D19 DIS  (1977)  [Jan Garbarek]  ECM


D16 Dis

Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax, Wood Flute
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Den Norske Messingsekstett : Brass (4)

[Side A]
1. Vandrere [Garbarek] 13:36
 (Tnor Sax, 12st. Guitar, Windharp)
2. Krusning [Garbarek] 5:35 
 (Soprano Sax, C. Guitar)
3. Viddene [Garbarek] 5:35
 (Soprano Sax, 12st. Guitar, Windharp)

[Side B]

4. Skygger [Garbarek] 10:06

 (Tenor Sax, 12st. Guitar, Brass)
5. Yr  [Garberek] 5:54
 (Sprano Sax, C. Guitar)
6. Dis [Garbarek] 7:50
 (Wood Flute, Windharp)

Manfred Eicher : Producer

Recorded December 1976 at Talent Studio, Oslo
Windharp is made by Sverre Larssen
Windharp is recorded by Jan Erik Kongshaug on the coast of Southern Norway

注) 6.はラルフ非参加


ヤン・ガルバレクがラルフ・タウナーと製作したデュエット盤で、タウナー名義で両者が組んだアルバム、「Solstice」R5 (1974年12月録音)と、「Sound And Shadows」R6 (1977年2月録音)の間に録音されたもの。本作を購入して40年以上経ったが、最初は「何これ?」という印象だった。それが時が経つにつれ熟成し、今では私の音楽世界の中で特異な地位を占めるまでに至っている。ヨーロッパ大陸系人間のもつ、アンニュイ、デカダンな情念を前面に出した、青白い炎のようなサックスプレイと、現代音楽的な演奏を展開するギター伴奏が醸し出す緊張感が、凄まじいパワーを生み出している。サックスソロの伴奏をギターが行うというアイデア自体が過激であるが、ピアノのような持続音がないギターの、空間を切り取るようなプレイが本作の独特な雰囲気を決定づけている。人間が演奏する楽器の中で最も生々しい音を発するサックスのエモーションと、無機的なまでに冷徹なギター演奏による現代音楽の知性が不思議にミックスして、精神的な高みのある世界を創り上げることに見事に成功していると思う。

本作1.3.6.で聞こえるウィンドハープは、エオリアン・ハープとも呼ばれ、木製の共鳴箱に複数の弦を張ったもの。野外に置くことで風が入り、弦が振動して音が出るもので、共振により張られた複数の弦が発する音が、共鳴箱により増幅される。本作ではスヴェレ・ラーセンというノルウェー人が作ったウィンドハープを使用し、エンジニアのヤン・エリック・コングスハーグが北海に面した南ノルウェーの海岸で録音したものだそうだ。ある和音の持続音が、風のようにうねり、鳴り続ける。それは北国の厳しい気候の地域に吹き付ける風そのもののイメージを音楽化したものだ。

1.「Vandrere」は、ウインドハープによるイントロの後に12弦ギターの演奏が始まる。その切れ味鋭いプレイが、ピーンと張り詰めたような緊張感を音空間にもたらす。そこに霧笛のようなヤンのテナーが現れる。音数は少ないが、その冷たく濡れた音色は、黒人奏者が演奏するサックスと全く異質の音になっているのがスゴイ。中間部には12弦ギターの独奏パートがあり、一定のコード進行はありながらも、きわめてフリーな演奏を展開、当時の彼の充実ぶりを物語るものだ。彼の12弦ギターによる伴奏の傑作だと思う。2.「Krusning」は、クラシック・ギターとソプラノ・サックスによるデュエットで、メランコリーなムードに満ちた曲。ラルフのギター・プレイは、随所にリズムの崩しや不協和音を入れて曲のテンションを高め、ヤンは嘆き悲しむようにメロディーを吹く。途中のインプロヴィゼイションで、一瞬迸るように吹きまくる部分があり、その鮮やかさに愕然としてしまう。3.「Viddene」におけるウィンドハープは、途中一部を除きずっと鳴り響いている。そのなかで二人の楽器のアタックは激しく、相手のプレイに即座に反応する真剣勝負だ。4.「Skygger」はブラスセクションとの共演で、音色からクラシック音楽のプレイヤーだろう。これもムーディーな曲で、曖昧にぼやけた部分とピントがあった鋭く明晰な部分が交互に入れ替わり、その対比が鮮やかな演奏空間を生み出している。ギター、サックスともに恐ろしくテクニカルな演奏がある。5.「Yr」では、ラルフのエチュードのようなギター演奏をバックに、ヤンのサックスの凛とした美しさが心に染み渡る。ギターの独奏パートも聴きものだ。6.「Dis」はラルフは非参加。ウィンドハープをバックにヤンが吹く木笛の音色は、邦楽の横笛のよう。霊感の源は私には分からないが、いずれかの伝統音楽に深く根ざしたものであることは間違いない。 

民族音楽の存在を強く感じる作品であり、北国の冷たい風にさらされた暗い情念を強く感じるあたり、今までに聴いたことがある音楽で、同じような第一印象をもったのは、高橋竹山が演奏する津軽三味線の世界だった。西洋人が奏でる音楽で、このようなものがあることは奇跡のようなもので、これを商業作品に仕立て上げたECMのプロデューサー、マンフレッド・アイヒャーに敬意を表したい。



 
 
D20  Waterfall Rainbow (1977)  [David Friesen] InnerCity


D17 Waterfall Rainbow

David Friesen : Bass
Paul McCandless : Oboe, English Horn
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Stowell : E. Guitar
Bobby Moses : Drums
Jim Saporito : Percussion


1. Spring Wind (A Wedding Song For Vincent & Sharon) [Friesen] 7:59
 (Oboe, English Horn, 12st. Guitar, E. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
2. Song Of Switzerland [Friesen] 5:46
 (Oboe, English Horn, C. Guitar, Bass)

Recorded At Downtown Sound, NYC June-August 1977


デビッド・フリーゼン(1942- )は、ソロコンサートを開くことができるベース奏者として、特異な存在だ。若い頃は、ジョン・ヘンダーソン、ビリー・ハーパー、デューク・ジョーダン、マル・ウォルドロンと共演、後年は自己名義のソロやデュエット・アルバムを数多く発表し、ジャズの枠内にとどまらず、ニューエイジ、現代音楽にまたがる幅広い音楽性を持っている人だ。オレゴンの連中とは、1970年代に接点があり、本作にラルフとポールの2人が参加した以外に、本作と同じ1977年にオレゴンのベース奏者グレン・ムーアと2台のベースによるライブ盤「In Concert」を発表している。また1995年にはグレン・ムーアと再共演し、「Returning」を製作している。

1.「Spring Wind」は、淡々とした曲調にオレゴンとの音楽的な共通性があり、デビッドが演奏するベースの音色も、グレンのものに似ている。ボブ・モーゼスが演奏するドラムスが入っていることが、当時のオレゴンと比較すると異色と言えるかな。彼はラリー・コリエル、ゲイリー・バートン、パット・メセニー、デイブ・リーブマン、スティーブ・キューンといったECM系の進歩派ミュージシャンのバックを勤めた人で、ドラム演奏のみならず、作曲やサウンド・クリエイターとしてソロアルバムも出している。ここでは控えめな伴奏に徹しているエレキギターのジョン・ストーウェルは、当時デビッドと行動を共にしていた人で、後に自己名義のアルバムも数枚発表している。パーカッションのジム・サポリトは、ビリー・ジョエルやジョン・ピサレリのセッションに名前を見つけることができる。ラルフは、ソリストとして12弦ギターを演奏、その他のソロは、オーボエとベース。2.「Song For Switzerland」は、ギターとベースが主体の室内楽のような曲で、オーボエとイングリッシュホルンの多重録音がテーマ部分のアンサンブルでフィーチャーされる。音楽的に生真面目な感じで、少々明るさに欠けるかな?

私個人としては、長い間存在を認識していながら入手できなかった作品で、2008年2月に日本で限定版としてCD化されていたのに気づいたのは売り切れた後だった。その後幸運にも中古LPで入手でき、上記2曲を聴いたときの喜びはひとしおだった。唯一残念だったのは、全9曲のうちラルフが参加していたトラックは2曲のみだったことで、もっとたくさん演奏して欲しかったなあ。


D21  Deer Wan  (1978)  [Kenny Wheeler]  ECM


D18 Deer Wan

Kenny Wheeler : Trumpet
Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax
Ralph Towner: 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar
Dave Holland : Bass
Jack DeJohnette : Drums

1. 3/4 In The Afternoon [Kenny Wheeler]  5:45
(Trumpet, Soprano Sax, 12st. Guitar, Electric Guitar, Bass, Drums)


Manfred Eicher : Producer

Recorded July 1977at Talent Studio, Oslo


トランペッターのケニー・ウィーラー (1930-2014) のソロアルバムに1曲ゲスト参加。ここでのメンバーは大変豪華で、ECMオールスターズと言ってもいい位だ。ケニー・ウィーラーについては、「Old Friends, New Friends」1979 R8、ジョン・アバークロンビーについては「Sargasso Sea」 1976 R5 を参照。デイブ・ホランドはジャズ・ベースの巨人の一人で、幅広い音楽性を誇り、マイルスの「In A Silent Way」、「Bitch's Brew」を初め無数のセッションに参加、チック・コリア、アンソニー・ブラクストンとのサークルや、ジョン・アバークロンビー、ジャック・ディジョネットとのグループ、ゲイトウェイの他、多くの自己名義のアルバムを発表している。本作ではゲイトウェイの3人にホーンの2人とラルフ・タウナーが加わった演奏ということになる。

全4曲のうち、1.「3/4 In The Afternoon」のみが演奏時間が10分を切る曲で、きっちりまとまっている。そのクールでミステリアスなメロディーとコード進行は、作曲者の並々ならぬ力量を感じる。テーマの部分における各プレイヤーの演奏の一体感は、名手揃いによるもの。タウナーの12弦ギターの伴奏が大変効果的。ソロは12弦ギター、トランペット、エレキ・ギターと続く。皆クールなプレイだな〜。

タウナーがゲスト出演した曲のなかでも、大変に出来のよいものだと思う。



D22  Sol Do Meio Dia  (1978)  [Egberto Gismonti]  ECM


D19 Sol Do Meio Dia


Egberto Gismonti : 8-String Guitar (1,2), Wooden Flue (3), Voice (2,3)
Ralph Towner : 12-String Guitar (1,2), Bottle (3)

Jan Garbarek : Soprano Sax (2)
Nana Vasconcelos : Percussion (3), Bottle (3), Voice (3)
Collin Walcott : Bottle (3)


1. Palacio De Pinturas (Construcao Da Aldeia) [Gismonti] 5:33
 (8st. Guitar, 12st. Guitar)
2. Cafe (Procissao Do Espirito) [Gismonti]  
 (Voice, 8st. Guitar, 12st. Guitar, Soprano Sax)
3. Sapain (Sol Do Meio Dia) [Gismonti] 
 (Voice, Wooden Flute, Bottle, Percussion)


Manfred Eicher : Producer

Recorded November 1977 at Talent Studio, Oslo


エグベルト・ジスモンチは1946年生まれのブラジル人で、幼少の頃から才能を発揮し音楽の英才教育を受けたが、クラシックの世界に満足せず自分の音楽を追求するようになる。1968年フランスに渡り、映画女優マリー・ラフォレの伴奏を経て、ヨーロッパで現代音楽を学び、ブラジル帰国後1971年に初ソロアルバムを発表。ギター、ピアノ、シンセサイザー、吹奏楽器、オーケストラの指揮、そして現代音楽からポピュラー、映画音楽まで何でもこなす音楽家として、ブラジルで高い評価と人気を得た。その後1974年ベルリンのコンサートで、ブラジルを代表する打楽器奏者パーカッション奏者のナナ・バスコンセロス、ECMのオーナー、マンフレッド・アイヒャーと出会う。そして同レーベルで製作した「Danca Das Cabecas」(1977)で世界的な名声を確立。続いて製作された2作目が本作である。

オレゴンのラルフ・タウナー、コリン・ウォルコットや、ヤン・ガルバレクとの共演は、1977年10月に開かれた「ECM Festival Of Improvised Music」での出会いがきっかけだったというが、当時のブラジルは軍事政権の時代で、音楽家の海外活動が制限されていたため、ヨーロッパでの製作となるECMでの作品は、小編成かつゲストとの共演というフォーマットをとらざるを得なかったという事情もあったようだ。本作制作の前に、彼はアマゾン奥地に入り現地のインディオと生活を共にして、その中でジャングルの音、色、妖しさ、そして太陽、雨と風、川と魚、空と鳥を感じ、そして現地の音楽との交流を通して、自分がいままで学んできた音楽を総て捨て去ったという。本作での音楽は本当に特異なもので、非常に原始的な息遣いと、理知的な瞑想感が不思議に同居している。まるで誰かが言った「最も賢い老哲学者の顔は、最も未開の原住民の老人と似ている」という言葉が音楽にも当てはまるようで、音楽の究極の姿なのかもしれない。現在の音楽シーンで、その地位を確立したワールド・ミュージックの本質が本作にあるような気がする。

ラルフが参加しているトラックは全8曲中3曲。1.「Palacio De Pinturas」は「絵画の城」という意味のタイトルで、エグベルトの8弦ギターとラルフの12弦ギターとのデュエットだ。弦を弾く楽器の持つ切れ味を最大限生かした演奏で、エグベルトはシンプルなメロディーのテーマおよびフリーなインプロヴィゼイションを主に単弦の演奏で展開。一方ラルフは12弦ギターによるアルペジオ、コード奏法で背景を作ってゆく。タイトルのとおり、絵画的な音楽といえる。2.「Cafe」および3.「Sapain」は切れ目なく演奏される。2.「Cafe」はエグベルトの弾くギターが、ボサノヴァ的な洗練を感じさせながら、同時に静かなジャングルの雰囲気にも満ちており、その瞑想感は文明と野生の融合といえるほど見事なものだ。美しいメロディーとコード進行を持った曲で、最初のテーマはエグベルトのハミング・ヴォイスで提示されたあと、ヤン・ガルバレクのソプラノサックスが後を引き継ぐ。北欧の冷たさにあふれたサックスの音色との対比が大変鮮やかで、ヤンの超人的なプレイ、比類なきメランコリーな音色が素晴らしい。エグベルト、ラルフ、ヤンの3者が互いの音を聴きながら、自己の音を切り込んでゆくインタープレイの極致がある。その後エグベルトのギターのみになり、次にラルフのソロが始まる。彼が今までに残したギターのインプロヴィゼイションのなかで最もメロディックなもので、その美しさは崇高さを感じるほどだ。最後にエグベルトのハミングでテーマが再提示されて終わるが、12分を超える演奏を支配するのは、シンプルなコードとリズムを刻みながらも強烈なイメージを残す、エグベルトのギター演奏であるというのが凄い。3「Sapain」は、彼が暮らしたというアマゾンのインディオの部族のひとつであり、副題は本作のタイトル「輝ける道」だ。イントロで聴かれる、ラルフ、コリン・ウォルコット、ナナ・バスコンセロスによる「ボトル」は、瓶に息を吹き込んでジャグバンドのような音を出したもの。エグベルトは、ナナのパーカッションをバックに木笛を演奏する。土と原始の匂いに満ちた曲だ。なお2.3.はレコードのB面に収められており、その後はエグベルトのギターソロ、ナナの伴奏付きながら、ほぼ独奏に近いピアノ曲が続き、ひとつの組曲のようになっている。彼のピアノ演奏もリズムとメロディーが独特なもので、オリジナリティーの高さが感じられる。その他コリン・ウォルコットのタブラが楽しめる曲もある。

ラルフ・ファン必聴の名作・名演。


[2007年3月作成]


D23 Ongoing  (1978)  [Terry Plumeri]  Airborne

D20 Ongoing


D20 Water Garden



Terry Plimeri : Acoustic Bass
John Abercrombie : Electric Guitar
Ralph Towner : Classical Guitar
Marc Cohen : Piano
Michael Smith : Drums
James Carter, Jacqueline Anderson : Violins
Carlos Quian : Viola
Fred Zeone : Cello
Richard Webster : Double Bass


1. Laura Rose [Terry Plumeri] 7:00

 (Bass, E. Guitar, C. Guitar, Piano, Drums,Violin, Viola, Cello, Double Bass)


Terry Plumeri, Michael Biarek : Producer

Recorded and mixed at Bias Studio, Falls Church, Virginia


注) 写真上 オリジナル・レコード (1978) のジャケット
   写真下 CD再発盤 (2007)のジャケット


テリー・プリュメリ (1944-2016) は、ジャズとクラッシックの両方をこなした。ワシントンDCのナショナル・シンフォニー・オーケストラのコントラバス奏者在籍中に作曲を勉強、多くの映画音楽を担当しながら、ジャズ音楽活動も行い、寡作ながらもジャズの作品を発表してきた。1971年の初アルバムでは、ハービー・ハンコック(ピアノ)と、ECMからデビューして有名になる前のジョン・アバークロンビーが参加している。ジャズの最新作は 2005年のスタンダード集「Blue In Green」、一方クラシックの分野では最新の作品が2007年モスクワ交響楽団の「チャイコフスキーの交響曲4,5,6番」の指揮という才人ぶりだ。セッション参加は少なく、意外なところでは、ロバータ・フラックの初期の作品などがある。ライブではウェイン・ショーター、クインシー・ジョーンズなどとの共演実績があるとのこと。

1978年に発表された本アルバムは2枚目の作品で、ジャズとクラシックがバランスよくブレンドした作品となっている。エアボーンというメリーランド州のマイナーレーベルからの発売であるが、サウンド的にはECM風だ。ラルフが参加した 1.「Laura Rose」はストリング・クインテットの演奏から始まる。ちょっとモダンなサウンドのクラシック音楽の後、リズムセクションとギターが加わってテーマが始まる。ストリングス、ベース、ドラムスをバックに、左チャンネルのラルフのクラギ、右チャンネルのジョンのエレキギターが対話を交わしてゆく。ストリングスが鳴り止むと間奏部分となり、即興的な演奏になる。やはり2台のギターの絡みが聴きもの。最後にストリングスが復活し、テーマに戻って終わる。不思議な魅力がある曲だと思う。ジョン・アバークロンビーはECMから発表した作品ですでに有名になっており、本作への参加は昔からの付き合いによるものだろう。そしてラルフの参加もジョンの口利きと推定される。ドラムスのマイク・スミス(2006年没)はデイブ・ライブマン、ブレッカー・ブラザース、チャーリー・ヘイドン等とのライブ共演があるそうが、何故かレコード録音への参加は少なく、上手そうな人なのに不思議だ。クレジットにはピアノが入っているが、本曲ではほとんど聞こえない。他の曲でしっかりピアノを弾いているマーク・コーンは、同名のロック・アーティストとの混同を避けるため、後にマーク・コップランドに改名する。彼は当初サックス奏者としてジャズ界にデビューしたが、70年代にピアノに転向するために表舞台から姿を消す。後にジャズピアニストとして注目を浴びたのは1980年代以降だった。そういう意味で本作品は、彼がピアニストとして有名になる前の作品であり、改名もあってディスコグラフィーにも載っていない無名の作品となった。

ラルフが参加している作品は1曲のみであるが、それ以外では現代音楽風ジャズの曲でテリーのヴォイスが入っていたり、ストリング・クインテットのみの演奏(テリーは作曲と指揮を担当)があったり、マークのピアノとジョンのギターが圧倒的に暴れまくる急速調のジャズ・チューンがあったり、結構聴きごたえがある。この作品はマイナーレーベルからの発売だったこともあり、レアなレコードとなったが、2007年に「Water Garden」という別のタイトルでCD化された。

[2008年12月作成]


D24  Depart  (1980)  [Azimuth With Ralph Towner]  ECM


D21 Depart

John Taylor: Piano, Organ
Norma Winstone : Voice
Kenny Wheeler: Fluegelhorn, Trumpet
Ralph Towner: 12st. Guitar, C. Guitar

[Side 1]
1. The Longest Day [Taylor] 6:27  D22
 (Piano, 12st. Guitar, Horn, Voice)
2. Autumn [Taylor] 11:09 
  (Piano, C. Guitar, Horn, Voice)
3. Arivee [Taylor] 7:50
 (Piano, 12st. Guitar, Horn, Voice)

[Side 2]

4. Touching Point [Taylor] 

  From The Window 1:08
  
(Piano, C. Guitar) 
  Windfall 4:32
  
(Piano, C. Guitar, Horn, Voice)
  The Rabbit 2:34
  
(Piano, 12st. Guitar, Horn)
  Chacoal Traces 4:32
  (organ, 12st. Guitar, Horn, Voice) 
5. Depart [Taylor] 10:28
 (Piano, Voice)
6. The Longest Day (Reprise) [Taylor] 3:45  D22
 
(Piano)
Manfred Eicher : Producer

Recorded December 1979 at Talent Studio, Oslo

注: 5. 6. はラルフ・タウナー非参加


ジョン・テイラー (1942-2015)はイギリス生まれ。70年代はクレオ・レーン、ロニー・スコットのグループに在籍、1977年に奥さんのノーマ・ウィンストン、ケニー・ウィーラーとアジマスを結成。同グループでの活動の他に、80年代はヤン・ガルバレク、ギル・エバンス、リー・コニッツと共演、90年代以降は自己のソロ活動の他に、ピータ・アースキン、ケニー・ウィーラー、ベーシストのマーク・ジョンソン等と活動を続けている。最近はイタリアのジャズ歌手、マリア・ピア・デヴィートと活動し、ラルフが加わってアルバム「Verso」2000 R22を発表している。ノーマ・ウィンストンは1941年生まれのイギリス人で、前衛ジャズに傾倒し、歌詞のないインプロヴィゼイションを得意とする歌手。ジョン・アバーンクロビー、デイブ・ホランドなどと共演。1987年のソロアルバム「Somewhere Called Home」で、彼女はエグベルト・ジスモンティの「Cafe」(D22収録) やラルフの「Celeste」(R8収録)に歌詞を付けて歌っている。ケニー・ウィーラー (1930-2014) については、R8を参照のこと。3人が結成したグループ、アジマスは打楽器とベース奏者のリズムセクションがいない編成で、Chamber Music (室内楽)的ジャズと言ったらいいだろうか。アメリカ人にはないヨーロッパの感性がいっぱいだ。ひんやりとした肌触りの中に、情感がゆらゆらと見え隠れする音楽は、前衛でありながら美しく、楽しんで聴くことができる音楽との微妙なバランスを保っている。ここではラルフが作品の約3分の2にゲスト参加、彼なりの彩りを付加している。

1.「TheLongest Day」は、シンプルなアルペジオによるピアノのリフをバックに、スキャット・ヴォイス、ホーン(本作ではトランペットとフリュゲルホーンの区別ができないので、「ホーン」としました)、そしてラルフの12弦が音を入れてゆく。ラルフの「Beneath An Evening Sky」 1979 R8に似た感じの曲で、フリーな感覚のホーンのソロ、多重録音によるヴォイスのソロが絡む。途中から12弦ギタ−がリフに加わってアルペジオを演奏する。同じ曲がアルバムの最後に「Reprise」として収録されるが、そこではラルフのギターは入っていない。2.「Autumn」は、ジョンのピアノの独奏から始まる。彼のプレイは不協和音がきつめの独特な音使いでありながら、個性的な情感が感じられる。スローでメロディックなテーマが提示された後、ノーマが英語で、物思いにふけるような内容の歌詞を歌う。思索的な雰囲気の中、ホーンとギターが加わり、中盤はピアノソロにギターが反応する現代音楽的な対話となる。そして突如ピアノによる細かいリフが流れ、ホーン、ギター、ヴォイスのコレクティヴ・インプロヴィゼイションになって終わる。風変わりだけどいい曲だと思う。3.「Arivee」は、楽器間の自由な対話による曲で、ピアノと12弦が強めのタッチで演奏。ここではラルフが12弦を鳴らし切っている。LPでは、4.「Touching Point」からB面になる。「From The Window」は序曲のような小品。「Windfall」はシンプルなピアノにヴォイスとホーンがテーマを奏で、ギターがそっと寄り添う。ピアノのアドリブには墨絵のような純粋さがある。「The Rabbit」でのジョンのピアノは、サラサラと流れる冷たい小川のよう。ラルフの12弦はハーモニクスを多用した演奏だ。「Chacoal Traces」ではジョンはオルガンでリフを弾き、ラルフの12弦はコードで切り込みを入れる。ここではケニーのホーンがアグレッシブで、ノーマの高音ヴォイスもあって、かなりアヴァンギャルドなサウンドとなっている。

疑問符のようなメロディー、コード。フリーなインプロヴィゼイションと統制のとれたアンサンブルの対比。強烈さはないが、不思議な魅力のある作品だ。



D25 Tear It Up  (1982)  [Simon And Bard Group]  Flying Fish

D22 Tear It Up

Fred Simon : Piano, Fender Rhodes, Organ
Michael Bard : Sax, Lyricon wind Synthesizer, Clarinet
Steve Rodby : Electric And Acoustic Bass
Paul Wertico : Drums, Percussion

Ralph Towner : 12st. Guitar
Ernie Denow : Electric Guitar (2)
Rob Thomas : Violin (2)

1. Octabloon [Fred Simon] 8:24
 [Clarinet, Lyricon, Synthesizer, Piano, 12st. Guitar, Bass, Drums]
2. Tools Of Luxury [Fred Simon] 7:52
 [Sax, Piano, Violin, 12st. Guitar, Electric Guitar, Bass, Drums]

Fred Simon, Michael Bard : Producer

Recorded in 1981 at Studiomedia, Evanston, Illinois


1978年にECMから発表されたパット・メセニーのアルバム「Pat Metheny Group」は素晴らしい作品だった。エレキ、ダンス音楽へ傾倒し、内面的には空虚なものになってゆくフュージョン音楽のなかで、エレキギターを使用しながらもアコースティックな透明感を保ち、高い精神性を秘めたものだった。この作品は当時の音楽界に大きな影響を与えたはずで、本作もその1枚である。フライング・フィッシュはシカゴが本拠地のレコード会社で、主にカントリー、ブルーグラスを得意としていた。作品としてはジョン・ハートフォード、ノーマン・ブレイク、ヴァッサー・クレメンツなどで、私にとってはジョン・レンボーンの1980年代作品で馴染みが深いレーベルだった。この会社が異色とも言えるジャズの作品を製作したのは、グループの本拠地がシカゴだったこと、メンバーが幅広い音楽性を持っていたからと思われる。サイモン・アンド・バード・グループは同レーベルから3枚のアルバムを発表していて、1枚目「Musuic」1979 はラリー・コリエルとの共演。2枚目が本作にあたり、表紙タイトルには「With Ralph Towner」と付記されている。3枚目「The Enormous Radio」1985 はあまり話題にならなかったようだ。キーボード奏者のフレッド・サイモンは、本作以降はニューエイジのレーベル、ウィンダムヒルからのソロアルバム「Usually Always」1988の他、数枚のアルバムを出している。またジェリー・グッドマン、マイケル・マニングなどの作品に参加、特にオレゴンのポール・マッキャンドレスとは、前述のソロアルバム以外に、「Premonition」1991、「Twilight」1996 などの共演実績がある。派手に弾きまくるタイプではなく、一音一音を大事にするピアニストのようで、ニューエイジ的な音楽性を持っているといえよう。リード奏者のマイケル・バードは、本グループ以降の活動は地味で、スタン・ケントン楽団の作品に名前を見つけることができる程度だ。リズムセクションが曲者で、ベースのスティーブ・ロドビーは、この作品が発表されたころにはパット・メセニー・グループの一員となっており、その後パットの片腕として、ベーシストおよびプロデューサーで活躍した。またオレゴンの作品のプロデューサーとして「Northeast Passage」1996 O21、 「Oregon At Moscow」 2000 O23、 「Live At Yoshi's」 2002 O24でその手腕を発揮している。ドラムスのポール・ウェルティコも1983年から2001年までパット・メセニー・グループに所属し、スティーブとともに同グループの黄金時代を支えたメンバーだった。そういう人達がいるグループなので、パットの音楽に影響を受けたというよりも、同一線上にあったと言うほうが適切かもしれない。

ラルフは全6曲中、B面の2曲に参加している。どちらもアンサンブルの一員としてでの演奏で、インプロヴィゼイションはない。1.「Octabloon」はイントロから12弦ギターが聞こえる。インテンポになってからは、疾風が通り抜けるような演奏で、ラルフのアルペジオによるプレイが強力。マイケルのリリコーン(管楽器のシンセサイザー)がメロディーを吹くと、パット・メセニー・グループのサウンドそのもの。フレッドのピアノも繊細なバック演奏に専念する。サウンドの強弱がドラマチックで、バンド演奏の一体感、浮遊感が楽しめる曲。2.「Tools Of Luxuary」の初めと終わりのテーマは、アップテンポのロックっぽいフュージョン・サウンドそのもの。スティーブのチョッパー・ベースやエレキギターも入り、少し軽薄かなと思わせる位だ。それに対し、曲の中盤はニューエイジ風のスローで美しいサウンドで、その対比がこの曲の命だ。ラルフの12弦が活躍するのは後者の部分で、メロディーをつま弾く演奏が透明感に満ちていて、とても綺麗だ。

ラルフのソロはないが、巧妙なアレンジのなかで12弦ギターの美しさがしっかり生かされている。もしラルフがパット・メセニーのアルバムにゲスト参加していたら、さもありなんという感じの作品だ。現在は廃盤でCD化されていないはず。ちなみにジャケットの細かな模様は、楽譜を破いた(Tear Up)断片を貼り合わせたもの。

[2008年12月作成]


 
D26  Glisten  (1982)  [Joseph LoDuca]  Cornucopia 
 


 
Joseph LoDuca : Classical Guitar, Electric Guitar
Ralph Towner : 12 St. Guitar, Piano
Ralphe Armstrong : Acoustic Bass
Lawrence Williams : Drums


1. Artful Dodger [Joseph LoDuca] 9:07
 [Electric Guitar, Piano, Bass, Drums]
2. Perry Street [Joseph LoDuca] 2:50
 [Electric Guitar, 12st. Guitar]
3. LJ (For Linda) [Joseph LoDuca] 5:00
 [Classical Guitar, Piano, Bass, Drums]
4. Neon Night [Joseph LoDuca] 7:05
 [Classical Guitar, 12st. Guitar]

Edward Wolfrum, Joseph LoDuca : Producer



ジョセフ・ロデュカ (1958- )はデトロイト出身で、現地でジャズ・ギタリストとしてデビューしたが、当時無名だったサム・ライミ監督のホラー映画「Evil Dead」 (1982 邦題 「悪魔のはらわた」)の音楽を担当し、好評価を受けて作曲家の道を選んだ。この映画はスプラッター(血しぶきが飛び散る残酷映画)の古典となり、サム・ライミはテレビ映画の監督・製作で成功、近年は映画スパイダーマン・シリーズの監督として絶頂期にある。私はホラー映画は生理的に観れないので、映像作品として評価できないが、そこで使用された音楽を聴く限り、ジョセフの作曲したスコアが作品の成功に大きく貢献していることは十分想像できる。その後も二人のコラボレーションは続き、彼は、「Evil Dead」の続編などのホラー作品や、テレビシリーズ「Hercules」1995〜1999、「Xena Warrior Princess」 1995〜2001、「Spartacus」 2010〜2013 などの時代もので特異な才能を発揮するようになる。特に「Xena Warrior Princess」 は、ケルト、東ヨーロッパ、中近東、インド音楽を融合させて、独特の無国籍な音楽を創造している。かつて悪に染まった女戦士が、贖罪のために戦う様を描いたファンタスティックなストーリーは、主演のルーシー・ロウレスの魅力とともに、日本でも大うけするのではないかと思われるが、残念ながら未公開(日本が舞台となった最後のエピソードのみ「Jeena」というタイトルで日本で映画として公開された)。作品を覆うダークな雰囲気に加えて、主人公のゼナとソウルメイトのガブリエルの関係が同性愛的であることが、日本人の倫理観に合わないためと思われる。西洋では、同姓婚が一部の地域で認められているように、この手の価値観に対する抵抗感が少ないが、日本では子供の教育上悪影響を与えるとクレームする人がいるからだろう。ということで、ジョセフ・ロデュカの作曲家転向前の唯一のジャズアルバムという本作は、知る人がほとんどいない作品であるが、ラルフ・タウナーのファンにとっては、市場に出回ることが少なく、入手が難しい作品となっている。

収録された7曲は、ジャズとフュージョンが各2曲、ギター曲が3曲という構成で、ラルフはジャズ2曲とギターのデュエット2曲に参加している。ジョセフがデトロイトの地元でジャズ演奏家として売り出した頃、彼とラルフが一緒にギターを弾く宣伝写真が残っており、当時両者は恐らく師弟関係にあったと思わる。後にジョセフが映画・テレビ音楽の分野で成功した後も、インタビューで影響を受けたアーティストとして、ジョン・マクラグリンとラルフ・タウナーの名前を挙げており、演奏面のみならず理論・作曲面でもいろいろ習ったものと思われる。1.「Artful Dodger」は、モード調のジャズ曲で、オーセンティックな音色によるジョセフのギター・プレイが冴えている。ウッドベースのラルフ・アームストロングは、フレットレスベースの名手としても有名で、彼のプレイを見たジャコ・パストリアスが自分のベースのフレットを剥ぎ取ったという逸話がある人で、マハヴィシュヌ・オーケストラ、ジャン・ルック・ポンティ、アール・クルーなどのアルバムに参加。ラルフのピアノは、前半は伴奏に専念しているが、後半のソロではアグレッシブなプレイを展開する。3.「LJ」は、ある女性に捧げた曲のようで、きれいなメロディーを中心とした落ち着いた感じの曲で、ジョセフ、ラルフとも短くメロディックなソロを入れている。2.「Perry Street」と3.「Neon Night」では、ラルフは12弦ギターを弾いている。彼のギター・デュエットは、他にジョン・アバークロンビのみでもあり、大いに期待するところであるが、意外に地味な出来。耽美的な美しさを感じさせる 2.「Perry Street」に対し、3.「Neon Night」は、あまり作り込まれた感じがしないジャムセッション風の曲。両者ともインパクトに欠けるが、何度も聴くと味が出てくる。

ラルフ非参加のフュージョン曲「Renaissance City」、「Straights Of Magellan」は、地元のミュージシャンをバックに彼のギター、ギター・シンセサイザーが大活躍する。当時パット・メセニーを筆頭に一世を風靡した、インプロヴィゼイションとアンサンブルを融合した構成が見事で、彼のクラシックギターを中心としたアンサンブルによるタイトル曲「Glisten」と併せて、サウンドクリエイターとしての彼の才能が十分にうかがえる曲だ。

ジョセフ・ロデュカは、テレビ・映画音楽家として成功したが、ホラー・時代ものという特殊な分野であること、ジャズ演奏家としての知名度は低いこともあり、本アルバムの流通量は少なく、なかなか市場に出回らないので、ファンは要チェックだろう。

[2012年8月作成]


 
D27  Bratislava Jazz Days 1984 (1985)  [Various Artists]  OPUS  
 

Paul McCandless: English Horn
Ralph Towner: Piano
Colin Walcott: Sitar
Glen Moore: Bass

1. The Silence Of Candle [Towner] 7:25  O2 O6 O21 R2 D7 D40
  (English Horn, Piano, Sitar, Bass)

Recorded at Estradna Hale PKO, Bratislava, Czechoslovakia, October, 1984

 

私が本アルバムの存在を知ったのは2020年代で、ポール・マッキャンドレスのホームページ「Recordings」からだった。調べてみると、オレゴンの曲は2枚組LPのうち1曲のみであることがわかったが、存在を知った以上そのままにしておけない性分なので、早速購入した。

ブラティスラヴァは、現在スロバキア共和国の首都であるが、本アルバムの1984年時点では、1993年にチェコスロバキア共和国がチェコとスロバキアに分離する前だったので、当時の首都はプラハということになる。ビロード革命によるチェコの民主化は1989年、ドイツの統一が1990年、ポーランドの民主化が1990年、ソ連解体が1991年なので、本アルバムは、その前の社会主義体制が残っていた時代のものなのだ。

ブラティスラヴァ・ジャズデイズは、1975年に地元のジャズ愛好家が始めたフェスティバルで、最初は自国および社会主義国のミュージシャンのみだったが、次第に西側から参加するようになり、1979年に初めてアメリカ人の参加が実現した。最初の著名アーティストは1982年のトゥーツ・シールマンスで、翌年がラリー・コリエルとジャック・ディジョネットの特別バンド、そして本アルバムのオレゴンとなる。コンサートはラジオ局により録音され、1976年から1989年までの間、計10組の2枚組ライブアルバムが発売された。1985年発売の本アルバムは、その1984年版にあたる。

会場は文化・レジャー公園内にあるエストラーダ・ホールで、12組のアーティストの曲が2枚のLPに収められている。オレゴンの1.「The Silence Of Candle」(Side-Cの1曲目。何故か「Candle」の前に「A」がない)は、知名度の高いグループの米国から参加ということで、他のアーティストよりも大きめの拍手から始まる。この時期のおける同曲の演奏として内容的に変わりはないけど、コリンのシタール、ラルフのピアノ・プレイを楽しむことができる。

他のアーティストで知名度が高い人は、イギリスのピアニスト、キース・ティペットだろう。フリージャズ系であるが、私にとってはキング・クリムゾンのレコーディング(「In The Wake Of Poseidon」1970、「Lizard」1970、「Islands」1971)への参加で縁があった人だ。ここではヴォイス担当の奥さんジュリー・ティペット(旧姓 ドリスコール)、東西ドイツのミュージシャンと一緒にフリージャスを演っている。他はアメリカからもう1組と、地元チェコスロヴァキア、東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、ソ連、スウェーデンと多彩で、音楽的にはフリージャズ系が多く、先鋭的なフュージョンのグループもある。東西に分かれていた当時の体制のなかで、東側のグループが意外と上手いのに驚かされるが、上述の民主化が急激に発生したものではなく、政治的のみならず文化面において、以前から時間をかけて移行していったことがよくわかる。

オレゴンは1曲のみであるが、それなりにきりっとした良い演奏。ヨーロッパが東西に分かれていた時期のライブということで、その時代背景を意識しながら聴くと、それなりの感慨がある。

[2024年3月作成]


D28  Usfret  (1988)  [Trilok Gurtu]  CMP


D24 Usfret

Trilok Gurtu: Percussion, Voice
Shobha Gurtu: Vocal, Voice
Ralph Towner: 12st. Guitar, C. Guitar, Synthesizer
Don Cherry: Trumpet
Shankar: Violin
Daniel Goyone: Piano, Keyboards
Jonas Hellborg: Bass

1. Shangri La/Usfret [Trilok Gurtu, Walter Quintus/Trirok Gurtu] 13:00
  (Voice, Percussion, 12st. Guitar, Synthesizer, Violin, Trumpet)
2. Deep Tri [Traditional Arranged By Daniel Goyone] 7:02
 (Voice, Tabla, 12st. Guitar, Piano, Violin, Bass)
3. Goose Bumps [Trilok Gurtu] 4:22
 (Percussion, Drums, Synthesizer, Keyboards, Violin)
4. Milo [Trilok Gurtu] 4:15
 (Voice, Tabla, C. Guitar, Piano)

Kurt Renker, Walter, Quintus, Trilok Gurtu: Producer
Recorded at 1987/1988


トリロク・グルトゥ (1951- )がオレゴン在籍中の1988年に製作した初リーダー作。自らのルーツである伝統的なインド音楽に回帰して、自分がやりたい音楽をやってみましたという感じの作品。有名なインド伝統音楽の歌手で、彼の母親でもあるショーバ・グルトゥを全面的にフィーチャーして、濃密な音世界を作り上げた。1.「Shangri La/Usfret」の第一部は、「桃源郷」という意味のタイトルで、ドン・チェリー(1936-1995)のトランペットのイントロから始まる。彼はオーネット・コールマンやコルトレーンとの共演で有名となり、前衛ジャズの筆頭として多くのリーダー作を発表、1978〜1982年には、コリン・ウォルコット、ナナ・ヴァスコンセロスと「Codona」というユニットを結成、3枚のアルバムを残している。テーマでインド風のメロディーを歌うショーバのヴォイスは.、通常のインド歌謡と異なり、少しハスキーな低音で、神がかったような強烈なカリスマ性を感じる。またジョン・マグラグリンがインド音楽に傾倒したグループ、シャクティのメンバーで、ピーター・ガブリエル、ブルース・スプリングスティーン、フィル・コリンズ、ルー・リード、坂本龍一など多くのミュージシャンと共演したシャンカールのバイオリンが、シンセサイザーと一緒にエキゾチックな音の壁を創る。第二部になってリズムが入り、バイオリン、トランペット、シンセサイザー、ヴォイス、ドラムスが入り乱れる圧倒的なコレクティブ・インプロヴィゼイションが展開される。そしてリズムがブレイクし、ラルフの12弦ギターが音を入れて、曲のムードを変える。そしてシンセサイザーのリフをバックに、トリロクが超人的なヴォイス・パーカッションを披露する。いままでに聴いた最も早口のヴォイスだ!またこのパートで聴かれるシンセサイザーは、トリロク・バンドのダニエル・ゴヨーンによる演奏の他に、その音色とタッチからラルフのプレイと思われる部分がある。最後はパワフルなドラムスによるプログレッシヴ・ロックのようなサウンドとなる。

2.「Deep Tri」は、パーカッション、ピアノ、エレキベースのイントロから始まる。パーカッション、タブラとシンセサイザーをバックにショーバがテーマを歌い、ラルフの12弦ギターとシャンカールのバイオリンが入る。伴奏自体はフュージョン風であるのに対し、ユラユラと揺れるハミングのボーカルがインドしていて、そのコントラストが面白い。ファンクっぽいベースと東洋風バイオリンの後、パーカッションのソロとなるが、バックでラルフはハーモニクスを多用する。3.「Goose Bumps」は、複数のシンセサイザーとドラムス、パーカッション、バイオリンによる連携が効いた曲で、本作のなかでは一番「普通」のサウンド。バイオリン・ソロの後にいったんブレイクし、ラルフによるグルーヴィーなシンセサイザー・ソロが入る。4.「Milo」は、ピアノのイントロ、ショーバのハミング・ヴォイスによる導入部から、大変ポップな弾き語り風ピアノ・プレイとなり、それはまるでジム・ウェッブ(進歩派のソングライター)の曲のようだ。タブラとパーカッションによるソフトなラテン風リズムに乗せて、ラルフのクラギとダニエルのシンセが優しいバックをつける。その中でショーバのヴォイスが唯一インド風自己主張をしていて、そのコンビネーションは不思議な魅力がある。

この作品は、従来の白人による「インド風フュージョン」と一線を画する音作りで、一部のファンに熱狂的に支持されたようだ。オレゴンの音楽の中には納まりきらない独自の個性が感じられ、独立後にミュージシャンとして大成する萌芽が見られる作品となっている。


[2007年4月作成]


D29  One Day At A Time  (1990)  [Jerry Granelli]  ITM


D25 One Day At A Time

Ralph Towner : Synthesizer
Jerry Granelli : Drums, Synthesizer, Drum Machine
Denney Goodhew : Alto Sax

1. Point Of Departure [Granelli] 7:21
  (Drums, Synthesizer, Alto Sax)
2. Life Line [Granelli] 6:20
  (Drums, Synthesizer, Alto Sax) 
3. Until Now [Goodhew] 9:09
  (Drums, Synthesizer, Alto Sax)

Jerry Granelli, Steve Brooks : Producer


D30 KOPUTAI  (1990)  [Jerry Granelli]  ITM


D26 KOPUTAI

Ralph Towner : Synthesizer
Jay Clayton : Voice
Jerry Granelli : Drums, Synthesizer, Drum Machine
Denney Goodhew : Alto Sax
Julian Preister : Trombone (2)

4. KOPUTAI [Granelli] 6:50
  (Drums, Synthesizer, Voice, Alto Sax)
5. Pillars [Granelli] 3:22
  (Drums, Synthesizer, Voice, Trombone) 
6. Haiku [Granelli] 3:32
  (Drums, Synthesizer, Bass Clarinet)

Jerry Granelli, Steve Brooks : Producer
Recorded at London Bridge Studios in Seattle, Nov 21-25, 1988


ドラム奏者のジェリー・グラネリ (1940-2021) については、ラルフのソロアルバム「City Of Eyes」1989 R13で紹介した。当時彼はラルフのグループの一員だった関係で、リーダーアルバムへの参加となったものと思われる。D30で本人が以下の通りコメントしている。「This music was recorded in 3 days. There are no over dubs, only 2 written composition (注 全7曲中). All of this music is what I call spontaneous compositions.」気心の知れたミュージシャンによる即興演奏の作品だ。D29,D30とも、参加ミュージシャンは2つのグループに別れ、ひとつは上記の曲目リストに記載したラルフ・タウナー、デニー・グッドフューのユニット、もうひとつはギターのロベン・フォード、ベースのチャーリー・ヘイドン、トロンボーンのジュリアン・プレイスターのそれだ。前者は、サウンドメイキングでラルフの嗜好がよく出ているのに対し、ラルフ非参加の後者は、クロスオーバー系のギタリストが参加しているため、よりアグレッシブなサウンドとなっている。D30と異なり、D29については録音日、場所の明記がないため、これら二つの作品が同じセッションで録音されたかは不明であるが、雰囲気的にはほぼ同じに聴こえるし、ほぼ同時期に発売されている。ただしD30は、女性ボーカリストのジェイ・クレイトンが加わっている点で、D29と異なる。

1.「Point Of Departure」は、コレクティブ・インプロヴィゼイション・スタイルの曲で、リズムを刻むドラムスをバックに、シンセサイザーとサックスが互いに反応し合いながら、音を切り込んでゆく。シンセサイザーは、タウナー好みの音色だ。後半でタウナーがストリングスのようなシンセサイザーを奏で、それを背景にデニーがサックスを吹くあたりは、ヤン・ガルバレクとのセッションを彷彿させる。2.「Life Line」は、ガムラン音楽のような音色のパーカッション(ドラム・シンセサイザーだろう)とドラムスが刻むポリリズムをバックに、サックスとシンセサイザーがユニゾンでテーマを演奏、サックスとシンセがソロを取り合う、比較的曲らしい構成のある演奏だ。クレジットでは3曲目の「One Day At A Time」にラルフ参加とあるが、間違い。5曲目の3.「Until Now」が正しく、クレジット表記ミスと思われる。ここではチョッパー・ベースような音が聞こえるが、よく聴くとラルフのシンセサイザーの音であることがわかる。ドラムスをバックに、シンセが様々なカラーの音色を出して飾り付けを行い、サックスが自由なソロを展開する構成。

D30 「KOPUTAI」は、女流ボーカリスト、ジェイ・クレイトンのヴォイスが加わる。彼女は、スティーブ・ライヒ、ジョン・ケージなどの前衛音楽から、チャーリー・ヘイドン、ゲイリー・ピーコックなどのセッションに参加。オレゴン関係ではポール・マッキャンドレスの「Navigator」1981がある。現在もニューヨークでステージおよび教育活動を行っているそうだ。4.「KOPUTAI」は、ドラムが刻むリズムに、ヴォイス、シンセサイザー、サックスが互いの音に反応し合いながら演奏を展開するコレクティブ・インプロヴィゼイションだ。シンセサイザーの音使いがエキゾチックで、トリロク・グルトゥの「Usfret」 D28のサウンドに似ている。各人による音の入れ方が繊細で、研ぎ澄まされた感性による音楽だ。5.「Pillars」でトロンボーンを吹くジュリアン・プレイスター(1935- )は、R&B、フュージョン、バップ、前衛などあらゆるスタイルをこなす人で、マディ・ウォータース、ボ・ディドレーから、マックス・ローチ、フレディ・ハバード、アート・ブレイキーなどのジャズ、ハービーハンコックなどのフュージョン、デイブ・ホランド、チャーリー・ヘイドン、そしてサン・ラなどの前衛派の作品にも参加している。6.「Haiku」は、日本語の「俳句」の事だろうか? 現代音楽、邦楽的な音の間を生かし、各奏者によるシンプルな音の交換からなるフリーフォーム曲。

即興演奏集であり、タウナーはギターを弾いていないので、彼が参加したセッション作品のなかでは地味な存在だ。

なお1996年に、同じレコード会社からロベン・フォード名義で「Blues Connotation」というタイトルのCDが発売され、そのクレジットに「Ralph Towner, Synthesizer」の記載がある。当該作品は、ジェリー・グラネリ名義のD29、D30および「A Song I Thought I Heard Buddy Sing」(1992)からの曲を集めたもので、いずれの曲についてもラルフのシンセサイザーの音は聞こえず、ラルフ参加とするのは明らかに誤り。上記D29の「One Day At A Time」のクレジットミスをそのまま引きずったものと思われる。そしてその間違いは、2006年ウエスト・ウィンドというレーベルから発売された「City Life」というCD(タイトルと表紙デザイ
ンは異なるが内容は同じ)でも繰り返されている。ひどいもんですね〜!

[2007年12月作成]

[2013年追記]
2003年にドイツで発売されたDVD「Imaginative Esoteric Sounds : New Age」(Various Artists)に、本作の「Haiku」が入っている。ただし名義がジェリー・グラネリでなく、ラルフ・タウナーになっているのが面白い。実際のところ、シンセサイザーをメインとした即興演奏なので、ラルフが主導権をとっている曲と言えるからね!水槽の中を泳ぐ魚やクラゲの映像は、画像処理により付けられた色により、シュールな世界が表現されている。

他にデビッド・フリーゼン、ジェリー・ガルネリ、パット・メセニー、ジョン・スコフィールドなどのアーティストによる現代音楽風のサウンドと、各地の風景の撮影が非現実感を盛り上げており、想像性に富んだ出来上がりとなっている。


D31  Ludwigsburger Jazztage (1993)  [Various Artists]  Chaos

D27 Ludwigsburger Jazz Festival

Paul McCandless: Oboe
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar
Trilok Gurtu: Tabla, Percussion

1. June Bug [Towner] 13:51 O11
  (Oboe, C. Guitar, Bass, Tabla, Percussion)

Recorded at Forum, Lugwigsburg, Nov 27, 1990



ドイツ南部、フランスとスイスの国境に近い町ルードヴィスブルグで毎年11月に開催されるジャズ・フェスティバル1990年の音源から1曲が、ドイツで公式発表されていた。他のアーティストは、ジョシュア・レッドマン(サックス)、チック・コリア(ピアノ・ソロ)、ケニー・ウェーナー(ピアノ)、マイク・マイニエリ(ヴァイブ)、ジョ・ラヴァロ(サックス)で、全7曲収録されている。彼らに比べると、エスニックな雰囲気が漂うオレゴンの演奏はちょっと異質かな?

1.「June Bug」は、スタジオ録音「Roots In The Sky」1979 O11に比べるとテンポがとても速く、めまぐるしい感じがする。それにしても、よくこんなに早く弾けますね〜。オーボエのソロのバックで聞こえるベースは、スタジオ録音や他のライブとは全く異なるリフで演奏されており、それがこの音源をユニークなものにしている。トリロク・グルトゥのタブラ、パーカッション・ソロが物凄く、本当に一人で叩いてるとは信じ難い。彼のリズムの強靭さがよく表れていると思う。

公式発売された 1.を除く、同日のコンサートの音源が出回っており、それらについては「その他映像・音源のコーナー (オレゴン)」を参照ください。


[2024年5月追記]
2024年、本曲を含むコンサートのフルセット音源が、「Treffpunkt Jazz Oregon Ludwisburg 」というタイトルでCD発売・配信されました。詳しくは「その他 映像 音源(オレゴン)」の部 「Ludwisburger Jazztage (aka Treffpunkt Jazz)」をご参照ください。


D32  Start Here (1990)  [Vince Mendoza] Fun House


D28 Start Here

Vince Mendoza : Synthesizer Sequencing, Arragement, Producer
Judd Miller : Synthesizer Programing, EVI (3)
Ralph Towner : 12 st. Guitar (3), C. Guitar (1,2,4)
Marc Cohen : Piano (1,2,4)
Joe Lovano : Soprano Sax (3,4), Tenor Sax (4)
Bob Mintzer : Tenor Sax (2), Bass Clarinet (1,2)
Lawrence Feldman : Alto Sax (2), Soprano Sax (1,2)
Jerry Peel : French Horn (1,2)
Gary Peacock : Bass
Peter Erskine : Drums
Lee Kwang Bay : Violin (1,2)
Warren Lash : Cello (1,2)


1. Elder Wings [Vince Mendoza]  6:33

  (Synthesizer, Piano, C Guitar, S. Sax, B Clarinet, French Horn, Violin, Cello, Bass, Drums)
2. Her Corner [Vince Mendoza] 6:06
  (Synthesizer, Piano, C. Guitar, T. Sax, A. Sax, S. Sax, B. Clarinet, French Horn, Violin, Cello, Bass Drums) 
3. Save The World [Vince Mendoza]  5:33
  (Synthesizer, 12st. Guitar, WS. Sax, Bass, Drums)
4. Oprah Mode [Vince Mendoza]  6:36
  (Synthesizer, Piano, C. Guitar, S. Sax, T. Sax, Bass, Drums)

Recorded at New York, Nov 13-14, 1989


ヴィンス・メンド−ザ (1961- )は、作曲家、アレンジャー、プロデューサーとして1980年代から活躍、ピーター・アースキン、ジョン・アバークロンビー、アル・ディメオラなどのジャズ作品、およびリッキー・リー・ジョーンズ、ビョーク、ジョニ・ミッチェルなどの作品にも携わっている。またテレビや映画音楽も手がけている。その彼が日本のレコード会社の企画により製作したソロアルバムが、本作「Start Here」と次作「Instructions Inside」だ。そのため製作スタッフの多くは日本人で、日本ではファンハウスから、本国米国ではブルーノートから発売された。1970年代にジャズとロックを融合して生まれたクロスオーバー音楽は、華麗なテクニックで聴きやすい音楽を提供し、一世を風靡したが、1980年代になってマンネリ化して行き詰まった。当時の作品を聴くと、表面的な耳さわりの良さのみが売り物の空虚な音楽というものがあり、安易なイージーリスニング音楽と変わらないものが多い。そういった風潮のなかで、この作品は何となく聴いていると、バックグラウンド・ミュージックとして楽しめるんだけど、じっくり聴きこむと、結構創造的でもあり、野心的なアレンジャー、サウンド・クリエイターの作品ということもできる。ラルフが奏でる12弦ギター、クラギによるアコースティックな響きが、アルバムに特異なカラーを付け加えているのも、プロデューサーの確信的な意図だろう。アレンジ、アンサンブルを重視した演奏でありながら、各楽器に名手を揃えたのも本作の魅力となっている。とは言え、ラルフが参加した作品の中で最もフュージョンっぽい作品であることは確か。

1. 「Elder Wings」はシンセサイザーと生楽器混成によるテーマから始まる。不協和音が入ったアレンジであるが、アコースティックな楽器の音色がヒューマンな温もりを残している。名手ゲイリー・ピーコックのベースソロに続き、ラルフがソロを取る。鉄壁のアレンジによる伴奏を背景に、ソリストが思い思いの色を落としてゆくのも本作の魅力だ。2.「Her Corner」はアンサンブル主体の曲で、間奏ソロはピアノが担当、ラルフのギターは伴奏に徹している。ピアノを弾いているマーク・コーンは、ロックアーティストに同名の人がいたために、後にマーク・コープランドという名前に変えた。3.「Save The World」は、打ち込みっぽいシンセサイザーのイントロとテーマに続く、ラルフの12弦ギターの響きが印象的。ソプラノ・サックスでソロを取るジョー・ロヴァノ(1952- )は、ウディ・ハーマン、メル・ルイスを経て、ジョン・スコフィールド、ピター・アースキン等多くのアルバムに参加、自身のアルバムも高い評価を得ている人。続くラルフのソロもスケールが大きく聴き応えがある。大変カッコイイ演奏なんだけど、どの程度プロデューサーが仕組んだのかな? 4.「Oprah Mode」は、これらの中では最も聴き易いサウンドで、ソロはソプラノ・サックス、テナー・サックスとギター。 

ラルフが入っていない他の5曲には、ジョン・スコフィールドやウィル・リーが参加し、よりクロスオーバーっぽい音に仕上がっているが、それなりに聞き応えがある。アルバムを通じてリズムの要となっているピーター・アースキンのドラムが全体を締めているようだ。

[2008年7月作成]


D33  Instructions Inside (1991)  [Vince Mendoza] Fun House


D29 Instructions Inside


D29a Instructions Inside

Vince Mendoza : Additional Drum Sequencing (1)
Judd Miller : EVI
Ralph Towner : 12 st. Guitar (1), C. Guitar (2,3)
Joe Lovano : Soprano Sax (1,3), Tenor Sax (2,3)
Marc Johnson : Bass
Peter Erskine : Drums


1. Will To Live [Vince Mendoza]  4:47

  (Synthesizer, 12st. Guitar, S. Sax, EVI, Bass, Drums)
2. Steady Wonder [Vince Mendoza]  7:27
  (Synthesizer, C Guitar, T Sax, EVI, Bass, Drums) 
3. Faithkeep [Vince Mendoza]  5:20
  (Synthesizer, C. Guitar, S. Sax, T. Sax, EVI, Bass, Drums)

Recorded at New York, Mar 1-2, 1991

注)写真上 : オリジナル盤のジャケット表紙
  写真下 : 米国発売のジャケット表紙


前作「Start Here」D32 の続編的なアルバムで、これも同じレーベルから発売された。サウンド作りおよびバックを勤めるミュージシャンはほぼ同じであり、概要の説明は上記と重複するので省略する。

1.「Will To Live」はタブラのような音を含むポリリズムのパーカッションが聞こえるが、これはヴィンスの打ち込みによるものと思われる。ここでもラルフがハードエッジな12弦ギター・ソロを披露する。彼のプレイの中でも最もアグレッシブじゃないかな?続くソロはソプラノ・サックス。ジュッド・ミラーが演奏するEVIは、吹奏楽器の形で演奏するシンセサイザーで、彼はその楽器に専念した奏者。マイケル・ブレッカーやジョン・アバークロンビーの作品、そして映画やテレビの音楽に多く参加している。2.「Steady Wonder」は、マーク・ジョンソン(ラルフとは1996年の「Lost And Found」 R18で共演)のベース、ラルフのギター、ジョーのテナー・サックスの順番でソロがフィーチャーされる。3.「Faithkeep」はアンサンブル重視の演奏で、ソロはギターとソプラノ・サックス



D34  Six Pack (1992)  [Gary Burton]  GRP


D30 Six Pack


Ralph Towner : Classical Guitar
Gary Burton : Vibes

1. Redial [Towner] 3:54  O15 R22
  (Vibes, Classical Guitar)
2. Guitarre Picante [Towner] 4:58  O18 R29

  (Vibes, Classical Guitar)

Gary Burton : Producer

Recorded at The Power Station NYC, Dec. 1991 - Feb. 1992


「Match Book」 1975 R3、 「Slide Show」 1986 R12 という珠玉の作品集に続く3度目の共演。CDジャケットに寄せたラルフのコメント。「ゲイリーと演奏するときは、発電所の側に座っているようだ。彼のパワーは物凄いので、音楽に注意力を集中させることができる。彼と曲を演奏する時、軽薄な感じになることはあり得ない。驚異的な集中力なのだ。」

本作では、ラルフお得意のレパートリーを2曲選んで、再会セッションを楽しんでいるようだ。1.「Redial」は軽快なリズムとメロディーによるブラジル風の曲で、ゲイリーのヴァイブは従来よりもリバーブ効果を少なくして、よりクリアーなサウンドで録音されている。彼のソロを聞く限り、ラルフのデュエット・パートナーとして、彼が最高の存在であることは異論がないだろう。ラルフがソロを取る時の彼のバックの演奏も、隙のない完璧なものだ。2. 「Guitarre Picante」は、ラルフ独特の軽妙洒脱なR&B風楽曲で、ゲイリーのテーマ演奏は、センスの良いさらっとしたものだ。彼のソロも、余裕とタメを効かせたもので、大変味わい深い。続くラルフのソロも何時になく寛いだ感じで、小粒ではあるが快演と言えよう。

その他、ジム・ホール、ジョン・スコフィールド、B.B. キング、カート・ローゼンウィンケル、ケヴィン・ユーバンクスといった、錚々たるギタリストをゲストに、ジャック・ディジョネット(ドラムス)や、後にジェイムス・テイラーのバンドのメンバーとなるラリー・ゴールディングス(キーボード)、スティーブ・スワロー、ウィル・リー(ベース)といった名手達がバックを担当。一部の曲ではパット・メセニーがプロデュースを担当しており、彼の人脈の広さを物語っている。

[2007年12月作成]


D35  A Good Question (1992)  [Howard Schanzer]  Ideal Landscape Music


D31 A Good Question

Howard Schanzer : Guitar
Ralph Towner : Piano, Synthesizer
Denney Goodhew : Tenor Sax, Alto Sax, Soprano Sax, Alto Flute
Doug Miller : Bass
John Bishop : Drums

1. Climbing [Schanzer] 4:15
  (E. Guitar, Piano, Tenor Sax, Bass, Drums)
2. Portal [Schanzer] 3:53

  (E. Guitar, Synthesizer, Bass, Drums)
3. Ballard Ballad [Schanzer] 6:10
  (E. Guitar, Piano, Alto Sax, Bass, Drums)
4. Confluence [Schanzer] 6:31

  (A. Guitar, Piano, Synthesizer, Alto sax, Bass, Drums)
5. Vortex [Schanzer]
4:08
  (E. Guitar, Piano, Tenor Sax, Bass, Drums)
6. Valence [Schanzer] 6:33

  (E. Guitar, Synthesizer, Alto Flute, Bass, Drums)
7. Journey To The Interior [Schanzer]
7:42
  (E. Guitar, Piano, Bass, Drums)
8. Ideal Landscape [Schanzer] 6:39

  (A. Guitar, Synthesizer, Soprano Sax, Bass, Drums)
9. A Good Question [Schanzer]
7:58
  (E. Guitar, Synthesizer, Alto Sax, Bass, Drums)

Howard Schanzer, Ralph Towner : Producer

Recorded at Seattle, Washington, July 1992


ハワード・シャンツァーについては、インターネットで検索してもほとんど資料がない。1980年代後半と1990年代前半の間、東海岸のシアトルで演奏活動をしていた事実がある程度で、その後は記録が途絶えてしまう。従って少なくても現在は音楽活動をしていないことは明らかで、氏名の検索で出てきた音楽関係以外の人物と同一であるかも不明。リズムセクションのダグ・ミラー(ベース)とジョン・ビショップ(ドラムス)は、同じシアトルを本拠地とするミュージシャンで、現在も同地で元気に活躍している。管楽器のダニー・グッドフューは、本作以前からラルフと接点があり、ジェリー・ガルネリのセッション作「One Day At A Time」 D29、「KOPUTAI」 D30で共演した他、後年のラルフのソロアルバム「Lost And Found」 1996 R18 にも参加している。CDジャケットにはハワードの連絡先が書いてあるだけで、レコード会社のインフォメーションは記載されておらず、本作は恐らく自主制作盤かそれに近いものと思われる。ラルフが何故そういう作品に全面参加し、共同プロデューサーまで務めたか不明。これも推定の域を出ないが、ラルフの故郷が近くであることから、師弟・交友・親戚関係等で何だかのコネがあったのではと思われる。

本作ではラルフはギターを弾かず、キーボードに専念。ソロを取ることも少なく、サウンド作りとソロイストの引き立て役に徹している。その分ギターと管楽器が伸び伸びとプレイしており、堅実なリズムセクションの好サポートもあって、とても良くまとまった作品になっていると思う。ハワード・シャンツァー自身の音楽性は、パット・メセニーに共通する透明感があるが、野心というか自己顕示欲がなく、内省的な面が強いと思う。そういう意味でプロのミュージシャンとして活動を続けることに限界があったのかもしれない。一方で、普通の職業音楽家の作品に見られる作為性がなく、本作の音楽は水晶の結晶のように純粋で、静かな夜に聴いていると、自分の心が闇の中に溶け込んでゆくような気分になる。

1.「Climbing」は、イントロなしていきなりテーマ演奏が始まる。ハワードのギターの音色はエフェクトをかけないオーセンティックなもので、こじんまりとしているが端正なプレイに好感が持てる。ブラジル音楽風のリズムに乗って展開されるギターとテナーサックスのソロのバランスがとても良いのは、彼らを上手く煽って引き立てているラルフのピアノのおかげ? 2.「Portal」は、カラフルなシンセサイザーの音色が曲の背景を決め、よりフュージョン風のサウンドとなっている。3.「Ballard Ballad」は曲名のとおりスローな曲で、エコーを深めにかけたメランコリックな世界。ここではラルフの控えめなピアノソロが聴ける。4.「Confluence」はアコースティック・ギターによる演奏で、音楽的にはパット・メセニーに近い。ラルフが途中からバックで演奏するシンセサイザーが効果的。ダグ・ミラーのベースソロも入る。5.「Vortex」は、ラルフ主導によるブラジル音楽風のアレンジといった感じで、オレゴンのサウンドに近いかな?6.「Valence」はリズムがないスローな曲で、シンセサイザーの和音を背景にフルートがテーマを、ギターが陰影に富んだプレイを展開する。7.「Journey To The Interior」は、スローテンポによる内省的なサウンド。ここではラルフのピアノが比較的前に出て演奏する。その間ハワードはギターでリズムを刻まないので、ピアノトリオを聴いているかのような雰囲気になる。その後に出てくるギターソロとラルフのピアノのやり取りは、抑制が効いていてファンタスティック。8. 「Ideal Landscape」はレーベル名になっただけあって自信作らしく、カラフルなサウンドが心地よい。ラルフの作品に見られる、曲としての構成美とインプロヴィゼイションの見事な調和がある。ダニーのソプラノサックスが素晴らしく、ポール・マッキャンドレスを連想させる。ハワードのギターソロも気合が入っている。テーマとエンディングにおけるシンセサイザーの演奏は、ラルフの技の冴えを楽しむことができる。ラストを飾るタイトル曲 9.「A Good Question」は、ハワードの作曲のセンスが光っている。絶妙のコード進行に乗って、生き生きとしたギター、アルトサックス・ソロがフィーチャーされる。そして、ここで聴かれるラルフのシンセソロは、本作の彼のプレイの中でも最もアグレッシブなものだ。

ジャケット表紙デザインの水彩による抽象画が、本作の雰囲気を上手く表現している。中古市場でも滅多にお目にかかれない作品なので、見かけたら直ちに購入することをお勧めします。


D36  Come Together Guitar Tribute To The Beatles (1993) [Various Artists] NYC Records


D32 Come Together

Ralph Towner : Classical Guitar

1. Here, There, And Everywhere [Lennon, McCartney] 5:52
  (Classical Guitar)


Mike Mainieri : Producer


ヴァイブ奏者のマイク・マイニエリが設立したレコード会社で製作された、ギタリストのインストルメンタルによるビートルズへのトリビュート盤。スティーブ・カーン、エイドリアン・ブリュー、ジョン・アバークロンビー、アラン・ホールズワース、レニ・スターン、ラリー・コリエル等、11人の個性派ジャズギタリストが招かれ、各自好きな曲をソロ、グループ、多重録音など様々なスタイルで演奏している。

ラルフはナイロン弦ギターによるソロ演奏で参加。ザ・ビートルズが1966年に発表したアルバム「Revolver」に収められていたポールの曲をカバーしている。コード進行とメロディーが美しい名曲を、見事にアレンジしたラルフの才能が光っている。ギタリストによるビートルズのソロ演奏アレンジは、たくさん出回っているけど、ラルフのアプローチは他のギタリストとは基本的に異なっている。既存の曲をギターソロにアレンジする場合、普通のギタリストは、ギターを抱えてコードを確かめながら低音、高音の運指を決めてゆくことで、組み立ててゆくと思われるのだが、彼の場合はまず譜面に落としたうえで、メロディーに新たなヴォイスを付け加えて、まず音を決める。その上でそれを可能にするフレット上の運指を割り出すというコンポジショナルな視点で取り組んでいるものと思われる。そのため彼のギター演奏は、他のアーティストとは異なり、ワンパターンにならず、大変自由な雰囲気が感じられ、しかも彼自身が作った曲と同じ魂が込められていると思う。この点は、彼がビル・エバンスや他のジャズ・スタンダード曲をアレンジする際にも当てはまるものだ。

何度聴いても心が洗われる、とても前向きで清涼感があるサウンド。スローな原曲に自然なリズムを持ち込み、オリジナルを凌駕する世界を生み出している。ギタリストによるビートルズ曲アレンジの最高峰の1曲と断言できる。

ちなみに1995年に同レーベルから続編Vol.2 が発売されており、そちらにはマイケル・ヘッジズ、テリエ・リピタル、ロベン・フォード、デビッド・ギルモアなどの強者が参加している。

[2008年3月作成]