O2 Music Of Another Present Era (1972) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn
Glen Moore: Bass, Flute, Violin, Piano (4,7,12)
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Mellophone
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Rhythm Guitar (3), Percussion, Mridangam,
Esraj
[Side A]
1. North Star [Towner] 5:54
(Oboe, Piano, C. Guitar, Bass, Tabla)
2. The Rough Places Plain [Walcott, Towner] 3:14
(Sitar, C. Guitar)
3. Sail [Walcott] 4:32
(English Horn, 12st. Guitar, Rhythm Guitar, Electric Bass, Percussion)
4. At The Hawk's Well [Moore] 3:09
(Piano)
5. Children Of God [Oregon] 1:09
(Reeds, Violin, Piano, 12st. Guitar)
6. Opening [Oregon] 5:32
(Horn, Bass)
7. Naiads [McCandless, Moore] 2:02
(Oboe, Piano)
[Side B]
8. a Shard [Oregon] 0:29
(Oboe, Violin, Piano, 12st. Guitar)
b Spring Is Really Coming [Moore] 2:55
(Bass, Mridangam)
9. Bell Spirit [McCandless, Walcott] 0:42
(Oboe, Bells)
10. Baku The Dream Eater [Towner] 4:22
(Oboe, Harmonica, Sitar, Esraj, 12st. Guitar, C. Guitar, Bass, Tabla, Percussion,.
Mellophone)
11. The Silence Of A Candle [Towner] 1:45 O5 O20 R2 D7 D27 D40
(English Horn, Sitar, 12st. Guitar, Bass)
12. Land Of Hearts's Desire [Moore] 3:21
(12st. Guitar, Piano))
13. The Swan [McCandless] 3:51
(Oboe, C. Guitar, Bass, Tabla)
14. Touchstone [Towner]: 5:55
(Oboe, English Horn, Flute, 12st. Guitar, Bass, Percussion, Mellophone,
Mridangam)
Produced By Oregon
Recorded at Vangard's 23rd Street Studio, New York
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オレゴンのデビュー盤。グループ名の決定についてはいろいろあったようで、当初「Music」という名前を考えたが、すでに別のグループが使っていることがわかり、最終的に美しい自然に恵まれたオレゴン(メンバーの多くが育った西部の州)を名乗ることになった。本作のタイトルは当時のインタビューなどで、自分達のやっている音楽を表現した際に使われたものという。初めての作品でありながら、その完成度は極めて高く、バンドとしてのスタイルが完全に定まっている。年と共に変化し、進化する数多のバンドと異なり、オレゴンは深化の道をたどるのだ。上の小さなジャケット写真では良く分からないが、左上に赤ん坊がいて、それを鷲(火の鳥?)のような鳥が育てている。巣がある切り立った崖をよく見ると、岩襞の多くに人面が描き込まれているという、中世の物語の挿絵(細密画)のようなデザインが面白く、この作品が持つエキゾチックなムードを象徴している。タイトルのとおり今までに耳にした事のない音楽だ。当時はワールド・ミュージックやニュー・エイジと呼ばれるジャンルがなかった時代で、本作の売り出しにはさぞ苦労した事だろう。ポール・ウィンター・コンソートから独立した4人が、本当にやりたい音楽に取り組み、その開放感と情熱の成果が素晴らしい作品を生み出した。
1.「North Star」はオレゴンの門出にふさわしい名曲。タブラの特徴ある音色から始まる。打ち寄せては引く波のような、しなやかなサウンドで、透明感とピーンと張り詰めた緊張感が心地良い。抑制の効いたクラシック的なアンサンブルと、自由なスピリット溢れるジャズ的なインプロヴィゼイションのバランス感覚が絶妙。その自然な感じは、彼らの音楽がデビュー作で既に完成の域にあったことを示している。2.「The Rough Places Plain」はギターとシタールによる即興演奏と思われ、シンプルな音使いと、シタールの共鳴弦を多用したプレイが印象的だ。3.「Sail」は珍しくコリンが6弦ギターによるコード・ストロークのリズムギターを担当、多重録音によるコンガなどのパーカッションを前面に出したロック調の味わいがある曲。ラルフの12弦ギターのプレイがパーカッシブで面白い。グレンはエレキベースを弾いている。ソロはオーボエと12弦ギター。4.「At The Hawk's Well」はグレンのピアノソロ。シンプルでストイックな作風がよく出ていて、エリック・サティを連想してしまう。5.「Children Of God」はフリーな曲で次の曲のイントロに相当し、どちらかと言えば雑音に近い。6.「Opening」はワンコードによる中近東風なスケールを使った即興的な曲。7.「Naiads」は、ギリシア神話における水辺に住む少女の顔をした妖精のことで、グレンのピアノと3台以上のオーボエによるこじんまりとした作品。
B面8a.「Shard」はフリーな感じの短いイントロで、8b.「Spring Is Really Coming」はアップテンポのパーカッション(ムリダンガムというインドの打楽器で、円筒形の木の胴の両側に皮を張ったもの)をバックに、グレンのベースがリズミックなプレイを披露する。9.「Bell Spirit」も次曲のイントロで、オーボエとチャイムによる小品。10.「Baku The Dream Eater」は「夢を食らうバク」というタイトルのとおり、捕らえどころのない音色と、スローなテンポが眠気をさそう。11.「The Silence Of A Candle」はポール・ウィンター・コンソートでラルフが歌っていた(!)曲で、ここでは12弦ギターをバックにシタールがメロディーを奏で、さらっとした仕上げになっている。12.「Land Of Hearts's Desire」は切れ味の良いフリージャズ風のピアノと12弦ギターの対話だ。12弦のアルペジオによる音数の豊かな音像と静けさの間の対比が持ち味の曲。13.「The Swan」は明るい感じの曲で、オーボエのテーマが美しい。リズムのしなやかさはさすがだ。14.「Touchstone」はパーカッションとベースの切り込みから始まる。ラルフによるメロフォンの演奏など、現代音楽の交響曲風のアンサンブルと、オーボエ、12弦ギター、ベースのソロがスリリング。最後のテーマ部分の演奏は明け方の明星のような神々しさがある。
現在のオレゴンのように洗練されたムードはないが、初期の素朴な若々しさに溢れた名作。
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O3 Distant Hills (1973) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn
Glen Moore: Bass, Flute, Violin, Piano (4,7)
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano(1), Mellophone,
Trumpet
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Clarinet, Piano (3), Guitar (4), Mirimba,
Conga, Tamboura, Drums
[Side A]
1. Aurora [Towner] 7:42 O18 R3
(Oboe, Piano, 12st. Guitar, Electric Bass, Bowed Bass, Tabla, Flute, Violin,
Trumpet)
2. Dark Spirit [Towner] 5:50 R2
(Sitar, C. Guitar, Bass)
3. Mi Chinita Suite - free improvisation [Oregon] 7:00
(Oboe, English Horn, Clarinet, Mellophone, Trumpet, Flute, Violin, Piano,
Bass, Mirimba, Congas)
[Side B]
4. Distant Hills [Towner] 6:21 O24 R6
(Oboe, English Horn, Clarinet, 12st. Guitar, Guitar, Piano, Tamboura)
5. Canyon Song [Towner] 4:56 O1
(Oboe, 12st. Guitar, Bass, Drums)
6. Song For A Friend [Towner] 5:19 O28 R3
(C. Guitar, Bass)
7. Confession - free improvisation [Oregon] 6:24
(Oboe, 12st. Guitar, Piano, Sitar)
Produced By Oregon
Recorded At Vangard's 23rd Street Studio, New York City July 2,3,5, 1973
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オレゴンの第2作。前作は短い曲がたくさん入っていたのに対し、今回はじっくり演奏した7曲が収められている。レコード盤の場合A・B面に分かれていて、各面の終わりにフリー・インプロヴィゼイションの曲を配することで、それなりの完結感があったのに対し、切れ目のないCDでは、作品のバランス上あまり良くないかもしれない。白地を背景に建物の入り口で会話する婦人を描いた淡い水彩画のジャケット・デザインが秀逸で、本作品の雰囲気を見事に象徴している。
前作から間もなかったせいか、3.7.を除きすべてラルフの作曲だが、オレゴンの諸作のなかでも粒揃いの曲が集まっている。1. 「Aurora」は空から燦燦と降り注ぐオーロラの光のイメージが見事に出たテーマが、タブラのイントロの後に、フルートとオーボエによって演奏される。12弦ギターのスペイシーなサウンドとピアノの透明感が、寒く透き通った夜の雰囲気を掻き立てる。特筆すべきはグレンによるバイオリンで、雑音に近いギーコ・ギーコの音なのだが、溢れ出さんばかりのピアノ・ソロの背後で、何故か非常に効果的なアクセントを付与しているのだ。最後はラルフによる多重録音のトランペットが加わり、大いに盛り上がり、そしてすっと消える。ラルフの曲のなかでも最も美しい作品のひとつだ。2.「Dark Spirit」は内省的な曲で、シタールとギターのインタープレイからベースが切り込むように加わり、感情が爆発したかのような激しい演奏となる。そして再び静けさを取り戻して終わる。3. 「Mi Chinita Suite - free improvisation」はポール、コリン(クラリネット)、ラルフ(メロフォン、トランペット)、グレン(フルート)の管楽器を中心とした即興演奏。オレゴンのこの手の演奏の中では出色の出来で、完全にフリーな曲でありながら、4人が相手のアタックに反応する当意即妙のコンビネーションが見事で、何度聴いても聞き飽きない。
4.「Distant Hills」もラルフの名曲のひとつ。12弦ギターのアルペジオが一種不気味な音の壁を作り、ホーンがテーマを演奏する。霧がかかった遠景のイメージだ。途中からコリンが演奏する6弦ギターのアルペジオが加わり、ラルフの12弦ギターがソロを演奏する時は、グレンによるピアノ伴奏も加わる。1977年の「Sound
And Shadows」(ソルスティス R6)による同曲の演奏も素晴らしいので、是非聴いて欲しい。ここでコリンが演奏するタンブーラはインド音楽の楽器だ。シタールをシンプルにしたような形で、主にドローン・サウンドを出すために使われるもの。5.「Canyon Song」はデビュー前の音源 O1で演奏されていた曲で、こちらのほうが遥かに完成度が高い。オーボエのソロ、ハーモニクスを多用した12弦ギターのソロなど、かなり激しい演奏だ。6.「Song For A Friend」はギターとベースのデュオで、テーマをベースが担当する。ラルフの作品のなかでも哀愁が感じられるメロディー。7.「Confession - free improvisation」は3.と同じくフリーな演奏。他の曲がメロディアスで叙情的なので、この手の即興演奏が一層効果的で、結果的に両者を引き立てあっている。
ということで、本作は何度聴いても美味しい、私のフェイヴァレット・アルバムなのだ。
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O4 Winter Light (1974) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn, Bass Clarinet
Glen Moore: Bass, Electric Bass, Flute, Violin, Piano (4)
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, French Horn, Clay
Drums, Hands
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Pakhawaj, Congas, Percussion, Dulcimer, Clarinet
[Side A]
1. Tide Pool [Towner] 8:32
(Horn, 12st. Guitar, Bass, Tabla, French Horn)
2. Witchi-Tai-To [Jim Pepper] 3:26 O9 O16 O20 O24
(Piano, Dulcimer, Percussion)
3. Ghost Beads [Towner] 6:38 D4
(Horn, C. Guitar, Bass, Tabla)
4. Deer Path [Moore] 2:46 O12
(Horn, 12st. Guitar, Piano, Violin)
[Side B]
5. Fond Libre [McCandless] 5:03
(Horn, Bass Clarinet, 12st. Guitar, Sitar, Bass)
6. Street Dance [Oregon] 2:10
(Horn, C. Guitar, Violin, Tambourine, Percussion)
7. Rainmaker [Towner] 4:27
(Horn, Piano, Bass, Tabla)
8. Poesia [Oregon] 5:25
(Horn, C. Guitar, Bass, Percussion, Tabla)
9. Margueritte [Walcott] 4:05 O1
(Horn, 12st. Guitar, Electric Bass, Congas, French Horn)
Produced By Oregon
Recorded July 16, 18-21, August 6,7, 1974
注)曲毎の演奏楽器のクレジットがないため、オーボエとイングリッシュ・ホルンは「Horn」と表示した。
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オレゴンの3作目は比較的地味な作品だが、じっくり聞き込むと味わい深いものがある。強力な曲がないのが、弱点かな?ここでは3曲提供したラルフ以外に、各メンバーが1曲づつ持ち寄っている。
1.「Tide Pool」は12弦ギターによる漂う潮流のようなバックの中、タブラとベースのリズムに乗せてホーンがメロディーを奏でる。多重録音によるフレンチ・ホルンがシンセサイザーのような音の壁を作る。この時代は、シンセサイザーは一般的でなかったんだよな〜。淡々とした演奏で、オーボエ、12弦、ベースの順でソロが回される。2.「Witchi-Tai-To」はネイティブ・アメリカンのサックス奏者、ジム・ペッパー(1941-1992)が、ペヨテ教会(ネイティブ・アメリカンの教会)の聖歌を題材に作った名曲。彼はオレゴン生まれでオクラホマに育ち、60年代にニューヨークでオーネット・コールマンやドン・チェリーに触発されて自己のルーツに目覚めたという。1983年のアルバムにはコリンが参加している。ゴスペル・フィーリング溢れるスケールの大きな曲で、コリンのダルシマー(弦を叩くハンマー奏法による)とパーカッションをバックに、ラルフが弾くピアノがエモーショナルで最高に気持良い。オレゴンの連中が好きな曲のようで、その後何度も録音されている。3.「Ghost Beads」は少し不安な感じのメロディーをもった曲で、楽器編成からも典型的なオレゴン・サウンドだ。イントロはギターの独奏で、間奏のインプロヴィゼイションはホーン、ギター、ベース。4.「Deer Path」はグレンの曲のなかではベストの出来で、きっちりとした独特なメロディーは、敏捷な鹿が跳ねるイメージだ。宮澤賢治の「鹿踊りの始まり」のようなピュアな世界がある。イントロはフリー調で、アヴァンギャルドなバイオリンの演奏が面白い。なおここでのピアノ演奏はグレンが担当している。訥々とした感じだが、存在感あるプレイだ。
5.「Fond Libre」はフランス語で「自由な感じ」という意味のタイトル。フリーな感じのホーンの長い独奏から始まり、ベースと12弦のアルペジオが加わってテーマとなる。ホーンのソロパートの途中で、シタールとバス・クラリネットのユニゾンによるリフのような旋律が流れるのが面白い。6.「Street Dance」はギターの弦のブリッジ近くの部分に紙をはさんでミュートさせた演奏が聴ける。ポコポコとしたパーカッシブな音で、カリンバ(アフリカン・ピアノ)のようだ。タンバリン、パーカッション、バイオリン、笛のような音が加わり、リズム重視の演奏。ここでもグレンの前衛風バイオリンが面白い味を出している。一転して7.「Rainmaker」はさわやかなジャズ・コンボ風の演奏。ラルフが目一杯弾きまくるピアノの音色が透明感に溢れ、素晴らしい。本作はラルフのピアノの健闘が目立つ。8.「Poesia」は即興演奏だが、完全なフリーではなく、一定の決まりをもって演奏しているようだ。9. 「Margueritte」はコリンの曲で、彼がECMで製作したソロアルバム「Cloud Dance」1976 にも収録されている。コンガとエレキ・ベースから始まり12弦ギターが加わったバックに、ラルフの多重録音によるフレンチ・ホルンのメロディーが交響曲のように聞こえる。ベースとパーカッションがソロを担当。この作品では、曲ごとの演奏楽器のクレジットがないので、誰がどの楽器を演奏しているかはっきりしないのが残念。コリンの演奏するインド音楽の打楽器パカワジは、円筒形の木の胴の両側に皮を張ったもので、ムリダンガムより少し大きいそうだ。
何となく印象が薄い作品なんだけど、いざ聴いてみると「うーん」と聴き惚れてしまう。本作はそういった感じの作品。冬のムードを象徴する、室内の暗がりから写した窓の淡い陽光のジャケット写真が本作のムードにピッタリだ。
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O5 In Concert (1975) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn, Bass Clarinet, Wooden Flute
Glen Moore: Bass, Flute, Violin, Piano (5)
Ralph Towner: Classical & 12-String Guitar, Piano (6), Mellophone,
French Horn, Trumpet
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Percussion, Conga, Clarinet
[Side A]
Introduction [By George Schutz]
1. Become, Seem, Appear [Oregon] 6:34
(Oboe, 12st. Guitar, Bass, Percussion, Tabla)
2. Summer Solstice [Towner] 9:35
(Oboe, C. Guitar, Bass, Percussion, Tabla)
3. Undertow [McCandless] 3:24
(Bass Clarinet, Bass)
[Side B]
4. The Silence Of A Candle [Towner] 9:51 O2 O20 R2 D7 D27 D40
(Oboe, Bass Clarinet, 12st. Guitar, Sitar, Bass)
5. Tryton's Horn [Oregon] 5:00
(Oboe, Clarinet, Flute, Violin, Mellophone, French Horn, Trumpet, Piano,
Percussion)
6. Yet To Be [Towner] 6:29 O16 O21
(Horn, Piano, Bass, Percussion)
Produced By Oregon
Recorded live at Vangard's Studio in New York City, on April 8, 9, 1975
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オレゴン初めてのライブ盤。ジャケット・デザインから「クラゲ」とも呼ばれている? ニューヨークのヴァンガード・レコードのスタジオに聴衆を招待して2日間で録音された。
まずはマネージヤーのジョ−ジ・シュルツによるメンバー紹介。本作は演奏中あるいは一部の曲間では、聴衆の歓声や拍手などのノイズがほとんど聞こえない。いかにもスタジオライブらしい感じで、拍手も製作者から指示された所のみで起こる。1.「Become, Seem, Appear」は幾分フリーな感じがする作品で、ワンコードというか、ひとつのスケールが延々と続く。イントロはラルフの12弦とコリンのシンバルだ。グレンの弓弾きベース、インテンポでタブラが入りオーボエがソロを展開する。緊張感あふれる演奏だ。拍手なしに2.「Summer Solstice」に入る。「夏至」というタイトルの作品で、地味ながらもラルフらしいスピリチュアルな雰囲気のテーマ旋律だ。オーボエのソロの後、ラルフのクラギ、グレンの弓弾きベースがソロをとる。それにしても4人のインタープレイの息はピッタリ合っている。3.「Undertow」はポールのバス・クラリネットとグレンのベースによるフリーな感じの曲で、「底流」というタイトルのとおり、深海を泳ぐ魚のような、ひんやりとしたイメージ。曲が終わると拍手が入りA面が終わる。
B面最初の曲 4.「The Silence Of A Candle」のイントロは、12弦ギターの伴奏でシタールがソロをとる。テーマのメロディーもシタールによるもので、その後に続くソロは、この楽器にしては西洋音楽的な叙情的なプレイで珍しい。この曲でのコリンのプレイは諸作品中ベストと言える素晴らしさ。次のベースソロもグレンにしては珍しくメロディックな感じで悪くない。その後に続くラルフの12弦ソロの切れ味はさすがだ。オーボエがテーマを吹いて静かに終わる。オレゴンの連中がこれだけエモーショナルな演奏をするのは珍しい。5.「Tryton's Horn」の「トリトン」は海の神のことで、これは完全にフリーな曲。終わってすぐに6.「Yet To Be」が始まるが、前の曲が前衛風の不協和音の羅列だった対比で、イントロにおけるラルフの、サラサラと流れる小川のようなピアノ演奏の美しさにはっとする。ストレートで前向きな雰囲気の曲で、音数の多いラルフのピアノプレイの真骨頂が味わえる。ソロの一部はキース・ジャレットばりのゴスペル・フレーズまで飛び出し、はじけるような、溢れるような情感の迸りが堰を切ったかのように流れ出る様は感動的ですらある。ラルフのピアノプレイのなかではこの曲が一番好きだ。曲が終わると大きな歓声と拍手が起こり本作は終わる。
全体的には地味な印象がするものの、4.6.だけでも買う価値はある作品。
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O6 Together [Oregon/Elvin Jones] (1976) Vangard |
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Elvin Jones: Drums
Paul McCandless: Oboe, English Horn, Bass Clarinet, Flute
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano
Collin Walcott: Tabla, Congas
[Side A]
1. Le Vin [Towner] 11:30
(Horn, Piano, Bass, Tabla, Drums)
2. Lucifer's Fall [Towner] 5:32
(Piano, Bass, Drums)
3. Charango [Oregon] 3:58
(Flute, C. Guitar, Bass, Congas, Drums)
[Side B]
4. Three Step Dance [Moore] 6:39
(Bass Clarinet, Piano, Bass, Congas, Drums)
5. Driven Omens [Jones, Walcott] 3:16
(Tabla, Drums)
6. Teeth [Jones, McCandless, Moore] 4:18
(Horn, Bass, Drums)
7. Brujo [Towner] 7:51 R1 D10
(Horn, 12st. Guitar, Bass Tabla, Drums)
Produced By: Oregon And Ed Bland
Recorded in January 1976 at Vangard's New York Studio
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ジャズ・ドラムの巨人、エルビン・ジョーンズ(1927-2004)との共演盤。ジョン・コルトレーン絶頂期のカルテットの一連の作品のほか、自身のリーダー作品、セッション等無数の作品に参加した彼は、ポリリズム・スタイルの創始者としてモダン・ジャズと前衛スタイルの中間に位置すると言える。そんな彼がオレゴンと共演するのは、かなり意外な組み合わせで、実際両者がしっくりかみ合っているとは思えない。オレゴンの連中にとって、コルトレーン音楽との対峙というのは重要な課題だったからかもしれない。エルビンの音数の多いドラミングが耳障りな感じで、オレゴンの音楽にとって「音の間」というものが如何に大事なものであるか、すなわちリズムが持つ役割を再認識させる結果になったと思う。そういう意味で、このバンドにはコリン・ウォルコットが必須であること、普通のスタイルのドラム奏者ではどうしてダメなのかを立証した作品といえる。実際のところ、当時両者は同じレコード会社に所属していて、オレゴンの演奏を聞いて気に入ったエルビンが共演を希望したという。ジャム・セッションのような感じで一気に収録。荒っぽい録音のせいで、音が歪み気味なのが残念。
1.「Le Vin」はエルビンのドラムスから始まり、コリンのタブラが加わる。この部分は大変スリリングで、何回聴いてても、「おっ、これはいいぞ!」という印象を持つのが不思議なくらい。ベースとピアノが加わり、ホーン(オーボエとイングリッシュ・ホルンの区別がつかないので、「ホーン」と表示した)がテーマとソロを展開する。決して悪くはないし、何時になくパワフルなのだが、オレゴン独特の透明感、瞑想感は感じられない。ポールに続いてソロを担当するラルフのピアノも気が入っているのがわかる。ベースのソロの前半はアルコ(弓弾き)奏法によるもので、本当に個性的なプレイだ。そしてエルビンのドラム・ソロはお手本のようだ。パワフルでありながら繊細さも持ち合わせているところが、オレゴンとの共演を可能にしたのだろう。エンディングではコリンのタブラのソロが聴ける。2.「Lucifer's Fall」は、ピアノ・トリオのスタイルで、ビル・エバンスをもっと現代的にした感じだ。ラルフのピアノは自己統制が取れていて大変理知的な雰囲気だし、グレンのベースはビル・エバンス・トリオに長く在籍したエディ・ゴメスにそっくり。ブラシを使用したエルビンのドラムスは完璧で、こじんまりとしてはいるが、いい演奏だと思う。3.「Charango」はラテン音楽風のリズムによる即興的な演奏で、ポールは木製の縦笛を演奏しているものと思われる。ポールによるこの楽器の本格的なソロが聴けるのはこの曲が初めてで、軽妙なプレイ。その後にラルフのギターのプレイが入って、さらっと終わってしまう。
B面最初の曲4.「Three Step Dance」はグレン得意のダークなムードの曲で、エルビンによるロック調のリズムが少し耳障り。自作曲で張り切るグレンのベースプレイに注目すべきだろう。ポールのバス・クラリネットによるプレイが圧巻で、コルトレーンを意識したソロを展開している。ラルフはここでもピアノを演奏。本作におけるギターの露出度は小さい。5.「Driven Omens」はドラムスとタブラの共演。タブラの繊細さが際立っており、エルビンがうまく引き立てているのがわかる。この人は心の優しい人なんだろうな〜(本当の事は知らないけど)などと思ってしまう。6.「Teeth」は即興演奏主体の曲で、後期のコルトレーンが演奏していたフリー・ジャズのスタイルだ。ポールが吹きまくり、ドラムスとベースが目一杯演奏する、少し騒がしい曲だ。7.「Brujo」はラルフの初ソロアルバム 「Trios/Solos」 1973 R1で演奏していた曲の再演で、ここでやっと12弦ギターを聴くことができる。ここでの5人のインタープレイの切れ味は鋭く、なかなかの出来だと思う。ソロはポール、ラルフ。
いろいろ言ったが、「オレゴンはこうあるべきだ」という偏見を排して聴けば、それなりに楽しめる作品でもある。
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O7 Friends (1977) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn, Bass Clarinet
Glen Moore: Bass, Flute (4), Piano (7)
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano (1,5), French Horn,
Percussion (5)
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Conga (5), Hi-Hat (5), Percussion
David Earl Johnson: Congas (1,3), Timbales (1)
Bennie Lee Wallace: Tenor Sax (2,6)
Larry Karush: Piano (4,7)
[Side A]
1. Interstate [Towner] 8:39
(Oboe, Piano, Bass, Tabla, Congas, Timbales)
2. Gospel Song [McCandless] 2:27
(Tenor Sax, Bass Clarinet, Bass)
3. Grazing Dream [Walcott] 3:34
(English Horn, C. Guitar, Sitar, Bass, Congas)
4. Slumber Song [McCandless] 5:53
(Bass Clarinet, Flute, 12st. Guitar, Piano, Bass, Percussion)
[Side B]
5. Time Remembered [Bill Evans] 4:41
(English Horn, Piano, Bass, Conga, Hi-Hat, Percussion)
6. First Thing In The Morning [Wallace, Walcott] 3:17
(Tenor Sax, Tabla)
7. Love Over Time [Moore] 3:45
(Piano)
8. Timeless [John Abercrombie] 8:17 R9
(English Horn, French Horn, 12st. Guitar, Sitar, Bass, Tabla)
Produced By Oregon
Recorded At Vangard Studio, New York City
注)写真中は、オリジナル・レコード盤の裏表紙
写真下は、CD再発盤の表紙
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オレゴンがゲストを招いて製作した作品。ジャケットデザインは夕日に佇む二人の子供の遠景写真だが、下部の暗い部分があまりに大きく、出来はイマイチ。最近再発売されたCDでは没になり、その代わりに裏表紙の白黒写真がカラーで使用された。アルバム自体のねらいもはっきりせず、参加したゲストもあまり生かされていないと思う。そういう意味で失敗作ではあるが、興味深い演奏もあるので、ファンとしては落とすことはできないのだ。
1.「Interstate」はアップテンポの曲で、デビット・アール・ジョンソンがパーカッション(コンガとティンバレス)で参加している。彼は1970年代後半から80年代にかけて活躍した人で、80年代には自己名義のアルバムも出したそうだ。主な参加セッションは、ヤン・ハマーやビリー・コブハムなどクロスオーバー系のミュージシャンの作品が多い。1998年に亡くなったようだ。コリンのタブラと二人の打楽器奏者によるコロコロと細かなリズムが、高速道路を急がしく走る車のイメージにだぶる。ちょっと捉え所のない曲なんだけど、ポールのオーボエ、ラルフのピアノのソロはいつもの事ながら、パーカッション2台のソロとグレンのベースソロは結構イケル。2.「Gospel Song」のベニー・リー・ウォレス(1946〜)は、保守と前衛のスタイルを併せ持つプレイヤーで、本作の参加後著名度を増し、1980〜1990年代に活躍した人。グレンのベースだけをバックに、ポールのバス・クラリネットと同時に吹きまくっていて、ゴスペルっぽいフレーズを使用しながらもアヴァンギャルドで何処かユーモラスな雰囲気もある特異な曲だ。3. 「Grazing Dream」はコリンのシタールがテーマを演奏する。1977年にECMから発売されたコリンのソロアルバムのタイトルソングになっていた。ソロはシタール、ギターの順。4.「Slumber Song」はスローな曲で、ゲストのラリー・カルッシュのピアノと、グレンのフルートの2重奏から始まる。ラリー・カルッシュは、オレゴン大学在籍中にグレン・ムーアと知り合った音楽仲間で、スティーブ・ライヒなど前衛的な作品に参加している人で、1976年にグレンとの共演アルバムを発表している。テーマは作曲者のポールによるバス・クラリネットが演奏し、そのままインプロヴィゼイションに入る。リズムがないスローな曲で、ポイントが定まらないぼやけた感じのサウンドで、聴いていると寝てしまいそう。
B面に移って最初の曲5.「Time Remembered」はビル・エバンスの曲だ。1965年の「Bill Evans Trio With Symphony Orchestra」が初出で、アレンジャーの巨匠クラウス・オーガマンによるオーケストラとの共演だった。実際は、同年に録音されたライブハウスでの録音(当時未発表で、つい最近全集の中に収録された)におけるピアノ・トリオだけによる演奏が最高。ここではラルフの12弦ギターの多重録音はテーマの伴奏、ポールのイングルッシュ・ホルンもテーマの演奏のみで、大部分を占めるピアノによるピリッとした演奏が聞き物。ビルのオリジナル演奏に比べて、リズムセクションが遥かに自由で柔軟なのが時代の違いを感じさせる。6.「First Thing In The Morning」はコリンのタブラをバックにベニー・ウォレスがフリーな演奏を展開する。7.「Love Over Time」はグレンとラリー・カルッシュのピアノ連弾。グレンが低音部、ラリーが高音部を担当。軽妙な感じが面白い。8.「Timeless」はECMでソロアルバムを発表し、ラルフとはR5、R10で共演しているジョン・アバーンクロビーの曲。ラルフはR9で独奏に挑戦している。シンプルなメロディーながら魅力的なコード進行に深みがある曲で、シタール、12弦ギターなどにソロが回され、じっくりと演奏される。ここでのラルフの12弦ギターの演奏はいい感じで、本作におけるこれまでの物足りなさがかなり解消する。
ということで、熱心なファンの方向けの作品。発売当時も評判は悪く、失敗を取り返すのに苦労したそうだ。
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O8 Violin (1978) Vangard |
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Zbigniew Seifert: Violin
Paul McCandless: Oboe, Bass Clarinet
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano (3)
Collin Walcott: Tabla, Percussion, Piano (4)
[Side A]
1. Violin [Group Improviations] 15:27
(Oboe, Bass Clarinet, Violin, C. Guitar, Bass, Tabla, Percussion)
2. Serenade [Towner] 2:07 O22
(C. Guitar, Violin, Bass)
[Side B]
3. Raven's Wood [Towner] 9:33 O24 R1
(Oboe, Violin, C. Guitar, Piano, Bass, Percussion)
4. Flagolet [Moore] 5:11
(Bass Clarinet, Violin, Piano, Bass)
5. Friend Of The Family [Towner] 4:38
(Oboe, Violin, 12st. Guitar, Bass, Tabla, Percussion)
Produced By Oregon
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オレゴンとポーランド出身のジャズ・バイオリニスト、ズビグニュー・セイファートとの共演盤。セイファートは1946年生まれで、6歳の頃からバイオリンを弾き、ジャズの世界に身を投じてしばらくはアルトサックスを演奏していたが、途中でバイオリンに転向。ジャズ・フェスティバルやラジオ放送で名を上げる。特に1976年のモントルー・ジャズ・フェスティバルではジョン・ルイス(ピアノ)と共演した。オレゴンのメンバーはフランスのラジオ放送で彼の演奏を聴き、深く感銘を受けて、共演そしてレコード製作が実現したという。その後1979年にリッチー・バイラーク(ピアノ)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)、エディ・ゴメス(ベース)、ジョン・スコフィールフド(ギター)等をバックに「Passion」というリーダー作品を発表したが、同年ガンのために夭折してしまった。ジョン・コルトレーンに心酔し、「もし彼がバイオリンを弾いていたらそうしたであろうという風に弾く」と言っていた。フリーなスタイルで弾きまくるのだが、東ヨーロッパの血のせいか、何処かエキゾチックな所があるのが欧米の他のバイオリニストと違うところだ。
1.「Violin」は即興演奏で、後期のマイルス・デイビスがやっていたような、全員の演奏の流れにまかせて進行してゆく曲。イントロのベースの弓弾きはシンセサイザーの重低音のようだ。演奏の一体感はエキサイティングで、セイファートのバイオリンがすんなり溶け込んでいるところが今までのゲスト参加盤と異なる。リズムが頻繁に変化し、ギターのリフ、オーボエとバイオリンの掛け合いなど、互いの音を聴きあい、向かい合いながら演奏しているシーンが目に浮かぶ。といっても派手な感じではなく、淡々とした演奏だ。2.「Serenade」は静かなギターによる小品。バイオリンのメランコリーな響きが哀しい。
3.「Raven's Wood」は曲の良さに加えて、緻密な構成、そして生き生きとした演奏により、オレゴンの諸作品のなかでも屈指の出来となった。ギターとベースの静かなイントロにピアノが加わり、テーマはバイオリンとオーボエで提示される。続くバイオリン・ソロの表現力は大したものだ。ギター、オーボエのソロのバックで演奏されるコリンのパーカッション(マラカス、タンバリンなど)は繊細かつ変化に富んでおり、曲の美しい透明感を一層引き立てている。インプロヴィゼイションのみならず、テーマ部分のオーケストラのような構成美が光る名曲・名演。4「Flagolet」はうってかわり、不協和音の響きが大変厳しい現代曲で、低音部を中心としたフリーなプレイ。珍しくコリンがピアノを担当している。5.「Friend Of The Family」は祝祭的曲な感じがする賑やかなテーマで、12弦ギターのアルペジオが華やかな感じを添えている。
A面は地味な感じがするが、華やかなB面にほっとする作品。
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O9 Out Of The Woods (1978) Elektra |
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Paul McCandless: Oboe, English Horn, Bass Clarinet
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Flugelhorn, Percussion
Collin Walcott: Tabla, Sitar, Guitar, Percussion
[Side A]
1. Yellow Bell [Towner] 7:03
(Horn, Piano, Bass, Percussion)
2. Fall 77 [Moore] 4:27
(Bass Clarinet, Flugelhorn, Bass, Percussion, Voice)
3. Reprise [Towner] 1:02
(Piano)
4. Cane Fields [McCandless] 4:37
(Horn, 12st. Guitar, Bass, Tabla, Percussion)
5. Dance To The Morning Star [Walcott] 5:36
(Horn, 12st. Guitar, C. Guitar, Bass, Carimba, Percussion)
[Side B]
6. Vision Of A Dancer [Towner] 4:03
(Horn, Bass Clarinet, 12st. Guitar, Sitar, Piano, Bass)
7. Story Telling [Walcott] 1:03
(Tabla)
8. Waterwheel [Towner] 6:27 O12 O16 O23 R7
(Horn, C. Guitar, Bass, Tabla)
9. Witchi-Tai-To [Jim Pepper] 8:21 O4 O16 O20 O24
(Horn, 12st. Guitar, Sitar, Piano, Bass, Tabla, Percussion)
Produced By Oregon
Recorded April 1978 at Long View Farms, North Brookfield, Massachusetts
April 1978 at Soundmixers, New York City
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エレクトラ・レーベル移籍後初作品。この会社は録音の良さで定評があり、オレゴンの演奏も以前よりクリアーで透明感のあるサウンドで楽しむことができる。過去3作品がゲストとの共演であったのに対し、ここでは久しぶりの4人だけの演奏だ。全般的に派手さはなく、特にラルフの作品は8.などの名曲はあるものの、地味系が多い。その分他のメンバーが頑張っていて、作品を提供している。
1.「Yellow Bell」は少しメランコリックなミディアム・テンポの曲。ちょっとテーマのメロディーがくどいかな?グレンのベースの音が今までよりもふくよかな音でとらえられていて、コリンのパーカッションに奥行きが感じられるのは、録音のおかげだ。多重録音で演奏されるベースソロが美味しい。ラルフのピアノ・ソロは抑制が行き届いたクールなもの。グレンの曲 2.「Fall 77」は今までに聞いたことのないベースサウンドだ。異なる弦で同じ音程を弾くドローン効果は、変則チューニング(アップライトベースで!?)を使っているものと推定される。本当かどうか分からないけど、そうじゃないとこんな音は出ないはず。それほどインパクトのあるプレイでぶっとびものだ。そこにコリンのパーカッションとお経のようなヴォイスが絡んで、一種催眠的な効果が出ている。東洋的なサウンドでありながら、バスクラリネットによるテーマは西洋的。後半に展開されるアクの強いベースのリフは現代音楽的という、ごった煮のような曲で、私のフェイバレットだ。ラルフによる珍しいフュリューゲルホーンのソロも聴けるよ! 3.「Reprise」は次の曲の序曲といえるピアノ独奏の小品。キース・ジャレット的なゴスペル・フレーバーがある。4.「Cane Fields」はポールの作品。ポールの演奏(オーボエとイングリッシュ・ホルンは音の高低のみで区別ができないので、演奏楽器はホーンと表示した)するテーマは美しい。12弦ギターの伴奏の透明感溢れるサウンドが何とも言えず心地良い。5.「Dance To The Morning Star」はコリンの作品らしくリズムがメインの曲となった。イントロはカリンバ(アフリカンピアノ)の独奏から始まる。曲中に展開される極めて歯切れのよいアップテンポのパーカッションのグルーブ感が最高。ラルフの12弦ギターの伴奏・ソロも何時になく急速調でリズミック。グレンもファンク・ベースのような音を出して対抗している。テーマのメロディー、コード進行もファンタスティックな、文句なしのお勧め曲。
6.「Vision Of A Dancer」は少しミステリアスなムードを持っていて、テーマではコリンのシタールが楽しめる。ソロはピアノとベース。ベースの特異な音使いが凄い。7.「Story Telling」はコリンによるタブラの独奏。本当に繊細なタッチだ。終わるとすぐに8. 「Waterwheel」が始まる。同時期に録音されたソロアルバムR7のヴァージョンとはリズムの違いが歴然。ここではタブラのほうが曲想に合っているようで、コリンのほうに軍配が上げたい。中盤の独奏部分を含めて、ラルフのしなやかギターが大活躍。9. 「Witchi-Tai-To」は1974年の「Winter Light」の再演。曲の詳細はO4を参照されたし。ここではコリンのシタールがテーマと最初のソロを熱演し、曲のエキゾチズムを一層際立たせている。聴くごとに魂の奥深いところを揺さぶられる曲だ。他のソロは12弦ギター、ホーン、ピアノ。コーラス毎のリズム・パターンの変化がカメレオンのように変幻自在で素晴らしい。
地味で、他の作品に比べて聴く頻度は少なめなんだけど、今回改めて聴き直してみて「いい作品だな〜」としみじみ思った。
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O10 Moon And Mind (1979) Vangard |
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Paul McCandless: Oboe (2,6), Flute (7), Bass Clarinet (2,4)
Glen Moore: Bass (3,4,5,9), Piano (2)
Ralph Towner: Classical Guitar (5,8), 12String Guitar (1), Piano (6,9),
Hammond Organ (8), Percussion (8)
Collin Walcott: Tabla (1,7), Sitar (3), Dulcimer (1), Piano (8), Conga
(8), Percussion (8)
[Side A]
1. Person- To- Person [Towner] 3:11
(12st. Guitar, Dulcimer, Tabla)
2. I Remember Me [Jan Hammer] 4:00
(Oboe, Flute, Bass Clarinet, Piano)
3. Rejoicing [Traditional, Arranged By Collin Walcott] 4:17
(Sitar, Bass)
4. The Elk [Moore] 6:02
(Bass Clarinet, Bass)
5. Gloria's Step [Scott La Faro] 3:16 R23
(C. Guitar, Bass)
[Side B]
6. Moon And Mind [Paul NcCandless] 8:20
(Oboe, Piano)
7. Dust Devil [McCandless] 3:03
(Flute, Tabla)
8. Elevator [Towner, Walcott] 3:53
(C. Guitar, Piano, Hammond Organ, Conga, Percussion)
9. Dunvegan [Towner] 4:23
(Piano, Bass)
Produced By Oregon
Recorded at Vanguard's 23rd Studio, N.Y.
注)2,3,7はラルフ・タウナー不参加
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これはメンバーによるデュエット特集であり、オレゴンの諸作品のなかでも異色盤だ。ラルフが6曲、ポールが3曲、コリンが4曲、グレンが5曲参加していて、すべての曲が2人だけの演奏(オーバーダビングを除く)だ。前作は移籍先のエレクトラ・レーベルから発売されたが、これは古巣のヴァンガードからで、おそらく契約が残っていたからだろう。デュエットしばりということで、それなりに実験的な作品もあり、新鮮な感じで十分楽しめる。ジャケットは何とかならないかな〜。ヴァンガード初期のジャケット・デザインは最高で、後期は最低の出来。レーベルの盛衰を象徴しているかのようだ。
1.「Person-To- Person」は12弦ギターによるテーマのメロディーが風変わりな曲。コリンは中近東音楽でよく使われるハンマー・ダルシマーを演奏する。エキゾチックなサウンドが面白い楽器だ。2.「I Remember Me」は1948年チェコ生まれのキーボード奏者ヤン・ハマーの曲。彼はソヴィエトのプラハ侵攻の際にアメリカに渡り、ジョン・マクラグリン率いるマハヴィシュヌ・オーケストラの一員として名声を博し、その後はクロスオーバー界で活躍、ジェフ・ベック、ニール・ショーンなどのロック系のミュージシャンとも共演、米国TVシリーズ、「マイアミ・ヴァイス」の音楽で大成功を収めた。グレンの弾くピアノのアルペジオを伴奏に、ポールのオーボエが静かに演奏、後半ではクレジットにない木笛の音が聞こえる。3.「Rejoicing」はグレンの弾くベースのリフと手拍子をバックに、コリンが思う存分シタールをプレイする。かなりガッツが入っていてとても聴き応えがあるぞ。4.「The Elk」はグレンお得意の現代音楽風作品。アルコ奏法によるベースとバス・クラリネットという低音楽器による深海、地底のイメージだ。5.「Gloria's Step」はビル・エバンス・トリオの名ベーシスト、スコット・ラファロの作品で、彼が交通事故死する直前に録音された「Sunday At The Village Vanguard」1961に収められていた傑作曲を取り上げている。タウナーによるエバンスの曲のカバーは、デビュー以来現在に至るまで絶えることなく、その執念は凄まじいものがある。後年「Anthem」 2001 R23 ではギターの独奏にアレンジしているが、ここではベースとのデュオだ。タウナーのギターの清澄さは出色で、オリジナル演奏に対する敬意、そしてそれに新しい何かを付加しようとする意欲がひしひしと感じられる快演。グレンのソロを聞くと彼のルーツがラファロにあることがよく分かる。
タイトル曲の6.「Moon And Mind」はオーボエとピアノの二重奏で、ラルフの数あるピアノ演奏の白眉だ。リズムセクションなしで、気の向くまま感情の赴くまま弾きまくっている(ように思える)。彼の強いタッチのピアノサウンドががんがん心に浸み込んでくる。この曲は1979年のポールのソロアルバム「All
The Mornings Bring」にも収められた曲で、静かな夜陰の澄み渡った世界。曲の良さが最高のピアノプレイを導き出したともいえる。もちろんポールのオーボエプレイも素晴らしく、絶対お勧めの1曲。これなくしてはオレゴンは語れない! 7.「Dust
Devil」はポールの木笛とコリンのタブラによる小品。シンプルな楽器をこれだけ縦横無尽に操るポールの技量はすごい。途中コリンのタブラの独奏があってこちらも聴き応え十分だ。8.「Elevator」はオレゴンのレパートリーとしては極めて異色で、コンガとマラカスのパーカッションによるアップテンポのリズムと、珍しいコリンのピアノ・リフをバックに、ラルフのハモンド・オルガンがあっちこっち飛び回るような活躍をする。間奏でラルフのギターが入る所は、はっとするほどスリリングだ。9.「Dunvegan」はピアノとベースによるメランコリックなムードの曲で、途中からアルコ奏法のベースの多重録音によるオーケストラのような背景音が入り厳かに終わる。
派手さはないが、いい曲・面白い曲が多く、個人的には好きなアルバムだ。
[2022年3月]
タイトルの発表年が誤っていたので、修正しました。
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