Last Dance At The Dilo 1980  映像





Maria Muldaur : Vocal, Tambourine

Asleep At The Wheel
 Ray Benson : Guitar
 Unknown : Pedal Steel Guitar
 Unknown : Keyboards
 Unknown : Bass
 Unknown : Drums
 Unknown : Fiddle
 Unknown : Sax

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 


収録: 1980年12月31日 Armadillo World Head Quarters, Austin Texas


アルマジロ・ワールド・ヘッドクォーターズは、テキサス州オースチンにあったコンサート会場で1970年オープン。最盛期は南部を代表する場所として多くのロック・アーティストが出演したが、経営難のため1980年末で閉鎖され、その後建物は取り壊された。最終日の12月31日には、地元のアーティストが多く出演し、朝4時まで演奏が続いたという。その模様は後日「Night Flight」というテレビ番組で放映された。マリアはゲストとしてアスリープ・アット・ザ・ホィールのステージに参加した。アスリープ・アット・ザ・ホィールは、ウエスト・ヴァージニア州出身のギタリスト、レイ・ベンソンを中心に1970年に結成。1974以降はテキサス州オースチンを拠点として活動しているカントリー・ロック、ウェスタン・スウィングのグループ。本映像の通り、ペダル・スティール、サックス、フィドル等を含む大編成のバンドで、メンバー交代が頻繁だったため、リーダーのレイを除きパーソナルは不明。マリアが登場して 1.「I'm A Woman」を歌う頃には、バンドは十分熱くなっていたようで、ものすごいグルーブだ。いつものR&B調のアレンジとは異なり、リズムが跳ねまくっていて、それに煽られたマリアも大変な熱唱を披露する。当時のマリアって、まだ太っていなかったのね〜!間奏ではギター、ペダル・スティール、サックスがソロを取るが、その際マリアがプレイヤーを指差しをする様がジャムセッションっぽくてカッコイイ。でもサウンドは大変タイトであり、事前にしっかりリハーサルしたか、或いはバンドの演奏能力がよほど高いかのいずれかだろう。

なお番組には、アスリープ・アット・ザ・ホィールと縁が深いコマンダー・コディー(1972年の「Hot Rod Lincoln」全米9位のヒットが有名)等が登場している。


International Doc Club 1982   映像

Maria Muldaur : Vocal
Archie Williams Jr. : Electric Guitar, Back Vocal
Unknown : Piano, Symthesizer
Unknown : Bass
Jimmy Sanches : Drums

1. Second Line [Jon Cleary]
2. Back In My Dreams [Martha Minter Bailey]
3. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
4. Don't You Feel My Leg [K. Harrison, Danny Baker]
5. Try Again [Unknown]
6. New Orleans [J J Cale]
7. Lover Man [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger (Ram) Ramirez]

収録: 1982 RAIDUE (Italian TV)


本映像については情報がないので、詳細は不明であるが、1982年イタリアのテレビ番組という。マリアの「グラーチェ」、「イタリアはブルースが好き?」というセリフ、および画面の右下に表示される「RAIDUE」のロゴは、イタリアの公共放送「Rai 2」のことであり、収録国については間違いない。公式ライブアルバムの「Live In London」M10 が1985年発表なので、その数年前の演奏ということになるが、曲目から収録時期は資料による1982年ではなく、1985〜1987年頃のような気もする。その当時、またはその後も未発表のままの曲を取り上げていて、ここでしか聴けない曲もある。

番組中のマリアのコメントおよびラストのクレジットで、バンドメンバーの紹介がなく、M10でギターを弾いていたアーチー・ウィリアムス・ジュニアとドラムスのジミー・サンチェス(1994年の公式映像「Chicago Blues Jam」E84で彼がドラムスを叩いていたためにわかったもの。彼はロイ・ロジャース、コマンダー・コディ、ジャック・エリオット、ピート・シアーズ等のセッションに参加している)以外は誰か不明。ピアニストは、ニューオリンズ、ブルース、ジャズ全般を大変上手に弾きこなす人であるが、演奏に没頭していて顔を上げず、カメラアングルも横向きのショットしかないので見分けがつかないが、彼女の伴奏を多くこなしているJohn R Burrのように思える(この点については自信はありません)。マリアの顔と体形はかなりふっくらしていて、「Gospel Nights」1980 M7、「There Is Love」 1982 M8のジャケット写真のイメージに近い。

ステージをセットしたスタジオ、または小さなコンサート会場にオーディエンスを招いてのライブで、ステージ前では一部の人々が踊り狂っている。1.「Second Line」は、ピアニストのソロがアグレッシブで冒頭からエキサイティングな雰囲気となる。この曲の正式録音は1992年の「Louisiana Love Call」M13 なので、マリアがそのかなり以前からライブで演奏していたことになる。2. 「Back In My Dreams」は、ラテン調のスローなラブバラード。Usual Suspects シリーズの「Dreams」1987 E64に収められていたレア曲。3.「Please Send Me Someone To Love」は、1973年「Paul Butterfield's Better Days」E25でジェフ・マルダーが歌っていたパーシー・メイフィールドの曲で、マリアは長らくこの曲をアルバム用に録音していなかったが、2011年の「Steady Love」M33に初めて収録された。ライブで真価を発揮する曲で、彼女のステージでの常連曲になっていたが、年季を積んだことにより公式録音する気になったのではないかと想像される。あらゆるテクニック、声色を駆使した、彼女のヴォイス・コントロールの芸術をたっぷり堪能できるパフォーマンスだ。ここでのアーチー・ウィリアムスのギターソロは、最初はクールだけど、だんだん盛り上って最後は狂おしいほどエモーショナルになり、本当に手に汗を握るプレイだ。もし彼の顔と体形がハンサムだったら、もっと有名になっていたと思う。これまた定番の 4.「Don't You Feel My Leg」では、歌っている際の彼女の表情の豊かさが面白く、熟女のムンムンした色気を発散しまくっている。5.「Try Again」は未発表曲。レゲエの曲を80年代流行のリズムで処理したアレンジが面白く、彼女のレパートリーとしては珍品に属する。原曲については、レゲエ界のマーヴィン・ゲイと呼ばれるデルロイ・ウィルソン (1948-1995)の同名曲と大変似ているが、歌詞が違っているので、同じ曲との確証は得られなかった。ここでもアーチーのギターソロが良い感じだ。J J ケールの 6. 「New Orleans」も、コンスピレーション・アルバムのみに収録された曲で、ここではピアニストが頑張っている。最後の7. 「Lover Man」では、マリアは服を着替え、髪に花を挿してビリー・ホリデイを思わせるスタイルで歌う。ピアニストの抑制が効いた伴奏と、マリアの感情をこめた歌唱が素晴らしく、彼女がこの曲を自身のテーマソングに消化し切った感がある。

珍しい曲を演奏しており貴重な映像だ。


 
Sun Country 1983   映像 
 
Maria Muldaur : Vocal
House Band (Unknown) : Piano, Acoustic Guitar, Electric Guitar, Pedal Steel Guitar, Fiddle, Bass, Drums, Back Chorus

Ian Tyson, David Caldwell : Host

1. Any Old Time [Jimmie Rogers]
2. My Tennessee Mountain Home [Dolly Parton]


収録: 1983年3月21日 Edmonton, Alberta, Canada 
 

「サン・カントリー」は、カナダ中部アルバータ州のエドモントンを本拠地とするテレビ局CFRNが1982〜1983年に制作したカントリー音楽番組で、司会者はシンガー・ソンド・ソングライターのイアン・タイスンとデビッド・コールドウェル。マリアはカナダ人のカントリー・シンガー(ソングライター)のディック・ダムロンと一緒にゲスト出演している。

スタジオ内に椅子と机を置いてライブハウスのようにしたセットにオーディエンスを招いての収録で、まずディックが1曲歌う。マリアがホストのイアンと登場し、彼の紹介で 1.「Any Old Time」を歌う。青地で模様入りのワンピース・ドレスを纏ったマリアはカントリー・ガールといった感じで、彼女がすなるこの曲としてはいつになくオーセンティックな伴奏で歌う。画質の関係で動画の動きが少しカクカクするが音質上の問題は無い。アルバム「Sweet Aad Slow」1983 M9の頃で太目になってきたとはいえ、歌う際の仕草や表情が大変豊かで、とても魅力的だ。大編成のハウスバンドのパーソネルは不明だが、エレキギター、スティール・ギターがクリエイティブなソロを披露している。

次にイアン、ディックが各1曲歌った後に、ディックの紹介でマリアが再登場し 2.「My Tennessee Mountain Home」を活き活きと歌う。ソロはフィドルとスティール・ギター。もう田舎女になりきっているね!そしてイアン、ディックがまたぞろ各1曲歌い、最後の曲の歌が終わった後も演奏が続き(これがなかなカッコいい)、マリアを含む全員が並んでフィナーレとなる。

カントリー・シンガーになりきったマリアの姿を楽しめる。

[2024年9月作成]


Red Creek Rochester, New York (Kate & Anna McGarrigle) 1984  音源・映像

Kate McGarrigle : Vocal (3,5,6,9,10,13,14), Back Vocal, Keyboards, Accordion, Banjo, Fiddle
Anna McGarrigle : Voca (1,2,5,9,11,12,14,16), Back Vocal, Piano, Accordion
Linda Ronstadt : Vocal (5,9,15), Back Vocal (6)
Maria Muldaur : Vocal (4,6,8), Back Vocal (5,6,15)
Jane McGarrigle : Back Vocal, Piano, Mandolin
Dane Lanken : Back Vocal
Chaim Tannenbaum : Vocal (7), Back Vocal, Mandolin, Hamonica, Sax

Gilles Losier : Fiddle
Andrew Cowan : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Pat Donaldson : Bass, Back Vocal (13)
Gordon Adamson : Drums, Percussion

1. As Far As My Little Feet Can Carry Me [?]
2. Complainte Pour Ste Catherine [Anna McGarrigle]
3. NACL [Kate McGarrigle]
4. Work Song [Kate McGarrigle]
5. Heart Like A Wheel [Kate & Anna McGarrigle]
6. Travellin' On For Jesus [Traditional]
7. Dig My Grave [Traditional]
8. The Lying Song [Kate McGarrigle]
9. Talk To Me Of Mendocino [Kate McGarrigle]
10. Go Leave [Kate McGarrigle]
11. Happy Birthday
12. Tu Vas M'Accompagner [Bob Seger]
13. Going Out Looking [Kate McGarrigle]
14. Love One And Over [Anna McGarrigle]
15. You Tell Me That I'm Falling Down [Anna McGarrigle]
16. Parlez Nous a Boire

収録: 1984年6月 Red Creek Rochester, New York

注)マリアの参加曲: 4,5,6,8,15

 
ケイト・マッギャリグルが2010年1月18日に亡くなったというニュースを聞き、追悼の意を込めてこの記事を書きます。私は、1975年のデビュー作「Kate And Anna McGarrigle」しか持ってないので、彼女達の忠実なファンではありません。でも、1970年代にマリアやリンダ・ロンシュタットが歌った曲がずっと心のなかにあり、それらに対する愛着は年が経つにつれ大きくなっています。それに加えて、ここで紹介する音源・映像の素晴らしさがその思いを強くしたものと思います。

ロチェスターは、ニューヨーク州の内陸、オンタリオ湖畔にあり、ナイアガラの滝で有名なバッファローから約50キロ東に位置する町だ。本音源・映像は、レッド・クリークという郊外の小さな村の酒場(キャバレー、バー)で、テレビ番組用に収録されたものらしい。私は最初に音源として聴き、後に映像を観ることもできた。ケイトは1946年、アンナは1944年にカナダのモントリオールの近くで生まれ、フランス語圏の文化の中で育った。名前からも判るように、彼女達にはフランスとアイルランドの血が流れており、彼女の音楽からは、古いシャンソンとケルト音楽のルーツを見出だすことができる。マリアは、1973年にケイトの作品「Work Song」、1974年にアンナの「Cool River」を歌い、リンダは1974年に二人の共作による「Heart Like A Wheel」を取り上げ、大きな話題となった。そこで二人をメインに製作されたのが、前述のアルバム「Kate And Anna Mcgarrigle」1975である。マリアの作品でお馴染みのジョー・ボイドとグレッグ・プレストピノがプロデュースしたアルバムは、曲と歌唱の良さのみならず、エイモス・ギャレット、ローウェル・ジョージ、スティーブ・ガッド、ラス・カンケル、デビッド・グリスマンといった豪華なミュージシャンがバックを担当し、メロディー・メイカー誌のBest Album Of The Yearを獲得する名盤となった。二人はその後もデュオで活動を続け、私生活面でケイトはシンガー・アンド・ソングライターのロウドン・ウェインライト3世と結婚し、ルーファスとマーサ・ウェインライト兄弟の母親となった。

そういう二人が、シンセサイザーとディスコが巷に溢れる1984年、マリアとリンダをゲストに招いてテレビ番組を制作するにあたり、かなりの意気込みで臨んだに違いない。バックを務めるミュージシャンも、当時の新作「Love Over And Over」でバックを務めた人達と、姉妹のジェーン(彼女も作曲家として活躍、3姉妹での共作もある。姉か妹かは不明)、アンナの夫君デイン・ランケン(カナダのジャーナリストで、2007年ケイトとアンナの事を書いた本を出版した)、カイム・タンネンバウム(正確な読み方は不明、デビューから現在に至るまで、彼女達と行動を共にしている。ルーツ音楽面でのサポートを担当)といったファミリーの人々が、二人を支えている。この家庭的な雰囲気も本音源の大きな魅力となっている。

以下マリア非参加の曲についても簡単に紹介する。1.「As Far As My Little Feet Can Carry Me」の映像では、アンナはボタン式のアコーディオン、ケイトはエレキピアノを弾きながら歌う。リードボーカルはアンナだ。この後でケイトによるメンバー紹介があるが、フランス語なまりがあるので、聞き取りが大変難しかったが、番組最後のクレジット表示で上記の通り特定することができた。このシーンでケイトとアンナの区別ができた。ショートヘアーで背が高いほうがケイトです。資料や写真を見てもよく似ているし、名前が間違っている資料もあるのだ。2.「Complainte Pour Ste Catherine」は、デビューアルバムに入っていたフランス語の歌で、ケルト音楽の香りがする。ここではアンナがピアノ、ケイトがアコーディオンを担当している。3.「NACL」は、後にアルバム「McGarrigle Hour」1998に収録された。ケイトがピアノを弾きながら歌う。ここでマリアが登場し、4.「Work Song」をソロで歌い、他の人々はバックボーカルに専念する。ピアノを弾いてるのはケイト。マリアの歌唱はとてもソウルフルで素晴らしい。この頃の彼女はふっくらしているが、まだそれほど太ってないね。次にリンダ・ロンシュタットが登場、アンナのピアノのみをバックに、5人(リンダ、マリア、ケイト、アンナ、ジェーン)で 5.「Heart Like A Wheel」を歌う。ボーカルは、リンダ、アンナ、ケイトの順番による独唱の後、合唱となる。彼女達の声が心に染み入り、深い感動を呼び、この名曲のパフォーマンスとして、本音源は文句なし最高の出来。歌っている時のリンダの眼差しがとても印象的。6.「Travellin' On For Jesus」はゴスペル調の曲で、男性陣を加えて皆で熱っぽく歌っている。ケイトがピアノを弾きながらリードボーカルを担当。いったんブレイクした後に、マリアが歌い出し、エンディングとなる。7.「Dig My Grave」は、カイム・タンネンバウム主導によるスピリチュアル・ソング。

マリアが歌う 8.「The Lying Song」は、1975年の「Sweet Harmony」に収録された曲で、ジレズ・ロジエのフィドルとアンドリュー・コーワンのギター・ソロがフィーチャーされる。ピアノはケイト。ここでのマリアが歌う姿のクローズアップは大変魅力的だ。リンダ、アンナ、ケイトが切々と歌う 9.「Talk To Me Of Mendocino」は、ニューヨークからカリフォルニアに移動する際の気持ちを歌ったもので、「Mendocino」はカリフォルニア州にある岬の名前という。10.「Go Leave」は、デビュー・アルバムに収録された内省的な雰囲気の曲で、ケイトがギターのアルペジオによる弾き語りで静かに歌う。フィドル・プレイヤーの誕生日を祝い、皆がシャンペンで乾杯する 11.「Happy Birthday」に続く 12.「Tu Vas M'Accompagner」は、ボブ・シーガーのヒット曲「You'll Acompany Me」(1980 全米14位)をフランス語の歌詞に焼き直したもの。ケイトがセカンド・フィドル、アンナがアコーディアオン、ジェーンがピアノを弾く。本音源全体について言える事ではあるが、ルーツ音楽に根ざしたボーカル・ハーモニーが本当に素晴らしい。80年代を意識したテクノ音楽の要素を彼女達なりに取り入れた 13.「Going Out Looking」は、ユーモラスかつ風変わりで面白い。リードはケイトで、コーラスはアンナとベーシストのパットが担当。シンセシザーはケイト、サックスソロはカイム(本当に何でも演奏できる人だ!)。14.「Love One And Over」は、同名のアルバム 1983に収録されていた曲で、彼女達としてはモダンな感じの作品。ケイトとアンアが交互にリードボーカルをとる。ピアノはアンナ。ここでリンダとマリアが再登場し、最後の曲として、リンダが1975年の「Prisoner In Disguise」で取り上げた 15.「You Tell Me That I'm Falling Down」をしっとりと歌う。リンダ、アンナがリードをとり、コーラスはマリアとケイトを加えた4人の合唱となる。後半におけるコーラスのアレンジが、リンダのスタジオ録音のものとかなり異なるので、聴いていて面白い。エンディングでは、アナウンスとともに、ケルト音楽風のフランス語曲 16.「Parlez Nous a Boire」がテーマ曲風に演奏される。リードボーカルはアンナで、ケイトが弾くクロウハンマー奏法によるバンジョープレイは、なかなか味がある。ジェーンはマンドリンを弾いている。
 
出演者達の心の絆が強く感じられる、大変素晴らしい音源・映像だと思う。いつか将来、良質の画面で観てみたいものだ。

[2010年5月追記]
上記全曲につき映像を観ることができました。うれしい!そこで気がつきましたが、私はケイトとアンナを逆にしておりました!ショートヘアーで、背が高いほうがケイトです。スミマセン.......。ので、今回全て訂正し、観て判った点につき書き改めました。


Charlie's Christmas All Stars 1985  音源   
 
Maria Muldaur : Vocal
Nick Grevenites ? : Vocal
John Cipollina : Guitar
Greg Kiln : Guitar
Norton Buffalo : Harmonica
Unknown : Bass
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
2. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Mac Rebennack]
3. Sisters And Brothers [Charles Johnson]
4. Will The Circle Be Unbroken [Traditional]


収録: Uncle Charlie's, Corte Madera, CA, December 27, 1985


ジョン・シポリナ(1943-1989) はカリフォルニア州生まれで、サンフランシスコのロック・バンド、クイックシルバー・メッセンジャー・サービスのギタリストだった人だ。1971年の脱退後は数多くのバンドでプレイしたが、1989年に肺疾患のため45歳の若さで亡くなった。グループ脱退後のレコーディング活動が地味だったせいで、世界的な名声は得られなかったが、ライブ演奏で抜群の力量を発揮したため、地元での人気は絶大だった。そのためジェリー・ガルシアと同様、死後も大変数多くのライブ音源が出回っていて、それらはファンの間で共有財産となっている。本音源はそのひとつで、サンフランシスコの北、マリン・カウンティーにあったライブ・バー、アンクル・チャーリーズにおけるクリスマス・イベントのオーディエンス録音だ。アンクル・チャーリーズは1990年代に取り壊されて今はないが、1970年代後半にヒューイ・ルイスが毎月曜日に仲間とジャムセッションを行い、それが大評判になって大手レコード会社との契約にこぎつけ大成功したという伝説の場所だった。

音源はジョン・シポリナとニック・グレイヴナイツのバンド、サンダー・アンド・ライトニングから始まり、ハリケーンズというバンドの後にマリア・アンド・フレンズが登場する。1.「I'm A Woman」における歌に寄り添うオブリガード、そして間奏ソロにおけるスライドギターは素晴らしいグルーヴで、ジョン・シポリナの凄さの片鱗がわかる演奏。続いてソロをとる人は資料にあるグレッグ・キーンと思われ、この人は「The Breakup Song」 1981 (全米15位)、「Jeopardy」 (同2位)のヒットを飛ばした人だ。2. 「There Must Be A Better World Somewhere」は、アルバム「Live In London」1985 M10に入っていた曲。3.「Sisters And Brothers」ではバンドの男性がコーラスを付けている。ここでも素晴らしい間奏ギターソロが入っている。

音源はここで編集が入り、マリア以外の男性ボーカルの曲が2曲入る。「スティーブ何とか」と言っているが誰か不明。最後にフィナーレと思われる 4.「Will The Circle Be Unbroken」では、当日の出演者が勢揃いしているようで、ノートン・バッファーロのハーモニカ・ソロが入る。ここでセカンド・ヴァースを歌っているのは、声質からおそらくニック・グレイヴナイツだろう。また本コンサートはジャム・セッション的な色合いがあるので、リズムセクションは不明としたが、最初と同じ人たちで、ジョンとニックのバンドメンバーとして資料にあるダグ・キルマー(Doug Kilmer ベース)、デヴィッド・ペッパー(David Pepper ドラムス)と思われる。最後にメンバー紹介した人がもうちょっとゆっくり、クリアーに言ってくれればよかったのになあ。まあ音質もまあまあといったところなので、しょうがないか。

ヴァーチョーゾと呼ぶに相応しいジョン・シポリナのギター伴奏で、マリアが歌う珍しい音源。

(お断り)
本記事は音源についていた資料に基づき書きましたが、信憑性に欠けるため、内容については推測と憶測が入っています。


 
Nashville Now 1986  映像   
 
Maria Muldaur : Vocal
Becky Burns : Harmony Vocal (3)
Archie Williams Jr. : Electric Guitarl
Unknown : Piano
Unknown : Bass
Unknown : Drums

1. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
2. Any Old Time [Jimmy Rogers]
3. Life's Too Short [Unknown]

放送:  "Nashville Now" TNN, Nashville, 1989

 

「ナッシュビル・ナウ」は、ケーブルテレビ局のTNN(The Nashville Network)が製作したカントリー音楽によるバラエティー番組で、1983年から10年間続いた。マリアは1989年にも、ドクター・ジョン(1941-2019)とこの番組に出演している。

1. 「Midnight At The Oasis」は、ヤシの木のシルエットをバックにマリアが歌う。彼女から少し離れて演奏するバックバンドは、途中から画面に現れ、常連ギタリストであるアーチー・ウィリアムス・ジュニアの姿が見える。間奏のソロでは、彼の姿がクローズアップされ、エイモス・ギャレットの名演に対抗するかのような、独自のラインを展開する様は、聴き応え・見応え十分。ピアノの伴奏も良く、数多いこの曲のライブ演奏のなかでもトップクラスだと思う。

2. 「Any Old Time」では、ピアノの間奏ソロが頑張っていて、その間ちらっと横顔が映る。かなり上手なので、有名な人じゃないかと推測できるが、誰かは特定できない。リズムセクションの黒人二人も不明。マリアは最後に本家ジミー・ロジャースばりのウェスタン・ヨーデルを披露する。3. 「Life's Too Short」 は、マリアが公式発表していない曲で、調べたが作者などの情報は見つからなかった。ここでサイドボーカルを担当するベッキ・バーンズは、マリアのライブアルバム「Gospel Nights」1980 M7にバックコーラスで参加していたバーンズ・シスターズの一人で、後にマリアに曲を提供するシンガー・アンド・ソングライターのブレンダ・バーンズのお姉さんだ。

私が観た映像は、画質・音質ともイマイチのものだったが、リラックスした好演であり、音楽として十分楽しむことができる。

 
Nashville Now 1988  映像   
 
Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Harmony Vocal (1)
Archie Williams Jr. : Electric Guitarl (1,2)
John R. Bur : Piano (1,2)
Unknown : Bass (1,2)
Unknown : Drums (1,2)

House Band (Personel Unknown) (3)

1. Brickyard Blues [Allen Toussaint]
2. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
3. My Tennessee Mountain Home [Dolly Parton]

放送:  "Nashville Now" TNN, Nashville, 1988

「ナッシュビル・ナウ」 1988年の出演。ここでのマリアは、とても珍しい髪型をしている。いつもは長い髪を垂らしているのに、ここでは頭の上に盛り上げているのだ。そのために耳元・顎・首がはっきり見えて、ぽっちゃり気味の顔の輪郭がより強調されているように見える。とはいえ、黒字に花柄のドレスのウェストはきっちり締まっている。

最初の2曲が彼女のバックバンド、純正なカントリー・ソングである最後の1曲のみ番組のハウスバンドによる伴奏。1.「Brickyard Blues」、 2.「Midnight At The Oasis」でのアーチー・ウィリアムス・ジュニアのギターとジョン・R.・バーのピアノは、オリジナル・アレンジに捉われずに自由に弾いているのがとてもよい。特に前者における間奏のピアノソロは素晴らしく、また後者のギターソロでは多くのギタリストがエイモス・ギャレットの必殺ソロのコピーに終始するのに対し、ここではアーチーが自分の音で果敢に挑んでいる。3.「My Tennessee Mountain Home」のバックを務めるハウスバンドは、いかにもナッシュビル! といった感じだ。


Philadelphia Folk Festival 1988  映像

Maria Muldaur : Vocal (1), Tambourine (2)
Geoff Muldaur : Vocal (2), A. Guitar (1), Mandolin (2)
Stephen Bruton : A. Guitar
Bill Keith : Banjo
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond : Washtab Bass (1), Jug (2)
Paul Geremia : Harmonica (2)

1. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
2. Minglewood [Noah Lewis]


Tom Rush : Vocal, Slide Guitar
Unknown : A. Guitar
Unknown : Piano
Unknown : Bass
Unknown : Percussion
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond, Stephen Bruton : Kazoo
Maria Muldaur, Geoff Muldaur, Taji Hahal etc : Back Vocal

3. Wasn't That A Might Storm [Eric Von Schmidt]

収録: 1988年9月3日〜5日 Schwenksville, Pennsylvania


フィラデルフィア・フォーク・フェスティバルは、レイバーデイの週末3日間、ペンシルヴァニア州郊外のシュウェンクスビルで開催されるイベントで、1961年からり現在に至るまで長い歴史を誇る。マリア、元夫のジェフと仲間達と結成したジャグバンドで、1988年に出演した際の映像。プロショットではないので、画質は悪くクローズアップもないが、カメラが固定されているため、手振れがなく落ち着いて鑑賞できるのが良い。

バンドのうちジェフ・マルダー、ビル・キース、フリッツ・リッチモンドの3人が元ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの仲間だ。バイオリンのケニー・コセックは、ラス・バレンバーグ、トニー・トリシュカ、アンディ・スタットマンとのグループ、カントリー・クッキングを経て、スティーブ・グッドマン、ロリー・ブロック、ジェリー・ガルシア、ロウドン・ウェインライト3世、ジェイムス・テイラー等多くのレコーディングに参加したセッション・ミュ−ジシャン。そのプレイスタイルはリチャード・グリーンの影響が大きいと思う。ギターを担当するステファン・ブルートンについては、1974年のハリウッド・ボウルの音源記事を参照して欲しい。彼は優秀なギタリストであるが、ここではソロはとらず、伴奏に徹している。ジェフ・マルダーとの親交厚く、2009年ジェフは闘病中の彼とアルバムを録音し、それは彼の没後 9月に「Geoff Muldaur And The Texas Sheik」として発表された。

マリアがリードをとる 1.「Richland Woman Blues」は、2台のアコギのフィンガーピッキングにバイオリンが伴奏を付ける。間奏のビル・キースのバンジョー・ソロは、彼らしいコードとフィンガーを取り混ぜた味のあるプレイ。2回目の間奏はケニー・コセックのバイオリン・ソロを聴くことができる。リラックスした良い感じのパフォーマンスだ。2.「Minglewood」を演奏するにあたり、ゲストのポール・ジェレマイアを呼び出すが、なかなか現れず、フリッツによるメンバー紹介後に演奏を始める。マリアはタンバリンで演奏に加わる。間奏はケニーのバイオリンから始まり、ステージに上がったポールがハーモニカでソロを取る。彼は1944年生まれで、白人ブルースマンとしてデイブ・ヴァン・ロンクやエリック・フォン・シュミットと親交があり、エリックは彼のアルバムのために表紙を数枚描いている。

マリアは2009年にジャグバンドのアルバムを出したが、この時期にもこの手の音楽をやっていたことがわかる映像だ。公式録音は残されなかったが、その片鱗は1990年のマリアのアルバム「On The Sunny Side」で伺うことができる。

3.「Wasn't That A Might Storm」は、当日のフィナーレでの演奏で、トム・ラッシュと彼のバンドに当日の出演者が加わって、皆で歌っている。トム・ラッシュ(1941- )は1960年代のフォークブームにボストン、ケンブリッジで活躍した歌手で、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドと同期、若きジェイムス・テイラーのアイドルだった人だ。ここではアコースティック・ギターを膝に置いたハワイアンスタイルで演奏している。曲はエリック・フォン・シュミットの代表曲で、トムの他、ジェイムス・テイラーもカバーしている。ステージ上にはジャグバンドの連中の他にタージ・マハールの姿が見える。


 
Nashville Now (With Dr. John) 1989  映像 
 
Bobby Bare : Vocal, Guitar (1,2,6,8)
Maria Muldaur : Vocal (3,5,9)
Dr. John : Piano (4,5,7,9), Vocal (5,7)
Fred Newell : Lead Guitar
With Nashville Now House Band

Ralph Emery : Host
Steve Hall : Shotgun Red (Muppet)

1. Call Me The Breeze [J. J. Cale]
2. Down On The Corner Of Love [Buck Owens]
3. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
4. Swaneee River Boogie [Stephen Foster]
5. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser].
6. Margie's At The Lincoln Park Inn [Tom T. Hall]
7. Such A Night [Lincoln Chase, Mac Rebbenack]
8. Deaperados Waiting For The Train [Jerry Jeff Walker]
9. New Orleans [J.J. Cale]


注:1, 2, 4, 6, 7, 8 はマリア非参加

TNN TV Show "Nashville Now" Gaslight Theater, Opryland USA, Nashville
Broadcasted on March 8 ,1989
 

「ナッシュビル・ナウ」は、ケーブルテレビ局のTNN(The Nashville Network)が製作したカントリー音楽によるバラエティー番組で、1983年から10年間続いた。1989年、マリアとドクター・ジョン (1941-2019)がこの番組に出演した際の映像を観ることができた。当初私は上記の曲を断片で観たが、2024年にノーカットで観ることができたので、以下のとおり書き直した。

番組は司会者のラルフ・エマリーと相方を務めるマペット人形のショットガン・レッドのトークから始まる。まずカントリー・シンガーのボビー・ベア(1935- )が登場して、ハウスバンドをバックにJ.J. ケールの「Call Me The Breeze」、ラルフとのトークのなかでバック・オーウェンスの「Down On The Corner Of Love」をさらっと歌う。次にマリアが 1.「I'm A Woman」を歌う。彼女のシェイプはちょっと太めといえるくらいで、声質も昔の可愛さが少し残った感じ。 間奏のド派手なギターソロは、ハウスバンドの名ギタリスト、フレッド・ニューウェルによるもの。曲後のラルフとのトークの中で、彼女はイタリア系で、本名はマリア・グラジア・ローサ・ドミニカ・ダマートと答えている。ご先祖様の名前をくっつけたからだそうだ。イタリア語はできないが勉強していると言っているが、その後どうなったかな?また「I'm A Woman」を演ったきっかけとして、ペギー・リーのシングルB面で聴いたとも説明している。

司会者に促されたマリアの紹介によりドクター・ジョンが登場し、4.「Swaneee River Boogie」をガンガン弾く。ステファン・フォスターのお馴染みの名曲をブギウギ・ピアノにアレンジしたインストルメンタルで、曲後の司会者による説明の通り、アルバート・アモンズ1940年代の録音で有名な曲。次の 5.「Baby, It's Cold Outside」は二人によるデュエットだ!この曲は、ティンパンアレイの作曲家で、「Guys And Dolls」、「How To Succeed In Business Without Really Trying (努力しないで出世する方法)」などのブロードウェイ・ミュージカル(映画)で有名なフランク・ローサーの作品。帰りたがるウブな女の子に、「外は寒いから」などいろいろな理由を付けて、家に引っ張り込もうとする誘惑男を描いたユーモラスな曲で、エラ・フィッツジェラルドとルイ・ジョーダン、レイ・チャールズとベティー・カーター、サミー・デイビス・ジュニアーとカーメン・マクレー、最近ではロッド・スチュワートとドリー・パートン、ジェイムス・テイラーとナタリー・コールなど数多くのバージョンがある。ここではバックバンドとアーティストの持ち味により、よりダウン・トゥ・アースな感じの出来栄えになっている。熟女と年増男によるむんむんした雰囲気は濃すぎかな?マリアによるこの曲の正式録音は長らくなかったが、2022年11月Stony Plainからタージ・マハールとのデュエット録音が発表された。二人ともクセ者でマリアの相手として最高!

ボビー・ベアのヒット曲 6.「Margie's At The Lincoln Park Inn」に続く 1.「Such A Night」はニューオリンズの匂いがプンプンする曲で、作者のマック・レベナックは彼の本名。1973年のアルバム「In The Right Place」に初収録された後、彼の主要なレパートリーとなり、その後もライブ演奏などで多くのアルバムに収められている。特に1978年のザ・バンドの「The Last Waltz」での演奏は大評判となった。バンドの演奏がブレイクしてピアノの独奏になるが、グレイヴィーがタップリ入ったケイジャン料理のようなこってりした味わいが凄い。ボビー・ベアによるジェリー・ジェフ・ウォーカーの 8.「Deaperados Waiting For The Train」の後、画面がシアトルに切り替わり、ランチョ・ロマンスという現地の女性バンドが紹介される(彼女たちの演奏曲は上記曲目からリストから省略)。最後にマリアが歌うJ.J. ケールの 4.「New Orleans」では、ドクター・ジョンのピアノとフレッド・ニューウェルのギターソロが目立っている。

[2024年2月書き直し]


Bottom Line Japan 1989  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
Archie Williams Jr. : Electric Guitar, Back Vocal
John Costalups : Bass, Back Vocal
David Matthews : Keyboards、Back Vocal
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
2. Sweet Simple Love [Bucky Lindsey, Dan Penn]
3. Never Make A Move Too Soon [Stix Hooper, Will Jenings]
4. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
5. Brothers And Sisters [Charles Johnson] 
6. Midnight At The Oasis [David Nichtern]


収録: 1989年9月29日 Bottom Line Japan, Nagoya


ボトムライン・ジャパンは名古屋の千種にあるライブハウスで、1989年ニューヨークのボトムラインとの業務提携により業務開始、名古屋の地元放送局 CBC(中部日本放送)が資本参画している。この映像には「BL2 Botom Line LiveTV」というテロップが付けられており、マリアのコンサートの模様が地元でテレビ放送されたものと思われる。ギターのアーチー・ウィリアムス・ジュニアーは、マリアのバンドに長く在籍した人で、詳細は「Live In London」 M10を参照のこと。キーボードのデビッド・マシューズは、マンハッタン・ジャズ・オーケストラの指揮者でアレンジャーの人とずっと思い、本ディスコグラフィーにもそのように書いていたが、実はサンフランシスコを本拠地とする同姓同名の別人だった。ここでは全く同じ名前になっていたので間違えたが、実際のところ混同が多かったようで、後に David K. Mathews というミドルネーム付きの名前(「K」は「Kirk」の略)で表示するようになっているようだ。彼は1959年生まれで、タワー・オブ・パワーに在籍後、エッタ・ジェイムスのバックを長く務め、2010年以降はサンタナのメンバーになっている人。本作以降もマリアのアルバム参加者の常連となり、1995年の「Jazzabelle」M14、1999年の「Meet Me Where They Play The Blues」M19に名前を連ねている。また2018年の彼のアルバム「The Fantasy Vocal Sessions Vol.1」 E146では、マリアがゲスト参加している。ドラム奏者につき、資料では女性のヒラリー・ジョーンズとあったが、映像を見る限り男性に見えるのでここでは不明とした。

ギタリストのアーチーの紹介によりマリアが登場、ニューオリンズのセカンドラインのリズムで 1.「I'm A Woman」を歌う。2.「Sweet Simple Love」は、1995年発売のアルバム「Meet Me At Midnight」M15に収録された曲なので、公式録音はだいぶ後になってからとなる。エンディングのアドリブボーカルとチョッパーベースで盛り上がる。 3.「Never Make A Move Too Soon」は「Live In London」1985 M10に収録されていた曲。画面上の字幕では「You Made Your Move Too Soon」と出ていたが間違い。サングラスをかけたデビッド・マシューズのソロがクール!ステージの常連曲 4.「Please Send Me Someone To Love」ではマリアの熱のこもったボーカルが堪能できる。それにしても本映像全編にわたってフィーチャーされるアーチー・ウィリアムス・ジュニアーは、スローで静かなスタイルから、狂おしいほどの感情発露まで、そのプレイは緩急自在で素晴らしい。この人は、もしルックスが良かったら、もっと有名になっったんじゃないかな?ゴスペルの愛奏曲 5.「Brothers And Sisters」ではバンドの皆がバックコーラスで加わる。6.「Midnight At The Oasis」はリラックスした演奏だ。

多少ふっくらしたとはいえ、それほど太っていないマリアを拝める影像。ちなみにこれらの曲は1曲毎の個別映像で観たため、正確な曲順は不明。いつか全編を通しで観てみたいものだ。

[2022年8月追記]
ピアニストのデビッド・マシューズにつき、「アレンジャーとしても有名な人で、マンハッタン・ジャズ・オーケストラの指揮者を務めるほかに、デビッド・サンボーン、アール・クルーなどのジャズ、ボニー・レイット、ポール・サイモン、ビリー・ジョエルといったアーティストのセッションにも参加。自己名義のアルバムも多く発表している。日本では親日家のアーティストとして有名」と書きましたが、クレジットの名前表示がまったく同じではあるが、参加作品の傾向、音楽仲間との交友関係を考慮すると、誤りであることが明らかなので、上記の通り書き直しました。


 
Earthquake Relief Concert (Aaron Neville) 1989  映像 
 
Aaron Neville : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Unknown : Piano

1. Amaging Grace [John Newton, Unknown]

収録:Earthquake Relief Concert, Cow Palace, Daly City, CA November 26, 1989

1989年10月17日に発生したロマ・プリータ地震は、サンフランシスコ一帯に死者63人と多くの建物や高速道路の倒壊という大きな被害をもたらした。その救援資金調達のために地元のミュージシャン達が立ち上がり、プロモーターのビル・グラハムの主催で、11月26日サンフランシスコ郊外の3つの会場で「地震救援コンサー」トが開催され、その模様は多くのテレビ局・ラジオ局で生放送された。本映像はサンマテオ郡ダリーシティにあるカウパレスにおけるアーロン・ネヴィルのステージだ。

アーロン・ネヴィル(1941- )はニューオリンズを代表するR&Bバンド、ネヴィル・ブラザース(1977年結成)四兄弟の三番目で、それ以前の1960年からソロ歌手として活躍している。1989年にリンダ・ロンシュタットと歌った「Don't Know Much」と「All My Life」が全米2位、11位と大ヒットして人気が再燃、以降アルバムを出し続けている。コンサートは多くのミュージシャンが出演したため、彼のステージは18分という短い時間だった。カーティス・メイフィールド作でインプレッションズが歌った「Gypsy Woman」1961年 全米20位、1973年のジョニー・マティスがオリジナルの「Arianne」、トラディショナルの「Danny Boy」、前述の「Don't Know Much」(コンサートの時点ではヒット前だったらしく、オーディエンスの反応はイマイチ)と何故かの「Micky Mouse Club Theme」のメドレーがピアノの伴奏のみで歌われる。ファルセットを織り交ぜる節回しが独特の人だ。

最後の曲にマリアがゲストで登場し、「Amaging Grace」を一緒に歌う。同曲は奴隷貿易船に携わっていたジョン・ニュートン(1725-1807)が後に悔い改めて牧師となり、彼に赦しを与えた神に感謝して書いた讃美歌で、作曲者は不明。アメリカでもっとも愛唱されている曲で「第二の国家」と言われている。アーロンはこの曲を良く歌っていたようだが、マリアについては意外にも公式音源でこの歌を歌っているものはなく、本映像と1992年のライブにおけるアーロンのデュエット映像、そして1998年の「Benefit Concert For Seva Foundation」の音源のみ。アーロンとマリアはヴァース事に交替で歌い、ハモリによるハミングを経て最後は一緒にハモっている。マリアはアーロンの巧みな節回しに引けを取らずに頑張っている。

マリアが歌う「Amaging Grace」を堪能できる逸品。

[2024年7月作成]


Geoff Maria Jug Band In Japan 1990  音源

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine, Kazoo
Geoff Muldaur : Vocal, A. Guitar, Mandolin, Clarinet, Washboard
Stephen Bruton : Vocal, A. Guitar
Bill Keith : Vocal, Banjo
Kenny Kosek : Violin
Friz Richmond : Vocal, Washtab Bass, Jug

1. Introduction [Unknown]
2. France Stomp
3. Garden Of Joy [Clifford Hayes]
4. Minglewood [Noah Lewis]
5. You Came A Long Way From St. Louis [John Benson Brooks, Bob Russell]
6. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
7. Fishing Blues [H. Thomas, J. M. Williams]
8. Blues In The Bottle [Peter Stampfel, Steve Weber] 
9. Caravan [Juan Tizol]
10. Circus Song [F. Tompson, J. E. Guernsey]
11. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]
12. When I Was A Cowboy [H. Ledbetter]
13. Any Old Time [Jimmie Rogers]

録音: 1990年3月3日 日本(場所不明)


上述のフィラデルフィア・フォーク・フェスティバルと同じメンバーのジャグバンドで来日した際の音源。マリアが日本語で「アリガト」と言っているので間違いないが、残念ながら場所についての資料が見つからなかった。オーディエンスの反応がアグレッシブで、この手の音楽が好きなファンが集まって歓声を上げている。かなりディープな感じなので、大阪か京都あたりの関西でのステージという気がする。バンドの名称についても不明なので、仮に「Geoff & Maria Jug Band」とした。」1.「Introduction」はフリッツ・リッチモンドのジャグがメロディーを奏でる珍しい演奏。 イーブン・ダズン・ジャグ・バンドのE1で演奏していた 2.「France Stomp」はジェフが歌い、マリアはハーモニーを付ける。(恐らく)ジェフが演奏するウォッシュボードのシャカシャカした音とバイオリンソロが聴きもの。「Red Hot Mama」と紹介されたマリアは、3.「Garden Of Joy」を歌う。間奏ではジェフはクラリネットを、マリアは(恐らく)カズーを吹いている。4.「Minglewood」はソリッドなリズム感が魅力で、ジェフはマンドリンを弾き、マリアはタンブリンを叩いている。ケニー・コセックのバイオリンソロは、リチャード・グリーンにそっくり。ここでビル・キースが「皆が歌えと言うから」と、昔のスタンダード曲、5.「You Came A Long Way From St. Louis」を歌う。ペリー・コモ、ローズマリー・クルーニー、クリス・コナー、ビング・クロスビーなどスローなアレンジが多い中で、バンジョー・ピッキングの凝ったプレイをフィーチャーした演奏は斬新。ちなみにビルは以前発表したアルバム「Banjoistics」 1984でこの曲を取り上げている。

マリアは 6.「Richland Woman Blues」を歌う前に、「この曲をサンディーとマコトに捧げます」と言っている。当時久保田麻琴夫妻と親交があったのだろう。間奏のビルのバンジョーが素晴らしい。ジェフが歌う7.「Fishing Blues」では、マリアはカズーを吹いているようだ。8.「Blues In The Bottle」は、E5ではジム・クウェスキンが歌っていたが、ここではフリッツがボーカルを取っている。マリアはハーモニー・ボーカルで参加。9.「Caravan」はデューク・エリントンの演奏で有名なスウィング・ナンバーで、ここではビルのバンジョーの名人芸を聴くことができる。オーディエンスの反応も熱狂的で、それに驚いたマリアが、「ファンクラブがいるの? それともあなた達バンジョープレイヤーなの?」と声をかけるくらいだ。マリアが「ドラムがないので、皆の手拍子が必要よ!」といって始める 10.「Circus Song」は、フリッツあるいはステファンのどちらかがリードボーカルで、マリアがハーモニーを付ける。11.「Don't You Feel My Leg」はジャグバンド・スタイルでの珍しいアレンジが楽しめる。ジェフのクラリネットに加えて、トランペットの音が聴こえるのだが、誰が吹いているのか不明。アンコールではレッドベリーの12.「When I Was A Cowboy」 (E6参照)と 13.「Any Old Time」で、後者はマリアのバックでジェフが歌う貴重音源だ。

録音状態はイマイチであるが、公式録音を残さなかった当時のジャグバンドの演奏がたっぷり楽しめる。


 
 
New Orleans Artists Against Hunger And Homelessness 1990  音源 
 
Dr. John : Vocal (1,4) , Piano
Maria Muldaur : Vocal (2,3,4)
Tommy Moran : Electric Guitra
Chris Severin : Bass
Freddy Staehle : Drums
Unkown : Percussion

Jamil Sharif : Trumpet
Eric Traub : Tenor Sax
Alvin "Red" Tyler : Baritone Sax

1. Iko Iko [Sugar Ray]
2. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Dr. John]
3. New Orleans [JJ Cale]
4. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker]
5. Walk On Gilded Splinters [Dr. John]

Lakefront Arena, New Orleans, Lousiana, November 10, 1990

注: 1,4はマリア不参加
 
New Orleans Artists Against Hunger And Homelessness (NOAHH)は、1985年アーロン・ネヴィルとアレン・トゥーサンによって設立された地元音楽家の団体で、チャリティー・コンサートによる収益でホームレスに食料供給などの支援活動を行っている。1990年第6回目コンサートのドクター・ジョン(1941-2019) のステージにマリアがゲストで登場した。音質より放送音源と推測される。同じ音源には、他にネヴィル・ブラザース(ゲスト ジョーン・バエズ)、リトル・フィートのライブが入っている。


ドクター・ジョンの紹介により登場したマリアは、「この曲は(このイベントに)ぴったりです」と言って、2.「There Must Be A Better World Somewhere」を始める。 ドクター・ジョンとドク・ポーマスによるこの曲は、B.B.キング1981年がオリジナルで、マリアは1985年の「Live In London」M10でカバーしている。ゴキゲンなギターソロを聴かせてくれるトミー・モランは、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ボビー・チャールズ等のアルバムに参加したギタリスト。マリアは文句なしの熱唱。JJ ケールの3.「New Orleans」は、同じ年のコンピレーション・アルバム「Goodbye」E72にマリアとドクター・ジョンの共演が収められている。ここでは間奏でフィ−チャーされるニューオリンズ調のブラス、彼のピアノのグルーヴが凄い!4.「Don't You Feel My Leg」は、もともと彼に教えられてファースト・アルバムM2に収録したマリアのおはこ。間奏のピアノソロも聴きもの。

ドクター・ジョンの曲についても述べよう。1.「Iko Iko」は、シュガー・レイ(1934-2012 本名 James Crawford)が1953年に発表した「Jock-A-Mo」がオリジナル。彼の公式録音は「Gumbo」1972で、グレイトフル・デッドのステージでの常連曲でもあった。5.「Walk On Gilded Splinters」は、「Gri-Gri」1968に収録されたブードゥー教のミステリアスな雰囲気を持った曲で、シェール、ハンブル・パイ、ネヴィル・ブラーザースなど多くのカバーがある。曲の後半で、演奏がリズムセクションのみとなり、それに乗せて彼がバンドメンバーの紹介をする場面がある。資料には記載がないので有難いが、物凄く聞き取りにくい。同時代のアルバム 「Goin' Back To New Orlens」1992の資料を参考にして、パーカッションを除き上記の通り特定した。特筆すべきメンバー、バリトン・サックスのアルヴィン・”レッド”・タイラー(1925-1998) は、奏者、作曲家、編曲家としてニューオリンズR&B界の最重要人物と言われる人。ドクター・ジョンのバンドでの仕事を含む数多くのコンサート、録音セッションにキーパーソンとして参加、自己名義のアルバムも残した。

マリアがドクター・ジョン・バンドのゲストとして、地元ニューオリンズの音楽をはつらつと歌う様を高音質で聴くとことができる好音源。


Nashville TV 1990?  映像
   
Maria Muldaur : Vocal,
Unknown : Back Band

1. Coat Of Many Colors [Dolly Parton]
2. Dream A Little Dream [Andre, Khan, Schwandt]

収録: Nashville

 
資料はナッシュビルのテレビ番組というだけで、収録・放映日および番組名は不明であるが、ハウスバンドと思われるバックミュージシャンの風貌、2.の途中で写るセットのロゴから、ナッシュビルの番組であることは間違いない。そして1.でハーモニカを吹いている人が、1989年の「Nashville Now」の映像でギターを弾いていた人と同じ (スタジオ・ミュージシャンの Fred Newellでギター以外にバンジョー、ハーモニカもこなすという)であることから、おそらく番組名は「Nashville Now」と推定される。また歌っている曲から、アルバム「On The Sunny Side」1990 M12の宣伝目的の出演、とすると1990年、あるいはその翌年の収録であると思われる。クローズアップのシーンがないので、断定できないが、大編成のバンドの中でピアノを弾いている人は、彼女の伴奏者として常連のジョン R. バーのように見える。彼は前述の「On The Sunny Side」1990 M12のレコーディングにも参加していたので、その可能性は高い。

1.「Coat Of Many Colors」、2.「Dream A Little Dream」とも、マリア向きのとてもいい曲で、1.のハーモニカ、2.のペダル・スティールギター、マンドリン等の演奏も上手く、彼女の歌唱も好調。とても楽しめる映像だ。


 
New Orleans Jazz & Heritage Festival (Neville Brothers) 1992   映像 

 

Aaron Neville: Vocal
Maria Muldaur: Vocal
Art Neville: Keyboards
Unknown: Electric Guitar
 
1. Amaging Grace [John Newton, Unknown]

収録: 1992年5月2日 Municipal Auditorium, Louis Armstrong Park, New Orleans

1970年に始まったニューオリンズ・ジャズ・アンド・ヘリテージ・フェスティバルの1992年ネヴィル・ブラザースのゲストに出演。メイン会場は競馬場の中庭に設営された複数のステージになるが、期間中はフレンチ・クォーターや他の会場でもコンサートをやっていて、町中が音楽だらけになる。じつは1980年代に同地へ旅行し、そこでフェスティバルのことを初めて知って競馬場に観に行った思い出がある。そこでザリガニ料理を食べ、ゴスペル・コーラス隊の凄まじいパフォーマンスとネヴィル・ブラザースのステージを観た記憶がある(時間がなかったので、ちょっとだけで帰ってしまったが...)。

ネヴィル・ブラザースは1992年競馬場のメインステージに最終日5月3日のトリで出演したが、期間中複数の他の場所でも演奏していた。さすが同地を代表するR&Bバンドだけのことはある。本映像はルイ・アームストロング公園にある市営講堂(Municipal Auditorium)における5月2日のコンサートを撮影したものだ。 チャールズ(1938-2018 サックス)、シリル(1948- パーカッション)、アーロン(1941- ボーカル、パーカッション)、アート(1937-2019 ボーカル、キーボード)の四兄弟にアディショナル・キーボード、ギター、ベース奏者が加わった36分の演奏。

アーロンが最後の曲と言ってゲストのマリアを紹介し、二人はオルガンとギターだけのシンプルなバックで「Amaging Grace」を歌う。歌の構成は1989年の「Earthquake Relief Concert」とほぼ同じ。

ちなみにアーロンは、同年発売されたマリアのアルバム「Louisiana Love Call」M13 にゲスト参加している。

1989年の映像と並んで、マリアが「Amaging Grace」を歌う貴重な映像。

[2024年7月作成]


 Three Weeds, Sydney (With Jon Cleary) 1992   音源
 


Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (9,12)
Jon Cleary : Piano, Vocal (1,2,3,13), Back Vocal (12,14)

[Set One]
1. Jon's Boogie *
2. Those Lonely Lonely Nights [Earl King, Johnny Vincent] *
3. People Say [Ziggy Modeliste, Art Neville, Leo Nocentelli, George Porter Jr.] *

4. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
5. Brickyard Blues [Allen Toussaint]
6. Any Old Time [Jimmy Rogers]
7. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
8. Lover Man (Oh Where Can You Be) [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez]
9. New Orleans [J. J. Cale]
10. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
11. Someone Else Is Stepping In [Denice LaSalle]
12. Second Line. [John Cleary]

[Set Two]
13. Young Boy Blues [Phil Spector, Doc Pomus] *

14. I Want A Real Man [Jerry Lynn Williams]
15. Weeping Willow Blues [Paul Carter]
16. You Made You Move Too Soon [Stix Hooper, Will Jennings]
17. There Must Be A Better World Somewhere [Doc Pomus, Mac Rebennack]
18. Southern Music [Russell Smith]
19. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
20. It Ain't The Meat [Henry Glover, Louis Mann]
21. Midnight At The Oasis [Daivd Nichtern]
22. Don't You Feel My Leg [L..Baker, J. M. Williams, D. Barker]
23. Guide Me, O Great Jehovah [Traditional]

収録: 1992年7月19日 Three Weeds, Sydney, Australia

* : マリアは非参加

公式音源初収録
M1 (6,21,22), M3 (5,20), M7 (23), M9 (7), M10 (16,17), M13 (12,18), M14 (15, 19), E3 (4), E16 (8) E67 (9), E73(10), E83 (11), 未発表 (14)
 
 
イギリス生まれのジョン・クリアリー (1962- )は、17歳で渡米後、ニューオリンズを本拠地として活躍するシンガー・アンド・ソングライター、ピアニストだ。1990年代より 自己名義のアルバム製作や、Absolute Monstor Gentleman というバンドを結成して活躍。またタージ・マハールやボニー・レイット等のバックを担当し、彼女のアルバム「Silver Lining」 2002、「Soul Alike」2005 に参加している。マリアは、彼の作品を5曲録音している (「Second Line」(「Louisiana Love Call」 1992 M13)、「Power In Music」(「Meet Me In The Midnight」 1994 M15)、「Fanning The Flames」、「Can't Pin Yo' Spin On Me 」、「Strange And Foreign Land」(「Fannning The Flames」1996 M16))。録音では、前述「Fannning The Flames」にバック・ボーカルとして自作の2曲に参加しているが、ピアニストとしての参加は意外に少なく、1992年録音のハッピーとアーティ・トラウム兄弟のラジオ番組出演の模様を収めたオムニバス盤 「Bring It On Home Vol.2」 1994 E82 の2曲のみだ。当時ジョンはマリアと組んでコンサート活動をしていたようで、約30年後の2021年になって、その全貌を聴くことができた。会場のThree Weedsはシドニーにあるパブ・レストラン。オーディエンス録音としてはまあまあの音質で、ピアノとボーカルを十分楽しむことができる。

コンサートはジョン・クリアリーのピアノ独奏(資料では1.「Jon's Boogie」というタイトル)から始まる。饒舌過ぎると思える位手数が多いプレイだが、強力なドライブ感と、力強く正確なタッチが圧倒的だ。2曲目はアール・キング (1934-2003) 1955年のヒット 2.「Those Lonely, Lonly Nights」(R&Bチャート7位、ジョニー・ギター・ワトソン、ドクター・ジョンのカヴァーでも有名)で、3曲目はザ・ミーターズ1974年のニューオリンズ・ファンク 3.「People Say」。ジョンのソウルフルなボーカルに驚かされるが、彼は自己名義でアルバムを何枚も出しているのだ。

オーディエンスが十分熱くなったところで、ジョンの紹介でマリアが登場し、4.「 I'm A Woman」を歌う。ジョンに煽られたせいか、最初から飛ばしている感じ。アラン・トゥーサンの 5.「Brickyard Blues」でのジョンのピアノは、ニューオリンズ・スタイルで嵌っている感じ。マリアのヴォーカルの切れ味もいつに増して鋭い。6.「Any Old Time」で彼女は、「ミッドナイト何とか」のB面の曲と言って皆を笑わせている。ジョンのこってりしたピアノが、曲の雰囲気を変えてしまっている。7.「There's Going To Be The Devil To Pay」では、皆さんがあまり聞いたことがない「Sweet And Slow」という、ドクター・ジョンと演ったレコードからの曲で、ジミー・スワガードに捧げると紹介している。彼はキリスト教伝道のテレビ番組で、扇動的な説教と異端者への攻撃で一世を風靡したが、1988年性的スキャンダルにより失脚した人。8.「Lover Man (Oh Where Can You Be) 」でマリアはしっとり歌うが、ジョンの間奏ソロは、ジャズ・ピアニストのものとは全く異なる世界を見せてくれる。9.「New Orleans」は、マリアのアルバムに収録されず、オムニバスでのみ聴くことができる曲で、彼女は得意のタンバリンを叩きながら歌う。「ブルースを歌います」と言って始める 10.「Please Send Me Someone To Love」も当時はアルバム未収録だったが、20年後の「Steady Love」 2011 M33にめでたく収められた。熱唱であるが、ここでは何故かさっぱりと終わってしまう感じ。それでもオーディエンスは熱烈な拍手と声援を送っている。11. 「Someone Else Is Stepping In」も彼女のレパートリーとして珍しい曲で、1994年に発売されたライブDVD 「Chicago Blues Jam」 E84の演奏途中でカットされた映像しかない。デニス・ラサール (1934-2018)のアルバム「Love Talkin'」1985に入っていた曲で、Z.Z. ヒル、バディ・ガイやケブ・モーもカバーしている。12.「Second Line」は伴奏者ジョンの作品で、コーラス部分で彼のバックボーカルが入る。大歓声のなか、ファーストセットはここでお終い。

セカンドセットは、音源ではジョンの歌唱によるベン E. キング 1964年(全米66位)の13.「Young Boy Blues」から始まる。音源ではカットが入るので、彼がマリアの前で何曲歌っているかは定かでない。「ボニーレイットの曲を歌うよ」とって始める14. 「I Want A Real Man」は、ボニーのアルバム「Nick Of Time」1989に「Real Man」というタイトルで収録されているが、ジェリー・リン・ウィリアムス(1948-2005)が彼女のために書いたもの。ここでもジョンが、コーラス・パートでバック・ボーカルを入れている。ベッシー・スミスの15.「Weeping Willow Blues」に続いて歌われる 16.「You Made You Move Too Soon」、17.「There Must Be A Better World」は、「Live In London」1985 M10からの珍しい選曲で、前者はB.B. キングがザ・クルセイダーズと共演したアルバム「Midnight Believer」1978に入っていた曲で、作者ののスティックス・フーパーはクルセイダーズのドラマーだ。後者は、ドクター・ジョンがドク・ポーマスと作った曲で、これもB.B. キング1981年のアルバムのタイトル曲だった。特に後者のマリアの熱唱に対し、オーディエンスは曲の途中から大声援を送っている。一転して 18.「Southern Music」では、マリアは情感たっぷりに切々と歌い上げる。19.「Do Your Duty」もベッシー・スミスの曲で、 曲前のマリアの語りに皆大受けなんだけど、何言っているのかよく分からないのが残念。20.「It Ain't The Meat」では、マリアがオーディエンスに「It Ain't The Meat」という掛け合いコーラスを歌うように頼み、皆楽しそうに歌っている。会場の興奮が止まないまま、21.「Midnight At The Oasis」に突入、ジョンの1台のピアノだけで跳ねるようなグルーヴ感を弾き出しているのが凄い。間奏ソロも最高!ジョンのピアノをバックに、聴衆に対し感謝の言葉を述べるマリアの語りが淀みなくリズミカル。22.「Don't You Feel My Leg」は、曲中のアドリブの早口語り満載で、スタンドアップ・コメディーを聞いているかのようだ。エンディングはお得意ジェームス・ブラウンのパロディーで終わり、皆大騒ぎでアンコールを要求。最後は「ドック・ワトソンから習った」と紹介して、アカペラでゴスペル曲を厳粛に歌って、コンサートを終える。

ジョンのこってりしたピアノ伴奏に負けじと、全力直球勝負で挑むマリア渾身のライブ。


Harbourside Brasserie, Sydney (With Jon Cleary) 1992   音源
 
Maria Muldaur : Vocal, Tambourine 
Jon Cleary : Piano, Vocal (1,8), Back Vocal (9)


1. Talk To Me, Talk To Me [Joe Seneca] *

2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Any Old Time [Jimmy Rogers]
4. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
5. Lover Man (Oh Where Can You Be) [Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger Ramirez]
6. New Orleans [J. J. Cale]
7. Someone Else Is Stepping In [Denice LaSalle]

8. Blueberry Hill [Larry Stock, Al Lewis, Vincent Rose] *

9. I Want A Real Man [Jerry Lynn Williams]
10. Weeping Willow Blues [Paul Carter]
11. Southern Music [Russell Smith]
12. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
13. It Ain't The Meat [Henry Glover, Louis Mann]
14. Midnight At The Oasis [Daivd Nichtern]
15. Don't You Feel My Leg [L..Baker, J. M. Williams, D. Barker]


収録: 1992年8月1日 Harbourside Brasserie, Sydney, Australia

* : マリアは非参加


7月1日のスリー・ウィーズとほぼ同内容(ジョンの歌のみ異なる)であるが、こちらは地元ABC FMの放送音源なので、コンサートの抜粋であるが音は良い。会場はThe Manly 16ft Skiff Sailing Clubというヨットクラブが経営するレストラン兼ライブハウス。

以下ジョンが歌う2曲のみ紹介する。

1曲目は、リトル・ウィリー・ジョン (1937-1968) 1956年のヒット「Talk To Me, Talk To Me」(全米20位)。彼は50年代後半に「Fever」(1956、全米24位))などで人気を博したが、1960年代は酒と麻薬で身を持ち崩し、1965年に殺人を犯して投獄され、上訴もかなわず、1968年獄中で病死した。その後2008年になって、1966年の仮釈放中にカムバックを期して録音された音源が発掘・発売された。

8曲目は、1940年に書かれグレン・ミラー楽団な複数のアーティストによりレコードが製作されヒットした「Blueberry Hill」で、1956年のファッツ・ドミノ (1928-2017) によるニューオリンズ風ロックン・ロールのバージョンが決定版となった。


Auditorium Shores, Austin 1994  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (1,5)
Chris Burns : Keyboards, Bass, Back Vocal (5)
John Woodhead: E. Guitar, Back Vocal (5)
Roddie Clay ? : Drums, Back Vocal (5)


1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] 
2. Any Old Time [Jimmie Rogers]
3. Cajun Moon [J J Cale]  
4. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
5. Power In Music [Jon Cleary]

収録: 1994年9月4日 Auditorium Shore, Austin, Texas


テキサス州の州都オースチンの住民は音楽好きで、世界で最もライブハウスが多い街だそうだ。オースチン・オーディトリウム・ショアはその市内、タウンレイクのほとりにある野外コンサート会場で、ステージの背景には、夜のハイウェイを走る車のライトの遠景が見える。9月とはいえ、残暑が厳しいようで、スタッフやオーディエンスの多くは半ズボンにTシャツというラフな格好をしている。番組の最後で、本映像は地元の音楽専門テレビ局、Austin Music Networkで放送されたものであることがわかる。

1.「I'm A Woman」が始まり、登場したマリアは、かなりふっくらした感じで、1980年代とは明らかに体型が異なる。ソロアルバムとしては1993年の「Jazzabelle」M14と 1995年の「Meet In The Midnight」M15の中間にあたる。その分声も太くなり、貫禄たっぷりだ。タンブリンを腰に当てながら歌う様は、70年代初期の映像での同曲の演奏と比べてしまい、思わずニヤリ。地元テキサス州で活躍したジミー・ロジャースにちなんでという紹介の後、2.「Any Old Time」を歌う。演奏風景を見ていて「おやっ?」と思う。ベーシストがステージにいないのだ。ベースの音はちゃんと聞こえるので、キーボード奏者がフットペダルを踏んでいているのかなと思ったが、そのような素振りはない。ステージ上は隠れるような場所はないし、ステージ外のどこかで弾いているのかな?と思ったが、よーく見るとキーボード奏者の左手がベースを刻んでいるのが見てとれた。電子ピアノの低音部分の設定により、同じ鍵盤でも右手は普通のピアノプレイを行い、一方左手でベースラインを弾くなんて、すごい芸当だ。音を聴く限り、本物のベースギターによる演奏とまったく変わらない。予算の問題で、ツアーバンドの編成を少なくしたためと思われるが、インターネットで資料を調べていたら、当時の他のコンサートのレビューでも同じことが語られていた。奏者のクリス・バーンズは、その後に「Meet Me Where They Play The Blues」1999 M19、「Sisters & Brothers」2004 M23、「Love Wants Dance」2004 M24、「Live In Concert」2008 M28など多くの作品の録音に参加する常連の一人となる。左手でベースを弾くため、右手で間奏のソロをとることはさすがに難しいようで、このコンサートでは彼は伴奏に徹していて、ギタリストのジョン・ウッドヘッドが、すべての間奏ソロを担当している。彼は「Meet Me In The Midnight」M15および「Southland Of The Heart」1998 M17に参加していた人で、ここでは手堅いながらも心に染み入るようなプレイを聴かせてくれる。2.「Any Old Time」ではボトルネックを付けてソロを取っている。 3.「Cajun Moon」では、ステージ上のマリアの動きが激しくなり、ミステリアスなパワーを込めた歌唱、後半にギターソロとマリアのハミングとの掛け合いなど、見どころ沢山だ。ステージでの愛奏曲 4.「Please Send Me Someone To Love」は、以前に増してドスが効いたシャウトを連発、エンディングの独唱も迫力満点だ。 ここでマリアによるメンバー紹介があり、ピアノとギター奏者の名前を聞き取ることができた。ドラムスについては、「ロディー・クレイ」と聞いたが、正確な発音、スペルは不明。インターネットで調べてもそれらしいドラム奏者は検索できなかったため、詳細は不明。新作「Meet In The Midnight」に収録される 5.「Power In Music」では、バックの3人がコーラスを担当して、にぎやかに演奏される。

バックバンドのミュージシャの力量はそれなりなのだが、人数が少ない分、音の厚みや間奏ソロの変化という面でハンディがあることも否めない。彼女のツアーの様子をありのままに捉えた記録としてみると、それなりに面白いものだと思う。


Ohne Filter Extra, Germany 1995  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tambourine (1,4,9,10)
Amos Garrett : Electric Guitar, Vocal (6,7), Back Vocal (8,9,11)
Jon Cleary : Keyboards, Back Vocal (3,8,9,11)
Unknown : Bass. Back Vocal (6,8,9,11)
Unknown : Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
2. Cajun Moon [J.J. Cale]
3. Louisiana Love Call [Marty Grebb]
4. New Orleans [J.J. Cale]
5. Please Send Someone To Love Me [Percy Mayfield]
6. Bad Whisky [Eddie "Gip" Noble]
7. What A Fool I Was [Unknown]
8. Mississippi Muddy Water [Marty Grebb]
9. Second Line [Jon Cleary]
10. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
11. Power Of Music [Jon Cleary]
12. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]

収録: 1995年 Barden Barden, Germany

注: 6,7 のボーカルはエイモス・ギャレット(マリアは不参加)


ドイツ語のタイトルは、「Ohne Filter Musik Pur (フィルターなしの純粋な音楽)」という番組の「Extra (特別編)」という意味で、アーティスト主導による番組製作方針を掲げたものと推測される。スタジオに少人数のオーディエンスを招き、司会者は最初の紹介のみで、後はアーティスト本人により番組が進行してゆく。収録地は温泉による保養地で有名なドイツのバーデン・バーデン。本映像は、エイモス・ギャレットと彼のバンドがバックを担当している点で、貴重なものだ。

冒頭のドイツ人司会者による紹介の後、1. 「I'm A Woman」が始まる。マリアはタンブリンを叩きながら歌う。ピアノとオルガンを弾いているのは、ジョン・クレアリー。メンバー紹介またはミュージシャンのクレジット表示がないので、ベースとドラムスは誰だか不明であるが、おそらく当時エイモスのバンド・メンバーで、1996年発売のライブアルバム「Off The Foor Live」に参加していたブライアン・ポラック(Brian Pollack ベース)とトム・ムーン(Thom Moon) じゃないかな?余談ですが、昔初めてこの映像を観た時、マリアのでっぷり太った姿にショックを受けましたが、今は慣れました。エイモスは、右手の指にサムピック、フィンガー・ピックを付けて演奏している。本映像では、彼のリズム、オブリガード、ソロの各プレイがたっぷりフィーチャーされており、弦のチョーキングやビブラートの駆使、左手のフィンガリングと右手のピッキングの絶妙のタッチによる奏法の秘密をじっくり観察することができる。ジョン・クレアリーはピアノとオルガンの両方を弾き分けている。 2.「Cajun Moon」でのエイモスのプレイは聴きもので、この人は手が大きくて、握力が強い人であることがよく判る。後半でのマリアのスキャットとエイモスのギターとの掛け合いは魅力たっぷり。 3.「Louisiana Love Call」は、最新アルバムからのタイトルソングと紹介される。コーラスパートでは、ジョン・クレアリーがハーモニーを付ける。ここでもエイモスがニョロニョロとソロを弾く。4.「New Orleans」の紹介でマリアは、「私が大好きな場所、もちろんバーデン・バーデンは別格だけどね!」と言っており、本映像の収録地がドイツのバーデン・バーデンであることがわかる。ここでのエイモスの伴奏・間奏ソロは最高!ステージでの定番曲 5.「Please Send Someone To Love Me」では、マリアのいつもの熱唱と、それに対抗するエイモスの熱っぽいギターソロが素晴らしい。

ここでマリアがステージから降り、エイモスが2曲歌う。6.「Bad Whisky」は、前述のライブアルバムに入っていた曲で、間奏はピアノとギターがソロを入れる。7.「What A Fool I Was」は、スローなバラードで、エイモスの低音のボーカルがいい味を出しており、歌心溢れる間奏ソロも良いですね。マリアが戻って歌う 8.「Mississippi Muddy Water」、9.「Second Line」では、エイモス達がバックコーラスで歌い、ジョン・クレアリーのニューオリンズ・スタイルのピアノが目立っている。10. 「Midnight At The Oasis」では、エイモスが弾く間奏ソロがハイライト。有名なオリジナル版の構成に基づきながらも、随所に崩しを入れるあたりはさずがですね。エンディングでのギタープレイはめっけもの。11.「Power Of Music」の間奏ソロはギターとオルガン。フィナーレの 12. 「Don't You Feel My Leg」はリラックスした雰囲気で、マリアはアドリブによる語りでエイモスに迫り、彼がショックを受けるユーモラスな場面がある。間奏はオルガンソロ。最後はジェイムス・ブラウンのブレイク・スタイルで終わる。

ほめ過ぎと思われるかもしれないけど、聴けば聴くほど(観れば観るほど)良くなる映像なのだ。

[2022年11月訂正]
キーボード・プレイヤーをロン・カサットとしていましたが、正しくはジョン・クレアリーでした。すみません。マリアのブログ(2022年10月16日)で誤りに気が付きました。


Benefit Concert For Seva Foundation 1998  音源

Bonnie Raitt : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Bruce Hornsby : Piano, Back Vocal
Wavy Gravy, Jorma Koukonen, Charlie Musselwhite etc. : Back Chorus

1. Amazing Grace [Traditional]

Recorded at Berclay Community Theater December 19,1998


ワヴィ・グレイヴィイ(Wavy Gravy、本名 Hugh Romney 1936- )が設立した組織、セヴァ・ファウンデイション(Seva Foundation)は、チベット、ネパール、カンボジア、バングラデシュ、アフリカ諸国で白内障のために失明した人々のための手術の援助を行い、これまでに3百万人の人々が視力を回復したという。その他にアメリカ先住民のための医療援助活動も行っているようだ。彼らは 1979年資金集めのためのコンサートを多く開催しており、賛同したベイエリアのアーティスト達が多く出演している。本CDは、1994年2月13日、1998年5月15日、1998年12月19日の3つのコンサートの音源を集めたCD「Sing Out For Seva」1999 E103 が公式発売されており、そのなかにはマリアの1998年12月19日のライブから「Southland Of The Heart」が収められている。ボニーの演奏は上記のCDにも「Shadow Of Doubt」1曲が収録されているが、当日演奏された10曲すべてを収めた音源を聴くことができた。

ボニーはベーシストのハッチ・ハッチンソンの二人で登場、演奏が進むにつれ、チャーリー・ミュッセルホワイト(ハーモニカ)、ブルース・ホーンズビー(ピアノ)、ロイ・ロジャース(スライドギター)、そしてブルース界の大御所ジョン・リー・フッカーがゲストで加わり大いに盛り上がる。最後にコンサートのフィナーレとして当日の出演者が舞台に再登場して、おなじみの1.「Amazing Grace」を歌う。まずボニーがファースト・ヴァースを歌い、全員によるコーラスの後、マリアがセカンド・ヴァースのリードを取る。意外にもマリアがこの曲を歌う公式録音はなく、1989年と1992年にアーロン・ネヴィルと歌ったライブ映像があるのみだ。

マリアのゴスペル・フィーリング溢れる歌唱が素晴らしい。


  
 Stony Plains Records 25th Anniversary Revue 2001  音源

 

Maria Muldaur : Vocal, Percussion
Johsua Paxton : Piano
Ernie Hawkins : Vocal, Acoustic Guitar, Slide Guitar, Resonator Guitar
Freebo : Vocal, Bass, Tuba, Mandolalee, Guitar

[Freebo's Opening Set]
1. She's My D.O.G
2. Before This Feeling's Gone
3. Sometimes It's For Nothing

[Maria Muldaur's 1st Set]
4. Weepin' Willow Blues [P. Carter]
5. Grasshoopers In My Pillow [Leadbelly]
6. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
7. Put It Right Here [P. Grainger]
8. Me And My Chauffeur Blues [Ernest Lawler]
9. I'm Going Back Home [Copyright Control]
10. In My Girlish Days [Ernest Lawler]
11. Adam and Eve Got The Blues [Sippie Wallace]
12. There's Going To Be The Devil To Pay [Billy Hueston, Bob Emmerich]
13. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]

[Maria Muldaur's 2nd Set]
14. Empty Bed Blues [J.C. Johnson] (Fade In)
15. I Got To Move [Copyright Control]
16. Brother, Seek And You Shall Find [Frank Crum, Robert G. Stewart]
17. Lonesome Desert Blues [Bessie Smith]
18. Sweet George Brown (Josh Paxton) [Ben Bernie, Maceo Pinkard]
19. It's A Blessing [Traditional]
20. I Belong To The Band [Copyright Control]
21. Soul Of A Man [Copyright Control]
22. Do Your Duty [Wesley 'Sax' Wilson]
23. It Ain't the Meat, It's The Motion [Henry Glover, Louis Mann]
24. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]
25. Guide Me, O Great Jahova [Traditional]

Recorded at The Horseshoe Tavern Toronto, Ontario, Canada April 11, 2001

注: 1,2,3.18 はマリア非参加

 

カントリー、フォーク、ブルースなどのルーツ音楽を専門とするカナダの独立系レーベル、ストーミー・プレイン・レコードが設立25周年を記念して開催したコンサートの音源。会場のホースシュー・タバーンはトロントのダウンタウンにある87席の小さなライブハウス。コンサートはレーベルのオーナーであるホルガー・ピーターセン(Holger Petersen)のイントロダクションから始まり、当夜が4日間にわたるイベントの初日だったことがわかる。

コンサートはフリーボのステージから始まる。本名はDaniel Friedberg といい、ベース奏者としてボニー・レイットと10年以上行動を共にした他、ティモシー・シュミット、アーロン・ネヴィル、リンゴ・スター、ケイト・アンド・アンナ・マッキャリグル、ロウドン・ウェインライト 3世、バディ・ガイなど多くのセッションに参加。マリアとはデビュー・アルバム1973 M1(特に「Midnight At The Oasis」)や「Waitress At The Donut Shop」1974 M3の録音に参加した人だ。2000年代以降はシンガーアンド・ソングライターとして活動し、自作の曲を歌ったCDを発表し続けている。彼が歌う3曲は、いずれも初ソロアルバム「The End Of The Beginning」 1999に収録されたもの。彼が「女の事じゃないよ!」と紹介して始める 1.「She's My D.O.G.」は、愛犬のことを歌った曲。彼は大変な犬好きのようで、後に「Dog People」2002という犬の歌のみからなるアルバムを作ったほどで、そこにもこの曲が収められている。2.「Before This Feeling's Gone」は、マンドラレというマンドリンとウクレレを合わせたような楽器の弾き語りで歌われる。 3.「Sometimes It's For Nothing」は、ブギー調の曲。彼のボーカルはなかなか味があるし、曲の出来も良いと思う。

フリーボの紹介でマリアが登場し、アコースティックによるブルース特集と称して、ベッシー・スミスの4.「Weepin' Willow Blues」から始める。バックでピアノを弾くのはジョッシュ(ジョシュア)・パクストンで、彼はニューオリンズ・スタイルのピアノを同地で学び、その後本拠地をシカゴに移している。ジェイムス・ブッカー(ニューオリンズ・スタイルのピアノの草分けとして伝説的な存在、マリアの「Waiteress In A Donut Shop」M3、「Sweet Harmony」M4にも参加、1983年没)のピアノ曲の楽譜の出版で有名な人で、本書は、楽譜にすることは困難と言われた彼のプレイの完璧な採譜により高い評価を得ている。2000年に発表したアルバム「Q's Blues」には、チャーリー・パーカーの「Hot House」や、チック・コリアの「Spain」なども収められ、モダンジャズもカバーする幅広い音楽を示している。新作は2009年の「Alone At Last」。ここでの彼のピアノは、前述のジェイムス・ブッカーの流れを汲むスタイルで、饒舌かつ豪華絢爛なプレイだ。レッドベリーの5.「Grasshoopers In My Pillow」で12弦ギターを弾く人はアーニー・ホウキンスで、当時マリアが発表したアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20に参加していた。彼はステファン・グロスマン等と同じく、ゲイリー・デイビスに憧れてギターを学び、大学卒業後は心理学者になったが音楽への夢を捨てきれず、1978年にフルタイムのミュージシャンに転向、ソロアルバムの他に、多くの教則本・DVDを製作している。ミシシッピー・ジョン・ハートの名曲で、マリアがジム・クウェスキン・ジャグ・バンド在籍時からの愛奏曲 6.「Richland Woman Blues」は、ギターとボーカルの余裕たっぷりの演奏が素晴らしい。7.は、資料では「He's Gotta Get It and Bring It...」とあったが、正しくは「Put It Right Here」というベッシー・スミスの曲だ。ここでは、ジョッシュのピアノにフリーボがチューバで加わる。彼のスタジオ・セッションワークは、チューバによるものも多く、ここでの低音のランは名人芸といえる。メンフィス・ミニーの8.「Me And My Chauffeur Blues」は、マリアの持ち味にピッタリのセクシーな曲。ここではアーニーのフィンガーピッキングとフリーボのギター(あるいはベース....あまりに巧みな演奏なので、どちらかはっきりしない)をバックに、マリアがタンバリンを叩きながら歌っていて、乗りが最高。メンフィス・ミニーとカンサス・ジョーのデュエット 9.「I'm Going Back Home」は、マリアとフリーボとのデュエットで歌われる。メンフィス・ミニーの自伝的作品という10.「In My Girlish Days」で、マリアは自分自身そして娘の経験と重なると語って歌う。ここでアーニーはスライド・ギターを弾いている。本コンサートの演奏曲の大半が当時のニューアルバム「Richland Woman Blues」2001 M20 であるのに対し11.「Adam and Eve Got The Blues」は、1983年の「Sweet And Slow」から。ここではフリーボのチューバが聴きもの。同じアルバムからの 12.「There's Going To Be The Devil To Pay」は、フリーボのランニング・ベース、マリアのタンバリンをバックに展開されるジョッシュの加熱気味のピアノ・ソロが凄い!13.「Please Send Me Someone To Love」は、彼女のブルース歌唱が頂点に達したことを如実に語るパフォーマンスで、技巧と情感が自然に調和した芸術だ。ジョッシュのピアノが派手過ぎかな?

セカンドセット最初の曲、14.「Empty Bed Blues」は途中から始まる。本音源は、それ以外は全て収められているようだ。15.「I Got To Move」は、アーニーのフィンガーピッキングを伴奏としたフリーボとのデュエット。16.「Brother, Seek And You Shall Find」は、ファッツ・ウォーラーの軽快な曲であるが、ジョッシュのピアノはよりモダンな響きがする。一転してベッシー・スミスの 17.「Lonesome Desert Blues」は、重々しく歌われる。18.「Sweet George Brown」はジョッシュの独奏で、マリアは非参加。ここでの演奏は技巧満載でアクが強く、悪乗りと言えるほど。19.「It's A Blessing」は、アーニーが弾くリゾネイター・ギターの独特の音が効果的。スタジオ録音(「Richland Woman Blues」)では、マリアはボニー・レイットと一緒に歌っていた。スピリチュアル・ソング 20.「I Belong To The Band」は、アーニーのアイドルであるゲイリー・デイビスの曲で、気持ち良さそうに弾かれるギターに乗って、オーディエンスが手拍子しながらマリアと一緒に歌っている。スタジオ録音ではタージ・マハールと一緒だったブラインド・ウィリー・ジョンソンの 21.「Soul Of A Man」は、おそらくアーニーとのデュエット(アーニーは自己の音楽活動でもこの曲を演っている)。マリアによる 22.「Do Your Duty」の録音は1993年の「Jazzabelle」M14で、オリジナルはベッシー・スミス。ビリー・ホリデイも歌っている。フリーボのチューバ・ソロが楽しい。常連曲 23.「It Ain't the Meat, It's The Motion」は、オーディエンスにコーラスを歌わせる打ち合わせをしてから演奏される。メンバー紹介の後、最後の曲として歌われる 24.「Don't You Feel My Leg」は、ピアノ、ギター、チューバの3人全員による伴奏。マリアはアドリブのセリフ入れまくりのリラックスした歌唱で、エンディングでジェイムス・ブラウンのブレイクを再現する。アンコールのゴスペル曲 25.「Guide Me, O Great Jahova」は、アカペラで厳かに歌われてコンサートの幕を閉じる。

「Richland Woman Blues」2001 M20発売時のコンサートで、全編アコースティック・ブルースで染め抜かれた素晴らしいステージだ!


PBS (Peter Barakan Show) Thumb's Up, Yokohama 2001  映像
 

Maria Muldaur: Vocal
Mike Schermer: Electric Guitar
Joshua Paxton: Keyboards
Henry Oden: Bass
Bruce David: Drums

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
2. Richland Woman Blues {Mississippi John Hyrt]
3. Lonesome Desert Blues [Bessie Smith]
4. Cajun Moon [J.J. Cale]
5. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
6. Don't You Feel My Leg [L. Baker, J. Williams, D. Baker]

Recorded at Thumb's Up, Yokohama, July 30, 2001


2001年の外タレコンサート資料によると、マリア2001年夏の来日公演は、東京、大阪、福岡、金沢で計5回行われたという。本映像は横浜駅から歩いて7分のところにあるライブハウス、サムズ・アップでのコンサートの模様を録画したもので、動画資料とタイトルには「Tokyo」とあるが、サムズ・アップは東京にはないので正しくは横浜。まあ外人からすると、横浜は東京の一部に思えるかもしれないね。

当該動画はソニー・ミュージック・グループが運営する衛星放送チャンネル「Viewsic (ヴュージック)」(2004年より Music On! TVに改名)が制作した音楽番組「PBS (Peter Barakan Show)」で放送された。

ギタリストのマイク・シャーマーのアナウンスでマリアがステージに登場し 1.「I'm A Woman」で開幕。マイク・シャーマーは1990年代終わりから2000年代前半のコンサートでマリアのバックをしていた人で、彼のアルバム2枚「Next Set」2005 E126と「Right Hand Man Vol.1」2007 E129に彼女がゲスト参加している(マイクについてはE126を参照ください)。またマリアのバンドでの演奏としては、1999年のライブ「Sing Out For Seva」E103がある。テレキャスターを使用したブルースを得意とする人だ。2001年はマリアがアルバム「Richland Woman Blues」M20を出した頃で、そこから2曲演っている。2.「Richland Woman Blues」ではマイクがエレキギター(別のテレキャスターに持ち替えているが)でジョン・ハート・スタイルのフィンガーピッキングを再現している。3.「Lonesome Desert Blues」 はピアノ伴奏のみのベッシー・スミス風演奏。ピアニストのジョシュ・パクストンは、ニューオリンズで現地のピアノ・スタイルを習得したしたそうだ。

4. 「Cajun Moon」からはマリアおはこの曲が続く。 ヘンリー・オーデンはカリフォルニア生まれで、ビッグ・ママ・ソーントンやジミー・リードのバックをしたことがある人。ドラマーについては資料がなかった。5.「Midnight At The Oasis」でのエレキピアノは和音が少し乱れていて、この手のスタイルは得手ではないみたい。マイクのギターソロはエイモスに敬意を払いながら、少しだけ自分のフレーズを入れている。コンサートの最後はお馴染みの 6.「Don't You Feel My Leg」。やはりここではジョシュのピアノが水を得たように大活躍する。フィナーレで恒例のジェイムス・ブラウン物真似大会をしてコンサートの幕を閉じる。

良い雰囲気のライブと思うが、プレイヤーの演奏というよりも録音に問題があるようで、迫力というか音の厚みに欠けているのが残念。 とはいえ、この時期のマリアの日本公演を観れるだけでよしとすべきだろう。

[2024年9月作成]


Bluebirds At Wintergrass Festival 2005  映像 
   
Maria Muldaur : Vocal
Linda Ronstadt : Vocal
Laurie Lewis : Vocal, Fiddle (2,3,4)
Ron Stewart : Fiddle

[The Right Hands]
Tom Rozum : Mandolin
Craig Smith : Banjo
Scott Huffman : Guitar
Todd Philips : Bass

1. High Sierra [Harley Allen]
2. My Tennessee Mountain Home [Dolly Parton] 
3. Dreams [Del McCoury]
4. The Bluebirds Are Singing For Me [Lester Flatt, Mac Wiseman]

Recorded at Sharaton Tacoma Hotel, Tacoma, Washington, Febuary 27, 2005


ロウリー・ルイス(1950- )は、カリフォルニア州生まれのシンガー、フィドル奏者で、ギターやベースもこなすマルチ・プレイヤーだ。1970年代より、多くのバンドでブルーグラス、カントリー、オールドタイミーを演奏していたが、初ソロアルバムは1986年の「Restless Rambling Heart」という遅咲きの人。彼女がザ・ライト・ハンズというバックバンドと一緒に、2005年ワシントン州タコマで開催されたウィンターグラス・フェスティバルに出演した際、友人のリンダ・ロンシュタットとマリア・マルダーをゲストに呼び、ザ・ブルーバーズという名前で1回限りのコンサートを行った。本映像は、その模様を撮影したオーディエンス・ショット。

1.「High Sierra」は、カントリー、ブルーグラス音楽界の大物レッド・アレンの息子、ハーレイ・アレンが書いた曲で、1995年にリンダ・ロンシュタットが「Feels Like Home」に収録、その後ドリー・パートン、エミルー・ハリスとのスーパーセッションアルバム「Trio II」1998 でも取り上げられた。リンダの力強い歌唱とコーラス部分での3人の合唱は聴き応え十分。懐かしい2.「My Tennessee Mountain Home」は、マリアがリードボーカルを担当。ブルーグラス調のリズミカルなアレンジで、コーラスのハモリを聴くと、何だかワクワクしてくる。3.「Dreams」は、デル・マッコーリーが1991年の「Classic Bluesgrass」のために吹き込んだ曲で、ここではロウリー・ルイスがリードを取る。彼女がこの曲を正式録音するのは、しばらく後の2011年のアルバム「Skippin' And Flyin'」で、そこではロウリーとリンダの二人で歌っている。 4.「The Bluebirds Are Singing For Me」は、オズボーン・ブラザース1979年の録音がオリジナル。愛らしいブルーグラス・チューンで、本セッションのバンド名は、この曲からとったものと思われる、

マリアとリンダはコロコロと太っていて、お相撲さんの土俵入りの様? マリアは、その後もロウリーのコンサートに時々ゲスト出演しており、二人の親交は続いているようだ。3人による合唱の楽しさを、本人達を含む全員が味わっている雰囲気が伝わってくる映像。


 
Woodsongs 2006  映像 
 
Michael Johnathon : Vocal, Acoustic Guitar
Maria Muldaur : Back Vocal
Lisa Svejkovsky : Cello
Scott Napier : Mandokin
Jim Carr : Bass

1. Winter Has Me In Its Grip [Don McLean]

Maria Muldaur : Vocal, Fiddle (6)
Craig Caffall : Electric Guitar, Acoustic Guitar (4), Electric Mandolin (6), Back Vocal (6)
Takezo : Electric Guitar, Acoustic Guitar (6), Back Vocal (6)
Chris Burns : Keyboards
David Tucker : Drums
Kimberly Bass : Back Vocal (4,6)

Will Kimbrough : Slide Guitar (6)

Michael Johnathon : Host

2. Buckets Of Rain [Bob Dylan]  
3. Lay Lady Lay [Bob Dylan]  
4. Heart Of Mine [Bob Dylan]  
5. Moonlight [Bob Dylan]  
6. You Ain't Goin' Nowhere [Bob Dylan]

Recorded at Kentucky Theater, Lexington, Lentucky, 2006

 

フォーク・シンガー、作家、脚本家のマイケル・ジョナサン(1963- )は、ニューヨーク生まれだが、1980年代よりケンタッキー州を本拠地にして活動を続けている。彼は、ルーツ音楽のラジオ番組「Woodsongs Old-Time Radio Hour」を創設し、プロデューサー、ホストとして、全米規模で放送されるまでに発展させた。さらに2000年代半ばからは、映像版がテレビ放映されるようにもなっている。またそのホームページには、過去に録音・撮影された番組の巨大なアーカイブ・コーナーがあり、それらを自由に視聴・ダウンロードすることができるのが魅力。長い歴史を誇る番組なので、それはそれは多くのアーティストが出演している。ちなみにマリアが出演した番組のプログラム番号は「415」だ。ホームページには番組の収録年月が表示されていないが、演奏曲および2006年8月に発売されたアルバム「Heart Of Mine」M26が「brand new」と紹介されているため、2006年後半の収録で、同アルバムのプロモーションのための出演であることは間違いないだろう。

本来はラジオなので、番組はアナウンサーによるスポンサーの読み上げから始まる。そして司会のマイケルのオープニングの後、彼がハウスバンドをバックに 1.「Winter Has Me In Its Grip」を歌う。この曲はドン・マクリーンの5枚目のアルバム「Homeless Brother」1974に収録されていた曲。よく観ると、マリアが控えめにハーモニーをつけていることがわかる。次に彼女が紹介され、マイケルの質問への答えとして、グリニッジ・ヴィレッジでのボブ・ディランとの交友について語られる。話自体は、彼女が他の場所でしていたものと内容的には変わりなく、当時のエピソードについても控えめな発言になっていて、自身の売り込みというよりも、彼に対する敬意が感じられるので、好ましく思える。2.「Buckets Of Rain」で、ギタリストの一人が東洋人であることに気がつく。後に「Tekizo」と 紹介されるが、正しくは「Takezo」という名前で、本名は武田佳史(Takeda Yoshinobu)という日本人だ。彼は1985年からサンフランシスコのブルース音楽界で活動していて、エルヴィン・ビショップ、アンジェラ・ストレリ等と仲が良いそうだ。ここでは「Live In Concert」M28でギターを弾いていたクレイグ・キャフォールがすべての曲で目立つプレイをしているので、彼の演奏はリズム中心の地味なものに終始している。曲は3.「Lay Lady Lay」と続き、右手でピアノ、オルガンを、左手でベースを弾きこなすクリス・バーンズの演奏がクローズアップでよく観てとれるのが面白い。「Midnight At The Oasis」に関するエピソードで、マリアが「(作者のデビッド・ニクターンが)ペントハウス・アパートのウォーターベッドで、ブロンドの美女とワイルドな週末を過ごした経験をもとに作曲したもの」と語っているのがめっけものだ。4.「Heart Of Mine」でバック・コーラスを担当するキンバリー・ベースは、パワフルなヴォーカルが売り物の人で、2007年に「Sacred Ground」というアルバムを発表し、その中の「Callin' All Angels」という曲が2006年USA Song Writing Contest のゴスペル部門で優勝。最近はTrance Zen Danceというグループで歌うなど、着実な音楽活動を続けている。

この後、もうひとりのゲストで、プロデューサー、マルチ・インストルメンタリストとしてナッシュビルで活躍するウィル・キンブロウが登場し、2曲歌う。そして マリアが 5.「Moonlight」を歌ったところで、ラジオ番組は終了とのことで、アナウンサーによるクロージングの語りが入る。ただし映像版はこの後も続き、マイケルが自己の語りとオーディエンスの掛け声により 、当番組の宣伝のための予告(音声版と映像版)を作ったところでアンコールになり、ウィルが1曲歌い、マリアが 6.「You Ain't Goin' Nowhere」を歌う。ここではフィドルを弾くマリアを観ることができ、ウィル・キンブロウがメタルボディのリゾネイターギターによるスライド奏法のソロを入れ、キンバリーとギタリストの二人がバックボーカルに加わるなど、華やかな雰囲気の演奏になっている。

画質はイマイチなんだけど、音は申し分なく、同時期に撮影された「Live In Concert」M28とは、メンバーの一部が同じながらも、異なる雰囲気の演奏を楽しむことができる。


Chasin' Gus' Ghost 2007  映像
 

Todd Kwait : Director, Writer, Producer
Carol Kwait : Producer

出演者
John Sebastian, Jim Kweskin, Geoff Muldaur, Fritz Richmond, Maria Muldaur, Bill Keith, Bob Weir, David Grisman, Eric Darling, Eric Thompson, Samuel Charters, Charlie Musselwhite, Sakofa Strings, Southern Chef, Mooney and Mad Words, Taji Mahal (声のみ) etc.




トッド・クウェイトは、医薬・美容品業界における法律専門家・経営者として業界の要職につくビジネスマンであるが、子供の頃から映画が大好きで、その情熱は、奥さんのキャロルと一緒に自分で映画制作を始めるまでになった。彼が選んだ最初のテーマはジャグ・バンド・ミュージックで、昔からジョン・セバスチャン率いるラヴィン・スプーンフルが大好きで、後にそのルーツがジャグバンドにあることを知り、ガス・キャノン(Gus Cannon) の「Viola Lee」を聴いてはまったとのこと。本作はトッド本人を語り部とするドキュメンタリーで、ジョン・セバスチャンに手紙を書いて協力を取り付け制作したという。ただしもう一人の協力者だったフリッツ・リッチモンド(ジム・クウェスキン・ジャグバンド)の病気・死去(2005年)により予定変更を余儀なくされたが、2007年に完成・公開、米国各地のフィルム・フェスティバルで入賞するなど好評を博し、2010年にDVDが発売された。ドキュメンタリーなので、最後まで完奏された曲はなく、マリアを含む多くのミュージシャンはインタビューのみの出演(マリアの演奏がないので、公式発売であるにもかかわらず、あえて「映像・音源」のコーナーに掲載しました)。以下順を追って内容紹介する。

映像はガス・キャノンの「Viola Lee」のSPレコードをかけるシーンから始まり、クレジットタイトルの後に、ジョン・セバスチャンとJバンドをバックにジェフ・マルダーが歌う1997年のライブ映像「Minglewood Blues」が流れる。ジョンは同年ジャグバンド音楽をテーマとした「Chasin' Gus' Ghost」という本作と同名のアルバムを発表しており、そこにはジェフが歌う同曲も収められている。ここでジョンの音楽ルーツを知ったトッドが、ジャグバンド音楽にのめり込んでいった様が語られる。ここで同音楽の始祖であるガス・キャノン(Gus Cannon 1883-1979)の生涯が紹介され、彼の声の役でタジ・マハールが登場。1920年代にCannon's Jug Stompers などの名義で録音を残し、大恐慌の1930年代以降は音楽界から姿を消すが、1963年にルーフトップ・シンガーによる「Walk Right In」のリバイバルで復活した(ここでルーフトップ・シンガースのエリック・ダーリンが登場)。しかし音楽業界になじめず、1979年貧困のうちに亡くなったという。その後、彼の墓は朽ちかけたが、1996年彼の音楽を慕う人々により立派な墓が作られたというエピソードが入る。トッドはジョンにドキュメンタリー制作の協力を依頼する手紙を書き、プロジェクトがスタートする。ハリー・スミスが編纂した6枚組のアルバム「Anthology Of American Folk Music」1952が多くの若いミュージシャンに影響を与えたことが語られ、エリック・トンプソン、デビッド・グリスマン、ジム・クウエスキン、ジェフ・マルダー、ボブ・ウェアが登場する。ボブ・ウェアは、その影響がグレイトフル・デッドの音楽のベースになった事を語り、同グループによる「Minglewood Blues」の映像が写される。「ジム・クウエスキン・ジャグ・バンドはルーズとタイトを持ち合わせた」というジムの言葉の後に、後述の東京でのコンサートでヘリウムガスを吸って声をおかしくしたジェフが歌う「Sweet Sue」のシーンが入る。初期のメンバー、デイブ・サイモンが歌う「Overseas Stomp」の映像は貴重。ニューポート・フォーク・フェスティバルのバンドの映像(「Festival」1963で本コーナー紹介済)の後、フリッツ・リッチモンド、ビル・キースの紹介となる。フリッツが吹くジャグによる「Jug Band Waltz」、ビルが「キース・チューナー」(ペグを回すことで音程を変えることができる糸巻で、バンジョーでスティールギターのような音が出せる)を使うシーンが面白い。イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドの話になり、マリア・マルダーが登場し「ワシントン・スクエアーに集まっていた仲間で結成した」と、バンド結成の経緯を語り、同バンドのライブ映像の断片を観ることができる。これは1963年のテレビ番組「Hootenanny」からで、ニューヨークのフォードハム大学でのコンサートを収録、演奏曲は「Log Cabin Blues」(彼らの演奏曲はこれのみで、他はニュー・クリスティー・ミンストレルズ等が出演)。ジョシュア・リフキン、ジョン・セバスチャン、デビッド・グリスマン(髭なし!)、スティーブ・カッツの姿をアップで観ることができる。残念ながらマリアの姿は遠景ショットのみであるが、三つ編み髪でカズーを咥えて演奏しているシーンを拝むことができ、まことに貴重な映像。いつかノーカットで観てみたいものだ。マリアからジム・クウエスキン・ジャグバンド加入の事が語られ、彼女の歌「I Ain't Gonna Marry」(「Live From Greenwich Village」で本コーナー紹介済)が挿入される。

ここで1920年代のジャグバンドの話に戻り、スウェーデンの評論家や、ブルースに関する本を書いた先駆者サミュエル・チャーターズが登場、黒人音楽であるブルースの歴史が語られる。黒人メンバーによる サンフォカ・ストリング・バンドによる演奏風景が入る(このバンドは現在はキャロライナ・チョコレート・ドロップスというバンドに発展しているようだ)。ウィスラー・アンド・ヒズ・ジャグバンド(Whistler And His Jug Band)による1930年頃の貴重な映像が入る。次に語り手はジャズバンド発祥の地ルイスヴィル(ケンタッキー州)、メンフィス(テネシー州)に行き、現地のバンドメンバーやブルースハーモニカ奏者チャーリー・ミュッセルホワイトにインタビュー、ガス・キャノンと一緒に演奏したハーモニカ奏者ノラ・ルイスの足跡をたどる。またブラウンズヴィルにあるスリーピー・ジョン・エスティス(1899-1977) の縁の地を尋ねるが、保存されている彼の家の小ささにはピックリ! その前で息子達が思い出を語り、マンドリン奏者のヤンク・レイチェル(1910-1997)生前の演奏シーンが続く。そして2005年11月20日のフリッツ死去のテロップが入り、ジェフの弾き語りよる美しい「Goodbye Old Pal」のライブ映像が流れる。死期を悟った寂しそうなフリッツの映像が悲しい。

フリッツの言葉に従ってと、撮影クルーは日本に飛び、2006年横浜ジャグバンド・フェスティバルを取材する。主催者ムーニー(橋詰宣明)氏によるメンフィス・ジャグバンドの「Cocaine Habit Blues」をベースとした「みんなでしようよ里帰り、一度はなろうよかなしばり、Hey Hey Everybody 朝帰り」、「横浜ジャグバンド・フェスティバルのテーマ」が流れ、メンバーの来日、フェスティバルの模様、日本人のグループ、サザン・シェフの演奏シーンと続く。コンサートのフィナーレで、ジェフ、ジム、ジョンの3人が日本人のミュージシャン達に加わり、ジェフが「Going To Germany」(ガス・キャノンが1929年に録音した曲)を歌う。舞台が渋谷に移り、楽器屋にいるジョンに日本人の男が話しかける。映像ではクレジットはないが、彼は佐久間順平だ。学生の頃に大江田信と組んで林亭という名前で制作した自主製作盤「夜だから」1973が評判を呼び、その後は高田渡、小室等、南こうせつなどのバックを努め、ラジオ、テレビ、映画音楽製作でも頑張っている人だ。彼がマンドリンを持って「Somebody Stole My Gal」の替え歌「あの娘に会いに」(前述の「夜だから」に入っていた曲。アルバムは後にCD化されている)を歌って大受けするのが傑作。彼の演奏は編集により同曲を歌うジム・クウエスキンに繋がる。渋谷のタワーレコードで店内コンサートをしているMad Words(ムーニー氏のバンド)にクウエスキンが見にゆき、何も知らない杉原テツ(ギター)がビックリするシーンも面白い(さすがにムーニー氏は知っていたようだけどね)。3人のリハーサルのシーンで、ジョンがジム・クウエスキンのバンドでハーモニカを吹くのが夢だったと語る。これもクレジット無しだけど、細野晴臣氏が写る。そしてハイライトで、2006年4月2日渋谷デュオで行われたフリッツ・リッチモンド・トリビュート・コンサートのシーンとなる。ステージにおける3人の共演は今回のツアーが初めてだそうだ。ジェフが歌う「Downtown Blues」のバックで聞こえるマリンバは細野氏によるものだ。ここでは他に比べてじっくり音楽を聴かせてくれる。フィナーレで日本人ミュージシャンとのセッションになり、メンフィス・ミニーの「Sailin'」で、ムーニー氏に続きジムがリードボーカルを取る。

最後にジャグバンド音楽の未来と称するコーナーとなり、前に登場したサンフォカ・ストリング・バンドが登場、「黒人は新しいものを求め古いものを置いてゆくが、それは失われたものなんだ」と語り、「Sittin' On The Top Of The World」を歌い、「振り返ることが前に進むこと」とコメントするが、ちょっとこじつけっぽい感じもして、日本人には理解できない感じする。最後のクレジットの部分で、小さな画像で写る「Jug Band Music」は、渋谷のコンサートのフィナーレの1曲で、これだけ完奏になっている。

マリアはインタビューのみでの参加であるが、イーヴン・ダズン・ジャズ・バンドの映像が観れるため、ファンにははずせない作品。ジャグバンド音楽が好きな人とっては十分面白いと思うが、そうじゃない人はどうかな?日本人じゃないと分からない楽屋落ちのシーンがある一方で、アメリカ人的な一人よがりっぽい思い入れもあり、そのギャップも面白い?

[2012年10月作成]

[2022年4月追記]
イーヴン・ダズン・ジヤグ・バンドが出演した「Hotenanny」1963年の映像を観ることができました!「映像・音源」の部「Hootenanny」を参照ください。


 
Maricia Ball's Great Big Birthday Bash 2009  映像
 
Maria Muldaur : Vocal (1,2,3,5), Back Vocal
Marcia Ball : Vocal (1,4), Back Vocal, Keyboards
Angela Strehli : Vocal (1), Back Vocal
Tracy Nelson : Vocal (1,5), Back Vocal
Lou Ann Burton : Back Vocal (4)
Lavelle White : Vocal (5)
Sarah Brown : Back Vocal (5), Bass (4)
Unknown : Band 

1. Blue Highway[Strehli, Ehrmann]
2. Steady Love [Greg Brown]
3. Yes We Can [Allen Toussaint]
4. Sweet Inspiration [Spooner Oldham, Dann Pen] (部分)
5. Down By The Riverside [Traditional] (部分)

収録: Febuary 14, 2009 at Anton's, Austin, Texas


マルシア・ボールの60才の誕生日を祝うイベントとして、本拠地のテキサス・オースティンのライブハウス「アントンズ」で3日間にわたるベネフィット・コンサートが開催され、収益金はHealth Alliance for Austin Musicians (保険に入っていない低所得の音楽家達への健康サポートのための団体)と Sweet Home New Orleans(ニューオリンズの音楽家やマルディグラのパフォーマーへの支援団体)に寄付された。その模様のオーディエンス・ショットを観ることができた。

2月14日のヴァレンタインデーのステージには、マルシアの友人のシンガー達が大勢ゲスト出演し、大変賑やかなステージになったようだ。アンジェラ・ストレリの曲「Blue Highway」(2005年のオリジナル録音はE124参照)で、マリアはコーラスの他にセカンド・ヴァースのリードを担当(ファーストはアンジェラ、サード・ヴァースはマルシアが担当)している。2.「Steady Love」は、2012年発売のアルバムのタイトルソングで、当時は未発表だったレパートリー。ここではトレイシー・ネルソンが加わり、3人のバックコーラスを従えてマリアが歌う。 3.「Yes We Can」は、バックで歌う 3人との掛け合いがスリリングで、ハウスバンドの演奏も切れ味鋭い好演。

ダイアナ・ロスとシュープリームスがザ・テンプテイションズとの共演で歌った4.「Sweet Inspiration」のカバーでは、ルウ・アン・バートンが加わって4人のコーラスでマルシアが歌う(画像では向かって左から、トレイシー、アンジェラ、マリア、アン、ベースを弾くサラ、ピアノを引くマルシア)。ルウ・アン・バートン(1954- )はテキサス州生まれで、スティーブ・レイ・ヴォーンのグループで歌っていた人で、「アントンズ」を本拠地とするマルシア、アンジェラとの共演盤「Dream Come True」1990 を出している。 ベースを弾いている女性はサラ・ブラウンで、「アントンズ」のハウスバンドを長くつとめ、現地で人気の高いベーシスト、シンガーだ。マリアは歌詞カードを見ながら歌っている。この映像は音質が悪く、曲の途中で切れてしまうのが残念。シスター・ロゼッタ・シャープで名高いスピリチュアル 5.「Down By The Riverside」を歌うラヴェル・ホワイト(1929-  向かって左端の黒人シンガー)は若い頃シングル盤を出したが売れず、長い下積みの後に初めてアルバムを出したのが65才という遅咲きの人だ。映像は途中から始まるが、ラヴェル、トレーシー、マリアの順番で歌い継がれてゆく。サラ・ブラウンはコーラスに加わっている。

他のシンガーが歌い、ギタリストが演奏する映像(マリア不参加)も多くあり、当日の華やかな雰囲気を拝むことができる。