Mito Geijyutsukan (2001) [Ralph Towner & Kazumi Watanabe] 音源


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
Kazumi Watanabe : Acoustic Guitar

[Part One]
1. Joyful Departure [Towner] 7:47
 (C. Guitar)
2. Anthem [Towner] 4:40
 (C. Guitar)
3. The Prowler [Towner] 5:09
 (C. Guitar)
4. Solitary Woman [Towner] 8:12
 (12st. Guitar)
5. Jamaica Stopover [Towner] 5:11
 (C. Guitar)
6. Green And Golden [Towner] 5:11
 
(C. Guitar)
6. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus] 7:16

 (12st. Guitar)
7. Tramonto [Towner] 5:12
 (C. Guitar)
8. Veldt [Towner] 2:36
 (C. Guitar)

[Part Two]
9. Renewal [Towner] 11:56 
 (C. Guitar, A. Guitar)
10. Beneath An Evening Sky [Towner] 9:15
 (12st. Guitar, A. Guitar)
11. Short 'N Stout [Towner] 6:45 
 (C. Guitar, A. Guitar)
12. Babi's Bossa [Kazumi Watanabe] 7:40
 (C. Guitar, A. Guitar)
13. Free Piece [Ralph Towner, Kazumi Watanabe] 7:24 
 (C. Guitar, A. Guitar)
14. Tango Piazzola [Astor Piazzola, Arranged by Kazumi Watanabe] 9:53 
 
(C. Guitar, A. Guitar)
15. Icarus [Towner] 6:45

 (12st. Guitar, A. Guitar)
16. Nardis [Miles Davis] 9:38
 (C. Guitar, A. Guitar)

録音: 2001年7月15日 水戸芸術館 ATMコンサートホール (14時開演)


水戸芸術館は、水戸市制100周年を記念して1990年に開館、その中にあるATMコンサートホールは収容人数620〜680人で、主にクラシックのコンサートを開催している。2001年ラルフ・タウナーの来日公演の際、1回だけ渡辺香津美とのデュオコンサートが実現した。それも都心ではなく、水戸という地方の会場だったのが不思議だったのだが、それは当時同所の音楽部門主任学芸員で、現在音楽評論家として活躍している矢澤孝樹氏が仕掛けたものらしい。本コンサートについて作成されたホームページが10年後の現在も閲覧可能で、渡辺氏のエッセイも掲載されている。渡辺氏は、若い頃ラルフ・タウナーを聴いて大きな衝撃を受け、「師匠」と呼ぶ位尊敬しているそうで、ラルフとの共演は彼にとって大変やりがいのあるものだったに違いない。彼は、前述のエッセイをこのように締めくくっている。

「今回の共演では、そんな僕の彼に対する思いのたけをぶつけてみたい。こんな曲も、あんなレパートリーも... と夢はふくらむ。また純粋な即興・インプロビゼーションによる、ひと夜限りの音宇宙が出現するかもしれない。いずれにせよ今からこれだけは言える。ラルフと一緒にプレイする前の僕とその後のワタナベカズミは、明らかにギタリストとして変化しているだろうと。2台のギターが水戸芸術館の空間で一体どんな響きを醸し出すのか。もう一人の僕を客席に座らせて聴いてみたいくらいだ。」

コンサートは2部構成で、最初はラルフのソロから。レパートリーとしては、彼の定番曲が並んでおり、演奏面で特筆する点はないが、61歳ということで、精神・体力面でまだまだ元気なパフォーマンスを見せてくれる。特に12弦ギターになると、彼が「トレーラーを運転するようなもの」と言うように相当な力が必要なはず。近年彼が12弦を弾かなくなったことにがっかりするファンも多いようだが、現在70歳を超えたラルフにそれを期待するのは酷かなと思われる。時の移ろいは厳しいものだ。

第2部からいよいよ渡辺氏が加わり、二人による演奏となる。8.「Renewal」は、ホームページには「オリジナル未確認」とあるが、1991年に発売されたオレゴンのアルバム「Always, Never, And Forever」に入っていた曲。ラルフの伴奏で、渡辺氏がテーマを弾き、そのまま間奏ソロに入ってゆく。途中でラルフのソロに切り替わるが、その中にジャンゴ・ラインハルトがよく弾いていたリックが出てくるのが面白い。最初の曲ということで、まずはクールな感じの演奏だ。二人のソロの音使いは意外なほど似ていて、ピック弾きの渡辺氏と爪弾きのラルフとのタッチの違いで見分けることができる。9.「Beneath An Evening Sky」は、ジョン・アバークロンビーとのデュエットでお馴染みの曲で、ラルフの12弦をバックにして弾く渡辺氏のプレイはメロディアスで美しい。続くラルフのソロもいつになくエモーショナルな響きがある。11.「Short 'N Stout」は、ブルージな色合いのある曲で、渡辺氏が伸び伸びとソロを展開する。1回きりの共演ということで、あまり弾き込まれていない分、一発勝負の気合と純粋さに満ちており、途中「My Favorite Things」のメロディーが飛び出すなどスリリングで、互いの間合いを計るようなインタープレイの応酬がすごい。12.「Babi's Bossa」は、渡辺氏1997年発表の小曽根真とのデュオアルバム「Dandyism」に収められた曲で、ボサノヴァのリズムをバックに、テーマのメロディーおよび最初のソロを弾くラルフのプレイが聴きもの。渡辺氏のソロは、最中に「Summer Samba」の一節で出てくるなど、遊び心もいっぱい。

ここで初めて渡辺氏の司会が入り、「一緒に演奏できて興奮しております」と語っている。13.「Free Piece」は、ラルフ恒例の事前打ち合わせなしの即興曲だ。お互いに耳と精神を研ぎ澄ましながら、音を切り込んでゆく。受けて立つ渡辺氏は、いつもはこの手の曲をやっていないはずで、ジョン・アバークロンビーほどアヴァンギャルドではないけど、かなり頑張っていると思う。14.「Tango Piazzola」は、アルゼンチン・タンゴのバンドネオン奏者アストル・ピアゾラ (1921-1992)の曲をモチーフとした演奏で、渡辺氏がニューヨークのライブハウス「ボトムライン」で録音した、1999年のライブアルバム「One For All」に収録されたラリー・コリエルとのデュエット曲「Libertango」と同じテーマだ。タンゴのリズム・旋律で弾きまくるラルフの珍しいプレイを楽しめる。ここまででかなり熱くなってきたところで、渡辺氏絶賛の名曲 15.「Icarus」が登場、12弦ギターのアルペジオが始まり、渡辺氏がメロディーを付けてゆく様は何度聴いてもゾクゾクする。最初は静かに弾き出す渡辺氏のインプロヴィゼイションは、ラルフの伴奏の高揚とともに次第に熱気を帯びてゆく。そしてラルフのソロに交代した後、静かに終わる。アンコールで演奏される 16.「Nardis」は、渡辺氏も以前から演っていた曲と思われ、息の合った熱っぽいプレイが展開される。

ラルフ・タウナーと渡辺香津美 1回きりの共演。私が聴いた音源は、会場の音響効果のせいか、深い残響音が気になるが、自然な感じともいえる。



  
Subway, Koln (2001) [With Maria Pia DeVito And John Taylor] 映像
 
Maria Pia DeVito : Vocal, Voice
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Taylor : Piano

1. Renewal [Towner] 7:28
 (Voice, C. Guitar, Piano)
2. Al Tramonto [DeVito, Towner] 6:31
 (Vocal, C. Guitar, Piano)
3. Verso [DeVito, Taylor, Towner] 6:08   
 (Voice, C.Guitar, Piano)
4. Unknown Title (John Taylor Solo) [Taylor] 7:26
  
 (Piano)
5. Scuguizzeide [DeVito, Polosud] 8:05
 (Vocal, 12st. Guitar)
6. Redial [Towner] 5:43 
 (Voice, C. Guitar)
7. Nardis [M. Davis] 8:17
 (C. Guitar, Piano)
8. Clariade [Devito, Taylor] 8:02   
 (Vocal, C. Guitar, Piano)
9. Afterthought [Taylor] 6:50   
 (Voice, Piano)
10. Jamaica Stopover [Towner] 6:51

 (C. Guitar)
11. Unknown Title  7:33   
 (Vocal, C. Guitar, Piano)
12. I Knew It Was You [Towner] 8:32
 (Voice, C. Guitar, Piano)
13. Lengue [Rocco De Rossa, Marten Congo] 9:05   
 (Voice, 12st. Guitar, Piano)
14. Celeste [Norma Winstone, Towner] 5:58   
 (Vocal, C. Guitar, Piano)

Recorded at: Subway, Koln, Germany, Feb 12, 2001

注: 4, 9はラルフ不参加

 

サブウェイはケルンのベルギー地区にあるライブハウス。インターネットにはドイツ語の資料しかないので、詳細は不明であるが、1970年創業で、ジャズクラブとして多くのライブ盤(レコード、CD)や、地元のデレビ局WDR制作の番組「Jazz Im Subway」による映像を多く残したが、2002年のリノベーションにより現在はナイトクラブ、ディスコになっているらしい。以前より音源の存在の噂を聞いていたが、2019年になって、実際は前述のテレビ番組の映像であることを初めて知った。2000年に発表したアルバム「Verso」のジョン・テイラー(1942-2015)、マリア・ピア・デヴィート(1960- )と共演したコンサートの(恐らく)全貌が捉えられている。ラルフがジョンとマリアと共演したライブ音源は、他に2003年のヴィチェンツァ・ジャズ・フェスティバル(下述)があるが、パオロ・フレスのトランペットが加わっていたので、どちらかというと1980年のアジマスの「Depart」 D24的な雰囲気があり、3人としての「Verso」のライブ音源・映像は、私が知る限り実質これのみと思われる。ライブハウスという狭い会場なので、数台のカメラによる撮影は動きが少なめ。画面は暗めで、昔のテレビの狭い画面サイズであるが、音質が大変良いので大変見応え・聴き応えがある。テレビ番組用の撮影と思われるが、観た画像の最初・最後にはタイトルや字幕はなかった。

左にラルフ、右にジョン、そして真ん中にマリアが立つセッティングで、1.「Renewal」が始まる。ラルフの独走によるイントロの後、ピアノとマリアのスキャット・ヴォイスが入る。彼女の手をひらひら動かしながら、目を閉じて歌う様は誠に魅力的。ここで驚いたのは、ジョンのピアノプレイだ。ラルフとの共演のなかで、いままで聴いたどの演奏よりも、強くクリアーなタッチで、右手のみならず左手のダイナミックな動きがしっかりとらえられているからだ。今まで右手の演奏が強い人という私の勝手な先入観は、この音源で完全に覆されたのだ。録音の良さも理由かもしれない。ジョンのスピード感あふれるプレイに煽られて、ラルフのソロもいつになくパンチが効いている。名曲 2.「Al Tramonto」は、マリアがつけたイタリア語の歌詞付きの演奏。彼女の美しい声には、美と知性の見事な調和がある。3.「Verso」は、マリアのヴォイス・パーカッションとスキャットの使い分けが圧倒的。ジョンは時折ピアノの弦を爪で弾いてオートハープのような音を出したり、弦を叩いてリズムを刻む。一方ラルフは紙を挟んでミュートさせたギターを弾く。彼が時々見せる、弦を擦ってパーカッシブな音を出す様を観ることができるのがうれしい。続いて演奏されるジョンのソロは、現代音楽的なテーマから、自由な雰囲気に満ちたインプロヴィゼイションが展開される。いつに増して活発な左手のプレイに注目。

5.「Scuguizzeide」は、ラルフの12弦ギターの伴奏でマリアがイタリア語で歌う。イントロ独奏、伴奏、および間奏ソロにおけるラルフのプレイは録音の良さもあり、スリリングで切れ味抜群。12弦ギターを自在に操り、低音弦のミュート等様々な音の使い分けの妙は観応え十分だ。6.「Redial」は、ジョンのピアノとマリアのスキャットが加わって、いつもよりアグレッシブでリズミカルだ。マリアのスキャットはスケールが大きく、インプロヴァイザーとしての並々ならぬ力量を示している。続くジョンとラルフのソロも素晴らしい出来だ。7.「Nardis」は、これまでラルフがこの曲をデュエットで演奏したパートナー(私が知るライブ音源を含む)として、ジョン・アバーンクロンビー、マーク・コープランド、ゲイリー・ピーコック、ゲイリー・バートン、渡辺香津美がいるが、ここでのジョンとの共演は、両者の力量と意気がぴったり合っていて、筆頭に挙げることができると思う。二人による共演の正式録音が残されなかったので、これはお宝音源・映像だ! 一転して 8.「Clariade」は思索的な曲で、マリアのイタリア語歌唱付き。

ジョンの作品 9.「Afterthought」は、アルバム「Verso」2000 R22では、ラルフのギターが入っていたが、ここではジョンとマリアの二人による演奏。テーマとジョンのソロの後、延々と展開されるマリアの独奏は、あらゆる声色・テクニックを駆使してボーカルの限界に挑戦しているとしか言いようがない凄まじいパフォーマンス。下述の「Vicenza Jazz Festival」では、ループ・エフェクトを使って、自分の歌声を重ね合わせる妙技を披露していたが、ここでは単独で歌い切っている。10.「Jamaica Stopover」はラルフのソロ。彼の演奏をクローズアップでじっくり鑑賞できる。次はタイトル不明で、ジョンとラルフが譜面を見ながら演奏するので、マリアの持ち歌と思われる。 マリアが「最後の曲です」とアナウンスして演奏される12.「I Knew It Was You」は、即興演奏風でマリアが披露する超速調のヴォイス・パーカッションが聴きもの。トリロク・グルトゥがオレゴンで演っていたのと双璧だ。

ここでカットが入りアンコールとなる。私が観たソースでは「Verso」という曲名になっていたが、正しくは、マリアのアルバム「Nel Respiro」2002 D48に収録された「Lengue」という曲だ。アルバム「Verso」R22の発表は2000年なので、この曲は同アルバムのために用意されたが、未収録になったものかもしれない。ジョンがピアノの弦を手で叩きながら時々爪弾き、ラルフは12弦を弾きながらボディーを叩き、マリアはスキャットとヴォイス・パーカッションでカラフルな世界を紡いでゆく。そして2曲目のアンコールは14.「Celeste」。ラルフの名曲にノーマ・ウィンストンが歌詞をつけてカバーしたもので、彼女のアルバム「Somewhere Called Home」1986に収録された。ラルフが伴奏を付けた正式録音はなく、ノーマがラルフと共演した「Boudless Festival, Murnau」の音源のみで、しかもマリアがノーマの曲をカバーしてラルフと一緒に演奏する、さらにジョンがピアノを弾くため、ラルフはギターを手にしているという大変珍しい音源となった。そういう意味でファン狂喜のトラックと言えよう。

3人による「Verso」のライブ演奏をほぼ完璧に捉えており、録音、映像ともに最高のおすすめ版!

[2019年10月作成]


Vicenza Jazz Festival, Roma (2003) [With De Vito, Taylor And Fresu] 音源
 
Maria Pia DeVito : Vocal, Voice
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar
John Taylor : Piano
Paolo Fresu : Trumpet

1. Redial [Towner] 8:11
 (Voice, C. Guitar, Piano)
2. Chiara [DeVito, Towner] 9:51
 (Vocal, C. Guitar, Piano, Trumpet)
3. Improvisation [DeVito, Taylor, Towner, Fresu] 10:21   
 (Voice, 12st. Guitar, Piano, Trumpet)
4. Afterthought [Taylor] 9:58
  
 (Voice, Piano, Synt. Guitar, Trumpet)
5. Nova Luce [DeVito, Taylor] 8:09
 (Vocal, 12st. Guitar, Piano, Trumpet)
6. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus, Joni Michell] 7:03 
 (Vocal, 12st. Guitar)
7. Dark [Towner] 13:51
 (Voice, Synt. Guitar, Piano, Trumpet)

Recorded at : Vicenza Jazz Festival, May 19, 2003


ヴィチェンツァは、イタリア北部のヴェニスとヴェローナの間に位置する街で、毎年春にジャズ・フェスティバルが開催されている。2003年のフェスティバルで、2000年に発表されたアルバム「Verso」R22の3人に、トランペットのパオロ・フレスを加えた4人で参加した音源を聴くことができた。

ラルフのクラギの独奏から始まる 1.「Redial」は、マリア・デ・ヴィトーのスキャットが軽快。完璧なリズム感とヴォイス・コントロールでぐいぐい引っ張ってゆく。ブラジルの広大な草原の中を風にまかせて疾走しているような爽快感がある演奏だ。ラルフのギターソロも、いつもよりドライブがかかっているように思えるし、ジョン・テイラーの単音中心のピアノソロも切れ込むような鋭さがある。相手がソロを展開している時の両者の伴奏プレイも聴きもので、「Verso」R22のスタジオ録音を凌ぐ出来だ。2.「Chiara」は、オレゴンのアルバム「Northeast Passage」1997 O21 の「Claridade」に、マリアがイタリア語の歌詞をつけたもので、1996年のマリア・ジョアンの「Fabula」 D45でポルトガル語の歌詞で歌われているバージョンがある。彼女の声は、聴く者に生理的快感を与えさせるもので、まさに「ディーヴァ」と呼ぶに相応しい。「Verso」R22の録音ではクラギとピアノだけだったのに対し、ここではパオロ・フレスが弱音器を付けたトランペットでソロを入れる。彼の音色は、イタリア人的な明るさというよりもヨーロッパ人らしいメランコリックな響きがあり、この手の曲調にピッタリだ。ラルフが彼との共演アルバム「Chiaroscuro」R26を発表したのは2009年なので、本音源はその6年前ということになる。3.「Improvisation」は、4者のインタープレイによる即興曲。ジョンは現代音楽のプリペアド・ピアノと呼ばれる方法で、ピアノの弦をミュートしたり、弦を手で引っ掻いたりして音を出し、ラルフは12弦ギターで歯切れの良い音を入れる。マリアは、ハミング、スキャット、ヴォイス・パーカッションを使い分け、そこにパオロのトラッペットが絡む。後半でのトランペットは二つの音でハモっており、何だかのエフェクターを効かせているものと思われる。4.「Afterthought」は、間奏ではマリアが独奏で、ヴォイス・パーカッションであらゆる声色を出し、それらをループさせて積み重ね、それをバックにスキャットでソロを展開するのが圧巻で、人間の声の限界に挑戦しているようだ。途中からハーモニー・エフェクトをかけたパオロのトランペットが入る。ラルフは、この曲では表立ってプレイしていないが、後半で背景に流れる和音は、彼のシンセギターと推定される。

5.「Nova Luce」は、不協和音が入ったピアノの独奏に、トランペットとギターが加わり、マリアが英語の短い言葉を載せて歌い、それからスキャットでソロを取るが、聴く者に不安感を与えるような前衛的な曲調だ。6.「Goodbye Porkpie Hat」は、ラルフの12弦ギターによる独奏のレパートリーであるが、ここではマリアが、ジョニ・ミッチェルが1979年のアルバム「Mingus」のために書いた歌詞で歌を入れている。ラルフとジョニの音楽がコラボしたお宝音源だ!ちなみにマリアは後の2005年にジョニの曲を多く収めたアルバム「So Right」を発表しているが、そこには何故かこの曲は収録されていない。7.「Dark」は、「Verso」R22発表の後に加わったらしく、このメンバーによるこの曲の演奏はライブでしか聴くことができず、貴重な音源だ。ラルフのシンセギターをバックにマリア、ジョン、パオロが自由な境地でソロをとっており、ラルフの独奏パートも冴えがあって素晴らしい出来だと思う。

このメンバーによる音源をもっと聴きたい!

 
Monterey Jazz Festival (2003) [Ralph Towner & Friends] 音源 
 
Ralph Towner: Classical Guitar, Synthesizer (
Gary Burton: Vibraphone
Paul McCandless: Oboe, Soprano Sax 
Glenn Moore: Bass
Mark Walker: Drums, Percussion

The Monterey Jazz Festival Chamber Orchestra
Ray Brown: Conductor
Susan Brown: Violin, Musical Director

1. Nardis [Miles Davis]  5:05
(C. Guitar, Vibraphone)
2. Yesterdays [Jerome Kern, Otto Harbach] 6:03
(C. Guitar, Vibraphone) 
3. Monterey Suite - Part 1 (Dark)  9:05
(Vibraphone, Synthesizer, Soprano Sax, Bass, Drums, Percussion, Orchestra)
4. Monterey Suite - Part 2 (Tammuriata) 13:35
(C. Guitar, Vibraphone, Oboe, Bass, Drums, Percussion, Orchestra)
5. Monterey Suite - Part 3 (Mountain King) 6:06
(Vibraphone, Synthesizer, Oboe, Bass, Drums, Orchestra)

The 46th Annual Monterey Jazz Festival, Jimmy Lyons Stage, September 20, 2003


オレゴンのアルバム「Prime」2005 O26の記事で、「Monterey Suiteは、2003年モントルー・ジャズ・フェスティバル運営者からの委嘱によりラルフが作曲し、9月20日の土曜日、オレゴン、モンタレー・ジャズ・フェスティバル・チェンバー・オーケストラに、ソリストとしてヴァイブ奏者のゲイリー・バートンを招いて演奏された」と書いたが、長い間耳にすることはなかった。そして約20年後の2022年11月、良質のFM放送音源を聴くことができた。うれしい!音源はフェスティバルの芸術監督であるティム・ジャクソンのスピーチから始まる。フェスティバルは、毎年アーティストに作曲を依頼して特別な演奏を行うことをハイライトとしていて、2003年はラルフがその任を担ったとのこと。

演奏はラルフとゲイリーのデュオから始まる 。1.「Nardis」は、二人の演奏による公式録音がないので、大変美味しいトラック。二人の音楽性にピッタリの曲で、名曲・名演奏の「Icarus」と並ぶ出来だと思う。2曲目は、資料には「Invitation」(ゲイリーのアルバム「Six Pack」1992 D32 収録)とあったが誤りで、正しくはジェローム・カーン作曲、ビリー・ホリデイの歌唱で名高い「Yesterdays」だ。これも公式録音無しで、演奏はもちろん最高!

曲終了後、オーケストラが音だしを始め、ラルフが関係者への賛辞を述べる。そこで言及された指揮者レイ・ブラウンは、スタン・ケントン楽団のリード・トランペット奏者を務め、その後はベイエリアでビッグバンドの指揮者やジャズ教育に携わっている人。なおコンサートの終わりでティム・ジャクソンが紹介するスーザン・ブラウン(指揮者の奥様)は、モンタレー・ジャズ・フェスティバル・チェンバー・オーケストラのバイオリン奏者・音楽監督で、本曲のオーケストラ・アレンジを担当したらしい。

ラルフのシンセサイザー(おそらくシンセ・ギター)とオーケストラを背景に、ゲイリーのヴァイブとポールのソプラノサックスが 3.「Dark」のテーマを分け合って演奏する。ソロはゲイリー。4.「Tammuriata」は、管楽器の短いイントロと、ラルフによる眼も覚めるようなクラギの独奏からスタートし、テーマはストリングスが奏でる。ソロはゲイリーのヴァイブとポールのオーボエ。その後マークによるパーカッションの長い独奏が入り、ほぼ切れ目なく 5.「Moutain King」に移ってゆく。祝祭的なムードの曲で、シンセサイザーをバックにヴァイブとオーボエ、オーケストラが急速調で目まぐるしく交錯し、大いに盛り上がって終わる。ラルフの作曲能力の素晴らしさがフルに発揮された作品だ。

長い間聴くことができなかった音源に会えたこと、そしてラルフ・タウナー、オレゴンとオーケストラの共演音源がもうひとつ増えた喜びは、筆舌に尽くし難いものがありますな〜

[2022年11月作成]


Cities & Island (2005) [With Paolo Soriani] 映像 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, Synth. Guitar, 12st. Guitar

1. Cities [Towner] (断片)
 (C. Guitar, Synth. Guitar, 12st. Guitar)
2. Island [Towner] (断片)
 (C. Guitar, Synth. Guitar)

撮影: 2005年 Teatro Verdi, Temi Italy

3. Interview (Open Door) [Towner] (断片)
 (Piano)

撮影: 2006年10月20日  Ralph's Studio, Roma

 
 
写真家のパオロ・ソリアニはラルフの友人で、オレゴンの「Prime」や「1000 Kilometers」、ラルフの「Time Line」のアルバム写真を撮影した人だ。2005年、彼が撮影した映像にラルフが即興演奏で音楽を付ける「Cirties & Island」というタイトルのコンサートが開催された。その一部につき、8分40秒のダイジェスト映像を観ることができた。ステージの向かって右でラルフが演奏、真ん中にスクリーンがある。最初は、クラシック・ギターによる演奏で、花の画像をバックに詩の字幕が流れる。次に「Cities」という字幕の後、街を歩く人々の映像をバックにラルフが12弦ギターを弾く。特殊なチューニングらしく、他にない不思議な感じの音を出している。次に車中からの景色を抽象画のようにデフォルメした画像が流れ、ラルフがシンセ・ギターを弾く。さらにパオロが撮影するラルフの演奏模様を前衛的に加工した画像にラルフがクラギの音を付ける。「Island」の字幕の後、シンセギターの演奏の背景には蝋燭、クラギには水面のシーンが映し出される。

また2006年10月20日、ローマにあるラルフのスタジオで撮影されたインタビューは、ラルフとパオロが交互に登場して語っている。面白いのは、その合間にラルフがスタジオのアップライト・ピアノに向かって、「Open Door」をソロで弾く場面が写り、その演奏はインタビューのシーンでもバックグラウンド・ミュージックとして流れ続けるのだ。インタビュアーと会話をしながら、間違えてもお構いなしに(間違えたときに「あ〜」と声をあげ、ライブの時と同じ癖が出るのが傑作)、自由気ままに弾きまくる様がいつになく内輪な感じで、普段耳にすることがない音楽がある。インタビューでは、彼の作品は常に自己のエモーション、フィーリングによるもので、標題音楽ではなく、タイトルも曲が出来た後や録音した後に付けると語っているのが興味深い。そのため、本プロジェクトのように映像があって、そのイメージに合わせて演奏するのは難しいが、そういう制限(Limitation)が芸術を生み出す要素になるものと話している。

資料によると、本コンサートの模様はDVDで発売されるとのことだったが、私が知る限り、公式発売された記録はない。


 
Badia di San Gemolo, Ganna, Italy (2006) 音源 





 

Ralph Towner : Classical Guitar, 12st. Guitar

1. If [Towner] 6:01
 (C. Guitar)
2. Always By Your Side [Towner] 2:47
 (C. Guitar)
3. Come Rain Or Come Shine [Harold Arlen] 6:14   
 (C. Guitar)
4. Solitary Woman [Towner] 9:02
 (12st. Guitar)
5. Jamaica Stopover [Towner] 5:36
 (C. Guitar)
6. Tramonto [Towner] 4:30
 (C. Guitar)
7. The Lizards Of Eraclea [Towner] 4:02
 (C. Guitar)
8. Green And Golden [Towner] 5:06
 (C. Guitar)
9. Valdt [Towner] 3:49
 (C. Guitar)
10. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus] 7:08
 (12st. Guitar)
11. Toledo [Towner] 7:10
 (C. Guitar)
12. Anniversary Song [Towner] 2:14
 (C. Guitar)
13. Nardis [Miles Davis] 10:33
 (C. Guitar)
14. My Man's Gone Now [George Gershuwin] 5:22
 (12st. Guitar)

July 2, 2006 Badia di San Gemolo, Ganna, Italy

 

バディア・ディ・サン・ジェモロは、ミラノの北西、スイスとの国境近くにある村ガンナにある古い修道院(「Badia」はイタリア語の「修道院」) で、ラルフのコンサートはその礼拝堂で行われた。

司会者のお喋りが約9分間続くのは、イタリアらしいところ。1.「If」は少し長めの独奏から。スピーカーのすぐ前にマイクを置いたとのことで、音質の良いオーディエンス録音であるが、雑音が聞こえる。マイクが擦れる音が時々入るのと、常に聞こえるのは鳥の囀り声のような音で、4.の途中で何故か鳴り止む。4.「Solitary Woman」の約9分におよぶ緊張感溢れるプレイはいつもながらスゴイ!曲が終わった後の拍手も長め。ギターの音が、礼拝堂の自然な残響効果によって、とても美しく捉えられている。ここで入るラルフのアナウンスはイタリア語。クラシック・ギターによるお馴染みの曲が続くが、私が聞いた音源では、8曲目と9曲目の曲名が逆になっていた(上述の曲目が正しい)。10.「Goodbye Porkpie Hat」は最高!とコメントするのは、彼の12弦ギター演奏が大好きな私の個人的嗜好から。でも彼は、2010年代以降コンサートで12弦を弾かなくなるので、それ以前の音源でその独創的なプレイを聴くと、毎回感動してしまうのだ。14.「My Man's Gone Now」も同じ。13.「Nardis」の最初の3分間は前奏曲になるが、曲として完成度が高い。「Anthem」2001 R23の「Very Late」、「Time Line」2006 R24の「The Pendant」によく似ているが、微妙に違うのが面白い。

2006年ということで、同年発売された「Time Line」R24 からの曲を多く演っている。

[2023年1月作成]


Trieste Le Nuove Rotte Del Jazz (2007) 映像  
 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12st. Guitar

1. Catching Up [Towner] 6:10
 (C. Guitar)
2. Toledo [Towner] 6:40
 (C. Guitar)
3. Always By Your Side [Towner] 3:23   
 (C. Guitar)
4. Come Rain Or Come Shine [Harold Arlen] 5:17
  
 (C. Guitar)
5. Solitary Woman [Towner] 8:00
 (12st. Guitar)
6. Veldt [Towner] 3:19   
 (C. Guitar)
7. Tramonto [Towner] 4:25   
 (C. Guitar)
8. The Lizards Of Eraclea [Towner] 4:23   
 (C. Guitar)
9. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus] 5:49 
 (12st. Guitar)
10. Green And Golden [Towner] 5:09
 (C.Guitar)
11. Oleander Etude [Towner] 1:59   
 (C. Guitar)
12. Nardis [Miles Davis] 5:32   
 (C. Guitar)
13. Jamaica Stopover [Towner] 5:08   
 (C. Guitar)
14. The Reluctant Bride [Towner] 4:37   
 (C. Guitar)

撮影: 2007年5月16日 Teatro Verdi, Muggia, Italy

 

トリエステ自治県は、イタリア北東部のスロベニアとの国境近くにある。「Trieste Le Nuove Rotta Del Jazz」は「ジャズの新しい道筋」という意味で、毎年同地でジャズ・フェスティバルは開催されている。ラルフが2007年に出演した際の映像が残っている。会場の「Teatro Verdi」は、アドリア海に面した小さな港町ムッジャにある、1923年建立、232席の小さくて古いホールだ。

ラルフは襟のない横縞のシャツというラフな恰好で、彼にのみスポットライトが当てられ、背景は真っ暗、たまにカメラが引いて、ステージ背後に架けられた「Trieste Le Nuove Rotta Del Jaz 07」という垂れ幕が見える。カメラは正面と向かって左上からの2台で、シンプルな撮影・編集で、画質・音質は良い。曲目紹介などのアナウンスを除き、曲間はカットされているが、楽器の持ち替え、チューニングなどの時間を割愛することで、間延びなく、より音楽に専念できるメリットがあると考えることもできる。

ソロアルバム「Time Line」 2006 R24 の頃なので、同アルバムからの曲が多い。最初の曲 1.「Catching Up」では、慣れないせいかミスタッチが随所にあるが、2.「Toledo」からは落ち着いたようで、早くも圧倒的なプレイを見せてくれる。ラルフによる曲紹介アナウンスはすべてイタリア語だ。12弦ギターに持ち替えて演奏される 5.「Solitary Woman」は、12弦ギターの特性をフルに生かしたプレイ。最後のテーマ演奏部分で、音をはずす部分があり、ミスのように見せるが、他のライブでも同様の事をしているため、「破綻」を表現するための意図的な音使いのようだ。6.「Veldt」を演奏する前に、音をミュートさせるため、ブックマッチの紙をギターのブリッジ付近に差し込む仕草を見ることができる。

7.「Tramonto」の美しさは最高! 8.「Lizzards Of Eraclea」、11.「Oleander Etude」の運指は物凄く難しそう。9.「Goodbkye Pork Pie Hat」の切れ味は抜群で、12弦の深い共鳴音の醍醐味を味わえる。何度聴いても惚れ惚れする 12.「Nardis」が終わり、ラルフは退場。アンコールは 13.「Jamaica Stop Over」、14.「Relactant Bride」だ。

最後のクレジットでは、フェスティバル名、会場名、開催日と撮影者の表示のみで、製作会社の表示がなかったので、本映像がどのように公開・放送されたかは不明。

[2022年5月作成]


 
Uppsala International Guitar Festival (2009) 音源・映像  
 


Ralph Towner : Classical Guitar, 12st. Guitar

[Concert]
1. Catching Up [Towner] 6:56
 (C. Guitar)
2. Toledo [Towner] 7:32
 (C. Guitar)
3. Jamaica Stopover [Towner] 5:08
 (C. Guitar)
4. Solitary Woman [Towner] 8:00
  
 (12st. Guitar)
5. Wistful Thinking [Towner] 1:48 
 (C. Guitar)
6. Nardis [Miles Davis] 6:10   
 (C. Guitar)
7. Green And Golden [Towner] 5:30  
 (C. Guitar)
8. The Lizards Of Eraclea [Towner] 4:59   
 (C. Guitar)
9. Goodbye Porkpie Hat [Charles Mingus] 7:36 
 (12st. Guitar)
10. Tramonto [Towner] 6:28
 (C.Guitar)
11. In Stride [Towner] 7:36   
 (C. Guitar)
12. The Reluctant Bride [Towner] 4:50   
 (C. Guitar)

October 15, 2009 Uppsala Konsert & Kongress, Stora Salen, Uppsala, Sweden


[Workshop]
13. If [Towner] 6:59     
 (C. Guitar)
14. Tramonto [Towner] 4:54   
 (C. Guitar)
15. Jamaica Stopover [Towner] 6:43   
 (C. Guitar)
16. Always By Your Side [Towner] 3:56
 (C. Guitar)

October 16, 2009 Uppsala Konsert & Kongress, Sal B, Uppasala, Sweden


ウプサラは、ストックホルムの北約70キロにある人口約20万の都市。ウプサラ・インターナショナル・ギター・フェスティバルは 2003年から始まり、2009年は10月14〜17日の3日間開催され、ラルフが15日のコンサート、16日のワークショップに出演した。

[10月15日のコンサート]
15日のコンサートは、収容人員1,140名のメインホールで行われた。その模様は地元のラジオ局P2により9月30日に放送され、その後もしばらくの間、同局のサイトから聴くことが可能だった。ラジオ局のアナウンサーによる紹介の後、1.「Catching Up」が始まる。音質はとてもよく、ノイズのないクリーンな音で、まるで彼が目の前で弾いているかのようだ。2.「Toledo」で、ラルフは、ナポリで曲を書いたホテルの名前を曲名にしたと紹介している。コンサート全般において、彼は心身ともに調子が良かったようで、切れ味鋭いプレイに終始し、美しいテーマと、泉のように湧き出るインプロヴィゼイションを聴いていると、その圧倒的な世界に引き込まれるような魅力に溢れている。12弦ギターの曲 4.「Solitary Woman」では、テーマ演奏部分で、少しミストーンがあり、ラルフが「ああっ」と叫んでいる。短い 5.「Wistful Thinking」の後、ほぼ切れ目なく 6.「Nardis」に移ってゆき、その後休憩が入る。

後半では、6.「Goodbye Pork Pie Hat」のインプロヴィゼイション部分でミストーンを起こしたときに、彼は「ウワー」と呻いている。ファンとしては、彼がトチル際に見せる反応を見聞きするのが楽しいんだよね〜10.「Tramonto」の最初の1分50秒には、スタジオ録音にないイントロが付いている。11.「In Stride」の前にラルフは「これで最後の曲です」と言ったが、曲が終わった後の拍手がなり止まず、アンコールで、12.「The Reluctant Bride」を弾いて終わりとなる。

なお、上記の音源とは別に、1, 2, 3, 4, 7, 8, 9, 11, 12につき、オーディエンス・ショットによる映像も観ることができた。


[10月16日のワークショップ]
一部の曲につき、オーディエンス撮影による映像を観ることができた。画質は悪いが、音楽として楽しむには十分な音質。メインホールと同じ建物内にある収容人員340人の小ホール、Sal Bで行われたもので、コンサートよりは幾分リラックスした雰囲気だ。一部しか観ていないので、はっきりと言い切れないが、ラルフがより詳細な曲紹介をしているようだ。

また13.「IF」や、16.「Always By Your Side」など、コンサートで演らなかった曲を弾いている。観た映像では、15.「Jamaica Stopover」の紹介で、レゲエの曲をやるにあたり、ドラムスとベースのプレイヤーを意識して、それにジャズピアノが入るバンドサウンドをイメージしたと話している。

ソロギターの演奏の最中に、観客による大きな咳の音が数回入るのが、この手のライブでは珍しい。

高音質の音源および、一部の曲については映像で、非常に充実したソロ演奏を、楽しめる。

[2022年10月作成]


Auditorium, Roma (2010) [Ralph Towner & Javier Girotto] 映像
 
Ralph Towner : Classical Guitar, Baritone Guitar
Javier Girotto : Soprano Sax, Moxeno Flute

1. Summer's End [Towner] 8:26
 (C. Guitar, Soprano Sax)
2. The Sacred Place [Towner] 8:17
 (Baritone Guitar, Moxeno Flute)

撮影: 2010年1月25日 Auditorium, Roma, Italy


ハビエル・ジロット(1965- )はアルゼンチンのコルドバ生まれで、子供の頃はクラリネットを吹いていたが、ジャズを志してサックスに転向、ブエノスアイレスで行われたバークリー音楽院のセミナーに参加する。プロになったのは、イタリアに渡ってからで、1995年にレコードデビュー。ソプラノ・サックスを得意とし、同国に帰化して活動を続けている。彼とラルフがローマで行ったデュオ・コンサートの模様を撮影したプロショットが本映像だ。テレビ番組「Note de Paso」(「その他 映像音源」参照)におけるハビエルのインタビューによると、本コンサートが、初めてのステージだったそうだ。私は2曲観ることができたが、いずれも近年パウロ・フレスとふたりで演奏しているレパートリーで、ここでは異なる楽器によるコラボレイションを楽しむことができる。

1.「Summer's End」は、「Lost And Found」1996 R18が初演の曲で、美しいメロディーをもつボサノバ風の曲。オレゴンの2010年の新作「In Stride」に収録されたほか、公式録音はないがパオロ・フレスとのコンサートで演奏していた。ここでのハビエルのソプラノ・サックスは、技巧を抑えて、ひとつひとつの音を丁寧に吟味しながら吹いている。クールでありながら、内に秘めた感情が伝わってくるプレイは本当に素晴らしく、心の奥底に響くものがある。続くラルフのギターソロもリズムを取りながらの巧みなプレイで、この曲のベスト・パフォーマンスといえよう。2.「The Sacred Place」は、ラルフによるバリトン・ギターの独奏の後、テーマとなり、ハビエルがモセーニョと呼ばれる木製の太い笛を吹く。その低い音は尺八あるいは、南米音楽のパンフルートのようだ。途中ジャビールが笛でリズムを担当し、ラルフがソロを展開する場面もある。いずれも8分という演奏時間を全く感じさせない好演。

新聞記事では、その他の曲として、「Claridade」、「The Bactrian」、「Chiaroscuro」、「Anthem」、「Blue in Green」などを演奏したというが、それらも是非聴いて(観て)みたいものだ。

[2012年9月追記]
二人の共演は好評だったようだ。その後2012年6月8日のドイツのコンサートで、当初共演予定のパオロ・フレスが肺炎のため演奏不能となったため、代役として急遽ジャヴィールが参加したという。また2012年11月下旬にはウルグアイとジャビールの出身国アルゼンチンで二人のコンサートが予定されている。

[2022年10月追記]
2012年6月・11月の二人の共演の音源・動画記事を投稿した際、一部内容を書き改めました。


Time In Jazz, Berchidda, Italy (2010) [Ralph Towner] 映像

Ralph Towner : Classical Guitar, Baritone Guitar

1. In Stride [Towner] 4:04
 (C. Guitar)
2. Always By Your Side [Towner] 2:32
 (C. Guitar)
3. The Sacred Place [Towner] 5:19
 (C. Guitar)

撮影: 2010年8月12日 Parco Eolico Nell'ambto, Tula, Italy  

 
Time In Jazz は、イタリアのトランペット奏者パオロ・フレスが発起人となり、自分の故郷であるイタリア・サルディーニャ島のベルキッダ(Berchidda)で毎年開催される国際ジャズ・フェスティバルで、第23回目の2010年は「Aria (空気)」がテーマとなり、オーネット・コールマン、エンリコ・ラヴァ、ラルフ・タウナー等の著名ミュージシャンが参加した。ベルキッダは、いつもは畜産とワインを主な産業とする人口3000人の小さな地域であるが、この時は世界から熱心なジャズファンが集まり、大賑わいになるという。

ラルフは、パオロ・フレスとのデュオでなく、ソロ・コンサートを行ったようだ。ベルキッダ内にある小さな村トゥーラの公園というオープン・スペースでの演奏で、開演時間が18:00とあったが、映像を観る限りまだ十分に明るい。背景には風力発電用の巨大な風車が写っている。

1.「In Stride」は、ラルフが、ウルフギャング・ムースピール、スラヴァ・グリゴリアンと共演したギター・トリオMGTの「From A Dream」 2006 R25に収められた曲で、2010年秋に発売されるオレゴン結成40周年記念アルバムのタイトル曲にもなった。ここではギター1台での演奏で、途中少し苦しそうな難しいパートもあるが、このような曲をギターソロで演奏すること自体が驚異的で、見応え・聴き応え十分だ。2.「Always By Your Side」は、2008年のソロアルバム「Time Line」 R24 からの曲で、ビル・エバンスを思わせる思索的、理知的な雰囲気のスロー・テンポの曲。3.「The Sacred Place」は、2009年にパオロ・フレスとのデュエットで製作したアルバム「Chiaroscuro」R27に入っていた曲で、ラルフはボディが大きなバリトン・ギターを弾く。シンプルな曲想のなかに、重厚感が漂う演奏で、途中コードを間違えるミスや、チューニングを直したりする場面もあるが、細かい事はお構いなしに弾き切っている。

彼は、1940年3月1日生まれなので、このコンサートの時は70歳ということになる。テクニックや体力の衰えがあるのは、当然と思われるので、そんなことは気にせず、彼のパフォーマンスを存分に楽しみましょう!

その他、イタリアのテレビ局「RAI 3」の放送映像では、運転中の車の中でのパオロ・フレスの独白の合間に、上記コンサートから「Jamaica Stopover」、ラルフとパオロのデュオ・コンサート(上記とは別の屋内での公演)から、「Chiaroscuro」の一部分を観ることができる。
 


BBC Jazz On 3 (2011) [With Poalo Fresu] 音源 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, Baritone Guitar
Paolo Fresu : Trumpet, Flugelhorn

1. Summer's End [Towner] 7:03  
 
(Flugelhorn, C. Guitar)
2. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans] 4:44 
 (Trumpet, C. Guitar)
3. Droubled Up [Towner] 4:56
 (Trumpet, Baritone Guitar)
4. As She Sleeps [Towner] 6:39   
 (Trumpet, C. Guitar)

放送: 2011年3月7日 BBC Radio3 「Jazz On 3」, Somethin' Else Studios, London, UK

 

BBCラジオ3の番組「Jazz On 3」にパオロ・フレスと出演。前半はインタビュー、後半はライブ演奏の構成。ホストによる紹介の後、インタビューが始まる。パオロの音楽に出身地のサルジニアを感じることについて。トランペットとギターのデュオに取り組んだ理由。ラルフは、ピアノのように演奏し、マイルス・デイビス、チェット・ベイカーを意識していると答えている。バリトン・ギターについて、通常よりも5度低いチューニングとのこと。演奏曲にの紹介。

演奏は、オーディエンスのいないスタジオで、ラルフによる 3.「Doubled Up」の曲名紹介以外、曲間の語りなどなしに行われる。BBC放送なので音質は最高。小さなスタジオでの録音ということで、二人が目の前で個人的にプレイしてくれているような音だ。時間制限があるため、各曲はいつものライブよりもコンパクトになっている。

小さなスタジオにおける、プライベートな雰囲気でのこじんまりとしたライブ。良い音で楽しめる。

[2023年2月作成]


Barmini Ralph Towner e Paolo Fresu In Concerto (2011) [With Poalo Fresu] 映像 
 
Ralph Towner : Classical Guitar, Baritone Guitar
Paolo Fresu : Trumpet, Flugelhorn

1. Punta Giara [Towner] 7:10  
 (Flugelhorn, C. Guitar)
2. Wistful Thinking [Towner] 3:25   
 (Trumpet, C. Guitar)
3. Droubled Up [Towner] 7:15
 (Trumpet, Baritone Guitar)
4. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans] 8:16 
 (Trumpet, C. Guitar)
5. Chiaroscuro [Towner] 8:34   
 (Flugelhorn, C. Guitar)
6. Zephyr [Towner]  8:56  
 
(Flugelhorn, C. Guitar)
7. Beautiful Love [Haven Gillespie, Wayne King, Victor Young, Egbert Van Alstyne] 6:24  

 (Flugelhorn, C. Guitar)
8. Summer's End [Towner] 6:46  
 
(Flugelhorn, C. Guitar)
9 Sacred Place [Towner] 4:44  
 (Trumpet, Baritone Guitar)
9. I Fell In Love Too Easily [Sammy Cahn, Jules Styne] 7:02  
 
(Trumpet, C. Guitar)

撮影: 2011年7月10日 Su Nuraxi di Barmini, Sardinia, Italy

 

パオロ・フレス50歳を記念した一連のイベントのひとつとして、彼の故郷サルディーニャ島の遺跡を舞台にラルフ・タウナーとのデュオ・コンサートが行われた。当地には紀元前2000〜1500年頃に作られた古代遺跡が数多く残されており、中でも本コンサートの会場となったスー・ヌラジ・ディ・バルミニは最大のもの。巨石を円筒・円錐形に積み上げた独特の構造による塔、城塞、防壁、住居の集合体は、1997年に世界遺産に認定されている。コンサートは、この遺跡を借景とした屋外ステージで行われ、様々な色による遺跡のライトアップが、音楽と相まって幽玄な雰囲気を醸し出している。

1.「Punta Giara」は、イントロでシンセサイザーのような背景音が聞こえるが、これはパオロがサウンドエフェクトを使用して作ったループと思われる。それ以外にも、楽器に吹き込む息を効果音のように使っており、生のステージならではの趣向だ。撮影はオーディエンスの背後に固定された1台のカメラによるもので、クローズアップと左右へのアングルの変化のみで単調であるが、その分音楽に集中できる。パオロはトランペットとフリュゲルホーンを使い分けており、本映像を観てどの曲でどちらを吹いているのかよく判るようになった。観客席は真っ暗であるが、時たまカメラのフラッシュが閃き、撮影中のスマホの画面が浮かび上がる。パオロも椅子に座って、ラルフに向き合って演奏する。3.「Doubled Up」は、ラルフは一回り大きなボディーのバリトンギターを弾き、パオロはトランペットの弱音器を手で動かしてカチカチとパーカッションのような音を出している。ここでパオロがイタリア語でアナウンスを入れている。

4.「Blue In Green」は、「Chiroscuro」 2009 R26のスタジオ録音よりも長い演奏で、二人はじっくりソロに取り組んでおり、その瞑想感は会場の雰囲気とピッタリだ。パオロは、5.「Chiaroscuro」、6「Zephyr」で椅子に座りながら前に屈んで下を向いたり、立ちあがったりして動きを見せる。ここでも楽器への吹き入れ音をサウンドエフェクトを通して使用している。7.「Beautiful Love」は、ウェイン・キング、ヴィクター・ヤング等による1931年発表のワルツで、ジャスとしてはビル・エヴァンスがスコット・ラファロ、ポール・モチアンとトリオを組んだん1961年のアルバム「Explorations」が決定版で、ここでもラルフはエヴァンスの音楽への執念を見せている。ラルフはこの曲を正式に録音しておらず、今のところライブ音源のみで聴くことができる。演奏面ではイントロにおけるパオロの独奏が秀逸。8.「Summer's End」は、「Lost And Found」 1996 R18に収録されていたボサノヴァ調の美しい曲で、二人は情感たっぷりに演奏している。これは「Chiroscuro」未収録なので、コンサートでのみ聴けるレパートリーだ。9.「Sacred Place」は、バリトンギターによる豊かな音が印象的。9.「I Fell Love Too Easily」は、アルバム「Open Letter」 1992 R14に収められていた曲で、ラルフのソロコンサートの常連曲でもある。ビル・エヴァンスは、1962年の作品「Moonbeams」この曲を取り上げており、これも「Chiroscuro」未収録

パオロにとって思い入れがあり、かつ古代遺跡がオーラを発する特別な場所でのコンサート映像であり、視覚的にも面白い。また「Chiroscuro」未収録のセルフカバー、あるいはラルフが公式録音を残していない曲もあり、二人の好演もあって観応え十分。なお、本映像以外に以下の動画が出回っている。

a. 本映像の予告編的なもので、ラルフが日中に遺跡を見学しながら、パオロとの共演について語り(内容は、アルバム「Chiaroscuro」 R26の記事で言及したAnil Prasadのインタビューに似ている)、「Doubled Up」と「Blue In Green」の断片が挿入される(5分)。
b. 「Zephyr」を演奏するパオロのクローズアップ (1分10秒)
c. 「Chiaroscuro」演奏するパオロのクローズアップ (1分02秒)

a.のラルフのクローズアップ、後ろからのショット、高い所からの遠景や、b.c.のパオロのクローズアップなど、上記映像とは異なるカメラで撮影されたものがある。

[2015年7月作成]


 
Concerts Of Playing Stompin' At The Savoy (2012) 映像 
 
Ralph Towner : Classical Guitar
Paolo Fresu : Frugelhorn (1,2), Trumpet (3)

[Moods im Schiffbau, Zurich, Switzerland, Febuary 13, 2012]
1. Stompin' At The Savoy (Duo) [Edgar Sampson] 6:52

[Borgy And Bess Jazz & Music Club, Vienna, Austria, Febuary 15, 2012]
2. Stompin' At The Savoy (Duo) [Edgar Sampson] 6:11

[Auditorium Roma, Roma, Italy, Febuary 16, 2012]
3. Stompin' At The Savoy (Duo) [Edgar Sampson] 7:27

[Euro Open Jazz Festival, Ivrea, Banchette, Italy, October 19, 2012]
4. Stompin' At The Savoy (Solo) [Edgar Sampson] 4:04


 

2023年3月待望のソロアルバム「At First Light」R29がリリースされた。曲目には「Stompin' At The Savoy」は含まれておらず、その結果この曲はアルバム未収録曲となった。「Stompin' At The Savoy」は、1933年エドガー・サンプソン作曲で、ハーレムにあったナイトスポット、サヴォイ・ボールルームにあやかって名前が付けられた。チャック・ウェッブとベニー・グッドマンが録音し、後者が大ヒットした。そして後にアンディ・ラザフの歌詞が付けられ、ジャズのスタンダードとなった曲だ。

この曲はラルフとパオロ・フレスのデュオ活動期の最後にあたる2012年初めにコンサートで演奏されていたもので、私が観た動画では、パオロはフリューゲルホーンとトランペットの両方を吹いている(今まで両者はキーが異なると思っていたが、調べてみたら同じ音程でした)。てっきりこの曲はパオロとのデュエットのみのレパートリーかなと思っていたが、しばらく後の10月のイタリア・バンケッテでのコンサート 4で、ラルフがソロで演っている映像が残っていた。私が観た映像は、1を除きどれも1曲だけの動画だったが、珍しい曲だったため投稿されたのだろう。1.のチューリッヒでの映像のみ、「Double Up」と「Wistful Thinking」も観ることができた。

貴重なアルバム未収録曲の映像。

[2023年4月作成]


 
Palatia Jazz, Speyer (2012) [With Javier Girotto] 音源 
 







Ralph Towner : Classical Guitar, Baritone Guitar
Javier Girotto : Soprano Sax, Pan Flute, Moxeno Flute

[前半]
1. On The Rise [Towner] 7:55  
 (Soprano Sax, Pan Flute, C. Guitar)
2. As She Sleeps [Towner] 9:31   
 (Soprano Sax, C. Guitar)
3. Droubled Up [Towner] 8:10
 (Soprano Sax, Baritone Guitar)
4. Blue In Green [Miles Davis, Bill Evans] 8:28 
 (Soprano Sax, C. Guitar)
5. Chiaroscuro [Towner] 16:06   
 (Soprano Sax, C. Guitar)

[後半]
6. Guitarre Picante [Towner]  8:07  
 
(Soprano Sax, C. Guitar)
7. Sacred Place [Towner] 9:21    

 (Soprano Sax, Moxeno Flute, Baritone Guitar)
8. Summer's End [Towner] 11:49  
 
(Soprano Sax, C. Guitar)
9 If [Towner] 9:58  
 (Soprano Sax, C. Guitar)
10. Claridad [Towner] 8:07  
 
(Soprano Sax, Moxeno Flute, C. Guitar)

2012年6月8日 Gedachtniskirche der Protestation, Speyer, Germany

写真上: Gedachtniskirche der Protestation (外観)
写真中: Altar of Gedachtniskirche der Protestation (祭壇)
写真下: コンサートの写真

 

パラティア・ジャズは、ドイツのラインラント・プファルツ州で行われるジャズ・フェスティバルで、1997年が初回。州内にある歴史的建造物をコンサート会場とすることが特色で、ラルフは2012年に参加。当初はパオロ・フレスとのデュオの予定だったが、彼の病気によりハビエル・ジロットとの共演に変更されたという。コンサートは、シュパイアーという人口約5万人の街で行われた。資料には都市名しかなかったが、同コンサートを撮影した写真に写った祭壇らしき背景から、19世紀に建立された教会
Gedachtniskirche der Protestation (英語名 Memorial Church Of Protestation) が会場だったことがわかった。教会ということで、かなり深いリバーブがかかったサウンドになっているが、二人の音楽には合っているようだ。

ハビエル・ジロットは、1965年アルゼンチン生まれ。同地でクラシック音楽の修行をした後、25才で祖父母の母国であるイタリアに渡り、その後定住・帰化する。イタリアでタンゴ等の中南米の音楽を生かしたジャズ・スタイルで頭角を表した。多くのセッションに参加するとともに、アイレス・タンゴ (Aires Tango) というグループを20年以上続けている。2012年にアルゼンチンで製作されたエルネスト・スナヘールのテレビ番組「Notas de Paso」(「その他 映像・音源」参照)で、ハビエルへのインタビュー(英訳付き)を観ることができた。ラルフに招かれて一緒に演奏するようになり、ローマ・オーディトリウムのデュエット・コンサート・シリーズに出演したことが、始まりとのこと(「その他 映像・音源」の「Auditorium Rome 2010」参照)。美しいラルフの音楽に集中したかったためという、スタンダード曲を演らなかった事情も語られている。

コンサートの構成はパオロとのデュオと似ているが、1.「On The Rise」、6.「Gitarre Picante」、9.「If」、10.「Claridad」など、パオロとはあまり演らなかった曲が含まれ、前述の通り、スタンダード曲が選曲から落とされている。本音源はコンサートの全部を収録したものと思われ、各人のソロ、独奏にたっぷり時間をかけており、各曲の演奏時間が長く、演奏曲数が10と少ないのが特徴。

1.「On The Rise」では、ラルフのソロの最中にハビエルがパンフルートを取り出し吹いている。2.「As She Sleeps」は、ラルフの独奏の後にテーマに入る。3.「Doubled Up」と 7.「Sacred Place」で、ラルフはバリトン・ギターを弾く。またハビエルは7.「Sacred Place」と10.「Claridad」で、モセーニョという笛を吹いている。これはケーナと同じ縦笛の系列であるが、低音を出すため管が長くなり、そのままでは指が届かないため、横にして吹くようになったもの。そのため吹き口用に細い管を別に取り付けてあるのが形状上の特徴だ。

5.「Chiaroscuro」と 8.「Summer's End」では、ハビエルの独奏による長い長いイントロがつく。「アリア」そのもの言える、抒情的かつ饒舌な吹きっぷりに圧倒される。9.「If」は最後の曲と紹介されるが、終わった後の拍手が鳴りやまず、アンコールの10.「Claridad」でコンサートは終了する。

ハビエルの音の艶っぽさと驚異的な演奏能力、ラルフの落ち着いた感じのギタープレイ、美しい曲が組み合って、芳醇な音世界を作り上げている。ライブ・アルバム、デュオ・アルバムが作られなかったのは残念だったが、後2016年にラルフがハビエルのグループ、アイレス・タンゴのアルバム「Duende」D55にゲスト出演することで、落とし前を付けた形になった。

[2022年10月作成]


  
Concerts In South America (2012) [With Javier Girotto] 映像  
 
Ralph Towner : Classical Guitar
Javier Girotto : Soprano Sax, Pan Flute

[5to Festival de Jazz de Montevideo, Teatro Solis, Montevideo, Uruguay, 2012 November 22]
1. On The Rise [Towner] 7:55  
 (Soprano Sax, Pan Flute, C. Guitar)
2. As She Sleeps [Towner] 7:38   
 (Soprano Sax, C. Guitar)
3. Tammuriata [Towner] 7:20  
 (Soprano Sax, C. Guitar)
4. Chiaroscuro [Towner] 13:13  
 (Soprano Sax, C. Guitar) 

[Festival International de Jazz en Buenos Aires, Usina Del Arte, Buenos Aires, Argentine, 2012 November 24]
5. On The Rise [Towner] 7:40  
 (Soprano Sax, Pan Flute, C. Guitar)
6. As She Sleeps [Towner] 7:07   
 (Soprano Sax, C. Guitar)
7. Tammuriata [Towner] 6:52  
 (Soprano Sax, C. Guitar)
8. Chiaroscuro [Towner] 15:22  
 (Soprano Sax, C. Guitar) 
9. Aeolus [Towner] 7:38  
 (Soprano Sax, Piano)
10. My Foolish Heart [Ned Washington, Victor Young] 4:34   
 (Soprano Sax, C. Guitar)
11. If [Towner] 7:14  
 (Soprano Sax, C. Guitar)

[Festival De Jazz Cordoba, Teatro Libertador, Cordoba, Argentine, 2012 November 25]
12. Summer's End [Towner] 7:08  
 (Soprano Sax, C. Guitar)

[CBA Jazz Festival, Cordoba, Cocina de Culturas, Cordoba, Argentine, 2012 November 27]
13. Redial [Towner] 7:34 (「Nota de Paso」と同じ演奏)  
 (Soprano Sax, C. Guitar)


2012年11月、ラルフとハビエルは、南アメリカでコンサートツアーを実施した。その模様を捉えたオーディエンス・ショットを観ることができた。

ウルグアイの首都では、第5回モンテビデオ・ジャズ・フェスティバルに参加。最初は手振れが激しく観にくいが、途中から少し安定する。映像は、4.「Chiaroscuro」のハビエルの独奏の途中でいったん切れ、別の動画で続きを観ることになる。飛行機に積む荷物の関係のためか、今回のコンサートツアーにはバリトン・ギターを持ってこなかったようで、「Doubled Up」や「Sacred Place」は演らなかったらしい。その代わりに、以前レパートリーになかった 3.「Tammuriata」を演奏している。

アルゼンチンの首都で開催されたブエノスアイレス国際ジャズフェスティバルでは、多くの動画を観ることができた(5. 6. 10. 11.については異なる二つの動画があった)。ここでは、ラルフがピアノを弾く 9.「Aeolus」が貴重。ハビエルとのデュオでラルフがピアノを弾いているのは、これだけだからだ。またラルフがソロで 、この時点では公式録音(2017年のソロアルバム)されていない、10.「My Foolish Heart」を弾いているのもうれしいね!8.「Chiaroscuro」で、ハビエルが身体を揺らしながら独奏するシーンは必見。ハビエルにとっては生まれ故郷への凱旋コンサートだから気合が入っているしね。

コルドバは、ここではスペインでなく、ブエノスアイレスの西北西 700kmに位置する同国第二の都市。12.「Summer's End」はハビエルの独奏部分はカットされている。次に掲載する「Nota De Paso」の取材場所となったステージは、タイトルは異なれど実質同じファスティバル内ではあるが、別の日、別の場所だったらしく、ステージ・服装が25日と異なるものになっている。

複数のコンサートの寄せ集めになるが、ラルフとハビエルのデュオの映像をたっぷり楽しめる。

[2022年10月作成]


 
Notas de Paso (2012) [Ernesto Snajer] 映像   
   
Ralph Towner : Guitar
Javier Girotto : Soprano Sax (1)
Ernesto Snajer : Guitar (3)

1. Redial [Towner]
(Soprano Sax, Classical Guitar)
2. My Foolish Heart [Victor Young, Ned Washington]
(Classical Guitar)
3. Icarus [Towner]

(Classical Guitar, Nylon String Electric Acoustic Guitar)

収録: November 2012, Cordoba, Argentine
放送: 2013年

 
 
エルネスト・スナヘール(1968- )は、アルゼンチンで活躍するギタリスト、シンガー・アンド・ソングライターで、地元のフォルクローレをベースに、ジャズ、ポップスなど幅広い音楽をカバーする人だ。彼がホストを勤めるドキュメンタリー番組「Notas de Paso」は、各地を旅しながら自己の音楽ルーツを辿るシリーズものらしく、彼がラルフ・タウナーに会って交流する番組を観ることができた。

アルゼンチンのコルドバは、同国で2番目に大きな都市で、首都ブエノス・アイレスの西内陸部にある。そこで2012年11月に開催されたCBA Jazz Festivalに出演するラルフに会うため、夜に運転するエルネストのシーンから始まる。その背景には、エフェクトをかけたギターを演奏するエルネストの多重録音による「Silence Of A Candle」が流れる。まず彼は同フェスティバルでラルフと共演したサックス奏者、ハビエル・ジロットと会う。ハビエルは、インタビューの場面で、現在住んでいるイタリアでラルフと知り合い、招かれて演奏したこと。デュオをテーマとしたコンサートの企画があり、二人で出演したのが最初だったと語っている。そして 11月27日のコンサートから、デュオによる 1.「Redial」の演奏の一部が流れる。編集が入るので、完全版ではないが、二人によるこの曲の演奏を楽しめるのはここだけなので、貴重な動画だ。

次に、ラルフとのアポがとれたエルネストが、ホテルの寝室でインタビューするシーンとなる。若い頃のニューヨークにおける、ミストラフ・ヴィウトス、ウェイン・ショーター、マイケル・ブレッカー等のジャズ仲間の話になり、その縁でウェインから声がかかり、ウェザー・リポートのアルバム(「I Sing The Body Electric」1972 D8)に参加したという。ジャズのエレキギターからの影響を受けることはなかったと言うが、ジョン・マクラグリン、ジョン・スコフィールド等とは近くに住んでいたので、よくジャム・セッションをしたと語る。ビル・エバンスからの影響の話で、ラルフは2.「My Foolish Heart」(1949年の同名映画の主題歌)を弾く。ここでのプレイは、ビル・エバンスが1961年6月25日に録音したニューヨーク、ビレッジ・ヴァンガードのライブ(アルバム「Waltz For Debby」1961に収録)でのピアノプレイを忠実に再現したものだ。収録当時は、本曲の公式録音はなく ( 後の2017年にソロアルバムとして正式発表された)、リラックスした雰囲気でさらっと弾いた感じで、ミスタッチなどもあるが、正式録音前の演奏として貴重な映像だ。さらに多くのギタリストから「影響を受けた」と言われることについて、「光栄だが気にしないようにしている」と答え、、「自分が表現しているのは音楽だ」と語る。ここで、二人による3.「Icarus」が演奏される。ナイロン弦のエレアコを弾くエルネストに対し、ラルフはクラシックギターを手にしている。ラルフがナイロン弦でこの曲を弾くのを耳にするのは初めてだ!12弦のような迫力、透明感はないが、クラギの繊細で端正な音によるプレイがとても新鮮。近年のオレゴンのライブ演奏では、ラルフは12弦ギターを弾かないため、この曲を聴くことは最早できないのかなと思っていたが、近い将来、レパートリーに復活するかもしれないね!

1.「Redial」を除き、ホテルの1室におけるインタビューの中で、リラックスした感じで演奏されたものであるが、他では聴くことができない貴重な演奏が楽しめる。

[2022年10月]
ハビエル・ジロットとの共演音源・動画記事の投稿に際し、一部書き改めました。


La Donna Perfetta (2012) [Mariella Lo Sardo] 映像 
   
Mariella Lo Sardo : Monologue
Ralph Towner : Guitar

Vincenzo Tripodo : Director

1. All Of Me [Gerald Marks, Seymour Simmons]
 (C. Guitar)


ラルフが、舞台女優である奥様マリエラ・ロ・サルド主演の独演劇の音楽を担当。タイトルは「La Donna Perfetta」(イタリア語で「完全な婦人」という意味)であるが、副題に「Tratto Da La Voce Umana」(「人間の声からの線描」)とある。「La Voce Umana」は、詩人、小説家、劇作家、評論家、画家、映画監督など多彩な才能を発揮したジャン・コクトー(1889〜1963)が1930年に発表した一人芝居による悲劇で、フランス語の原題は「La Vox Humaine」、英語では「A Human Voice」、日本語では「人間の声」と訳されている。5年前に別れた恋人から電話を受けた女性が、彼が翌日に結婚することを知り、最初は「だいじょうぶ」と答えるが、絶望のなかで次第に本心をさらけ出してゆく様を、女優一人で演じる。電話のむこうにいる男のセリフは一切なく、観客は彼女の反応から男性が言ったことを推察することになる。1948年にイタリアの監督ロベルト・ロッセリーニ(Roberto Rossellini) が、ふたつの物語からなる作品「L'Amore」のひとつとして映画化、当時愛人だったアンナ・マニャーニ(Anna Magnani、名作「無防備都市」1945 でも主演していた)の迫真の演技が話題となった。また後の1966年、ロッセリーニ監督の奥さんだったこともあるイングリッド・バーグマン主演で、アメリカでテレビドラマとして製作されている。劇自体は40〜50分かかるはずで、今回観ることができたのは、7分間のダイジェスト版だった。マリエラは、悲劇でありながら、どこか突き放したような滑稽さも巧みに表現しており、短縮版とはいえ、秀逸な演技を見せてくれる。

資料がすべてイタリア語なので、詳細は分らないが、2012年3月にイタリアで上演されたものらしい。初めに流れるラルフのクラシック・ギターの響きがスウィートで、メロディーから1931年の著名なスタンダード曲「All Of Me」であることがわかる。彼女の独演の間、ベース、リズム・ギター、リード・ギターによる同曲の伴奏(ギターはラルフによる多重録音)で、マリエラがこの曲を口ずさむシーンもある。最後の悲劇のシーンでは、最初のテーマが再提示されて、クレジットの字幕が出て終わる。

ラルフと奥さんとのコラボレーションは、過去もあったが、実際に観ることができたのは、これが初めてだ。


  
Italian Guitars Trio Promotion Video (2013)  映像  
 
Maurizio Brunod: Electric Guitar
Nicola Cattaneo: Acoustic Guitar
Franco Cortellessa: Baritone Guitar, 7 String-Classical Guitar
Ralph Towner: Classical Guitar

1. Stinko Tango [Maurizio Brunod] 6:05
 (Acoustic Guitar, Classical Guitar, 7-String Classical Guitar, Electric Guitar)
2. Esercizi di Stile [Nicola Cattaneo] 4:28
 (Acoustic Guitar, Classical Guitar, Baritone Guitar, Electric Guitar)

 
収録: 1. Atelier Baudelaire, 2013
    2 Galliate Master Guitar, Jun 9, 2013

イタリア人ギタリスト3人によるグループ、イタリアン・ギターズ・トリオは、2013年に「Italian Guitars Trio」D54 というアルバムを発表し、ラルフ・タウナーが3曲にスペシャル・ゲストとして参加している(詳細はD54を参照ください)。そして当該アルバムのプロモーションのため、ラルフとの共演曲のうち2曲の動画がYouTubeに公開された。

1.「Stinko Tango」は、スタジオでの録音風景を捉えたもの。防音のために仕切られた各部屋でギターを弾く様が細かいカットで映し出される。マウリツィオ・ブルノがエレキ、二コラ・カタネオが鉄弦のアコースティック、フランコ・コルテレッサが7弦のクラシック、そしてラルフがクラシック・ギターを弾いている。聴く限り、アルバムと同じ録音。その演奏風景は撮影と同時に音声も収録したか、あるいは予め録音された音に合わせて撮影したのか、いずれかは不明。

2.「Esercizi di Stile」は、イタリア北部の都市ガリアテで開催されたギター・フェスティバル「Galliate Master Guitar」 2013年9月6日での演奏(資料は「9-6-2013」という表示で、日付けについては6月9日の可能性もあり。アメリカとヨーロッパとで日付の表示順が異なるため)。ラルフはアルバムの12弦ではないクラシック・ギターを弾いているため、かなり異なるサウンドになっている。また動画の最後のクレジットで、アコースティック・ギターがアルド・イロッタ(Aldo Illotta)作、エレキギターがミルコ・ボルジノ(Mirko Borghno)作と製作者が紹介されているのは、本アルバム制作のもうひとつの意図が、イタリア製のギターを紹介することにあるため。


EBS Space 共感 (2013)  映像 
   
Ralph Towner : Classical Guitar, 12St. Guitar (4, 6)

1. Prowler [Towner]  6:15
(Classical Guitar)
2. Always By Your Side [Towner]  2:39
(Classical Guitar)
3. If  [Towner]  4:27
(Classical Guitar)
4. Solitary Woman [Towner] 7:50
(12st. Guitar)
5. Father Time [Towner]  5:10
(Classical Guitar)
6. Goodbye Pork Pie Hat [Charles Mingus]  5:33
(12st. Guitar)
7. Anthem [Towner]  3:24
(Classical Guitar)
8. Nardis [Miles Davis] 5:38

(Classical Guitar)

収録: EBS Space (韓国教育放送公社本社ビル)、ソウル市江南区、韓国
放送: 2013年9月26日

 

韓国の公共放送EBSが、「開かれた文化空間」の創造を目指してソウル市江南区にある本社ビルの1階に「EBS Space」という160席収容のライブ会場を作り、観客、演奏家、テレビ視聴者の「共感」の場として、内外アーティストの公演を無料で行っている。コンサートは月曜〜金曜日の19:30からで、その一部が毎週土曜・日曜日の22:00〜23:00にテレビ放映される。その番組は同局のホームページから視聴可能となっており、ラルフ 2013年の映像を観ることができた。

番組は白いシャツを着たラルフのリハーサルの映像から始まる。画面に映る演奏曲リストは、パオロ・フレスとのデュエット用のセットリストなので、本番組とは別に撮影された映像と思われる。続いてコンサートと同じステージのシーン(ただし観客はいない)になり、同じ黒いシャツを着た彼は、「作曲を専攻した大学最後の年、クラシック・ギター演奏を聴いて興味を持ち、1日10時間練習して1年間でマスターした。ギターは、様々な音が出るミニチュア・オーケストラ、持ち運び可能な楽器」等述べている。その際、「Anthem」 2001 R23の「Four Comets I」がバックに流れる。

コンサートは、1.「Prowler」から始まる。クレーンを含む数台のカメラによる撮影で、音響・画質いずれも最高レベルだ。途中ハングル語の字幕が出てくるのが気になるが、日本の番組を海外の人が観るとき、字幕に対して同じ思いを抱くだろうから、しようがないか。2.「Always By Your Side」のテーマ部分では、人差し指のバー・フレットを間違えている。クラシック・ギタリストの世界では、この手のミスは大問題なんだろうけど、ラルフの場合は間奏におけるインプロヴィゼイションがハイライトなのだ。この後、曲紹介と挨拶のアナウンスが入り、そこで彼は「ソウルを訪れるのは10年ぶり」と言っている。オレゴンでおなじみの3.「If」は、イントロと間奏における自由で解放感溢れる演奏が聴きもの。即興演奏の後半で演奏に詰まる箇所があるが、うまく切り抜けている。次の曲との間に僅かであるが、「Anthem」 2001 R23の「Three Comments I」のハーモニクスが挿入される。4.「Solitary Woman」は、若い頃よりは大人しくなったとはいえ、それでも圧倒的な12弦ギターによるプレイが楽しめる。テーマでのミストーンにも怯まないのは流石.....。2010年代後半は、年のせいか体力を要する12弦ギターを弾かなくなったため、本映像は貴重。

5.「Father Time」は、「Travel Guide」2013 R27に収められていた曲で、「コンサートで演奏するのは初めて」とのこと。公式録音は、スラヴァ・グレゴリアンとウルフガング・ムースピールとのトリオ演奏なので、ソロ演奏を聴くことができるのはライブのみだ。曲が終わると、「Timeline」 2006 R24から「Freeze Flame」が流れ、「音楽が強ければ聴衆に伝わり一体になることができる。それが私の目標だ」等の独白が入る。6.「Goodbye Pork Pie Hat」も素晴らしい演奏。フレットを駆け巡るラルフの運指にくぎ付けになるぞ。7.「Anthem」と 8.「Nardis」はメドレーでの演奏。お馴染みのレパートリーで、リラックスした成熟の境地がうかがえる。「Anthem」のテーマ演奏では、派手な弾き違いをしている。

高齢になってからのラルフのライブ演奏は、随所にミストーンがあるけど、インプロヴィゼイションの鮮やかさ、鋭さは相変わらず。ラルフの曲をカバーするクラシック奏者の型苦しいプレイと比較すると、テーマ部分を含めて彼の演奏が如何に自由奔放であるかがよくわかる。なので、彼のライブ演奏はこれでいいのだ〜。

[2019年1月作成]
 


Jazz Standard, New York (2017)  音源

Ralph Towner : Classical Guitar

Feb 15 Day1 1st Set 19:30
1. Blue As In Brey [Towner] 6:44
2. My Foolish Heart [Ned Washington, Victor Young] 4:33
3. Saunter [Towner] 7:06
4. I'll Sing To You [Towner] 6:21
5. Jamaica Stopover [Towner] 4:21
6. Pilgrim [Towner] 6:06
7. Rewind [Towner] 4:16
8. Tramonto [Towner] 5:35
9. Dolomiti Dance [Towner] 7:00
10. I Fall In Love Too Easily [Sammy Cahn, Jule Styne] 5:16



Feb 15 Day1 2nd Set 22:00
11. Blue As In Brey [Towner] 6:35
12. Pilgrim [Towner] 3:53
13. Anthem [Towner] 7:16
14. Saunter [Towner] 6:29
15. My Foolish Heart [Ned Washington, Victor Young] 4:48
16. The Prowler [Towner] 5:52
17. I'll Sing To You [Towner] 6:05
18. Joyful Departure [Towner] 4:03
19. Always By Your Side [Towner] 2:44
20. Dolomiti Dance [Towner] 8:11
21. I Fall In Love Too Easily [Sammy Chan, Jule Styne] 7:24



Feb 16 Day2 1st Set 19:30
22. Blue As In Brey [Towner] 7:03
23. My Foolish Heart [Ned Washington, Victoe Young] 4:59
24. Saunter [Towner] 6:01
25. I'll Sing To You [Towner] 6:20
26. Jamaica Stopover [Towner] 5:24
27. Pilgrim [Towner] 5:54
28. Rewind [Towner] 4:41
29. Dolomiti Dance [Towner] 6:44
30. Anthem [Towner] 4:50



Feb 16 Day2 2nd Set 22:00
31. Joyful Departure [Towner] 7:12
32. I Fall In Love Too Easily [Sammy Kahn, Jule Styne] 5:38
33. I Sing To You [Towner] 4:30
34. Nardis [Mile Davis] 7:34
35. My Foolish Heart [Ned Washington, Victor Young] 5:33
36. Saunter [Towner] 4:55
37. Shard [Towner] 3:21
38. Dolomiti Dance [Towner] 8:03
39. Always By Your Side [Towner] 2:56
40. Anthem [Towner] 4:25



収録: Febuary 15 & 16, 2017, Jazz Standard, New York, NY

 

ジャズ・スタンダードは、マンハッタンの27丁目イースト 27丁目にあったジャズクラブで、ニューヨークでも指折りのライブ・ハウスだったが、2020年コロナ禍のために閉店した。

ラルフのソロアルバム「My Foolish Heart」 R28 の発売が2月3日だったので、本音源はその直後のコンサートの模様を捉えたもの。オープニングのアナウンスの際に、マイクセッティングと思われる擦れる音が聞こえるので、オーディエンス録音と思われるが、その後は観客の雑音も入らない良質な音質で、クロージングのアナウンスも含めて、2日間4ステージがノーカットで録音されている。二日目のファーストセットのみ2つの異なる録音(音質良いが途中で「ブブブ」という大きな雑音が入るものと、音質は劣るが雑音が入らないもの)を聞くことができた。

「My Foolish Heart」 R28 収録曲が半分の曲目。あとは「Solo Concert」 1980 R9、「City Of Eyes」 1989 R13、「Open Letter」 1992 R14、「Oracle」 1994 R16、「ANA」 1997 R19、 「Anthem」 2001 R23 から愛奏曲を選んでいる。セット毎に微妙に曲が異なっているのが面白い。ファーストセットとセカンドセットの曲が一部重複しているのは、セットの合間が1時間半あり、ファーストセットで帰る人が多いため。席を立たなければ、両方とも見ることができるが、その間の待ち時間が長いので、私の現地経験では、酒を飲んで時間感覚を失わないと、かなりの忍耐が要る。

ラルフによる曲間のアナウンスから。「Pilglim (巡礼者)」は、彼の自宅から見える山 「Montagna Pellegrini」の英語訳とのこと。また「My Foolosh Heart」の元となったビル・エバンスの演奏は、彼の人生を変える曲だったと語っている。

2日間にわたり、同じ曲の演奏を何度も聞くことができるのが本音源の価値で、ギターソロなので、演奏毎に全く異なる内容とまではいかないが、音選びやタイミングの違いは顕著で、彼の音楽を演奏するクラシック畑のギタリストとは異次元の自由さ、スリルを味わうことができる。時々微妙に音をはずしたりするけど、それこそジャズの醍醐味なのだ。

[2022年5月作成]


 
Boundless Festival, Murnau, Gemany (2017)  音源
 
Norma Winstone: Vocal
Ralph Towner: Guitar (2,3,4,6,7,8)
Glauco Venier: Piano (1,5,8)
Klaus Gesing: Sax, Clarinet (1,5,8)

1. Cucurucucu Paloma [Tomas Mendez Sosa]
2. A Breath Away [Towner] 5:48
 (Vocal, C. Guitar)
3. Always By Your Side [Towner] 3:51
 (Vocal, C. Guitar)
4. Pilgrim [Towner] 6:39
 (Vocal, C. Guitar)
5. San Diego Sernade [Tom Waits]
  Lipe Rosize [Glauci Venier]
6. Summer's End
[Towner] 4:13
 (Vocal, C. Guitar)
7. Celeste [Towner] 4:24
 (Vocal, C. Guitar)
8. Everbody's Song But My Own [Kenny Wheeler, Jane White] 7:39
 (Vocal, Soprano Sax, Clarinet, Piano, C. Guitar)

収録: Das Weltmusilfestival Murnau, October 15. 2017

注:黒字の曲はラルフ非参加


ドイツ語の「Das Weltmusilfestival」は、英訳すると「Boundless Festival」で、音楽の垣根を取り払うことをコンセプトとして、ドイツのムルナウで2000年より始まった。毎年決められたテーマに基づき行われる小規模のフェスティバルで、そのテーマは「東洋と西洋の出会い」、「熱風」、「祖国」、「二人きり」、「自由」、「曲」、「新世界」など、多種多様。また本イベントのために特別に企画されたアーティストの共演によるコンサートの開催などの特色があり、その模様はバイエルン放送協会によりラジオ放送される。2017年は「声」というテーマで、10月13日から15日まで、本音源のノーマ・ウィンストンの他に、ラルフと縁があるマリア・ジョアオ(D43)、マリア・ピア・デヴィート(R22, D46, D51)が参加した。本音源は、そのエアーチェックと思われる。

ノーマ・ウィンストン(1941- )はイギリス人で、ピアニストのジョン・テイラー(1942-2015)の奥さんだった頃、トランペットのケニー・ウィーラーと3人でアジマスというバンドを組み、「Depart」1980 D23というアルバムでは、ラルフが大々的にゲスト参加している。また彼女は、ケニー・ウィーラーやラルフの曲に自作の詩を付けることに執心のようで、ラルフの曲では、私が知る限り、上記の他に「Glide」や「Beneath An Evening Sky」などがあり、正式に録音されていない曲も多い。二人による公式録音が前述のアジマス以外にないのが不思議。そのため、ノーマとラルフの共演をたっぷり堪能できる本音源は、とても貴重なものだ。

最初はノーマ・ウィンストン・トリオによる1.「Cucurucucu Paloma」。スペイン語で「ポッポー鳩」という意味のメキシコ民謡に英語の詩をつけたもの。イタリア人のピアノとドイツ人のサックスによる伴奏で、ラルフは非参加。2. 「A Breath Away」はアルバム「Lost And Found」 1996 R18が初出 (以下括弧書きで表示)。ノーマのカバー録音は、「Dance Without Answer」 2014に収録されている。3.「Always By Your Side」(「Time Line」 2006 R24)、4.「Pilgrim」 (「My Foolish Heart」 2017 R28) 、6.「Summer's End」 (「Lost And Found」 1996 R18)は、ノーマによる公式録音はなし。 「Summwe's End」では、ラルフによるボサノヴァのリズムによる伴奏を聴くことができ、間奏のソロも含めて美味しい演奏。トリオによる 5.「San Diego Sernade/Lipe Rosize」は切れ目無しの演奏。7.「Celeste」 (「Old Friends, New Friends」 1979 R8)は、「Somewhere Called Home」1986 に収録。評判が高いようで、多くのカバーがあり、マリア・ピア・デヴィートもラルフとの共演ライブ「Subway, Coln」2001で歌っている。ここではラルフがいつものピアノでなく、ギターで伴奏をしており、それは私の知る限りここだけという珍品だ。最後の曲 8.「Everybody's Song But My Own」はケニー・ウィーラーの曲で、トリオとラルフの共演。ラルフとノーマの二人によるイントロの後、ピアノとソプラノ・サックスが加わる。サックス・ソロの最中に編集により音が飛ぶ場面があり、放送時間の関係でカットしたのかもしれない。大変良くかつ珍しい演奏なので、残念...。

珍しい顔合わせで、しかも歌詞付きのラルフの曲を本人の伴奏で聴くことができるお宝音源。

[2022年12月作成]


 
Pancevacki Jazz Festival, Pancevo, Servia (2018)  映像
 
Ralph Towner : Classical Guitar

1. Blue As In Brey [Towner] 5:37
2. My Foolish Heart [Ned Washington, Victor Young] 3:55

3. I'll Sing To You [Towner] 4:18
4. Guitarre Picante [Towner] 4:31

5. Anthem [Towner] 4:23
6. I Fall In Love Too Easily [Sammy Kahn, Jule Styne] 5:24
7. The Prowler [Towner] 4:39
8. Pilgrim [Towner] 4:39
9. If [Towner] 4:11

10. Always By Your Side [Towner] 2:33
11. Dolomiti Dance [Towner] 5:21


収録: Kulturni Centar, Pancevo, Servia, November 3. 2018

 

パンチェヴォはセルビアの首都ベオグラードの郊外にある街で、そこで2018年に行われたジャズ・フェスティバルに出演した時の映像。1点カメラによるオーディエンス撮影で、曲毎に独立した動画になっていて、曲間のラルフのアナウンスはカットされている。各動画のタイトルには通し番号がついていて、上記の曲順はそれらの番号にならったもの。番号にはいくつか欠番があり、それらは撮影されたがカットされた曲、あるいはアナウンスの場面と思われる。11月という季節もあってか、オーディエンスの中に風邪をひいている人がいたようで、演奏中に咳の音が結構入り、特にマイクの側で咳をする人がいるのは残念。またPAか録音機材なのか原因不明であるが、「ピシピシ」という小さな機械音が聞こえる。ということで欠点が多い音源なんだけど、鋭角的な感じの音ではあるが、会場で聴いているかのような臨場感があって、曲数の多さとあわせて総合してまあまあといったところか。映像は、ステージ全体がわかる引いたショットと、ズームアップによるラルフ全身像の2通りで、カメラ操作の際に多少の手振れが起きるが、それほど気にはならない。

演奏曲の公式録音の初出は以下の通り。

1. Blue As In Brey : My Foolish Heart 2017 R28
2. My Foolish Heart : My Foolish Heart 2017 R28
3. I'll Sing To You : My Foolish Heart 2017 R28
4. Guitarre Picante : Always, Never And Forever (Oregon) 1991 O18, Six Pack (Gary Barton) 1992 D32
5. Anthem : Oregon In Moscow 2000 O24, Anthem 2001 R23
6. I Fall In Love Too Easily : Open Letter 1992 R14
7. The Prowler : Anthem 2001 R23
8. Pilgrim : My Foolish Heart 2017 R28
9. If : Prime (Oregon) 2005 O27, Time Line 2006 R24
10. Always By Your Side : Time Line 2006 R24
11. Dolomiti Dance : My Foolish Heart 2017 R28


2018年のコンサートということで、2017年発表のアルバム「My Foolish Heart」 R28からの選曲が多くなっている。演奏内容として特筆すべき曲は 6.「I Fall In Love Too Easily」で、間奏のアドリブを経てテーマに戻った後のエンディングの部分において、2012年にパオロ・フレスとのデュエットで演奏していた「Stompin' At The Savoy」の1節が出てくるのが面白い。

咳や機械音に悩まされながらも、つい聴き込んでしまう音源。

[2023年5月作成]


Incontro con Ralph Towner, Casa Del Jazz, Rome (2022)  映像 
 




 
Ralph Towner : Classical Guitar
Luciano Linzi: Interviewer

1. Flow [Ralph Towner] 5:48
2. Make Someone Happy [Betty Comden, Adolph Green, Jule Styne] 4:17
3. At First Light [Ralph Towner] 5:28


収録: 2022年3月9日 Casa Del Jazz, Roma


カーサ・デル・ローマは「ローマの家」という意味で、ローマ駅の南 2.5ヘクタールの公園内にあるジャズの多機能施設。そこではコンサートを初めとする種々のイベントが行われていて、本映像は、「ラルフ・タウナーとの出会い」というタイトルの公開インタビューを撮影して、YouTubeで公開したもの。映像は1時間45分の完全版と、50分の縮小版の2種類あり、後者は字幕機能によりラルフの英語の字幕が、一部不正確ではあるが、表示される。

観客を入れたコンサートホールで行われ、カーサ・デル・ローマのディレクター、ルチアーノ・リンツィがインタビューアー。英語によるルチアーノ(以下LLと略す)の質問とラルフ(RTと略す)の回答を、LLがイタリア語に翻訳する形式による進行。まずLLのイタリア語によるRTの紹介の後、RTがウェザー・リポートにゲスト参加した「Moor」1972 D7が流れる。1分半ほどでフェイドアウトするが、その間自分の演奏を神妙な表情で聴くRTの表情・仕草が面白い。以下リスニングの参考のため、インタビューの骨子を列挙する。

・ 母親はピアノ教師で、RTが3才の時に亡くなった父親は、トランペットを演奏したが、製材所で働いていた。
・ 年齢差が大きい 5人兄弟姉妹の一番下で、家族皆音楽の素養があった家庭環境。素晴らしい音楽プログラムがあった学校に通った子供時代、トランペットや他の金管楽器を演奏したこと(注: RTがメロフォンを吹けるのはそのため)。大学で勉強した作曲のためピアノを弾き、ジャズに魅せられた。原点は、子供の頃に兄達が持っていたレコードと、学校の演奏で密かにハーモニーをつけて先生に驚かれ、以後インプロヴァイズを認められたこと。
・ 大学で歴史を学んでいたグレン・ムーアと出会ったこと。ビル・エバンスに傾倒したこと。
・ 大学卒業時は、自分を養うだけの演奏レベルに達しておらず、クラシック・ギターの演奏を聞いて、魅せられ、22才でマスターしようと決心した。ウィーンにカール・シャイト教授の素晴らしいギタークラスがあると聞き、応募してヨーロッパに渡った。
・ ウィーンには、一度帰国を含め4年滞在した。帰国後シアトルで 1年ピアノを弾いてお金を稼ぎ(注: その他 映像・音源 ラルフタウナーにある 「KOMO TV, Seattle」は、その時の映像)、ボサノヴァばかりでギターの腕が落ちたのでツアーバンドとして、、もう一度ウィーンに行き1年滞在。1968年ニューヨークに移った。
・ ティム・ハーディンは、ジャズ・ミュージシャンをバンドに起用し、演奏ピアニストのウォーレン・バーンハートとともにグレン・ムーアを雇った。ギター・プレイヤーが要るとのことで、グレンが自分を推薦してくれた。最初のギグは、ニューヨーク北部の小さなフォーク・フェスティバルとのことで、自動車で向かったが、渋滞に巻き込まれたため、ヘリコプターで会場に行ったが、上空から45万人の観客を見て「フォーク・フェスティバル」でないことに気が付いた。

ここで、ジョー・ザヴィヌル、ミストラフ・ヴィウトスがバックを務めたティム・ハーディンの「Georgia On My Mind」(「Bird On The Wire」1971 RTは非参加、フェイドアウト)がかかる。

・ 当地は雨が降っていて状態が悪く、多くの観客に恐れをなし、リハーサルもなかったので、十分な演奏ができなかった。この音源が公開されなかったことは幸い(注: RTにとっては残念なことに、ここでの演奏はライノから発売・発信 (D2参照) され、現在その全貌を聴くことができる)。でも多くの人々がハイになった様を見て感じたことは凄い経験だった。ティムとのギグはこれ1回だけ。その後ティムは、らりってアルバムを仕上げることが出来なくなったため、コロンビア・レコードが怒って、ウェザーリポートに手伝うよう依頼した(注「Bird On The Wire」のこと。RTも1曲参加)。
・ ニューヨーク・シーンはジャム・セッションとリハーサルによって新しい音楽を試行錯誤する時代だった。ジャムセッションをした仲間についての言及。
・ そこでグレンを通じて、コリン・ウォルコットと知り合った。ポール・ウィンターのグループに加入する際に、グレンとコリンを推薦し、グループ・メンバーのポール・マッキャンドレスと一緒になった。 

ここでポール・ウィンター・コンソートの「Icaus」 1972 D6 (フェイドアウト)がかかる。

・ ポール・ウィンターの勧めがなかったら。12弦ギターを弾く事はなかった。最初グループはジョニ・ミッチェル等のカバーを演奏していたが、この楽器を非常に気に入っていたので、自分で曲を書いて演奏するようにした。グループは10週間の全米ツアーを行い、その間4人で頻繁にジャムセッションした。カルテットでのより柔軟な音楽を目指すべく、全員の発案で独立することにした。

ここでオレゴンの「North Star」 1972 O2 (フェイドアウト)がかかる。この曲の響きが余りに斬新に聞こえるので、オーディエンスから拍手が起きる。

・ コリンはクラシックのパーカッションと指揮、ポール・マッキャンドレスはニューヨーク・フィルのオーディションを受けて、2位になる(結果落選、我々には幸運なこと)など、ジャズに加えてクラシック音楽の素養・影響があり、それに世界の音楽を織り込んだ。ピアノ・プレイヤーとしても、ジャズのトップ・ミュージシャンと一緒にプレイできるレベルになった。
・オレゴンを聴いて気に入ったマンフレッド・アイヒャーは、デイブ・ホランドの紹介で私と会い、ECMと契約した。最初はグレン・ムーアとのデュオ・アルバムの企画だったが、マンフレッドがオレゴンの他メンバーを加えたがった。しかし(オレゴンとしてのバンガードとの)契約があったため、トリオになり、そしてソロ演奏をたくさん入れた。

ここでホレス・アーノルドの「Sing Nightjar」 1974 D13 (フェイドアウト)がかかる。セットを間違えて、最初「Icarus」がかかるのがご愛敬。

・ ホレスは、ワイルドなドラマーで素晴らしい作曲家。彼はニューヨーク時代のベスト・フレンドで、今も連絡を取り合っている。
・ ECMとの契約は私の人生を変えた。アルバムは通常1年も経つと廃盤になってしまうが、ECMのアルバムはすべて、今も販売されている。3週間前に新アルバムのレコーディングを終えたところ。ECMのマジックは、静寂から生まれる。大抵のレコーディングはもっとヒステリカル。素晴らしいエンジニアとスタジオで、プライベート、パーソナルな環境で録音される。チック・コリアのピアノ・ソロのように、他がやらない企画をすることもポイント(注:当時、そのようなピアノ・ソロのアルバムを制作するレコード会社はなかった)。
・ ソルスティスは私がメンバーを選んで作ったベスト・レコード。成功の秘訣は、メンバーが皆何を演奏しいるかよくわかっている事。

他ミュージシャンとのコラボの話の後、ジョン・アバークロンビーとのデュエット「Nardis」 がかかる。これは公式録音ではなく、1984年5月8日のハンブルグでのライブ音源から。さらにLLがRTの映画音楽への取り組みを紹介して、RTが音楽を担当した映画「Un' Altra Vita」の「Saverio's Theme」1992 R15をかける。

・ カルロ・マッツァクラーティー(「Un'Altra Vita」の監督)は、音楽を単なる背景としてでなく、人物そのもの表すものとして、私に求めてくれた。映画音楽の作曲は、監督の指示に振り回されて、拷問のような苦労をするものだが、彼は私の録音に立ち会い、気に入ってくれた。

ここでインタビューは終了し、LLは退場。RTは演奏用の椅子に移り、簡単な音出しの後、新曲1.「Flow」を弾く。ノーカットなので、インタビューが終わったばかりでも、いきなり弾くことができるんだ、と驚き...。そのせいか、また新曲で慣れていないせいか、はたまた加齢のためか、ミスタッチが目立つ演奏であるが、完璧を当たり前とするクラシック・ギター演奏と異なる世界であり、RTの持ち味と考えて聴くべき。 2.「Make Someone Happy」は、1960年のブロードウェイ・ミュージカル「Do Re Mi」からの曲で、これも恐らくRTのニューアルバム (2023年初め発売予定)に収録されるものだろう。最後に新アルバムのタイトル曲という 3.「At First Light」を弾く。

英語とそれを翻訳するイタリア語との二本立てのため、長時間のインタビューになったが、LLがイタリア語で話している間は、その前に話していた英語を反芻でき、かつリスニングに要する集中力を休めることができるので、私のような非ネイティブには良い感じ。RTの新曲が3曲聴けるのもうれしい。

[2022年11月作成]