R11 Blue Sun  (1983)  ECM


Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Prophet 5 Synthesizer, French Horn, Cornet, Percussion

[Side A]
1. Blue Sun [Towner] 7:16
 (Synthesizer, Piano, 12st. Guitar, Percussion)
2. The Prince And The Sage [Towner] 6:20
 (Synthesizer, C. Guitar)
3. C. T. Kangaroo [Towner] 5:35
 (Synthesizer, Piano, French Horn, Percussion)
4. Mevlana Etude [Towner] 3:03
 (C. Guitar)

[Side B]

5. Wedding Of The Streams [Towner] 5:04

 (Synthesizer, 12st. Guitar)
6. Shadow Fountain [Towner] 6:34
 (Synthesizer, Piano, 12st. Guitar, Cornet, Percussion)
7. Rumours Of Rain [Towner] 11:12
 (Synthesizer, 12st. Guitar, Cornet, Percussion)

Produced By Mafred Eicher
Recorded December 1982 at Talent Studio, Oslo


ラルフが初めてシンセサイザーに挑んだ作品(オレゴンとしては1983年2月録音の 「Oregon」 O13が同時期の作品)。ここで彼が使用しているものは、Sequential Circuits社というアメリカの会社が製造したProphet 5というモデルで、1979〜1984年に製造されたもの。それ以前は同時に弾ける音の数に制限があったり、操作が難しかったりしたが、それらの問題を解決し、音色の変化に無限の可能性を持ったモデルの登場にミュージシャンの多くが飛びつき、80年代のシンセ・ポップのブームの原動力となった。日本では坂本龍一がこのシンセサイザーを駆使して、大貫妙子の「Romantic」1980、「Aventure」1981を製作、自身のイエロー・マジック・オーケストラで大成功を収めたのは有名な話。当時の開発競争は大変厳しかったようで、一世を風靡したこのモデルも商品生命は短く、会社も1987年ヤマハに吸収されてしまう。現在ヴィンテージ・シンセサイザーのコレクターズ・アイテムになっているようだが、なにぶん機械なので壊れると部品がなくて大変そうだ。坂本教授は、シンセの無機的な音を逆手にとって、ペカペカしたポップな世界を作り上げたが、ラルフは同じ楽器を使いながら、暖かみのある音作りに成功している。

1.「Blue Sun」のイントロ、ふわっとした感じのシンセサイザーの音に「おやっ」と思う。次に聞こえてくる音はおなじみの12弦ギターだ。ピアノが加わりテーマが演奏される。メロディーは後に「Anthem」2001 R23に収録される「Solitary Woman」に似ている。パーカッションなど、すべて多重録音によるラルフの演奏だ。どうやって音を積み上げてゆくのかな?優しいリズムのなかでくりひろげられるシンセサイザーとアコースティック楽器の共演が新鮮。中盤からピアノの低音部がベースの役割を果たし、最後は静かに終わる。2.「The Prince And The Sage」はタイトルのとおり、古風なメロディーによるクラシカルな曲。オーケストラのようなシンセサイザーの和音が現代音楽風でもあり、新旧入り混じった不思議な感じだ。3. 「C.T. Kangaroo」はシンセサイザーとおそらくフレンチホルンがユニゾンでメロディーを奏でる、ユーモアあふれるファンキー・サウンド。「間」を埋めるようなパーカッション、シンセサイザーとピアノの絡みなど聴き応えある曲だ。4.「Mevlana Etude」は「エテュード=練習曲」とあるが、かなり難しそうな現代曲。この曲だけギターの独奏になっている。

5.「Wedding Of The Streams」はヤン・ガルバレクの「Dis」1977 D19 で聞かれたウインドハープのような音(おそらくシンセサイザーで再現したものと思われる)をバックにレオ・コッケのような12弦ギターのピッキングが楽しめる。単音の早弾きと、音数多いアルペジオ、チカチカしたハーモニクスに溢れている。スティール・ドラムを思わせるシンセサイザーの音も聞こえる。最後にウインドハープ・サウンドが残って終わる。6.「Shadow Fountain」は、ラルフの曲のなかでも人なつっこい雰囲気で、カラフルで暖かみあるサウンドが心地良い。現代風の巧みなコード進行と転調は、当時の坂本龍一の作品を連想させる。両者とも作曲志向が強く、現代音楽の影響を受けていることに接点を見出せる。途中で演奏されるコルネットのソロ、12弦ギターの優しいタッチが堪らない。大好きな曲だ。7. 「Rumours Of Rain」はシンセサイザーをバックに、ストイックな12弦ギターのプレイが展開されるスローな曲。音も無くしとしと降る雨のイメージだ。途中から12弦ギターによる少しエキセントリックなリフが展開され、前衛音楽風になってゆく。最後はハーモニクスと単音演奏の多重録音となり、、静けさの中での12弦のフリーな独奏で終わる。

この作品から、ラルフはシンセサイザーを使い始めたわけだが、その後の作品をみても、本作ほど大胆にフューチャーされているものはない。派手さはないが、ラルフの編曲の腕前が遺憾なく発揮されており、それなりに成功していると思う。



 
R12 Slide Show  (1986)  [With Gary Burton]  ECM
 


Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar
Gary Burton: Vibraphone, Marimba

[Side A]
1. Maelstrom [Towner] 8:43  
 (C. Guitar, Vibe)
2. Vessel [Towner] 5:25  O11
 (C. Guitar, 12st. Guitar, Vibe)
3. Around The Bend [Towner] 4:24
 (C. Guitar, Vibe)
4. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans] 5:19 R17 R26
 (12st. Guitar, Vibe)

[Side B]
5. Beneath An Evening Sky [Towner] 6:26 O17 O23 R8 R25
 (12st. Guitar, Vibe)
6. The Donkey Jamboree [Towner] 3:57
 (C. Guitar, Marimba)
7. Continental Breakfast [Towner] 3:19
 (12st. Guitar, Vibe)
8. Charlotte's Tangle [Towner] 4:18  O20
 (C. Guitar, Vibe)
9. Innocenti [Towner] 4:51 O15
 (C. Guitar, Marimba)

Produced By Manfred Eicher
Recorded May, 1985 at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg

 

4本のマレットを操るヴァイブの巨匠、ゲイリー・バートン(1943- )との11年ぶりの共演盤。今回のエンジニアは「Solo Concert」の時と同じマーチン・ウィエランド(ECMにおけるラルフのソロ作品のエンジニアは、普通はヤン・エリック・コングスハーグが担当している)で、そのせいか前作と比較してヴァイブの音色が異なり、今回はリバーブのかけ具合が浅めで、よりシンプルな音になっていて、それが本作の雰囲気を決めている。

1.「Maelstrom」はエドガー・アラン・ポーの短編小説に出てくる大渦巻きのことかな?小説では大渦巻きに巻き込まれた男が、状況を観察して樽につかまることにより、九死に一生を得る話だった。テーマもそれとなしにぐるぐる回るイメージのように聞こえる。ゲイリーのヴァーチュオーゾぶりが遺憾なく発揮されていて、目もくらむような早いパッセージを難なく弾きこなし、楽器を意のままに操っている。モダンな音使いの序盤に対し、中盤は叙情的な雰囲気のコード進行に変わり、ヴァイブのリフをバックにしたギターソロ、再びヴァイブのソロが入り、テーマに戻る。2.「Vessel」はラルフのファンキー路線の名曲。「Roots In The Sky」1979 O11 ではピアノとバス・クラリネットで語られていたテーマが、ここではクラシック・ギターとヴァイブで演奏されている。ギターの繊細で柔らかな音色がとてもいい。途中のギターソロは12弦ギターの多重録音。ヴァイブがソロをとる際のギターのバックは、レイ・チャールズが演奏するようなR&B調のコード演奏が実に決まっている。3.「Around The Bend」はラルフ流のこじんまりとしたメロディーの作品で、ワンコードでケルト音楽を思わせる音使いで決めまくるゲイリーのアップテンポのソロが鮮やかで、その間ギターはベースのようなバッキングに徹している。4.「Blue In Green」はマイルス・デイビスの名盤「Kind Of Blue」1959 で発表されたビル・エヴァンスとの共作曲。コード進行とメロディーが大変魅力的なスローバラードで、思索的なプレイが素晴らしい名曲・名演だった。ここでは原曲の雰囲気を尊重しながら、12弦ギターとヴァイブという異なる楽器で、自己表現に挑んでいる。二人のソロはクールで美しく、エヴァンスに対する真摯な想いが感じられる。

5.「Beneath An Evening Sky」は耽美的な雰囲気があるラルフの名曲で、12弦ギターのミュート気味のリフをバックに、ヴァイブが叙情的なメロディーを奏でる。曲の進行につれて、12弦ギターのリフにアルペジオが混ぜられてゆくところが巧みで、繊細かつ絶妙なコントロールが効いている。6.「The Donkey Jamboree」は弦に紙を挟んでミュートさせたギターをバックに、ゲイリーのマリンバが活躍する、テックスメックス風ファンキーサウンド。7.「Continental Breakfast」はアヴァンギャルドな曲で、ゲイリーの超絶技巧に満ちた演奏が楽しめる。ラルフも負けじと刺激的な演奏を展開する。8.「Charlotte's Tangle」は室内楽的な雰囲気の曲で、二人の楽器による対話には、絶妙なバランスがとれている事がよくわかる。9.「Innocenti」は叙情なテーマの曲で、何をやらせても変化自在なソロを決めるゲイリーの抜群の表現力に脱帽。マリンバの訥々とした乾いた音が新鮮。

前作とは異なり、大作はなく、こじんまりとした雰囲気のデュエット作品集だが、二人の演奏力、音楽性の懐の深さを感じさせ、聴いていて思わず居住まいを正したくなるような品格を感じさせる作品だ。なお次回の共演は6年後のゲイリーのオムニバス盤「Six Pack」 1992 D34 の2曲となる。


 
R13 City Of Eyes  (1989)   ECM 

 R13 City Of Eyes
 
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar、Piano, Synthesizer
Markus Stockhausen: Trumpet, Piccolo Trumpet, Fluegelhorn
Paul McCandless: Oboe, English Horn
Gary Peacock: Bass
Jerry Granelli: Drums

[Side A]
1. Jamica Stopover [Towner] 4:10  R17 R21
 (C. Guitar)
2. Cascades [Towner] 6:46  
 (Piccolo Trumpet, Oboe, Piano, Synthesizer, Bass, Drums, Electronic Drums, Bass)
3. Les Douzilles [Towner] 6:10  O17 O20 R19 D45
 (C. Guitar, Bass)
4. City Of Eyes [Towner] 4:10 
 (Fluegelhorn, English Horn, 12st. Guitar, Bass, Drums, Electronic Drums)
5. Sipping The Past [Towner] 2:31
 (12st. Guitar)

[Side B]
6. Far Cry [Towner] 4:22
 (12st. Guitar, Piano Synthesizer, Bass, Drums)
7. Janet [Towner] 3:20
 (C. Guitar)
8. Sustained Release [Towner] 5:02
 (C. Guitar, Bass, Drums)
9. Tundra [Towner] 4:40
 (Trumpet, English Horn, 12st. Guitar, Bass, Drums, Electronic Drums)
10. Blue Gown [Towner] 5:30
 (C. Guitar)

Produced By Manfred Eicher

Recorded February, 1986 at New York (2,3,4,6,8,9)
Recorded November, 1988 at Oslo (1,5,10)


ラルフのソロアルバムでは、最後のレコードでの購入となった作品。1986年のアンサンブルと1988年のソロという、異なる時期に録音された二つのセッションからなる作品。前者の録音が何故3年間も発表されなかったのか、その経緯はわからない。そのためか、ECM作品としては珍しくプロデュースに一貫性が感じられず、個々の曲の出来は別として、トータル的には少し影が薄い印象がある。ちなみに1988年の録音はオレゴンの「45th Parallel」O17 と同時期になる。

ゲイリー・ピーコック(1935-2020)はかつてビル・エバンス・トリオに在籍したベーシストの一人で、東洋思想を勉強するため60年代末期日本に滞在したこともある。その後はポール・ブレイやアルバート・アイラーなどを経て、70年代からはキース・ジャレット・トリオでの演奏がメインの活動だろう。ジャズ界を代表するベーシストであり、高い創造性・精神性、そして音楽探求に対する厳しい姿勢で皆の尊敬を集めた人だ。後にラルフと2枚のデュオ作品(R16 R20)を制作している。ジェリー・グラネリ (1940-2021) は、チャーリー・ブラウンのテーマの作者として有名なヴィンス・グァラルディや、モーズ・アリソンのグループに在籍した人で、フリージャズのスタイルを得意とし、ラルフが参加したD27 D28 の他にソロアルバムを発売している。二人は当時ラルフのバンドのメンバーだった縁。80年代後半にニューヨークのライブハウスで彼らを観た記憶がある。トランペット担当のマルクス・ストックハウゼンは、有名なクラシック音楽の作曲家カールハインツ・ストックハウゼンの息子で、ドイツ人。クラシック音楽の勉強の後、ジャズ界に身を投じ、1980年代から2000年代初めまで、寡作ながらも自己名義のアルバムを発表している。クラシカルというか現代音楽的な素養を感じる音色で、その分大人しく野性味に乏しい気がする。という意味でケニー・ウィーラーなどに比べると存在感に欠けるようだ。彼が当時ラルフのバンドに在籍していたか否かは、資料がないのでわからない。残るポール・マッキャンドレスは説明不要。

1.「Jamica Stopover」はタイトルのとおりファンキーなレゲエのリズムによる演奏で、ラルフのクラシック・ギターの独演。リズムを刻みながらアドリブを織り込んでゆく。後の1998年のビデオ R21での演奏とは、アドリブの内容がかなり異なっている。2. 「Cascades」は滑らかなリズムとメロディーを持つ曲で、ジャズというよりは現代音楽だ。パーカッションはリズムを刻むというよりも音空間を形成する役目を請け負い、ベースはその隙間に切り込みを入れる。ホーンは理知的でクールな響きで、空間を漂っている感じ。前半のピアノとシンセサイザーのユニゾンによるソロがピリッとした味を出している。3.「Les Douzilles」は何度も録音された名曲だが、ここではベースとのからみが聴き物。抑制のとれた二人の演奏は素晴らしい。ゲイリーの音数の少ないベースは、深い音色と絶妙の間合いを誇り、「ここでどうしてこの音を出すのか」という意味に満ちているような気がする。洋楽のデュオながら、邦楽のインタープレイを聴いているような気分になる。4. 「City Of Eyes」はメンバーの本領発揮の前衛曲で、ホーンと12弦ギターのハーモニクスと不協和音によるコレクティブ・インプロヴィゼイションだ。5.「Sipping The Past」は12弦ギターによる軽妙なソロで、小粒ながらもリズミックで聴きやすく、ラルフによる12弦ギターソロ作品の曲のなかでは最良のグループに入るだろう。

B面最初の曲6.「Far Cry」は、シンセサイザーをバックにピアノがスローでメランコリックなテーマを提示。多重録音による12弦ギターソロが入る。7.「Janet」はクラシック・ギターによるソロ小品で、そのメロディーの愛らしさ、溢れるロマンチシズムは、数あるラルフの作品中でもピカイチの存在だ。8.「Sustained Release」はギターとベースによるリフを中心とした曲で、適度の緊張感の中、3者の息遣いまで聴こえてきそうだ。当時のグループの演奏が偲ばれる作品。9.「Tundra」は12弦ギターによるパーカッシブなコード演奏が無機的な雰囲気を醸し出すアヴァンギャルドな作品で、4.と同じ感じの曲。ここでもマッキャンドレスの演奏はコレクティブ・インプロヴィゼイションに徹しており、通常のジャズ的なソロはない。10.「Blue Gown」はシンプルで地味な音使いのクラシックギター・ソロ。といってもたまに恐ろしく難しそうなパッセージがキラリと入り、聴く者をはっとさせる。

小品主体の地味な作品であるが、いい曲もしっかり入っている。ファンならば、はずせないぞ。


R14  Open Letter  (1992)   ECM



Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar、Synthesizer
Peter Erskine: Drums

1. The Sigh [Towner]  5:10
 (C. Guitar, Synthesizer)
2. Wistful Thinking [Towner]  3:51  R26 
 (C. Guitar)
3. Adrift [Towner] 6:06
 (12st. Guitar, Synthesizer, Drums)
4. Infection [Towner, Arskine] 3:15 
 (12st. Guitar, Drums)
5. Alar [Towner] 7:12
 (C. Guitar, Synthesizer, Drums)
6. Short 'n Stout [Towner] 3:02  O24
 (C. Guitar)
7. Waltz For Debby [Bill Evans]  4:12
 (C. Guitar)
8. I Fall In Love Too Easily [Sammy Cahn, Jules Styne] 4:12  D40
 (C. Guitar)
9. Magic Pouch [Towner]  5:03
 (C. Guitar, Synthesizer, Drums)
10. Magnolia Island [Towner]  4:29
 (12st. Guitar, Synthesizer, Drums)
11. Nightfall [Towner]  6:27  O21
 (12st. Guitar, Synthesizer, Drums)

Produced By Manfred Eicher
Recorded July 1991, February 1992 at Rainbow Studio, Oslo


ラルフのソロアルバムでは、最初のCDでの購入となった作品。本作でドラムスを担当するピーター・アースキン (1954- )は、ジャズ界のトップ・ドラマーの一人だ。彼は1954年生まれで、若い頃から才能を発揮、スタン・ケントンのビッグバンドで有名となり、1978年にウェザー・リポートに加入、1982年まで在籍する。以降はジャコ・パストリアス、ジョー・スコフィールド、ジョー・アバークロンビー、マイク・マイニエリ、ゲイリー・バートンなど多くの先鋭的作品に参加、マイケル・ブレッカーと組んだグループ、ステップス・アヘッドでも活躍、あらゆるスタイルを精力的にこなしている人だ。ラルフとの共演は、 D32 D33のセッションを除き本作のみ。

1.「The Sigh」はシンセサイザーをバックにギターによるメランコリックなメロディーが流れる。2.「Wistful Thinking」は非常に理性的な雰囲気のギターソロ。音楽的にはビル・エバンスに近く、磨きこまれた音の粒がまぶしい位だ。3.「Adrift」はシンセサイザーをバックにラルフの12弦ギターが活躍する。ピーター・アースキンのドラムスは、単にリズムを刻むのではなく、曲にとって必要な「間」を提供している。発せられる音のひとつひとつが、人の心を揺さぶるだけのものがあり、この人の持つ感性が如何に凄いものであるかよくわかる。4.「Infection」は二人による即興演奏。ピーターが前面に出ていて、ラルフと対等の立場で音を交換している。12弦ギターのアタックも強く、ガッツのある演奏だ。5.「Alar」はシンセサイザーをバックにクラシック・ギターが細かなアルペジオで音を紡いでゆく。ティンパニのような音が聞こえるが、ピーターによるシンセ・ドラムと思われる。6.「Short 'n Stout」はファンキーなリフを主体とする曲で、オレゴン的だな〜と思っていたら、後年のライブO24でセルフカバーされた。

7.「Waltz For Debby」はビル・エバンスの名曲カバーだ!ラルフは以前よりエバンスのレパートリーのギターアレンジに挑戦し、「Nardis」(ソロ)や「Gloria's Step」(グレン・ムーアとのデュオ)などを録音していたが、これが必殺決定版だ。1961年発表の同名タイトルのアルバムは、ニューヨークのライブハウス、ヴィレッジ・バンガードでの録音で畢生の名演とされている。ラルフはオリジナルの雰囲気を忠実に再現している。この曲をギター1本にアレンジするなんて、よくやるよ!ソロで弾いているとは思えないほど複雑な演奏だが、さすがにアドリブ部分のアレンジは即興演奏ではないようだ。8.「I Fall In Love Too Easily」はサミー・カーンとジュールズ・スタインによるスタンダード曲のカバーで、オリジナルはハリウッドのミュージカル映画「Anchors Aweigh 」 (邦題「錨を上げて」 1945年、主演はフランク・シナトラとジーン・ケリー。4日間の特別休暇をもらった二人の水兵による恋物語)でシナトラが歌っていた曲で、チェット・ベイカー、トニー・ベネット、マイルス・デイビスなど多くのジャズ・ミュージシャンがカバー。ラルフのプレイは、ビル・エバンスが1962年の作品「Moonbeams」で録音したバージョンのように、クールな魅力に溢れている。9.「Magic Pouch」はラルフにしては珍しい、トロピカルでポップなムードをもった曲で、シンセサイザーが前面にフィーチャー、ピーターのドラムスが曲に奥行きを与えている。10.「Magnolia Island」も前の曲よりも大人しいが同じ路線を行っている。9.10.両曲におけるラルフのギターソロは、実に伸び伸びとしており、聴いていて気持ちが良い。11.「Nightfall」もオレゴンチックな曲で、ここでもテーマを奏でるシンセサイザーの音が印象的。

多重録音とドラムスを導入して、きっちり構成したアレンジで聞かせる作品であるが、独奏作品も見逃せない。ラルフのソロアルバムの中では取っつきやすいほうだと思う。


R15  Un' Altra Vita  (1992)   CAM


R15 Un' Altra Vita


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar、Synthesizer
Massimo Moriconi : Bass
Fabrizio Sferra : Drums

1. Alia's Theme (2) [Towner] 6:28  R15 R23
 (12st. Guitar)
2. Lonely Crowd (1) [Towner] 4:05  R15 
 (Piano, Bass, Drums)
3. Alia's Theme (1) [Towner] 2:19  R15 R23
 (Piano, Synthesizer, Percussion)
4. Aria Solitudine [Towner] 3:54  R15 R15
 (Piano, Synthesizer)
5. Saverio's Theme [Towner] 5:18  R15 R15 R15 R19 R21
 (C. Guitar, Synthesizer)
6. Other Life [Towner] 2:22  R15 R15  
 (C. Guitar)
7. Un Altro Saverio [Towner] 4:21  R15 R15 R15 R19 R21
 (12st. Guitar)
8. The Market [Towner] 4:11
 (12st. Guitar, Synthesizer, Percussion)
9. Fuori Dal Casolare [Towner]  1:56 R15 R15 R15 R19 R21
 (12st. Guitar, Synthesizer)
10. Lonely Crowd (2) [Towner]  7:07 R15
 (Piano, Bass, Drums)
11. Another Life (2) [Towner]  4:20  R15 R15 
 (C. Guitar)
12. Saverio's Theme (2) [Towner]  1:37  R15 R15 R15 R19 R21
 (C. Guitar, Synthesizer)
13. Sea Scape [Towner]  5:54  O21 R22 D45
 (Synthesizer, Percussion)

Origina Motion Picture Sound Track

Ralph Towner : Orchestration
Carlo Mazzacurati : Director of The Film



「もうひとつの人生」というタイトルのイタリア映画のサウンドトラック盤。監督のカルロ・マッツァクラーティ(1956-2014)の作品は、日本へもイタリア映画祭などで、「愛はふたたび」、「聖アントニオと盗人たち」、「ダヴィテの夏」などの作品が紹介されているが、アメリカや日本では商業的にヒットした作品はないようで、この作品も日本未公開だ。30歳の歯医者サベリーオは、ミステリアスなロシア女性アリアと一緒に暮らすようになり、愛にのめり込むが、彼女は突然姿を消してしまう。彼女を探し続けて、とうとうローマ近くの海辺の村にいることを突き止めるが、彼女は彼の事を忘れていた.........というオフビートなラブ・ストーリー。本作はCreazioni Artistiche Musicali S.r.l. (CAM)というイタリアのレーベルから発売され、同国内のみで入手可能だった(私は通信販売で直接購入した)。ちなみにオレゴン2005 年の作品「Prime」O26 も同じレーベルから発売されている。

映画のサウンドトラックは、映像やシナリオによるイメージやテーマがあり、それを音楽化するという意味で、最も純粋な表題音楽といえる。今回ラルフが担当した音楽も、何時になく深いエモーションにあふれ、彼の音楽の特徴であるテクニカルで現代音楽的な面は影を潜め、シンプルでストレートな表現が全面的に出た作品となった。1.「Alia's Theme (2)」は、後にラルフのソロアルバム「Anthem」 2001 R23で「Solitary Woman」というタイトルで再演される。陰影に富んだミステリアスな雰囲気の曲で、一度聴くと、忘れる事のできない強い印象が残る。「Anthem」では12弦ギター一本の演奏だったが、ここでは多重録音で音に厚みをつけている。6分にわたりテーマのリフが繰り返され、ヒロインのイメージが広がってゆく。本作全体に言えることであるが、エコーがかなり深めにかけられていて、その響きは、ムーディーで耽美的な雰囲気を醸し出していると思う。2.「Lonely Crowd」はピアノトリオによる演奏。ベースとドラムスは動きがほとんどなく、ラルフの弾くピアノがゆっくりと、丁寧に音を紡いでゆく。タイトルのとおり孤独感・疎外感が滲み出たクールな曲・演奏だ。このような自制が効いた演奏は、個人的にとても好きだ。3.「Alia's Theme (1)」は、1.と同じメロディーで、ここではピアノとシンセサイザーによる演奏。本作は、サウンドトラック盤に特有の傾向ではあるが、同じテーマが様々な演奏で示されているのが面白い。それはそれで、一種の変奏曲として楽しむことができるからだ。4.「Alia Solitudine」は、6.11.と同じテーマ・メロディーであるが、ここではピアノの演奏で、途中からシンセサイザーがバックに流れる。5.「Saverio's Theme」は男性主人公のテーマで、後の1997年のソロアルバム「ANA」R19 に「Tale Of Saverio」という曲名で収録された。この曲もシンセサイザーで繰り返されるリフが大変印象的で、女性ヒロインのAliaのテーマとの対比が面白く、映画は未見ながらも各々のキャラクターに想いをめぐらしてしまう。映画のタイトルでもある 6.「Other Life」は、4.と同じメロディーをギター独奏にアレンジしたもので、雨上がりの一条の日差しのようなまぶしさに満ちている。メランコリックな雰囲気に満ちた本作のなかで、つかの間の青空を見るような気分にさせる曲だ。7.「Un Altro Saverio」は、5.と同じメロディーによる12弦ギターによる多重録音で、耽美的な美しさに溢れている。

8.「The Market」は、ミュートを聞かせたマンドリンのようなサウンドのプレイから始まる。12弦ギターのネック近くのフレットにカポタストをつけて弾いているのかもしれないが、シンセサイザーの演奏のようにも聞こえる。途中からパーカッションによるリズム、12弦ギターが加わって、ワンコードで演奏が続く。9.「Fuori Dal Casolare」は、5.と同じメロディーで、12弦ギターの多重録音によるさらっとした演奏。10. 「Lonely Crowd (2)」は 2.と同じテーマであるが、演奏時間が長い分、ピアノのアドリブによる展開があり、ベースソロもあって聴き応えがある出来だ。11.「Another Life」は クラシック・ギターが6.と同じテーマを演奏するが、本当に美しいメロディーの曲だ。ラルフの作った曲のなかでも最もスウィートなんじゃないかな? 12.「Saverio's Theme (2)」は、シンセサイザーのリフをバックに、クラシック・ギターがメロディーを語る。13.「Sea Scape」は、パーカッションによるリズムと、シンセサイザーの多重録音により演奏される曲で、同時期に録音されたラルフのソロアルバム、「Open Letter」R14のサウンドに近い。ちなみにこのメロディーは、ずっと後になって、1997年のオレゴンのアルバム「Northeast Passage」O22 や、1996年のマリア・ジョアンの「Fabula」 D45、2000年のジョン・テイラー、マリア・ピア・デビートとのコラボレイション作品「Verso」 R22で再使用された。

少しメランコリックで時間を持て余すような気分の時に、部屋を暗くしてじっくり聴くと、その世界が心の内にじわじわ沁みこんでくる作品だ。

[2007年3月作成]

[2014年2月追記]
映画を観ることができた。ビデオやDVDで市販されていない作品で、画面の右下に「RAIDUE」の字幕が入っていることから、イタリアのテレビで放映されたものらしい。イタリア語の会話の内容は不明で、肝心の音声がブツブツと途切れることが多く、映像もあまり状態が良くないが、ラルフの音楽がどのように使われているかを確かめる意味で興味深い。以下(分かる範囲内での)あらすじと、ラルフの音楽が使われている箇所についての説明(ネタバレ注意)です。

出演者の字幕の後、夜の郊外電車の映像から始まり、バックに 3.「Alia's Theme (1)」が流れ、電車に乗った主人公アリアが映る。彼女は、歯科医サベリオの家兼診療所に夜訪れ、殴られたことによる歯の怪我の治療をしてもらう(ここで再び 3.「Alia's Theme (1)」が流れる)。ここで彼女がロシア人であることがわかる。帰るところがない彼女に寝場所を提供したが、翌朝彼女は断りなしに出てゆく。サベリオは後を追って郊外電車に乗り込むが見失ってしまう。夕暮れ〜夜の街を歩き、自動車に乗る孤独なサベリオのシーンで
5.「Saverio's Theme」が流れる。荷物を持って戻ってきたアリアをサベリオは不機嫌に迎えるが、二人は打ち解けて一緒に暮らすようになる。アリアの外出時、サベリオが後をつけるシーンで 3.「Alia's Theme (2)」が流れる。サベリオが二人のためにディナーを用意したが、予想に反してアリアはロシア人の仲間を大勢連れて帰り、宴会となる。警察によるアリアに対する聴取にサベリオが立会う。二人はベッドを共にする仲になるが、アリアは突然姿を消してしまう(ここで甘美な 6.「Other Lifeが流れる)。

サベリオは、残していった物を手掛かりに彼女の所在聞き回るが見つからない。その過程でマウロという若者を知り合い友達になるが、彼はアリアの元恋人で、喧嘩で相手をぶちのめすなど、怒ると危険な性格の持ち主だった。アリア探しを諦めかけたとき、彼女の居所がわかり、サベリオは海辺の村に会いにゆく。車を運転するシーンで聞こえる演奏は12弦ギター、ベース、ドラムスによるもので、本サウンドトラック盤に入っていないが、よく聴くと1975年の作品「Solstice」R4の「Drifting Petals」の一部だった。サビリオはアリアに再会するが、彼女の心に愛情が残っていない事がわかり、落胆して帰途につく。その際に同曲のフルートによるテーマ演奏が流れる。街に戻ったサベリオはマウロ達と遊びまわり(皆で車に乗るシーンで2.「Lonely Crowd」が流れる)、女性と一夜を共にしようとするが、アリアの事が忘れられず、その気になれない(ここで聞かれるラルフのピアノソロは「Diary」1974 R2の「The Silence Of A Candle」)。ふとした事からアリアの居所を知ったマウロは、激昂して彼女に会いにゆく。それに気付いたサベリオはその後を追うが、波打ち際で二人が争う様を目撃して止めに入る。理性を失ったマウロはサベリオに襲いかかり、激しい殴り合い・取っ組み合いとなって、サベリオは海に沈められて息ができなくなる。それを観ていたアリアは、マウロが砂浜に落とした拳銃を拾ってマウロを撃ち、倒れた彼は波間に消える。最後に3.「Alia's Theme (2)」が流れる。

音楽としては、アリアの友人達との宴会のシーンでロシアの曲、サベリオがアリアについての聞き込みを行う酒場で皆がダンスするシーンなどではイタリアの流行歌といったように、ラルフ以外の作品も使われているが、ラルフの音楽は、全編に漂う孤独感とダークでミステリアスな雰囲気を見事に表現している。



R16 Oracle (1994)  [With Gary Peacock]  ECM
 
 
Gary Peacock : Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Gaya [Peacock] 5:45
 (C. Guitar, Bass)
2. Flutter Step [Peacock] 5:45
 (C. Guitar, Bass)
3. Empty Carrousel [Peacock] 5:48
 (C. Guitar, Bass)
4. Hat And Cane [Towner] 5:12  
 (C. Guitar, Bass)
5. Inside Inside [Peacock] 5:55
 (12st. Guitar, Bass)
6. St. Helens [Peacock] 1:52
 (12st. Guitar, Bass)
7. Oracle [Peacock, Towner]  7:20
 (12st. Guitar, Bass)
8. Burly Hello [Peacock] 5:53
 (12st. Guitar, Bass)
9. Tramonto [Towner]  6:21 R22 D52
 (C. Guitar, Bass)

Produced By Manfred Eicher
Recorded May 1993, Rainbow Studio, Oslo



ゲイリー・ピーコック (1935-2020)とのデュエット盤の第1作目。オレゴンの「Troika」 O19と同時期に録音された。本作に収録された曲は、4.9.を除きゲイリー作曲によるもので、音楽的にも彼主導で製作されているようだ。そのためかラルフ作曲のギター曲の魅力である、コンポジショナルなプレイがなく、テーマにおいてはシンプルなメロディーを奏でるに留まっており、色彩感に乏しい感じがする。ちょっと聴いただけでは「退屈だな〜」と思ったが、聞き込むと墨絵のようなシンプルな味わいが出てくる。ゲイリーの音楽は誠実かつ生真面目で、余計な修飾や感傷を廃し、無駄が一切ない。ロマンチックな音楽を聴きたい場合は向かないが、音楽を聴いて余計な感傷に浸らず、無心になりたい時には相応しい作品だと思う。

1.「Gaya」はラルフのクラギがシンプルなテーマ・メロディーを演奏し、ベースが寄り添う。ギターをバックに繰り広げられるベースのインプロヴィゼイションは、音の豊かさと説得力に満ちている。ベースプレイに反応するラルフのギタープレイも良く、二人の相性の良さを示している。ラルフのソロをバックアップするゲイリーの伴奏はさすがである。2.「Flutter Step」のテーマ・メロディーも大変シンプルで、ベースが奏でる動きの早いリフがポイントの曲。3.「Empty Carrousel」は「空っぽの回転木馬」という意味のタイトルで、奇妙な雰囲気のワルツ。ゲイリーの作曲手腕が光る曲で、ラルフが弾く伴奏和音の微妙なニュアンスが楽しめる。シンプルなプレイながら、両者が奏でる楽器の音の深みが最高。4.「Hat And Cane」はラルフの曲で、コード奏法を多用したテーマは、テクニカルなパッセージが挿入され、とても印象的だ。本作のなかでもジャズっぽい乗りがある曲で、ラルフのインプロヴィゼイションも冴え、ベース・ソロも唄っている。5.「Inside Inside」からは12弦ギターの曲が続く。ベースの独奏から始まり、リフをバックにギターがシンプルなテーマを提示、二人によるフリーなインプロヴィゼイションが展開される。6.「St. Helens」は、ベースがテーマを奏で、アドリブがない現代音楽的な作品。7.「Oracle」は二人による作曲で、即興演奏と思われる。途中リズミカルなパートでのソロの交換が聴きもの。8.「Burly Hello」はゲイリーの曲のなかではジャズ的な作品で、大変クールな雰囲気の中、ベースがファンク風のリフを刻み、面白い雰囲気だ。ラルフの12弦ギターのソロがかっこいい。

最後の曲 9.「Tramonto」はイタリア語で「夕陽」という意味で、大変美しいメロディーとコード進行の曲。 本作は厳しく冷徹な曲が多いが、その分、最後の曲のしっとりとした情感が一層鮮やかで、ラルフの作品のなかでもベストの1曲だと思う。ラルフのギターによるテーマの演奏、両者のソロと、どれをとってもリリカルかつ清らかさに溢れている。本曲はずっと後の2000年に、歌詞が付けられ「Verso」 R22に再録された。この曲だけを目当てに購入しても損はないぞ。

とっつきにくい作品だけど、じっくり聴き込んでみてください。



 
R17 Songs Without End (1994)  [With Marc Copland]  Jazz City
 



 
Marc Copland : Piano
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Nardis [Miles Davis] 7:29  R9 R25 D43 
 (C. Guitar, Piano)
2. Zingaro [Antonio Carlos Jobim] 8:01
 (C. Guitar, Piano)
3. Tern [Towner] 4:23  O29
 (C. Guitar, Piano)
4. Goodbye [Copland] 5:02  
 (C. Guitar, Piano)
5. Freebop [Towner, Coplkand] 4:30
 (12st. Guitar, Piano)
6. All That's Left [Copland] 4:29
 (12st. Guitar, Piano)
7. Jamaica Stopover [Towner]  5:49  R13 R21
 (C.Guitar, Piano)
8. Snowfall [Copland] 6:10
 (12st. Guitar, Piano)
9. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans]  7:18 R12 R26
 (C. Guitar, Pianp)
10. Love Walked In [George Gershwin]  6:54
 (C. Guitar, Pianp)

Produced By Yoshiaki Masuo
Recorded Nov 1993 at The Studio, New York

写真上: オリジナル盤ジャケット(徳間ジャパン・コミュニケーションズ 1994年)
写真下: リイシュー版ジャケット(徳間ジャパン・コミュニケーションズ 2002年


 
マーク・コープランド(1948- )は、最初はサックス奏者として売り出し、1970年代はチコ・ハミルトンのグループに在籍した他、ブレッカー兄弟等とセッションをしていたという。リーダーアルバムも1枚出し、順調そうに見えたが、自己のスタイルを突き詰めてゆく過程で、ハーモニーにより興味を持ち、サックスという楽器の限界に突き当たり、1973年にピアノへの転向を決意。ワシントン周辺でセッションを重ねながら、短期間で腕を上げ、再びニューヨークに進出したという。当初はマーク・コーン(Mark Cohn) と名乗っていたが、ロック・アーティストで同姓同名の人がいたため、途中で現在の名前に改めた。日本が誇るジャズ・ギタリストの増尾好秋 (1946- )は、ニューヨークでソニー・ロリンズのグループ、自己名義のソロアルバムなどで演奏活動をしながら、プロデューサーとしても活躍していた。マークは、当時増尾がプロデュースを担当していた日本のジャズ・レーベル「Jazz City」のためにオーディション・テープを送ったが、契約アーティストの空き枠がなかったため、最初は断られたという。しかし、途中で空きが生じたため、マークは同レーベルと契約し、1988年にピアニストとしての初リーダーアルバム「My Foolish Heart」を発表。その時彼は40歳ということで、大変遅咲きの再デビューだったことになる。その後は、ビル・エバンス、キース・ジャレットの流れをくみながらも、独自の音使いを確立し、現在に至るまで多くのリーダー作を発表、ゲイリー・ピーコック、ジョン・アバーンクロンビー、ケニー・ホィーラーなどとの共演盤も残している。

ラルフ・タウナーは、70年代にマークとよく共演したそうで、その頃から音楽的に気が合ったそうだ。ただし当時ラルフは主にピアノ、マークはサックスを吹いていたというのが面白い。二人ともその後は違う楽器で成功を収めたわけだ。ラルフはこれまで多くのデュエット・アルバムを残してきているが、パートナーを選ぶにあたり、各楽器毎に誰と決めているフシがある。ヴァイブはゲイリー・バートン、ギターはジョー・アバークロンビー、サックスがヤン・ガルバレク、ベースがゲイリー・ピーコックというわけで、その多くが若い頃から一緒にやってきた仲間達なのだ。そしてラルフは、ピアニストならマークがいいと決めていたそうで、本作はそういう縁で実現したのだろう。いつものECMでなく、マークが所属するレーベルに招かれた形で製作されたため、プロデューサーの違いというか、ECMの諸作にみられる耽美的ともいえる冷徹さや緊張感はなく、暖かみさえ感じられる。何か物足りなさをおぼえてしまうが、聴き方によっては、それなりに良い雰囲気であり、ラルフの音楽の別の面を楽しむ事ができる貴重な作品ともいえる。

最初の曲として、 1.「Nardis」を持ってきたことから、彼らがビル・エバンスを意識していることは明白。ラルフによる過去の録音は、1980年の「Solo Concert」R9 での名演があるが、コンサートなどで昔から演奏しているレパートリーと思われ、本作ではピアノというバックがいる分、より自由なソロを展開している。マークのピアノはエバンスへの敬意を表してか、比較的控えめであるが、音選びは遥かにモダンである。スピーカーの奥から、ソロを演奏する際にマークが発するうなり声がはっきり聞こえてくるのが面白い。そういえばキース・ジャレットも同じ癖があったな。ちなみにラルフによる「Nardis」の録音はもうひとつあって、1995年に阪神大震災支援のために製作されたオムニバス・アルバム「The Rainbow Colored Lotus - A Big Hand For Hanshin」 1995 D43 に、日本で演奏したゲイリー・ピーコックとのデュエットが収録されている。2.「Zingaro」はアントニオ・カルロス・ジョビンの中では、知名度の点で地味な曲であるが、ゴージャスなコード進行にシンプルなメロディーが絡む。ジョビンによるオリジナルは、彼が奏でるギターのコードとリズムに、クラウス・オーガマンの厚みのあるストリングスが合わさる、いつものパターンのサウンドイメージなのだが、ここでは2台の楽器だけで奇をてらわず、シンプルに演奏している。ブラジル音楽に対して、いつも彼流のヒネリを入れるラルフも、ここでは本当に素直なプレイに終始するのには驚かされる。3.「Tern」はラルフの作品としては珍しいビバップ調の曲で、若い頃の作品らしい。ずっと後にオレゴンのアルバム「Family Tree」2012 O29で再録音された。4.「Goodbye」はマークの作品で、丁々発止のソロの応酬はなく、比較的淡々とした演奏だ。

5.「Freebop」は、二人による即興演奏のようで、より奔放で自由な演奏が楽しめる。途中ラルフがアグレッシブなベースラインを刻み、マークが急速調のソロを展開する。最後に(おそらく)コープランドによる「Freebop !」という語りが入るのがユニーク。6.「All That's Left」のテーマ、ピアノ伴奏は、ニューエイジ音楽的なフォークジャズ風サウンドであるが、インプロヴィゼイションのパートになると、さすがにピリッとした雰囲気になる。7.「Jamaica Stopover」は、タウナー流レゲエサウンドでお馴染みの曲。マークの曲 8.「Snowfall」は、テーマのメロディーおよびコード進行が叙情的。この人なかなか良い曲を書くね〜。 マイルス・デイビスの名作「Kind Of Blue」 1959 に入っていたビル・エバンスとの共演曲 9.「Blue In Green」では、二人のエバンスに対する敬愛の念がストレートに出ていて、心に染み入る演奏だ。最後はガーシュウィン1930年の作品を、さらっとした演奏で締めくくる。

反面教師的な言い方になるが、ラルフ・タウナーのイメージを作り上げたECMのプロデューサー、マンフレッド・アイヒャーの存在の大きさを思い知らされる作品である。

[2007年12月作成]


 
R18 Lost And Found (1996)   ECM  
 

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Denny Goodhew : Soprano, Sopranino and Baritone Sax, Bass Clarinet
Marc Johnson : Bass
Jon Christensen : Drums

1. Habinger [Towner] 2:36
 
(C. Guitar)
2. Trill Ride [Marc Johnson, Raph Towner] 3:00

 (C. Guitar, Bass)
3. Elan Vital [Ralph Towner] 6:19
 
(C. Guitar, Bass, Sax, Drums)
4. Summer's End [Ralph Towner] 5:12  O28

 (C. Guitar, Bass, Sax) 
5. Col Legno [Marc Johnson] 3:15
 
(Bass, Bass Clarinet, C. Guitar) 
6. Sofy Landing [Denny Goodhew, Ralph Towner, Marc Johnson] 2:16

 (Bass, Sax, 12st. Guitar) 
7. Flying Cows [Denny Goodhew] 4:56
 (Bass, Bass Clarinet, 12st. Guitar) 
8. Mon Enfant [Anonymous] 4:04  R2

 (C. Guitar)
9. A Breath Away [Towner] 5:15  D55
 (C. Guitar)
10. Scrimshaw [Towner] 1:27
 
(C. Guitar)
11. Midnight Blue...Red Shift [Denny Goodhew] 3:24

 (Bass, Sax, 12st. Guitar) 
12. Moonless [Ralph Towner Marc Johnson] 4:37
 (C. Guitar, Bass)
13. Sco Cone [Marc Johnson] 3:44
 (Bass)
14. Tattler [Towner] 3:06
 (C. Guitar)
15. Taxi's Waiting [Towner] 4:34
(C. Guitar, Bass, Sax, Drums) 

Produced By Manfred Eicher

Recorded May 1995, Rainbow Studio, Oslo


注: 11. 13.はラルフ非参加

 

ビル・エバンスに縁がある人との共演に情熱を燃やすラルフが、マーク・ジョンソン(1953- )と共演した作品で、彼はビル・エバンス・トリオ最後のベーシストとして有名な人だ。1978年彼はエディ・ゴメスの後を継ぎ、1979年にドラムスがジョー・ババーベラに代わり、ラスト・トリオの活動が始まる。スタジオ録音は「We Will Meet Again」1979 1枚しか残さなかったが、1980年9月15日のエバンスの死までの間に録音されたコンサートの多くが死後発売され、壮絶なライブ演奏を聴くことができる。エバンスの死後は、スタン・ゲッツ、ジョー・アバークロンビー、ピーター・アースキン、ライル・メイズ、ゲイリー・バートンなどと共演、1985年にジョー・スコフィールド、ビル・フリーゼルを擁した自己のユニットBass Desires を結成し、ECMから発表したアルバムは高い評価を得た。デニー・グッドヒュー(1952- ) は、アンソニー・ブラクストンやジェリー・ガルネリの作品に参加、後者はラルフも参加した「One Day At A Time」 1990 D29、「KOPUTAI」1990 D30 があるが、活動自体は地味で、現在はシアトルを本拠地にサイドマンとしての作品参加や、教壇に立っているようだ。

1.「Habinger」はラルフのソロ。後年のソロアルバムの曲を思わせる作風で、シンプルで純粋な感じのテーマの小品。2. 「Trill Ride」は、マークとラルフによる即興演奏的な作品で、ゲイリー・ピーコックとのデュエット作品のイメージに近い。現代音楽的なサウンドは少し気難しいかな? 3. 「Elan Vital」は、本作の中で最もジャズらしい曲で、ヤン・ガルバレクと組んだソルスティスの作品「Solstice」1975 R4、「Sound And Shadows」1977 R6でお馴染みのヤン・クリステンセン (1943-2020) が久しぶりに参加している。彼の繊細なシンバル・ワークをバックに、ラルフ、デニー、マークが伸び伸びとプレイしている。 4.「Summer's End」はスローテンポの美しい曲で、本作のなかでは最も叙情的な作品だ。ラルフの作曲家としての手腕が遺憾なく発揮されている。サックスが少し気だるい感じのテーマを奏で、ベースとクラギをバックにソロをとる。ベースのソロもメロディックだ。でも最大の聴きものは、エバンスのプレイを彷彿させる、ラルフのギター伴奏にあると思う。5.「Col Legno」は、ベースによるソロが主体の曲。生真面目な感じで、面白みに欠ける。 後半は弓弾き奏法となり、バス・クラリネットが聴こえる。ラルフはギターを弾かないが、その胴を叩いて、パーカッションの音を出している。6.「Soft Landing」は、サックスのソロから始まり、途中からベース(弓弾き)と12弦ギターが加わるが、フリーフォームな演奏だ。7.「Flying Cow」はラルフとしては珍しい4ビートのリズムではあるが、音使いは現代的で、どこか捉えどころがない。12弦ギター、バスクラリネットに続く、ベースのソロがリズムを刻みながらの演奏で巧みだ。

8.「Mon Enfant」はギターソロで、1974年の「Diary」R2以来の再演。抑制が効いたプレイで、20年の歳月の重みが、メランコリックな演奏の懐をより深いものにしている。9.「Breath Away」はギターソロの佳曲で、懐かしみを覚える美しいテーマ、鮮やかな中間のインプロイヴィゼイションが眩しい。10.「Scrimshaw」もギターソロだが、よりアヴァンギャルドな演奏。11.「Midnight Blue...Red Shift」は、アルコ奏法のベースとサックスの多重録音による現代音楽的作品で、不安・孤独を感じる音楽。ラルフは非参加だ。12.「Moonless」は、ベースとクラギによる静かな対話。13.「Sco Cone」は、リフをテーマとしたベースソロで、ラルフは非参加。ギターソロの 14.「Tattler」は、ジェリー・リードもビックリのファンキーR&B風のテーマが大変カッコイイ曲で、かなり難しそう。ここでのリズムの切れ味、さりげなく見せる超絶技巧に惚れ惚れする。15.「Taxi's Waiting」は、タイトルからある日のスタジオで最後に録音された曲と思われ、少し即興演奏的な雰囲気もある軽快でさらっとした感じの曲だ。

全体的に地味で、ラルフのソロアルバムのなかでは最も薄味の作品と思われる。マーク・ジョンソンとの共演ということで、期待が大きかったせいか? むしろラルフのギターソロ作品に良いものがあり、そういう意味でも捨てがたいアルバムだ。ラルフの方向性がソロ演奏に向かっていることを如実に感じさせる作品とも言えよう。遠景の手前に配されたブタの写真によるジャケット・デザインが、ECMらしくなく秀逸。

[2008年6月作成]


 
R19 ANA (1997)  ECM 
 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. The Reluctant Bride [Towner] 4:28  R21 D53
 (C. Guitar)
2. Tale Of Saverio [Towner] 5:45  R15 R15 R15 R15 R21 
 (C. Guitar)
3. Joyful Departure [Towner] 3:58   O21 R21  
 (C. Guitar)
4. Green And Golden [Towner] 5:06  O20 O24 R21
 (C. Guitar)
5. I Knew It Was You [Towner] 4:02   R22
 (C. Guitar)
6. Les Douzilles [Towner] 6:49  O17 O20 R13 D45
 (C. Guitar)
7. Veldt [Towner]  2:21  R21  
 (C. Guitar)

 
[Seven Pieces for Twelve Strings]
8. Between The Clouds [Towner] 1:07
 (12st. Guitar)
9. Child On The Porch [Towner]  1:35
 (12st. Guitar)
10. Carib Crib (1) [Towner] 1:55
 (12st. Guitar)
11. Slavic Mood [Towner]  1:43
 (12st. Guitar)
12. Carib Crib (2) [Towner] 1:53
 (12st. Guitar)
13. Toru [Towner]  3:24
 (12st. Guitar)
14. Sage Brush Rider [Towner]  4:04
 (12st. Guitar)

Produced By Manfred Eicher
Recorded March 1996, Rainbow Studio, Oslo


1980年の「Solo Concert」R9以来、17年ぶりのギター1本によるソロアルバム。前作はライブアルバムだったので、本作は初めてのスタジオ録音だ。以降ラルフのソロ活動はギター独奏が中心となってゆくわけで、本作がその始まりとなる。「Solo Concert」が、ギター演奏を想定した曲であったのに対し、本作では「これって本当に1本で弾けるの?」といった素材に果敢に取り組み、見事に成功している。まず作曲して、譜面上でコードやハーモニーを決め、それらの音をギターのフレット上に配置して運指を決めるという作業を行っているものと思われ、通常の指癖では絶対に思いつかないようなプレイとなっているところが、凡百のギタリストと異なるところ。プレイヤーである以上に作曲家であるという、こだわりと自負のなす業だろう。そのためか、クラシック音楽界では作曲家としての評価が高く、多くのギタリストがラルフの作品を取り上げている。

1.「The Reluctant Bride」は、ジャズ臭さがまったくない、今までにない作風だ。クラシカルとも言い切れない、ラルフ・タウナーのギター曲になっていて、ヨーロッパ的なアンニュイに満ちている。この曲はインプロヴィゼイション部分がなく、スローテンポで比較的シンプルな運指のため、アマチュアのギタリストでもコピーしやすいと思う。 2.「Tale Of Saverio」は、映画のサウンドトラック「Un' Altra Vita」1992 R15における主人公のテーマ曲で、同アルバムではクラシックギターとシンセサイザー、12弦ギターのソロなど、4通りのアレンジで演奏されていたが、本作ではクラギ1本でのプレイ。メランコリックなムードに溢れた作品だ。3.「Joyful Departure」は同時期に発表されたオレゴンの作品「Northeast Passage」1997 O21に収められていた曲で、ギター1本で演奏できるとは夢にも思えない曲だ。前向きなメロディーを、コードとリズムを刻みながら弾きこなし、インプロヴィゼイションもしっかり展開、これはスゴイぞ!4.「Green And Golden」は、オレゴンの演奏でもおなじみの瞑想感のある佳曲で、抑制が効いたプレイが耳に残る。5.「I Knew It Was You」と 6. 「Les Douzilles」は、「なんでこれがソロで演奏できるの?」系の曲で、ギター1本でリズムを刻みながら、テーマやインプロヴィゼイションを展開する圧倒的なパフォ−マンスだ。特に後者はアップテンポのブラジル風音楽を見事に弾き切った名演。7.「Veldt」はギターの弦に紙をはさんでミュートさせた状態で弾く、アフリカの香りが漂うパーカッシブな曲だ。

これから後の曲は、すべて12弦ギターで演奏され、「12弦のための7つの楽曲」という副題がつけられている。若い頃のラルフは12弦を力まかせに弾きまくっていた感があったが、ここでは音数を少なくして、1音とその「間」を大事にしている。8.「Between The Clouds」は、全編ハーモニクスによる印象派風の曲。9.「Child On The Porch」は、単音のピッキングによる大変シンプルな小品で、現代音楽風の味わいがある。10.「Carib Crib (1)」は、かっこいいリフを主体にした曲で、こじんまりとしているが、ラルフらしい演奏を楽しむことができる。11.「Slavic Mood」は、曲名のとおり中近東風の音階を使った曲。12.「Carib Crib (2)」は、10.と同じテーマによる変奏曲。13.「Toru」は、ハーモニクス多用によるアバンギャルドな曲。タイトルは日本人の名前からとったのかな? 14.「Sage Brush Rider」は、ソウル音楽のムードを持つ曲で、ベース弦のリフとメロディーの絡みがイカシタ雰囲気を醸し出している。時折、目が眩むようなテクニカルなパッセージがさっと入る。この曲を弾いている過去のライブ音源があり、曲自体はかなり昔に作られたものであることがわかる。ラルフにとって、俳句や短歌の世界を連想させるような小品をプレイすることは、12弦ギターを長時間弾くことが体力的にきつくなってきたことへの対応かもしれない。

作曲における新境地と、ギター演奏への限界に挑戦し成功した作品。



 
R20 A Closer View (1998)  [With Gary Peacock]  ECM 
 
 
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar
Gary Peacock : Bass

1. Opalesque [Towner, Peacock] 3:29
 (C. Guitar, Bass)
2. Viewpoint [Towner] 1:19 R20
 (C. Guitar)
3. Mingusiana [Towner] 4:03  
 (C. Guitar, Bass)
4. Creeper [Towner] 6:10   O29  
 (C. Guitar, Bass)
5. Infrared [Towner] 3:55
 (12st. Guitar, Bass)
6. From Branch To Branch [Towner, Peacock] 5:13
 (C. Guitar, Bass)
7. Postcard To Salta [Towner, Peacock] 3:12  
 (C. Guitar, Bass)
8. Toledo [Towner] 6:18  O26
 (C. Guitar)
9. Amber Captive [Towner, Peacock] 4:15
 (C. Guitar, Bass)
10. Moor [Peacock] 4:59
 (12st. Guitar, Bass)
11. Beppo [Towner] 6:24   O18 R21
 (C. Guitar, Bass)
12. A Closer View [Towner] 4:48  R20
 (C. Guitar, Bass)

Produced By Manfred Eicher
Recorded December 1995, Rainbow Studio, Oslo


ゲイリー・ピーコック (1935-2020) との共演盤2作目は、1994年の「Oracle」 R16 から4年後となった。前作がゲイリーの名前が筆頭だったのに対し、本作は収録曲の多くがラルフの作曲で、ソロギターも2曲収録されており、内容的にも彼がイニシアチブをとっているのは明らかだ。前作同様、シンプルで厳しい感じの曲が多いが、ギター演奏によるコンポジションが中心となっているため、前作よりも、とっつきやすくなったと思う。

ベースのリフから始まりる 1.「Opalesque」は、ラルフのギター中心の曲で、静かなテーマとメロディアスなソロが地味ながらも、心に染み入る曲だ。2.「Viewpoint」は音数が少ない現代音楽風の曲で、ラルフのソロ。3.「Mingusiana」のタイトルは、チャーリー・ミンガスからとったのかな?前作3曲目に収録されていた「Empty Crousel」のアンサーソングのよう曲で、スローなワルツのテーマが印象的。間奏でリズムが変わり、ベースがシンプルではあるが深みを感じさせるソロをとる。4.「Creeper」は、本作のなかではファンキー系に属する曲で、ギターとベースのユニゾンによるテーマ演奏がカッコイイ。インプロヴィゼイションは、両者のインタープレイによるもので、相手の演奏に反応して即座に切り込みを入れてゆく様はスリリングだ。5.「Infrared」は現代音楽のムードがある曲で、本作では数少ない12弦ギターによる演奏。ここでの両者の掛け合いによる演奏の密度の濃さはさすがだ。6.「From Branch To Branch」は即興演奏と思われ、ゲイリーのプレイが押しているけど、少し単調かな? 7.「Postcard To Salta」は、ヨーロッパ風のメランコリックなムードのテーマであるが、曲自体は即興的。ベースがソロを取る際に、ラルフが伴奏を弾きながらボディーを叩くのが面白い。

8.「Toledo」は、ラルフのソロ曲としても名曲の部類に入ると思う。間奏のインプロヴィゼイションも素晴らしい出来で、ソロアルバムに入れないのは勿体無い。後にオレゴンの作品「Prime」 2005 O26 で取り上げられたのもむべなるかな。9.「Amber Captive」はマイナーな曲調で、ラルフのメランコリックなプレイにゲイリーがピッタリ寄り添い、ベースソロもメロディックだ。10.「Moor」は、本作で唯一ゲイリー単独による作曲。彼お得意のストイックな雰囲気の曲で、途中切り込んでくる 12弦ギターが効果的。ちなみにこの曲は、1968年の作品「Paul Pley With Gary Peacock」および1981年に彼が参加したアルバム「Voice From The Par: Paradigm」に収録されていた。11.「Beppo」は、1991年のオレゴンの作品「Always, Never, And Forever」 O18でおなじみの曲。曲名は、ラルフが昔子供の頃に飼っていた犬の名前で、列車に轢かれて死んでしまったそうだ。ここでは昔の事を思い出すかのように、スローなイントロから始まり、途中からやんちゃな子犬イメージさせる、いつものファンキーなテーマになる。ゲイリーのベースプレイが新鮮。12.「A Closer View」は、2.「Viewpoint」のエピローグとして、2人による同じテーマの再演。

ギターとベースの真剣勝負といった感じで、厳しい作品だと思うけど、「Oracle」 1994 R16よりも、ラルフ的情感のある曲が多いし、「Toledo」や「Beppo」など名曲も入っているので、是非聴いてみてください。


[2008年7月作成]