D1 Table Talk (Single) (1967) [The Individuals] 21Records









Chuck Mahaffay: Drums, Clarinet
Ralph Towner: Piano, C. Guitar, Trumpet
Tammy Burdett: Bass, Vocal

1. Table Talk [Tamala Burdett] 1:42
 (Scat Vocal, Clarinet, Trumpet, Piano, Bass, Drums)
2. Happiness Is Just A Thing Called Joe [Arlen, Harburg] 2:20
 (Vocal, Piano, Cllasical Guitar, Bass, Drums)


2022年1月頃YouTubeにアップされたシアトルの放送局KOMOの1967年テレビ番組の動画は、チャック・マハフェイ率いるグループ、ザ・インディヴィジュアルズの演奏映像で、そこには若きラルフ・タウナーがピアノとギターを弾く姿があったことで、ファンの間で話題となった。その模様については、「その他 映像・音源」の部 「KOMO TV Seattle 1967」というタイトルで詳く述べたが、その中で彼らが発表したレコードの宣伝をして演奏するシーンがあり、それがラルフのレコード・デビューとなるシングル盤だったのだ。

その内容はレコード、CDのデータベース・サイト Discogsで確認することができた。21 Recordsというシアトルのインディ・レーベルからの発売で、A面が「Table Talk」、B面が「Happiness Is Just A Thing Called Love」。レーベル上には「Ralph Towner」の表示がある。同データベースによると、21 Recordsからは他のジャズ・アーティストによるLP、EPが出されていたようで、その全てのプロデューサーがチャック・マハフィーであることから、彼がオーナーだったと推測される。希少盤ということで高値を呼んでおり、テレビ番組の動画で上記の2曲を演奏しているシーンがあるので、まあこれで十分かなとしていましたが、約2年後に思い切って購入しました。半月後に届き、針を降ろして聴いた時は年甲斐もなく興奮しましたが、期待以上の内容でした。

同グループは、レストラン、カフェなどで食事中の客へ音楽を提供するというラウンジ・ミュージックのスタイルで、客の会話や社交を妨げないジャズを演奏している。そのため穏やかなプレイになっているのだが、両曲の間奏におけるラルフのピアノソロは、彼が敬愛するビル・エバンスのスタイルで、繊細かつ綺麗な音使いでありながら、軽やかさとアグレッシブが見事に共存した素晴らしいプレイ。彼のピアノ演奏は、この頃既にかなり出来上がっていたということだ。ベースを弾くタミー・バーデッドの作品1.「Table Talk」における彼女のスキャット・ボーカルもコケティッシュ。面白かったのは、レコードでは、アンサンブルの部分でチャックのクラリネットとラルフの弱音器をつけたトランペットがオーバーダビングされていたこと。1分42秒という短い時間のなかにぎゅっと凝縮された美しさがある。2.「Happiness Is Just A Thing Called Joe」はハロルド・アーレンの曲。1943年のミュージカル映画「Cabin In The Sky」のために書かれ、エセル・ウォータースが歌った。その後はペギー・リー、エラ・フィッツジェラルド、ジュディ・ガーランド等がカバーし、近年ではベット・ミドラーやシェールが歌っている。ここではボサノヴァのリズムを刻むラルフのギターがオーバーダビングされている。

上記の動画公開により、ベースを弾きながら歌う女性タミー・バーデットが話題になった結果、彼女のインタビュー記事が公開され再評価された結果、後年彼女が出した音源が2022年に「Fancy Free (The Voice Of Songs Of Tammy Burdett)」というタイトルで再発された。以下インタビューにおける彼女の発言。彼女はシアトル生まれでクラシック音楽家の両親のもとで育った。中学校の頃からベースを弾き始め、最初はクラシックを習った。チャック・マハフェイに誘われ、プロとして働き始めた。彼に勧められて歌うようになった。「Table Talk」はピアノの前でふざけていて出来た作品。名づけ親はチャックで、ステージのテーマ曲になった。ラリー・コリエルの後任者が1年後に徴兵されたため、ラルフが加入した。当時イヴァール・ハグランド (Ivar Haglund 1905-1985) が経営するレストランで演奏をしていて、ラルフ加入後の演奏の評判が良く、客が入るようになった。ミュージシャンでもあり、ギターが弾けたイヴァールは、ラルフがそれ以上に上手かったことが不愉快で、かつグループが主役になることが許せなくなったため、文句を付けて、彼らを短期間で解雇した(別の記事では、ラルフがラウンジ・ミュージックの演奏家として客に愛想を振りまくことを拒否したためとともあった)。解雇にあたり契約面で喧嘩となり、イヴァールが地元のレストラン業界に影響力を持つ実力者だったため仕事から干され、その結果彼女はロサンゼルスに移住して、その後の音楽キャリアを積むこととなった。

以上の通りザ・インディヴィジュアルズに関する内容がたっぷりあるが、ラルフに関わる言及が僅かしかないのは残念。彼女の音楽キャリアに焦点を当てた内容なのだからしようがないね。これで動画「KOMO TV Seattle 1967」におけるテレビ番組のスポンサーが、「Ivar's Captains Table」というイヴァール・ハグランド経営のレストランであるという背景がわかった。番組の中でも、チャックとバーデットの二人は司会者に愛想よく応対をしているけど、ラルフはシャイな反応で答えも呟きに近い感じ。これでは「愛想ある応対」はとても無理だろうね。真剣にジャズに取り組もうという人がラウンジ・ミュージックをやる難しさがよく出たケースですね〜。

ラルフはその後再びウィーンに渡り(2回目1967〜1968年、1回目は1963〜1964年) 、カール・シャイトからクラシック・ギターを学び、帰国後は活動拠点をニューヨークに構えて、本格的な飛躍を遂げることになる。インタビューによると、1回目の帰国後はジャズピアノとボサノヴァ・ギターの仕事ばかりで、ウィーンで習得したギターの技能が失われそうになったため、ウィーンに戻り鍛え直し、またこの修行によりギターで本格的な作曲ができるようになったとのこと。余談になるが、ギターの先生だったカール・シャイトとは、約9年後にウィーンで行われたオレゴンのコンサートで再会、自分の音楽を熱狂的にほめてくれたので、夢のようだった、その後もソロコンサートに数回足を運んでくれたと語っている。

ということで、今回のシングルと追加情報の入手で、いろいろ面白い事を知ることができました。最後にタミー・バーデットの「Fancy Free (The Voice Of Songs Of Tammy Burdett)」(2022年発売)について。彼女はより上手くパワーアップされたヴォイスで自作の曲を歌っており、「Soft Shoe」など、クレオ・レーンやレイ・ブラウンなどに取り上げられた曲もある。かなり良い出来の曲・演奏と思うので是非聴いてみてください。

[2024年1月作成]

D2 Live At Woodstock (2019) [Tom Hardin] Rhino



Tim Hardin : Vocal, Guitar, Piano
Gilles Malkine : Guitar
Ralph Towner : Piano
Richard Buck: Cello
Glen Moore : Bass
Steve Booker : Drums

1. How Can We Hang On To A Dream [Hardin] 4:29
(Vocal, Piano)
2. Once-Touched By Flame [Hardin] 4:57
(Vocal, Piano)
3. If I Were A Carpenter [Hardin] 5:39
(Vocal, A. Guitar)
4. Reason To Believe [Hardin] 4:42
(Vocal, A. Guitar)
5. You Upset The Grace Of Living When You Lie [Hardin] 5:22
(Vocal, A. Guitar)
6. Speak Like A Child [Hardin] 4:54
(Vocal, Piano, E. Guitar, A. Guitar, C. Guitar, Cello, Bass, Drums)
7. Snow White Lady [Sara Hardin] 15:48
(Vocal, Piano, E. Piano, E. Guitar, C. Guitar, Cello, Bass, Drums)
8. Blues On My Celing [Fred Neil] 10:31
(Vocal, Piano, E. Guitar, A. Guitar, C. Guitar, Cello, Bass, Drums)
9. Simple Song Of Freedom [Bobby Darling] 4:40   
(Vocal, Piano, E. Guitar, A. Guitar, C. Guitar, Cello, Bass, Drums)
10. Misty Roses [Hardin] 4:39
(Vocal, Piano, E. Guitar, A. Guitar, C. Guitar, Cello, Bass, Drums)

Recorded : Woodstock Music Festival 1969 August 15 at Bethel, New York

注: ラルフが参加した曲は、6, 7, 8, 9, 10


ニューヨーク サリバン群べセルにあるマックス・ヤスガー農場で、1969年8月15日(金)から3日間行われたウッドストック・フェスティバルは、当初ウッドストックに住むミュージシャン達のためのスタジオ建設の資金集めのために企画された(なのでそういう名前になった)が、予想を大幅に上回る40万人が集まり、実質フリーコンサートとなり、米国の若者文化の台頭を象徴する歴史的大イベントとなった。子供だった私はこのニュースを聞いて、「アメリカは凄い所だ!」と思った記憶がある。我々日本人は、翌年に公開された映画と3枚組のレコード(当時の私には高額で買える代物ではなかった)、翌々年に発売された2枚組のレコード「Woodstock 2」でその片鱗を拝むことができたが、当時聴いた私は、正直言って、エキサイティングな部分もあるが、全般的に演奏・録音が粗いなという印象だった。

その後1994年に未発表曲を含む4枚組CDが発売され、さらに2009年にライノから、40周年記念として6枚組CD「Woodstock 40 Years On: Back To Yasgur's Farm」が発売され、そこには従来権利関係等で聴くことができなったアーティストが多く収められ、大いに話題となった。そして50周年記念の2019年に、同じライノから CD38枚組、432曲(うち267曲が未発表)という 「The Definitive 50th Anniversary Archive」が発売された。高額かつ 1969セットのみの限定版ということで、ごく僅かな人しか入手できないと危惧されたが、同年 Spotify, Amazon, Appleなどの配信サービスから、アーティスト毎に「Live At Woodstock」というタイトルで配信され、一般の人々も気軽に耳にすることができるようになった。メデタシ......

ラルフがティム・ハーディン (1941-1980)のバックとして、ウッドストックで演奏していたという事実を知ってる人はあまりいないだろう。ティムが同フェスティバルに参加したという事は知っていたが、彼の演奏を聴くことができたのは、ずっと後の1994年で、しかも弾き語りによる 3.「If I Were A Carpenter」1曲のみだった。そして2009年の再発で 9.「Simple Song Of Freedom」が加わり、そこでラルフを含むバックバンドの演奏を初めて耳にすることができ、本ホームページにもその旨書き込んだ。その際、このトラックを聴く限り、あまり良い印象がなかったので、ネガティブな内容になった。そして、2019年の配信で、ティム・ハーディンによる約1時間のパフォーマンスの全貌が明らかになり、私の理解にも多くの誤りが見つかったので、全面的に書き直すことにした。

ティムは1980年にヘロイン接種過剰で亡くなっているため、彼のステージの模様については、バックを務めたミュージシャンなどへの取材が主なソース(私が読んだのはドラムスのスティーブ・ブッカーへのインタビューだ)となる。しかしラルフに関しては、今までのインタビューやプロフィール紹介などで、本イベント参加への言及が一切なく、彼としては、単なる畑違いの伴奏に過ぎず、忘れたい思い出なのかもしれない。当日ティムは、初日の最初に出演の予定だったが、会場を埋めつくすオーディエンスに圧倒され、もともと舞台恐怖症だった彼は完全に怖気づいてしまったという。結局リッチー・ヘブンスが皮切りを務めて圧倒的なプレイで評判をとることになった。ティムはというと、気持ちを落ち着かせるために飲酒と(恐らく)クスリに耽溺し、その結果精神・肉体とも完調とは言えない状態で、夜 8:30〜9:00頃スタートのステージに立つことになった。彼の演奏はヨレヨレだったという評判を聞いていたが、ピアノ弾き語りによる 1.「How Can We Hang On To A Dream」、2.「Once-Touched By Flame」を聴く限り、そんな感じはない。しかし正常な状態でなかった事は確からしく、内向きでヒリヒリするような痛みを伴うような歌唱だ。スタジオ録音と歌詞・歌いまわしがかなり異なり、自分の音楽をジャズとしていた彼らしい自由なプレイ。

ギターに持ち替えて歌う 3.「If I Were A Carpenter」は、1968年にボビー・ダーリンが全米8位のヒットを飛ばしただけあって、歌い始めるとオーディエンスから拍手が起きる。よく聴くと伴奏のギターがなかなか巧みで、雨降る暗い夜のなか、大観衆の前で一人でよく演るもんだなと思う。4.「Reason To Beleive」はロッド・スチュアート、カーペンターズのカバーでおなじみの曲。このあたりでは彼は大分ほぐれてきたようで、途中で演奏を中断して聴衆に語りかけている。5.「You Upset The Grace Of Living When You Lie」の後、バンドが登場し、ティムがメンバー紹介。そこではラルフの事を「リード・クラシカル・ギター」と言っている。何故かギターのジャイルス・マルキンのみ紹介されていない。6.「Speak Like A Child」の伴奏は、最初はティムのギターが中心で、途中からチェロが加わり(他の曲ではチェロはあまり聞こえない)、後半からラルフのクラギによるオブリガードが僅かであるが聞こえる。ジャイルズのギターは、リズム担当のようで目立たない。

7.「Snow White Lady」は、奥さんのスーザンが書いた曲という資料があったが、私は知る限りティムによる演奏はウッドストックでののみ。意外にもストレートなブルースで、彼はピアノまたはエレクトリックピアノを弾いている。15分を超える長い演奏で、ここではラルフのギターがかなり頑張って音を入れている。エレキギターによるギンギンの演奏でないので、迫力では損をしているが、ラルフがオーセンティックなブルースをプレイする事は他にないので、ファンにとってはとても美味しい曲。ただし、リハーサル不足のようで、歌手と伴奏者達のギャップが大きく、最初の部分で戸惑いがあったのは明らか。それでも演奏が進むにつれて、慣れてゆくのはさすが。ブルースの割には盛り上がりがなく何処か醒めた感じがするが、それはそれでユニークな雰囲気といえる。ティムによるアドリブたっぷりのジャジーなボーカルも聴きごたえある。フレッド・ニール作で、当時ジュディ・ロデリックという人が録音した 8.「Blues On My Celing」も長い曲。ここでは珍しくグレンのベース音が聞こえる。ラルフのギターは前半ほとんど目立たない、後半ではオブリガードが聞こえる。 9.「Simple Song Of Freedom」はボビーダーリン作で、当時シングル・チャートインしていた曲(全米50位)。ここでのラルフの演奏は控え目。最後の 10.「Misty Roses」は美しい曲で、ラルフが綺麗な伴奏をつけているので聴きもの。

ティムのステージの後の金曜日は、深夜に向けてラヴィ・シャンカール、メラニー、アーロ・ガスリー、ジョーン・バエズと続いてゆく。

コンサート開催後50年が過ぎて初めて、当時無名だったラルフの演奏の全貌が明らかになり、その内容は予想以上に面白いものであった。

[2021年10月作成]

[2024年1月追記]
ラルフがウッドストックに言及した2017年のインタビューを見つけました。以下要約です。フォーク・フェスティバルにおけるティム・ハーディンの伴奏ということで会場に向かったが、実際はウッドストック・フェスティバルで、最後はヘリコプターで運ばれた。上空から50万近い人を見た時はかなりの衝撃を受けた。このフェスティバルで重要な事は音楽ではなく、それが起こったということ。そしてそれが善意で完全に自発的だったことだ。その魔法を繰り返すことは不可能で、その後のイベントはすべて金儲けのためのものになった。


 
D3 I Don't Care Who Knows It (1996) [Duke Pearson] Blue Note 
 
D1 I Don't Care Who Knows It

 
Duke Pearson : Electric Piano
Bobby Hutcherson : Vibes
Burt Collins : Trumpet
Jerry Doggion : Alto Sax
Lew Tabackin : Tenor Sax
Al Gibbons : Flute
Ralph Towner : C. Guitar
Wally Richardson : E. Guitar
Bob Cranshaw : Bass
Micky Roker : Drums
Airto Moreira : Percussion
Andy Bey : Vocal

1. I Don't Know [Airto Moreira] 6:58
(Vocal, Trumpet, Flute, E. Piano, Vibes, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
2. Captain Bacardi [Antonio Carlos Jobim] 5:47
(Trumpet, Sax, Flute, E. Piano, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
3. Dialogo [Antonio Carlos Jobim] 3:34
(Flute, Piano,Vibes, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)

録音: 1969年11月21日 A&R Studios, New York City

写真上: I Don't Care Who Knows It 表紙
写真下: Mosaic Select 8 表紙


デューク・ピアソン(1932-1980)は、ジャズの名門ブルーノート・レーベルでピアニスト、アレンジャー、プロデューサーとして活躍した人で、ドナルド・バード、スタンレー・タレンタイン、ウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、ハービー・ハンコックなど多くのアルバムに名を連ねている。本作は、ハードバップ・スタイルを身上とする彼が、アイルート・モレイラなどブラジル人アーティストを迎えてラテンジャズに挑戦した1枚。ただし録音当時はお蔵入りになっていた1968〜1970年の録音を集めて、1996年に発表したものだ。本作には4人のギタリスト(アコースティック)が名を連ねているが、ラルフが参加したセッショから2曲収録された。マイケル・フィッツジェラルド氏によるデューク・ピアソンの詳細極まりないディスコグラフィーによると、当該セッションは1969年11月21日録音とある。別の資料でラルフの参加曲として「Xibaba」をあげるものもあるが、当該ディスコグラフィーでは別のセッションでの録音となっている。

ラルフは、ブラジリアン・スタイルのギタリストとして、リズムに徹した演奏に終始している。それでも演奏パターンは変化に富んでいて、彼らしい自己表現意欲が感じられる。1.「I Don't Know」は、2コードからなるシンプルな音色に対し、リズムが圧倒的に押している。アンディ・ベイがスキャット・ボーカルを披露、その自然な歌声はブラジル人のように聞こえるが、実際はアメリカ生まれのジャズ・ボーカリストで、ホレス・シルバーやマックス・ローチ等の作品に参加している。ミッキー・ローカー、アル・ギボンズ、バート・コリンズ等は、デューク・ピアソンに縁のある人たちだ。ボビー・ハッチャーソンは、バイブ奏者として当時ゲイリー・バートンと並ぶ存在。ラルフはフィンガー・ピッキング以外にコード・ストロークでも演奏している。2.「Captain Bacardi」は、アントニオ・カルロス・ジョビンがクリード・テイラー率いるCTIレーベルに残した名盤「Wave」1967に収められていた曲のカバーで、ここではクラウス・オーガマンのオリジナル・アレンジを、ほぼそのまま再現している。ボサノバにジャズとロックのサウンドを取り入れた、当時は大変斬新なサウンドだった。アイルート・モレイラによるビリンバウの演奏が最高に生き生きしている。ラルフのギター演奏は、オリジナルのジョビンよりもアグレッシブで、聴き応えがある。デューク・ピアソンはエレキピアノを弾いているが、ソロはフルートなどに任せて、バックのサウンド作りに専念している。

ラルフのギターは、ソロを取る場面もない地味な演奏であるが、よく聴くと通常のリズムギター奏者にない事をやっており、それなりにユニーク。

その後2003年にモザイク・レーベルからデューク・ピアソンの3枚組CDセットが発売され、上記セッションの1.2.に加えて、「I Don't Care Who Knows It」に収められなかった 3.「Dialogo」も収録された。3.「Dialogo」も2.と同じく、アントニオ・カルロス・ジョビンの「Wave」1967に入っていた曲で、原曲のアレンジに忠実な演奏だ。スローでメロディアスな曲で、ゆったりとリズムを奏でるギター、落ち着いたタッチのピアノの響きが美しい。どうしてこんな曲が長い間発表されなかったのか理解できない。ちなみに上記のディスコグラフィーによると、当該セッションは全部で4曲録音されたそうで、残りの1曲「Come On Over, My Love」は、いまだに未発表。

[2011年10月追記]

当初の記事では、「I Don't Care Who Knows It」が1968年にLPで発表されたと書きましたが、間違いであることが確認できたので、書き直しました。また「Mosaic Select 8」を聴くことができたので、3.「Dialogo」を追加しました。

[2022年4月追記]
当初、本盤を「ラルフ初レコーディング」と書きましたが、その後1967年頃シアトルで発売されたチャック・マハフィーのシングル「Table Talk」 D1が初めてであることが分かりましたので、修正しました。チャック・マハフィーについては、「その他 映像・音源(ラルフ・タウナー)」の「KOMO TV, Seattle」 1967を参照ください。



D4 Road   (1970) [Paul Winter Consort]  A&M


D3 Road

Paul Winter: Sax
David Darling: Cello
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar
Paul McCandless: Oboe, English Horn
Collin Walcott: Tabla, Conga, Surdos, Traps, Tamboutine
Glen Moore: Bass

[Side A]
1. Icarus [Towner] 4:30  O12 O16 O23 R2 R3 R25 D7
(Sax, Horn, 12St. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
2. Fantasy, Fugue & Ghost Beads  7:05
  a Fantasy [Mudarra, Arranged By Towner]
  b Fugue [Bach, Arranged By Winter, McCandless]
  c Ghost Beads [Towner]
 O4
(Sax, Horn, C. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
3. Un Abraco [Towner] 4:20
(Sax, Horn, C. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
4. Ave Maria Stella - Andromeda 8:14
  a Ave Maria Stella [Dufay, Arranged By Winter, McCandless]
  b Andromeda [Winter]
(Sax, Horn, C. Guitar, Cello, Bass, Percussion, Voice)

[Side B]
5. General Pudson's Entrance [Towner] 5:50
(Sax, Horn, 12St. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
6. Come To Your Senses [Winter, Darling, Towner, McCandless, Walcott, Moore] 6:41
(Sax, Horn, Flute, Cello, Bass, Percussion, Voice)
7. Requiem [Darling] 7:30
(Cello, Bass, Voice)
8. Africanus Brasileiras Americanus 8:10
  a Kalagala Ebwembe [Trad. Ugandan Amadinda Song, Arranged by Winter]
  b Asa Branca (Winter Song) [Gonzaga, Arranged by Oscar Castro Neves]

(Sax, Horn, Cello, Bass, Percussion, Voice)

Miscellaneous Percussion & Voices played by all

Produced By Phil Ramone
Recorded in concerts at Royce Hall, U.C.L.A., Kilbourn Hall, Eastman School of Music, Rocehster, N.Y., Whiskey a Go Go, Hollywood


ポール・ウィンター (1939- )は、プロデューサーのジョン・ハモンド(ビリー・ホリデイ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンを発掘した人)に認められ、1961年にコロンビアレコードからジャズサックス奏者としてデビュー、1962年に米国政府主催による文化交流行事として南米ツアーに参加、ブラジル音楽に傾倒し、ルイス・ボンファなど地元ミュージシャンとの共演盤を製作する。その後もあらゆる音楽に対する興味は広がり、フォーク・ミュージシャンのピート・シーガーやポール・ストゥーキー(ピーター・ポール・アンド・マリー)に影響され、ポール・ウィンター・コンソートを結成した。「コンソート」とは、管・弦・打楽器を駆使したシェイクスピア時代の楽団の意味だ。1968年にはザトウクジラの声を聴き「地球の魂」を感じ、以後自然と音楽の共存を目指し、グランドキャニオンなど各地の自然遺産でコンサートを開くなど独自の地位を確立した。本作はコンソートとしては3作目で、タウナー、ウォルコット、ムーアは3者パッケージで参加した(マッキャンドレスは前作からメンバーだった)という。ジャズ、ロック、フォーク、クラシックのジャンルを超え、民族音楽をも取り込んだその音楽は当時は画期的で、後に市民権を獲得し、ひとつのジャンルとなるワールド・ミュージックの先駆的存在ともいえる。本作は各地のコンサートの模様を収録した実況録音で、プロデューサーは当時ジャズ音楽界でエンジニアとして活躍、その後ポール・サイモン、フィービー・スノー、シカゴ、バーバラ・ストレイサンドなどで成功したフィル・ラモーンだ。チェロのデビッド・ダーリング(1941-2021) については、ラルフのソロアルバム「Old Friends, New Friends 」1978 R8 をご参照ください。

本作が初発表となる名曲
1.「Icarus」は、翼を付けて空を飛んだイカルスが、太陽に近づいたために蝋が溶けてしまい、羽がとれて落ちてしまうというギリシア神話にちなんだもの。未知のものに対する憧れ、挑戦への前向きな気持ちに満ち、飛翔感・浮遊感にあふれた稀有な曲で、作曲家として当時から完成の域にあったことを示すものだ。ポール・ウィンターのインタビューによると、当初ラルフはクラシック・ギター一辺倒で、彼が薦めた12弦ギターには消極的だったという。そこでジョニ・ミッチェルのレコードを聴かせたところ、すぐにこの曲を作ったとのこと。ラルフの弾く12弦ギターのイントロがワクワクするような生気に溢れ、チェロがテーマ・メロディーを奏で、ソプラノサックスとオーボエが音の空間に広がりをもたらすアレンジが本当に素晴らしく、何度聴いても陶酔感を覚える。曲の存在・スケールが大きいので、アンサンブル中心の演奏で十分な感じで、インプロヴィゼイションは控えめ。この曲はその後もラルフまたはオレゴンの18番として繰り返し演奏され多くの人に愛されている。

2.は3曲のメドレー。a.「Fantasy」は古典的な舞曲で、クラシック・ギターとチェロによるバロック調の演奏。b.「Fugue」はバッハのフーガで、ホーン中心に対位法の演奏がされる。一方ラルフ作のc.「Ghost Beads」になると、俄然モダンな感じとなり、ギターのハーモニクス、タブラ、ベースなどの音が飛び交う。ここでの演奏は、後のオレゴンに見られるような自由な開放感はなく、規律を重んじた大人しいものだ。途中のギター独奏は、若さが感じられるものの、そのスタイルは後のものと同じだ。彼のスタイルが基本的に最初から確立されていて、大きく変化していないことを物語っている。なおこの曲は1974年オレゴンの「Winter Light」 O4で再演された。
3.「Un Abraco」はタンバリン、コンガなどのリズムがサンバで、メロディーも極めてブラジル風だ。本作では各曲に「何々音楽風」という雰囲気が残っているのが、オレゴンとの大きな相違点と言える。4. 「Ave Maria Stella - Andromeda」はホーン隊による宗教音楽風の演奏から始まり、リズム隊が加わる。ここでのコリンの演奏は、バスドラムが聞えるので、ドラムセットを使用しているようだ。途中ホーンによる無伴奏のフリーな演奏があり、デビッド・ダーリングのチェロが前衛的なソロを披露する。盛り上がったところで、奇声を上げ、それが合図となってウィンター作の短いアンサンブル「Andromeda」になだれ込む。ここまでの観客の反応はおとなしく、クラシックのコンサートのようだ。

5.「General Pudson's Entrance」の曲自体はシンプルで、途中ベースとタブラの掛け合いが楽しめるが、何処か印象が薄い感じがする。それでもここでは聴衆から大きな拍手と歓声が起きる。
6.「Come To Your Senses」は「この曲がどうなってゆくのか我々にもわかりません。心を無にして感じてください」とアナウンスが入り演奏されるフリーピース。ラルフのギターが聞えないけど、パーカッションなどで参加しているのかな?7.「Requiemはデビッドにより、「ベトナム戦争で亡くなった親しい友人に捧げます」というアナウンスがあり、重々しくメラコリックなチェロの独奏から始まる。途中彼のヴォイスやベースが加わる場面もあり、だんだん盛り上がって最後は複数のヴォイスによる狂ったような叫びとなり、突如死の静寂に戻る。ベトナム戦争の終結が1975年(アメリカ人のサイゴン市からの撤退)であることを考慮すると、この作品の当時ベトナム戦争が人々の心に重くのしかかっていたことがわかる。8.「Africanus Brasileiras Americanusはアフリカ、ブラジル、アメリカ音楽をごった煮にしたような曲で、カリンバ、アジア風の木琴、タムタムなどの様々なパーカッションが活躍し、開放感あふれる演奏そしてエンディングはメンバーによるヴォイスが加わって賑やかに終わる。ずっと後にパット・メセニー・グループがやった事を本作は先取りしているところがすごい。

ということでオレゴンと比較すると、いろんな意味で物足りなく感じてしまうのだが、その先駆者として当時は十分なに衝撃的な作品だったわけで、その片鱗は現在聴いても伺い知るこ
とができる。ジャケットのイラストがサイケデリック、カラフルで面白い。ちなみに1971年7月に打ち上げられたアポロ15号の宇宙飛行士が本作を持参して月面に到達、クレーターに「Icarus」、「Ghost Beads」と命名し話題となったのは今は昔の話 (デビットの兄弟が、当時NASAで働いていた縁だったらしい)。


D5 Cyrus  (1971)  [Cyrus Faryar]   Electra


D4 Cyrus

Cyrus Faryar : Guitar, Vocal
Ralph Towner : Guitar, Mellophone
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass
Collin Walcott : Percussion
Bryan Garofalo : Bass, Percussion
Danny Durako : Percussion
Mary Newkirk : Harp


1. Softly Through The Darkness [Cyrus Faryar] 4:49

(Vocal, A. Guitar, C. Guitar, Bass, Drums, Tabra, Percussion, Harp, Oboe, English Horn, Bass Clarinet, Mellophone, Brass)


コリン・ウォルコットUCLA在籍時代の友人であるサイラス・ファーヤーのソロアルバムに参加したものこれはオレゴンの4人(当時はグループ名がまだ決まっていなかった)が、ポール・ウィンター・コンソートのメンバーとして参加した「Road」D4のコンサートの直後、オレゴン最初の音源(1980年に「Our First Record」 O1として発売)と同時期の1970年夏に、ロスアンゼルスのサイラスの自宅スタジオで録音されたもの。その建物は豊かな自然の中にあり、皆から「Farm」と呼ばれていた。オレゴンの4人がバックを担当するサイラス名義のソロアルバムという当初の企画は頓挫したが、後にクロスビー・アンド・ナッシュ、キャス・エリオット、ラス・カンケル、クレイグ・ドルギーなどウェストコーストのミュージシャンをバックに製作された本作に、オレゴンのメンバーとの録音2曲が収録された。ハワイ生まれのサイラス・ファーヤーは、キングストン・トリオの創立メンバーだったデイブ・ガードと親交があり、モダーン・フォーク・カルテットなどで活躍したが、本人の活動自体は地味で、ママス・アンド・パパスのキャス・エリオットやリンダ・ロンシュタットのレコーディングに参加した他、主にプロデューサーなどの裏方で活躍した人だ。

1.「Softly Through The Darkness」はサイラスのコードストロークによるギターを中心とし、コリンのタブラとラルフのナイロン弦ギターのアルペジオによるイントロから、ビューティフルな雰囲気に溢れた曲だ。サイラスによる低いバリトン・ヴォイスは、ほどほどにダーク、メランコリーで大変魅力的。終盤からドラムスがフィルインしてアップテンポとなり、ポールによるホーンやクレジットにはない分厚いコーラス隊が加わって盛り上がって終わる。精神的にはポール・ウィンター・コンソートとオレゴンの中間に位置するもの。ちなみに本曲以外に、「Companion」という曲で、コリンとグレンが参加している。

もともと商売気や野心がなかった人のようで、完成記念パーティーで親しい友人を招き、本作の宣伝予算を使い切ってしまったという。他の曲も、バックミュージシャンとの連帯感が感じられる出来で、いぶし銀のような魅力がある。彼はその後1973年に「Islands」というソロアルバムを出している。本作はマニアの間でコレクターズアイテムとして珍重されてきたが、2006年にCollector's Choice MusicというレーベルからCD化され、私もやっと耳にすることができた。

[2007年7月作成]


D6 Bird On A Wire (1971)  [Tim Hardin]  Columbia


D5 Bird On A Wire


Tim Hardin : Guitar, Vocal
Bill Chelf : Keyboards, Arragement
Ralph Towner : Guitar
Glen Moore : Bass
Collin Walcott : Vibes
Richard Bock, George Ricci : Cello

1. Andre Johray [Tim Hardin] 2:48
(Vocal, Keyboards, A. Guitar, C. Guitar, Bass, Vibes, Cello)


1960年代後半にデビューし、1980年麻薬過剰摂取により亡くなったティム・ハーディンは、ボビー・ダーリンやジョニー・キャッシュが歌った「If I Were A Carpenter」や、グレン・キャンベルやカーペンターズ、ロッド・スチュワート等がカバーした「Reason To Believe」の作者として音楽史に名を残しているが、自身優れたシンガーとして多くのソロアルバムを残している。本作は7枚目の作品で、ポール・マッキャンドレスを除くオレゴンの連中が1曲参加している。その他の曲では、ウェザー・リポートのジョー・ザウィヌルの参加が目玉だ。

精神的な苦悩が感じられる作風と歌声と、ジャズのメランコリーなサウンドがマッチした作品の中、1.「Andre Johray」は彼の語りから始まる一風変わったサウンドの曲。ここでの音はニューエイジ(当時なかった言葉)というか、ポール・ウィンター・コンソート風で、ラルフのナイロン弦のアルペジオも控えめだ。

ラルフ・タウナーとティム・ハーディンの関係で特筆すべき事は、1969年8月15〜17日に開催されたウッドストック・フェスティバルへの出演(D2参照)だ。その模様は、バックを担当したドラム奏者スティーブ・ブルッカーのインタビューで、ティムは当時クスリ漬けで、リハーサルに顔を出さなかったこと。親切だったが、エキセントリックな行動の様が語られている。



D7 Icarus  (1972)  [Paul Winter Consort]   Epic


D6 Icarus


D6 Icarus CD Version









Paul Winter: Soprano Sax, Vocals
David Darling: Cello, Vocals
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Steel String Guitar, Piano, Regal. Bush Organ, Vocals 
Paul McCandless: Oboe, English Horn, Contravass Sarrusophone
Collin Walcott: Tabla, Conga, Surdos, Traps, Kettledrums, Bass Marimba, Sitar
Herb Bushler: Fender Bass

Andrew Tracy: Resonator Guitar, African Drum (9)
Billy Cobham: Traps (4,6)
Milt Holland: Ghanaian Percussion (6)
Larry Atamanuik: Traps (1)
Barry Altschul: Randam Percussion (8)

Andrew Tracy, Janet Johnson, Paul Stookey, Bob Milstein, David Darling, Pauk McCandless: Chorus (9)


[Side A]
1. Icarus [Towner] 3:02   O12 O16 O23 R2 R3 R25 D4
(Horn, 12St. Guitar, Cello, Bass, Drums, Percussion)
2. Ode To A Fillmore Dressing Room [Darling] 5:32
(Horn, C. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
3. The Silence Of A Candle [Towner] 3:22 O2 O5 O20 R2 D27 D40
(Vocal, Piano, Cello, Bass, Percussion)
4. Sunwheel [Towner] 4:52
(Horn, 12 St. Guitar, Cello, Bass, Drums, Percussion)
5. Juniper Bear [Towner, Walcott] 3:10
(12St. Guitar, Tabla)

[Side B]
6. Whole Earth Chant [Winter] 7:42
(Horn, 12 St. Guitar, Organ, Cello, Bass, Drums, Percussion, Voice)
7. All The Mornings Bring [McCandless] 3:48  O23
(Horn, 12 St. Guitar, Cello, Bass, Drums, Percussion)
8. Chehalis And Other Voices [Towner]  5:26
(Horn, C. Guitar, Cello, Bass, Percussion)
9. Minuit [Keita Fodeba, Adaption By Winter] 3:06
(Guitar, Percussion, Sitar, Vocal, Voice)

George Martin: Producer

注)上の写真: オリジナルのレコード盤、
  中の写真:  CD再発盤の表紙、
           見開きレコード・ジャケット内部(使用楽器の写真)
  下の写真:  レコード中袋


ニューエイジ音楽の先駆け、古典として位置付けられる作品で、ポール・ウィンターの自然志向のイメージを決定付けた作品でもある。海辺の地で、グループ合宿しながら時間をかけて音作りを行い、ビートルズの仕事で名声を得たジョージ・マーチンをプロデューサーに迎え録音。ジョージ・マーチンは当時、「私が製作した最高の作品」と表明したという。世界各地の様々な音楽を取り入れている点で、ワールド・ミュージックの原点とも言える。50年も経った今聴くと、アンサンブルなどをキッチリ作り込んだ分、後に展開されるオレゴンの自由な音楽に比較すると窮屈な感じがするが、発売当時は野心的な作品であり、新鮮な音楽に聞こえたはずで、現代の視点から本作に対して文句を言うのはアンフェアーだろう。この作品ではグレン・ムーアの名はなく、ジャズ界でサイドマンして活躍し、トニー・ウィリアムス、ギル・エバンス、デビッド・サンボーン、マイケル・フランクスなどのセッションに参加していたハーブ・ブッシュラーがエレクトリック・ベースを担当している。

アルバムはラルフの不朽の名作 
1.「Icarus」から始まる。ここでの演奏は、特定の楽器のソロはなく、各メンバーの合奏による交響曲のような演奏だ。おなじみの12弦ギターのイントロからチェロがテーマ・メロディーを演奏し、ホーンのアンサンブルがスペイシーな上昇イメージを展開する。ここでドラムスを演奏しているラリー・アタマニークは主にカントリー音楽界で活躍している人で、シートレイン、リンダ・ロンシュタット、エミールー・ハリス、アリソン・クラウスなどの録音で名を見つけることができる。エンディングでチェロの弦を擦る音がシンセサイザーのような音を出している。2.「Ode To A Fillmore Dressing Room」は弦楽器とホーンのアンサンブルによる導入部から、コリンのシタールとラルフのギターが哀愁を帯びたメロディーを奏でる。後半はシタールがドローン弦をフルに鳴らしながら大活躍するのが聴きもの。最後にアンサンブルのテーマが再演される。3.「The Silence Of A Candle」はラルフがリードボーカルを取る珍品!!お世辞にも上手くはないけど、ピアノの伴奏に合わせて一生懸命歌っている。曲自体としてはサラッとした出来だ。4.「Sunwheel」は、エコロジーに対するスピリチュアルな思いが伝わってくる曲。フュージョン音楽界最高のドラマーの一人であるビリー・コブハムがドラムス、パーカッションを担当し、スケールの大きいパワフルな曲に仕上がっている。途中の間奏で、ラルフによるオルガンソロが楽しめる。5.「Juniper Bear」は、ラルフの12弦ギターとコリンのタブラが中心で、エキゾチックな雰囲気の曲だ。ハーモニクスの多用や、テクニカルな演奏は当時からお手のものだった事がわかる。

6.「Whole Earth Chant」は、色々な世界の音楽が交じり合ったサウンドで、オルガンと思われるシンセサイザーのようなメロディーとそれに続くチェロ、ホーンのソロ、後半のコレクティブ・インプロヴィゼイションによる怒涛のサウンドが凄い。エンディングのアフリカっぽい打楽器の響きが不思議な印象を残す。
7.「All The Mornings Bringはポール・マッキャンドレスの曲で、テーマ、ソロとも彼のソロがたっぷりフィーチャーされる。本作のなかでは最もオレゴンらしい曲であるが、ビリー・コブハムのドラムスとハーブ・ブッシュラーのエレキ・ベースによるリズム・セクションが独自のムードを醸し出している。8.「Chehalis And Other Voices」、クラシックギター中心の曲。アンサンブルとの掛け合いの後、途中でギターによる独奏のパートがある。現代クラシック音楽的な曲。9.「Minuit」は、ポールウィンターによるボーカルとバックコーラスがメインの曲で、アフリカ調のメロディーが面白い。当時としては画期的だったはず。コーラスにはポール・ウィンターと親交があった、ピーター・ポール・アンド・マリーのポール・ストゥーキーの名前が見られる。

ポール・ウィンター名義であるが、作曲・演奏・アレンジの重要な部分をラルフ・タウナーが担当している作品。

[2022年1月追記]
本LPの初期販売分には、レコードを収める所定の中袋がついていたことが分かりました。表面には 3.「The Silence Of A Candle」の歌詞と、フランス語で「Midnight」を意味する 9.「Minuit」は、西アフリカのギニアの音楽が元になっていて、「真夜中は胸中のよう、真夜中は安らぎ」という歌詞で、胸の中で感じる内なる光と夜の安らぎを歌った曲という、ポール・ウィンターのコメントが掲載されている。裏面には、見開きジャケットの中の使用楽器の写真の説明があり、そこには各楽器のモデル名が記されていて、ラルフの使用楽器では、クラシック・ギターがホセ・ラミレス、12弦ギターがギルド、スティール6弦ギターがマイケル・グリアン製となっている。


D8 I Sing The Body Electric (1972)  [Weather Report]  Columbia



Ralph Towner : 12st. Guitar
Josef Zawinul : Keyboards
Wayne Shorter : Horns
Miroslav Vitous : Bass
Eric Gravatt : Drums
Dom Um Romao : Percussion

1. The Moors [Wayne Shorter]  4:41
(12st. Guitar, Synthesizer, Horn, Bass, Drums, Percussion)

Recorded November 1971


マイルス・デイビスの革新的な作品「Bitches Brew」(1970)に参加したジョー・ザウィヌル(1932-2007)とウェイン・ショーター(1933- )が中心となり、1970年に結成されたグループ、ウェザー・レポート初期の作品に、ラルフが1曲ゲスト参加している。このグループは、当初マイルスの音楽の流れを汲むコレクティブ・インプロヴィゼイションを音楽スタイルとしていた。後年ジャコ・パストリアスやピーター・アースキンの加入により、アーティスティックなレベルを落とさずに商業的成功を収めることになるが、本作の発表当時は難解で気難しい音楽を志向していた時期だった。オレゴンは、デビュー当初はアコースティックな楽器にこだわったのに対し、ウェザーレポートは初めからシンセサイザーやエレキベースなどの電気楽器を積極的に取り入れていたが、両者の音楽性の根底には共通点があったと思う。オレゴンはその後も地道な活動を続け、「知る人ぞ知る玄人受けのグループ」となり、一方ウェザー・レポートはアルバム「Heavy Weather」や曲「Birdland」の大ヒットにより、「フュージョン音楽界トップのスーパーグループ」となったわけで、音楽界における陰日向の関係と言えるだろう。

ラルフ・タウナーがゲスト参加した1.「The Moors」は、彼の12弦ギターの独奏から始まる。少し荒っぽい感じもするが、若さと意気込みが感じられる演奏。途中からバンドがフィルインして、コレクティブ・インプロヴィゼイションとなるが、そこでもラルフはコード、メロディー演奏でしっかり弾いている。でも当時のシンセサイザーの音が古臭く感じられ、何だか野暮ったい感じがするのは、ここ30年の電子楽器の驚異的な発展を考えると、しようがないだろう。

ラルフのインタビューによると、グループ結成前、ミロスラフ・ヴィウトスとジャムセッションしたことがきっかけで、彼の紹介でウェイン・ショーターと知り合い、後のレコーディングに招待されたという。スタジオでのラルフは緊張のため、最初はうまく弾けなかったが、休憩時間中に練習で一生懸命弾いた演奏が知らずに録音され、それがそのまま使われたというエピソードが語られている。また愛用の12弦ギターが盗まれたばかりだったので、借りたギターを使用したとのことで、そのためかいつもと異なる音になっている (2021年追記)。

作品自体は、東京でのライブ演奏とスタジオ録音からなり、今ひとつまとまりに欠けるため、同グループのなかでもあまり評価が高くない作品となった。エイリアンの解剖図のようなジャケットのイラストが不気味。


 
D9 Add A Little Love (1972) [Gerri Granger] United Artists  

 
 
Gerri Granger : Vocal
Ralph Towner : Classic Guitar
Michael Horowitz : Acoustic Guitar
Wally Richardson, Carl Lynh, Joe Beck, Rotchie resnicoff : Guitar
Coleridge T. Perkinson, George Butcher, Richard Tee : Piano
Her Bushler : Bass
Billy Cobham, Jimmy Johnson : Drums
Omar Clay, Susan Evans, Warren Smith : Percussion

Dollette McDonald, James Harris, Janice Key, Yvette Glover : Back Vocal

David Horowitz : Producer

7. Peace Train [Cat Stevens] 4:42


ゲリ・グランジャーは、ニューヨークやニュージャージー州などで活動したノーザン・ソウル歌手。1960年より1970年代まで様々なレーベルからシングル盤を出し、ジョニー・カーソン・ショーやエド・サリバン・ショーなどのテレビ番組にも出演したが、全米100位以内にチャートインすることがなく終わった。しかしR&B、ソウル音楽界では一定の成果を上げていたようで、1962年の「Don't Want Your Letters」 (エルビス・プレスリーの「Return To Sender」のアンサーソング)や、フランキー・ヴァリとは異なるソウルフルなムードの 「Can't Take My Eyes Off Of You」 1975等がある。一方全英では1978年に 「I Go To Pieces (Everytime...)」 が50位を記録している。現在は当時の作品が再評価されているようだ。

本作はそんな彼女が残した唯一のアルバム。ソウル歌手でありながら、バックを務めるミュージシャンがジャズ畑という面白い取り合わせで、トム・パクストン、ピーター・アレンなどのフォーク、ポップスや、ランディ・ウェストン、ジョー・ヘンダーソン、トニー・ウィリアムス、ギル・エバンス、エンリコ・ラヴァなどのジャズの両領域で、キーボードの演奏やプロデュースの仕事を残したデビット・ホロウィッツのなせる技だろう。

ソウルの定型に拘らず、自由な精神で制作されたアルバムらしく、フォークやビートルズのメンバーの曲が取り上げられている。そのなかでキャット・スティーブンス (後にイスラム教に改修して現在の芸名はユスフ・イスラム)1971年全米7位のヒット曲のカバー 7.「Peace Train」 は、フォークロック調の原曲に対し、アコースティックな響きを残しながらソウルフルなアレンジを施しており見事な出来。ラルフのクラシック・ギターは、最初全く目立たないが、歌が終わりエンディングの演奏部分から前に出てきて、短いながらソロをとっている。

ラルフが有名曲の歌伴をしている珍品。

他の曲についても簡単に説明しよう。

[Side A]
1. Add A Little Love [Gerri Granger]
2. Imagine [John Lennon]
3. Till I Find You [David Horowitz]
4. I'll Be Your Baby Tonight [Bob Dylan]
5. Remember I Said Tomorrow [Jerry Williams Jr,. Troy Davis]
6. After St. Francis [Bob Kessier, Bobby Scott]

[Side B]
7. Peace Train [Cat Stevens]
8. Isn't It A Pity [George Harrison]
9. Hard Times [Gerri Granger]
10. Times A Gettin' Hard [Lee Hays]
11. Jacob's Ladder [Traditional, Adapted By David Horowitz]

1.「Add A Little Love」、9.「Hard Times」は、ゲリ本人による作詞作曲。本作の前後に出されたシングル盤はすべて他人の作品だったので、彼女の作品はこの2曲のみ。ジャズ・ミュージシャンがソウルをやりました、といったサウンドをバックに生き生きと歌っていて、なかなか良い出来。前者は「ジーザスを心にもって、少し愛を付け加えたら」というゴスペルっぽい内容だ。2.「Imagine」はご存じジョン・レノン 1971年の大名曲。当時このオリジナルを最初に聴いた時、「シンプルな曲だなあ」という印象を持ったことを覚えているが、時代を経てこんなに愛される曲になるなんて、想像もしなかった。ここでは原曲のシンプルさを残しながらもソウルフルに歌っていて、クリアーな発声がこの人の持ち味だということがよくわかる。3.「Till I Find You」はプロデューサーの作品で、1970年代のシンガー・アンド・シングライターによるソウルっぽい作品といった感じで、ブラスセクションとサックスソロがフィーチャーされる。

4.「I'll Be Your Baby Tonight」は、ボブ・ディラン 1967年のアルバム「John Wesley Harding」に入っていた曲で、カントリーフレイバー溢れる作品を、ゴスペル風に調理していて、間奏とオブリガードでソプラノ・サックスが入り、とても良い出来。5.「Remember I Said Tomorrow」は スワンプ・ドッグ (Swamp Dogg 1942- ) 1971年の録音がオリジナル (アルバム「Rat On !」 1971に収録)。 彼はヴァージニア州生まれで、サザンソウルのカルト的存在。作者のジェリー・ウィリアムス Jr.は彼の本名だ。6.「After St. Francis」 は、シカゴ生まれのナイトクラブ・シンガー、女優のバーバラ・マックネアー (Barbara McNair 1934-2007) による1969年の録音が最初のようだ。

8. 「Isn't It A Pity」はジョージ・ハリソンの傑作ソロアルバム「All Things Must Pass」1970に入っていた曲。10.「Times A Gettin' Hard」は、 トラディショナルをベースにリー・ヘイズが作曲したもの。リー・ヘイズ (1914-1981) はフォークシンガーで、ピート・シーガーがいたウィーヴァースで低音声を担当した人。ピート・シーガー、トム・パクストン、ハリー・ベラフォンテ等が歌っている。11.「Jacob's Ladder」 は黒人奴隷が歌っていたスピリチュアルで、ピート・シーガーの録音がある。

ソウル歌手、ジャズ・ミュージシャン、ポップス、フォークという異色の取り合わせが、それなりに個性的なサウンドを生み出している。知名度の低い歌手による売れなかったアルバムとして、現在は忘れ去られた存在であるが、捨てがたい魅力があると思う。

[2023年9月作成]


D10 ECM Special (1973)  [Various Artists]  Trio (Japan)


Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano
Glenn Moore: Bass
Collin Walcott: Tabla

1. Brujo II [Towner] 6:21  O6 R1
 (12st. Guitar, Bass, Tabla)

Produced By: Manfred Eicher
Recorded At November 28, 1972


1969年にドイツで設立されたECMレーベルの作品は、日本では1970年代から1980年代前半までの間、トリオ・レコードから配給された。同社は、「ECM Special」という日本独自の企画シリーズで、所属アーティストによるオムニバス盤やベスト盤を製作した。それらのレコードに収録された曲は、すべて既存のアルバムで発表されたものと思っていたが、1973年に発売された同シリーズ最初のアルバムのみ、別テイクならびにアウトテイクを収録したものだった。そこには、チック・コリア、キース・ジャレット、ヤン・ガルバレク、ポール・ブレイ、ポール・モチアンなどと共に、ラルフのトラックが1曲含まれている。

1.「Brujo II」は、ラルフ最初のソロアルバム「Trios/Solos」1973 R1に収められていた「Brujo」の別テイクだ!こちらのほうが演奏時間が1分ほど長く、ラルフのギターはよりリズミックかつメロディアスで、オリジナル版よりも気さくな感じになっている。個人的には本作のバージョンのほうが好みであるが、アルバム収録バージョンは創造性・独創性の見地で選ばれたのだろう。グレンのベースプレイについて、ここでの彼のソロは弓を使ったプレイになっているのがオリジナルと大きく異なる点。

本アルバムはCD化されておらず、かつ日本のみでの発売だったため知名度が低く、一部のファンの間でしか知られていないコレクターズ・アイテムとなっている。ただし量的には当時かなり売れたようで、中古市場で普通に見つけることができる。他のアーティストでは、チック・コリア・アンド・リターン・トゥ・フォエバーの「Captain Marvel」 (「Light As A Feather」1972に収録された同曲の別テイクであるが、同アルバムについては1999年に別テイクを加えた「完全盤」が発売されたが、そこには収録されなかった)、チック・コリアのピアノ・ソロアルバム「Piano Improvisation」1971の別テイク「Noon Song II」や、キース・ジャレットのピアノ・ソロアルバム「Facing You」1972 のアウトテイク「Counterphonymic」などが面白い。特にキース・ジャレットのトラックは、彼のファンにとっても貴重な録音のはず。ECMの倉庫にはこのような未発表音源がたくさん眠っていると思われるが、同社はこの手の別テイク、アウトテイクを滅多に発表しないので、ファンとして残念。いつか将来まとめて聴くことができるといいね!

発売後40年が経過、曲によっては古臭く響き、時の移ろいを感じさせるものもある。そのなかでラルフのトラックは、当時の光を失うことなく燦然と輝いている。

[2011年2月作成]


D11 There Is A Breeze (1973)  [Michael Johnson]  Atco



Michael Johnson : Guitar, Vocal
Ralph Towner : Second Guitar, 12st. Guitar
Russell George : Bass
Ron Zito : Drums
Airto : Percussion

1. On The Road [Carl Franzen]
(Vocal, C. Guitar, 12st. Guitar, Bass, Drums, Percussion, Strings, Chorus)

Peter Yarrow, Phil Romone, Chris Dedrick : Producer


マイケル・ジョンソン(1944-2017)のファーストアルバムに1曲参加。彼は1978年の「Bluer Than Blue」(全米12位)を始めとして、同年の「Almost Like Being In Love」(同32位)、79年には「This Night Won't Last Forever」(同19位)のヒットを飛ばし、アダルト・コンテポラリー・スタイルのシンガー・アンド・ソングライターとして脚光を浴び、その後は主にカントリー音楽の世界で活躍を続けた人だ。なので彼に対するイメージは、優しい声で切なく歌うAOR歌手というものだったが、しかし彼のデビュー作である本作を聴くと、フォーク音楽をルーツとするシンプルでストレートな音作りがなされている。その一方で、R&B風のアレンジや、クラシックギターのインスト曲もあり、幅広い音楽性を窺わせる選曲が、アーティストの個性や作品自体のインパクトを薄味にさせた感も否めない。作品全体にわたって特筆すべき点として、彼のギターの上手さがある。21才の時にスペインに渡り、そこでクラシックギターをみっちり習ったそうで、音の正確さ、リズムの切れ味の鋭さは、弾き語りのアーティストのなかでも群を抜いており、プロデューサーはその点に注目して、ギターの名手をゲストに呼んだものと思われる。本作発売にあたり、当時人気絶頂のレオ・コッケの参加が大いに話題になった 「In Your Eyes」では、彼のマシンガンのようなピッキングがフィーチャーされるが、それに対するマイケルのギターも大したもので、全く引けを取らないプレイを展開しているのがスゴイ。ちなみにマイケルは後に、レオ・コッケのソロアルバム「Dreams And All That Stuff」1974 の録音に参加し、「Mona Ray」という素晴らしいインスト曲で共演している。

ラルフが参加した 1.「On The Road」はシングルヒットを狙って製作されたようで(実際にはヒットしなかったが)、明るいメロディーと歌唱が軽やかな曲だ。クラシックギターによるスリーフィンガーの伴奏でマイケルが歌い、ラルフがセカンドギターで伴奏を付け、たまにメロディーを爪弾く。後半は12弦ギターの開放弦を鳴らすストローク奏法でのプレイとなる。パーカッションのアイルート・モレイラは、ブラジル人で、世界有数のパーカッション奏者。ベースのラッセル・ジョージは、スタンレー・タレンタイン、アストラッド・ジルベルト、ジュディ・コリンズ、ポール・サイモン等のセッションに参加している。当時ラルフはそれほど有名ではなかったはずで、彼の参加が話題作りになることはなかったと思われるが、プロデューサーのピーター・ヤーロウ(ピーター・ポール・アンド・マリー) やフィル・ラモーンといったポール・ウィンター・コンソートの人脈の関係で参加したのではないかと推測される。もう一人のプロデューサー、クリス・デッドリックは、通好みのコーラスグループ、フリーデザインのメンバーだった人。

ラルフがポップな曲の伴奏を担当した珍しいトラックだ。


[2009年5月作成]


D12 Tribe (1973)  [Horace Arnold]  Columbia


D10 Tribe

Horace Arnold : Drums, Percussion
David Friedman : Vibes, Marimba
Joe Farrell : Flute
Ralph Towner : 12st. Guitar
George Muraz : Acoustic Bass
Ralph McDonald : Percussion


1. Tribe [Horace Arnold]  10:15
[12st. Guitar, Vibes, Marimba, Flute, Bass, Drums, Percussion]
2. Forest Games [Horace Arnold]  2:26
[12st. Guitar, Vibes, Marimba, Flute, Bass, Drums, Percussion]

 
ホレス・アーノルド(Horaceeと表記することもある)は、1937年生まれのドラム奏者で、チック・コリア(初期のリターン・トゥ・フォエバーを含む)、ビリー・ハーパー、ソニー・フォーチュン、アーチー・シェップの作品に参加、ジャズとクロスオーバーの両方の分野で活躍した人だ。正統的なジャズ・ドラムに飽き足らず、アフリカ、アジアなど様々な地域の音楽とリズムを研究、サウンドクリエイトのためにラルフ・タウナーから作曲を習ったという。本作は初めてのソロアルバムで、ラルフが2曲にゲスト参加したのはその縁だろう。

1.「Tribe」での、アフリカ音楽を取り入れたアンサンブルの中にソリストによるインプロヴィゼイションを混ぜ込んでゆくスタイルは、当時の流行だったもの。初期のウェザー・リポートに近いサウンドであるが、アコースティックな楽器による演奏の分だけ、古臭くなるのを免れている。ドラム奏者がリーダーのアルバムだけあって、アンサンブルによる背景のサウンドはよく出来ていると思う。12弦ギターのカッティングによるイントロが「他の曲と違うな?」という印象をもたらし、マリンバとフルートがエキゾチックなテーマを奏でる。ヴァイブも演奏するデビッド・フリードマンは、パーカッション奏者としても有名で、ヒューバート・ロウズ、ホレス・シルヴァー、ウェイン・ショーター等のジャズアルバム以外に、ローラ・ニーロ、ビリー・ジョエル、ベス・オートンなどのアルバムにも参加、自身ソロアルバムも発表している。フルートのジョー・ファレルは、サイドマン、リーダーとして無数の作品を残しているリード奏者だ。これまた無数のセッションに参加している売れっ子ジョージ・ムラツのベースとドラムスが入り、インテンポとなってフルート、マリンバ、ヴァイヴがソロを展開する。その間ラルフは12弦ギターで鋭いリズムの切り込みを入れる。彼がソロを取る際、12弦ギターの録音がオフ気味で、かつ演奏時間も短いので、少し物足りない。

2.「Forest Games」も、ラルフの12弦から始まる。ここでは作曲面で凝った感じのテーマに続く、フリー・インプロヴィゼイションが主体の曲。



D13 At The House Of Cash (2017) [Chris Gantry]  Drag City 
 
 
Chris Gantry: Recitation
Ralph Towner: C. Guitar, Trumpet
Paul McCandless: Oboe, Bass Clarinet
Collin Walcott: Sutar, Tabla, Percussion, Clarinet
Glen Moore: Bass, Violin, Piano

1. Tear  4:04 
[C. Guitar, Sitar, Violin, Piano, Oboe, Clarinet, Bass Clarinet, Trumpet, Bass, Tabla, Percussion]

Recorded on 1973 at, Johnny Cash's Studio
Released on 2017

注: 上記の演奏楽器は、演奏からの聴き取りにより推測したものです。


カントリー音楽界においてアウトロー的な存在のシンガー、ソングライターのクリス・ガントリー(1942- )が 1973年に録音して、お蔵入りになっていた音源が2017年に発掘され、CDリリースされた。その中の1曲にオレゴンが参加している。

彼はナッシュビルにおいて主に作曲家として名を成した人で、1968年グレン・キャンベルによるヒット曲「Dream Of The Everyday Housewife」(カントリーチャートで大ヒットし、全米では33位)が代表曲。クリス・クリストファーソン、ジョニー・キャッシュと親交を深め、1968年、1970年にアルバムを発表した。1970年代後半からは小説、戯曲、詩作、童話の創作に没頭したが、2010年代以降は音楽活動にも注力し、アルバムを発表している。

そんな彼が 1973年にジョニー・キャッシュと契約し、彼のスタジオで好きなようにしてよいと言われて、思うがままに録音したのが本作に収められた曲で、カントリー臭さはなく、フォーク、ロック音楽に近いスタイルだ。歌詞の内容が飛んでいて、Peyoteという、昔インディアンが儀式に利用していた幻覚作用のあるサボテンと、メキシコ人の導師によるスピリチュアル体験に根ざしたものという。その歌詞と音楽があまりにラディカルだったため、当時はどのレコード会社も食指を動かさず、そのままお蔵入りとなった。そして2010年代になって40年以上行方不明だったテープが発見され、再評価により 1997年マイナーレーベルからアルバムとして発表された。

その後様々なスタイルの音楽が現れ、多様性が認められる時代となった現在の耳で聴くと、ビート世代によるアシッド・フォークとして、エキセントリックであるが十分面白く聴くことができる。オレゴンが参加した 1.「Tear」は中でも異色の詩の朗読で、それに彼ら得意の即興演奏を付けている。まずはクラギ、シタール、ピアノ、オーボエから始まり、各人が次々と楽器を持ち替えてゆき、全員がマルチ奏者である彼らの持ち味が存分に発揮されている。クリスが作った詩は、水が滴から水蒸気、そして涙に変遷してゆく様が独特の世界観をもって語られていて、イメージの奥行き・拡がりが素晴らしい。そして詩の朗読と現代音楽的な即興演奏は見事に調和している。なおクリスは、2010年以降のコンサートにおいてこの詩を好んで朗読しているようで、その様の映像をYoutubeで観ることができる。

本アルバムはカントリー音楽の作品として発売されたため、オレゴンが参加していることはあまり話題にならなかった。批評の中には彼らの伴奏につき名前を出さず、単に「シタールと室内アンサンブルの中で」と述べているものもある。

オレゴンの即興演奏は数あるが、詩の朗読にバックを付けたものはこれのみで、貴重な初期の演奏の発掘のみならず、演奏と詩の良さにより大いに価値のある作品となった。

[2021年8月作成]


D14 Tales Of The Exonerated Flea (1974) [Horace Arnold]  Columbia


D11 Tales Of The Exonerated Sea


Horace Arnold : Drums, Percussion
David Friedman : Vibes, Marimba
Art Webb : Flute, Alto Flute
Ralph Towner : 12st. Guitar
Jan Hammer : Keyboard
Rick Laird or Clint Houston : Electric Bass
Dom Um Romao, Dave Bash Johnson : Percussion


1. Sing Nightjar [Horace Arnold]  11:10
[12st. Guiutar, Marimba, Synthesizer, Horn, Bass, Drums, Percussion]


ホレス・アーノルド2枚目のソロアルバム。またもやラルフの12弦で始まる。ここでは録音時のサウンド処理で、エレキギターのようなサウンドになっている。インド音楽風というかエキゾチックな音使いで、ウェザーリポートとのセッションでの「Moore」に近い雰囲気だ。インテンポになりテーマの演奏となるが、マリンバとベースによるリフが、ガムラン音楽のような呪術的な感じで迫ってくる。フルートに続きラルフがソロを取るが、ここでも最初はエレキ・ギターの音に聴こえる。独特の音使いですぐにラルフだとわかるけどね。かなりアグレッシブでハードな演奏だ。後半はヤン・ハマーによるシンセサイザーのソロだ。彼は1948年チェコスロバキアの生まれで、1968年のソヴィエトのチェコ侵攻の際にアメリカに移住し、マンハッタンのジャズ・グループで仕事をした後、ジョン・マクラグリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラに加入して、フュージョン中心で活躍。多くのセッション作品にも参加した。1980年代はテレビ番組「Miami Vice」の音楽を担当し、大成功。その後もテレビやゲームの音楽も数多く手がけている。このシンセ・ソロを聴くと、当時のシンセサイザー独特の無機的な音色に懐かしさを覚えてしまう。サウンド的に少し古臭い感じもするが、演奏レベルは高いので、今でも十分に価値があると思う。


D15 Atmospheres (1974) [Featuring Clive Stevens & Friends]  Capitol


D12 Atmospheres



Clive Stevens : Electric And Acoustic Tenor, Soprano Sax, Percussion
Ralph Towner : Electric Piano
Steve Khan : Electric Guitar, 12st. Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar
Harry Wilkinson : Percussion
Rick Laird : Bass
Billy Cobham : Drums


[Side A]
1. Earth Spirit [Clive Stevens] 5:30
[Tenor Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
2. Nova '72 [Clive Stevens] 5:52
[Tenor Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
3. Yesterday, Today & Tomorrow [Clive Stevens] 6:40
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]

[Side B]
4. A Stral Dreams [Clive Stevens] 9:21
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
5. All Day Next Week [Clive Stevens] 6:50
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
6. The Parameters Of Saturn [Clive Stevens] 5:47
[Tenor Sax, Electric Guitar, Bass, Drums, Percussion]

Martin Stevens : Producer

注)6.はラルフ不参加です。


ラルフ・タウナーがジャズロックのスタイルで、全編エレキピアノを弾くまくるという珍しい作品。彼は本作ではギターを弾いていない。

1968年に発表されたマイルス・デイビスの「Bitches Brew」は、ジャズ音楽側からロックにアプローチした革命的な作品で、その後の音楽界を一変させるインパクトがあった。そしてこのアルバムに参加したジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーターのウェザー・リポート、ジョン・マクラグリンのマハヴィシュヌ・オーケストラ、チック・コリアのリターン・トゥー・フォエバー等のグループがジャズロックと呼ばれる新しい音楽を発展させてゆく。その初期のサウンドは、ジャズ、ロックにアフリカ音楽をブレンドさせたコレクティブ・インプロヴィゼイションといえるスタイルで、一定のテーマの後は、即興的に気の赴くまま演奏するスタイルだった。その後1970年代後半、ブラジルやラテン音楽を取り入れて技術的・音楽的に洗練度を深め、フュージョンと呼ばれる耳当たりのよい音楽に進化してゆくが、1980年代になると初期のスピリチュアルな純粋さを失い、マンネリズムに陥って行き詰まり、衰退する。

本作はその流れの過渡期に製作されたもので、初期のゴツゴツしたサウンドのジャズロックは、今聴くと古臭い感じがするが、当時新しい音楽に挑戦していたミュージシャンのピュアな意気込みが十分に伝わってくる意味では面白くもある。レコード中袋に印刷されたクライブ・スティーブンス本人のノーツによると、自然発生的な即興を重んじる東洋音楽の精神を取り入れ、同じ曲を演奏しても毎回異なる雰囲気「Atmosphere」になるとのことで、それがグループ名の由来となったようだ。イギリス生まれの彼はアメリカに渡りジャズを勉強し、本作で有力ミュージシャンをバックにデビューを果たした。その後はトップシーンから姿を消すが、地味ながらも世界のいろんな地で活動を続け、現在も自主レーベルからCDを発表し続けている。他人の作品にはジェネシスのギタリスト、スティーブ・ハケットや、パーカッションのナナ・ヴァスコンセロス等の作品に参加している。ギタリストのスティーブ・カーン(1947- )は作詞家のサミー・カーンの息子で、本作がスタジオ録音に参加した最初のレコードのようだ。その後はビリー・コブハム、ラリー・コリエル、ブレッカー・ブラザース、デビッド・サンボーン、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、デビッド・マシューズ、スティーリー・ダン、ボブ・ジェームスなど多くのセッションに参加した技巧派ギタリスト。自身も多くのソロアルバムを発表している。ハリー・ウィルキンソンは、ラリー・コリエルの作品で名前を見つけることができる。リズムセクションは、当時解散直後のマハビシュヌ・オーケストラの連中が加わっている。ベースのリック・レアード (1941-2021) は、若い頃はイギリスのロニー・スコッツ・ジャズクラブのハウスベースシストとして、イギリスに来訪した多くのミュージシャンと共演、ジョン・マクラグリンと出会い彼と行動を共にし、当時のクロスオーバー界の頂点に立つ。他にバディ・リッチ、ラリー・コリエル等の作品参加しており、もともとはウッドベースのジャズが本職だった人。ビリー・コブハム(1944- )は、この手の音楽では最高のドラム奏者の一人で、マイルス・デイビス、ジョージ・ベンソン、フレディー・ハバード、デオダード、グローバー・ワシントン Jr.等の作品に参加、また多くのソロアルバムを発表、ピーター・ガブリエルの作品にも顔を出している。この二人が叩き出すリズムは大変強靭で、プログレッシブ・ロックに通じる厳しさがあり、それがこの作品の魅力のひとつとなっている。

1.「Earth Spirit」のサックスとエレキギターのユニゾンによるテーマの伴奏から、ラルフのアグレッシブなプレイが聴ける。この伴奏パターンは本作全編を貫くもので、彼が非参加の6.以外はラルフのピアノが鳴り続ける。ライブ演奏風の録音でかつシンプルな編成なので、バックの演奏を全て聴き分けることができるのが良い。二人のギタリストの演奏は左右のチャンネルから聞こえ、ソロやリズム・カッティングの応酬がスリリング。サックスのソロは途中からワウワウ・ペダルを使用したものになる。2.「Nova'72」ではジョン・アバークロンビーがロック色の強いソロを弾く。その後に登場するラルフのエレキピアノ・ソロはとてもガッツがあるグルーヴィーなプレイだ。タッチの強さに加えて、フェンダー・ローズピアノにリング・モジュレーターを繋いで、ディストーションがかかった迫力ある音を作り出している。3. 「Yesterday, Today And Tomorrow」は、ギターやサックスのソロが入り乱れるかなりヘビーな曲。4.「A Stral Dreams」は本作の中では比較的洗練されたサウンド。アップテンポのしなやかなリズムをバックに、ラルフの長いエレピソロを味わうことができる。5.「All Day Next Week」は、テンポを落とした曲でラルフをはじめとするプレイヤーのソロも抑制が効いたものだ。最後はフリーフォーム調の曲で終わるが、これだけラルフのピアノが聞こえない。

リーダーの知名度がイマイチなので、現在本作は忘れられた存在となっているが、ラルフがこんな感じでエレキピアノを弾いている作品は、本作と次作の他にはなく、キーボード奏者としてのラルフが好きな人にとっては是非聴いて欲しい作品。

[2008年11月作成]


D16 Voyage To Uranus (1974) [Atmospheres] Capitol


D13 Voyage To Uranus

Clive Stevens : Electric And Acoustic Tenor, Soprano Sax, Alto Flute
Ralph Towner : Electric Piano, Clavinet, 12st. Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar, Acoustic Guitar
David Earle Johnson : Percussion
Stu Woods : Bass
Thabo Michael Carvin : Drums


[Side A]
1. Shifting Phases [Clive Stevens] 6:55
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
2. Culture Release [Clive Stevens] 6:50
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Clavinet, Bass, Drums, Percussion]
3. Inner Spaces And Outer Places [Clive Stevens] 5:15
[Tenor Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
4. Un Jour Dans Le Monde [Clive Stevens] 4:43
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]

[Side B]
5. Voyage To Uranus [Clive Stevens] 5:52
[Soprano Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
6. Electric Impulse From The Heart [Clive Stevens] 4:15
[Tenor Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
7. Water Rhytms [Clive Stevens] 8:44
[Tenor Sax, Electric Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]
8. Return To Earth [Clive Stevens] 5:15
[Flute, Electric Guitar, Acoutic Guitar, 12st. Guitar, Electric Piano, Bass, Drums, Percussion]

Martin Stevens : Producer


前作と同じ年に発売され作品で、音楽的にほとんど同じ内容だ。リズムセクションが変わっているが、それなりに上手い人たちなので、見劣りはしない。ドラムのターボ・マイケル・カルヴィンは、ジャズドラムの分野で活躍した人で、ハンプトン・ホーズ、ジャッキー・マクリーン、ファラオ・サンダースの作品に参加、教師としての実績もある。ベースのステュ・ウッズは、ジャズよりもポピュラー音楽のスタジオセッションでの活躍が顕著で、アル・クーパー、ボブ・ディラン、ジム・クロウチ、トッド・ラングレン、バニー・マニロウ、ジャニス・イアンなど幅広いミュージシャンの作品に参加している。パーカッションのデビッド・アール・ジョンソンは、オレゴン1977年のアルバム「Friends」 O6にゲスト参加していた人で、ヤン・ハマー、ビリー・コブハムとの演奏歴が長い。自己名義のアルバムも数枚出し、1998病没。また本作ではギタリストがジョン・アバークロンビーだけになったので、彼のプレイをじっくり楽しむこともできる。

1.「Shifting Phases」から聞こえるラルフのエレピ伴奏は、前作と同じ雰囲気。ここではエレキギターのソロのピッチを人工的にずらすなどのスタジオ処理で、同じプレイが左右のチャンネルから聞こえるように加工しており、前作よりも凝ったプロデュースだ。2.「Culture Release」では、当時流行った電子チェンバロ、クラヴィネットのソロが聴ける。アップテンポの細かなリズムのなかでのサックス、エレキギター、キーボードのソロの6小節交換はスリリングだ。3.「Inner Spaces And Outer Places」では、テーマ部分のエレピの図太い音が印象的。4.「Un Jour Dans Le Monde」は、スローな曲で、エレピのアルペジオがミステリアスな雰囲気を高めている。

5.「Voyage To Uranus」もスローな曲で、哀愁あるテ−マのメロディーと優しく落ち着いた感じのソロが、このグループの中では異色の演奏。ラルフのエレピソロも抒情性とクールさが同居したプレイ。7.「Water Rhytms」は、テーマのR&B風リフが強力で、エレピの長いソロがハイライトだ。かなりファンキーなプレイを展開しているが、同時期のハービー・ハンコックのプレイと比較すると、洗練度では格下かなという感じもする。このグループでは8.「Return To Earth」で初めてラルフの12弦ギターのプレイを聴くことができる。よく聞くと2台のアコギの音が聞こえるので、片方はジョンの演奏と思われる。エレピも聞こえるので、ギターはオーバーダビングだろう。フルートをフィーチャーした静かな曲でいい感じなのだが、アコギの録音が薄っぺらいのが残念。このグループは、ライブ演奏が重視され、彼の12弦ギターのサウンドの斬新さが生かされなかったようだ。

後のソフィスティケイトされたフュージョン音楽に繋がる部分も見られるが、いい意味でも悪い意味でも、曲・演奏面の粗っぽさもあり、時代の流れに生き残れなかった作品と言える。でも前作でも述べたが、ラルフのエレキピアノのばりばりのプレイを聴けるだけでも幸せというもんだ。

[2008年11月作成]


D17 In The Light  (1974)  [Keith Jarrett]  ECM


D14 In The Light


Ralph Towner : C. Guitar
Sudfunk Symphony Orchestra : String Section
Keith Jarrett : Conductor

Keith Jarrett, Manfred Eicher : Producer

1. Short Piece For Guitar And Strings [Keith Jarrett]  3:52
[C. Guitar, Strings]


キース・ジャレットが作曲・指揮を担当したクラシカルな作品集。彼の名声を確立した「Solo Concert」 1974 が発売される少し前で、これらの作品の製作に応じたマンフレッド・アイヒャーの慧眼には驚嘆するしかない。確かに当時のキースの創造力はかなり旺盛だったようで、色々なスタイルの作品を次から次へと発表し、「向かうところ敵なし」といった感じだった。その頃ジャズを聴いていた人ならば、好き嫌いは別として、誰しもが彼の音楽を聴いたはずだ。そしてそれらの作品群がECMレコードのイメージを決定付ける事になったとも言える。

本作に収められた音楽は、大変真面目で誠実なものであると断言できるが、残念ながら音楽で本質的に必要な「面白み」に欠けているような気がする。ラルフ・タウナーがギターを弾いた1.「Short Piece For Guitar And Strings」は、キースによると「息抜きに書いた」とのことで、他の曲に比べると、とっつき易い感じがするが、それでも曲自体の魅力にイマイチ欠けていると思う。ラルフは譜面の通りに神妙に弾いているようで、そのためか自作を演ずる時のようなダイナミックさがなく、こじんまりとした出来になっている。さらに、いつものECM作品と異なり、ギターの音が深みのない痩せた感じで録音されているのも不満。キースはピアノは弾かず、指揮に専念している。

とは言え、キース・ジャレットとラルフ・タウナーの共演盤(ギター奏者と指揮者という関係ではあるが)という意味で、ラルフ・タウナーのファンには無視できない作品だろう。



D18 The Restful Mind  (1975)  [Larry Coryell] Vangard


D15 The Restful Mind



Larry Coryell : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Ralph Towner : 12st. Guitar, Clasical Guitar, Piano (5)
Glen Moore: Bass
Collin Walcott: Tabla, Conga, Percussion

Dannu Weiss : Producer

[Side A]
1. Improvisation On Robert De Visee's Menuet II [Coryell]  8:13
(A. Guitar, Electric Guitar, 12St. Guitar, Bass, Tabla)
2. Ann Arbor [Coryell] 5:01
(A. Guitar, 12st. Guitar, Bass Tabla)
3. Pavane For A Dead Princess [Ravel]  5:40
(A. Guitar)

[Side B]
4. Improvisation On Robert De Visee's Salabande [Coryell]  5:20
(A. Guitar, 12 St. Guitar, Bass, Percussion)
5. Song For Jim Webb [Coryell] 3:15
(A. Guitar, E. Guitar, Piano, Bass, Percussion)
6. Julie La Belle [Coryell]  4:07
(A. Guitar, C. Guitar, Bass, Conga)
7. The Restful Mind [Coryell]  3:12
(A. Guitar)

注) 3. 7.はラルフ・タウナー非参加


ラリー・コリエル(1943-2017)は、ジャズ・ロックのギター・スタイルの創始者の一人だ。かつては保守的であったジャズ・ギターの世界に、ハードで切れ味の鋭いサウンド、ロック的なチョーキング奏法などを持ち込み、その後のフュージョン音楽への道を切り開いたといえる。ジャズギター奏者としてチコ・ハミルトン、ゲイリー・バートン、ハービー・マンのグループでプレイするうちに演奏スタイルが先鋭化し、1970年代前半に、ジョン・マクラグリン、チック・コリア、ビリー・コブハム等をバックに自己名義のアルバムを製作する。1975年頃より主にアコースティック・ギターを演奏するようになり、いろいろなミュージシャンと共演するが、特に1979年にジョン・マクラグリン、フラメンコ・ギターの天才パコ・デ・ルシアと共演した「The Guitar Trio」は名高い。その後も、ジャズギターの他に、ステファン・グロスマンの監修でギター・ソロ作品の製作、ストラヴィンスキーのクラシック曲「火の鳥」のギターソロ・アレンジや、教則ビデオの製作など、非常に幅広い活動を続けた。以上のとおり長いキャリアを誇る彼が、当時所属レーベルが同じだったオレゴンのリズムセクションと製作したアルバムが本作である。

1. 「Improvisation On Robert De Visee's Menust II」は、ロベール・デ・ヴィゼー(1655-1732)の曲をモチーフにしたもの。彼はフランス生まれのギター奏者・作曲家で、多くのバロック・スタイルのギターやリュートの名曲を残した人だ。イントロはラリーのアコースティック・ギターによるテーマの独奏。続いてバンドが加わり、エレキ・ギターによるインプロヴィゼイションのパートとなる。リズムに専念するオレゴンの3人をバックに、ワンコードでラリーがソロを弾きまくる。その早弾きは、当時の耳には先鋭的なものに聞こえたはずであるが、今聴くとフレーズが単調で、古臭い感じがするのは否めない。進歩が著しいこの手の音楽の場合は、そういう傾向は仕方がないと思う。そう考えると、当時発表されたオレゴンの初期作品が、今聴いても全然違和感がなく、輝きを失っていないのは、驚異的なことであると断言できる。ラルフの12弦ギターはバックながらも、切れ味の良いフレーズや合間に入れる鋭いパッセージで、しっかり目立っている。バンド演奏のフェイドアウト後、またアコギの独奏に戻って終わる。2.「Ann Arbor」は、カントリー調のアコギの独奏から現代音楽、クラシック風に発展し、バックが加わって急速調の賑やかな演奏となる。間奏におけるコードの早弾きによるソロは圧巻だ。ラリーが持つ音楽性の広さが出た作品。3.「Pavane For A Dead Princess」は、フランスの印象派クラシック音楽の作曲家ラベルの作品で、邦題は「亡き王女のためのパヴァーヌ」。この曲はラリーの独奏でオレゴンの連中は参加していない。

4.「Improvisation On Robert De Visee's Salabande」も初めはラリーのアコギの独奏。ここではバンドがフィルインした後もアコギを弾いている。スローなバックでソロを弾くラリーのプレイは強いタッチでありながら、同時に繊細さも持ち合わせ、本作の中でも一番の出来だと思う。この曲を聴いていると、彼が後年アコギ中心のプレイに移行していった理由が分かる。5.「Song For Jim Webb」は、作曲家のジム・ウェッブに捧げた曲だろう。彼はフィフス・ディメンションの「Up, Up And Away (ビートでジャンプ)」、グレン・キャンベルの「Wichita Lineman」、「By The Time I Get To Phoenix」、アート・ガーファンクルの「All I Know」など、芸術性の高いヒット曲を書いた人だ。彼独特のコード進行を取り入れたポップな雰囲気のこの曲は、このアルバムの中では異色の存在。6.「Julie La Belle」もラリーの独奏で始まり、クラシック調、現代音楽、バックが加わったブルージーな演奏、最後はラルフのアルペジオをバックにしたソロと、目まぐるしく曲調が変わる不思議な曲。最後の曲7.「The Restful Mind」はオレゴンは非参加であるが、瞑想的なアルペジオがとても印象的な曲だ。

時代の波に洗われて色褪せてしまった感もあるが、オレゴンとラリー・コリエルという面白い顔合わせの作品。


[2007年3月作成]