KOMO TV, Seatlle (1967) [Chuck Mahaffay & The Individuals] 映像

Chuck Mahaffay: Clarinet, Drums
Ralph Towner: C. Guitar, Piano
Tamara Burdett: Vocal, Bass

[Unkown Show]
1. Table Talk [Tamala Burdett] 1:50
 (Scat Vocal, Clarinet, Piano, Bass, Drums)
2. Amazonus [Unknown] 2:12
 (C. Guitar, Bass, Drums)
3. One Note Samba [Antonio Carlos Jobim]2:13
 (Vocal, C. Guitar, Bass, Drums)

[Buddy Webber Show]
4. Happiness Is Just A Thing Called Joe [Arlen, Harburg] 2:20
 (Vocal, Piano, Bass, Drums)
5. Table Talk [Tamala Burdett] 1:48
 (Scat Vocal, Clarinet, Piano, Bass, Drums)
6. One Note Samba [Antonio Carlos Jobim] 2:15
 (Vocal, C. Guitar, Bass, Drums)
7. Man An Woman [Francis Lai] 2:08
 (Scat Vocal, Clarinet, C. Guitar, Bass)
8. Theme [Unknown] 1:20
 (Piano, Bass, Drums)

[Bumper Of Ivar's Captains Table]
9. Instrumental [Unknown] 1:19
 (C. Guitar, Bass, Drums)


大変な掘り出し物が出ました!

KOMOはシアトルを本拠地とする放送局。チャック・マハフェイは、レストランなどで演奏するソフトジャズのスタイルで、1950〜1960年代のシアトル・ジャズシーンで活躍した人。地元のマイナーレーベルから数枚のレコードを出していて、特に1964年に発表された「The Girl From Ipanema」は、当時地元のワシントン大学に在学中(または卒業して間もない)若きラリー・コリエルが参加しているため、コレクターズ・アイテムとして日本でも中古市場に出ることもある。彼はその後、ロックの時代になった1970年代に演奏活動から身を引いたが、タクシー運転手をしながら地元でジャズのラジオ放送番組をやっていたそうだ。彼が率いるグループ、インディヴィジュアルズが若いラルフ・タウナーを迎えて、朝の地元テレビ番組に出演した際の映像がYouTubeに公開された。ちなみに出稿者のTris Mahaffayは、彼の息子でアンプ製作の会社を経営しているそうだ。

最初の映像は、司会者がマイクという名前であることがわかったが、後は不明。「おはよう」と言っているので朝の番組で間違いない。クラリネットとドラムスを担当するリーダーのチャックに、歌いながらベースを演奏するチャーミングなタマラ・バーデッド(タミーと呼ばれる彼女は、その後米国各地でベースを演奏、1990年代以降は作曲活動に注力し、他アーティストに曲を提供した他、タミー・バーデッド名義で 2枚のアルバムを発表している)、そしてピアノとクラシック・ギターを弾くラルフというトリオ編成だ。髪が短く、蝶ネクタイに黒いスーツを着たラルフは、当時20代半ばの神経質そうな学生といった風貌。司会者が「21」というマイナーレーベルから発売されたばかりのシングル盤 (D1) を見せて宣伝するシーンがあり、そのレコードは、データベース・サイト 「Discogs」に「The Individuals」名義で掲載されていて、ラベルには「Ralph Towner」という名前が載っている。ということは本盤がラルフのレコード・デビューになると思われる。またそこには「1967」という発売年が明記されており、彼のギター修行のためのオーストリア留学が1963年〜1964年と1967年〜1968年であることを考慮して、本番組の撮影を1967年と推定した。1.「Table Talk」は、作曲者であるタミーがベースを弾きながらスキャットで歌う。チャックは前半はクラリネットを吹き、後半はドラムを叩いている。ドラムといっても、スネアとシンバル、カウベルだけのシンプルなセットだ。ラルフはピアノをガンガン弾いていて、そのスタイルは後とあまり変わっていないように見える。彼のピアノの演奏能力は、当時すでに十分出来上がっていたということだ。テレビ番組で演奏時間が短いためか、チャックはあまり表に出ず、二人の若者に任せているようだ。2.「Amazonus」は、ラルフのギターの見せ場で、ボサノバ・ジャズのスタイルで弾きまくっている。ボサノバの名曲 3.「One Note Samba」は、早いテンポで軽快に飛ばす。コード奏法は達者であるが、単弦のソロになると、今とくらべて未熟で粗削りな部分が目立ち、ミストーンもあるのが微笑ましい。.

次の映像は、バディ・ウェバーという司会者の朝番組。ここでも彼が上述のシングル盤のラベルをアップで見せ、B面の 4.「Happiness Is Just A Thing Called Joe」という、ハロルド・アーレンの曲をタミーが歌う。1943年のミュージカル映画「Cabin In The Sky」のために書かれ、エセル・ウォータースが歌った曲。その後はペギー・リー、エラ・フィッツジェラルド、ジュディ・ガーランド等がカバーし、近年ではベット・ミドラーやシェールが歌っている。その次はA面の「Table Talk」で、上記 [Unkown Show]のバージョンとで、ラルフのピアノ演奏の違いを楽しめる。6.「One Note Samba」、フランシス・レイの 7.「Man And Woman」とボサノバ演奏が続き、最後に彼らが即興で作ったというテーマ曲を演奏する。ここではラルフが短いながらも好きなようにピアノを弾きまくっている。

最後の映像は、「Ivar's Captain Table」というシアトルにあったレストランの動画コマーシャル(Bumper)。最初に店の宣伝看板が写り、3人がボサノバ調の短いインストルメンタルを演奏する。タミーの洋服から上記2つのセッションとは別の撮影であることが分かる。上記の番組中でも、このレストランの事が言及され、彼らがそこに出演していること、そして同レストランが番組のスポンサーであることも語られており、それらが本映像製作の由来となっている。

彼がニューヨークに移って腕を磨く前の、無名の頃の姿が拝める、タイムマシンのようなお宝映像。

余談であるが、上記とは別に、若きラリー・コリエルが出る映像も公開されており、彼が「One Note Samba」や「Desafinado」などのボサノバや、ヘンリーマンシーニの「Baby Elephant Walk」を演奏し、さらにルイ・アームストロングの「Hello Dolly」を歌うという珍品も必見!

[2022年2月作成]

[2024年1月作成]
ザ・インディヴィジュアルズのシングル盤「Table Talk /Happiness Is Just A Thing Called Joe」をD1にアップしましたので、そちらも参照ください。


 
Bremen, Germany (1973) [Ralph Towner] 音源
 
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar

1. 3 x 12 [Towner]  8:26
 (12st. Guitar)
2. Nardis [Miles Davis]  8:54
 (C. Guitar) 
3. Dark Spirit [Towner]  7:10
 (C. Guitar) 
4. Re: Person I Knew [Bill Evans]  7:22
 (12st. Guitar)
5. Raven's Wood [Towner]  10:12
 (C. Guitar)
6. Medley  11:13
 Entry In A Diary [Towner]  

 1 x 12 [Towner]  
 Brujo [Towner] 
 (12st. Guitar) 

Recorded July 25 1973, Bremen, Germany

 

以前書いたベルリンと同時期の音源なので、重複する内容は省略します。ドイツ北部の都市ブレーメンでのコンサートの音源で、大変に録音が良く、透明感と奥行きがあるサウンドを満喫できる。時期的にはラルフの最初のソロアルバム「Trios/Solos」1973 R1と2枚目の「Diary」1974 R2の間にあたり、2枚のアルバムに収録された曲が演奏されている。

若々しさ溢れる精力的な演奏で、特に12弦ギターのパフォーマンスは圧倒的だ。2010年代になって、ラルフは12弦ギターをほとんど弾かなくなったが、70才の老人が体力が要る楽器を弾きこなすことはできないと思う。12本の弦を押さえる握力も相当なものだが、右手のピッキングの負担、楽器そのものの重さ・大きさ、そして弦を交換、チューニングする際の手間など、一度楽器を所有するとその大変さがよくわかると思う。私も以前にマーチンの12弦を持っていたことがあるが、使いこなせず、数年で売ってしまった経験がある。6.は、メドレーで、最初に「Diary」に収められた「Entry In A Diary」をさらっと弾いた後、恐ろしくテクニカルでエッジが効いたショーピース「1×12」に移る。そして最後に「Brujo」のテーマが出てきて曲を終える。12弦ギター1本で10分以上も弾きまくっており、物凄い気力と体力だ。5.「Raven's Wood」は、「Trios/Solos」1973 R1ではアンサンブル(オーボエ、ベース)だったのに対し、ここではソロでのプレイだ。途中、ハマーリング、プリングオフ奏法(といってもマイケルヘッジスのようなメロディックでダイナミックなものではなく、パーカッシブな音を出すもの)でブラジル風のリズム演奏をしているのが面白い。

それにしても、今聴いても40年前の演奏とは信じられないほど、新鮮でクリエイティブなパフォーマンスだ。


Berliner Jazztage, Berlin (1973) [Ralph Towner] 音源



Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Brujo [Towner]  8:02
 (12st. Guitar)
2. Re: Person I Knew [Bill Evans]  5:44
 (12st. Guitar) 
3. Mon Enfant [Anonymous]  5:27
 (C. Guitar) 
4. Dark Spirit [Towner]  6:22
 (C. Guitar)
5. 1 x 6 12 [Towner]  5:26
 (12st. Guitar)
6. Nardis [Miles Davis]  6:30
 (C. Guitar) 

Recorded November 3 1973, Berlin Germany


ベルリンジャズ祭は、1964年から始まったイベントで、世界に数あるジャズ・フェスティバルの中でも、歴史・内容面で屈指の権威を誇る。オレゴンとしての音源は1980年のものがあるが、本音源はラルフの初期のソロ・パフォーマンスを聴くことができるものだ。収録日の1973年11月は、彼の最初のソロアルバム「Trios/Solos」1973 R1と、次作「Diary」1974 R2の間にあたるが、後者の録音日は1973年4月とあるので、本コンサートの時点では録音は終了していた事になる。そのため本音源の選曲は、主にこれら2枚のアルバムからとなっている。

1.「Brujo」は、ラルフの独奏としての公式録音はなく、ソロアルバムでは「Trios/Solos」(ベースとタブラとのトリオ演奏)、オレゴンとしてはエルヴィン・ジョーンズとの共演盤「Together」1976 O6に収められている。ハーモニクス、アルペジオ、シングル・パッセージを取り混ぜた、典型的なラルフ風12弦ギター曲だ。今聴いても十分凄い演奏であり、35年以上昔の当時にこの曲を聴いた時の衝撃の大きさは本当に大きいものであった。2.「Re: Person I Knew」も、「Trios/Solos」でグレン・ムーア(ベース)とのデュエットで演奏されていたが、ここでは12弦ギター1本でテーマを弾いている。ただし途中の間奏ソロについては、同じコード進行でアドリブを行うのが難しいようで、別のモチーフを使用して演奏しているが、それは後年発表するライブアルバム「Solo Concert」1980 R9に収められた曲「Zoetrope」の1節によく似ている。3.「Mon Enfant」 4. 「Dark Spirit」は、いずれも「Diary」に収録された曲で、スタジオ録音版とのインプロヴィゼイションの相違がよく分かる。5.「1 X 6 12 (One By Six Twelve)」は、当時のショーケース曲として、かなり弾き込んでいるようで、即興性が強く、スタジオ版とはかなり異なっているし、残されたライブ音源毎に違った味わいがある。初期らしい尖がった演奏で、途中で高音弦の共鳴弦のチューニングを変えて演奏するところが大変ユニーク。不協和音の塊の中での演奏は、過激というか破壊的でさえある。6.「Nardis」は、「Solo Concert」のバージョンに比べると、テンポが遅く、細部も粗っぽい感じがする。1980年のアルバムに入れて公式発表するまで、ステージで何年もかけて弾き込み磨き上げたのだろう。とは言え、本音源における彼のプレイは、完璧さを求める鬼気迫る態度ではなく、むしろ瞑想感にような感じが漂っており、それなりに味わいがあるものだと思う。

若さにと元気に溢れた初期のソロ演奏のライブが楽しめる音源。


 
Tokyo (1974) [With Gary Burton] 音源 
 
Gary Burton : Vibe
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Song For A Friend [Towner]  7:18
 (C. Guitar, Vibe) 
2. Icarus [Towner]  6:41
 (12st. Guitar, Vibe) 

Recorded May 26 1974, Toshi Center Hall, Tokyo
Broadcasted by FM Tokyo

ラルフ・タウナー初来日の模様を捉えた音源で、FM東京で放送されたもの。

ラルフの初来日は、ゲイリー・バートン・カルテットに同行してのものだった。5月26日の東京から始まり、静岡・名古屋・京都・大阪・福岡と周り、6月4日の東京が最後というスケジュールだった。カルテットのメンバーは、Gary Burton (Vibes), Mick Goodrick (Guitar), Steve Swallow (Bass), Ted Siebs (Drums)。本音源はFM東京のサウンドチェックであることは分かっていたが、コンサート会場および収録日は資料がなく、ずっと不明だった。それが先日、日本のヴィブラフォン奏者赤松敏弘氏のサイトに、本コンサートツアーのプログラムが掲載されている事を見つけた。もしこれが東京における2回目のものであるとすると、6月4日日比谷公会堂となるが、原史料には「May 1974」とあり、Takiさんという方のブログから、本音源が東京の第1回目を録音したものである事が確認できたので、上記のとおり5月26日、都市センターホールでの収録と断定した。なお都市センターホールは、1959年千代田区平河町に建設された「日本都市センター会館」内にあった多目的ホールで、1996年に閉館となっている。

音源はゲイリー・バートンのソロによる「Desert Air」、「Crystal Silence」(1972年のチック・コリアとのデュエット・アルバムに収録された曲)から始まり、カルテットによる「Falling Grace」(これも前述と同じアルバムから)、「The Raven Speaks」(1971年のキース・ジャレットとの共演盤から)となる。ソロの瞑想感・透明感溢れる世界と、カルテットによるダイナミックなサウンドの対比が鮮やかだ。

ゲイリーの紹介によりラルフが登場するが、彼が「再び登場」と言っているのは、コンサート序盤の終わりで、ラルフが4〜5曲ほどソロを演奏しているため。ここでゲイリーは、「昨年夏、私とラルフはドイツとオーストリアでデュオのコンサートを開いたが、とても楽しかったので、またやろうということになった。近いうちに二人でアルバムを制作する予定」と紹介し、今回のツアーでラルフが同行した背景と、後の同年7月に録音されるアルバム「Matchbook」1975 R3の事を語っているのが大変興味深い。ということで、二人の演奏はアルバム録音前のものであることが分かる。1.「Song For A Friend」は、ストイックなムードであるが、抑えた情感が密度を深めている。オレゴンは、2010年の新作「In Stride」O28 で同曲を取り上げており、この曲に対するラルフの愛着が感じられる。2.「Icarus」は、二人によるライブ音源がいくつもあるが、ここでの演奏は比較的冷静な感じだ。この曲のパフォーマンスが時代とともに爆発的なエネルギーを帯びてゆく過程を見ているような気がして興味が尽きない。

記録によると、コンサートはこの後、アンコールでラルフを加えた5人で演奏をしたというが、当時の録音テープがFM東京の倉庫に残っているはずで、いつかその全貌を聴くことができたらいいなと思う。



Oslo (1974) [With Solstice] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Jan Garbarek : Tenor Sax (2, 4, 5), Soprano Sax (3,6), Flute (3)
Eberhard Weber : Bass (1,2,3,4)
Jon Christensen : Drums (1,2,3,4)


1. Raven's Wood [Towner] 2:11
 (C.Guitar)
2. Unknown [Unkown]  7:45
 (Tenor Sax, 12st. Guitar, C. Guitar, Bass, Drums) 
3. Drifting Petals [Towner]  8:40
 (Flute, Soprano Sax, Piano, Bass, Drums) 
4. Oceanus [Towner]  7:50
 (Tenor Sax, C. Guitar, Bass, Drums)


録音: October 17 1974, Oslo, Norway


1. 「Raven's Wood」は、コンサートのオープニングっぽい雰囲気での演奏。イントロのタッピング奏法(ラルフの場合はパーカッシブな効果を狙ったもの)がカッコイイ。ラルフのギター独奏としては演奏時間が短いが、無駄が一切なく、きっちりとまとまっていて、素晴らしい出来。2.「Unknown」はヨン・クリステンセンとエバーハード・ウェーバーによる、いかにもソルスティスといったリズムセクションをバックに、ラルフの12弦が鋭く絡み、ヤン・ガルバレクのテナーが切り込んでゆく。コレクティブ・インプロヴィゼイションといった感じであるが、ヤンの作曲かもしれない。ラルフはベースソロの最中に、12弦からクラシック・ギターに持ち替える。3.「Drifiting Petals」は、ラルフのリリカルなピアノ演奏が光る曲で、途中のベース、ピアノ、ソプラノサックスのソロは、「Solstice」1975 R4に収められたスタジオ録音版のような前衛的色彩はなく、終始メロディックかつ叙情的であるのが面白い。4.「Oceanus」は、アナウンスではリハーサル中の曲「Floater」と紹介される。ラルフのギターは、スタジオ録音では12弦だったのに対し、ここではナイロン弦で弾いているので、曲のムードが一変している。緊張感にあふれ、耽美的ともいえる典型的なソルスティス・サウンドだ。

ソルスティスの初期の時期にあたり、各プレイヤーの若々しい演奏が楽しめる。


[2022年9月追記]

当初の投稿で、

5. Unknown - Free Piece [Unknown]  19:30
 (Tenor Sax, Piano, Electric Guitar, Percussion)
6. Timeless [John Abercrombie] 8:04 
 (Soprano Sax, 12st. Guitar, Electric Guitar, Percussion)

と書きましたが、5.の「Unknown」の曲名が、ヤン・ガルバレクのアルバム「Places」1978に収められていた「Entering」であることがわかりました。とすると、1974年の音源に1978年発表の曲が含まれることに違和感があり、改めて聴き込んだ結果、5, 6については、1978年8月31日のラルフ、ジョン・アバークロンビー、ナナ・バスコンセロスによるウィルソウ・ジャズフェスティバルのものと同じものであることが判明しました。

その結果、5,6,については本音源とは別の録音であると断定し、本音源のリストから曲名とジョンとナナの名前を抹消しました。そうすることにより、ソルスティスのリズムセクションとジョン・アバーンクロンビー、ナナ・バスコンセロスが同じセッションにいるという不自然さも解消するわけですね。


 Postaula, Bremen (1974)  音源
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano (6)

1. 1x 12 [Towner]  7:35
 (12st. Guitar) 
2. Summer Solstice [Towner]  5:32
 (C. Guitar) 
3.Nardis [Miles Davis]  4:25 
 (C. Guitar)
4. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus] 6:02  
 (12st. Guitar)
5. Erg [Towner] 3:05
 (C. Guitar)
6. Rainmaker [Towner] 6:44
 (Piano)
7. Nimbus [Towner]  5:58 
 (12st. Guitar)
8. Raven's Wood [Towner] 6:31
 (C.Guitar)

録音: Postaula, Bremen, December 3, 1974

 

ラジオ・ブレーメンが1974年に録音した本音源は、放送後ずっと封印されたが、約40年後の2015年2月24日、ドイツのノードウエスト・ラジオで発掘放送された。当時彼はヤン・ガルバレクとのソルスティス、ゲイリー・バートンとのデュオなど、精力的な活動をしていて、ここでのソロ演奏も精神・技術の両面で最も充実したものとなっている。普段ソロでは演奏されない珍しい曲も多く、大変聴き応えがある。会場の「Postaula」は、ブレーメンの郵政局の研修センターとのことで、1970年代にコンサートホールとしても使用され、いろんなアーティストによる放送音源が残っている。当時の建物はかなり昔に壊されたようで、インターネットで調べても資料が見つからなかった。

1.「1 x 12」は当時のソロ演奏の常連曲で、スタジオ録音版は1973年のアルバム「Trios/Solos」 R1に収められているが、ライブでの演奏内容は都度大幅に異なり、かなりの部分が即興演奏によるものと思われる。大変エネルギッシュな演奏で、12弦ギターを弾き倒せる気力と体力があってのもの。途中オレゴンのアルバム「Winterlight」 1974 O4 収録の「Tide Pool」の一節が出てくるのが面白い。新曲と紹介される 2.「Summer Solstice」は、公式発表はオレゴンの「In Concert」 1975 O5で、同グループによる1974年のライブ音源がある。ソロ演奏で聴くのは初めてで、恐ろしくテクニカルな部分も飛び出す鋭い演奏。3.「Nardis」は、公式発表の「Solo Concert」1980 R9 に比べて粗っぽい感じがするが、本人が十分満足できるまで、かなりの年月がかかったのだろう。4.「Goodbye Pork Pie Hat」は、当時はゲイリー・バートンとのデュオで録音(「Matchbook」1975 R3)され、ずっと後の「Anthem」 2001 R23でソロ演奏が公式発表されたが、当時のライブでは、すでに一人で演奏していたということだ。5.「Erg」は、マッチ箱をブリッジに挟んで弦をミュートした状態で弾くアフリカ音楽風の曲。オリジナルの「Diary」1974 R2よりもずっとアグレッシブなプレイだ。

ここでラルフは、ピアノで6.「Rainmaker」を弾く。当時オレゴンのレパートリーだった曲で、彼のソロステージでのピアノ演奏を聴くのは、これが初めてという貴重な音源。クリアーなタッチで、透明感溢れる音楽世界が広がる。12弦ギター1本による7.「Nimbus」の演奏も珍しい。録音が良いので、この曲・楽器が持つ音の豊かさ、深さが遺憾なく捉えられている。最後は、これもソロでは珍しい 8.「Raven's Wood」で終わる。

珍しい曲、素晴らしい演奏、高品質の録音と、三拍子揃ったお宝音源!

[2015年6月作成]


Stadthalle Heidelberg (1974) [With Gary Burton] 音源

Gary Burton : Vibe
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Eberhard Weber : Bass
Bob Moses : Drums

1. Matchbook [Towner]  4:35
 (C. Guitar, Vibe)
2. Icarus [Towner]  5:59
 (12st. Guitar, Vibe) 
3. Song For A Friend [Towner]  5:44
 (C. Guitar, Vibe) 
4. Aurora [Towner]  6:33
 (12st. Guitar, Vibe, Bass, Drums)
5. 1 x 6 12 [Towner]  7:55
 (12st. Guitar)

録音: December 6 1974, Stadthalle Heidelberg


 この頃ラルフは、「Matchbook」1975 R3で共演したヴァイブ奏者ゲイリー・バートンのグループと一緒にコンサート・ツアーをしており、1974年のラルフの初来日もこのパターンだったそうだ。当時ゲイリーバートンのグループは、上記のリズムセクションにMick Goodrick とPat Metheny の2人のギタリストを加えたもので、特にパット・メセニーは彼が有名になる前の時期にあたる。当日は上記5曲以外に、ゲイリーのアルバム「Ring」1974、「Dreams So Real」1975、 「Passengers」1976 (いずれもパットが参加)などに収録された曲が演奏されている。ラルフはゲスト・ソロイストという立場で、グループの演奏の合間に登場していたようだ。「Matchbook」の録音が同年7月なので、このコンサートは、そのしばらく後に行われたことになる。

1.〜3.はギターとヴァイブのデュエットによる演奏。1.「Matchbook」はギターの伴奏が異常に早いので、録音テープの速度が狂っているのではと思ったが、オリジナルのスタジオ録音と聞き比べてみると音程が同じなので、ありのままであることが分かった。それにしても凄まじいスピードだ。イントロ部分では、ブリッジ付近に紙を挟んでミュートさせたギターを使い、パーカッシブな効果を出している。それを受けて立つゲイリーのプレイも最高で、寸分のずれもないドライブ感で疾走しまくる。私は、アルバム「Matchbook」R3 の「Icarus」における二人の演奏は畢生の名演と思うのだが、2.「Icarus」で当時のライブ演奏を35年近く経った後に聴けるなんて、生きていて良かったな〜と思う。それにしても両者の演奏力・表現力の素晴らしさが遺憾なく発揮されており、当時のコンサートでいきなりこの曲を聴かされた人々は、さぞかしビックリしたと思う。曲が終わった後の拍手と歓声の大きさがその事を物語っている。3.「Song For A Friend」も「Matchbook」に収められていたスローテンポの曲であるが、ソロになると迸る情感のために、音数が俄然増えるのが面白い。

4.「Aurora」では、ベースのエバーハード・ウェーバーとドラムスのボブ・モーゼズが加わり、グループとの共演になる。ここでもラルフの12弦、ゲイリーのヴァイブは生き生きとした輝きに溢れている。ソロはヴァイブ、ベースの順で、12弦ギターはアルペジオとコード・ストロークを取り混ぜ、ギターを鳴らし切っている。5.「1x 6 12 (One By Six Twelve)」は、タイトルこそ彼の初アルバム「Trios/Solos」R1の1曲から取ったが、細部はかなり異なっており、どの程度まで即興演奏なのか不明だけど、バリエーション・変奏曲と考えることができる。12弦ギターの演奏の限界に挑戦しているかのようで、1970年代の時点でここまでやられちゃ、その後に他のギタリストの出る場面はないよな〜という感じ。

当時のゲイリー・バートンとの共演の様子を窺い知ることができる、貴重な音源だ。


Jazz i Munch Musset, Oslo (1974) [With Solstice] 映像、音源
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano
Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax, Flute, Percussion
Eberhard Weber : Bass
Jon Christensen : Drums

1. Winter Solstice [Towner] 9:10
 (Soprano Sax, C.Guitar, Bass, Drums)
2. Improvisation [Unkown]  14:53
 (Tenor Sax, 12st. Guitar, Piano, Bass, Drums, Percussion) 
3. Drifting Petals [Towner]  7:37
 (Flute, Soprano Sax, Piano, Bass, Drums) 
4. Oceanus [Towner]  7:50
 (Tenor Sax, C. Guitar, Bass, Drums)

録音: December 17 1974, Munch Musset, Oslo, Norway
放送: Febuary 28, 1975 
 
 

ムンク美術館は、オスロ市内にあるエドヴァルド・ムンク(1983-1944)の作品や資料を展示している美術館で、ノルウェーの公共放送局であるNRKが製作した、「Jazz i Munch Musett」という同館でのジャズ演奏のシリーズ番組に、ソルスティスが出演したもの。ムンクの大きな作品が飾られたイベントホールにおける観客無しのリハーサルといった内容の白黒映像で、同局のアーカイブで観ることができた。演奏内容は10月17日のものと非常に似ているが、10月の音源はオーディエンスの拍手と曲の紹介アナウンスがはいっており、プレイヤーのソロも明らかに異なるものだ。

1.「Winter Solstice」は、演奏を中断してラルフが他のプレイヤーに指示を出すというリハーサル風景で、全員椅子に座っての演奏。彼らのスタジオ作品「Solstice」 R4の録音が同じ12月に行われており、ライブのみでなくスタジオ録音のための練習といえよう。エバーハードがラルフの指示に応えてリフを口ずさみがらベースを弾き、ヤンも英語で発言している。2.「Improvisation」では、エバーハードは胴体のないエレキ・アップライト・ベースを弾き、ヤンはパーカッションも担当する。ラルフは途中でピアノを弾き出し、演奏内容が変わり、切れ目なく3.「Drifting Petals」(アーカイブでは「Quiet Song」という曲名表示)に移ってゆく。原曲のイメージから離れるかもしれないが、スタジオ録音よりストレートでメロディックなソロが楽しめる。4.「Oceanus」は、11月と同じくクラシック・ギターによる演奏で、アーカイブでも「Floater」の曲名で表示されている。また一部の資料では「Spansk Vals」という曲名で1977年モルド・ジャズ・フェスティバルでの演奏となっているが、それは間違い。

映像を通して、アルバム「Solstice」録音当時の雰囲気がじっくり伝わってくる逸品。

[2016年5月作成]


 
ECM All Star Night At Village Gate (1976) [With John Abercrombie And Colin Walcott] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar
Colin Walcott : Tabla

1.Nardis [Miles Davis]  8:24 
 (C. Guitar)
2. 1 x 6 12 [Towner]  8:38 
 (12st. Guitar) 
3. Avenue [Abercrombie]  8:54
 (C. Guitar, Electric Guitar)
4. Timeless [Abercrombie] 11:31
 (C. Guitar, Electric Guitar, Tabla)

録音: January 19, 1976 Village Gate, New York City


ECMレコードがプロモーションのために行っていたコンサート・シリーズで、FMラジオで放送されたものらしい。司会者の紹介の後、ラルフが登場して 1.「Nardis」を演奏する。初期の演奏ということで、イントロのインプロヴィゼイションが後のものと全く異なっているのが興味深い。テーマの音選び、間奏もシンプルなもので、ラルフがこの曲を長い年月にわたり演奏することで、進化・円熟させていったことがよくわかる。2.「1 X 6 12」は、当時彼がよく演奏していた12弦ギターの曲であるが、冒頭の部分が、ずっと後に発表されるアルバム「Oracle」1994 R16 の「Hat And Cane」に似ている点が面白い。20年近くの歳月を経た後に、昔即興風に弾いていたモチーフの一部を発展させて、ひとつの曲に仕上げたものと思われる。12弦ギターという扱いにくい楽器をフルに弾き倒すという気概にあふれたプレイで、精神的・肉体的ともに絶頂期にあった当時だからこそできる技だろう。

ラルフの退場後、ピアニストのスティーブ・キューンが登場してソロで4曲演奏する。その後司会者がラルフとジョン・アバークロンビーを呼び出して、3.「Avenue」が始まる。アコースティック・ギター2台による演奏だったオリジナル録音(「Sargasso Sea」1976 R5収録)と異なり、ジョンはエレキギターでより鋭角的なソロを弾く。ラルフの伴奏もアグレッシブで、8分があっという間に過ぎる密度の濃いプレイだ。ここでコリン・ウォルコットが登場し、彼のタブラを加えた3人で 4.「Timeless」が演奏される。リズム楽器が加わったせいで、二人のギタリストは火が出るようなホットなプレイを見せてくれる。いつものクールな雰囲気と全く異なるという意味で、このトラックは貴重だ。。

曲数は少ないが、70年代半ばのラルフの演奏をしっかり捉えた音源といえよう。


Frankfult Jazz Festival (1976) [With John Abercrombie] 映像

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar, Electric Mandolin (1)

1. Improvisation [Towner/Abercrombie]  9:30 
 (12st. Guitar, Electric Mandolin)
2. Ralph's Piano Waltz [Abercrombie]  8:24 
 (C.Guitar, Electric Guitar) 
3. Staircase [Towner]  6:53
 (C. Guitar, Electric Guitar)
4. Free Piece [Towner/Abercrombie] 5:30
 (C. Guitar, Acoustic Guitar)
5. Over And Gone [Abercrombie] 3:13
 (C. Guitar, Acoustic Guitar)
6. Timeless [Abercrombie] 4:49
 (12st. Guitar, Electric Guitar)

録音: September 18, 1976 Frankfult Jazz Festival, Frankfult, Germany


ラルフとジョン・アバークロンビーのデュエットのコンサート映像を観ることができた。資料によると1980年とあったが、ラルフの若々しい精悍な顔つきから、もっと昔のものであることは明らかで、調査の結果1976年9月18日収録と断定した。時期的には彼らの最初のアルバム「Sargasso Sea」1973 R5 発売の前後だ。画質・音質はイマイチであるが、ラルフの運指を斜め上から捉えたクローズアップなどを含むプロショットだ。

1.「Improvisation」は、主にラルフが12弦で背景を作り、ジョンが音を切り込んでゆくスタイル。ジョンはフェンダーのエレクトリック・マンドリン(4弦)にサウンドエフェクトをかましている。うつむきながら黙々と演奏に没頭するジョンに対し、ラルフは時おり相手を見つめて。間合いを測りながら演奏、その鋭い目つきが誠に印象的。ラルフが独奏する間にジョンはソリッド・ボディーのエレキ・ギターに、続くジョンの独奏の間にラルフがクラシック・ギターに持ち替え、メドレーで 2.「Ralph's Piano Waltz」に写ってゆく。ここではラルフがソロをとり、そのまま3.「Staircase」になる。テーマ・メロディーの早い動きがライブでもきっちり演奏されるのはさすがだ。

4.「Free Piece」は、リズムのない即興演奏で、ジョンはギルドのアコギを弾いているが、エフェクターがかかっているので、エレキのような音になっている。この曲もメドレーで、5.「Over And Gone」になる。最後はお馴染み 6.「Timeless」で、ラルフは12弦ギターの第2フレットにカポを付けて演奏している。ここでは残念ながら、途中のソロの部分がカットされ、すぐにエンディング・テーマとなって終わる。

画質・音質はイマイチなんだけど、二人とも気力・体力面で最も充実していた頃のライブであり、クローズアップ・ショットが多く臨場感に溢れているので、見応え十分の映像だ。


ECM Festival Of Music, Boston (1976) [With John Abercrombie] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar

1. Nimbus [Towner]  5:53 
 (12st. Guitar)
2. Along The Way [Towner]  6:55 
 (C.Guitar) 
3. Improvisation [Towner, Abercrombie] 9:40
 (12st. Guitar, Electric Guitar) 
4. Ralph's Piano Waltz [Abercrombie] 8:03
 (C. Guitar, Electric Guitar)
5. Staircase [Towner]  9:48
 (C. Guitar, Electric Guitar)
6. Blue In Green [Miles Davis] 15:05
 (C. Guitar, Electric Guitar)
5. Timeless [Abercrombie] 8:36
 (12st. Guitar, Electric Guitar)

録音: October 22 1976, Berklee Performance Center, Boston, Ma.


本音源の録音当時、ECM Jazz Festival と称して所属アーティストが欧米をツアーしていたようだ。ボストンにおけるコンサートでは、本音源の他にパット・メセニーのソロやテリエ・リピダルのグループの音源が残されている。

音源は、まずラルフの単独演奏から始まる。1.「Nimbus」は、公式録音では「Solstice」1975 R5でフルート、サックス、ベース、ドラムスというグループで演奏していた曲で、これを12弦ギター1台で演奏しきるとは想像できなかった。テーマのメロディーの素早い動きは難しそう。12本の弦をフルに鳴らし切っている部分におけるアルペジオの音の煌びやかさは圧倒的だ。若き日の精神・肉体両方のパワーに満ちていたからこそ可能なパフォ−マンスだ。2.「Along The Way」はラルフのグループ、ソルスティスの作品「Sound And Shadows」 1977 R6 やオレゴンの「In Performance」 1980 O12、「Oregon In Moscow」 2000 O23 などで取り上げられたお馴染みの作品であるが、本音源のように彼の独奏による公式録音はない。イントロ部分を含め、大変自由な演奏だ。3.〜5.は切れ目なく演奏される。3.「Improvisation」は、ジョンはエフェクターを使用し、ディストーションやエコー効果をかけて様々な音を出す。相手の出す音に向き合いながら淡々と進行するうちに、4.「Ralph's Piano Waltz」のモチーフが顔を出し、それは次第に確かなものになっていゆく、ラルフは1980年の「Solo Concert」 R9で、作者のジョンは「Timeless」1974で録音しているが、両者のデュオを聴くのは本音源が初めてだ。シンプルなテーマが提示され、自由なアドリブが展開されてゆく。そして突然 5.「Staircase」に切り替わるあたりはスリリング。難しいテーマを二人とも寸分の狂いなく弾く。6.「Blue In Green」は、マイルス・デイビスとビル・エバンスによる傑作曲で、ラルフとジョンが残した2枚のデュエット・アルバムには彼らのオリジナル作品のみが収録されていたので、このようなスタンダードの演奏を聴けるライブ音源は大変貴重だ。二人が奏でる内省的な世界は幽玄の境地と言える奥深さがある。アンコールの長い拍手の後に始まる 5.「Timeless」も公式録音では2人の演奏はなく、広い空間を感じさせる2台のギターの絡みは感動的だ。


ECM Jazz Festival, San Francisco (1976) [Ralph Towner] 音源

Gary Burton : Vibe
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. 1 x 6 12 [Towner] 10:55
 (12st. Guitar)
2. Along The Way [Towner] 6:04 
 (C. Guitar) 
3. Icarus [Towner] 5:17
 (12st. Guitar, Vibe) 

録音: November 13 1976, Great American Music Hall, San Fransisco, CA


上記に続く、ECM所属アーティストによるコンサートの音源。ここではラルフのソロとゲイリー・バートンとの必殺デュエットを聴くことができる。

最初の曲は、資料では 1.「1x 6 12 (One By Six Twelve)」とあるが、テーマは後の「Solo Concert」1980 R9 に収録された「Zoetrope」そのもの。内容的には、ちょうど当時の即興曲「1 X 12」との中間にあるともいえ、洗練度では1980年のバージョンが遥かに勝っている。ラルフがひとつのモチーフを時間をかけて弾き込み、磨き上げてゆく過程を窺い知ることができる貴重な録音だ。12弦ギターの独奏を10分以上にわたり展開するとは、当時彼が体力・気力ともに十分であったことを物語っている。2. は資料では「Arion」と表示されており、ラルフのソロはどの様に演奏しているのだろうと思ったが、聴いてみると 「Along The Way」だった。本音源を初めて聴いた時、そのまま終わるのかなと思ったら、一瞬音が切れて12弦ギターによる「Icarus」のイントロが始まり、ゲイリー・バートンのヴァイブとのデュエットになったのには、ビックリした。1974年のハイデルベルグでの音源でも述べたが、ラルフとゲイリーの「Icarus」の別録音を聴けるなんて、なんと幸せなんだろう!二人が繰り広げるインプロヴィゼイションは、思いのままに演奏しているようで、他のバージョンと全く異なるものだ。本当に凄まじいとしか言いようがない狂喜のひとときを送ることができる。

なお本音源は、上記以外にパット・メセニーが在籍したゲイリー・バートン・カルテットの演奏があり、パットのファンにとっても貴重なものだ。


Molde Jazz Festival (1977) [Garbarek, Towner, Abercrombie] 音源



Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax
John Abercrombie : Acousic Guitar, Electric Guitar, Electric Mandolin
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar


1. Yr [Garbarek] 19:29
 
(Soprano Sax, Acoustic Guitar, 12st. Guitar)
2. Krusning [Garbarek]  10:21
  (Soprano Sax, Electric Mandolin, C. Guitar)
3. Distant Hills [Towner]  10:41

 (Tenor Sax, E. Guitar, 12st. Guitar)

録音: July 1977, Molde, Norway
放送:  August 2 or December 7, 1977


モルドはノルウェーのフィヨルドにある人口2万5千人の小さな町。ここで毎年7月に行われるジャズ・フェスティバルは、ヨーロッパで長い歴史を誇り、かつ重要なものとされており、開催時には8〜10万人の観光客で町が溢れかえるという。

1977年のフェスティバルには、1976年12月にアルバム「Dis」 D18を録音(発売は1977年)したヤン・ガルバレクとラルフ・タウナーにジョン・アバーンクロンビーが加わった3人編成での参加となった。以前の資料では、1978年の音源とされていたが、2016年になってNRKというノルウェーのテレビ局のアーカイブで映像を観ることができ、また同フェスティバルの出演者の記録から本演奏が1977年のものであることが確定できた。しかしながら、1〜2曲目のタイトルが「Keith-lata」と表示される等、最新の資料も不正確な点が多い。

1.「Yr」は、「Dis」からの曲であるが、ラルフはレコードではクラシック・ギターで伴奏を付けていたのに対し。ここでは12弦ギターを弾いており、まさに変幻自在。ジョンはギルドのアコースティックギターのサウンドホールにピックアップを装着して、エレキっぽい音を出している。ヤンのソプラノ・サックスのボディーはまっすぐでなく、アルトやテナーと同じように曲がっている。最初のテーマはヤンとラルフがメインで、ジョンはテーマをユニゾンで弾く他に、音を控えめに差し込んでゆく感じ。テーマに続くヤンのソロが圧倒的で、形容し難い凄さ。続くジョンのソロは、音を探るような訥々とした音使いから始まり、次第に気合いが入って熱を帯びてゆく。続くラルフのソロはジョンが伴奏を担当するので、「Dis」にはない世界が広がってゆく。演奏しながらしきりに高音弦のペグをいじってチューニングを直す様がかっこいい。テーマに戻った後はフリーな演奏に移行、ラルフによるギター・ボディのタッピングをバックとしたヤンとジョンのインタープレイ、そしてヤンの独奏になる。その間にラルフはクラシック・ギターに持ち替え、切れ目なく 2.「Krusning」になる。ジョンはフェンダー製のエレクトリック・マンドリンを弾いている。これは1957年〜1976年に製造され、ソリッドボディー、通常のマンドリンとは異なる共鳴弦なしの4弦であることが特徴。ここではジョンのソロが押しており、デュエットアルバム「Sargasso Sea」1976 R5のカラーが垣間見える。ラルフによる伴奏を入れながらのソロの後にヤンがソロを吹くが、ここでも物凄い!最後のテーマでは、ジョンがより前面に出てきて、ヤンと一緒にメロディーを奏でている。

3.「Distant Hills」で、ジョンはギブソンのソリッドボディー・ギター(メロディー・メイカー)に持ち替え、ボリューム・ペダルを使用して、霧がかかったようなミステリアスな曲の雰囲気を盛りたてている。彼がこの曲を演奏している音源・映像として、大変貴重なものだ。

[2016年追記]
当初「Molde Jazz Festival 1978」として、タウナー、アバークロンビー、ガルバレクの演奏を掲載してきましたが、新しい音源と資料により、これらの演奏が1977年にものであることがわかりましたので、書き直しました。なお、資料ではこのコンサートで「Spansk Vals」という曲も含まれていましたが、正しい曲名は「Oceanus」(アルバム「Solstice」 1974 R4収録曲)で、1974年ムンク美術館での収録です。


Funkhaus des NDR, Hamburg (1978) [Ralph Towner] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar
Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax, Flute
Nana Vasconcelos : Percussion

1. Spanish Samba (Red Roof) [Garbarek]  12:48
 (Tenor Sax, E. Guitar, C. Guitar, Percussion)
2. Timeless [Abercrombie]  8:59
 (Soprano Sax, E. Guitar, 12st. Guitar) 
3. Viddene [Garbarek] 14:04
 (Sprano Sax, Whistle, E. Guitar, C. Guitar, Percussion) 
4. Nimbus [Towner]  10:16
 (Tenor Sax, Flute, E. Guitar, 12st. Guitar, Percussion)
5. Krusning [Garbarek]  10:12
 (Soprano Sax, E. Guitar, C. Guitar, Percussion)
6. Waterwheel [Towner]  14:14
 (Soprano Sax, E. Guitar, C. Guitar, Percussion) 
7. Backward Glance [Abercrombie]  43:56
8. Entering [Garberek]
9. Telegram [Abercrombie]

 (Tenor Sax, E. Guitar, 12st.Guitar, C. Guitar, Percussion)

録音: April 11 1978, Jazz Workshop, NDR Funkhaus, Hamburg


音質・演奏ともにECMレーベルの公式録音に匹敵する音源。

ジョン・アバークロンビーとヤン・ガルバレクは、二人とも当時ラルフと共演盤を製作した親しい仲で、ナナ・ヴァスコンセロスとは後年、アリルド・アンデルセンのアルバム D37のバックで共演している。ちなみにラルフを除く3人は、1980年にアルバム「Eventyr」を発表している。ベース、ピアノ、ドラムスのない特殊な編成で、ホーンと2台のギター(エレキとアコギ)、そしてパーカッションによるサウンドが、室内音楽的ともいえる独特でオリジナリティー溢れるサウンドを作り上げている。4人とも音楽家としての才能・テクニックが十分な人達であるのに加えて、彼らのキャリアのなかでも最も充実していた時期の演奏であり、内面的に凄まじいパワーを感じさせるプレイに終始している。本音源は、NDR (Norddeutscher Rundfunk、北ドイツ放送、ハンブルグを本拠地とする公共放送局)のラジオ番組「ジャズ・ワークショップ」に出演したもので、ドイツ語の「funk」はラジオ、「haus」はライブの意味。

1.「Spanish Samba」のテーマは、ヤンが1979年に発表したアルバム「Photo With Blue Sky, White Cloud, Wires, Windows And A Red Roof」に収録された「Red Roof」のエンディングと同じメロディーだ。ナナのビリンバウのソロから始まる。ビリンバウはブラジルのダンス的格闘技カポエイラを行う際に使用されるパーカッションで、弓状の木の棒に針金を張り、共鳴器として瓢箪を付けたシンプルなもの。バーデン・パウエルの同名曲でフィーチャーされて世界的に有名になった。ナナはこの楽器の名手の一人で、シンプルなだけに取扱いが大変難しそうな楽器を意のままに操っている。ラルフはブラジル風のリズムギターに専念し、ジョンは単弦のピッキングで、ヤンと一緒にテーマを奏でる。インプロヴィゼイションは主にヤンの担当で、ジョンはサックスの背後で音を切り込んでゆくが、彼のソロのパートも少しだけある。ナナはアコゴベル(カウベルの仲間)やシンバルワークでリズムを紡ぎだす。サンバといいながらブラジルの太陽の輝きはなく、ヤンの演奏は北欧の暗い情念に満ちているので、他の音楽にない一種独特の不思議なムードがある。異なるフィールドの音楽家が集まった融合作業の成果といえよう。2.「Timeless」は当時ラルフとジョンがデュオの際によく演奏していた曲。ジョンの代表作で、彼が1974年に発表した同名アルバムが初出、ラルフもソロ R9、オレゴン O6で録音している。ここではいつもの二人のギタリストにヤンのサックスがどう絡むかが聴きもの。間奏は、ラルフ(12弦)とジョン(エレキ)の二人だけのインタープレイに続き、ヤンとラルフがソロをとる。広大な空間が感じられる演奏で、三人の音楽家の間を生かしたプレイは真に魅惑的。ラルフとヤンの共演盤「Dis」 D19に入っていた3.「Viddene」は邦楽のような笛の演奏で始まる。ナナの楽器はサンバでよく使用されるスルドという太鼓だろう。途中からジョンのエレキが加わり、彼一人の演奏になる。コードを使わず、ひたすら単弦演奏に徹するストイックなプレイだ。次にラルフのクラギが入り、ヤンのソプラノサックスと二人で曲のテーマを始める。上述のスタジオ録音版に比べて、よりプレイヤーの息使いというか、温かみが感じられる演奏だ。このようなスローな曲でも縦横無尽のインプロヴィゼイションを展開するヤンは凄い!ラルフの独奏の後にテーマにもどり静かに終わる。4.「Nimbus」はヤンと一緒のグループ作品「Solstice」1975 R4で録音された曲で、当時のラルフのライブにおけるショーケース的作品。12弦の独奏から始まりテーマはヤンがフルートを吹く。ジョンのソロがたっぷり聴けるのがここでのハイライトかな?録音が良く、12弦ギターの繊細で豊かな音が余すところなく捉えられてる。バックに回るナナのパーカッションが独特で、スタジオ録音版のヤン・クリステンセンのドラムスとまったく異なるグルーブを出している。エンディングのテーマはジョンのエレキが担当。5.「Krusning」も「Dis」 D19からの作品で、ナナはコンガを叩き、ラルフの早いアルペジオにヤンとジョンのゆったりとしたテーマが被さってゆく。ソロはジョン、ヤン、ラルフの順番。待ったなしのインプロヴィゼイションにかける男達の緊張感がひしひしと伝わってくる。

ラルフの常連曲 6.「Waterwheel」は、ジョンのエレキとヤンのサックスが加わるという興味深い取り合わせ。彼らが演奏すると水車という曲のイメージから完全に離れて、独自の世界が開けてくるのが面白い。特にヤンが吹きだすと夜の最中にしんしんと降りつもる雪のような雰囲気で、吐く息も白そう。7.以降は44分に及ぶメドレーで、各曲の間にフリー・インプロヴィゼイションをはさんだ構成。7.「Backward Glance」はジョンのソロアルバム「Characters」 1977に収録されていた曲で、そこでは彼一人の多重録音による演奏だった。ナナのシンバル、ラルフの12弦が刻むリズム、テナーとエレキが鋭角的なメロディーを切り込む。ここでのラルフの12弦ギターのソロは、透明感あふれるシンバルワークとエレキギターを伴奏に、清冽な叙情が迸るプレイで素晴らしい。テナーのソロは滔々と流れる大河のようで、その音世界に浸ることは至福のひとときだ。4人の駆け引きによるインタープレイの後、ヤンがテナーサックスでトランペットのような高音を出す超人的プレイを見せる。ラルフは紙をはさんでミュートしたギターで応戦。エレキとたて笛の合奏を経て、ラルフのクラギの独奏になる。現代音楽風でハーモニクス奏法も少しある。半分位経過して、静かなフォークソングのような 8.「Entering」のテーマが提示される。シャカシャカしたパーカッションがシンセサイザーのような効果を出し、続くラルフのクラギ独奏によるテーマの展開は、大変美しい。その後テナーが加わり、さらに4人の演奏となって、エレキギターがファジーなトーンで激しいプレイをする。ここで 9.「Telegram」(これも「Characters」が初演)に移り、エレキ、テナー、クラギがソロをとる。4人の精神的なパワーに圧倒されるパフォーマンスだ。

公式録音のない顔合わせによる大変貴重な音源。他で聴くことができない独自の音楽世界がある。各プレイヤーとも本当に個性的でスゴイ人達だけど、全編を通して大地の魂を感じるリズムを繰り出すナナ・ヴァスコンセロスの存在感が押していると思う。


 
Molde Jazz Festival (1978) [Solstice] 音源・映像
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano
Jan Garbarek : Tenor Sax, Soprano Sax, Flute
Eberhard Weber : Bass
Jon Christensen : Drums, Percussion

1. Oceanus [Towner]  16:13 
 
(Tenor Sax, 12st. Guitar, Bass, Drums) 
2. Free Improvisation  4:10

 (Tenor Sax, C. Guitar, Bass, Drums)
3. Spanish Samba (Red Roof) [Garbarek] 10:02 
 (Tenor Sax, C. Guitar, Bass, Drums) 
4. Distant Hills [Towner] 8:00
 (Tenor Sax, 12st. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
5. Free Improvisation  5:56
 (Piano, Bass, Drums) 
6. Spartacus [Alex North]   7:04
 (Tenor Sax, Piano, Bass, Drums) 
7. Krusning [Garbarek]  7:17  
 (Soprano Sax, C. Guitar)
8. The Journey Home [Keith Jarrett]  7:18
 (Tenor Sax, Piano, Bass, Drums) 
9. Free Improvisation  3:16
 
(Tenor Sax, Piano, Bass, Drums)
10. Nimbus [Towner]  7:43
 
(Tenor Sax, Flute, 12st. Guitar, Bass, Drums)

録音: August 3, 1978, Molde Jazz, Molde, Norway
放送: August 31,1978

 

以前より 1〜3は1977年モルド・ジャズフェスティバルの音源として耳にしていたが、 2016年になって、全貌を聴くことができた。さらにノルウェーのテレビ局によるアーカイブの映像まで観ることができた。40年近く後になってこんな事が経験できるなんて、生きていると良い事もあるものですね。録音面では、音の左右の分離はあまり感じられないけど、各楽器の音がクリアーで奥行きがあるので、気にならない。

演奏はフリーフォームなイントロから始まり、ギター伴奏が独特の響きを奏でて、シンバルがリズムを刻み出し、1.「Oceanus」のテーマに入ってゆく。うねりに満ちたベースと鋭い切れ味のギターの掛け合いの後に、テナーが骨太なソロをとり、最後にラルフのソロになってテーマに戻る。切れ目なく即興演奏に入り、サックスが吹きやんだ後は、ベースのタッピングとドラムスによるパーカッシヴなプレイが続き、ミュートギターが加わる。そのうちにリズムがサンバし出し、3.「Spanish Samba」に移ってゆく。次に1〜3の映像についての説明。会場の外で日向ぼっこをするオーディエンスへのインタビューと、「Kino」という会場への入場風景が映った後に、演奏が始まる。各プレイヤーの若々しいこと!ギラギラと生気が漲っていて、プレイヤーとして最も脂が乗った時期であることは明らかだ。タウナーが1.のイントロの途中で別の12弦ギターに持ち替えるのは、第2フレットのカポと、またはチューニングが異なるためか?彼の12弦ギターのプレイをたっぷり観ることができる。2.では5弦のアップライト・エレキベースを弾くウェバーハード・ウェーバーがタッピング奏法を見せてくれる。ラルフのミュートギターのブリッジにはマッチの紙表紙が挟んであるのが見える。いずれにしてもソルスティスの画像が観れるなんて、夢のようだ。

4.「Distant Hills」は、12弦ギターの独奏から。活き活きとしたヤン・ガルバレクのソロはライブの醍醐味。テーマの再演の後、ラルフはピアノに代わり、ベースのソロによる繋ぎのパートを経て、5.「Spartacus」となる。この曲はカーク・ダグラス主演、スタンリー・キューブリック監督による1960年のスペクタクル歴史大作のテーマソングで、その美しいメロディー・コード進行を気に入ったビル・エバンスが好んで演奏した(アルバムでは、1963年の「Conversation With Myself」、1969年の「What's New」に収録)。ここではオリジナルに近いスローなテーマの後、ソロはラテン調のリズムによる急速調の演奏に変貌する。ラルフの透明感溢れるソロが素晴らしく、レコードではあまり聴けなかったソルスティスでのラルフのピアノプレイが聴けるなんて、もう最高!7.「Krusing」(資料では「Ripple」とあるが、こちらが正しい曲名)は、デュオアルバム「Dis」1977 D19から。緊張感一杯のステージの中。さらりとしたプレイは息抜きにぴったり。といっても十分凄いプレイなんだけどね。ラルフの伴奏・間奏がとても良い出来。8〜10のメドレーは、資料では「Suite/Sounds/Nimbus」とあるが正しくない。8.は、キースジャレットのアルバム「My Song」1977に収録されていた「The Journey Home」だ。曲後半のゴスペル調の部分を抽出したもので、アルバム同様ヤン・ガルバレクのテナーが冴えわたっている。ラルフがキース・ジャレットの曲を弾くという珍品!!ここでも即興演奏による繋ぎが入り、ラルフはヴィブラフォンで使用するマレットでピアノの弦を叩いている。その後12弦ギターに持ち替えたラルフが10.「Nimbus」のイントロを弾き始める。ここでのウェーバーのベースソロ、ヤンのサックスソロは、いずれもこの曲におけるインプロヴィゼイションの最高峰であることは間違いない。

国宝級の凄い音源・映像!

[2017年9月追記]
8曲目をキースジャレット風のタイトル「Unknown」としていましたが、正しい曲名が判りましたので、書き直しました。

[2022年9月追記]
録音日を「1978年7月」としていましたが、「1978年8月3日」に修正しました。


 
 
Willisau Jazz Festival, Willisau, Switzerland (1978) [Jan Garbarek Group] 音源
 
Ralph Towner : Piano, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar
Jan Garbarek : Tenor Sax
Nana Vasconcelos : Percussion

1. Entering [Garbarek]  7:02
 (Tenor Sax, Piano, E. Guitar)
2. Long As You Know You're Living Yours [Keith Jarrett] 2:02
 (Tenor Sax, Piano, E. Guitar, 12st. Guitar, Percussion) 
3. Improvisation  10:15
 (Tenor Sax, Piano, E. Guitar, 12st. Guitar, Percussion) 
4. Timeless [Abercrombie]  7:56
 (Soprano Sax, E. Guitar, 12st. Guitar, Percussion)

5. Spanish Samba (Red Roof) [Garbarek] (断片) 2:05
 (Tenor Sax, E. Guitar, C. Guitar, Percussion)

録音: August 31 1978, Willisau Jezz Festival, Willisau, Switzerland

 
スイス中部にあるヴィリザウ町で、ジャズコンサート開催が始まったのは1966年だった。その後規模が拡大し、1975年にフェスティバルとなり、現在に至っている。同フェスティバルのホームページにはアーカイブのコーナーがあり、過去開催分の出場者のラインアップを見ることができ、そこに貼られたリンクから当時のプログラムをダウンロードしたり、当時の演奏(断片)をストリーミングで聴くことができる。

第4回目の1978年、初日の8月31日20:00に 「Jan Garbarek Group」として上記4人が出演した。本音源はFM放送のエアーチェックとのことで、音質は良い。資料では曲目につき「Improvisation - Timeless」とあったが、最初の曲はヤン1977年のアルバム「Places」に入っていた1.「Entering」だ。ラルフの透明感溢れるピアノをバックに、ヤンが抒情たっぷりに吹き、ジョンはサラサラした感じの音を入れる。そのうちにラルフがゴスペル調の和音をエモーショナルに叩き出し、切れ目なく 2.「Long As You Know You're Living Yours」に移ってゆく。キース・ジャレットがヤンと共演した「Belongings」1974に収録されていた曲で、ここでの演奏はレコードのものとかなり異なるが、同年に行われたキースとヤンのヨーロピアン・カルテットのライブの演奏を聴くと、本音源のプレイによく似ている。ただこの曲は繋ぎ的存在だったようで、すぐに終わってしまい、次の3.「Free Piece」に続く。短いプレイだけど、ラルフのキースの向こうを張ったゴスペルプレイを聴けるのはうれしいことだ。

3.「Free Piece」では、ピアノがさらさらした川の流れのようなリフを弾き、ナナのパーカッションが前面に出てきて、ヤン、ラルフ、ジョンが自由なプレイを展開する。ここでのラルフのピアノプレイは、音の粒がはっきりしていて、とても美しい。彼は曲の途中で12弦ギターに持ち替え、切れ目なく 4.「Timeless」のイントロを弾き出すと、この曲をよく知っているオーディエンスから拍手が起きる。ラルフのプレイは、ずっとピアノだったので、ここで12弦ギターのアルペジオを聴くと、滔々と流れる川のようで、とても新鮮な感じがする。ここではジョンのエレキギターのソロが冴えているね。

この面子での演奏は当時しかないので、それはそれは貴重な音源。なお上記のアーカイブで、2分足らずの断片ではあるが、当日の演奏 5.「Spanish Samba」を聴くことができる。

[2022年9月作成]


Great American Music Hall, San Francisco, California (1979) [Ralph Towner] 音源 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Improvisation [Towner]  12:19 
 (12st. Guitar)
2. Ralph's Piano Waltz [Abercrombie] 10:57 
 (C.Guitar) 
3. Chelsea Courtyard [Towner] 12:35
 (C.Guitar) 
4. Zoetrope [Towner] 8:55
 (12st. Guitar)
5. Nardis [Miles Davis] 8:34
 (C. Guitar)
6. Nimbus [Towner] 5:44
 (12st. Guitar)
7. Winterlight [Towner] 9:38
 (C. Guitar)
8. Brujo [Towner] 7:38
 (12st. Guitar)
9. Gloria 's Step [Scott LaFaro] 9:21
 (C. Guitar)

録音: May 17 1979, Great American Music Hall, San Francisco, CF.


これは凄い音源! 傑作「Solo Concert」 1980 R9の録音が1979年10月であるの対し、本音源はその5か月前で、当時はライブ・アルバム製作を意識して、多くのコンサートをこなしながら演奏に磨きをかけていた時期と思われる。正直いって「Solo Concert」のような完璧な演奏ではなく、細かなミスや粗さも随所にあるけど、公式録音を前提としない自由な雰囲気での演奏も魅力的で、「Solo Concert」の緊張感に満ちた冷徹で理性的なプレイとは異なり、人間味が感じられるリラックスな演奏が楽しめる。

1.「Improvisation」は、ラルフが初期に弾いていた「
1 x 6 12」とは異なる感じの演奏で、12弦ギターのプレイでよく出てくるモチーフが散りばめられている。それにしても即興で12分も演奏するなんて、当時の彼がいかに精神的・身体的に充実していたかを象徴するトラックだ。2.「Ralph's Piano Waltz」は、音楽仲間のジョン・アバークロンビーの作品。シンプルなメロディー、コード進行の曲を、如何に展開させてゆくかがポイントで、淡い色彩による抽象画のような味わいがある。途中低音弦をミュートさせて、ベースソロのように弾く部分もあって、興味が尽きないプレイだ。3.「Chelsea Courtyard」は、ここでは「まだタイトルがない新曲」と紹介されている。「Solo Concert」のバージョンのように完成度が高くなく、まだキャンバスに絵具が置かれていない白い部分が残っているかのような演奏であるが、未完である故の自由な感じもあり、悪くない出来。4.「Zoetrope」は、公式録音が「Solo Concert」しかないので、別テイクを聴くような乗りで、両者の違いを楽しむことができる。5.「Nardis」は、ほどよい荒っぽさがあるプレイで、間奏部分も「Solo Concert」よりもずっと長い。12弦による音数の多さをフルに発揮した 6.「Nimbus」は、「Solo Concert」には収録されなかったが、当時ラルフがソロまたはオレゴンでよく演奏していた曲。7.「Winterlight」は、初めてのソロアルバム「Trios/Solos」1973 R1がオリジナルで、本曲のライブ演奏を聴くのは本音源が初めてという珍しい曲だ。ブラジル風リズムによる瞑想感が心地良い佳曲。8.「Brujo」は、オレゴンによる演奏が通常で、ソロによるバージョンは珍しい。9.「Gloria's Step」は、オレゴンのデュエット特集「Moon And Mind」1979 O10にグレン・ムーアのベースと一緒に演奏していた曲で、ビル・エバンス・トリオのベーシスト、スコット・ラファロが作曲し、交通事故で亡くなる直前のライブ「Sunday At Village Vanguard」 1961に収録された名曲のカバー。ラルフのソロによる公式録音は、2001年の「Anthem」 R23なので、20年以上もかけてじっくり仕上げたということになる。ここではスタジオ録音と異なり、間奏にじっくり時間をかけている。でも、テーマ部分の完成度の違いは雲泥の差かな?

もし「Solo Concert」1980 R9を編集せずに、当時のコンサートそのままの構成で製作していたら、こんな感じにになったかなと思わせる内容で、ラルフ絶頂期のプレイをたっぷり楽しめる。録音も文句なし!


 
Great American Music Hall, San Franscisco (1980) [With John Abercrombie] 音源 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar

1. Improvisation [Towner, Abercrombie]  12:28
 (12st. Guitar, E. Guitar)
2. Ralph's Piano Waltz [Abercrombie] 11:35
 (C. Guitar, Electric Guitar)
3. Unknown Title [Abercrombie]  7:57
 (12st. Guitar, E. Guitar)
4. Nardis [Miles Davis] 11:28
 (C. Guitar, E. Guitar)
5. Beneath An Evening Sky [Towner] 7:12
 (12st. Guitar, E. Guitar) 
6. Paramour [Abercrombie] 10:27
 (C. Guitar, E. Guitar) 
7. Parasol [Towner, Abercrombie] 6:27
 (C. Guitar, E. Guitar) 

録音: December 3 1980, Great American Music Hall, San Francisco, CF.


 

グレイト・アメリカン・ミュージック・ホールはサンフランシスコにある1907年建立の古いホールで、1972年に荒れ果てた建物を修復して現在の名前になった。装飾を凝らした内装が特徴で、バーレスク、ジャズ、フォーク、ロックをメインとする全米屈指のコンサート会場だ。本音源はサウンドボード録音で、各楽器の音が自然な感じで、かつクリアーに捉えられており、バランスも素晴らしい(注:この説明はオレゴン1980年の音源のものと同じです)。

1.「Improvisation」はウォームアップを兼ねた即興演奏と思われ、ラルフは最初は12弦ギターを弾く。イントロのアルペジオは「Batik」1978 R7を想起させ、ラルフが12弦ギターの独奏で見せるリフが使われている。音使いは「Nimbus」の演奏と似ているので、同じ変則チューニングなのかもしれない。途中でラルフがギターのボディーを叩く場面も含めて、ジョンは単音のパッセージを、これでもかと徹頭徹尾弾きまくっている。一瞬ジョン一人の演奏になった間にラルフがクラシック・ギターに持ち替え、メロディーで 2.「Ralph's Piano Waltz」に移る。ここでは二人が音を切れ込み合うインタープレイが見事で、各人のソロのバックで展開される相方の伴奏もクリエイティブで聞きものだ。ここでチューニングをやりながらのラルフによるアナウンスが入り、次の曲は「ジョンがホテルで書いたばかりの名無しの新曲」と紹介される 3.「Unknown Title」は、ラルフの12弦によるゆったリとしたアルペジオのリフが印象的な曲であるが、私が知る限り、その後発表されたジョンのアルバムで発表された心当たりはない。4.「Nardis」では、二人のソロが歌いまくる好演。特にジョンのプレイはいつになくメロディアスで、この人の天性の閃きを感じさせるものだ。最後のテーマのメロディーラインでラルフがとちるが、すかさずジョンが音を入れてカバーするあたりはさすが。ここではエンディングになってからもソロが延々と続き、二人が乗りに乗っている感が伝わってくる。ラルフのアナウンスの後の5.「Beneath An Evening Sky」は、本音源の中ではストイックな響きがある曲。両者による繊細なプレイが素晴らしい。6.「Paramour」は、1977年に発表されたジョン一人によるアルバム「Characters」に収録されていた曲で、ラルフとのデュエットでこの曲が聞ける音源はあまりないはず。ジョンの独奏から始まる、メランコリックで瞑想的な雰囲気の曲で、間奏の部分では珍しく4ビートのリズムになり、光が射して明るさが出る感じだ。そのま即興演奏的なパートをはさんで、途切れなしに7.「Parasol」が始まる。

二人の共演を、良い音質でじっくり楽しめる。珍しい曲を演っているのも貴重。


Humburg (1984) [With John Abercrombie] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar

1. Improvisation [Towner, Abercrombie]  15:12
 (12st. Guitar, C. Guitar, E. Guitar)
2. Juggler's Etude [Towner] 7:46
 (C. Guitar, E. Guitar) 
3. Beneath An Evening Sky [Towner] 5:56
 (12st. Guitar, E. Guitar) 
4. Half Past Two [Towner] 9:17
 (12st. Guitar, E. Guitar)
5. Late Night Stranger [Towner, Abercrombie] 5:03
 (C. Guitar, E. Guitar) 
6. The Donkey Jamboree [Towner] 3:32
 (12st. Guitar, E. Guitar) 
7. Timeless [Abercrombie] 9:14
 (12st. Guitar, E. Guitar)
8. Waterwheel [Towner] 8:11
 (C. Guitar, E. Guitar)
9. Nardis [Miles Davis] 5:00
 (C. Guitar, E. Guitar)

録音: May 8 1984, Funkhaus des NDR, Hamburg


共演盤の2作目「Five Years Later」1982 R10の録音から約3年後のコンサート音源。時期的にはソロアルバムでは「Blue Sun」R11と「Slide Show」R12の間、オレゴンでは「Crossing」O14の録音前にあたる。1.「Improvisation」は即興演奏と思われ、ラルフは最初は12弦ギターを、途中からクラギに持ち換える。即興演奏といっても一定のリフのパターンに基づくインプロヴィゼイションというのが正しいニュアンス。ラルフは途中ギターのボディーを叩いてパーカッションのような効果音を出したりしている。途中ラルフのクラギの独奏となり、突然 2.「Juggler's Etude」のテーマに入る。メロディーの素早いペッセージが難しそうだけど、二人のコンビネーションはバッチリ!ジョンが相変わらずのスタイルでゴニョゴニョとソロをとるが、さすがに切れ味に鋭いものがある。ラルフによる、レコードと同じような細かいアルペジオの後に繰り出されるソロが素晴らしい。ライブでこれだけ出来るなんて凄い ! 3.「Beneath An Evening Sky」は、二人の演奏による公式録音はないので、めっけもの音源だ。ラルフによる12弦ギターの伴奏にかぶさるジョンのメロディーはエレキギターの演奏ではあるが、ひんやりとした透明感があって、曲の雰囲気に合っている。ここではラルフは伴奏に終始し、ソロは取っていない。

4.「Half Past Two」は、「Five Years Later」1982 R10からの曲で、ラルフとジョンによる各ソロパートの後半では、ファンキー色の濃いR&B風プレイになるのが面白い。曲はジョンによる独奏となり、途切れなしに 5.「Late Night Stranger」に移る。ジョンのエレキギターには深めのサウンドエフェクトがかかり、ラルフはブリッジ付近に紙をはさんだ「ミュートギター」でパーカッシブなプレイをする。ソロの後にミュートギターのままで、ソニー・ロリンズの「St. Thomas」のような カリブ風ジャズ曲 6.「Donkey Jamboree」が始まる。これはラルフが「Slide Show」R12でゲイリー・バートンと演奏していた曲で、ジョンとの共演はライブ音源のみで楽しめるもの。7.「Timeless」は二人が共演したスタジオ録音はないが、ステージでは常連曲だったようだ。ここでは曲のダークな雰囲気と全く異なる、明るい牧歌的なイントロが付いているのが面白い。ラルフの愛奏曲 8.「Waterwheel」は、1978年に2人にヤン・ガルバレク、ナナ・ヴァスコンセロスを加えた4人での演奏音源が残されている。ジョンのシングルノートのアドリブプレイは、鬼気迫るものがあるし、ラルフがソロを取る間のジョンの伴奏を聞いているのも楽しい。ビル・エバンスへの思い入れ深い二人にとって名曲 9.「Nardis」は、格別奥の深い演奏となっており、二人によるこの曲の公式録音がなく、他のライブ音源でも見かけないので、これは貴重なトラックだ。

1976年の共演と比較して、落ち着いた雰囲気が漂う音源。


[2011年2月変更]
9.「Nardis」 追加しました。


 
Canton Street, CT [With John Abercrombie] (1985)  音源
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Abercrombie : Electric Guitar

[Early Show]
1. Improvisation [Towner, Abercrombie]  14:56
 (12st. Guitar, C. Guitar, E. Guitar)
2. Juggler's Etude [Towner] 6:51
 (C. Guitar, E. Guitar) 
3. Beneath An Evening Sky [Towner] 5:29
 (12st. Guitar, E. Guitar) 
4. Ralph's Pisno Waltz [Abercrombie] 8:52
 (C. Guitar, E. Guitar) 
5. Late Night Stranger [Towner, Abercrombie] 4:21
 
(C. Guitar, E. Guitar) 
6. The Donkey Jamboree [Towner] (Imcomplete) 3:52
 
(C. Guitar, E. Guitar) 
7. Timeless [Abercrombie] 8:07

 (12st. Guitar, E. Guitar)
8. Waterwheel [Towner] 7:16
 
(C. Guitar, E. Guitar)
10. Nardis [Miles Davis] 6:18
 
(C. Guitar, E. Guitar)

[Late Show]

11. Improvisation [Towner, Abercrombie]  16:30
 
(12st. Guitar, C. Guitar, E. Guitar)
12. Avenue [Abercrombie] 5:50
 
(C. Guitar, E. Guitar)  
13. Beneath An Evening Sky [Towner] 6:03
 
(12st. Guitar, E. Guitar) 
14. Half Past Two [Towner] 7:46

 (C. Guitar, E. Guitar)
15. Caminata [Towner] 2:33
 (C. Guitar, E. Guitar) 
16. Nimbus [Towner] 7:01
 (12st. Guitar, E. Guitar)
17. Timeless [Abercrombie] 7:56
 (12st. Guitar, E. Guitar)
18. Nardis [Miles Davis] 9:46
 (C. Guitar, E. Guitar)

録音: Febuary 9 1985, New Harmony Coffee House, Canton Street, Connecticut

 

Canton Streetは、コネチカット州内陸部の都市ハートフォード(ニューヘブンの北)の町はずれにある通りで、会場のニュー・ハーモニー・コーヒー・ハウスは、資料が見つからなかったので、今はないようだ。本音源は2回のステージからなり、重複曲があるので入れ替え制だったと思われる。ほぼモノラル録音なので、音の立体感というか、奥行きに欠けている感じがするが、個々の楽器の音自体は悪くない。すべての曲間でカットが入り、コンサートの臨場感はないが、彼らのアナウンスを聴いてオーディエンスが笑う場面が多くある。そのリラックスした雰囲気は好感が持てるもので、演奏面の好調さにも反映していると思う。

1.「Improvisation」は肩慣らしの即興演奏で、ラルフが繰り出す様々なリフのパターンに、主にジョンがソロで弾きまくる。途中でラルフがギターのボディを叩いて、パーカッションのような効果を出している。12弦からクラギに持ち替えたラルフの独奏を経て、演奏は切れ目なく2.「Juggler's Etude」に移ってゆく。目がくらむような早いテーマを一糸も乱れなく弾き切る二人のプレイが実に鮮やか。3.「Beneath An Evening Sky」はお気に入りらしく、1晩で2回演奏している。4.「Ralph's Piano Waltz」は、シンプルなメロディーとコード進行をベースにイマジナティブなソロが展開され、途中で曲想が代わってラルフのミュートギター(ブリッジにマッチ箱を挟んだもの)の伴奏による 5.「Late Night Passenger」、6.「Donkey Jamboree」に続くが、最後は途中で切れてしまう。以降3曲は、彼らにとって18番のレパートリーだ。10.「Nardis」は、何度聴いても新鮮さを失わない稀有な曲ですね。

2回目のステージの11.「Improvisation」は、ジャズでは当たり前だけど、1.と全く異なる演奏内容なので、違いを対比すると面白く聴ける。演奏は切れ目なく、最初のアルバムに収録されたジョンの曲 12.「Avenue」に移る。このセットでは、2.と双璧をなすラルフの作品14.「Half Past Two」、そして限りなく耽美的な15.「Caminata」のメドレーが聴けるのがうれしい。16.「Nimbus」は、本音源のハイライト。ラルフとジョンのデュエットによる音源で、この曲が聴けるのは私が知る限りここだけで、ラルフの12弦による独奏もさることながら、テーマを弾き切って、ソロを展開するジョンのプレイが凄まじい。ただし、このトラックは間奏部分の途中で、フェイドアウト、フェイドインするところがあるのが大変残念。17.「Timeless」、18「Nardis」は、最初のステージでも演奏していた曲であるが、後者はエンディングでラルフによるミュートギターのプレイが加わっているので、その分長めの演奏時間になっている。

良い雰囲気のなかで、二人の演奏をたっぷり楽しむことができる。


Continental Club Texas (1985)  映像

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Synthesizer

1. Spirit Lake [Towner] 7:59
 (12st. Guitar) 
2. Nardis [Miles Davis]  4:30
 (C. Guitar) 
3. The Silence Of A Candle [Towner]  5:15
 (C. Guitar) 
4. Juggler's Etude [Towner] 5:52
 (C. Guitar) 
5. Hat And Cane [Towner] 3:53
 (C. Guitar) 
6. Innocenti [Towner] 3:40
 (C. Guitar) 
7. Caminata [Towner] 2:40
 (C. Guitar, Synthesizer) 

Reocrded 1985 at Continental Club, Texas


8. Nardis (With John Abercrombie) [Miles Davis] 10:21
 (C. Guitar, E. Guitar)

Recorded 1980s Unknown 

 

コンチネンタル・クラブはテキサス州にあるナイトクラブで、オースチンとヒューストンの2箇所あるが、本音源がそのどちらかは資料では定かではない。1台の固定カメラによる撮影。

1.「Spirit Lake」は、本映像唯一の12弦ギターによる演奏。この曲の演奏を観れるのは本映像のみであるが、ラルフの姿が小さめの撮影なので、物足りない感じもする。テーマの演奏は「Solo Concert」1980 R9とほぼ同じであるが、間奏のインプロヴィゼイションの内容は異なっている。2.「Nardis」は、観聴きできる音源・映像毎に間奏の内容が大きく異なるため、都度見応えがある。3.「The Silence Of A Candle」もコンサートで多く演奏される曲であるが、ラルフ一人によるものは意外と少なく、それなりに貴重なものだ。 4.「Juggler's Etude」からクローズアップになり、ラルフの姿をより大きく見ることができる。指板の上を左手が目まぐるしく動き回る難曲の映像を観れるのがうれしい。5.「Hat And Cane」の公式録音の発表はかなり後で、1994年のゲイリー・ピーコックとの共演盤「Oracle」となる。6.「Innocenti」は、ブラジル風リズムの曲で、「Les Douzilles」のようにソロの公式録音があるかなと思ったが、実際はオレゴンおよびゲイリー・バートンとのデュオのみで、ソロのライブ音源も少ない。この手のリズミックな曲を一人で演奏してしまうところが、この人の凄いところですね。曲が終わり、ラルフが横にある機材に手を伸ばすと、7.「Caminata」のイントロが流れる。これはシンセサイザーのプログラミングによるもので、それに合わせてたラルフの演奏は短いものであるが、大変印象的。

続いて観ることができた8.「Nardis」は、ジョン・アバークロンビーとのデュオで1.〜6.までとは全く無関係のものであるが、同じソースに入っていたので、一緒に紹介する。場所や時期は全く不明であるが、二人の風貌から1980年代と推定する。画質・音質ともにあまり良くないが、音ははっきり聞きとれるので、二人のインプロヴィゼイションを理屈抜きに楽しみましょう。特にジョンのプレイは親指およびピックによるピッキングの使い分けがわかるし、ソロの後半のプレイは圧倒的。いつか良質な音・画像で観てみたい!

画質も音質もイマイチであるが、他の映像で観られない曲を演っているので、捨てがたいものがある。


Hartford (1987) [With Gary Burton] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Gary Burton : Vibe

1. Nardis [Miles Davis] 5:16
 (C. Guitar, Vibe)
2. Vessell [Towner] 6:08
 (C. Guitar, Vibe) 
3. The Donkey Jamboree [Towner] 4:49
 (C. Guitar, Vibe) 
4. Beneath An Evening Sky [Towner] 7:59
 (12st. Guitar, Vibe)
5. Nimbus [Towner] 6:02
 (12st. Guitar)
6. Maelstrom [Towner] 9:05
 (C. Guitar, Vibe)
7. Yesterdays [Jerome Kern, Otto Harbach] 5:14
 (C. Guitar, Vibe) 
8. Innocenti [Towner] 6:53
 (C. Guitar, Vibe) 
9. Redial [Towner] 7:04
 (C. Guitar, Vibe)
10. Unknown Title  7:41
 (Vibe)
11. Around The Bend [Towner] 4:27
 (C.Guitar, Vibe)
12. Icarus [Towner] 5:00
 (12st. Guitar, Vibe) 

Reocrded Jun 14 1987 at Hartford, Connecticut

注: ラルフは 10. 非参加


ハートフォードは、コネチカット州中央部に位置する州都で、都市圏の人口は120万人、全米45番目の規模の都市だ。本音源は、コンサートの場所などの情報がないが、ライブハウス等の狭い空間での演奏と思われ、残響少なめの生々しい音で録音されている。曲が終わった後の拍手がカットされているため、コンサートの臨場感はないが、その分音楽に集中することができる。

1.「Nardis」はラルフの愛奏曲であるが、ゲイリーとのデュオのバージョンは珍しい。ゲイリーがこの曲の美しいコード進行をどのように料理するかが聴きものとなっているが、彼のテクニックが勝り過ぎているため、曲のもうひとつの魅力である耽美性の面は、影を潜めてしまったように思える。とはいえ、お宝音源であることに変わりはない。ただし私が聴いた音源は、何故か右チャネルとセンターで音がゆらゆら動くために、ステレオで聴く場合に不安定なサウンドになっているのが残念。2.「Vessell」のスタジオ録音(「Slide Show」 1986 R12 収録)では、間奏部分に多重録音による12弦ギターのソロが入り、ゲイリーのソロもクールなものだったが、ライブの序盤で抑え気味みではあるが、秘めた熱が籠ったプレイになっている。3.「Donkey Jamboree」のスタジオ版は、ゲイリーが木琴(マリンバ)を叩いていたが、ここではヴィブラフォン(鉄琴)による演奏。なので原曲のファンキーな感じが、よりストレートでアグレッシブなサウンドに変わっている。ゲイリー得意の疾走感ある早弾きが聴ける。ラルフは弦のブリッジに近い部分に紙マッチのケースをはさんだミュート・ギターによる演奏で、アフリカ音楽風なサウンドを出している。4.「Beneath An Evening Sky」では、ラルフの12弦ギターによるミュート気味のリフが、ダークでストイックなムードを醸し出しており、途中で切り替わる迸るようなアルペジオとの対比が鮮烈だ。ゲイリーも抑制が効いたエモーショナルなプレイ。ここでは相棒の伴奏により、ラルフが自由にソロを取ることができる点が、オレゴンにおける演奏と大きく異なる。5.「Nimbus」はラルフのソロ。彼一人によるこの曲の音源はいつくかあるが、ここでの演奏はその中でも際立ってアグレッシブなもので、エキセントリックな音選びと、繊細さと力強さのレンジの広さが凄い出来栄え。録音が良いので、通常の12弦は共鳴弦が同じ音で調弦されるのに対し、ここでの変則チューニングは一部の弦が異なる音にセットされているという異常さをはっきり認識できる。ちなみに中盤に出てくるモチーフは、後の1997年の「ANA」 R19でスタジオ録音された「Sage Brush Rider」に進化する。

6.「Maelstrom」は、「大渦巻き」、「大混乱」という意味で、ぐるぐる回るような曲調はゲイリーのプレイスタイルの本領発揮の場となっている。回転をイメージさせるラルフのアルペジオも切れ味抜群。7.「Yesterdays」は、ジェローム・カーンが1933年に書いた曲で、私的にはビリー・ホリデイの1939年コモドア・セッションが決定版だ。ここでは、ビリーの気だるい感じとは異なり、テンポを上げてからっとした明るいムードになっている。ゲイリーのソロのバックで、ラルフが4ビートのベース風の伴奏を付けたり、本音源の中では最も正統ジャズっぽい演奏。8.「Innocenti」、9「Redial」は、ブラジル音楽風のリズミカルな曲で、ゲイリーの音数の多いプレイが圧倒的。ラルフも負けじと素晴らしいソロを展開している。両者の高度な演奏力と精神的なパワーがフルに発揮された名演。10.は、ゲイリーの独奏で、スタンダードと思われるが、曲名は不明。11.「Around The Bend」も、さっぱりしたテーマの後に、両者による機関銃のようなソロの応酬がある。12.「Icarus」では、録音のせいもあるがラルフの12弦ギターの音の豊かさが圧倒的で、光をまき散らすようなゲイリーのプレイも最高。二人によるこの曲の音源は多くあるが、どれを聴いても素晴らしい。

二人によるパワフルな演奏を、一部を除き良好な録音でたっぷり聴くことができる。


Humburg (1987) [Ralph Towner] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Les Douzilles [Towner] 6:21
 (C. Guitar)
2. Spirit Lake [Towner] 6:45
 (12st. Guitar) 
3. Jamica Stopover [Towner] 4:28
 (C. Guitar) 
4. The Juggler's Etude [Towner] 5:36
 (C. Guitar)
5. Sage Brush Rider [Towner] 4:12
 (12st. Guitar)
6. Janet [Towner] 2:53
 (C. Guitar) 
7. Witchi Tai To [Jim Pepper] 4:35
 (12st. Guitar)
8. Raffish [Towner] 2:50
 (C. Guitar)
9. Nardis [Miles Davis]  5:26
 (C. Guitar) 
10. The Donkey Jamboree [Towner] 3:32
 (C. Guitar)
11. Nimbus [Towner] 3:46
 (12st. Guitar)

Reocrded December 21 1987 at Humburg


若々しい70年代、円熟味を増していく90年代以降の間にあたる、ラルフ・タウナー1987年のソロ・パフォーマンス。名盤「ソロ・コンサート」から8年、脂が乗った演奏が楽しめる。1.「Les Douzilles」の公式録音は1989年(録音は1986年)の「City Of Eyes」R13、および「45th Parallel」O17が初出であり、本コンサートの時点では未発表だったもの。ソロでの録音は1997年の「ANA」R19なので、ラルフは10年かけてじっくり磨き上げたことになる。ソロで演奏するには難物であり、ここでのプレイは完璧な出来のスタジオ録音に比べて荒っぽさ、未熟さがある。2.「Spirit Lake」はソロコンサートのバージョンと比較すると自由な気分で演奏しているようで、この曲のどこが予め決められた部分で、どこが即興演奏なのか、よく分かり大変興味深い。このコンサートでは、ラルフはクラシカルと12弦を頻繁に持ち替える。タッチや弦長の異なる楽器なので大変じゃないかなと思うのだが、40代前半という若さにはあまり関係ないのかな? 3.「Jamica Stopover」は「City Of Eyes」 1988 R13の録音で、「ひとりレゲエ」と称される傑作。どこかスティングの音楽に通じるものがある。難曲 4.「The Juggler's Etude」は、聴いているだけで目が回りそう。ジョン・アバーンクロビーとのデュエット「Five Years Later」 1982 R10に入っていた曲で、これをライブで一人で演奏するとは、本当にスゴイ事だ。5.「Sage Brush Rider」の公式録音はずっと後の「ANA」で、ソロ曲を長い間温めて、じっくり弾き込み育ててゆくラルフのやり方がわかる。「City Of Eyes」の 6.「Janet」は、レコードと比べてかなり自由なインプロヴィゼイションが楽しめる。ここには公式録音されることを意識せず、気の赴くままに表現する自由な世界がある。7.「Witchi Tai To」はオレゴンの定番曲で、ラルフのソロ演奏は珍しい。8.「Raffish」と 9.「Nardis」はメドレーで演奏される。8.も公式録音はアンディ・ミドルトンの「Nomad's Notebook」1999 D47、ソロでは「Anthem」2001 R23とずっと後で、ここでの演奏は後半のパートはまだなく、前半のテーマと簡単なインプロヴィゼイションで終わる。この曲がメドレーになっているのは、前半だけでは独立した曲として中途半端な感じだったからだろう。名曲にして名演奏の 9.「Nardis」は何時聴いてもいいねえ〜。10.「The Donkey Jamboree」は、ギターの弦のブリッジ付近に紙を挟んで、ミュートさせた音を出す。ゲイリー・バートンとのデュエット「Slide Show」 1986 R12に収められていた。このようなライブ音源では、デュエットとかグループでの演奏になっている曲のソロ演奏を楽しめるので、ファンとして有難いことだ。11.「Nimbus」は初期のころからライブで演奏される曲。

ラルフは、曲間の語りで流暢なドイツ語を話している。ウィーンでギターを修行した頃マスターしたのかな?豪華絢爛たるテクニックと強靭な精神力に満ちた力強い演奏だ。



 
Posthof, Linz, Austria (1988) [With Philip Catherine, Trilok Gurtu] 音源  
 
Ralph Towner: Classical Guitar, Piano, Synthesizer
Philip Catherine: Electric Guitar
Trilok Gurtu: Tabla, Percussion, Voice Percussion, Drums

1. Long Blue Gown [Towner] 8:23 
 (Classical Guitar, Electric Guitar, Tabla)
2. Janet [Philip Catherine] 8:01
 (Electric Guitar, Drums, Tabla)
3. Janet II [Towner] 4:26
 (Classical Guitar)
4. Eternal Desire [Philip Catherine] 11:16
 (Electric Guitar, Piano, Drums)
5. Towner/Gurtu Duo [Ralph Towner, Trilok Gurtu] 6:14
 (Synthesizer, Drums, Percussion)
6. Trilok Gurtu Solo [Trilok Gurtu] 8:09
 (Tabla, Talk, Voice Percussion)
7. Title Unknown [Philip Catherine?] 5:28
 (Electric Guitar, Piano, Synthesizer, Percussion)

Reocrded November 29 1988 at Posthof, Linz, Austria

注: 2, 6 はラルフ非参加

 

2022年、約35年前の珍しい音源を聴くことができた。うれしいですね〜

1988年11月29日は、オレゴンのアルバム「45th Parallel」 1989 O17 の録音後 2ヵ月、ラルフがソロアルバム「City Of Eyes」1989 R13のソロギター曲を録音した直後にあたる。11月終わりから12月初めにかけて、ラルフ、フィリップ・カテリーン、トリロク・グルトゥの3人が、リンツ、ギュータースロー、フランクフルト、ミュンヘン等のオーストリアとドイツの都市数カ所でコンサートを開催した。うちリンツのコンサートの一部がFMラジオ放送され、そのエアーチェックが本音源だ。会場のポストホフは、ドナウ川に面したリンツの港湾地区にある音楽コンサート会場。

フィリップ・カテリーン (1942- )は、ロンドン生まれでブリュッセル育ち。母はイギリス人で父はベルギー人だ。若い頃から才能を発揮、最初はジャンゴ・ラインハルト・スタイルのプレイで有名になった。私も、1970年にステファン・グラッペリ、ラリー・コリエル、ニールス・ペデルセンと組んで録音したアルバム「Young Django」の印象が強烈だった。その後はエレクトリック・ギターを弾いて音楽の幅を拡げ、数多くのリーダー・アルバムの製作と、様々なジャズ・ミュージシャンとの共演で、ジャズ・ギター界大物の地位を得た。

1. 「Long Blue Gown」は、「City Of Eyes」1989 R13に「Blue Gown」のタイトルで入っていたソロ曲のアンサンブル版。各人のソロなど聴きどころたくさん。長尺版のためか、曲終了後司会者が「Long Blue Gown」と紹介している。続いてラルフがドイツ語で曲名を紹介して 2.「Janet」(ラルフは非参加)が始まる。フリップの独奏から始まり、トリロクが加わる。この曲は1980年のフィリップのアルバム「Babel」に収録されていたので、次に演奏されるラルフの同名異曲よりも前にあった曲ということになる。そのためフィリップは、次に演奏されるラルフの曲を「Janet Two」と紹介している。この曲も「City Of Eyes」1989 R13で録音したての曲だ。

4.「Eternal Desire」は、フィリップが参加したフランスのサックス奏者、バルネ・ウィラン(Barney Wilen 1937-1996) のアルバム「Sanctuary」1991が初出の公式録音で、その後2013年のオムニバス盤 「Great Guitar Tunes Reference Sound Edition」に本人名義の録音が収録された。ラルフのピアノがすばらしい。彼がピアノを弾く曲が1曲増えただけでも、とてもうれしいもんだ。5.「Towner/Gurtu Solo」は、トリロクによるインドネシアのガムランのような打楽器とパーカッション、ドラムスにラルフのシンセサイザーが絡む。サウンド的には同年発表のトリロクのアルバム「Usfret」 D28に近い。

ラルフの紹介により始まる 6.「Trilok Gurtu Solo」は、トリロクがタブラについて語り、超早口のヴォイス・パーカッションを交えながら演奏する。超絶技巧の演奏のみならず、彼が話す達者なドイツ語にビックリ!最後の曲はタイトル不明であるが、靄がかかった空をゆっくり飛翔しているかのような曲想が 2,4と似通っているので、フィリップ作と思われる。

珍しいメンバーで、珍しい曲を演奏しているお宝音源。

[2022年7月作成]


Festival International De Jazz De Montreal (1989) [With Gary Burton] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Gary Burton : Vibe

1. Innocenti [Towner] 7:20
 (12st. Guitar, Vibe)
2. Continental Breakfast [Towner] 4:52
 (12st. Guitar, Vibe) 
3. Crystal Silence [Chick Corea, Neville Potter] 10:20
 (Vibe) 
4. Around The Bend [Towner] 4:00
 (C. Guitar, Vibe)
5. Icarus [Towner] 5:30
 (12st. Guitar, Vibe)

Reocrded July 3 1989 at The Spectrum, Montreal, Canada

注: ラルフは 3. 非参加


モントリオール国際ジャズフェスティバルは1980年から始まり、2004年に世界最大のイベントとしてギネス認定された。10日の間、屋外・屋内のいたる所で、多くのアーティストによる有料・無料のコンサートが開催されるという。1989年にはラルフ・タウナーとゲイリー・バートンのデュオによるコンサートがザ・スペクトラムという収容人員1,200名のホール(2007年に閉鎖され取り壊され今はない)で企画され、その模様を収録した音源が残っている。

ラルフは、ゲイリー・バートンとの共演を「発電所と演奏しているようなものだ」と表現したが、本音源を聴くと、その意味の真髄を味わうことができる。1.「Innocenti」は、1987年の共演盤 「Slide Show」R12ではクラシック・ギターとマリンバによる繊細な演奏だったが、ここでは12弦ギターとバイブによる、アタックの強いメタリックなサウンドに変貌した。ラルフのギターの切れ味が凄まじく、それに対応したゲイリーのプレイもパワフルだ。この人のプレイは、場合によってはテクニックが先に立つ傾向があるんだけど、ここでは情念と技巧が見事にバランスしている。2.「Continental Breakfast」を始める前にラルフは、この曲について「録音日の前、早朝3時に出来上がった曲」と語り、曲名の由来を紹介してオーディエンスの笑いをとっている。ここでは「Slide Show」R12のオリジナルよりも早いテンポで、演奏される。張り詰めた緊張感でビリビリする妥協のないパフォーマンスだ。3.「Crystal Silence」はゲイリー・バートンのソロ。彼とチック・コリアと共演した同名のアルバム(1974年)に収録され、同年チックがフュージョンに挑戦してブレイクスルーとなったアルバム「Return To Forever」にも収められた。10分以上にわたり展開されるヴァイブの独奏は、ゲイリーのファンには宝物になると思うが、正直言って、私のようなラルフのファンにとっては、その分二人の演奏をより沢山収めて欲しかった感がある。4.「Around The Bend」も「Slide Show」R12からで、ここではラルフはクラシック・ギターを弾いているが、疾走感溢れるプレイは変わらない。

以上、3.を除く3曲すべてが「Slide Show」R12に収録されていたが、最後の曲 5.「Icarus」のみ、最初のアルバム「Matchbook」1975 R3からだ。スタジオ、ライブを合わせると、この曲の演奏音源はかなりあるが、二人のプレイは、それらの中でも最高のものであると断言する。ラルフの12弦によるキラキラする音の壁をバックに展開されるゲイリーのヴァイブの音の洪水、これでもかと迸り出でる様は、まさに「発電所」だ。曲が終わった後でも、様々な色の音の粒が頭の中で弾け続けているような気分にさえなる。本当に物凄い音世界だ。

もっと長時間、多くの曲を聴きたい! と思ってしまう。ラルフのライブ音源の中でもベストの出来。


Enschede, Holland (1992) [With Kenny Wheeler, Gary Peacock] 音源

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Kenny Wheeler : Trumpet, Flugelhorn
Gary Peacock : Bass

1. Smatter [Wheeler] 6:57
 (Horn, 12st. Guitar, C. Guitar, Bass)
2. Janet [Towner] 4:43
 (C. Guitar) 
3. Beppo [Towner] 10:51
 (Horn, C. Guitar, Bass) 
4. Gentle Piece [Kenny Wheeler] 12:18
 (Horn, C. Guitar, Bass)
5. The Glide [Towner] 8:02
 (Horn, Piano, Bass)
6. Far Cry [Towner] 8:57
 (Horn, Piano, Bass) 
7. Nardis (Fade Out) [M. Davis] 7:25
 (Horn, C. Guitar, Bass)

Reocrded June 21 1992 at Enschude, Holland


エンスヘーデはオランダ内陸部、ドイツとの国境近くにある町で、日本では 2009年9月代表チームの国際親善試合があった場所として有名になった。そこで行われた、ラルフ、トランペット奏者ケニー・ウィーラー、ベース奏者ゲイリー・ピーコックの3者によるコンサート音源。ドラムスがない変則的な編成で、ラルフとゲイリーのデュオにケニーが加わった趣であるが、オレゴン・トリオにも共通する一種室内楽的な雰囲気もあり、個性的で面白いパフォーマンスだ。

1.「Smatter」は、ケニーのECMデビュー作「Gnu High」1975に収録されていた曲。このアルバムは当時人気絶頂のキース・ジャレットがピアニストとして参加していたために、大きな話題となり、ケニー・ウィーラーっていったい誰だろう?といった感じで、発売当時は、皆こぞって聴いたものだ。ジャズのトランペットというと、アメリカ黒人プレイヤーの情念と、白人奏者の明るさといったイメージがあったので、ヨーロッパ人(実際のところ彼はカナダ・オンタリオの生まれだけど、音楽活動は欧州が主)の青白い知性といった世界は、彼の演奏が初めてで、「こういうスタイルもあるのか」と関心した記憶がある。彼の作曲能力が十分に発揮された曲で、アンヌュイに満ちた演奏が楽しめる。ここではケニーはフリューゲル・ホーンを吹いているようだ(曲によってはトランペットとの区別がつかないので、曲のクレジットは一律「ホーン」と表示した)。ラルフはテーマでは12弦を弾くが、ケニーのソロの途中でクラギに持ち替えて伴奏を続け、ソロを取る。ゲイリーのソロのバックで弾くラルフの伴奏プレイも聴きもの。2.「Janet」はラルフのソロ。3.「Beppo」は3人のアンサンブルがとても良く、好演だと思う。ラルフの独奏から始まり、ベースが入りテーマ演奏のセカンドコーラスからケニーがメロディーを吹き、続いてソロに入るが、そのサウンドはとても新鮮に聴こえる。ゲイリーのベースソロから、かなりフリーな感じの演奏になり、最後はテーマに戻って終わる。ケニーのテーマ演奏は、柔らかくフワフワした感じの音で、いつものクールさと異なる、暖かさ・ユーモアが感じられるが良い。曲の終了後ラルフの笑い声が聴こえる。3.「Gentle Piece」はケニーの曲で、1990年の作品「Music For Large And Small Ensembles」が初出。そこでのジョン・テイラー、ピーター・アースキン、デイブ・ホランド、ノーマ・ウィンストン(ヴォイス)および大編成のブラスセクションによる演奏が素晴らしく、またブライアン・ディキンソン(ピアノ)とのデュオ「Still Water」1998 での演奏もお勧めだ。クールなメロディーとコード進行は、以前ラルフがケニーのアルバム「Deer Wan」 1978 D21で客演した「3/4 In The Afternoon」と雰囲気が良く似ており、ケニーのサウンドクリエイターの才能が遺憾なく発揮されている。5.「The Glide」はドラムスがない分、ラルフのピアノとゲイリーのベースのコンビネーションはばっちりで、音の間を生かした落ち着いた雰囲気の演奏になっている。ケニーのホーンのソロが始まると、室内楽な雰囲気を帯びてくるのが面白い。6.「Far Cry」はラルフ作によるメランコリックな曲で、オリジナル録音は「City Of Eyes」 1989 R13。7.「Nardis」は、3者によるフリー・インプロヴィゼイションから始まり、そのうち弱音器をつけたトランペットがテーマを吹いて、曲が姿を現す。ラルフがこの曲を演奏する音源は数多くあるが、ケニーのトランペットが加わった演奏は、作者がマイルス・デイビスということもあり(マイルス自身は何故かこの曲を録音していない)、格別の味わいがある。ただし、私が聴いた音源では、ベースソロが終わったところでファイドアウトしてしまうのが残念。

珍しい編成で珍しい曲を演奏している美味しい音源。


[2014年3月追記]
4曲目の曲名が判明しましたので、一部書き直しました。


 
Festival di Musica Contemporanea, Bolzano (1995) 音源 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

[1st Set]

1. Harbinger [Towner] 1:35
 (C. Guitar)
2. Les Douzilles [Towner] 8:02
 (C. Guitar)
3. Janet [Towner] 4:56
 
(C. Guitar)
4. Spirit Lake [Towner] 10:54

 (12st. Guitar)
5. Toledo [Towner] 7:13
 (C. Guitar) 
6. Tramonto [Towner] 5:39
 (C. Guitar) 
7. Witch Tai To [Jim Pepper] 5:20
 
(12st. Guitar) 
8. Veldt [Towner] 4:30
 (C. Guitar)

[2nd Set]
9. Beppo [Towner] 7:34
 (C. Guitar)
10. Mon Enfant [Anonymouse] 5:23
 
(C. Guitar)
11.
Jamica Stopover [Towner] 4:10
 (C. Guitar)
12. Nimbus [Towner] 5:19
 (12st. Guitar)
13. Nardis [Miles Davis]  6:26
 (C. Guitar) 
14. The Reluctant Bride (Imcomplete) [Towner] 1:59
 (C. Guitar)

収録: Fesival de Cotemporanea, Cosevatorio, Bolzano, Italy 1995年11月18日

 
 
ボルツァーノは、イタリア北部の都で、人は約10万人。その位置からドイツ語を話す住民も多いとのことで、同地のホームページには、両方の言語が表示されているものがある。「Fesival de Cotemporanea」は現代音楽のイベントで、同地にあるConsevatorio (ボルツァーノ音楽院、1954年創立の国際的に著名な音楽学校)の存在が背景にある。ラルフは1995年の第22回に出演した。

現代音楽のイベントで、音楽院が会場のため、いつもと異なりクラシカルな雰囲気のコンサートで、オーディエンスの反応も大人しい。そのためか、ラルフはいつもより抑え気味に、神妙に弾いているような感じがする。個々の音がきれいで、ミスタッチ、ミストーンはほとんどない。オーディエンス録音と思われるが、左チャンネルに「ブーン」というノイズが終始聞こえる。録音というよりも会場のPAの問題のように聞こえるが、ヘッドフォンか大音量のスピーカーでなければ、それほど気にならない。何故かギターの音の位置が若干右寄りなので、ノイズが気になる人は左チャンネルの音量を下げるといいかもしれない。

以下は演奏曲の初出作品。
Diary 1974 R2 : 10
Winter Light 1974 O4 : 7
Solstice : 1975 R4 : 12
Solo Concert 1980 R9 : 4, 13
City Of Eyes 1989 R13 : 3, 11
45th Pararell 1989 O17 : 2
Always, Never And Forever 1991 O18 : 9
Oracle 1994 R16 : 6
Lost And Found 1996 R18 : 1
ANA 1997 R19 : 8, 14
A Close View 1998 R20 : 5

1.「Harbinger」と2.「Les Douzilles」は、切れ目ない演奏。ここでラルフのイタリア語によるアナウンスが入る。以降のアナウンスはカットされている部分が多いようだ。4.「Spirit Lake」は、12弦ギターによる息を飲むような壮大な演奏で、聴いていて全く飽きがこない。すさまじい気力・体力だ。7.「Witch Tai To」では12弦ギターのチューニングを変えてから弾きだす。公式録音はオレゴンとしての演奏のみなので、ソロでのプレイは、ライブでのみ聴くことができる美味しいトラック。紙マッチをブリッジに挟んで弾く、アフリカン・ピアノ風の 8.「Velt」。最近(2022年)、紙マッチの生産を終了したという日本の記事を読んだが、ヨーロッパではどうかな?

セカンド・セットでは、12弦ギターによる12.「Nimbus」がハイライト。これもソロによる公式録音がない曲なのだ。よくこんなの一人で弾けるよね〜。13.「Nardis」、14「The Reluctant Bride」はアンコール。ただし後者は、演奏の途中からのフェイドインになっているのが残念。

12弦ギターによる3曲が特に凄いし、貴重。

[2022年10月作成]


Romans d'Isonzo (1996) 音源 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar

1. Harbinger [Towner] 1:36
 (C. Guitar)
2. Les Douzilles [Towner] 6:59
 (C. Guitar)
3. Tramonto [Towner] 5:39
 (C. Guitar)
4.
Beppo [Towner] 7:07
 
(C. Guitar)
5. Witch Tai To [Jim Pepper] 6:46
 (12st. Guitar) 
6. Saverio's Theme [Towner] 5:47
 (12st. Guitar) 
7. A Breath Away [Towner]  5:51
 
(C. Guitar) 
8. Spirit Lake [Towner] 7:16
 (12st. Guitar)
9
. Veldt [Towner] 3:22
 (C. Guitar)
10. Toledo [Towner] 6:29
 (C. Guitar)
11. Janet [Towner] 4:56
 (C. Guitar)
12. I Knew It Was You [Towner] 5:05
 
(C. Guitar)
13. Jamica Stopover [Towner] 4:35

 (C. Guitar) 
14. I Fall In Love Too Easily [Sammy Cahn, Jules Styne] 4:40
 
(C. Guitar)
15. Nimbus [Towner]  8:23
 (12st. Guitar) 
16. The Silence Of A Candle [Towner] 5:52

 (C. Guitar)
17. Nardis [Miles Davis]  6:40
 (C. Guitar) 

収録: Romans d'Isonzo, Italy, 1996年1月18日

 

ロマンス・ディゾンツォは、スペロニア国境に近いイタリア東部にあり、トリエステから40キロ北西、ゴリツィアから15キロ南西の所にある小さな町。同地における1994年11月5日録音のオレゴンの音源もある。

音質の良いサウンドボード録音で、特に12弦ギターのサウンドが素晴らしい。17曲も演っているので、恐らくコンサートの全貌ではないかと思われる。

各演奏曲につき、初出の公式録音は以下のとおり。

1,7: Lost And Found 1996 R18
2,11,13 : City Of Eyes  1989 R13
3: Oracle 1994 R16
4: Always, Never , And Forever 1991 O18
5: Winter Light 1974 O4
6: Un' Alyra Vita 1992 R15
8,17: Solo Concert 1980 R9
9,12: ANA 1997 R19
10 : A Closer View 1998 R20
14: Open Letter 1992 R14
15. Solstice 1975 R4
16. Icarus (Paul Winter Consort) 1972 D6

1.「Harbinger」と 2.「Les Douzilles」はメドレーによる演奏。1はイントロ的な存在で、演奏時間がスタジオ録音よりもずっと短い。当日ラルフの調子がとても良かったようで、3.「Tramonto」などテーマ演奏部分のとちりがあっても、意に介さず弾きまくっている。インプロヴィゼイションが冴えていて、フレーズが湧き出てくるかのようなパフォーマンスだ。特にラルフのソロ演奏の公式録音がない15.「Nimbus」は、録音の良さも相まって筆舌に尽くし難い素晴らしさ。

[2023年4月作成]


From the Backstage (Slovenija TV) (1996) 映像

Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Brane Rocel : Interviewer


[1st Set]

1. Les Douzilles [Towner] 7:19
 (C. Guitar)
2
. Tramonto [Towner] 4:44
 (C. Guitar)
3.
Beppo [Towner] 6:06
 (C. Guitar)
4. Janet
[Towner] 4:56
 (C. Guitar)
5. Witch Tai To [Jim Pepper] 6:12
 (12st. Guitar) 
6. Jamica Stopover [Towner] 5:02
 (C. Guitar) 
7. A Breath Away [Towner]  5:19
 
(C. Guitar) 
8. Veldt [Towner] 3:25
 (C. Guitar)

[2nd Set]
9. Toledo [Towner] 6:29
 (C. Guitar)
10. I Fall In Love Too Easily [Sammy Cahn, Jules Styne] 5:50
 
(C. Guitar)
11. Tattler [Towner] 4:12

 (C. Guitar)
12. Train Of Thought [Towner] 7:40
 (C. Guitar)
13. Silence Of A Candle [Towner] 5:43
 (C. Guitar)
14. Nardis [Miles Davis]  6:24
 (C. Guitar) 
15. Green And Golden [Towner] 6:02
 (C. Guitar)

収録: SLO2 (Slovenija TV) Studio2 1996年2月14日



2008年頃、初めてこの映像を観た時は、スロベニアのテレビ番組という情報のみで、番組名や収録日もわからず、しかも曲毎の断片となっていたために曲順もわからなかった。当時の記事に「いつか将来、正しい曲順による番組を完全な形で観てみたいものだ」と書いたが、2015年になって画質・音質はまあまあではあるが、完全な形で観ることができた。めでたし、めでたし。そのため、全面的に書き直しました。

ラルフのソロ演奏を撮影した映像は少なく、しかも、これだけまとまったものは貴重だ。イタリアの東にあるスベロニアのテレビ番組で、少人数のオーディエンスを招いたスタジオ・ライブ。当初の記事では収録日を「1994年後半から1995年前半」と推測したが、番組のエンドタイトルで1996年2月14日であることがわかった。また、2, 3, 12など今回初めて観ることができた曲、司会者によるインタビューもあり、全部で約2時間におよぶ映像(正確には1時間×2回)であることがわかった。それにしてもこの手の音楽のギターソロだけで、こんな長時間の番組を製作するスロベニアのテレビ曲は凄い!

まず司会者が現地語でアナウンスした後に、ラルフがステージに登場、約12分間の英語インタビューが始まる。内容は以下の通り。長時間のフライトと時差があるアメリカからではなく、イタリアからやって来た。1か月前から25箇所を回るコンサートツアーの最中。イタリアのパレルモに住んで4年が経ち、アメリカに帰りたいとは思わない。女性のために移住。奥様(女優のマリエラ・デル・サルト)がヘルシーな食事を作ってくれる。ソロ以外にオレゴン、ゲイリー・ピーコックやジョン・テイラー等と行う音楽活動の合間に、以前の結婚で設けた17才の娘がイタリアに来て一緒に過ごしている。若い頃にピアノ、トランペットを演奏、22才でギターを弾き始めてウィーンに留学し、クラシックギターをみっちり学んだ。帰国後はニューヨークでピアニストとしての活動(フレディ・ハバードのグループで演奏したこともあるそうだ)の他、ブラジル音楽でギターを弾いていた。ウェイン・ショーターが当時音楽仲間だった縁で、ウェザー・リポートのアルバムに参加し、ベース奏者のデイブ・ホランドの紹介でECMのマンレッド・アイヒァーに出会い、30才で初めてレコードを出すことができた。当時オレゴンはトリロク・グルトゥが抜け、トリオで活動していたが、近いうちにパーカッショニストを加える予定(名前は秘密)。現在ソロギターによるアルバム製作(「ANA」1997 R19のこと)の企画中で、本日演奏する曲には出来上がって3週間足らずのものもある(恐らく15と思われる)。なお司会者はインタビューの中で、本番組は国営放送局が教育目的で製作するものと言及している。

1.「Les Douzilles」から4.「Janet」までは、ラルフは黒いジャケットを着て演奏しいる。 2.「Les Douzilles」は、ラルフの左手が指板の上を目まぐるしく動く。右手の位置も頻繁に移動させていて、ブリッジ近くの固い音、指板近くの柔らかい音を引き分けている。2.「Tramonto」、3.「Beppo」は、今回観た完全版で初めて目にする映像で、特に2は感動的。3.の演奏の後、「この曲は子供の頃飼っていた犬の事なんだ。可哀そうなことに電車に轢かれて死んでしまったけどね」と語る。5.「Witch Tai To」からラルフは上着を脱ぎ、赤いシャツの姿で演奏を続ける。ラルフはギルドの12弦ギター、カッタウェイ・モデルを使用。この曲のソロ演奏の公式録音・映像はないため、大変見ごたえ・聴きごたえがある。ラルフが「ワンマン・レゲエ」と紹介する 6.「Jamaica Stopover」、美しいメロディーの新曲 7. 「A Breadth Away」と続く。8.「Veldt」は、弦のブリッジ付近に紙を挟んで、ミュートさせた状態で弾くパーカッシブな曲。ここではラルフは紙マッチを使っており、むき出しになった軸の部分がはっきり見えるのが面白い。なお映像では曲名が「Matchbook」と誤って表示される(出来過ぎの間違いだね!)。ここでエンドタイトルが入り番組が終了する。

同じタイトル映像から司会者が登場し、同じ構成でセカンドセットが始まる。ここでもインタビューがあり、内容は以下の通り。30分の休憩があったこと。ファーストセットでサウンドクルーに注文をつけたこと(5.「Witch Tai To」のイントロで、12弦ギターの音が気に入らず、演奏を中断して指示をした)へのお詫び。エレキギターは興味がないし、弾くつもりはない。一度だけジョン・アバークロンビーのギターをいじってみたが、彼が「あまりにひどい」と言ったので、その後は弾いていない。エレキギターの音楽はジミ・ヘンドリックス以降は面白くなったが、それ以前は退屈だった。自分はキーボード奏者でもあるので、ギターを小さなピアノとみなして弾いている。ECMからの新作「Lost And Found」 1996 R18は、カルテットでの演奏で、ソロの時とは異なったプレイになる。ECMのアルバムは、2日間で録音されるので、ほとんどライブ演奏。サウンドチェックや準備もなく、いきなる録音が始まることが多い。オレゴンは3〜4人のパーカッショニストと共演する企画があり(「Northeast Passage」 1997 O21のこと、その内の一人を一緒になれればよい(マーク・ウォーカーのこと)と思っている。

セカンドセットは、「ナポリのトレド通りにあるホテルで書いた」と言う 9.「Toledo」から。移動式のカメラ数台を使用しているため、彼の公式映像「In Concert '98 Open Strings」 R21 と比較すると、いろんなアングル、遠景とクローズアップ、シーンの切り替えが頻繁で、より変化に富んだ出来あがりになっている。スタンダード曲の 10.「I Fall In Love Too Easily」は、「これはサミー・カーンの曲で、彼はギタリストのスティーブ・カーンのお父さんです」と紹介される。11.「Tattler」は、かなり難しそうな運指がクローズアップ撮影でよく見える。ここで12弦ギターを取り上げたラルフはチューニングを変えながら、「普通は共鳴弦は、同じ音程なんだけど、異なる音でのチューニングに挑戦してみた」と話し、12.「Train Of Thought」を演奏する。即興的な部分もあるようで、アグレッシブでアヴァンギャルドな凄まじいプレイが展開される。ラルフがこの手の12弦プレイを繰り広げる映像は、大変珍しいお宝ものだ。13.「Silence Of A Candle」は、ラルフはいろんな楽器で演奏するが、ここではナイロン弦ギターでの演奏。そして「コンサート最後の曲」と14.「Nardis」を演奏。奇跡と言っても過言ではない、テーマ部分の素晴らしいアレンジの運指がバッチリ見えるので、画面に釘付けになること間違いなし!。退場後アンコールに応えて登場、「もう1曲」と言って始める15.「Green And Golden」は、落ち着いた感じの演奏で、終わるとギターをスタンドに置いて、オーディエンスにあいさつする。

ラルフのソロ演奏をたっぷり楽しめる貴重な映像。

[2015年5月追記]
完全版を観れたので、全面的に書き直しました。


I Suoni delle Dolomiti (1997) 映像

Ralph Towner : Classical Guitar

1. Les Douzilles [Towner] 5:45
 (C. Guitar)
2. Jamica Stopover [Towner] 4:07
 (C. Guitar) 

収録: 1997年7月31日 Rifugio Cauriol, Lagorai


「I Suoni delle Dolomiti」は、ドロミーティー山地で毎年行われる音楽フェスティバルで、「Suoni」は「Sound」の意味。アーティストは楽器を持ってオーディエンスと一緒に山を登り、自然の中で演奏する。そのため、出演者はクラシック、ジャズ、民族音楽などアコースティック楽器を演奏する人達となる。ドロミーティー山地は、イタリア北部のチロル地方、東アルプスにある山群で、1997年7月31日、カウリヨール山にある山小屋「Rifugio Cauriol」(標高1600メートル)にてラルフのソロコンサートが開催された。サングラスをかけたラルフは草地の上に置いた椅子に座り、日が燦燦と降り注ぐ中、1.「Les Douzilles」、2.「Jamaica Stopover」を演奏する。オーディエンスは岩場などに座って彼の周りを囲んでいる。時々赤ん坊の声が入るなど、いつもと全く異なる雰囲気が面白い。それでもラルフは、どんな状況でも演奏出来るんだぞと言わんばかりに、集中して真剣に演奏している。

素人の撮影と思われるが、いつもと全く異なる環境での演奏がユニーク。



International Jazz Festival Viersen (1997) [With Gary Peacock] 映像

Ralph Towner : Classical Guitar, 12st. Guitar
Gary Peacock : Bass

1. The Prowler [Towner] 4:54
  (C. Guitar, Bass)
2. Witch Tai To [Jim Pepper] 8:10
  (12st. Guitar, Bass)

収録: 1997年9月27〜28日, Jazz Festival Viersen, germany


1997年9月のヴィルセン・ジャズ・フェスティバルからの映像。ステージの背景には「Jazz Festival」のロゴが写っている。ヴィルセンはケルンの郊外、オランダとの国境の近くにある町で、画面上の「WDR」は、ケルンを本拠地とする公共放送のことだ。

1.「The Prowler」は、ラルフのソロアルバム「ANA」1997 R19に入っていた曲で、ゲイリーとのデュオでの公式録音はない。画面上の表示 「Flatter Step」は間違い。両者の演奏は、非常に自制が効いたクールなもの。ステージに向かって左はラルフ、右は長椅子に座りながらベースを弾くゲイリー。撮影のアングルが良く、二人が顔を見合せながら演奏するインタープレイの緊張感を生々しく感じることができる。またギターのボディの斜め下からのクローズアップは、ラルフの右手、左手の動きがはっきり捉えられていて、とても迫力があり、かつ興味深い。また二人を背後から写すカットもあり、とても変化に富んだ撮影だ。2.「Witch Tai To」も、ゲイリーとのデュオによる公式録音がないお宝映像だ。ここではラルフが12弦ギターで、和音のトレモロ奏法、ハーモニクスを多用する。そのリズム感が素晴らしく、カミソリのような切れ味がある。ラルフの12弦の演奏のなかでも最高の出来のひとつであることは間違いない。対するゲイリーのベースソロも最高。音楽のクォリティーのみならず、演奏中の二人の表情も見事に捉えられている逸品。

う〜ん、スバラシイ !!!


[2010年11月]
本映像の出所が分りましたので、内容変更しました。