E117 Shout, Sister Shout 2003 Various Artists M.C. Records
Maria Muldaur : Vocal (1,2,4,6), Back Vocal
Angela Strehli : Vocal (2,5), Back Vocal
Marcia Ball : Vocal (2,3), Back Vocal
Tracy Nelson : Vocal (2,4), Back Vocal
Bonnie Raitt : Slide Guitar (1)
Del Ray : Guitar
Dave Mathews : Piano
Dewayne Pate : Bass
Kevin Hayes : Drums
Jim Rothermel : Sax (2,3)
Jeff Rewis : Trumpet (2,3)
Maria Muldaur : Producer
Mark Carpentieri : Executive Producer
2. My Journey To The Sky [Traditional]
5. Shout, Sister Shout [Mildner, Bryman, Williams, Hill]
10. I Want A Tall Skinny Papa [Millinder, Stafford, Simon]
13. Up Above My Head [Tharpe]
15. That's All [Tharpe]
16. I Looked Down The Line (And I Wondered)
Recorded Febuary 2002 at Laughing Tiger Studios, Dan Rafael, CA
M. C. Records のオーナーであるマーク・カーペンテリにとって、彼女の音楽との出会いは、ベテランのロックンロール・シンガーであるスリーピー・ラビーフとレコード製作の契約を交わした際に、彼の自宅で聴かせてもらったのが初めてだったそうだ。その音楽に感銘を受けた彼は、彼女のトリビュート・アルバムを作る決心をする。その話がマリアに伝わり、彼女がシスター・ロゼッタ・シャープのファンだったことから、実現に至ったという。マリアは全17曲のうち6曲についてプロデュースを担当。親しいミュージシャンを集めて素晴らしい曲作りをしており、本作の成功に大いに貢献している。
2.「My Journey To The Sky」は1947年の録音がオリジナルで、マリアが太く伸びのある声で歌っている。CD解説書のクレジットには表示がないが、バックコーラスがフィーチャーされており、本セッションに参加したアンジェラ・ストレリ
(E125参照)、マルシア・ボール(E125参照)、トレイシー・ネルソン (E93参照) の3人と思われる。ゴスペル・フィーリングに満ちたガッツのある歌唱と演奏が最高! ゲストのボニー・レイットによる心に滲みるスライドギターソロも素晴らしい。 7.「Shout,
Sister Shout」(1941年の録音がオリジナル)は、本作のタイトル曲に相応しく、マリア、トレイシー、マルシア、アンジェラの順で1ヴァースづつ歌い、最後のコーラスを全員の合唱で締める感動の逸品。彼女らのブルースを触媒とする魂の絆を強烈に感じる作品。10.「I
Want A Tall Skinny Papa」(オリジナルは1941年)はマルシアがリードボーカルをとり、他の女性人は掛け合いのコーラスを担当する。マリアはこの曲では歌っていないが、マルシアの歌に対し「イエー、アハー」とカッコイイ合いの手を返している。なお5.
10.の2曲では、おなじみのジム・ロサメル他のホーンセクションが加わっている。ここでは2人だけの参加だけど、多重録音によってジャズのビッグバンドのような厚みのある音を生み出している。13.「Up
Above My Head」ではマリアとトレイシーが、1941年のオリジナル録音におけるマリー・ナイトとの掛け合いを再現している。本作6曲の全てでフィーチャーされる金髪のメタルボディー・ギター奏者、デル・レイ(M25参照)によるギタープレイのグルーヴ感が凄い!15.「That's
All」(オリジナルは1938年)は、アンジェラ・ストレリが一人で歌い、バックコーラスは入らない。ここでもデル・レイのギターのメタリックな響きが前面に出ている。16.「I
Looked Down The Line (And I Wondered)」(1939年がオリジナル)は、マリア一人による歌唱。その他のアーティストは、オデッタ、スウィート・ハニー・イン・ザ・ロック、フィービー・スノウ、ロリー・ブロック、ジャニス・イアンなど、ブルース、フォーク界で活躍する人達が揃っており、またシスターと一緒に歌った上述のマリー・ナイトのトラックもあり、それらのどれもが良い出来だ。さらに本CDはエンハンスト仕様になっており、パソコンにかけると本人が演奏する18.「Down
By The Riverside」の映像を観ることができるのもうれしい。
曲目(曲名に続く年表示は、オリジナル発表年)
1. Nobody's Fault But Mine 1941[Traditional] Joan Osborne With The Holmes
Brtothers
2. My Journey To The Sky 1947 [Traditional] Maria Muldaur With Bonnie Raitt
On Lead Guitar
3. Rock Me 1938 [Dorsey] Toshi Reagon
4. Two Little Fishes And Five Loaves Of Bread 1944 [Haneghen] Odetta With
The Holmes Brothers
5. Strange Things Happening Every Day 1944 [Sharpe] Michelle Shocked
6. This Train 1939 [Sharpe] Janis Ian
7. Shout, Sister, Shout 1941[Mildner, Bryman, Williams, Hill] Maria Muldaur,
Marcia Ball, Angela Strehli, Tracy Nelson
8. Beams Of Heaven 1939 [Sharpe] Phoebe Snow With The Holmes Brothers
9. Precious Memories 1947 [Sharpe] Sweet Honey In The Rock
10. I Want A Tall Skinny Papa 1941[Millinder, Stafford, Simon] Marcia Ball
11. My Lord And I 1947 [Cambell] Victoria Williams With The Holmes Brothers
12. Stand By Me 1941[Tindley] Rory Block
13. Up Above My Head 1947 [Sharpe] Maria Muldaur And Tracy Nelson
14. Don't Take Everybody To Be Your Friend 1946 [Caroll, Sharpe] Joanna
Connor
15. That's All 1938 [Sharpe] Angela Strehli
16. I Looked Down The Line (And I Wondered) 1939 [Sharpe] Maria Muldaur
17. Didn't It Rain 1947 [Knight, Sharpe] Marie Knight
18. Down By The Riverside 1948 [Traditional] Sister Rosetta Sharpe *
注: 18. Audio/Video Clip : Recorded in the early 1960's from TV Gospel Time
黄色: マリア参加トラック
全18曲は4つのカテゴリーに分けられる。一つ目は、原曲に比較的忠実なアレンジで、マリアがプロデュースする上記黄文字の6曲(詳細は上記で説明済)。昔のブルース・ミュージシャンに深い敬意を払い、その魂に自分達の心を合わせる人達によって制作されたものだ。二つ目は、ゴスペルやブルースの雰囲気をある程度残しながら、そこに現代的な風味を加えたもので、上記1.
4. 8. 11.のホルムス・ブラザースがバックを務める曲だ。彼らはブルース、ソウル、ゴスペル、カントリーなどのルーツ・ミュージックを演奏する3人組で、自己名義のアルバムの他、多くの著名アーティストのバックを務めたが、2015年うち2名が亡くなったため活動を停止した。1.「Nobody's
Fault But Mine」は、数多くのアーティストが取り上げた名曲で、マリアも「Gospel Night」1980 M7で歌っている。ジョーン・オズボーン
(1962- )は、ケンタッキー州出身のシンガー・ソングライター。メジャー・レーベルが推したポップ路線を嫌い、ブルース、ソウル寄りのロックを目指し、インディーズでの活動が中心。4.「Two
Little Fishes And Five Loaves Of Bread」のオデッタ (1930-2008)は、ニューヨークのフォーク・ブームで活躍し、「アメリカン・フォーク・ミュージックの女王」と呼ばれる。彼女の低く太い声は男の人が歌っているようだ。8.「Beams
Of Heaven」はご存じフィービー・スノウ(1950-2011 E93参照)。ここでの歌唱はスゴイ!11.「My Lord And I」を歌うヴィクトリア・ウィリアムス(1958-
)は南カリフォルニアを活動拠点とするシンガー・シングライターで、先端的な作風の曲を書き、キャリア初期から多発性硬化症という難病と戦っている人。ここでの彼女の声には唯一無比の個性があるね。
3つ目は、ロゼッタ・シャープの曲をベースとしながら、自己の音楽に消化して歌うケース。3.「Rock Me」を歌うトシ・レーゴン(1964- )は、原曲との見分けがつかないほどファンキーなアレンジを施しているが、昔の曲を現代に蘇らせた好例と言える最高の出来になっている。5.「Strange
Things Happening Every Day」のミシェル・ショックド(1962- )は、テキサス州出身のシンガー・ソングライター。マリアが普段歌うブルース、ゴスペルに近いサウンド作りだ。説明不要のジャニス・イアンは、6.「This
Train」を弾き語りで、自分の音楽として表現しており、見事な出来。9.「Precious Memories」のスウィート・ハネー・イン・ザ・ロックはアカペラ合唱団で、伴奏なしの独自アレンジでゴスペルを歌い上げている。
自己のスタイルで12.「Stand By Me」を歌い切るロリー・ブロックについては、M23を参照。14.「Don't Take Everybody
To Be Your Friend」 を歌うジョアンナ・コナー(1962- )は、シカゴで活動するブルース・シンガー、ギタリストで、自分の曲としてごく自然に歌っている。
最後の4つ目はオリジナル。17.「Didn't It Rain」のマリー・ナイトは、多くの曲でロゼッター・シャープ本人と一緒に歌っていた人で、この曲の初出レコードも二人のデュエットだった。ここでは後年の再録音が使われている。本人による
18.「Down By The Riverside」のみオーディオ・トラックではなく、パソコンで観ることができる1960年代のテレビ映像。
マリアが歌う 1.「That Same Old Obsession」は、1972年のアルバム「Old Dan's Records」に収録された曲で、彼にとってはフォークからポップへの転換期の作品。彼の作品のなかでは、他のアーティストにカバーされず地味な存在であるが、フォーク音楽の素朴さが残った佳曲だと思う。何かに取り付かれることにより愛を失う悲劇を描いたもので、マリアは歌詞が心に響いたとライナーノーツで語っている。ここでのマリアは原曲に忠実に歌っているが、それでもブルージーな味わいが出ているところが彼女らしい。常連のジョン R.
バーが、バックでキーボードとシンセサイザーを弾いている。ギターのゲリー・ボージェンセンは、1980年代にニューライダース・オブ・パープル・セイジのメンバーだった人で、最近ではアンジェラ・ストレリの「Blue
Highway」 2005 E125で名前を見つけることができる。ドブロのピート・グラントは、ホイト・アクストンやリチャード・グリーンと一緒にやっていた人。
その他のトラックでは、カウボーイ・ジェンキンス、ブルース・コバーン「Ribbon Of Darkness」、ザ・トラジカリイ・ヒップなどのカナダのアーティストや、ロン・セクスミス、ジェシー・ウィンチェスター「Sundown」等が目ぼしいところで、最初は地味に感じるが、聴きこむと曲の良さがじわじわ出てくる渋いアルバム。
[2011年4月作成]
E119 Johnny's Blues 2003 Various Artists Northern Blues Music
Maria Muldaur : Vocal
Del Rey : Guitar
Colin Linden : Executive Producer
1. Walkin' The Blues [Jonny Cash, Robert Lunn]
NHK衛星第2放送でジョニー・キャシュの伝記映画「Walk The Line (君に続く道)」(2005)を観た。ホアキン・フェニックスが主人公を、リース・ウィザースプーンがジューン・カーターを演じ、後者はアカデミー主演女優賞を受賞した。そしてT
ボーン・バーネットが担当した音楽が素晴らしかった。ジョニー・キャッシュ(1932-2003)というとカントリー音楽界の大御所というイメージがあったが、この映画を観て、彼の音楽はゴスペルから始まり、ロカビリー、ロックンロール、フォーク、ブルースと幅広い分野に渡ることがわかった。またその人生も簡単なものではなく、若い頃に兄を事故で亡くしたトラウマ、既婚の身でありながらカーター・ファミリーの娘ジェーンに恋して再婚し、最後まで添い遂げたこと(彼は奥さんの死から4ヵ月後、その後を追うように亡くなった)、麻薬に耽溺して逮捕されたことなど波乱万丈。囚人の慰問のために監獄でコンサートを行う一方で、若いミュージシャンのロックや反体制音楽に理解を示し、自己のテレビショーに出演させたり、彼らの曲を積極的にカバーして支援した。そのリベラルな姿勢は、20世紀のアメリカ音楽・文化に大きな影響を与えたといえる。「Man
In Black」と言われる、トレードマークの黒ずくめのステージ衣装で、低音で歌う様はカリスマのかたまりだ。
本作はブルース音楽家による彼へのトリビュート・アルバムで、カナダのブルースマン、コリン・リンデンが制作者となり、彼の他にクラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ガーランド・ジェフリーズ、アルヴィン・ヤングブラッド・ハート、スリーピー・ラビーフ、メイヴィス・ステイプルズ等といった渋い人達が参加、マリアは1.「Walkin'
The Blues」を歌っている。この曲は1958年、彼がサンレコードから大手のコロンビアに移籍して、「Walk The Line」などの全米ヒットを連発していた時期に録音されたもので、同年発売のアルバム「Fabulous
Johnny Cash」に収録された。マリアは、「Shout Sister Shout !」 2003 E117や、「Sweet Lovin'
Ol' Soul」 2005 M25でギターを弾いていた女流ギタリスト、デル・レイ(詳細はM25参照)のギターのみの伴奏で、ハスキーな低音ヴォイスで歌っており、特に「I'm
wearing out my shoes, but I'm walking the blues away」という一節が胸にずしりとくる。
地味な曲だけど、このブルース・フィーリングは捨てがたい魅力に溢れている。
[2010年8月作成]
E120 Goin' To Kansas City 2003 Jay McShann Stony Plain
Jay McShann : Vocal, Piano
Maria Muldaur : Vocal
Holger Peterson : Producer
1. Confessin' The Blues [Jay McShann, Walter Brown]
1999年の「Still Jumpin' The Blues」E98 の続編といえる作品で、ジェイとマリア2回目の共演。ここでは二人のデュエットを堪能できる。
1.「Confessin' The Blues」オリジナル・バージョンの録音日は1941年4月30日で、当時ジェイのバンドに在籍していた若きチャーリー・パーカーが加わった「Swingmatism」、「Hootie
Blues」、「Dexter Blues」も同じ日に録音され、それらはバード最初のレコーディング・セッションとして歴史に残ることになった。1.「Confessin'
The Blues」は、彼のピアノとベース、ドラムスというトリオのバックにウォルター・ブラウンが歌を入れている。ビッグバンドによる演奏が普通だった当時のジャズ・レコードの中にあって、このような小編成による演奏は画期的で、デッカから発売されたレコードは大ヒットした。70年後の現在、この録音はジャズから派生してジャンルを確立してゆく
R&B音楽の原点と評価されているそうだ。
その他の曲では、前作E98と同じく、ギタリストのデューク・ロビラードがバックを担当し、「Trouble In My Mind」、「Ain't
Nobody's Business」といったスタンダード曲や、ビートルズ等が歌ったR&Bの名曲で、本作のタイトルにもなった「Kansas
City」のカバーが面白い。ジェイ・マクシャンは、その後2006年に90才で亡くなるが、本作が最後のスタジオ録音となった。なおCDにはボーナストラックとして、プロデューサーが本人へ行ったインタビューが収録されている。
[2011年7月作成]
E121 No Mockingbird 2003 Suzy Thompson Native & Fine
Suzy Thompson : Vocal, Fiddle
Maria Muldaur : Vocal
Paul Hostetter, Eric Thompson : Guitar
Del Ray : Guitar, Ukelele, Guitar
Kate Brislin : Banjo
Steven Strauss : Bass
1. California Blues/Left All Alone Blues [Unknown / Anne Caldwell, Jerome
kern]
彼女はマーク・オコナーのように音程、テクニック面で完璧な奏者ではないが、フィドル本来の艶っぽい暖かな響きが持ち味。1.「California
Blues/Left All Alone Blues」は、メドレーによる演奏。「California Blues」は、1920年代後半から1930年代前半にかけて活躍したアラバマ州出身のチャーリー(フィドル)とイラ(ギター)のストリップリング兄弟(The
Strilpling Brothers) によるフィドルチューンで、オリジナルは1934年3月12日デッカでの録音。「Left All Alone
Blues」は、もともとはジェローム・カーン(1985-1945) が初めてのミュージカル「The Night Boat」のために書いた曲で、当時はブローウェイの歌姫マリオン・ハリス(Marion
Harris)の歌でヒット、ジョージ・ガーシュインの演奏を記録したピアノロールが残っている。ここではフィドル奏者 ルウ・ストークス(Lowe
Stokes)が1920年代後半にカバーしたリズミカルなアレンジをベースとした明るく軽やかな感じの演奏で、マリアがメロディーを歌い、スージーがハーモニーを付けている。「I
like dog, I'm fond of rabbit, I like goldfish, I like my habit」というナンセンスな歌詞の語呂合わせが面白い。
E122 Livin' With The Blues 2004 Vassar Clements Acoustic Music
Maria Muldaur : Vocal
Vassar Clements : Fiddle
Marc Silver : Guitar (1)
Dave Mathews : Piano (2)
Ruth Davies : Acoustic Bass (2)
Bobby Cochran : Drums (2)
David Grisman, Norton Buffalo : Producer
1. Honey Babe Blues [Doc Watson] M3
2. I Ain't Gonna Play No Second Fiddle [Traditional]
ヴァッサー・クレメンツ(1928-2005)は、50年代初めにビル・モンローのグループに加入した後、ブルーグラス界におけるフィドル奏者の筆頭として、多くのグループやセッションに参加した。その一方で柔軟な音楽性を持っていた彼は、いろんな分野のセッションに参加する。フォーク、ロックでは、ゴードン・ライトフット、J.J.
ケール、スティーブ・グッドマン、グレイトフル・デッド、ディッキー・ベッツ、ザ・バンドの他、ザ・モンキーズの録音にも参加したという。そんな彼がロックファンの間で一躍有名になったのは、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドの大作「Will
The Circle Be Unbroken」1972 だった。またジャズ音楽では、「ヒルビリー・ジャズ」という分野を生み出し、1985年にはステファン・グラッペリとの共演盤を製作、デビッド・グリスマンのドウグ・ミュージック作品の常連となった。そんな彼がグリスマンのレーベルで製作したブルース特集が本作である。ノートン・バッファロー、チャールズ・ミュッセルホワイト(ハーモニカ)、エルヴィン・ビショップ、ボブ・ブロズマン、ロイ・ロジャース(ギター)といったブルース界の錚々たるミュージシャンが集結、彼らとの共演というかたちで、ヴァッサーのプレイを存分に聴くことができる。グリスマンはプロデュースに専念。
マリアは2曲に参加。1.「Honey Babe Blues」は、ドック・ワトソンが義父のクラレンス・アシュレイと録音した 「Doc Watson
Family」の録音がオリジナル。マリアは、2枚目のソロアルバム「Waitress In A Donut Shop」1974 M3で、ドック・アンド・マール・ワトソンとの共演で本曲を録音している。彼女は若い頃、前述のクラレンス・アシュレイにフィドルを習っており、そういう意味でも因縁の深い曲だ。ここでの彼女の歌声は、30年前と比べて太く皺枯れたが、それ以上に積み重ねられた人生の重みを感じるものだ。フィンガーピッキングのギターを弾いているのは、フォーク、ブルースのシンガー・アンド・ソングライターとして売り出し中のマーク・シルバー。彼は2007年からMarc
Silver And The Stonethrowers というグループを組んで活動している。2.「I Ain't Gonna Play No
Second Fiddle」は、1925年ベッシー・スミスがルイ・アームストロングのバックで録音した曲で、浮気な男に駄目だしをし、「私は第1奏者で、第2フィドルは弾かない」と言い放つブルースだ。ここではデイブ・マシューズ、ルース・デイヴィースといったマリアにとってお馴染みの人達がバックを務めている。ドラムスのボビー・コクランは、マイク・シャーマー、エルヴン・ビショップ等の作品に参加しているドラム奏者。マリアは水を得た魚のごとく、活き活き、のびのびと歌っている。マリアの歌にオブリガードを付け、間奏でソロを取るヴァッサーのフィドルには、独特の艶があり、それは他の奏者には出せないものだ。彼が奏でる音程は、ほんの僅かフラットしており、それはクラシックのトレーニングを受けた人には決して出せないもので、それが彼の個性、音楽の秘密になっていると思う。その音色は、バイオリンでなくフィドルと呼ぶに相応しい。
Merl Saunders : Vocal, Keyboards
Maria Muldaur : Vocal
Tony Saunders : Bass
Michael Hinton : Guitar
Vince Littleton : Drums
Little John Chrissley : Harmonica
Merl Saunders, Tony Saunders : Producer
1. Baby You Got What It Takes [Clyde Otis, Murray Stein, Brooke Benton]
2002年5月、マール・サンダースは脳溢血で倒れ、半身不随および言語障害の後遺症が残り、音楽界からの引退を余儀なくされた。息子でベース、キーボード奏者のトニー・サンダースは、プロデューサーとして有名なナラダ・マイケル・ウォルデンの薦めにより、マールが取り掛かっていたソロアルバムの製作を引き継いだ。彼は録音済のトラックを仕上げるとともに、マールを慕うミュージシャンを集めて追加録音を行って「Still
Groovin'」というタイトルのアルバムを完成させ、病床の父親に捧げた。本作はサマトーンというマールの自主レーベルから発売されたが、家族は治療および介護のためにマールの家を売却するなど経済的にいろいろ大変だったはずで、CDジャケットの仕上げには自主製作盤風の手作り感がある。またジャケット下部には「Limited
Edition for Bay Area Preview Party」と表示されており、本作が地元サンフランシスコのみで限定販売されたことを物語っている。そのため、2004年という発売年にもかかわらず中古市場に出回らず、大変入手しにくいアルバムになってしまった。かくいう私も長い期間をかけて探し、やっとめぐり合うことができた。
マリアとマールのデュエットによる1.「Baby You Got What It Takes」は、ブルック・ベントン(Brook Benton
1931-1988)とダイナ・ワシントン(Dinah Washington 1924-1963)のデュエットで、1960年に全米5位の大ヒットを記録したゴキゲンなR&Bのカバー。CD解説書には作者のクレジットが「Davis,
Gordy, Fequa」と書かれているが、正しくはベントン・ブルック本人と、プロデューサーのクライド・オーティス、そしてマレー・ステインの共作だ。ブルック・ベントンは、作曲家としも多くの作品を残している人で、マリアは「Transblucency」1986
M11で彼の作品「Looking Back」を取り上げている。ストリングスを導入したR&Bスタイルは、彼のシルキイな歌声にマッチし、1958年のブレイク以降1970年代まで息の長い人気を誇った。ダイナ・ワシントンは1950年代が絶頂で、当時「最も人気がある黒人女性シンガー」、「ブルースの女王」と言われた人だ。ジャズ、ゴスペル、ブルース、ポップスなんでもござれで、その広い芸域のために一部の保守的なジャズ愛好家の批判を浴びたという。生涯に8回結婚したという奔放な人生を送った人らしく、酒に酔った状態でのダイエット・ピルの過剰摂取のため、1963年39才の若さで亡くなった。ここでのマールは、既に体調に問題があったようで、かつての縦横無尽のグルーヴ感がなく、そのボーカルはいまひとつ精彩に欠けている。といっても「彼にしては」という形容詞がつくもので、普通の基準では問題ないレベルだ。一方マリアは歯切れの良い歌いっぷりで、マールの不調を補っているかのようだ。
その他の作品について簡単に解説する。全13曲中マールが演奏しているトラックは8曲。「Rock Me Baby」や、メイヴィス・ステイプルズとのデュエット「Is
The Grass Much Greener」等の歌ものの他に、ジャズ曲「Tenderly」のオルガンによるインストルメンタルもある。ボーナス・トラック的に収められたライブ録音の「Built
For Comfort」は、ボニー・レイットのスライド・ギターがフィーチャーされた白熱のパフォーマンスだ。追加録音では、トニー・サンダースが父に捧げた曲「The
Music Man」が素晴らしく、そこではノートン・バッファローのハーモニカや、セッション・シンガーの女性達と一緒に歌うヒューイ・ルイスの姿がある。またJ.J.
Caleの「After Midnight」では、デビッド・グリスマンのマンドリン・ソロが入る。
Angela Strehli : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Marcia Ball : Vocal
Mighty Mike Schermer : Guitar
Gary Vogensen : Guitar
Steve Ehrmann : Bass
Paul Revelli : Drums
John Lee Sanders : Piano
2. Blue Hightway [Strehli, Ehrmann]
Recorded at Laughing Tiger Studios, San Rafael, California
本作は、彼女が2005年に発表した4枚目のソロアルバムで、タイトル曲 2.「Blue Hightway」では、アンジェラ、マリア、そしてマルシア・ボールの3者共演を楽しむことができる。マルシア・ボール(1949- )もテキサス州生まれで、1970年よりずっとオースチンに住んでいる。歌のみでなく、ブルース、ブギウギ、スワンプロックのスタイルを合わせ持つピアノの名手としても有名。1980~1990年代はラウンダーから、2000年代はアリゲーターというレーベルからアルバムを発表している。本作以前の作品として、アンジェラ、ルウ・アン・バートンとの共演盤(1900)
がある。曲はスローテンポで、3人によるコーラスから始まり、ファースト・ヴァースはアンジェラが歌う。彼女のコシのある声はとても魅力的。マルシアの事を念頭に置いて作ったそうで、各地を巡業するブルース音楽家の生き様を描いた歌だ。次にマリアが歌い、「ニューヨーク・シティーからニューオリンズまで、マディー・ウォーターズからボビー・ブランドまで、何でも見てきた」という一節は説得力がある。マルシアが最後のヴァースを歌った後に、「I
ride a blue highway」というコーラスのリフがしばらく続き終わる。共作者のベーシスト、スティーブ・アーマンは、ジョン・リー・フッカーやロイ・ロジャース、ロベン・フォード等のアルバムに参加している。ギタリストのマイティ・マイク・シャーマーは、ハワード・テイト、エルヴィン・ビショップ等の作品に参加、現在はマルシア・ボールのバックを務めながら、自己のバンドで音楽活動を展開、2004年以降数枚のアルバムを発表している。特に2005年の「Next
Set」E126、2007年の「Right Hand Man Vol.1」 E129では、マリアがゲストボーカルとして参加しており、要チェックだ。
他の曲では、前述のクリフォード・アントンをテーマとしたドキュメンタリー・フィルムの音楽として録音された、彼に捧げる曲「Austin's Home
Of The Blues」、1990年ヘリコプター事故のために亡くなったスティーブ・レイ・ヴォーンとのライブ音源「C.O.D.」などが聴きもの。アルバムに収録された10曲のうち、3分の2が彼女のオリジナルで、それらは、とても良い曲だと思う
Maria Muldaur : Vocal
Angela Strehli : Vocal
Mike Schermer : E. Guitar, Back Vocal
Dale Ockerman : Keyboards
Steve Ehrmann : Bass
June Core : Drums
1. Rain Down Tears [Henry Glover,Rudy Toombs] M33
写真上: オリジナル盤の表紙
写真下: 再発盤の表紙
マイク・シャーマーは、ベイエリアで活躍するブルース・ギタリストで、レコーディング・セッションに参加するようになったのは1990年代末からなので、若手といってもいいだろう。1984年に観たアルバート・キングのライブが人生の転機になったそうで、テレキャスター一筋でエフェクターを使わないオーセンティックなプレイの原点になっている。地元でメキメキ売り出し、テキサスから引っ越してきたアンジェラ・ストレリ(E125参照)のバックを担当し、アルバム「Blue
Highway」で重要な役割を果たした。またハワード・テイト、ボニー・レイットやマルシア・ボール、マリア・マルダーのライブにも参加している(マリアのライブ音源は1999年の「Sing
Out For Seva」E103がある)。2007年以降はブルースギターの大御所、エルヴィン・ビショップのバンドでギターを弾く他に、様々なコンサートにも参加している。そんな彼が始めて発売したソロアルバムが「First
Set」2000 で、本作は2枚目の作品。
1.「Rain Down Tears」は、チャビー・チェッカーが1960年に大ヒットさせた「The Twist」の作者として有名なハンク・バラード(1927-2003)が1960年に録音したR&Bで、ここでのサウンドは、ザ・バンドのレヴォン・ヘルムが1977年に発表したアルバム「Levon
Helm & The RCO All Stars」でのカバーバージョンに近い。マリア、アンジェラ、マイクの3声によるコーラスが豪華かつ魅力的な曲だ。マイク本人は左チェンネルでバックコーラスに専念、センターのアンジェラと右チェンネルのマリアは歌いながら、交互にソロもとっている。
彼のボーカルは、黒人歌手のようなダークな奥深さはないが、聴いていて生理的に心地よい声で、持ち前の直球オンリーど根性ギターと合わせて聴き応え十分。また本アルバムは、全12曲中10曲が彼の作品で、ソングライターとしての才能も遺憾なく発揮している。地元でヒットしたポップなサウンドの「My
Big Sister's Radio」はとっつきやすく、またスケールが大きなラブソング「Real Fine Love」は、名曲と言っても過言でない。実際はどうかわからないが、オーバーダビングやエフェクト加味などのスタジオでの録音技巧を廃した一発録りのような臨場感があり、エキサイティングな雰囲気に満ちている。ブルースはこうでなくちゃね!
マリアのブルースが好きな人は、絶対気に入るアルバム。
[2010年12月作成]
E127 No Direction Home 2005 Bob Dylan Paramount Pictures
Maria Muldaur : Vocal
1. Lord Protect My Child [Bob Dylan] E80
私にとって、ボブ・ディランの音楽は、① 「Freewheelin'」1963, 「The Times They Are A-Changin'」1964
のフォーク・ムーヴメントの頂点に立つ時期、②「Highway 61 Revisted」1965、「Blond On Blond」1966、ホウクス(後のザ・バンド)とのヨーロッパでのライブにおけるロックの時代、③サラ・ラウンズとの離婚をきっかけとして創造力が爆発する「Blood
On The Tracks」1975、「Desire」1976とローリング・サンダー・レビューの時代が最高だ。2005年に発表された「No Direction
Home」は、①②におけるディランの軌跡を捉えた記録映画で、タイトルは名曲「Like A Rolling Stone」1965の歌詞の一節からとったもの。彼の音楽が受け入れられた社会的背景と、その後社会が彼に期待する姿とのギャップに直面し、逆らってロックに変貌してゆく過程を見事に捉えている。映画は、本人および当時の関係者へのインタビューとディランの記者会見、テレビ映像、ライブパフォーマンスやオフステージでの姿を散りばめ、209分におよぶ長編となった。最初はアメリカのPBSテレビ、イギリスのBBCで放送され、日本ではNHKハイビジョンで放送された。また同年2枚組のDVDが発売され、そこには記録映画には収録されなかった(または一部しか収録されなかった)ディランのフル演奏(カットがない1曲通しの演奏)と、ゲストによるディランの曲のパフォーマンスが収められ、そのなかの1曲でマリアが歌っている。
本編の事を話すと長くなるので、マリアの歌について先に書こう。彼女は、インタビューが収録されたカフェ(グリニッジ・ビレッジのイメージかな?)のセットで、テーブル席に座りながら
1.「Lord Protect My Child」をアカペラで歌う。この曲は、ボブ・ディランが1983年のアルバム「Infidels」のセッションで録音したが、アルバムに収録されず未発表になった曲で、後の1991年「Bootleg
Series Vol. 1-3」で初めて公式発売された。当時のディランの創作力は大変充実していたようで、何でこの曲がアウトテイクに?という作品がいっぱいあったが、この曲もそのひとつ。マリアは、わが子への思い込めた歌詞を目を閉じてストレートに歌う。彼女が得意とするゴスペル・スタイルで、聴く者の心に響くパワフルな歌唱だ。マリアは1993年のオムニバス・アルバム「Woodstock
Holidays」E80で、この曲のバンド・バージョンを録音している。
以下本編についての話。本作のプロジェクトは、最初はディランのマネージャーの企画による関係者のインタビュー取材から始まり、後に映画監督のマーチン・スコセッシ(1942-
)が本作の監督を引き受け、ディランのパフォーマンス、インタビュー映像を散りばめて完成させた。私にとって、スコセッシの映画は「Taxi Driver」1976が一番で、何度も観ようとは思わないが、主演のロバート・デ・ニーロの不気味な存在感と、都会のメランコリーを象徴するサックスのメロディーの強烈な印象が今も記憶に焼き付いている。そしてその次に作られた「New
York, New York」1977 は、ロバート・デ・ニーロ演じる才能あるが自己破滅的なサックス奏者と、ライザ・ミネリの野心あふれる歌手の恋と破局を描いた作品で、一般的な評判は良くなかったけど、音楽はとても良かったと思う。スコセッシの音楽への思い入れは、通常の監督よりも強いようで、自己の作品にロック音楽を積極的に取り入れる他、ザ・バンド解散コンサートの記録映画「The
Last Waltz」1978の監督で、音楽映画の分野においても高い評価を獲得した。本作以降もローリング・ストーンズの「Shine A Light」2008、ジョージ・ハリソンの「Living
In The Material World」2011などの話題作を手がけている。
次にインタビューについて。出演者の中には、詩人のアレン・ギンスバーグ(1926-1997)、フォーク・シンガーのデイブ・ヴァン・ロンク(1936-2002)など、本作完成前に亡くなった人々も含まれている。その他、スーズ・ロトロ(1943-2011
「Freewheerin'」1963のジャケット写真に写った当時の恋人)、ピーター・ヤーロウ(1938- 、ピーター・ポール・アンド・マリーのメンバー)、ジョン・コーヘン(1932-2019、-ュー・ロスト・シティ・ランブラーズのメンバー、E23のマイク・シーガーの記事参照)、リアム・クランシー(1935-2009、アイリッシュ・フォークのクランシー・ブラザースのメンバー)、ジョーン・バエズ(1941-
)、ピート・シーガー(1919~-014、この二人については説明不要)、ブルース・ラングホーン(1938-、ギタリストで「Bringing It
All Back Home」1965に参加)、アル・クーパー(生年不祥、「Highway 61 Revisted」1965にオルガンで参加)、ボブ・ニューワース(1939-
画家、シンガー E65参照)や、編集者、出版関係者、プロモーター、プロデューサー達の話が収められている。マリアは、ディランのグリニッジビレッジにおけるデビューから、ポール・バターフィールド・ブルースバンドとのエレクトリック・サウンドで物議を呼んだ1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルまで、現場に立ち会った証人として登場。マリアは、グリニッジビレッジに生まれ育った地元の人間として、同地におけるフォークムーブメントの有様を語る。その際、当時の彼女の姿を紹介するため、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドにおける彼女のパフォーマンスが少しだけ映し出される。これは、1960年代後半、グリニッジ・ビレッジにあるライブハウス、ビターエンドでのライブの模様を撮影したテレビ映像で、曲は「I
Ain't Gonna Marry」(「映像・音源」の部参照)。オリジナルの映像はカラーなんだけど、ここでは何故か白黒になってる。以降マリアは、ディランがウッディー・ガスリーとそのフォロワーからいろいろ吸収したこと、サンタモニカのコンサートでエレクトリック音楽のディランに対しオーディエンスが不満だったこと、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの大騒ぎ、およびその夜のパーティーでのディランの疲れた姿について語っている。
ディランのパフォーマンスでは、フォーム・ムーブメントの頂点に立った1963年のニューポート・フォーク・フェスティバルと、1966年のヨーロッパ・ツアーにおける前半の弾き語りと後半のホウクス(後のザ・バンド)とのライブが最高。特に後者は昔から音源で親しんできたものだけに、私はその映像が観れたことで大いに感動した。記録映画なので、途中でカットが入ったりフェイドインするため、完奏曲はひとつもないが、冗長になるのを避けるためにはしようがないだろう。編集の巧みさにより、曲が途中で終わっても残念な感はなく、むしろ歯切れ良い印象を受けるくらいだ。何よりも、インタビューとパフォーマンス、オフステージの映像に加えて、J.F.ケネディの暗殺、公民権運動、マーチン・ルーサー・キングの「I
Have A Dream」演説、ベトナム戦争などの時代を象徴する出来事の映像断片を入れることで、当時の時代感覚を見事に再現しており、観る者にあたかも、その時代のなかでリアルタイムでディランの歌を聴いているかの様な感覚にさせるあたり、監督の手腕が光っている。
[2012年1月作成]
E128 Boogie & The Blues Diva 2006 Various Artists American Music Research Foundation
Maria Muldaur : Vocal
[James Dapogny's Chicago Jazz Band]
James Dapogny : Piano, Arranger, Leader
Kim Cusack : Clarinet, Alto Sax
Russ Whiteman : Tenor Sax, Baritone Sax, Clarinet
Jon-Erik Kellso : Trumpet
Chris Smith : Trombone, Tuba
Kurt Krahnke : Bass
Ros McDonald : Guitar, Banjo
Pete Siers : Drums
Ron Harwood : Producer
1. Down Home Blues [Mammie Smith, Perry Bradford] M27
2. Handy Man [Andy Razaf, Eubie Blake] M27
3. One Hour Mama [Victoria Spivey] M27
4. Separation Blues [Sippie Wallace] M27 E7
Recorded at Redford Theatre, Detroit October 16, 2004
「Naughty Bawdy & Blue」M27 の録音の1週間後、2004年10月16日 デトロイトで行われた第6回 Mortor
City Blues & Boogie Woogie Festivalでの映像。マリアはCDと同じバック(ジェイムス・ダポグニーズ・シカゴ・ジャズ・バンド)をバックに、1920~1930年代のブルースを堂々と歌っている。CDおよびコンサートを企画したAmerican
Music Research Foundationは、ラグタイム、ニューオリンズ、スウィング、ブルース、ブギウギなどの伝統的な音楽の保存を目的に設立されたNPOで、設立者のRon
Harwoodは、昔シッピー・ウォレスを再発見し、その後1986年に彼女が亡くなるまでマネージャーを務めた人だ。本コンサートの映像は、まずWTVSというテレビ局で放送され、その後2006年にDVD化された。
その他のアーティストは、マリアのバックを務めたジェイムス・ダポグニーズ・シカゴ・ジャズ・バンドによるインスト曲(ボーナス映像)、上ブッチ・トンプソン、ジェイソン
D. ウィリアムスというラグタイム、ブギウギのピアニスト、アルマ・スミスの1940年代のジャズのスタイルによる演奏が収められている。
[2010年12月作成]
E129 Right Hand Man Volume 1 2007 Mighty Mike Schermer Fine Dog
Maria Muldaur : Vocall
Mike Schermer : E. Guitar
Chris Burns : Keyboards
Paul Olguin : Bass
Paul Revelli : Drums
Mike Rinta : Trombone
Pete Sembler : Trumpet
1. That's What I Love About The Blues [Mike Schermer, Maria Muldaur]
1.「That's What I Love About The Blues」は、「ブルースは心療相談が一般的になる前から、人々に良いアドバイスを施していた」というマリアのステージ・トークをヒントにマイクが作曲したもので、彼女も共作者として名を連ねている。ブルースを愛する彼女のテーマソングのような内容で、メロディーは1999年のアルバムのタイトルソング「Meet
Me Where They Play The Blues」とよく似ている。クリス・バーンズ、ポール・オルグリン、ポーリ・レベリという、マリアのレコーディングにも参加している気心が知れたバンド仲間と一緒に、ニューオリンズ風のブラスも加わって賑やかに演奏している。
他の曲・アーティストについて、簡単に述べる。ギタリストのエルヴィン・ビショップが歌う「I'll Be Glad」(彼のライブアルバム「Booty
Bumpin'」2006が初出)は、後にマリアがソロアルバム「Steady Love」M33でカバーした。ハワード・テイトの「Part Time
Lover」は、1976年ボトム・ラインでのマリアのコンサート音源で、キーボードのマイク・フィネガンが歌っていた曲だ。マイクと縁が深いアンジェラ・ストレリは2曲参加。「I
Don't Know Why」は、マリアの参加曲も含まれていた「Blue Hightway」2005 E125 から。1998年の「Deja
Blue」に収録されていた「Still A Fool」は、彼女とマルシア・ボール、ルー・アン・バートン3人の共演を楽しむことができる。
親交あるアーティストが歌うR&B曲のバックで、マイクのギターが気持ち良さそうに鳴っている。
[2012年4月作成]
E130 Jug Band Extravaganza 2010 Various Artist Folk Era
Jim Kweskin : Vocal, Guitar, Banjo
Geoff Muldaur : Vocal, Guitar
John Sebastian : Vocal, Guitar, Bnajo, Harmonica
David Grisman : Mandolin
Maria Muldaur : Vocal
The Barbecue Orchestra
John 'Doc' Stein : Dobro
Peter 'Spud' Siegel : Mandolin
Stew Dodge : Violin
Turtle VanDemarr : Guitar
1. This Will Bring You Back [Will Shade] (The Barbecue Orchastra)
2. My Old Man [J. Mercer, B. Hanighen] (The Barbecue Orchestra And Probably
Geoff Muldaur]
3. Gee Baby Ain't I Good You [Don Redman, Andy Razaf] (Geoff Muldaur)
4. Wild Ox Moan [Vera Hall, Ruby Pickens Tartt] (Geoff Muldaur)
5. Jug Band Waltz [Memphis Jug Band] (John Sebantian & David Grisman)
6. Eight More Miles To Louisville [Granpa Jones & Ramona] (Jim Kweskin)
7. San Francisco Bay Blues [Jesse Fuller] (Jim Kweskin)
8. Sofie's Back In Town (aka Lulu's Back In Town) [Al Dubin, Harry Warren]
(Jim Kweskin)
9. Stealin Stealin [Gus Cannon] (John Sebastian)
10. Downtown Blues [Don Sane, Frank Stokes] (Geoff Muldaur)
11. Papa's On The Housetop [Leroy Carr] (Jim Kweskin)
12. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me [Swanstone, Carvon, Morgan] (Jim
Kweskin)
13. Morning Blues [Dave Macon add. verses Dave Simon] (John Sebastian)
14. New Minglewood Blues [Noah Lewis] (Geoff Muldaur)
15. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt] (Maria Muldaur) M2 M20
E5
16. The Sheik Of Alaby [Smith, Snyder, Wheeler] (Jim Kweskin, Maria Muldaur)
E6 E157
17. Sweet Sue [Will J. Harris, Victor Young] (Geoff Muldaur)
18. Jug Band Music [Memphis Jug Band add. verses Geoff Muldaur] (Everybody)
Recorded at Great American Music Hall, Dan Francisco, August 26, 2007
司会のトッド・クウェイトの紹介により始まる 1.「This Will Bring You Back」は、メンフィス・ジャグバンド(以下MJと略す)が「You
May Leave But This Will Bring You Back」のタイトルで1930年に録音。バンドリーダーで作者のウィル・シェイド(1898-1966)
が吹くハーモニカとマンドリン、ジャグによる演奏は80年前のものとは思えないほど鮮やか。バーベキュー・オーケストラによる演奏は、現代的なグルーヴ感にあふれている。彼らはオレゴン州ポートランドが本拠地で、フリッツ・リッチモンドのバックをやっていた人たちだ。2.「My
Old Man」は、1933年にヴィクター・ヤングのアレンジによるスピリット・オブ・リズム、およびドン・レッドマンのオーケストラによる録音が最初。JKJのカバーは「Garden
Of Joy」1967 E6に収録。ここではボーカルの声質から、バーベキューの連中にジェフが加わっているものと推定される。3.「Gee Baby
Ain't I Good You」は、作者のドン・レッドマンをフィーチャーしたマッキンリー・コットンピッカーズ1929年の録音がオリジナルで、JKJの「Garden
Of Joy」E6、ジェフのソロアルバム「Geoff Muldaur Is Having A Wonderful Time」1975 E34等に収録されたジェフ必殺のレパートリーで、マリアも好んで歌っている。ギター一本のみでよくここまで雰囲気が作れるかという究極の弾き語りだ。4.「Wild
Ox Moan」の作者ヴェラ・ホール(1902-1964)は、アラン・ロマックスがアラバマ州で発見した人で、1930年代にこの曲を無伴奏で歌った録音が残されており、タージ・マハールも歌っている。5.「Jug
Band Waltz」は、MJによる1928年の録音がオリジナルで、ここではデビッドのマンドリンと、ジョンのハーモニカによるインストルメンタルだ。両者は2007年の共演アルバム「Satisfied」で、同曲を録音している。JKJの「Jug
Band Music」1965 E3では、フリッツがジャグでメロディーを吹いていた。
6.「Eight More Miles To Louisville」は、ケンターッキー州出身でカントリー界で活躍したグランパ・ジョーンズ(1913-1998)
1957年の曲がオリジナル(マール・トラヴィスがギターを弾いている)で、ジムのアルバム「Relax Your Mind」1966でメル・ライマンのハーモニカをフィーチャーした録音がある。ジムのフィンガーピッキングによるギターのグルーヴ感はいつ聴いても素晴らしい。7.「San
Francisco Bay Blues」は、ギター、ハーモニカ、両足でのベース、ドラムスによるワンマン・バンドで有名なジェシー・フラー(1896-1976)の代表曲で、ピーター・ポール・アンド・マリー、新しくはエリック・クラプトンのカバーが有名。個人的にはフィービー・スノウのジャジーなバージョンが好き(「50~90年代の名曲集」参照)。この曲はオーディエンス撮影による画像があり、ジムがバーベキュー・オーケストラをバックに歌っている様を観ることができる。バーベキューの編成は、ギター、マンドリン、ドブロ、フィドル、ベースで、ベース奏者はクレジットがなく、誰か不明。8.「Sofie's
Back In Town」は、「Lulu's Back In Town」という名前のほうが有名で、1935年のミュージカル映画「Broadway
Gondolier」でのディック・パウエルが初演。ファッツ・ウォーラーの歌が決定版かな?セロニアス・モンクのレパートリーとしても有名な曲だ。9.
「Stealin Stealin」は、MJ 1928年の録音が最初で、ボブ・ディランが1961年に録音し海賊版で出回ったミネソタ・テープのパフォーマンスが筆頭で、タージ・マハール、グレイトフル・デッドのカバーがある。ジョンは、観客と一緒に楽しそうに歌っている。10.「Downtown
Blues」は、メンフィスで活躍したブルースマン、フランク・ストークス(1888-1955)による1928年の録音、11.「Papa's On
The Housetop」は、ピアノを弾くブルースマン、ルロイ・カー(1905-1935) 1930年の録音がオリジナルで、JKJの「See
Reverse Side For Title」1966 E5で、前者はジェフ、後者がジムが歌っている。12. 「Blues My Naughty
Sweetie Gives To Me」は、ルイジアナ・ファイブによる 1919年の録音が最初で、ジムが「Jug Band Music」1965
E3で歌っているドライブが効いた曲。13.「Morning Blues」はジョンが歌い、ジェフがハーモニーを付ける。この曲は1926年のアンクル・デイブ・メイコンが初演。14.「New
Minglewood Blues」は、ガス・キャノンズ・ジャグ・ストンパーズ 1928年の他、MJによる1934年の録音があり、「Jug Band
Music」1965 E3でジェフが歌い、その後彼の定番レパートリーとなっている。
ここでマリアが登場、JKJの「See Reverse Side For Title」1966 E5から、ミシシッピー・ジョン・ハートが再発見後の1963年に録音した曲を歌う。マリアは2001年に同タイトルのアルバム
M20でこの曲を最録音しているが、ジム、ジェフ等JKJとの録音は40年ぶりで、楽しそうに歌っている。16.「The Sheik Of Alaby」は、当時人気絶頂だったヴァレンチノ主演の映画「The Sheik」にあやかって作曲された曲で、JKJの「Garden
Of Joy」1967 E6 のバージョンと同じく、ジムのリードボーカルにマリアが異なる歌詞を同時に歌っている。ジムのフィンガーピッキングによるギターが最高。17.「Sweet Sue」は、オーディエンス撮影による映像を観ることができた。それによると、ジェフは、マリアが持つヘリウム混合ガスを詰めた風船を吸い込んで、アヒル声で歌う。これはパーティーグッズとして一般にも売られているもので、声が高くなる理由は、音速の速いヘリウムを吸うことによって声帯がそれだけ速く振動するようになるためという。ただしその効果は一瞬なので、この曲のようにスローなイントロで効果があるわけだ。オーディエンスはジェフの声変わりに大笑い。インテンポになり、一通り演奏した後に、エンディングでスローになって、ジェフが再びガスを吸い締めくくる。音を聴く分には、はっきりわからないが、画像を観る限り、マリアはコーラスで一緒に歌っているようだ。ちなみにこの曲の出版は1928年。MJがオリジナルの
18.「Jug Band Music」は、フィナーレで全員で演奏している。ジェフがリードボーカルをとり、ジョンとデビットが間奏でソロをとる。バックコーラスでマリアの声がはっきり聞こえる。
1.「Too Close To Comfort」は1956年のミュージカル「Mr. Wonderful」(サミー・デイビス・ジュニア主演)のために作曲され、エディー・ゴーメの歌でヒットした。現在は、レイのお母さんのエラ・フィッツジェラルドと男性ジャズ歌手の巨人、ジョー・ウィリアムスがカウント・ベイシー楽団と共演したアルバム「One
O'Clock Jump」におけるデュエット・バージョンが決定版で、その他フランク・シナトラ、メル・トーメ、ローズマリー・クルーニー、ペギー・リー等多くのジャズ歌手がカバー、近年では1993年にナタリー・コールが歌っている。ここではテンポを落としたアレンジで、体形も歌声も重量級の二人はブルージィにじっくりと歌い上げている。マリアはレイのキーに合わせたせいか、いつもより低めの声で歌う。そのドスが効いた抑え目の声が素晴らしく、65年の人生をたっぷり味いつくした人にしか出せないコクが出ている。特にコーラス部分における二人のハーモニーには、背筋がゾクゾクするような魅惑に溢れている。
その他のゲストは、ディオンヌ・ワーウィック、ドクター・ジョン、フレダ・ペイン、ポール・ウィリアムス等多彩で、「Can't Take My Eyes
Off You」、「Memphis」、「Laughter In The Rain」、「Up On The Roof」、「Sunny Side
Of The Street」などのお馴染みの名曲を取り上げている。「A-Tisket A-Tasket」(エラの愛唱曲を娘とデュエットしたもの)や、「How
High The Moon」(両親が演奏する1949年の放送録音に彼がボーカルをオーバーダビングしたもの)は、楽屋落ち的なトラックで、これらはご愛嬌かな?
マリアの近年のジャズ歌唱の中でも出色の出来だと思う。
[2011年2月作成]
E132 None Of Us Are Free 2008 Maria Muldaur Telarc
Maria Muldaur : Vocal
The Woman's Voices For Peace Choir (Kimberly Bass, Rhonda Benin, Keta Bill,
Jenni Muldaur, Annie Sampson, Linda Tillery, Jeanie Tracy, Valerie Troutt)
: Chorus (Except 5, 9, 13)
The Free Radicals
David Torkanowsky : Keyboards
Shane Theriot : Guitar, Slide Guitar
Tony Braunagel : Drums, Percussion
Hutch Hutchinson : Bass
1. None Of Us Are Free [Barry Mann, Brenda Russell, Cynthia Weil]
「Yes We Can !」2008 M29のセッションで録音されたが、アルバムには収録されずアウトテイクになった曲。同アルバムのインターネット版で入手することができる。過去に発売されたCDのなかで、この曲が実際にボーナストラックとして収録されたものがあるか否かについては未確認だ。バックミュージシャンの資料がないので正確なところは不明であるが、アルバムと同じコーラス隊、バックバンドで間違いないだろう。
曲はバリー・マンとシンシア・ウェイル夫妻と、シンガー・アンド・ソングライターでキーボード奏者のブレンダ・ラッセル(1949- )による共作であるが、ブレンダ自身がこの曲を録音した記録は見当たらなかった。私が知る限り初出は、レイ・チャールズのアルバム「My
World」1993で、その後レナード・スキナードが1997年にアルバム「Twenty」で取り上げている。一番有名なバージョンは「ソウル界のモハメッド・アリ」と言われたソロモン・バーク(1940-2010)が、グラミー賞を受賞したアルバム「Don't
Give Up On Me」2002で歌ったものだろう。相互救済を説くメッセージ・ソングで、R&Bサウンドをバックにマリアが黒っぽく歌い、間奏のギターソロがいかしている。
E133 Merry Christmas Baby 2009 Maria Muldaur Premium Music Solutions LLC
Maria Muldaur : Vocal
Demitoris Pappas : Piano
Steve Beskrone : Bass
Vic Stevens : Drums
1. Merry Christmas Baby [Lou Baxter, Johnny Moore ] M32 Exxx
E134 Hippie Uprising 2010 San Francisco Musicians Wolfpack
Maria Muldaur : Vocal
Pete Sears : Piano (1)
Si Perkoff : Paino (2)
Ben "King" Perkoff : Soprano Sax
Greg Douglas : Guitar (1)
Skip Soder : Guitar (2)
Steve Webber : Bass
Bobby Riddell : Drums (1)
Ernest "Boom" Carter : Drums (2)
1. I Always Cry A Midnight [Skip Soder]
2. Haven't You Had Enough ? [Skip Soder, Yana Zegri Soder]
スキップ・ソーダーは、昔から音楽活動を続けていたようだが、その内容は地味で過去の資料が見あたらない。この作品を聴く限り、かなり達者で才能がある人と思われるが、おそらく野心や欲とは無縁な人なんだろう。奥さんのヤナ・ゼグリ・ソーダーも、本職は画家・イラストレイターのようであるが、キャリアは地味。1967年彼女が地元のビルに描いた「Revolutionay
Rainbow」という壁画が、後年の改築のため撤去されてしまったが、新しいビルが完成した後の1997年、本人により復元されたという記事があった。CDのジャケット、ケースを埋め尽くした個性溢れるイラストは彼女が描いたもの。彼等は、以前に二人の名義で「Stop
The Clock We're Ahead Of Our Time」2007 というアルバムを発表、また本作以降の2012年に「Hippie
Uprising」の名義で、新作「Neo Skiffle Blues」を出している。
1. 「I Always Cry A Midnight」はカントリー音楽風のトーチソングで、マリアはパッツィー・クラインのような感じで歌う。ピアノはスターシップのキーボード奏者だったピート・シアーズ(E110参照)で、スティーブ・ミラー、ジーン・クラーク、ニック・グレイブナイツ、ノートン・バッファロー、カントリー・ジョー・マクドナルド等の作品などに参加しているグレッグ・ダグラスがギターを弾いている。2.「Haven't
You Had Enough ?」は、スタンダード・ソングの香り漂うジャズ・チューン。マリアは、恋人との別れに際し「もうたくさん」と割り切れない女の切ない気持ちを描いた歌詞を、気だるく歌っている。ドラムスのアーネスト・カーターは、ブルース・プリングスティーンの初期のバンドのメンバーで、名作「Born
To Run」1975に参加している。
Bill Kirchen : Guitar, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Austin de Lone : Keybords
Johnny Castle : Bass
Jack O'Dell : Drums
Paul Reily : Producer
1. Ain't Got Time For The Blues [Bill Kirchen]
ビル・カーチェン(1948- )は、ミシガン州アンアーバー育ちで、当地でジョージ・フレイン(George Frayne)と出会い、1967年にCommande
Cody And The His Lost Planet Airmanを結成、ロスアンゼンルスに移ってからカントリー、ロック、R&Bを融合させたスタイルを確立し成功した。1972年全米9位のヒットを記録した「Hot
Rod Lincoln」が代表曲で、そこでトゥワンギーなギターを弾いていたのがビルだった。彼はグループが一旦解散した1976年以降は、意気投合したニック・ロウと一緒に活動する他に、彼と結成したザ・ムーンライターズ(The
Moonlighters)や自己名義のアルバムを発表している。その長いキャリアのなかで、彼はフェンダー・テレキャスターを一貫して使用。その楽器の最も純粋な音を出すギタリストとして評価が高まり、ギタープレイヤー誌は彼の事を「The
Titan(巨匠) Of Telecaster」と呼んでいる。本作は、彼が親しいミュージシャンをゲストに招いて製作したソロアルバムで、マリアの他に前述のニック・ロウ、コマンダー・コディ(ピアノ)、ノートン・バッファロー(ハーモニカ)、エルヴィス・コステロ、クリス・オコンネル(アスリープ・アット・ザ・ホイールのボーカリスト)、ダン・ヒックスなどが参加しており、ビルの名人芸のテレキャスターのギター・サウンドと幅広い音楽性が遺憾なく発揮されている。
マリアが歌う 1.「Ain't Got Time For The Blues」は、ジム・クエスキン・ジャグ・バンドの頃から彼女のファンだったというビルがマリアをイメージして書いた曲という。スウィング・ジャズの香り漂う曲であるが、モダンで洗練された味わいがあり、彼の曲作りの才能がうかがえる。まずビルが歌い、マリアが続いて二人のハモリになり、余裕たっぷりの中に人間の絆の大切さを感じさせてくれる。彼はギタリストとして有名であるが、歌いっぷりもなかなかのものだ。味のあるピアノを弾くオースティン・デ・ロンは、ダン・ヒックス、アンジェラ・ストレリのセッションに参加している人で、マリアもゲストで歌ったクリスマス・ジャグ・バンド(E113)のメンバーでもある。
1.「Language Of Love」は、スタンダード・ジャズ風の曲で、ケンはコードカッティングによるバンジョーを弾き、お兄さんのクリスがトランペットを吹き、ニューオリンズの香りが漂ってくる。最初ケンが歌い、コーラス部分ではマリアがメロディー、ケンがハーモニーを担当する。セカンド・ヴァースは二人の掛け合いで、コーラスはケンがメロディー、マリアはハーモニーと入れ替わる。ケンのライナーノーツによると、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドは、若きホワイトリー兄弟のヒーローだったそうで、その影響のもとにジャグバンドを結成したという。その後各地のフェスティバルでマリアと親交を深め、本作にマリアに参加してもらったという。ジャグバンド曲の
2.「Mike And Mary」 は、そんな思いが込められた歌で、ケンはジャグ、カズーなども担当。クリスのハーモニカーもそれっぽくて大変効果的だ。
マリアが好きな人だったら、きっと気に入ると思う。
[2013年8月作成]
E137 Buckwheat Zydeco's Bayou Boogie 2010 Music For Little People
Stanley "Buckwheat" Dural Jr. : Accordion, Hammond B3 Organ,
Electric Keynboards, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Laurie Berkner : Vocal
Dan Zanes : Vocal
Aron Nigel Smith : Vocal
Lee Allen Zeno : Bass
Sir Reginald Master Dural : Rubboard
Paul "Lil Buck" Sinegal : Guitar
Mike Melchione : Guitar
Oliver Scoazec : Guitar
Charles LaMark : Drums
Stanley Dural Jr., Ted Fox, Leib Ostrow : Producer
1. The Mice Ate My Rice [S. Dural, T. Fox]
2. Holey Pokey [Traditional, Arranged by S. Dural]
本作は、スタンレーが子供向け音楽界で良質な作品を提供するレーベル、Music For Little People(マリアも M12, M18,
M21, M31の4枚のアルバムがある)から発表した、「Cho Cho Bougaloo」1994 に続く2枚目のアルバムだ。リー・アレン・ゼノ(ベース)、息子のサー・レジナルド・マスター・デュラル(ラブボード)、ポール・リトルバック・シネガルというザディコ音楽界での名手かつ彼のバンドの常連ミュージシャンをバックに、子供達によるコーラス隊を加えて、パーティーのような陽気な雰囲気の作品となった。
マリアは2曲に参加。1.「The Mice Ate My Rice」 は、スタンレーによる郷土料理のガンボ(シチュー、スープのような煮込み料理)の話から始まり、中に入れる米の話になって、「ネズミが私の米を食った」という歌になる。マリアは子供たちと一緒に導入部の語りと、曲中の語り、合いの手で参加。スタンレーの楽しそうな歌声、子供たちによる可愛いバックコーラスがリスナーの心をリラックスさせてくれる。2.「Holey
Pokey」は昔からある童謡で、「むすんでひらいて」と同じように、歌いながら子供が歌詞に合わせて体を動かす曲。スタンレーの歌の後にマリアが続き、その後は子供向けの音楽製作者として有名な人や、子供達が交代で歌っている。同じ歌詞の繰り返しなんだけど、テンポがだんだん早くなってゆくのがミソ。
本アルバムでは、アイズレー・ブラザース 1962年のヒット曲でザ・ビートルズのカバーで有名になった「Twist And Shout」、ロバート・パーカーの「Barefootin'」(1966年、ジェイムス・テイラーも 1998年のステージでゲストのボニー・レイットと一緒に歌っている)、キャロル・キング作でリトル・エヴァのヒット曲「The Loco-Motion」(1962年)等の懐かしい曲をカバーしている。
E138 Willing Hearts 2011 Electric Ruby Fish With Special Guest Maria Muldaur
Maria Muldaur : Vocal, Harmony Vocal (Probably 2, 5, 6)
Leesah Stiles : Back Vocal
Andy Jones : Vocal, Rythm Guitar
Dale Tnageman : Vocal, Lead Guitar, Harmonica (6)
Jon Coghil : Bass
Ruperto Ifil : Drums, Percussion
Ross Rice : Keyboards (Guest)
1. Dirty Blues [Jones]
2. Woodstock Is The Place I Call Home [Tangeman]
3. Willing Hearts [Jones]
4. Deep [DeDominicis, Jones]
5. Is That What Deserve? [Tangeman]
6. Not Enough [Jones]
Recorded At Sonart Recording Studios, Mount Tremper, New York
エレクトリック・ルビーフィッシュは、ニューヨーク州ハドソン・ヴァレーを本拠地とするインディー・バンドで、アンディ・ジョーンズとデイル・タンゲマンの二人がリーダー。アンディはニューヨークの広告業、デイルはオハイオとニューヨークで広告業およびグラフィック・デザインの仕事に携わっていた(注
参照)が、引退後ウッドストックに移り住み、若い頃やっていた音楽活動を再開したという。その後、ツアーバンドで活躍するリズムセクションと女性ボーカリスト(マリアとのセッションではバックボーカルでのみ参加)が加わり、パーティーやイベント、コンサートの前座などで演奏し、数枚のアルバムを発表した。本作は彼ら4枚目のアルバムで、マリアがゲスト参加したため、「With
Special Guest Maria Muldaur」という副題がつき、アルバムジャケット内の写真にも彼女の姿が大きく載っている。彼女の参加の経緯は不明であるが、おそらくウッドストックでの人脈によるものだろう。
ブルース、カントリーの伝統音楽をベースに、ラテン、ジャズ等様々な要素を取り入れたスタイルはウッドストック派と言えるが、良い・悪い両方の意味で素人臭さがあるのも事実。ただしリズムセクションがしっかりしているので、「レイドバック」と呼べるゆったりした雰囲気を出している。中でもマリアが歌う3曲は、ピリッと締まった感じに仕上がっているが、いつものブルージーな重さはなく、彼女もバンドに合わせてさらっと歌っている感じだ。1.「Dirty
Blues」は乗りの良いブルースでマリアがソロで歌う。 間奏のピアノを弾くロス・ライスは、メンフィス、ナッシュビル、ニューヨークで活躍するセッション・プレイヤーで、本作のために招かれた人(ドラムスのルパート・イフルとバンドを組んだことがあるようなので、その縁と思われる)。彼は、かつてHuman
Radioというグループで「Me And Elvis」というヒット曲を出したことがある。3.「Willing Hearts」は、「前向きな心が世の中を変える」という内容のメッセージ・ソング。4.「Deep」はラテン調のアレンジでマリアは軽やかに歌う。
なおこの2曲には、コーラスで男性がハーモニーを付けている。残る3曲は、曲ごとのクレジットがないので正確なところは不明であるが、聞こえる声質からマリアがバックコーラス、ハーモニー・ボーカルに加わっているものと推定される。エレクトリック・ルビーフィッシュの活動記録は2013年で途絶えるが、アンディ・ジョーンズは、グループ・メンバーの一部と組んで、Circus
Of Wolvesというバンド名で2018年「Collective Pulse」というアルバムを発表している。またエレクトリック・ルビーフィッシュのフェイスブックには、このグループでニューアルバムを制作中(2019年1月現在)とある。
注:
1.アンディーのキャリアについて: ラジオウッドストック 2018年1月2日の放送(彼がゲストDJとして参加した番組)での自己紹介より聴取。
2.デイルのキャリアについて: 野球関係の出版社「The Hometown All Stars」のホームページに球団運営にかかる教本のイラストレイターとしてプロフィールが紹介されている。
[2019年1月作成]
E139 Back Porch Dogma 2012 Contino Blind Pig
Pete Contino : Accordion, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Al Ek : Guitar
Billy Truitt : Keyboards
Rob Edwards : Upright Bass
Jim Lovgren : Drums
Omega Rae, Susan Z : Back Vocal
Joel Jaffe : Producer, Engeinieer
1. Big Tent [P. Contino, R. Edwards, B. Truitt, A. Ek, J. Lovgren]
マリアは1. 「Big Tent」でデュエット・ボーカルを聴かせてくれる。ボ・ディドリー・スタイルと言われるジャングル・ビートの手拍子がフィーチャーされた、ソリッドな感じのアップテンポのR&Bで、緊張感溢れる雰囲気のなか、メンバーによるハーモニカ、アコーディオン、スライドギター、ピアノソロがバンドの一体感を高めている。ピートの歌声には魅力があり、マリアのだみ声との掛け合いは聴き応え十分。彼女のゲスト参加は、プロデューサーのジョエル・ジャフェ(マリアの「In
Concert」2008 M28、「Christmas At The Oasis」2010 M32のプロデュースを担当)の縁と思われる。
E140 They All Played For Us 2012 Various Artists Arhoolie
Maria Muldaur : Vocal (3)
Eric Thompson : A. Guitar (1,3,4), Mandolin (2)
Suzy Thompson : Vocal (1,2), A. Guitar (1,2), Fiddle (3,4)
Laurie Lewis : Wood Bass, Back Vocal (1,2)
1. I Don't Drink No Whiskey [Public Domain, Arranged by Suzy Thompson]
2. In The Pines [Public Domain]
3. In My Girlish Days [Ernest Lawler] M20
4. Lake Arthur Stomp [Public Domain]
Recorded at Freight And Salvage, Berkeley California, 6th Febuary, 2011
1.「I Don't Drink No Whiskey」は、スージーとエリックの2台のギターによる演奏。エリックのゴツゴツとした感じのフラットピッキングが実直な感じで、いかにも彼らしい。ハーモニー・ボーカルは、ベースも弾いているローリー・ルイス(1950-
)。彼女は、カリフォルニア州生まれのシンガー、フィドル奏者で、ギターやベースもこなすマルチ・プレイヤーだ。1970年代より、多くのバンドでブルーグラス、カントリー、オールドタイミーを演奏していたが、初ソロアルバムは1986年の「Restless
Rambling Heart」という遅咲きの人。彼女は、2005年ワシントン州タコマで開催されたウィンターグラス・フェスティバルで、友人のリンダ・ロンシュタットとマリアと一緒にザ・ブルーバーズという名前で1回限りのコンサートを行っており、その模様を撮影したオーディエンス映像がある(映像・音源の部参照)。2.「In
The Pines」は、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの仲間でバイオリン奏者のリチャード・グリーンのアルバム「Ramblin'」1979
E46 で、マリアとピーター・ローワンが歌っていた曲で、南アパラチア地方に伝わる古い曲が原曲。レッドベリー、ビル・モンロー、ドック・ワトソン等が「Where
Did You Sleep Last Night」、「Black Gal」というタイトルで録音している。1.に続きスージーとローリーのボーカルが好調。
ここでスペシャル・ゲストとしてマリアが登場し、メンフィス・ミニーの3.「In My Girlish Days」を太い声で歌う。「Richland
Woman Blues」2001 M20でのロイ・ロジャーズのスライド・ギターの演奏はとても良かったが、ここでのスージーのブルース・フィドルも素晴らしく、心の底に染み渡るプレイだ。4.「Lake
Arthur Stomp」は、本領発揮の軽快なフィドル・チューン。
[2022年3月追記]
YouTubeで公開された動画 「The Arhoolie Foundation presents The Arthoolie Awards:
Celebrationg America Roots Music」で、過去の映像としてマリアが歌う 「In My Girlish Days」を観ることができました。
E141 Jazz + Blues 2012 Danny Caron Danny Caron Records
Maria Muldaur : Vocal
Danny Caron : Electric Guitar John R. Burr : Piano, Hammond B-3
Ruth Davies : Acoustic Bass (2)
Bobby Cochran : Drums (2)
1. I Don't Want To Know [John Martyn]
ダニー・キャロンはサンフランシスコ・ベイエリアで活躍するジャズ、ブルース・ギタリスト。メリーランド州生まれで、テキサス州オースチンでマルシア・ボールやザディコ音楽のクリフトン・シニエール等のバックを務めた後、1981年から活動拠点をサンフランシスコに移している。1980年代後半にカムバックしたチャールズ・ブラウン(「年代不詳」コーナーの「Merry
Christmas Baby」の作者で、マリアは1999年の「Meet Me Where They Play The Blues」M19で共演)のバンドに1987年から彼が亡くなる1999年まで在籍し、晩年のキャリアの支えになったことで名声を確立した。他にボニー・レイット、ジョン・リー・フッカー、ヴァン・モリソン、ルース・ブラウン、ドクター・ジョン等、主にブルース音楽のバックが多く、マリアとは1998年の「Swingin'
In The Rain」M18以降多くのセッションに参加。特に2008年の「Live In Concert」M28ではライブ映像を楽しむこともできる。
本作は3枚目のソロアルバムで、ハモンドオルガンとドラムスとのトリオと、ピアノ、アコースティック・ベース、ドラムスとのカルテット編成による演奏。ブルースの香りが濃いジャズという感じで、ジョン・コルトレーン(「Spiritual」)、マイルス・デイビス(「Freddie
Freeloader」)、ダラー・ブランド(「Water From An Ancient Well」)、ジャンゴ・ラインハルト(「Nuages」)、デューク・エリントン(「I'm
Just A Lucky So And So」)、ジョージ・ガーシュウィン(「It Ain't Necessary So」)等のジャズの他にスピリチュアル・ソングをリラックスした雰囲気で演奏している。
1.「I Don't Want To Know」は本作唯一ボーカルが入った曲で、作者はイギリスのジョン・マーティン(1948-2009)。彼は当初デイヴィー・グレアムやアル・ステュワート等の英国フォークシーンでデビューし、後に音楽の幅を広げてシンガー・アンド・ソングライターとしてフィル・コリンズ等とも共演する。奥さんのベヴァリー・マーティンも歌手で、ジョンとの共演盤の他に、バート・ヤンシュのソロアルバム「It
Don't Bother Me」1965 の表紙写真に登場したほか、近年ジョン・レンボーンの過去音源発掘盤「Attic Tape」2015にも共演曲が収録されている。本曲は1973年のアルバム「Solid
Air」1973年に収録されたもの(そこではタイトルが「Don't Want To Know」になっている)で、パーカッシブなギター演奏が印象的。リッチー・ヘブンス、ドクター・ジョン、ベス・オートン等がカバーしている曲。ここでは、エルヴィン・ビショップのリズム・セクション(ベースとドラムス)とマリアの常連キーボード奏者ジョン・R・バーにより、本アルバムの中でもR&B色が濃い出来になっている。
こじんまりとしているが、ダニーの端正でセンスの良いギター・プレイが楽しめるアルバムだ
E142 Live At Davies 2013 Dan Hicks And The Hot Licks Surfdog
Dan Hicks: Vocal, Guitar
Maria Muldaur: Vocal, Back Vocal (3), Tabourine (3)
Roberta Donnay: Vocal (2), Back Vocal (3)
Daria: Vocal (2), Back Vocal (3)
Maryann Price: Vocal (2), Back Vocal (3)
Naomi Ruth Eisenberg: Vocal (2), Back Vocal (3)
Ray Benson: Vocal (2), Back Vocal (3)
Jim Kweskin: Vocal (2), Back Vocal (3)
Rickie Lee Jones: Vocal (2), Back Vocal (3)
John Hammond: Vocal (2), Back Vocal (3)
Patti Cathcart Andress: Vocal (2), Back Vocal (3)
Paul Robinson: Guitar
Brian Cooke: Piano (2, 3)
Benito Cortez: Violin
Paul Smith: String Bass
Jon Weber: Guitar (3)
Roy Rogers: Guitar (3)
Bruce Forman: Guitar (3)
David Grissman: Mnadolin (3)
Sid Page: Violin (3)
Jaime Leopold: String Bass (3)
Mike Rinta: Trombone (3)
Tom Poole: Trumpet (3)
Richard Olsen: Tenor Sax (3)
Charlie Gurke: Baritone Sax (3)
1. Hummin' To Myself [M. Siegal, H. Magidson, S. Fain, Additional Lyrics:
Dan Hicks]
2. I Feel Like Singin' [Dan Hicks]
3. I Scare Myself [Dan Hicks]
Recorded at Louise M. Davies Symphony Hall, Mill Valley, California at
March 23, 2012
ステージ上でダンが「ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドはインスピレーションだった」と言っているように、彼は自己の音楽を確立するにあたり、かなり影響を受けたに違いない。という意味で、マリアは彼の作品を多く取り上げたが、彼の先輩格にあたる存在と思われる。彼は、1973年のデビュー作
M1の「Walkin' One And Only」, 1974年の2枚目M3の「Sweetheart」、1998年「Swingin' In The
Rain」M18の「Aba Daba Honeymoon」、「Heck I'd Go」、2009年「Maria Muldaur & Her
Garden Of Joy 」M30の「Diplomat」,「Medley Life's Too Short -When Elephants
Roost In Bamboo Trees」といった作品に曲を提供・ゲスト参加するとともに、自身が関係するクリスマス・ジャグ・バンドのアルバム「Uncorked」2002
E113の「Boogie Woogie Santa Claus」に彼女にゲスト参加してもらうなど、長年にわたり大変親密な関係にあったと言える。
マリアの登場はコンサート前半で、ニュー・ホットリックスのメンバーをバックに 1.「Hummin' To Myself」をデュエットする。この曲の作者の一人サミー・フェイン(1902-1989)は、映画「慕情」1955の主題歌「Love
Is A Many-Splendored Thing」や、ディズニー映画「ピーターパン」の「The Second Star To The Right」、や「不思議の国のアリス」の挿入歌を作曲した人。1932年のWashboard
Rhythm KingsやAmbrose And His Orchestraの演奏がレコード上の初演。その後スタンダードとなり、1990年にデイブ・ヴァン・ロンクがカバー、特に2004年にリンダ・ロンシュタットがカバーしてアルバムのタイトルにした事で有名になった。マイナー調のスウィングチューンで、まずダンが歌った後にマリアが続き、二人の合唱となり、リラックスした雰囲気のハミングの掛け合いとなる。ダンがメロディー、マリアがハーモニーを歌いながら、合間に語りを入れてゆく様はとても魅力的だ。
フィナーレで演奏される 2.「I Feel Like Singin'」は、1971年のアルバム「Where's The Money」からの曲で、オリジナルはソリッドなスウィング・チューンであったが、ここではテンポを落としてゲストが交代でボーカル・ソロを取る。ダンのライナーノーツによると、順番は、①ダン→②マリア→③ロバータ→④ダリア→⑤マリーアン→⑥ナオミ→⑦レイ→⑧ジム→⑨リッキ・リー→⑩ジョン→⑪パティ(うち③④⑤⑥は、ホットリックスのシンガー達だ)。マリアのスキャットは短いながらもクリエイティブで良い出来だと思う。アンコールの3.「I
Scare Myself」は、1969年録音の「Original Recording」、1971年の「Striking It Rich」に収録された彼の代表曲のひとつ。この曲も前曲と同じくジャム・セッションの乗りで延々と演奏される。この演奏についてはオーディエンス撮影による動画を観ることができ、バイオリンの最初のソロの順番がベニート・コルテス、シド・ペイジの順であることがわかった。続くギターソロは、動画が遠景ショットなので、誰が弾いているが分かりづらいが、アコギの音なので、おそらくジョン・ウェーバーと推測される。そして続くデビッド・グリスマンのマンドリン・ソロは聴きもの。マリアはバック・ボーカリストの一人で目立たないが、曲の後半アドリブで「Happy
Bithday」と叫んでいるように聞こえる。
その他(マリア非参加)の曲では、リッキー・リー・ジョーンズと一緒に歌うドリーミーな「Driftin'」、ジャズ・ピアニストのホレス・シルヴァーの名曲「Song
For My Father」の歌入りカバーが面白い(後者は私が子供の頃、父親がよく聴いていたので、特別な愛着がある)。また後半で演奏される「Beedle
Um Bum」は、ジム・クウェスキンが前半、ダンが後半を歌う。これは、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの最初のアルバム「Unblusuig
Brassiness」1963 (マリアの加入前に録音された作品)に収録されていた曲。解散後に発売された「Greatest Hits」でも聴くことができるが、一部の資料でこのアルバムのタイトルに括弧書きで「Featuring
Maria Muldaur」と表示されているものがあり、別テイク (!)かと思わせるが、実際は間違いで、前述のアルバムと同じ録音。
和気あいあいとした雰囲気のなかで、結果的に、ダンが皆にお別れを告げたようなアルバムとなった。
[2019年11月作成]
E143 Queen City 2013 Original Motion Picture Soundtrack Galora
Maria Muldaur: Vocal
Larry Eason: Piano
Doug Yeomans, Tom Holland: Guitar
Ken Whitman: Tenor Sax
Wayne Moose: Bass
Abdul Rachman Qadir: Drums
他の曲について(収録曲はいずれもピータ・マックゲニス作)。 2.「Colevette Cleanin' Blues」、9.「Nitty Gritty,
Queen City」で共演しているジェイムス・コットン(1935-2017)、ダーレル・ニュイッシュ(1952- )は各ミシシッピ州、テキサス州出身で、前者はマディー・ウォータースと長年演っていた伝説的なハーモニカ奏者。3.「Patina」はピーターと地元出身で現在はナッシュヴィルで活躍するケイトリン・コッチとのデュエット。アコースティック・ギターを主体としたシンガー・アンド・ソングライターのサウンドで、ピーターが味のあるボーカルを聴かせてくれる。4.「Pop's
Storefront Church」は、ノースキャロライナ州のブルース・シンガー、トニ・リン・ワシントンが歌うゴスペル・チューン。5.「Queen
City Grind」、8.「Queen City Strut」はニューオリンズ音楽の親玉アレン・トゥーサン (1938-2015)によるブルースで、後者はインストルメンタル。
6.「Queen City Blue」を歌うジャン・パーカーはニューヨークで活躍したジャズ・シンガーで2023年没。7.「Last Of Her
Kind」は、テデスキ・トラックス・バンドのスーザン・テデスキによる弾き語り。9.「Belle Flower」のシャロン・ジョーンズ(1956-2016)は、ニューヨークで活躍したファンク・シンガー。最後の曲「Rust
Belt Woman」は、シカゴのブルースマン、マジック・スリム(1937-2013)による歌とギター演奏だ。みな良かったので全曲紹介しました。
知名度の低い作品であるが、マリアが歌うジャズ・ブルースとしてとても良い出来・
[2024年4月作成]
E144 Get Together Banana Recalls Youngbloods Classics 2015 Lowell Levinger Granpa Raccoon
Banana (Lowel Levnger) : Vocal, Tenor Guitar [Giacomel "Modele Banana"
5-String], Acoustic Guitar [1938 Washburn Solo Tone Deluxe]
David Grisman : Mandolin [Giacomel Prototype "Daug Model"]
Sam Page : Bass
Ethan Turner : Drums
Jesse Colin Young : Harmony Vocal
Allegra Broughton, April Grisman, Dan Hicks, David Grisman, David Nelson,
Ethan Turner, Maggie Levinger, Maria Muldaur, Monroe Grisman, Peter Rowan,
Sam Page, Tracy Grisman : Chorus [The Grand Chorus]
1.「Get Together」は、シンガー・アンド・ソングライターのディノ・ヴァレリがグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・リヴァイバルの動きの中で書いた曲で、その後彼はサンフランシスコに移住して、チェット・パワーズの本名でクイックシルバー・メッセンジャー・サービスを結成する。本人による録音は1996年まで日の目を見ることはなかったが、多くのアーティストに歌われて当時のヒッピー・ムーブメントを象徴する曲となった。個人的には1969年のBig Sur Folk Festivalでジョニ・ミッチェルがクロスビー・スティルス・アンド・ナッシュ、ジョン・セバスチャンと歌った映像が思い出深いが、この曲の中で最も有名かつ大ヒットしたのがヤングブラッズのバージョンだった。
その他の曲では、「Grizzly Bear」[Traditional]、「Hippie From Olema」[Lowell Levinger]でジェシー・コリン・ヤングがハーモニー・ヴォーカル、「Darkness
Darkness」[Jesse Colin Young]でデビッド・グリスマン・クィンテットのダロル・アンガー(フィドル)、ライ・クーダー(スライド・ギター)、「Stagger
Lee」[Traditional]でデューク・ロビラード、「Sugar Babe」[Jesse Colin Young]でライ・クーダー(マンドリン・バンジョー)がゲスト参加している。
2.「Mojo Mambo」は、2005年に発売された「Big Easy Boogie」 E108がオリジナルで、そこではパーカッションとブラスセクションを含む賑やかなバンドをバックにミッチとマリアが掛け合いで歌っている。一方本アルバムでは、ミッチのピアノのみをバックに、前半はマリア一人で歌い、中盤とエンディングでミッチが加わる。おそらく
1.「Empty Bed Blues」に取り掛かる前に、肩慣らしとして以前一緒に演った曲を試してみたんじゃないかな?
E146 Duke Robillard And His Dame Of Rhythm (2017) Duke Robillard M.C. Records
Maria Muldaur: Vocal
Duke Robillard: Acousric Arched Top Guitar
Bruce Bears: Piano
Brad Hallen: Bass
Mark Teixeira: Drums
Andy Stein : Violin
Jon Erik Kellso: Trumpet
Billy Novick: Clarinet, Alto Sax, Arragement
Rich Lataille: Alto And Tenor Sax, Clarinet
Carl Querfurth: Trombone
1. Got The South In My Soul [Lee Wiley, Victor Young, Ned Washington] M36
2. Was That The Human Thing To Do [Sammy Fain, Joe Young]
マリアが歌った2曲は、いずれもボズウェル・シスターズ 1932年の曲。マーサ(1905-1958)、コニー (1907-1976)、ヴェット (1911-1988) の3人姉妹はボ-ドビリアンの娘として生まれ、ニューオリンズで育った。小さいころから音楽に親しみ、3人コーラスによるジャズ歌唱の草分けとして、1930年代大変な人気があった。マリアは「Sweet Harmony」 1976 M4で彼女らの曲 「We Just Couldn't Say Goodbye」を取り上げている。1.「Got The South In My Soul」の作者リー・ワイリーは、「Night In Manhattan」で有名なジャズシンガー。ニューヨークのイメージである彼女が何故南部の歌なのか不思議に思ったが、オクラホマ州出身だった。この曲はマリアのお気に入りのようで、後2021年のアルバム「Let's Get Happy Together」 M36でも録音している。2.「Was That The Human Thing To Do」は、一瞬テンポが変わる箇所があるなど、歌い回しが難しそうな曲であるが、マリアは乗りの良い歌を聴かせてくれる。2曲ともお勧めだ。なおトランペットを吹いているジョン・エリック・ケルソーは、マリアのアルバム「Naughty, Bawdy & Blue」 2007 M27、「Boogie & Blues Diva」 2007 E127にも参加している。また2.でバイオリンを演奏しているアンディ・スタインは、カントリーロック・バンドのコマンダー・コディ & ヒズ・ロスト・プラネット・エアマンのオリジナルメンバーだった人。
1. From Monday On [Bing Crosby, Harry Barris] Bing Crosby, Paul Whiteman
And His Orchestra, 1928 (Sunny Crownover)
2. Got The South In My Soul [Ned Washington, Victor Young, Lee Wiley ]
The Bozwell Sisters, Dorsey Brothers, 1932 (Maria Muldaur)
3. Please Don't Talk About Me When I'm Gone [Sam H. Stept, Sidney Clare]
Gene Austin, 1931 (Kelley Hunt)
4. Squeeze Me [Clarence Williams, Fats Waller] Eva Taylor, Clarence Williams'
Blue Five, 1925, マリアのカバーが「Watress In A Donut Shop」M3に収録 (Madeleine Peyroux)
5. Walking Stick [Irving Berlin] Tony Martin, Rau Noble And His Orchestra,
1938 (Duke Robillard)
6.Blues In My Heart [Benny Carter, Irving Mills] Dick Rogers, King Carter
And His Royal Orchestra, 1931 (Catherine Russell)
7. Lotus Blossom [Julia Lee] Julia Lee, Tommy Douglas' Orchestra, 1945
(Kelley Hunt)
8. My Heart Belongs To Daddy [Cole Porter] Mary Martn, Eddy Duchin And
His Orchestra, 1939, 1960年にマリリン・モンローが映画 「Let's Make Love」で歌った (Sunny Crownover)
9. What's The Reason (I'm Not Pleasin' You) [Jimmie Grier, Pinky Tomlin,
Earl Hatch, Coy Poe] Betty Roth & Pinky Tomlin, Jimmie Grier And His
Orchestra, 1935 (Duke Robillard)
10. Me, Myself And I [Allan Roberts, Alvin Kaufman, Irving Gordon] Billy
Holiday And Her Orchestra, 1937 (Elizabeth McGovern)
11. Easy Living [Ralph Rainger, Leo Robin] Billie Holiday, Teddy Wilson
And His Orchestra, 1937 (Madeleine Peyroux)
12. Was That The Human Thing To Do [Sammy Fain, Joe Young] he Bozwell Sisters,
Dorsey Brothers, 1932 (Maria Muldaur)
13. If I Could Be With You (One Hour Tonight) [Henry Creamer, James P.
Johnson] va Taylor, Clarence Williams' Blue Five, 1927 (Kelley Hunt)
14. Ready For The River [Charles N. Daniels, Gus Kahn] J. L. Sanders, Coon-Sanders
Orchestra, 1928 (Duke Robillard)
15. Call Of The Freaks [Luis Russell, Paul Barbarin] (Instrumental) Luis
Russell And His Burning Eight, 1929 (Instrumental)
何度聴いても気持ち良いアルバム。マリアの歌唱も最高。
E147 Scofflaw 2018 Clint Morgan Lost Cause
Clint Morgan: Vocal, Back Vocal (2)
Maria Muldaur: Vocal, Tamboourine (2), Back Vocal (2)
Kenny Vaughan: Electric Guitar (2)
Jim Hoke: Dobro (1), Autoharp (1), Mandolin (1)
Chris Burns: Piano, Organ (2), Keyboards (2)
Dave Roe: Bass (2)
Ronnie Smith: Drums (2)
Annie Simpson, Linda Tilley, Ronnie Smith, David Jones: Back Vocal (2)
1. Softly And Tenderly, Jesus Is Calling (Will H. Thompson)
2. I Done Made It Up In My Mind (Maria Muldaur) M33
Kevin Johnson, Clint Morgan, Rob Thornworth: Producer (1)
Maria Muldaur: Producer (2)
これはスゴイアルバムです!
クリント・モーガン(年齢不明だが、大学卒業の経歴から50代後半から60才位と推定される)は、1995年アメリカ西海岸ワシントン州オリンピアで設立されたモーガン・ヒル法律事務所の設立者(パートナー)だ。同事務所のホームページで紹介されている彼のバイオによると、怪我、過失死、医療過誤事件のほか、離婚など様々な民事訴訟の弁護・調停を担当する有能な弁護士らしい。そしてピアノを弾き、歌うことが大好きで、「The Pinetop Perkins Foundation of Clarksdale, Missussuppi」(パイントップ・パーキンスは伝説的なブルース・ピアニスト)という、若い駆け出し音楽家のサポート・教育と、高齢ミュージシャンの老後ケア・安全確保のための活動をするNPO、および「International Blues Foundation」の役員を務めているという。彼の音楽用のホームページには、自己紹介の代わりに膨大な数のブルース、ジャズ、カントリー、フォーク、ロック・ミュージシャンの名前が挙げられており、ルーツ・ミュージックへの愛着と造詣の深さを感じることができる。
前半はベッシー・スミスを思わせるデュアンナ・グリーンリーフがゲストシンガーで登場し、終盤の贖罪と魂の開放という大切な場面でマリアが歌う。1.「Softly
And Tenderly, Jesus Is Calling」は、ウィル・トンプソン(1847-1909)が 1880年に発表したゴスペルソングで、これまで闇の中をさ迷ってたクリントの歌声の色合いが変化し、光がさしているのがわかる。途中からマリアが加わり一層厳かなムードになる。ドブロ、オートハープ、マンドリンを駆使するジム・ホウクとマリアの常連伴奏者であるクリス・バーンズのピアノが素晴らしい。2.「I
Done Made It Up In My Mind」は、マリアが自身のアルバム「Steady Love」2011 M33に収録していた曲で、そこでは「Traditional
Arranged And Adapted by Maria Muldaur」となっているが、本作では単に「Muldaur」となっている(彼女が作者としてクレジットされるレアなケース)。実際のところ、1947年にゴスペル・グループのスワン・シルヴァートーンズによる録音があり、マリアは歌詞やメロディーに脚色を施したものと思われる。ここでのマリアとクリントの掛け合いは生き生きしていて、魂の解放感に満ちたものとなってる。バックはナッシュビルのセッション・ミュージシャンとマリアのバックバンドの混成チームで、バックボーカルには彼女の地元であるカリフォルニア州のブルース、ゴスペル音楽仲間が参加している。いずれの曲もマリア十八番のゴスペルソングで、本アルバムの山場の場面で重要な役割を立派に果たしている。
デビッド・マシューズということで、多くのアーティストの楽曲アレンジを担当し、マンハッタン・ジャズ・オーケトラの活動でアルバムを残し、現在は北海道に住んでいる著名ピアニストと思っていたが、デビット・K.・マシューズ
(「K」は「Kirk」の略)という同姓同名の別人だった。本作に関する調査の過程で気がついたもので、昔書いたマリアのコンサート音源「Bottom
Line Japan」1989、アルバム「Jazzabelle」1993 M14の記述の誤りを修正した。彼はその後、「Meet Me Where
They Play The Blues」 1999 M19、「Richland Woman Blues」 2001 M20、「Shout, Sister
Shout!」 2003 E116などに参加している。彼はサンフランシスコを本拠地として活動、タワー・オブ・パワー在籍後にエッタ・ジェイムスのバックを長く務め、2010年からはサンタナのメンバーになっている。本作はベイエリアで活躍するシンガーを招いて製作したもので、バックも地元のミュージシャンで固めている。2018年に発売されたVol.1は「Standard」、2020年のVol.2は「Soul,
Pop, R&B」というタイトルがついており、マリアはVol.1の2曲に参加している。
1. I Want To Talk About You [Billy Ekstaine] Billy Ekstaine 1944 (Nicolas
Bearde)
2. Alfie [Hal David, Burt Bachlach] Cilla Black 1966 (Amikaeyla)
3. Blue Skies [Irving Berlin] Al Jolson 1927 (Steve Miller)
4. Oh Papa [David Nichtern] Maria Muldaurr 1974 (Maria Muldaur)
5. Ruby [Miychell Parish, Heinz Roemheld] Richard Hayman Orchestra 1953 (Glenn Walters)
6. Smile [Charlie Chaplin] Orchestra Conducted By Alfred Newman 1936 (Nicolas
Nearde)
7. When Sunny Gets Blue [Marvin Fisher, Jack Segal] Johnny Mathis With
Ray Conniff And His Orchestra 1956 (Tony Lindsay)
8. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez] Billie Holiday
1945 (Maria Muldaur)
9. Lush Life [Billy Strayhorn] Nat King Cole 1949 (Kenny Washington)
10. The More I See You [Harry Warren, Mark Gordon] Harry James And His
Orchestra , Vocal By Buddy Di Vito 1945 (Frank Jackson)
11. We'll Be Together Again [Frankie Laine, Carl Fisher] The Pied Pipers
With Paul Weston And His Orchestra 1945 (Reni Simon)
12. Skylark [Hoagy Carmichael, Johnny Mercer] Gene Krupa And His Orchestra
With Anita O'Day 1942 (Glenn Walters)
13. In The Wee Small Hours Of The Morning [Bob Hilliard, David Mann] Frank
Sinatra 1955 (John Laslo)
1. For The Love Of You [Chris Jasper, Ernie Isley] The Isley Brothers 1975
(Amikaeyla)
2. You Had to Know [Donny Hathaway, Lee Hutson] Cold Blood 1972 (Tony Lindsay)
3. One Mint Julep [Rudolph Toombs] The Clovers 1952 (Steve Miller)
4. Superwoman (Where You When I needed You) [Stevie Wonder] Stevie Wonder
1972 (Amikaeyla)
5. So Sweetly [Ray Obeiedo, Teresa Trull] - (Tony Lindsay)
6. I Got You (I Feel Good) [James Brown] Jams Brown 1965 (Fred Ross)
7. Giving Up [Van McCoy] Gladys Knight & The Pips 1964 (Lady Bianca)
8. Going Out Of My Head [Bobby Weinstein, Teddy Randazzo] The Delfonics
1969 (Glenn Walters)
9. Wichita Lineman [Jimmy Webb] Glen Campbell 1968 (Amikaeyla)
10. I Love You More Than You'll Ever Know [Al Kooper] Blood, Sweat & Tears 1968 (Alex Ligertwood)
11. Yesterday [John Lennon, Paul McCartney] The Beatles 1965 (Kenny Washington)
[2022年8月作成]
E149 Right Outta Da Oven 2019 The Brooklyn Pizzaiolos Cousin Moe Music
Maria Muldaur : Vocal
Arthur Neilson : Guitar
Kenny Aronson : Bass
Eric Parker : Drums
Jeff Alexander : Producer
1. Grab A Slice NYC [Jeff Alexander]
Recorded at Nevessa Studios, Woodstock, N.Y.
ジェフ・アレキサンダーは、生まれ育ったニューヨーク・ブルックリンが大好きで、ブルックリン・ブリッジや地元っ子がこよなく愛するピザをプリントしたTシャツやパーカーを製造販売している。彼らはピザを食べようとする時、「Grab
A Slice」と言うそうで、それが洋服のブランド名になっている。また彼は作曲家、プロデューサーでもあり、カズン・モー・ミュージックという会社を起こして、地元のブルース・ミュージシャンのアルバムを制作している。そんな彼がブルックリン愛・ピザ愛が高じて制作した
「オーヴンから出たてホヤホヤ」というタイトルのEPアルバムが本作だ。
地元のミュージシャンがバックを務めており、特にベースとドラムスは、多くの有名シンガーのバックを担当したセッション・ミュージシャンだ。収録された4曲のうち3曲は地元のセッション・シンガーである
La Rita Gaskinがボーカルを担当し、残る1曲でマリアが歌っている。1.「 Grab A Slice NYC」は洋服のブランド名と同じタイトルで、ピザ愛そのものを歌ったブルースだ。ノベルティ・ソングに近い内容でありながら、演奏・歌唱ともに大真面目にやっているのが面白い。ギターがギンギンに鳴っていて乗りの良いサウンド。ちなみに前述のラ・リタ・ガスキンが歌っている残り
3曲のうちのひとつは、本曲と全く同じバッキング・トラックを使用しており、こちらのタイトルは.「 Grab A Slice」 (「NYC」なし)となっている。
商品ブランドとしての「Grab A Slice」のサイト、および自主制作盤を専門とする通信サイトで販売された。
[2021年10月作成]
E150 Spirit 2020 The Garcia Projct Good Clean Fun Productions
[The Garcia Project]
Mik Bordy : Vocal, Electric Guitar, Acoustic Guitar
Kat Walkerson : Vocal, Harmony Vocal
Don Crea : Bass
Maria Muldaur : Vocal (10), Harmony Vocal, Produce
Peter Rowan : Vocal (2,6,9), Acoustic Guitar (2,6,9)
Jacklyn LaBranch : Harmony Vocal (1, 4, 7, 8, 10, 11)
Rick Turner : Acoustic Guitar (6)
Jacob Jolliff : Mandolin (2,6,9)
Gary Kaye : Banjo (2)
Joel Jaffee : Tambourine (11), Engineer, Mixing
Jason Crosby : Paino, Electric Piano, Organ, Fiddle
Buzz Buchannan : Drums (5)
Tommy Nagy : Drums (1,4,7,10,11)
1. Mighty High [David Crawford, Richard Downing]
2. Cold Jordan [Jerome Garcia, William Kreutzmann, Philip Lesh, Ronald
McKerman, Robert Weir]
3. Gomorrah [Robert Hunter, Jerry Garcia] E40 E41 E42 E44
4. Who Was John [Traditional]
5. I'll Be With Thee [Dorothy Love Coates] E40 E41 E42 E44
6. Drifting Too Far From The Shore [Charles Ernest Moody]
7. Strange Man [Dorothy Love Coates]
8. The Magnificent Sanctuary Band [Dorsey Burnette]
9. Throw Out The Lifeline [Edwin Smith Ufford]
10. Sisters And Brothers [Charles Johnson] M5 M7 M23
11. I Hope It Won't Be This Way, Always [Barbara Allison]
12. Palm Sunday [Robert Hunter, Jerry Garcia]
1. 「Mighty High」は、JGBが1976年の後半ライブで演奏、「Cats Under The Sky」1978 E40 (「CUTS」)のアウトテイクとして再発盤に収められた曲で、The
Mighty Cloud Of Joy (E56参照)がオリジナルの現代ゴスペル曲。ミックのボーカル、ギターがJGを彷彿させる。メンバーのカットと一緒に歌っている女性はジャクリン・ラブランチで、1982-1995年の間JGBのメンバーだった人だ。マリアは8,
10, 11, 12を除く全ての曲にハーモニー・ボーカルで参加している(10のみリード・ボーカル)。2.「Cold Jordan」は、1969-1970年のGDのライブにおけるアコースティック・セットで演奏された古い曲で、スタンレー・ブラザースやエミールー・ハリスが歌っている。CDジャケットには作者として演奏当時のGDのメンバーの名前が列挙されていたが、一般的にはトラディショナルとされている。本曲のようなブルーグラスの香りがする曲では、大御所のピーター・ローワン
(E24, E46, E50参照) がリード・ボーカルをとっている。悪徳と退廃のため神の裁きにより滅亡したというゴモラのエピソードを歌った 3.「Gomorrah」は、ロバート・ハンター作詞、JG作曲のオリジナル曲で、「CUTS」に収録された。ここではマリアとほぼ同時期である
1977-1978年にJGBに参加したバズ・ブキャナンがドラムを叩いている。11.「I Hope It Won't Be This Way,
Always」は、JGB 1989年のレパートリーで、The Angelic Gospel Singers 1968年の録音がオリジナル。
4.「Who Was John」は、GD、JGBのメンバーだったKeith And Donna Godchaux 1975年の公式録音と、1976年のJGBでのライブ演奏がある。一番古い録音は1936年のMichell's
Christian Singersのアカペラ歌唱。CDジャケットには「Dedicated to John Khan」とあり、1996年没のJGBのベーシストに捧げられている。5.「I'll
Be With Thee」は、1977-1978年のJGBのライブでマリアがドナ・ゴッドショウと 歌っていたゴスペルソングで、スタジオ録音は「CUTS」
のアウトテイクとして、再発盤に収録された。初出は Dorothy Love Coates And The Gospel Harmonettes
1967年の録音。6.「Driftin' Too Far From The Shore」は、JGがピーター・ローワン、デビッド・グリスマン、ヴァッサー・クレメンツと組んだ短命バンド Old
& In The Way 1973年、ジェリー・ガルシア・アコースティック・バンド1987年のライブ、JGがデビッド・グリスマン、トニー・ライスと吹き込んだ「Pizza
Tapes」1993 の音源があり、元々はビル・モンローやカントリー・ジェントルメンが演奏していたスピリチュアル曲だ。ここでもピーター・ローワンが歌っていて、ブルーグラスとゴスペルの縁の深さがわかる。
1976年のJGBでドナ・ゴッドショウが歌っていた7.「Strange Man」のリード・ボーカルはカットが担当。オリジナルは 5.と同じで、キース・アンド・ドナ
1986年の公式録音がある。ロカビリー・シンガーのドーシー・バーネット 1970年の作品 8.「The Magnificent Sanctuary
Band」は、JGBのアルバム「CUTS」のアウトテイクとして後の再発盤に収録されている。9.「Throw Out The Lifeline」は、アルバム発表に先立ってシングルとして配信された曲で、1880年代の讃美歌がベースで、シスター・ロゼッタ・シャープ(E117参照)やエラ・フィッツジェラルド等がカバー。比較的軽妙なアレンジによるJGBでの演奏は1988-1991年の間で、本作ではピーター・ローワンが歌っている。
本作で唯一マリアがリード・ボーカルを務める 10.「Sisters And Brothers」は、Sensational Nightingales
1974の録音が最初で、JGBの1976-1995年のライブで歌われた。マリアはこの曲を気に入ったようで、「Southern Wind」1978
M5に収録、その後も多くのライブで取り上げている。なおCDジャケットにある「Dedicated to Gloria Y. Jones」は、JGBでジャクリン・ラブランチと一緒に歌っていたグロリア・ジョーンズ(2019没)のこと。最後の曲
12.「Palm Sunday」は、3.と同じくJGのオリジナルで、「CUTS」に収録された。ここではカットがしんみりと歌っている。
E152 Explore The Spoonful Songbook 2021 John Sebastian And Arlen Roth Renew
John Sebastian : Vocal, Guitar
Arlen Roth : Guitar
Maria Muldaur : Vocal
13. Stories We Could Tell [John Sebastian]
これはとてもいいアルバムです!
本作のレビューを書くにあたり、ラヴィン・スプーンフルのベスト盤CDを久しぶりに聴きました。そこには1960年代当時しか出せない空気感があって、とても良い気分になりました。本作には14曲収められていますが、「Summer
In The City」のようなヒット曲や 「Wild About My Lovin'」、「Coconut Grove」などは含まれず、他にいい曲がたくさんあったことが改めてわかりました。2021年発売の本作のみでなく、オリジナル作品も一緒に聴くことをお勧めします。
ジョン・セバスチャン (1944- ) はニューヨーク生まれで、ヴィレッジのフォークシーンでブルースを聴いて育った。レコードデビューは、マリア、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのスティーブ・カッツ、ステファン・グロスマン等がメンバーだった「The
Even Dozen Jug Band」1964 E1 だった。そしてザ・ママス・アンド・パパスのキャス・エリオット等とバンドを組んだ後に、ザル・ヤノブスキー等とラヴィン・スプーンフルを結成し、1965年レコードのヒットにより成功した。彼はバンド内のトラブルにより、1968年バンドを離れてソロとなり、1969年のウッドストック・フェスティバルに出演。その後はウッドストックを拠点として、ソロアルバム発表、ハーモニカやオートハープのセッションワーク
(オートハープでは、ランディ・ヴァンウォーマーのヒット曲「Just When I Needed You Most」1979 全米4位が有名)、テレビや音楽のサウンドトラック、教則テープ制作等で活躍を続けている。マリアとは「American
Children」 1989 E69、「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」 2009 M30 、「Jug
Band Extravaganza」 2010 E130 などのアルバム、およびコンサートで数多く共演している。
まずマリアが参加した13.「Stories We Could Tell」につき、先に述べる。本曲はアルバム中唯一、ラヴィン・スプーンフル時代のものではなく、B.J
トーマス1972年、エヴァリー・ブラザース1972年(アルバム・タイトルソング)の後、1974年に発表した「Tarzana Kid」にセルフカバーが収められた。その後もジミー・バフェット
1974年、トム・ペティ・アンド・ハートブレイカーズ 1980等のカバーがある。カントリー調の曲・サウンドで、最初はジョンが歌い、コーラスでマリアがハーモニーを付け、セカンドヴァースをマリアが歌う。マリアの歌声は、いつものドスの効いた声でなく、カントリー音楽向けのスウィート・ヴォイスだ。本作で唯一、ラヴィン・スプーンフル時代でない本曲は、ジョンにとって大切な曲だったに違いない。
他の曲についても説明します(括弧はオリジナル収録アルバムとその発表年 全米チャート))。
1. Lovin' You (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966, Single 1967)
2. Darlin' Companion (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966)
3. Daydream (Same Title 1966, Single 1966, 2位)
4. Jug Band Music (Daydream 1966, Single 1966)
5. Four Eyes (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966)
6. Younger Girl (Do You Belive In Magic 1965)
7. Rain On The Roof (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966, Single 1966,
10位)
8. Didn't Want To Have To Do It (Daydream 1966)
9. Did You Ever Have To Make Up Your Mind (Do You Belive In Magic 1965,
Single 1966 2位)
10. Do You Believe In Magic (Same Title 1965, Single 1965, 9位)
11. Nashville Cats (Hums Of The Lovin' Spoonful 1966 Single 1967,
8位)
12. You Didn't Have To Be So Nice (Daydream 1966, Single 1965, 10位)
13.Stories We Could Tell (Tarzana Kid 1974)
14. Darling Be Home Soon (You're A Big Boy Now, Single 1967, 15位)
1.「Lovin' You」、2.「Darlin' Companion」 をオリジナルと聴き比べると、ジョンの声質が変わったことがわかる。1990年代初めに経験した喉の健康問題のためとのことで、「彼の声は失われた」と言う人もいるが、私が歌声を聴く限り、すこし渋みが出たけど、深みと味わいが増したように思う。バックで歌うモナリザ・トゥインズは、オーストリア・ウィーンに生まれ、2014年以降はイギリス・リバプールを本拠地とする女性双子デュオだ。彼らは2000年代後半からビートルズをはじめとする1960年代のポップ、フォーク音楽をYouTubeにアップすることで人気を得て、2007年以降オリジナル曲を含むCDも出している。達者なギタープレイ(アコースティックとエレキ)による演奏と、双子ならではの絶妙なハーモニー、古い曲のカバーでありながら、新しい何かを感じられることが彼女達の魅力になっている。2015年頃ジョンの「Daydream」のカバーをアップしたところ、それを観たジョンが絶賛して交流が始まったらしい。その後2017年のアルバム「Orange」にジョンがハーモニカで 2曲(「Once Upon A Time」、「Waiting For The Waiter」 YouTubeに動画あり) に参加した。本作への参加はその見返りとのことで、ここでの彼女等の新感覚バックボーカルが曲に新しい息吹を与えているのは明らか。3.「Daydream」はギター2台、ハーモニカ、口笛によるインストルメンタルで、アーレンのアコースティックギター・プレイがとても良い味をだしている。4.「Jug Band Music」は、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドのものとは同名異曲で、曲名のわりにロックなアレンジの曲。ジェフ・マルダーがハーモニー・ボーカルをつけている。 テレキャス・サウンド丸出しのアーレンのソロがかっこいい!
5.「Four Eyes」は、アーレンのスライド・ギターが暴れまくる、リトルフィートもびっくりのロックサウンドで、オリジナルを完全に超越した素晴らしい出来。モナリザ・トウィンのバックコーラスも最高
! 6.「Younger Girl」、7.「Rain On The Roof」 はギター、マンドリン等によるインストルメンタル。本アルバムでは有名曲を歌無しで演奏しているようだ。8.「Didn't
Want To Have To Do It」はアーレンの次女 Lexie Rothが歌っている。ちなみにアーレンは1989年に交通事故により最愛の妻とプロミュージシャンとしてデビュー直前の長女を交通事故で亡くしている。9.「Did
You Ever Have To Make Up Your Mind」は、ジェフ・マルダーがボーカルで参加している。本曲については、ジョンとモナリザ・トウィンの共演バージョンが2019年の彼女等のアルバム「Play
Beatles & More Vol.3」に収められ、動画もYouTubeに発表されている。両者を聴き比べると面白いよ!10.「Do
You Believe In Magic」は有名曲ということで、バンド編成によるインストルメンタル。アーレンのテレキャスのみならず、(おそらく)ジョンもギターソロを弾いている。カントリー調の
11. 「Nashville Cats」では、本作では唯一アーレンがリードボーカルをとっている。 12.「You Didn't Have To
Be So Nice」は 2台のギターによるインストルメンタル。13.「Stories We Could Tell」は上記参照。最後の曲 14.「Darling
Be Home Soon」は、ジョンのギターとハーモニカがメインの弾き語り。
資料には作者についての記載がないが、上記の発言からマリアとクレイグの共作という事になる。そしてバックバンドについては、「Musicians: Craig Caffall」とあるので、すべての楽器を彼一人で多重録音したものと思われる。彼はマリアのバックバンドを長年務め、「Live In Concert」M28、「Christmas At The Oasis」M32に参加していた人で、若い頃はドラムを叩いていたというマルチ奏者のプロフィールがあることから、間違いないだろう。