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E74 Developing Your Vocal & Perfoming Style 1990 Maria Muldaur Homespun Tapes |
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Maria Muldaur : Vocal
John R. Burr : Keyboards
Steve Cardenas : Electric Guitar (2,4,5)
Steve Norris : Bass (2,4,5)
Warren Grant : Drums (2,4,5)
Rockin' Jake : Harmonica (2,5), Percussion (4)
Howard Johnson : Baritone Sax (2,5)
1. Will The Circle Be Unbroken [A. P. Carter] E47 E105
2. Please Send Someone To Love [Percy Mayfield] M33
3. Lover Man [Davis, Sherman, Ramirez] M2 M6 M9 E16 E75 E100 E148
4. Midnight At The Oasis [David Nichtern] M1 M2 M28 M32 EXXX EXXX
5. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker] M1 M2 M13
M14 M35 E104
Live At Bearsville Theater, Woodstock, New York (2,4,5)
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ハッピイ・トラウムが経営するホームスパン・テープスは、様々なジャンルの音楽教材を数多く提供している。なかでも彼と親交があるトップアーティストが親切に教えてくれる視覚教材は人気が高い。当初はビデオテープで発売されたが、今ではDVDに切り替わり、音質・画質のみならず、Chapter指定機能により好きな画面を選び出せるなど、使いやすさも向上している。
ギターやピアノなどの楽器演奏に関する教材が多いなかで、マリアが講師を務める本作はボーカリストのために作られたもので、歌い方のテクニックのみならず、ステージで歌うためのコツや心構えについて丁寧に説明している点がユニーク。本作が発売された1990年は彼女が50才になる少し前であり、声・容貌ともに若い頃の面影と、現在の元気なおばあちゃんのイメージの両方が見え隠れするのが面白い。何と言っても、カメラに向かって話しかける彼女の声と豊かな表情は、それなりに魅力的だ。残念ながら日本語・英語の字幕が付いていないため、彼女の話を理解するためには、そこそこのリスニング能力が必要となるが、彼女の英語は発音も正確で分りやすいので、ヒアリングの教材として挑戦してみるのもよいと思う。
まず彼女は、自分の好みのスタイルを見つけること、そして著名アーティストの真似をしても声質は人それぞれで、結局は自分の個性が出てくるものなので、心配はいらないと説明し、次にヴォイス・トレーニングの重要性を強調する。彼女がブロードウェイのミュージカルに出演した際、従来のヴォイス・レンジでは歌えない曲が出てきたため、トレーニングを受けたところ声域が驚異的に拡大したという。本教材には発声練習のためのCD(以前はカセットテープ)が付いており、これを使ってマリアと一緒に毎日練習すると確実に改善すると言う。ここでピアニストのジョン・R.・バー(1990年の「On
The Sunny Side」M12 以降におけるマリアのレコーディングの常連のひとり)が登場し、マリアがその一部を実演してみせる。歌の表現力をアップさせる事につき、マリアは1.「Will
The Circle Be Unbroken」を課題曲として取り上げ、ピアノを伴奏に @さっぱりした歌い方 A装飾音を加えた歌い方 Bエモーションをこめた自由な歌い方で1ヴァースづつ歌う。これら3通りのニュアンスの変化が聴きもので、歌心の魔術に触れることができる。
ここで模範演奏として、2.「Please Send Someone To Love」のライブ映像が入る。最後のクレジットで、この演奏がニューヨーク郊外ウッドストックにあるベアズヴィル・シアターで収録されたものであることがわかる。名前のとおり、当地でスタジオを構えたアルバート・グロスマンの未亡人が経営するライブハウスだそうだ。バックバンド・メンバーのうち、ハーモニカとパーカッションを担当するロッキン・ジェイクは、後1996年に発表するアルバム
「Le's Go Ge 'Em」E88にマリアを招き1曲歌ってもらっている。キーボードは前述のジョン・R. ・バー。ギターは、ポール・マッキャンドレス、ポール・モチアン、スペンサー・ブリューワーなど、ジャズ系の作品への参加が多いスティーブ・カーディナス(マリアの作品には「On
The Sunny Side」1990 M12に採譜者としてクレジットされている)。この曲は、以前ポール・バターフィールドのバンド、ベターデイズのアルバムE25でジェフ・マルダーが歌っていた曲で、その後マリアのステージ・レパートリーになったが、不思議なことに彼女のアルバムには納められず、本作が唯一の公式発表となっている。模範曲とするだけあって、マリアはあらゆるテクニックを使って、ニュアンスに富む感情表現を見せてくれる。間奏ソロで登場するハワード・ジョンソン
(1941-2021) は、バリトン・サックス、チューバ奏者として、マッコイ・タイナー、アーチー・シェップ、ギル・エバンス等のジャズ作品のみならず、多くのポピュラー作品にも参加した人で、ロックファンにはザ・バンドの傑作ライブ
「Rock Of Ages」1972や「Last Waltz」1978が有名だろう。彼がソロをバリバリ吹くので、ここではロッキン・ジェイクの存在は控えめになっている。
その後彼女は、コンサート出演前の準備や気構え、公演前の食事についてのアドバイスを語り、ピアノ伴奏のみで 3.「Lover Man」を歌う。若いころから長年にわたり歌い込まれてきた曲で、単なる課題曲に留まらない深い味わいがある。最後にコンサートから彼女の18番である
4.「Midnight At The Oasis」と 5.「Don't You Feel My Leg」が披露される。ジョンのピアノが素晴らしく、とても美味しい映像だ。前者ではスティーブ・カーデナスの間奏ギターソロがハイライト。前半はエイモスのスタイルを踏襲し、後半から自分の音でバリバリと弾きまくる。また後者では、間奏ソロを吹くハワードが最高で、彼にマリアが絡むユーモラスなシーンもある。
マリアが講師を務めるボーカリストのための教則ビデオであるが、ハッピイ・トラウムのサービス心溢れる誠実なプロデュースにより、質の高いコンサート映像もしっかり入っている。
[2011年10月追記]
2.「Please Send Someone To Love」は、2011年のアルバム「Steady Love」M33に収録されました。
[2011年4月作成]
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E75 Super Jam 1990 Various Artists Laser Light (Delta Music GmbH) (独) |
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Maria Muldaur : Vocal (3, 4, 7, 8, 9, 11, 13, 14, 15, 16)
Zoot Money : Vocal (2, 6, 10)
Dick Morrissey : Sax
Roy Wiiliams : Trombone
Brian Auger : Piano, Musical Director
Harvey Weston : Bass
Pete York : Drums
Michael Maschke : Producer
1. Ding Dong The Witch Is Dead [H. Arlen, Y. Harburg] Instrumental
2. Danny Boy [Traditional]
3. What A Wonderful World [George David Weiss, Robert Thiele]
4. Fly Me To The Moon [Bart Howard]
5. Tara's Theme [Max Steiner, Mack David] Instrumental
6. Take These Chain From Heart [Hy Heath, Fred Rose]
7. As Time Goes By [Herman Hupfeld]
8. Lullaby Of Broadway [Harry Warlen, Al Dubin]
9. Rockin' Chair [Hoagy Carmichael] M4
10. You're So Beautiful [Billy Preston]
11. Lover Man [Jimmy Davis, Roger Ramirez] M2 M6 M9 E16 E74 E100 E148
12. Peter Gun [Henry Mancini] Instrumental
13. Come Sunday [Duke Ellington]
14. Hooray For Hollywood [Richard Whitings, Johnny Mercer]
15. When You Wish Upon A Star [Ned Washington, Leigh Harline]
16. Over The Rainbow [Harold Arlen, Y. Harburg]
Recorded Live At SDR Stuttgart, November, December 1990
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一般的な評価は全然大した事はないんだけど、私にとっては誰にも教えたくない気持ちもあった、とっておきの1枚。なので本ディスコグラフィーに記事を載せることを後回しにしていましたが、一人占めにするのはもったいない、皆に紹介したいなという気もあり、そろそろ潮時かなと思い書くことにしました。
ドイツのテレビ番組「Villa Fantastica」のためのスタジオライブで、映像があるはずなんだけど、私が知る限り出回っているのはサウンド・トラックとしてのCD盤のみだ。参加ミュージシャンはマリアを除き全員イギリス人。ブライアン・オーガー(1939- )は、ジャズ・ロック界で活躍するキーボード奏者で、ジュリー・ドリスコル(ボーカル)とのバンド、トリニティや、ブライアン・オーガーズ・オブリビオン・エクスプレスを率いて多くのアルバムを発表、息の長いキャリアを誇っている。彼はハモンド・オルガンの名手として有名であるが、ここではアコースティック・ピアノのプレイに専念。ドラムスのピート・ヨークは、スティービー・ウィンウッドが在籍したスペンサー・デイビス・グループの初代メンバーとして活躍後、イギリス・ドラム奏者の大御所的な存在となり、ジャンルを超えたプレイヤーによるスーパーセッションの立役者になっている。サックスのディック・モリッシー(1940-2000)と、トロンボーンのロイ・ウィリアムス(1937-
)は、イギリスで活躍するベテランのジャズ、フュージョン・ミュージシャンだ。以上のとおりジャズのみならず、ロック畑の人もいることが、このセッションを自由な雰囲気にしていると思う。音楽監督のブライアンは、著名な映画で使われた名曲を中心とした選曲と、一般の人々にも親しみやすい音作りで、大衆メディアであるテレビ放送を意識したプロダクションになっている。
マリアが歌っていない曲についても紹介しよう。1.「Ding Dong The Witch Is Dead」は、ハロルド・アーレン(1905-1986)の作。映画「オズの魔法使い」1939で、悪い魔女が空から降ってきた家の下敷きになって死んだ後、喜んだ小人達が歌う曲で、ブライアン・オーガーの編曲により、マチキン声によるコミカルなムードが洗練された聴きやすいインストルメンタルに変身した。ドラムソロによるイントロ、ホーンセクションによる軽快なテーマ演奏の後、トロンボーン、サックス、ピアノとソロが回る。ブライアンのピアノの明快で乾いたサウンドは白人っぽく、黒人プレイヤーの暗い情念とは全く正反対の持ち味がある。アイルランドのトラディショナルとしてお馴染みの2.「Danny
Boy」は、イギリス人のボーカリスト、キーボード奏者ズート・マネーがボーカルを担当。彼の声は荒っぽく不器用で、ジャズのクールなムードとは異質。むしろロック、ブルース系と言ったほうがよいだろう。マリアのボーカルとの対比で、口直しという意味ではこれでよいのかな?ブライアンのピアノがタッチの強いグルーヴィーなプレイをみせる。次の
3.「What A Wonderful World」で、我等がマリアさんが登場する。この曲は1968年のルイ・アームストロングの吹き込みがオリジナル。当時アメリカでは全く話題にならなかったが、イギリスではNo.1ヒット曲になった。そして時代とともにスタンダードの地位を獲得し、アメリカでは1988年、戦争映画「Good
Morning Vietnam」のサウンドトラックで使用され、全米32位のヒットを記録した。人々の善意を信じる前向きな歌詞が印象的で、マリアは持ち前の誠実な人柄でしっとりと歌っている。4.「Fly
Me To The Moon」の初出は、ケイ・バラードという歌手だったそうで、その後は数多くの歌手が歌ったが、私にとっての決定版はジュリー・ロンドン(1963)、アストラッド・ジルベルト(1965)、フランク・シナトラ(1964)だ。ラテン調のアレンジがピッタリの曲。トロンボーンとサックスによりまず提示されるテーマ演奏が軽快で、それに続いて歌いだすマリアが素晴らしい。この頃の彼女の声はデビュー当時の甘美な響きが残っていて、その可憐な声色が最高。普段はこの手のスタンダードを歌わないマリアが本曲を歌うのは、本当に意外でうれしいことだ。5.「Tara's
Theme」は、ご存知「風と共に去りぬ」1939の主題曲。タラはアイルランド郊外にある聖地の丘で、アイリッシュ系アメリカ人である主人公スカーレット・オハラのルーツであり、心の拠り所となった地のことだ。私事であるが、以前かの地に行ってみたことがあり、訪れる観光客もいない何の変哲もない丘だった。ただ雄大な景色と静けさだけ覚えている。これは歌なしの演奏だ。
6.「Take These Chain From Heart」はカントリー・シンガー、ハンク・ウィリアムス(1923-1953) による 1952年9月23日の録音が最初で、彼の最後のヒット曲になった。カバー曲では、レイ・チャールズ
1963年のバージョンが名高い。本作のなかではちょっと異質な選曲であるが、ズートがブギウギ調の伴奏をバックに歌っている。ブライアンはこの手のファンキーな曲のプレイが得意なようだ。7.
「As Time Goes By」は、言わずと知れたハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン主演の名画「Casablanca」1942の挿入歌で、映画ではクラブのピアノ弾きのドーリー・ウィルソンが歌っていた。
ただしこの歌の初出は、この映画ではなく、1931年のブロードウェイ・ミュージカルだったそうな。ビリー・ホリデイは、1944年4月1日にコモドア・レーベルでこの曲を録音している。マリアは映画と同じく、オリジナルの出だしのヴァースを省略し、メイン・メロディーをスウィートに歌いあげている。マリアによるこの曲の歌唱も本作のハイライト。8.
「Lullaby Of Broadway」は、1935年のミュージカル映画「Gold Digger Of 1935」のために書かれた歌で、映画ではウィニ・ショウ(1907-1982)が歌って1936年のアカデミー主題歌賞を受賞した。レコードとしては、1951年のドリス・デイのヒットが最も有名。この手のオーセンティックなジャズ・チューンになると、彼女の原曲に対する尊敬の念と、難しい歌に挑戦する気合いが感じられ、聴いていてとても気持ちが良い。ホギー・カーマイケルの
9.「Rockin' Chair」は、マリアにとって1976年の「Sweet Harmony」以来2回目の録音。ミルドレッド・ベイリーの持ち歌で有名になった他、ルイ・アームストロング、ミルス・ブラザースなど多くの人々に歌われた。老いて動けなくなった老人が揺り椅子に座って天に召されるのを待つという内容の歌詞で、この手の曲が得意なマリアは、水を得た魚のごとく活き活きと歌う。10.「You're
So Beautiful」は、ジョー・コッカー 1974年の録音で全米5位のヒットとなった、シンプルかつストレートなラブソングで、ズート・マネーが歌う。
11.「Lover Man」は、マリアのライフワークといえる歌で、キャリアを重ねるにつれて深くなる味わいが楽しみな曲だ。ここではその1990年版といったところかな?12.「Peter
Gun」(インストルメンタル)は、1958年〜1961年に放送された探偵ものテレビ番組のテーマ曲で、作者はヘンリー・マンシーニ。エミー、アカデミーの両方を受賞したジャズ・ロック調の名曲で、リフが印象的。13.「Come
Sunday」は、デューク・エリントン本人による 1943年1月23日の録音が最初。エリントンらしい凝った和声とメロディーの曲で、歌うのは難しそうなゴスペルの香りに満ちた曲だ。14.「Hooray
For Hollywood」は、1937年の映画「Hollywood Hotel」にフィーチャーされた曲で、オリジナル・シンガーはジョニー・デイビスとフランシス・ラングフォード。その後は、スターになる夢を歌った詞の内容により、アカデミー賞セレモニーのテーマ曲となった。間奏に入るところで、ダブルテンポになって展開されるソロプレイが鮮やかだ。マリアの地声と裏声の対比を生かした丁寧な歌いっぷりも大変魅力的。
15.「When You Wish Upon A Star」は、ディズニー映画「ピノキオ」1940 でコオロギのジミー・クリケットが歌っていた主題歌で、同年のアカデミー主題曲賞を受賞。余りに有名となったため、後にウォルト・ディスニー・カンパニーのテーマ曲となった。
マリアがこの曲を歌うのが聴けるなんて最高!そしてとどめは、ジュディ・ガーランドが映画「オズの魔法使い」1939でうたった永遠の名曲16. 「Over
The Rainbow」だ!このドリーミイなメロディー、歌詞を歌うマリアの謙虚な態度は、何故私が彼女のことがこれほどまでに好きになったのかを分らせてくれる歌唱なのだ。
小さなジャズクラブでウィスキーのオンザロックでも飲みながら、マリアが歌うスタンダードに浸っているかのような気分にさせてくれる、熱心なマリアのファンのための素敵な贈りもの。ドイツ国内のみの発売なので、アメリカ、日本のマーケットで出回る事は皆無であるが、欧州のサイトを注意深く探すと見つかると思う。
[2018年8月追記]
テレビ番組「Villa Fantastica」を観ることができました!CDジャケット表紙にある館のイラストから始まり、司会やナレーションは一切無しで、館内でのライブセッションが淡々と展開されるが、曲毎にセッティング、ライティングや出演者の服装が変わるので、単調な感じはしない。カメラワークのリハーサルを入念に行ったようで、各プレイヤーの演奏模様が上手く捉えられている。なお曲順は、以下の通りCDと異なる。なお赤字はCDには収録されなかった曲。逆にCDにあった
3.「What A Wonderful World」は映像ではカットされている。
(1) Ding Dong The Witch Is Dead [Instrumental]
(2) Danny Boy (Vocal: Zoot Money)
(3) Rockin' Chair (Vocal: Maria Muldaur)
(4) When You Wish Upon A Star (Vocal: Maria Muldaur)
(5) You're So Beautiful (Vocal: Zoot Money)
(6) Fly Me To The Moon (Vocal: Maria Muldaur)
(7) Peter Gun (Instrumental)
(8) As Time Goes By (Vocal: Maria Muldaur)
(9) Tara's Theme (Instrumental)
(10) Take These Chain From Heart (Vocal: Zoot Money)
(11) Lover Man (Vocal: Maria Muldaur)
(12) Something [George Harrison] (Vocal: Zoot Money)
(13) Get Happy (Vocal: Maria Muldaur)
(14) Smile (Vocal: Zoot Money)
(15) Come Sunday (Vocal: Maria Muldaur)
(16) Lullaby Of Broadway (Vocal: Maria Muldaur)
(17) Over The Rainbow (Vocal: Maria Muldaur)
(18) Hooray For Hollywood (Vocal: Maria Muldaur)
(1)「Ding Dong The Witch Is Dead」は、館内のセットでありながら随所に枯れ木を配し、パープル、ブルー、レッドのライティングとスモークの中での演奏。プレイヤーは40〜50年代風のスーツやハットのいで立ちで、番組を通したノスタルジックでダークな雰囲気を醸しだしている。本番組は、ロック・スピリット溢れるシンガー・プレイヤーがジャズのスタンダードを演奏するという趣向で、独特の雰囲気・サウンドを生み出していることが映像によりより顕著になっている。
(2)「Danny Boy」では、ズート・マネーが古風なスーツと髪型で歌うが、ノンヴィブラートによるアクの強い歌い方に加えて、時折みせるパントマイムのような仕草と表情が強烈。ピアノを弾く巨漢のブライアンは、鍵盤を叩くタッチがすごぶる強く、あれだけ乾いた音が出ている理由が視覚的によくわかる。(3)
「Rockin' Chair」マリアが登場。髪に大きな花を挿し、花柄のゴージャスなドレスを身にまといジャズエイジの歌姫といったところ。古い邸宅の室内のセットの中で、手振りを交えながらしっとりと歌っており、ホーンプレイヤーのソロもムードたっぷり。(4)「When
You Wish Upon A Star」は、梁のような現代的なオブジェを置く、スモークが炊かれたセットでの演奏。マリアは緑がかった銀ラメのドレスを着て、古風なマイクに向かって歌う様がアップで捉えられている。(5)「You're
So Beautiful」は黒ずくめのズートが歌うスローな部分と、インテンポになってプレイヤーのダイナミックなソロが聞かれる間奏部分との対比が、巧みなカメラワークでより鮮やかに表現されている。(6)「Fly
Me To The Moon」は(4)と同じセット・衣装での演奏。耳に手を当て歌うマリアは思い入れタップリで気持ち良さそう。
(8)「As Time Goes By」は黒白の画面になり、映画「カサブランカ」の古い映画のムードを醸し出している。(9)「Tara's Theme」は、映画「風と共に去りぬ」の夕焼けのシーンを彷彿させるライティングでの演奏で、映画のスチール写真が挿入される。 (10)「Take These Chain From Heart」はズート・マネーが鎖に繋がれた囚人のいで立ちで歌う。マリアの十八番 (11)「Lover Man」では、彼女のしっとりした歌唱が楽しめる。(12) 「Something」は本番組の中でも異色の存在で、ズートがピアノとサックスの伴奏のみで歌い、トロンボーン、ドラム奏者がソファに座ってバックコーラスを付けている。(13)「Get
Happy」はマリアのボーカルでCDに収められなかった貴重曲で、アップテンポのジャズをさらっと歌っている。1930年に発表されたハロルド・アーレンの曲で、1950年のミュージカル映画 「Summer Stock」でのジュディ・ガーランドのバージョンが最も有名。(14)
「Smile」はズートがピエロの恰好をして歌っている。 (15)「Come Sunday」はトーチソング風の曲で、マリアのブルージー、ゴスペル風のスタイルにしっくり合っている。
(16)「Lullaby Of Broadway」でのマリアは、打って変わって鮮やかなブルーのドレスを身にまとって軽快に歌う。(17) 「Over The Rainbow」は枯れ木を配したセットでこれまたしっとりムードの演奏。(18) 「Hooray For Hollywood」はイントロのスローな部分とインテンポになってからのダイナミックな演奏の対比が鮮やかで、番組のフィナーレとしてふさわしく、最後に手を振りながらニコッとするマリアの表情が印象的だ。
サウンドだけでも十分楽しめるが、視覚面でもいろいろな工夫が施されており、1990年台前半のマリアの姿をたっっぷり拝むことができるお宝映像。
[2011年8月作成]
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E76 Live! 1998 Merl Saunders With His Funky Friends Sumertone |
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Merl Saunders : Vocal, Keyboards
Maria Muldaur : Vocal
Steve Kimock : Guitar
Michael Warren : Bass
Muruga Booker : Drums
1. Gee Baby, Ain't I Good To You [Don Redman, Andy Razif] M9 M19 M32 E6
Recorded At Great American Music Hall, San Francisco CA, October 22 1990
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マール・サンダース(1934-2008)は、サン・フランシスコのベイエリアの生まれで、当地を本拠地として活躍したキーボード奏者、シンガーだ。1970年代初めから始まったジェリー・ガルシアとのコラボレイションが彼を有名にし、それは1995年ジェリーが亡くなるまで続いた。それ以外でも、自己のバンドを率いて、ブルース、ロック、ジャズの垣根を自由に行き来する音楽活動を展開、「Groove」という言葉は彼のためにあると強く思わせるプレイを聴かせてくれた。本作は、彼の1989年〜1996年のライブ、スタジオライブ音源を集めたもので、彼自身のレーベル、Sumertoneから1998年に発売された。
マリアは、1990年のライブ音源 1.「Gee Baby, Ain't I Good To You」で、飛び入りのゲストシンガーとして歌っている。マール自身の解説によると、「ポール・バターフィールズ・ベターデイズに在籍していた頃、ステージで彼女とよく歌った」とのこと。ロニー・バロンの前に、彼が同バンドのキーボード奏者だった事があるらしい。そういえばサウンドトラック盤「Steelyard
Blues」1972 E18には、バンドの連中に、マールとマリアが加わっていたなあ.......。曲は、ファンキーなエレキピアノによるイントロから始まり、まずマールが1ヴァース歌う。歌いながら「ヘッヘッヘ」と笑い声を入れるなど貫禄十分の歌唱だ。セカンド・ヴァースに入ると、オーディエンスから拍手が起きるが、演奏のみでボーカルが聴こえない状態が少し続く。マールが歌うような感じで「Turn
the mike on !」と、エンジニアに指示(洒落てるんだよな〜)すると、いきなりマリアのボーカルが飛び込んでくる。ワン・ヴァース歌い終わった後も、マールの「もっともっと、続けて!」という掛け声で、彼女は歌い続ける。これが凄いグルーヴ感で、歌詞のアドリブ入れまくりのパフォーマンスだ。歌詞で、恋人に贈るプレゼントのくだりでは、オリジナルとまったく異なる品物が並び、「Gee
Baby」は、「Gee Merl」に置き換わっている。その後はマールがボーカルを引き継ぐが、ファイナル・ヴァースで再びマリアが歌う。ここでのボーカルは、数ある彼女のライブパフォーマンスの中でも、文句なしに最高の出来と確信する。前述のとおりミキシングのミスはあるが、それを補って余りある熱気があり、何度聴いても興奮する。曲良し、歌良し、演奏良しの3拍子そろった名演。バックのミュージシャンのなかでは、ギタリストのスティーブ・キモックが有名。彼は、ジェリー・ガルシアのスタイルをくむプレイを得意とし、グレイトフル・デッド・ファミリーでの演奏が多い人だ。
その他の曲では、マールとドクター・ジョンのボーカル、キーボードバトルが堪能できる1993年のスタジオライブ、デビッド・グリスマンとのステージ共演による「Summertime」、ハーモニカの名手ジョン・ポッパーとの共演、ジェリー・ガルシアとのアコースティックなデュオプレイなど、素晴らしい演奏が盛りだくさんだ。
[2011年4月追記]
本曲の映像を観ることができました!存在するのは音源だけかと思っていたので、ビックリしましたね。画質は良くないんだけど、ぶれがなく、途中アングルが変わるので、複数のカメラで撮影したプロショットで間違いない。マールとマリアのクローズアップが多く、特に乗りまくって歌うマリアの姿は、迫力満点かつ魅力的。いつか良質な映像で観てみたいもんだ。
[2010年9月作成]
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E77 Live At Sweetwater 1992 Hot Tuna Relix
E78 Live At Sweetwater Two 1993 Hot Tuna Relix
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Jorma Kaukonen : Steel Guitar
Jack Cassady : Bass
Michael Falzarano : Acoustic Guitar
Peter Sears : Piano
Bob Weir : Vocal, Acoustic Guitar
Maria Muldaur : Side Vocal (2), Tambourine
1. Good Morning Little School Girl [Sonny Boy Williamson]
2. Maggie's Farm [Bob Dylan]
録音: Sweetwater, Mill Valley, CA at Jan 27- 28, 1992
注: 写真上より
「Live At Sweetwater」, 「Live At Sweetwater 2」(オリジナル盤)
「Live At Sweetwater」, 「Live At Sweetwater 2」(ボーナストラック付再発盤 2004)
「Live At Sweetwater 25 Years And Runnin'」 (DVD)
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ホットツナは、ジェファーソン・エアプレインのオリジナル・メンバーだったギタリストとベーシストが独立して始めたバンドだ。ヨーマ・コウコネン(1940- )は、ワシントン
D.C.の生まれで、もともとはレヴェゲンド・ゲイリー・デイビスなどのアコースティック・ブルースギターが大好きだった。サンフランシスコに移って、ジャニス・ジョップリンのバックをした後に、ジェファーソン・エアプレインの結成に参加、当時のサイケデリックなウェストコースト・ロックシーンの立役者となった。ジャック・キャシディ(1944-
)はヨーマの古くからの友人で、彼に誘われてグループに加入したという。彼らはエアプレインの活動を続けながら、コンサートの前座などでアコースティック・ブルースを演奏。それが評判となり、1972〜1974年頃にはエアプレインを脱退し、ホットツナという名前で独自の活動を行うようになった。ロック・ミュージシャンがアコースティック・ギターで演奏するアンプラグドの元祖のようなものだったが、彼らの演奏は筋金入りだったといえる。ホットツナは1978年にいったん解散し、二人はソロ活動を行ったが、80年代に再結成。1989年のジェファーソン・エアプレインのリユニオンにも参加した。本作は1992年1月27〜28日、カリフォルニア州ミル・ヴァレー(サンフランシスコの北約6キロにある海辺の町)にあるスウィートウォーターというライブハウスで行ったライブの模様を収録したもので、マリアはグレイトフル・デッドのボブ・ウィアーと一緒に2曲ゲスト出演している。
リズム・ギター、マンドリン、ハーモニカを演奏するマイケル・ファルザラノは、1990年以降に加入したメンバーで、ニューライダーズ・オブ・ザ・パープル・セイジのセッションにも参加している人だ。ピート・シアーズは、ジェファーソン・スターシップ、ロッド・スチュワート、ロン・ウッドなどの作品でピアノやベースを弾いている。ちなみに彼のソロアルバム「Long
Haul」2001 E110にマリアが1曲ゲスト参加している。1. 「Good Morning Little School Girl」(Live
At Sweetwater 2に収録)は、ソニーボーイ・ウィリアムソンによるブルースの名曲で、ゲストのボブ・ウィアーが歌い、ここではマリアはタンバリンのみの参加だ。
ヨーマはアコギではなく、ペダルのないエレクトリック・スティールギターを弾いている。2.「Maggie's Farm」(1枚目のLive At
Sweetwater に収録)は、ボブ・ディランが「Bring It All Back Home」1965で発表、フォークからロックへの転向の筆頭となった曲だ。当時物議を醸し出したニューポート・フォーク・フェスティバルでの演奏や、1976年のローリング・サンダー・レビューでの演奏(アルバム「Hard
Rain」に収録)が名高い。ここではマリアはタンバリンを叩きながら、ボブのリードボーカルにハーモニーを付ける。
CDのしばらく後に発売されたビデオでは、2.「Maggie's Farm」を観ることができた。収容人員100名ほどの小さなスペースで、皆椅子に座って演奏している様は、リラックスした雰囲気だ。後にDVD化された際に、1.「Good
Morning Little School Gir」の映像がボーナストラックとして追加されたようだ。またCD自体も、2004年にボーナストラックが追加されて再発された。
マリアのパフォーマンスは地味であるが、ブルースのスタンダードを多く演奏するホットツナのアコースティック、エレクトリック・サウンドをたっぷり味わうことができるし、ベイエリアの大物ミュージシャンとの共演を観ることができる楽しい作品。
[2010年10月作成]
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E79 The Hot Club Of San Francisco 1993 Clarity Recordings |
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Maria Muldaur : Vocal
Mike Sizer : Tenor Sax
[The Hot Club Of San Francisco]
Paul Mehling : Lead Guitar
Ned Boynton : Rhythm Guitar
Paul Robinson : Rhythm Guitar
Evan Dain : Bass
1. Nature Boy [Eden Anbez]
2. Don't Be That Way [Mitchell Parrish, Benny Goodman, Edgar Sampson]
Recorded September 7 and 8, 1993
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ポール・メーリング率いるザ・ホットクラブ・オブ・サンフランシスコが発表した最初のアルバムで、2曲にマリアがゲスト参加している。ポール・メーリングはデンバーに生まれ、西海岸のシリコン・ヴァレーで育つ。父親がスウィングジャズのレコードコレクターだったため、幼い頃から音楽に親しむ。ビートルズなどロックンロールの洗礼を受けた後、ジャンゴ・ライハルト、ダン・ヒックスやデビッド・グリスマンの音楽に魅せられる。渡欧してパリでストリート・ミュージシャンをしながら、ジプシー・スタイルのギターを学び、帰国後1985年から1990年までダン・ヒックスのバンドに加入、その後自己のバンドを結成して初めて製作したアルバムが本作だ。現在は、ジャンゴ・フォロワーのバンドがヨーロッパを中心として世界名に数多く存在し、日本でも「東京ホット倶楽部バンド」などのバンドが活動しているが、当時はこの手の音楽の知名度はまだ低かった。その中でサンフランシスコは、前述のアーティストの他にジェリー・ガルシアやカルロス・サンタナ等の著名ロック・ミュージシャンがジャンゴを好んで聴き、人々に勧めたため、この手の音楽が盛んになったという。
1.「Nature Boy」は、1948年にナット・キング・コールがヒットさせたマイナー調の曲で、ジャンゴは晩年の1949年にステファン・グラッペリとのローマのセッションでこの曲を録音している。ギターのメランコリックな響きが曲の雰囲気ぴったりだ。リード・ギターを弾くポールは、当時ジャンゴが愛用していたものと同じセルマーのモデルを使用しており、弦と胴鳴りの雰囲気がそっくりだ。また彼は、右手のピッキングや左手の押弦の微妙なタッチについてもよく研究したようで、もしジャンゴが現在の技術で録音していたらさもありなん、といった感じの音を出している。間奏でテナー・サックスのソロを入れるマイク・シザーは、ニューオリンズで活躍するプレイヤーで、シンプルであるが、とても深みがある心のこもった音を出している。2.「Don't
Be That Way」は、1938年にベニー・グッドマンが吹き込み、翌年ミルドレッド・ベイリーの歌付きバージョンでヒットした曲。作者のエドガー・サンプソンは、「Stompin'
At The Savoy」の作者でもある。ジャンゴの演奏は、戦後の1945年12月1日、アメリカ空軍所属のバンドメンバーと一緒にラジオ放送用に録音した音源が残っている。いずれの曲においても、マリアはリラックスして気持ち良さそうに歌っている。
マリアが参加した2曲は、オーセンティックな雰囲気のスウィングジャズであるが、他の曲ではデビッド・グリスマンの音楽そのものといった感じのモダンな作品も入っている(それらの曲でフルートを吹いているマット・アークルは、当時グリスマンのバンドに在籍していた人)。ジャンゴの音を忠実に再現しながらも、現代的な新しい音楽も取り入れて独自のスタイルを確立しようとするポール・メーリングの意図を汲み取ることができる。その他では、以前在籍していたバンドのリーダー、ダン・ヒックスが「Hummin'
To Myself」、「At Sundown」の2曲に参加、いつもの軽妙なボーカルを聞かせてくれるのが聴きどころ。またジャンゴが1937年5月29日に録音したギターソロ曲「Improvisation
2」を忠実に再現したトラックが、アルバムの最後に入っている。
本作品は2本のマイクロフォンによる1発録りで、ミキシングやオーバーダビングなどの後処理を一切行っていないという。演奏中の楽器のバランスについても、ソロをとる人がマイクに近づくなど、ミュージシャンが動くことによって調整しているとのこと。そのためか、音場の奥行きの深さ、立体感が素晴らしい。その恐ろしくクリアーで生々しい音は、良質のステレオ装置を使用すると、生演奏とほぼ同じ感じで聴くことができるだろう。
ザ・ホットクラブ・オブ・サンフランシスコは、その後もメンバー交代を経ながら活動を続け、現在に至るまで十数枚のアルバムを製作している。
マリアが、ジャンゴ・ラインハンルト風のストリング・バンドをバックに歌う作品。
[2010年6月作成]
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E80 Woodstock Holidays 1993 Various Artists Pioneer LDC |
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Maria Muldaur : Vocal
John Woodhead : Guitar, Slide Guitar
Chris Burns : Keyboards
Cart Severeid : Bass
Jimmy Sanchez : Drums
Pioneer LDC, Inc./Golden Triangle Productions U.S.A. : Produce
1. Lord Protect My Child [Bob Dylan] E127
写真上: Woodstock Holidays (1993) 表紙
写真中: Take My Hand (1997, Paretal Stress Services) 表紙
写真下: Hold My Hand (2004, Family Paths) 表紙
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パイオニア LDCが製作したウッドストック関連のアルバムで、日本のみで発売された。クリスマス・ソングを集めたもので、日本からは音楽評論家、プロデューサーの長門芳郎氏、アメリカ側はロビー・デュプリーがExecutive
Producerとして参加している。本作はウッドストックに縁があるミュージシャンに共通するソウルに満ち、聴く者の心を揺さぶる内容でありながら、音楽的には洗練された曲がならんでいて、良質のAORとして聴くこともできる。
1. 「Lord Protect My Child」は、ボブ・ディランが1983年のアルバム「Infidels」のセッションで録音したが、アルバムに収録されなかった曲で、後の1991年「Bootleg
Series Vol. 1-3」で初めて公式発売された。当時のディランの創作力は大変充実していたようで、何でこの曲がアウトテイクに?という作品がいっぱいあったが、この曲もそのひとつ。わが子への思いを歌う、ゴスペルを感じさせるストレートな歌詞が心に滲みる作品で、マリアのスタイルにぴったりだ。バックバンドは当時のツアーバンドで、お馴染みのミュージシャンがそろっている。ジョン・ウッドヘッドのスライドギターがエモーショナルなプレイで曲を盛り立てている。エンディングでは、「Silent
Night」のメロディーに移ってゆく。
本作の資料として、他のアーティストの曲目にも言及しておきます。
1. New Star Shining [John & Johanna Hall] Orleans
2. A Place In Your Heart [Robbie Dupree, Bob Leinback, Larry Hoppen] Larry
Hoppen & Robbie Dupree
3. Lord Protect My Child [Bob Dylan] Maria Muldaur
4. Many Rivers To Cross [Jimmy Cliff] Jim Weider
5. As Good As It Gets [Happy & Artie Traum] Happy & Artie Traum
6. I Wish I Could've Been There [John & Johanna Hall, Tad Richards]
John Hall
7. Merry Christmas To Me [Jules Shear, Pal Shazar] Jules Shear & Pal
Shazar
8. Christmas On The Range [P. Werd, B. Denny] Amos Garrett
9. Christmas Carol Sing [John Simon] John Simon
10. Amazing Grace [Traditional] John Sebastian
11. I Shall Be Released [Bob Dylan] Woodstock All-Stars
1.「New Star Shining」は、1985年にリッキー・スキャッグスがジェイムス・テイラーとのデュエットでシングルカットした曲で、オーリアンズとしての録音が本作が初めて。アコースティックなアレンジが良い感じで、後年発売された同グループのベスト盤に同じ録音が収録されている。エイモスの
8.「Christmas On The Range」はスウィング・ジャズ風の曲で、1995年のベスト盤「Small Town Talk」 E85
に収められた。他の曲について、すべて調べたわけではないが、ここでしか聴けないトラックも多いようだ。ロビー・デュプリーとオーリアンズのラリー・ホッペンが共演した
2.「A Place In Your Heart」、ザ・バンドのギタリスト、ジム・ウェイルダーによるソウルフルなインストルメンタル 4.「Many
River To Cross」、トラウム兄弟による心温まる 5.「As Good As It Gets」、ジョン・サイモンが飄々と歌う 9.
「Christmas Carol Sing」が個人的には好み。なお一部の資料では、マリアが 11.「I Shall Be Released」にボーカルで参加しているとあるが、彼女の声は聴こえないので、間違いだと思う。
マリアの曲 1.「Lord Protect My Child」に限った話では、サンフランシスコを活動拠点とする児童虐待などの家庭問題を取り扱うNPO
「Parental Sress Services」が、1997年に発売したチャリティー・アルバム「Take My Hand」に本作と同じ録音が収録された。そして「Family
Paths」に改称した組織が2004年に発売した「Hold My Hand」(収録曲の一部に相違があるので、2枚は同じものではないようだ)にもこの曲が入っているので、「Woodstock
Holidays」を入手できない人は、こちらを購入することで問題を解決することができる。
クリスマスをテーマにしているが、それ以外の季節に聴いても全く違和感を感じない作品。マリアのディランカバーは、やはりいいね!
[2010年8月作成]
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E81 Heart Of Woodstock 1994 Various Artists Pioneer LDC |
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Maria Muldaur : Vocal
John R. Burr : Piano
Rolly Salley : Bass
Mike Hyman : Drums
1. Weeping Willow Blues [Paul Carter]
注: マリアのアルバム「Jazzabelle」1993 M14と同一録音
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長門芳郎氏の監修・選曲により、日本のみで発売されたウッドストックに縁があるミュージシャンによるオムニバス盤。収録曲のうち多くは既存のアルバムからのものであるが未発表曲もあるし、何と言っても選曲が良く、長門氏のプロデュース手腕、そしてウッドストックの音楽に対する思いがフルに発揮されている。マリアが参加した1.「Weeping
Willow Blues」は、同時期に発表された彼女のアルバム「Jazzabelle」 1993 M14と同一録音。本ディスコグラフィーは、この手の再収録は対象にしない方針なんだけど、本作があまりに素晴らしいので、あえて掲載することにしました。マリアの曲についてはM14を参照いただき、他の曲について簡単に解説したいと思います。ただし私はウッドストック系の音楽のすべてに通じているわけではないので、足りない部分もあると思われ、その点につきましてはご容赦いただきたいと思います。曲目は以下のとおり。
1. Dance With Me (Orleans) [John Hall, Johanna Hall]
2. You And Me Go Way Back (John Sebastian) [John Sebastian, Phil Galdston]
3. Lessons (John Hall) [John Hall, Johanna Hall, Jonell Mossar]
4. That Love Songs Gonna Have To Wait (John Simon) [John Simon]
5. Overpop (John Simon) [John Simon]
6. Many Rivers To Cross (Jim Weider) [Jimmt Cliff]
7. Amazon, River Of Dreams (Artie Traum) [Artie Traum]
8. Out Of Focus (Debbie Lan) [Debbie Lan, Carl Adami]
9. Slow Burn (Josh Colow) [Josh Colow]
10. Mornin' Blues (John Sebastian) [Traditional, Arr.John Sebastian]
11. Weeping Willow Blues (Maria Muldaur) [Paul Carter]
12. But I Do (Amos Garrett) [Bobby Charles]
13. The Jealous Kind (Bobby Charles) [Bobby Charles]
14. Welcome Home (John Hall) [John Hall, Johanna Hall]
15. A Place In Your Heart (Larry Hoppen & Robbie Dupree) [Robbie Dupree,
Bob Leinbach, Larry Hoppen]
16. I Am On Your Side (Orleans) [John Hall, Johanna Hall, Jonell Mossar]
1.「Dance With Me」は、オーリアンズ1973年のアルバム「II」がオリジナル録音。アサイラム・レーベル移籍後の再録音「Let There
Be Music」1975で、全米6位の大ヒットとなった。ここでは日本のみで発売されたアルバム「Analog Men」1994 のために録音し直した新バージョンが収録された。ちょっと凝ったリズムとリラックスした歌唱であるが、個人的には直球勝負のオリジナルのほうが好きかな?16.「I
Am On Your Side」は、1996年のアルバム「Ride」の頃にシングル盤で発売されたがヒットしなかった曲で、本作以外はアルバム未収録。3.「Lessons」、14.「Welcome
Home」は、ジョン・ホール(1948- )が13年ぶりに発表した4作目のアルバム「On A Distant Star」1992 に収められた曲。以上4曲は、ジョン・ホールとオーリアンズの魅力満載だ!
2.「You And Me Go Way Back」、10.「Mornin' Blues」は、ジョン・セバスチャン(1944- )が17年ぶりに発表したアルバム「Tar
Beach」1992 からで、前者は「Save The Best For The Last」やスターシップの曲の作者であるフィル・ガルドストンとの共作。80年代を感じさせるAOR風の音作りでとても良い曲だと思う。どういう経緯かわからないが、本曲については、ジョン(ザ・ラヴィン・スプーンフル)、ロジャー・マッギン(ザ・バーズ)、フェリックス・キャバリエ(ラスカルズ)、リチャード・マニュエル(ザ・バンド)、ロニー・スペクター(ザ・ロネッツ)という錚々たるメンバーとの共演で、皆楽しそうに演奏しているミュージック・ビデオがある。後者はトラディショナルを弾き語りで飄々と歌っていて、こちらのほうが彼らしい。4.「That
Love Songs Gonna Have To Wait」、5.「Overpop」は、ウッドストックの才人ジョン・サイモン(1941〜 )の作品。これら2曲は、アルバム「Out
On The Street」の日本盤にはなく、後の1992年に発売されたアメリカ盤のみに収められたそうだ。ラテンジャズ調のひねりの効いたメロディーが面白い曲。6.「Many
Rivers To Cross」は、ロビー・ロバートソンの後継者として活躍するザ・バンドのギタリスト、ジム・ウェイダーがジミー・クリフの曲を弾きまくるインスト曲で、「Woodstock
Holidays」E79と同じ録音であるが、前者の演奏時間が4:41であるのに対し、ここでは5:44と少し長いバージョンとなっている。魂を揺さぶるようなソウルフルなギターの音色に酔う逸品だ。
アーティー・トラウム(1943-2008) が歌う 7.「Amazon, River Of Dreams」は、ここでしかか聴くことができない曲で、本作のハイライトのひとつ。というのは本曲は1993年ザ・バンドのアルバム「Jericho」に収録され、その後アーティー自身のアルバム「The
View From Here」1997に収められたが、そこでのボーカルは彼ではなく、ジョッシュ・コロウが歌っていたからだ。そのジョッシュ・コロウは、アーティー・トラウムやレスリー・リッターのアルバムにバック・ボーカルとして参加しているが、本人によるリーダーアルバム発表の記録はなく、9.「Slow
Burn」は、ここでしか聴けない曲。8.「Out Of Focus」を歌うデビー・ランは南アフリカ出身(白人)で、ロビー・デュプリーに認められ、彼やジョン・ホール、アーティートラウムの作品でキーボード、バックボーカルを担当しながら、1994年に「Looking
For The World」というアルバムを日本のレーベルで発表。本曲はそこに収められていたもの。ウッドストックというよりは、80年代風のモダンなアレンジと曲想で、AORの名曲集に入れてもよいような感じ。エイモス・ギャレット(1941-
)の12.「But I Do」は、クラレンス・”フロッグマン”・ヘンリー1961年のヒット曲(全米4位)で、4ビートに乗せて歌われる馥郁たるメロディーは、エイモスにぴったり。このバージョンは1992年の「The
Third Man In」から。ボビー・チャールズ(1938-2010)については、13.「The Jealous Kind」が選曲され、これはアルバム「Wish
You Were Here Right Now」に収録されていた曲。15.「A Place In Your Heart」はオーリアンズのラリー・ホッペンとロビー・デュプリー(1947-
)の共演であるが、ここでは何故かボーカルなしのバージョンになっている。といってもインストルメンタル用にアレンジされたものではなく、「Woodstock
Holidays」E80に収録されたトラックからボーカルのみを抜いたカラオケ版なのだ。他で聴くことができないレア・トラックであり、とても良い曲なので、ちょっともったいない気がする。
レア盤として中古市場で高値を呼んでいるが、購入する価値は十分ある。何度聴いても飽きのこない、暖かなハートに満ちた曲集だ。
[2011年5月作成]
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E82 Bring It On Home Vol.2 1994 Various Artists Sony Legacy |
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Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
Jon Cleary : Piano
1. Weeping Willow Blues [P. Carter] M14
2. New Orleans [J.J. Cale] E72
録音: January 1988〜April 1992, WAMC Albany, New York
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ハッピイとアーティのトラウム兄弟が司会を担当していたアルバニー(ニューヨーク州ハドソン川の上流にある都市)のラジオ番組「Bring It On
Home」は、彼らの友人であるウッドストックのミュージシャンが大勢出演していた。後に、そこでの演奏の一部を編集したコンスピレーションアルバムが、1994年ソニーのレガシーレーベルより2枚のCDに分けて発売された。
マリアのパフォーマンスは2枚目に収録されていて、彼女はピアノ伴奏のみで2曲歌っている。解説書では録音時期が1988年から1992年までとあり、マリアの演奏は具体的に何時かという資料は見つからなかった。ジョン・クレアリー(1964- )は、イギリス生まれであるが、ニューオリンズに移り住み、音楽と絵の勉強をする。もとはギターを弾いていたが、現地でブルース・ピアノに魅せられ、ブルースマンのバックを務めるようになったという。その後は当地とイギリスで、自己のバンドやソロで活動し、アルバムを発表しながら、タジ・マハール、B.B. キング、ボニー・レイット、ボビー・チャールズ等のアルバムにも参加している。マリアとの関係で彼は、1994年のアルバム「Meet
In The Midnight」M15で「Power In Music」という曲を提供。さらに 1996年の「Fanning The Flames」M16では、タイトル曲を含む3曲を提供し、うち2曲でバックボーカルで参加しているが、ピアノ演奏での録音参加の記録はない。本作当時はライブ演奏でバックを担当していたと推測されるが、私が知る限り、彼がマリアのバックでピアノを弾いている正式音源はこれだけだ。
トラウム氏(ハッピイかアーティーのどちらかは不明)から、マリアは「Truely dear friend」であると紹介され、1.「Weeping
Willow Blues」を歌い出す、この曲は、ベッシー・スミスが1924年9月26日に録音した曲で、オリジナルはピアノ以外にコルネットなどの管楽器が伴奏に加わっていた。本作とは別に、マリアが吹き込んだスタジオ録音バージョンは、ジョン
R バー(ピアノ)、ロリー・サリイ(ベース)、マイク・ハイマン(ドラムス)のバックつきのものが、1993年の「Jazzabelle」M14に収録されている。それは、1994年にワーナーパイオニアから日本のみで発売されたコンスピレーション盤「Heart
Of Woodstock」E81に収録されたものと同じ録音だ。
JJ ケールの 2.「New Orleans」は、ホギー・カーマイケルの1932年のものとは同名異曲。本人のバージョンは、彼のソロアルバム「Travel
Log」1990で発表されている。マリアによるスタジオ録音は、作者のJJ ケールやDr. ジョンと一緒に録音したものが、1989年のコンスピレーション・アルバム「The
Usual Suspects "Goodbye"」E72 に収められた。また後に発売されたブルースのオムニバス盤「Blue
Gold」1996 E86にも同曲が収録されたが、両者は同じ録音。マリアは、ジョン・クレアリーの巧みな演奏をバックに、得意のタンバリンを鳴らしながら生き生きと歌っている。
その他ジョン・ヘラルド、ジョン・ホール、リック・ダンコ、ヨーマ・コウコネンなどウッドストックゆかりのミュージシャン達の演奏が楽しめる。ハイライトは、リック・ダンコとアーティ・トラウムがアコースティック・ギターを抱えて歌うアンプラグド・ジャム・セッション風の「The
Weight」だ!
マリアが、珍しいミュージシャンをバックに、珍しい曲を歌っている。この2曲だけのために買っても十分元が取れるよ!
[2010年7月作成]
[2022年3月追記]
本作と同時期に行われた、マリアとジョン・クリアリーによるコンサートの音源を聴くことができました。「音源・映像」の部の「Three Weeds,
Sydney」1992と「Harbourside Brasserie, Sydney」1992 を参照ください。
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E83 Third Annual Farewell Reunion 1994 Mike Seeger Rounder |
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Maria Muldaur : Vocal
Mike Seeger : Re-Tuned Mandolin, Back Vocal (Low Tenor)
David Grisman : Guitar, Back Vocal (Baritone)
1. The Memory Of Your Smile [Ruby Rakes] E109
Recorded And Mixed At Dawg Productions, Mill Valley, CA, May 23,1993
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1973年の「The Second Annual Farewell Reunion」E23 の続編として製作されたもので、マイク・シーガー(1933-2009)
を主役とするゲストとの共演集。彼の両親は、ジョンとアラン・ロマックス父子等と共にアメリカのフォークソングの収集と保存に携わった人達で、異母兄弟にフォーク・シンガーのピート・シーガー、妹にトラッドシンガーで、イギリスでイワン・マッコールの奥さんになったペギー・シーガーがいる。若い頃からいろんな楽器を演奏し、トム・ペリー、ジョン・コーヘンとニュー・ロスト・シティー・ランブラーズを結成した。原曲を忠実に復元するスタイルにこだわったために、60年代のフォークブームにおいては地味な存在であったが、アメリカの音楽界において大きな功績を残したといえる。そんな彼が、兄弟や親しい友人を招いてホームレコーディングにより製作したもので、ボブ・ディランの参加により、発売当時大いに話題となった。そのトラック「The
Ballad Of Hollis Brown」は、マイクが1962年グリニッジ・ビレッジのガーズ・フォーク・シティに出演していた時、客席から呼び出されたボブが歌った曲だそうだ。ここでのパフォーマンスは、1964年のアルバム「The
Times They Are A-Changin'」収録のオリジナルに比べると、遥かに及ばないが、元が凄すぎるのでしょうがないかな。
1.「The Memory Of Your Smile」は、スタンレー・ブラザース1958年の録音。彼等は、カーター (1925-1966)、ラルフ
(1927-2016)の兄弟からなり、ビル・モンロー、フラット・アンド・スクラッグスと並ぶブルーグラスの巨人だ。もともとトラディショナルなストリング・バンドのスタイルから始めて、ブルーグラス、カントリーのみならずゴスペル、ホンキートンクなど幅広い音楽性を発揮した。本曲の作者ルビイ・レイクスは、カーターのペンネーム。カーターは1966年に41歳の若さで病没した。マリアは、マイク・シーガーのマンドリン、デビッド・グリスマンのギター、そして2人のコーラスをバックに歌っており、素朴でピュアな感じが良い。間奏ソロはマイクで、彼はデビッドから借りたマンドリンを弾いているとのこと。マンドリンの名手であるグリスマンが、ここではギターを弾いているのが面白い。ちなみに後2001年に発表された、ご本家ラルフ・スタンレーのアルバム「Clinchi
Mountain Sweethearts」 E109でも、マリアが本曲でボーカルを担当している。
その他の曲では、前述のラルフ・スタンレー、兄のピート・シーガー、妹のペギー・シーガー、オールドタイミー音楽の重鎮であるジーン・リッチー、マイクがメンバーであるニュー・ロスト・シティー・ランブラーズの他、多くのゲスト・ミュージシャンが参加。マイクはギター、バンジョー、マンドリン、フィドル、ジュイッシュ・ハープ等マルチ・インストメンタリストとして本領を発揮、さながらルーツ、ブルーグラス界のオールスター共演集といった感じの作品だ。
[2011年3月作成]
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E84 Chicago Blues Jam 1994 CSI |
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Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
John Woodhead : Guitar, Slide Guitar, Back Vocal
Chris Burns : Keyboards, Bass, Back Vocal
Jimmy Sanchez : Drums
1. Someone Else Is Steppin' In [Denice LaSalle]
2. Trouble With Love [Terry Wilson, Maria Muldaur]
3. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
4. Without A Friend Like You [Ronnie Earl, Darrell Nulisch, Hubert Sumlin]
5. Please Send Someone To Love [Percy Mayfield]
6. Cajun Moon [J J Cale]
7. Meet Me Midnight [Rick Vito, John Herron]
8. Power In Music [Jon Cleary]
9. Second Line [Jon Cleary]
録音: Buddy Guy's Legends, Chicago
注) 全曲につきフェイドイン/フェイドアウトがあり、完奏曲がないため、他アルバムのカバーの表示はしません。
写真上: DVD 「Chicago Blues Jam」 (1994 CSI) 表紙
写真下: CD 「Three Shades Of Blues」 (1999 Charly) 表紙
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シカゴ・ブルース・ジャムは、現地のブルース・クラブ、バディ・ガイズ・リジェンド(バディ・ガイはシカゴを本拠地とするのブルース・ギタリストの巨人)でのライブの模様を収めた収録時間50分のテレビ番組シリーズで、本作以外に数本のDVDが発売された。マリアは、アコースティック・ギターで弾き語りをするケブ・モーと一緒の巻に収められた。放送時間枠の関係で、マリアの曲はすべてフェイドイン、フェイドアウトとなり、最初から最後まで通して観れる曲がないのは大変残念。DVD化の際には、せめて演奏曲のカットをなくしたうえで発売してほしかったが、当時のマリアのライブをクリアーな映像で観ることができること、TV番組として鑑賞する分には、番組構成上の編集として割り切ることができ、それほど違和感はないのが正直なところ。
1.「Someone Else Is Steppin' In」はシカゴで活躍するブルースシンガー、デニス・ラサール(1939-2018)が、1985年のアルバム「Love Talkin'」で歌っていた曲。間奏でクリス・バーンズがピアノソロをとるが、左手でベース・パートを弾きながら、右手でピアノを弾きこなすのは職人芸の極みというべきか。その他映像の部で書いたとおり、オースチンのコンサートでのクリスの演奏は、ピアノソロがなく、ベースと伴奏に専念していたが、ここではしっかりソロも弾いており、マリアのツアーバンドに加入後、しばらく経った後で慣れたためじゃないかな?彼は、その後「Meet Me Where They Play The Blues」1999年 M19、「Sisters & Brothers」2004年 M23、「Love Wants Dance」2004年 M24、「Live In Concert」2008年 M28など多くの作品の録音に参加する常連の一人となる。フェイドインで始まる 2. 「Trouble With Love」では、ギターのジョン・ウッドヘッドとピアノのクリス・バーンズがバックボーカルを担当する。ここでマリアのインタビューが入り、最初のアルバムと「Midnight At The Oasis」のヒットにつき語る。彼女によると、当時は2枚目のヒット曲を出さなければならないというプレッシャーはなく、好きなようにアルバムを作ることができてよかったとのこと。3.「I'm A Woman」では、ジョン・ウッドヘッドのギターソロが素晴らしい。彼は「Meet Me In The Midnight」1995 M15および「Southland Of The Heart」1998年 M17に参加した人。ここでケブ・モーによる弾き語り演奏が2曲入った後、アルバム「Louisianna Love Call」1992 M13 から 4.「Without A Friend Like You」が演奏される。ライブの常連曲 5.「Please Send Someone To Love」はギターソロが終わる後半からフェイドインし、エンディングにおけるマリアのソロボーカルが圧巻。マリアへのインタビューで、ニューオリンズ音楽への思いが語られ、6.「Cajun Moon」がフェイドインする。ここでもジョンの達者なギターソロを聴くことができる。7.「Meet Me Midnight」 ジョンのスライドギターがいい感じ。8.「Power In Music」、9.「Second Line」 はファイドイン、フェイドアウトが伴うので、演奏時間は短め。
本作のサウンド部分につき、1999年 Charlyという欧州の会社が、「Three Shades Of Blues」というタイトルでCD発売をした。しかし、1枚のCDにケブ・モー、マイク・モーガンとマリアの3人のアーティストの演奏が収められ、全22曲収録とあったので、もしやと思ったが、やはりテレビ番組のサウンドをそのままCD化したもので、フェイドイン・フェイドアウトは元のままだった。これは最近インターネット配信されているアルバム「Blues
Jam Audio」も同じだ。テレビ番組として映像で観る分にはまだいいけど、CDの音源として聴く際に、ライブ演奏でフェイドイン、フェイドアウトがあるなんて、掟破りで許せんね!
楽しみたいのであれば、映像(DVD)で購入してくださいね!
[2010年9月作成]
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E85 Small Town Talk (The Best Of Amos Garrett) 1995 パイオニア(Stony Plain) |
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Amos Garrett : Vocal, E. Guitar, A. Guitar
Maria Muldaur : Vocal
David Wilkie : A. Guitar
Ron Casat : Keyboards
Brian Pollack : Bass
Thom Moon : Drums
Amos Garrett : Producer
1. Small Town Talk [Bobby Charles, Rick Danko]
Recorded Febuary 20 1995 at Sunday Sound Studio,. Calgary, Alberta Canada
写真上: オリジナル (日本盤)表紙
写真下: 「20 Years Of Stony Plain」(アメリカ盤)表紙
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本作は長門芳郎氏プロデュースにより日本でのみ発売されたベスト盤で、そのために録音されたエイモスとマリアのデュエット1.「Small Town
Talk」が収録された。二人の長い付き合いのなかで、デュエットの録音はこれだけで、この曲はファンにとって夢の取りわせであり、しかも考えうる最高の選曲だ!
1.「Small Town Talk」は、1972年にボビー・チャールズが自分の名前を冠したソロアルバムに収録したのが初出で、共作者のザ・バンドのリック・ダンコも1977年のセルフタイトルのソロアルバムでこの曲を吹き込んでいる。またポール・バターフィルズ・ベターデイズの2枚目のアルバム「It
All Comes Back」1974 E29では、ジェフ・マルダーが歌い、エイモスがいつものスタイルでギターを弾いている。マーヴィン・ゲイの「I
Heard It Through The Grapevine」やジェイムス・テイラーとJ. D. サウザーが歌った「Her Town Too」と並ぶ3大噂ソングだ。本録音で鳴り続くエイモスのギターの絶妙なトーンコントールは、いつもながら見事。二人のリラックスした歌唱も素晴らしく、本録音はこの曲の決定版と文句なしに断言できる。キーボード奏者のロン・カサットは、1980年代から現在に至るまで、エイモスと行動を共にしている人。デビッド・ウィルキーは、本来はマンドリン奏者として、カウボーイ音楽のルーツがケルト音楽であることを再現する音楽に取り組んでいる。心無い噂話のために人間関係が壊れてゆく様を歌ったものであるが、ここではエンディングで二人が伴奏にのせて、当時のウッドストックでのゴシップの話をしながらフェイドアウトしてゆく様を聞いていると、何とも言えないノスタルジックなムードに包まれる。昔の苦い思い出も何十年も経って振り返ると、こうなるのだろうか?
本アルバムに収録された他の曲は、エイモスが1982年から1993年にかけで発表したソロアルバムからの選曲と、1992年のモントレー・ジャズ・フェスティバルのライブ1曲が収められている。これまた名曲「But
I Do」を含むボビー・チャールズの曲や、必殺のインストルメンタル曲「Sleepwalk」が聴きもの。
本作は、現在中古市場で高値で取引されており、コレクターズアイテムとなっている。ちなみに曲自体は、アメリカ本国ではレーベル創立20周年を記念して製作された2枚組CD
「20 Years Of Stony Plain」1996 に収められ、本コンスピレーションアルバムの目玉曲となった。
[2010年6月作成]
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E86 Blue Gold 1996 Various Artists Cymekob Enterprises Inc. |
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Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (3)
Archie Williams Jr. : Guitar (2)
J.J. Cale : Guitar (3)
Chris Hayes : Lead Guitar (1)
Cranston Clements : Rhythm & Backup Guitar (1)
Dr. John : Piano (2,3), Rub-Board (3)
Sean Hopper : Hammond B-3 (1)
David Mathews : Keyboards (1)
John R. Burr : Keyboards (2)
Roland Salley : (2,3)
Dennis Murphy : Bass (1)
Jimmy Sanchez : Drums, Percussion (2)
Annie Stocking (1), Annie Sampson (1,2), Jacklyn LaBranch (2), Vince Ebo
(2) : Back Vocal
[Brass Section (3)]
Steve Eisen, Brian Ripp : Sax
Jim Rothermel : Clarinet
Bob Schulz : Cornet
Dave Katz : Trumpet
Loren Binford, Kevin Porter : Trombone
John Blane : Tuba
Tom Stern : Producer
1. Help Me Up [Eric Clapton, Will Jennings]
2. Brickyard Blues [Alan Toussaint] (「Music About Music」1988 E67と同一録音)
3. New Orleans [J. J. Cake] (「Goodbye」1989 E72 と同一録音)
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シメコブという西海岸の小さなレーベルから発売されたブルース音楽のオムニバス盤。このレコード会社は、本作品の他に、デビッド・グリスマン、ステファン・グラッペリ、バッキー・ピザレリなどのジャズアルバムの企画盤を10枚ほど製作している。プロデューサーは、1980年代にサスペックスというレーベルを起し、「Usual
Suspects」という西海岸の音楽家によるセッション企画シリーズを製作したトム・スターン。マリアの他には、タージ・マハール、ノートン・バッファロー、レディ・ビアンカ、マーク・ナフタリン(ポール・バターフィールド・ブルース・バンドのキーボード奏者)といった渋い人達が各1〜3曲担当していて、洗練されたブルースの味わいを出している。それらの曲の大部分は、前述のレコードに収録されていたものの再発であるが、本作のために新たに録音されたものもあるようだ。
1.「Help Me Up」は、1992年公開の「Rush」という犯罪サスペンス映画のためにエリック・クラプトンが製作したサウンドトラック盤に入っていた曲。このアルバムからは、彼の息子の事故死をきっかけに作曲された「Tears
In Heaven」が有名になった。軽快な感じのブルース曲で、クリス・ヘイズ(リードギター)、シーン・ホッパー(オルガン)という、ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズのメンバーが参加している事が興味深い。そういえば、本作と同じ1996年の「Funning
The Flame」M16に、ヒューイ・ルイス本人がハーモニカでゲスト参加していたな。バックボーカルのアーニー・サンプソンは、タージ・マハールやエルヴィン・ビショップ等のバックをしていた人で、マリアとは1972年の「Steelyard
Blues」E18以来、久しぶりの顔合わせ。アーニー・ストッキングは、ヴァン・モリソン、サンタナ、ニール・ヤング等のバックを担当したセッション・ボーカリスト。デビッド・マシューズ、クランストン・クレメンツはマリア作品の常連参加者だ。
ニューオリンズを本拠地とするアラン・トゥーサンの 2.「Brickyard Blues」は、「Usual Suspects」シリーズ 1988年のアルバム「Music
About Music」E67と同一録音(詳細はそちらを参照ください)。J.J. ケールの 3.「New Orleans」は、ホギー・カーマイケルの1932年のものとは同名異曲。本人のバージョンは、彼のソロアルバム「Travel
Log」1990で発表されている。この曲のスタジオ録音は、コンスピレーション・アルバム「The Usual Suspects "Goodbye"」1989
E72に収められていたものと同じ録音。作者のJ.J.ケールの渋いエレキギター・プレイ、ドクター・ジョンのファンキーなピアノ・プレイが素晴らしく、曲の良さとマリアのボーカルともに最高の出来。このような曲がソロアルバムに収められずに、知名度が低いままでいるなんて本当に勿体ない!もし将来彼女のボックスセットが製作されるならば、こういった曲が目玉になるんだろうな〜。
結果として本CDにおけるマリアのオリジナル録音は 1.「Help Me Up」のみとなるが、他の2曲が収められているレコードは廃盤で入手困難であることを考えると、購入する価値は十分あり。他のアーティストによる曲も良い出来の大推薦盤!
[2010年7月作成]
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E87 Big Blues 1996 Various Artists Music For Little People |
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Maria Muldaur : Vocal
John Woodhouse : Guitar
John Burr : Piano
Chris Amberger : Bass
Michael Curran : Drums
Bruce Paz : Barking Dog (2)
Maria Muldaur, Leib Ostrow : Producer
1. Candy Store Blues [Eddie Beal, Nick Castle, Herb Jeffries]
2. Waggy Tailed Dog [Earl King]
写真下: Dog Songs (1996 Variour Artists, Wolt Disney Records)
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レイブ・オストロウが創立した子供向け音楽専門レーベル、Music For Little Peopleが製作した、子供のためブルース曲集。このレコード会社の作品の特色である、本格的かつ豪華なアーティストが勢揃いしており、マリアは2曲歌っている。
1.「Candy Store Blues」は、子供歌手のトニ・ハーパー(Toni Haper 1937- )が、1946年に録音して大ヒットした曲で、彼女はその後ヴァーブ・レコードからオスカー・ピータソンと共演したレコードを出したりしたが、1966年29歳で音楽界から引退した。キャンディストアーのオウナーになれば、いつでも好きなものを食べられると夢見る子供の歌で、色々なお菓子の名前が飛び出す歌詞がファンタスティック。ここでのマリアは、少しハスキーながらも、若い頃売り物だった「可愛系の声」の魅力をフルに出し切っている。2000年代以降になると、彼女の声は重くなり過ぎて、軽妙に歌う事ができなくなるが、この頃はまだ両方使い分けることができたのですなあ。演奏面では、彼女の伴奏を多く務めたジョン・バーのピアノが聴きもの。
ギタリストはジョン・ウッドハウスと記載されているが、聞かない名前で、もしかしたら、当時マリアの伴奏者の常連だったジョン・ウッドヘッドの間違いかな? 2.「Waggy
Tailed Dog」は、ニューオリンズを本拠地とするブルースマン、アール・キング (1934-2003) が1990年のアルバム「Sexual
Telepathy」に吹き込んだ曲。可哀想な野良犬を家に連れて帰る歌で、飄々と歌っていたアールのオリジナルに対し、マリアは母性本能全開で迫っている。エンディングにおける、吠え喚く犬をなだめるマリアの語りがユーモラス。ちなみに同じ録音が、同年ウォルト・ディズニー・レコードから発売された犬特集アルバム「Dog
Songs」に収録されている。
その他のアーティストでは、デビッド・リンドレーのワイセンボーンをバックに歌うミシェル・ショックドの「Flying Lesson」、ユーモラスなリタ・クーリッジの「Late
For School Blues」、「ルシール(愛用ギターの愛称)と俺は雨の中で演奏したくない」と歌うB.B. キングの「Rainy Day
Blues」、タジ・マハールの「Fishin' Blues」などが、私のお気に入りだ。
マリアの優しく可愛い歌声が楽しめる。
[2010年7月作成]
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E88 Let's Go Get 'Em 1996 The Rockin' Jake Band Rabadash |
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Maria Muldaur : Vocal
Cornell Williams : Vocal
Rockin' Jake (Jake Jacobs) : Harmonica
Chip Wilson : Guitar
T.J. Wheeler : National Steel Guitar
Earl J. Smith Jr. : Drums
Angelo "Funky Knuckles" Nocentelli : Bass
1. Attracted To The Light [Autin, Jacobs, Nocentelli, Wilson, Wilson]
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ロッキン・ジェイクことジェイク・ジャコブスは、1990年にニューオリンズに移り、当地でハーモニカ奏者として多くのセッション、コンサートに参加し有名になった。本作は、彼が1995年に結成したバンドで製作したアルバムだ。1.「Attracted
To The Light」は、コーネル・ウィリアムス(ニューオリンズで活動するベーシスト、ボーカリストで、ジョン・クレアリー、マーヴァ・ライト等のセッションに参加している)とマリアのゲスト・ボーカリストによるデュエット。前半のマイナー調でダークな雰囲気のパートを男性のコーネルが、後半メイジャーに転じて、光が差し込む部分をマリアが歌っている。マリアはコーラス・パートの担当なので、歌詞は「I'm
attracted to the light ......」の繰り返しとなり、エモーショナルではあるが、あまり変化に富む歌唱ではない。ハーモニカでオブリガードをつけるジェイクは、80年代と90年代の一時期、マリアのバックバンドに在籍し、レコードでは1992年の「Louisiana
Love Call」M13に、映像作品では1990年の教則ビデオ「Devloping Your Vocal And Performing Style」E74
に挿入されたライブ映像で、彼の名前を見つけることができる。曲のエンディングでは、ハーモニカとナショナル・スティール・ギターによる短い演奏が入る。ドラムスのアール・J・スミス・ジュニアは、その後バックヴォーカリストとして活動し、ネヴィル・ブラザースのセッション等に参加している。
その他の曲は、ブルース、ポップ、ラテンなど変化に富む内容で、ニューオリンズのお祭りマルディ・グラの騒ぎを表現したものもある。ジェイク・ジャコブスは、その後もニューオリンズを本拠地としてアルバムを発表している。
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E89 Stop The World 1996 Terry Robb Burnside |
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Maria Muldaur : Vocal
Terry Robb : Acoustic Guitar
1. Louis Collins [Mississippi John Hart]
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テリー・ロブ (1956- )はオレゴン州ポートランド出身。彼が有名になったのは、ジョン・フェイ(1939-2001)と知り合い、1975年から1992年までの間に多くのアルバムで伴奏およびプロデュースを担当してからだ。自らの名を冠した最初のソロアルバムの発表は1994年で、本作「Stop
The World」は3作目、レコード会社のバーンサイドは、地元ポートランドにあるブルースを得意とするローカルレーベルだ。ここでは彼のアコースティック・ギターのみによる弾き語りやインストルメンタルの他に、ドラムスとアップライト・ベースのリズムセクションをバックとした曲もある。様々なスタイルのアコースティック・ブルース曲を取り上げており、フィンガーピッキングのタッチと音の綺麗さ、トラディショナルなスタイルにジャズの香りを取り入れた洗練されたサウンドはとても魅力的。現在の彼は活動拠点をメンフィスに移し、エレクトリック・ベース、ドラムス、キーボードによるブルースバンドを率いて活動しているそうだ。
ここではゲスト・ボーカリストとしてマリアが1曲歌っている。1.「Louis Collins」は、ミシシッピー・ジョン・ハートが1928年のセッションで録音した曲で、その後行方不明だった彼が1963年に音楽愛好家により発見され(このエピソードは大変面白いので、是非
E5を参照ください)、録音された最初のセッション「Piedmont Sessions」、および1966年にヴァンガードが製作した「Today
!」にも収められた彼の代表曲のひとつだ。筆者は若い頃に録音された1928年のオリジナル版よりも、円熟味溢れた 1966年のバージョンのほうを好む。彼は40年にわたる無名時代の間も地元のパーティーなどで演奏し続けてきたそうで、年老いてもギター演奏に衰えはなく、生ギター1本でダンスパーティーの伴奏をしたというギタープレイの強靭さは筋金入りだし、彼の歌も枯れた味わいが出ていてとても良いのだ。またステファン・グロスマンが1974年にトランスアトランティックから出したタブ譜付きレコード「Finger
Picking Guitar Techniques」で、彼がこの曲を歌っており、筆者もギターを弾いたものだった。マリアにとってはE5の「Richland
Woman Blues」に続く、ミシシッピー・ジョン・ハート2曲目のカバーであり、グリニッジ・ビレッジのフォークシーンで、彼の演奏を目にしたという彼女にとって思い入れがあると推測される。Cをキーとするフィンガーピックング、メロディー、撃ち合いで亡くなったルイス・コリンズを悼む歌詞によるシンプルな曲で、オリジナル・バージョンで、ボソボソとした音でありながら独特のビート感が際立っていたギター伴奏は、本作の演奏では端正なピッキング、ゆったりとしたリズム感で演奏されており、綺麗でより現代的な感覚であるのが面白い。マリアはブルース向けのダミ声でストレートに歌っている。
マリアがミシシッピー・ジョン・ハートの曲を歌っているよ!
[2010年11月作成]
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E90 Rythm And Groove 1996 Roy Rogers Point Blamk |
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Roy Rogers : Vocal, Acoustic Guitar, Slide Guitar
Maria Muldaur : Harmony Vocal
David Grisman : Mandolin
Steve Evans : Bass
Jimmy Sanchez : Drums
Roy Rogers : Producer
1.For The Love Of A Woman [Roy Rogers]
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マリアにとってロイ・ロジャースとの共演は、ロジャース・アンド・バーギンの「A Foot In The Door」1978 E43、オムニバス盤
「Family Folk Festival」1990 E73 以来となる。彼はブルースに傾倒し、ジョン・リー・フッカーのアルバムのプロデュースを担当したり、ハーモニカ奏者のノートン・バッファローと一緒に多くのアルバムを製作しており、本アルバムに収録された曲の大半は、エレクトリック・スライドギターによる乗りの良いブルース・ロックだ。
マリアが参加した 1.「For The Love Of A Woman」は、レッドベリーやウッディ・ガスリーの歌を彷彿させるもので、意外な感じもするが、ロイはランブリン・ジャック・エリオットのバックとプロデュースを担当(E99参照)するなど、トラディショナル、フォークにも造詣深く幅広い音楽性を持つ人なのだ。曲の感じから昔の曲のカバーかな、と思ったが彼のオリジナルだった。ブラシによるドラムスとデビッド・グリスマンのマンドリンをバックに、ロイのスライドギターが光る。音の感じからメタルボディーのギターと思われる。愛する女性のためにすべき事として、「彼女の自由にさせること、約束を守ること、最善を尽くすこと、幸せにしてあげること、彼女の好きなものを買ってあげること、彼女が呼ぶ時は一緒にいること」などが歌われる。まずロイが一人で歌い、コーラス部分からマリアがハーモニーで加わる。真面目な内容なのだが、どこか飄々としたユーモラスな香りも漂う。
こじんまりとしているけど、オールドタイミーな雰囲気が心地よく、マリアのボーカルも活き活きとしていて、ぴったりはまっている。
[2011年4月作成]
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E91 Play Ball 1996 Eric Kunzel / Cininnati Pops Orchestra Telarc |
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Maria Muldaur : Vocal
Cincinnati Pops Orchestra : Orchestra
Eric Kunzel : Conductor
The School for Creative And Performing Arts Chorale And Music Theater :
Chorus
Laurie Wyant : Director
1. The Ball Game [Wynona Carr]
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オハイオ州のシンシナティ・ポップス・オーケストラは、1895年に設立されたシンシナティ交響楽団のポップス部門で、1977年の創立以来エリック・カンゼル(1935-2009)を指揮者として、ポピュラー、ジャズなど幅広いジャンルの音楽をカバーし、海外公演を含む積極的なコンサート活動を展開。また同じ州のクリーブランドを本拠地とするレコード会社テラークと組んで、70枚以上にのぼる多数の企画作品を製作し、人気を博している。本作は野球をテーマとした企画盤で、シンシナティ・レッズを擁する人々の野球に対する愛情と熱気が伝わってくる作品だ。
オーバーチュアからフィナーレまで、映画を観ているかのような雰囲気で進行してゆく。曲の合間に試合の効果音を入れながら、アメリカ国歌、米野球のテーマ曲「Take
Me Out To The Ball Game」、スーザのマーチ曲等お馴染みの曲や、野球を題材とした映画音楽のメロディーが次々と流れる。「くたばれヤンキース」(1958)、ケビン・コスナーの「フィールド・オブ・ドリームス」(1980)、トム・ハンクス、ジーナ・デイビスの「プリティー・リーグ」(1992)、ロバート・レッドフォードの「ナチュラル」(1984)、ベーブ・ルースを主人公とした「夢を生きた男/ザ・ベーブ」など、懐かしい作品がたくさん出てくる。1994年の映画「タイ・カッブ」は、球聖と呼ばれメジャリーグ史上最も偉大な選手だったが、性格の悪さと勝つために手段を選ばない冷酷さで、最も嫌われた選手でもあったタイ・カッブ(1986-1961)を主人公とする映画で、トミー・リー・ジョーンズがその複雑で矛盾に満ちた主人公を演じていた。その映画ではウィノナ・カーの1.「The
Ball Game」がフィーチャーされたが、本作ではマリアがゲストシンガーとして、この曲を歌っている。
ウィノナ・カー(1924-1976)は、ゴスペルでデビューし、その後R&Bやロックンロールも手がけたが、最大のヒットは1952年の本曲だった。野球を信仰の世界に比喩した発想が独創的で、「イエスがホームプレートで貴方を待っている 1塁が誘惑、2塁が罪、3塁が試練、悪魔がピッチャーで貴方を討ち取ろうとする......
人生は野球、フェアにプレイしないとね!」という歌詞が本当に飛んでいる。マリアは、オーケストラとコーラス隊をバックに、目一杯声を出している。
このような特殊なテーマの場合でも、昔のブルースやゴスペルのスタンダードでピッタリの曲があるなんて、アメリカの音楽は本当に懐が深いですね。
[2010年8月作成]
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E92 Long Way Home 1996 Clarence "Gatemouth" Brown Verve
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Clarence "Gatemouth" Brown : Vocal, Violin (1)
Maria Muldaur : Vocal
Bobby Charles : Vocal (1)
Eric Clapton : Lead Guitar (2)
Sonny Landreth : National Steel Slide Guitar (3), Electric Slide Guitar
(3)
Amos Garrett : Rhythm Guitar (1,2), Acoustic Rhythm Guitar (3)
George Bitzer : Wurlitzer Piano (1), Hammond R-3 Organ (2,3)
Willie Weeks : Bass
Jim Keltner : Drums, Tambourine, Maracas
1. Here I Go Again [Bobby Charles]
2. Don't Think Twice [Bob Dylan]
3. Don't Cry Sister [J.J. Cale]
Recorded May and August, 1995 at Dockside Studios, Maurice, Louisiana
Eric Clapton Recorded September 14, 1995 at Signa Sound, Philadelphia,
PA
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クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン (1924-2005)は、ルイジアナ州に生まれテキサス州育ち。ブルースのみならず、カントリー、ジャズ、ケイジャン、R&B等幅広い音楽をカバーした人で、ギター、フィドル、ハーモニカをこなすマルチ・プレイヤーだった。特に「ジャンプ」と呼ばれるビッグバンドで演奏される乗りの良いブルースでの軽妙なボーカル、ギタープレイのテクニック、リズム感覚は、この人の独壇場だった。初期の録音は1940代後半〜1950年代。1960年代後半は音楽界から引退して、ニューメキシコで副保安官になったという。その後1970年代のブルース音楽のリバイバルで脚光を浴び、コンサート活動を再開。1982年にラウンダーから出したアルバム「Alright
Again !」でグラミー賞を受賞する。晩年は肺癌を病み、2005年のハリケーン・カトリーナでニューオリンズの自宅が被災し、同年避難先の姪の家で永眠した。本作は、白人のロック・ミュージシャンとの共演盤として製作されたもので、洗練された雰囲気がある反面、よそ行き風でアクがない分、彼本来の物凄さが影を潜めているような感がある。彼が好きなように作ったアルバムやライブ演奏を聴くと、その点は明白なのだが、そんな先入観を抜きに聴くと、十分楽しめる内容だ。
マリアは13曲中3曲で歌を入れている。1.「Here I Go Again」はボビー・チャールズの作品で、 ポール・バターフィールド 1976年のアルバム「Put
It In Your Ear」が初出。作者本人によるバージョンは、2006年の「Homemade Songs」で発表された。ここでは、まずクラレンス、ボビーの順番で歌う。二人の声質は似ているが、よく聴くとどちらか分る。サビのパートはマリアが、最後のヴァースは男性二人の合唱となる。本アルバム全編でエイモス・ギャレットがギターを弾いているのが美味しい。1曲を除きリズムギターに専念しているが、それでも本曲のように彼らしい持ち味が出ている。ここではクラレンスが間奏でフィドルを弾いており、その音色には独特の味がある。キーボードのジョージ・ビザーは、ホール・アンド・オーツ、ビージーズ、バーバラ・ストレイサンド、ドリー・パートンなどの作品に参加したセッション・ミュージシャンで、ボビー・チャールズの作品「Last
Tarin To Memphis」E56にも名前がある。2.「Don't Think Twice」は、ボブ・ディランの「The Freewheelin'」1963に収められたフォークの名曲のカバーで、ここではブルージイなアレンジが施されている。エリック・クラプトンがリード・ギターを担当しているが、彼の演奏は後に別の場所でオーバーダビングされたものとのこと。といってもエリックとエイモス、そしてクラレンスとデュエットで歌うマリアの共演という意味で、ファンにとって大変なお宝音源だ。大好きなボブ・ディランの曲を歌うマリアの気合の入り方はスゴイね!エリック・クラプトンのミニアルバム「In
The Blues With EC Vol.1」にマリアの名前がクレジットされているが、このアルバムはエリックのセッション参加曲を集めたコンピレーション作品で、そこに本曲が収められているため。3.「Don't
Cry Sister」は、J.J. ケールが1979年に発表したアルバム「5」に入っていた曲で、彼は2006年のエリック・クラプトンとの共演盤「The
Road To Escondido」で再録音している。ここではスライドギターの名手ソニー・ランドレスのプレイがたっぷり入っている。マリアは「Back
Vocal」とクレジットされているが、実際は彼女一人で歌う場面もあり、デュエットといったほうが妥当な内容。
その他の曲では上記以外にエリックが2曲参加(うちタイトル曲「Long Way Home」はアコースティック・ギターでのセッション)、レオン・ラッセルが2曲ピアノを弾き歌い、ライ・クーダーが1曲マンドリンで参加している。また上述のとおり、エイモス・ギャレットが「Somebody
Else」で彼らしい間奏ソロを弾いており、クラレンスとのギター共演が楽しめる逸品となっている。またクラレンスのアコギの弾き語りによるブルース・チューン、ホーンセクションをフィーチャーしたグルーヴィーなジャンプ・チューンもあり、とても変化に富んだ内容になっている。アルバム全体で聴かれる名手ジム・ケルトナーのドラムスと、ウィリー・ウィークスのベースによるリズムセクションの躍動感が素晴らしい。
マリアがボビー・チャールス、ボブ・ディラン、J.J. ケールといったお気に入りの作曲家の作品を歌っており、それだけでも美味しいのに、他のミュージシャンの演奏もたっぷり入っていて聴き応え十分。クラレンス・ゲイトマウス・ブラウンという器用で柔軟性に富んだブルースマンが、自分は出しゃばらずに、ゲストミュージシャンの持ち味を引き出すことに成功した作品といえよう。
[2011年1月作成]
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