E117 Shout, Sister Shout  2003 Various Artists  M.C. Records




Maria Muldaur : Vocal (1,2,4,6), Back Vocal
Angela Strehli : Vocal (2,5), Back Vocal
Marcia Ball : Vocal (2,3), Back Vocal
Tracy Nelson : Vocal (2,4), Back Vocal
Bonnie Raitt : Slide Guitar (1)
Del Ray : Guitar
Dave Mathews : Piano
Dewayne Pate : Bass
Kevin Hayes : Drums
Jim Rothermel : Sax (2,3)
Jeff Rewis : Trumpet (2,3)

Maria Muldaur : Producer
Mark Carpentieri : Executive Producer

2. My Journey To The Sky [Traditional]
5. Shout, Sister Shout [Mildner, Bryman, Williams, Hill]
10. I Want A Tall Skinny Papa [Millinder, Stafford, Simon]
13. Up Above My Head [Tharpe]
15. That's All [Tharpe]
16. I Looked Down The Line (And I Wondered)

Recorded Febuary 2002 at Laughing Tiger Studios, Dan Rafael, CA

注: 5. はマリア非参加 
   写真下 Laughing Tiger Studiosのホームページに掲載されたセッションの写真


トリビュート・アルバムの名作。

シスター・ロゼッタ・シャープ(1915-1973)は、ゴスペルの精神を保ちながら、世俗的な音楽の領域に乗り出しスーパースターになった人で、1930~1940年代は大変な人気があった。南部アーカンサス州に生まれ、子供の頃シカゴに移住する。母と一緒に教会でゴスペルを演奏しながら、プライベートでブルースやジャズを歌っていたという。1934年にニューヨークに引っ越した後、1938年に初めてレコーディングを行い、非宗教的な曲を歌ったことで、一般の指示を得て大ヒットとなった。彼女は大不況や戦時中も音楽活動を続け、戦後はマリー・ナイト(Marie Knight 1925-2009)と組んで多くのレコーディング、コンサートをこなしたが、1950年代に人気が下降した。その後1960年代後半のブルース・ブームの中で再評価され復活を果たしたが、1970年に健康を害し、1973年に亡くなった。歌手のみでなく、ソングライター、ギタリストとしての才能も豊かで、女性がギターを弾いて歌う事が珍しい時代にあって、彼女のプレイは後のミュージシャンに影響を与えるほどのものだった。

M. C. Records のオーナーであるマーク・カーペンテリにとって、彼女の音楽との出会いは、ベテランのロックンロール・シンガーであるスリーピー・ラビーフとレコード製作の契約を交わした際に、彼の自宅で聴かせてもらったのが初めてだったそうだ。その音楽に感銘を受けた彼は、彼女のトリビュート・アルバムを作る決心をする。その話がマリアに伝わり、彼女がシスター・ロゼッタ・シャープのファンだったことから、実現に至ったという。マリアは全17曲のうち6曲についてプロデュースを担当。親しいミュージシャンを集めて素晴らしい曲作りをしており、本作の成功に大いに貢献している。

2.「My Journey To The Sky」は1947年の録音がオリジナルで、マリアが太く伸びのある声で歌っている。CD解説書のクレジットには表示がないが、バックコーラスがフィーチャーされており、本セッションに参加したアンジェラ・ストレリ (E125参照)、マルシア・ボール(E125参照)、トレイシー・ネルソン (E93参照) の3人と思われる。ゴスペル・フィーリングに満ちたガッツのある歌唱と演奏が最高! ゲストのボニー・レイットによる心に滲みるスライドギターソロも素晴らしい。 7.「Shout, Sister Shout」(1941年の録音がオリジナル)は、本作のタイトル曲に相応しく、マリア、トレイシー、マルシア、アンジェラの順で1ヴァースづつ歌い、最後のコーラスを全員の合唱で締める感動の逸品。彼女らのブルースを触媒とする魂の絆を強烈に感じる作品。10.「I Want A Tall Skinny Papa」(オリジナルは1941年)はマルシアがリードボーカルをとり、他の女性人は掛け合いのコーラスを担当する。マリアはこの曲では歌っていないが、マルシアの歌に対し「イエー、アハー」とカッコイイ合いの手を返している。なお5. 10.の2曲では、おなじみのジム・ロサメル他のホーンセクションが加わっている。ここでは2人だけの参加だけど、多重録音によってジャズのビッグバンドのような厚みのある音を生み出している。13.「Up Above My Head」ではマリアとトレイシーが、1941年のオリジナル録音におけるマリー・ナイトとの掛け合いを再現している。本作6曲の全てでフィーチャーされる金髪のメタルボディー・ギター奏者、デル・レイ(M25参照)によるギタープレイのグルーヴ感が凄い!15.「That's All」(オリジナルは1938年)は、アンジェラ・ストレリが一人で歌い、バックコーラスは入らない。ここでもデル・レイのギターのメタリックな響きが前面に出ている。16.「I Looked Down The Line (And I Wondered)」(1939年がオリジナル)は、マリア一人による歌唱。その他のアーティストは、オデッタ、スウィート・ハニー・イン・ザ・ロック、フィービー・スノウ、ロリー・ブロック、ジャニス・イアンなど、ブルース、フォーク界で活躍する人達が揃っており、またシスターと一緒に歌った上述のマリー・ナイトのトラックもあり、それらのどれもが良い出来だ。さらに本CDはエンハンスト仕様になっており、パソコンにかけると本人が演奏する18.「Down By The Riverside」の映像を観ることができるのもうれしい。

曲の良さ、アーティスト達の歌に対する愛着、製作者の熱意の3拍子がそろい、出色の出来となった。マリアの作品群のなかでも最高のレベルと断定できる、是非後世に伝えたい作品。

[2010年12月作成]

[2023年1月追記]
マリアが参加した Garcia Project の「Spirit」2020 E149の記事を書いていたら、同じくゴスペル曲を取り上げている本作を聴きたくなりました。改めて素晴らしい作品だなと思い、マリアが参加していない曲について以下のとおり触れてみたいと思います。

曲目(曲名に続く年表示は、オリジナル発表年)
1. Nobody's Fault But Mine 1941[Traditional] Joan Osborne With The Holmes Brtothers
2. My Journey To The Sky 1947 [Traditional] Maria Muldaur With Bonnie Raitt On Lead Guitar
3. Rock Me 1938 [Dorsey] Toshi Reagon
4. Two Little Fishes And Five Loaves Of Bread 1944 [Haneghen] Odetta With The Holmes Brothers
5. Strange Things Happening Every Day 1944 [Sharpe] Michelle Shocked
6. This Train 1939 [Sharpe] Janis Ian
7. Shout, Sister, Shout 1941[Mildner, Bryman, Williams, Hill] Maria Muldaur, Marcia Ball, Angela Strehli, Tracy Nelson
8. Beams Of Heaven 1939 [Sharpe] Phoebe Snow With The Holmes Brothers
9. Precious Memories 1947 [Sharpe] Sweet Honey In The Rock
10. I Want A Tall Skinny Papa 1941[Millinder, Stafford, Simon] Marcia Ball
11. My Lord And I 1947 [Cambell] Victoria Williams With The Holmes Brothers
12. Stand By Me 1941[Tindley] Rory Block
13. Up Above My Head 1947 [Sharpe] Maria Muldaur And Tracy Nelson
14. Don't Take Everybody To Be Your Friend 1946 [Caroll, Sharpe] Joanna Connor
15. That's All 1938 [Sharpe] Angela Strehli
16. I Looked Down The Line (And I Wondered) 1939 [Sharpe] Maria Muldaur

17. Didn't It Rain 1947 [Knight, Sharpe] Marie Knight
18. Down By The Riverside 1948 [Traditional] Sister Rosetta Sharpe *

注: 18. Audio/Video Clip : Recorded in the early 1960's from TV Gospel Time
   黄色: マリア参加トラック 


全18曲は4つのカテゴリーに分けられる。一つ目は、原曲に比較的忠実なアレンジで、マリアがプロデュースする上記黄文字の6曲(詳細は上記で説明済)。昔のブルース・ミュージシャンに深い敬意を払い、その魂に自分達の心を合わせる人達によって制作されたものだ。二つ目は、ゴスペルやブルースの雰囲気をある程度残しながら、そこに現代的な風味を加えたもので、上記1. 4. 8. 11.のホルムス・ブラザースがバックを務める曲だ。彼らはブルース、ソウル、ゴスペル、カントリーなどのルーツ・ミュージックを演奏する3人組で、自己名義のアルバムの他、多くの著名アーティストのバックを務めたが、2015年うち2名が亡くなったため活動を停止した。1.「Nobody's Fault But Mine」は、数多くのアーティストが取り上げた名曲で、マリアも「Gospel Night」1980 M7で歌っている。ジョーン・オズボーン (1962- )は、ケンタッキー州出身のシンガー・ソングライター。メジャー・レーベルが推したポップ路線を嫌い、ブルース、ソウル寄りのロックを目指し、インディーズでの活動が中心。4.「Two Little Fishes And Five Loaves Of Bread」のオデッタ (1930-2008)は、ニューヨークのフォーク・ブームで活躍し、「アメリカン・フォーク・ミュージックの女王」と呼ばれる。彼女の低く太い声は男の人が歌っているようだ。8.「Beams Of Heaven」はご存じフィービー・スノウ(1950-2011 E93参照)。ここでの歌唱はスゴイ!11.「My Lord And I」を歌うヴィクトリア・ウィリアムス(1958- )は南カリフォルニアを活動拠点とするシンガー・シングライターで、先端的な作風の曲を書き、キャリア初期から多発性硬化症という難病と戦っている人。ここでの彼女の声には唯一無比の個性があるね。

3つ目は、ロゼッタ・シャープの曲をベースとしながら、自己の音楽に消化して歌うケース。3.「Rock Me」を歌うトシ・レーゴン(1964- )は、原曲との見分けがつかないほどファンキーなアレンジを施しているが、昔の曲を現代に蘇らせた好例と言える最高の出来になっている。5.「Strange Things Happening Every Day」のミシェル・ショックド(1962- )は、テキサス州出身のシンガー・ソングライター。マリアが普段歌うブルース、ゴスペルに近いサウンド作りだ。説明不要のジャニス・イアンは、6.「This Train」を弾き語りで、自分の音楽として表現しており、見事な出来。9.「Precious Memories」のスウィート・ハネー・イン・ザ・ロックはアカペラ合唱団で、伴奏なしの独自アレンジでゴスペルを歌い上げている。 自己のスタイルで12.「Stand By Me」を歌い切るロリー・ブロックについては、M23を参照。14.「Don't Take Everybody To Be Your Friend」 を歌うジョアンナ・コナー(1962- )は、シカゴで活動するブルース・シンガー、ギタリストで、自分の曲としてごく自然に歌っている。

最後の4つ目はオリジナル。17.「Didn't It Rain」のマリー・ナイトは、多くの曲でロゼッター・シャープ本人と一緒に歌っていた人で、この曲の初出レコードも二人のデュエットだった。ここでは後年の再録音が使われている。本人による 18.「Down By The Riverside」のみオーディオ・トラックではなく、パソコンで観ることができる1960年代のテレビ映像。

以上4つのカテゴリーをミックスすることにより、ロゼッタ・シャープが残した曲の普遍性を具現化し、聴きごたえ十分で飽きのこない作品に仕上げている。トリビュート・アルバムを買っても、お目当てのアーティストだけを聴いてしまいがちなんだけど、全体としてこれだけ面白いアルバムは滅多にないね!

[2010年12月作成]


E117 Beautiful  A Tribute To Gordon Lightfoot 2003 Various Artists  Borealis






Maria Muldaur : Vocal
John R. Burr : Keyboards, Synth Cello, Synth Strings
Gary Vogensen : Guitar
Pete Grant : Dobro

Colin Linden : Executive Producer

1. That Same Old Obsession [Gordon Lightfoot]


注: 表紙デザインは2通りあるようだ。
   写真上: 広告やネットショップに掲載された表紙
   写真下: 私が購入したCDの表紙

ゴードン・ライトフット(1938-2023)はカナダ・オンタリオ州の生まれで、同国を代表するシンガー・アンド・ソング・ライターだ。最初は、ピーター・ポール・アンド・マリー等に取り上げてヒットした「Early Morning Rain」や「For Lovin' Me」の作者として有名になった。その後もシンガーとしての活動は比較的地味だったが、1974年「Sundown」が全米1位となりブレイクした。良い作品を作り続けて、現在に至るまで音楽界を見事に生き抜いたが、フォークやカントリー音楽を色濃く残すスタイルのため日本においてはあまり売れず、私も彼の作品をじっくり聴いたことはなかった。本作は、彼が腹部大出血という大病のために静養中の頃に企画・製作されたトリビュート・アルバムだ。

マリアが歌う 1.「That Same Old Obsession」は、1972年のアルバム「Old Dan's Records」に収録された曲で、彼にとってはフォークからポップへの転換期の作品。彼の作品のなかでは、他のアーティストにカバーされず地味な存在であるが、フォーク音楽の素朴さが残った佳曲だと思う。何かに取り付かれることにより愛を失う悲劇を描いたもので、マリアは歌詞が心に響いたとライナーノーツで語っている。ここでのマリアは原曲に忠実に歌っているが、それでもブルージーな味わいが出ているところが彼女らしい。常連のジョン R. バーが、バックでキーボードとシンセサイザーを弾いている。ギターのゲリー・ボージェンセンは、1980年代にニューライダース・オブ・パープル・セイジのメンバーだった人で、最近ではアンジェラ・ストレリの「Blue Highway」 2005 E125で名前を見つけることができる。ドブロのピート・グラントは、ホイト・アクストンやリチャード・グリーンと一緒にやっていた人。

その他のトラックでは、カウボーイ・ジェンキンス、ブルース・コバーン「Ribbon Of Darkness」、ザ・トラジカリイ・ヒップなどのカナダのアーティストや、ロン・セクスミス、ジェシー・ウィンチェスター「Sundown」等が目ぼしいところで、最初は地味に感じるが、聴きこむと曲の良さがじわじわ出てくる渋いアルバム。


[2011年4月作成]


E119 Johnny's Blues  2003 Various Artists  Northern Blues Music




Maria Muldaur : Vocal
Del Rey : Guitar

Colin Linden : Executive Producer

1. Walkin' The Blues [Jonny Cash, Robert Lunn]


NHK衛星第2放送でジョニー・キャシュの伝記映画「Walk The Line (君に続く道)」(2005)を観た。ホアキン・フェニックスが主人公を、リース・ウィザースプーンがジューン・カーターを演じ、後者はアカデミー主演女優賞を受賞した。そしてT ボーン・バーネットが担当した音楽が素晴らしかった。ジョニー・キャッシュ(1932-2003)というとカントリー音楽界の大御所というイメージがあったが、この映画を観て、彼の音楽はゴスペルから始まり、ロカビリー、ロックンロール、フォーク、ブルースと幅広い分野に渡ることがわかった。またその人生も簡単なものではなく、若い頃に兄を事故で亡くしたトラウマ、既婚の身でありながらカーター・ファミリーの娘ジェーンに恋して再婚し、最後まで添い遂げたこと(彼は奥さんの死から4ヵ月後、その後を追うように亡くなった)、麻薬に耽溺して逮捕されたことなど波乱万丈。囚人の慰問のために監獄でコンサートを行う一方で、若いミュージシャンのロックや反体制音楽に理解を示し、自己のテレビショーに出演させたり、彼らの曲を積極的にカバーして支援した。そのリベラルな姿勢は、20世紀のアメリカ音楽・文化に大きな影響を与えたといえる。「Man In Black」と言われる、トレードマークの黒ずくめのステージ衣装で、低音で歌う様はカリスマのかたまりだ。

本作はブルース音楽家による彼へのトリビュート・アルバムで、カナダのブルースマン、コリン・リンデンが制作者となり、彼の他にクラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ガーランド・ジェフリーズ、アルヴィン・ヤングブラッド・ハート、スリーピー・ラビーフ、メイヴィス・ステイプルズ等といった渋い人達が参加、マリアは1.「Walkin' The Blues」を歌っている。この曲は1958年、彼がサンレコードから大手のコロンビアに移籍して、「Walk The Line」などの全米ヒットを連発していた時期に録音されたもので、同年発売のアルバム「Fabulous Johnny Cash」に収録された。マリアは、「Shout Sister Shout !」 2003 E117や、「Sweet Lovin' Ol' Soul」 2005 M25でギターを弾いていた女流ギタリスト、デル・レイ(詳細はM25参照)のギターのみの伴奏で、ハスキーな低音ヴォイスで歌っており、特に「I'm wearing out my shoes, but I'm walking the blues away」という一節が胸にずしりとくる。

地味な曲だけど、このブルース・フィーリングは捨てがたい魅力に溢れている。

[2010年8月作成]


E120 Goin' To Kansas City  2003  Jay McShann   Stony Plain


Jay McShann : Vocal, Piano
Maria Muldaur : Vocal

Holger Peterson : Producer

1. Confessin' The Blues [Jay McShann, Walter Brown]


1999年の「Still Jumpin' The Blues」E98 の続編といえる作品で、ジェイとマリア2回目の共演。ここでは二人のデュエットを堪能できる。 1.「Confessin' The Blues」オリジナル・バージョンの録音日は1941年4月30日で、当時ジェイのバンドに在籍していた若きチャーリー・パーカーが加わった「Swingmatism」、「Hootie Blues」、「Dexter Blues」も同じ日に録音され、それらはバード最初のレコーディング・セッションとして歴史に残ることになった。1.「Confessin' The Blues」は、彼のピアノとベース、ドラムスというトリオのバックにウォルター・ブラウンが歌を入れている。ビッグバンドによる演奏が普通だった当時のジャズ・レコードの中にあって、このような小編成による演奏は画期的で、デッカから発売されたレコードは大ヒットした。70年後の現在、この録音はジャズから派生してジャンルを確立してゆく R&B音楽の原点と評価されているそうだ。

ジェイの本拠地であるカンサスシティで録音されたという本作のバージョンは、ジェイのピアノのみによるシンプルな演奏。まず最初のヴァースをジェイが歌う。枯れた感じのピアノプレイは聴き応え十分なんだけど、彼のボーカルも実に味があるものだ。セカンド・ヴァースはマリアがソロをとる。そのけだるい雰囲気はとても良く、ジェイのピアノソロの間、マリアは合いの手をたくさん入れ、実に楽しそう。サード・ヴァースからは二人の掛け合いになる。

その他の曲では、前作E98と同じく、ギタリストのデューク・ロビラードがバックを担当し、「Trouble In My Mind」、「Ain't Nobody's Business」といったスタンダード曲や、ビートルズ等が歌ったR&Bの名曲で、本作のタイトルにもなった「Kansas City」のカバーが面白い。ジェイ・マクシャンは、その後2006年に90才で亡くなるが、本作が最後のスタジオ録音となった。なおCDにはボーナストラックとして、プロデューサーが本人へ行ったインタビューが収録されている。

[2011年7月作成]


E121 No Mockingbird  2003 Suzy Thompson  Native & Fine




Suzy Thompson : Vocal, Fiddle
Maria Muldaur : Vocal
Paul Hostetter, Eric Thompson : Guitar
Del Ray : Guitar, Ukelele, Guitar
Kate Brislin : Banjo
Steven Strauss : Bass

1. California Blues/Left All Alone Blues [Unknown / Anne Caldwell, Jerome kern]


スージー・トンプソンは、カントリー、ブルーグラス、ブルース、ラグ、ジャグバンド、ケイジャン等、幅広いジャンルのルーツ音楽をカバーするミュージシャンだ。フィドル奏者であるが、ギターやボタン式のケイジャン・アコーディオンもこなす。1970年代から様々なバンドで活動し、ギター、マンドリン奏者のエリック・トンプソンと出会って結婚、スージー・ロスフィールドからスージー・トンプソンになる。エリック・トンプソンは、昔ステファン・グロスマンのキッキング・ミュール・レコードから、ブルーグラス・フラットピッキングのアルバム「Bluegrass Guitar」1978(当時別売りだったタブ譜も購入して練習した思い出があるレコード) を出した人で、近年は二人での音楽活動が多いようだ。本作は彼女が2003年に発表した初めてのソロアルバムで、マリアの他にジェフ・マルダー、故フリッツ・リッチモンド、ニューロスト・シティー・ランブラーズの故マイク・シーガー、バンジョー奏者のビル・エバンス等とのセッションが収められている。ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドと「最初の女性フィドラー」マリアは、若きスージーのアイドルだったそうで、本作での共演後は「Sweet Lovin' Ol' Soul」 2005 M25以来マリアのレコーディングの常連になっている。

彼女はマーク・オコナーのように音程、テクニック面で完璧な奏者ではないが、フィドル本来の艶っぽい暖かな響きが持ち味。1.「California Blues/Left All Alone Blues」は、メドレーによる演奏。「California Blues」は、1920年代後半から1930年代前半にかけて活躍したアラバマ州出身のチャーリー(フィドル)とイラ(ギター)のストリップリング兄弟(The Strilpling Brothers) によるフィドルチューンで、オリジナルは1934年3月12日デッカでの録音。「Left All Alone Blues」は、もともとはジェローム・カーン(1985-1945) が初めてのミュージカル「The Night Boat」のために書いた曲で、当時はブローウェイの歌姫マリオン・ハリス(Marion Harris)の歌でヒット、ジョージ・ガーシュインの演奏を記録したピアノロールが残っている。ここではフィドル奏者 ルウ・ストークス(Lowe Stokes)が1920年代後半にカバーしたリズミカルなアレンジをベースとした明るく軽やかな感じの演奏で、マリアがメロディーを歌い、スージーがハーモニーを付けている。「I like dog, I'm fond of rabbit, I like goldfish, I like my habit」というナンセンスな歌詞の語呂合わせが面白い。

その他の曲では、ベッシー・スミス、ヴィクトリア・スパイヴィー、メンフィス・ミニーのブルース曲で、クセはないけど気だるい感じの歌声はそれなりに魅力的。昔のストリングス・バンドやジャグ・バンドのスタイルによるインストルメンタル、ブルーグラス、ラグタイム、スウィング調の曲など、楽しい曲が盛り沢山だ。全曲でバックを務めるエリック・トンプソンのギターのグルーブ感が素晴らしい。

[2011年7月作成]


E122 Livin' With The Blues  2004 Vassar Clements  Acoustic Music



Maria Muldaur : Vocal
Vassar Clements : Fiddle
Marc Silver : Guitar (1)
Dave Mathews : Piano (2)
Ruth Davies : Acoustic Bass (2)
Bobby Cochran : Drums (2)

David Grisman, Norton Buffalo : Producer

1. Honey Babe Blues [Doc Watson] M3
2. I Ain't Gonna Play No Second Fiddle [Traditional]


ヴァッサー・クレメンツ(1928-2005)は、50年代初めにビル・モンローのグループに加入した後、ブルーグラス界におけるフィドル奏者の筆頭として、多くのグループやセッションに参加した。その一方で柔軟な音楽性を持っていた彼は、いろんな分野のセッションに参加する。フォーク、ロックでは、ゴードン・ライトフット、J.J. ケール、スティーブ・グッドマン、グレイトフル・デッド、ディッキー・ベッツ、ザ・バンドの他、ザ・モンキーズの録音にも参加したという。そんな彼がロックファンの間で一躍有名になったのは、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドの大作「Will The Circle Be Unbroken」1972 だった。またジャズ音楽では、「ヒルビリー・ジャズ」という分野を生み出し、1985年にはステファン・グラッペリとの共演盤を製作、デビッド・グリスマンのドウグ・ミュージック作品の常連となった。そんな彼がグリスマンのレーベルで製作したブルース特集が本作である。ノートン・バッファロー、チャールズ・ミュッセルホワイト(ハーモニカ)、エルヴィン・ビショップ、ボブ・ブロズマン、ロイ・ロジャース(ギター)といったブルース界の錚々たるミュージシャンが集結、彼らとの共演というかたちで、ヴァッサーのプレイを存分に聴くことができる。グリスマンはプロデュースに専念。

マリアは2曲に参加。1.「Honey Babe Blues」は、ドック・ワトソンが義父のクラレンス・アシュレイと録音した 「Doc Watson Family」の録音がオリジナル。マリアは、2枚目のソロアルバム「Waitress In A Donut Shop」1974 M3で、ドック・アンド・マール・ワトソンとの共演で本曲を録音している。彼女は若い頃、前述のクラレンス・アシュレイにフィドルを習っており、そういう意味でも因縁の深い曲だ。ここでの彼女の歌声は、30年前と比べて太く皺枯れたが、それ以上に積み重ねられた人生の重みを感じるものだ。フィンガーピッキングのギターを弾いているのは、フォーク、ブルースのシンガー・アンド・ソングライターとして売り出し中のマーク・シルバー。彼は2007年からMarc Silver And The Stonethrowers というグループを組んで活動している。2.「I Ain't Gonna Play No Second Fiddle」は、1925年ベッシー・スミスがルイ・アームストロングのバックで録音した曲で、浮気な男に駄目だしをし、「私は第1奏者で、第2フィドルは弾かない」と言い放つブルースだ。ここではデイブ・マシューズ、ルース・デイヴィースといったマリアにとってお馴染みの人達がバックを務めている。ドラムスのボビー・コクランは、マイク・シャーマー、エルヴン・ビショップ等の作品に参加しているドラム奏者。マリアは水を得た魚のごとく、活き活き、のびのびと歌っている。マリアの歌にオブリガードを付け、間奏でソロを取るヴァッサーのフィドルには、独特の艶があり、それは他の奏者には出せないものだ。彼が奏でる音程は、ほんの僅かフラットしており、それはクラシックのトレーニングを受けた人には決して出せないもので、それが彼の個性、音楽の秘密になっていると思う。その音色は、バイオリンでなくフィドルと呼ぶに相応しい。

本作は、様々な音楽に取り組んだ彼が残した唯一
のブルース・アルバムであるが、彼が残した演奏のすべての底辺に感じられる強烈なブルース・フィーリングを体現した遺作となった。

[2010年10月作成]


 
E123 Still Groovin'  2004 Merl Saunders  SamMerTone
 


Merl Saunders : Vocal, Keyboards
Maria Muldaur : Vocal
Tony Saunders : Bass
Michael Hinton : Guitar
Vince Littleton : Drums
Little John Chrissley : Harmonica

Merl Saunders, Tony Saunders : Producer

1. Baby You Got What It Takes [Clyde Otis, Murray Stein, Brooke Benton]


2002年5月、マール・サンダースは脳溢血で倒れ、半身不随および言語障害の後遺症が残り、音楽界からの引退を余儀なくされた。息子でベース、キーボード奏者のトニー・サンダースは、プロデューサーとして有名なナラダ・マイケル・ウォルデンの薦めにより、マールが取り掛かっていたソロアルバムの製作を引き継いだ。彼は録音済のトラックを仕上げるとともに、マールを慕うミュージシャンを集めて追加録音を行って「Still Groovin'」というタイトルのアルバムを完成させ、病床の父親に捧げた。本作はサマトーンというマールの自主レーベルから発売されたが、家族は治療および介護のためにマールの家を売却するなど経済的にいろいろ大変だったはずで、CDジャケットの仕上げには自主製作盤風の手作り感がある。またジャケット下部には「Limited Edition for Bay Area Preview Party」と表示されており、本作が地元サンフランシスコのみで限定販売されたことを物語っている。そのため、2004年という発売年にもかかわらず中古市場に出回らず、大変入手しにくいアルバムになってしまった。かくいう私も長い期間をかけて探し、やっとめぐり合うことができた。

マリアとマールのデュエットによる1.「Baby You Got What It Takes」は、ブルック・ベントン(Brook Benton 1931-1988)とダイナ・ワシントン(Dinah Washington 1924-1963)のデュエットで、1960年に全米5位の大ヒットを記録したゴキゲンなR&Bのカバー。CD解説書には作者のクレジットが「Davis, Gordy, Fequa」と書かれているが、正しくはベントン・ブルック本人と、プロデューサーのクライド・オーティス、そしてマレー・ステインの共作だ。ブルック・ベントンは、作曲家としも多くの作品を残している人で、マリアは「Transblucency」1986 M11で彼の作品「Looking Back」を取り上げている。ストリングスを導入したR&Bスタイルは、彼のシルキイな歌声にマッチし、1958年のブレイク以降1970年代まで息の長い人気を誇った。ダイナ・ワシントンは1950年代が絶頂で、当時「最も人気がある黒人女性シンガー」、「ブルースの女王」と言われた人だ。ジャズ、ゴスペル、ブルース、ポップスなんでもござれで、その広い芸域のために一部の保守的なジャズ愛好家の批判を浴びたという。生涯に8回結婚したという奔放な人生を送った人らしく、酒に酔った状態でのダイエット・ピルの過剰摂取のため、1963年39才の若さで亡くなった。ここでのマールは、既に体調に問題があったようで、かつての縦横無尽のグルーヴ感がなく、そのボーカルはいまひとつ精彩に欠けている。といっても「彼にしては」という形容詞がつくもので、普通の基準では問題ないレベルだ。一方マリアは歯切れの良い歌いっぷりで、マールの不調を補っているかのようだ。

その他の作品について簡単に解説する。全13曲中マールが演奏しているトラックは8曲。「Rock Me Baby」や、メイヴィス・ステイプルズとのデュエット「Is The Grass Much Greener」等の歌ものの他に、ジャズ曲「Tenderly」のオルガンによるインストルメンタルもある。ボーナス・トラック的に収められたライブ録音の「Built For Comfort」は、ボニー・レイットのスライド・ギターがフィーチャーされた白熱のパフォーマンスだ。追加録音では、トニー・サンダースが父に捧げた曲「The Music Man」が素晴らしく、そこではノートン・バッファローのハーモニカや、セッション・シンガーの女性達と一緒に歌うヒューイ・ルイスの姿がある。またJ.J. Caleの「After Midnight」では、デビッド・グリスマンのマンドリン・ソロが入る。

冒頭のトラックでDJによるマール・サンダースの紹介があったり、最後に甥・姪っ子達によるメッセージが入ったり、彼に聴いてもらうことを念頭に作られたトリビュート・アルバムであるが、家族と仲間達の気持ちがひしひしと伝わってくる心暖まる作品。マール・サンダースは、その後も車椅子の姿でコンサートやパーティー等に姿を表し、皆の尊敬を受けながら6年半後の2008年10月24日、74才で亡くなった。


[2011年9月作成]


E124 Fins, Chrome And The Open Road  (A Tribute To The Cadillac) 2005 Various Artists  95North Recording Corp.

E103 Fins, Crhome And The Open Road

Maria Muldaur : Vocal
Denny Breau : Guitar
John Ross : Bass
Per Hanson : Drums

Landy Labbe : Producer

1. Solid Gold Cadillac [Black, Bowers]


GM社の公認を受けて製作された高級車キャディラックのトリビュート盤。キャディラックは、1902年から続く世界最古の自動車ブランド(1909年にGM社に買収)で、アメリカン・ドリームを体現する車だ。ここでは1950~1960年代のモデルをイメージしているようで、タイトルの「Fins」は、ボディ後部にあるヒレのような装飾のこと。本作にはブルース、ロックンロールのミュージシャンにより本作のために録音された21曲が収録され、うち6曲のプロデュースをマリア・マルダーのテラークでの諸作品を手がけたランディ・ラッベが担当している。

マリアの参加曲 1.「Solid Gold Cadillac」は、主にブロードウェイやキャバレー・シーンで活躍したエンターテイナー、パール・ベイリー(1918-1990)が1940年代に録音した曲で、30の大ホテル、油田、バッファローの群れと引き換えでもいいから、純金のキャディラックが欲しいというジャズ・テューン。原曲はビックバンドが伴奏を担当していたが、マリアはギター・トリオの伴奏でこじんまりと歌っている。バックのミュージシャンのうち、ドラムスのパー・ハンソンは、マリア、ロリー・ブロック、エリック・ビブの共演盤「Sisters & Brothers」2004 M23でドラムを叩いていた人。マリアは、4ビートのリズムをバックに低音のハスキーヴォイスでじっくりと歌い、ユーモラスな歌詞が醸し出す軽妙洒脱なムードをうまく表現している。

ちなみにパール・ベイリーによるオリジナルが発表されたしばらく後に、同名のブロードウェイ舞台劇がヒットし、1956年リチャード・クワイン監督による映画「The Solid Gold Cadillac」が公開された。少数株主の主人公が会社を私物化する経営陣に対抗、株主総会の議決で他の少数株主の支持を集めて勝利し会社を救う話で、アメリカの資本主義と民主主義を風刺したコメディーだった。主演のジュディ・ホリデイは才能豊かなコメディエンヌだったが、1965年に病気で夭折したこと、未公開の映画が多かったため、日本では無名の存在。この映画は白黒だったが、ラストで、主人公が株主達から贈られた純金のキャディラックに乗るシーンのみカラーという面白い趣向だった。上記の曲と映画の直接の関連はないが、映画の宣伝の際にこの曲が使用されたそうだ。

他の曲では、やはり同じプロデューサーによる曲が面白く、バックミュージシャンも同じなので、シンガーが異なっても統一感がある。特にロリー・ブロックの歌とスライドギターが出色。他の曲のシンガーは、ハーモニカのチャーリー・ミュッセルホワイト、ウェット・ウィリーのメンバーでオールマンブラザースなどのセッションに参加したジミー・ホ-ル、ジョニー・キャシュの後継者と言えるジム・ロウダーデイル、ブルースのリトル・ミルトンだ。

マリアのジャズ歌唱の素晴らしさが味わえる。

[2010年5月作成]


E125 Blue Highway  2005  Angla Strehli  M.C. Records


Angela Strehli : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Marcia Ball : Vocal
Mighty Mike Schermer : Guitar
Gary Vogensen : Guitar
Steve Ehrmann : Bass
Paul Revelli : Drums
John Lee Sanders : Piano

2. Blue Hightway [Strehli, Ehrmann]

Recorded at Laughing Tiger Studios, San Rafael, California


アンジェラ・ストレーリ(1945- )はテキサス州生まれで、若い頃からブルース音楽に没頭、ジミー・ヴォーン(故スティーブ・レイ・ヴォーンのお兄さん)等とバンド活動をしていたという。1975年にテキサス州オースチンにあるライブハウス、アントンズのスタッフになる。オーナーのクリフォード・アントン(1949-2006)は、同地を「全米一のライブ音楽の街」にした立役者で、スティーブ・レイ・ヴォーンの売り出しに一役買った人。アンジェラは、彼が設立したレコード会社から1986年レコード・デビューを果たした。その後1990年代にラウンダーからアルバムを発表、全国的な知名度を獲得してテキサス州ブルースシーンの中心人物となった。現在はサン・フランシスコを本拠地として活動している。マリアとは関係が深いようで、2001年の「Richland Woman Blues」M20がレコード上の初共演。全体的にマリアの音楽との親和性は高いが、マリアのほうが音楽の幅が広いところが違いかな。

本作は、彼女が2005年に発表した4枚目のソロアルバムで、タイトル曲 2.「Blue Hightway」では、アンジェラ、マリア、そしてマルシア・ボールの3者共演を楽しむことができる。マルシア・ボール(1949- )もテキサス州生まれで、1970年よりずっとオースチンに住んでいる。歌のみでなく、ブルース、ブギウギ、スワンプロックのスタイルを合わせ持つピアノの名手としても有名。1980~1990年代はラウンダーから、2000年代はアリゲーターというレーベルからアルバムを発表している。本作以前の作品として、アンジェラ、ルウ・アン・バートンとの共演盤(1900) がある。曲はスローテンポで、3人によるコーラスから始まり、ファースト・ヴァースはアンジェラが歌う。彼女のコシのある声はとても魅力的。マルシアの事を念頭に置いて作ったそうで、各地を巡業するブルース音楽家の生き様を描いた歌だ。次にマリアが歌い、「ニューヨーク・シティーからニューオリンズまで、マディー・ウォーターズからボビー・ブランドまで、何でも見てきた」という一節は説得力がある。マルシアが最後のヴァースを歌った後に、「I ride a blue highway」というコーラスのリフがしばらく続き終わる。共作者のベーシスト、スティーブ・アーマンは、ジョン・リー・フッカーやロイ・ロジャース、ロベン・フォード等のアルバムに参加している。ギタリストのマイティ・マイク・シャーマーは、ハワード・テイト、エルヴィン・ビショップ等の作品に参加、現在はマルシア・ボールのバックを務めながら、自己のバンドで音楽活動を展開、2004年以降数枚のアルバムを発表している。特に2005年の「Next Set」E126、2007年の「Right Hand Man Vol.1」 E129では、マリアがゲストボーカルとして参加しており、要チェックだ。

他の曲では、前述のクリフォード・アントンをテーマとしたドキュメンタリー・フィルムの音楽として録音された、彼に捧げる曲「Austin's Home Of The Blues」、1990年ヘリコプター事故のために亡くなったスティーブ・レイ・ヴォーンとのライブ音源「C.O.D.」などが聴きもの。アルバムに収録された10曲のうち、3分の2が彼女のオリジナルで、それらは、とても良い曲だと思う

単なる話題作りのための共演に留まらない、3人の魂の連帯感を強く感じるパフォーマンスだ。ちなみにシスター・ロゼッタ・シャープのトリビュート盤 「Shout, Sister, Shout !」2003 E117では、彼女達にトレイシー・ネルソンを加えた豪華な共演を聴くことができる。

[2010年10月作成]


E126 Next Set  2005  Mighty Mike Schermer   Fine Dog






Maria Muldaur : Vocal
Angela Strehli : Vocal
Mike Schermer : E. Guitar, Back Vocal
Dale Ockerman : Keyboards
Steve Ehrmann : Bass
June Core : Drums

1. Rain Down Tears [Henry Glover,Rudy Toombs] M33

写真上: オリジナル盤の表紙
写真下: 再発盤の表紙
マイク・シャーマーは、ベイエリアで活躍するブルース・ギタリストで、レコーディング・セッションに参加するようになったのは1990年代末からなので、若手といってもいいだろう。1984年に観たアルバート・キングのライブが人生の転機になったそうで、テレキャスター一筋でエフェクターを使わないオーセンティックなプレイの原点になっている。地元でメキメキ売り出し、テキサスから引っ越してきたアンジェラ・ストレリ(E125参照)のバックを担当し、アルバム「Blue Highway」で重要な役割を果たした。またハワード・テイト、ボニー・レイットやマルシア・ボール、マリア・マルダーのライブにも参加している(マリアのライブ音源は1999年の「Sing Out For Seva」E103がある)。2007年以降はブルースギターの大御所、エルヴィン・ビショップのバンドでギターを弾く他に、様々なコンサートにも参加している。そんな彼が始めて発売したソロアルバムが「First Set」2000 で、本作は2枚目の作品。

1.「Rain Down Tears」は、チャビー・チェッカーが1960年に大ヒットさせた「The Twist」の作者として有名なハンク・バラード(1927-2003)が1960年に録音したR&Bで、ここでのサウンドは、ザ・バンドのレヴォン・ヘルムが1977年に発表したアルバム「Levon Helm & The RCO All Stars」でのカバーバージョンに近い。マリア、アンジェラ、マイクの3声によるコーラスが豪華かつ魅力的な曲だ。マイク本人は左チェンネルでバックコーラスに専念、センターのアンジェラと右チェンネルのマリアは歌いながら、交互にソロもとっている。

彼のボーカルは、黒人歌手のようなダークな奥深さはないが、聴いていて生理的に心地よい声で、持ち前の直球オンリーど根性ギターと合わせて聴き応え十分。また本アルバムは、全12曲中10曲が彼の作品で、ソングライターとしての才能も遺憾なく発揮している。地元でヒットしたポップなサウンドの「My Big Sister's Radio」はとっつきやすく、またスケールが大きなラブソング「Real Fine Love」は、名曲と言っても過言でない。実際はどうかわからないが、オーバーダビングやエフェクト加味などのスタジオでの録音技巧を廃した一発録りのような臨場感があり、エキサイティングな雰囲気に満ちている。ブルースはこうでなくちゃね!

マリアのブルースが好きな人は、絶対気に入るアルバム。

[2010年12月作成]


 
E127 No Direction Home  2005  Bob Dylan   Paramount Pictures
 
Maria Muldaur : Vocal

1. Lord Protect My Child [Bob Dylan] E80



私にとって、ボブ・ディランの音楽は、① 「Freewheelin'」1963, 「The Times They Are A-Changin'」1964 のフォーク・ムーヴメントの頂点に立つ時期、②「Highway 61 Revisted」1965、「Blond On Blond」1966、ホウクス(後のザ・バンド)とのヨーロッパでのライブにおけるロックの時代、③サラ・ラウンズとの離婚をきっかけとして創造力が爆発する「Blood On The Tracks」1975、「Desire」1976とローリング・サンダー・レビューの時代が最高だ。2005年に発表された「No Direction Home」は、①②におけるディランの軌跡を捉えた記録映画で、タイトルは名曲「Like A Rolling Stone」1965の歌詞の一節からとったもの。彼の音楽が受け入れられた社会的背景と、その後社会が彼に期待する姿とのギャップに直面し、逆らってロックに変貌してゆく過程を見事に捉えている。映画は、本人および当時の関係者へのインタビューとディランの記者会見、テレビ映像、ライブパフォーマンスやオフステージでの姿を散りばめ、209分におよぶ長編となった。最初はアメリカのPBSテレビ、イギリスのBBCで放送され、日本ではNHKハイビジョンで放送された。また同年2枚組のDVDが発売され、そこには記録映画には収録されなかった(または一部しか収録されなかった)ディランのフル演奏(カットがない1曲通しの演奏)と、ゲストによるディランの曲のパフォーマンスが収められ、そのなかの1曲でマリアが歌っている。

本編の事を話すと長くなるので、マリアの歌について先に書こう。彼女は、インタビューが収録されたカフェ(グリニッジ・ビレッジのイメージかな?)のセットで、テーブル席に座りながら 1.「Lord Protect My Child」をアカペラで歌う。この曲は、ボブ・ディランが1983年のアルバム「Infidels」のセッションで録音したが、アルバムに収録されず未発表になった曲で、後の1991年「Bootleg Series Vol. 1-3」で初めて公式発売された。当時のディランの創作力は大変充実していたようで、何でこの曲がアウトテイクに?という作品がいっぱいあったが、この曲もそのひとつ。マリアは、わが子への思い込めた歌詞を目を閉じてストレートに歌う。彼女が得意とするゴスペル・スタイルで、聴く者の心に響くパワフルな歌唱だ。マリアは1993年のオムニバス・アルバム「Woodstock Holidays」E80で、この曲のバンド・バージョンを録音している。

以下本編についての話。本作のプロジェクトは、最初はディランのマネージャーの企画による関係者のインタビュー取材から始まり、後に映画監督のマーチン・スコセッシ(1942- )が本作の監督を引き受け、ディランのパフォーマンス、インタビュー映像を散りばめて完成させた。私にとって、スコセッシの映画は「Taxi Driver」1976が一番で、何度も観ようとは思わないが、主演のロバート・デ・ニーロの不気味な存在感と、都会のメランコリーを象徴するサックスのメロディーの強烈な印象が今も記憶に焼き付いている。そしてその次に作られた「New York, New York」1977 は、ロバート・デ・ニーロ演じる才能あるが自己破滅的なサックス奏者と、ライザ・ミネリの野心あふれる歌手の恋と破局を描いた作品で、一般的な評判は良くなかったけど、音楽はとても良かったと思う。スコセッシの音楽への思い入れは、通常の監督よりも強いようで、自己の作品にロック音楽を積極的に取り入れる他、ザ・バンド解散コンサートの記録映画「The Last Waltz」1978の監督で、音楽映画の分野においても高い評価を獲得した。本作以降もローリング・ストーンズの「Shine A Light」2008、ジョージ・ハリソンの「Living In The Material World」2011などの話題作を手がけている。

次にインタビューについて。出演者の中には、詩人のアレン・ギンスバーグ(1926-1997)、フォーク・シンガーのデイブ・ヴァン・ロンク(1936-2002)など、本作完成前に亡くなった人々も含まれている。その他、スーズ・ロトロ(1943-2011 「Freewheerin'」1963のジャケット写真に写った当時の恋人)、ピーター・ヤーロウ(1938- 、ピーター・ポール・アンド・マリーのメンバー)、ジョン・コーヘン(1932-2019、-ュー・ロスト・シティ・ランブラーズのメンバー、E23のマイク・シーガーの記事参照)、リアム・クランシー(1935-2009、アイリッシュ・フォークのクランシー・ブラザースのメンバー)、ジョーン・バエズ(1941- )、ピート・シーガー(1919~-014、この二人については説明不要)、ブルース・ラングホーン(1938-、ギタリストで「Bringing It All Back Home」1965に参加)、アル・クーパー(生年不祥、「Highway 61 Revisted」1965にオルガンで参加)、ボブ・ニューワース(1939- 画家、シンガー E65参照)や、編集者、出版関係者、プロモーター、プロデューサー達の話が収められている。マリアは、ディランのグリニッジビレッジにおけるデビューから、ポール・バターフィールド・ブルースバンドとのエレクトリック・サウンドで物議を呼んだ1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルまで、現場に立ち会った証人として登場。マリアは、グリニッジビレッジに生まれ育った地元の人間として、同地におけるフォークムーブメントの有様を語る。その際、当時の彼女の姿を紹介するため、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドにおける彼女のパフォーマンスが少しだけ映し出される。これは、1960年代後半、グリニッジ・ビレッジにあるライブハウス、ビターエンドでのライブの模様を撮影したテレビ映像で、曲は「I Ain't Gonna Marry」(「映像・音源」の部参照)。オリジナルの映像はカラーなんだけど、ここでは何故か白黒になってる。以降マリアは、ディランがウッディー・ガスリーとそのフォロワーからいろいろ吸収したこと、サンタモニカのコンサートでエレクトリック音楽のディランに対しオーディエンスが不満だったこと、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの大騒ぎ、およびその夜のパーティーでのディランの疲れた姿について語っている。

ディランのパフォーマンスでは、フォーム・ムーブメントの頂点に立った1963年のニューポート・フォーク・フェスティバルと、1966年のヨーロッパ・ツアーにおける前半の弾き語りと後半のホウクス(後のザ・バンド)とのライブが最高。特に後者は昔から音源で親しんできたものだけに、私はその映像が観れたことで大いに感動した。記録映画なので、途中でカットが入ったりフェイドインするため、完奏曲はひとつもないが、冗長になるのを避けるためにはしようがないだろう。編集の巧みさにより、曲が途中で終わっても残念な感はなく、むしろ歯切れ良い印象を受けるくらいだ。何よりも、インタビューとパフォーマンス、オフステージの映像に加えて、J.F.ケネディの暗殺、公民権運動、マーチン・ルーサー・キングの「I Have A Dream」演説、ベトナム戦争などの時代を象徴する出来事の映像断片を入れることで、当時の時代感覚を見事に再現しており、観る者にあたかも、その時代のなかでリアルタイムでディランの歌を聴いているかの様な感覚にさせるあたり、監督の手腕が光っている。

[2012年1月作成]


E128 Boogie & The Blues Diva  2006  Various Artists   American Music Research Foundation


Maria Muldaur : Vocal

[James Dapogny's Chicago Jazz Band]
James Dapogny : Piano, Arranger, Leader
Kim Cusack : Clarinet, Alto Sax
Russ Whiteman : Tenor Sax, Baritone Sax, Clarinet
Jon-Erik Kellso : Trumpet
Chris Smith : Trombone, Tuba
Kurt Krahnke : Bass
Ros McDonald : Guitar, Banjo
Pete Siers : Drums

Ron Harwood : Producer

1. Down Home Blues [Mammie Smith, Perry Bradford] M27
2. Handy Man [Andy Razaf, Eubie Blake] M27
3. One Hour Mama [Victoria Spivey] M27
4. Separation Blues [Sippie Wallace]  M27 E7

Recorded at Redford Theatre, Detroit October 16, 2004



「Naughty Bawdy & Blue」M27 の録音の1週間後、2004年10月16日 デトロイトで行われた第6回 Mortor City Blues & Boogie Woogie Festivalでの映像。マリアはCDと同じバック(ジェイムス・ダポグニーズ・シカゴ・ジャズ・バンド)をバックに、1920~1930年代のブルースを堂々と歌っている。CDおよびコンサートを企画したAmerican Music Research Foundationは、ラグタイム、ニューオリンズ、スウィング、ブルース、ブギウギなどの伝統的な音楽の保存を目的に設立されたNPOで、設立者のRon Harwoodは、昔シッピー・ウォレスを再発見し、その後1986年に彼女が亡くなるまでマネージャーを務めた人だ。本コンサートの映像は、まずWTVSというテレビ局で放送され、その後2006年にDVD化された。

ミュージシャンが同じなので、サウンド的にはM27とほとんど変わらない。唯一の違いは 4.「Separation Blues」で、CDではボニー・レイットのハーモニー・ボーカルがフィーチャーされていたが、ここではマリアは一人で歌っている。何と言っても見どころは、マリアのコスチュームで、当時のブルースの歌姫を彷彿させる孔雀のようなドレスは、古風できらびやかで、彼女の豊満なボディーにぴったりだ。本DVDは、テレビ放送された本編に加えてボーナス映像が収められており、そこにはマリアのインタビューと上記のステージにおける彼女の語りを観ることができる。特に前者では、彼女がM27のライナーノーツに書いたことが語られており、面白い内容だ。

その他のアーティストは、マリアのバックを務めたジェイムス・ダポグニーズ・シカゴ・ジャズ・バンドによるインスト曲(ボーナス映像)、上ブッチ・トンプソン、ジェイソン D. ウィリアムスというラグタイム、ブギウギのピアニスト、アルマ・スミスの1940年代のジャズのスタイルによる演奏が収められている。


[2010年12月作成]


 
E129 Right Hand Man Volume 1 2007  Mighty Mike Schermer  Fine Dog 


 
 
Maria Muldaur : Vocall
Mike Schermer : E. Guitar
Chris Burns : Keyboards
Paul Olguin : Bass
Paul Revelli : Drums
Mike Rinta : Trombone
Pete Sembler : Trumpet

1. That's What I Love About The Blues [Mike Schermer, Maria Muldaur]


E126で紹介したマイク・シャーマーが、自己のセッションワークを特集したオムニバス・アルバムを製作した。タイトルには「Volume 1」とあるが、2枚目はまだ発売されていない。13曲のうち、8曲はメインのアーティストのアルバムに収録された既発表曲またはそのリミックス・バージョン、残り5曲が本作のために新たに録音したもので、そのなかにマリアが歌う曲が含まれている。

1.「That's What I Love About The Blues」は、「ブルースは心療相談が一般的になる前から、人々に良いアドバイスを施していた」というマリアのステージ・トークをヒントにマイクが作曲したもので、彼女も共作者として名を連ねている。ブルースを愛する彼女のテーマソングのような内容で、メロディーは1999年のアルバムのタイトルソング「Meet Me Where They Play The Blues」とよく似ている。クリス・バーンズ、ポール・オルグリン、ポーリ・レベリという、マリアのレコーディングにも参加している気心が知れたバンド仲間と一緒に、ニューオリンズ風のブラスも加わって賑やかに演奏している。

他の曲・アーティストについて、簡単に述べる。ギタリストのエルヴィン・ビショップが歌う「I'll Be Glad」(彼のライブアルバム「Booty Bumpin'」2006が初出)は、後にマリアがソロアルバム「Steady Love」M33でカバーした。ハワード・テイトの「Part Time Lover」は、1976年ボトム・ラインでのマリアのコンサート音源で、キーボードのマイク・フィネガンが歌っていた曲だ。マイクと縁が深いアンジェラ・ストレリは2曲参加。「I Don't Know Why」は、マリアの参加曲も含まれていた「Blue Hightway」2005 E125 から。1998年の「Deja Blue」に収録されていた「Still A Fool」は、彼女とマルシア・ボール、ルー・アン・バートン3人の共演を楽しむことができる。

親交あるアーティストが歌うR&B曲のバックで、マイクのギターが気持ち良さそうに鳴っている。

[2012年4月作成]


 
E130 Jug Band Extravaganza  2010  Various Artist   Folk Era 
 

Jim Kweskin : Vocal, Guitar, Banjo
Geoff Muldaur : Vocal, Guitar
John Sebastian : Vocal, Guitar, Bnajo, Harmonica
David Grisman : Mandolin
Maria Muldaur : Vocal

The Barbecue Orchestra
John 'Doc' Stein : Dobro
Peter 'Spud' Siegel : Mandolin
Stew Dodge : Violin
Turtle VanDemarr : Guitar

1. This Will Bring You Back [Will Shade] (The Barbecue Orchastra)
2. My Old Man [J. Mercer, B. Hanighen] (The Barbecue Orchestra And Probably Geoff Muldaur]
3. Gee Baby Ain't I Good You [Don Redman, Andy Razaf] (Geoff Muldaur)
4. Wild Ox Moan [Vera Hall, Ruby Pickens Tartt] (Geoff Muldaur)
5. Jug Band Waltz [Memphis Jug Band] (John Sebantian & David Grisman)
6. Eight More Miles To Louisville [Granpa Jones & Ramona] (Jim Kweskin)
7. San Francisco Bay Blues [Jesse Fuller] (Jim Kweskin)
8. Sofie's Back In Town (aka Lulu's Back In Town) [Al Dubin, Harry Warren] (Jim Kweskin)
9. Stealin Stealin [Gus Cannon] (John Sebastian)
10. Downtown Blues [Don Sane, Frank Stokes] (Geoff Muldaur)
11. Papa's On The Housetop [Leroy Carr] (Jim Kweskin)
12. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me [Swanstone, Carvon, Morgan] (Jim Kweskin)
13. Morning Blues [Dave Macon add. verses Dave Simon] (John Sebastian)
14. New Minglewood Blues [Noah Lewis] (Geoff Muldaur)
15. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt] (Maria Muldaur) M2 M20 E5
16. The Sheik Of Alaby [Smith, Snyder, Wheeler] (Jim Kweskin, Maria Muldaur) E6 E157
17. Sweet Sue [Will J. Harris, Victor Young] (Geoff Muldaur)
18. Jug Band Music [Memphis Jug Band add. verses Geoff Muldaur] (Everybody)

Recorded at Great American Music Hall, Dan Francisco, August 26, 2007

注: 赤字がマリア参加トラック

各人がいろんな楽器を持ち替えて演奏しているため、正確な担当楽器は不明です。


ジャグバンドのドキュメンタリー「Chasin' Gus' Ghost」2007 (映像・音源のコーナー参照)の製作を終えたトッド・クウェイトは、2007年8月サンフランシスコで開催されたジャグバンド・フェスティバルでプレミア上映を行うことにした。それに加えて映画製作に協力・出演したミュージシャン達を集めたコンサートを企画し、それは8月15日グレート・アメリカン・ミュージック・ホールで行われた。ジム・クウエスキン・ジャグバンド(以下JKJと略す)とイーヴン・ダズン・ジャグバンドの出身者によるコンサートの模様は、3年後の2010年にCD化された。

司会のトッド・クウェイトの紹介により始まる 1.「This Will Bring You Back」は、メンフィス・ジャグバンド(以下MJと略す)が「You May Leave But This Will Bring You Back」のタイトルで1930年に録音。バンドリーダーで作者のウィル・シェイド(1898-1966) が吹くハーモニカとマンドリン、ジャグによる演奏は80年前のものとは思えないほど鮮やか。バーベキュー・オーケストラによる演奏は、現代的なグルーヴ感にあふれている。彼らはオレゴン州ポートランドが本拠地で、フリッツ・リッチモンドのバックをやっていた人たちだ。2.「My Old Man」は、1933年にヴィクター・ヤングのアレンジによるスピリット・オブ・リズム、およびドン・レッドマンのオーケストラによる録音が最初。JKJのカバーは「Garden Of Joy」1967 E6に収録。ここではボーカルの声質から、バーベキューの連中にジェフが加わっているものと推定される。3.「Gee Baby Ain't I Good You」は、作者のドン・レッドマンをフィーチャーしたマッキンリー・コットンピッカーズ1929年の録音がオリジナルで、JKJの「Garden Of Joy」E6、ジェフのソロアルバム「Geoff Muldaur Is Having A Wonderful Time」1975 E34等に収録されたジェフ必殺のレパートリーで、マリアも好んで歌っている。ギター一本のみでよくここまで雰囲気が作れるかという究極の弾き語りだ。4.「Wild Ox Moan」の作者ヴェラ・ホール(1902-1964)は、アラン・ロマックスがアラバマ州で発見した人で、1930年代にこの曲を無伴奏で歌った録音が残されており、タージ・マハールも歌っている。5.「Jug Band Waltz」は、MJによる1928年の録音がオリジナルで、ここではデビッドのマンドリンと、ジョンのハーモニカによるインストルメンタルだ。両者は2007年の共演アルバム「Satisfied」で、同曲を録音している。JKJの「Jug Band Music」1965 E3では、フリッツがジャグでメロディーを吹いていた。

6.「Eight More Miles To Louisville」は、ケンターッキー州出身でカントリー界で活躍したグランパ・ジョーンズ(1913-1998) 1957年の曲がオリジナル(マール・トラヴィスがギターを弾いている)で、ジムのアルバム「Relax Your Mind」1966でメル・ライマンのハーモニカをフィーチャーした録音がある。ジムのフィンガーピッキングによるギターのグルーヴ感はいつ聴いても素晴らしい。7.「San Francisco Bay Blues」は、ギター、ハーモニカ、両足でのベース、ドラムスによるワンマン・バンドで有名なジェシー・フラー(1896-1976)の代表曲で、ピーター・ポール・アンド・マリー、新しくはエリック・クラプトンのカバーが有名。個人的にはフィービー・スノウのジャジーなバージョンが好き(「50~90年代の名曲集」参照)。この曲はオーディエンス撮影による画像があり、ジムがバーベキュー・オーケストラをバックに歌っている様を観ることができる。バーベキューの編成は、ギター、マンドリン、ドブロ、フィドル、ベースで、ベース奏者はクレジットがなく、誰か不明。8.「Sofie's Back In Town」は、「Lulu's Back In Town」という名前のほうが有名で、1935年のミュージカル映画「Broadway Gondolier」でのディック・パウエルが初演。ファッツ・ウォーラーの歌が決定版かな?セロニアス・モンクのレパートリーとしても有名な曲だ。9. 「Stealin Stealin」は、MJ 1928年の録音が最初で、ボブ・ディランが1961年に録音し海賊版で出回ったミネソタ・テープのパフォーマンスが筆頭で、タージ・マハール、グレイトフル・デッドのカバーがある。ジョンは、観客と一緒に楽しそうに歌っている。10.「Downtown Blues」は、メンフィスで活躍したブルースマン、フランク・ストークス(1888-1955)による1928年の録音、11.「Papa's On The Housetop」は、ピアノを弾くブルースマン、ルロイ・カー(1905-1935) 1930年の録音がオリジナルで、JKJの「See Reverse Side For Title」1966 E5で、前者はジェフ、後者がジムが歌っている。12. 「Blues My Naughty Sweetie Gives To Me」は、ルイジアナ・ファイブによる 1919年の録音が最初で、ジムが「Jug Band Music」1965 E3で歌っているドライブが効いた曲。13.「Morning Blues」はジョンが歌い、ジェフがハーモニーを付ける。この曲は1926年のアンクル・デイブ・メイコンが初演。14.「New Minglewood Blues」は、ガス・キャノンズ・ジャグ・ストンパーズ 1928年の他、MJによる1934年の録音があり、「Jug Band Music」1965 E3でジェフが歌い、その後彼の定番レパートリーとなっている。

ここでマリアが登場、JKJの「See Reverse Side For Title」1966 E5から、ミシシッピー・ジョン・ハートが再発見後の1963年に録音した曲を歌う。マリアは2001年に同タイトルのアルバム M20でこの曲を最録音しているが、ジム、ジェフ等JKJとの録音は40年ぶりで、楽しそうに歌っている。
16.「The Sheik Of Alaby」は、当時人気絶頂だったヴァレンチノ主演の映画「The Sheik」にあやかって作曲された曲で、JKJの「Garden Of Joy」1967 E6 のバージョンと同じく、ジムのリードボーカルにマリアが異なる歌詞を同時に歌っている。ジムのフィンガーピッキングによるギターが最高。17.「Sweet Sue」は、オーディエンス撮影による映像を観ることができた。それによると、ジェフは、マリアが持つヘリウム混合ガスを詰めた風船を吸い込んで、アヒル声で歌う。これはパーティーグッズとして一般にも売られているもので、声が高くなる理由は、音速の速いヘリウムを吸うことによって声帯がそれだけ速く振動するようになるためという。ただしその効果は一瞬なので、この曲のようにスローなイントロで効果があるわけだ。オーディエンスはジェフの声変わりに大笑い。インテンポになり、一通り演奏した後に、エンディングでスローになって、ジェフが再びガスを吸い締めくくる。音を聴く分には、はっきりわからないが、画像を観る限り、マリアはコーラスで一緒に歌っているようだ。ちなみにこの曲の出版は1928年。MJがオリジナルの 18.「Jug Band Music」は、フィナーレで全員で演奏している。ジェフがリードボーカルをとり、ジョンとデビットが間奏でソロをとる。バックコーラスでマリアの声がはっきり聞こえる。

ジム・クウエスキン・ジャグバンドとイーヴン・ダズン・ジャグバンド出身者の同窓会といった趣があるが、皆楽しんで演奏している様が手に取るようにわかり、ニヤニヤしながら聴き込んでしまうアルバムだ。


[2012年10月作成]


E131 Friends And Family  2008  Ray Brown Jr.   Acrobat Music




Ray Brown Jr. : Vocal
Maria : Vocal
Joel Scott : Piano
Frederico Ramos : Guitar
Jim Hughart : Bass
Enzo Todesco : Drums
Robert Kyle : Sax

Ray Brown Jr., Joel Scott : Arranger
Shelly Liebowitz : Producer

1. Too Close To Comfort [Jerry Bock, Larry Holofcener, George Weiss]


レイ・ブラウン・ジュニア(1949- )は、ジャズ歌手のエラ・フィッツジェラルドとベース奏者のレイ・ブラウンの養子で、子供の頃はドラムスと歌に夢中になったが、音楽はジャズではなくロックンロールだったという。その後成長した彼はブルース、ジャズの香りがする大人向けのソングライター、ポップス歌手、ピアノ奏者になり、ラスベガスを含む様々な街のクラブで演奏するようになった。彼のレコードデビューは2001年と遅かったが、その後は地道にアルバムを発表。本作は2008年発表のゲストとの共演によるスタンダード曲集で、マリアが1曲付き合っている。

1.「Too Close To Comfort」は1956年のミュージカル「Mr. Wonderful」(サミー・デイビス・ジュニア主演)のために作曲され、エディー・ゴーメの歌でヒットした。現在は、レイのお母さんのエラ・フィッツジェラルドと男性ジャズ歌手の巨人、ジョー・ウィリアムスがカウント・ベイシー楽団と共演したアルバム「One O'Clock Jump」におけるデュエット・バージョンが決定版で、その他フランク・シナトラ、メル・トーメ、ローズマリー・クルーニー、ペギー・リー等多くのジャズ歌手がカバー、近年では1993年にナタリー・コールが歌っている。ここではテンポを落としたアレンジで、体形も歌声も重量級の二人はブルージィにじっくりと歌い上げている。マリアはレイのキーに合わせたせいか、いつもより低めの声で歌う。そのドスが効いた抑え目の声が素晴らしく、65年の人生をたっぷり味いつくした人にしか出せないコクが出ている。特にコーラス部分における二人のハーモニーには、背筋がゾクゾクするような魅惑に溢れている。

その他のゲストは、ディオンヌ・ワーウィック、ドクター・ジョン、フレダ・ペイン、ポール・ウィリアムス等多彩で、「Can't Take My Eyes Off You」、「Memphis」、「Laughter In The Rain」、「Up On The Roof」、「Sunny Side Of The Street」などのお馴染みの名曲を取り上げている。「A-Tisket A-Tasket」(エラの愛唱曲を娘とデュエットしたもの)や、「How High The Moon」(両親が演奏する1949年の放送録音に彼がボーカルをオーバーダビングしたもの)は、楽屋落ち的なトラックで、これらはご愛嬌かな?

マリアの近年のジャズ歌唱の中でも出色の出来だと思う。


[2011年2月作成]


E132 None Of Us Are Free  2008  Maria Muldaur   Telarc

Maria Muldaur : Vocal
The Woman's Voices For Peace Choir (Kimberly Bass, Rhonda Benin, Keta Bill, Jenni Muldaur, Annie Sampson, Linda Tillery, Jeanie Tracy, Valerie Troutt) : Chorus (Except 5, 9, 13)

The Free Radicals
David Torkanowsky : Keyboards
Shane Theriot : Guitar, Slide Guitar
Tony Braunagel : Drums, Percussion
Hutch Hutchinson : Bass

1. None Of Us Are Free [Barry Mann, Brenda Russell, Cynthia Weil]


「Yes We Can !」2008 M29のセッションで録音されたが、アルバムには収録されずアウトテイクになった曲。同アルバムのインターネット版で入手することができる。過去に発売されたCDのなかで、この曲が実際にボーナストラックとして収録されたものがあるか否かについては未確認だ。バックミュージシャンの資料がないので正確なところは不明であるが、アルバムと同じコーラス隊、バックバンドで間違いないだろう。

曲はバリー・マンとシンシア・ウェイル夫妻と、シンガー・アンド・ソングライターでキーボード奏者のブレンダ・ラッセル(1949- )による共作であるが、ブレンダ自身がこの曲を録音した記録は見当たらなかった。私が知る限り初出は、レイ・チャールズのアルバム「My World」1993で、その後レナード・スキナードが1997年にアルバム「Twenty」で取り上げている。一番有名なバージョンは「ソウル界のモハメッド・アリ」と言われたソロモン・バーク(1940-2010)が、グラミー賞を受賞したアルバム「Don't Give Up On Me」2002で歌ったものだろう。相互救済を説くメッセージ・ソングで、R&Bサウンドをバックにマリアが黒っぽく歌い、間奏のギターソロがいかしている。


 
E133 Merry Christmas Baby  2009  Maria Muldaur  Premium Music Solutions LLC 

 

 
Maria Muldaur : Vocal
Demitoris Pappas : Piano
Steve Beskrone : Bass
Vic Stevens : Drums

1. Merry Christmas Baby [Lou Baxter, Johnny Moore ] M32 Exxx

1990年代位にクリスマス・ソングのオムニバスCDに収録されたレパートリー (Exxx参照) なんだけど、2000年代に独立したCD・音源として発表されたもの。てっきり前述と同じ録音と思い込んでいたが、2021年初めにふとストリーミングで聴いたら、全く違うイントロだったので、ビックリしました。ジャズやブルースの録音やライブに多く参加しているミュージシャンをバックに、異なるアレンジの妙を楽しむことができる。ギターが押していた以前のバージョンに対し、ここではサックスが頑張っており、マリアの歌唱もよりジャジーな感じで、良い出来。

CDとしての販売では、1曲のみ収録のシングル盤であるが、何故か価格はアルバム1枚分という不思議な販売で、ダウンロードによる購入で十分でしょう。インターネットでこの曲を表示する際の歌手の表示蘭で、マリアの名前に続いて上述のミュージシャンの名前が表示されているのは有難いね。

発表年については、アマゾンは2013年としているが、ここではSpotifyの2009年を採用しました。

[2021年1月作成]


 
E134 Hippie Uprising  2010  San Francisco Musicians   Wolfpack 
 


 
Maria Muldaur : Vocal
Pete Sears : Piano (1)
Si Perkoff : Paino (2)
Ben "King" Perkoff : Soprano Sax
Greg Douglas : Guitar (1)
Skip Soder : Guitar (2)
Steve Webber : Bass
Bobby Riddell : Drums (1)
Ernest "Boom" Carter : Drums (2)

1. I Always Cry A Midnight [Skip Soder]
2. Haven't You Had Enough ? [Skip Soder, Yana Zegri Soder]

Wolfwave Music Publishing : Produce


ヒッピー・ムーブメントは、1960年代後半、既成の価値観を拒否する若者達が起こした運動で、愛・平和・芸術・自由にモットーとしたものだった。それは1970年代に低調となったが、本拠地であるサンフランシスコにおいては、ものの考え方が多様化した現代社会において、その流れを汲む人々がそれなりの世界を確立し、今も元気に活動している。本作は、ベイエリアで活躍するミュージシャンによるセッションアルバムという体裁をとっているが、すべての曲の作者であるスキップ・ソーダー(Skip Soder)とヤナ・ゼグリ・ソーダー(Yana Zegri Soder)夫妻が中心となって自主製作されたアルバムだ。本作のタイトル「Hippie Uprising」は「ヒッピーの反乱」という意味で、当時ヒッピーだった人達が、「年老いた今も元気だぞ!」と奮起しているように思われ、ロック、ブルース、ジャズ、ソウルなどのジャンルや時代にこだわらない、ベイエリアらしい自由で大らかな音楽が展開されている。

スキップ・ソーダーは、昔から音楽活動を続けていたようだが、その内容は地味で過去の資料が見あたらない。この作品を聴く限り、かなり達者で才能がある人と思われるが、おそらく野心や欲とは無縁な人なんだろう。奥さんのヤナ・ゼグリ・ソーダーも、本職は画家・イラストレイターのようであるが、キャリアは地味。1967年彼女が地元のビルに描いた「Revolutionay Rainbow」という壁画が、後年の改築のため撤去されてしまったが、新しいビルが完成した後の1997年、本人により復元されたという記事があった。CDのジャケット、ケースを埋め尽くした個性溢れるイラストは彼女が描いたもの。彼等は、以前に二人の名義で「Stop The Clock We're Ahead Of Our Time」2007 というアルバムを発表、また本作以降の2012年に「Hippie Uprising」の名義で、新作「Neo Skiffle Blues」を出している。

1. 「I Always Cry A Midnight」はカントリー音楽風のトーチソングで、マリアはパッツィー・クラインのような感じで歌う。ピアノはスターシップのキーボード奏者だったピート・シアーズ(E110参照)で、スティーブ・ミラー、ジーン・クラーク、ニック・グレイブナイツ、ノートン・バッファロー、カントリー・ジョー・マクドナルド等の作品などに参加しているグレッグ・ダグラスがギターを弾いている。2.「Haven't You Had Enough ?」は、スタンダード・ソングの香り漂うジャズ・チューン。マリアは、恋人との別れに際し「もうたくさん」と割り切れない女の切ない気持ちを描いた歌詞を、気だるく歌っている。ドラムスのアーネスト・カーターは、ブルース・プリングスティーンの初期のバンドのメンバーで、名作「Born To Run」1975に参加している。

その他のトラックでは、スキップ、ヤナ・ソーダー夫妻以外に、エレクトリック・フラッグのニック・グレイブナイツ(E18参照)、ノートン・バッファロー(M21,E59参照)、ジョー・コッカーやレオン・ラッセルのバンドにいたキャシー・マクドナルド等が歌っている。

気取りのない、地に足が着いた感じのアルバムだ。

[2014年4月作成]


E135 Word To The Wise 2010  Bill Kirchen   Proper 
 

Bill Kirchen : Guitar, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Austin de Lone : Keybords
Johnny Castle : Bass
Jack O'Dell : Drums

Paul Reily : Producer

1. Ain't Got Time For The Blues [Bill Kirchen]

 
 
ビル・カーチェン(1948- )は、ミシガン州アンアーバー育ちで、当地でジョージ・フレイン(George Frayne)と出会い、1967年にCommande Cody And The His Lost Planet Airmanを結成、ロスアンゼンルスに移ってからカントリー、ロック、R&Bを融合させたスタイルを確立し成功した。1972年全米9位のヒットを記録した「Hot Rod Lincoln」が代表曲で、そこでトゥワンギーなギターを弾いていたのがビルだった。彼はグループが一旦解散した1976年以降は、意気投合したニック・ロウと一緒に活動する他に、彼と結成したザ・ムーンライターズ(The Moonlighters)や自己名義のアルバムを発表している。その長いキャリアのなかで、彼はフェンダー・テレキャスターを一貫して使用。その楽器の最も純粋な音を出すギタリストとして評価が高まり、ギタープレイヤー誌は彼の事を「The Titan(巨匠) Of Telecaster」と呼んでいる。本作は、彼が親しいミュージシャンをゲストに招いて製作したソロアルバムで、マリアの他に前述のニック・ロウ、コマンダー・コディ(ピアノ)、ノートン・バッファロー(ハーモニカ)、エルヴィス・コステロ、クリス・オコンネル(アスリープ・アット・ザ・ホイールのボーカリスト)、ダン・ヒックスなどが参加しており、ビルの名人芸のテレキャスターのギター・サウンドと幅広い音楽性が遺憾なく発揮されている。

マリアが歌う 1.「Ain't Got Time For The Blues」は、ジム・クエスキン・ジャグ・バンドの頃から彼女のファンだったというビルがマリアをイメージして書いた曲という。スウィング・ジャズの香り漂う曲であるが、モダンで洗練された味わいがあり、彼の曲作りの才能がうかがえる。まずビルが歌い、マリアが続いて二人のハモリになり、余裕たっぷりの中に人間の絆の大切さを感じさせてくれる。彼はギタリストとして有名であるが、歌いっぷりもなかなかのものだ。味のあるピアノを弾くオースティン・デ・ロンは、ダン・ヒックス、アンジェラ・ストレリのセッションに参加している人で、マリアもゲストで歌ったクリスマス・ジャグ・バンド(E113)のメンバーでもある。

その他の曲は、カントリー・ロック、ウェスタン・スウィング、フォーク、ロカビリー、ディラン風などいろいろあり、音楽性の幅広さを見せてくれる。個人的にはダン・ヒックス、エルヴィス・コステロが参加した曲が面白いかな。なおノートン・バッファローがハーモニカで参加しているが、彼はガンのために2009年10月に亡くなっており、本アルバムは彼が生前に録音した最後のセッションのひとつになってしまった。


E136 Another Day's Journey 2010  Ken Whiteley   Borealis 
 


Ken Whiteley : Vocal, Guitar (2), Banjo (1,2), Mandolin (2), Jug (2), Kazoo (2)
Maria Muldaur : Vocal
Chris Whitekey : Trumpet (1), Harmonica (2)
Joe Sealy : Piano (1)
Ben Whiteley : Bass (1)
Bucky Berger : Drums (1)

Ken Whiteley : Producer

1. Language Of Love [Ken Whiteley]
2. Mike And Mary [Ken Whiteley]

 
ケン・ホワイトリー(1951- )は、トロントを本拠地として活躍するカナダ・ルーツ音楽界の重鎮。あらゆるジャンルの音楽を自己のスタイルに消化し、ソロ活動の他、1960年代に結成したオリジナル・スロース・バンドを初めにバンド活動を展開し、数多くのコンサートやフェスティバルに出演している。マルチ・プレイヤーとして、ギター、マンドリン、バンジョ-、キーボード、その他多くの楽器をこなす人で、特にギターとマンドリンの腕前は相当なものだ。またエイモス・ギャレット、レオン・レッドボーン、トム・パクストンなどの作品に参加、また他アーティストのプロデュース、映画・テレビ音楽も手掛ける器用な人だ。そんな彼がこれまでの音楽生活を集大成したアルバムが本作で、トラディショナル、フォーク、リトルフィートのアンプラグ版のような曲、ジャンゴ・ラインハルトそのものスウィング・ジャズ、ブルース、ブルーグラス、ジャズ、ジャグバンド音楽、R&B、ゴスペル等、雑多な音楽のようでいて、不思議な統一感があるのは、それらのルーツが同じだからだろう。そして、彼の作曲センスと、高い歌唱・演奏能力がそれらを裏付けていると思う。、ジャケット・解説に印刷された地図が大変面白く、ミシシッピーデルタとオンタリオ湖、ブルックリン、アトランタ、モントリオールが一緒くたになった架空のもので、彼の音楽遍歴が込められているという

1.「Language Of Love」は、スタンダード・ジャズ風の曲で、ケンはコードカッティングによるバンジョーを弾き、お兄さんのクリスがトランペットを吹き、ニューオリンズの香りが漂ってくる。最初ケンが歌い、コーラス部分ではマリアがメロディー、ケンがハーモニーを担当する。セカンド・ヴァースは二人の掛け合いで、コーラスはケンがメロディー、マリアはハーモニーと入れ替わる。ケンのライナーノーツによると、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドは、若きホワイトリー兄弟のヒーローだったそうで、その影響のもとにジャグバンドを結成したという。その後各地のフェスティバルでマリアと親交を深め、本作にマリアに参加してもらったという。ジャグバンド曲の 2.「Mike And Mary」 は、そんな思いが込められた歌で、ケンはジャグ、カズーなども担当。クリスのハーモニカーもそれっぽくて大変効果的だ。

マリアが好きな人だったら、きっと気に入ると思う。

[2013年8月作成]


 
 E137 Buckwheat Zydeco's Bayou Boogie 2010   Music For Little People

 


Stanley "Buckwheat" Dural Jr. : Accordion, Hammond B3 Organ, Electric Keynboards, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Laurie Berkner : Vocal
Dan Zanes : Vocal
Aron Nigel Smith : Vocal

Lee Allen Zeno : Bass
Sir Reginald Master Dural : Rubboard
Paul "Lil Buck" Sinegal : Guitar
Mike Melchione : Guitar
Oliver Scoazec : Guitar
Charles LaMark : Drums

Stanley Dural Jr., Ted Fox, Leib Ostrow : Producer

1. The Mice Ate My Rice [S. Dural, T. Fox]
2. Holey Pokey [Traditional, Arranged by S. Dural]

 

ザディコは、20世紀初めに、ルイジアナ州南西部でフランス語を話すクレオール系黒人が始めた音楽で、アコーディオンとラブボード(木製のウォッシュボードを発展させた金属製のパーカッション楽器)の使用を特徴とする。1950年代に初めてレコードが発表され、1970年代よりスタンレー・バックウィート・デュラル・ジュニア(1947-2016) がブルース、ロックやポップスを取り入れたスタイルを確立し、エリック・クラプトン等とも共演して知名度を高めた。

本作は、スタンレーが子供向け音楽界で良質な作品を提供するレーベル、Music For Little People(マリアも M12, M18, M21, M31の4枚のアルバムがある)から発表した、「Cho Cho Bougaloo」1994 に続く2枚目のアルバムだ。リー・アレン・ゼノ(ベース)、息子のサー・レジナルド・マスター・デュラル(ラブボード)、ポール・リトルバック・シネガルというザディコ音楽界での名手かつ彼のバンドの常連ミュージシャンをバックに、子供達によるコーラス隊を加えて、パーティーのような陽気な雰囲気の作品となった。

マリアは2曲に参加。1.「The Mice Ate My Rice」 は、スタンレーによる郷土料理のガンボ(シチュー、スープのような煮込み料理)の話から始まり、中に入れる米の話になって、「ネズミが私の米を食った」という歌になる。マリアは子供たちと一緒に導入部の語りと、曲中の語り、合いの手で参加。スタンレーの楽しそうな歌声、子供たちによる可愛いバックコーラスがリスナーの心をリラックスさせてくれる。2.「Holey Pokey」は昔からある童謡で、「むすんでひらいて」と同じように、歌いながら子供が歌詞に合わせて体を動かす曲。スタンレーの歌の後にマリアが続き、その後は子供向けの音楽製作者として有名な人や、子供達が交代で歌っている。同じ歌詞の繰り返しなんだけど、テンポがだんだん早くなってゆくのがミソ。

本アルバムでは、アイズレー・ブラザース 1962年のヒット曲でザ・ビートルズのカバーで有名になった「Twist And Shout」、ロバート・パーカーの「Barefootin'」(1966年、ジェイムス・テイラーも 1998年のステージでゲストのボニー・レイットと一緒に歌っている)、キャロル・キング作でリトル・エヴァのヒット曲「The Loco-Motion」(1962年)等の懐かしい曲をカバーしている。

子供向けの作品でありながら、スタンレーの陽気なボーカルとアコーディオンによるザディコ音楽を十分楽しむことができる作品。

[2018年10月作成]


 
E138 Willing Hearts 2011 Electric Ruby Fish With Special Guest Maria Muldaur  
 

Maria Muldaur : Vocal, Harmony Vocal (Probably 2, 5, 6)
Leesah Stiles : Back Vocal
Andy Jones : Vocal, Rythm Guitar
Dale Tnageman : Vocal, Lead Guitar, Harmonica (6)
Jon Coghil : Bass
Ruperto Ifil : Drums, Percussion
Ross Rice : Keyboards (Guest)

1. Dirty Blues [Jones]
2. Woodstock Is The Place I Call Home [Tangeman]
3. Willing Hearts [Jones]
4. Deep [DeDominicis, Jones]
5. Is That What Deserve? [Tangeman]
6. Not Enough [Jones]


Recorded At Sonart Recording Studios, Mount Tremper, New York

 
エレクトリック・ルビーフィッシュは、ニューヨーク州ハドソン・ヴァレーを本拠地とするインディー・バンドで、アンディ・ジョーンズとデイル・タンゲマンの二人がリーダー。アンディはニューヨークの広告業、デイルはオハイオとニューヨークで広告業およびグラフィック・デザインの仕事に携わっていた(注 参照)が、引退後ウッドストックに移り住み、若い頃やっていた音楽活動を再開したという。その後、ツアーバンドで活躍するリズムセクションと女性ボーカリスト(マリアとのセッションではバックボーカルでのみ参加)が加わり、パーティーやイベント、コンサートの前座などで演奏し、数枚のアルバムを発表した。本作は彼ら4枚目のアルバムで、マリアがゲスト参加したため、「With Special Guest Maria Muldaur」という副題がつき、アルバムジャケット内の写真にも彼女の姿が大きく載っている。彼女の参加の経緯は不明であるが、おそらくウッドストックでの人脈によるものだろう。

ブルース、カントリーの伝統音楽をベースに、ラテン、ジャズ等様々な要素を取り入れたスタイルはウッドストック派と言えるが、良い・悪い両方の意味で素人臭さがあるのも事実。ただしリズムセクションがしっかりしているので、「レイドバック」と呼べるゆったりした雰囲気を出している。中でもマリアが歌う3曲は、ピリッと締まった感じに仕上がっているが、いつものブルージーな重さはなく、彼女もバンドに合わせてさらっと歌っている感じだ。1.「Dirty Blues」は乗りの良いブルースでマリアがソロで歌う。 間奏のピアノを弾くロス・ライスは、メンフィス、ナッシュビル、ニューヨークで活躍するセッション・プレイヤーで、本作のために招かれた人(ドラムスのルパート・イフルとバンドを組んだことがあるようなので、その縁と思われる)。彼は、かつてHuman Radioというグループで「Me And Elvis」というヒット曲を出したことがある。3.「Willing Hearts」は、「前向きな心が世の中を変える」という内容のメッセージ・ソング。4.「Deep」はラテン調のアレンジでマリアは軽やかに歌う。 なおこの2曲には、コーラスで男性がハーモニーを付けている。残る3曲は、曲ごとのクレジットがないので正確なところは不明であるが、聞こえる声質からマリアがバックコーラス、ハーモニー・ボーカルに加わっているものと推定される。エレクトリック・ルビーフィッシュの活動記録は2013年で途絶えるが、アンディ・ジョーンズは、グループ・メンバーの一部と組んで、Circus Of Wolvesというバンド名で2018年「Collective Pulse」というアルバムを発表している。またエレクトリック・ルビーフィッシュのフェイスブックには、このグループでニューアルバムを制作中(2019年1月現在)とある。

現代のバンドのソリッドなグルーヴの代わりに、昔の音楽の「レイドバック」した乗りをが持つ作品。そういう意味では聞きこむともっと良くなるタイプかもしれない。



注:
1.アンディーのキャリアについて: ラジオウッドストック 2018年1月2日の放送(彼がゲストDJとして参加した番組)での自己紹介より聴取。
2.デイルのキャリアについて: 野球関係の出版社「The Hometown All Stars」のホームページに球団運営にかかる教本のイラストレイターとしてプロフィールが紹介されている。

[2019年1月作成]


E139 Back Porch Dogma 2012   Contino Blind Pig
 

Pete Contino : Accordion, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Al Ek : Guitar
Billy Truitt : Keyboards
Rob Edwards : Upright Bass
Jim Lovgren : Drums
Omega Rae, Susan Z : Back Vocal

Joel Jaffe : Producer, Engeinieer

1. Big Tent [P. Contino, R. Edwards, B. Truitt, A. Ek, J. Lovgren]

Recorded at Studio D Recording, Sausalito, CA


ピート・コンティノは、著名なアコーディオン奏者ディック・コンティノ(1930- )の息子で、カリフォルニア州生まれだが、父親の音楽の仕事の関係でラス・ヴェガスに移った。若い頃から父のバンドに加わってドラムスを叩きながらアコーディオンの勉強をし、その後自己の音楽をやるために独立して、カリフォルニアに引っ越した。コンティノは、ピ-ト・コンティノをリーダーとして2009年に結成されたバンドで、本作がCDデビューとなる。彼が弾くアコーディオンを中心に、ロカビリー、ブルース、ザディコ(アコーディオンを使用したニューオリンンズの音楽)をミックスした音楽を演奏している。

マリアは1. 「Big Tent」でデュエット・ボーカルを聴かせてくれる。ボ・ディドリー・スタイルと言われるジャングル・ビートの手拍子がフィーチャーされた、ソリッドな感じのアップテンポのR&Bで、緊張感溢れる雰囲気のなか、メンバーによるハーモニカ、アコーディオン、スライドギター、ピアノソロがバンドの一体感を高めている。ピートの歌声には魅力があり、マリアのだみ声との掛け合いは聴き応え十分。彼女のゲスト参加は、プロデューサーのジョエル・ジャフェ(マリアの「In Concert」2008 M28、「Christmas At The Oasis」2010 M32のプロデュースを担当)の縁と思われる。

他の曲は、ジェリー・レイバーとマイク・ストローラー作曲による「Three Cool Cats」(1958年のコースターズがオリジナルで、後にビートルズがデッカ・オーディションで録音し、「Anthology 1」に収められた)と、トム・ウェイツの「Temptation」以外は、メンバーによる共作で、アルバムとして一貫性があって通して聴くと気持ちがよい。

ブルース、ロカビリー、ニューオリンズが好きな人は買っても損はないと思う。

[2015年9月作成]


 E140 They All Played For Us 2012   Various Artists   Arhoolie
 
 
Maria Muldaur : Vocal (3)
Eric Thompson : A. Guitar (1,3,4), Mandolin (2)
Suzy Thompson : Vocal (1,2), A. Guitar (1,2), Fiddle (3,4)
Laurie Lewis : Wood Bass, Back Vocal (1,2)

1. I Don't Drink No Whiskey [Public Domain, Arranged by Suzy Thompson] 
2. In The Pines [Public Domain]
3. In My Girlish Days [Ernest Lawler] M20
4. Lake Arthur Stomp [Public Domain]

Recorded at Freight And Salvage, Berkeley California, 6th Febuary, 2011

注:マリアは1,2,4は非参加

 

ドイツ生まれのクリス・ストラックウィッツ(Chris Strachwitz)が設立したルーツ音楽のレーベル、アーフーリー・レコードの設立50周年を記念して、カリフォルニア州バークレーのライブハウス、フレイト・アンド・サルベージで、2011年2月4日から3日間コンサートが開催された。アーフーリー・レコードは、ブルース、フォーク、ゴスペル、ジャズ、カントリー、ブルーグラスなどのルーツ音楽およびワールド音楽のレーベルとして、50年間に数多くの作品を発表し、この手の音楽レーベルの筆頭的存在。2012年上記のコンサートの模様が4枚組のCD(約5時間、70曲)、プラス192ページのブックレット(写真・解説)からなる豪華セットで発売された。ライ・クーダー、ピーター・ローワン、カントリー・ジョー・マクドナルド、キャンベル・ブラザース、ロウリー・ルイス、タージ・マハールといったお馴染みのアーティストが含まれ、マリアは2月6日に出演したエリック・アンド・スージー・トンプソンのスペシャル・ゲストとして登場した。私は、予算と置き場所の問題を考慮してアルバムではなく、上記の曲のみアマゾンからMP3で購入した。

スージー・トンプソンは、カントリー、ブルーグラス、ブルース、ラグタイム、ジャグバンド、ケイジャン等、幅広いジャンルのルーツ音楽をカバーする人で、フィドル、ギターやボタン式のケイジャン・アコーディオン等いろいろな楽器をこなす。ギター、マンドリン奏者のエリック・トンプソンと結婚し、スージー・ロスフィールドからスージー・トンプソンになり、デュエットで活動している。エリック・トンプソンは、昔ステファン・グロスマンのキッキング・ミュール・レコードから、ブルーグラス・フラットピッキングのアルバム「Bluegrass Guitar」1978(当時別売りだったタブ譜も購入して練習した思い出があるレコード) を出した人であるが、ブルーグラスよりもオールドタイミーでの活動のほうが多いようだ。マリアは、スージーが2003年に発表した初ソロアルバム「No Mocking Bird」E121で、1曲一緒に歌っている他、その後「Sweet Lovin' Ol' Soul」 2005 M25以降のアルバム・レコーディングに彼女を招いている。

1.「I Don't Drink No Whiskey」は、スージーとエリックの2台のギターによる演奏。エリックのゴツゴツとした感じのフラットピッキングが実直な感じで、いかにも彼らしい。ハーモニー・ボーカルは、ベースも弾いているローリー・ルイス(1950- )。彼女は、カリフォルニア州生まれのシンガー、フィドル奏者で、ギターやベースもこなすマルチ・プレイヤーだ。1970年代より、多くのバンドでブルーグラス、カントリー、オールドタイミーを演奏していたが、初ソロアルバムは1986年の「Restless Rambling Heart」という遅咲きの人。彼女は、2005年ワシントン州タコマで開催されたウィンターグラス・フェスティバルで、友人のリンダ・ロンシュタットとマリアと一緒にザ・ブルーバーズという名前で1回限りのコンサートを行っており、その模様を撮影したオーディエンス映像がある(映像・音源の部参照)。2.「In The Pines」は、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの仲間でバイオリン奏者のリチャード・グリーンのアルバム「Ramblin'」1979 E46 で、マリアとピーター・ローワンが歌っていた曲で、南アパラチア地方に伝わる古い曲が原曲。レッドベリー、ビル・モンロー、ドック・ワトソン等が「Where Did You Sleep Last Night」、「Black Gal」というタイトルで録音している。1.に続きスージーとローリーのボーカルが好調。

ここでスペシャル・ゲストとしてマリアが登場し、メンフィス・ミニーの3.「In My Girlish Days」を太い声で歌う。「Richland Woman Blues」2001 M20でのロイ・ロジャーズのスライド・ギターの演奏はとても良かったが、ここでのスージーのブルース・フィドルも素晴らしく、心の底に染み渡るプレイだ。4.「Lake Arthur Stomp」は、本領発揮の軽快なフィドル・チューン。

レコード会社からYoutubeに本作の広告が投稿されており、そこで各アーティストの演奏の断片と、写真・解説集のカットを聴く・見ることができる。ルーツ音楽ファンにとっては、たまらないアルバムだ
ろう。

[2014年1月作成]

[2022年3月追記]
YouTubeで公開された動画 「The Arhoolie Foundation presents The Arthoolie Awards: Celebrationg America Roots Music」で、過去の映像としてマリアが歌う 「In My Girlish Days」を観ることができました。


 
E141 Jazz + Blues 2012   Danny Caron  Danny Caron Records

 

Maria Muldaur : Vocal
Danny Caron : Electric Guitar
John R. Burr : Piano, Hammond B-3
Ruth Davies : Acoustic Bass (2)
Bobby Cochran : Drums (2)

1. I Don't Want To Know [John Martyn]



ダニー・キャロンはサンフランシスコ・ベイエリアで活躍するジャズ、ブルース・ギタリスト。メリーランド州生まれで、テキサス州オースチンでマルシア・ボールやザディコ音楽のクリフトン・シニエール等のバックを務めた後、1981年から活動拠点をサンフランシスコに移している。1980年代後半にカムバックしたチャールズ・ブラウン(「年代不詳」コーナーの「Merry Christmas Baby」の作者で、マリアは1999年の「Meet Me Where They Play The Blues」M19で共演)のバンドに1987年から彼が亡くなる1999年まで在籍し、晩年のキャリアの支えになったことで名声を確立した。他にボニー・レイット、ジョン・リー・フッカー、ヴァン・モリソン、ルース・ブラウン、ドクター・ジョン等、主にブルース音楽のバックが多く、マリアとは1998年の「Swingin' In The Rain」M18以降多くのセッションに参加。特に2008年の「Live In Concert」M28ではライブ映像を楽しむこともできる。

本作は3枚目のソロアルバムで、ハモンドオルガンとドラムスとのトリオと、ピアノ、アコースティック・ベース、ドラムスとのカルテット編成による演奏。ブルースの香りが濃いジャズという感じで、ジョン・コルトレーン(「Spiritual」)、マイルス・デイビス(「Freddie Freeloader」)、ダラー・ブランド(「Water From An Ancient Well」)、ジャンゴ・ラインハルト(「Nuages」)、デューク・エリントン(「I'm Just A Lucky So And So」)、ジョージ・ガーシュウィン(「It Ain't Necessary So」)等のジャズの他にスピリチュアル・ソングをリラックスした雰囲気で演奏している。

1.「I Don't Want To Know」は本作唯一ボーカルが入った曲で、作者はイギリスのジョン・マーティン(1948-2009)。彼は当初デイヴィー・グレアムやアル・ステュワート等の英国フォークシーンでデビューし、後に音楽の幅を広げてシンガー・アンド・ソングライターとしてフィル・コリンズ等とも共演する。奥さんのベヴァリー・マーティンも歌手で、ジョンとの共演盤の他に、バート・ヤンシュのソロアルバム「It Don't Bother Me」1965 の表紙写真に登場したほか、近年ジョン・レンボーンの過去音源発掘盤「Attic Tape」2015にも共演曲が収録されている。本曲は1973年のアルバム「Solid Air」1973年に収録されたもの(そこではタイトルが「Don't Want To Know」になっている)で、パーカッシブなギター演奏が印象的。リッチー・ヘブンス、ドクター・ジョン、ベス・オートン等がカバーしている曲。ここでは、エルヴィン・ビショップのリズム・セクション(ベースとドラムス)とマリアの常連キーボード奏者ジョン・R・バーにより、本アルバムの中でもR&B色が濃い出来になっている。

こじんまりとしているが、ダニーの端正でセンスの良いギター・プレイが楽しめるアルバムだ


 
E142 Live At Davies 2013   Dan Hicks And The Hot Licks    Surfdog





 

Dan Hicks: Vocal, Guitar 
Maria Muldaur: Vocal, Back Vocal (3), Tabourine (3)
Roberta Donnay: Vocal (2), Back Vocal (3)
Daria: Vocal (2), Back Vocal (3)
Maryann Price: Vocal (2), Back Vocal (3)
Naomi Ruth Eisenberg: Vocal (2), Back Vocal (3)
Ray Benson: Vocal (2), Back Vocal (3)
Jim Kweskin: Vocal (2), Back Vocal (3)
Rickie Lee Jones: Vocal (2), Back Vocal (3)
John Hammond: Vocal (2), Back Vocal (3)
Patti Cathcart Andress: Vocal (2), Back Vocal (3)

Paul Robinson: Guitar
Brian Cooke: Piano (2, 3)
Benito Cortez: Violin
Paul Smith: String Bass

Jon Weber: Guitar (3)
Roy Rogers: Guitar (3)
Bruce Forman: Guitar (3)
David Grissman: Mnadolin (3)
Sid Page: Violin (3)
Jaime Leopold: String Bass (3)

Mike Rinta: Trombone (3)
Tom Poole: Trumpet (3)
Richard Olsen: Tenor Sax (3)
Charlie Gurke: Baritone Sax (3)

1. Hummin' To Myself [M. Siegal, H. Magidson, S. Fain, Additional Lyrics: Dan Hicks]
2. I Feel Like Singin' [Dan Hicks]
3. I Scare Myself [Dan Hicks]

Recorded at Louise M. Davies Symphony Hall, Mill Valley, California at March 23, 2012


ダン・ヒックスは、2016年喉頭および肝臓がんのため74才で亡くなり、彼の70才の誕生日を祝福したコンサートを録音した本作は、彼の最後のアルバムとなった。オリジナル・ホットリックスとニュー・ホットリックスがバックを務め、縁がある多くのミュージシャンが参加したもので、お祭り、ジャム・セッション的な色彩が強い内容となり、熟練した演奏者達のアンサンブルによる洗練された鋭い切れ味という彼本来の持ち味よりも、リラックス、伸び伸びした雰囲気のパフォーマンスに終始していて、入門者向けではなく、彼の音楽を良く知るファンがニヤニヤしながら聴き込むといった感じの作品だ。

ステージ上でダンが「ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドはインスピレーションだった」と言っているように、彼は自己の音楽を確立するにあたり、かなり影響を受けたに違いない。という意味で、マリアは彼の作品を多く取り上げたが、彼の先輩格にあたる存在と思われる。彼は、1973年のデビュー作 M1の「Walkin' One And Only」, 1974年の2枚目M3の「Sweetheart」、1998年「Swingin' In The Rain」M18の「Aba Daba Honeymoon」、「Heck I'd Go」、2009年「Maria Muldaur & Her Garden Of Joy 」M30の「Diplomat」,「Medley Life's Too Short -When Elephants Roost In Bamboo Trees」といった作品に曲を提供・ゲスト参加するとともに、自身が関係するクリスマス・ジャグ・バンドのアルバム「Uncorked」2002 E113の「Boogie Woogie Santa Claus」に彼女にゲスト参加してもらうなど、長年にわたり大変親密な関係にあったと言える。

マリアの登場はコンサート前半で、ニュー・ホットリックスのメンバーをバックに 1.「Hummin' To Myself」をデュエットする。この曲の作者の一人サミー・フェイン(1902-1989)は、映画「慕情」1955の主題歌「Love Is A Many-Splendored Thing」や、ディズニー映画「ピーターパン」の「The Second Star To The Right」、や「不思議の国のアリス」の挿入歌を作曲した人。1932年のWashboard Rhythm KingsやAmbrose And His Orchestraの演奏がレコード上の初演。その後スタンダードとなり、1990年にデイブ・ヴァン・ロンクがカバー、特に2004年にリンダ・ロンシュタットがカバーしてアルバムのタイトルにした事で有名になった。マイナー調のスウィングチューンで、まずダンが歌った後にマリアが続き、二人の合唱となり、リラックスした雰囲気のハミングの掛け合いとなる。ダンがメロディー、マリアがハーモニーを歌いながら、合間に語りを入れてゆく様はとても魅力的だ。

フィナーレで演奏される 2.「I Feel Like Singin'」は、1971年のアルバム「Where's The Money」からの曲で、オリジナルはソリッドなスウィング・チューンであったが、ここではテンポを落としてゲストが交代でボーカル・ソロを取る。ダンのライナーノーツによると、順番は、①ダン→②マリア→③ロバータ→④ダリア→⑤マリーアン→⑥ナオミ→⑦レイ→⑧ジム→⑨リッキ・リー→⑩ジョン→⑪パティ(うち③④⑤⑥は、ホットリックスのシンガー達だ)。マリアのスキャットは短いながらもクリエイティブで良い出来だと思う。アンコールの3.「I Scare Myself」は、1969年録音の「Original Recording」、1971年の「Striking It Rich」に収録された彼の代表曲のひとつ。この曲も前曲と同じくジャム・セッションの乗りで延々と演奏される。この演奏についてはオーディエンス撮影による動画を観ることができ、バイオリンの最初のソロの順番がベニート・コルテス、シド・ペイジの順であることがわかった。続くギターソロは、動画が遠景ショットなので、誰が弾いているが分かりづらいが、アコギの音なので、おそらくジョン・ウェーバーと推測される。そして続くデビッド・グリスマンのマンドリン・ソロは聴きもの。マリアはバック・ボーカリストの一人で目立たないが、曲の後半アドリブで「Happy Bithday」と叫んでいるように聞こえる。

その他(マリア非参加)の曲では、リッキー・リー・ジョーンズと一緒に歌うドリーミーな「Driftin'」、ジャズ・ピアニストのホレス・シルヴァーの名曲「Song For My Father」の歌入りカバーが面白い(後者は私が子供の頃、父親がよく聴いていたので、特別な愛着がある)。また後半で演奏される「Beedle Um Bum」は、ジム・クウェスキンが前半、ダンが後半を歌う。これは、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの最初のアルバム「Unblusuig Brassiness」1963 (マリアの加入前に録音された作品)に収録されていた曲。解散後に発売された「Greatest Hits」でも聴くことができるが、一部の資料でこのアルバムのタイトルに括弧書きで「Featuring Maria Muldaur」と表示されているものがあり、別テイク (!)かと思わせるが、実際は間違いで、前述のアルバムと同じ録音。

和気あいあいとした雰囲気のなかで、結果的に、ダンが皆にお別れを告げたようなアルバムとなった。

[2019年11月作成]

 
E143 Queen City  2013 Original Motion Picture Soundtrack  Galora



 

Maria Muldaur: Vocal
Larry Eason: Piano
Doug Yeomans, Tom Holland: Guitar
Ken Whitman: Tenor Sax
Wayne Moose: Bass
Abdul Rachman Qadir: Drums

Peter McGennis: Producer

1. Queen City [Peter McGennis]

Note: Vinyl album was isused on April 21, 2018

 
ラスト・ベルト(Rust Belt)は、アメリカ合衆国の中西部・大西洋岸中部地帯の一部で脱工業化が進んだ地帯の呼称。同地域はアメリカの重工業・製造業の重要地点として、かつて大変栄えたが、グローバリゼーションと貿易自由化により、開発途上国との価格競争に敗れて生産拠点が海外に移転して空洞化し廃れていった。この呼称は使われなくなって放置され錆ついた工場設備を表している。最も割を食ったのが現地で働く労働者層で、失業率の増加、格差拡大、治安悪化、人口減少という負のスパイラルを生み出し深刻な社会問題となった。そして労働者が支持基盤の民主党が優勢だった同地域が、自由化を推進する政府に嫌気がさして、アメリカ第一主義をかかげて国内産業の保護を訴える共和党のトランプ政権支持に回ったことからも問題の根深さが伺える。

エリー湖畔にある都市バッファローは、我々にはナイアガラ滝のアメリカ側玄関としてお馴染みであるが、かつては五大湖と大西洋を繋いだエリー運河の起点として、運河が鉄道や陸路に取って代わるまでは、鉄鋼・製粉業などで「Queen City」というニックネームがつくほど繁栄した。しかし現在はラスト・ベルトにある都市として典型的な問題を抱えている。

バッファローに生まれ育ったピーター・マックゲニスは映画および音楽を志したが、メジャーな映画会社やレコード会社から距離を置き、地元でガロアという自分の会社を興して映画と音楽の制作を行った。そんな彼がバッファローを舞台に制作した映画「Queen City」2013は、「A Rustbelt Serenade」という副題の通り生まれ故郷に捧げた作品で、当初音楽CD付きのDVDセットが通信販売され、その後2018年にRecord Store Dayでサウンドトラック盤のみ2000枚限定のレコードとして販売されたのが本アルバムだ。アルバムの表紙イラストにの背景に描かれた巨大な穀物貯蔵タンクは衰退した現地産業を象徴しているようだ。ピーターが脚本・音楽・監督・主演したこの映画は、二人の刑事が主演のドラマというが、私はYouTubeにある約2分間の予告編しか見た事がなく、プロットの資料もないので詳細は不明。しかし予告編には多くの演奏シーンが含まれ、マリアの姿も一瞬写るので、映画の中で音楽が占める部分はかなり大きなものと推測できる。

マリアが歌う 1.「Queen City」は映画のテーマソングで、バッファローの地元ミュージシャンをバックにラストベルトの廃れた有様を歌う、ダークで気だるい雰囲気のジャズ・ブルースだ。かなりリアルな感じの曲で、サックスやギターソロが入り7分間にわたってじっくり演奏される。マリアの歌唱によるこの手の曲のなかでもかなり良い出来だ。

他の曲について(収録曲はいずれもピータ・マックゲニス作)。 2.「Colevette Cleanin' Blues」、9.「Nitty Gritty, Queen City」で共演しているジェイムス・コットン(1935-2017)、ダーレル・ニュイッシュ(1952- )は各ミシシッピ州、テキサス州出身で、前者はマディー・ウォータースと長年演っていた伝説的なハーモニカ奏者。3.「Patina」はピーターと地元出身で現在はナッシュヴィルで活躍するケイトリン・コッチとのデュエット。アコースティック・ギターを主体としたシンガー・アンド・ソングライターのサウンドで、ピーターが味のあるボーカルを聴かせてくれる。4.「Pop's Storefront Church」は、ノースキャロライナ州のブルース・シンガー、トニ・リン・ワシントンが歌うゴスペル・チューン。5.「Queen City Grind」、8.「Queen City Strut」はニューオリンズ音楽の親玉アレン・トゥーサン (1938-2015)によるブルースで、後者はインストルメンタル。

6.「Queen City Blue」を歌うジャン・パーカーはニューヨークで活躍したジャズ・シンガーで2023年没。7.「Last Of Her Kind」は、テデスキ・トラックス・バンドのスーザン・テデスキによる弾き語り。9.「Belle Flower」のシャロン・ジョーンズ(1956-2016)は、ニューヨークで活躍したファンク・シンガー。最後の曲「Rust Belt Woman」は、シカゴのブルースマン、マジック・スリム(1937-2013)による歌とギター演奏だ。みな良かったので全曲紹介しました。

知名度の低い作品であるが、マリアが歌うジャズ・ブルースとしてとても良い出来・

[2024年4月作成
]

  
E145 Friends Along The Way 2017 Mitch Woods  Entertainment One U.S.
 







Maria Muldaur : Vocal
Mitch Woods : Piano

1. Empty Bed Blues [J.C. Johnson] M27

2. Mojo Mambo [Mitch Woods] E108



写真上: 2017年発売のアルバム (1収録)

写真下: 2023年発売の「Deluxe Edition」 (1,2収録)

ミッチ・ウッズの「Big Easy Boogie」 2005 E107にゲスト参加したマリアは、2017年のゲスト特集アルバム「Friends Along The Way」にも参加。ベッシー・スミス (1894-1937) 1928年の名曲「Empty Bed Blues」を野太い声で聴かせてくれる。曲が始まる前にマリアが、「17才の時に聴いた人生を変えた曲。当時は意味不明で歌っていたけど、今は分かるよ~」と語り貫禄十分。彼女は2007年のアルバム「Naughty, Bawdy & Blue」M27 で本曲を録音していて、そこでのデビッド・マシューズと本作のミッチ・ウッズとのピアノ伴奏の聴き比べをすると面白い。

他のゲスト・アーティストは、ヴァン・モリソンとタージ・マハール、エルヴィン・ビショップ、チャーリー・ミュッセルホワイト、ジェイムス・コットン(マリアはE110 2002に参加)、ジョン・リー・フッカー(2001年没なので、以前の録音かな?)、ジョン・ハモンド、ジョン・ルイス・ウォーカー、ケニー・ニール、シリル・ネヴィル、マルシア・ボール(E116 2003でマリアと共演)、ルーシー・フォスター(マリアのM34に参加)など、ブルース界の錚々たる顔ぶれがそろっており、一部のエレキギターと軽めのドラムス、パーカッションを除き、少人数によるアコースティックなプレイで統一されている。演奏曲は、ブルースのクラシックやアーティストのオリジナルなど多彩で、ミッチお得意のブギウギのみならず、いろいろなスタイルで演奏されているので、飽きずに16曲一気に聴いてしまう。また青と紫を基調としたレトロな雰囲気のジャケット・デザインが素晴らしい。

ブルースが好きな人ならば、絶対気に入ると思う。

[2022年3月作成]

[2023年8月追記]
2023年当初発売の16曲に5曲の未発表トラックを追加したCD 2枚組の「Deluxe Edition」が発売された。その中にはマリアが歌った2.「Mojo Mambo」が含まれていた。

2.「Mojo Mambo」は、2005年に発売された「Big Easy Boogie」 E108がオリジナルで、そこではパーカッションとブラスセクションを含む賑やかなバンドをバックにミッチとマリアが掛け合いで歌っている。一方本アルバムでは、ミッチのピアノのみをバックに、前半はマリア一人で歌い、中盤とエンディングでミッチが加わる。おそらく 1.「Empty Bed Blues」に取り掛かる前に、肩慣らしとして以前一緒に演った曲を試してみたんじゃないかな?



 
E146  Duke Robillard And His Dame Of Rhythm (2017)  Duke Robillard  M.C. Records
 

Maria Muldaur: Vocal
Duke Robillard: Acousric Arched Top Guitar
Bruce Bears: Piano
Brad Hallen: Bass
Mark Teixeira: Drums

Andy Stein : Violin
Jon Erik Kellso: Trumpet
Billy Novick: Clarinet, Alto Sax, Arragement
Rich Lataille: Alto And Tenor Sax, Clarinet
Carl Querfurth: Trombone

1. Got The South In My Soul [Lee Wiley, Victor Young, Ned Washington]  M36
2. Was That The Human Thing To Do [Sammy Fain, Joe Young]
 

デューク・ロビラード (1948- )は、ロック、ブルースをベースとしながらジャズ、スィングなど幅広い音楽をカバーするギタリストだ。ルーム・フル・オブ・ブルースやフェビュラス・サンダーバードなど有名バンドに在籍した他に、多くの自己名義のアルバムを出している。彼とマリアとの縁は、ジャズ・ピアニスト、ジェイ・マクシャンの「Still Jumpin' The Blues」 1999 E97のレコーディングに参加した際、マリアがゲスト・ボーカリストとして2曲歌った他に、「Stony Plain's Christmas Blues」 2000 E105 で1曲共演している。

本作は、彼に所縁がある歌姫を招いて1920~1940年代のスウィングの名曲に取り組んだもので、マリア以外にサニー・クロウノヴァー(デュークのバンドのシンガー)、キーレイ・ハント(うち3曲でピアノも弾いている)、エリザベス・マクガヴァン(女優でもある)、カテリーン・ラッセル(ジャズ・バンドリーダーの娘で、スティーリー・ダンやデビッド・ボウイなどのバックシンガーとして有名になった後、40代後半でジャズ・シンガーに挑戦して成功した人)、マデリン・ペイルー(アメリカ生まれでパリで育ち、2004年にアルバム「Careless Love」が大ヒットした)が参加し、デューク本人も3曲歌っている。4人のホーンセクションとバイオリンからなるスウィング・バンドで、デュークがマイクを通さない生音のアーチドトップ・ギターを使用しているところがミソ。ジャンゴ・ラインハルトのように饒舌ではなく、そのリラックスしたプレイがとても良い感じなのだ。

マリアが歌った2曲は、いずれもボズウェル・シスターズ 1932年の曲。マーサ(1905-1958)、コニー (1907-1976)、ヴェット (1911-1988) の3人姉妹はボ-ドビリアンの娘として生まれ、ニューオリンズで育った。小さいころから音楽に親しみ、3人コーラスによるジャズ歌唱の草分けとして、1930年代大変な人気があった。マリアは「Sweet Harmony」 1976 M4で彼女らの曲 「We Just Couldn't Say Goodbye」を取り上げている。1.「Got The South In My Soul」の作者リー・ワイリーは、「Night In Manhattan」で有名なジャズシンガー。ニューヨークのイメージである彼女が何故南部の歌なのか不思議に思ったが、オクラホマ州出身だった。この曲はマリアのお気に入りのようで、後2021年のアルバム「Let's Get Happy Together」 M36でも録音している。2.「Was That The Human Thing To Do」は、一瞬テンポが変わる箇所があるなど、歌い回しが難しそうな曲であるが、マリアは乗りの良い歌を聴かせてくれる。2曲ともお勧めだ。なおトランペットを吹いているジョン・エリック・ケルソーは、マリアのアルバム「Naughty, Bawdy & Blue」 2007 M27、「Boogie & Blues Diva」 2007 E127にも参加している。また2.でバイオリンを演奏しているアンディ・スタインは、カントリーロック・バンドのコマンダー・コディ & ヒズ・ロスト・プラネット・エアマンのオリジナルメンバーだった人。

マリアが歌った2曲以外にも素晴らしい出来なので、以下のとおり紹介します。曲に続く① [ ]は作者、②スウィング・ジャズ歌ものとしてのオリジナルの 歌手、バンド名、発表年 ③特記事項、④( )は本作で歌った人、の順番で表示します。

1. From Monday On [Bing Crosby, Harry Barris] Bing Crosby, Paul Whiteman And His Orchestra, 1928 (Sunny Crownover)
2. Got The South In My Soul [Ned Washington, Victor Young, Lee Wiley ] The Bozwell Sisters, Dorsey Brothers, 1932 (Maria Muldaur)
3. Please Don't Talk About Me When I'm Gone [Sam H. Stept, Sidney Clare] Gene Austin, 1931 (Kelley Hunt)
4. Squeeze Me [Clarence Williams, Fats Waller] Eva Taylor, Clarence Williams' Blue Five, 1925, マリアのカバーが「Watress In A Donut Shop」M3に収録 (Madeleine Peyroux)
5. Walking Stick [Irving Berlin] Tony Martin, Rau Noble And His Orchestra, 1938 (Duke Robillard)
6.Blues In My Heart [Benny Carter, Irving Mills] Dick Rogers, King Carter And His Royal Orchestra, 1931 (Catherine Russell)
7. Lotus Blossom [Julia Lee] Julia Lee, Tommy Douglas' Orchestra, 1945 (Kelley Hunt)
8. My Heart Belongs To Daddy [Cole Porter] Mary Martn, Eddy Duchin And His Orchestra, 1939, 1960年にマリリン・モンローが映画 「Let's Make Love」で歌った (Sunny Crownover)
9. What's The Reason (I'm Not Pleasin' You) [Jimmie Grier, Pinky Tomlin, Earl Hatch, Coy Poe] Betty Roth & Pinky Tomlin, Jimmie Grier And His Orchestra, 1935 (Duke Robillard)
10. Me, Myself And I [Allan Roberts, Alvin Kaufman, Irving Gordon] Billy Holiday And Her Orchestra, 1937 (Elizabeth McGovern)
11. Easy Living [Ralph Rainger, Leo Robin] Billie Holiday, Teddy Wilson And His Orchestra, 1937 (Madeleine Peyroux)
12. Was That The Human Thing To Do [Sammy Fain, Joe Young] he Bozwell Sisters, Dorsey Brothers, 1932 (Maria Muldaur)
13. If I Could Be With You (One Hour Tonight) [Henry Creamer, James P. Johnson] va Taylor, Clarence Williams' Blue Five, 1927 (Kelley Hunt)
14. Ready For The River [Charles N. Daniels, Gus Kahn] J. L. Sanders, Coon-Sanders Orchestra, 1928 (Duke Robillard)
15. Call Of The Freaks [Luis Russell, Paul Barbarin] (Instrumental) Luis Russell And His Burning Eight, 1929 (Instrumental)

何度聴いても気持ち良いアルバム。マリアの歌唱も最高。


E147 Scofflaw 2018   Clint Morgan      Lost Cause         


 
 
Clint Morgan: Vocal, Back Vocal (2)
Maria Muldaur: Vocal, Tamboourine (2), Back Vocal (2)
Kenny Vaughan: Electric Guitar (2)
Jim Hoke: Dobro (1), Autoharp (1), Mandolin (1)
Chris Burns: Piano, Organ (2), Keyboards (2)
Dave Roe: Bass (2)
Ronnie Smith: Drums (2)
Annie Simpson, Linda Tilley, Ronnie Smith, David Jones: Back Vocal (2)

1. Softly And Tenderly, Jesus Is Calling (Will H. Thompson)
2. I Done Made It Up In My Mind (Maria Muldaur)   M33

Kevin Johnson, Clint Morgan, Rob Thornworth: Producer (1)
Maria Muldaur: Producer (2)


これはスゴイアルバムです!

クリント・モーガン(年齢不明だが、大学卒業の経歴から50代後半から60才位と推定される)は、1995年アメリカ西海岸ワシントン州オリンピアで設立されたモーガン・ヒル法律事務所の設立者(パートナー)だ。同事務所のホームページで紹介されている彼のバイオによると、怪我、過失死、医療過誤事件のほか、離婚など様々な民事訴訟の弁護・調停を担当する有能な弁護士らしい。そしてピアノを弾き、歌うことが大好きで、「The Pinetop Perkins Foundation of Clarksdale, Missussuppi」(パイントップ・パーキンスは伝説的なブルース・ピアニスト)という、若い駆け出し音楽家のサポート・教育と、高齢ミュージシャンの老後ケア・安全確保のための活動をするNPO、および「International Blues Foundation」の役員を務めているという。彼の音楽用のホームページには、自己紹介の代わりに膨大な数のブルース、ジャズ、カントリー、フォーク、ロック・ミュージシャンの名前が挙げられており、ルーツ・ミュージックへの愛着と造詣の深さを感じることができる。

そんな彼が、ブルース音楽を土台として「Scofflaw (法律違反常習者)」をテーマとしたコンセプト・アルバムを制作した。ナッシュビルの腕利きセッション・ミュージシャンを起用して、ヘビー、アコースティック、シャッフル、ロカビリー、カントリーなど様々なスタイルの曲を歌っている。純情無垢な子供時代から始まり、道を外れて悪に染まり、逮捕・服役を経てさらに凶悪化するアウトロー達の人生を実在するアウトローをモデルに展開してゆく。列車強盗、銀行強盗、連続殺人などの犯行心理、銃殺・処刑といった報いや、最後の贖罪と魂の開放までを壮大なスケールで描いており、その暗黒の世界と、最後に差し込む光の眩さに圧倒されてしまう。弁護士として様々な人々の争い・愛憎に関わってきた人らしく、人間の罪深さに対する洞察の深さに重みが感じられる。また彼の歌声は、黒人ブルースシンガーとは異質なものであるが、これらの曲を歌うに相応しいダークな雰囲気と深みを感じさせる。

また添付されているブックレットが素晴らしい!手書きによる歌詞、ライナーノーツ、アウトローの語録や聖書からの引用に加えて、伝説の犯罪者の写真を巧みにコラージュしている。ジョン・ウェズリー・ハーディング(ボブ・ディラン1967年のアルバムのタイトルになった人)、フランク・ジェームス(ジェシージェイムスのお兄さん)、ブッチ・キャシディ(映画「明日に向かって撃て」1969 でポール・ニューマンが演じた人)、プリティ・ボーイ・フロイド(ウッディ・ガスリーの曲でボブ・ディラン、ジェイムス・テイラーがカバー)、クライド・バーロウ(映画「俺たちに明日はない」1967でウォーレン・ビューティが演じた)、ジョン・デリンジャー(映画「デリンジャー」1973でウォーレン・オーツが演じた)、ドク・ホリデイ(映画「OK牧場の決闘」1957でカークダグラスが演じた)等の写真からは、底知れぬオーラが漂ってくる。ライナーノーツにおけるクリントの文書も洞察力に富んだものだ。

前半はベッシー・スミスを思わせるデュアンナ・グリーンリーフがゲストシンガーで登場し、終盤の贖罪と魂の開放という大切な場面でマリアが歌う。1.「Softly And Tenderly, Jesus Is Calling」は、ウィル・トンプソン(1847-1909)が 1880年に発表したゴスペルソングで、これまで闇の中をさ迷ってたクリントの歌声の色合いが変化し、光がさしているのがわかる。途中からマリアが加わり一層厳かなムードになる。ドブロ、オートハープ、マンドリンを駆使するジム・ホウクとマリアの常連伴奏者であるクリス・バーンズのピアノが素晴らしい。2.「I Done Made It Up In My Mind」は、マリアが自身のアルバム「Steady Love」2011 M33に収録していた曲で、そこでは「Traditional Arranged And Adapted by Maria Muldaur」となっているが、本作では単に「Muldaur」となっている(彼女が作者としてクレジットされるレアなケース)。実際のところ、1947年にゴスペル・グループのスワン・シルヴァートーンズによる録音があり、マリアは歌詞やメロディーに脚色を施したものと思われる。ここでのマリアとクリントの掛け合いは生き生きしていて、魂の解放感に満ちたものとなってる。バックはナッシュビルのセッション・ミュージシャンとマリアのバックバンドの混成チームで、バックボーカルには彼女の地元であるカリフォルニア州のブルース、ゴスペル音楽仲間が参加している。いずれの曲もマリア十八番のゴスペルソングで、本アルバムの山場の場面で重要な役割を立派に果たしている。

ダークな雰囲気に満ちていて、聴いていて楽しい作品ではないが、これほど人間の性を深く感じさせるアルバムは知らない。歌詞、曲、歌唱、演奏、装丁すべてにおいて完璧なまでに素晴らしい出来栄えとなった。この手の世界に興味のある人は是非聴いてほしい。

[2020年4月作成]

  
E148 The Fantasy Vocal Sessions Vol.1, Standards 2018 David K. Mathews  Effendi





 

Maria Muldaur : Vocal
David K. Mathews: Piano
Jim Nichols : Guitar
Peter Barshay : Bass
Akira Tana : Drums

1. Oh Papa [David Nichtern] M3 M9
2. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez] M2 M6 M9 E16 E74 E75 E100

注: 写真下は「Fantasy Vocal Sessions Vol.2, Soul, Pop. R&B」 2020
 

デビッド・マシューズということで、多くのアーティストの楽曲アレンジを担当し、マンハッタン・ジャズ・オーケトラの活動でアルバムを残し、現在は北海道に住んでいる著名ピアニストと思っていたが、デビット・K.・マシューズ (「K」は「Kirk」の略)という同姓同名の別人だった。本作に関する調査の過程で気がついたもので、昔書いたマリアのコンサート音源「Bottom Line Japan」1989、アルバム「Jazzabelle」1993 M14の記述の誤りを修正した。彼はその後、「Meet Me Where They Play The Blues」 1999 M19、「Richland Woman Blues」 2001 M20、「Shout, Sister Shout!」 2003 E116などに参加している。彼はサンフランシスコを本拠地として活動、タワー・オブ・パワー在籍後にエッタ・ジェイムスのバックを長く務め、2010年からはサンタナのメンバーになっている。本作はベイエリアで活躍するシンガーを招いて製作したもので、バックも地元のミュージシャンで固めている。2018年に発売されたVol.1は「Standard」、2020年のVol.2は「Soul, Pop, R&B」というタイトルがついており、マリアはVol.1の2曲に参加している。

2曲ともマリアおよびファンにとってお馴染みの曲。アルバム全体について言えることであるが、デビッドのピアノは手数を抑え、選び抜いた音使いで、歌い手の引き立て役に専念している。他のシンガーが歌う曲では、間奏ソロの多くをテナーサックス(ウェイン・デ・シルヴァ)やギターに任せているのに対し、マリアとのセッションでは彼自身でピアノソロをしっかり入れている。その気合が入った演奏・歌唱と、思い入れある選曲により、他のトラックとは別格の趣がある。1.「Oh Papa」は3回目、2.「Lover Man」は何と8回目の公式録音でマリアの表現・声色が年を経る毎に深みを帯びている様が如実にわかるのが凄い。なおギターのジム・ニコルスは、ジャズ以外に、チェット・アトキンス、マール・トラヴィス風カントリーギタースタイルのフィンガーピッキングも得意とする人で、自己名義のアルバム以外に、フィンガーピッキング界のスーパースター、トニー・エマニュエルとの共演盤も出している。ドラムスのタナ・アキラは、カリフォルニア生まれの日系2世。

アルバム全体として素晴らしい選曲・出来なので、収録曲につき以下のとおり紹介します。曲名に続く① [ ]は作者、②オリジナルの歌手、バンド名、発表年 ③( )は本作で歌った人、の順番で表示します。

1. I Want To Talk About You [Billy Ekstaine] Billy Ekstaine 1944 (Nicolas Bearde)
2. Alfie [Hal David, Burt Bachlach] Cilla Black 1966 (Amikaeyla)
3. Blue Skies [Irving Berlin] Al Jolson 1927 (Steve Miller)
4. Oh Papa [David Nichtern] Maria Muldaurr 1974 (Maria Muldaur)
5. Ruby [Miychell Parish, Heinz Roemheld] Richard Hayman Orchestra 1953 (Glenn Walters)
6. Smile [Charlie Chaplin] Orchestra Conducted By Alfred Newman 1936 (Nicolas Nearde)
7. When Sunny Gets Blue [Marvin Fisher, Jack Segal] Johnny Mathis With Ray Conniff And His Orchestra 1956 (Tony Lindsay)
8. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez] Billie Holiday 1945 (Maria Muldaur)
9. Lush Life [Billy Strayhorn] Nat King Cole 1949 (Kenny Washington)
10. The More I See You [Harry Warren, Mark Gordon] Harry James And His Orchestra , Vocal By Buddy Di Vito 1945 (Frank Jackson)
11. We'll Be Together Again [Frankie Laine, Carl Fisher] The Pied Pipers With Paul Weston And His Orchestra 1945 (Reni Simon)
12. Skylark [Hoagy Carmichael, Johnny Mercer] Gene Krupa And His Orchestra With Anita O'Day 1942 (Glenn Walters)
13. In The Wee Small Hours Of The Morning [Bob Hilliard, David Mann] Frank Sinatra 1955 (John Laslo)

注: スティーブ・ミラーは自身の名を冠したバンドで、「Abracatabura」1982等のヒットを飛ばした人。


Vol.2 も面白い内容なので、参考までに以下の通り記載します。

1. For The Love Of You [Chris Jasper, Ernie Isley] The Isley Brothers 1975 (Amikaeyla)
2. You Had to Know [Donny Hathaway, Lee Hutson] Cold Blood 1972 (Tony Lindsay)
3. One Mint Julep [Rudolph Toombs] The Clovers 1952 (Steve Miller)
4. Superwoman (Where You When I needed You) [Stevie Wonder] Stevie Wonder 1972 (Amikaeyla)
5. So Sweetly [Ray Obeiedo, Teresa Trull]  -  (Tony Lindsay)
6. I Got You (I Feel Good) [James Brown] Jams Brown 1965 (Fred Ross)
7. Giving Up [Van McCoy] Gladys Knight & The Pips 1964 (Lady Bianca)
8. Going Out Of My Head [Bobby Weinstein, Teddy Randazzo] The Delfonics 1969 (Glenn Walters)
9. Wichita Lineman [Jimmy Webb] Glen Campbell 1968 (Amikaeyla)
10. I Love You More Than You'll Ever Know [Al Kooper] Blood, Sweat & Tears 1968 (Alex Ligertwood)
11. Yesterday [John Lennon, Paul McCartney] The Beatles 1965 (Kenny Washington)

[2022年8月作成]


E149 Right Outta Da Oven 2019   The Brooklyn Pizzaiolos   Cousin Moe Music  
 



Maria Muldaur : Vocal
Arthur Neilson : Guitar
Kenny Aronson : Bass
Eric Parker : Drums

Jeff Alexander : Producer

1. Grab A Slice NYC [Jeff Alexander]

Recorded at Nevessa Studios, Woodstock, N.Y.


ジェフ・アレキサンダーは、生まれ育ったニューヨーク・ブルックリンが大好きで、ブルックリン・ブリッジや地元っ子がこよなく愛するピザをプリントしたTシャツやパーカーを製造販売している。彼らはピザを食べようとする時、「Grab A Slice」と言うそうで、それが洋服のブランド名になっている。また彼は作曲家、プロデューサーでもあり、カズン・モー・ミュージックという会社を起こして、地元のブルース・ミュージシャンのアルバムを制作している。そんな彼がブルックリン愛・ピザ愛が高じて制作した 「オーヴンから出たてホヤホヤ」というタイトルのEPアルバムが本作だ。

地元のミュージシャンがバックを務めており、特にベースとドラムスは、多くの有名シンガーのバックを担当したセッション・ミュージシャンだ。収録された4曲のうち3曲は地元のセッション・シンガーである La Rita Gaskinがボーカルを担当し、残る1曲でマリアが歌っている。1.「 Grab A Slice NYC」は洋服のブランド名と同じタイトルで、ピザ愛そのものを歌ったブルースだ。ノベルティ・ソングに近い内容でありながら、演奏・歌唱ともに大真面目にやっているのが面白い。ギターがギンギンに鳴っていて乗りの良いサウンド。ちなみに前述のラ・リタ・ガスキンが歌っている残り 3曲のうちのひとつは、本曲と全く同じバッキング・トラックを使用しており、こちらのタイトルは.「 Grab A Slice」 (「NYC」なし)となっている。

商品ブランドとしての「Grab A Slice」のサイト、および自主制作盤を専門とする通信サイトで販売された。

[2021年10月作成]


 
E150  Spirit  2020  The Garcia Projct  Good Clean Fun Productions


 

[The Garcia Project]
Mik Bordy : Vocal, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Kat Walkerson : Vocal, Harmony Vocal
Don Crea : Bass

Maria Muldaur : Vocal (10), Harmony Vocal, Produce
Peter Rowan : Vocal (2,6,9), Acoustic Guitar (2,6,9)
Jacklyn LaBranch : Harmony Vocal (1, 4, 7, 8, 10, 11)

Rick Turner : Acoustic Guitar (6)
Jacob Jolliff : Mandolin (2,6,9)
Gary Kaye : Banjo (2)
Joel Jaffee : Tambourine (11), Engineer, Mixing
Jason Crosby : Paino, Electric Piano, Organ, Fiddle
Buzz Buchannan : Drums (5)
Tommy Nagy : Drums (1,4,7,10,11)

1. Mighty High [David Crawford, Richard Downing]
2. Cold Jordan [Jerome Garcia, William Kreutzmann, Philip Lesh, Ronald McKerman, Robert Weir]
3. Gomorrah [Robert Hunter, Jerry Garcia] E40 E41 E42 E44
4. Who Was John [Traditional]
5. I'll Be With Thee [Dorothy Love Coates] E40 E41 E42 E44
6. Drifting Too Far From The Shore [Charles Ernest Moody]
7. Strange Man [Dorothy Love Coates]
8. The Magnificent Sanctuary Band [Dorsey Burnette]
9. Throw Out The Lifeline [Edwin Smith Ufford]
10. Sisters And Brothers [Charles Johnson] M5 M7 M23
11. I Hope It Won't Be This Way, Always [Barbara Allison]
12. Palm Sunday [Robert Hunter, Jerry Garcia]

注: 8, 11, 12 はマリア非参加

 

マリアは1977年後半から1978年までの約1年間、ジェリー・ガルシア・バンド(JGB) のメンバーとしてツアーに参加した。彼はコンサートでの私的録音を許容したため、多くの音源が残され、愛好家の間でシェアされたり、後に公式発売されている。それらは、グレイトフル・デッド(GD)、JGBや他ミュージシャンとのセッションなどで膨大な音源を残したジェリー・ガルシア (JG) という人の大きな器の中では、ほんの一部に過ぎないが、それなりに内容の濃いものだ。マリアとしては、「Southern Wind」1978 M5の頃で、キャリア変遷の過渡期にあって、悩み・迷いを持っていた彼女がバンドに加入することで、音楽と精神の両面で得たものは大きかったに違いない。

そして約40年後の2020年、その体験がトリビュート・バンドによるアルバム制作への参加という形で再現されたのが本作である。ミック・ボーディーは、1995年にJGが亡くなるまでの数年間、JGの追っかけをし、彼のボーカル、ギタースタイルのみでなく、アンプ、エフェクトやスピーカー等の研究をして、そのサウンドを真似し、JG没後に活動したメルヴィン・シールズ・アンド JGBにも参加したことがある人。そんな彼が同志二人(ボーカルのカット・ウォルカーソン、ベースのドン・クレア)とガルシア・プロジェクトを結成、コンサート活動により人気を集め、自主製作で発表したのが本作「Spirit」だ。ジャケット・デザインとアートワークもミックとカットの二人という手作り作品。

ステージにおけるバンドの演奏曲が、様々なジャンルの音楽をカバーするJGのレパートリー全般であるのに対し、本作ではそれらの中からスピリチュアルな曲に集中して選曲しているが、プロデューサーとしてのマリアの考えがどの程度反映されたのかは不明。しかし同バンドに所縁があるミュージシャンをゲストに招いたり、彼女のアルバムで仕事したエンジニアを採用するなど、自身の人脈をフルに活用して、アルバムの出来・価値を上げることに貢献した点は間違いないだろう。一般的にトリビュート・バンドの場合、音楽そのものよりも、サウンドの再現度・忠実度で評価されると思われるが、本作での音楽は、JGBオリジナルの演奏と比較して、アレンジが若干異なるものが多いのが特徴。むしろオリジナルを発展・改善させた出来上がりになっていると言える。ここで大事なのは、彼らが再現しているのは原曲が持っている精神・情感であり、それらを彼らなりにフィルターにかけて、彼らの音楽として表現していることだ。そういう意味で、スピリチュアルな曲に絞った本アルバムのコンセプトは、バンドの持ち味にぴったり沿ったものになり、その点が本作成功の根本的な要因となっている。

1. 「Mighty High」は、JGBが1976年の後半ライブで演奏、「Cats Under The Sky」1978 E40 (「CUTS」)のアウトテイクとして再発盤に収められた曲で、The Mighty Cloud Of Joy (E56参照)がオリジナルの現代ゴスペル曲。ミックのボーカル、ギターがJGを彷彿させる。メンバーのカットと一緒に歌っている女性はジャクリン・ラブランチで、1982-1995年の間JGBのメンバーだった人だ。マリアは8, 10, 11, 12を除く全ての曲にハーモニー・ボーカルで参加している(10のみリード・ボーカル)。2.「Cold Jordan」は、1969-1970年のGDのライブにおけるアコースティック・セットで演奏された古い曲で、スタンレー・ブラザースやエミールー・ハリスが歌っている。CDジャケットには作者として演奏当時のGDのメンバーの名前が列挙されていたが、一般的にはトラディショナルとされている。本曲のようなブルーグラスの香りがする曲では、大御所のピーター・ローワン (E24, E46, E50参照) がリード・ボーカルをとっている。悪徳と退廃のため神の裁きにより滅亡したというゴモラのエピソードを歌った 3.「Gomorrah」は、ロバート・ハンター作詞、JG作曲のオリジナル曲で、「CUTS」に収録された。ここではマリアとほぼ同時期である 1977-1978年にJGBに参加したバズ・ブキャナンがドラムを叩いている。11.「I Hope It Won't Be This Way, Always」は、JGB 1989年のレパートリーで、The Angelic Gospel Singers 1968年の録音がオリジナル。

4.「Who Was John」は、GD、JGBのメンバーだったKeith And Donna Godchaux 1975年の公式録音と、1976年のJGBでのライブ演奏がある。一番古い録音は1936年のMichell's Christian Singersのアカペラ歌唱。CDジャケットには「Dedicated to John Khan」とあり、1996年没のJGBのベーシストに捧げられている。5.「I'll Be With Thee」は、1977-1978年のJGBのライブでマリアがドナ・ゴッドショウと 歌っていたゴスペルソングで、スタジオ録音は「CUTS」 のアウトテイクとして、再発盤に収録された。初出は Dorothy Love Coates And The Gospel Harmonettes 1967年の録音。6.「Driftin' Too Far From The Shore」は、JGがピーター・ローワン、デビッド・グリスマン、ヴァッサー・クレメンツと組んだ短命バンド Old & In The Way 1973年、ジェリー・ガルシア・アコースティック・バンド1987年のライブ、JGがデビッド・グリスマン、トニー・ライスと吹き込んだ「Pizza Tapes」1993 の音源があり、元々はビル・モンローやカントリー・ジェントルメンが演奏していたスピリチュアル曲だ。ここでもピーター・ローワンが歌っていて、ブルーグラスとゴスペルの縁の深さがわかる。 

1976年のJGBでドナ・ゴッドショウが歌っていた7.「Strange Man」のリード・ボーカルはカットが担当。オリジナルは 5.と同じで、キース・アンド・ドナ 1986年の公式録音がある。ロカビリー・シンガーのドーシー・バーネット 1970年の作品 8.「The Magnificent Sanctuary Band」は、JGBのアルバム「CUTS」のアウトテイクとして後の再発盤に収録されている。9.「Throw Out The Lifeline」は、アルバム発表に先立ってシングルとして配信された曲で、1880年代の讃美歌がベースで、シスター・ロゼッタ・シャープ(E117参照)やエラ・フィッツジェラルド等がカバー。比較的軽妙なアレンジによるJGBでの演奏は1988-1991年の間で、本作ではピーター・ローワンが歌っている。

本作で唯一マリアがリード・ボーカルを務める 10.「Sisters And Brothers」は、Sensational Nightingales 1974の録音が最初で、JGBの1976-1995年のライブで歌われた。マリアはこの曲を気に入ったようで、「Southern Wind」1978 M5に収録、その後も多くのライブで取り上げている。なおCDジャケットにある「Dedicated to Gloria Y. Jones」は、JGBでジャクリン・ラブランチと一緒に歌っていたグロリア・ジョーンズ(2019没)のこと。最後の曲 12.「Palm Sunday」は、3.と同じくJGのオリジナルで、「CUTS」に収録された。ここではカットがしんみりと歌っている。

コピーバンドによる物真似と軽んじることなかれ!ゴスペル音楽はキリスト教徒のみのためならず!マリアのプロデューサーとしての力量が発揮された、誠実かつ魂が籠っていて、聴く者の精神を清め、高めてくれる作品。

[2023年1月作成]


 
E152  Explore The Spoonful Songbook 2021  John Sebastian And Arlen Roth  Renew 
 

John Sebastian : Vocal, Guitar
Arlen Roth : Guitar
Maria Muldaur : Vocal


13. Stories We Could Tell [John Sebastian]

 

これはとてもいいアルバムです!

本作のレビューを書くにあたり、ラヴィン・スプーンフルのベスト盤CDを久しぶりに聴きました。そこには1960年代当時しか出せない空気感があって、とても良い気分になりました。本作には14曲収められていますが、「Summer In The City」のようなヒット曲や 「Wild About My Lovin'」、「Coconut Grove」などは含まれず、他にいい曲がたくさんあったことが改めてわかりました。2021年発売の本作のみでなく、オリジナル作品も一緒に聴くことをお勧めします。

ジョン・セバスチャン (1944- ) はニューヨーク生まれで、ヴィレッジのフォークシーンでブルースを聴いて育った。レコードデビューは、マリア、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのスティーブ・カッツ、ステファン・グロスマン等がメンバーだった「The Even Dozen Jug Band」1964 E1 だった。そしてザ・ママス・アンド・パパスのキャス・エリオット等とバンドを組んだ後に、ザル・ヤノブスキー等とラヴィン・スプーンフルを結成し、1965年レコードのヒットにより成功した。彼はバンド内のトラブルにより、1968年バンドを離れてソロとなり、1969年のウッドストック・フェスティバルに出演。その後はウッドストックを拠点として、ソロアルバム発表、ハーモニカやオートハープのセッションワーク (オートハープでは、ランディ・ヴァンウォーマーのヒット曲「Just When I Needed You Most」1979 全米4位が有名)、テレビや音楽のサウンドトラック、教則テープ制作等で活躍を続けている。マリアとは「American Children」 1989 E69、「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」 2009 M30 、「Jug Band Extravaganza」 2010 E130 などのアルバム、およびコンサートで数多く共演している。

アーレン・ロス (1952- ) は、ニューヨーク生まれで、ウッドストックを拠点としてソロアルバム発表、セッションワーク、ツアーバンド参加、教則本・テープ制作等の活動をしている。テレキャスターを好み、フィンガースタイル、スライドギター等様々なスタイルをこなすプレイヤーだ。

まずマリアが参加した13.「Stories We Could Tell」につき、先に述べる。本曲はアルバム中唯一、ラヴィン・スプーンフル時代のものではなく、B.J トーマス1972年、エヴァリー・ブラザース1972年(アルバム・タイトルソング)の後、1974年に発表した「Tarzana Kid」にセルフカバーが収められた。その後もジミー・バフェット 1974年、トム・ペティ・アンド・ハートブレイカーズ 1980等のカバーがある。カントリー調の曲・サウンドで、最初はジョンが歌い、コーラスでマリアがハーモニーを付け、セカンドヴァースをマリアが歌う。マリアの歌声は、いつものドスの効いた声でなく、カントリー音楽向けのスウィート・ヴォイスだ。本作で唯一、ラヴィン・スプーンフル時代でない本曲は、ジョンにとって大切な曲だったに違いない。


他の曲についても説明します(括弧はオリジナル収録アルバムとその発表年 全米チャート))。

1. Lovin' You           (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966, Single 1967)
2. Darlin' Companion      (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966)
3. Daydream           (Same Title 1966, Single 1966, 2位)
4. Jug Band Music       (Daydream 1966, Single 1966)
5. Four Eyes           (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966)
6. Younger Girl         (Do You Belive In Magic 1965)
7. Rain On The Roof      (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966, Single 1966, 10位)
8. Didn't Want To Have To Do It  (Daydream 1966)
9. Did You Ever Have To Make Up Your Mind (Do You Belive In Magic 1965, Single 1966 2位)
10. Do You Believe In Magic  (Same Title 1965, Single 1965, 9位)
11. Nashville Cats        (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966 Single 1967, 8位)
12. You Didn't Have To Be So Nice  (Daydream 1966, Single 1965, 10位)
13.Stories We Could Tell   (Tarzana Kid 1974)
14. Darling Be Home Soon   (You're A Big Boy Now, Single 1967, 15位)

1.「Lovin' You」、2.「Darlin' Companion」 をオリジナルと聴き比べると、ジョンの声質が変わったことがわかる。1990年代初めに経験した喉の健康問題のためとのことで、「彼の声は失われた」と言う人もいるが、私が歌声を聴く限り、すこし渋みが出たけど、深みと味わいが増したように思う。バックで歌うモナリザ・トゥインズは、オーストリア・ウィーンに生まれ、2014年以降はイギリス・リバプールを本拠地とする女性双子デュオだ。彼らは2000年代後半からビートルズをはじめとする1960年代のポップ、フォーク音楽をYouTubeにアップすることで人気を得て、2007年以降オリジナル曲を含むCDも出している。達者なギタープレイ(アコースティックとエレキ)による演奏と、双子ならではの絶妙なハーモニー、古い曲のカバーでありながら、新しい何かを感じられることが彼女達の魅力になっている。2015年頃ジョンの「Daydream」のカバーをアップしたところ、それを観たジョンが絶賛して交流が始まったらしい。その後2017年のアルバム「Orange」にジョンがハーモニカで 2曲(「Once Upon A Time」、「Waiting For The Waiter」 YouTubeに動画あり) に参加した。本作への参加はその見返りとのことで、ここでの彼女等の新感覚バックボーカルが曲に新しい息吹を与えているのは明らか。3.「Daydream」はギター2台、ハーモニカ、口笛によるインストルメンタルで、アーレンのアコースティックギター・プレイがとても良い味をだしている。4.「Jug Band Music」は、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドのものとは同名異曲で、曲名のわりにロックなアレンジの曲。ジェフ・マルダーがハーモニー・ボーカルをつけている。 テレキャス・サウンド丸出しのアーレンのソロがかっこいい!

5.「Four Eyes」は、アーレンのスライド・ギターが暴れまくる、リトルフィートもびっくりのロックサウンドで、オリジナルを完全に超越した素晴らしい出来。モナリザ・トウィンのバックコーラスも最高 !  6.「Younger Girl」、7.「Rain On The Roof」 はギター、マンドリン等によるインストルメンタル。本アルバムでは有名曲を歌無しで演奏しているようだ。8.「Didn't Want To Have To Do It」はアーレンの次女 Lexie Rothが歌っている。ちなみにアーレンは1989年に交通事故により最愛の妻とプロミュージシャンとしてデビュー直前の長女を交通事故で亡くしている。9.「Did You Ever Have To Make Up Your Mind」は、ジェフ・マルダーがボーカルで参加している。本曲については、ジョンとモナリザ・トウィンの共演バージョンが2019年の彼女等のアルバム「Play Beatles & More Vol.3」に収められ、動画もYouTubeに発表されている。両者を聴き比べると面白いよ!10.「Do You Believe In Magic」は有名曲ということで、バンド編成によるインストルメンタル。アーレンのテレキャスのみならず、(おそらく)ジョンもギターソロを弾いている。カントリー調の 11. 「Nashville Cats」では、本作では唯一アーレンがリードボーカルをとっている。 12.「You Didn't Have To Be So Nice」は 2台のギターによるインストルメンタル。13.「Stories We Could Tell」は上記参照。最後の曲 14.「Darling Be Home Soon」は、ジョンのギターとハーモニカがメインの弾き語り。

この手の作品は「単なる懐古趣味」と捉えられがちであるが、本作は、年を経て円熟したミュージシャンが新感覚の若手によるサポートを得て創り上げた素晴らしい音楽なのだ。

[2023年9月作成]


 
E153  Vaccinated And I'm Ready For Love 2021  Maria Muldaur  Stony Plain
 

Maria Muldaur : Vocal
Craig Caffall : All Instruments

1. Vaccinated And I'm Ready For Love [Maria Muldaur, Craig Caffall]

2021年10月リリース



2019年12月中国武漢当局により発生が発表されたウィルス性肺炎は、瞬く間に全世界に広がり、日本でも翌年1月に最初の患者を確認、2月には日本に寄港したクルーズ船の集団感染で大騒ぎになった。感染するとどうなるか分からないという恐怖感と、周囲に与える影響の恐ろしさで、なるべく家に留まって行動を自粛するしかなかった。人が集まる各種施設・イベントの閉鎖・中止、企業や学校の在宅対応、外出の自粛、海外との往来制限などは、社会に多大な影響を及ぼした。そのピークの状態は2021年秋頃まで続き、緊急事態宣言解除後も要注意の状態がしばらく続いた。私の場合は高齢者ということで、以前のような生活に戻れたのは2023年になってからと記憶している。「以前のような」と言ったが、実際は全く同じでなく、アフターファイブや冠婚葬祭など、これまで当たり前に行っていた習慣・しきたりがコロナ禍を境にがらっと変わってしまい、人は以前ほど気楽にお付き合いをすることができなくなったと思う。アメリカの状況も酷いもので、とても多くの方が亡くなったという。音楽業界への打撃も大きく、コンサートができなくなったことで、多くのミュージシャンや関係者は収入源を断たれ、インターネット配信などによって窮状を凌いだ。マリアもネット配信によるコンサートを数回実施している。

そんな彼女が状況改善の兆しが見え始めた2021年10月、音源・映像配信によりリリースした曲が 1.「Vaccinated And I'm Ready For Love」だ。以下リリース時の記事における彼女の言葉を引用する。

「2回目のワクチン接種を受けて車で帰る途中、私は解放感、高揚感、軽やかさ、そして歓喜に圧倒されました。美しい春の日だったので、ドライブを楽しむために車のサンルーフを開けておいたのですが、いつの間にか「ワクチン接種済、愛の用意ができている」という言葉が自然に出てきて、家に帰るまでずっと歌っていました。その時点ではクスクス笑って忘れましたが、翌日そのリフが戻ってきて、一日中歌っていました。これはキャッチーで消し難いリフであると気づき、ギター奏者のクレイグ・キャフォールに電話して、タイトルとサビがあるので曲作りを手伝ってと頼みました。彼はそうしてくれて一緒に録音し、それに合わせたビデオも作りました」

資料には作者についての記載がないが、上記の発言からマリアとクレイグの共作という事になる。そしてバックバンドについては、「Musicians: Craig Caffall」とあるので、すべての楽器を彼一人で多重録音したものと思われる。彼はマリアのバックバンドを長年務め、「Live In Concert」M28、「Christmas At The Oasis」M32に参加していた人で、若い頃はドラムを叩いていたというマルチ奏者のプロフィールがあることから、間違いないだろう。

歯切れの良いブルースに仕上がっていて、マリアが自己解放のためのみでなく、ワクチン接種に消極的だった人々に対し、受けるよう促したメッセージ・ソングと捉えることができるだろう。

[2024年3月作成]