E22 Cathy Chamberlain's Rag'n Roll Revue 1972  Cathy Chamberlain   Buddah

E22 Cathy Chamberlain's Rag'n Roll Revue




Cathy Chamberlain : Vocal, Concertina
Richard Look : Piano, Organ, Back Vocal
Kal David : Guitar (2)
Fred Moore : Drums
John Miller : Bass (1)
Steve Chapin : Bass (2)
Skippy Le Compte : Trumpet
Maria Muldaur : Fiddle (1), Back Vocal (2)
Billy Faier : Banjo

1. Charlottetown [Cathy Chamberlain]
2. Old Brown Shoes [Cathy Chamberlain]

Cathy Chamberlain, Richard Look : Arragement
Bob Tulipan, Cathy Chamberlain : Producer

注) 写真上: Cathy Chamberlain's Rag'n Roll Revue (Buddah盤 1976年発売、1972年録音) (マリア参加)

   写真下: Cathy Chamberlain's Rag'n Roll Revue (Warner盤 1977年発売)(マリア非参加)


キャシー・チェンバレンはラグン・ロールという造語にあるように、20世紀初期のグッド・オールドタイム・ミュージックとロックンロールを融合させた音楽を志した人だった。ロック・ミュージカル「ヘアー」への出演の後、1970年代初めにウッドストックに住み、リッチ・ルックと一緒にラグン・ロール・レビューを結成、1972年にマリアを含む地元のミュージシャンとアルバムを録音した。しかしシングルで発売された「Rag And Roll」が不発に終わり、その他の曲はお蔵入りしてしまう。その後1975年に行ったクラブ出演が大評判でロングランとなり、全米ツアーが実現する。その最中の1976年にブッダ・レーベルから発売された作品が本作(写真上)である。要するにブッダ・レコードは、彼女がワーナーでアルバム制作を始めたため、お蔵入りした音源を引っ張り出してきて発売したようだ。

1.「Charlottetown」はビリー・フェアーのオールドタイミーなスタイルのバンジョーとマリアのケイジャン・フィドルの共演が楽しめる。ビリー・フェアー(1930-2016)は、1945年からウッドストックに住み、バンジョーを弾き始める。1950年代後半に出したレコード「The Art Of Five String Banjo」と「Travelin' Man」が代表作で、その後も地道な活動を続けた。ドラムスのフレッド・ムーアは1930年代にキング・オリバー、ジミージョンソン等と共演したスウィング・ジャズの伝説的なプレイヤー。ベースのジョン・ミラーはウッドストック在住のベーシストで、ティム・バックレイ、アル・クーパー、トッド・ラングレン、ベット・ミドラー、レナード・コーヘンなどの作品に参加している。2.「Old Brown Shoes」はリッチ・ルック(日本育ちだそうだ)のラグタイム・ピアノを中心とした伴奏。ここでのコーラス部分のハーモニー・ボーカルは、マリアの声とはっきり判る。ギターのカル・デビッドはボニー・レイット、ロビー・デュプリー、ジェニファー・ワーンズ、ジョニー・リバースのセッションに参加、ソロアルバムも1枚残している。どちらの曲も音楽的に悪くはないのだが、キャシーの歌声を聴くと、比較してマリアの声がいかに魅力的であるか改めて実感してしまうのだ。

キャシー・チェンバレンは1977年ワーナー・ブラザースより、同じタイトルのアルバム(写真下)を発表したが、すべて新録音(2曲のみ再録音で他は新曲)で、マリアは参加していない。ちなみにこちらのアルバムは、2005年に日本で紙ジャケ仕様でCD化された。


注)2005年日本でCD化された「Cathy Chamberlain's Rag'n Roll Revue」(写真下のほう)の解説書(長門芳郎著)を参考にしました。

[2009年3月作成]


E23 The Second Annual Farewell Reunion 1973 Mike Seeger  Mercury

E22 The Second Annual Farewell Reunion


Mike Seeger : Guitar, Vocal
Maria D'Amato : Guitar, Vocal

1. Take Me Back To The Sweet Sunny South [Public Domain]



マイク・シーガー(1933-2009) の両親は、ジョンとアラン・ロマックス父子等と共にアメリカのフォークソングの収集と保存に携わった人達で、異母兄弟にフォーク・シンガーのピート・シーガー、妹にトラッドシンガーで、イギリスでイワン・マッコールの奥さんになったペギー・シーガーがいる。若い頃からいろんな楽器を演奏し、トム・ペリー、ジョン・コーヘンとニュー・ロスト・シティー・ランブラーズを結成した。原曲を忠実に復元するスタイルにこだわったために、60年代のフォークブームにおいては地味な存在であったが、アメリカの音楽界において大きな功績を残したといえる。そんな彼が、兄弟や親しい友人を招いてホームレコーディングにより製作したのが本作で、相変わらずオーセンティックな音楽を演奏しているものの、ライ・クーダー、エリザベス・コットンといった著名なミュージシャンとの共演という話題性において、一般の人にも比較的とっつき易い作品になっている。

マリアは、旧姓のダマートでクレジットされており、マイクと同じニューヨーク出身でもあり、二人は早くから知り合いだったようだ。彼等が歌っている 1.「Take Me Back To The Sweet Sunny South」は、南北戦争時代を起源とする歌で、奴隷から開放された黒人が、年老いて故郷を懐かしむ歌。ギター伴奏のみのシンプルなアレンジで、終始二人が同じメロディーを歌う。マリアは一切の飾り気を廃した地声そのもので歌い、ポップスやブルースの時とは異なる趣があるが、天性の声の可憐さは不変だ。二人の誠実で端正なプレイと、アメリカ民謡そのものが持つ深い味わいが大変魅力的な作品となった。

その他の曲も素朴そのものであるが、ライ・クーダーのボトルネック・ギターが聴けたり(ライのファンにとってもコレクターズ・アイテムとなっている)、エリザベス・コットンとの2台のギターによるインストルメンタル、ピート・シーガーやペギー・シーガーなどの兄弟共演どれも良い感じで、マイクもギター、バンジョー、マンドリン、フィドル、オートハープ、ジューイッシュ・ハープ、マウスハープの演奏というマルチぶりを発揮している。マイクは後の1994年に続編にあたる「The Third Annual Farewell Reunion」 E83をラウンダー・レコードから発表。そこでもマリアと共演している。でも、「The First Annual Farewell Reunion」という作品は存在しないみたいだけど、どうしてかな?

マリアの愛らしい声が際立つ逸品。

[2009年9月作成]


E24 Muleskinner Live  1973  Muleskinner  Sierra Records

E24 Muleskinner Live

Peter Rowan : Guitar, Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Clarence White : Lead Guitar
Richard Greene : Fiddle
David Grissman : Mandolin
Bill Keith : Banjo
Stuart Schulman : Bass


1. Sitting Alone In The Moonlight [Bill Monroe] E9


録音: 1973年2月13日 KCET Television Studio, Hollywood, California


ビル・モンロー(1911-1996)は、トラディショナル、カントリーにブルースを加味し、ドライブの効いたテンポに自身のマンドリンを始めとする各奏者がアグレッシブなソロを展開するスタイルで、ブルーグラスと呼ばれる音楽ジャンルを確立した人だ。1973年に西海岸のテレビ局が彼のスペシャル番組を企画し、第1部は彼のバンドであるブルーグラス・ボーイズとの演奏、第2部は若手ミュージシャンとのスーパーセッションの予定だった。ところが当日ビル・モンローとバンドが乗ったバスが途中で事故を起こし、収録時間に間に合わなくなってしまったのだ。テレビ局は止む無く、彼が共演する予定だった若手ミュージシャンのみによるライブに切り替えた。その演奏が大評判となり、追加ライブそしてジョー・ボイドのプロデュースによる名盤「Muleskinner」1973 の製作となる。ミュールスキナーというグループ名は、ビル・モンローの持ち歌のひとつ「Muleskinner Blues」(ジミー・ロジャーズの曲)からとったものだろう。当時放映されたテレビ映像・音源は、その後長い間存在しないものとされていたが、約20年後の1992年に発掘され、大きな話題となった。無名のベース奏者(本職はフィドルらしい)を除き、進歩的な若手ブルーグラス・ミュージシャンの最高峰が集まったセッションであり、マンドリン、フィドル、バンジョー、ギターいずれも火を噴くような演奏だ。CDには13曲が収録されているが、映像として残っているのは当時放送された9曲のみで、マリアが参加した曲を含む4曲は編集段階で消去され、音源のみが残っている。

リチャード・グリーン、ビル・キースはジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの仲間、デビッド・グリスマンはイーヴン・ダズン・ジャグ・バンド、そして前述の3人とクラレンス・ホワイトはマリアのソロデビュー盤 M1のバックに参加しているとおり、ピーター・ローワンを除くバンドメンバーはマリアにとって関係が深い人達であり、その縁でゲスト参加になったのだろう。1.「Sitting Alone In The Moonlight」は、ビル・モンローが1954年1月に録音した曲で、オリジナルの演奏は、当時のLPレコードには未収録で、「The Music Of Bill Monroe From 1936 To 1994」という4枚組のCDボックスセットで聴くことができる。ここではマリアは、カントリー、ブルーグラスのスタイルらしいストレートな歌唱で終始ハーモニーを担当している。スローなテンポでありながら、味わい深いボーカルに加えて、イントロのリチャードのフィドル、デビッドのマンドリン・ソロ、ビルのバンジョーのバック、そして曲を引き締めるような単音のパッセージを入れるクラレンスのギターなど、密度が高いバックの演奏は尋常ではなく、当日のボルテージの高さを物語っている。

本作録音の5ヶ月後の 1973年の7月14日、交通事故により世を去る不世出のギタリスト、クラレンス・ホワイトのブルーグラス演奏がたっぷり楽しめる意味でも、歴史的に貴重な記録だ


[2008年8月作成]


E25 Paul Butterfield's Better Days  1973  Paul Butterfield  Bearsville

E25 Paul Butterfield's Better Days

Paul Butterfield : Mouth Harp, Vocal
Geoff Muldaur : Guitar (2), Slide Guitar (1), Vibes (2), Vocal
Amos Garrett : Guitar
Ronnie Barron : Electric Piano (2), Back Vocal (2)
Billy Rich : Bass (1)
Christpher Parker : Drums

Maria Muldaur : Fiddle (1), Vocal (1), Back Vocal (2)
Bobby Charles : Back Vocal (2)
Dennis Whitted : Back Vocal (2)

1. Baby Please Don't Go [Big Joe Williams]
2. Nobody's Fault But Mine [Traditional]  M7

Paul Butterfield And Geoff Muldaur : Producer

 
ポール・バターフィールド(1942-1987、経歴はE18参照)は、自分のグループを解散した後、ウッドストックを本拠地として音楽活動を続ける。そこで同地で活躍する親しいミュージシャンとグループを結成したのがベターデイズだ。ボブ・ディランのマネージャーで有名だったアルバート・グロスマンが設立し、多くのミュージシャンが利用したベアズビル・スタジオで録音された本作は、通好みのファンにとって最高のメンバーが勢揃いしたドリームグループだ。ジェフ・マルダーについては説明不要。彼がこのグループに加入したことが、ジェフ・アンド・マリアの音楽活動の停止となり、結果的に2人が別れる原因のひとつとなる。ギタリストのエイモス・ギャレット(1941- )は、1970年のイアン・アンド・シルヴィアのバック「Great Speckled Bird」、ジェフ・アンド・マリアの「Pottery Pie」 E12、1972年の「Bobby Charles」、ジェフ・アンド・マリアの「Sweet Potatoes」E16に続くセッションで、彼のギタープレイをたっぷり聴くことができる。その後のジェフ・マルダー、マリア・マルダーとの付き合いについては説明不要。

ニューオリンズ屈指のピアニストと言われるロニー・バロン(1943-1997)は、ドクター・ジョンに見込まれ有名になった人。当初セッションプレイヤーとして本作に参加したが、録音中に意気投合してグループの正式メンバーになったという。その後ライ・クーダー、エリック・バードン、トム・ウェイツ、B. B. キングの作品に参加。日本のミュージシャンとの親交もあり、1977年に久保田麻琴と夕焼け楽団の「Dixie Fever」に参加したのがきっかけとなり、1978年には久保田麻琴と細野晴臣のプロデュースで「Smile Of Life」というソロアルバムを発表している。ドラムスのクリス・パーカーは、後にスタッフのメンバーとなった他、ブレッカー・ブラザース等無数のセッションに参加している売れっ子ドラマー。彼も、大貫妙子の作品「Sun Shower」1977 に参加していて、当時そのアルバムを聴いた私は、坂本龍一、細野晴臣、後藤次利等と一緒に生み出すグルーヴ感に圧倒されたものだ。本作では、特にエレクトリック・サウンドの曲で、その凄さに触れることができる。ベースのビリー・リッチは、バディ・マイルス、ジェシー・エド・デイビスの作品を経て本作に参加、その後はジェフ・マルダー、タージ・マハールの作品に参加している。ベターデイズは、アメリカにおける白人ブルースバンド(ビリー・リッチのみ黒人)の頂点に位置するものであり、黒人ブルースとは異なる乗りと感覚で新境地を開いたといえる。

本作はエレキギターによるブルース曲が主体であるが、アコースティックなサウンドの曲もあり、それらにマリアがバックボーカルで参加している。ビッグ・ジョー・ウィリアムスの 1.「Baby Please Don't Go」は、エイモスがアコギ、ジェフがスライドギターを弾き、ポールがハーモニカを演奏する。ヴォーカルはポールのリードにジェフがハーモニーを付け、途中からマリアのバックボーカルが加わり、掛け合いの中で彼女が一人で歌う場面もある。マリアのフィドルも入っていて楽しめる1曲。ブラインド・ウィリー・ジョンソンのスピリチュアル 4.「Nobody' Fault But Mine」は、エイモスのアコースティック・ギターとロニーのエレキピアノ、ジェフのヴァイブを中心とした伴奏で、皆の合唱による歌だ。マリアのその中の紅一点として、その声を聴き分けることができる。どちらもシンプルな演奏だけど、とても味わい深いものだ。レコードのクレジットでは、「Rule The Road」にもマリアがバックボーカルで参加とあるが、曲を聴く限りジェフのリードボーカルしか聴こえないので、本ディスコグラフィーからは外した。

マリアが参加していないエレクトリックなサウンドの曲にも凄いものがあり、ジェフが歌ったパーシー・メイフィールドの「Please Send Me Someone To Love」は、後にマリアによるライブの定番曲になった。またジャニス・ジョップリンが1971年の遺作「Pearl」で取り上げて有名になったニック・グレイブナイツ(E18参照)作の「Buried Alive In The Blues」も収録されている。1970年代当時のモダンな感覚で製作された、ホワイトブルースの名盤。古いハーモニカのアップのジャケット写真が最高。ベターデイズとしてはもう一枚「It All Comes Back」1973 E29 というアルバムがあり、そこにもマリアが参加している。

[2010年1月]
ボビー・チャールズは、病気のため亡くなりました。ご冥福をお祈りします。


E26 John Herald  1973  Paramount 
 


John Herald : Vocal, A. Guitar
Bob Tanner : E. Guitar, Bass
Allan Stowell : Mandolin (2), A. Guitar
Amos Garret : E. Guitar
Steven Soles : E. & A. Guitar, Organ
David Kapell : Bass
Richard Crooks : Drums
Howie Wyett : Keyboards
Susanna De Maria : Jew's Harp (2)

Maria Muldaur : Back Vocal
Ellen Kearney : Back Vocal
Joanne Vent : Back Vocal

1. Josie Jo [John Herald]
2. Jack Elliot [John Herald]

Arthur H. Gorson : Producer
 

ジョン・ヘラルド(1939-2005)は、マリアと同郷のマンハッタンのグリニッジヴィレッジ生まれ。父親が詩人だったため、小さい頃からウッディ・ガスリーやレッドベリーに親しむ。1959年にエリック・ワイスバーグ等とグリーン・ブライアー・ボーイズを結成、フォークとブルーグラスを演奏する。後にウッドスットックに居を構え、1972年の「Mud Acres」 E17を最初とするウッドストック・マウンテン・レビューの常連となり、セッション・ミュージシャンとしては、ランブリン・ジャック・エリオット、イアン・アンド・シルヴィア、ジョーン・バエズ、ボニー・レイット、ドック・ワトソン、デビッド・ブロンバーグの録音に参加している。そんな彼が1973年に製作した初ソロアルバムが本作である。

ウッドストックの仲間と、後にボブ・ディランのローリング・サンダー・レビューのメンバーとなるミュージシャンがバックに参加している(曲毎のクレジットがないので、上記の通り考えられるメンバー全員を表記しました)。全体的にフォーク、ブルーグラスの音楽をベースとし、彼独特の優しいハイトーンのボーカルが全編を覆う個性となっている。その中でも 1.「Josie Jo」はとりわけポップな感じの音つくりで、「Herald's Angels Sing」とクレジットされた3人の女性コーラスが花を添えている。エレン・カーネイは当時マリアのバンドでバック・コーラスとアコースティック・ギターを担当していた人。ジョアン・ヴェントは、ジェリ・ジェフ・ウォーカー、ルー・リード、ロウドン・ウィンライト 3世の作品に参加しているバック・ボーカリストだ。ランブリン・ジャック・エリオットのことを歌った 2.「Jack Elliot」はブルーグラス的な曲で、アラン・ストーウェルのマンドリン、(恐らく)ジョン・ヘラルド本人の早弾きギターソロが入る。その後のエレキギター・ソロは音色からエイモス・ギャレットであることは明らかだ。

本アルバムを発売したパラマウント・レコードは、不幸なことに翌年倒産し、そのために本作は長らく廃盤となり、コレクターズ・アイテムとなった。そして2005年に韓国のレーベル、ボングラス・レコードがCD復刻を果たした。紙ジャケットに加えて、詳細極まる解説、歌詞、ジョン本人のコメントを掲載した31ページのブックレットが付き、その誠実な製作姿勢が素晴らしい。それにしてもジャケット写真はフランク・ザッパにそっくりだね!


[2009年3月作成]


 
E27 Love Has Got Me  1973 Wendy Waldman  Warner Brothers


E27 Love Has Got Me

Wendy Waldman : Vocal, A. Guitar, Piano
Carmi Simon : Guitar
Kenny Edwards : Guitar, Sitar, Back Vocal
Andrew Gold : Piano, Electric Piano, Organ, Back Vocal
Wilton Felder : Bass
Russ Kunkel : Drums
Bobbye Hall Porter : Percussion
Jim Horn, Chuck Findley, Jackie Kelso : Horns
David Campbell etc. : Strings
Maria Muldaur : Back Vocal
Karen Alexander : Back Vocal
Greg Prestopino : Back Vocal

Chuck Plotkin : Producer

1. Old Time Love [Wendy Waldman]
2. Lee's Traveling Song [Wendy Waldman]
3. Natural Born Fool [Wendy Waldman]


注) 写真は2005年、Collectors' Choice Music から発売されたCD盤です。


ウェンディ・ウォルドマン(1950- ) は、スタートレック、トワイライトゾーンなどのテレビ番組の作曲家フレッド・スタイナーを父に、バイオリン奏者を母という音楽家族に生まれた。ロスアンゼルスの自由な雰囲気の中で育った彼女は、アンドリュー・ゴールド、ケニー・エドワーズ、カーラ・ボノフとブリンドルというグループを結成しA&Mレコードと契約したが、録音されたアルバムは発売されず、シングル盤1枚のみで解散してしまう。その後はソロ活動を志し、自作曲「Vaudeville Man」、「Mad Mad Me」がマリア・マルダーのファーストアルバムで取り上げられ一躍脚光を浴び、その結果ソロデビューとなったのが本アルバムである。ここではブリンドルの仲間、アンドリュー・ゴールドとケニー・エドワーズが全面的に協力している。

アンドリュー・ゴールド (1951-2011) は映画音楽の作曲家を父に持ち、親同士が知り合いだったこともあり、ウェンディとは早くから親交があったという。マリアのファーストアルバムを含む多くのセッションに参加した他、自己名義のアルバムも多く発表、「Lonely Boy」(1977年 7位)、「Thank You For Being A Friend」(1978年 25位)というヒット曲も飛ばしている。ケニー・エドワーズ(1946-2010) はリンダ・ロンシュタットがいたグループ、ストーン・ポニーの解散後ブリンドルの一員となった。その後アンドリュー・ゴールドと一緒にリンダ・ロンシュタットをサポートし、スタジオ、ライブ、選曲、アレンジなど彼女の全盛時代に大いに貢献した。プロデューサーは当時駆け出しのチャック・プロトキン、彼はその後ブルース・スプリングスティーンとの仕事で大成功を収める。ウェンディは本作以降もアルバムを出したが、歌手としてブレイクすることはなかった。成功するために必要な個性というか、ファンにアピールする強烈さに欠けていたからだろう。彼女の音楽と歌には、ローラ・ニーロに共通する自由な魂が感じられ、気まぐれな猫のような趣があるのだ。マリアのような妖艶さ、リンダのような強さはないが、健康的な若々しさに溢れている。それが彼女の魅力であり、限界でもあったと思う。後にナッシュビルに活動拠点を移し、作曲家として多くのミュージシャンに曲を提供、最も有名な作品はヴァネッサ・ウィリアムズが歌い全米1位を獲得した「Save The Best For Last」1992 だろう。また90年代のブリンドル再結成を含む自身の音楽活動も続けている。

マリアは3曲にバックボーカルで参加している。参加ミュージシャンは、ウェストコーストで売れっ子の人たちが揃っている。ウィルトン・フェルダー (1940-2015) はクレセイダーズのサックス奏者として有名だが、スタジオワークではベーシストとしての評価が高い人だ。グレッグ・プレストピーノとカレン・アレキサンダーはマリアのファーストアルバムにも参加していた人たちで、バックボーカルの裏方として多くの作品に名を連ねている。カレンは70年代にソロアルバムを発表し、現在もシンガーとして活動中。1.「Old Time Love」はホーンセクションをフィーチャーした軽快な曲で、ウェストコーストの匂いがぷんぷんする。バックコーラスを聴いていると、マリアの声を聴き分けることができる。ケニー・エドワーズのシタールが聞こえる 2.「Lee's Traveling Song」も同じ感じの曲で、ウェンディの伸びのある歌声が心地よい。エンディングにおけるバックコーラスが聴きもの。3. 「Natural Born Fool」も同傾向の曲で、バックコーラスもたっぷり入っている。

上記の3曲は同傾向と言ったが、その他の曲はジャズっぽいものや、ギターやピアノ演奏を中心としたものもあり、変化に富んでいる。またマリアのファンにとって有難いことに、デビューアルバムで取り上げた「Vaudeville Man」やセカンドアルバムの「Gringo En Mexico」の作者によるバージョンを聴くことができ(マリアは不参加)、ボーカルやアレンジの違いの妙を楽しむことができる。本作品は一般的には売れなかったが、評論家からは高い評価を得た。



E28 Songs And Other Dreams  1982  Casse Culver   Ladyslipper Music



Casse Culver : Vocal. Guitar
Jerry Tenney : Guitar
John Till : Guitar, Mandolin, Back Vocal
Ben Keith : Dobro
Jim Rooney : Banjo
Richard Bell : Piano
Betty McDonald : Fiddle
Brad Campbell : Bass
Clark Pierson : Drums
Maria Muldaur, Marti Minter : Back Vocal

1. True To You
2. I'm Late Again
3. I Can't Quit You
4. Picean
5. How Can I Say
6. Country Smile
7. Sweet Nashville Warbler

8. Dream On

Recorded During 1970-1973 At Bearsville Studios, Woodstock, NY

注: 青字はマリアが参加している可能性があるトラック


カセ・カルベール(1944-2019)は、LGTBの女性シンガーとして活動した人。ストリート・シンガーからスタートし、1970年から1973年までウッドストックに住み、ボブ・ディラン、ザ・バンド、ピーター・ポール・アンド・マリー、ジャニス・ジョップリン等を仕事をしたアルバート・グロスマンと契約したが、グロスマンと衝突してレコード制作の企画が没になった。メジャー・デビューから遠ざかった彼女は、その後レズビアンであることを隠さず、関連する人権活動、音楽、ガーデニング、絵画、写真など幅広く活動した。本作は、アルバム制作のために録音したデモテープを10年後の1982年にカセットテープで発表したもの。タイトルから彼女の思いが伝わってくる。自主レーベルによる限定的な販売だったと思われるが、後年女性のための音楽を主催する Goldenrod Musicがインターネットによる配信を行ったことにより、マリアが録音に参加した事実の確認および音源を聴くことができた。

録音場所は、アルバート・グロスマンが経営するベアズヴィル・スタジオ(ザ・バンドの録音で名高い)で、デモということで粗さはあるが、アレンジ、演奏、歌唱のすべてがしっかり作り込まれている。バックを務めるのはグロスマン傘下のミュージシャン達で、リズムセクション(ギター、ピアノ、ベース、ドラムス)は、当時ジャニス・ジョップリンのバックをしていた人達。その他ベン・キース(後にニールヤングの伴奏でさらに有名になる)、ジム・ルーニー(スタジオの運営者でウッドストックの黒 幕的な存在)、ベティ・マクドナルド(ジャズ・バイオリン奏者)などが名を連ねている。ただし、これらのメンバーは、カセが書いたライナノーツによると、彼女の記憶によるとのことなので、その他に誰かいるかもしれない。

サウンド的には、1970年代によくあったカントリーロックの香りをつけたフォーク。曲と歌唱の感性はかなりいい感じで、そのままレコードデビューしていれば、それなりの評価を得られたのではないかと思う。曲毎のパーソネルがないので、マリアが参加している可能性がある曲(すなわち女声コーラスが入っている曲)を上記のとおり青字表示した。1.「True To You」を聴いていると、1970年代前半でないと出せない空気のようなものを感じて、なんだか懐かしくなってしまう。カスの低めの歌声には誠実さと芯の強さを感じる。自己を通し、妥協しない人だったからグロスマンと決裂したのだろう。コーラスが入るのは終盤のリフからで、複数の声が混じり合っているので、マリアの声を聞き分けることはできない。2.「I'm Late Again」のハーモニー・ボーカルは男性。3.「I Can't Quit You」はコーラス部分にバックボーカルが入る。4.「Piscean」はカス一人による歌唱。

5.「How Can I Say」はカントリー・フレイバーが強い曲で、コーラスパートでバックコーラスが聞こえる。6.「Country Smile」になると、バンジョーとフィドル、ペダル・スティールが入って完全にカントリー・ミュージックしている。ここでもコーラスパートで女声コーラス。7.「Sweet Nashviile Warbler」はブルーグラス。ここでのハーモニー・ボーカルはマリアだろう。1973年録音の「Muleskinner Live」E24 の「Sitting Alone In The Moonlight」とそっくりなので。8.「Dream On」はコーラスなし。

2022年に見つけた50年前のタイムカプセル。

[2023年2月作成]


E29 It All Comes Back  1974  Paul Butterfield's Better Days  Bearsville

E28 It All Comes Back

Paul Butterfield : Mouth Harp, Vocal (2), Back Vocal (1)
Bobby Charles : Vocal (2)
Geoff Muldaur : Guitar, Slide Guitar (2), Back Vocal
Amos Garrett : Guitar
Ronnie Barron : Keyboards, Vocal (1), Back Vocal (2)
Billy Rich : Bass
Christpher Parker : Drums
Maria Muldaur : Back Vocal

1. It's Getting Harder To Survive [Ronnie Barron]
2. Take Your Pleasure Where You Find It [Bobby Charles, Paul Butterfield]

Geoff Muldaur, Paul Butterfield, Nick Jameson : Producer


E25に続き製作されたベターデイズ2枚目のアルバム。全体的により洗練された演奏で、友人のボビーチャールス (1938-2010) が曲作りも含めて参加している。1.「It's Getting Harder To Survive」は、ロニー・バロン (1943-1997) の素晴らしくソウルフルなボーカルを聞くことができる。マリアはイントロでハーモニー・ボーカルを、本編でバックボーカルを担当している。ギンギンのR&B曲で、クレジットにはないがホーンセクションがイカシテいる。 2.「Take Your Pleasure Where You Find It」もカッコイイ R&Bで、ポール・バターフィールドとゲストのボビー・チャールズが交互に歌っており、バックコーラス隊からマリアの声を聞き分けることができる。間奏のスライドギターソロはジェフだろう。演奏面ではロニーバロンのキーボ−ド(クラヴィネットと思われる)と、クリス・パーカーのドラムスによる強靭なリズムがスゴイ!

本作には、マリアは非参加であるが名曲と呼ぶに相応しい「Small Town Talk」が収録されている。1972年にボビー・チャールズが自分の名前を冠したソロアルバムに収録したのが初出で、ザ・バンドのリック・ダンコとの共作。マーヴィン・ゲイの「I Heard It Through The Grapevine」やジェイムス・テイラーとJ. D. サウザーが歌った「Her Town Too」と並ぶ噂ソングの決定版だ。心無い噂話のために人間関係が壊れてゆく様を歌ったもので、当時のジェフとマリアの状況を考えると、この曲を歌ったジェフの心境は如何なるものだっただろうか?この曲はずっと後の 1995年になってエイモス・ギャレットがE85でカバー、そこにマリアが参加して一種の楽屋落ちのアンサーソングになっている。


[2009年3月作成]


E30 Gypsy Symphony  1974  Wendy Waldman  Warner Brothers


E29 Gypsy Symphony

Wendy Waldman : Vocal, Dulcimer
Pete Car, Jimmy Johnson : Guitar
Barry Beckett : Piano
David Hood : Bass
Roger Hawkins : Drums, Percussion
David Campbell etc. : Strings
Maria Muldaur : Back Vocal
Karla Bonoff : Back Vocal
Kenny Edwards : Back Vocal
Andrew Gold : Back Vocal
Greg Prestopino : Back Vocal

Chuck Plotkin : Producer

1. Come On Down


注) 写真は2005年、Collectors' Choice Music から発売されたCD盤です。


ウェンディ・ウォルドマン2枚目のアルバムで、アラバマ州マッスルショールズのスタジオで録音され、バックボーカルや一部の演奏のみロスアンゼルスでオーバーダビングされた。アレサ・フランクリンをはじめとする数々のR&Bの他、ポール・サイモン、ボブ・ディランやトラフィックの作品で名声を得たスタジオ・ミュージシャン達の演奏は、ファーストアルバムよりもダウン・トゥー・アースで、ウェンディの音楽に意外に合っている。特にリズムセクションの強靭さはスゴイ。1.「Come On Down」は、シンプルな歌詞に対して、ウェンディの歌とバンド演奏の魅力が最大限に発揮されている。シャウトするウェンディのボーカルも黒っぽい感じで悪くない。バックコーラスにはマリア、グレッグ・プレストピーノと旧友のブリンドルの連中が勢揃いしている。

また本作には、マリアのファーストアルバムに収録された名作「Mad Mad Me」の弾き語りバージョンが収められており、これも聴きもの。


E31 Garcia (Compliments)  1974 Jerry Garcia  Round


E30 Garcia

Jerry Garcia : Guitar, Vocal
Arthur Adams : Guitar
Richard Greene : Violin
Michael Omartian : Piano
Merl Saunders : Organ
John Kahn : Bass
Ron Tutt : Drums
Bobbye Hall : Cow Bell, Tambourine
Maria Muldaur : Back Vocal

John Kahn : Producer

1. Let's Spend The Night Together [Mick Jagger, Keih Richards]

Recorded at Devonshire Sutudios, Febuary 1974


ジェリー・ガルシア (1942-1995) 2枚目のソロアルバムで、当時の自己レーベル、グレイトフル・デッド・レコーズのサブ・レーベル、ラウンドから発売された。タイトルが1972年発売の1枚目と同じだったので、販売の際は混同を避けるため、ビニール包装されたレコード・ジャケット上に、「Compliments Of」というステッカーを貼って出荷された。後にその呼称は定着し、本作がCD化で再発される際には、「Compliments」という副題が正式に付された。実際のところ、1枚目のソロアルバムは、ドラムスを除くすべての楽器をジェリー1人演奏した多重録音で製作された作品であるにもかかわらず、マリアを含む他のミュージシャンが参加していると、誤って記載した資料もあるので注意を要する。本作の収録曲は、はガルシア本人によるオリジナルはなく、プロデューサーのジョン・カーンが選曲したという。生涯にわたる音楽活動で、自分が好きな作品を取り上げて思うがままに演奏した彼らしく、アメリカン・ミュージックに対する愛情に溢れた気さくな感じの作品となった。チャック・ベリーのロックンロール「Let It Rock」、スモーキー・ロビンソンが作曲しマーヴェレッツが歌った「When The Hunter Gets Captured By The Game」(1967年全米13位)、リトル・ミルトンのR&B 「That's What Love Will Make You Do」、ドクター・ジョンの「What Goes Around」、ヴァン・モリソンの「He Ain't Give You None」といった曲に加えて、アーヴィング・バーリンのスタンダード曲「Russian Lullaby」が異色の選曲で、ここで彼は、リチャード・グリーンのバイオリン、エイモス・ギャレットのトロンボーンをバックに、ジャンゴ・ラインハルト風のギタープレイを披露している。

バックミュージシャンも西海岸の売れっ子スタジオ・ミュージシャンを集めてきた感がある。マイケル・オマーティアン(1945- )は、ロギンス・アンド・メッシーナ、スティーリー・ダン、ビリー・ジョエル他無数のセッションに参加し、プロデューサーとしてクリストファー・クロスの売り出しに成功。マリアのアルバム「There Is A Love」1982 M8でも演奏を聴くことができる。近年の彼はクリスチャン音楽の分野で活躍しているという。アーサー・アダムスは、クインシー・ジョーンズ、クルセイダース、アル・ジャロウ、ニーナ・シモン、ボニー・レイットなどの作品に参加したブルース系の黒人ギタリスト、シンガーで、マリアの「Sweet Harmony」1976 M4にバックボーカルで参加している。ボビイ・ホールは、1970年代に大変人気があった女性パーカッション奏者で、キャロル・キング、リタ・クーリッジ、ジェイムス・テイラー、ボブ・ディラン、ジョニ・ミッチェル、スティーヴィー・ワンダー他、多くのセッションに名を連ねている人。彼女もマリアの「Waitress In A Donut Shop」1974 M3に参加している。ロン・タットについてはマリアの「Open Your Eyes」1978 M6を参照ください。

マリアが参加したローリングストーンズの名作 1.「Let's Spend The Night Together」 (1967年 米55位、英3位)は、本作の中では意表を付いた選曲といえる。本作は、オリジナルのリフや男臭い歌唱による強烈なイメージはなく、ジャムセッションのようなリラックスした演奏で、コーラスの部分でマリアとジェリーの男女がねっとり歌う分、より官能的な雰囲気があり、それなりに面白い。イントロからリチャード・グリーンのバイオリンがフィーチャーされ、最後にガルシアのギター・ソロが入る。

作品全体としても、肩肘張らずに気軽に楽しく聞ける作品。マリアが歌う「意外曲」のひとつだ。CD再発盤は、アウトテイクが10曲も収められ、リッキー・ネルソンの「Lonsome Town」といった曲もあり面白い。

[2010年1月作成]


E32 Heart Like A Wheel  1974  Linda Ronstadt  Asylum


E31 Heart Like A Wheel

Linda Ronstadt : Vocal
Maria Muldaur : Harmony Vocal
Andrew Gold : Piano
Richard Feves : Double Bass
Dennis Karmazyn : Cello
David Campbell : Viola, Strings Arragement
David Lindley : Fiddle
Fritz Richmond : Jug (1)

1. Heart Like A Wheel [Anna McGarrigle]

Peter Asher : Producer

Recorde at The Sound Factory, L.A. Feom June To September 1974


リンダ・ロンシュタット(1946- )は、マリアと同じく他人の曲を歌うシンガーとして、70年代に一世を風靡した人だ。アリゾナ州に生まれ音楽を志して苦労し、ロスアンゼルスで結成したカントリー・ロックのグループ、ストーン・ポニーで成功を収める。この時点での彼女の容貌やサウンドは、まだ素朴なものだった。グループ解散後ソロシンガーとなった彼女は、後にイーグルスを結成するミュージシャン達をバックに製作されたアルバム「Linda Ronstadt」 1971を経て、アルバム「Don't Cry Now」1973 でピーター・アッシャーをプロデューサーに迎えたことが契機となり、洗練度を増してゆく。そして1974年発表の本作でブレイク、アルバムチャート1位の他、シングルカットされたベティ・エベレットの「You're No Good」が全米1位、エヴァリー・ブラザースの「When Will I Be Loved」が同2位と大ヒットし、スーパースターとなったのだ。バック・ミュージシャンも、ストーン・ポニーの時代の同僚、ケニー・エドワーズや、ウェストコースト・サウンドの黒幕とも言えるアンドリュー・ゴールド、J. D.サウザー等が名を連ね、サウザーの「Faithless Love」、ローウェル・ジョージの「Willin'」、ジェイムス・テイラーの「You Can Close Your Eyes」などの名曲を取り上げ、絶妙の選曲とアレンジによる傑作となった。

マリアはタイトル曲 1.「Heart Like A Wheel」に参加。作者のアンナ・マッキャリグルは、マリアが2枚目「Waitress in A Donut Shop」1974 M3で取り上げた「Cool River」の作者であり、ソロ・デビューアルバムに収録された「Work Song」、3枚目のアルバム「Sweet Harmony」1976 M4の「Lying Song」の作者ケイト・マッキャリグルの妹だ。二人は姉妹デュオとしても活躍、特にデビューアルバムの「Kate And Anna McGarrigle」1975 は名作の誉れ高い。愛の破綻を歌ったこの曲の歌詞は悲痛なまでに厳しく、リンダは見事に歌いこなしている。またマリアのハーモニー・ボーカルも素晴らしく、当時恋愛沙汰や離婚などの渦中にあった二人の心情が投影されているように思える。またそれを支えるアンドリュー・ゴールドのピアノが美しい。心に響く名曲・名演だ。

リンダはマリアのアルバム「Waitress in A Donut Shop」、「Sweet Harmony」でバック・ボーカルとしてゲスト参加しており、以前から仲が良かったらしい。ルーツを重視する音楽スタイル、情感溢れる歌唱、選曲とアレンジの妙で聞かせるスタイル等、リンダとマリアには共通点が多く、ライバル的な存在にも思える。結果的にリンダがより大衆性を得たのは、セックスアピールや華やかさ、カリスマ性でマリアに勝っていたためだろう。1980年代は、リンダもシンセサイザーやパンクの波に晒されて苦戦したが、スタンダード・ジャズやメキシコ音楽に活路を見出し、ドリー・パートン、エミールー・ハリス等との共演盤の製作、アーロン・ネヴィルやジェイムス・イングラムとのデュエット曲のヒットにより人気を維持した。現在はマリアと同じくコロコロに太ってしまったけどね。二人は現在も仲が良いようで、2005年にブルーグラス・フェスティバルに、マリア、リンダ、ローリー・ルイスの3人でコーラスユニットを結成して出演したりしている。

[2013年10月追記]

2013年8月のニュースによると、リンダ・ロンシュタットは、パーキンソン病のために「もう歌えない」とのこと。残念ですね.........。最近はいろんな治療法が開発されているとのことで、回復をお祈り申し上げます。



E33 Prisoner In Disguise  1975  Linda Ronstadt  Asylum


E31 Prisoner In Disguise

Linda Ronstadt : Vocal
James Taylor : A. Guitar
Andrew Gold : A. Guitar, Musette
Kenny Edwards : Bass
Russell Kunkel : Drums
David Lindley : Fiddle
Peter Asher : Musette
Maria Muldaur : Harmony Vocal

Peter Asher: Producer

1. You Tell Me That I'm Falling Down [Anna McGarrigle, C. S. Holland]


前作「Heart Like A Wheel」に続き、マリアはリンダのアルバムにゲスト参加している。1.「You Tell Me That I'm Falling Down」もE32と同じくアンナ・マッキャリグルの作品で、情感に富むメロディーと歌詞の佳曲。マリアはしっとりしたハーモニー・ボーカルを付けている。リンダの音楽上のブレインで、自らも「Lonely Boy」(1977年、全米7位)、「Thank You For Being Friend」(1978年 25位)などでヒットを飛ばしたアンドリュー・ゴールドと、マネジャー、プロデューサーが同じだったこともあり親交が厚かったジェイムス・テイラーが、アルペジオのギターで伴奏を付けている。録音上でジェイムス・テイラーとマリアが一緒なのはこの曲だけ(通常ボーカルは後から録音されているはずなので、二人が居合わせたわけではないと思うが)という、両者が大好きな私にとってミーハー根性丸出しではあるが、値打ちものの1曲だ。

なお本作は、スモーキー・ロビンソン・アンド・ミラクルズの「Tracks Of My Tears」(全米25位)やマーサ・アンド・ザ・バンデラスの「Heatwave」(全米5位)などのモータウン・クラシックスのカバーの他、J. D.サウザーやドリー・パートン(後にウィットニー・ヒューストンで特大ヒットした「I Will Always Love You」の作者で女優でもある)などの作品を積極的にカバーし、ジェイムス・テイラーの「Hey Mister That’s Me Up On The Jukebox」も歌っている。


E34 Geoff Muldaur Is Having A Wonderful Time  1975  Goeff Muldaur  Reprise


E32 Geoff Muldaur Is Having A Wonderful Time

Geoff Muldaur : Vocal, Guitar (2,9), Mandolin (7), Piano (4), Celeste (1)
Amos Garrett : Guitar (2,3,4,8), Back Vocal (1)
Cornell Dupree : Guitar (3,4,5,8)
Bill Butler : Guitar (5)
Stephen Bruton : Guitar (4, 7), Back Vocal (7)
Richard Thompson : Lead Guitar (9)
Bill Keith : Pedal Steel (2)
Jimmy Shirley : Banjo (1)
Bob Higgins : Banjo (7)
David Simon : Harmonica (7), Back Vocal (7)
Fritz Richmond : Jug (7)

Patti Bone : Piano
(1)
James Booker : Organ (3), Piano (7)
Merl Sanders, Organ (5), Electric Piano (6)
Billy Rich : Bass (3,4,8)
Gerald Jammot : Bass (5)
Ron Carter : Bass (2, 6)
Christpher Parker : Drums (2)
Bernard Purdie : Drums (3,4,5,8)
Eddie Locke : Drums (1)
Paul Humphrey : Drums (6)
Percussion Back Vocal : Densil Lang (5)

Maria Muldaur : Back Vocal (9), Fiddle (7)
Jenny Muldaur : Back Vocal (9)
Greg Prestpino : Back Vocal (1)
Paul Owens & The Capitol City Stars : Back Vocal (3)

Doc Cheatam, Jimmy Nottingham, Taft Jordan : Trumpet (1)
Hershel Holder : Trumpet (5)
Edward Williams : Trumpet (7)
Lewis Soloff : Trumpet (6), Flugelhorn (6)
Benny Morton, Quentin Jackson : Trombone (1)
Earl McIntyre : Bass Trombone (6)
Peter Gordon, John Clark : French Horn (6)
Bob Wilber : Soprano Sax (1), Clarinet (2,6)
Kenneth Berger, Romeo Penque : Clarinet (6)
Gus Bivona : Bass Clarinet (6)
Russel Procope, George Dorsey : Alto Sax (1)
Charles Williams : Alto Sax (4)
Frank Wess : Alto Sax (8)
Seldon Pwell : Tenor Sax (1), Baritone Sax (4,8)
Harold Vick : Tenor Sax (4,8)
Lionel Kingham, Lloyd Smith : Tenor Sax (5)
Howard Johnson : Baritone Sax (1)
Don Butterfield : Tuba (1)
Ed Daniels : Flute (2)
Joe Farrell : Oboe (2)
Graham Lyons : Bassoon (2)
John Cale : Viola (5)

Benny Carter : Arragement (1)
Amos Garrett : Vocal Arragement (1)
Geoff Muldaur : Woodwind Arragement (2), Arragement (4,8) String Arragement (5)
Harry Robinson : Arragement, Conductor (4)
Hershael Holder : Horn Arragement (5)
Howard Johnson : Horn Arragement (6)

[Side A]
1. Livin' In The Sunlight (Lovin' In The Moonlight) [Al Sherman, Al Lewis]
2. Gee Baby Ain't I Good To You [Don Redman, Andy Razaf]
3. 99 1/2 [Dorothy Love Coates]
4. I Want To Be A Sailor [Miklos Rozsa, Robert Denham]
  Why Should I Love You ? [Geoff Muldaur]

[Side B]
5. Higher & Higher [Raynard Miner, Carl Smith, Gary Jackson]
6. Wondering Why [Merl Sanders, Pam Carrier]
7. Jailbird Love Song [Walter Vinson]
8. High Blood Pressure [Huey 'Piano' Smith, John Vincent]
9. Tennessee Blues [Bobby Charles]

Joe Boyd : Producer
John Wood : Engineer

Recorded at A&R Studios, New York

注)赤字がマリア参加した曲、および曲のミュージシャン


1974年のマリアのファーストアルバムの対をなすジェフ・マルダー (1943- )のソロアルバム。彼にとっては、1963年の「Sleepy Man Blues」に続く久しぶりのソロアルバムとなる。フォーク、ジャグ、ブルースに飽き足らずに、ジャズやポピュラーまで掘り下げようとするジェフの姿勢は、様々な音楽を尊重し、そこから新しいスタイルを創出しようとする当時の音楽界の風潮を物語る作品だ。今の世の中では、いろんなミュージシャンが、時代の流行に左右されない自己のスタイルを持ち、マイナーレーベルから作品を発表できる環境にあるが、当時このような作品が粋と見なされて大手のレコード会社から発売されたなんて、今から考えると本当に野心的な事なのだ。マリアのインタビューによると、当時はジェフ・アンド・マリアとしてのレコード契約が残っており、マリアのデビューアルバムと本作は、そのもとで製作されたという。プロデューサーはジェフ・アンド・マリアのアルバム、マリアのデビューアルバムと同じジョー・ボイド。スウィング・ジャズ、モダン・ジャズ、ゴスペル、ハリウッド映画音楽、R&B、ジャグ、ニューオリンズなど、本当に幅広い音楽が取り上げられ、しかもそのどれもが奥深いもので、アメリカン・ミュージックの万華鏡のような作品だ。

マリアが参加した作品は2曲。7.「Jailbird Love Song」はウォルター・ヴィンソンが1930年にミシシッピー・シークスというストリング・バンドで録音した作品で、オリジナルに近いジャグバンド・スタイルで演奏される。ジェフはブルース・マンドリンを弾き、マリアはフィドルで参加、ジム・クウェスキン・ジャグバンドの仲間フリッツ・リッチモンドがジャグを吹いている。9.「Tennessee Blues」は、ニューオリンズのミュージシャン、ボビー・チャールズの曲で、フォーキーな感じのブルース。彼が1972年に発表したソロアルバム「Bobby Charles」に収められていて、そこではエイモス・ギャレットのギターがフィーチャーされている。ここでリード・ギターを弾いているのは、イギリスのトラッド・ロックの雄フェアポート・コンベンション、およびソロ活動で有名なリチャード・トンプソン (1949- )。彼の参加は、以前イギリスでフェアポートの作品をプロデュースしたプロデューサー、ジョー・ボイドの人脈からだろう。地味な演奏であるが、スティールギターを思わせる音色には深い味わいがある。マリアは一人娘のジェニーと一緒にバックボーカルで参加。この曲が録音された頃は夫婦関係は既に破綻していたはずで、録音時にどういう状態にあったか知る由もないが、この曲を聴く限りにおいては家族の絆みたいなものが感じられ、いっそう強烈な悲哀感を覚える。

好きな作品なので、マリアが不参加の他の曲についても解説する。1.「Livin' In The Sunlight」は1930年、モーリス・シェバリエが映画「Big Pond」で歌い、ビング・クロスビーも吹き込んだスウィングジャズの曲。巨匠ベニー・カーターのビッグバンド・アレンジは、マリアの「Waitress In A Donut Shop」と同時期に作業したんじゃないかな?エイモス・ギャレットのボーカル・アレンジも面白く、昔の曲に新しい魂を吹き込んでいる。 マリアが好んで取り上げるジャズ・スタンダード曲 2.「Gee Baby Ain't I Good To You」は木管楽器のアレンジがモダンな雰囲気で、洗練されたクールなムード。エイモス・ギャレットのギター・ソロが最高。ここではジャズ・ベースの巨匠ロン・カーターのプレイを聴くことができる。3.「99 1/2」はゴスペル音楽のドロシー・ラブ・コーツ(1930〜2002)の作品で、コーラス隊との共演。4.「I Want To Be A Sailor」は、1940年のハリウッド映画「The Thief Of Baghdad」(アレキサンダー・コルダ監督)で、サブー扮する主人公が語るように歌う曲で、映画音楽の巨人ミクロス・ローザ のスコアによるもの。オーケストラを使用した贅沢な録音で、ジェフの歌もファンタスティックだ。そのままメドレーでジェフ作曲による「Why Should I Love You ?」に移るが、ハリウッドからブルースに切り替わるアレンジは魔術のように鮮やか。5.「Higher & Higher」はジャッキー・ウィルソン1967年のR&B ヒット曲(全米6位)で、1967年にリタ・クーリッジでリバイバルヒット(全米2位)した。6.「Wondering Why」はジェリー・ガルシアやマリアと親交があるマール・サンダーズの作品。8. 「High Blood Pressure」は、ニューオリンズ・スタイルのR&B 1965年の作品。マリアの「Sweet Harmony」に参加していたジェームス・ブッカーのピアノが楽しめる。

マリアのソロアルバム(1〜3枚目)の姉妹作といえる内容の作品。より通好みの内容なので、一般受けはしなかっただろうな。


[2009年2月作成]


E35 Be True To You  1976  Eric Andersen  Arista

E34 Be True To You

Eric Andersen : Electric Piano, Vocal
Scott Edwards : Bass
Tim Hensley : Piano
John Guerin or Russ Kunkel : Drums
Gary Coleman : Percussion
Emanuel Moss : Concert Master And First Violin
Maria Muldaur : Back Vocal

1. Love Is Just A Game


エリック・アンダーセン(1943- )は日本では、高石友也が日本語の訳詩で歌った「おいで僕のベッドに」の作者として有名だ。この曲は1965年のデビュー作「Today Is The Highway」に収録されていた「Come To My Bedside」で、本国での知名度が低かったのは意外だった。弾き語りスタイルによるディラン・チルドレンの一人としてスタートした彼は、フォーク歌手としてはロマンチックな作風だったようで、1970年代にシンガー・アンド・ソングライターとしての地位を獲得する。それでもポエティックで内省的なスタイルを保ち、音楽的な素朴さを残しながら、むしろカントリー音楽に近い線で現在も元気に活動している。彼の最高傑作は1972年の「Blue River」とされるが、本作はその次に発表されたアルバムで、その分割りを食ったようで一般的な評価は低い。洗練された感じの曲もあるが、彼自身のギターを中心とした伴奏で、じっくり聞かせる曲に持ち味が出ている。

本作は曲毎のクレジットの表示がないので、どのミュージシャンが参加しているか正確には特定できないが、バックコーラスの記述に関しては、レコードのA/B面ごとの登場順「in the order of their appearance」となっているのが面白い。ジャクソン・ブラウン、ジョニ・ミッチェルなどの名前の後、B面参加者の最後にマリアの名前が記載されていた。その事実を考慮のうえ、B面の各曲を聴きこむことにより、最後の曲 1.「Love Is Just A Game」をマリア参加曲とした。ここではエリックは、エレキピアノ(フェンダー・ローズ)を弾いているようで、彼のアコギや他の曲に参加しているディーン・パークスのエレキギターの音は聞こえない。ピアノとストリングスが中心のサウンドで、マリアのボーカルはコーラス部分で聞える。リミックスの段階で深いエコー処理をされたようで、バックの演奏に溶け込んで少々判りにくいが、よく聴くと彼女の声かなと納得する感じだ。

本作は前述のとおり評価がイマイチだったこともあり、CD化されていない。その代わりに曲の一部が、次作の「Sweet Surprise」(1976)やビターエンドでのライブからセレクトされた曲と一緒に、1997年発売のベスト盤「Collection」に収録された。本曲も当該CDに入っている。


[2009年5月作成]


E36 Stampede   1975  The Doobie Brothers  Warner Brothers

E35 Stampede


Patrick Simmons : Guitar, Lead Vocal
Tom Johnston : Guitar, Vocal
Jeff Baxter : Guitar
Tiran Porter : Bass, Vocal
John Hartman : Drums
Keith Knudsen : Drums, Vocal

Bill Payne : Keyboards
Conte Candoli, Pete Candoli : Trumpet

Nick DeCaro : Strings Arrangement
Ted Templeman : Producer

1. I Cheat The Hungman [Patric Simmons] 


ドゥービーブラザースといえば、マイケル・マクドナルドが加入した後のブルーアイドソウルのスタイルが現在では一般的なイメージと思われるが、元はトム・ジョンストン (1948- )が中心となった疾走感溢れるウェストコースト・ロックのサウンドが売り物だった。当初は、1972年の「Listen To The Music」 (全米11位)、1973年の「Long Train Runnin'」(同8位)、「China Grove」(同15位)というヒット曲を連発して人気バンドの地位を確立。そして当初シングルB面として発売されたパット・シモンズ (1943- )作の「Black Water」が、1974年に全米1位を獲得し、彼等のルーツ音楽的な側面も認められるようになり、名作を作ろうという意欲で取り組んだのが本作である。ヒット曲を出すよりもアルバム全体の仕上がりに重点を置き、曲作りやアレンジも大変凝ったもので、スケールが大きな作品に仕上がった。今聞くと「大作」を意識したプロデュースが気になる点もあるが、当時の彼等の熱い気持ちを考えると、その心意気を尊重してあげるべきだろう。

ここではパット・シモンズ作の1. 「I Cheat The Hangman」にマリアがゲスト参加している。パットの作品らしく、フォーク、ルーツ音楽の香り漂う作品で、魂の渇きを描いた内省的な歌詞がやや抽象的で、その分イメージが広がってゆく。スリーフィンガー・ピッキングのエレキギターを伴奏に、最初はパットがソロで歌い、コーラス部分でマリアのボーカルが影のように寄り添う。エコー等のミキシング処理が施されており、ちょっと聴いただけでは彼女の声とは判別できない。また彼女は、他のグループメンバーによるバックコーラスにも加わってると思われるが、皆の声が混じり合っているので判別できない。後半は内面の焦燥を象徴するかのように、ストリングスやトランペットを大胆にフィーチャーした、ハードで壮大なプログレッシブ風エンディングとなる。ここでのアレンジは名手ニック・デカロだ。

トム・ジョンストンを中心とした初期ドゥービー・ブラザース最後の作品であり、純粋な動機をもって大作やプログレッシブに憧れた70年代ロックの姿を体現した作品だ。

[2009年5月作成]


E37 Takin' It To The Street   1976  The Doobie Brothers  Warner Brothers

E36 Takin' It To The Street

Patrick Simmons : Guitar, Lead Vocal
Tom Johnston : Guitar, Vocal
Jeff Baxter : Guitar
Michael McDonald : Keyboards, Vocal
Tiran Porter : Bass, Vocal
John Hartman : Drums
Keith Knudsen : Drums, Vocal
Maria Muldaur : Vocal

The Memphis Horns
Wayne Jackson, Andrew Love, James Mitchell, Lewis Collins, Jack Hale: Horns

1. Rio [Patrick Simmons, Jeff Baxter]

Ted Templeman : Producer


本作は、マイケル・マクドナルド (1952- )が加入したドゥービー・ブラザース最初の作品で、その後脱退する初期メンバー、トム・ジョンストンもメンバーに連ねる過渡期のアルバムだ。ここにはタイトル曲で、1979年の原子力発電反対コンサート「No Nukes」のハイライトにもなった「Takin' It To The Street」や、カーリー・サイモンも録音した「It Keeps You Runnin'」というマイケルの有名曲が入っている。マリアの声が入っている 1.「Rio」を聴いてびっくり! 洗練されたサウンド、メンフィス・ホーンによるど根性ブラスセクションを含む完璧なアンサンブル、コーラスは、スティーリー・ダンじゃあ!。そういえばジェフ・バクスター、マイケル・マクドナルドは、スティーリーと縁が深い人達だったなあ〜。パーカッションに依存せず、ダブルドラムスとベース、ギターのリズム・カッティングとエレクトリック・ピアノでもって、しっかりラテンしているのが凄いところ。間奏部分でギターがアントニオ・カルロス・ジョビンの「Meditation」の一節をさらっと弾く遊びも洒落ている。

歌詞自体は、都会のストレスに疲れた男がリオ・デ・ジャネイロに行って命の洗濯をするという他愛のない内容で、マリアはベンツの運転席から「乗ってかない?」と男を誘う、リオのオネエチャンの役で登場、セクシーな声の魅力がフルに発揮されていて悪くないのだ。一言歌うだけのカメオ・パフォーマンスであるが、マリアのファンにとっては、それだけでも価値がある。 

70年代後半のロックは、ソウル、ダンスなどの音楽要素を取り込んで洗練度を増す一方で、本来の純粋さを失い、80年代のシンセサイザーのピコピコ・テクノまたは、破壊的なパンクロックに飲み込まれてしまう。その過程の中で、キラっと光り輝いた作品と位置づけることができる。


E38 Mike Finnigan  1976   Michael Finnigan  Warner Brothers

E37 Mike Finnigan


Michael Finnigan : Vocal, Keyboards
Maria Muldaur : Vocal
Pete Carr, Jimmiy Johnson, Amos Garrett : Guitar
Barry Beckett : Keyboards
Johnny Gimble : Fiddle
David Hood : Bass
Roger Hawkins : Drums
Tom Roady : Percussion
Suszy Storm, Barbara Wyrick, Ava Aldridge : Back Vocal

[Muscle Shoals Horns]
Harrison Calloway : Trumpet
Harvey Tompson : Tenor Sax
Ron Eades : Baritone Sax
Charles Ross : Trombone

Jerry Wexler : Producer

1. Southern Lady [Mike Hazelwood]
2. Holy Cow [Allen Toussaint]
3. Mississippi On My Mind [Jesse Winchester]


マイク・フィニガン (1945-2011)は、初めてのレコーディング・セッションがジミ・ヘンドリックスの「Electric Ladyland」1968というスゴイ人。その後も、彼のエモーショナルなオルガンプレイは、デイブ・メイソン、マリア・マルダー(「Sweet Harmony」1976 M4, 「Southern Wind」1978 M5)、CSN、ボニー・レイット、ビッグブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー、ロッド・スチュワート、ジェニファー・ワーンズ、リンゴ・スター、マンハッタン・トランスファーなど多くの録音にフィーチャーされている。さらにデイブ・メイソンやマリアのバックバンドの一員としてライブに出演し、オーディエンスの度肝を抜くソウルフルなボーカルを聞かせてくれた。1976年3月のマリアのボトムラインの音源(「映像・音源」の部参照)がその模様を物語っている。その後はタージ・マハールのバックバンドから発展したファントム・ブルース・バンドの一員として活動した。そんな彼がワーナーに吹き込んだ本作は、リーダーアルバムとしては、ジェリー・ウッドとのデュオ「Crazed Hipster」1972 に続く2枚目の作品だ。当時彼は、マリアのバックバンドで重要な役割を担っていたこともあり、本作の制作決定にあたっては、彼女の口利きがあったようだ。プロデューサーは、アトランティック・レコードで、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット、ドニー・ハザウェイ等の名作を手がけたジェリー・ウェックスラー。バックは無敵のマッスル・ショールズ・スタジオのミュージシャンが参加している。

マリアは11曲中3曲に参加。1.「Southern Lady」はサザンロック風のアレンジで、フィドルとドブロが鳴っている。ベース、ドラムスのリズムセクションは、さすがマッスル・ショールズといえるグルーヴだ。2.「Holy Cow」は、ニューオリンズの作曲家、ミュージシャンであるアラン・トゥーサンの作品で、同地のR&B歌手リー・ドーシー(1924-1986)による 1966年全米23位のバージョンがオリジナル。ここでは味のある演奏をバックに、マイクとマリアによる素晴らしいデュエット・ボーカルが満喫できる。マリアは主にハーモニーを担当。 3.「Mississippi On My Mind」は、「Will The Circle Be Unbroken」に似た感じの素朴な曲で、渋好みのシンガー・アンド・ソングライター、ジェシー・ウィンチェスターの曲。アコースティック・ギターやドブロ、フィドルによるカントリー音楽風伴奏をバックにマイクが切々と歌う。マリアの声は最初のヴァースのバックボーカルではっきり聞き取れるが、中盤以降は他の人々の歌声のなかに溶け込んでしまう。

作品としては、彼得意のR&B曲以外に、オーケストラをバックにシナトラ風に歌う曲や、ビリー・ジョエルの名曲「New York State Of Mind」の都会風サウンド(エイモス・ギャレットのギター伴奏を聴くことができる)、ニューオリンズ風のアレンジなど様々なスタイルの曲があり、変化に富んだ内容となっている。しかしその反面、セッション・ミュージシャン風な器用さが災いして、結局彼のイメージを出し切れなかった感じもする。やはりコテコテのR&Bが彼の持ち味なのだ。しかし彼は黒人シンガーとは異なり、それだけを売り物にして押しまくるわけにはいかないし、本来ステージで最大限に発揮される持ち味をレコードの中に閉じ込めるには大変難しいことは明白。そういう意味で本作は、白人ブルース・アーティストのジレンマを抱えた人としての評価になってしまうと思う。

いろいろ書いたけど、本作に収録された各曲を聴く限り、作為的雰囲気は感じられず、本人を含め製作に携わった人々の音楽に対する愛情が伝わってくる作品で、その純粋さが一番の魅力だと思う。

[2009年7月作成]

[2021年12月追記]
マイケル・フィニガン氏は、2021年8月11日、肝臓がんのため亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。


E39 Hog Heaven  1978   Elvin Bishop  Capricorn


E38 Hog Heaven

Elvin Bishop : Vocal, E. Guitar
Maria Muldaur : Lead Vocal (1), Back Vocal (2,3)
Amos Garrett : Lead Guitar (1), E. Guitar, A. Guitar, Coral Sitar
Melvin Seals, Phil Aaberg : Keyboards
Applejack : Harmonica (3)
Maurice Cridlin : Bass
Scott mathews : Drums

Jerry McKinney, Terry Hanck, Danny Armstrong, Jules Broussard : Horns
The Gospel Clouds (Gerald Dayce, Leonard Lothlen, Hymes Hollis Jr., Chaeles Holland) : Back Vocal

Elvin Bishop : Producer

1. It's A Feelin' [Elvin Bishop]
2. True Love [Elvin Bishop]
3. Let's Break Down [Applejack]


エルヴィン・ビショップ (1942- )は、子供時代をアイオワ、オクラホマ州の田舎で過ごし、ラジオでブルースに夢中になったという。そんな彼は奨学金でシカゴ大学に入学し、現地のブルースシーンにどっぷり浸かる事になる。その結果大学を中退して、友人のポール・バターフィールドとブルースバンドを結成し活躍するが、1968年に独立してソロ活動を始める。全盛期は南部サウンドの雄カプリコーン・レーベルに移籍して発表した「Let It Flow」1974、「Juke Joint Jump」1975、「Struttin' My Stuff」1975 の3作で、「Struttin'」に収録された「Fool Around And Fell In Love」は、後にスターシップで成功したミッキー・トーマスの魅力的なボーカルもあって、全米3位の大ヒットとなった。その後は一般的な人気は下降したが、ブルース音楽界で息の長い活動を続けている。本作は彼が1978年に出した6枚目のアルバムで、ダサイ格好をしたエルヴィンが田舎の牧場の柵の中で、ダサイギターを持って野ブタにバドワイザーをあげているジャケット写真が傑作。この人の気取らない性格がモロに出ており、それは音楽性も同じだ。

バンドのボーカリストだったミッキー・トーマスがいなくなったため、本人が歌う他、数曲でゲストを招き歌わせており、マリアは3曲に参加している。1.「It's A Feelin'」はシングルヒットを狙った曲と思われ、親しみやすいメロディーと明るい感じであるが、底に流れるR&Bフィーリングが何とも心地よい曲だ。エルヴィンのリードボーカルにマリアがハーモニーを付ける。間奏のソロはエイモス・ギャレット。彼の参加で本作は両者のギターバトルが楽しめるかと思いきや、他の曲でもエイモスがリードを任される場面が多く、エルヴィンはゲストを引き立てているようだ。2.「True Love」は、より一般受けを狙った感じのポップな曲で、後のディスコやテクノに繋がる70年代後半のチャカチャカした細かいリズムで演奏されている。エイモスはここではコーラル・シタール(ギターの形に近い楽器でシタールの音が出せるもの)を弾いている。マリアがリードボーカルをとっているが、曲が少し軽いかな?残念ながらチャート入りはしなかったようだ。

バックバンドについて簡単に解説する。ドラムスのスコット・マシューズは、その後ソングライターやプロデューサーとしても活躍、ジョン・リー・フッカー、バーバラ・ストレサンド、トッド・ラングレン、エルヴィス・コステロ、ジョン・ハイアットなどの作品に参加、マリアの娘ジェニーの旦那さんだった人(その後離婚)。キーボードのメルヴィン・シールズはジェリー・ガルシア・バンドで長く活躍、フィル・アーバーグは、マリアの「Southern Wind」1978 M5や、トム・ジョンストンなどの他、ウィンダムヒル・レーベルでニューエイジ音楽のソロアルバムを出すという芸域の広い人だ。3.「Let's Break Down」はよりブルージーな曲で、エルビンとマリアの二人のボーカルがじっくりかみ合っている。ここでもエイモスのシタールが聞こえる。

マリア非参加ではあるが、エイモスのソロが楽しめる曲もある。エルヴィン本人もギターソロを聴かせるているが、あまり強烈なインパクトはない。全体的に軽い感じではあるが、酒を飲みながらリラックスして聴くには程好い音楽だ。

[2009年7月作成]


E40 Cats Under The Stars  1978  Jerry Garcia Band   Arista 

E39 Cats Under The Stars

Jerry Garcia : Guitar, Vocal
Keith Godchaux : Piano, Back Vocal
Merl Saunders : Organ
John Kahn : Bass, Keyboards, Guitar
Ron Tutt : Drums, Percussion
Dona Jean Godchaux : Back Vocal, Vocal (3)
Maria Muldaur : Back Vocal, Vocal (3)


1. Love In The Afternoon [John Kahn, Robert Hunter] E41 E44
2. Gomorrah [Jerry Garcia, Robert Hunter] E41 E42 E44 E150
3. I'll Be With Thee [Dorothy Love] E41 E42 E44 E150

Recorded & Mixed at Club Front, San Rafael, CA, from August to November 1977


当時マリアはベーシストのジョン・カーン(1947-1996)と恋愛関係にあり、彼がメンバーだったジェリー・ガルシア・バンドのコンサートによく顔を出し、ステージでタンバリンを叩いていたという。そして本作の録音に参加した他に、1977年11月から1年間、バックボーカリストとしてコンサートツアーに参加することになる。ジェリー・ガルシア (1942-1995)は、グレイトフル・デッドでの活動以外に様々な音楽活動を行ったが、そのひとつであるジェリー・ガルシア・バンドはジョン・カーンのベースを不動のメンバーとして、1975年から20年続いた。1976年1月から本作制作時までは、当時グレイトフル・デッドのメンバーでもあったキースとドナ・ゴッドショウ夫妻、エルヴィス・プレスリー晩年のバンドでドラムスを務めて名声を獲得したロン・タット(マリアのアルバム M6、M7にも参加)がメンバーだった。本作は、ガルシアが個人的にも親しかった人々と一緒に作った手作り的な雰囲気がある作品だ。ガルシアにとっても愛着があったようで、「最も出来の良い作品」と本人は語っているが、残念なことに商業的には売れずに失敗作となった。作詞家のロバート・ハンターとの共作によるオリジナル作品が中心で、バンド名義でありながらシンガー・アンド・ソングライターのソロ作品のようなムードがあり、ガルシアのギタリスト、パフォーマーとしてのイメージとの間にギャップが生じたためだろう。

アルバムを通して聴くと女性のコーラスが結構入っていて、マリアかな?と思わせる部分がかなりあるけど、大半はドナ・ゴッドショウが歌っているとのことで、彼女の声はマリアによく似ている。マリアの名前がクレジットに明記されたオリジナル・アルバム収録曲は8曲中2曲。1. 「Love In The Afternoon」はジョン・カーン作曲で、ロバート・ハンターの歌詞は当時のジョンとマリアのアフェアーの事を描いているようにも思える。レゲエ調のリズムの背後に流れるオルガンの音はマール・サンダースかな?リラックスした演奏で、ガルシアの緩い感じのギターがいい味を出している。ドナとマリアの二人は、ララララというバックコーラスを担当。2.「Gomorrah」もスローで落ち着いた感じの曲で、タイトルの「ゴモラ」は、聖書で神の怒りを買って焼き尽くされた都市ソドムとゴモラのこと。ここではバックコーラスは、ブリッジの部分で歌詞も歌っている。

3.「I'll Be With Thee」は、後年発売されたCDにボーナストラックとして収録された未発表トラックで、当時ゴッドショウ夫妻とガルシアがプライベートで聴き込んでいたというゴスペル曲のひとつ。作者のドロシー・ラブ・コーツ(1930-2002)は、ゴスペル音楽が後に洗練されて商業化する前の、教会音楽という本来のスタイルで歌っていた人だ。その音楽は伝統音楽を愛する白人のミュージシャンに大きな影響を与え、マリアもゴスペルに対し深い愛着を持っており、1980年には「Gospel Nights」 M7というアルバムを出している。ここではドナとマリアがメインで歌い、ガルシアがハーモニーをつけている。かなり荒っぽい演奏であるが、素朴な味が原曲の良さを引き立てている。後のコンサートツアーのためのリハーサルとして演奏したものと思われる。

[2009年8月作成]


E41 Pure Jerry Warner Theatre March 18, 1978  2005  Jerry Garcia Band Jerry Garcia Estate


E40 Pure Jerry Warner Theatre March 18, 1978

Jerry Garcia : Guitar, Vocal
Keith Godchaux : Piano, Back Vocal
John Kahn : Bass
Buzz Buchanan : Drums
Dona Jean Godchaux : Back Vocal, Vocal (13)
Maria Muldaur : Back Vocal, Vocal (13), Tambourine (6)

[Early Show]
1. I Second The Emotion [Al Cleveland, Smokey Robinson] E42 E44
2. They Love Each Other [Robert Hunter, Jerry Garcia]
3. Knockin' On Heaven's Door [Bob Dylan]
4. That's What Love Will Make You Do [Henderson Thigpen, Eddie Marion, James Banks]
5. Love In The Afternoon [Robert Hunter, Jerry Garcia]  E40 E44
6. Mystery Train [Herman Parker, Sam Phillips] E43

[Late Show]
7. The Harder They Come [Jimmy Cliff] E44
8. Mission In The Rain [Robert Hunter, Jerry Garcia] E42 E44
9. Simple Twist Of Fate [Bob Dylan]
10. Midnight Moonlight [Peter Rowan] E44
11. Gomorrah [Robert Hunter, Jerry Garcia]  E40 E42 E44 E150
12. Cats Under The Stars [Robert Hunter, Jerry Garcia] E44
13. I'll Be With Thee [Traditional]  E40 E42 E44 E150
14. Lonesome And A Long Way From Home [Bonnie Branlett, Leon Russell] E44
15. Palm Sunday [Robert Hunter, Jerry Garcia]

Recorded Mar 18, 1978 at Warner Theatre, Washington D.C.

注 2005年発売、CD2枚組み、9.はマリア非参加


当時の恋人ジョン・カーンがメンバーだったジェリー・ガルシア・バンドのレコーディングにゲスト参加したマリアは、バンドへの加入を勧められ、 1977年11月から約 1年間参加した。ゲストではなく、バックボーカリストとしてバンドの一員になりきっており、ドナ・ゴッドショウと歌うゴスペル曲のカバー 13.「I'll Be With Thee」を除いて、サポート役に徹している。メンバーは、ドラマーのロン・タット以外は「Cats Under The Stars」と同じで、セッションドラマーのバズ・ブキャナンは、アルバート・ハモンド、マイケル・マーフィー、ジャッキー・デシャノン等の作品に参加したが、別のキャリアを目指したため音楽界からは早めに引退したようだ。ガルシアがコンサートの録音に関して寛容だったために、グレイトフル・デッドを含め数多くの音源が残されたが、そのなかでも音質・演奏の出来の良いものがセレクトされ、彼の死後公式発売されている。ジェリー・ガルシア・バンドを含む彼のソロ活動については、「Pure Jerry」というタイトルでこれまで9作(2009年夏時点)が発売されていて、本作はそのなかの第6作目にあたり、当日のコンサートの模様そのままを楽しむことができる。このバンドでのガルシアは、グレイトフル・デッドとは異なり、オリジナル作品の他に自分が好きな曲を取り上げ、気に入った仲間達と一緒に、自由気ままにギターを弾きまくっているようだ。

1.「I Second The Emotion」はスモーキー・ロビンソンとミラクルズ 1967年のヒット(全米4位)で、1968年にはダイアナ・ロスとシュープリームスが、ザ・テンプテイションズとの共演盤でカバー、その他マンハッタン・トランスファー、マイケル・マクドナルド、キキ・ディー等による録音がある。ガルシアはこのようなR&Bを取り上げて、原曲に敬意を表しながら自分色に染め上げている。ギターとピアノがほぼ対等にインプロヴィゼイションを担当し、ドラムスとベースはそれに絡む感じ。特筆すべき点として、ギターとベースは長年行動を共にしただけあって、その阿吽の呼吸が感じられるインタープレイは大変魅力的。キーボードの饒舌なプレイも、ガルシアの相手として最適だ。演奏時間が8分を超える曲が多く、アンサンブルできちっと演奏されるテーマ部分と、ジャムセッション風の自由な雰囲気の間奏部分とのバランスが絶妙。バックコーラスは、主にコーラスパートのサポートを受け持ち、マリアは高音部分を歌っている。2.「They Love Each Other」は、ハンター作詞・ガルシア作曲によるオリジナル作品で、ガルシアのソロアルバムの3作目「Reflection」 1976からのレパートリー。ガルシアの風邪をひいたトラ猫のようなヴォーカルは、それなりに味があるね。ボブ・ディランが映画「Pat Garrett & Billy The Kid」1973 のサウンドトラックで発表した名曲 3. 「Knockin' On Heaven's Door」は、レゲエ風にアレンジされ面白い。ガルシアのフェイバリット・ナンバーだったようで、デッドでもよく演奏され、ライブアルバム 「Dylan & The Dead」1989の共演盤にも収録された。それにしてもガルシアのギターの独特な音使いは最高で、ジャンゴ・ラインハルトに通じる感性は誰にも真似できないものだ。その彼が時間を気にせずに思うまま弾きまくることができるライブは彼にとって最高の自己表現の場だったといえる。4.「That's What Love Will Make You Do」は、1974年のソロアルバム「Garcia」に収められていた曲で、リトル・ミルトン(1934〜2005)によるクールなR&B(1972年 59位)のカバー。ベースのリフがかっこいい。5.「Love In The Afternoon」は、スタジオ録音とほぼ同じ感じの演奏。6.「Mystery Train」はバックコーラスはなく、マリアは得意のタンバリンを叩く。作者のジュニア・パーカーが1953年にサン・レコード2枚目のシングルとして録音したのがオリジナルで、後の1955年にレーベル・オーナーのサム・フィリップスが若きエルヴィス・プレスリーにこの曲を薦め、同レーベル5枚目のシングルとして発売され、ロックンロールのクラシックとなった。機関車を思わせるリズムをバックに展開されるガルシアのギターソロが圧倒的で、淀みなく溢れるように飛び出すフレーズは天才としかいいようがない。

7.「The Harder They Come」はジミー・クリフの作品で、彼が主演し歌った同名の映画(1975)は、世界にジャマイカとレゲエ音楽を認知させることとなった歴史的な曲。ここでは普通のロックのリズムで12分を超える熱演となっている。8.「Mission In The Rain」からCDの2枚目となる。この曲は「Reflection」がオリジナル録音。ディランの名曲 9.「Simple Twist Of Fate」は、バックコーラスは入らず、マリア非参加。10.「Midnight Moonlight」は、ガルシアがピーター・ローワン、デビッド・グリスマン、ヴァッサー・クレメンツ、ジョン・カーンと結成したブルーグラスのグループ、オール・イン・ザ・ウェイの同名の唯一のアルバム(1973)に収められていた曲で、そこではガルシアはバンジョーを弾いていた。その他、ニューライダーズ・オブ・ザ・パープル・セイジやローワン3兄弟によるアルバム「Rowans」1975にも収録された。 11.「Gomorrah」、12.「Cats Under The Stars」は前作E40からであるが、12.のスタジオ録音にはマリアは参加していない。13.「I'll Be With Thee」は、マリア、ドナがメインで歌いガルシアがハーモニーを付ける曲で、マリアのリードボーカルが聴ける唯一の歌だ。E40のボーナストラックの時よりも手馴れた歌唱になっている。 14. 「Lonesome And A Long Way From Home」は20分近くに及ぶ長い演奏で、原曲はデラニー・アンド・ボニーのボニー・ブラムレットとレオン・ラッセルによる作品。アフターステージの内輪のジャムセッションを再現し、多くの豪華ゲストが参加したデラニー・アンド・ボニーのアルバム「Motel Shot」(1971)、およびクリーム解散後のエリック・クラプトンの初ソロアルバム「Clapton」(1971)に収められている。この曲にはフリーでサイケデリックな感じの間奏部分がある。15.「Palm Sunday」は、ハンターとガルシアのオリジナル作品で、前作「Cats Under The Stars」に収録されていた。ライブで演奏されるのは珍しい。

ジェリー・ガルシアは、その後もグレイトフル・デッド以外およびガルシア・バンドなどのサイドプロジェクトでも活躍したが、長年の麻薬常習が体を蝕み、1995年に53歳の若さで死去。ジョン・カーンも1996年に薬物が原因で死亡した。ピアノのキース・ゴッドショウは1980年に交通事故のために死亡したが、奥さんのドナ・ゴッドショウは健在で、シンガーとしても今も活躍中。マリアがバック・ボーカリストとしてコンサートに参加し、ほとんどすべての曲で歌ったという意味で、彼女のキャリアとしては珍しい音源。このバンドによるライブ音源は数多く存在し、愛好家の間で出回っている。

[2009年9月作成]


E42 Pure Jerry San Francisco Bay Area 1978  2009  Jerry Garcia Band Jerry Garcia Estate

E41 Pure Jerry San Francisco Bay Area 1978

Jerry Garcia : Guitar, Vocal
Keith Godchaux : Piano, Back Vocal
John Kahn : Bass
Buzz Buchanan : Drums
Dona Jean Godchaux : Back Vocal, Vocal (11)
Maria Muldaur : Back Vocal, Vocal (11)

1. Mystery Train [Herman Parker, Sam Phillips]
2. Catfish John [Bob McDill, Alan Reynolds]
3. I Second The Emotion [Al Cleveland, Smokey Robinson] E41 E44
4. Mission In The Rain [Robert Hunter, Jerry Garcia] E41 E44
5. Don't Let Go [Jesse Stone]
6. Tore Up Over You [Hnak Ballard]
7. Simple Twist Of Fate [Bob Dylan]
8. The Way You Do The Things You Do [Wlliam Robinson, Robert Rogers]
9. Let Me Roll It [Paul McCartney]
10. Gomorrah [Robert Hunter, Jerry Garcia]  E40 E41 E44 E150
11. I'll Be With Thee [Traditional]  E40 E41 E44 E150
12. Lonesome And A Long Way From Home [Bonnie Branlett, Leon Russell]

Recorded Feb 18, 1978 at Veterans Memorial Auditorium (1,2,12)
       Feb 19, 1978 at Santa Cruz Civic Auditorium (3,4,5,7,8)
       Jun 10, 1978 at Keystone, Berkeley (6)
       Jun 18, 1978 at Keystone, Palo Alto (9,10,11)

注 2009年発売、CD2枚組み、1.2.7.12はマリア非参加


2009年に発売されたピュア・ジェリー・シリーズの9作目は、1978年にジェリー・ガルシア・バンドがアメリカ西海岸のカリフォルニア州で行ったコンサート音源を集めたものだ。当時の演奏はオーディエンス録音も含めて数多く残されているが、ここでは複数のサウンドボード録音から出来の良いものを選んだようだ。上記4つのコンサートのうち、2月18日のベテランズ・メモリアル・オーディトリウムについては、理由は判らないがマリアは不参加。ドナとマリアの声はよく似ていて、聴き分け難しいが、コンサートの模様を録音した他の音源で本作以外のを聴くと、ドナの声であることがわかる。そのため 1.「Mystery Train」では、マリアが叩くタンバリンの音は聴こえない。

本作における演奏の全体的な雰囲気は「Pure Jerry Warner Theatre March 18, 1978」E41 と同じなので、以下同作と重複しない曲について解説する。2.「Catfish John」は、カントリー音楽界の歌手・作曲家のジョニー・ラッセル(ビートルズがカバーした「Act Naturally」の作者としても有名)が歌った曲 (1972年初出)。マリアは、同時期の他のコンサートではバックコーラスとして、この曲で歌っているが、ここでは前述の通り彼女は不参加。5.「Don't Let Go」は、カントリー・ロックのコマンダー・コディー・アンド・ヒズ・ロスト・プラネット・エアマンの曲(1975年全米56位)。私はマンハッタン・トランスファーの演奏で初めてこの曲を聴いた。オリジナルは、たたみかけるようなドライブの効いたリズムが売り物の曲なんだけど、ここではエリック・クラブトンの「Willie And The Hand Jive」のようなセカンドラインのリズムによるリラックスしたプレイだ。途中フリーフォーム・インプロヴィゼイションを含み、演奏時間 30分弱におよぶ大作。6.「Tore Up Over You」は、ジェイムス・ブラウンに影響を与えたというハンク・バラード(1927-2003) のグループ、ザ・リフレクションズが歌ったR&B(1956年初出)。ロカビリー・シンガーであるスリーピー・ラビーフのレパートリーでもある。ブギー調のリフが軽快で、バックボーカルもばっちりフィーチャーされる。8.「The Way You Do The Things You Do」はスモーキー・ロビンソンの曲で、ザ・テンプテイションズ初めての全米ヒット曲だ(1964年 11位)。その後リタ・クーリッジやホール・アンド・オーツもカバーしている。ここではジェリー、ドナ、マリアの3人が掛け合いで歌うシーンもあり、楽しさいっぱいの好演。9.「Let Me Roll It」は、ポール・マッカートニー・アンド・ウィングスのアルバム「Band On The Run」1973 に収められていたスローでソウルフルな曲。ここでは3人が始終合唱で歌う。

マーヴィン・ゲイの曲でジェイムス・テイラーのカバーが有名な「How Sweet It Is」など、当時のコンサートのレパートリーで未収録の曲もあるが、E41と合わせると、ジェリー・ガルシア・バンドにおけるマリアのライブ・パファーマンスの大半をカバーできる。

[2010年1月作成]