1990年  「New Moon」 (1990/6/21発売) の頃    
きかせてあげたい NHKみんなのうた Various Artists (1990)  アポロン音楽工業  


1. コロは屋根のうえ [作詞作曲 大貫妙子] CD2-2曲目

古川葉子: Vocal

1990年5月21日発売

1. Koro Wa Yane No Ue (Koro's On The Roof) [Words & Music: Taeko Onuki] CD2-2nd track by Yoko Furukawa from the album of various artists "Kikaseteagetai NHK Minnna N Uta" (I Want You To Listen NHK Everybody's Songs)" May 21, 1990
 
 
「コロは屋根のうえ」は、「みずうみ」1983、「メトロポリタン美術館」1984に続く大貫さん三作目の「NHKみんなのうた」で、初回放送は1986年12月〜1987年1月。大貫さんが歌ったオリジナル録音は、1991年6月に発売されたベスト・アルバム「Pure Drops」に収められている。子供向けの歌でありながら、大人も楽しめるファンタスティックな歌詞とメロディーを持った曲だ。当時「NHKみんなのうた」曲集が多くのレコード会社から発売されたが、契約の関係でオリジナル録音を使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例だった。以前はミュージック・テープを販売していたアポロン音楽工業が制作した本作CDでは古川葉子が歌っている。

彼女は、同社から発売された他の「NHKみんなのうた選集」アルバムの多くで、いろんな曲を歌っている。それ意外は彼女に関する資料がないことから、一定分野に特化したアポロンの専属歌手だったようだ。

編曲者のクレジットはないが、ほぼオリジナル通りの伴奏(キーも同じ)なので、同一譜面を使っているものと思われる。

なお本曲が収めらた2枚組CDのCD2-17曲目には1988年初出の井上美哉子による「メトロポリタン美術館」も収められている。この手の録音は、別のアルバムに使い回されることが普通なので、本曲についても本CDよりも以前の収録アルバムがあるかもしれない。

[2024年9月作成]


 
1991年  「New Moon」 (1990/6/21発売) 「Drawing」 (1992/2/26発売)の頃  
音楽物語 星の王子様  (1991)  東芝EMI   





 

1. メインテーマ 星の王子様(インストルメンタル)」 [作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック1
2. 星の王子様(朗読)[作 Antoine de Saint-Exupery 和訳 内藤濯 音楽 服部隆之] トラック2〜20
3. メインテーマ 星の王子様 [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗、服部隆之] トラック21

薬師丸ひろ子: Vocal (3)
中島朋子: 朗読 (王子) (2)
森本レオ: 朗読 (わたし ほか) (2)
岸田今日子: 朗読(ばらの花) (2)

1991年2月20日発売

写真上: CD 音楽物語 星の王子様 東芝EMI
写真下: 本 星の王子様 岩波書店

3. Main Theme Hosi No Oji Sama (Main Theme Little Prince) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura, Takayuki Hattori] 21st Track by Hiroko Yakushimaru from the album "Ongaku Monogatari Hoshi No Oji Sama"(Music Story Little Prince) Febuary 20, 1991
 
 
「星の王子さま (原題 "La Petit Prince")」はフランスの飛行士・小説家アントワーヌ・サン=テグジュペリが書いた名作で、1943年に出版された(彼は翌1944年に従軍中の飛行機の行方不明で亡くなっている)。内藤濯による翻訳は1953年岩波書店から出版され、2005年に翻訳出版権が満了したため、以降数多くの翻訳が出ている。本CDは内藤濯による翻訳の朗読に服部隆之(服部良一の孫、服部克久の息子)が音楽をつけ、冒頭と末尾に本作のために作曲されたメインテーマを入れて「音楽物語」として制作した作品だ。朗読者は中島朋子、森本レオ、岸田今日子(2006年没)、メインテーマの作詞が大貫さん、作曲が矢野顕子という超豪華版。

CDをスタートさせると序曲として1. 「メインテーマ 星の王子様 (インストルメンタル)」が始まる、ピアノとオーケストラによる演奏で 1分11秒経って「わたし」役の森本レオの朗読が始まり、演奏はそのバックでフェイドアウトする。朗読内容を内藤濯訳の原本と比較すると、朗読には小説が長過ぎるため、作品の在り方と進行に影響を与えない部分をカットしていることがわかった。飛行機が砂漠に墜落するプロットは、サン=テグジュペリの実際の経験に基づいて書かれたものとのこと。第2章で中島朋子の王子さまが登場し、ヒツジの絵を巡る会話となる。第3章の最後でオケによる音楽が入り、第4-6章(バオバブの木)はカット。第7章は花に関する会話。ここでピアノによる音楽が入り、第8-9章では王子の星で岸田今日子のバラの花が登場し、王子との会話。そこでは森本は語り手の役。ここでオケが入る。

第10章から自分の星を出た王子の他の星での話で、まず王さま、第11章はうぬぼれ男、時折短いオケが入り第12章は呑み助、第13章は実業家、第14章は点燈夫、第15章は地理学者で、各人物(森本)と王子との会話。ここでテーマのメロディーを含むオケが入り、第16章で王子は地球にやってくる。第17章はヘビ、第18章(花)-19章(こだま)はカット。第20章はバラの花、第21章はキツネとの会話。ここでキツネが秘密と称して「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ、肝心なことは、目に見えないんだよ」という有名な語句を話す。オケ入って第22章(スイッチマン)-23章(あきんど)はカット。第24-25章はわたしと王子が井戸を探す話。第26章は王子が自分の星へ帰ってゆく話。ハープによる音楽が挿入される。飛行機の故障が直る示唆があるが、わたしがその後どうなったかは書かれていない。第27章は結びで、オケをバックに助かった6年後のわたしの想いが語られる。

朗読に長けた3人はベスト・セレクション。約73分のうち95%は朗読で、音楽の比重は少ない。この時間からメインテーマを含めてCD一枚の収録時間ぎりぎりに収めたことがわかる・

最後に薬師丸ひろ子による 3.「メインテーマ 星の王子様」が流れる。同年少し後に発売された彼女のアルバム「Primavera」に収められた同曲と別ミックスで、アレンジが若干、歌詞がかなり異なる。その違いは「Primavera」で話そう。また作曲者の矢野顕子は、1995年のアルバム「Piano Nightly」において本アルバムの歌詞でセルフカバーしている。 素晴らしい曲なので願わくば大貫さんもセルフカバーしてほしいな〜

薬師丸ひろ子による「星の王子さま」オリジナル・バージョンは、他のベスト盤やボックスセットに収録されておらず、配信もないため聴けるのは本作品だけとなっている。

[2024年9月作成]


 
Primavera  薬師丸ひろ子 (1991)  東芝EMI 
 

1. 星の王子さま (Mattina Version) [作詞 大貫妙子 作曲 矢野顕子 編曲 大村雅朗] 7曲目
2. Destiny [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一 編曲 坂本龍一、成田忍] 9曲目


大村雅朗: Keyboards (1)
鶴来正基: Keyboards (2)
松原正樹: Electric Guitar (1)
成田忍: Guitar (2)
吉川忠英: Acoustic Guitar (1)
荻原基文: Bass
浜口茂外也: Whistle (1)
中村哲: Sax (1)
迫田到、石川鉄男: Synthesizer Operator (1)
木本ヤスオ: Synthesizer Operator (2)
綿内克幸、前田康美: Chorus (2)

1991年3月13日発売

1. Hoshi No Oji Sama (Mattina Version) (Little Prince Morning Version) [Words: Taeko Onuki, Music: Akiko Yano, Arr: Masaaki Omura] 7th Track
2. Destiny [Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Sakamoto, Arr: Ryuichi Sakamoto, Shinobu Narita] 9th Track
by Hiroko Yakushimaru from the album "Primavera" (Spring) March 13, 1991


薬師丸ひろ子8枚目のアルバムで、「Primavera」はイタリア語で「春」の意味。

大貫さん作詞、矢野顕子作曲の1.「星の王子さま」は、約1ヵ月前に発売された「音楽物語 星の王子さま」にも収録されているが、本作では「Mattina Version」という副題(「Mattira」はイタリア語で「朝」の意味)がついていて、以下のとおりアレンジが異なっている。

A = 音楽物語 星の王子さま、B= Primavera (Mattina Version)

@ Aはシンセサイザーのイントロから、Bは朝を思わせる小鳥の声とシンセサイザーのみ
A Aはファースト・ヴァースの第2節が「王さまも、うぬぼれも、実業屋も」に対し、Bは「大人たちは ひらけない 宝の箱」に歌詞が変えられている
B オーケストラのアレンジが異なる。 Aのほうがオケの動きが多く、目立っている。
C Aはファースト・コーラスの後はオーケストラのみ、Bは中村哲のソプラノ・サックスが入る
D Aはセカンド・ヴァースの第2節が「呑み助も、点燈夫も、地理学者も」に対し、Bは「いつの日か 消えてゆく ひとつの命」に歌詞が変えられている
E Aはセカンド・コーラスの後はオーケストラの演奏のみでフェイドアウト、Bは中村哲のソプラノ・サックスソロが入る。結果Aの3分15秒に対し、Bは3分44秒と演奏時間がその分長くなっている。

@小鳥の囀りを入れて朝の雰囲気を出したのは、アルバムの構成(特に次の曲「私の町は、今朝」)に合わせるためと思われる。AD歌詞を変えたのは、Aが原作の登場人物を歌うことで、原作との一体化を図っているのに対し、Bは薬師丸のソロアルバム用に普遍的な内容の歌詞に変えたものだろう。Bオーケストラのアレンジが異なる点については、Aの編曲者に服部隆之が入っていたが、Bでは大村雅朗のみになっていることから、大村がオケのアレンジをしたものと推測する。なおABともレコード会社が東芝EMIであることから、キーボード、シンセサイザー、ベース等のバッキング・トラックは同じものを使用しているものと断定してよいだろう。

2.「Destiny」はいかにも坂本龍一らしいメロディーの曲。歌詞・メロディー・歌唱いずれも聴けば聴くほど味わいが深くなる佳曲。ギターでアレンジャーとして名を連ねている成田忍は、フュージョン、テクノポップのバンドを経験して、ギタリスト、作曲・編曲家、プロデューサーになった人。キーボードの鶴来正基は、沢田研二やThe Boomなどやアニメソングの編曲を手掛けているが、主にライブで本領を発揮する人らしい。ベースの荻原基文はセッション・ミュージシャンで、板倉文、清水一登、斉藤ネコ、青山純等による音楽ユニット、キリング・タイムのメンバーだった。バックコーラスの綿内克幸はシンガー・アンド・ソングライターで成田忍とバンドを組んでいたことがある。前田康美はサザンオールスターズのサポートで有名な人だ。

他の曲では「愛は勝つ」のKAN(1962-2023)が作曲した「私の町は、今朝」(作詞 風総堂美起 編曲 清水信之)8曲目と、シングルとして1月30日に先行発売されてNTT"パジャマ・コール"CMイメージ・ソングとなりヒットした「風に乗って」(作詞作曲 上田知華 編曲 清水信之)10曲目が素晴らしい。そのため、7曲目から最後の10曲目までの流れは最高!

それにしても薬師丸の歌声は何故こんなに心に響くのだろう。27歳になって天性の表現力に益々磨きがかかったようだ。

大貫さんが作詞した2曲はいずれも素晴らしい出来です。

[2025年9月作成]

 
De eaya  中山美穂 (1991)  King   

 

1. メロディー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 林有三, ATOM] 1曲目
2. Crazy Moon [作詞作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 3曲目
3. ひとりごと [作詞 中山美穂 作曲 大貫妙子 編曲 ATOM] 10曲目


中山美穂: Vocal
Atom: Keyboards, Synthesizer, Programming
林有三:Keyboards (1)
吉川忠英:Guitar (1)
斉藤毅 Group: Strings (1)

1991年3月15日発売


1. Melody [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yuzo Hayashi, ATOM] 1st Track
2. Crazy Moon [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 3rd Track
3. Hitorigoto (Monologue) [Words: Miho Nakayama, Music: Taeko Onuki, Arr: ATOM] 10th Track
by Miho Nakayama from the album "De eaya" March 15, 1991

 
中山美穂(1970- ) 21歳の時13枚目のアルバム。タイトルは「でいいや」という日本語をスペイン語風にもじった造語だ。無国籍でダンサブルな曲が大半を占めていて、ATOMという井上ヨシマサ(キーボード、シンセサイザー)と久保幹(プログラミング)の二人からなるユニットが編曲と打ち込みを含む演奏の大部分を担当している。

冒頭の曲1.「メロディー」は、本アルバムの中で歌詞・メロディー共に大貫さんらしさが出た曲で、編曲・キーボードに林有三、ギターに吉川忠英、ストリングスに斉藤毅(ネコ)のグループが加わり、アコースティックなサウンドに仕上げられている。2.「Crazy Moon」はマンボ風のアレンジによるダンス・チューンで、大貫さんの曲作りも軽めな感じ。バックで聞こえるパーカッションやブラス・セクションも全部シンセ演奏と打ち込みによるもの。全11曲中7曲につき中山本人が詩を書いているが、ダンス曲のための歌詞を書くということが彼女にとって最適だったかどうか微妙な感じがする。「Mana」(作詞 上田知華 作曲 井上ヨシマサ 編曲 ATOM)2曲目など、ボ・ディドリー・リズムを使用するなどの聴きごたえがある曲はあるものの、この手の音楽にいまひとつ食指が動かない私の個人的な好みかもしれないが....。

そのなかで、彼女が書いた詞に大貫さんが曲をつけた3.「ひとりごと」はスローな曲で、彼女の本心をはっきり感じることができる作品だ。そして大貫さんのメロディーが歌詞にぴったり寄り添っていて、両者相まって素晴らしい曲に仕上がった。それを受けたドリーミーなアレンジ、お風呂場で歌っているかのようなヴォイス処理もぴったり嵌っている。

他の曲に比べて、大貫さん提供曲が群を抜いており、特に3.「ひとりごと」は名曲といってもよいレベル。

[2024年9月作成]


夢で逢えたら  森丘祥子 (1991)  Warner Pioneer  
 

2. 突然の贈りもの  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 小西康陽] 2曲目

森丘祥子: Vocal
小西康陽: Synthesizer, Arranger, Producer
中山努: Electric Piano
斉藤誠: Electric Guitar
野宮真貴: Background Vocal

1991年4月25日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yasuharu Konishi] 2nd track from the album "Yume De Aetara" (If We Meet In Dreams) by Shoko Morioka, April 25, 1991
 

森丘祥子(1967-  本名 柴田くに子、岐阜県出身)は 1984年雑誌ミスセブンティーンのラジマガ賞を受賞し、3人組アイドルグループ、セブンティーンクラブのメンバーとして本名でデビューした。ちなみに他の二人は工藤静香(後にソロ歌手として大成後、現木村拓哉夫人)と木村亜希(後の清原和博夫人→離婚)。同グループはシングル2枚とCM、バラエティー番組等に出演後1年で解散し、柴田は1990年に森丘祥子の芸名で歌手デビューしたが、シングル、アルバム各2枚を出した後に活動が途絶えた。

本作は2枚目のアルバムで、ピチカート・ファイブの小西康陽がプロデュースとアレンジを担当している。1984年結成のピチカート・ファイブは熱心なファンを獲得したが一般的な知名度は低い状態が続き、商業的成功を収めたのは1993年頃という状態だった。従って本アルバム制作時の小西はまだ売れていなかった時期になるが、ニューミュージック(当時はそう言われていて、現在はJ-Popとかシティ・ポップと呼ばれるようになった)の名曲カバーというマニアックな企画になっている。

彼らしいニューウェイブ調のアレンジの中で、2.「突然の贈りもの」は飛び抜けて過激だ。森丘は原曲通りのきれいなメロディーを素直に歌っているが、セカンドヴァースが終わるまで、伴奏のほとんどが打ち込みのドラムスとシンセベースのみで、ベース音もあるべきコード進行を無視したミニマムな音で決めている。その分ヴァースの終わりに入るシンセの音と野宮真貴のハミングがきらっとした光を放っている。そして間奏部分からエレキギターやキーボードが入りメロディックな演奏になってゆく。小西の偏執的な趣味性が遺憾なく発揮されたアレンジだ。ハミングの野宮真貴は当時ピチカート・ファイブの3代目ボーカリト、中山誠はオリジナル・ラブのメンバー、斉藤誠はサザン・オールスターズのサポートメンバーで、渋谷系というか青山学院派のミュージシャンが揃っている。

他の曲について (かっこはオリジナル・リリース)

1. 夢で逢えたら(Remix) [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)
2. 突然の贈りもの [作詞作曲 大貫妙子] (大貫妙子 「Mignonne」1978)
3. 恋のブギウギ・トレイン [作詞 吉田美奈子 作曲 山下達郎] (アン・ルイス シングル 1979)
4. ムーンライト・サーファー [作詞作曲 Panta] (石川セリ 「気まぐれ」 1977)
5. 愛がなくちゃね [作詞 矢野顕子、ピーター・バラカン 作曲 矢野顕子] (矢野顕子「愛がなくちゃね」 1982)
6. ユー・メイ・ドリーム [作詞 柴山敏之、Chris Mosdell 作曲 鮎川誠、細野晴臣] (シーナ & ザ・ロケッツ「真空パック」1979)
7. ライディーン [作詞 小西康陽 作曲 高橋幸宏] (イエロー・マジック・オーケストラ「Solid State Survivor」 1979)
8. ソバカスのある少女 [作詞 松本隆 作曲 鈴木茂] (ティン・パン・アレー 「Caramel Mama」 1975)
9. ブルー・ヴァレンタイン・デイ [作詞作曲 大瀧詠一] (大瀧詠一 「ナイアガラ・カレンダー」 1977)
10. トゥインクル・クリスマス [作詞作曲 EPO] (EPO 非売品シングル 1986)
11. 夢で逢えたら [作詞作曲 大瀧詠一] (吉田美奈子 「Flapper」 1976)

11.「夢で逢えたら」は大瀧詠一の大名曲。吉田美奈子が「自分の音楽でない」と抵抗したため、直後にシリア・ポールに歌わせた実質的セルフカバーを出し、その後の数多くのカバーがある。森丘のバージョンはキリン「ワインクラブ DANCE」のCMソングになった。1.は間奏部の語りのみを延々と繰り返すリミックス・バージョン。3.「恋のブギウギ・トレイン」はダイエー1980年のヴァレンタイン・キャンペーン CMソングで、山下達郎はライブアルバム「Joy-Tatsuro Yamashita Live」 1989でセルフカバーしている。7.「ライディーン」はYMOの傑作インスト曲に小西が歌詩を付けた珍品で、よりソリッドなリズムのアレンジが面白い。8.「ソバカスのある少女」は鈴木茂と南佳孝(ゲスト)が歌ったうロマンチックな歌だったが、私的には南佳孝が鈴木のバックで出した1977年のカバー・シングルのほうに愛着を覚える。10.「トゥインクル・クリスマス」はEPOが札幌マルサのキャンペーン配布用に制作した非売品シングルで、アレンジャーが当時メジャー・デビューして間もなかった小西康陽だったという縁がある曲。そういえば大貫さんは前年の1985年に同様の企画で「森のクリスマス」を録音していたね。なおEPOの録音は、「森のクリスマス」とともに 2012年MIDI制作のコンピレーション・アルバム「Winter Tales II」に収録された。

1970〜1980年代の名曲を題材に、小西が1990年代のグルーヴで焼き直すことで新たなサウンドを生み出している。この手のマニアックな音楽が好きな人向けのアルバムだ。特に「突然の贈りもの」は数多くのカバーがある名曲であるが、ここでのアレンジは最も特異かつ独創的なものになっている。

[2024年8月作成]


 
1994年  「Shooting Star In The Sky」 (1993/9/22発売) 「Tchou」 (1995/4/19発売)の頃 
T'en Va Pas  Creole (1994)  For Life   
 


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 Creole] 6曲目

キャット・ミキ : Vocal
駒沢裕城: Pedal Steel Guitar
桜井芳樹: Gut Guitar

角田敦: Producer

1994年2月18日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  Febuary 18, 1994

1990年代の音楽は、目覚ましい技術進歩でシンセサイザーやコンピューター・プログラミングによる打ち込みなどが以前より遥かに安価かつ手軽にできるようになり、その恩恵をフルに生かした若い人たちが新しい音楽を作り始めるようになった。また演奏面でも以前のようなフルバンドを必要とせず、サウンドの全てまたは多くをプログラミングにより自分の手で生み出すことが可能になったのだ。それは以前よりもソリッドでメタリックな肌触りの音となったが、ダンス・ミュージック、DJの隆盛と相まって音楽界を席巻してゆく。そして1980年代との違いは、今までの古き良き伝統を頭ごなしに否定せず、むしろその良さを積極的に取り入れようとする度量の大きさにあり、その考えは2000年代以降も引き継がれて、現在の肥沃な音楽世界の土壌を生み出したといえる。

本作はそういう機運の黎明期の作品のひとつといえる。クリオールは、後にダンス・ミュージック、DJの分野で大成しJDDA (Japan Dance Music & DJ Association) の代表理事となるプロデューサー、作曲家、DJの角田敦を中心とした音楽ユニット。ユニット名の「クリオール」という言葉の元々の意味は、西インド諸島、中南米、インド洋西部、ルイジアナ州で生まれたスペイン・フランス人のことであるが、そこから派生して「異質なものの混淆から生まれて元とは異なる新しい存在になったもの」を意味する。ここではブラジル音楽を核として、様々な他の要素を取り入れることで新しい音楽を創り上げている。

大貫さんが日本語詞(元の詩と内容が全く異なるため「訳詞」ではない)を書いた1.「彼と彼女のソネット」は、フランスの歌手エルザが歌った1986年の「T'en Va Pas」がオリジナル(その名前が本アルバムのタイトルになっている)。日本語バージョンは1987年の原田知世が最初で、その少し後に大貫さんが「A Slice Of Life」でセルフカバーしている。いずれも原曲に近いリズミカルなフレンチ・ポップ風サウンドだったが、ここではガットギターによるアルペジオとペダル・スティールギターのみでリズムなしという大胆なアレンジが施されている。ギターの桜井芳樹は、クリオールのほとんどのセッションに参加したユニットの主要人物で、現在はロンサム・ストリングスというグループで活躍中。駒沢裕城はかつて荒井由美などティンパンアレイ系のセッションで大活躍した人だ。ここでの原曲をスローテンポに調理した試みは意外なほどうまくいっていると思う。ボサノバの歌唱に典型的な感情を押し殺したようなボーカルも良い。歌っているキャット・ミキはインターネットの資料が少なく、詳細不明(匿名シンガーかもしれない)であるが、フジテレビが制作した新感覚の子供番組「ウゴウゴ・ルーガ」1992 第1期のテーマソング「こどもなんだよ」(作詞 キャット・ミキ 作曲 近田春夫)というモノスゴイ曲を残している人。

他の曲について。アルバム帯のキャッチフレーズに「都市生活者のライフ・スタイルをスケッチするアンティミスト・ミュージック。シンプルでハートフルなアコースティック・サウンドが心地いいクレオールが贈るフェイク・ボサノバ」(「アンティミスト」とはフランスの印象派絵画の作風で、家族や友人の日常的な情景を親密な情感で描くことで「親密派」と訳される)とあるが、ガットギターやピアニカ前田によるピアニカなどの生楽器に対し、キーボードがシンセサイザー、打楽器は打ち込みであることがミソ。これも「クリオール」たる所以だろう。ブラジル風のリズムを打ち込みで処理することにより、新しい感覚のグルーヴが生まれていて、大貫さんの「Samba de Mar」1981(「Aventure」収録)を深化・発展させたようなサウンドなのだ。近田春夫作詞作曲による「Deja-vu」(編曲 クリオール)3曲目や、気怠い感じの「Holiday」(作詞作曲 森若香織 編曲 クリオール)4曲目、「海へ行こう」(作詞作曲 佐藤清喜 編曲 クリーオール、佐藤清喜)11曲目などが面白い。一方キャット・ミキによるアカペラ歌唱「みんな夢の中」(作詞作曲 浜口庫之助 高田恭子1969年のヒット曲)もある。

参加メンバーは、1970年代からずっと最先端で活躍してきた近田春夫と関係ある若い人達で、後に冨田ラボで一世を風靡する冨田恵一の名前もある。近田のような先人が打ち立てた音楽をベースとして新しいものを創造しようとする気概を感じるアルバム。ちなみに彼らは、同時期にほぼ同じメンバーで「Criola」というユニットのアルバムも出している。

大貫さんの「彼と彼女のソネット」のカバーの中で、最も大胆なバージョンのひとつ。

[2024年9月作成]


Mauve  Miki fr Creole (1994)  For Life   


1. 彼と彼女のソネット (T'en Va Pas) [作詞 C. Cohen, R. Wargnier 作曲 R. Musumarra 日本語詞 Taeko Onuki  編曲 渡辺貴浩] 2曲目

キャット・ミキ : Vocal
渡辺貴浩: Programming, Keyboards
桜井芳樹: Acoustic Guitar

角田敦: Producer

1994年7月21日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en Va Pas) (His And Her Sonnet) (Don't Go) [Words: C. Cohen, R. Wargnier, Music: R. Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Creole] 6th Track by Creole from the album "T'en Va Pas"  July 21, 1994

アルバム「T'en Va Pas」から5ヵ月後に発売された6曲入りミニアルバムで、名義上ボーカルの(キャット)ミキがメインで、クリオールは「fr」 (フィーチャリング) となっている。タイトルの「モーヴ」は薄くグレーがかった紫色のことで、表紙の裸婦の抽象的イラストの色だ。

ここでも大貫さんが日本語詞を書いた1.「彼と彼女のソネット」を取り上げているが、全く異なるアレンジが施されている。編曲者でキーボード、打ち込み担当の渡辺貴浩は、近田春夫のバンド Vibrastone のメンバーだった人で、彼も他のメンバーと同じく近田人脈からの参加。オリジナルのメロディーはそのままに、コード進行を大胆に変えて桜井のギター、渡辺のシンセと打ち込みのパーカッションで一丁前のサンバに仕上がっている。それをバックにキャット・ミキがクールなボサノバ・ヴォイスで歌っていて、これも前作と同じく意外なほど良い感じ。

他の曲について。本作は歌手メインで制作されているため、実験的な要素があった前作と異なり、聴きやすい曲がそろっている印象。ほぼタイトル曲の「モーブの彼方」(作詞 桜井りさ 作曲編曲 桜井芳樹)1曲目、「時のないフィエスタ」(作詞 工藤順子 作曲編曲 角田敦)5曲目、特に「Wagamama」(作詞作曲 近田春夫 編曲 渡辺貴浩)4曲目がいい。特筆すべきは最後の曲「東京の伝書鳩」(作詞 外間隆史)で、作曲編曲そしてすべての演奏を冨田恵一が担当している。そしてこの曲は、2011年に発売された彼のベスト盤「冨田恵一 Works Best 〜Beautiful songs to remember〜」に最も初期の曲として収録されているのだ。歌詞がちょっと飛んでいるけど、本作のなかではシンセサイザーによるブラスセクションの音が入ったりして、とても新鮮に聞こえる。当時の彼はまだ無名で、名前が売れ出すのは3年後のキリンジと組んだ1997年頃からだ。

同じアーティストが、ほぼ同時期に、全く異なるアレンジでカバーした二つの「彼と彼女のソネット」.....。

[2024年9月作成]