Last Dance At The Dilo 1980  映像





Maria Muldaur : Vocal, Tambourine

Asleep At The Wheel
 Ray Benson : Guitar
 Unknown : Pedal Steel Guitar
 Unknown : Keyboards
 Unknown : Bass
 Unknown : Drums
 Unknown : Fiddle
 Unknown : Sax

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 


収録: 1980年12月31日 Armadillo World Head Quarters, Austin Texas


アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーターズは、テキサス州オースチンにあったコンサート会場で1970年オープン。最盛期は南部を代表する場所として多くのロック・アーティストが出演したが、経営難のため1980年末で閉鎖され、その後建物は取り壊された。最終日の12月31日には、地元のアーティストが多く出演し、朝4時まで演奏が続いたという。その模様は後日「Night Flight」というテレビ番組で放映された。マリアはゲストとしてアスリープ・アット・ザ・ホィールのステージに参加した。アスリープ・アット・ザ・ホィールは、ウエスト・ヴァージニア州出身のギタリスト、レイ・ベンソンを中心に1970年に結成。1974以降はテキサス州オースチンを拠点として活動しているカントリー・ロック、ウェスタン・スウィングのグループ。本映像の通り、ペダル・スティール、サックス、フィドル等を含む大編成のバンドで、メンバー交代が頻繁だったため、リーダーのレイを除きパーソナルは不明。マリアが登場して 1.「I'm A Woman」を歌う頃には、バンドは十分熱くなっていたようで、ものすごいグルーブだ。いつものR&B調のアレンジとは異なり、リズムが跳ねまくっていて、それに煽られたマリアも大変な熱唱を披露する。当時のマリアって、まだ太っていなかったのね〜!間奏ではギター、ペダル・スティール、サックスがソロを取るが、その際マリアがプレイヤーを指差しをする様がジャムセッションっぽくてカッコイイ。でもサウンドは大変タイトであり、事前にしっかりリハーサルしたか、或いはバンドの演奏能力がよほど高いかのいずれかだろう。

なお番組には、アスリープ・アット・ザ・ホィールと縁が深いコマンダー・コディー(1972年の「Hot Rod Lincoln」全米9位のヒットが有名)等が登場している。


International Doc Club 1982  映像

Maria Muldaur : Vocal
Archie Williams Jr. : Electric Guitar, Back Vocal
Unknown : Piano, Symthesizer
Unknown : Bass
Jimmy Sanches : Drums

1. Second Line [Jon Cleary]
2. Back In My Dreams [Martha Minter Bailey]
3. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
4. Don't You Feel My Leg [K. Harrison, Danny Baker]
5. Try Again [Unknown]
6. New Orleans [J J Cale]
7. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger (Ram) Ramirez]

収録: 1982 RAIDUE (Italian TV)


本映像については情報がないので、詳細は不明であるが、1982年イタリアのテレビ番組という。マリアの「グラーチェ」、「イタリアはブルースが好き?」というセリフ、および画面の右下に表示される「RAIDUE」のロゴは、イタリアの公共放送「Rai 2」のことであり、収録国については間違いない。公式ライブアルバムの「Live In London」M10 が1985年発表なので、その数年前の演奏ということになるが、曲目から収録時期は資料による1982年ではなく、1985〜1987年頃のような気もする。その当時、またはその後も未発表のままの曲を取り上げていて、ここでしか聴けない曲もある。

番組中のマリアのコメントおよびラストのクレジットで、バンドメンバーの紹介がなく、M10でギターを弾いていたアーチー・ウィリアムス・ジュニアとドラムスのジミー・サンチェス(1994年の公式映像「Chicago Blues Jam」E84で彼がドラムスを叩いていたためにわかったもの。彼はロイ・ロジャース、コマンダー・コディ、ジャック・エリオット、ピート・シアーズ等のセッションに参加している)以外は誰か不明。ピアニストは、ニューオリンズ、ブルース、ジャズ全般を大変上手に弾きこなす人であるが、演奏に没頭していて顔を上げず、カメラアングルも横向きのショットしかないので見分けがつかないが、彼女の伴奏を多くこなしているJohn R Burrのように思える(この点については自信はありません)。マリアの顔と体形はかなりふっくらしていて、「Gospel Nights」1980 M7、「There Is Love」 1982 M8のジャケット写真のイメージに近い。

ステージをセットしたスタジオ、または小さなコンサート会場にオーディエンスを招いてのライブで、ステージ前では一部の人々が踊り狂っている。1.「Second Line」は、ピアニストのソロがアグレッシブで冒頭からエキサイティングな雰囲気となる。この曲の正式録音は1992年の「Louisiana Love Call」M13 なので、マリアがそのかなり以前からライブで演奏していたことになる。2. 「Back In My Dreams」は、ラテン調のスローなラブバラード。Usual Suspects シリーズの「Dreams」1987 E64に収められていたレア曲。3.「Please Send Me Someone To Love」は、1973年「Paul Butterfield's Better Days」E25でジェフ・マルダーが歌っていたパーシー・メイフィールドの曲で、マリアは長らくこの曲をアルバム用に録音していなかったが、2011年の「Steady Love」M33に初めて収録された。ライブで真価を発揮する曲で、彼女のステージでの常連曲になっていたが、年季を積んだことにより公式録音する気になったのではないかと想像される。あらゆるテクニック、声色を駆使した、彼女のヴォイス・コントロールの芸術をたっぷり堪能できるパフォーマンスだ。ここでのアーチー・ウィリアムスのギターソロは、最初はクールだけど、だんだん盛り上って最後は狂おしいほどエモーショナルになり、本当に手に汗を握るプレイだ。もし彼の顔と体形がハンサムだったら、もっと有名になっていたと思う。これまた定番の 4.「Don't You Feel My Leg」では、歌っている際の彼女の表情の豊かさが面白く、熟女のムンムンした色気を発散しまくっている。5.「Try Again」は未発表曲。レゲエの曲を80年代流行のリズムで処理したアレンジが面白く、彼女のレパートリーとしては珍品に属する。原曲については、レゲエ界のマーヴィン・ゲイと呼ばれるデルロイ・ウィルソン (1948-1995)の同名曲と大変似ているが、歌詞が違っているので、同じ曲との確証は得られなかった。ここでもアーチーのギターソロが良い感じだ。J J ケールの 6. 「New Orleans」も、コンスピレーション・アルバムのみに収録された曲で、ここではピアニストが頑張っている。最後の7. 「Lover Man」では、マリアは服を着替え、髪に花を挿してビリー・ホリデイを思わせるスタイルで歌う。ピアニストの抑制が効いた伴奏と、マリアの感情をこめた歌唱が素晴らしく、彼女がこの曲を自身のテーマソングに消化し切った感がある。

珍しい曲を演奏しており貴重な映像だ。


Red Creek Rochester, New York (Kate & Anna McGarrigle) 1984  音源・映像

Kate McGarrigle : Vocal (3,5,6,9,10,13,14), Back Vocal, Keyboards, Accordion, Banjo, Fiddle
Anna McGarrigle : Voca (1,2,5,9,11,12,14,16), Back Vocal, Piano, Accordion
Linda Ronstadt : Vocal (5,9,15), Back Vocal (6)
Maria Muldaur : Vocal (4,6,8), Back Vocal (5,6,15)
Jane McGarrigle : Back Vocal, Piano, Mandolin
Dane Lanken : Back Vocal
Chaim Tannenbaum : Vocal (7), Back Vocal, Mandolin, Hamonica, Sax

Gilles Losier : Fiddle
Andrew Cowan : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Pat Donaldson : Bass, Back Vocal (13)
Gordon Adamson : Drums, Percussion

1. As Far As My Little Feet Can Carry Me [?]
2. Complainte Pour Ste Catherine [Anna McGarrigle]
3. NACL [Kate McGarrigle]
4. Work Song [Kate McGarrigle]
5. Heart Like A Wheel [Kate & Anna McGarrigle]
6. Travellin' On For Jesus [Traditional]
7. Dig My Grave [Traditional]
8. The Lying Song [Kate McGarrigle]
9. Talk To Me Of Mendocino [Kate McGarrigle]
10. Go Leave [Kate McGarrigle]
11. Happy Birthday
12. Tu Vas M'Accompagner [Bob Seger]
13. Going Out Looking [Kate McGarrigle]
14. Love One And Over [Anna McGarrigle]
15. You Tell Me That I'm Falling Down [Anna McGarrigle]
16. Parlez Nous a Boire

収録: 1984年6月 Red Creek Rochester, New York

注)マリアの参加曲: 4,5,6,8,15

 
ケイト・マッギャリグルが2010年1月18日に亡くなったというニュースを聞き、追悼の意を込めてこの記事を書きます。私は、1975年のデビュー作「Kate And Anna McGarrigle」しか持ってないので、彼女達の忠実なファンではありません。でも、1970年代にマリアやリンダ・ロンシュタットが歌った曲がずっと心のなかにあり、それらに対する愛着は年が経つにつれ大きくなっています。それに加えて、ここで紹介する音源・映像の素晴らしさがその思いを強くしたものと思います。

ロチェスターは、ニューヨーク州の内陸、オンタリオ湖畔にあり、ナイアガラの滝で有名なバッファローから約50キロ東に位置する町だ。本音源・映像は、レッド・クリークという郊外の小さな村の酒場(キャバレー、バー)で、テレビ番組用に収録されたものらしい。私は最初に音源として聴き、後に映像を観ることもできた。ケイトは1946年、アンナは1944年にカナダのモントリオールの近くで生まれ、フランス語圏の文化の中で育った。名前からも判るように、彼女達にはフランスとアイルランドの血が流れており、彼女の音楽からは、古いシャンソンとケルト音楽のルーツを見出だすことができる。マリアは、1973年にケイトの作品「Work Song」、1974年にアンナの「Cool River」を歌い、リンダは1974年に二人の共作による「Heart Like A Wheel」を取り上げ、大きな話題となった。そこで二人をメインに製作されたのが、前述のアルバム「Kate And Anna Mcgarrigle」1975である。マリアの作品でお馴染みのジョー・ボイドとグレッグ・プレストピノがプロデュースしたアルバムは、曲と歌唱の良さのみならず、エイモス・ギャレット、ローウェル・ジョージ、スティーブ・ガッド、ラス・カンケル、デビッド・グリスマンといった豪華なミュージシャンがバックを担当し、メロディー・メイカー誌のBest Album Of The Yearを獲得する名盤となった。二人はその後もデュオで活動を続け、私生活面でケイトはシンガー・アンド・ソングライターのロウドン・ウェインライト3世と結婚し、ルーファスとマーサ・ウェインライト兄弟の母親となった。

そういう二人が、シンセサイザーとディスコが巷に溢れる1984年、マリアとリンダをゲストに招いてテレビ番組を制作するにあたり、かなりの意気込みで臨んだに違いない。バックを務めるミュージシャンも、当時の新作「Love Over And Over」でバックを務めた人達と、姉妹のジェーン(彼女も作曲家として活躍、3姉妹での共作もある。姉か妹かは不明)、アンナの夫君デイン・ランケン(カナダのジャーナリストで、2007年ケイトとアンナの事を書いた本を出版した)、カイム・タンネンバウム(正確な読み方は不明、デビューから現在に至るまで、彼女達と行動を共にしている。ルーツ音楽面でのサポートを担当)といったファミリーの人々が、二人を支えている。この家庭的な雰囲気も本音源の大きな魅力となっている。

以下マリア非参加の曲についても簡単に紹介する。1.「As Far As My Little Feet Can Carry Me」の映像では、アンナはボタン式のアコーディオン、ケイトはエレキピアノを弾きながら歌う。リードボーカルはアンナだ。この後でケイトによるメンバー紹介があるが、フランス語なまりがあるので、聞き取りが大変難しかったが、番組最後のクレジット表示で上記の通り特定することができた。このシーンでケイトとアンナの区別ができた。ショートヘアーで背が高いほうがケイトです。資料や写真を見てもよく似ているし、名前が間違っている資料もあるのだ。2.「Complainte Pour Ste Catherine」は、デビューアルバムに入っていたフランス語の歌で、ケルト音楽の香りがする。ここではアンナがピアノ、ケイトがアコーディオンを担当している。3.「NACL」は、後にアルバム「McGarrigle Hour」1998に収録された。ケイトがピアノを弾きながら歌う。ここでマリアが登場し、4.「Work Song」をソロで歌い、他の人々はバックボーカルに専念する。ピアノを弾いてるのはケイト。マリアの歌唱はとてもソウルフルで素晴らしい。この頃の彼女はふっくらしているが、まだそれほど太ってないね。次にリンダ・ロンシュタットが登場、アンナのピアノのみをバックに、5人(リンダ、マリア、ケイト、アンナ、ジェーン)で 5.「Heart Like A Wheel」を歌う。ボーカルは、リンダ、アンナ、ケイトの順番による独唱の後、合唱となる。彼女達の声が心に染み入り、深い感動を呼び、この名曲のパフォーマンスとして、本音源は文句なし最高の出来。歌っている時のリンダの眼差しがとても印象的。6.「Travellin' On For Jesus」はゴスペル調の曲で、男性陣を加えて皆で熱っぽく歌っている。ケイトがピアノを弾きながらリードボーカルを担当。いったんブレイクした後に、マリアが歌い出し、エンディングとなる。7.「Dig My Grave」は、カイム・タンネンバウム主導によるスピリチュアル・ソング。

マリアが歌う 8.「The Lying Song」は、1975年の「Sweet Harmony」に収録された曲で、ジレズ・ロジエのフィドルとアンドリュー・コーワンのギター・ソロがフィーチャーされる。ピアノはケイト。ここでのマリアが歌う姿のクローズアップは大変魅力的だ。リンダ、アンナ、ケイトが切々と歌う 9.「Talk To Me Of Mendocino」は、ニューヨークからカリフォルニアに移動する際の気持ちを歌ったもので、「Mendocino」はカリフォルニア州にある岬の名前という。10.「Go Leave」は、デビュー・アルバムに収録された内省的な雰囲気の曲で、ケイトがギターのアルペジオによる弾き語りで静かに歌う。フィドル・プレイヤーの誕生日を祝い、皆がシャンペンで乾杯する 11.「Happy Birthday」に続く 12.「Tu Vas M'Accompagner」は、ボブ・シーガーのヒット曲「You'll Acompany Me」(1980 全米14位)をフランス語の歌詞に焼き直したもの。ケイトがセカンド・フィドル、アンナがアコーディアオン、ジェーンがピアノを弾く。本音源全体について言える事ではあるが、ルーツ音楽に根ざしたボーカル・ハーモニーが本当に素晴らしい。80年代を意識したテクノ音楽の要素を彼女達なりに取り入れた 13.「Going Out Looking」は、ユーモラスかつ風変わりで面白い。リードはケイトで、コーラスはアンナとベーシストのパットが担当。シンセシザーはケイト、サックスソロはカイム(本当に何でも演奏できる人だ!)。14.「Love One And Over」は、同名のアルバム 1983に収録されていた曲で、彼女達としてはモダンな感じの作品。ケイトとアンアが交互にリードボーカルをとる。ピアノはアンナ。ここでリンダとマリアが再登場し、最後の曲として、リンダが1975年の「Prisoner In Disguise」で取り上げた 15.「You Tell Me That I'm Falling Down」をしっとりと歌う。リンダ、アンナがリードをとり、コーラスはマリアとケイトを加えた4人の合唱となる。後半におけるコーラスのアレンジが、リンダのスタジオ録音のものとかなり異なるので、聴いていて面白い。エンディングでは、アナウンスとともに、ケルト音楽風のフランス語曲 16.「Parlez Nous a Boire」がテーマ曲風に演奏される。リードボーカルはアンナで、ケイトが弾くクロウハンマー奏法によるバンジョープレイは、なかなか味がある。ジェーンはマンドリンを弾いている。
 
出演者達の心の絆が強く感じられる、大変素晴らしい音源・映像だと思う。いつか将来、良質の画面で観てみたいものだ。

[2010年5月追記]
上記全曲につき映像を観ることができました。うれしい!そこで気がつきましたが、私はケイトとアンナを逆にしておりました!ショートヘアーで、背が高いほうがケイトです。スミマセン.......。ので、今回全て訂正し、観て判った点につき書き改めました。


Charlie's Christmas All Stars 1985  音源   
 
Maria Muldaur : Vocal
Nick Grevenites ? : Vocal
John Cipollina : Guitar
Greg Kiln : Guitar
Norton Buffalo : Harmonica
Unknown : Bass
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
2. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Mac Rebennack]
3. Sisters And Brothers [Charles Johnson]
4. Will The Circle Be Unbroken [Traditional]


収録: Uncle Charlie's, Corte Madera, CA, December 27, 1985


ジョン・シポリナ(1943-1989) はカリフォルニア州生まれで、サンフランシスコのロック・バンド、クイックシルバー・メッセンジャー・サービスのギタリストだった人だ。1971年の脱退後は数多くのバンドでプレイしたが、1989年に肺疾患のため45歳の若さで亡くなった。グループ脱退後のレコーディング活動が地味だったせいで、世界的な名声は得られなかったが、ライブ演奏で抜群の力量を発揮したため、地元での人気は絶大だった。そのためジェリー・ガルシアと同様、死後も大変数多くのライブ音源が出回っていて、それらはファンの間で共有財産となっている。本音源はそのひとつで、サンフランシスコの北、マリン・カウンティーにあったライブ・バー、アンクル・チャーリーズにおけるクリスマス・イベントのオーディエンス録音だ。アンクル・チャーリーズは1990年代に取り壊されて今はないが、1970年代後半にヒューイ・ルイスが毎月曜日に仲間とジャムセッションを行い、それが大評判になって大手レコード会社との契約にこぎつけ大成功したという伝説の場所だった。

音源はジョン・シポリナとニック・グレイヴナイツのバンド、サンダー・アンド・ライトニングから始まり、ハリケーンズというバンドの後にマリア・アンド・フレンズが登場する。1.「I'm A Woman」における歌に寄り添うオブリガード、そして間奏ソロにおけるスライドギターは素晴らしいグルーヴで、ジョン・シポリナの凄さの片鱗がわかる演奏。続いてソロをとる人は資料にあるグレッグ・キーンと思われ、この人は「The Breakup Song」 1981 (全米15位)、「Jeopardy」 (同2位)のヒットを飛ばした人だ。2. 「There Must Be A Better World Somewhere」は、アルバム「Live In London」1985 M10に入っていた曲。3.「Sisters And Brothers」ではバンドの男性がコーラスを付けている。ここでも素晴らしい間奏ギターソロが入っている。

音源はここで編集が入り、マリア以外の男性ボーカルの曲が2曲入る。「スティーブ何とか」と言っているが誰か不明。最後にフィナーレと思われる 4.「Will The Circle Be Unbroken」では、当日の出演者が勢揃いしているようで、ノートン・バッファーロのハーモニカ・ソロが入る。ここでセカンド・ヴァースを歌っているのは、声質からおそらくニック・グレイヴナイツだろう。また本コンサートはジャム・セッション的な色合いがあるので、リズムセクションは不明としたが、最初と同じ人たちで、ジョンとニックのバンドメンバーとして資料にあるダグ・キルマー(Doug Kilmer ベース)、デヴィッド・ペッパー(David Pepper ドラムス)と思われる。最後にメンバー紹介した人がもうちょっとゆっくり、クリアーに言ってくれればよかったのになあ。まあ音質もまあまあといったところなので、しょうがないか。

ヴァーチョーゾと呼ぶに相応しいジョン・シポリナのギター伴奏で、マリアが歌う珍しい音源。

(お断り)
本記事は音源についていた資料に基づき書きましたが、信憑性に欠けるため、内容については推測と憶測が入っています。


 
Nashville Now 1986  映像   
 
Maria Muldaur : Vocal
Becky Burns : Harmony Vocal (3)
Archie Williams Jr. : Electric Guitarl
Unknown : Piano
Unknown : Bass
Unknown : Drums

1. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
2. Any Old Time [Jimmy Rogers]
3. Life's Too Short [Unknown]

放送:  "Nashville Now" TNN, Nashville, 1989

 

「ナッシュビル・ナウ」は、ケーブルテレビ局のTNN(The Nashville Network)が製作したカントリー音楽によるバラエティー番組で、1983年から10年間続いた。マリアは1989年にも、ドクター・ジョン(1941-2019)とこの番組に出演している。

1. 「Midnight At The Oasis」は、ヤシの木のシルエットをバックにマリアが歌う。彼女から少し離れて演奏するバックバンドは、途中から画面に現れ、常連ギタリストであるアーチー・ウィリアムス・ジュニアの姿が見える。間奏のソロでは、彼の姿がクローズアップされ、エイモス・ギャレットの名演に対抗するかのような、独自のラインを展開する様は、聴き応え・見応え十分。ピアノの伴奏も良く、数多いこの曲のライブ演奏のなかでもトップクラスだと思う。

2. 「Any Old Time」では、ピアノの間奏ソロが頑張っていて、その間ちらっと横顔が映る。かなり上手なので、有名な人じゃないかと推測できるが、誰かは特定できない。リズムセクションの黒人二人も不明。マリアは最後に本家ジミー・ロジャースばりのウェスタン・ヨーデルを披露する。3. 「Life's Too Short」 は、マリアが公式発表していない曲で、調べたが作者などの情報は見つからなかった。ここでサイドボーカルを担当するベッキ・バーンズは、マリアのライブアルバム「Gospel Nights」1980 M7にバックコーラスで参加していたバーンズ・シスターズの一人で、後にマリアに曲を提供するシンガー・アンド・ソングライターのブレンダ・バーンズのお姉さんだ。

私が観た映像は、画質・音質ともイマイチのものだったが、リラックスした好演であり、音楽として十分楽しむことができる。

 
Nashville Now 1988  映像   
 
Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Harmony Vocal (1)
Archie Williams Jr. : Electric Guitarl (1,2)
John R. Bur : Piano (1,2)
Unknown : Bass (1,2)
Unknown : Drums (1,2)

House Band (Personel Unknown) (3)

1. Brickyard Blues [Allen Toussaint]
2. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
3. My Tennessee Mountain Home [Dolly Parton]

放送:  "Nashville Now" TNN, Nashville, 1988

「ナッシュビル・ナウ」 1988年の出演。ここでのマリアは、とても珍しい髪型をしている。いつもは長い髪を垂らしているのに、ここでは頭の上に盛り上げているのだ。そのために耳元・顎・首がはっきり見えて、ぽっちゃり気味の顔の輪郭がより強調されているように見える。とはいえ、黒字に花柄のドレスのウェストはきっちり締まっている。

最初の2曲が彼女のバックバンド、純正なカントリー・ソングである最後の1曲のみ番組のハウスバンドによる伴奏。1.「Brickyard Blues」、 2.「Midnight At The Oasis」でのアーチー・ウィリアムス・ジュニアのギターとジョン・R.・バーのピアノは、オリジナル・アレンジに捉われずに自由に弾いているのがとてもよい。特に前者における間奏のピアノソロは素晴らしく、また後者のギターソロでは多くのギタリストがエイモス・ギャレットの必殺ソロのコピーに終始するのに対し、ここではアーチーが自分の音で果敢に挑んでいる。3.「My Tennessee Mountain Home」のバックを務めるハウスバンドは、いかにもナッシュビル! といった感じだ。


Philadelphia Folk Festival 1988  映像

Maria Muldaur : Vocal (1), Tambourine (2)
Geoff Muldaur : Vocal (2), A. Guitar (1), Mandolin (2)
Stephen Bruton : A. Guitar
Bill Keith : Banjo
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond : Washtab Bass (1), Jug (2)
Paul Geremia : Harmonica (2)

1. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
2. Minglewood [Noah Lewis]


Tom Rush : Vocal, Slide Guitar
Unknown : A. Guitar
Unknown : Piano
Unknown : Bass
Unknown : Percussion
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond, Stephen Bruton : Kazoo
Maria Muldaur, Geoff Muldaur, Taji Hahal etc : Back Vocal

3. Wasn't That A Might Storm [Eric Von Schmidt]

収録: 1988年9月3日〜5日 Schwenksville, Pennsylvania


フィラデルフィア・フォーク・フェスティバルは、レイバーデイの週末3日間、ペンシルヴァニア州郊外のシュウェンクスビルで開催されるイベントで、1961年からり現在に至るまで長い歴史を誇る。マリア、元夫のジェフと仲間達と結成したジャグバンドで、1988年に出演した際の映像。プロショットではないので、画質は悪くクローズアップもないが、カメラが固定されているため、手振れがなく落ち着いて鑑賞できるのが良い。

バンドのうちジェフ・マルダー、ビル・キース、フリッツ・リッチモンドの3人が元ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの仲間だ。バイオリンのケニー・コセックは、ラス・バレンバーグ、トニー・トリシュカ、アンディ・スタットマンとのグループ、カントリー・クッキングを経て、スティーブ・グッドマン、ロリー・ブロック、ジェリー・ガルシア、ロウドン・ウェインライト3世、ジェイムス・テイラー等多くのレコーディングに参加したセッション・ミュ−ジシャン。そのプレイスタイルはリチャード・グリーンの影響が大きいと思う。ギターを担当するステファン・ブルートンについては、1974年のハリウッド・ボウルの音源記事を参照して欲しい。彼は優秀なギタリストであるが、ここではソロはとらず、伴奏に徹している。ジェフ・マルダーとの親交厚く、2009年ジェフは闘病中の彼とアルバムを録音し、それは彼の没後 9月に「Geoff Muldaur And The Texas Sheik」として発表された。

マリアがリードをとる 1.「Richland Woman Blues」は、2台のアコギのフィンガーピッキングにバイオリンが伴奏を付ける。間奏のビル・キースのバンジョー・ソロは、彼らしいコードとフィンガーを取り混ぜた味のあるプレイ。2回目の間奏はケニー・コセックのバイオリン・ソロを聴くことができる。リラックスした良い感じのパフォーマンスだ。2.「Minglewood」を演奏するにあたり、ゲストのポール・ジェレマイアを呼び出すが、なかなか現れず、フリッツによるメンバー紹介後に演奏を始める。マリアはタンバリンで演奏に加わる。間奏はケニーのバイオリンから始まり、ステージに上がったポールがハーモニカでソロを取る。彼は1944年生まれで、白人ブルースマンとしてデイブ・ヴァン・ロンクやエリック・フォン・シュミットと親交があり、エリックは彼のアルバムのために表紙を数枚描いている。

マリアは2009年にジャグバンドのアルバムを出したが、この時期にもこの手の音楽をやっていたことがわかる映像だ。公式録音は残されなかったが、その片鱗は1990年のマリアのアルバム「On The Sunny Side」で伺うことができる。

3.「Wasn't That A Might Storm」は、当日のフィナーレでの演奏で、トム・ラッシュと彼のバンドに当日の出演者が加わって、皆で歌っている。トム・ラッシュ(1941- )は1960年代のフォークブームにボストン、ケンブリッジで活躍した歌手で、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドと同期、若きジェイムス・テイラーのアイドルだった人だ。ここではアコースティック・ギターを膝に置いたハワイアンスタイルで演奏している。曲はエリック・フォン・シュミットの代表曲で、トムの他、ジェイムス・テイラーもカバーしている。ステージ上にはジャグバンドの連中の他にタージ・マハールの姿が見える。


 
Nashville Now (With Dr. John) 1989  映像 
 
Bobby Bare : Vocal, Guitar (1,2,6,8)
Maria Muldaur : Vocal (3,5,9)
Dr. John : Piano (4,5,7,9), Vocal (5,7)
Fred Newell : Lead Guitar
With Nashville Now House Band

Ralph Emery : Host
Steve Hall : Shotgun Red (Muppet)

1. Call Me The Breeze [J. J. Cale]
2. Down On The Corner Of Love [Buck Owens]
3. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
4. Swaneee River Boogie [Stephen Foster]
5. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser].
6. Margie's At The Lincoln Park Inn [Tom T. Hall]
7. Such A Night [Lincoln Chase, Mac Rebbenack]
8. Deaperados Waiting For The Train [Jerry Jeff Walker]
9. New Orleans [J.J. Cale]


注:1, 2, 4, 6, 7, 8 はマリア非参加

TNN TV Show "Nashville Now" Gaslight Theater, Opryland USA, Nashville
Broadcasted on March 8 ,1989
 

「ナッシュビル・ナウ」は、ケーブルテレビ局のTNN(The Nashville Network)が製作したカントリー音楽によるバラエティー番組で、1983年から10年間続いた。1989年、マリアとドクター・ジョン (1941-2019)がこの番組に出演した際の映像を観ることができた。当初私は上記の曲を断片で観たが、2024年にノーカットで観ることができたので、以下のとおり書き直した。

番組は司会者のラルフ・エマリーと相方を務めるマペット人形のショットガン・レッドのトークから始まる。まずカントリー・シンガーのボビー・ベア(1935- )が登場して、ハウスバンドをバックにJ.J. ケールの「Call Me The Breeze」、ラルフとのトークのなかでバック・オーウェンスの「Down On The Corner Of Love」をさらっと歌う。次にマリアが 1.「I'm A Woman」を歌う。彼女のシェイプはちょっと太めといえるくらいで、声質も昔の可愛さが少し残った感じ。 間奏のド派手なギターソロは、ハウスバンドの名ギタリスト、フレッド・ニューウェルによるもの。曲後のラルフとのトークの中で、彼女はイタリア系で、本名はマリア・グラジア・ローサ・ドミニカ・ダマートと答えている。ご先祖様の名前をくっつけたからだそうだ。イタリア語はできないが勉強していると言っているが、その後どうなったかな?また「I'm A Woman」を演ったきっかけとして、ペギー・リーのシングルB面で聴いたとも説明している。

司会者に促されたマリアの紹介によりドクター・ジョンが登場し、4.「Swaneee River Boogie」をガンガン弾く。ステファン・フォスターのお馴染みの名曲をブギウギ・ピアノにアレンジしたインストルメンタルで、曲後の司会者による説明の通り、アルバート・アモンズ1940年代の録音で有名な曲。次の 5.「Baby, It's Cold Outside」は二人によるデュエットだ!この曲は、ティンパンアレイの作曲家で、「Guys And Dolls」、「How To Succeed In Business Without Really Trying (努力しないで出世する方法)」などのブロードウェイ・ミュージカル(映画)で有名なフランク・ローサーの作品。帰りたがるウブな女の子に、「外は寒いから」などいろいろな理由を付けて、家に引っ張り込もうとする誘惑男を描いたユーモラスな曲で、エラ・フィッツジェラルドとルイ・ジョーダン、レイ・チャールズとベティー・カーター、サミー・デイビス・ジュニアーとカーメン・マクレー、最近ではロッド・スチュワートとドリー・パートン、ジェイムス・テイラーとナタリー・コールなど数多くのバージョンがある。ここではバックバンドとアーティストの持ち味により、よりダウン・トゥ・アースな感じの出来栄えになっている。熟女と年増男によるむんむんした雰囲気は濃すぎかな?マリアによるこの曲の正式録音は長らくなかったが、2022年11月Stony Plainからタージ・マハールとのデュエット録音が発表された。二人ともクセ者でマリアの相手として最高!

ボビー・ベアのヒット曲 6.「Margie's At The Lincoln Park Inn」に続く 1.「Such A Night」はニューオリンズの匂いがプンプンする曲で、作者のマック・レベナックは彼の本名。1973年のアルバム「In The Right Place」に初収録された後、彼の主要なレパートリーとなり、その後もライブ演奏などで多くのアルバムに収められている。特に1978年のザ・バンドの「The Last Waltz」での演奏は大評判となった。バンドの演奏がブレイクしてピアノの独奏になるが、グレイヴィーがタップリ入ったケイジャン料理のようなこってりした味わいが凄い。ボビー・ベアによるジェリー・ジェフ・ウォーカーの 8.「Deaperados Waiting For The Train」の後、画面がシアトルに切り替わり、ランチョ・ロマンスという現地の女性バンドが紹介される(彼女たちの演奏曲は上記曲目からリストから省略)。最後にマリアが歌うJ.J. ケールの 4.「New Orleans」では、ドクター・ジョンのピアノとフレッド・ニューウェルのギターソロが目立っている。

[2024年2月書き直し]


Bottom Line Japan 1989  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
Archie Williams Jr. : Electric Guitar, Back Vocal
John Costalups : Bass, Back Vocal
David Matthews : Keyboards、Back Vocal
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
2. Sweet Simple Love [Bucky Lindsey, Dan Penn]
3. Never Make A Move Too Soon [Stix Hooper, Will Jenings]
4. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
5. Brothers And Sisters [Charles Johnson] 
6. Midnight At The Oasis [David Nichtern]


収録: 1989年9月29日 Bottom Line Japan, Nagoya


ボトムライン・ジャパンは名古屋の千種にあるライブハウスで、1989年ニューヨークのボトムラインとの業務提携により業務開始、名古屋の地元放送局 CBC(中部日本放送)が資本参画している。この映像には「BL2 Botom Line LiveTV」というテロップが付けられており、マリアのコンサートの模様が地元でテレビ放送されたものと思われる。ギターのアーチー・ウィリアムス・ジュニアーは、マリアのバンドに長く在籍した人で、詳細は「Live In London」 M10を参照のこと。キーボードのデビッド・マシューズは、マンハッタン・ジャズ・オーケストラの指揮者でアレンジャーの人とずっと思い、本ディスコグラフィーにもそのように書いていたが、実はサンフランシスコを本拠地とする同姓同名の別人だった。ここでは全く同じ名前になっていたので間違えたが、実際のところ混同が多かったようで、後に David K. Mathews というミドルネーム付きの名前(「K」は「Kirk」の略)で表示するようになっているようだ。彼は1959年生まれで、タワー・オブ・パワーに在籍後、エッタ・ジェイムスのバックを長く務め、2010年以降はサンタナのメンバーになっている人。本作以降もマリアのアルバム参加者の常連となり、1995年の「Jazzabelle」M14、1999年の「Meet Me Where They Play The Blues」M19に名前を連ねている。また2018年の彼のアルバム「The Fantasy Vocal Sessions Vol.1」 E146では、マリアがゲスト参加している。ドラム奏者につき、資料では女性のヒラリー・ジョーンズとあったが、映像を見る限り男性に見えるのでここでは不明とした。

ギタリストのアーチーの紹介によりマリアが登場、ニューオリンズのセカンドラインのリズムで 1.「I'm A Woman」を歌う。2.「Sweet Simple Love」は、1995年発売のアルバム「Meet Me At Midnight」M15に収録された曲なので、公式録音はだいぶ後になってからとなる。エンディングのアドリブボーカルとチョッパーベースで盛り上がる。 3.「Never Make A Move Too Soon」は「Live In London」1985 M10に収録されていた曲。画面上の字幕では「You Made Your Move Too Soon」と出ていたが間違い。サングラスをかけたデビッド・マシューズのソロがクール!ステージの常連曲 4.「Please Send Me Someone To Love」ではマリアの熱のこもったボーカルが堪能できる。それにしても本映像全編にわたってフィーチャーされるアーチー・ウィリアムス・ジュニアーは、スローで静かなスタイルから、狂おしいほどの感情発露まで、そのプレイは緩急自在で素晴らしい。この人は、もしルックスが良かったら、もっと有名になっったんじゃないかな?ゴスペルの愛奏曲 5.「Brothers And Sisters」ではバンドの皆がバックコーラスで加わる。6.「Midnight At The Oasis」はリラックスした演奏だ。

多少ふっくらしたとはいえ、それほど太っていないマリアを拝める影像。ちなみにこれらの曲は1曲毎の個別映像で観たため、正確な曲順は不明。いつか全編を通しで観てみたいものだ。

[2022年8月追記]
ピアニストのデビッド・マシューズにつき、「アレンジャーとしても有名な人で、マンハッタン・ジャズ・オーケストラの指揮者を務めるほかに、デビッド・サンボーン、アール・クルーなどのジャズ、ボニー・レイット、ポール・サイモン、ビリー・ジョエルといったアーティストのセッションにも参加。自己名義のアルバムも多く発表している。日本では親日家のアーティストとして有名」と書きましたが、クレジットの名前表示がまったく同じではあるが、参加作品の傾向、音楽仲間との交友関係を考慮すると、誤りであることが明らかなので、上記の通り書き直しました。


Geoff & Maria Jug Band In Japan 1990  音源

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine, Kazoo
Geoff Muldaur : Vocal, A. Guitar, Mandolin, Clarinet, Washboard
Stephen Bruton : Vocal, A. Guitar
Bill Keith : Vocal, Banjo
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond : Vocal, Washtab Bass, Jug

1. Introduction [Unknown]
2. France Stomp
3. Garden Of Joy [Clifford Hayes]
4. Minglewood [Noah Lewis]
5. You Came A Long Way From St. Louis [John Benson Brooks, Bob Russell]
6. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
7. Fishing Blues [H. Thomas, J. M. Williams]
8. Blues In The Bottle [Peter Stampfel, Steve Weber] 
9. Caravan [Juan Tizol]
10. Circus Song [F. Tompson, J. E. Guernsey]
11. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]
12. When I Was A Cowboy [H. Ledbetter]
13. Any Old Time [Jimmie Rogers]

録音: 1990年3月3日 日本(場所不明)


上述のフィラデルフィア・フォーク・フェスティバルと同じメンバーのジャグバンドで来日した際の音源。マリアが日本語で「アリガト」と言っているので間違いないが、残念ながら場所についての資料が見つからなかった。オーディエンスの反応がアグレッシブで、この手の音楽が好きなファンが集まって歓声を上げている。かなりディープな感じなので、大阪か京都あたりの関西でのステージという気がする。バンドの名称についても不明なので、仮に「Geoff & Maria Jug Band」とした。」1.「Introduction」はフリッツ・リッチモンドのジャグがメロディーを奏でる珍しい演奏。 イーブン・ダズン・ジャグ・バンドのE1で演奏していた 2.「France Stomp」はジェフが歌い、マリアはハーモニーを付ける。(恐らく)ジェフが演奏するウォッシュボードのシャカシャカした音とバイオリンソロが聴きもの。「Red Hot Mama」と紹介されたマリアは、3.「Garden Of Joy」を歌う。間奏ではジェフはクラリネットを、マリアは(恐らく)カズーを吹いている。4.「Minglewood」はソリッドなリズム感が魅力で、ジェフはマンドリンを弾き、マリアはタンブリンを叩いている。ケニー・コセックのバイオリンソロは、リチャード・グリーンにそっくり。ここでビル・キースが「皆が歌えと言うから」と、昔のスタンダード曲、5.「You Came A Long Way From St. Louis」を歌う。ペリー・コモ、ローズマリー・クルーニー、クリス・コナー、ビング・クロスビーなどスローなアレンジが多い中で、バンジョー・ピッキングの凝ったプレイをフィーチャーした演奏は斬新。ちなみにビルは以前発表したアルバム「Banjoistics」 1984でこの曲を取り上げている。

マリアは 6.「Richland Woman Blues」を歌う前に、「この曲をサンディーとマコトに捧げます」と言っている。当時久保田麻琴夫妻と親交があったのだろう。間奏のビルのバンジョーが素晴らしい。ジェフが歌う7.「Fishing Blues」では、マリアはカズーを吹いているようだ。8.「Blues In The Bottle」は、E5ではジム・クウェスキンが歌っていたが、ここではフリッツがボーカルを取っている。マリアはハーモニー・ボーカルで参加。9.「Caravan」はデューク・エリントンの演奏で有名なスウィング・ナンバーで、ここではビルのバンジョーの名人芸を聴くことができる。オーディエンスの反応も熱狂的で、それに驚いたマリアが、「ファンクラブがいるの? それともあなた達バンジョープレイヤーなの?」と声をかけるくらいだ。マリアが「ドラムがないので、皆の手拍子が必要よ!」といって始める 10.「Circus Song」は、フリッツあるいはステファンのどちらかがリードボーカルで、マリアがハーモニーを付ける。11.「Don't You Feel My Leg」はジャグバンド・スタイルでの珍しいアレンジが楽しめる。ジェフのクラリネットに加えて、トランペットの音が聴こえるのだが、誰が吹いているのか不明。アンコールではレッドベリーの12.「When I Was A Cowboy」 (E6参照)と 13.「Any Old Time」で、後者はマリアのバックでジェフが歌う貴重音源だ。

録音状態はイマイチであるが、公式録音を残さなかった当時のジャグバンドの演奏がたっぷり楽しめる。


 
 
New Orleans Artists Against Hunger And Homelessness 1990  音源 
 
Dr. John : Vocal (1,4) , Piano
Maria Muldaur : Vocal (2,3,4)
Tommy Moran : Electric Guitra
Chris Severin : Bass
Freddy Staehle : Drums
Unkown : Percussion

Jamil Sharif : Trumpet
Eric Traub : Tenor Sax
Alvin "Red" Tyler : Baritone Sax

1. Iko Iko [Sugar Ray]
2. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Dr. John]
3. New Orleans [JJ Cale]
4. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker]
5. Walk On Gilded Splinters [Dr. John]

Lakefront Arena, New Orleans, Lousiana, November 10, 1990

注: 1,4はマリア不参加
 
New Orleans Artists Against Hunger And Homelessness (NOAHH)は、1985年アーロン・ネヴィルとアレン・トゥーサンによって設立された地元音楽家の団体で、チャリティー・コンサートによる収益でホームレスに食料供給などの支援活動を行っている。1990年第6回目コンサートのドクター・ジョン(1941-2019) のステージにマリアがゲストで登場した。音質より放送音源と推測される。同じ音源には、他にネヴィル・ブラザース(ゲスト ジョーン・バエズ)、リトル・フィートのライブが入っている。


ドクター・ジョンの紹介により登場したマリアは、「この曲は(このイベントに)ぴったりです」と言って、2.「There Must Be A Better World Somewhere」を始める。 ドクター・ジョンとドク・ポーマスによるこの曲は、B.B.キング1981年がオリジナルで、マリアは1985年の「Live In London」M10でカバーしている。ゴキゲンなギターソロを聴かせてくれるトミー・モランは、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ボビー・チャールズ等のアルバムに参加したギタリスト。マリアは文句なしの熱唱。JJ ケールの3.「New Orleans」は、同じ年のコンピレーション・アルバム「Goodbye」E72にマリアとドクター・ジョンの共演が収められている。ここでは間奏でフィ−チャーされるニューオリンズ調のブラス、彼のピアノのグルーヴが凄い!4.「Don't You Feel My Leg」は、もともと彼に教えられてファースト・アルバムM2に収録したマリアのおはこ。間奏のピアノソロも聴きもの。

ドクター・ジョンの曲についても述べよう。1.「Iko Iko」は、シュガー・レイ(1934-2012 本名 James Crawford)が1953年に発表した「Jock-A-Mo」がオリジナル。彼の公式録音は「Gumbo」1972で、グレイトフル・デッドのステージでの常連曲でもあった。5.「Walk On Gilded Splinters」は、「Gri-Gri」1968に収録されたブードゥー教のミステリアスな雰囲気を持った曲で、シェール、ハンブル・パイ、ネヴィル・ブラーザースなど多くのカバーがある。曲の後半で、演奏がリズムセクションのみとなり、それに乗せて彼がバンドメンバーの紹介をする場面がある。資料には記載がないので有難いが、物凄く聞き取りにくい。同時代のアルバム 「Goin' Back To New Orlens」1992の資料を参考にして、パーカッションを除き上記の通り特定した。特筆すべきメンバー、バリトン・サックスのアルヴィン・”レッド”・タイラー(1925-1998) は、奏者、作曲家、編曲家としてニューオリンズR&B界の最重要人物と言われる人。ドクター・ジョンのバンドでの仕事を含む数多くのコンサート、録音セッションにキーパーソンとして参加、自己名義のアルバムも残した。

マリアがドクター・ジョン・バンドのゲストとして、地元ニューオリンズの音楽をはつらつと歌う様を高音質で聴くとことができる好音源。


Nashville TV 1990?  映像
   
Maria Muldaur : Vocal,
Unknown : Back Band

1. Coat Of Many Colors [Dolly Parton]
2. Dream A Little Dream [Andre, Khan, Schwandt]

収録: Nashville

 
資料はナッシュビルのテレビ番組というだけで、収録・放映日および番組名は不明であるが、ハウスバンドと思われるバックミュージシャンの風貌、2.の途中で写るセットのロゴから、ナッシュビルの番組であることは間違いない。そして1.でハーモニカを吹いている人が、1989年の「Nashville Now」の映像でギターを弾いていた人と同じ (スタジオ・ミュージシャンの Fred Newellでギター以外にバンジョー、ハーモニカもこなすという)であることから、おそらく番組名は「Nashville Now」と推定される。また歌っている曲から、アルバム「On The Sunny Side」1990 M12の宣伝目的の出演、とすると1990年、あるいはその翌年の収録であると思われる。クローズアップのシーンがないので、断定できないが、大編成のバンドの中でピアノを弾いている人は、彼女の伴奏者として常連のジョン R. バーのように見える。彼は前述の「On The Sunny Side」1990 M12のレコーディングにも参加していたので、その可能性は高い。

1.「Coat Of Many Colors」、2.「Dream A Little Dream」とも、マリア向きのとてもいい曲で、1.のハーモニカ、2.のペダル・スティールギター、マンドリン等の演奏も上手く、彼女の歌唱も好調。とても楽しめる映像だ。


 Three Weeds, Sydney (With Jon Cleary) 1992   音源
 


Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (9,12)
Jon Cleary : Piano, Vocal (1,2,3,13), Back Vocal (12,14)

[Set One]
1. Jon's Boogie *
2. Those Lonely Lonely Nights [Earl King, Johnny Vincent] *
3. People Say [Ziggy Modeliste, Art Neville, Leo Nocentelli, George Porter Jr.] *

4. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
5. Brickyard Blues [Allen Toussaint]
6. Any Old Time [Jimmy Rogers]
7. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
8. Lover Man (Oh Where Can You Be) [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez]
9. New Orleans [J. J. Cale]
10. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
11. Someone Else Is Stepping In [Denice LaSalle]
12. Second Line. [John Cleary]

[Set Two]
13. Young Boy Blues [Phil Spector, Doc Pomus] *

14. I Want A Real Man [Jerry Lynn Williams]
15. Weeping Willow Blues [Paul Carter]
16. You Made You Move Too Soon [Stix Hooper, Will Jennings]
17. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Mac Rebennack]
18. Southern Music [Russell Smith]
19. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
20. It Ain't The Meat [Henry Glover, Louis Mann]
21. Midnight At The Oasis [Daivd Nichtern]
22. Don't You Feel My Leg [L..Baker, J. M. Williams, D. Barker]
23. Guide Me, O Great Jehovah [Traditional]

収録: 1992年7月19日 Three Weeds, Sydney, Australia

* : マリアは非参加

公式音源初収録
M1 (6,21,22), M3 (5,20), M7 (23), M9 (7), M10 (16,17), M13 (12,18), M14 (15, 19), E3 (4), E16 (8) E67 (9), E73(10), E83 (11), 未発表 (14)
 
 
イギリス生まれのジョン・クリアリー (1962- )は、17歳で渡米後、ニューオリンズを本拠地として活躍するシンガー・アンド・ソングライター、ピアニストだ。1990年代より 自己名義のアルバム製作や、Absolute Monstor Gentleman というバンドを結成して活躍。またタージ・マハールやボニー・レイット等のバックを担当し、彼女のアルバム「Silver Lining」 2002、「Soul Alike」2005 に参加している。マリアは、彼の作品を5曲録音している (「Second Line」(「Louisiana Love Call」 1992 M13)、「Power In Music」(「Meet Me In The Midnight」 1994 M15)、「Fanning The Flames」、「Can't Pin Yo' Spin On Me 」、「Strange And Foreign Land」(「Fannning The Flames」1996 M16))。録音では、前述「Fannning The Flames」にバック・ボーカルとして自作の2曲に参加しているが、ピアニストとしての参加は意外に少なく、1992年録音のハッピーとアーティ・トラウム兄弟のラジオ番組出演の模様を収めたオムニバス盤 「Bring It On Home Vol.2」 1994 E82 の2曲のみだ。当時ジョンはマリアと組んでコンサート活動をしていたようで、約30年後の2021年になって、その全貌を聴くことができた。会場のThree Weedsはシドニーにあるパブ・レストラン。オーディエンス録音としてはまあまあの音質で、ピアノとボーカルを十分楽しむことができる。

コンサートはジョン・クリアリーのピアノ独奏(資料では1.「Jon's Boogie」というタイトル)から始まる。饒舌過ぎると思える位手数が多いプレイだが、強力なドライブ感と、力強く正確なタッチが圧倒的だ。2曲目はアール・キング (1934-2003) 1955年のヒット 2.「Those Lonely, Lonly Nights」(R&Bチャート7位、ジョニー・ギター・ワトソン、ドクター・ジョンのカヴァーでも有名)で、3曲目はザ・ミーターズ1974年のニューオリンズ・ファンク 3.「People Say」。ジョンのソウルフルなボーカルに驚かされるが、彼は自己名義でアルバムを何枚も出しているのだ。

オーディエンスが十分熱くなったところで、ジョンの紹介でマリアが登場し、4.「 I'm A Woman」を歌う。ジョンに煽られたせいか、最初から飛ばしている感じ。アラン・トゥーサンの 5.「Brickyard Blues」でのジョンのピアノは、ニューオリンズ・スタイルで嵌っている感じ。マリアのヴォーカルの切れ味もいつに増して鋭い。6.「Any Old Time」で彼女は、「ミッドナイト何とか」のB面の曲と言って皆を笑わせている。ジョンのこってりしたピアノが、曲の雰囲気を変えてしまっている。7.「There's Going To Be The Devil To Pay」では、皆さんがあまり聞いたことがない「Sweet And Slow」という、ドクター・ジョンと演ったレコードからの曲で、ジミー・スワガードに捧げると紹介している。彼はキリスト教伝道のテレビ番組で、扇動的な説教と異端者への攻撃で一世を風靡したが、1988年性的スキャンダルにより失脚した人。8.「Lover Man (Oh Where Can You Be) 」でマリアはしっとり歌うが、ジョンの間奏ソロは、ジャズ・ピアニストのものとは全く異なる世界を見せてくれる。9.「New Orleans」は、マリアのアルバムに収録されず、オムニバスでのみ聴くことができる曲で、彼女は得意のタンバリンを叩きながら歌う。「ブルースを歌います」と言って始める 10.「Please Send Me Someone To Love」も当時はアルバム未収録だったが、20年後の「Steady Love」 2011 M33にめでたく収められた。熱唱であるが、ここでは何故かさっぱりと終わってしまう感じ。それでもオーディエンスは熱烈な拍手と声援を送っている。11. 「Someone Else Is Stepping In」も彼女のレパートリーとして珍しい曲で、1994年に発売されたライブDVD 「Chicago Blues Jam」 E84の演奏途中でカットされた映像しかない。デニス・ラサール (1934-2018)のアルバム「Love Talkin'」1985に入っていた曲で、Z.Z. ヒル、バディ・ガイやケブ・モーもカバーしている。12.「Second Line」は伴奏者ジョンの作品で、コーラス部分で彼のバックボーカルが入る。大歓声のなか、ファーストセットはここでお終い。

セカンドセットは、音源ではジョンの歌唱によるベン E. キング 1964年(全米66位)の13.「Young Boy Blues」から始まる。音源ではカットが入るので、彼がマリアの前で何曲歌っているかは定かでない。「ボニーレイットの曲を歌うよ」とって始める14. 「I Want A Real Man」は、ボニーのアルバム「Nick Of Time」1989に「Real Man」というタイトルで収録されているが、ジェリー・リン・ウィリアムス(1948-2005)が彼女のために書いたもの。ここでもジョンが、コーラス・パートでバック・ボーカルを入れている。ベッシー・スミスの15.「Weeping Willow Blues」に続いて歌われる 16.「You Made You Move Too Soon」、17.「There Must Be A Better World」は、「Live In London」1985 M10からの珍しい選曲で、前者はB.B. キングがザ・クルセイダーズと共演したアルバム「Midnight Believer」1978に入っていた曲で、作者ののスティックス・フーパーはクルセイダーズのドラマーだ。後者は、ドクター・ジョンがドク・ポーマスと作った曲で、これもB.B. キング1981年のアルバムのタイトル曲だった。特に後者のマリアの熱唱に対し、オーディエンスは曲の途中から大声援を送っている。一転して 18.「Southern Music」では、マリアは情感たっぷりに切々と歌い上げる。19.「Do Your Duty」もベッシー・スミスの曲で、 曲前のマリアの語りに皆大受けなんだけど、何言っているのかよく分からないのが残念。20.「It Ain't The Meat」では、マリアがオーディエンスに「It Ain't The Meat」という掛け合いコーラスを歌うように頼み、皆楽しそうに歌っている。会場の興奮が止まないまま、21.「Midnight At The Oasis」に突入、ジョンの1台のピアノだけで跳ねるようなグルーヴ感を弾き出しているのが凄い。間奏ソロも最高!ジョンのピアノをバックに、聴衆に対し感謝の言葉を述べるマリアの語りが淀みなくリズミカル。22.「Don't You Feel My Leg」は、曲中のアドリブの早口語り満載で、スタンドアップ・コメディーを聞いているかのようだ。エンディングはお得意ジェームス・ブラウンのパロディーで終わり、皆大騒ぎでアンコールを要求。最後は「ドック・ワトソンから習った」と紹介して、アカペラでゴスペル曲を厳粛に歌って、コンサートを終える。

ジョンのこってりしたピアノ伴奏に負けじと、全力直球勝負で挑むマリア渾身のライブ。


Harbourside Brasserie, Sydney (With Jon Cleary) 1992   音源
 
Maria Muldaur : Vocal, Tambourine 
Jon Cleary : Piano, Vocal (1,8), Back Vocal (9)


1. Talk To Me, Talk To Me [Joe Seneca] *

2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Any Old Time [Jimmy Rogers]
4. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
5. Lover Man (Oh Where Can You Be) [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez]
6. New Orleans [J. J. Cale]
7. Someone Else Is Stepping In [Denice LaSalle]

8. Blueberry Hill [Larry Stock, Al Lewis, Vincent Rose] *

9. I Want A Real Man [Jerry Lynn Williams]
10. Weeping Willow Blues [Paul Carter]
11. Southern Music [Russell Smith]
12. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
13. It Ain't The Meat [Henry Glover, Louis Mann]
14. Midnight At The Oasis [Daivd Nichtern]
15. Don't You Feel My Leg [L..Baker, J. M. Williams, D. Barker]


収録: 1992年8月1日 Harbourside Brasserie, Sydney, Australia

* : マリアは非参加


7月1日のスリー・ウィーズとほぼ同内容(ジョンの歌のみ異なる)であるが、こちらは地元ABC FMの放送音源なので、コンサートの抜粋であるが音は良い。会場はThe Manly 16ft Skiff Sailing Clubというヨットクラブが経営するレストラン兼ライブハウス。

以下ジョンが歌う2曲のみ紹介する。

1曲目は、リトル・ウィリー・ジョン (1937-1968) 1956年のヒット「Talk To Me, Talk To Me」(全米20位)。彼は50年代後半に「Fever」(1956、全米24位))などで人気を博したが、1960年代は酒と麻薬で身を持ち崩し、1965年に殺人を犯して投獄され、上訴もかなわず、1968年獄中で病死した。その後2008年になって、1966年の仮釈放中にカムバックを期して録音された音源が発掘・発売された。

8曲目は、1940年に書かれグレン・ミラー楽団な複数のアーティストによりレコードが製作されヒットした「Blueberry Hill」で、1956年のファッツ・ドミノ (1928-2017) によるニューオリンズ風ロックン・ロールのバージョンが決定版となった。


Auditorium Shores, Austin 1994  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (1,5)
Chris Burns : Keyboards, Bass, Back Vocal (5)
John Woodhead: E. Guitar, Back Vocal (5)
Roddie Clay ? : Drums, Back Vocal (5)


1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
2. Any Old Time [Jimmie Rogers]
3. Cajun Moon [J J Cale]  
4. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
5. Power In Music [Jon Cleary]

収録: 1994年9月4日 Auditorium Shore, Austin, Texas


テキサス州の州都オースチンの住民は音楽好きで、世界で最もライブハウスが多い街だそうだ。オースチン・オーディトリウム・ショアはその市内、タウンレイクのほとりにある野外コンサート会場で、ステージの背景には、夜のハイウェイを走る車のライトの遠景が見える。9月とはいえ、残暑が厳しいようで、スタッフやオーディエンスの多くは半ズボンにTシャツというラフな格好をしている。番組の最後で、本映像は地元の音楽専門テレビ局、Austin Music Networkで放送されたものであることがわかる。

1.「I'm A Woman」が始まり、登場したマリアは、かなりふっくらした感じで、1980年代とは明らかに体型が異なる。ソロアルバムとしては1993年の「Jazzabelle」M14と 1995年の「Meet In The Midnight」M15の中間にあたる。その分声も太くなり、貫禄たっぷりだ。タンブリンを腰に当てながら歌う様は、70年代初期の映像での同曲の演奏と比べてしまい、思わずニヤリ。地元テキサス州で活躍したジミー・ロジャースにちなんでという紹介の後、2.「Any Old Time」を歌う。演奏風景を見ていて「おやっ?」と思う。ベーシストがステージにいないのだ。ベースの音はちゃんと聞こえるので、キーボード奏者がフットペダルを踏んでいているのかなと思ったが、そのような素振りはない。ステージ上は隠れるような場所はないし、ステージ外のどこかで弾いているのかな?と思ったが、よーく見るとキーボード奏者の左手がベースを刻んでいるのが見てとれた。電子ピアノの低音部分の設定により、同じ鍵盤でも右手は普通のピアノプレイを行い、一方左手でベースラインを弾くなんて、すごい芸当だ。音を聴く限り、本物のベースギターによる演奏とまったく変わらない。予算の問題で、ツアーバンドの編成を少なくしたためと思われるが、インターネットで資料を調べていたら、当時の他のコンサートのレビューでも同じことが語られていた。奏者のクリス・バーンズは、その後に「Meet Me Where They Play The Blues」1999 M19、「Sisters & Brothers」2004 M23、「Love Wants Dance」2004 M24、「Live In Concert」2008 M28など多くの作品の録音に参加する常連の一人となる。左手でベースを弾くため、右手で間奏のソロをとることはさすがに難しいようで、このコンサートでは彼は伴奏に徹していて、ギタリストのジョン・ウッドヘッドが、すべての間奏ソロを担当している。彼は「Meet Me In The Midnight」M15および「Southland Of The Heart」1998 M17に参加していた人で、ここでは手堅いながらも心に染み入るようなプレイを聴かせてくれる。2.「Any Old Time」ではボトルネックを付けてソロを取っている。 3.「Cajun Moon」では、ステージ上のマリアの動きが激しくなり、ミステリアスなパワーを込めた歌唱、後半にギターソロとマリアのハミングとの掛け合いなど、見どころ沢山だ。ステージでの愛奏曲 4.「Please Send Me Someone To Love」は、以前に増してドスが効いたシャウトを連発、エンディングの独唱も迫力満点だ。 ここでマリアによるメンバー紹介があり、ピアノとギター奏者の名前を聞き取ることができた。ドラムスについては、「ロディー・クレイ」と聞いたが、正確な発音、スペルは不明。インターネットで調べてもそれらしいドラム奏者は検索できなかったため、詳細は不明。新作「Meet In The Midnight」に収録される 5.「Power In Music」では、バックの3人がコーラスを担当して、にぎやかに演奏される。

バックバンドのミュージシャの力量はそれなりなのだが、人数が少ない分、音の厚みや間奏ソロの変化という面でハンディがあることも否めない。彼女のツアーの様子をありのままに捉えた記録としてみると、それなりに面白いものだと思う。


Ohne Filter Extra, Germany 1995  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (1,4,9,10)
Amos Garrett : Electric Guitar, Vocal (6,7), Back Vocal (8,9,11)
Jon Cleary : Keyboards, Back Vocal (3,8,9,11)
Unknown : Bass. Back Vocal (6,8,9,11)
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
2. Cajun Moon [J.J. Cale]
3. Louisiana Love Call [Marty Grebb]
4. New Orleans [J.J. Cale]
5. Please Send Someone To Love Me [Percy Mayfield]
6. Bad Whisky [Eddie "Gip" Noble]
7. What A Fool I Was [Unknown]
8. Mississippi Muddy Water [Marty Grebb]
9. Second Line [Jon Cleary]
10. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
11. Power Of Music [Jon Cleary]
12. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]

収録: 1995年 Barden Barden, Germany

注: 6,7 のボーカルはエイモス・ギャレット(マリアは不参加)


ドイツ語のタイトルは、「Ohne Filter Musik Pur (フィルターなしの純粋な音楽)」という番組の「Extra (特別編)」という意味で、アーティスト主導による番組製作方針を掲げたものと推測される。スタジオに少人数のオーディエンスを招き、司会者は最初の紹介のみで、後はアーティスト本人により番組が進行してゆく。収録地は温泉による保養地で有名なドイツのバーデン・バーデン。本映像は、エイモス・ギャレットと彼のバンドがバックを担当している点で、貴重なものだ。

冒頭のドイツ人司会者による紹介の後、1. 「I'm A Woman」が始まる。マリアはタンブリンを叩きながら歌う。ピアノとオルガンを弾いているのは、ジョン・クレアリー。メンバー紹介またはミュージシャンのクレジット表示がないので、ベースとドラムスは誰だか不明であるが、おそらく当時エイモスのバンド・メンバーで、1996年発売のライブアルバム「Off The Foor Live」に参加していたブライアン・ポラック(Brian Pollack ベース)とトム・ムーン(Thom Moon) じゃないかな?余談ですが、昔初めてこの映像を観た時、マリアのでっぷり太った姿にショックを受けましたが、今は慣れました。エイモスは、右手の指にサムピック、フィンガー・ピックを付けて演奏している。本映像では、彼のリズム、オブリガード、ソロの各プレイがたっぷりフィーチャーされており、弦のチョーキングやビブラートの駆使、左手のフィンガリングと右手のピッキングの絶妙のタッチによる奏法の秘密をじっくり観察することができる。ジョン・クレアリーはピアノとオルガンの両方を弾き分けている。 2.「Cajun Moon」でのエイモスのプレイは聴きもので、この人は手が大きくて、握力が強い人であることがよく判る。後半でのマリアのスキャットとエイモスのギターとの掛け合いは魅力たっぷり。 3.「Louisiana Love Call」は、最新アルバムからのタイトルソングと紹介される。コーラスパートでは、ジョン・クレアリーがハーモニーを付ける。ここでもエイモスがニョロニョロとソロを弾く。4.「New Orleans」の紹介でマリアは、「私が大好きな場所、もちろんバーデン・バーデンは別格だけどね!」と言っており、本映像の収録地がドイツのバーデン・バーデンであることがわかる。ここでのエイモスの伴奏・間奏ソロは最高!ステージでの定番曲 5.「Please Send Someone To Love Me」では、マリアのいつもの熱唱と、それに対抗するエイモスの熱っぽいギターソロが素晴らしい。

ここでマリアがステージから降り、エイモスが2曲歌う。6.「Bad Whisky」は、前述のライブアルバムに入っていた曲で、間奏はピアノとギターがソロを入れる。7.「What A Fool I Was」は、スローなバラードで、エイモスの低音のボーカルがいい味を出しており、歌心溢れる間奏ソロも良いですね。マリアが戻って歌う 8.「Mississippi Muddy Water」、9.「Second Line」では、エイモス達がバックコーラスで歌い、ジョン・クレアリーのニューオリンズ・スタイルのピアノが目立っている。10. 「Midnight At The Oasis」では、エイモスが弾く間奏ソロがハイライト。有名なオリジナル版の構成に基づきながらも、随所に崩しを入れるあたりはさずがですね。エンディングでのギタープレイはめっけもの。11.「Power Of Music」の間奏ソロはギターとオルガン。フィナーレの 12. 「Don't You Feel My Leg」はリラックスした雰囲気で、マリアはアドリブによる語りでエイモスに迫り、彼がショックを受けるユーモラスな場面がある。間奏はオルガンソロ。最後はジェイムス・ブラウンのブレイク・スタイルで終わる。

ほめ過ぎと思われるかもしれないけど、聴けば聴くほど(観れば観るほど)良くなる映像なのだ。

[2022年11月訂正]
キーボード・プレイヤーをロン・カサットとしていましたが、正しくはジョン・クレアリーでした。すみません。マリアのブログ(2022年10月16日)で誤りに気が付きました。


Benefit Concert For Seva Foundation 1998  音源

Bonnie Raitt : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Bruce Hornsby : Piano, Back Vocal
Wavy Gravy, Jorma Koukonen, Charlie Musselwhite etc. : Back Chorus

1. Amazing Grace [Traditional]

Recorded at Berclay Community Theater December 19,1998


ワヴィ・グレイヴィイ(Wavy Gravy、本名 Hugh Romney 1936- )が設立した組織、セヴァ・ファウンデイション(Seva Foundation)は、チベット、ネパール、カンボジア、バングラデシュ、アフリカ諸国で白内障のために失明した人々のための手術の援助を行い、これまでに3百万人の人々が視力を回復したという。その他にアメリカ先住民のための医療援助活動も行っているようだ。彼らは 1979年資金集めのためのコンサートを多く開催しており、賛同したベイエリアのアーティスト達が多く出演している。本CDは、1994年2月13日、1998年5月15日、1998年12月19日の3つのコンサートの音源を集めたCD「Sing Out For Seva」1999 E103 が公式発売されており、そのなかにはマリアの1998年12月19日のライブから「Southland Of The Heart」が収められている。ボニーの演奏は上記のCDにも「Shadow Of Doubt」1曲が収録されているが、当日演奏された10曲すべてを収めた音源を聴くことができた。

ボニーはベーシストのハッチ・ハッチンソンの二人で登場、演奏が進むにつれ、チャーリー・ミュッセルホワイト(ハーモニカ)、ブルース・ホーンズビー(ピアノ)、ロイ・ロジャース(スライドギター)、そしてブルース界の大御所ジョン・リー・フッカーがゲストで加わり大いに盛り上がる。最後にコンサートのフィナーレとして当日の出演者が舞台に再登場して、おなじみの1.「Amazing Grace」を歌う。まずボニーがファースト・ヴァースを歌い、全員によるコーラスの後、マリアがセカンド・ヴァースのリードを取る。意外にもマリアがこの曲を歌う公式録音はなく、音源でも私が知る限り、これだけであだ。

マリアのゴスペル・フィーリング溢れる歌唱が素晴らしい。


  
 Stony Plains Records 25th Anniversary Revue 2001  音源

 

Maria Muldaur : Vocal, Percussion
Johsua Paxton : Piano
Ernie Hawkins : Vocal, Acoustic Guitar, Slide Guitar, Resonator Guitar
Freebo : Vocal, Bass, Tuba, Mandolalee, Guitar

[Freebo's Opening Set]
1. She's My D.O.G
2. Before This Feeling's Gone
3. Sometimes It's For Nothing

[Maria Muldaur's 1st Set]
4. Weepin' Willow Blues [P. Carter]
5. Grasshoopers In My Pillow [Leadbelly]
6. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
7. Put It Right Here [P. Grainger]
8. Me And My Chauffeur Blues [Ernest Lawler]
9. I'm Going Back Home [Copyright Control]
10. In My Girlish Days [Ernest Lawler]
11. Adam and Eve Got The Blues [Sippie Wallace]
12. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
13. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]

[Maria Muldaur's 2nd Set]
14. Empty Bed Blues [J.C. Johnson] (Fade In)
15. I Got To Move [Copyright Control]
16. Brother, Seek And You Shall Find [Frank Crum, Robert G. Stewart]
17. Lonesome Desert Blues [Bessie Smith]
18. Sweet George Brown (Josh Paxton) [Ben Bernie, Maceo Pinkard]
19. It's A Blessing [Traditional]
20. I Belong To The Band [Copyright Control]
21. Soul Of A Man [Copyright Control]
22. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
23. It Ain't the Meat, It's The Motion [Henry Glover, Louis Mann]
24. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]
25. Guide Me, O Great Jahova [Traditional]

Recorded at The Horseshoe Tavern Toronto, Ontario, Canada April 11, 2001

注: 1,2,3.18 はマリア非参加

 

カントリー、フォーク、ブルースなどのルーツ音楽を専門とするカナダの独立系レーベル、ストーミー・プレイン・レコードが設立25周年を記念して開催したコンサートの音源。会場のホースシュー・タバーンはトロントのダウンタウンにある87席の小さなライブハウス。コンサートはレーベルのオーナーであるホルガー・ピーターセン(Holger Petersen)のイントロダクションから始まり、当夜が4日間にわたるイベントの初日だったことがわかる。

コンサートはフリーボのステージから始まる。本名はDaniel Friedberg といい、ベース奏者としてボニー・レイットと10年以上行動を共にした他、ティモシー・シュミット、アーロン・ネヴィル、リンゴ・スター、ケイト・アンド・アンナ・マッキャリグル、ロウドン・ウェインライト 3世、バディ・ガイなど多くのセッションに参加。マリアとはデビュー・アルバム1973 M1(特に「Midnight At The Oasis」)や「Waitress At The Donut Shop」1974 M3の録音に参加した人だ。2000年代以降はシンガーアンド・ソングライターとして活動し、自作の曲を歌ったCDを発表し続けている。彼が歌う3曲は、いずれも初ソロアルバム「The End Of The Beginning」 1999に収録されたもの。彼が「女の事じゃないよ!」と紹介して始める 1.「She's My D.O.G.」は、愛犬のことを歌った曲。彼は大変な犬好きのようで、後に「Dog People」2002という犬の歌のみからなるアルバムを作ったほどで、そこにもこの曲が収められている。2.「Before This Feeling's Gone」は、マンドラレというマンドリンとウクレレを合わせたような楽器の弾き語りで歌われる。 3.「Sometimes It's For Nothing」は、ブギー調の曲。彼のボーカルはなかなか味があるし、曲の出来も良いと思う。

フリーボの紹介でマリアが登場し、アコースティックによるブルース特集と称して、ベッシー・スミスの4.「Weepin' Willow Blues」から始める。バックでピアノを弾くのはジョッシュ(ジョシュア)・パクストンで、彼はニューオリンズ・スタイルのピアノを同地で学び、その後本拠地をシカゴに移している。ジェイムス・ブッカー(ニューオリンズ・スタイルのピアノの草分けとして伝説的な存在、マリアの「Waiteress In A Donut Shop」M3、「Sweet Harmony」M4にも参加、1983年没)のピアノ曲の楽譜の出版で有名な人で、本書は、楽譜にすることは困難と言われた彼のプレイの完璧な採譜により高い評価を得ている。2000年に発表したアルバム「Q's Blues」には、チャーリー・パーカーの「Hot House」や、チック・コリアの「Spain」なども収められ、モダンジャズもカバーする幅広い音楽を示している。新作は2009年の「Alone At Last」。ここでの彼のピアノは、前述のジェイムス・ブッカーの流れを汲むスタイルで、饒舌かつ豪華絢爛なプレイだ。レッドベリーの5.「Grasshoopers In My Pillow」で12弦ギターを弾く人はアーニー・ホウキンスで、当時マリアが発表したアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20に参加していた。彼はステファン・グロスマン等と同じく、ゲイリー・デイビスに憧れてギターを学び、大学卒業後は心理学者になったが音楽への夢を捨てきれず、1978年にフルタイムのミュージシャンに転向、ソロアルバムの他に、多くの教則本・DVDを製作している。ミシシッピー・ジョン・ハートの名曲で、マリアがジム・クウェスキン・ジャグ・バンド在籍時からの愛奏曲 6.「Richland Woman Blues」は、ギターとボーカルの余裕たっぷりの演奏が素晴らしい。7.は、資料では「He's Gotta Get It and Bring It...」とあったが、正しくは「Put It Right Here」というベッシー・スミスの曲だ。ここでは、ジョッシュのピアノにフリーボがチューバで加わる。彼のスタジオ・セッションワークは、チューバによるものも多く、ここでの低音のランは名人芸といえる。メンフィス・ミニーの8.「Me And My Chauffeur Blues」は、マリアの持ち味にピッタリのセクシーな曲。ここではアーニーのフィンガーピッキングとフリーボのギター(あるいはベース....あまりに巧みな演奏なので、どちらかはっきりしない)をバックに、マリアがタンバリンを叩きながら歌っていて、乗りが最高。メンフィス・ミニーとカンサス・ジョーのデュエット 9.「I'm Going Back Home」は、マリアとフリーボとのデュエットで歌われる。メンフィス・ミニーの自伝的作品という10.「In My Girlish Days」で、マリアは自分自身そして娘の経験と重なると語って歌う。ここでアーニーはスライド・ギターを弾いている。本コンサートの演奏曲の大半が当時のニューアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20 であるのに対し11.「Adam and Eve Got The Blues」は、1983年の「Sweet And Slow」から。ここではフリーボのチューバが聴きもの。同じアルバムからの 12.「There's Going To Be The Devil To Pay」は、フリーボのランニング・ベース、マリアのタンバリンをバックに展開されるジョッシュの加熱気味のピアノ・ソロが凄い!13.「Please Send Me Someone To Love」は、彼女のブルース歌唱が頂点に達したことを如実に語るパフォーマンスで、技巧と情感が自然に調和した芸術だ。ジョッシュのピアノが派手過ぎかな?

セカンドセット最初の曲、14.「Empty Bed Blues」は途中から始まる。本音源は、それ以外は全て収められているようだ。15.「I Got To Move」は、アーニーのフィンガーピッキングを伴奏としたフリーボとのデュエット。16.「Brother, Seek And You Shall Find」は、ファッツ・ウォーラーの軽快な曲であるが、ジョッシュのピアノはよりモダンな響きがする。一転してベッシー・スミスの 17.「Lonesome Desert Blues」は、重々しく歌われる。18.「Sweet George Brown」はジョッシュの独奏で、マリアは非参加。ここでの演奏は技巧満載でアクが強く、悪乗りと言えるほど。19.「It's A Blessing」は、アーニーが弾くリゾネイター・ギターの独特の音が効果的。スタジオ録音(「Richland Woman Blues」)では、マリアはボニー・レイットと一緒に歌っていた。スピリチュアル・ソング 20.「I Belong To The Band」は、アーニーのアイドルであるゲイリー・デイビスの曲で、気持ち良さそうに弾かれるギターに乗って、オーディエンスが手拍子しながらマリアと一緒に歌っている。スタジオ録音ではタージ・マハールと一緒だったブラインド・ウィリー・ジョンソンの 21.「Soul Of A Man」は、おそらくアーニーとのデュエット(アーニーは自己の音楽活動でもこの曲を演っている)。マリアによる 22.「Do Your Duty」の録音は1993年の「Jazzabelle」M14で、オリジナルはベッシー・スミス。ビリー・ホリデイも歌っている。フリーボのチューバ・ソロが楽しい。常連曲 23.「It Ain't the Meat, It's The Motion」は、オーディエンスにコーラスを歌わせる打ち合わせをしてから演奏される。メンバー紹介の後、最後の曲として歌われる 24.「Don't You Feel My Leg」は、ピアノ、ギター、チューバの3人全員による伴奏。マリアはアドリブのセリフ入れまくりのリラックスした歌唱で、エンディングでジェイムス・ブラウンのブレイクを再現する。アンコールのゴスペル曲 25.「Guide Me, O Great Jahova」は、アカペラで厳かに歌われてコンサートの幕を閉じる。

「Richland Woman Blues」2001 M20発売時のコンサートで、全編アコースティック・ブルースで染め抜かれた素晴らしいステージだ!


Bluebirds At Wintergrass Festival 2005  映像
 
Maria Muldaur : Vocal
Linda Ronstadt : Vocal
Laurie Lewis : Vocal, Fiddle (2,3,4)
Ron Stewart : Fiddle

[The Right Hands]
Tom Rozum : Mandolin
Craig Smith : Banjo
Scott Huffman : Guitar
Todd Philips : Bass

1. High Sierra [Harley Allen]
2. My Tennessee Mountain Home [Dolly Parton] 
3. Dreams [Del McCoury]
4. The Bluebirds Are Singing For Me [Lester Flatt, Mac Wiseman]

Recorded at Sharaton Tacoma Hotel, Tacoma, Washington, Febuary 27, 2005


ロウリー・ルイス(1950- )は、カリフォルニア州生まれのシンガー、フィドル奏者で、ギターやベースもこなすマルチ・プレイヤーだ。1970年代より、多くのバンドでブルーグラス、カントリー、オールドタイミーを演奏していたが、初ソロアルバムは1986年の「Restless Rambling Heart」という遅咲きの人。彼女がザ・ライト・ハンズというバックバンドと一緒に、2005年ワシントン州タコマで開催されたウィンターグラス・フェスティバルに出演した際、友人のリンダ・ロンシュタットとマリア・マルダーをゲストに呼び、ザ・ブルーバーズという名前で1回限りのコンサートを行った。本映像は、その模様を撮影したオーディエンス・ショット。

1.「High Sierra」は、カントリー、ブルーグラス音楽界の大物レッド・アレンの息子、ハーレイ・アレンが書いた曲で、1995年にリンダ・ロンシュタットが「Feels Like Home」に収録、その後ドリー・パートン、エミルー・ハリスとのスーパーセッションアルバム「Trio II」1998 でも取り上げられた。リンダの力強い歌唱とコーラス部分での3人の合唱は聴き応え十分。懐かしい2.「My Tennessee Mountain Home」は、マリアがリードボーカルを担当。ブルーグラス調のリズミカルなアレンジで、コーラスのハモリを聴くと、何だかワクワクしてくる。3.「Dreams」は、デル・マッコーリーが1991年の「Classic Bluesgrass」のために吹き込んだ曲で、ここではロウリー・ルイスがリードを取る。彼女がこの曲を正式録音するのは、しばらく後の2011年のアルバム「Skippin' And Flyin'」で、そこではロウリーとリンダの二人で歌っている。 4.「The Bluebirds Are Singing For Me」は、オズボーン・ブラザース1979年の録音がオリジナル。愛らしいブルーグラス・チューンで、本セッションのバンド名は、この曲からとったものと思われる、

マリアとリンダはコロコロと太っていて、お相撲さんの土俵入りの様? マリアは、その後もロウリーのコンサートに時々ゲスト出演しており、二人の親交は続いているようだ。3人による合唱の楽しさを、本人達を含む全員が味わっている雰囲気が伝わってくる映像。


 
Woodsongs 2006  映像 
 
Michael Johnathon : Vocal, Acoustic Guitar
Maria Muldaur : Back Vocal
Lisa Svejkovsky : Cello
Scott Napier : Mandokin
Jim Carr : Bass

1. Winter Has Me In Its Grip [Don McLean]

Maria Muldaur : Vocal, Fiddle (6)
Craig Caffall : Electric Guitar, Acoustic Guitar (4), Electric Mandolin (6), Back Vocal (6)
Takezo : Electric Guitar, Acoustic Guitar (6), Back Vocal (6)
Chris Burns : Keyboards
David Tucker : Drums
Kimberly Bass : Back Vocal (4,6)

Will Kimbrough : Slide Guitar (6)

Michael Johnathon : Host

2. Buckets Of Rain [Bob Dylan]  
3. Lay Lady Lay [Bob Dylan]  
4. Heart Of Mine [Bob Dylan]  
5. Moonlight [Bob Dylan]  
6. You Ain't Goin' Nowhere [Bob Dylan]

Recorded at Kentucky Theater, Lexington, Lentucky, 2006

 

フォーク・シンガー、作家、脚本家のマイケル・ジョナサン(1963- )は、ニューヨーク生まれだが、1980年代よりケンタッキー州を本拠地にして活動を続けている。彼は、ルーツ音楽のラジオ番組「Woodsongs Old-Time Radio Hour」を創設し、プロデューサー、ホストとして、全米規模で放送されるまでに発展させた。さらに2000年代半ばからは、映像版がテレビ放映されるようにもなっている。またそのホームページには、過去に録音・撮影された番組の巨大なアーカイブ・コーナーがあり、それらを自由に視聴・ダウンロードすることができるのが魅力。長い歴史を誇る番組なので、それはそれは多くのアーティストが出演している。ちなみにマリアが出演した番組のプログラム番号は「415」だ。ホームページには番組の収録年月が表示されていないが、演奏曲および2006年8月に発売されたアルバム「Heart Of Mine」M26が「brand new」と紹介されているため、2006年後半の収録で、同アルバムのプロモーションのための出演であることは間違いないだろう。

本来はラジオなので、番組はアナウンサーによるスポンサーの読み上げから始まる。そして司会のマイケルのオープニングの後、彼がハウスバンドをバックに 1.「Winter Has Me In Its Grip」を歌う。この曲はドン・マクリーンの5枚目のアルバム「Homeless Brother」1974に収録されていた曲。よく観ると、マリアが控えめにハーモニーをつけていることがわかる。次に彼女が紹介され、マイケルの質問への答えとして、グリニッジ・ヴィレッジでのボブ・ディランとの交友について語られる。話自体は、彼女が他の場所でしていたものと内容的には変わりなく、当時のエピソードについても控えめな発言になっていて、自身の売り込みというよりも、彼に対する敬意が感じられるので、好ましく思える。2.「Buckets Of Rain」で、ギタリストの一人が東洋人であることに気がつく。後に「Tekizo」と 紹介されるが、正しくは「Takezo」という名前で、本名は武田佳史(Takeda Yoshinobu)という日本人だ。彼は1985年からサンフランシスコのブルース音楽界で活動していて、エルヴィン・ビショップ、アンジェラ・ストレリ等と仲が良いそうだ。ここでは「Live In Concert」M28でギターを弾いていたクレイグ・キャフォールがすべての曲で目立つプレイをしているので、彼の演奏はリズム中心の地味なものに終始している。曲は3.「Lay Lady Lay」と続き、右手でピアノ、オルガンを、左手でベースを弾きこなすクリス・バーンズの演奏がクローズアップでよく観てとれるのが面白い。「Midnight At The Oasis」に関するエピソードで、マリアが「(作者のデビッド・ニクターンが)ペントハウス・アパートのウォーターベッドで、ブロンドの美女とワイルドな週末を過ごした経験をもとに作曲したもの」と語っているのがめっけものだ。4.「Heart Of Mine」でバック・コーラスを担当するキンバリー・ベースは、パワフルなヴォーカルが売り物の人で、2007年に「Sacred Ground」というアルバムを発表し、その中の「Callin' All Angels」という曲が2006年USA Song Writing Contest のゴスペル部門で優勝。最近はTrance Zen Danceというグループで歌うなど、着実な音楽活動を続けている。

この後、もうひとりのゲストで、プロデューサー、マルチ・インストルメンタリストとしてナッシュビルで活躍するウィル・キンブロウが登場し、2曲歌う。そして マリアが 5.「Moonlight」を歌ったところで、ラジオ番組は終了とのことで、アナウンサーによるクロージングの語りが入る。ただし映像版はこの後も続き、マイケルが自己の語りとオーディエンスの掛け声により 、当番組の宣伝のための予告(音声版と映像版)を作ったところでアンコールになり、ウィルが1曲歌い、マリアが 6.「You Ain't Goin' Nowhere」を歌う。ここではフィドルを弾くマリアを観ることができ、ウィル・キンブロウがメタルボディのリゾネイターギターによるスライド奏法のソロを入れ、キンバリーとギタリストの二人がバックボーカルに加わるなど、華やかな雰囲気の演奏になっている。

画質はイマイチなんだけど、音は申し分なく、同時期に撮影された「Live In Concert」M28とは、メンバーの一部が同じながらも、異なる雰囲気の演奏を楽しむことができる。


Chasin' Gus' Ghost 2007  映像
 

Todd Kwait : Director, Writer, Producer
Carol Kwait : Producer

出演者
John Sebastian, Jim Kweskin, Geoff Muldaur, Fritz Richmond, Maria Muldaur, Bill Keith, Bob Weir, David Grisman, Eric Darling, Eric Thompson, Samuel Charters, Charlie Musselwhite, Sakofa Strings, Southern Chef, Mooney and Mad Words, Taji Mahal (声のみ) etc.




トッド・クウェイトは、医薬・美容品業界における法律専門家・経営者として業界の要職につくビジネスマンであるが、子供の頃から映画が大好きで、その情熱は、奥さんのキャロルと一緒に自分で映画制作を始めるまでになった。彼が選んだ最初のテーマはジャグ・バンド・ミュージックで、昔からジョン・セバスチャン率いるラヴィン・スプーンフルが大好きで、後にそのルーツがジャグバンドにあることを知り、ガス・キャノン(Gus Cannon) の「Viola Lee」を聴いてはまったとのこと。本作はトッド本人を語り部とするドキュメンタリーで、ジョン・セバスチャンに手紙を書いて協力を取り付け制作したという。ただしもう一人の協力者だったフリッツ・リッチモンド(ジム・クウェスキン・ジャグバンド)の病気・死去(2005年)により予定変更を余儀なくされたが、2007年に完成・公開、米国各地のフィルム・フェスティバルで入賞するなど好評を博し、2010年にDVDが発売された。ドキュメンタリーなので、最後まで完奏された曲はなく、マリアを含む多くのミュージシャンはインタビューのみの出演(マリアの演奏がないので、公式発売であるにもかかわらず、あえて「映像・音源」のコーナーに掲載しました)。以下順を追って内容紹介する。

映像はガス・キャノンの「Viola Lee」のSPレコードをかけるシーンから始まり、クレジットタイトルの後に、ジョン・セバスチャンとJバンドをバックにジェフ・マルダーが歌う1997年のライブ映像「Minglewood Blues」が流れる。ジョンは同年ジャグバンド音楽をテーマとした「Chasin' Gus' Ghost」という本作と同名のアルバムを発表しており、そこにはジェフが歌う同曲も収められている。ここでジョンの音楽ルーツを知ったトッドが、ジャグバンド音楽にのめり込んでいった様が語られる。ここで同音楽の始祖であるガス・キャノン(Gus Cannon 1883-1979)の生涯が紹介され、彼の声の役でタジ・マハールが登場。1920年代にCannon's Jug Stompers などの名義で録音を残し、大恐慌の1930年代以降は音楽界から姿を消すが、1963年にルーフトップ・シンガーによる「Walk Right In」のリバイバルで復活した(ここでルーフトップ・シンガースのエリック・ダーリンが登場)。しかし音楽業界になじめず、1979年貧困のうちに亡くなったという。その後、彼の墓は朽ちかけたが、1996年彼の音楽を慕う人々により立派な墓が作られたというエピソードが入る。トッドはジョンにドキュメンタリー制作の協力を依頼する手紙を書き、プロジェクトがスタートする。ハリー・スミスが編纂した6枚組のアルバム「Anthology Of American Folk Music」1952が多くの若いミュージシャンに影響を与えたことが語られ、エリック・トンプソン、デビッド・グリスマン、ジム・クウエスキン、ジェフ・マルダー、ボブ・ウェアが登場する。ボブ・ウェアは、その影響がグレイトフル・デッドの音楽のベースになった事を語り、同グループによる「Minglewood Blues」の映像が写される。「ジム・クウエスキン・ジャグ・バンドはルーズとタイトを持ち合わせた」というジムの言葉の後に、後述の東京でのコンサートでヘリウムガスを吸って声をおかしくしたジェフが歌う「Sweet Sue」のシーンが入る。初期のメンバー、デイブ・サイモンが歌う「Overseas Stomp」の映像は貴重。ニューポート・フォーク・フェスティバルのバンドの映像(「Festival」1963で本コーナー紹介済)の後、フリッツ・リッチモンド、ビル・キースの紹介となる。フリッツが吹くジャグによる「Jug Band Waltz」、ビルが「キース・チューナー」(ペグを回すことで音程を変えることができる糸巻で、バンジョーでスティールギターのような音が出せる)を使うシーンが面白い。イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドの話になり、マリア・マルダーが登場し「ワシントン・スクエアーに集まっていた仲間で結成した」と、バンド結成の経緯を語り、同バンドのライブ映像の断片を観ることができる。これは1963年のテレビ番組「Hootenanny」からで、ニューヨークのフォードハム大学でのコンサートを収録、演奏曲は「Log Cabin Blues」(彼らの演奏曲はこれのみで、他はニュー・クリスティー・ミンストレルズ等が出演)。ジョシュア・リフキン、ジョン・セバスチャン、デビッド・グリスマン(髭なし!)、スティーブ・カッツの姿をアップで観ることができる。残念ながらマリアの姿は遠景ショットのみであるが、三つ編み髪でカズーを咥えて演奏しているシーンを拝むことができ、まことに貴重な映像。いつかノーカットで観てみたいものだ。マリアからジム・クウエスキン・ジャグバンド加入の事が語られ、彼女の歌「I Ain't Gonna Marry」(「Live From Greenwich Village」で本コーナー紹介済)が挿入される。

ここで1920年代のジャグバンドの話に戻り、スウェーデンの評論家や、ブルースに関する本を書いた先駆者サミュエル・チャーターズが登場、黒人音楽であるブルースの歴史が語られる。黒人メンバーによる サンフォカ・ストリング・バンドによる演奏風景が入る(このバンドは現在はキャロライナ・チョコレート・ドロップスというバンドに発展しているようだ)。ウィスラー・アンド・ヒズ・ジャグバンド(Whistler And His Jug Band)による1930年頃の貴重な映像が入る。次に語り手はジャズバンド発祥の地ルイスヴィル(ケンタッキー州)、メンフィス(テネシー州)に行き、現地のバンドメンバーやブルースハーモニカ奏者チャーリー・ミュッセルホワイトにインタビュー、ガス・キャノンと一緒に演奏したハーモニカ奏者ノラ・ルイスの足跡をたどる。またブラウンズヴィルにあるスリーピー・ジョン・エスティス(1899-1977) の縁の地を尋ねるが、保存されている彼の家の小ささにはピックリ! その前で息子達が思い出を語り、マンドリン奏者のヤンク・レイチェル(1910-1997)生前の演奏シーンが続く。そして2005年11月20日のフリッツ死去のテロップが入り、ジェフの弾き語りよる美しい「Goodbye Old Pal」のライブ映像が流れる。死期を悟った寂しそうなフリッツの映像が悲しい。

フリッツの言葉に従ってと、撮影クルーは日本に飛び、2006年横浜ジャグバンド・フェスティバルを取材する。主催者ムーニー(橋詰宣明)氏によるメンフィス・ジャグバンドの「Cocaine Habit Blues」をベースとした「みんなでしようよ里帰り、一度はなろうよかなしばり、Hey Hey Everybody 朝帰り」、「横浜ジャグバンド・フェスティバルのテーマ」が流れ、メンバーの来日、フェスティバルの模様、日本人のグループ、サザン・シェフの演奏シーンと続く。コンサートのフィナーレで、ジェフ、ジム、ジョンの3人が日本人のミュージシャン達に加わり、ジェフが「Going To Germany」(ガス・キャノンが1929年に録音した曲)を歌う。舞台が渋谷に移り、楽器屋にいるジョンに日本人の男が話しかける。映像ではクレジットはないが、彼は佐久間順平だ。学生の頃に大江田信と組んで林亭という名前で制作した自主製作盤「夜だから」1973が評判を呼び、その後は高田渡、小室等、南こうせつなどのバックを努め、ラジオ、テレビ、映画音楽製作でも頑張っている人だ。彼がマンドリンを持って「Somebody Stole My Gal」の替え歌「あの娘に会いに」(前述の「夜だから」に入っていた曲。アルバムは後にCD化されている)を歌って大受けするのが傑作。彼の演奏は編集により同曲を歌うジム・クウエスキンに繋がる。渋谷のタワーレコードで店内コンサートをしているMad Words(ムーニー氏のバンド)にクウエスキンが見にゆき、何も知らない杉原テツ(ギター)がビックリするシーンも面白い(さすがにムーニー氏は知っていたようだけどね)。3人のリハーサルのシーンで、ジョンがジム・クウエスキンのバンドでハーモニカを吹くのが夢だったと語る。これもクレジット無しだけど、細野晴臣氏が写る。そしてハイライトで、2006年4月2日渋谷デュオで行われたフリッツ・リッチモンド・トリビュート・コンサートのシーンとなる。ステージにおける3人の共演は今回のツアーが初めてだそうだ。ジェフが歌う「Downtown Blues」のバックで聞こえるマリンバは細野氏によるものだ。ここでは他に比べてじっくり音楽を聴かせてくれる。フィナーレで日本人ミュージシャンとのセッションになり、メンフィス・ミニーの「Sailin'」で、ムーニー氏に続きジムがリードボーカルを取る。

最後にジャグバンド音楽の未来と称するコーナーとなり、前に登場したサンフォカ・ストリング・バンドが登場、「黒人は新しいものを求め古いものを置いてゆくが、それは失われたものなんだ」と語り、「Sittin' On The Top Of The World」を歌い、「振り返ることが前に進むこと」とコメントするが、ちょっとこじつけっぽい感じもして、日本人には理解できない感じする。最後のクレジットの部分で、小さな画像で写る「Jug Band Music」は、渋谷のコンサートのフィナーレの1曲で、これだけ完奏になっている。

マリアはインタビューのみでの参加であるが、イーヴン・ダズン・ジャズ・バンドの映像が観れるため、ファンにははずせない作品。ジャグバンド音楽が好きな人とっては十分面白いと思うが、そうじゃない人はどうかな?日本人じゃないと分からない楽屋落ちのシーンがある一方で、アメリカ人的な一人よがりっぽい思い入れもあり、そのギャップも面白い?

[2012年10月作成]

[2022年4月追記]
イーヴン・ダズン・ジヤグ・バンドが出演した「Hotenanny」1963年の映像を観ることができました!「映像・音源」の部「Hootenanny」を参照ください。


 
Maricia Ball's Great Big Birthday Bash 2009  映像
 
Maria Muldaur : Vocal (1,2,3,5), Back Vocal
Marcia Ball : Vocal (1,4), Back Vocal, Keyboards
Angela Strehli : Vocal (1), Back Vocal
Tracy Nelson : Vocal (1,5), Back Vocal
Lou Ann Burton : Back Vocal (4)
Lavelle White : Vocal (5)
Sarah Brown : Back Vocal (5), Bass (4)
Unknown : Band 

1. Blue Highway[Strehli, Ehrmann]
2. Steady Love [Greg Brown]
3. Yes We Can [Allen Toussaint]
4. Sweet Inspiration [Spooner Oldham, Dann Pen] (部分)
5. Down By The Riverside [Traditional] (部分)

収録: Febuary 14, 2009 at Anton's, Austin, Texas


マルシア・ボールの60才の誕生日を祝うイベントとして、本拠地のテキサス・オースティンのライブハウス「アントンズ」で3日間にわたるベネフィット・コンサートが開催され、収益金はHealth Alliance for Austin Musicians (保険に入っていない低所得の音楽家達への健康サポートのための団体)と Sweet Home New Orleans(ニューオリンズの音楽家やマルディグラのパフォーマーへの支援団体)に寄付された。その模様のオーディエンス・ショットを観ることができた。

2月14日のヴァレンタインデーのステージには、マルシアの友人のシンガー達が大勢ゲスト出演し、大変賑やかなステージになったようだ。アンジェラ・ストレリの曲「Blue Highway」(2005年のオリジナル録音はE124参照)で、マリアはコーラスの他にセカンド・ヴァースのリードを担当(ファーストはアンジェラ、サード・ヴァースはマルシアが担当)している。2.「Steady Love」は、2012年発売のアルバムのタイトルソングで、当時は未発表だったレパートリー。ここではトレイシー・ネルソンが加わり、3人のバックコーラスを従えてマリアが歌う。 3.「Yes We Can」は、バックで歌う 3人との掛け合いがスリリングで、ハウスバンドの演奏も切れ味鋭い好演。

ダイアナ・ロスとシュープリームスがザ・テンプテイションズとの共演で歌った4.「Sweet Inspiration」のカバーでは、ルウ・アン・バートンが加わって4人のコーラスでマルシアが歌う(画像では向かって左から、トレイシー、アンジェラ、マリア、アン、ベースを弾くサラ、ピアノを引くマルシア)。ルウ・アン・バートン(1954- )はテキサス州生まれで、スティーブ・レイ・ヴォーンのグループで歌っていた人で、「アントンズ」を本拠地とするマルシア、アンジェラとの共演盤「Dream Come True」1990 を出している。 ベースを弾いている女性はサラ・ブラウンで、「アントンズ」のハウスバンドを長くつとめ、現地で人気の高いベーシスト、シンガーだ。マリアは歌詞カードを見ながら歌っている。この映像は音質が悪く、曲の途中で切れてしまうのが残念。シスター・ロゼッタ・シャープで名高いスピリチュアル 5.「Down By The Riverside」を歌うラヴェル・ホワイト(1929-  向かって左端の黒人シンガー)は若い頃シングル盤を出したが売れず、長い下積みの後に初めてアルバムを出したのが65才という遅咲きの人だ。映像は途中から始まるが、ラヴェル、トレーシー、マリアの順番で歌い継がれてゆく。サラ・ブラウンはコーラスに加わっている。

他のシンガーが歌い、ギタリストが演奏する映像(マリア不参加)も多くあり、当日の華やかな雰囲気を拝むことができる。


  
Billboard Live Tokyo With Special Guest Dan Hicks 2010  映像
 
Maria Muldaur : Vocal
Dan Hicks : Harmony Vocal (2) , Acoustic Guitar (2)
Danny Caron : Electric Guitar
John R. Burr : Piano
Ruth Davies : Bass
Bowen Brown : Drums

1. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
2. Walkin' One And Only [Dan Hicks]  

Jun 18 or 19, 2010, Billboard Live Tokyo, Tokyo, Japan
 

マリアのライブにダン・ヒックスがスペシャル・ゲストとして登場したもの。当時ビルボードが行ったマリアのインタビューによると、ファースト・アルバムで「Walkin' One And Only」を取り上げて以来、何度も一緒にレコーディングしたり、ライブへのゲスト出演はあったが、このような公式ライブでの共演は初めてとのこと。コンサートは、2010年6月19,20日港区六本木の東京ミッドタウンにあるビルボードライブ東京、21日は大阪梅田にあるビルボードライブ大阪で、1日2セット入れ替えで計6回行われた。マリアが4曲、二人で1曲、ダンが4曲、最後に二人で4曲という構成(19日セカンドのセットリストより)だったらしく、「ゲスト」というタイトルであるが、実質ジョイント・コンサートの内容になっている。その中から東京公演のオーディエンス・ショット 2曲を見ることができた。

同所は3層からなるライブ・レストランで、映像は2階席から撮られたものらしく、上から見下ろす撮影角度になっている。バックバンドはマリアがジャズをやるときの常連ミュージシャン達で、ドラムスのボーウェン・ブラウンは、マリアの「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」2009 M30やダン・ヒックスの Christmas Jug Bandに参加していた人。お馴染み 1.「Midnight At The Oasis」でのダニー・キャロンの間奏ギターソロは、エイモス・ギャレットの名演に敬意を表してほぼ同じ内容のプレイ。それでもエンディングでちょっとだけ、しっかり彼自身のソロを入れているところは流石だ。

そしてハイライトは、二人によるアンコールの 2.「Walkin' One And Only」。マリアのリードにダンがギターを弾きながらハーモニーを付けてゆく。間奏ソロはダニー(ギター)、ジョン・バー(ピアノ)、ルース・デイヴィース (ベース)の順で、名手揃いのプレイは最高!

ダンが2016年に亡くなった今、二人による他の共演映像(資料によると「Sheik Of Araby」、「Hummin' To Myself」、「The Diplomat」、「Life's Too Short」)も観てみたいなあ〜。

[2023年12月作成]

East Coast Tour 2010  音源 
 




Maria Muldaur : Vocal (Except 1), Tambourine
[Red Hot Bluesiana Band]
Chris Atkins : Electric Guitar, Back Vocal
Chris Burns : Keyboards, Back Vocal
David Tucker : Drums, Lead Vocal (1), Back Vocal

[September 27, 2010 Kirk Avenue Music Hall, Roanoke, VA]
1. She Caught The Katy [Taj Mahal, James Rachell]
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Get Up, Get Ready [David Steen]
4. Make A Better World [Earl King]
5. Yes, We Can Can [Allen Toussaint]
6. Creole Eyes [Rick Vito]
7. Cajun Moon [J.J. Cale]
8. New Orleans [J.J. Cale]
9. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
10. Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down [Eric Bibb, Charlotte Hoglund]
11. Bessie's Advice [Eric Bibb, Maria Muldaur]
12. It Ain't The Meat It's The Motion [Henry Glover, Louis Mann]
13. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
14. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barler]

[September 30, 2010 Iron House Music Hall, Northampton, MA]

Set List : Same As September 27

写真上 : Kirk Avenue Music Hall
写真下 : Iron House Music Hall

注 : 1.はマリア非参加

 

マリアのアメリカ東海岸のツアーのオーディエンス録音。彼女のアナウンスによると、期間は約1ヵ月で、本コンサートはその中間地点とのこと。9月27日はワシントンDCの南西にあるバージニア州ロアノーク、30日はボストンの西にあるマサチューセッツ州ノーザンプトンという町における小規模コンサーの模様をフルセットで捉えたもので、前者はクリア、後者はマイルドという相違はあるが、とても良い音質だ。またノーカットなので、曲間の彼女のトークの上手さを味わうこともできる。

曲目と進行は両者ほぼ同じ。タージ・マハル1968年の 1.「She Caught The Katy」は、バンドのウォームアップで、ドラムスのデイブ・タッカーが歌い、マリアは参加してない。この後司会者の紹介でマリアが登場し、2.「I'm A Woman」のイントロにのせて行う曲の紹介がカッコイイ。ドラムスとキーボードは常連(クリス・バーンズは、鍵盤の右部でピアノを弾き、左部でベースを刻む特技の持ち主)。クリス・アトキンスはニューオリンズで活躍するギタリストで、現在(2023年時点)ジョージ・ポーターJr. のバンドのメンバーとのこと。間奏でのギターソロやオブリガードは味わい深く、かなりの使い手とみた。同時期に行われたふたつのコンサートでのギタープレイを聴き比べると、それなりに違っているのが面白い。宗教的な色合いが強い 3.「Get Up, Get Ready」では、オリジナルの「Southland Of The Heart」 1998 M17ではチェンバース・ブラザーズが歌っていたバックコーラスをバンドの連中が演っているが、これがなかなか上手い。

4.「Make A Better World」、5.「Yes, We Can Can」の演奏にあたり、マリアは、いままでラブ・ソング、ブルースを歌ってきたので、嫌いだったんだけどプロテストソングを歌おうと思い、前向きな内容の曲を選んだと語っている。5.「Yes, We Can Can」では、後に大統領選挙のキャンペーン・ソング(オバマ陣営)になったエピソードを語り、この歌は(オバマの) 「He Can」でなく、我々の「We Can」なんだよねと言って、共和党支持者や政権誕生後に期待はずれで失望した人に配慮している。 マリアの語りは、年季が入るにつれて上達したようで、2つのコンサートを比較すると、同じプロットに基づき、ある程度自由に話しているようだ。

6.「Creole Eyes」、7.「Cajun Moon」、8.「New Orleans」は、ニューオリンズ特集。ドクター・ジョンとの親交、音楽そして街への愛着を熱っぽく語っている。「ブルース」と「ルイジアナ(ニューオリンズがある州)」を融合させた名前を冠するバンドにとって、得意な分野を独自のアレンジで演奏。ピアノ、ドラムスは勿論、ギターも素晴らしい。

9.〜11.はスピリチュアルな色合いがある曲。ギンギンのブルース 9.「Please Send Me Someone To Love」は、マリアが長年ステージで歌い続けてきた曲で、十分な自信がついたのか2011年に正式録音が発表された。中盤で披露される元の歌詞にないフレーズを淀みなく語る部分は圧倒的で、じっくりと歌い込んで積み上げた成果がはっきり出ていて素晴らしい。ゴスペル風の10、ダークな雰囲気のジャズ・ブルース 11.も聴きごたえ満点。最後の3曲は、初期の人気曲オンパレード。13.「Midnight At The Oasis」の間奏ギタープレイは、エイモス・ギャレットの傑作ソロをコピーしたものだった。昔は独自版に果敢に挑戦した人もいたが、誰も叶わず、その後は皆エイモスに敬意を表することにしたみたいだね。

なお各曲の初出は以下の通り。
Jug Band Music (Jim Kweskin Jug Band) 1965 E3    2
Maria Muldaur 1973 M1                  13, 14
Waitress In A Donut Shop 1974 M3             12
South Wind 1978 M5                      7
Goodbye (Usual Suspects) 1990 E72             8
Louisiana Love Call 1992 M13                 6
Southland Of The Heart 1998 M17              3
Sisters & Brothers 2004 M23              10, 11
Yes We Can ! 2008 M29                   4, 5
Steady Love 2011 M33                      9

脂が乗ったマリア60歳代後半のステージ。歌とトークを楽しみましょう。

[2023年3月作成]


The 53rd Grammy Award Pre-Telecast Ceremony 2011  映像 
 
Cyndi Lauper : Vocal
Betty Wright : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Mavis Staples : Vocal
Kenny Wayne Sheperd : Guitar
Buddy Guy : Guitar
Unknown : Back Band

1. Wang Dang Doodle [Willie Dixon]

収録: 2011年2月11日 Convention Center, Los Angeles


第53回グラミー賞授与式は、2011年2月13日ロスアンゼルスのステイプルズ・センターで行われたが、その前夜祭(Pre-Telecast Ceremony)が、11日コンヴェンションセンターで開催され、そこにブルースおよびルーツ音楽の部門にノミネートされたミュージシャン達によるパフォーマンスが披露され、その模様はグラミー実行委員会のサイトでストリーミング配信された。

1.「Wang Dang Doodle」はシカコブルースのウィリー・ディクソンが書いた曲で、ハウリン・ウルフ1961年の録音がオリジナル。その後ココ・テイラー、グレイトフル・デッド等多くのアーティストがカバーした。個人的にはポインター・シスターズ1973年のデビューアルバムのバージョンがいいかな?最初に歌うのはご存じシンディ・ローパー。2010年のアルバム「Memphis Blues」がBest Traditional Albumにノミネートされたもので、歌が上手い人なので何をやっても様になるが、この人のルーツはここだったんだな〜と納得できる歌いっぷりだ。次に登場するベティ・ライト(1953- 以下括弧内はノミネートのジャンルです。「Best Traditional R&B Vocal Performance」)は、マリアが1979年の「Open Your Eyes」でカバーした1971年、全米6位のヒット「Clean Up Woman」で名高い人。続いてマリア(「Best Traditional Folk Album」→ 「Maria Muldaur & Her Garden Of Joy」M30 がノミネートされたもの) が出てきて太い声で歌う。間奏のギターソロはケニー・ウェイン・シェパード(1977- 「Best Comtemporary Blues Album」)。ルイジアナ州出身で、スティーブ・レイヴォーンに憧れてプロになり1995年にCDデビューした若手ギタリストだ。次にバディ・ガイ(1936- )がソロをとる。昔HNKのテレビ放送で観た1969年の映像「Super Show」で、エリック・クラプトン、ジャック・ブルース等と共演した様がとてもカッコ良かった強烈な記憶があるので、本当に年老いたなあという実感。それでもディストーションが効いた元気なプレイを見せてくれる。最後に登場するのがメイヴィス・ステイプル(1939- 「Best Americana Album」)で、貫禄たっぷりの歌唱。バンドがブレイクして、4人の声だけのアカペラになっての掛け合いが見事で、歌唱力のバランスが取れているからこそできる技だ。

受賞したのはメイヴィス一人で、マリアは惜しくも受賞を逃す結果となった。


  
The Flip Side Maria Muldaur In Conversation With Ben Fong-Torres 2012  映像  
 
Maria Muldaur : Vocal, Tamburine (2)
Chris Burns : Piano

Ben Fong-Torres : Host

1. Empty Bed Blues [J. C. Johnson]
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
4. Me And My Chauffeur Blues [Ernest Lawler]
5. Please Send Someone To Love [Percy Mayfield]

収録: 2012年3月29日 Jewish Community Center Of San Francisco, San Francisco

 

JCCSF (Jewish Community Center Of San Francisco, San Francisco)は、ユダヤのアイデンティティー維持を目的とする親睦団体で1877年設立、社会・芸術・スポーツなど幅広い分野で文化振興活動を行っている。「The Flip Side (裏面)」は、JCCSFの企画部門「Arts & Idea」の主催による、アーティストが自己のキャリアを総括する公開インタビューで、司会を務めるベン・フォン・トーレス(1945- )は、西海岸で活躍するロック・ジャーナリストだ。彼はローリング・ストーン誌、サンフランシスコ・クロニクル誌の連載で名声を確立し、ドアーズ、グレイトフル・デッド、イーグルス、リトルフィート等の評伝を執筆している。

1時間半にわたるイベントのオープニングは、プロデューサーによるプレゼンテーションからで、次に登場したトーレス氏は、「マリア、マリア」とアカペラで歌う(ウエストサイド・ストーリーの「Tonight」のイントロのパロディー)。そしてマリアが登場、写真・映像・音楽で彼女のキャリアが紹介される。そこでは「Richland Woman Blues」「I Ain't Gonna Marry」(ジム・クゥエスキン・ジャグバンド、後者は1967 or 1968の映像)、「I'm A Woman」、「Lord Protect My Child」(E127 2005より)、「Midnight At The Oasis」が流れる。

以下は会話の内容です。ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジの生まれでイタリア系。クラシック音楽を好む母親に対して、叔母さんが聴かせてくれたカントリー・ウェスタンに親しむ。中学・高校生の頃ドゥワップ・コーラス・グループを結成したが、ロックンロールが商業化されポップになってゆくにつれ、ジャズ、ブルース、フォークに傾倒してゆく。当時ベイビー・シッターをしていた家の膨大なレコード・コレクションからベッシー・スミスを発見、衝撃を受け、これが私が歌いたい曲と思う。音楽仲間の社交場となっていたアラン・ブロック(ロリー・ブロックのお父さん)が経営するサンダルショップで、ニュー・ロストシティ・ランブラーズ等のオールドタイミーに親しみ、フィドルを弾くようになる。ここでマリアは、クリス・バーンズのピアノ伴奏でベッシーの1.「Empty Bed Blues」を歌う。クリスはマリアのハウスバンドの常連奏者なので、2人の息はぴったりだ。

17才の頃観たドック・ワトソンのコンサートで、彼の伯父さん(ゲイザー・カールトン)が弾くフィドルに惚れ込み、アラン・ロマックス(伝統音楽の研究・発掘で有名な人)のパーティーで彼らと仲良くなり、ノースキャロライナのワトソン家に滞在し教えてもらう。当時ワシントン・スクウェアで、多くグループが様々な音楽を演奏していて、デビッド・グリスマンとMaria & Washington Square Ramblers というブルーグラスのグループを組んだこともある。ジョン・セバスチャンとデビッド・グリスマンからジャグバンドへの参加を誘われる。ブルース歌手で、自己のレーベルを持っていたヴィクトリア・スパイヴィーにスカウトされて、レコードを製作することになったが、セックスアピールが要ると言われたという。その頃はウーマンリブの運動が起きる前だったので、何とも思わず応諾。ヴィクトリアからは、ブルースやステージでの心構えを教えてもらった。イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドは、大人数のグループだったので、2回のカーネギー・ホールでのコンサートと、フーテナニーというテレビ番組への出演(注:映像・音源の部「Hootenanny」参照)だけで解散した。大学の授業に出なくなり、学長とのインタビューをすっぽかしたことで、プロの音楽家として生きてゆくことを決める。ここでタンバリンを叩きながら 2.「I'm A Woman」を歌う。

ジョンに誘われて、ビターエンドで行われたジム・クウェスキン・ジャグバンドのコンサートを観に行き、ジェフ・マルダーと知り合い恋に落ち、ボストンのケンブリッジに移る。数枚のレコードを製作したが、残念なことにジムがバンドを解散。ワーナー・ブラザースのモー・オースチンの援助でウッドストックに移り、ジェフ・アンド・マリアでアルバムを発表。しかしジェフは、もっとハードなブルースを演るため、ポール・バターフィールドのグループ(ベターデイズ)に加入。離婚もして途方にくれたが、モー・オースチンの薦めでソロアルバムを製作すべく、娘とロスアンゼルスに移住する。ライ・クーダー、ドクター・ジョン、デビッド・リンドレー、ジム・ケルトナー、デビッド・グリスマン、リチャード・グリーンといった好きなミュージシャンで、ドリー・パートン、ルウ・ベイカー、ジミー・ロジャース等による好きな曲を録音したが、プロデューサーがあともうひとつ、ミディアム・テンポの曲が欲しいと言い出して、若いミュージシャンで当時私の面倒を見てくれていたデビッド・ニクターンが提供し、最後に録音した曲と言って 3.「Midnight At The Oasis」を歌う。彼女がピアノのみの伴奏でこの歌うのを聴くのは初めてだ。進行が遅れ気味だったらしく、間奏のピアノソロなしの演奏になったのが残念。

デビッドは、ブロンド娘とウォターベッドがあるペントハウスで週末を過ごした経験から、この曲を書いたという。この曲のヒットは、彼女のキャリアに大いに貢献したが、デビットも大儲けした。評判が良かった「Don't You Feel My Leg」を次のシングルに出すことを検討したが、セクシーなイメージが定着するのを恐れて止めた。当時の業界は、マドンナのように売り出すという想定がなかったからだ。マリアはそのままサンフランシスコ郊外のミル・ヴァレーに居を構え、現在に至っている。当時ベーシストのジョン・カーンと恋愛関係にあり、その縁でジェリー・ガルシアの音楽仲間になるが、彼がルーツ音楽に対する素養が深かったことも理由だった。ここでメンフィス・ミニーの話になり、ベッシーほど知名度はないが、ビッチィーなギターを弾き、多くの曲を書いた人と紹介して4.「Me And My Chauffeur Blues」を歌う。 間奏でのブギウギ・ピアノが楽しい。当時製作中のメンフィス・ミニーのトリビュートアルバム「First Came Memphis Minnie」M34の話と、独立レーベルで低予算のアルバム製作が可能なのは、仲間が助けてくれるから。次に歌う 5.「Please Send Someone To Love」は、ピアノのイントロをバックにマリアが行う曲の紹介がカッコイイ。マリアはこの曲を長年歌っているが、その歌唱が今も進化し続けていることを示す熱演だ。

ここでオーディエンスによる質問コーナーとなり、1960年代のニューポート・フェスティバルは、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ等と一緒にコンサート、パーティーに参加した楽しい思い出。1986年の「Transblucency」1986が廃盤のままなのは、2人の医者が設立したという独立レーベル経営の難しさがあるという。ヴォイス・レッスンについては、1980年代にリンダ・ロンシュタットの後を受けて、ブロードウェイ・ミュージカル「Pirates Of Penzance」に出演することになった時、彼女が歌えない音域の曲があったため、初めてレッスンを受けたところ、出るようになったので以後続けているとのこと。クラシック音楽しか聴かせなかった母親はその後許してくれたかという質問に対し、プロとしてデビューした後は、自分がマリアの母親であることを誇りに思ってくれたと答え、ニューヨークにおけるベティ・カーター・ビッグバンドとのコンサートで、母が観客席に居たので「Don't You Feel My Leg」をはずす事にしたが、最後に彼女がステージ前に駆け寄って「私が大好きな Don't You Feel My Legを演って!」とリクエストを言ったエピソードを披露し、オーディエンスを笑わせている。その他、ボブ・ディランが「Heart Of Mine」2006 M26を聴いてほめてくれたこと、同じ音楽ルーツを持つスージー・トンプソンとの親交などを語っている。

リラックスした雰囲気の中で、マリアの話術とパフォーマンスが楽しめる逸品。


Bill Wyman's Rhythm Kings UK Tour 2013  映像 
 
Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal (2,3,4)
Beverley Skeete : Vocal (4)
Albert Lee : Electric Guitar
Terry Taylor : Electric Guitar, Back Vocal
Geraint Watkins : Keyboards, Vocal (2)
Bill Wyman : Bass, Vocal (3)
Gragam Broad : Drums
Nick Payn : Sax
Frank Mead : Sax

1. Midnight At The Oasis
2. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
3. Time Is On My Side [Norman Meade]
4. You Can Never Tell [Chuck Berry] 
5. Good Rockin' Daddy [Joe Josea, Richard Berry]

収録: 2013年11月20日 The Alhambra, Dunfermline, Scotland (1,2,3,4)
     2013年11月23日 G-Live, Guildford, England (5)


マリアは、2013年10月末から11月にかけて、ビル・ワイマンズ・リズム・キングスの2013年 UKツアーにゲストとして参加した。意外な取り合わせのように見えるが、マリアはビルのサウンドトラック・アルバム「Green Ice」1981E52 にゲスト参加したことがあり、30年ぶりの共演ということになる。このバンドは、イギリスのベテラン・セッション・ミュージシャンが勢揃いした布陣なので、演奏面は申し分ないものだ。バンドマスターのビルのプレイは、お馴染み派手さが全くない独特のスタイルで黙々とビートを刻み、他のメンバーが代わる代わるスポットライトを浴びて、素晴らしいプレイを披露するパフォーマンスだ。

マリアが歌う1.「Midnight At The Oasis」は、名ギタリスト、アルバート・リーのギターソロがハイライト。カントリー、ロカビリースタイルではイギリス一番と言える人で、ヘッズ・ハンズ・アンド・フィートというグループや、エリック・クラプトン、バート・ヤンシュなどのバックで定評が高い。ソロの最初の部分は閃きに満ちたフレーズが飛び出すが、転調するところではイメージが湧き出なかったようで、無難なフレーズに逃げてしまう。しかし、最後の部分で取り直して、カッコ良く決めるあたりは流石だ。この位の人だったら、事前に練習せずコード進行だけでいきなり演っちゃうんだろうな〜。2. 「Richland Woman Blues」のバックもさらっとした感じ、アルバート・リーのギターもあまりリハーサルをせず、軽く弾く感じだ。

ローリング・ストーンズのスタンダード(実際は1963年のジャズ・トロンボーン奏者カイ・ワイディングのオリジナルを、翌年ローリング・ストーンズがカバーしたもの) 3.「Time Is On My Side」は、キーボードのゲライント・ワトキンスが、エッタ・ジェイムス1955年のヒット5.「Good Rockin' Daddy」は、ベヴァリー・スキートがリードボーカルを担当。し、マリアはバックボーカルで参加。コンサート最後の曲と思われる、チャック・ベリー1964年のヒット 4.「You Can Never Tell」は、ビル・ワイマン本人が少し照れながら歌い、会場は大いに盛り上がる。 マリアは他に「Richland Woman Blues」、「Don't You Feel My Leg」などを歌ったそうだ。

面白い顔ぶれのバンドとの共演。


 
National Jug Band Jubilee, Louisville 2014  映像  
 
Maria Muldaur : Vocal, Kazoo (1)
Kit Stovepipe : Guitar
Devin Champlin: Banjolin (1,4) , Fiddle (3), Guitar (2)
Joe Davey : Wash-tab Bass
Lucas Hicks : Percussion, Washboard, Spoons
Sammy "Shakes" Baker : Jug (1)

1. Garden Of Joy [Clifford Hayes]
2. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
3. He Calls That Religion [Traditional]
4. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]

収録: 2014年9月20日 Brown-Forman Amphitheater, Waterfront Park, Louisville, KY

 

ルイスヴィルはケンターッキー州最大の都市で、インディアナ州境の近くにある。そこで土曜日の正午から夜11時まで、9組のジャグバンドが登場するフリーコンサート「ナショナル・ジャグバンド・ジュビリー」が開催され、第10回目にあたる今回はヘッドライナーとしてマリアが出演した。バックは、「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」2009 M30で共演したキット・ストーブパイプのバンド(Crow Quill Night Owls)仲間だ。

1.「Garden Of Joy」でジャグを吹いているゲストプレイヤーは、当日出演したバンド The Jake Leg Stompers のサミーベイカーで、マリアによると「彼の演奏を初めて観たが、とても良かったので借りた」とのこと。キットはお馴染みのシルクハットにヴィンテージっぽい洋服を着て、もじゃもじゃ髭を生やし、フィンガーピックを付けてメタルボディーのリゾネイター・ギターを弾いている。こう述べるといかにも古風なんだけど、鼻にピアスをしているためエキセントリックな容貌になっている。マルチプレイヤーのデヴィン・チャンプリンは、バンジョリン(バンジョーのボディーに4本の弦をマンドリンチューニングで張ったもの)を手にしている。ここでマリアが吹くカズーはなかなかのもので、間奏のソロもトランペット奏者に引けを取らない味が出ている。デヴィンがギターに持ち替えた 2.「Richland Woman Blues」は、2台のギターの絡みが聴きもの。キットのギタープレイは、変化に富んでいて、随所にアドリブっぽいフレーズを入れるが、リズムが全く乱れないのが凄い。オーディエンスは、十分飲んで出来上がっているようで、3.「He Calls That Religion」の曲紹介でギャアギャア喚いている。ここでも、スウィングのカッティングを入れながら、フィンガーピッキングで力強いフレーズを繰り出すキットのプレイが光っている。デヴィンは、楽器のボディーを顎に付けないスタイルでフィドルを弾き、キット、デヴィンとパーカッションのルーカス・ヒックスの3人はコーラスも担当している。アンコールとして演奏された4.「Don't You Feel My Leg」は、ジャグバンド・スタイルによる珍しいアレンジで、曲自体は意外にさっぱりした演奏であるが、エンディングでジェームズ・ブラウンのパロディーを披露し、喜んだオーディエンスが大騒ぎしている。

上手なバンドとの共演により、マリアのジャグ・バンド・ミュージックの真骨頂が味わえる映像だ。


  
Jim Kweskin Jug Band, Sellersville 2015  音源   

 

 
Jim Kweskin : Vocal, Guitar
Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal, Kazoo, Tamburine
Geoff Muldaur : Vocal, Guitar, Washboard, Mandolin, Kalimba
Bennett Sullivan : Banjo
Jason Anick : Fiddle
Martin Keith : Bass

[Set 1]
1. Jug Band Music [Memphis Jug Band] Geoff (Maria)
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]  Maria
3. Papa's On The Housetop [Leroy Carr]  Jim
4. Wild About My Loving [Traditional] Geoff
5. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]  Maria
6. Sweet To Mama [Traditional] Geoff
7. Would You Like To Play The Guitar? [Jimmy Van Heusen, Johnny Burke, Pat Donohue] Jim
8. Garden Of Joy [Clifford Hayes]  Maria
9. Rag Mama [Blind Boy Fuller] Jim (Geoff, Maria)

[Set 2]
10. Blues In The Bottle [Petr Stampfel, Steve Weber]  Jim
11. Fishing Blues [J. Thomas, J.M. Williams]  Geoff (Jim, Maria)
12. I Ain't Gonna Marry [Sara Martin]  Maria
13. The Sheik Of Araby [Smith, Snyder, Wheeler] Jim (Maria)
14. Guabi Guabi [Traditional] Jim (Geoff)
15. If You're Viper [R. Howard, H. Malcolm, H. Moren]  Jim
16. Minglewood Blues [Noah Lewis] Geoff
17. He Calls That Religion [Traditional]  Maria (Jim, Geoff)
18. Sweet Sue [Will J. Harris, Victor Young] Geoff
19. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me [Swanstone, Carvon, Morgan] Jim

[Encore]
20. Stealin' [Memphis Jug Band] Jim (Geoff, Mara)

録音: Sellersville Theater, Sellersville, PA  2015年7月19日


ジム・クウェスキン・ジャグバンドのリユニオン音源はいくつかあるが、これはその決定版と言えるものだ。オリジナルメンバーのうち、フリッツ・リッチモンドは2005年に亡くなり、ビル・キースも健康を害していて(彼は本録音のしばらく後、10月に亡くなっている)、かわりにブルーグラスやジャズで活躍する若手の精鋭ミュージシャンを招いている。ベースのマーチン・キースはビル・キースの息子で、ギター、ベース製作者としても有名な人。会場のセラーズヴィルは、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアから電車で45分のところにある小さな町。

演奏曲の初出は以下のとおり。
1. Jug Band Music : Memphis Jug Band 1934 (Jug Band Music 1965)
2. I'm A Woman : Christine Kittrell, Peggy Lee 1962  (Jug Band Music 1965)
3. Papa's On The Housetop : Leroy Carr 1930 (See Reverse Side For Title 1966)
4. Wild About My Loving : Jim Jackson 1928 (Jim Kweskin Jug Band 1963)
5. Richland Woman Blues : Mississippi John Hurt 1963 (See Reverse Side For Title 1966)
6. Sweet To Mama : Sate Street Boys (Big Bill Broonzy) 1935 (Penny's Firm 2016)
7. Would You Like To Play The Guitar? : Bing Crosby 1944, Pat Donohue 2011
8. Garden Of Joy : Dixieland Jug Blowers 1927 (Garden Of Joy 1967)
9. Rag Mama : Blind Boy Fuller 1936 (Jug Band Music 1965)
10. Blues In The Bottle : Prince Albert Hunt's Texas Ramblers 1928 (See Reverse Side For Title 1966)
11. Fishing Blues : Henry Thomas 1928 (See Reverse Side For Title 1966)
12. I Ain't Gonna Marry : Viola McCoy 1924 (Garden Of Joy 1967)
13. The Sheik Of Araby : Joseph Knecht's Waldolf-Astoria Orchestra 1921 (Garden Of Joy 1967)
14. Guabi Guabi : George Sibanda 1950s (Relax Your Mind 1968)
15. If You're Viper : Rosetta Howard And The Harlem Hamfats 1937 (Garden Of Joy 1967)
16. Minglewood Blues : Cannon's Jug Stompers 1928 (Garden Of Joy 1967)
17. He Calls That Religion : Mississippi Sheiks 1932 (Maria Muldaur & The Garden Of Jor 2009)
18. Sweet Sue: Charley Straight And His Orchestra Vocal By Frank Sylvano (Jim Kweskin Jug Band 1963)
19. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me : George Beaver 1919  (Jug Band Music 1965)
20. Stealin' : Memphis Jug Band 1929 (Jim Kweskin's America 1971)

音源は 1.「Jug Band Music」のフェイド・インから始まる。50年前の録音に比べてマリアのバックボーカルがダミ声になっていて歳月の流れを感じる。カズーを吹いているのはマリアだろう。次にタンバリンの音がして、マリアが 2.「I'm A Woman」を歌う。ジェイソン・アニックのバイオリンソロがいい感じだ。彼女はその後も多くの曲で、タンバリンを叩いている。ジェフが歌う 4.「Wild About My Loving」と1928年のオリジナルを聴き比べると、昔と今のタイム感覚の違いががよくわかる。お馴染みの 5.「Richland Woman」と続き、7.「Would You Like To Play The Guitar?」は、フィンガースタイル・ギタリストとして有名なパット・ドナヒューが、ビング・クロスビー1944年のヒット曲「Swinging On A Star」のメロディーに歌詞を付けたパロディーソングで、しがないギター弾きにとっての仕事、エージェント、奥さんのことをシニカルに歌う。ジムが歌い終わった後で、マリアが「本当にその通りだわ」と実感を込めて呟く様が面白い。8.「Garden Of Joy」は、当初録音の約40年後の2009年にマリアが再録音(「Maria Muldaur And The Garden Of Joy」 M30) している。9.「Rag Mama」は、間奏におけるバンジョー、バイオリンの力量がしっかり伝わってくる好演。

12.「I Ain't Gonna Marry」はアルバム録音時1967年と50年後のマリアの声が使用前・使用後のような違い。13.「The Sheik Of Araby」のようなジャズ曲になると、バイオリンとバンジョーが俄然張り切っている。ジムのリードボーカルにマリアが別メロディーのサイドボーカルを付ける様がきっちり再現されている。14. 「Guabi Guabi」は、本音源の中で異色の曲。ヒュー・トレイシーという音楽学者がアフリカ・ジンバブエで行ったフィールド・レコーディングに入っていたもので、アメリカののフォーク・ブルースとアフリカ民族音楽が見事にミックスされているが、作者のジョージ・シバンダという人については謎が多い。ジムは1950年代に発売されたレコードを聴いてレパートリーに加えたそうだ。ここではジェフはカリンバをつま弾きながらハーモニー・ボーカルをつけている。ジム・クエスキン・ジャグ・バンドでのお馴染みの曲が続いたあと、マリアが歌う 17.「He Calls That Religion」は、ジムとジェフのバックボーカルにオーディエンスも加わり、とても楽しい雰囲気。ここでのメンバー紹介で、ジェフがマーチン・キースの事を「ビル・キースの息子です」と言ってオーディエンスの喝采を浴びている。18.「Sweet Sue」のイントロでジェフは、パーティーなどで使われるチップマンク声変換用ヘリウムガス風船を吸いながら歌い、オーディエンスは大笑い。マリアが「日本ではジャグ・バンドの人気がとても高いのよ!」と話している。ここでもバイオリンとバンジョーの演奏が素晴らしい。マリアはカズーと一言のみの色っぽい言葉で貢献。アンコールはジャグバンドの名曲 20.「Stealin'」をオーディエンスと一緒に歌ってコンサートは終了する。

素晴らしいバイオリン、バンジョー奏者を得て、オーディエンスと一体になって、皆楽しそうに演奏している。本当に雰囲気の良いライブだ。オーディエンス録音の音質も文句なし。最初の曲がフェイドインになっていることだけが唯一残念だね。

[2023年4月作成]


Tribute To Linda Ronstadt 2016  映像 
 


Maria Muldaur : Vocal (1,2), Back Vocal (3), Tambourine (3)
Sara Watkins : Harmony Vocal (1), Vocal (2,3), Violin (1)
Aoife O'Donovan : Vocal (2), Back Vocal (3)
Brandy Clark : Vocal (2), Back Vocal (3)
Grace Potter : Vocal (2), Back Vocal (3), Electric Guitar (2, 3)
Gaby Moreno : Vocal (2), Back Vocal (3)
Sarah Jarosz : Vocal (3)
Lucius (Jess Wolfe & Holly Laessig) : Vocal (3)
Jackson Browne : Vocal (3)

Greg Leitz : Pedal Steel Guitar (2), Electric Guitar (3)
Sean Watkins : Vocal (3), Acoustic Guitar (2, 3)
Taylor Goldsmith : Electric Guitar (3)
Benmont Tench : Keyboards
Sebastian Steinberg :Bass (2,3)
Don Heffington : Drums (2,3)
Unknown : Violin (2,3)

1. Heart Like A Wheel [Anna McGarrigle]
2. Blue Bayou [Roy Orbison, Joe Melson]
3. Heatwave [Holland, Dozier, Holland]

 

リンダ・ロンシュタットは1970〜1990年代の米国ウエストコーストの雰囲気を体現したシンガーだった。70代年の自由で開放的なヒッピー文化の象徴となり、80〜90年代にかけてジャズやメキシコ音楽に挑戦して、音楽の深化・多様化を果たした。2000年代以降の活動は地味になり、2011年に引退が報道されたが、後にその原因がパーキンソン病のために歌えなくなったことが明らかになった。この病気はカシアス・クレイ、マイケル J. フォックス、キャサリン・ヘップバーンや岡本太郎等の有名人もかかった神経変性疾患で、手足や顎の震え、進行すると歩行が困難になるという。そういえば1980年代に「黄昏(On A Golden Pond)」という映画を観たとき、主演のキャサリン・ヘップバーンのクローズアップ・シーンで、彼女の首が微妙に震えていた事を思い出した(同時にボートから池に落ちたヘンリー・フォンダを救うために彼女が池に飛び込むシーンを、吹き替えなしで演じた場面も思い出し、改めてスゴイ人だと思いました)。その後、彼女のトリビュート・コンサートがいくつか開催されたが、本件は若手カントリー音楽家による企画で、コンサートでの振る舞いからみてサラ・ワトキンスと彼女のグループ 「ザ・ワトキンス・ファミリー・アワー」が中心にいることは明らか。マリアが若手中心の参加者の中で、J.D. サウザー、ジャクソン・ブラウン、ドン・ヘンリー等と並び、リンダと縁が深かった大御所の一人として登場している。

1.「Heart Like A Wheel」を歌う前のマリアの語りは以下の通り。「私はリンダと50年以上の知り合いです。当初の二人は若いヒッピーの可愛い子ちゃん歌手で、その後随分一緒にやってきたものです。私がソロアルバムを録音するためにカリフォルニアにやってきた時、私は彼女を招いて一緒に歌ってもらいました。そのひとつがマッギャリグル姉妹が作曲した「Work Song」だったのです。彼女にハーモニーを歌ってもらった時点で、彼女は私と同様マッギャリグル姉妹の大ファンになっていました。数年後彼女が彼らの作品「Heart Like A Wheel」を録音するにあたり、私は招かれハーモニーを歌いました。そして(今晩)、私は素晴らしい娘サラ・ワトキンスと一緒に歌うことを喜ばしく思います」 1974年のリンダの同名タイトルのアルバム E32で心をえぐるような名曲のハーモニーを担当したマリアが、およそ30年後に病魔と闘うリンダのためにこの曲を歌う様は、皆にとって万感の思いがあったに違いない。黒縁メガネがキュートなサラ・ワトキンスは、1981年カリフォルニア州生まれ。兄のシーン、マンドリンの名手クリス・シーリーと組んだニッケルクリークという先進的ブルーグラスバンドで有名になり、その後ソロとなって兄と腕利きセッション・ミュージシャンからなるバンドをバックに活躍している。ここで彼女は、トム・ペティ・アンド・ハートブレイカーズのキーボード奏者ベンモント・テンチのピアノをバックに恋の痛みを切々と歌いあげるマリアを、素晴らしいハーモニー・ボーカルとバイオリンでサポートしている。

ロイ・オービソン1963年全米29位の 2.「Blue Bayou」(リンダのカバーは1977年で全米3位)はフィナーレで、出演者が代わり替わり歌い継いでゆく。まずサラとシーンのワトキンス兄妹、そしてイーファ・オドノヴァン(1982年マサチューセッツ州生まれ、クルックド・スティルというブルーグラス・バンドで脚光を浴び、ソロ転向後は様々なセッションに参加している人)、ブランディ・クラーク(1975年ワシントン州生まれ、作曲家としても多くの歌手に曲を提供している人)、我らがマリア、フライングVを弾きながら歌うグレイス・ポッター(1983年ヴァーモント州生まれのシンガー・アンド・ソングライター、マルチ奏者、女優)、ギャビー・モレノ(1981年グアテマラ生まれで、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語に堪能。本コンサートではスペイン語の歌を担当)の順に歌われ、他の出演者がコーラスでバックアップする。名手グレッグ・サイツによるペダルスティールのソロの後、近くにいたマリアが振り返って小さく拍手を贈ると、彼はニコリと応える。そんなリラックスした雰囲気が何とも良い。曲が終わったところで、ジャクソン・ブラウン、サラ・ジャローズ、ルーシャス(ジェス・ウルフ・アンド・ホリー・レッシグ)が登場し、トリの曲としてマーサ & ザ・ヴァンデラス1963年全米4位の 3.「Heatwave」(リンダのカバーは1975年全米5位)が始まる。サラ・ジャローズ(1991年テキサス生まれ、マンドリン、バンジョーの名手で、カントリー音楽界の若手ホープの一人。2018年にサラ・ワトキンス、イーファ・オドノヴァンと「アイム・ウィズ・ハー」というグループを結成してアルバム制作とツアーを行った)、ルーシャス(ロジャー・ウォータースのバックとして著名なボーカルユニットで、アルバム「Nudes」はロ−リングストーン誌の「2018年聴くべき名盤」に選ばれている。本コンサートの中では珍しい新感覚スタイルの人達)、そしてジャクソン・ブラウン(説明不要)がリードを取る。間奏のギターソロは、テイラー・ゴールドスミス(インディー・ロックバンド、ドーズのリーダー)。マリアはタンバリンを叩きながらバックコ−ラスに加わっている。ちなみに本コンサートの収益金は、「マイケル J. フォックス パーキンソン病リサーチ財団」に寄付された。

マリアによる「Heart Like A Wheel」と「Blue Bayou」の歌唱が楽しめる。出演者のパフォーマンスからリンダに対する尊敬と愛情が感じられる、とても雰囲気の良いコンサートだ。当日のセットリストは以下のとおり。

1. Different Drum (Watkins Family Hour)
2. You're No Good (Grace Potter)
3. Rogaciano El Huapanguero (Gaby Moreno)
4. Mad Love (Dawes)
5. Crazy Arms (Brandy Clark & JD Souther)
6. Faithless Love (JD Souther)
7. Lover7's Return (I'm With Her)
8. Poor Poor Pitiful Me (David Lindley)
9. When Will I Be Loved ? (Lucius)
10. Willin' (Jackson Browne & Lucius)
11. Heart Like a Wheel (Maria Muldaur)
12. Adieu False Heart (I'm With Her & Gaby Moreno)
13. Silver Threads and Golden Needles (Grace Potter)
14. Don't Know Much (Aaron Neville)
15. Desperado (Don Henley)
16. Blue Bayou (cast)
17. Heat Wave (cast)


   
Steyn's Song Of The Week 2017  映像
 
Maria Muldaur : Vocal

The Mark Steyn Show Band
Eric Harding : Piano
Jon Gearey : Guitar
Richard Beaudet : Soprano Sax
Mathieu McConnell-Enright : Bass
Claude Lavergne : Drums

1. Aba Daba Honeymoon [Arthur Fields, Walter Donovan]

Mark Steyn : Host

放送: 2017年1月8日 Canada TV Program 「Steyn's Song Of The Week」

マーク・ステイン(1959- )は、カナダ生まれのテレビ・ラジオ司会者、作家、歌手、人権活動家だ。彼が司会を務める「Steyn's Song Of The Week」は、は、2011年頃から現在(2023年1月)の間(途中中断あり)に、あらゆるジャンルにわたる約400曲を紹介してきた。2017年1月8日の第287回は、「Ada Daba Honeymoon」が選ばれ、、ゲストシンガーとしてマリアが登場した。

まずマークによる曲の由来の説明から。オリジナルは2014年のアーサー・コリンズとバイロン・ハーランで、ティンパンアレイで作られたコミック・ソング。そして40年後にミュージカル映画「Two Weeks With Love」1950で、デビー・レイノルズとカールトン・カーペンターが歌い大ヒットした(注: デビー・レイノルズはその時は主人公のの妹という端役だったが、この曲のヒットで認められ、1952年の「Singin' In The Rain」でジーン・ケリーの相手役に抜擢されて大当たりする。その後も映画「Tammy And The Bachelor」1957で歌った「Tammy」が大ヒットした)。それにより老人ホームに入っていたアーサー・フィールズに多額の印税が入ったというエピソードを紹介する。そしてこの曲を現代に蘇らせた人として、マリアが紹介される。

マークとの話で、マリアは、「Midnight At The Oasis」のヒットの後、40枚のアルバムを出したと言い、この曲は子供達のためのアルバムを作った際に、子供の頃に聴いた曲を選んだとして、同曲が収められたアルバム「Swingin' In The Rain」1998 M18 のジャケット写真を見せる。ジャケットデザインが 「Singin' In The Rain」のパロディーであることに受けた後、マークが「Midnight At The Oasis」 を1970年代のティンパンアレイ風作品として、砂漠とジャングルの違いこそあれ、「Ada Daba Honeymoon」と相通じていると指摘している点が興味深い。少人数のオーディエンスを入れて、ライブハウス風にセッティングされたスタジオで、マリアはハウスバンドをバックに歌い始める。アルバムでの録音と比べて、リズムの乗り・音使いがよりモダンジャズっぽいが、ここでの演奏・歌唱もいい感じ。曲が終わった後に登場したマークがその出来栄えを絶賛し、通常ならばテーマ曲の演奏で終わるが、今回はもう一度とアンコールして、エンディング・タイトルが流れる中、ブレイク後アップテンポに切り替わるところから繰り返して、完奏によりお終いになる。

10分ちょっとであるが、無駄がなく子気味良い感じの番組だ。演奏・歌唱も最高!

[2023年1月作成]


The Way It Supposed To Be (Dore Coller) 2017  映像   
 
Dore Coller: Vocal, 12-String Guitar

Gust Singers (In Order Of Appearance)
 The Zucker Family Singers
 Susan Zelinksky
 Darren Nelson
 Lorin Rowan
 Maria Muldaur
 Ramblin' Jack Elliot
 Matt Jaffe & Caroline Sky
 Bob Weir
 West Park Earth Day Chorus

Gary Yost: Director

1. The Way It Supposed To Be [Dore Coller]

2017年6月28日 YouTube公開

 

タマルパイス山(Mt. Tamlpais)は、サンフランシスコ北に位置するマリン郡の最高峰。冷戦時代の1951年、アメリカ軍はソビエト爆撃機による西海岸地域への核攻撃に備えて、先住民が聖なる山として信仰した、自然豊かなこの山を切り崩し、レーダー基地を建設した。その後核攻撃がミサイルで行われる時代となり、基地の存在理由が失われたため、1981年に閉鎖され、建物は放置されて廃墟となった。その酷い有様を憂いた地元の人々が立ち上がり、建物の解体に乗り出したが、得られた予算では土台まで取り除くことができず、それらは古代遺跡のような野ざらしの状態になっている。現在人々はそれらの撤去と自然の回復に取り組もうとしており、その運動を促進するために 2014年、地元の著名な映像作家ゲイリー・ヨストが 「Invisible Peak」というドキュメンタリー・フィルムを製作し、それは多くの賞を獲得して話題となった。その3年後、ヨスト氏は、地元ミュージシャンのドーレ・コラーと組んで、「The Way It Supposed To Be」という歌のミュージック・ビデオを製作した。マリアがゲストとして参加している。

ドーレ・コラーはマリン郡ミルヴァレーで活躍するシンガー・ソングライター、マルチ奏者で、ブルーグラスをベースとし、カリビアン、ジプシー・ジャズ、R&Bなど幅広いジャンルをカバーし、ベイエリアの多くのミュージシャン達と共演・交流している。彼がこの地を元の自然に戻すべしという内容のプロテスト・ソングを作曲し、現地の土台・床などの残置物や美しい自然、山から見えるサンフランシスコの遠景などをバックに歌う。ギルドの12弦ギターによる弾き語りから始まり、ファースト・ヴァースに続くコーラス部分から、地元で活躍するゲスト・シンガー達が1節づつ、代わる代わるに歌う。ザ・ズッカー・ファミリー・シンガーズは、インターネットで情報が見つからなかった。スーザン・ゼリンスキーは、シンガー・ソングライター、ミュージカル女優。ダーレン・ネルソンは、The 421's というバンドを率いるシンガー。ローリン・ローワンは、ピーター、クリスのローワン3兄弟の末弟で、「The Rowans」という兄弟バンドを組んで活動している。その合間に、1950年代に稼働したレーダー基地の映像が挿入され、自然破壊を厭わず行った当時の状況が生々しく伝わってくる。

セカンドヴァースの後のコーラスで、まず登場するのが我らがマリアで、燦々と降り注ぐ日差しの下、美しい山の景色をバックに 「I'm looking up the beautiful mountain」と歌う。続くランブリン・ジャック・エリオットの年老いた姿に少しビックリ。マット・ジャフェとキャロライン・スカイは、伸び盛り中の若いミュージシャン。ボブ・ウェアはご存じグレイトフル・デッドのシンガー、ギタリストだ。そして最後に地元のコーラスグループが登場し、皆でコーラスを歌って終わる。

前述の「Invisible Peak」と合わせて、大変素晴らしく、説得力のある映像だと思う。


  
Blues Festival Basel, Basel Switzerland 2018  映像   

 

Maria Muldaur: Vocal
Chris Burns: Piano, Back Vocal 
Craig Caffall: Electric Guitar, Back Vocal
Sam Burckhardt: Tenor Sax
Ronnie Smith: Drums, Back Vocal

1. Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down [Eric Bibb, Charlotte Hoglund]

収録: 2018年4月15日 Volkshaus Basel, Switzerland

 

スイス・バーゼルで、2018年4月13〜15日に行われたブルース・フェスティバルのトリで出演。動画のタイトル「Abschluss des Blues Festival Basel」は、ドイツ語で「バーゼル・ブルース・フェスティバルの閉幕」という意味。フォルクスハウスはバーゼル中心部にあるホテル、レストラン、バーで、そこのイベントホールが会場になったもの。

マリアはレッド・ルイジアナ・ブルース・バンドの常連ミュージシャン(ベース奏者なし版)で出演したが、ゲストにサム・ブルクハートというサックス奏者が参加している。彼は1957年スイス生まれで、アメリカ・シカゴとスイスのブルース、ジャズ界で活躍している人。

1.「Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down」は、エリック・ビブの作品で、マリア、エリックとロリー・ブロックの共演盤「Sisters & Brothers」2004 M23 がマリアにとってオリジナルとなる。かなりリラックスした感じの演奏で、バック・ボーカルはクレイグだが、クリスとロニーがマイクなしで叫ぶ声も入っている。間奏はクレイグ、クリス、サム。

画質・音質の良い動画で、これ1曲だけなのが残念だね。

[2024年1月作成]


Just Like A Woman Concert 2019  映像   

[7〜9,18につき]
Maria Muldaur: Vocal, Tambourne (7,8)
Kim Nalley: Vocal (18)
Rhonda Benin: Vocal (18)
Tia Carroll: Vocal (18)
Lady Sunshine: Vocal (18)
Bex Grimes, Sandy Cressman, Noecey Robinson: Back Vocal (18)

The Lillian Armstrong Tribute Band
Tammy Lynn Hall: Piano
Ruth Davies: Upright Bass
Rithie Price: Drums
Kristen Strom: Sax, Flute


1. Feeling Good [Leslie Bricusse, Anthony Newley] Bex Grimes
2. A Matter Of The Heart [Rhonda Benin] Rhonda Benin
3. Here's To Life [Artie Butler, Phyllis Molinary] Lady Sunshine
4. (Unknown) Lady Sunshine
5. Hold On [Unknown] Sandy Cressman
6. (Unkown) Sandy Cresman
7. I'm A Woman [Jeey Leiber, Mike Stoller] Maria Muldaur
8. Midnight At The Oasis [David Nichtern] Maria Muldaur
9. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker] Maria Muldaur

 
10. You Are So Beautiful [Billy Preston, Bruce Fisher] The Lillian Armstrong Tribute Band
11. Save Your Life For Me [Buddy Johnson] Rhonda Benin
12. Jolene [Dolly Parton] Tia Carroll
13. Blues Woman [Unknonw] Tia Carroll
14. God Bless The Child [Billie Holiday, Arthur Herzog Jr.] Niecey Robinson
15. (Unkown) Niecey Robinson
16. Big Hooded Black Mom [Kim Nalley] Kim Nalley
17. Cotton-Eyed Joe [Traditional] Kim Nalley
18. In The Basement [Billy Davis, Raynard Miner, Carl William Smith] Finale

収録: 2019年3月30日,  Freight & Salvage Coffeehouse, Berkeley, California

注: 青字はマリア参加曲


「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」は、政府系機関主導のイベント「Women's History Month」で毎年3月に行われる女子オンリーのコンサートだ。プロデューサーのロンダ・ベニンは、ベイエリアで活躍するシンガー・エンタテイナーで、ソロ活動の他に、リンダ・ティレリー率いるThe Woman's Voices For Peace Choirのメンバーとして、マリアのアルバム「Yes We Can !」 2008 M29に参加している。カリフォルニア州バークリーにあるフレイト・アンド・サルベージ・コーヒーハウスで、女性だけのバンドをバックに、同地で活躍する女性シンガー達が、女性のジャズ・ブルース曲を歌う 2019年のコンサートにマリアが参加した。

マリアは5人目の歌手として、ファースト・セットのトリで登場。比較的若手が多い中で、大御所といえる存在だ。バックバンドの名前に冠したリリアン・アームストロング(1898-1971)は、ジャズ・ピアニスト、作曲・編曲家、シンガー、バンドリーダーで、1920年代にルイ・アームストロングの2番目の奥さんだった(1931年離婚)。ベースのルース・デイヴィースはマリア伴奏者の常連。クリティン・ストームは、後にコロナ禍 2021年のマリアの配信コンサートでサックスを吹いている。ピアノとドラムスは、マリアとの共演音源・映像は、私が知る限りここだけで、その分新鮮な感じの演奏を楽しめる。7.「I'm A Woman」の曲紹介では、グリニッジ・ヴィレッジで誰かがジュークボックスでかけたペギーリーの曲を気に入り、歌詞を書き留めるために10回リクエストしてバーの人々をうんざりさせたというエピソードが語られる。エレキギターないプレイはニューオリンズっぽくて面白い。クリスティンのサックスソロがいい感じだ。8.「Midnight At The Oasis」は「Goofy Little Song About A Camel」と紹介される。エイモス・ギャレットの必殺プレイで有名な間奏ソロは、クリスティンがフルートで挑戦している。9。「Don't You Feel My Leg」でマリアは、お得意のドクター・ジョンのだみ声の物まねと、アルバムからのセカンド・シングルの候補になりながら、この曲によって自分のイメージが「Sex Simbol Of Red Hot Mama」で固定されることを恐れて断念したこと、ローヤリティーの小切手を作者に送ろうとして、レコード会社に「彼らは亡くなっているので、会社宛に送れ」と言われたが、ドクター・ジョンに「ついこの前バーボン・ストリートで彼らを見たよ」言われ、めでたく本人に渡すことができたこと、そしてブルー・ルー・バーカーの特集アルバムを製作したことを語り、オーディエンスの笑いをとっている。タミー・リン・ホールのピアノソロが素晴らしい。ユーモアたっぷりのパフォーマンスが最高で、観客は笑いころげ、スタンディング・オーベエイションを送っている。

フィナーレは、1966年シュガーパイ・デサントとエッタ・ジェイムスが歌った18.「In The Basement」で、全員がステージに登場。ファースト・ヴァースはキム・ ナレイ、セカンド・ヴァースは歌詞カードを持ったリンダ・ベニンが歌う。そして次に指名されたマリアは、メロディーに乗せて「私は歌詞を知らないのよ〜」と歌い、観客は大笑い。続けてアドリブで「パーティーを楽しみましょう」と続け喝采を浴びる。その後はティア・キャロル、レディ・サンシャインがアドリブで歌い、最後は「In The Basement」のリフの大合唱で終わる。最後にロンダ・ベニンが巨体を揺すぶってちょっとだけ見せるダンスが凄い。ちなみにキム・ナレイは、その後2022年にアルバムのタイトル曲 「I Want A Little Boy」E152で、マリアとデュエットしている。

マリア以外のパフォーマンスも良かったので、簡単に述べます。シンガーとして駆け出しのように見えるレックス・グライムスが歌う 1.「Feeling Good」は、ニーナ・シモン1964年で有名。元はミュージカルのなかで白人との競争に勝った黒人が、人種・社会・経済的不平等を歌った曲。主催者のロンダ・ベニンは、ソロアルバムのタイトル曲である 2.「A Matter Of The Heart」。3.「Here's To Life」は、シャリー・ホーン1992年がオリジナル。若いレディ・サンシャインが情感たっぷりに歌う。サンディ・クレスマンはブラジル音楽。本映像では、名前の紹介がない曲が多いので、数曲がタイトル不明となった。セカンド・セットの始めにバンドが演奏するインストルメンタルは、メロディーとコード進行からジョー・コッカーの歌唱で有名な 10.「You Are So Beautiful」 とした。再登場したロンダ・ベニンが歌う11.「Save Your Life For Me」の初演は作者のバディ・ジョンソン(1955年)であるが、1962年のナンシー・ウィルソンが決定盤だ。ティア・キャロルは、ドリーパートンの12.「Jolene」をR&B風の面白いアレンジで歌う。若いニーシィー・ロビンソンが歌うの14. 「God Bless The Child」は、ビリー・。ホリデイ1941年の代表曲。キム・ナレイの 16. 「Big Hooded Black Mom」は貫禄たっぷり。トラッドの17.「Cotton-Eyed Joe」は、1994年スウェーデンのバンド、レッドネックスによるダンスアレンジが大ヒット(全英1位、全米25位)したが、ここではスローテンポで切々と歌い上げる。フィナーレは上述参照。

心から音楽を楽しむ会場の暖かい雰囲気と、出演者とオーディエンスの一体感が気持ち良い映像。


Turning The Tables 2019  映像 
 
Maria Muldaur: Vocal
Unknown: Back Band

1. Handy Man [Andy Razaf, Eubie Blake]
2. Don't You Feel My Leg [L Barker, J.M. Williams, D. Barker]

Recorded : September 12, 2019 at The Country Music Hall Of Fame And Museum, Nashville Tennessee

 

ナッシュビルにあるザ・カントリー・ミュージック・ホール・オブ・フェイム・アンド・ミュージアムが資金集めのため、2019年10月28日に行ったイベント「Big Night (At The Museum)」 (著名なアーティストが、ビル・モンローのマンドリンなど、過去の歴史的な楽器を弾きながら歌う内容のショー)の前宣伝のため、NPR(公共放送用の番組を製作・配布する会社)とタイアップして開催したパネル・ディスカッション (といっても積極的な討論や質疑応答はなく、司会者の質問に対しパネラーがプレゼンテイションを行い、それに係る歌を披露するという内容)。

ザ・カントリー・ミュージック・ホール・オブ・フェイム・アンド・ミュージアムのディレクター、アビ・タピア(Abbi Tapia)のスピーチの後、NPRのアン・パワーズ(Anne Powers)が司会を務め、パネラーが自身の音楽ルーツを語る。トップバッターはマリアで、ブルースにのめり込んだきっかけとして、グリニッジ・ヴィレッジの実家から独立してベビーシッターも兼ねて住み込んだ家に膨大なレコード・コレクションがあり、そこでベッシー・スミスのSPレコードを聴いたこと。ヴィクトリア・スパイヴィーと知り合い、彼女の口利きで、「セックスアピールが必要」とされたイーヴン・ダズン・ジャグバンドに参加してレコーディングした事を話す。当時はウーマンリブが騒がれる前だったので、「セックスアピール」のくだりは気にならなかったこと。メンフィス・ミニーなど、当時ブルースを歌った女性たちは、もともと女性差別、人種差別の障害を超越した次元で、セックスなどのダーティーな内容を比喩を使って詩的に歌っていたと語っている。そしてカラオケのバンド演奏をバックに、1.「Handy Man」を歌う。

次のパネラーはカーレン・カーター (Carlene Carter 1955- )。彼女は、ジョニー・キャッシュの奥さんのジェーン・カーター・キャッシュの最初の夫との娘で、メイベル・カーターの孫。カーター・ファミリーの思い出を語り、オートハープで「Foggy Mountain Top」を歌う。そしてショーン・コルヴィン (Shawn Colvin 1956- ) がジョニ・ミッチェルのエピソードを語り、彼女の「For The Roses」を弾き語る。さらにこの中では若手のアミシスト・キア (Amythyst Kiah 1986- ) がカントリーブルース、ゴスペル、フォークシンガーのプレシャス・ブライアント(Precious Bryant 1942-2013)について語り、彼女の「Broke And Ain't Got A Dime」を歌う。

この後は逆の順番で自分の歌を披露する。アミシストの「Firewater」、ショーンの「Polaroids」、カーレンの「The Bitter End」と続き、最後は曲を書かないマリアが 2.「Don't You Feel My Leg」を歌う。その前に、この曲はドクター・ジョンの紹介でファーストアルバムに収録し大評判をとったが、「Red Hot Mama (セクシーな女)」のレッテルを貼られることを恐れてシングル盤にしなかったこと、著作権収益を作者であるバーカー夫妻に渡そうとしたら、管理会社に「故人なので会社宛に送るように」と言われたが、ドクター・ジョンに「ふざけんるんじゃない。2週間前ニューオリンズで彼らに会ったよ」(マリアが彼の声色を真似るのが傑作)と言われ、彼らに会いに行って小切手を渡し、とても喜ばれたというエピソードを語っている。

1時間50分弱という長い時間をかけて、じっくり語られ、歌われる。マリアが語るエピソードは内容的には初出ではないが、彼女の話術の上手さもあり、何度聴いても楽しめる。



Blues & All That Jazz 2020  映像
 
Maria Muldaur: Vocal, Tamburine (12)
Chris Burns: Piano 
Danny Caron: Electric Guitar
Ruth Davies : Bass
Ronnie Smith: Drums, Back Vocal

1. Everything Is Moving Too Fast [David Babour, Peggy Lee]
2. I Goota Right To Sing The Blues [Harold Arlen, Ted Kohler]
3. There's Going To Be The Devil To Pay [Bill Hueston, Bob Emmerich]
4. Adam & Eve Had The Blues [Sippie Wallace]
5. Leave My Man Alone [White]
6. Loan Me Your Husband [Danny Barker]
7. The Optimism Blues [Allen Toussaint]
8. Rockin' Chair [Hoagy Carmichael]
9. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
10. Never Brag About Your Man [Unknown]
11. Bessie's Advice [Eric Bibb, Maria Muldaur]
12. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
13. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker]

Recorded : September 20, 2020 at Piedmond Piano Company, San Francisco


2020年前半から発生したコロナ禍により、ミュージシャンはコンサートによる収入・自己表現の場を失い、大変辛い思いをすることになった。その状況打開策として、多くのミュージシャンがインターネットによるバーチャル・コンサートを行った。

ピエドモンド・ピアノ・カンパニーは、1978年サンフランシスコ創業のピアノ販売業者で、中古ピアノの取り扱いに成功して、新品ピアノ販売やピアノ教則の分野に業務拡大した。その過程で、生徒たちのリサイタルの場として店内に演奏会場を設けるようになり、ジャズやクラシックのコンサートを開催するようになった。2代目経営者であるジム・カラハンは、コロナ禍により苦境に陥ったミュージシャンをサポートすべく、自社のコンサート・スペースを提供したライブを配信するユーチューブ・チャンネルを設立し、地元のミュージシャンにパフォーマンスの機会を提供した。コンサートの模様はライブ配信された後も閲覧可能で、視聴者は、任意でペイパルによりミュージシャンへ寄付をすることができた。マリアも3月の途中から、すべての予定が延期・キャンセルになり、ここ9月20日の配信は、無観客とはいえ、久しぶりのライブだったようだ。

映像の最初の15分はスタンドバイ状態で、「Showroom Sessions」、「Maria Muldaur Will Begin Shortly」という予告の静止画像が続いた後、画面が切り替わってオーナーのジム・カラハンが登場して挨拶と紹介のスピーチをする。そして始まったコンサートは、明るい照明のもと、バンド全体の画像とクローズアップ用の2台の固定カメラによる撮影で、コストセーブとコロナのリスク回避のため、スタッフを最小限にしているものと思われる。画像がシンプルな分、視聴者は、より演奏に集中できるようだ。


なお各演奏曲が収録された初出アルバムは以下のとおり。

1. Everything Is Moving Too Fast  A Woman Alone With The Blues 2003 M22
2. I Goota Right To Sing The Blues         Love Wants Dance 2004 M24
3. There's Going To Be The Devil To Pay        Sweet And Slow 1983 M9
4. Adam & Eve Had The Blues               Sweet And Slow 1983 M9
5. Leave My Man Alone              Don't You Feel My Leg 2018 M35
6. Loan Me Your Husband             Don't You Feel My Leg 2018 M35
7. The Optimism Blues                        なし
8. Rockin' Chair                         Sweet Harmony 1976 M4
9. Richland Woman Blues           See Reverse Side For Title 1966 E5
10. Never Brag About Your Man        Don't You Feel My Leg 2018 M35
11. Bessie's Advice                   Sisters & Brothers 2004 M23
12. Midnight At The Oasis                  Maria Muldaur 1973 M1
13. Don't You Feel My Leg                  Maria Muldaur 1973 M1


7. 以外の曲の由来については、収録アルバムの記事を参照ください (M35は記事未作成です)。


ペギー・リー1942年の作品と紹介される1.「Everything Is Moving Too Fast」。マリアは椅子に座りながら歌う。花柄のドレスが綺麗だ。ダニーはソロを取る際のみ立ち上がる。画面左のクリスはイタリア製のファツィオリの高級ピアノを弾いている。ルースは、胴体がないエレクトリック・アップライトベースをニコニコしながら弾く。以上3人は、マリアの常連伴奏者だ。唯一マスクをつけているロニー・スミスについて、インターネットでいろいろ調べたが、同姓同名も多く、適切な資料に行き当らなかった。ここでは彼は、コンパクトなドラムセットを使って、シンプルで控えめなプレイに徹している。曲が終わった後起きる拍手は、スタッフ数名によるものだ。マリアは、生配信される本演奏は、ヨーロッパや日本など世界中の人々が観てくれると言い、ビリー・ホリデイの 2.「I Goota Right To Sing The Blues」をねっとりと歌う。次にドクター・ジョンと演った曲としてファッツ・ウォーラーの 3.「There's Going To Be The Devil To Pay」、シッピー・ウォレスの 4.「Adam & Eve Had The Blues」を演奏する。前者のエンディングでマリアはスキャットを披露。途中で少し噛んで、歌いながら笑っているのが面白い。5.「Leave My Man Alone」、6.「Loan Me Your Husband」は、ブルー・ルウ・バーカーの曲で、前者ではバックバンドがコーラスを入れる(といってもロニー以外はマイクなしであるが)。マリアは後者の紹介で、曲が作られた1942年では「飛んだ」内容の歌で、彼らは「Hipstar」だったとコメントしている。

7.「The Optimism Blues」は、本コンサートで唯一公式録音がない曲。ニューオリンズのシンガー・ソング・ライター、ピアニスト、アレンジャー、プロデューザーだったアレン・トゥーサン(1938-2015)が作者。マリアは過去に彼の作品として、スリー・ドック・ナイトの「Brickyard Blues」(M1)や、ポインター・シスターズの「Yes We Can Can」(M29)を取り上げた事があるが、ここでは彼のトリビュートコンサートのためにリサーチして見つけた曲と紹介している。ちなみに 2019年の彼女の来日コンサートで、この曲が演奏された記録が残っている。彼のソロアルバム「Motion」に収録されたのがオリジナルで、その後1981年にヘレン・レディーがカヴァーしている。マリアが言うとおり、コロナ禍で困難な状況のなか(彼女によるとライブを開催するのは8カ月ぶりとのこと)、前向きなこの曲を聴くと気分が晴れるような気がする。ここではマリアはタンバリンを叩き、ロニーがハーモニー・ボーカルを付けている。

ここで、本コンサートへの投げ銭の依頼があり、ペイパルのアドレスが画面下部に表示される。8.「Rockin' Chair」で、マリアはベニー・カーター楽団との録音セッションに現れたホギー・カーマイケルが、 ハーモニー・ボーカルで加わることを申し入れてくれた、幸運で光栄な思い出を語っている。ここでのダニーのギター・ソロは最高!マリアも地声と裏声を巧みに使い分けてしっとりと歌っている。ミッシシッピー・ジョン・ハートの 9.「Richland Woman Blues」で、マリアはイギリスのビル・ワイマン、テリー・テイラー等のリズム・キングスとコンサートツアー(2013年)でこの曲を歌った思い出を語り、さらに本曲を愛奏するジョン・セバスチャンにも言及している。本来スリーフィンガーのアコギで演奏するギターを、ピック弾きのエレキギターでこなすダニーの演奏はご愛敬かな? ブルー・ルウ・バーカーの曲 10.「Never Brag About Your Man」では、出だしで演奏が合わず、やり直しているのが生配信らしい。エリック・ビブの 11.「Bessie's Advice」は、ベッシー・スミスの霊が降りてきて、夢のなかで若い女性にアドバイスする内容の歌とのことで、珍しい 4ビートでの演奏。皆が大好きなラクダの歌と紹介される 12.「Midnight At The Oasis」では、マリアはいつもようにタンブリンを叩きながら歌う。ダニーの間奏ソロはエイモス・ギャレットの敬意を表したもので、ほぼ同じ内容。それでもエンディングでは彼らしい気の利いたソロを弾いている。  

ここでメンバー紹介が入り、12月20日(日)に同所でクリスマス・コンサートの配信を行うことと、ニューオリンズのバンド、チューバ・スキニーと42枚目のアルバムを録音することが予告される。最後の曲、ブルー・ルウ・バーカーの13.「Don't You Feel My Leg」 では、曲中の語りの中で、いつもの「ダンスに連れていってくれる」部分を、アドリブで「ピエドモンド・ピアノ・カンパニー」に置き換えている。またクリスのピアノ・ソロに入る際、マリアは「ニューオリンズに連れて行って!」と叫んだり、エンディングでマリアがジェームス・ブラウンのパロディーをするなど見どころ満載の内容だ。マリアのお礼の言葉でコンサートは終了し、ジム・カラハン氏の締めで配信は終了する。本映像は、生配信後もYoutubeで試聴可能なのがうれしいね。

生配信という間違いが許されない状況であるが、腕達者なミュージシャンがリラックスして楽しそうに演奏している雰囲気が何とも良い感じのライブだ。


  
Christmas At The Oasis 2020  映像
 
Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
Danny Caron : Electric Guitar
John R. Burr : Piano
Kristen Strom : Tenor Sax, Soprano Sax, Clarinet, Flute
Ruth Davies : Bass
Derrick "D' Mar" Martin : Drums

1. Sleigh Ride [Leroy Anderson] (Instrumental)
2. Boogie Woogie Santa [Leon Rene]  
3. Christmas Blues [Charley Straight, Gus Kahn]  
4. Yule That's Cool [Steve Allen]
5. Santa Baby [J, Javits, P. Springer, T. Springer]
6. What Will Santa Claus Say [Louis Prima]
7. Zat You Santa Claus [Jack Fox]
8. Merry Christmas Baby [Charles Brown]
9. Winter Weather [Ted Shapiro] 
10. Gee Baby Ain't I Good To You [Don Redman, Andy Razaf] 
11. Christmas Night In Harlem [Mitchell Parish, R. Scott]
12. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
13. Holiday Dinner [Johnny Marks, Parody Lyrics by Sandy Riccardi]
14. Chirstmas At The Oasis [David Nichtern, Maria Muldaur]  

Recorded at December 20, 2020 at Piedmond Piano Company, San Francisco


「Blues & All That Jazz 2020」に続く、ピエドモンド・ピアノ・カンパニーにおけるバーチャル・コンサートの第2弾で、会場のセッティング・撮影は前回とほぼ同じ。YouTubeによる生配信で、最初19分は待機時間。ステージ画面に切り替わり、マリアによる簡単な挨拶の後、序曲的なインスト曲 1.「Sleigh Ride」が始まる。演奏された14曲は、9,12,13を除き 「Chritmas At The Oasis」2010 M32に収録されているので、それらの曲についての詳細は、M32を参照してほしい。

バックバンド「Jazzabelle Quintet」は、ピアノとベースが前回と同じ。ギターのダニー・キャロンはマリア伴奏者の常連。ホーン奏者のクリスティン・ストロムは、録音・音源・映像上の付き合いでは、私の知る限り、2019年の「Just Like A Woman Concert」以来2回目で、これから常連になりそうな感じ。ドラムスのデリック・デマール・マーチンは、ドラム奏者、プロデューサー、作曲家、歌手、教育者、芸人などマルチな活躍をする人で、かつてリトル・リチャードのバンドでドラム奏者を長く務めていたという。ベースのルース・デイヴィースと同様、目立たないが堅実なプレイに専念している。コロナ猛威の真っ最中なので、マリアとクリスティン以外は全員マスクをしている。クリスマス・コンサートということで、メンバー全員が赤色が入った服を着ていて、ドラムスのデリックはサンタの帽子を被り、ギターのダニー・キャロンは、トナカイの角がついた被り物を付けている。

曲間のマリアのコメントから。5.「Santa Baby」: 9才の時、タイトルは忘れたけど映画を観に行って、そこでアーサー・キットの歌に魅せられた。家に帰って、年上の姉の派手な服を引っ張り出して身に纏い、ヘアーブラシをマイクに見立てて真似をした。7.「Zat You Santa Claus」: これはちょっと不気味な歌で、おそらくハロウィーンの頃に作り始めたが、忙しかったために12月になり、クリスマスの曲として仕上げたんだと思う。8. 「Merry Christmas Baby」: バンドのダニーとルースが、偉大なる故チャールス・ブラウンの伴奏をしていた。9.「Winter Weather」(マリアのアルバム「Woman Alone With The Blues」 2003 M22に収録されていた曲):ペギー・リーと、録音で共演したダン・ヒックスを偲んで歌います。10.「Gee Baby Ain't I Good To You」: チャールズとは彼が亡くなる少し前に共演(M19) した。クリスマス・ソングではないが、歌詞に出てくるので歌うことにしました。12.「Please Send Me Someone To Love」(マリアが昔からステージで歌っていた曲で、正式録音は2021年の「Steady Love」 M33) :コロナ禍の下で、早く光が戻ること、良き日になることを祈って歌います。


13.「Holiday Dinner」はマリアによる公式録音なし。原曲「Rundolh, The Red-Nosed Reindeer (赤鼻のトナカイ)」のパロディ・ソングで、サンフランシスコで活動するサンディ・アンド・リチャード・リカルディ(Sandy & Richard Riccardi) というコメディ・ソングの夫婦が歌詞を付け歌ったもの。コンサートの模様を撮影した動画や配信サービスで視聴できる。ダイエット、グルテン、塩分、ヴィーガン、添加物などの理由により、様々な食物を採れない事を面白おかしく歌ったもの。最後の曲 14.「Chirstmas At The Oasis」でのマリアの語り。クリスマス・コンサートをやるにあたり、セットリスト案を出したら、「どうしてこの曲をやらないの」と言われたので、鉛筆を取り出し歌詞を一部書き換えて、クリスマスの歌にした。

コンサート終了後、ピエドモンド・ピアノ・カンパニーの経営者ジム・カラハンによる挨拶とマリアとミュージシャン達への寄付(ペイパル経由で受付)の要請で配信を終える。
演奏面では、名手揃いで文句の付けよう無し。コロナ禍でコンサートなどの演奏活動ができない辛い状況のなか、久しぶりのライブだったようで(マリアの場合は3ヵ月ぶりと言っている)、解放感が感じられ、演奏を楽しむ雰囲気に満ちている。彼らは、家に籠ってる間、楽器練習や勉強をみっちりしていたようで、各プレイヤーの演奏レベルが以前と比べて向上しているように思える。特にピアニストのジョン・バーのプレイがとても素晴らしく、強弱のタッチの微妙な使い分け、絶妙な音使いなど、この人はこんなに上手かったかな?と思わせる出来。

マリアが毎年地元限定でやっているクリスマス・コンサートを映像で堪能できる。

[2022年12月作成]


The Blues Broads at Rancho Nicasio Sunday 2022 映像
 
Dorothy Morrison: Lead Vocal
Angela Strehli, Tracy Nelson, Annie Sampson, Marcia Ball, Maria Mulsaur, Sylvia Tepper, Bob Brown, Quantae Johnson: Back Vocal

Gary Vogensen: Guitar
Mike Emerson: Keyboards
Steve Ehrmann: Bass
Paul Revelli: Drums

1. Oh Happy Days [Edwin Hawkins Based On 1755 Hymn]

Recorded : June 19, 2022 at Rancho Nicasio, Nicasio, CA

 
      
2000年代初めにアンジェラ・ストレリ(E124参照)が、夫君のボブ・ブラウンが経営するレストラン、ナイトクラブのランチョ・ニカシオ(本音源の会場)にトレイシー・ネルソン(E92参照)を招いた事から始まり、二人のデュオはゲストを交えながら発展して、ザ・ブルース・ブローズと名乗るようになったという。その後アニー・サンプソンとドロシー・モリソン(西海岸で活動する黒人シンガーで、数多くのスタジオ・セッションに参加、マリアとは1972年の「Steelyard Blues」 E18で共演)が加わって現在のラインアップになった。彼らは2012年にライブ・アルバムを発表し、その後も地元で活動を続けている。彼らと親交があるマリアは、以前からコンサートにゲスト出演していたようで、本映像は2022年に撮影されたもの。

1.「Oh Happy Days」は、エドウィン・ホーキンス (1941-2018) が古い讃美歌をゴスペル調にアレンジしたもので、1969年全米4位の大ヒットを記録した。その際にリード・ボーカルをとった人が、本映像で歌っているドロシー・モリソンだ。当時撮影された映像が残っており、彼女の若々しい姿と歌声を見聴きできる。ちなみに同曲は、後の1993年にウッピー・ゴールドバーグ主演の「Sister Act 2」で、当初やる気がなかった若者が歌う事の素晴らしさに目覚めるシーンで、効果的に使われた。

ブルース・ブローズのステージにマルシア・ボール、マリア、シルヴィア・テッパー(現地で音楽活動をしている人であるが、インターネット上の情報は少なかった)が加わり、ドロシーのボーカルに対し掛け合いでサポートする。バックの演奏は地元のベテランミュージシャン達で、2012年のCDとほぼ同じメンバーだ。途中から上述のボブ・ブラウンとクワンタメ・ジョンソン(現地のゴスペル、ブルース音楽界でベースを弾いている人らしい)がステージに上がり、コーラスに加わる。

マリアは当日、同じ州のクックス・ヴァレーで開催されたThe 45th Annual Summer Arts And Music Festival に18時から出演した記録があり、本映像は同地への移動の途中でニカシオに立ち寄り、ゲスト参加したものと思われる。

バックコーラスではあるが、マリアが親しい仲間たちと「Oh Happy Days」を歌っている映像。

[2023年10月追記]
バンド名を間違えていました。「Blues Boards」ではなく 「Blues Broads」でしたので、訂正しました。「Broad」は、スラングで「女の子」の意味だそうです。