E93 Move On  1996  Tracy Nelson   Rounder



Phoebe Snow : Vocal
Bonnie Raitt : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Tracy Nelson : Vocal

Larry Chaney : Guitar
Gary Nicholson : Guitar
Reese Wynans : Piano
Jimmy Pugh : Air Piano
Andrew J. McMahon : Electric Piano
Michael Rhodes : Bass
Bob Mater : Drums
Rebecca Russell, Vickie Carrico, Darryl Jones : Back Vocal

C. Micahel Dysinger : Producer

1. Ladies' Man [Andrew J. McMahon]

Recorded at The Reflections, Nashville, TN



トレイシー・ネルソン(1944- )は、ウィスコンシン州マディソンの生まれで、1964年シカゴで初めてのアルバムを発表。1966年にサンフランシスコに移り、そこでマザーアースというバンドを結成する。1960年代の後半ナッシュヴィルに移住した後も、同バンドでの活動を続け、8枚のアルバムを製作した。1970年代半ばからソロ活動を初め、5枚ほどアルバムを発表。1980年代はレコード製作が途絶えたが、1990年代に復活を遂げ、本作はその3枚目にあたる。彼女の音楽は、ブルースを基調として、カントリー、ソウル、R&Bの色彩を加えたもので、ヴィブラートが効いた、よく響く太い声が最大の魅力。ボビー・チャールズの奥さんだったこともあるそうな。マリアとの付き合いは深いようで、「Meet Me At Midnight」1995 M15、「Richland Woman Blues」2001 M20などアルバムに参加。前者でマリアは、トレイシーの代表曲「Down So Low」 (マザー・アースのアルバム「Living With Animals」1968年に収録) をカバーしている。またシスター・ロゼッタ・シャープのトリビュート盤「Shout Sister Shout !」2003 E117でも共演している。

1.「Ladies' Man」は洗練された雰囲気のソウルバラードで、ブルース歌姫4人の共演だ!。CD解説で4人のことを「Suvivors」と紹介しており、彼女達が80年代の荒波を乗り越えてきた「生き残り」であることは確か。作曲者であるアンドリュー・ジェイムス・マクマホンは、かつてマザーアースのメンバーだった人。最初のヴァースを歌うフィービー・スノウ(1952-2011)はニューヨーク生まれで、グリニッジ・ビレッジのカフェで弾き語りしていたところをスカウトされ、1974年レオン・ラッセルのシェルター・レーベルからレコードデビューした。本国では「Poetry Man」が全米5位の大ヒットとなったが、日本では「San Franscisco Bay Blues」のシングル盤が発売された。私は、当時その独特な歌声に夢中になったものだった。その後コロンビアから数枚出したソロアルバムも素晴らしい出来だったが、80年代は私的な問題もあって作品が途絶えてしまう。その後1989年と1998年に復活アルバムを出し、2000年代は地道な活動を続けていたが、2010年1月に脳出血で倒れ、2011年に亡くなった。彼女の歌は、しっとりとした円熟味あふれる感じで、昔のようなあくの強いヴィブラートはない。自然なブルースフィーリングを感じる人だ。次にボニーレイット(彼女については説明不要)が登場し、心が籠った歌声には説得力がある。セコンド・ヴァースの後半はマリアが引き継ぎ、彼女得意の情感あふれる歌いっぷり。マリアとボニーが交代でリードし、皆がハーモニーをつけるコーラス部分は、魂の連帯感を強く感じるパフォーマンスだ。そしてサード・ヴァースは真打ちのトレイシーが登場し、エモーショナルな歌声を聴かせてくれる。何度聴いても、彼女達の情感に溢れた歌唱には心打たれるものがあり、音楽が持つ魔術に触れることができる曲だ。

バックは、リース・ウィナンズ、マイケル・ローズ等のナッシュビルの売れっ子セッションミュージシャンが担当。ギターのゲイリー・ニコルソンは、ブルース、カントリー音楽界で多くの作品を提供した作曲家で、本作でもタイトル曲の他、数曲でトレイシーと共作している。

他の曲は、ベッシー・スミスのカバーや、南部の香りがするブルース、ゴスペル、ソウル、R&Bなどが並び、マリアとの共通点が多い。マリアのファンならば、アルバム全体を通して聴いても十分楽しめる内容だと思うが、これ1曲だけでも買う価値はある。

[2011年4月27日追記]
フィービー・スノウは、2011年4月26日脳溢血のために亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。

[2010年9月作成]


E94 The Charity Of Night  1996  Bruce Cockburn   RYKO


Bruce Cockburn : Vocal, Dobro & Electric Guitar
Gary Burton : Vibe
Rob Wasserman : Bass
Gary Craig : Drums, Tambourine
Maria Muldaur, Jonatha Brooke, Patty Larkin : Back Vocal

Bruce Cockburn, Colin Linden : Producer

1. The Coming Rains [Bruce Cockburn]


私はブルース・コバーンはあまり聴いていないので、上手く説明できる自信がないのですが、頑張ります。

ブルース・コバーン(1945- )はカナダ・オンタリオ州生まれのシンガー・アンド・ソングライターで、1970年代初めから多くのアルバムを発表している。カナダはアメリカの隣りにありながら、実際訪れると町の雰囲気や国民性に意外な違いを感じる。アメリカ人の大らかさ、荒っぽさに対し、カナダの人々はヨーロッパ的なダークさ、繊細さを持っているようだ。その違いが、彼の音楽がカナダで大変人気があるのに対し、アメリカでの評判が地味な原因と思う。彼は、長いキャリアの中でフォーク、ジャズ、ロックと多様な音楽性を見せているが、強靭なアコースティック・ギター・プレイがベースとなっている。ジャズについては若い頃にみっちり勉強したそうで、そこらのジャズかぶれのアーティストとは一線を画す奥深さがある。本作は、30枚近くあるアルバムの中でもジャズへの志向が強いアルバムで、デビッド・グリスマンやステファン・グラッペリ、リッキー・リー・ジョーンズ、エルヴィス・コステロ、ボブ・ウェア等と幅広い活動を誇るクリエイティブなベーシスト、ロブ・ワッサーマンやジャズ界のビブラフォンのトップ奏者ゲイリー・バートンが参加している。プロデューサーのコリン・リンデンは自身アーティストとしてソロアルバムを発表している人で、ブルースのアルバムの多くをプロデュースしている人だ。

1.「The Coming Rains」は、上記のミュージシャンによる伴奏に、マリアを含む3人の女性がバックボーカルを担当している。ゲイリー・バートンが入っているからといって、普通のジャズをやってるわけではなく、ブルースが演奏するリズムギターとドラムスのシンプルなビートにベースが絡みつく感じは、ジャコ・パストリアスが参加した「Hejira」1976 の頃のジョニ・ミッチェルを思わせるもので、切れ味鋭いサウンドが最高。バック・ボーカルを担当するパティ・ラーキン(1951- )は、進歩的なサウンドを持ち味とするシンガー・アンド・ソングライターで、アコースティック・ギタープレイの上手さに定評がある人だ。ジョナサ・ブルック(1964- )は、1990年代初め The Storyというデュオ・グループでデビューし、後半からはソロで活動しているシンガー・アンド・ソングライター。3人の声はブルースに寄り添うように控えめにフィーチャーされているため、それほど目立たないが、マリアらしい声を聞き分けることはできる。

マリアを除く二人のバックボーカルが他の曲の大半に入っているほか、アーニー・デフランコやボブ・ウェアのバックボーカルや、ボニー・レイットのスライド・ギターが入っている曲、ブルースのアコギとゲイリーのヴァイブがメインとなったインスト曲(といっても地味な感じの演奏)もある。

マリアは本作の2年後のアルバム「Southland Of The Heart」1998 M17で、ブルース作による表題曲をカバーする。マリアの交友の幅広さを物語るアルバムだ。

[2011年7月作成]


E95 The Cold Club  1996  Cold Club   Cold Club 

 

Maria Muldaur: Vocal
Emos Garrett: Guitar
Oscar Lopez: Guitar
David Wilkie: Mandolin
Karl Roth: Volin
Ron Casat: Bass

1. Say That You Were Teasin' Me [Roy Turk, Fred Ahlert]

 

これは素晴らしい曲です!

エイモス・ギャレットを中心とした親しい音楽仲間がカナダのラジオ局に集まって、いつもはやらない音楽を演ってみようという企画が持ち上がり、録音した放送用音源が好評だっため、再録音・曲追加を経てCD発売になったもの。タイトル・アーティスト名はコールド・クラブというバンド名で、エイモスの名前はバンドの一員として表示。大衆受けを狙わず、自分達がやりたい音楽を自由気ままに演奏した感じで、そのためかレコード会社も Cold Club Recordsという自主制作っぽい名前になっている。本作はインターネット情報、大手の販売網にあまり載らず、比較的地味な存在となった。マリアはゲスト・ボーカリストとして1曲に参加。

オスカー・ロペス(1953- )はチリ生まれで、1978年にカナダに移住。最初はロックをやっていたが、ラテンスタイルのアコースティック・ギター(ナイロン弦)を弾き始めてステータスを確立した。デビッド・ウィルキーは、カルガリーでケルティック、カントリー音楽を演奏するマンドリン奏者。マリアのアルバム「Richland Woman Blues」 2001 M20にエイモスと参加している。カール・ロスはカルガリーで活動するジャズ・バイオリン奏者。ロン・カサット (2015年没)は、エイモスのバンドのキーボード奏者として、レコーディング、ライブで活躍した人で、エイモスとマリアが共演した映像「Ohne Filter Extra, Germany」(1995 「映像・音源」の部参照)にも参加している。 

1.「Say That You Were Teasin' Me」は、ベイビー・アン・マリー(Baby Anne Marie, 1923-2017)歌唱、フレッチャー・ヘンダーソン楽団伴奏による 1932年録音がオリジナル。彼女の父親がボードビリアンだったため、幼いころから音楽、ショービジネスの中で育ち、3才でタレントコンテストに入賞した。本曲は彼女が7才の時の録音で、小さな子供とは思えない深みのある声が驚異的。レコード以外に映画にも出演した。大きくなってからは、名前をアン・マリーに変えて活動、1950年代以降は「ディック・ヴァン・ダイク・ショー」や「ドリス・デイ・ショー」などのテレビ番組にレギュラー出演した。晩年はSNSへのコメンテーターや社会活動を行うなど、亡くなる少し前まで、大変長いキャリアを誇った人だった。マリアは7才の子供が歌った曲を、1990年代の彼女としては何時にないスイートな声でカバーしている。エイモスはライナーノーツで、「存命の歌手の中で、このように美しく難しい曲を取り上げられる人は、マリアしかいない」と述べているが、本当にそうだと思う。ジャンゴ・ラインハルトを思わせるスウィンギーなストリングバンドをバックに、1970年代の歌唱を再現したかのような、甘いノスタルジックな感じで、それはそれは素晴らしい出来だ。

他の曲は、弦楽器によるスウィング・ジャズをベースとし、ティンパン・アレイのスタンダード、ラテン音楽、フランスのミュゼット(アコーディオンを使用した音楽)、カリプソ、東南アジア、ブロードウェイ(「南太平洋」から)、ノベルティ・ソング、アカペラ等、千差万別の内容であるが、不思議な一貫性があり、聴き込んでしまう。

マリア参加曲以外にも、楽しさが一杯詰まったアルバム。

[2022年5月作成]


E96 A Taste Of Violin Jazz 1997 Jeremy Cohen   Clarity


Maria Muldaur : Vocal
Jeremy Cohen : Violin
Larry Dunlap : Piano, Arrangement
Jim Rothermel : Tenor Sax
Paul Mehling : Guitar
Michael Burr : Bass
Colin Bailey : Drums

1. If I Ever Do See You Again [Greg Brown]
2. A Little Taste [David Frishberg]

Recorded at The Fisrt Unitarian Church Of Berkeley


ジャズ・バイオリンといえば、まず思い浮かべるのが、ジャンゴ・ラインハルトと一緒にやっていたフランスのステファン・グラッペリだろう。実はジャンゴとステファンのコラボレイションにはお手本があり、スィングジャズ全盛の当時、アメリカでジョー・ベヌーティー(1903-1978)という人が、ギタリストのエディ・ラングと組んで始めた音楽が最初のバイオリン・ジャズだったのだ。ジェレミー・コーヘンは、ジョー・ベヌーティのスタイルを踏襲したバイオリン・ジャズを現代に蘇らせながら、同時にクラシック音楽の交響楽団でソリストを務めるなど、ジャンルにこだわらない幅広い音楽活動を展開している人。最近は、カルテット・サンフランシスコのメンバーとして、弦楽四重奏によるタンゴへの挑戦で成功し、彼らのアルバムはグラミー賞にノミネートされるヒット作となった。またリンダ・ロンシュタット、アーロン・ネヴィル、サンタナなどのレコーディングにも参加している。その彼が、ホット・クラブ・オブ・サンフランシスコのアルバムを発売していたレーベル Clarityに吹き込んだアルバムが本作で、マリアが2曲ゲストで歌っている。ピアノのラリー・ダンラップは、ジェレミーとの音楽活動の他に、クレオ・レーンのバック等をしていた人で、本作ではアレンジも担当している。ベースのマイケル・バーは、サンフランシスコ交響楽団の第1ベース奏者というクラシック畑の人らしい。コリン・ベイリーは、ベニー・グッドマン、ジョー・パス等のセッションに参加したベテラン。ポール・メーリングは、ジャンゴのスタイルを志向するホット・クラブ・オブ・サンフランシスコのリーダー(E79参照)。ジム・ロサメルはマリアのレコーディングの常連。

1.「If I Ever Do See You Again」は、アイオワ州生まれのフォーク歌手グレッグ・ブラウン(1949- )作のブルース調のバラード。彼の低音ボーカルにバイオリンの伴奏が絡み、昔別れた恋人への絶ちがたい想いを歌うムーディーな曲で、1996年のアルバム「Further In」に収録された。ここでは原曲の雰囲気を生かしながら、よりジャジーなアレンジになっている。マリアは本曲を取り上げるにあたり、歌詞の「And see the way your summer dress would cling」という部分を、「And you love the way my summer dress would cling」という、女性からの視点に変更して歌っている。2.「A Little Taste」は、マリアが以前「Transblucency」1986 M11で2曲カバーしていたジャズ歌手、ピアニストのデビッド・フリッシュバーグの作品。スウィングジャズ時代におけるアルト・サックスの巨人、ジョニー・ホッジズ(1907-1970)が1947年に吹き込んだ曲にデビッドが歌詞をつけたもので、1981年のアルバム「David Frishberg Songbook Vol.1」が初出。マリアは強く太い声で歌い切り、ジャズのグルーヴ感を発散している。2曲とも間奏ソロはテナー・サックスとバイオリンが担当し、ギターやピアノは伴奏に徹している。

本作の録音は、音響効果のよい教会で録音され、ホット・クラブ・オブ・サンフランシスコのアルバムE79と同じく、2本のマイクロフォンによる1発録りで、ミキシングやオーバーダビングなどの後処理を一切行っていないという。音場の奥行きの深さ、立体感が素晴らしく、かつ自然で生々しい音を楽しむことができる。

他の曲は、ジョー・ベヌーティーが当時演奏した「Humoresque」(ドボルザークの曲のジャズアレンジ)、「Goin' Places」、「Doin' Things」や、ジャンゴのアレンジを再現したスタンダード曲「Honeysuckle Rose」などで、マリアが歌った2曲は本アルバムの中でもモダンな感じの演奏だ。溌剌としたマリアのジャズ・ボーカルを味わえる。


[2010年8月作成]


E97 A Child's Celebration Of The World  1998  Various Artists   Music For Little People


Maria Muldaur : Vocal
Jan Peters : Classical Guitar, Mandolin (3)

Leib Ostrow : Producer

1. Italian Rhyme
2. Baby Jesus
3. Fala Nina, Fala Nana



西海岸で活躍するアーティスト達による、良質な子供向け音楽作品を製作するミュージック・フォー・リトル・ピープルが1999年に発表したオムニバス・アルバムで、ここでは各国の言葉によるコミュニケーションがテーマになっている。英語、フランス語、スペイン語、イタリア語の他に、スワヒリ語や日本語など多彩な言葉が飛び交う賑やかなアルバムだ。

マリアはイタリア語代表で登場。1.「Italian Rhyme」は、彼女の本名「Maria Grazia Roza Dominica D'Amato Muldaur」でのクレジットで、29秒の短いトラック。自身の手拍子のみで前半はイタリア語で、後半は英語でわらべ歌を歌っている。「Rhyme」は「押韻」の意味であるが、「Nursury Rhyme」は「童謡」となる。2.「Baby Jesus」も演奏時間10秒というイタリア語のアカペラ・ソング。

3.「Fala Nina, Fala Nana」は、イタリアに古くから伝わる子守唄で、歌詞および英訳は以下のとおり。

Fa la ninna, fa la nanna
Nella braccia della mamma
Fa la ninna bel bambin
Fa la nanna bambin bel
Fa la ninna, fa la nanna
Nella braccia della mamma

(以下英訳)
Go to sleep, go to sleepy
In the arms of your mother
Go to sleep, lovely child
Go to sleepy, child so lovely
Go to sleep, go to sleepy
In the arms of your mother


冒頭にマリアと彼女のお母さんJosephine D'Amatoとの電話会話の録音が入っているのが面白い。母親からイタリア語のわらべ歌を聞かされたマリアが、「OK, I think I got enough to work with」と答え、母「Good. Oh, you gotta be the one who sing ?」、マリア「Yeh !」、母「But try to put expression in what I do」、マリア「I promise !」というやりとりがユーモラスだ。ギターの伴奏は会話の途中から始まり、これらのやりとりが曲の一部になっているあたり、プロデューサーのセンスの良さが光っている。マリアは前半はイタリア語で、後半は訳詩で歌う。伴奏を務めるヤン・ピータスは当時はカリフォリニアで、その後ワシントン州ベリントン(シアトルの北約100キロにある都市)で活動するフォーク・ミュージシャン。 

他の収録曲では、スウィート・ハニー・イン・ザ・ロックのポリリズムのアカペラによる数え歌(フランス、日本、スワヒリの3バージョン)、タジ・マハールの「Banana Boat Song」、ジョーン・バエズの「Kumbaya」、ミリアム・マケバの「Pata Pata」などが有名どころで、かつ面白く聴ける。The Chenille Sisters が歌う「On A Vacation」では、ドイツ語、日本語、スペイン語が出てくるが、日本語の場面での「妹は、新しいおしめを欲しがっています」というセリフには笑ってしまう。

ニューヨークのグリニッジ・ビレッジで生れたイタリア系アメリカ人のマリアが、どの程度話せるのか知らないが、イタリア語で歌った唯一の曲。 3.「Fala Nina, Fala Nana」は、後に同レーベルが製作した他のオムニバス盤にも収録されるが、本作がオリジナルだ。

[2011年6月作成]


E98 Still Jumpin' The Blues  1999  Jay McShann   Stony Plain


Maria Muldaur : Vocal
Jay McShann : Piano

[Duke Robbillard Band]
Duke Robillard : Electric Guitar (1), Acoustic Guitar (2)
John Packer : Bass
Marty Richards : Drums
Doug James : Bariton Sax, Tenor Sax
Dennis Taylor : Tenor Sax

Bob Tildseley : Trumpet
Dave Babcock : Tenor Sax, Alto Sax

1. Come On Over To My House [Julia Lee]
2. Backwater Blues [Bessie Smith]

Recorded at Beta Sound, Edmonton, Canada, August 10-13, 1998


1980年代半ば、ニューヨーク・ジャズ・フィスティバルでジャイ・マクシャンのコンサートを観ることができた。期間中は、マンハッタンの様々な場所で多くのアーティストが演奏しており、スタッテン・アイランド・フェリーの船をチャーターした海上でのスウィングジャス・コンサートの事を知り、面白そうなので何の予備知識もなく軽い気持ちで行ってみたのだ。屋根付きのオ−プン・デッキで海風を受けながら聴くジャズはゴキゲンで、運び込まれたアップライトピアノをガンガン弾く巨漢の男に圧倒された事を今でも鮮やかに覚えている。ジャズ界の人間国宝的存在という彼の名前は私の頭の片隅に残り、後年になって彼の音楽と再会したのは、チャーリー・パーカーの音源を集めた時だった。

ジェイ・マクシャン(1916-2006)は、1930年代後半〜1940年代前半において、カンサスシティのビッグバンド・ジャズ・シーンでの活躍に加え、チャーリー・パーカーが残した初期音源のバンドリーダーだった事で歴史に名を残すことになった。チャーリーがディジー・ガレスピーや自己名義でジャズ界にセンセイションを起こす5年前の1940年頃、駆け出しの彼はジェイ・マクシャン楽団に加入した。1940年11月の放送音源に続く、1941年4月30日の録音がチャーリーのレコードデビューとなった。特に「Hootie Blues」(フーティーは、ジェイのニックネーム)でフィーチャーされた彼のソロは、当時のスウィングスタイルの演奏でありながらも、他のプレイヤーとは異なる新しい輝きを放っている。この曲は若きマイルス・デイビスが始めて買ったジャズのレコードだったという。その後チャーリーが参加した同楽団の音源は、1941年の11月と1942年の2月の放送用が残っていて、1942年7月2日のレコード用録音が最後となった。ジェイ・マクシャンはその後、スウィングジャズが廃れた後もカンサスシティで地味な音楽活動を続け、1969年に再発見されて全米各地で演奏活動を行い、2006年90歳で他界した。

本作は彼が83歳頃の作品で、カナダのブルース専門レーベル、ストーニー・プレインで製作したもの。マリアは2曲でボーカルを担当している。マリアによる曲紹介のコメントの後に始まる 1.「Come On Over To My House」は、作者のジュリア・リー(1902-1958)が、1944年にジェイ・マクシャンと録音した曲で、「誰もいないから家に来ない?」と男を誘うちょっとエッチな歌だ。ホーンをフィーチャーしたビッグバンド風アレンジをバックに、マリアが太い声で気持ち良さそうに歌っている。間奏のジェイのピアノソロは、少しもつれ気味であるが、枯れた味わいがあり悪くない。デューク・ロビラード(1948- )は、ロックンロール、ロカビリー、ブルース、ジャズ等、幅広い音楽をカバーするギタリストで、自己名義のアルバムを多く発表した他に、ボブ・ディランやトム・ウェイツ等のセッションにも参加している。2. 「Backwater Blues」はベッシー・スミス 1927年の自作自演曲で、当時ニューオリンズを襲った洪水の有様を歌っている。ジェイのピアノ、デュークのアコースティック・ギターの伴奏が素晴らしくブルージーで、途中からブラスセクションが加わって盛り上がる。マリアのボーカルは貫禄たっぷりで、水を得た魚のごとく生き生きしている。

他の曲で聴くことができるジェイ本人のボーカルも良く、スウィングジャズの円熟の境地を味わうことができる。ちなみに本作の最後には、17分間のインタビューが収録されている。

[2010年6月作成]


E99 The Long Ride  1999  Ramblin' Jack Elliott  High Tone



Jack Elliott : Vocal, Guitar
Maria Muldaur : Vocal
Joe Craven : Mandolin
Roy Rogers : Slide Guitar
Bruce Gordon : Accordion

Roy Rogers : Producer

1. Picture From Life's Other Side [Public Domain]


[2011/3/12記]
昨日の地震の際、私は東京のオフィスにおり、その夜4時間かけて自宅まで歩いて帰りました。その後のニュースで東北沿岸地方の甚大な被害を知りました。昔、三陸海岸を旅して田老地区に泊まった際、海辺に作られた巨大な防波堤に驚いた記憶がありますが、今回の津波はそれをも乗り越え、町に大きな被害をもたらしたという。災害の恐ろしさと人間の無力さという過酷な現実に呆然としています。被害に合われた人々にお見舞いを申しあげるとともに、不幸にして亡くなられた方々へのご冥福をお祈り申しあげます。今後の復興に向けて、なんだかの援助・貢献ができればと思います。


2011年4月、ランブリン・ジャック・エリオット(1931- ) が37年ぶりに来日するそうだ。ということで、今回は本作を紹介します。彼はニューヨーク・ブルックリンの医者の家に生まれたが、カウボーイとロデオの世界に憧れて家出をする。その時は親に連れ戻されたが、以降ロデオで見聴きしたフォーク、カントリー音楽に傾倒する。、ウッディ・ガスリーに出会い一緒に旅をしていろいろな事を学んだ。その後ヨーロッパに渡ってデロール・アダムス等と共演、帰国後は1960年代初めにピート・シーガーやボブ・ディランに多大な影響を与えた。1970〜1980年代はアルバム製作が途絶えたが、1995年に復帰作を発表、80歳の現在に至るまで元気に活躍している。本作は復活後3作目にあたり、当時彼の伴奏を担当していたギタリストのロイ・ロジャーズ(E43参照)がプロデュースを務め、豪華なゲストと達者なバック・ミュージシャンによる素晴らしい音楽を聴かせてくれる。

1.「Picture From Life's Other Side」のイントロで、ジャックは「この曲はウッディが運転する車の中で、彼とシスコ・ヒューストンが一緒に歌うのを聴いた」と語っている。 シスコ・ヒューストン(1918-1961)は、俳優、カウボーイ、客引き、船員など様々な職業をやりながら歌っていた人で、自らの音楽活動の他に、ウッディ・ガスリーに付けたハーモニー・ボーカルで歴史に残った人。二人による録音は、1944年 Aschレーベル(現在のスミソニアン・フォークウェイズ)に残したものが有名であるが、この曲自体は以前からあったもので、ハンク・ウィリアムスも歌っている。人生の裏側の有様を描いた歌詞が大変厳しく、ジャックが歌うセカンド・ヴァースでは、乞食が金持ちの兄弟を恨んで刺し殺し、マリアが歌うサード・ヴァースは、母親が赤ん坊を抱いて身投げするという悲惨な内容。コーラスは二人の合唱でマリアがシスコの役割でハーモニーを担当、ワルツのリズムに乗せて過酷な人生が淡々と歌われる印象的な曲だ。マンドリンのジョー・クラヴェンは、マリアのアルバム「Love Wants Dance」2004 M24に参加したマルチ・インストメンタリスト。ロイ・ロジャーズのスライドギターは、さすがに上手い。

その他の曲では、同世代のデイブ・ヴァン・ロンク、1950年生まれのトム・ラッセル、1955年生まれのデイブ・アルヴィンがボーカルで、ノートン・バッファローがハーモニカでゲスト参加し、全編語りの曲や、「St James Infarmacy」、「East Virginia Blues」、「Diamond Joe」などのトラディショナル、トム・ウェイツ、ボブ・ディランの作品(「With God On Our Side」)を取り上げている。といっても本作の魅力は、ジャック本人による味のあるボーカルとギタープレイにある。この人のギター演奏は、フラットピック、フィンガーピックいずれをとってもリスナーに生理的快感を覚えさせるほど抜群に上手く、天性の才能を感じさせるものだ。

ブルース、ジャズ、ジャグ、フォーク、ブルーグラス、カントリー等、幅広い音楽をカバーするマリアの懐の深さがうかがえる作品。

[2011年3月作成]

[2011年4月追記]
3月11日に起きた東日本大震災の影響で、ランブリン・ジャック・エリオットの来日は中止になってしまったそうです。残念ですね。


E100 The Lady In Red 1999  The Hot Club Of San Francisco  Clarity Recordings

Maria Muldaur : Vocal
Mike Sizer : Tenor Sax

[The Hot Club Of San Francisco]
Paul Mehling : Lead Guitar
Eed Boynton : Rhythm Guitar
Paul Robinson : Rhythm Guitar
Evan Dain : Bass

Edward Woods, Paul Mehling : Producer

1. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger (Ram) Ramirez] M2 M6 M9 E16 E74 E75 E148


ザ・ホット・クラブ・オブ・サンフランシスコの4枚目のアルバムで、マリアがゲスト参加した1枚目 「The Hot Club Of San Francisco」1993 E98から6年という年月が経っているが、メンバーやプロダクション・スタッフは、前作とほとんど同じ。マリア、ダン・ヒックス、バーバラ・デイン、およびホーンやフィドル奏者のゲストの顔ぶれも同じなので、ベーシストが同じ4曲(うち1.「Lover Man」を含む3曲は前述のゲストによる歌入り)は前作のアウトテイクと推定される。そして別の人がベースを弾いている残りの7曲が、その後に録音されたものと思われる。録音日が明記されていないので定かな証拠はないが、レーベル・録音方法が同じこともあり、両者はサウンド的にほぼ変わらない内容になっている。

本作でマリアが歌う曲は 1.「Lover Man」で、彼女にとって格別の思い入れがある曲だ。ジェフ・アンド・マリアの「Sweet Potatoes」 1972 E16 、「Open Your Eyes」 1979 M6、「Sweet And Slow」 1983 M9、「Super Jam」1990 E75 に続く5回目の録音となる。この曲の第一人者ビリー・ホリデイとは異なるマリアなりの可憐さを込めた歌は、彼女のライフワークといえるもので、その時その年齢での歌唱をみせてくれる。ここでは人生を精一杯生き、喜びや哀しみを味わいつくした女性の気持ちが抑え目に表現されていると思う。間奏のソロは、ポール・メーリングのギターと、マイク・シザーのテナーサックス。

ジャンゴ・ラインハルトは、彼のキャリアでは後期となる1940年代後半にこの曲を多く演奏したようで、1947年に2回(ひとつはステファン・グラッペリのバイオリン、もうひとつはユベール・ロスタンのクラリネットをフィーチャーしたもの)、および1949年のローマにおけるグラッペリとのセッションの計3回の録音が残されており、スローなバラードでのジャンゴのメランコリックなソロが印象的だった。

ジャンゴ風のストリング・バンドをバックに、マリアが「Lover Man」を思い入れたっぷりに歌う、美味しいアルバム。その他の曲では、ダン・ヒックスのボーカルが入る「Everything Happens To Me」がいいね!

[2011年1月作成]


E101 Bon Temps Noel  1999  The Sundogs   Parhelion


Maria Muldaur : Vocal
Tom Rigney : Violin
Joe Paquin : Guitar, Accordion
Teddy J. Politzer : Guitar
Brian Withycombe : Piano
John Aughney : Bass
Jim Hobson : Percussion, Drums

Teddy J. Politzer :  Producer

1. Silent Night [Joseph Mohr, Franz Xaver Gruber, John Freeman Young]
2. Merry Creole Christmas [Allen Toussaint] (Bonus Track)


ザ・サンドッグスは、サンフランシスコで活躍するフィドル奏者トム・リグニー率いる、ザディコ(Zydeco)と呼ばれる音楽を演奏するグループ。ザディゴは、ルイジアナ州に住むクレオール系黒人が発展させた音楽で、白人によるケイジャンスタイルのダンス音楽にブルースやR&Bを融合させたもの。バイオリン、アコーディオン、ラブ・ボード(洗濯板から発展した金属製のパーカッション)を使い、早いテンポによる陽気な演奏が特徴。

ザ・サンドッグスのアルバムデビューは1989年で、本作は6枚目で最後の作品になる(トム・リグニーはその後はソロで活動)。ホリデイ・シーズン向けのアルバムということで、おなじみのクリスマスソングが収められている。その中で 1.「Silent Night」はマリアがゲストシンガーとして歌っている。ここでは、誰でも知っている名曲を、ちょっと南部風のブルージイな香り付けのアレンジ・歌唱で料理している。あまりこってりではなく、曲への思い・敬意が出ていて、それでいて自己主張もしっかりしているところのバランスが良いパフォーマンスだと思う。敬虔なクリスチャンというマリアの思いが込められたゴスペル風歌唱が良い感じだ。

2.「Merry Creole Christmas」は、アルバムには未収録で、限定バージョンのみに入っていたものらしい。現在は iTunesなどのインターネット・ダウンロードで入手可能。この曲に関する情報はあまりなく、他のアーティストが歌っている記録も見つからなかったが、ニューオリンズの著名作曲家アラン・トゥーサンが1987年に著作権登録している記録があった。聴く限り、バックボーカル(バンドメンバーによるものと思われる)、ホーンセクションが加わった軽快で明るい雰囲気のとても良い曲だと思う。マリアの個性にはピッタリの曲で、気持ち良さそうに歌っている。何故この曲がアルバムに収録されなかったのか、本当に不思議だ。

[2010年12月作成]


E102 Hippity Hop  1999 Various Artists  Music For Little People

E88 Hippity Hop

Maria Muldaur : Vocal
Krystal Gillum : Rapper
Adrianne Batiste, Troy Guthrie, Ashley Richardson : Vocals
Steve Carter : Keybosrds
David Stalling : Guitar
Vernon Black : Guitar Solo
Gary Calvin : Bass
Jeremy Goody, Mike Busbee, Linda Tillery : Drum Programming

Linda Tillery, Leib Ostrow : Producer

1. Brand New Key [Melanie Safka]


良質な子供向け音楽で定評があるミュージック・フォー・リトル・ピープルが製作した、親子で聴くヒップ・ポップ作品集。プロデューサーのリンダ・ティラリー(1946- )は、サンフランシスコを拠点に活躍するボーカリスト、パーカッション奏者、プロデューサーで、サンタナ、ケニー・ロギンス、ヒューイ・ルイス、ボビー・マクファーリン、ボズ・スキャッグス、エリック・ビブ等のセッションに参加している。フォーク、ジャズ、ソウル、ブルース他、何でもこなす人で、近年はフェミニズム運動の一部としての「Woman's Music」(女性による、女性のための、女性についての音楽)の中心人物として活躍、アフリカ系アメリカ人の魂をアカペラで歌う The Cultural Heritage Choirの主宰者でもある。彼女はマリアと親交が厚いようで、本作と同じ年に発表されたマリアのアルバム「Meet Me Where They Play The Blues」 1999 M19にゲストとして、「Yes We Can」2008 M29のほぼ全編に参加している。

マリアがボーカルをとる 1.「Brand New Key」は、メラニーの自作自演による1971年全米1位のヒットソング。彼女は、プクッとした愛らしい顔立ちと、当時のヒッピー文化を具現した自由な雰囲気が魅力の歌手だった。当時私は、彼女がエドウィン・ホウキンス・シンガーと共演したゴスペル風の「Laydown」が好きで、その時買ったシングル盤は今も家にある。1.「Brand New Key」は、セクシャルなダブルミーニングが効いたコミカルな内容の歌詞が面白く、ジャグバンド風のアレンジがぴったりだった。マリアは、本作すべての曲でフィーチャーされる、打ち込みによるヒップポップのビートをバックに歌っている。ここでは子供向きの企画のため、性的なムードは影を潜め、からっとした感じの歌唱だ。間奏部分で若い女の子によるラッピングが入る。曲の出来自体は、決して悪くはないが、できればオリジナル・アレンジでマリアの歌を聴いてみたいと思ってしまうのは、私だけだろうか?

他の曲では、前述のリンダ・ティレリーの他に、タジ・マハール、エリック・ビブ、シーラ E.等が、古いトラディショナルやスタンダード曲のアレンジを歌っているが、気に入るか否かは、ヒップポップ音楽に対する好み次第だろう。

マリアにとっては珍しいアレンジで、面白い曲を歌っている作品。

[2010年5月作成]



E103 Sing Out For Seva  1999 Various Artists  Grateful Dead Records (Arista)




Maria Muldaur : Vocal
Mike Shermer : Electric Guitar
Chris Burns : Keyboards, Bass
Stan Hale : Drums

Tamara Klamner : Producer

1. Southland Of The Heart [Bruce Cockburn] M17

Recorded at Berclay Community Theater December 19,1998


ワヴィ・グレイヴィイ(Wavy Gravy、本名 Hugh Romney 1936- )は、ヒッピー的な考え方・生き方をモットーとする社会活動家で、ピエロの格好で行動することで知られている。彼が東洋思想の導師 ラム・ダス(Ram Dass、本名 Richard Alpert 1931-2019)等と1978年に設立した組織のひとつが、セヴァ・ファウンデイション(Seva Foundation)で、チベット、ネパール、カンボジア、バングラデシュ、アフリカ諸国で白内障のために失明した人々のための手術の援助を行い、これまでに3百万人の人々が視力を回復したという。その他にアメリカ先住民のための医療援助活動も行っているようだ。ワヴィ・グレイヴィは、グレイトフル・デッドの連中と親交が深く、特にボブ・ウェアは同組織の役員を務めている。彼らは 1979年のグレイトフル・デッドを初めに、資金集めのためのコンサートを多く開催しており、賛同したベイエリアのアーティスト達が多く出演している。本CDは、1994年2月13日、1998年5月15日、1998年12月19日の3つのコンサートの音源を集めたもので、マリアの他に、ランブリン・ジャック・エリオット、チャーリー・ミュッセルホワイト、アーロ・ガスリー、ヨーマ・コウコウネン、ブルース・ホーンズビー、ボニー・レイット、ボブ・ウェア、フィル・レッシュ、クロスビー・アンド・ナッシュ等の曲が収められている。なお本CDの表紙は、セヴァ・ファウンデイションのロゴをデザインしたもの。


マリアの曲は、1998年12月19日のコンサートから、同年発売されたアルバムのタイトル曲 1.「Southland Of The Heart」が収められている。バックバンドは、右手でキーボード、左手でベース(キーボードにベース音を設定したもの)を同時に弾く特技の持ち主、クリス・バーンズ(E84参照)、マリア、アンジェラ・ストレリ、マルシア・ボール等のバックを担当し、2000年代に自己名義のソロアルバムも発表しているギタリストのマイク・シャーマー(E126参照)、ニューオリンズを本拠地とし、アンジェラ・ストレリ、チャーリー・ミュッセルホワイトのバックを担当、2009年に自己名義のソロアルバムを発表したドラムスのスタン・ヘイルというメンバー。

キーボード奏者がベースを兼任しているが、そう言われないと気がつかないほど、うまい演奏を楽しめる。ちなみに同日のボニー・レイットの出演のフルセットの音源を聴くことができたが、そこではコンサートのフィナーレ「Amazing Grace」で、マリアが1ヴァース歌っている(「映像・音源の部」 参照)

[2011年1月作成]



E104 Get You A Healin'  1999 Various Artists  Moon Town Disc




[Track 1]
Coco Robincheaux : Vocal, Rhythm Guitar
Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal
Tommy Malone : Lead Guitar
Johnny Ray Allen : Bass
Kenneth Blevins : Drums
Rockin' Jake : Harmonica

Carlo Ditta : Producer

[Track 2]
Maria Muldaur : Vocal
Blue Lu Barker : Vocal (Sampling)
Chris Burns : Piano
Cranston Clements : Guitar
George Porter Jr. : Bass
Kenneth Blevins : Drums
Leroy Jones : Trumpet
Mark Mullins : Trombone

Carlo Ditta, Maria Muldaur : Producer

1. Louisiana Medicene Man [Curtis Arceneaux]
2. Don't You Feel My Leg (Don't You Make Me High) [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker] M1 M2 M13 M14 M35 E74


2010年11月、オバマ政権は医療保険制度改革のための法案を可決させた。実施内容や財源など問題は今後も山積しているが、過去クリントン氏を含め多くの人々が目指して成し得なかった事を実現させたことは大統領の業績として評価すべきと思われるが、最重要課題である景気・失業対策がうまくいかず、支持率が低下したのは残念だった。アメリカは先進国の中で唯一、国民皆保険制度がないため、約3600万人の無保険者は、満足な医療を受けることができないという。救急患者でも保険の加入の有無で、搬送される病院まで異なるという事実は、日本の常識では考えられない。きちんとした医療を受けられる人は、個人として保険に加入する財力がある人、または医療保険をベネフィットとして備えている会社の正社員になる人に限られるのだ。今回の改革は民間の保険に加えて政府支援による制度を新設し、誰でも保険に加入できるようにするものであるが、そのために必要な財源を増税によって賄うため、それまで保険料を払ってきた中産階級以上の人々の負担増になることは確実で、多くの人々が不公平と反対しているのも事実だ。そんな状況のなかで、生活が不安定なミュージシャンが保険に加入することは難しく、事故や病気になると大変苦労することになる。そこでニューオリンズでは、彼らを救うために1998年「New Orleans Musicians' Clinic (NOMC)」が設立された。本作はその資金集めのために当地に縁があるミュージシャンが作成したコンスピレイション・アルバムだ。本作のために録音された 12曲すべてが医療や健康をテーマにした作品であるのがユニーク。

1.「Louisiana Medicene Man」は、マリアとココ・ロビンショウ (1947-2011)とのデュエット。1998年に発売したアルバムのタイトル曲で、作者のカーチス・アーセノウは彼の本名だ。アフリカから連れてこられた奴隷によってもたらされたブードゥー呪術の妖しげな雰囲気に満ちた曲で、お呪いの人形であるグリグリや、お守りのモジョハンドなどの言葉が出てくる。CDのライナーノーツによると、彼は交通事故で背骨を折った際、保険に入っていなかったために慈善病院に運び込まれ、治療を受けるまで26時間苦痛のなかで待たされたそうで、その悪夢のような経験が本作をはじめとするチャリティー活動の動機になっているそうだ。バックを務めるミュージシャンは当時Tiny Townというバンドを組んでいた人達と、マリアのバックバンドで演奏していたロッキン・ジェイク(E88参照)がハーモニカを吹いている。2.「Don't You Feel My Leg」は、本作のハイライトといえるトラックで、オリジナル・シンガーであるブルー・ルウ・バーカーとの共演!といっても彼女は1998年に亡くなっており、ここではサンプリングによる擬似共演なのだ。マリアの歌の後に出てくるブルー・ルウの歌唱は、1989年のニューオリンズ・ジャズ・フェスティバルでのライブ録音(1998年発売)からのもので、1938年のオリジナル録音と異なる凄い皺枯れ声で歌っている。人工的に作られたデュエットとは思えない編集が抜群。バックはクリス・バーンズ、クランストン・クレメンツといったマリアの常連に、ニューオリンズ・ファンクの祖であるミーターズのベーシスト、ジョージ・ポーター Jr.や、ハリー・コニック Jr.のバンドで活躍するホーン奏者が素晴らしい合いの手を入れている。ちなみにブルー・ルウの家には、マリアから贈られた彼女のファーストアルバムのゴールドディスクが飾られていたそうだ。

他の曲は、前述のジョージ・ポーター Jr.やアート・ネヴィル率いるミーターズ、ドクター・ジョン、大御所アラン・トゥーサン等の曲が入っており、ニューオリンズ・サウンドにどっぷり浸かることができる。

[2010年12月作成]


E105 Tomorrow Never Comes  2000 Sleepy LaBeef  M.C.


Maria Muldaur : Vocal
Sleepy LaBeef : Vocal, Guitar
David Hughes : Guitar, Piano
Dave Pomeroy : Bass
Jerry Cavanagh : Drums, Harmonica

Mark Carpentieri : Producer

1. Will The Circle Be Unbroken [Ada R. Habershon, Charles H. Gabriel] E47 E74
2. Raining in My Heart [James Moore, Jerry West]

Recorded at Jan 20 and 21, 2000


スリーピイ・ラビーフ(1935-2019)は、ロカビリー界の息の長い活動をした人で、1953年から2012年まで多くのレコードを製作し、亡くなる3か月前まで演奏活動を続けた。巨体から繰り出す必殺の低音ヴォイスはドライブが効いていて、チャック・ベリーの「Too Much Monkey Business」、トニー・ジョー・ホワイト 1963年のヒット「Polk Salad Annie」、フラット・アンド・スクラッグスの「Rolling My Sweet Baby Arms」などのスタンダード曲をロックンロールのアレンジでカバーしている。本作では、マリアがゲストボーカルとして2曲に参加している。

1.「Will the Circle Be Unbroken」は、トラディショナルとかカーター・ファミリーの曲と言われることもあるが、もとは1907年に作曲された賛美歌だそうだ。多くのアーティストがカバーしており、「Can the Cicrcle Be Unbroken」という名前のものもある。ロックファンには、ニッティー・グリッティ・ダート・バンドが、カントリー、ブルーグラス界のスーパースターを集めて1972年に製作した「人間の絆」という超大作アルバムで有名。マリアは、1979年の「One For The Road」1979 E47で、レオン・ラッセルとウィリー・ネルソンと一緒にこの曲をちょっとだけ歌っていたが、ここではデュエットでたっぷり歌っている。特にアップテンポに変わるエンディングでのふたりの掛け合いが聴き応え十分。2.「Raining in My Heart」は、R&B歌手のスリム・ハーポ (1924-1970)が1961年に放ったヒット曲(全米34位)で、作者のジェイムス・ムーアはかれの本名。ジェリー・ルイス等がカバーしている。ちなみにFelice Bryant & Bouldleaux Bryant 作でバディ・ホリーが1959年に歌い、レオ・セイヤーが1978年にリバイバル・ヒットさせたものは同名異曲。ここではマリアはハーモニー・ボーカルに徹している。

マリアが名曲を歌っている作品として見逃せない作品。

[2010年12月作成]



E106 Stony Plain's Christmas Blues  2000 Various Artists  Stony Plain




Maria Muldaur : Vocal

[Duke Robillard Band]
Duke Robillard : Guitar
John Packer, Marty Ballou : Bass
Marty Richards : Drums
Dennis Taylor : Sax
Dave Babcock : Sax

Maria Muldaur, Duke Robillard : Producer
Holger Petersen : Compilation Producer

1. No Money, No Honey [Copyright Control] M32

 
ブルース、ルーツ、フォークを得意とするカナダの独立レーベル、ストーニー・プレインが製作したブルース音楽によるクリスマス・コンピレーション・アルバム。ジミー・ウィザースプーン(1992-1997)、ジェイ・マクシャン(1916-2006)、ロスコ・ゴードン(1928-2002)、ビリー・ボーイ・アーノルド(1935- )、ロング・ジョン・ボルドリー(1941-2005)、ロイ・ベンソン率いるアスリープ・アット・ザ・ホイール、デビッド・ウィルコックスなど、同レーベルに縁があるアーティスト達に混じって、マリアも1曲参加している。

1.「No Money, No Honey」は、「Santa Claus Blues」というタイトルで有名な曲で、CDのクレジットでは「Copyright Control」と表示されているが、作曲者は Gus Khanと Charley Straight。1925年、ピアニスト、プロデューサーのクラレンス・ウィリアムス(1998-1965)が、奥さんのエヴァ・テイラー(1895-1977)のボーカルで録音したものがオリジナル。そこには、キング・オリバーのバンドから独立し、フレッチャー・ヘンダーソン楽団で活躍していた売り出し中の若きルイ・アームストロング(1901-1971)が加わっていたため、歴史に残る演奏になった。1925年10月8日に行われた最初の録音は、全編スローなアレンジだったが、1週間後の10月16日にはアップテンポの賑やかなバージョンが録音され、マリアは後者を参考にプロデュースしている。ただし彼女は、「The merry bells are ringing to day, but they don´t mean nothing to me ......」という導入部分を省略し、コーラス部分「No money no honey to buy a present for me」から歌い始めている。伴奏のデューク・ロビラードは、ブルースをメインとしながら、ジャズ、スウィング、ロックンロールなど幅広い音楽をカバーするギタリストで、本作では14曲中6曲でバックを担当している。ちなみに彼は、マリアが参加したジェイ・マクシャンのアルバム「Still Jumpin' The Blues」1999 E98、「Goin' To Kansas City」2003 E120でもバックを担当、2018年の自己名義のアルバム「Duke Robullard & His Dames Of Rhythm」E146では、マリアがゲスト参加している。マリアは野太い声で豪快に歌い飛ばし、間奏のバリトン・サックス、デュークのアコースティック・ギターによるコード・カッティングのソロも快調。マリアが「オーイエー」と合いの手を入れながら、ソロの終盤でスキャットを入れて合わせるあたりは、ライブな雰囲気に溢れていて魅力的。

マリアによるクリスマス・ソングのメニューに是非加えましょう!

[2010年11月作成]

[2020年4月追記]
デューク・ロビラードが2015年に発表したアルバム「The Acoustic Blues & Roots of Duke Robillard」に収録された「Santa Claus Blues」は、本作「No Money, No Honey」と同録音です。


E108 Big Easy Boogie  2005 Mitch Woods  Club 88



 

Mitch Woods : Vocal, Piano
Maria Muldaur : Vocal (1,3), Back Vocal (2,4)
Charmaine Neville : Back Vocal
Jimmy Moliere : Guitar
Erving Charles Jr. :Bass
Earl Palmer : Drums
Herb Hardesty : Tenor Sax
Fred Sheppard : Tenor Sax
Clarence Johnson III : Tenor Sax
Reggie Houston : Baritone Sax
Dave Bartholomew : Trumpet

Mitch Woods, Dave Bartholomew : Producer

1. Thought I Heard Satchmo Say [Mitch Woods]
2. Counting The Days [Mitch Woods]
3. Mojo Mambo [Mitch Woods]  E144
4. Back In My Arms Again [Mitch Woods]

Recorded in New Orleans, LA at the Boiler Room, November 2000


ミッチ・ウッズ(1951- )は、ニューヨークのブルックリン生まれで、1970年代からサンフランシスコを活動拠点として、ブギウギ、ジャンプ・ブルース、ジャズを演奏している。本人は自分の音楽を「Rock-a-Boggie」と呼んでいるそうで、ブギウギ音楽に対する思い入れはかなり強そうだ。本作は、そんな彼の7枚目のアルバムで、ファッツ・ドミノ・バンドのミュージシャンをバックにニューオリンズで録音したもの。ただし2000年に録音したのに発売は5年後となっており、製作にあたっていろいろ苦労があったようだ。そのためか、本作にはボーナス・ディスクとしてDVDがついており、そこでは本作の録音風景(マリアは映っていない)や、ミュージシャンとのインタビュー、2002年に、本作に参加したミュージシャンの多くと出演したニューリンズ・ヘリテッジ・フェスティバルでのコンサート映像を観ることができる。

マリアは、13曲中4曲に参加している。1. 「Thought I Heard Satchmo Say」は、タイトルにルイ・アームストロングが出てくるように、ジャズっぽいブルースで、マリアは曲が盛り上がったところで、妖艶な歌詞でカメオ出演する。その内容は、彼女のオハコである「Don't You Feel My Leg」の一節と大変良く似ている。アール・パーマー (1924-2008) は、ニューオリンズで一番のドラム奏者で、ファッツ・ドミノ、リトル・リチャード、サム・クックからエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、エリントンまで幅広い音楽のセッションに参加したという伝説的なプレイヤーだ。マリアとは「Waitress In A Donut Shop」1974 M3や「Sweet Harmony」1976 M4でプレイした他、当時の彼女のバックバンドの一員でもあった。また同時期に、ランディ・ニューマン、トム・ウェイツ、ボニー・レイット、リトルフィートといったマリアと同世代のミュージシャンのバックも担当している。2.「Counting The Days」は、ブラスバンドとバックコーラスがゴキゲンなロックンロール。曲毎の正確なパーソナルの表示がないけど、ここでのバックコーラスは少なくても2名の女性で、そのひとりがマリアと思われる。もうひとりと思われるシャーメイン・ネヴィルは、ネヴィル・ブラザースの一員であるチャールズの娘だ。エンディングでは、マリアが合いの手を入れている。3.「Mojo Mambo」は、ミッチとマリアのデュエットで、ニューオリンズ風ファンクのサウンドによるカッコイイ曲。間奏でミッチは乗りの良いピアノソロを入れる。4.「Back In My Arms Again」でのバックコーラスは、声質からマリアが加わっているものと思われる。

他の曲では、軽快なブギウギやロッカ・バラードを聴くことができる。ファッツ・ドミノ等のニューオリンズのロックンローラーに捧げた直球勝負のアルバム。

[2011年8月作成]


E109 Clinch Mountain Sweethearts  2001 Ralph Stanley & Friends Rebel


Ralph Stanley : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Ralph Stanley, Steve Sporkman : Banjo
James Alan Shelton : Lead Guitar
Ralph Stanley II : Rhythm Guitar
John Rigsby : Mandolin
James Price : Fiddle, Bass

Bil Vorn Dick : Producer

1. The Memory Of Your Smile [Ruby Rakes] E83


マリアは、以前マイク・シーガーの「Third Annual Farewll Reunion」1994 E83でこの曲を歌っていたが、本作は本家本元との共演。

スタンレー・ブラザースは、ビル・モンロー、フラット・アンド・スクラッグスと並ぶブルーグラス創世記の巨人だ。もともとトラディショナルなストリング・バンドのスタイルから始めて、ブルーグラス、カントリーのみならずゴスペル、ホンキートンクなど幅広い音楽性を発揮した。兄のカーターは 1966年に41歳の若さで病没したが、ラルフ(1927-2016)はその後も元気にソロ活動を続け、80才を超えた2011年になっても自己名義のアルバムを発表していた。本作は女性歌手とのデュエットを特集した企画盤で、マリアの他に、ジョーン・バエズやギリアン・ウェルチなどのフォークシンガーや、ドリー・パートン、パム・ティリス、アイリス・デマント、ゲイル・デイヴィース(マリアがデビューアルバムで歌っていた「Long Hard Climb」の作者ロン・デイヴィースの妹)、サラ・エバンスなどカントリー音楽界から錚々たる歌手が参加している。

1.「The Memory Of Your Smile」の作者ルビイ・レイクスは、カーター・スタンレーのペンネームで、スタンレー・ブラザースは、この曲を1959年9月30日に初録音している。最初はマリアが一人で歌い、コーラス部分では二人の合唱になり、マリアはハーモニーを担当する。ミドルテンポであるが、バックで鳴り続けるバンジョー、間奏のフィドルソロがブルーグラスの香りを伝え、ブルース、ゴスペルの色も濃く出ている曲。そういう意味でマリアは、適任であるが、他の女性歌手と比較して異色の存在になっている。

年輪を感じさせるラルフの皺枯れた声と、女性シンガー達のカラフルな声の対比が面白い雰囲気を醸し出しており、バックのクリンチ・マウンテン・ボーイズの演奏も手堅い。オーセンティックなカントリー、ブルーグラス音楽を、ゆったりと聴ける作品だ。

[2011年6月作成]


E110 The Long Haul 2001 Pete Sears  33rd Street



Maria Muldaur : Vocal
Pete Sears : Accordion
Alvin Youngblood Hart : Rhythm Guitar
Steve Kimock : Slide Guitar
Jack Casady : Bass Balalaika
Ernest Carter : Drums

Pete Sears, Paul Stubblebine : Producer

1. Marin County Blues [Sears, Sears, Baysinger]


ピート・シアーズはイギリス人で、フェイセズから独立したロッド・ステュアートの初期ソロアルバムのバックで有名になった。後に活動の場をアメリカに移し、1974〜1987年の長期間にわたりジェファーソン・スターシップのメンバーとして活躍、キーボードとベースの担当楽器の他に、多くの曲を提供した。その後はホット・ツナ、エイモス・ギャレット、ニック・グレイブナイツ等のセッションに参加、現在はヨーマ・コウコウネンと活動を共にしている。彼は1988年にジェリー・ガルシア、デビッド・グリスマン等をバックにソロアルバム「Watchfire」を発表しており、本作は2枚目の作品にあたる。ここでは、ヨーマ・コウコウネン、ニック・グレイブナイツ、レヴォン・ヘルム、チャーリー・ミュッセルホワイト、ピーター・ローワン、デビッド・グリスマン、ジョン・リー・フッカーなどがゲストとして参加、マリアも1曲歌っている。そういえば、マリアはホット・ツナのライブ 「Live At Sweet Water」1992 E77、E78 のゲスト出演で、ピートと共演していたね。

1.「Marin County Blues」のマリン・カウンティとは、サンフランシスコ市から金門橋を渡った所にある地域で、世帯当たりの所得がアメリカ国内でも屈指の場所という。歌詞の内容は、この地でのリッチな暮らしの大変さを歌ったもので、この地に住んでいるマリア自身の事を歌っているかのようだ。ピートはアコーディオンを演奏、アコースティックなサウンドによる短くこじんまりとした感じの曲だ。アルヴィン・ヤングブラッド・ハート(1963- )は、本作と同じ2001年に発表されたアルバム「Richland Woman Blues」M20でマリアと共演したブルース歌手で、チャーリー・パットン、ブラインド・ウィリー・マクテル、タジ・マハールやゲイリー・デイビスなどの正統派の流れを汲むギタリスト、シンガー・アンド・ソングライターだ。スティーブ・キモックは、ジェリー・ガルシアのスタイルをくむプレイでグレイトフル・デッド・ファミリーでの演奏が多く、マリアとはマール・サンダースとのセッションE76 で共演している。その他ホット・ツナのベーシスト、ジャック・キャサディやブルース・スプリングスティーンのアルバムでドラムスを叩いていたアーネスト・カーターといった豪華なメンバーがバックで演奏している。

ジャケットは駅に佇むピートの姿を撮影したものであるが、よく見ると反対ホームでもう一人の彼は電車を待っており、空には複葉機が飛ぶなど、トリック写真になっているのが面白い。ブルース色の強い、渋い雰囲気のアルバム。

[2011年3月作成]


E111 35th Anniversary Jam Of The James Cotton Blues Band 2002 Telarc


Maria Muldaur : Vocal
Tab Benoit : Guitar

James Cotton : Harmonica
Mike Williams : Rhythm Guitar
David Maxwell : Piano
Noel Neal : Bass
Per Hanson : Drums

Randy Labbe : Producer

1. All Walks Of Life [James Cotton]


ジェイムス・コットン(1935-2017)は、ソニーボーイ・ウィリアムスンを聴いてハーモニカを始め、9歳の時から彼の家に6年間住み込んで、みっちり学んだという。そして1954年にマディ・ウォーターズのバンドに加入、以後12年間活動を共にして名声を確立する。独立後、1967年にジェイムス・コットン・ブルース・バンドを結成し、ブルース界におけるハーモニカ奏者の大御所的存在となる。本作は、バンド結成35周年を記念して製作されたもの。本作はタイトルの通りジャムセッションということで、新しい事への挑戦というよりも、ゲストを招いてお馴染みのレパートリーを楽しんで演奏している感がある。ほとんどの曲が直球勝負のブルースで、全12曲53分を通して聴くと疲れを感じてしまうが、彼のハーモニカには、ノートン・バッファローや、チャールズ・ミュッセルホワイト等の白人プレイヤーにはない「濃さ」があり、圧倒的な迫力で心に響いてくるのがスゴイ。

マリアが歌う 1.「All Walks Of Life」は、彼が1974年に発表した「100% Cotton」に収められていた曲で、オリジナルでは彼自身が歌っていたもの。彼女のドスの効いた声による本格的なブルース歌唱が楽しめる。それに絡むハーモニカのオブリガードがさすがですね。間奏でギターソロを弾くもう一人のゲスト、タブ・ベノトはニューオリンズで活躍するギタリスト、シンガー・アンド・ソングライターで、故スティーブ・レイ・ヴォーンの後継者とも言われている人だそうだ。ちなみにレギュラーメンバーでドラムスのパー・ハンソンは、マリアがエリック・ビブやロリー・ブロックと共演した「Sisters & Brothers」2004 M23にも参加している。

ジェイムス・コットンは、ボーカリストとしても一流だったが、1900年代の後半から喉を痛めて歌えなくなったという。そのため、他の曲では、マリアの他にココ・テイラー、ラッキー・ピーターソン、ロニー・ホウキンス等がゲストで歌っている。またホール・アンド・オーツやボブ・ディランのツアーバンドで活躍したG. E. スミスや、スティーブ・レイヴォーンのお兄さんであるジミ・ヴォーン等がギタリストとして参加しており、特に前者は、「Blues In My Sleep」で卓越したギターソロを聴かせてくれる。

マリアがブルースの大御所と共演した作品。



E112 Blues White Album  2002  Various Artists  Telarc




Maria Muldaur : Vocal
Chris Duarte : Lead Guitar
G.E. Smith : Guitar
T-Bone Wolk : Bass
Peter Re : Organ
Steve Holley : Drums

Randy Labbe : Producer

1. Ob-la-di, Ob-la-da [Lennon, McCartney]

Recorded at The Studio, Portland, Maine, during June 2001


1968年に発表されたザ・ビートルズの「White Album」は、私にとって音楽の玉手箱、万華鏡だ。私のアルバムのシリアル番号は、「A078142」。「The Beatles」というロゴが盛り上がった白地のアルバムジャケット(茶色に変色してしまったが)、歌詞カード付きのポスター、4人のポートレイトは、今でも私の宝物だ。2枚のレコードにあるとあらゆる音楽が詰まっていて、アコースティック・ギターを使った曲が多いのも好みだった。

本作は、ブルース音楽界によるホワイト・アルバムへのトリビュートだ。マリアはポールの曲 1.「Ob-la-di, Ob-la-da」を歌っている。テキサスのブルース・ギタリストで、故スティーブ・レイボーンの後継者と言われるクリス・デュアルテがゲストで参加、ホール・アンド・オーツの全盛時代を支えた G.E. スミスとT ボーン・ウォックがハウスバンドとしてバックを務めている。G.E. スミス(1952- ) は1985年から10年間、人気テレビ番組「Saturday Night Live」のハウスバンドで音楽監督を担当したほか、1988年から2年半、ボブ・ディランのネバーエンディング・ツアーにも参加している。ここでのアレンジは、本アルバムの中では比較的さらっとしたものになっているが、原曲の軽いポップな雰囲気は影を潜めている。マリアの歌はシャウトせず抑え気味で、それがかえって深いエモーションを呼び起こし、曲のカラーを決定付けている。

その他ジミー・ザッカリーの「Why Don't We Do It On The Road」、アンダーズ・オズボーンの「Happiness Is A Warm Gun」、ジョー・ルイス・ウォーカーの「While My Guitar Gently Weeps」、T ボーン・ウォックによる「Don't Pass Me By」(リンゴの曲)、クリス・デュアルテの「I'm So Tired」、コリン・リンデンの「Blackbird」、ブルースハープの名手チャーリー・ミュッセルホワイトの「Dear Prudence」など全10曲が収録されており、もともとブルース的でない曲を如何に料理するかという、アレンジの妙とプロデューサーの手腕が見せどころの作品。


[2010年8月作成]


E113 Uncorked 2002  Christmas Jug Band  Glove


Angela Strehli : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Jim Rothermel : Tenor Sax, Kazoo
Notjoe (Nick Dewey) : Harmonica
Austin deLone : Piano
Paul Rogers : Accordion
Tim Eschliman : Bells, Kazoo, Back Vocal
Adam Gabriel : Guitar, Back Vocal
Greg "Duke" Dewey : Washboard
Blake Richardson : String Bass
Dan Hicks : Trap Drums, Back Vocal

Tim Eschliman : Producerl
Adam Gabriel : Executive Producer

1. Boogie Woogie Santa Claus [Henri Rene, Leon Rene] M32

Recorded at Boomtown, Sausalito, CA


1970年の半ば、各地のジャグバンド愛好家がカリフォルニアに滞在して、ジャムセッションを行った。それに参加したダン・ヒックスが彼らを招いて12月のクリスマスにコンサートを開催し、それが大評判となって、毎年行われるようになった。そのうちに彼らは、自分達の演奏を記念のために録音したが、それがブートレッグで出回ることになり、1987年にアルバム「Mstletoe Jam」が公式発売され、大成功を収めた。その後も毎年12月、各地から集まったミュージシャン達によるクリスマスコンサートが恒例となった。アルバムも製作され、本作は、「Tree-Side Hoot」1991、「Rhythm On The Roof」1997に続く4作目にあたる(その後2009年に5作目が発売された)。

主要メンバーのダン・ヒックス(1941-2016)は、サンフランシスコを本拠地に活躍、フォークを中心に、カントリー、スウィング、ジャズ、ブルース、ブルーグラスなどの音楽を取り込み、マシンガンのように軽妙なボーカルと強烈なユーモア・センスで、独自の音楽世界を作り上げた。プロのミュージシャンからの支持と、熱狂的なファンによりカスマチックな存在となっている人だ。マリアとの縁は深く、彼女の最初のアルバムに収録された必殺のスウィング曲「Walkin' One And Only」と、2枚目の「Sweetheart」は、彼の曲のカバーだ。また1998年の子供向けアルバム「Swingin' In The Rain」M18では彼の曲「Heck I'd Go !」を、2009年の「Maria Muldaur & Her Garden Of Joy」 M30でも一緒に歌っている。そういう縁からか、マリアはゲストシンガーとしてアンジェラ・ストレリ(彼女についてはE125を参照ください)と一緒に1曲歌っている。

1.「Boogie Woogie Santa Claus」は、1948年にMabel Scott の歌でヒットしたクリスマスソングで、パティ・ペイジ、ライオネル・ハンプトンなどがカバーした。メイベル・スコット(1915-2000)は、バージニア州生まれでニューヨーク育ち。若い頃はゴスペル音楽一辺倒だったが、渡欧後ロスアンジェルスに戻り、スウィンギーなR&Bを得意とするシンガーとして活躍、あのチャールズ・ブラウン(M19参照)の奥さんだったこともある。他のヒット曲では「Boogie Woogie Choo Choo Train」などがあるが、人気は長く続かず、晩年はゴスペルの世界に戻り、教会で歌っていたという。実はマリアと一緒に歌うアンジェラ・ストレリが、1989年にテキサス州オースチンで製作されたクリスマス・アルバム「Austin Ryhtm And Blues Christmas」でこの曲を歌っていて、そんな関係で、メンバーによるオリジナル曲が多い本作にカバー作品として取り上げられたのだろう。ブギウギのリズムによる軽快なジャンプ曲で、二人は交互に一緒に、気持ち良さそうに歌っている。

他の曲は、各ミュージシャンがリードボーカルを分け合っていて、和気藹々とした雰囲気がクリスマスにぴったり。オリジナル曲の出来もよく、マリアの音楽が好きな人ならば気に入ること請け合い!他のメンバーは、ジャグバンドの世界で地味なキャリアの人もいるようだが、トム・エスクリマン(と発音するのかな?)、やオースチン・デロンは、テキサス州でカントリー・ロックをやっているコマンダー・コディ一派のミュージシャンだ。

陽気で明るいクリスマスの音楽が楽しめる。


[2010年11月作成]


E114 This Land Is Your Land  Songs Of Unity 2002  Various Artists Music For Little People




John McCutcheon : Guitar, Vocal (Verses 1 and 4)
Maria Muldaur : Vocal (Verse 2)
Elouise Burrell, Emma Jean Fiege : Vocal (Verse 3)
Tom Paxton : Vocal (Verse 5)
Rosi Amador : Vocal (Verse 6)
Michael Bannett, Carrie Lyn : Vocal (Verse 7)
Willie Nelson : Vocal (Verse 8)
The Moonboo Chiles (Jon Carroll, JT Brown, Maura Kennedy) : Hamony Vocal on Choruses

Jon Caroll : Piano, Organ
Pete Kennedy : Electric Guitar
John Dawson : Sax
JT Brown : Bass
Robert 'Jos' Jospe : Drums, Percussion

John McCutcheon, Bob Dawson : Producer (Song)
Leib Ostrow : Producer (Album)

1. This Land Is Your Land [Woody Guthrie]


子供向けの良質な音楽を作り続けるミュージック・フォー・リトル・ピープルのプロデューサー、レイブ・オストロウは、若い頃の公民権運動の経験を原点として、現代の子供に人権と差別撤廃の種を蒔くために本作を製作したという。エリック・ビブ、タジ・マハール、ネヴィル・ブラザース、スウィート・ハネー・イン・ザ・ロック、ブライアン・ジョンソン(AC/DCのボーカリスト)といった人々が、ピート・シーガーの「If I Had A Hammer」をはじめとするトピカル・ソングを歌う。また俳優のダニー・グローバー、テッド・ダンソンやメリー・スティーンバーゲンによる朗読も入っており、そこでは公民権運動のきっかけになったという、白人にバスの席を譲ることを拒否した黒人少女の1955年のエピソードなどが語られている。本作においてマリアは、タイトルソングで1ヴァース歌っている。1.「This Land Is Your Land」は、1940年ウッディ・ガスリーが、アーヴィング・バーリンの「God Bless America」に対抗して、昔から歌われてきたゴスペルソングのメロディーに歌詞を付けて作曲したもので、本人は1944年に録音している。この曲は、1960年代に公民権運動のテーマソングとなり、以降多くの人に歌い継ぐがれている。最近ではブルース・スプリングスティーンがオバマ氏の選挙運動キャンペーンで歌い、また2009年1月18日の大統領就任式の記念コンサートで、ピート・シーガーと一緒に歌っていた。アメリカ人にとっては「もう一つの国歌」と言われるほど有名な曲だ。

ここではシンガーが1番づつ交代で歌う。1番と4番を歌うジョン・マッカチオン(1952- こういう風に発音するのかな?)は、フォーク界におけるマルチ奏者(特ににハンマー・ダルシマーが有名)で、子供向けの音楽をライフワークとして多くのアルバムを発表している。彼は本曲のプロデューサーも務め、彼のバック・バンドを率いて現代的なリズムを取り入れたアレンジを施している。マリアは2番を担当。ボーカルは各地のスタジオで別個に録音されたようで、クレジットから推定するに、マリアのトラックは彼女の地元サン・ラファエルにあるLaughing Tiger Studioで収録されたものだろう。エロイーズ・バレルとジーン・フィゲは、リンダ・ティレリイ(本作では別の曲に参加)率いるCultural Heritage Choir (マリアのアルバム「Meet Me Where They Play The Blues」1999 M19や「Yes We Can」2008 M29に参加)のメンバーだった人達。トム・パクストン(1937- )は、1960年代グリニッジ・ビレッジのフォークシーンでトピカルソングを歌ったフォークシンガーの一人で、その後もエレキギターに転向せず当初のスタイルを頑固に守り通し、現在に至るまで元気に活動を続けている人だ。ロシ・アマダーは、英語とスペイン語の両方を訛りなく完璧に話せる特技で、歌手・ナレーターとして活躍している。ここでは彼女はスペイン語で歌っている。マイケル・ベネットとキャリー・リンは、本作を製作したレコード会社に所属する子供歌手で、特に後者はマリアのアルバム「Animal Crackers In My Soup」2002 M21にも参加している。トリを務めるのはウィリー・ネルソンで、この人については説明不要だろう、ちなみに曲の最後に登場してサックスを吹いている人は、ニューライダーズ・オフ・ザ・パープル・セイジのジョン・ドウソンらしい。

歌詞1番分であるが、マリアがこの有名曲を歌う音源として聞き逃せないぞ。

[2010年12月作成]


E115 Gary Davis Style  2002 Various Artists  Inside Sounds





Maria Muldaur : Vocal
Ernie Hawkins : A. Guitar

Andy Cohen : Producer

1. I Am The Light Of This World [Traditional, Arranged By Gary Davis]


注: これは、マリアのソロアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20 の日本盤CDに収録されたボーナストラックと同じ録音です。


写真上: Gary Davis Style [Various Artists] (2002) ジャケット表紙
写真下: Rags & Bones [Ernie Hawkins] (2005) ジャケット表紙



レベレンド・ゲイリー・デイビス(1986-1972)は、ラグタイムブルース・ギターの巨人だ。生まれつき目が悪く、若いうちに全盲となった彼は、サウスキャロライナ州育ち。1933年に牧師となったため、他のブルースマンに比べてゴスペルやスピリチュアルのレパートリーが多いようだ。1940年代にニューヨークに移った彼は、教会に属さずにハーレムの街角でギターを弾きながら歌い、説教をしていたという。そして彼のギター演奏と音楽は、1960年のフォーク・リバイバルで脚光を浴び、多くのコンサートやフェスティバルに出演。白人の若者が彼の元にギターのレッスンを受けに集まるようになり、そのなかにはステファン・グロスマン、ライ・クーダー、ヨーマ・コウコウネンなど後に有名になったギタリスト達もいた。アーニー・ホウキンス(1947- )もその一人で、大学卒業後は心理学者になったが、音楽への夢を捨てきれず、1978年にフルタイムのミュージシャンに転向した。マリアも、当時のフォーク・リバイバルの現役として、ゲイリー・デイビスの音楽に親しみ、自分が住んでいた屋根裏部屋に彼を呼び、仲間と一緒のフーテナニー(仲間内だけのフォーク・コンサートや交流会のこと)に夜が明けるまで付き合ってもらったという。

「Gary Davis Style」は、ゲイリーの愛弟子の一人だったアンディー・コーヘンがプロデュースしたトリビュート・アルバムで、新録音のみでなく、ブラインド・ボーイ・フラーやピーター・ポール・アンド・マリーなどの古い録音も入っている。アーニー・ホウキンスは本作に収録する曲の録音のためにマリアと共演した。二人は、それまで面識はなかったが、その模様は「Richland Woman Blues」に掲載されたマリアのライナーノーツから、以下引用しよう。

「私達の音楽性は驚くほどピタリと一致した。まるで何十年も前から一緒にプレイしていたみたいに。曲そのものが歌ったりプレイしているように思えるほど、するすると事が進む。室内に立ち込めていたパワーにすっかり取り付かれた私達は、どうにも止まらなくなって、あれよあれよという間に次の歌に取り掛かっていたのだった。2枚のアルバム用に2曲、かかった時間は約35分! いつもこれくらい楽だったらいいのに!」

最初に録音した1.「I Am The Light Of This World」は、ゲイリー・デイビスが1935年アメリカン・レコード・カンパニーに吹き込んだ曲のひとつで、マリアはアーニーの伴奏で生き生きと歌っている。ちなみに本作でのこの曲のクレジットはマリアの名前となっており、アーニーひとりの演奏で録音した「Will There Be Stars In My Crown」が彼の名義で収録されている。「Richland Woman Blues」のオリジナル盤には、2曲目の「I Belong To The Band」のみが収録されたが、日本で発売されたCDにはボーナストラックとして「I Am The Light Of This World」も収められた。またアーニー・ホウキンスが後に出したソロアルバム「Rags & Bones」2005 にも同じ録音が収録されている。

日本盤の「Richland Woman Blues」を買わなかった人は、こちらをどうぞ。

[2010年7月作成]


E116 What Can I Give?  2002 Mark Fromm  


Mark Fromm : Vocal, Electric Guitar, Sleigh Bells
Clarence Clemons : Vocal, Tenor Sax
Rick Danko : Vocal, Back Vocal
Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal
Eric Anderson : Back Vocal
Jonah Fjeld : Back Vocal
Pete Sears : Piano, Organ
Bruce Linde : Bass
David Rokeach : Drums
Dennis Criteser : Additional Drum Programming, Synthesozer Programming, Co-Producer

1. What Can I Give For Christmas? [Mark Fromm]


マーク・フロムはカリフォルニア州オークランドをベースとして活躍する心理学者・精神分析医で、「Ask For Therapist」というカウンセリングのオンライン・サービスを主宰し、個人面接によるカウンセリングを行っている。本職におけるYouTubeへの投稿もあるが、本稿執筆時の2023年では、以前あった彼自身のホームページは閉鎖されているようなので、高齢等の理由により活動を控えているのではないかと推測される。彼は現地で「Singing Pcychologist」と呼ばれているそうで、音楽の趣味もかなりのものらしい。職業としてミュージシャン相手のカウンセリングも行っていたはずで、そのなかで培った人脈で本CDを制作したものと思われる。なおCDのシュリンク・カバーに添付されたシールには、「売上の30%を慈善団体に寄付する」と書かれていた。

私が本作の存在を知ったのは、Hideki Watanabe氏によるザ・バンドのサイトからだった(リック・ダンコが参加しているため)。しかし自主制作による本CDはすでに入手不可となっており、YouTubeや配信サービスにもなく、長年耳にすることができなかった。その後インターネットでいろいろサーチした結果、某アーカイブ・サイトに行きつき、そこで30秒のみのサンプル音源を聴くことができた。それはコーラス部分の抜粋だったが、ハーモニー・ボーカルをつけるマリアの声がはっきり聞き取れた。そして存在を知ってから10年以上経った後の2023年になって、CDを入手することができた。

1.「What Can I Give For Christmas?」はマーク自作の曲で、「Jingle Bell」のメロディーとソリの鈴のイントロから始まるR&B調の軽快な曲。「クリスマスはもらうだけでなくて、与えることをしなければ」といった内容のチャリティーの趣旨に合った内容の歌だ。マークのボーカルは上手いけど少しだけ素人っぽい。その間に少しだけ入る低い声の主は間奏でサックスを吹いているクラレンス・クレモンス(1942-2011 ブルース・スプリングスティーンのEストリート・バンドのメンバーだった人)と思われる。セカンド・ヴァースとその後のコーラスからマリアのハーモニー・ボーカルが加わり、ブリッジ部分はリック・ダンコがソロで歌い、マリアはその最後にもハーモニーを付けている。エンディング前のブレイクで、マリアによるサンタクロースの「ホウホウホウ」が入るのが可笑しい。エンディングではコーラス隊が自由な雰囲気になって、マリアの声が単独で聞こえる部分もある。エリック・アンダーセンがバック・ボーカルで参加しているというが、はっきりとは聞き取れなかった。伴奏者ではジェファーソン・スターシップ、ホット・ツナでピアノを弾いていたピート・シアーズが有名どころ。なおマリアは彼のアルバム「Long Haul」2001 E110にゲスト参加している。

CDには全7曲収録されており、1を除く 6曲は、彼が2003年に出した自主制作アルバム「Preparation Of The Bridegroom」からの4曲と、セッション・アウトテイク2曲からなっている。なお、同アルバムについては 2022年に全曲がYouTubeにアップされている。

マリアのハーモニー・ボーカルがたっぷり楽しめる。

[2023年12月作成]