詞を書いた「T'en Pa Vas (哀愁のアダージョ)」は原曲の曲名で、ここでは「彼と彼女のソネット」は副題となっている。歌っているT. Yumi はライナーノーツで「契約の関係で、彼女の正体を明かせないのが残念」とある通り変名であるが、当時の音楽シーンとその名前からシンガー・アンド・ソングライターの谷村有美と思われる(ただしインターネットで証拠が見つからなかったので、あくまで憶測です)。アレンジはエルザの原曲や原田知世のカバーに近く、打ち込みによる演奏。本アルバムの他の曲と異なり、奇をてらわず原曲の美しさに忠実なプロダクションとなっている。なお歌詞面では原田のバージョンにあったフレーズはなく、大貫さんのカバーと同じ内容だ。

T.Yumi のもう1曲「Chantons D'Amour (シャントン・ダムール)」(作詞 Jear Terisse 作曲 井上大輔 日本語詞 岩城由美)7曲目は、フランス系アメリカ人のナタリーという歌手が歌い、第一興商のCMソングに採用されたフランス語曲で、本アルバムと同じ日本コロンビアから発売された同名アルバムのボーナス・トラックとして収録された日本語バージョンのカバー。井上大輔(元ジャッキー吉川とブルーコメッツの井上忠夫(1941-2000))による明るく軽快なメロディーが素敵な佳曲。

他の曲について。Suzy Susieというガールズ・グループが3曲。1990年代前半に流行ったグランジ・ロック特有のチープな響きと少し投げやり風なボーカルが面白いサウンドのバンドだ。「Joe le Taxi (夢見るジョー)」(作詞作曲 Etienne Roda, Gil, Franck Langolff 日本語詞 岩城由美 編曲 Suzy Susie)1曲目、「Be My Baby」(作詞作曲 Lenny Kravitz, Henry Hirsch 日本語詞 岩城由美 編曲 Suzy Susie) 2曲目はいずれもフランスの歌手・俳優ヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis) 1987、1992年のカバー。原曲とは大幅に異なるアレンジで、彼らの他の曲のようなヘビーなサウンドではないが、独特のチープな響きは魅力的。「Orages de Passions (嵐のデート)」(作詞作曲 Suzuy Susie, Kazu 編曲 池田健司) 9曲目は大阪でest-one というマンションのCMに使われたそうで、ノスタルジックな雰囲気がいい感じのキュートな曲だ。

シンガー・アンド・ソングライター、編曲家、プロデューサー、キーボード奏者のYoko Ueno with candy box orchestra (上野洋子)が2曲。いずれもフランスの男女二人組グループ、ブルース・トットワール(Blues Trottoir) 1989年のカバーで、「La Gosse (セルロイドの夢)」(作詞 Clemence Lhomme, 作曲 Pierre Papadiamadis 日本語詞 山田仁 編曲 池田健司)4曲目はジャズの香り漂うAOR、「Un Soir de Pluie (雨の舗道)」(作詞 Clemence Lhomme, 作曲 Jacques Davidovigi 日本語詞 山田仁 編曲 池田健司)5曲目はクールなボサノバで、上野のちょっとハスキーなヴォイスがコケティッシュ。

最後は5〜15歳をフランスで過ごしたというラジオ・パーソナリティー、歌手、声優のvie vieが2曲、流暢なフランス語で歌っている。「La Plus Belle Pour Aller Danser (アイドルを探せ)」(作詞 Georges Garvarentz 作曲 Charles Aznavour 編曲 池田健司)5曲目は1964年シルヴィ・バルタンの大ヒット曲のカバー。「Le Visiteur」 (作詞 vie vie 作曲 Yamazaki Suga 編曲 池田健司)6曲目は和製フレンチ・ポップス。いずれもボサノバ・アレンジで、後者は終盤に名曲「Summer Samba (So Nice)」のサンプリングが入る。

日本人がすなる洒落たフレンチ・ガール・ポップ。

[2024年10月作成]


Mauve  Miki fr Creole (1994)  For Life   


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 渡辺貴浩] 2曲目

キャット・ミキ : Vocal
渡辺貴浩: Programming, Keyboards
桜井芳樹: Acoustic Guitar

角田敦: Producer

1994年7月21日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  July 21, 1994

アルバム「T'en Va Pas」から5ヵ月後に発売された6曲入りミニアルバムで、名義上ボーカルの(キャット)ミキがメインで、クリオールは「fr」 (フィーチャリング) となっている。タイトルの「モーヴ」は薄くグレーがかった紫色のことで、表紙の裸婦の抽象的イラストの色だ。

ここでも大貫さんが日本語詞を書いた1.「彼と彼女のソネット」を取り上げているが、全く異なるアレンジが施されている。編曲者でキーボード、打ち込み担当の渡辺貴浩は、近田春夫のバンド Vibrastone のメンバーだった人で、彼も他のメンバーと同じく近田人脈からの参加。オリジナルのメロディーはそのままに、コード進行を大胆に変えて桜井のギター、渡辺のシンセと打ち込みのパーカッションで一丁前のサンバに仕上がっている。それをバックにキャット・ミキがクールなボサノバ・ヴォイスで歌っていて、これも前作と同じく意外なほど良い感じ。

他の曲について。本作は歌手メインで制作されているため、実験的な要素があった前作と異なり、聴きやすい曲がそろっている印象。ほぼタイトル曲の「モーブの彼方」(作詞 桜井りさ 作曲編曲 桜井芳樹)1曲目、「時のないフィエスタ」(作詞 工藤順子 作曲編曲 角田敦)5曲目、特に「Wagamama」(作詞作曲 近田春夫 編曲 渡辺貴浩)4曲目がいい。特筆すべきは最後の曲「東京の伝書鳩」(作詞 外間隆史)で、作曲編曲そしてすべての演奏を冨田恵一が担当している。そしてこの曲は、2011年に発売された彼のベスト盤「冨田恵一 Works Best 〜Beautiful songs to remember〜」に最も初期の曲として収録されているのだ。歌詞がちょっと飛んでいるけど、本作のなかではシンセサイザーによるブラスセクションの音が入ったりして、とても新鮮に聞こえる。当時の彼はまだ無名で、名前が売れ出すのは3年後のキリンジと組んだ1997年頃からだ。

同じアーティストが、ほぼ同時期に、全く異なるアレンジでカバーした二つの「彼と彼女のソネット」.....。

[2024年9月作成]


 
Elephant Hotel  矢野顕子 (1994)  Epic (Sony)    

 

1. Oh Dad [作詞 菊池真美、矢野顕子 作曲 大貫妙子 編曲 Jeff Bova コーラスアレンジ 矢野顕子] 7曲目

矢野顕子: Vocal
Jeff Bova: Keyboards, Drums Programming
Chuck Loeb: Guitar
Will Lee: Bass
Tawatha Agee, Curtis King Jr., Brenda White King: Back Vocal

1994年10月1日発売

1. Oh Dad [Words: Mami Kikuchi, Akiko Yano, Music: Taeko Onuki, Arr: Jeff Bova, Chorus Arr: Akiko Yano] 7th Track by Akiko Yano from teh album "Elephant Hotel" October 1, 1994

 
エレファント・ホテルはマンハッタンの北に位置するウェストチェスター郡ソマースにある歴史的建造物。もとはホテルだったが、現在は市役所・資料館になっている。ハチャリア・ベイリーという農夫が1825年に建てたもので、彼はホテル名前の由来となる象をはじめとする珍しい動物を見世物として巡業することで成功した。それがアメリカにおけるサーカスの起源になり、彼の名を冠したサーカス団は2017年まで続いた。本アルバムは当該建物をタイトルとし、ジャケットの矢野のポートレイトもその前で撮影したものだ。

1990年のニューヨーク移住後4作目にあたり、後に「The Hammonds」という共同ユニットを結成してアルバムを出したキーボード奏者、作曲家、編曲家のジェフ・ボヴァや、ジャズ・ピアニスト、作曲家、編曲家のギル・ゴールドスタインが、編曲・演奏の核となり、ニューヨークを本拠地とする名だたるセッション・ミュージシャンが参加して、現地の空気感が漂う作品になっている。

1.「Oh Dad」は大貫さんの名曲「色彩都市」(アルバム「Cliche」1982所収)のメロディーに別の英語詞を付けたもの。矢野と共作した菊池真美は、アルバム・ジャケットに記された矢野の賛辞から高校時代の同窓生だったことがわかる。彼女はグレープを解散した吉田正美と茶坊主というデュオを結成して1976年「Tree Of Life」というレコードを出した他に、1980年代前半に矢野誠・顕子等が参加したレコードを製作するなど矢野と縁が深かった人だ。本曲は、青森在住時に一緒にジャズ喫茶に通って同音楽に目覚めるなど、矢野の音楽形成に大変重要な貢献をした大好きな父親に捧げる内容となっており、彼女にとっても大事な曲に違いない。ここでは彼女はコーラス以外のアレンジをジェフに任せ、自ら楽器の演奏もせずに歌に専念している。本アルバム中数曲がそんな感じで、人に任せることによってどう仕上がるかを楽しんている風がある。

アルバム全体的にクロスオーバーを矢野独特のスパイスで調理した感のあるサウンド。糸井重里作詞、矢野顕子作曲の「サヨナラ」3曲目、「夢のヒヨコ」 5曲目(テレビ番組ポンキッキーズの主題歌)、ナンセンス童話「にぎりめしとえりまき」10曲目が特に面白い。「すばらしい日々」 8曲目 (作詞作曲 奥田民生 編曲 矢野顕子)はユニコーン1993年のカバー。最後の沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」13曲目は宮澤和史の歌唱指導で録音したもので、矢野はかなり本格的に歌っている。それに対し間奏で挿入されるピアノソロ、ギターソロは思いっきりジャズしていて、その対比が鮮やかだ。

「色彩都市」のメロディーで、独自内容の英語詞と斬新なアレンジを楽しめる。

[2024年11月作成]


Tripping Triplets  Three Graces (1994)  東芝EMI


1. ワニのチャーリー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] 3曲目

星野操: Vocal (Melody)
森本政江: Vocal (Alto)
白鳥華子: Vocal (Soprano)
井上鑑: Keyboards
松原正樹: Electric Guitar
高水健司: Bass
山田秀夫: Drums

1994年10月19日発売

1. Wani No Charlie (Charlie The Crocodile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] 3rd track by Three Graces (Misao Hoshino, Masae Morimoto, Hanako Shiratori) from the album "Tripping Triplets" October 19, 1994

スリーグレイセスは星野操(旧姓 石井 メロディ担当)、森本雅恵(旧姓 石井 操の姉 アルト担当)、白鳥華子(旧姓 長尾 ソプラノ担当)の3人からなるコーラスグループで、1958年に結成され1961年「山のロザリア」が大ヒットした。完璧なハーモニー・ボーカルを誇り、レコードの他に数多くのCMソングを歌った。1967年に3人の結婚を機として活動を休止したが、22年後の1989年に再結成し、CMソング、レコード、コンサート、テレビ出演などで活躍した。彼女等の歌で記憶に残っているのは、「魔法使いサリーのうた」1966で、園田憲一とディキシーキングスの演奏も最高だった。CMでは「明治チョコレート」、「セキスイハウス」かな。テレビでは「タモリの世界は音楽だ」1990-1991にハウスバンドのメンバーで出演(これは後から調べてわかったはなしだけど.....)。

本作は彼女等が1994年に出したアルバムで、タイトルは「飛び跳ねる三連音符」という意味でグループの音楽を表している。大貫さんの他に、岩沢二弓、矢野顕子、糸井重里、杉真理、上田知華、リンダ・ヘンリック、Epo、吉田美奈子、メリッサ・マンチェスター等という大変豪華な人達が書き下ろしで曲を提供。そして1曲を除き井上鑑がアレンジを担当することで、ジャズやスタンダード曲が主体だった彼女等の音楽に新しい風を吹き込んでいる。

大貫さんが作詞作曲した1.「ワニのチャーリー」 (アフリカのワニなので英語は「Crocodile」)は、「ピーターラビットとわたし」や「メトロポリタン美術館」系のメルヘン・ソングで、抽象的な歌詞に彼女のアフリカに対する思いと自然観が投影されている。3人の素晴らしいハーモニー・ボーカルを聴いていると生理的快感を覚えるほどだ。

他の曲では、ブレッド・アンド・バターの岩沢二弓作詞作曲の「Silvery Moon」1曲目のスタンダード・ソング的な味わい、フュージョン・ジャズっぽい「アフリカの夢を」(作詞 糸井重里 作曲 矢野顕子)2曲目、一転ストリングスとバイオリンの伴奏でJR東日本のCFソングに採用されシングル・カットされた「秋」(作詞作曲 矢野顕子)8曲目がとても良い感じで、矢野ファンにとってもコレクター・アイテムになる存在。「3度目の恋」(作詞 田口俊 作曲 杉真理)4曲目、Epoの作詞作曲による「七色の絵の具」10曲目 といったジャズっぽい曲も捨てがたい。本作唯一のカバー曲「恋はメレンゲ」(作詞作曲 大瀧詠一)9曲目は大瀧の「Niagara Moon」1975がオリジナルであるが、ここでは星野操による英訳詞で歌っており、大瀧と縁が深かった井上のアレンジも面白い。吉田美奈子の「Tomorrow」11曲目は彼女らしいゴスペルの香りがする曲で、ソロボーカル・プラス・バックコーラスのスタイルでじっくり歌われる。最後の曲「Flowers For Emily」(作詞作曲 Amy Sky, Melissa Manhester)12曲目はメリッサ本人による録音はなく、どのような経緯で彼女等が歌う事になったのかは不明。なお演奏面では土岐英史のサックスソロ、松原正樹のギターソロが随所で楽しめる。

発売後30年経ち、すっかり忘れ去られてしまった感があるが、豪華な作家陣と素晴らしい歌唱・演奏による掘り出しもの作品と断言できる。

[2024年10月作成]


 
晴れた日、雨の夜  区麗情 (1994)  Sony  
 

1. 蜃気楼の街 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Robbie Buchanan コーラス・アレンジ 西脇辰弥] 5曲目

区麗情: Vocal
Robbie Buchanan: Keyboards
Bob Mann: Guitar
Jimmy Johnson: Bass
Rus Kunkel: Drums
Mike Fisher: Percussion
Arnie Watts: Tenor Sax
河合夕子、井上照代: Back Vocal

1994年11月21日発売

1. Shinkiro No Machi (The City Of Mirage) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Robbie Buchanan, Chorus Arr: Tetsuya Nishiwaki] 5th Track by Ku Reijo form the album "Hareta Hi, Ame No Yoru" (Sunny Day, Rainy Night) November 21, 1994

 
区麗情(1994-  東京都出身)は中国人と日本人のハーフの父親と日本人の母親との間に生まれ、父親は千代田区有楽町にあった中華料理の老舗「慶楽」(2018年閉店)の料理長だった。幼い頃から父親が聴いていたアメリカン・ポップスに親しみ、上智大学在学中の1983年にCDデビュー。2002年までの間にシングル11枚、アルバム10枚を出した。現在はブログを更新しながら、時たま音楽活動を行っているようだ。

本作は彼女3枚目のアルバムで、全10曲中オリジナルが6曲(彼女の自作は作詞1曲のみ)、カバーが4曲。また半分の5曲がアメリカ・ロサンゼルス録音。西脇辰弥がオリジナル曲の作曲と大半の曲の編曲を担当している。バック・ミュージシャンについては、著名なセッション・プレイヤーが多く参加している海外録音が面白い。

大貫さんの「蜃気楼の街」(オリジナルはシュガーベイブ「Songs」1975収録)は米国録音で、アレンジとキーボードがプロデューサー、アレンジャー、作曲家、キーボード・プレイヤーとして無数の作品に参加したロビー・ブキャナン。ギターとベース、ドラムスが当時ジェイムス・テイラーのバックをやっていた人達、テナーサックスがジャズ・クロスオーバのアルバムを出したアーニー・ワッツという大変豪華な顔ぶれ。バック・コーラスの河合夕子は1980年代に自己名義のアルバムやシングルを出し、その後セッション・シンガーに転向した人だ。そういう人達が大貫さんの作品をソリッドなボサノヴァで演奏していて、区麗情のボーカルもちょっとエッジがあって悪くない。シュガーベイブのバージョンを「陰」とすると本作は「陽」といえるかな。

他の曲では、やはりカバー曲に興味が集中する。「12月の雨」(作詞作曲 荒井由美 編曲 西脇辰弥)3曲目はユーミンの「ミスリム」1974 収録の名曲。この米国録音は西脇のキーボードにワディ・ワクテル(ギター)、リー・スクラー(ベース)という、これまたジェイムス・テイラー所縁のミュージシャンが入り、オリジナルとは異なるリズム・アレンジで迫っている。「Snowman」(作詞 青木景子、村松邦男 作曲 村松邦男 編曲 Bill Elliott コーラス・アレンジ 村松邦男)7曲目は村松1986年の3曲入り自主制作レコード「Christmas Presents」収録曲のカバーで、当時セッション・ミュージシャンで、後2000年代以降ブロードウェイ・ミュージカルで大成功するビル・エリオットが編曲を担当している。オリジナルでのスローなイントロなしのアレンジで、村松本人がコーラスで歌っている。はっぴいえんどの名盤「風街ろまん」1971収録の「花いちもんめ」(作詞 松本隆 作曲 鈴木茂 編曲 西脇辰弥)8曲目は鈴木が初めて歌った曲として鮮烈な印象が残った曲だったが、ここではアコースティック・ギターとピアノ、シンセサイザー、パーカッションというシンプルなアレンジ。吉川忠英のアコギが良く、区麗情のボーカルも曲に合っている。

オリジナル曲は西脇の作曲とアレンジが光っている。彼は1964年生まれでキーボード以外の楽器もこなすマルチプレイヤー。國府田マリ子、谷村有美、メロキュアなどの中堅歌手やロックグループ Pierrotなどのの作曲・編曲を手掛けた人で、デビッド・フォスターのようなパンチが効いた音楽を好む人のようだ。曲としては最後のタイトル曲「晴れた日、雨の夜」(作詞 竹花いち子 作曲 西脇辰弥 編曲 Robbie Buchanan、西脇辰弥)10曲目が、歌詞・メロディーと「蜃気楼の街」と同じミュージシャンによる演奏でいい感じ。他の曲もそれなりの水準であるが、彼女の歌い方と声に良い意味での癖があって、そして記憶に残るような曲が1曲でもあったら、もっとよかったのにと思う。

当時ジェイムス・テイラーのバックをやっていた人達が大貫さんの「蜃気楼の街」を演奏するという、私にとっては夢のような趣向。

[2024年11月作成]


1995年   「Tchou」 (1995/4/19発売)の頃  
風の中のダンス/誓いのブリッジ  安達祐実 (1995)  Victor  




1. 風の中のダンス [作詞作曲 大貫妙子 編曲 千住明] 8cm シングル

安達祐実: Vocal


写真上: 8cmシングル 1995年5月24日発売
写真下: アルバム「BiG」 1995年12月16日発売

1. Kaze No Naka No Dance (Dance In The Wind) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Senju] by Yumi Adachi from 8cm CD single on May 24, 1995, also included in the album "BiG" on December 16, 1995


安達祐実(1981- 東京都出身)5枚目のシングル。2歳からモデルとして芸能界に身を置いた安達は、子役としてドラマやCMに出演。1993年の映画「Rex 恐竜物語」の主演に続くテレビドラマ「家なき子」1994年で、貧困家庭に育ち家庭内暴力やいじめを受けながらも立ち向かってゆく少女(「同情するなら金をくれ!」という台詞が有名)を演じて一世を風靡し、子役女優としての地位を確立した。

大貫さん作詞作曲の1.「風の中のダンス」は続編ドラマ「家なき子2」1995の挿入歌。編曲者の千住明と大貫さんとは、彼が音楽を担当したアニメ「アリーテ姫」2001の主題歌を歌ったり、彼の指揮による「シンフォニック・コンサート」を開催したりなど親密な音楽関係が続いている。オーケストラをバックに歌う当時13歳の彼女の歌声には幼さが残っているが、若々しさ、初々しさが勝っていて、歌詞・メロディーが明るく前向き(ドラマのイメージと正反対)なので、聴いてて心地よい。大貫さんのセルフカバーや他の人によるカバーがあってもよい位の出来だと思う。カップリングの「誓いのブリッジ」(作詞 サエキケンゾウ 作曲 佐藤清喜 編曲 門倉聡)も爽やかな後味が残る佳曲。オリコン最高位25位を記録し15万枚売れたそうで、かなりの枚数が中古市場に出回っている。なお上記2曲は7ヵ月後の12月に発売されたアルバム「BiG」に収録された。

歌手として彼女が出した最後のシングルは1997年、アルバムは1998年。女優としての安達は、その後20代後半(2000年代後半)に子役のイメージから脱却できずに低迷期を迎えるが、30代後半(2010年代後半)から演技派女優として再ブレイクを果たした。

1.「風の中のダンス」は埋もれるにはもったいない曲。大貫さん、今後行われる「シンフォニック・コンサート」で是非取り上げてください!

[2024年11月作成]


 
Beautiful Days  伊東ゆかり (1995)  Alfa  
 

1. 突然の贈りもの  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 Derek Nakamoto] 7曲目

伊東ゆかり: Vocal
Derek Nakamoto: Keyboards, Synthesizer Programming
Tim Godwin: Guitar
Paul Taylor: Soprano Sax
Brad Cummings: Bass
Bernie Dresel: Drums, African Percussion

1995年10月18日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Derek Nakamoto] 7th track from the album "Beautiful Day"by Yukari Ito on October 18, 1995

 
伊東ゆかり(1947- 東京都出身)48歳の時のアルバムで、1曲を除き米国ロサンゼルス録音の意欲作。伊東は1960年代に中尾ミエ、園まりと「スパーク3人娘」としてポップス歌謡で活躍したが1970年代は低迷。その後1977年から1981年まで続いたテレビ音楽番組「サウンド・イン "S"」の司会で大人の歌手として復活した。本作ではそんな彼女が米国のミュージシャンをバックに自由な境地で歌っている。本アルバムで1曲を除きアレンジを担当したデレク・ナカモトはハワイ州生まれの日系人で、ロサンゼルスを拠点に活動、オージェイズ、テディー・ペンダーグラス、マイケル・ボルトン等の演奏・編曲に携わったが、ジャズピアニスト松居慶子の諸作品への関与が最も有名な人だ。ここでは彼が得意とするクロスオーバー・ジャズ、ニューエイジ・サウンドをベースとしたサウンド作りになっている。

1.「突然の贈り物」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録の名曲で、1978年竹内まりや、1991年森丘祥子に続く3番目のカバー。ベース(あるいはシンセ・ベース)によるリズミカルなリフがついた斬新なアレンジとなっているが、伊東の落ち着いたボーカルが曲本来の持ち味をしっかり保っている。間奏とエンディングで入るソプラノ・サックスとパーカッションもいい感じ。全体的に静かなバラードが多いアルバムのなかで、本トラックは程よいアクセントになっているといえる。

他の曲について。「七色の絵の具」(作詞作曲 EPO)1曲目は、スリーグレイセスのアルバム「Tripping Triplets」1994が最初で、オリジナルが井上鑑によるジャズボーカルのアレンジだったのに対し、ここではクロスオーバー風のサウンドになっている。それにしても伊東のボーカルの上手さが引き立っているね。なおEPOはもう1曲「想い」3曲目を提供している。「ラブ・レター」(作詞 松本一起 作曲 鴨宮涼)4曲目は伊東にピッタリの大人のバラード。来生たかおとえつこの姉弟による「そこからとこれからの季節」5曲もぐっとくる佳曲だ。「あなたの隣に」(作詞 荒木とよひさ 作曲 馬飼野康二)8曲目は1978年にシングル盤およびアルバム「YUKARI あなたの隣に」に収録された曲の再録音。最後の曲「明日、めぐり逢い」(作詞 松原史明 作曲編曲 森田公一)9曲目のみ日本録音で別の編曲者によるもの。そのため他の曲とかなり異なり歌謡曲的な雰囲気になっている。この曲は1994年8月にシングル盤が発売されていて、明記されてはいないがボーナス・トラック的な位置づけなんだろう。

チェロを思わせる落ち着いた大人の歌声で、斬新なアレンジによる「突然の贈り物」を聴くことができる。

[2024年11月作成]


1996年   「Tchou」 (1995/4/19発売) Lucy (1997/6/6) の頃   
Living With Joy  高橋洋子 (1996)  Kitty   
 



1. 新しいシャツ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 森俊之] 1曲目

高橋洋子: Vocal
森俊之: Keyboards, Programming
古川昌義: Guitar
細木隆宏: Bass
百々政幸: Manipulation

1996年10月25日発売 アルバム「Living With Joy」
1996年10月2日発売 シングル

1. Atarashii Shatsu (New Shirt) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Toshiyuki Mori] 1st Track by Yoko Takahashi from the album "Living With Joy" on October 25, 1996


高橋洋子(1966- )は東京都出身。1987年久保田利伸のバックコーラスとしてプロデビューし、CMソングやサウンドトラックなどのセッション・シンガーとして活躍、1991年にテレビ番組主題歌・挿入歌でソロデビューを果たしている。大変歌が上手い人で、特にバラードにおける繊細な表現力は抜群。そんな彼女が一躍有名になったのは、1995年のテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディングテーマ「Fly Me To The Moon」、および主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌ってからで、特に後者はこの分野で高い人気を誇る名曲となった。「Living With Joy」はその1年後に発表された彼女5枚目のアルバムで、本人による作詞作曲はなく、11曲中書き下ろしが4曲、残りが既存曲のカバーという構成。

1.「新しいシャツ」(アルバム「Romantique」1980 収録)は名曲と思うが、他のアーティストが取り上げたケースは意外と少ない。大貫さんの歌唱と坂本龍一のアレンジによるイメージがあまりに鮮烈で、それに新しい風を吹き込むことが難しいからだろう。本曲は原曲から16年後に制作された初めてのカバーとなる。オリジナルがスローなバラードだったのに対し、ここでは森俊之のアレンジによってリズミカルでよりポップなサウンドとなっている。特にグルーヴィーなベースラインはみっけものだ。それでも曲が持つしっとりした雰囲気を失っていないのは、ひとえに高橋のニュアンスに富んだ歌唱力にあると思う。ちなみに本曲はTBS系テレビ番組「山田邦子の幸せにしてよ」のエンディング・テーマとして使用され、アルバムに先行してシングルでも発売された。

他のカバー曲について。「Ooo Baby Baby」(作詞作曲 Smokey Robinson, Warren Moore 日本語歌詞 田久保真見 編曲 森 俊之)3曲目は、スモーキー・ロビンソンが在籍したザ・ミラクルズ1965年のヒット(全米16位)、リンダ・ロンシュタットのカバー(1978年 同7位)に日本語の歌詞を付けたもので、高橋はソウルフルに歌い上げていて、様々なスタイルに適用できる器用さを示している。「Hello Winter〜Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To Thr Moon?」(作詞 Traditional, Linda Grossman, 日本語歌詞 並河祥太 作曲 Traditional, John Sebastian Bach 編曲 大森俊之)4曲目は、アート・ガーファンクルの初ソロアルバム「Angel Clair」1973収録曲のカバーで、ハイチ民謡の「Hello Winter(原曲タイトルは「Feuilles-oh (葉っぱ)」)はもとはフランス語(厳密にはハイチ・クリオール語)の歌詞に日本語歌詞を付けている。「Do Space Men Pass Dead Souls On Their Way To Thr Moon?」は当時アートの奥さんだったリンダ・グロスマンがバッハ作「クリスマス・オラトリオ」のなかの1曲に歌詞をつけたもの。中米音楽とバロックのメドレーという面白い構成の曲だ。「つめたい部屋の世界地図」(作詞作曲 井上陽水 編曲 大森俊之)5曲目は井上陽水1972年(アルバム「陽水II センチメンタル」収録)のカバー。「めぐり逢い」(作詞 並河祥太 作曲 Andre Gagnon 編曲 大森俊之)7曲目はカナダ人アンドレ・ギャニオンの1983年インストルメンタル曲に日本語歌詞をつけたもの。フジテレビ系TVドラマ「Age, 35 恋しくて」のテーマソングに採用された。「シャンプー」(作詞 康珍化 作曲 山下達郎 編曲 森俊之)9曲目は、アン・ルイス1979年(アルバム「Pink Pussy Cat」収録)がオリジナル。山下達郎編曲・プロデュースの原曲も最高だったけど、ここでのカバーも凄いね。ボーナス・トラック「Fly Me To The Moon〜Night In Indigo Blue Version」(作詞作曲 Bart Howard 編曲 大森俊之)はアメリカン・スタンダードソング(私はジュリー・ロンドンの1963年バージョンが好き)のカバーであるが、上述の「新世紀エヴァンゲリオン」とは別録音のニューウェイブ風アレンジだ。

オリジナル曲では「ウェンディーの瞳」(作詞 並河祥太 作曲 松本俊明 編曲 鳥山雄司)6曲目が一番。テレビ東京系テレビ番組「情報レストラン」エンディングテーマに使用された曲で、幼い頃の純な心を失わないでという歌詞とメロディーがファンタスティックで、彼女の声質・キャラクターにピッタリ。「ウェンディー」は「ピーターパン」に出てくる女の子のことなんだろうな〜。その他のオリジナル曲も前向きな内容で、聴いていると心が洗われる感じがする。

カバー曲とオリジナル曲がうまく噛み合って、彼女の持ち味がとても生かされた作品になっていると思う。新鮮なアレンジによる大貫さんの「新しいシャツ」も聴きもの。

[2024年11月作成]