E115 Gary Davis Style 2002 Various Artists Inside Sounds | |
Maria Muldaur : Vocal Ernie Hawkins : A. Guitar Andy Cohen : Producer 1. I Am The Light Of This World [Traditional, Arranged By Gary Davis] 注: これは、マリアのソロアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20 の日本盤CDに収録されたボーナストラックと同じ録音です。 写真上: Gary Davis Style [Various Artists] (2002) ジャケット表紙 写真下: Rags & Bones [Ernie Hawkins] (2005) ジャケット表紙 |
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レベレンド・ゲイリー・デイビス(1986-1972)は、ラグタイムブルース・ギターの巨人だ。生まれつき目が悪く、若いうちに全盲となった彼は、サウスキャロライナ州育ち。1933年に牧師となったため、他のブルースマンに比べてゴスペルやスピリチュアルのレパートリーが多いようだ。1940年代にニューヨークに移った彼は、教会に属さずにハーレムの街角でギターを弾きながら歌い、説教をしていたという。そして彼のギター演奏と音楽は、1960年のフォーク・リバイバルで脚光を浴び、多くのコンサートやフェスティバルに出演。白人の若者が彼の元にギターのレッスンを受けに集まるようになり、そのなかにはステファン・グロスマン、ライ・クーダー、ヨーマ・コウコウネンなど後に有名になったギタリスト達もいた。アーニー・ホウキンス(1947- )もその一人で、大学卒業後は心理学者になったが、音楽への夢を捨てきれず、1978年にフルタイムのミュージシャンに転向した。マリアも、当時のフォーク・リバイバルの現役として、ゲイリー・デイビスの音楽に親しみ、自分が住んでいた屋根裏部屋に彼を呼び、仲間と一緒のフーテナニー(仲間内だけのフォーク・コンサートや交流会のこと)に夜が明けるまで付き合ってもらったという。 「Gary Davis Style」は、ゲイリーの愛弟子の一人だったアンディー・コーヘンがプロデュースしたトリビュート・アルバムで、新録音のみでなく、ブラインド・ボーイ・フラーやピーター・ポール・アンド・マリーなどの古い録音も入っている。アーニー・ホウキンスは本作に収録する曲の録音のためにマリアと共演した。二人は、それまで面識はなかったが、その模様は「Richland Woman Blues」に掲載されたマリアのライナーノーツから、以下引用しよう。 「私達の音楽性は驚くほどピタリと一致した。まるで何十年も前から一緒にプレイしていたみたいに。曲そのものが歌ったりプレイしているように思えるほど、するすると事が進む。室内に立ち込めていたパワーにすっかり取り付かれた私達は、どうにも止まらなくなって、あれよあれよという間に次の歌に取り掛かっていたのだった。2枚のアルバム用に2曲、かかった時間は約35分! いつもこれくらい楽だったらいいのに!」 最初に録音した1.「I Am The Light Of This World」は、ゲイリー・デイビスが1935年アメリカン・レコード・カンパニーに吹き込んだ曲のひとつで、マリアはアーニーの伴奏で生き生きと歌っている。ちなみに本作でのこの曲のクレジットはマリアの名前となっており、アーニーひとりの演奏で録音した「Will There Be Stars In My Crown」が彼の名義で収録されている。「Richland Woman Blues」のオリジナル盤には、2曲目の「I Belong To The Band」のみが収録されたが、日本で発売されたCDにはボーナストラックとして「I Am The Light Of This World」も収められた。またアーニー・ホウキンスが後に出したソロアルバム「Rags & Bones」2005 にも同じ録音が収録されている。 日本盤の「Richland Woman Blues」を買わなかった人は、こちらをどうぞ。 [2010年7月作成] |
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E116 What Can I Give? 2002 Mark Fromm | |
Mark Fromm : Vocal, Electric Guitar, Sleigh Bells Clarence Clemons : Vocal, Tenor Sax Rick Danko : Vocal, Back Vocal Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal Eric Anderson : Back Vocal Jonah Fjeld : Back Vocal Pete Sears : Piano, Organ Bruce Linde : Bass David Rokeach : Drums Dennis Criteser : Additional Drum Programming, Synthesozer Programming, Co-Producer 1. What Can I Give For Christmas? [Mark Fromm] |
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マーク・フロムはカリフォルニア州オークランドをベースとして活躍する心理学者・精神分析医で、「Ask For Therapist」というカウンセリングのオンライン・サービスを主宰し、個人面接によるカウンセリングを行っている。本職におけるYouTubeへの投稿もあるが、本稿執筆時の2023年では、以前あった彼自身のホームページは閉鎖されているようなので、高齢等の理由により活動を控えているのではないかと推測される。彼は現地で「Singing Pcychologist」と呼ばれているそうで、音楽の趣味もかなりのものらしい。職業としてミュージシャン相手のカウンセリングも行っていたはずで、そのなかで培った人脈で本CDを制作したものと思われる。なおCDのシュリンク・カバーに添付されたシールには、「売上の30%を慈善団体に寄付する」と書かれていた。 私が本作の存在を知ったのは、Hideki Watanabe氏によるザ・バンドのサイトからだった(リック・ダンコが参加しているため)。しかし自主制作による本CDはすでに入手不可となっており、YouTubeや配信サービスにもなく、長年耳にすることができなかった。その後インターネットでいろいろサーチした結果、某アーカイブ・サイトに行きつき、そこで30秒のみのサンプル音源を聴くことができた。それはコーラス部分の抜粋だったが、ハーモニー・ボーカルをつけるマリアの声がはっきり聞き取れた。そして存在を知ってから10年以上経った後の2023年になって、CDを入手することができた。 1.「What Can I Give For Christmas?」はマーク自作の曲で、「Jingle Bell」のメロディーとソリの鈴のイントロから始まるR&B調の軽快な曲。「クリスマスはもらうだけでなくて、与えることをしなければ」といった内容のチャリティーの趣旨に合った内容の歌だ。マークのボーカルは上手いけど少しだけ素人っぽい。その間に少しだけ入る低い声の主は間奏でサックスを吹いているクラレンス・クレモンス(1942-2011 ブルース・スプリングスティーンのEストリート・バンドのメンバーだった人)と思われる。セカンド・ヴァースとその後のコーラスからマリアのハーモニー・ボーカルが加わり、ブリッジ部分はリック・ダンコがソロで歌い、マリアはその最後にもハーモニーを付けている。エンディング前のブレイクで、マリアによるサンタクロースの「ホウホウホウ」が入るのが可笑しい。エンディングではコーラス隊が自由な雰囲気になって、マリアの声が単独で聞こえる部分もある。エリック・アンダーセンがバック・ボーカルで参加しているというが、はっきりとは聞き取れなかった。伴奏者ではジェファーソン・スターシップ、ホット・ツナでピアノを弾いていたピート・シアーズが有名どころ。なおマリアは彼のアルバム「Long Haul」2001 E110にゲスト参加している。 CDには全7曲収録されており、1を除く 6曲は、彼が2003年に出した自主制作アルバム「Preparation Of The Bridegroom」からの4曲と、セッション・アウトテイク2曲からなっている。なお、同アルバムについては 2022年に全曲がYouTubeにアップされている。 マリアのハーモニー・ボーカルがたっぷり楽しめる。 [2023年12月作成] |
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