R21 In Concert '98 Open Strings (1998) Acoustic Music


Ralph Towner: Classical Guitar

1. Joyful Departure [Towner] O21 R19
 (C. Guitar,)
2. The Prowler [Towner] O24 R23
 (C. Guitar)
3. Green And Golden [Towner] O20 O24 R19 
 (C. Guitar, Bass)
4. Beppo [Towner] O18 R20
 (C. Guitar, Bass)
5. Tale Of Saverio [Towner] R15 R15 R15 R15 R19
 (C. Guitar)
6. Jamaica Stopover [Towner] R13 R17   
 (C. Guitar)
7. The Reluctant Bride [Towner] R19 D53
 (C. Guitar)
8. Veldt [Towner] R19
 (C. Guitar)

Peter Finger : Producer

Recorded May 22 1998, at Osnabruck, Germany


ピーター・フィンガーはドイツ生まれのフィンガー・スタイル・ギタリストで、その高い音楽性と超絶技巧のテクニックは、日本でも多くのファンがいる。彼はソロアルバムを発表するにあたり、Acoustic Music Recordsというレーベルを作ったが、そこからは彼以外に多くのギタリストのCD、DVD、楽譜が発売され、ジャック・ストッチェム、フランコ・モローネ、ティム・スパークスなどのギタリストを世に送り出した。日本人では中川イサト、Akiなどの作品が発売されている。そんな彼とレコード会社が本拠地のオスナブルックで、オープン・ストリングスというギター・フェスティバルを開催し、1998年5月22日のコンサートにラルフ・タウナーが登場、約50分にわたる演奏を収めたものが本作である。当日、会場では15:00からティム・スパークス、フランコ・モローネ、中川イサト、ウッディ・マン等が登場し、20:00からジョン・レンボーンとラルフ・タウナーが演奏した。そして翌日23日にはピータ−・フィンガー、アレックス・ド・グラッシ、レオ・コッケが登場し、それらの一部は、本作と同時に発売された他のビデオに収録された。

椅子と音響機材が置かれたシンプルな舞台中央にクラシック・ギターを持ったラルフが登場、黒いシャツにグレーのズボンという格好だ。挨拶の後に始まる 1.「Joyful Departure」は難曲で、フレットを目まぐるしく動き回る運指を見ているだけで目が眩みそう。これだけ大変な曲でありながらリズムが乱れず、インプロヴィゼイションも淀みなく湧き出でる様は凄いとしか言いようがない。それにしても大きな手だ。集中している時に舌を噛む癖を見ることができる。2.「The Prowler」は、コンサートの当時は「まだ名前がない」と紹介され、クレジットも「Without Title」と表示されている。この曲は後に、2001年の「Anthem」 R23、2002年の「Live At Yoshi's」 O24で公式録音された。3.「Green And Golden」は、オレゴンおよびラルフのソロの定番曲。右手のピッキングのポジションを微妙に変えて、繊細なニュアンスのある音を出している。昔飼っていた犬の名前からとった4.「Beppo」も愛奏曲で、ひょうきんな感じの曲。単音の早弾き、低音弦によるベースソロなどテクニック満載。5.「Tale Of Saverio」はラルフが音楽を担当した映画のサウンドラック「Un' Altra Vita」 1992 R15のテーマ曲で、「Ana」R19 にも収録された。低音部のリフにメロディーがからむムーディーな曲。ひとりレゲエの 6.「Jamaica Stopover」も快調な演奏で、オーディエンスの喝采を浴びる。ここで彼はギターをスタンドに置き、その後カットが入る。7.「The Reluctant Bride」は一転してメランコリーな雰囲気の曲で、厳かに演奏される。この曲の後、彼は退席してアンコールとなる。8.「Veldt」は、ギターのブリッジ付近に紙を挟んで、弦をミュートさせてのプレイ。アフリカ的なリズムと音階の曲だ。

ステージ上のギタースタンドにはギルドの12弦ギターが置いてあるが、本作では残念ながらクラシック・ギターによる演奏しか収められていない。映像には編集の跡があるので、カットされたものと思われる。クラシック・ギターによる演奏の18番「Nardis」も入っておらず、コンサートの映像としては彼の全貌を捉えたものではない。演奏の水準も1980年の「Solo Concert」R9のような完成度の高さは感じられないが、それなりに人間味・雰囲気があるパフォーマンスだ。撮影も正面、右、左の 3台のカメラによる撮影で、アングルは固定され、ズームのみなので映像自体は単調な印象を禁じ得ない。その代り彼の運指をじっくり確認できるメリットもある。映像作品としては不満が残るが、虚飾を排しギター演奏に集中した普段着のパフォーマンスという意味で、製作態度にそれなりの誠実さは感じられる。ラルフのソロの演奏風景を捉えた唯一の公式映像でもあり、ファン必携であることには変わりはない。

本作は、Acoustic Music Recordsのホームページから通信販売で購入できた。ただしビデオのみの販売で、DVD化はされていない。また現在はヨーロッパで一般的なPAL方式(ビデオフォーマット)のみの販売なので、日本やアメリカで標準的なNSTC方式のビデオプレイヤーでは視聴不能(以前はNSTC方式でも入手可能だった)で、再生にはPAL/NSTCの両方が可能なマルチ方式のビデオデッキが必要なため注意を要する。


[2009年1月作成]

[2021年10月追記]
本映像は、近年YouTubeなどで見ることができます。


 
 
R22 Verso (2000) [With Maria Pia De Vito And John Taylor] Provocateur  

 R22 Verso

Maria Pia De Vito : Vocal, Voice
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Taylor : Piano

1. Renewal [Towner] 5:53  O18 
 (Voice, C. Guitar, Piano)
2. Scugnizzeide [De Vito, Polosud] 6:13  
 (Vocal, 12st. Guitar)
3. Afterthought [Taylor] 5:18   
 (Voice, C. Guitar, Piano)
4. Nova Luce [De Vito, Taylor] 5:47
 (Vocal, Piano)
5. Al Tramonto [De Vito, Towner] 6:09 R16 D52
 (Vocal, C. Guitar, Piano)
6. Verso [De Vito, Taylor, Towner] 3:37
 (Voice, C. Guitar, Piano)
7. Chiara [De Vito, Towner] 6:15  O21 R15 D47
 
(Vocal, C. Guitar, Piano)
8. I Knew It Was You [Towner] 6:21  R19
 (Voice, C. Guitar, Piano)
9. L'Ombra E La Grazia (Per Simone Weil) [De Vito, Towner]  6:02  O27 R23 D47
 (Vocal, C. Guitar, Piano)
10. Redial [Towner] 5:03  O15 D34
 (Voice, C. Guitar, Piano)

Recorded at : Angel Studios, January 2000 and Canterbury Studios Febuary 2000

注) 4.はラルフ非参加

   
   

マリア・ピア・デヴィート (1960- )はイタリア・ナポリ生まれのシンガーで、クラシック・オペラや現代音楽を学び、1976年から地中海、バルカン半島や南アメリカ音楽を演奏するグループで演奏活動を開始、1980年代からはジャズシーンで活躍し、ヨーロッパを代表するジャズ歌手になった。1990年代以降は活動領域を広げ、生まれ故郷のナポリの民族音楽とジャズとの融合、エレクトロニクスを駆使した実験的な音楽への挑戦、クラシカルな分野への進出など活発に活動している。彼女は、現在は少し年老いたとはいえ、素晴らしい美貌に加えて、リスナーに生理的快感を与える天性の声音、広い音域と圧倒的なリズム感、そして完璧なヴォイス・コントロールを併せ持ち、正にディーバと呼ぶに相応しい神々しさがある。以前1980年にアジマスのアルバム「Depart」 D24でラルフと共演したジョン・テイラー (1942-2015) は、以前から彼女と組んで演奏活動をしていたという。

CDジャケットに掲載されたラルフの解説が、本作の製作経緯を何よりも物語っているので、以下のとおり引用します。「1977年の夏、私はイタリアのロセラ・ロニカで行われたフェスティバルへの出演のため、コンサート前日に現地に到着した。その夜、以前共演した事があるイギリス人の偉大なピアニスト、ジョン・テイラーと、今回初めて聴くマリア・ピア・デヴィートのコンサートを観に行った。そして私は彼らの演奏に魅了され、深く感動した。偶然にも、その夜レストランで彼らに会い、トリオを結成しようという話になった。しばしば、このようなアイデアはコンサート直後の興奮のために出るもので、しばらくすると冷めてしまうものである。しかし今回の場合は、幸運な事に、やり過ごすには刺激的過ぎたのだ。ツアーが企画され、作曲・演奏の両面での共同作業により、我々はすぐに融け合った。本作の録音を可能にしてくれたコリン・タウンズ氏の心意気と寛容さに感謝したい。」(注:コリン・タウンズはイギリス人の作曲家で、現在は映画音楽での活動が主であるが、昔はイアン・ギランのバンドでキーボードを弾いていたこともある。彼はジャズにも造詣が深く、本作と同じレーベルから作品を発表しており、本作の実現にあたっては、マリアが過去に同レーベルからアルバムを発表した経緯もあるが、彼の協力があったものと思われる。)

1.「Renewal」は、以前オレゴンでの演奏で聴かれたポール・マッキャンドレスのサックスによるテーマの演奏が、マリアの見事なスキャット・ヴォイスに置き換えられ、はっとするような新鮮さに満ちている。それにしても何という綺麗な声だろう!生命力に満ち溢れ、しなやかなリズム感が曲をぐいぐい引っ張ってゆく。ラルフのギターとジョンのピアノもそれに煽られて、緊張感に満ちたプレイを繰り広げる。間奏におけるジョンのプレイは、右手によるシングルノートを中心とした個性溢れるもので、1980年にアジマスで共演した時よりもエキサイティング。2.「Scugnizzeide」は、「Odyssey Of A Street Urchin」という英訳が付けられた曲で、イタリア語の歌詞で歌われる。本作の解説書にはイタリア語の原詩と英訳が掲載されており、とても有難い。ラルフの12弦ギター1本による伴奏で、そのプレイはヤン・ガルバレクとの共演盤「Dis」1977 D19を思い起こさせる。ピンと張り詰めた雰囲気の中で、マリアの声がクールに響く。3.「Afterthought」はジョンの曲で、スキャット、ギターとピアノのインターブレイの後のピアノ・ソロには引き込まれるような魅力がある。5.「Al Tramonto」は、「夕陽」という意味のイタリア語で、ラルフの曲のなかでも、最も美しいメロディーとコード進行を持っていると思う。マリアが人生を感じさせる荘厳な歌詞を付け、情感たっぷりに歌い上げている。透き通った歌声には、意思の強さと知性も感じられる。

6.「Verso」はイタリア語で「 〜時頃」という意味で、即興演奏と思われる。マリアのタブラを思わせる低音と軽やかな高音を、驚異的な声域をもって縦横無尽に使い分けるヴォイス・パーカッションが圧巻。ラルフはブリッジ付近に紙をはさんだミュートギター、ジョンはピアノの弦を手で弾く演奏で応えている。7.「Chara」はラルフが当時好んで使ったメロディーで、映画のサウンドトラックとして製作された「Un' Altra Vita」 1992 R15 の「Sea Scape」というタイトルの曲が初出。そしてオレゴンのアルバム「Northeast Passage」1997 O21 の「Claridade」がある。さらに1996年のマリア・ジョアンの「Fabula」 D45では同じタイトルでポルトガル語の歌詞で歌われているので、それらの曲を比較して聴くと、セルフカバー・ファン冥利に尽きる面白さがある。メランコリックなメロディーと歌唱が印象的な曲。8.「I Knew It Was You」は、ラルフのソロアルバム「ANA」 1997 R19に収められていた曲で、アップテンポで交わされるスキャット、ピアノそしてギターのインタープレイが心地良い。9.「L'Ombra E La Grazia」は、「For Simone Weil」という副題のように、「Simone」というタイトルで、ラルフのソロ「Anthem」 2001 R23、オレゴンでは 「1000 Kilometers」2007 O27で、その他アンディ・ミドルトンの「Nomad's Notebook」1999 D47でも取り上げられている。10.「Redial」は、オレゴンの昔のレパートリーを取り上げたもので、懐かしさでニンマリしてしまう。急速調のスキャット・ソロが本当に鮮やか。

以上のとおり、ラルフが以前に発表した曲やメロディーが多く取り上げられたが、マリアやジョンとのコラボレーションによって新しい命が吹き込まれており、そういう意味でラルフのファンにとって、とても面白い作品となった。ちなみにラルフはその後もマリアのソロアルバム「Nel Respiro」 2002 D48にも参加している。


[2009年3月作成]



R23 Anthem (2001)  ECM


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Solitary Woman [Towner] 6:54  R15 R15 
 (12st. Guitar)
2. Anthem [Towner] 4:52 O23 
 (C. Guitar)
3. Haunted [Towner] 3:07   
 (C. Guitar)
4. The Lutemaker [Towner] 4:19
 (C. Guitar)
5. Simone [Towner] 6:00 O27 R22 D47
 (C. Guitar)
6. Gloria's Step [Scott LaFaro] 2:48 O10
 (C. Guitar)
Four Comets [Towner]
7.  I  1:06
8.  II   1:12
9.  III  1:02
10. IV  0:49

 
(C. Guitar)
11. Raffish [Towner] 4:10  D47 D48
 (C. Guitar)
12. Very Late [Towner]  4:00
 (C. Guitar)
13. The Prowler [Towner] 4:58 O24 R21
 (C. Guitar)
Three Comments [Towner]
14.  I   1:32
15.  II   0:31
16.  III  0:52
 (12st. Guitar)
17. Goodbye Pork-pie Hat [Charlie Mingus] 1:54  R3 D52 
 (12st. Guitar)

Produced By Manfred Eicher
Recorded at : Rainbow Studio, Febuary 2000


ギター1本のスタジオ録音による完全ソロアルバムとして、「ANA」1997 R19に続く2作目にあたる作品。ここでは作曲家としての姿勢をより強く打ち出しているように感じる。彼は、ピアノ、トランペット等いろんな楽器を演奏するマルチプレイヤーであり、特定の楽器での演奏を前提とした曲作りをせず、まず曲を作ってからギター演奏にアレンジするというアプローチは、常識では考えられない音運び、運指をクリエイトしてゆく。また本作の根底には、彼のビル・エバンスの音楽への敬愛の想いが脈々と流れており、それがこの作品における純粋で思索的な雰囲気、瞑想感を生み出している。私はビル・エバンスの作品のほとんどを持っていて、よく聴いているけど、ラルフが本作品におけるラルフの音楽は、歴史的な貢献度や知名度は別として、元祖を凌駕したと思っている。信じられない人は、是非この作品を聴いて確かめて欲しい。

1.「Solitary Woman」は、1992年のサウンドトラック「Un' Altra Vita」 R15の「Alia's Theme」がオリジナルで、そこには12弦ギターの多重録音と、ピアノ、シンセサイザー、パーカッションの多重録音のふたつのバージョンが収められていたが、本作では12弦ギターの独奏にアレンジされている。映画の主人公であるミステリアスな女性の孤独なイメージが、楽器の独奏によりより如実に表現されていると思う。ラルフの12弦ギターは、初期は体力と気力にものを言わせた迫力と音量で迫る曲が多かったが、ここでの繊細で間を生かしたプレイは、60歳という年齢を反映したものだ。2.「Anthem」のテーマは従来の作品に比べて、より重厚でクラシック的な雰囲気。途中のソロになってジャズの乗りが出てくる。3.「Haunted」は、少し曖昧模糊とした感じのスローな曲。4.「Lutemaker」は、サラサラとした演奏のなかで、突如テクニカルな部分がギラッと輝くのが印象的。4.「Simone」はオレゴンの「1000 Kilometers」2007 O28でもお馴染みのメランコリックな曲。

6.「Gloria's Step」は、以前オレゴンのアルバム「Moon And Mind」1979 O11で、グレン・ムーアとのデュエットで録音した曲。ビル・エバンス・トリオの名ベーシスト、スコット・ラファロの作品で、彼が交通事故死する直前に録音された「Sunday At The Village Vanguard」 1961に収められていた傑作だ。タウナーによるエバンスのレパートリーのカバーは、単なる演奏のコピーに留まらない、作曲のプロセスに近い作業をもって成し遂げるのだろう。それにしても見事なアレンジで、ソロの部分も含めて曲の精神を見事に昇華して自分のものにし切っている。「Four Comets」は、ギターの単弦演奏による4つの小品で、一筆書きの抽象画のような淡い味わいがある。クラシック・ギターの柔らかな音ながら、ストイックな世界が広がる。11.「Raffish」になって、やっと元気のある曲が出てきたという感じ、この曲の前半は、かなり以前からラルフがコンサートで弾いていたモチーフで、私が聴いた 1987年ハンブルグのコンサート音源では、「Nardis」とのメドレーで演奏していた。ここではR&B調の後半部分が追加され、アンディ・ミドルトン、マリア・ピア・デヴィートなど他のアーティストにも取り上げられた。テーマ部分の恐ろしく難しそうな部分は、何度聴いてもスリリングだ。12.「Very Late」は、ビル・エバンスが1962年に発表した「Moonbeams」に収められていたチャーミングなジャズワルツ「Very Early」をもじったものらしく、姉妹曲のようなムードだ。13.「The Prowler」は、1998年の「In Concert '98 Open Strings」R21では、名無しの新曲として紹介されていた曲で、オレゴンでは「Live At Yoshi's」2002 O25での演奏がある。これもR&B調のメロディーが出てくるラルフお得意のスタイルだ。「Three Comments」は、12弦ギターによる小品集。ハーモニックスや不協和音のアルペジオを使用したより前衛的な演奏だ。17.「Goodbye Pork-pie Hat」は、ジャズの巨人チャールズ・ミンガスが、不世出のテナー・サックス奏者レスター・ヤングのために書いたリクイエム。1959年のアルバム「Mingus Ah Um」が初出。ギタリストの演奏では、ブリティッシュ・フォークのギタリスト、バート・ヤンシュとジョン・レンボーンによる1966年のデュオや、アレックス・ド・グラッシや、ジョン・マクラグリンなどのカバーがある。1975年の「Matchbook」R3では、ラルフはゲイリー・バートンと一緒に演奏しており、本作は約25年ぶりの再録音となる。ここでの12弦ギターの演奏は、テーマおよびその後のいずれも淡白な感じで、すぐに終わってしまう。ステージでのラルフは、もっとアグレッシブにテーマを演奏し、インプロヴィゼイションもたっぷり入れている。このスタジオ録音について、何故短い演奏にしたのか理由は不明であるが、そのために原曲の精神であるリクイエムらしい幽玄な感じが出ている。

暗めのモノトーンの部屋の中、心を落ち着けて静かに聴くのに最適な作品。

[2010年10月作成]



 
R24 Time Line (2006)  ECM  
 

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. The Pendant [Towner] 4:11  
 (C. Guitar)
2. Oleander Etude [Towner] 1:59 
 (C. Guitar)
3. Always By Your Side [Towner] 2:52   
 (C. Guitar)
4. The Hollows [Towner] 3:23
 (C. Guitar)
5. Anniversary Song [Towner] 1:53
 (C. Guitar)
6. If [Towner] 4:38  O26  
 (C. Guitar)

Five Glimpses [Towner]
7.  I  1:01
8.  II   0:47
9.  III  0:50
10. IV  0:49
11. V  0:25
 
(C. Guitar)
12. The Lizards Of Eraclea [Towner] 2:38
 (C. Guitar)
13. Turning Of The Leaves [Towner]  3:45  D48
 (C. Guitar)
14. Come Rain Or Come Shine [Harold Arlen] 4:14
 (C. Guitar)
15. Freeze Flame [Towner] 4:54
 
(12st. Guitar)
16. My Man's Gone Now [George Gershwin] 5:27
 (12st. Guitar)

Produced By Manfred Eicher
Recorded at : Propstei St. Gerold, Austria, September 2005

 
ラルフ 5年ぶりのソロアルバムは、オーストリアの西の端、スイスとの国境近くの山深く風光明媚な地域にあるサンクト・ゲロルド修道院(Propstei St. Gerold)で録音された。インターネットの資料はドイツ語ばかりでよくわからなかったが、音響の良さに定評があり、ヤン・ガルバレク等のアーティストが録音で使用。一般観光客向けの宿泊設備もあるようだ。

ラルフのギター1本による4枚目のアルバム(「Solo Concert」1980 R9を含む)で、いままでに増して内省的で、演奏よりも作曲に集中した感がある。1.「The Pendant」は、「ANA」1997 R19の「The Reluctant Bride」に似た雰囲気のメランコリックなワルツ。2.「Oleander Etude」は、練習曲とあるように、不協和音ともいえる細かな音が雨粒のように降り注ぐ。ラルフは、インタビューでこの曲を紹介するにあたり、「作曲の過程は音を発見することだ」と言っている。3.「Always By Your Side」は、かなり以前にシェイクスピアの劇「テンペスト」のために作ったが、合わずにお蔵入りしていた曲を完成させたものという。ロマンチックなメロディは、歌詞を付けて歌にしてもよい感じだ。4.「The Hollows」も 2.と同じような少し前衛的な音による曲。本作ではアドリブなしで、きっちりと作曲された作品が多く、演奏家としてよりも作曲家として勝負しているかのようだ。5.「Anniversary Song」は、何だかのお祝いのために作られたプライベートな香りが漂う曲で、よりメロディックでシンプルな曲であるが、これも内省的な感じが強い。

オレゴンの「Prime」2005 O26やコンサートでおなじみの6.「If」が始まると、いままで漂っていたダークな緊張感が一気に開放されるようで、「待ってました」とほっとしてしまう。ギター1本でアドリブパートも弾きこなし、バンド演奏と変わらないグルーヴ感を出す表現力は本当に凄い!音の粒の美しさと、気高いまでの透明感が素晴らしく、これ1曲だけでも買う価値あるよ。「Five Glimpses」は、「ちらっと見る」という意味のタイトルの小品集で、単音のピッキングを主体とした印象派風のスケッチ。俳句というか、線描きのみによるリトグラフの小品のような味わいがある。11.「The Lizards Of Eraclea」も、モダンな音が並ぶエテュード風の作品であるが、本作における同傾向の他の曲のように抽象的ではなく、より標題音楽っぽい感じはする。12.「Turning Of The Leaves」は、ロマンチシズム溢れる歌心に満ちた曲で、他のモダンな曲との対比で、その美しさが一層引き立てられているようだ。ここでの聴く者をはっとさせるメロディーは、2002年発売のマリア・ピア・デヴィートのアルバム「Nel Rispiro」D48 に、「Int' 'O Rispiro」というタイトルで収められていた曲で使われていたもので、そこではマリアが歌詞を付けていた。

13.「Come Rain Or Come Shine」は、ハロルド・アーレンがミュージカル 「St. Louis Woman」1946 のために書いた曲で、オリジナルはサイ・オリバーとトミー・ドーシー楽団、競作者としてダイナ・ショア、ヘレン・フォレスト、マーガレット・ホワイティングの吹き込みがあり、ビリー・ホリデイも1955年に録音している。ラルフは、ビル・エバンスによる「Portrait In Jazz」1959のバージョンを元に、ソロギターにアレンジしている。14.「Freeze Flame」になってやっと12弦ギターが出てきましたね。以前のようにバリバリと弾く倒すのではなく、金属弦の繊細な響きを強調した作風になっている。彼の年齢を考えると無理できないよね。最後の15.「My Man's Gone Now」も12弦によるスタンダード曲だ。ジョージ・ガーシュウィンが1935年のオペラ「Porgy And Bess」のために作曲したもので、彼一流のダークな感じが余すことなく発揮されている。この曲もまた、ビル・エバンスによる「Sunday At The Village Vangaurd」での名演があり、ラルフのビル・エバンスの音楽に対する執念、特に彼の曲をソロギターで表現してやろうという思いは、生涯を通じてのものなのだ。

ラルフが探求したソロギターの到達点となる作品。


[2012年2月作成]


R25 From A Dream [MGT]  (2008)  Which Way Music   
 

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Wolfgang Muthspiel : Electric Guitar, Classical Guitar
Slava Grigoryan : Classical Guitar, Baritone Guitar

1. Tammuriata [Towner] 6:55  O26 D55 
 (E. Guitar (W-L), C. Guitar (T-C). C. Guitar (S-R))
2. In Stride [Towner] 5:03  O28  
 (E. Guitar (W-L), C. Guitar (T-C), Baritone Guitar (S-R))
3. Beneath An Evening Sky [Towner] 5:50  O17 O23 R8 R12 
 (E. Guitar (W-L), 12st. Guitar (T-C), C. Guitar (S-R))
4. Nardis [Miles Davis] 6:07  R9 R17 D43
 (C. Guitar (T-L), E. Guitar (W-R))
5. From A Dream [Tower] 2:45 O27
 (C. Guitar (T-L), C. Guitar (S-R))
6. EOS [Muthpiel] 5:45
 (E. Guitar (W-L), C. Guitar (T-C), Baritone Guitar (S-R))
7. Chez Ta-Dah [Muthspiel] 2:33 
 (C. Guitar (W-L), C. Guitar (S-R))
8. Icarus [Towner] 5:27  O12 O16 O23 R2 R3 D4 D7
 (E. Guitar (W-L), 12st. Guitar (T-C), C. Guitar (S-R))
9. Bird's Eye View [Muthspiel]  5:04 
 (E. Guitar (W-L), 12st. Guitar (T-C), Britone Guitar (S-R))
10. Hand In Hand [Towner] 3:15  O17
 (E. Guitar (W-L), 12st. Guitar (T-C), C. Guitar (S-R))

Recorded at : Sing, Sing Studios, Melbourne, Australia, December 3-5 2007

注) 7.はラルフ非参加
 
上記 「W」はウルフガング、「T」はラルフ、「S」はスラヴァ、「L」は左チャンネル、「C」は中央、「R」は右チャンネルを指す


スラヴァ・グレゴリアン(1976- )は、カザフスタン生まれで両親はバイオリン奏者という。1981年にオーストラリアに移住しメルボルンで育つ。クラシック・ギターを始めたのは7歳からで、14歳で本格的なプロとしてデビュー、東京の国際ギターコンクール入賞後、ソニー・ミュージック・エンターテイメントと契約してアルバムを発表。2001年以降は地元オーストラリアで、ソロおよび弟とのデュオ作品を発表している。キャリアを積むにつれ、ブラジル、ジャズと分野を広げた活動している天才肌のギタリストだ。2台のギターによるチック・コリアの「Spain」の映像を観る機会があったが、それは凄まじいプレイだった。ウルフガング・ムースピール(1965- 以下ウルフと略す)はオーストリアのジャズ・ギタリストで、バークリーで学んだ後、パット・メセニーの後釜としてゲイリー・バートンのグループに加入し注目を浴びた。ピック、フィンガー、エレキ、クラシックといろんなスタイルをこなす人で、手がける音楽も多彩。2002年以降は本国のウィーンを活動拠点とし、自己のレーベルからトリオやドラム奏者のブライアン・ブレイドとのデュオ作品を発表している。ふたりとも、あらゆるジャンルの音楽に取り組む柔軟さと、類まれな演奏力を併せ持っており、ラルフの音楽に対する姿勢と共通したものがある。

ラルフは、これまでソロ、デュオ、グループのフォーマットで作品を発表してきており、本作のようなギタートリオは異色。製作者のWhich Way Musicはオーストラリアのレーベルで、以前からスラヴァのアルバムを発表していた縁で実現した企画と思われる。アルバム収録曲のほとんどがラルフの曲で、音楽的には彼が主導権をとっている。どれも既発の曲なので、ラルフのプレイに他の二人が合わせたスタジオ・セッション的なものかなと思っていたが、インタビューによると、2台のギターだけでも十分なところに3台目を融合させるということで、作曲に近い作業をしたらしく、入念な音作りによりきっちり作られた作品なのだ。CDジャケットの曲目表示に、各プレイヤーのチャンネルの配置が明記されており、きちんと聞き分けることができるのが有難い。まあ、どっちにせよ、音色やタッチの違いで区別はつくんだけどね ! ちなみにグループ名の「MGT」は、各人の姓の頭文字をとったもの。

1.「Tammuriata」は、3年前のオレゴンのアルバム「Prime」O26と異なり、ギター3台によるコンビネーションがよりストイックなムードを醸し出している。ラルフの伴奏をバックに、テーマの旋律を一糸も乱れず弾きこなす二人のプレイが凄い。ソロはスラヴァ、ウルフ、ラルフの順に展開するが、ウルフのエレキギターは、伴奏に回る際にベース的な役割もこなしている。後半の3台が掛け合いで音を入れる様がスリリング。2.「In Stride」は、オレゴンのバージョン(2010年の同名アルバム O28)よりも前の録音。テーマ部分は同じ楽器の合奏により、より厚みのある音になっている。ここではスラヴァはバリトン・ギターを担当。ウルフのソロが、ラルフと全く異なる音選びになっているのが面白い。3.「Beneath An Evening Sky」は、本作のハイライトのひとつ。高齢による身体的な負担のためか、この頃からあまり弾かなくなったラルフの12弦ギターが聴けるだけでもうれしいのに加えて、御馴染みのミュート奏法を見せるラルフ、繊細なメロディーを奏でるスラヴァ、エフェクトを使用して背景音を作るウルフによるアンサンブルが最高。スラヴァは、弟とのデュオでもこの曲を取り上げている。ラルフの十八番 4.「Nardis」は、ウルフとのデュエットだ。最初からインプロヴィゼイションで通し、テーマが出てくるのはエンディングという構成。互いの想像力を高め合う二人の掛け合いがエキサイティングで、ラルフもいままでとは異なる趣のプレイを展開している。共演者から触発されることで新しい世界が開けるジャズの醍醐味の極致。タイトル曲 5.「From A Dream」は、イタリアの小唄のような感じで、スラヴァのギターが歌いまくっている。

ウルフ作曲の 6.「Eos」は、最初は室内楽的なテーマで始まるが、途中のインプロヴィゼイションから俄然アヴァンギャルドな雰囲気になり、その対比が一風変わっている。 7.「Chez Ta-Dah」は、ウルフとスラヴァ 2台のクラシック・ギターによる急速調の演奏で、ラルフは非参加。名曲 8.「Icarus」は、ギター3台によるアンサンブル、各人のソロが素晴らしく、本作一番の目玉となっている。他の二人とのコンビネーションを意識してか、ラルフの12弦は、いままでの本曲のどの録音よりも端正な音になっている。ここでもウルフがベース・ギター的な演奏している部分がある。9.「Bird's Eye View」は、ウルフ作曲のなかでは最も穏やかな感じで、ラルフの作風に近い曲。10.「Hand In Hand」は、オレゴンの演奏(「45th Parallel」 1989 O17収録)よりもシンプルでストレートな音作りになっている。本作録音時 68歳という高齢となったラルフによる、本格的な12弦ギターの演奏の聴き収めかなという感慨を持ってじっくり聴きましょう。

自分より年少のギタリストと共演ということで、余裕と貫禄を感じさせる作品になっている。セルフカバーの聴き比べの楽しみもたくさんあるよ!

[2013年3月作成]


R26 Chiaroscuro [With Paolo Fresu]  (2009)  ECM   


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Baritone Guitar
Paolo Fresu : Trumpet, Flugelhorn

1. Wistful Thinking [Towner] 4:19  R14 
 (Trumpet, C. Guitar)
2. Punta Giara [Towner] 6:20  
 (Flugelhorn, C. Guitar)
3. Chiaroscuro [Towner] 6:30  D55  
 (Flugelhorn, C. Guitar)
4. Sacred Place [Towner] 4:13  R26
 (Baritone Guitar)
5. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans] 5:44 R12 R17
 (Trumpet, C. Guitar)
6. Doubled Up [Towner] 4:55  D56
 (Trumpet, Baritone Guitar)
7. Zephyr [Towner]  7:28  O15 O23
 
(Flugelhorn, C. Guitar)
8. Sacred Place (Reprise) [Towner] 1:58  R26
 (Trumpet, Baritone Guitar)
9. Two Miniatures [Towner, Fresu]  2:38
 (Trumpet, 12st. Guitar)
10. Postlude [Towner, Fresu]  2:31
 (Trumpet, 12st. Guitar)


Produced By Manfred Eicher
Recorded at : Artesuono Recording Studio, Udine, October 2008


ラルフはデュオ・アルバム製作の際、とても慎重に奏者を選んできている。その結果が、ヴァイブ(ゲイリー・バートン)、サックス(ヤン・ガルバレク)、ギター(ジョン・アバークロンビー)、ピアノ(マーク・コープランド)、ベース(ゲイリー・ピーコック)というラインアップだ。今回はトランペットとの共演で、彼が選んだ相手はパオロ・フレス(1961- )。彼はサルジニア島生まれで、バリバリ吹かない沈思的なスタイルはマイルス・デイビスに近いが、アメリカ人的なダークな雰囲気はなく、イタリア人(南ヨーロッパ)特有の陽差しを感じさせる音を出す。その一方で、ルネッサンスやイタリア映画に感じられる、知的で退廃的な影を感じさせるものも併せ持っている。タイトルの「Chiaroscuro」はイタリア語で「明暗」という意味で、光と影のコントラストを重んじる画法をさす。本アルバムも、トランペットとギターという珍しい組み合わせで、ピアノに比べて音数と持続音が少ないギターの特性をフルに生かして、白い紙の上にひと筆で描いた墨絵のような間を生かした音作りとなっており、ジャケット写真はその雰囲気をよく表している。

1.「Wistful Thinking」は、1992年の「Open Letter」R14以来のセルフカバーだ。静謐で無駄のない磨かれた音が美しく、ラルフとパオロの音色には午後の春の日差しのような暖かさがある。録音の素晴らしさで、2人と同じ空間にいるような感じがする。2.「Punta Giara」は、2010年のAnil Prasadのインタビューによると、本作の約15年前、サルディニアのジャズフェスティバルに出演するためにパオロから依頼されて書いた曲(それが彼らの最初の出会いとなった)が元になっているとのこと。3.「Chiarosucuro」は、ラテン風のギターのリズムをバックにフリューゲルホーンがクールな音を置いてゆく(という表現が曲のムードにあっている)。

4.「Sacred Place」で、ラルフは初めてバリトン・ギターを使っている。これはオーストラリアのギター製作家、Graham Caldersmith氏が作ったもので、通常のギターよりスケールが長く、5度低い音だそうだ。クラシックギターとは別の楽器と言ってもよい位異なる音色であり、ラルフはこの楽器のために作曲したそうだ。シンプルでゆったりとした演奏から発せられる豊かな音は圧倒的。演奏中に入る単弦のメロディーは多重録音かな?マイルス・デイビスが「Kind Of Blue」1959でビル・エバンスと共演した 5.「Blue In Green」は、ラルフが幾度もカバーしている名曲だが、本作の録音はその決定版と言えるもの。ビルのピアノスタイルをギターで表現し、さらに発展させることに長年挑戦してきたラルフの到達点と言えるプレイだ。パオロの瞑想感溢れるプレイも奥深く美しい。

6.「Doubled Up」は本作の中ではアクの強いほうの曲で、アルバム中のスパイス的存在。それでもピュアな雰囲気は十分ある。7.「Zephyr」はスピリチュアルな雰囲気に満ちた曲で、過去の録音では細かなギターのアルペジオが印象的だったが、ここではより穏やかなプレイに徹している分、パオロの祈りのようなホーンが前面に出ている。8.「Sacred Place (Reprise)」では、パオロのホーンが入った演奏。9.「Two Miniatures」、10.「Postlude」で初めて12弦ギターが登場するが、楽器特有の音色を重視したシンプルな演奏に終始しており、派手なプレイはない。70歳を超えた彼にとって、12弦ギターの激しい演奏は体力的にきついはずで、このようなフリーフォームな現代音楽での使用に限っているのだろう。

年齢もあって、ラルフは昔のように派手で難しい演奏をしなくなったが、ひとつひとつの音を丁寧に弾いており、その分味わいと奥深さが増したと思う。

[2015年7月作成]


R27 Travel Guide [MGT]  (2013)  ECM   


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Wolfgang Muthspiel : Electric Guitar, Voice
Slava Grigoryan : Classical Guitar, Baritone Guitar

1. The Henrysons [Muthspiel] 7:04   
 (E. Guitar (M), C. Guitar (G), C. Guitar (T))
2. Father Time [Towner] 4:37    
 (E. Guitar (M), C. Guitar (G), C Guitar (T))
3. Windsong [Muthspiel] 6:43 
 (E. Guitar (M), Baritone Guitar (G), 12st. Guitar (T))
4. Duende [Towner] 4:29  O30 D55
 (C. Guitar (G), C. Guitar (T))
5. Amarone Trio [Muthspiel] 5:42
 (E. Guitar (M), C. Guitar (G)), C. Guitar (T))
6. Travel Guide [Towner] 6:34
 (E. Guitar (M), C. Guitar (G), C. Guitar (T))
7. Die blaue Stunde [Muthspiel] 5:19 
 (E. Guitar (M), Baritone Guitar (G), 12st. Guitar (T)
8. Nico And Mithra [Muthspiel] 3:44
 (E. Guitar (M), C. Guitar (G) C. Guitar (T))
9. Tarry [Towner]  1:03 
 (C. Guitar (T))
10. Museum Of Light [Towner] 5:17
 (E. Guitar (M), C. Guitar (T))

Recorded at : Auditorio Radiotelevisione Svizzera, Lugano, Italy, August 2012

M = Wolfgang Muthspiel, G= Slava Grigoryan, T = Ralph Towner

3人のギタリストMGTによるアルバムは、前回「From A Dream」2008 R25から5年後の作品。前作はウルフガング・ムースピール(以降「ウルフ」)主導で制作され、彼の母国オーストリアのMaterial Records、スラヴァ・グレゴリアン(以降「スラヴァ」)のオーストラリア Which Way Musicから発売されたが、本作はラルフのお膝元ECM Recordsでの制作・発売。前作がラルフの既存曲を3人のギタリストによる演奏に編曲し直したものが中心だったのに対し、今回は本作のために作曲された新曲が並んでいて、後にオレゴン等でカバーされる「Duende」を除き、すべてここでのみ聴くことができるものだ。また前作では口直し的な存在に過ぎなかったウルフの曲について、本作では5曲を提供。その出来もラルフに優るとも劣らないすばらしいものになっている。また本作は、マンフレッド・アイヒャーのプロデュースによるECM 諸作品に見られる陰影・空間を重んじた瞑想感・精神性溢れる音創りになっていて、ラルフのECMと他レーベルでのアルバムにおける世界の違いを如実に体感することができる。
 
1.「The Henrysons」はウルフの曲であるが、後に続くラルフの曲と違和感なく溶け合っている。スラヴァはクラシックギターでコードを刻み、ラルフがウルフと共にメロディーを奏でているものと思われる。2.「Father Time」は、クラギのハーモニクス・リフによる伴奏と3台のギターの絡みが印象的な曲。スラヴァは伴奏で、ラルフはメロディーとアドリブ担当かな?3.「Windsong」は、エレキギターの独奏から始まり、センターでメロディーを弾くラルフと右で低音を出すスラヴァが加わる。ラルフによる本格的な12弦ギター・ソロプレイを味わえる最後の時期にあたり、曲の出来も良い貴重な曲。後半でスラヴァがバリトン・ギターでソロを聴かせてくれる。4.「Duende」は、クラギ2台による演奏で、本作の中で唯一、後にオレゴン、ジャビール・ジロットとで再録音された曲。ソロを交換しているが、単弦をつま弾く際のラルフ(左)とスラヴァ(右)のタッチの違いがよくわかる。5.「Amarone Trio」では、クラギのソロはスラヴァ、ラルフの順で、後者ではウルフのヴォイスが背景に流れ、ブラジル音楽風でいい感じ。後半のエレキギター・ソロとそれに続くアンサンブルが美しい。ウルフの作曲能力の素晴らしさが発揮された作品。続く6.「Travel Guide」でも、繊細で優美なプレイが負けじと展開される。7.「Die blaue Stunde」はドイツ語で「Blue Hour」という意味。ウルフの曲なんだけど、ラルフによる少しアヴァンギャルドな曲に通じるものがある。8.「Nico And Mithra」では、ウルフのエレキギターがハーモニクスで背景とリズムを築いている。途中のエレキギター・ソロはオーバーダビングだろう。9.「Tarry」はラルフ一人による短い即興的演奏。過去彼が演奏した曲と似ているんだけど、何の曲だったかな?10.「Museum Of Light」はラルフとウルフによるデュエット。最後を飾るに相応しい、霧と光が交錯する空間を感じさせる佳曲だ。

派手さはないけど、じわじわと心に染みこんでくるような音楽だ。

[2023年6月作成]