Billboard Live Tokyo With Special Guest Dan Hicks 2010  映像
Maria Muldaur : Vocal
Dan Hicks : Harmony Vocal (2) , Acoustic Guitar (2)
Danny Caron : Electric Guitar
John R. Burr : Piano
Ruth Davies : Bass
Bowen Brown : Drums

1. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
2. Walkin' One And Only [Dan Hicks]  

Jun 18 or 19, 2010, Billboard Live Tokyo, Tokyo, Japan
 

マリアのライブにダン・ヒックスがスペシャル・ゲストとして登場したもの。当時ビルボードが行ったマリアのインタビューによると、ファースト・アルバムで「Walkin' One And Only」を取り上げて以来、何度も一緒にレコーディングしたり、ライブへのゲスト出演はあったが、このような公式ライブでの共演は初めてとのこと。コンサートは、2010年6月19,20日港区六本木の東京ミッドタウンにあるビルボードライブ東京、21日は大阪梅田にあるビルボードライブ大阪で、1日2セット入れ替えで計6回行われた。マリアが4曲、二人で1曲、ダンが4曲、最後に二人で4曲という構成(19日セカンドのセットリストより)だったらしく、「ゲスト」というタイトルであるが、実質ジョイント・コンサートの内容になっている。その中から東京公演のオーディエンス・ショット 2曲を見ることができた。

同所は3層からなるライブ・レストランで、映像は2階席から撮られたものらしく、上から見下ろす撮影角度になっている。バックバンドはマリアがジャズをやるときの常連ミュージシャン達で、ドラムスのボーウェン・ブラウンは、マリアの「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」2009 M30やダン・ヒックスの Christmas Jug Bandに参加していた人。お馴染み 1.「Midnight At The Oasis」でのダニー・キャロンの間奏ギターソロは、エイモス・ギャレットの名演に敬意を表してほぼ同じ内容のプレイ。それでもエンディングでちょっとだけ、しっかり彼自身のソロを入れているところは流石だ。

そしてハイライトは、二人によるアンコールの 2.「Walkin' One And Only」。マリアのリードにダンがギターを弾きながらハーモニーを付けてゆく。間奏ソロはダニー(ギター)、ジョン・バー(ピアノ)、ルース・デイヴィース (ベース)の順で、名手揃いのプレイは最高!

ダンが2016年に亡くなった今、二人による他の共演映像(資料によると「Sheik Of Araby」、「Hummin' To Myself」、「The Diplomat」、「Life's Too Short」)も観てみたいなあ〜。

[2023年12月作成]


East Coast Tour 2010  音源 




Maria Muldaur : Vocal (Except 1), Tambourine
[Red Hot Bluesiana Band]
Chris Atkins : Electric Guitar, Back Vocal
Chris Burns : Keyboards, Back Vocal
David Tucker : Drums, Lead Vocal (1), Back Vocal

[September 27, 2010 Kirk Avenue Music Hall, Roanoke, VA]
1. She Caught The Katy [Taj Mahal, James Rachell]
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Get Up, Get Ready [David Steen]
4. Make A Better World [Earl King]
5. Yes, We Can Can [Allen Toussaint]
6. Creole Eyes [Rick Vito]
7. Cajun Moon [J.J. Cale]
8. New Orleans [J.J. Cale]
9. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
10. Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down [Eric Bibb, Charlotte Hoglund]
11. Bessie's Advice [Eric Bibb, Maria Muldaur]
12. It Ain't The Meat It's The Motion [Henry Glover, Louis Mann]
13. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
14. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barler]

[September 30, 2010 Iron House Music Hall, Northampton, MA]

Set List : Same As September 27

写真上 : Kirk Avenue Music Hall
写真下 : Iron House Music Hall

注 : 1.はマリア非参加
 

マリアのアメリカ東海岸のツアーのオーディエンス録音。彼女のアナウンスによると、期間は約1ヵ月で、本コンサートはその中間地点とのこと。9月27日はワシントンDCの南西にあるバージニア州ロアノーク、30日はボストンの西にあるマサチューセッツ州ノーザンプトンという町における小規模コンサーの模様をフルセットで捉えたもので、前者はクリア、後者はマイルドという相違はあるが、とても良い音質だ。またノーカットなので、曲間の彼女のトークの上手さを味わうこともできる。

曲目と進行は両者ほぼ同じ。タージ・マハル1968年の 1.「She Caught The Katy」は、バンドのウォームアップで、ドラムスのデイブ・タッカーが歌い、マリアは参加してない。この後司会者の紹介でマリアが登場し、2.「I'm A Woman」のイントロにのせて行う曲の紹介がカッコイイ。ドラムスとキーボードは常連(クリス・バーンズは、鍵盤の右部でピアノを弾き、左部でベースを刻む特技の持ち主)。クリス・アトキンスはニューオリンズで活躍するギタリストで、現在(2023年時点)ジョージ・ポーターJr. のバンドのメンバーとのこと。間奏でのギターソロやオブリガードは味わい深く、かなりの使い手とみた。同時期に行われたふたつのコンサートでのギタープレイを聴き比べると、それなりに違っているのが面白い。宗教的な色合いが強い 3.「Get Up, Get Ready」では、オリジナルの「Southland Of The Heart」 1998 M17ではチェンバース・ブラザーズが歌っていたバックコーラスをバンドの連中が演っているが、これがなかなか上手い。

4.「Make A Better World」、5.「Yes, We Can Can」の演奏にあたり、マリアは、いままでラブ・ソング、ブルースを歌ってきたので、嫌いだったんだけどプロテストソングを歌おうと思い、前向きな内容の曲を選んだと語っている。5.「Yes, We Can Can」では、後に大統領選挙のキャンペーン・ソング(オバマ陣営)になったエピソードを語り、この歌は(オバマの) 「He Can」でなく、我々の「We Can」なんだよねと言って、共和党支持者や政権誕生後に期待はずれで失望した人に配慮している。 マリアの語りは、年季が入るにつれて上達したようで、2つのコンサートを比較すると、同じプロットに基づき、ある程度自由に話しているようだ。

6.「Creole Eyes」、7.「Cajun Moon」、8.「New Orleans」は、ニューオリンズ特集。ドクター・ジョンとの親交、音楽そして街への愛着を熱っぽく語っている。「ブルース」と「ルイジアナ(ニューオリンズがある州)」を融合させた名前を冠するバンドにとって、得意な分野を独自のアレンジで演奏。ピアノ、ドラムスは勿論、ギターも素晴らしい。

9.〜11.はスピリチュアルな色合いがある曲。ギンギンのブルース 9.「Please Send Me Someone To Love」は、マリアが長年ステージで歌い続けてきた曲で、十分な自信がついたのか2011年に正式録音が発表された。中盤で披露される元の歌詞にないフレーズを淀みなく語る部分は圧倒的で、じっくりと歌い込んで積み上げた成果がはっきり出ていて素晴らしい。ゴスペル風の10、ダークな雰囲気のジャズ・ブルース 11.も聴きごたえ満点。最後の3曲は、初期の人気曲オンパレード。13.「Midnight At The Oasis」の間奏ギタープレイは、エイモス・ギャレットの傑作ソロをコピーしたものだった。昔は独自版に果敢に挑戦した人もいたが、誰も叶わず、その後は皆エイモスに敬意を表することにしたみたいだね。

なお各曲の初出は以下の通り。
Jug Band Music (Jim Kweskin Jug Band) 1965 E3    2
Maria Muldaur 1973 M1                  13, 14
Waitress In A Donut Shop 1974 M3             12
South Wind 1978 M5                      7
Goodbye (Usual Suspects) 1990 E72             8
Louisiana Love Call 1992 M13                 6
Southland Of The Heart 1998 M17              3
Sisters & Brothers 2004 M23              10, 11
Yes We Can ! 2008 M29                   4, 5
Steady Love 2011 M33                      9

脂が乗ったマリア60歳代後半のステージ。歌とトークを楽しみましょう。

[2023年3月作成]


The 53rd Grammy Award Pre-Telecast Ceremony 2011  映像 

Cyndi Lauper : Vocal
Betty Wright : Vocal
Maria Muldaur : Vocal
Mavis Staples : Vocal
Kenny Wayne Sheperd : Guitar
Buddy Guy : Guitar
Unknown : Back Band

1. Wang Dang Doodle [Willie Dixon]

収録: 2011年2月11日 Convention Center, Los Angeles

第53回グラミー賞授与式は、2011年2月13日ロスアンゼルスのステイプルズ・センターで行われたが、その前夜祭(Pre-Telecast Ceremony)が、11日コンヴェンションセンターで開催され、そこにブルースおよびルーツ音楽の部門にノミネートされたミュージシャン達によるパフォーマンスが披露され、その模様はグラミー実行委員会のサイトでストリーミング配信された。

1.「Wang Dang Doodle」はシカコブルースのウィリー・ディクソンが書いた曲で、ハウリン・ウルフ1961年の録音がオリジナル。その後ココ・テイラー、グレイトフル・デッド等多くのアーティストがカバーした。個人的にはポインター・シスターズ1973年のデビューアルバムのバージョンがいいかな?最初に歌うのはご存じシンディ・ローパー。2010年のアルバム「Memphis Blues」がBest Traditional Albumにノミネートされたもので、歌が上手い人なので何をやっても様になるが、この人のルーツはここだったんだな〜と納得できる歌いっぷりだ。次に登場するベティ・ライト(1953- 以下括弧内はノミネートのジャンルです。「Best Traditional R&B Vocal Performance」)は、マリアが1979年の「Open Your Eyes」でカバーした1971年、全米6位のヒット「Clean Up Woman」で名高い人。続いてマリア(「Best Traditional Folk Album」→ 「Maria Muldaur & Her Garden Of Joy」M30 がノミネートされたもの) が出てきて太い声で歌う。間奏のギターソロはケニー・ウェイン・シェパード(1977- 「Best Comtemporary Blues Album」)。ルイジアナ州出身で、スティーブ・レイヴォーンに憧れてプロになり1995年にCDデビューした若手ギタリストだ。次にバディ・ガイ(1936- )がソロをとる。昔HNKのテレビ放送で観た1969年の映像「Super Show」で、エリック・クラプトン、ジャック・ブルース等と共演した様がとてもカッコ良かった強烈な記憶があるので、本当に年老いたなあという実感。それでもディストーションが効いた元気なプレイを見せてくれる。最後に登場するのがメイヴィス・ステイプル(1939- 「Best Americana Album」)で、貫禄たっぷりの歌唱。バンドがブレイクして、4人の声だけのアカペラになっての掛け合いが見事で、歌唱力のバランスが取れているからこそできる技だ。

受賞したのはメイヴィス一人で、マリアは惜しくも受賞を逃す結果となった。


The Flip Side Maria Muldaur In Conversation With Ben Fong-Torres 2012  映像

Maria Muldaur : Vocal, Tamburine (2)
Chris Burns : Piano

Ben Fong-Torres : Host

1. Empty Bed Blues [J. C. Johnson]
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]
3. Midnight At The Oasis [David Nichtern] 
4. Me And My Chauffeur Blues [Ernest Lawler]
5. Please Send Someone To Love [Percy Mayfield]

収録: 2012年3月29日 Jewish Community Center Of San Francisco, San Francisco
 

JCCSF (Jewish Community Center Of San Francisco, San Francisco)は、ユダヤのアイデンティティー維持を目的とする親睦団体で1877年設立、社会・芸術・スポーツなど幅広い分野で文化振興活動を行っている。「The Flip Side (裏面)」は、JCCSFの企画部門「Arts & Idea」の主催による、アーティストが自己のキャリアを総括する公開インタビューで、司会を務めるベン・フォン・トーレス(1945- )は、西海岸で活躍するロック・ジャーナリストだ。彼はローリング・ストーン誌、サンフランシスコ・クロニクル誌の連載で名声を確立し、ドアーズ、グレイトフル・デッド、イーグルス、リトルフィート等の評伝を執筆している。

1時間半にわたるイベントのオープニングは、プロデューサーによるプレゼンテーションからで、次に登場したトーレス氏は、「マリア、マリア」とアカペラで歌う(ウエストサイド・ストーリーの「Tonight」のイントロのパロディー)。そしてマリアが登場、写真・映像・音楽で彼女のキャリアが紹介される。そこでは「Richland Woman Blues」「I Ain't Gonna Marry」(ジム・クゥエスキン・ジャグバンド、後者は1967 or 1968の映像)、「I'm A Woman」、「Lord Protect My Child」(E127 2005より)、「Midnight At The Oasis」が流れる。

以下は会話の内容です。ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジの生まれでイタリア系。クラシック音楽を好む母親に対して、叔母さんが聴かせてくれたカントリー・ウェスタンに親しむ。中学・高校生の頃ドゥワップ・コーラス・グループを結成したが、ロックンロールが商業化されポップになってゆくにつれ、ジャズ、ブルース、フォークに傾倒してゆく。当時ベイビー・シッターをしていた家の膨大なレコード・コレクションからベッシー・スミスを発見、衝撃を受け、これが私が歌いたい曲と思う。音楽仲間の社交場となっていたアラン・ブロック(ロリー・ブロックのお父さん)が経営するサンダルショップで、ニュー・ロストシティ・ランブラーズ等のオールドタイミーに親しみ、フィドルを弾くようになる。ここでマリアは、クリス・バーンズのピアノ伴奏でベッシーの1.「Empty Bed Blues」を歌う。クリスはマリアのハウスバンドの常連奏者なので、2人の息はぴったりだ。

17才の頃観たドック・ワトソンのコンサートで、彼の伯父さん(ゲイザー・カールトン)が弾くフィドルに惚れ込み、アラン・ロマックス(伝統音楽の研究・発掘で有名な人)のパーティーで彼らと仲良くなり、ノースキャロライナのワトソン家に滞在し教えてもらう。当時ワシントン・スクウェアで、多くグループが様々な音楽を演奏していて、デビッド・グリスマンとMaria & Washington Square Ramblers というブルーグラスのグループを組んだこともある。ジョン・セバスチャンとデビッド・グリスマンからジャグバンドへの参加を誘われる。ブルース歌手で、自己のレーベルを持っていたヴィクトリア・スパイヴィーにスカウトされて、レコードを製作することになったが、セックスアピールが要ると言われたという。その頃はウーマンリブの運動が起きる前だったので、何とも思わず応諾。ヴィクトリアからは、ブルースやステージでの心構えを教えてもらった。イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドは、大人数のグループだったので、2回のカーネギー・ホールでのコンサートと、フーテナニーというテレビ番組への出演(注:映像・音源の部「Hootenanny」参照)だけで解散した。大学の授業に出なくなり、学長とのインタビューをすっぽかしたことで、プロの音楽家として生きてゆくことを決める。ここでタンバリンを叩きながら 2.「I'm A Woman」を歌う。

ジョンに誘われて、ビターエンドで行われたジム・クウェスキン・ジャグバンドのコンサートを観に行き、ジェフ・マルダーと知り合い恋に落ち、ボストンのケンブリッジに移る。数枚のレコードを製作したが、残念なことにジムがバンドを解散。ワーナー・ブラザースのモー・オースチンの援助でウッドストックに移り、ジェフ・アンド・マリアでアルバムを発表。しかしジェフは、もっとハードなブルースを演るため、ポール・バターフィールドのグループ(ベターデイズ)に加入。離婚もして途方にくれたが、モー・オースチンの薦めでソロアルバムを製作すべく、娘とロスアンゼルスに移住する。ライ・クーダー、ドクター・ジョン、デビッド・リンドレー、ジム・ケルトナー、デビッド・グリスマン、リチャード・グリーンといった好きなミュージシャンで、ドリー・パートン、ルウ・ベイカー、ジミー・ロジャース等による好きな曲を録音したが、プロデューサーがあともうひとつ、ミディアム・テンポの曲が欲しいと言い出して、若いミュージシャンで当時私の面倒を見てくれていたデビッド・ニクターンが提供し、最後に録音した曲と言って 3.「Midnight At The Oasis」を歌う。彼女がピアノのみの伴奏でこの歌うのを聴くのは初めてだ。進行が遅れ気味だったらしく、間奏のピアノソロなしの演奏になったのが残念。

デビッドは、ブロンド娘とウォターベッドがあるペントハウスで週末を過ごした経験から、この曲を書いたという。この曲のヒットは、彼女のキャリアに大いに貢献したが、デビットも大儲けした。評判が良かった「Don't You Feel My Leg」を次のシングルに出すことを検討したが、セクシーなイメージが定着するのを恐れて止めた。当時の業界は、マドンナのように売り出すという想定がなかったからだ。マリアはそのままサンフランシスコ郊外のミル・ヴァレーに居を構え、現在に至っている。当時ベーシストのジョン・カーンと恋愛関係にあり、その縁でジェリー・ガルシアの音楽仲間になるが、彼がルーツ音楽に対する素養が深かったことも理由だった。ここでメンフィス・ミニーの話になり、ベッシーほど知名度はないが、ビッチィーなギターを弾き、多くの曲を書いた人と紹介して4.「Me And My Chauffeur Blues」を歌う。 間奏でのブギウギ・ピアノが楽しい。当時製作中のメンフィス・ミニーのトリビュートアルバム「First Came Memphis Minnie」M34の話と、独立レーベルで低予算のアルバム製作が可能なのは、仲間が助けてくれるから。次に歌う 5.「Please Send Someone To Love」は、ピアノのイントロをバックにマリアが行う曲の紹介がカッコイイ。マリアはこの曲を長年歌っているが、その歌唱が今も進化し続けていることを示す熱演だ。

ここでオーディエンスによる質問コーナーとなり、1960年代のニューポート・フェスティバルは、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ等と一緒にコンサート、パーティーに参加した楽しい思い出。1986年の「Transblucency」1986が廃盤のままなのは、2人の医者が設立したという独立レーベル経営の難しさがあるという。ヴォイス・レッスンについては、1980年代にリンダ・ロンシュタットの後を受けて、ブロードウェイ・ミュージカル「Pirates Of Penzance」に出演することになった時、彼女が歌えない音域の曲があったため、初めてレッスンを受けたところ、出るようになったので以後続けているとのこと。クラシック音楽しか聴かせなかった母親はその後許してくれたかという質問に対し、プロとしてデビューした後は、自分がマリアの母親であることを誇りに思ってくれたと答え、ニューヨークにおけるベティ・カーター・ビッグバンドとのコンサートで、母が観客席に居たので「Don't You Feel My Leg」をはずす事にしたが、最後に彼女がステージ前に駆け寄って「私が大好きな Don't You Feel My Legを演って!」とリクエストを言ったエピソードを披露し、オーディエンスを笑わせている。その他、ボブ・ディランが「Heart Of Mine」2006 M26を聴いてほめてくれたこと、同じ音楽ルーツを持つスージー・トンプソンとの親交などを語っている。

リラックスした雰囲気の中で、マリアの話術とパフォーマンスが楽しめる逸品。


Bill Wyman's Rhythm Kings UK Tour 2013  映像 

Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal (2,3,4)
Beverley Skeete : Vocal (4)
Albert Lee : Electric Guitar
Terry Taylor : Electric Guitar, Back Vocal
Geraint Watkins : Keyboards, Vocal (2)
Bill Wyman : Bass, Vocal (3)
Gragam Broad : Drums
Nick Payn : Sax
Frank Mead : Sax

1. Midnight At The Oasis
2. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
3. Time Is On My Side [Norman Meade]
4. You Can Never Tell [Chuck Berry] 
5. Good Rockin' Daddy [Joe Josea, Richard Berry]

収録: 2013年11月20日 The Alhambra, Dunfermline, Scotland (1,2,3,4)
     2013年11月23日 G-Live, Guildford, England (5)

マリアは、2013年10月末から11月にかけて、ビル・ワイマンズ・リズム・キングスの2013年 UKツアーにゲストとして参加した。意外な取り合わせのように見えるが、マリアはビルのサウンドトラック・アルバム「Green Ice」1981E52 にゲスト参加したことがあり、30年ぶりの共演ということになる。このバンドは、イギリスのベテラン・セッション・ミュージシャンが勢揃いした布陣なので、演奏面は申し分ないものだ。バンドマスターのビルのプレイは、お馴染み派手さが全くない独特のスタイルで黙々とビートを刻み、他のメンバーが代わる代わるスポットライトを浴びて、素晴らしいプレイを披露するパフォーマンスだ。

マリアが歌う1.「Midnight At The Oasis」は、名ギタリスト、アルバート・リーのギターソロがハイライト。カントリー、ロカビリースタイルではイギリス一番と言える人で、ヘッズ・ハンズ・アンド・フィートというグループや、エリック・クラプトン、バート・ヤンシュなどのバックで定評が高い。ソロの最初の部分は閃きに満ちたフレーズが飛び出すが、転調するところではイメージが湧き出なかったようで、無難なフレーズに逃げてしまう。しかし、最後の部分で取り直して、カッコ良く決めるあたりは流石だ。この位の人だったら、事前に練習せずコード進行だけでいきなり演っちゃうんだろうな〜。2. 「Richland Woman Blues」のバックもさらっとした感じ、アルバート・リーのギターもあまりリハーサルをせず、軽く弾く感じだ。

ローリング・ストーンズのスタンダード(実際は1963年のジャズ・トロンボーン奏者カイ・ワイディングのオリジナルを、翌年ローリング・ストーンズがカバーしたもの) 3.「Time Is On My Side」は、キーボードのゲライント・ワトキンスが、エッタ・ジェイムス1955年のヒット5.「Good Rockin' Daddy」は、ベヴァリー・スキートがリードボーカルを担当。し、マリアはバックボーカルで参加。コンサート最後の曲と思われる、チャック・ベリー1964年のヒット 4.「You Can Never Tell」は、ビル・ワイマン本人が少し照れながら歌い、会場は大いに盛り上がる。 マリアは他に「Richland Woman Blues」、「Don't You Feel My Leg」などを歌ったそうだ。

面白い顔ぶれのバンドとの共演。


 
National Jug Band Jubilee, Louisville 2014  映像  

Maria Muldaur : Vocal, Kazoo (1)
Kit Stovepipe : Guitar
Devin Champlin: Banjolin (1,4) , Fiddle (3), Guitar (2)
Joe Davey : Wash-tab Bass
Lucas Hicks : Percussion, Washboard, Spoons
Sammy "Shakes" Baker : Jug (1)

1. Garden Of Joy [Clifford Hayes]
2. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
3. He Calls That Religion [Traditional]
4. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J. M.Williams, D. Barker]

収録: 2014年9月20日 Brown-Forman Amphitheater, Waterfront Park, Louisville, KY

 
ルイスヴィルはケンターッキー州最大の都市で、インディアナ州境の近くにある。そこで土曜日の正午から夜11時まで、9組のジャグバンドが登場するフリーコンサート「ナショナル・ジャグバンド・ジュビリー」が開催され、第10回目にあたる今回はヘッドライナーとしてマリアが出演した。バックは、「Maria Muldaur & The Garden Of Joy」2009 M30で共演したキット・ストーブパイプのバンド(Crow Quill Night Owls)仲間だ。

1.「Garden Of Joy」でジャグを吹いているゲストプレイヤーは、当日出演したバンド The Jake Leg Stompers のサミーベイカーで、マリアによると「彼の演奏を初めて観たが、とても良かったので借りた」とのこと。キットはお馴染みのシルクハットにヴィンテージっぽい洋服を着て、もじゃもじゃ髭を生やし、フィンガーピックを付けてメタルボディーのリゾネイター・ギターを弾いている。こう述べるといかにも古風なんだけど、鼻にピアスをしているためエキセントリックな容貌になっている。マルチプレイヤーのデヴィン・チャンプリンは、バンジョリン(バンジョーのボディーに4本の弦をマンドリンチューニングで張ったもの)を手にしている。ここでマリアが吹くカズーはなかなかのもので、間奏のソロもトランペット奏者に引けを取らない味が出ている。デヴィンがギターに持ち替えた 2.「Richland Woman Blues」は、2台のギターの絡みが聴きもの。キットのギタープレイは、変化に富んでいて、随所にアドリブっぽいフレーズを入れるが、リズムが全く乱れないのが凄い。オーディエンスは、十分飲んで出来上がっているようで、3.「He Calls That Religion」の曲紹介でギャアギャア喚いている。ここでも、スウィングのカッティングを入れながら、フィンガーピッキングで力強いフレーズを繰り出すキットのプレイが光っている。デヴィンは、楽器のボディーを顎に付けないスタイルでフィドルを弾き、キット、デヴィンとパーカッションのルーカス・ヒックスの3人はコーラスも担当している。アンコールとして演奏された4.「Don't You Feel My Leg」は、ジャグバンド・スタイルによる珍しいアレンジで、曲自体は意外にさっぱりした演奏であるが、エンディングでジェームズ・ブラウンのパロディーを披露し、喜んだオーディエンスが大騒ぎしている。

上手なバンドとの共演により、マリアのジャグ・バンド・ミュージックの真骨頂が味わえる映像だ。


  
Jim Kweskin Jug Band, Sellersville 2015  音源   



 
Jim Kweskin : Vocal, Guitar
Maria Muldaur : Vocal, Back Vocal, Kazoo, Tamburine
Geoff Muldaur : Vocal, Guitar, Washboard, Mandolin, Kalimba
Bennett Sullivan : Banjo
Jason Anick : Fiddle
Martin Keith : Bass

[Set 1]
1. Jug Band Music [Memphis Jug Band] Geoff (Maria)
2. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller]  Maria
3. Papa's On The Housetop [Leroy Carr]  Jim
4. Wild About My Loving [Traditional] Geoff
5. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]  Maria
6. Sweet To Mama [Traditional] Geoff
7. Would You Like To Play The Guitar? [Jimmy Van Heusen, Johnny Burke, Pat Donohue] Jim
8. Garden Of Joy [Clifford Hayes]  Maria
9. Rag Mama [Blind Boy Fuller] Jim (Geoff, Maria)

[Set 2]
10. Blues In The Bottle [Petr Stampfel, Steve Weber]  Jim
11. Fishing Blues [J. Thomas, J.M. Williams]  Geoff (Jim, Maria)
12. I Ain't Gonna Marry [Sara Martin]  Maria
13. The Sheik Of Araby [Smith, Snyder, Wheeler] Jim (Maria)
14. Guabi Guabi [Traditional] Jim (Geoff)
15. If You're Viper [R. Howard, H. Malcolm, H. Moren]  Jim
16. Minglewood Blues [Noah Lewis] Geoff
17. He Calls That Religion [Traditional]  Maria (Jim, Geoff)
18. Sweet Sue [Will J. Harris, Victor Young] Geoff
19. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me [Swanstone, Carvon, Morgan] Jim

[Encore]
20. Stealin' [Memphis Jug Band] Jim (Geoff, Mara)

録音: Sellersville Theater, Sellersville, PA  2015年7月19日

ジム・クウェスキン・ジャグバンドのリユニオン音源はいくつかあるが、これはその決定版と言えるものだ。オリジナルメンバーのうち、フリッツ・リッチモンドは2005年に亡くなり、ビル・キースも健康を害していて(彼は本録音のしばらく後、10月に亡くなっている)、かわりにブルーグラスやジャズで活躍する若手の精鋭ミュージシャンを招いている。ベースのマーチン・キースはビル・キースの息子で、ギター、ベース製作者としても有名な人。会場のセラーズヴィルは、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアから電車で45分のところにある小さな町。

演奏曲の初出は以下のとおり。
1. Jug Band Music : Memphis Jug Band 1934 (Jug Band Music 1965)
2. I'm A Woman : Christine Kittrell, Peggy Lee 1962  (Jug Band Music 1965)
3. Papa's On The Housetop : Leroy Carr 1930 (See Reverse Side For Title 1966)
4. Wild About My Loving : Jim Jackson 1928 (Jim Kweskin Jug Band 1963)
5. Richland Woman Blues : Mississippi John Hurt 1963 (See Reverse Side For Title 1966)
6. Sweet To Mama : Sate Street Boys (Big Bill Broonzy) 1935 (Penny's Firm 2016)
7. Would You Like To Play The Guitar? : Bing Crosby 1944, Pat Donohue 2011
8. Garden Of Joy : Dixieland Jug Blowers 1927 (Garden Of Joy 1967)
9. Rag Mama : Blind Boy Fuller 1936 (Jug Band Music 1965)
10. Blues In The Bottle : Prince Albert Hunt's Texas Ramblers 1928 (See Reverse Side For Title 1966)
11. Fishing Blues : Henry Thomas 1928 (See Reverse Side For Title 1966)
12. I Ain't Gonna Marry : Viola McCoy 1924 (Garden Of Joy 1967)
13. The Sheik Of Araby : Joseph Knecht's Waldolf-Astoria Orchestra 1921 (Garden Of Joy 1967)
14. Guabi Guabi : George Sibanda 1950s (Relax Your Mind 1968)
15. If You're Viper : Rosetta Howard And The Harlem Hamfats 1937 (Garden Of Joy 1967)
16. Minglewood Blues : Cannon's Jug Stompers 1928 (Garden Of Joy 1967)
17. He Calls That Religion : Mississippi Sheiks 1932 (Maria Muldaur & The Garden Of Jor 2009)
18. Sweet Sue: Charley Straight And His Orchestra Vocal By Frank Sylvano (Jim Kweskin Jug Band 1963)
19. Blues My Naughty Sweetie Gives To Me : George Beaver 1919  (Jug Band Music 1965)
20. Stealin' : Memphis Jug Band 1929 (Jim Kweskin's America 1971)

音源は 1.「Jug Band Music」のフェイド・インから始まる。50年前の録音に比べてマリアのバックボーカルがダミ声になっていて歳月の流れを感じる。カズーを吹いているのはマリアだろう。次にタンバリンの音がして、マリアが 2.「I'm A Woman」を歌う。ジェイソン・アニックのバイオリンソロがいい感じだ。彼女はその後も多くの曲で、タンバリンを叩いている。ジェフが歌う 4.「Wild About My Loving」と1928年のオリジナルを聴き比べると、昔と今のタイム感覚の違いががよくわかる。お馴染みの 5.「Richland Woman」と続き、7.「Would You Like To Play The Guitar?」は、フィンガースタイル・ギタリストとして有名なパット・ドナヒューが、ビング・クロスビー1944年のヒット曲「Swinging On A Star」のメロディーに歌詞を付けたパロディーソングで、しがないギター弾きにとっての仕事、エージェント、奥さんのことをシニカルに歌う。ジムが歌い終わった後で、マリアが「本当にその通りだわ」と実感を込めて呟く様が面白い。8.「Garden Of Joy」は、当初録音の約40年後の2009年にマリアが再録音(「Maria Muldaur And The Garden Of Joy」 M30) している。9.「Rag Mama」は、間奏におけるバンジョー、バイオリンの力量がしっかり伝わってくる好演。

12.「I Ain't Gonna Marry」はアルバム録音時1967年と50年後のマリアの声が使用前・使用後のような違い。13.「The Sheik Of Araby」のようなジャズ曲になると、バイオリンとバンジョーが俄然張り切っている。ジムのリードボーカルにマリアが別メロディーのサイドボーカルを付ける様がきっちり再現されている。14. 「Guabi Guabi」は、本音源の中で異色の曲。ヒュー・トレイシーという音楽学者がアフリカ・ジンバブエで行ったフィールド・レコーディングに入っていたもので、アメリカののフォーク・ブルースとアフリカ民族音楽が見事にミックスされているが、作者のジョージ・シバンダという人については謎が多い。ジムは1950年代に発売されたレコードを聴いてレパートリーに加えたそうだ。ここではジェフはカリンバをつま弾きながらハーモニー・ボーカルをつけている。ジム・クエスキン・ジャグ・バンドでのお馴染みの曲が続いたあと、マリアが歌う 17.「He Calls That Religion」は、ジムとジェフのバックボーカルにオーディエンスも加わり、とても楽しい雰囲気。ここでのメンバー紹介で、ジェフがマーチン・キースの事を「ビル・キースの息子です」と言ってオーディエンスの喝采を浴びている。18.「Sweet Sue」のイントロでジェフは、パーティーなどで使われるチップマンク声変換用ヘリウムガス風船を吸いながら歌い、オーディエンスは大笑い。マリアが「日本ではジャグ・バンドの人気がとても高いのよ!」と話している。ここでもバイオリンとバンジョーの演奏が素晴らしい。マリアはカズーと一言のみの色っぽい言葉で貢献。アンコールはジャグバンドの名曲 20.「Stealin'」をオーディエンスと一緒に歌ってコンサートは終了する。

素晴らしいバイオリン、バンジョー奏者を得て、オーディエンスと一体になって、皆楽しそうに演奏している。本当に雰囲気の良いライブだ。オーディエンス録音の音質も文句なし。最初の曲がフェイドインになっていることだけが唯一残念だね。

[2023年4月作成]


Tribute To Linda Ronstadt 2016  映像  
 

Maria Muldaur : Vocal (1,2), Back Vocal (3), Tambourine (3)
Sara Watkins : Harmony Vocal (1), Vocal (2,3), Violin (1)
Aoife O'Donovan : Vocal (2), Back Vocal (3)
Brandy Clark : Vocal (2), Back Vocal (3)
Grace Potter : Vocal (2), Back Vocal (3), Electric Guitar (2, 3)
Gaby Moreno : Vocal (2), Back Vocal (3)
Sarah Jarosz : Vocal (3)
Lucius (Jess Wolfe & Holly Laessig) : Vocal (3)
Jackson Browne : Vocal (3)

Greg Leitz : Pedal Steel Guitar (2), Electric Guitar (3)
Sean Watkins : Vocal (3), Acoustic Guitar (2, 3)
Taylor Goldsmith : Electric Guitar (3)
Benmont Tench : Keyboards
Sebastian Steinberg :Bass (2,3)
Don Heffington : Drums (2,3)
Unknown : Violin (2,3)

1. Heart Like A Wheel [Anna McGarrigle]
2. Blue Bayou [Roy Orbison, Joe Melson]
3. Heatwave [Holland, Dozier, Holland]

  
リンダ・ロンシュタットは1970〜1990年代の米国ウエストコーストの雰囲気を体現したシンガーだった。70代年の自由で開放的なヒッピー文化の象徴となり、80〜90年代にかけてジャズやメキシコ音楽に挑戦して、音楽の深化・多様化を果たした。2000年代以降の活動は地味になり、2011年に引退が報道されたが、後にその原因がパーキンソン病のために歌えなくなったことが明らかになった。この病気はカシアス・クレイ、マイケル J. フォックス、キャサリン・ヘップバーンや岡本太郎等の有名人もかかった神経変性疾患で、手足や顎の震え、進行すると歩行が困難になるという。そういえば1980年代に「黄昏(On A Golden Pond)」という映画を観たとき、主演のキャサリン・ヘップバーンのクローズアップ・シーンで、彼女の首が微妙に震えていた事を思い出した(同時にボートから池に落ちたヘンリー・フォンダを救うために彼女が池に飛び込むシーンを、吹き替えなしで演じた場面も思い出し、改めてスゴイ人だと思いました)。その後、彼女のトリビュート・コンサートがいくつか開催されたが、本件は若手カントリー音楽家による企画で、コンサートでの振る舞いからみてサラ・ワトキンスと彼女のグループ 「ザ・ワトキンス・ファミリー・アワー」が中心にいることは明らか。マリアが若手中心の参加者の中で、J.D. サウザー、ジャクソン・ブラウン、ドン・ヘンリー等と並び、リンダと縁が深かった大御所の一人として登場している。

1.「Heart Like A Wheel」を歌う前のマリアの語りは以下の通り。「私はリンダと50年以上の知り合いです。当初の二人は若いヒッピーの可愛い子ちゃん歌手で、その後随分一緒にやってきたものです。私がソロアルバムを録音するためにカリフォルニアにやってきた時、私は彼女を招いて一緒に歌ってもらいました。そのひとつがマッギャリグル姉妹が作曲した「Work Song」だったのです。彼女にハーモニーを歌ってもらった時点で、彼女は私と同様マッギャリグル姉妹の大ファンになっていました。数年後彼女が彼らの作品「Heart Like A Wheel」を録音するにあたり、私は招かれハーモニーを歌いました。そして(今晩)、私は素晴らしい娘サラ・ワトキンスと一緒に歌うことを喜ばしく思います」 1974年のリンダの同名タイトルのアルバム E32で心をえぐるような名曲のハーモニーを担当したマリアが、およそ30年後に病魔と闘うリンダのためにこの曲を歌う様は、皆にとって万感の思いがあったに違いない。黒縁メガネがキュートなサラ・ワトキンスは、1981年カリフォルニア州生まれ。兄のシーン、マンドリンの名手クリス・シーリーと組んだニッケルクリークという先進的ブルーグラスバンドで有名になり、その後ソロとなって兄と腕利きセッション・ミュージシャンからなるバンドをバックに活躍している。ここで彼女は、トム・ペティ・アンド・ハートブレイカーズのキーボード奏者ベンモント・テンチのピアノをバックに恋の痛みを切々と歌いあげるマリアを、素晴らしいハーモニー・ボーカルとバイオリンでサポートしている。

ロイ・オービソン1963年全米29位の 2.「Blue Bayou」(リンダのカバーは1977年で全米3位)はフィナーレで、出演者が代わり替わり歌い継いでゆく。まずサラとシーンのワトキンス兄妹、そしてイーファ・オドノヴァン(1982年マサチューセッツ州生まれ、クルックド・スティルというブルーグラス・バンドで脚光を浴び、ソロ転向後は様々なセッションに参加している人)、ブランディ・クラーク(1975年ワシントン州生まれ、作曲家としても多くの歌手に曲を提供している人)、我らがマリア、フライングVを弾きながら歌うグレイス・ポッター(1983年ヴァーモント州生まれのシンガー・アンド・ソングライター、マルチ奏者、女優)、ギャビー・モレノ(1981年グアテマラ生まれで、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語に堪能。本コンサートではスペイン語の歌を担当)の順に歌われ、他の出演者がコーラスでバックアップする。名手グレッグ・サイツによるペダルスティールのソロの後、近くにいたマリアが振り返って小さく拍手を贈ると、彼はニコリと応える。そんなリラックスした雰囲気が何とも良い。曲が終わったところで、ジャクソン・ブラウン、サラ・ジャローズ、ルーシャス(ジェス・ウルフ・アンド・ホリー・レッシグ)が登場し、トリの曲としてマーサ & ザ・ヴァンデラス1963年全米4位の 3.「Heatwave」(リンダのカバーは1975年全米5位)が始まる。サラ・ジャローズ(1991年テキサス生まれ、マンドリン、バンジョーの名手で、カントリー音楽界の若手ホープの一人。2018年にサラ・ワトキンス、イーファ・オドノヴァンと「アイム・ウィズ・ハー」というグループを結成してアルバム制作とツアーを行った)、ルーシャス(ロジャー・ウォータースのバックとして著名なボーカルユニットで、アルバム「Nudes」はロ−リングストーン誌の「2018年聴くべき名盤」に選ばれている。本コンサートの中では珍しい新感覚スタイルの人達)、そしてジャクソン・ブラウン(説明不要)がリードを取る。間奏のギターソロは、テイラー・ゴールドスミス(インディー・ロックバンド、ドーズのリーダー)。マリアはタンバリンを叩きながらバックコ−ラスに加わっている。ちなみに本コンサートの収益金は、「マイケル J. フォックス パーキンソン病リサーチ財団」に寄付された。

マリアによる「Heart Like A Wheel」と「Blue Bayou」の歌唱が楽しめる。出演者のパフォーマンスからリンダに対する尊敬と愛情が感じられる、とても雰囲気の良いコンサートだ。当日のセットリストは以下のとおり。

1. Different Drum (Watkins Family Hour)
2. You're No Good (Grace Potter)
3. Rogaciano El Huapanguero (Gaby Moreno)
4. Mad Love (Dawes)
5. Crazy Arms (Brandy Clark & JD Souther)
6. Faithless Love (JD Souther)
7. Lover7's Return (I'm With Her)
8. Poor Poor Pitiful Me (David Lindley)
9. When Will I Be Loved ? (Lucius)
10. Willin' (Jackson Browne & Lucius)
11. Heart Like a Wheel (Maria Muldaur)
12. Adieu False Heart (I'm With Her & Gaby Moreno)
13. Silver Threads and Golden Needles (Grace Potter)
14. Don't Know Much (Aaron Neville)
15. Desperado (Don Henley)
16. Blue Bayou (cast)
17. Heat Wave (cast)


 
Steyn's Song Of The Week 2017  映像
 
Maria Muldaur : Vocal

The Mark Steyn Show Band
Eric Harding : Piano
Jon Gearey : Guitar
Richard Beaudet : Soprano Sax
Mathieu McConnell-Enright : Bass
Claude Lavergne : Drums

1. Aba Daba Honeymoon [Arthur Fields, Walter Donovan]

Mark Steyn : Host

放送: 2017年1月8日 Canada TV Program 「Steyn's Song Of The Week」
 

マーク・ステイン(1959- )は、カナダ生まれのテレビ・ラジオ司会者、作家、歌手、人権活動家だ。彼が司会を務める「Steyn's Song Of The Week」は、は、2011年頃から現在(2023年1月)の間(途中中断あり)に、あらゆるジャンルにわたる約400曲を紹介してきた。2017年1月8日の第287回は、「Ada Daba Honeymoon」が選ばれ、、ゲストシンガーとしてマリアが登場した。

まずマークによる曲の由来の説明から。オリジナルは2014年のアーサー・コリンズとバイロン・ハーランで、ティンパンアレイで作られたコミック・ソング。そして40年後にミュージカル映画「Two Weeks With Love」1950で、デビー・レイノルズとカールトン・カーペンターが歌い大ヒットした(注: デビー・レイノルズはその時は主人公のの妹という端役だったが、この曲のヒットで認められ、1952年の「Singin' In The Rain」でジーン・ケリーの相手役に抜擢されて大当たりする。その後も映画「Tammy And The Bachelor」1957で歌った「Tammy」が大ヒットした)。それにより老人ホームに入っていたアーサー・フィールズに多額の印税が入ったというエピソードを紹介する。そしてこの曲を現代に蘇らせた人として、マリアが紹介される。

マークとの話で、マリアは、「Midnight At The Oasis」のヒットの後、40枚のアルバムを出したと言い、この曲は子供達のためのアルバムを作った際に、子供の頃に聴いた曲を選んだとして、同曲が収められたアルバム「Swingin' In The Rain」1998 M18 のジャケット写真を見せる。ジャケットデザインが 「Singin' In The Rain」のパロディーであることに受けた後、マークが「Midnight At The Oasis」 を1970年代のティンパンアレイ風作品として、砂漠とジャングルの違いこそあれ、「Ada Daba Honeymoon」と相通じていると指摘している点が興味深い。少人数のオーディエンスを入れて、ライブハウス風にセッティングされたスタジオで、マリアはハウスバンドをバックに歌い始める。アルバムでの録音と比べて、リズムの乗り・音使いがよりモダンジャズっぽいが、ここでの演奏・歌唱もいい感じ。曲が終わった後に登場したマークがその出来栄えを絶賛し、通常ならばテーマ曲の演奏で終わるが、今回はもう一度とアンコールして、エンディング・タイトルが流れる中、ブレイク後アップテンポに切り替わるところから繰り返して、完奏によりお終いになる。

10分ちょっとであるが、無駄がなく子気味良い感じの番組だ。演奏・歌唱も最高!

[2023年1月作成]


 
The Way It Supposed To Be (Dore Coller) 2017  映像    
 
Dore Coller: Vocal, 12-String Guitar

Gust Singers (In Order Of Appearance)
 The Zucker Family Singers
 Susan Zelinksky
 Darren Nelson
 Lorin Rowan
 Maria Muldaur
 Ramblin' Jack Elliot
 Matt Jaffe & Caroline Sky
 Bob Weir
 West Park Earth Day Chorus

Gary Yost: Director

1. The Way It Supposed To Be [Dore Coller]

2017年6月28日 YouTube公開
 

タマルパイス山(Mt. Tamlpais)は、サンフランシスコ北に位置するマリン郡の最高峰。冷戦時代の1951年、アメリカ軍はソビエト爆撃機による西海岸地域への核攻撃に備えて、先住民が聖なる山として信仰した、自然豊かなこの山を切り崩し、レーダー基地を建設した。その後核攻撃がミサイルで行われる時代となり、基地の存在理由が失われたため、1981年に閉鎖され、建物は放置されて廃墟となった。その酷い有様を憂いた地元の人々が立ち上がり、建物の解体に乗り出したが、得られた予算では土台まで取り除くことができず、それらは古代遺跡のような野ざらしの状態になっている。現在人々はそれらの撤去と自然の回復に取り組もうとしており、その運動を促進するために 2014年、地元の著名な映像作家ゲイリー・ヨストが 「Invisible Peak」というドキュメンタリー・フィルムを製作し、それは多くの賞を獲得して話題となった。その3年後、ヨスト氏は、地元ミュージシャンのドーレ・コラーと組んで、「The Way It Supposed To Be」という歌のミュージック・ビデオを製作した。マリアがゲストとして参加している。

ドーレ・コラーはマリン郡ミルヴァレーで活躍するシンガー・ソングライター、マルチ奏者で、ブルーグラスをベースとし、カリビアン、ジプシー・ジャズ、R&Bなど幅広いジャンルをカバーし、ベイエリアの多くのミュージシャン達と共演・交流している。彼がこの地を元の自然に戻すべしという内容のプロテスト・ソングを作曲し、現地の土台・床などの残置物や美しい自然、山から見えるサンフランシスコの遠景などをバックに歌う。ギルドの12弦ギターによる弾き語りから始まり、ファースト・ヴァースに続くコーラス部分から、地元で活躍するゲスト・シンガー達が1節づつ、代わる代わるに歌う。ザ・ズッカー・ファミリー・シンガーズは、インターネットで情報が見つからなかった。スーザン・ゼリンスキーは、シンガー・ソングライター、ミュージカル女優。ダーレン・ネルソンは、The 421's というバンドを率いるシンガー。ローリン・ローワンは、ピーター、クリスのローワン3兄弟の末弟で、「The Rowans」という兄弟バンドを組んで活動している。その合間に、1950年代に稼働したレーダー基地の映像が挿入され、自然破壊を厭わず行った当時の状況が生々しく伝わってくる。

セカンドヴァースの後のコーラスで、まず登場するのが我らがマリアで、燦々と降り注ぐ日差しの下、美しい山の景色をバックに 「I'm looking up the beautiful mountain」と歌う。続くランブリン・ジャック・エリオットの年老いた姿に少しビックリ。マット・ジャフェとキャロライン・スカイは、伸び盛り中の若いミュージシャン。ボブ・ウェアはご存じグレイトフル・デッドのシンガー、ギタリストだ。そして最後に地元のコーラスグループが登場し、皆でコーラスを歌って終わる。

前述の「Invisible Peak」と合わせて、大変素晴らしく、説得力のある映像だと思う。


   
Blues Festival Basel, Basel Switzerland 2018  映像   
 

Maria Muldaur: Vocal
Chris Burns: Piano, Back Vocal 
Craig Caffall: Electric Guitar, Back Vocal
Sam Burckhardt: Tenor Sax
Ronnie Smith: Drums, Back Vocal

1. Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down [Eric Bibb, Charlotte Hoglund]

収録: 2018年4月15日 Volkshaus Basel, Switzerland
 

スイス・バーゼルで、2018年4月13〜15日に行われたブルース・フェスティバルのトリで出演。動画のタイトル「Abschluss des Blues Festival Basel」は、ドイツ語で「バーゼル・ブルース・フェスティバルの閉幕」という意味。フォルクスハウスはバーゼル中心部にあるホテル、レストラン、バーで、そこのイベントホールが会場になったもの。

マリアはレッド・ルイジアナ・ブルース・バンドの常連ミュージシャン(ベース奏者なし版)で出演したが、ゲストにサム・ブルクハートというサックス奏者が参加している。彼は1957年スイス生まれで、アメリカ・シカゴとスイスのブルース、ジャズ界で活躍している人。

1.「Don't Ever Let Nobody Drag Your Spirit Down」は、エリック・ビブの作品で、マリア、エリックとロリー・ブロックの共演盤「Sisters & Brothers」2004 M23 がマリアにとってオリジナルとなる。かなりリラックスした感じの演奏で、バック・ボーカルはクレイグだが、クリスとロニーがマイクなしで叫ぶ声も入っている。間奏はクレイグ、クリス、サム。

画質・音質の良い動画で、これ1曲だけなのが残念だね。

[2024年1月作成]


 
Just Like A Woman Concert 2019  映像    
   
[7〜9,18につき]
Maria Muldaur: Vocal, Tambourne (7,8)
Kim Nalley: Vocal (18)
Rhonda Benin: Vocal (18)
Tia Carroll: Vocal (18)
Lady Sunshine: Vocal (18)
Bex Grimes, Sandy Cressman, Noecey Robinson: Back Vocal (18)

The Lillian Armstrong Tribute Band
Tammy Lynn Hall: Piano
Ruth Davies: Upright Bass
Rithie Price: Drums
Kristen Strom: Sax, Flute


1. Feeling Good [Leslie Bricusse, Anthony Newley] Bex Grimes
2. A Matter Of The Heart [Rhonda Benin] Rhonda Benin
3. Here's To Life [Artie Butler, Phyllis Molinary] Lady Sunshine
4. (Unknown) Lady Sunshine
5. Hold On [Unknown] Sandy Cressman
6. (Unkown) Sandy Cresman
7. I'm A Woman [Jeey Leiber, Mike Stoller] Maria Muldaur
8. Midnight At The Oasis [David Nichtern] Maria Muldaur
9. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker] Maria Muldaur

 
10. You Are So Beautiful [Billy Preston, Bruce Fisher] The Lillian Armstrong Tribute Band
11. Save Your Life For Me [Buddy Johnson] Rhonda Benin
12. Jolene [Dolly Parton] Tia Carroll
13. Blues Woman [Unknonw] Tia Carroll
14. God Bless The Child [Billie Holiday, Arthur Herzog Jr.] Niecey Robinson
15. (Unkown) Niecey Robinson
16. Big Hooded Black Mom [Kim Nalley] Kim Nalley
17. Cotton-Eyed Joe [Traditional] Kim Nalley
18. In The Basement [Billy Davis, Raynard Miner, Carl William Smith] Finale

収録: 2019年3月30日,  Freight & Salvage Coffeehouse, Berkeley, California

注: 青字はマリア参加曲

「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」は、政府系機関主導のイベント「Women's History Month」で毎年3月に行われる女子オンリーのコンサートだ。プロデューサーのロンダ・ベニンは、ベイエリアで活躍するシンガー・エンタテイナーで、ソロ活動の他に、リンダ・ティレリー率いるThe Woman's Voices For Peace Choirのメンバーとして、マリアのアルバム「Yes We Can !」 2008 M29に参加している。カリフォルニア州バークリーにあるフレイト・アンド・サルベージ・コーヒーハウスで、女性だけのバンドをバックに、同地で活躍する女性シンガー達が、女性のジャズ・ブルース曲を歌う 2019年のコンサートにマリアが参加した。

マリアは5人目の歌手として、ファースト・セットのトリで登場。比較的若手が多い中で、大御所といえる存在だ。バックバンドの名前に冠したリリアン・アームストロング(1898-1971)は、ジャズ・ピアニスト、作曲・編曲家、シンガー、バンドリーダーで、1920年代にルイ・アームストロングの2番目の奥さんだった(1931年離婚)。ベースのルース・デイヴィースはマリア伴奏者の常連。クリティン・ストームは、後にコロナ禍 2021年のマリアの配信コンサートでサックスを吹いている。ピアノとドラムスは、マリアとの共演音源・映像は、私が知る限りここだけで、その分新鮮な感じの演奏を楽しめる。7.「I'm A Woman」の曲紹介では、グリニッジ・ヴィレッジで誰かがジュークボックスでかけたペギーリーの曲を気に入り、歌詞を書き留めるために10回リクエストしてバーの人々をうんざりさせたというエピソードが語られる。エレキギターないプレイはニューオリンズっぽくて面白い。クリスティンのサックスソロがいい感じだ。8.「Midnight At The Oasis」は「Goofy Little Song About A Camel」と紹介される。エイモス・ギャレットの必殺プレイで有名な間奏ソロは、クリスティンがフルートで挑戦している。9。「Don't You Feel My Leg」でマリアは、お得意のドクター・ジョンのだみ声の物まねと、アルバムからのセカンド・シングルの候補になりながら、この曲によって自分のイメージが「Sex Simbol Of Red Hot Mama」で固定されることを恐れて断念したこと、ローヤリティーの小切手を作者に送ろうとして、レコード会社に「彼らは亡くなっているので、会社宛に送れ」と言われたが、ドクター・ジョンに「ついこの前バーボン・ストリートで彼らを見たよ」言われ、めでたく本人に渡すことができたこと、そしてブルー・ルー・バーカーの特集アルバムを製作したことを語り、オーディエンスの笑いをとっている。タミー・リン・ホールのピアノソロが素晴らしい。ユーモアたっぷりのパフォーマンスが最高で、観客は笑いころげ、スタンディング・オーベエイションを送っている。

フィナーレは、1966年シュガーパイ・デサントとエッタ・ジェイムスが歌った18.「In The Basement」で、全員がステージに登場。ファースト・ヴァースはキム・ ナレイ、セカンド・ヴァースは歌詞カードを持ったリンダ・ベニンが歌う。そして次に指名されたマリアは、メロディーに乗せて「私は歌詞を知らないのよ〜」と歌い、観客は大笑い。続けてアドリブで「パーティーを楽しみましょう」と続け喝采を浴びる。その後はティア・キャロル、レディ・サンシャインがアドリブで歌い、最後は「In The Basement」のリフの大合唱で終わる。最後にロンダ・ベニンが巨体を揺すぶってちょっとだけ見せるダンスが凄い。ちなみにキム・ナレイは、その後2022年にアルバムのタイトル曲 「I Want A Little Boy」E152で、マリアとデュエットしている。

マリア以外のパフォーマンスも良かったので、簡単に述べます。シンガーとして駆け出しのように見えるレックス・グライムスが歌う 1.「Feeling Good」は、ニーナ・シモン1964年で有名。元はミュージカルのなかで白人との競争に勝った黒人が、人種・社会・経済的不平等を歌った曲。主催者のロンダ・ベニンは、ソロアルバムのタイトル曲である 2.「A Matter Of The Heart」。3.「Here's To Life」は、シャリー・ホーン1992年がオリジナル。若いレディ・サンシャインが情感たっぷりに歌う。サンディ・クレスマンはブラジル音楽。本映像では、名前の紹介がない曲が多いので、数曲がタイトル不明となった。セカンド・セットの始めにバンドが演奏するインストルメンタルは、メロディーとコード進行からジョー・コッカーの歌唱で有名な 10.「You Are So Beautiful」 とした。再登場したロンダ・ベニンが歌う11.「Save Your Life For Me」の初演は作者のバディ・ジョンソン(1955年)であるが、1962年のナンシー・ウィルソンが決定盤だ。ティア・キャロルは、ドリーパートンの12.「Jolene」をR&B風の面白いアレンジで歌う。若いニーシィー・ロビンソンが歌うの14. 「God Bless The Child」は、ビリー・。ホリデイ1941年の代表曲。キム・ナレイの 16. 「Big Hooded Black Mom」は貫禄たっぷり。トラッドの17.「Cotton-Eyed Joe」は、1994年スウェーデンのバンド、レッドネックスによるダンスアレンジが大ヒット(全英1位、全米25位)したが、ここではスローテンポで切々と歌い上げる。フィナーレは上述参照。

心から音楽を楽しむ会場の暖かい雰囲気と、出演者とオーディエンスの一体感が気持ち良い映像。


Turning The Tables 2019  映像  
  Maria Muldaur: Vocal
Unknown: Back Band

1. Handy Man [Andy Razaf, Eubie Blake]
2. Don't You Feel My Leg [L Barker, J.M. Williams, D. Barker]

Recorded : September 12, 2019 at The Country Music Hall Of Fame And Museum, Nashville Tennessee

  
ナッシュビルにあるザ・カントリー・ミュージック・ホール・オブ・フェイム・アンド・ミュージアムが資金集めのため、2019年10月28日に行ったイベント「Big Night (At The Museum)」 (著名なアーティストが、ビル・モンローのマンドリンなど、過去の歴史的な楽器を弾きながら歌う内容のショー)の前宣伝のため、NPR(公共放送用の番組を製作・配布する会社)とタイアップして開催したパネル・ディスカッション (といっても積極的な討論や質疑応答はなく、司会者の質問に対しパネラーがプレゼンテイションを行い、それに係る歌を披露するという内容)。

ザ・カントリー・ミュージック・ホール・オブ・フェイム・アンド・ミュージアムのディレクター、アビ・タピア(Abbi Tapia)のスピーチの後、NPRのアン・パワーズ(Anne Powers)が司会を務め、パネラーが自身の音楽ルーツを語る。トップバッターはマリアで、ブルースにのめり込んだきっかけとして、グリニッジ・ヴィレッジの実家から独立してベビーシッターも兼ねて住み込んだ家に膨大なレコード・コレクションがあり、そこでベッシー・スミスのSPレコードを聴いたこと。ヴィクトリア・スパイヴィーと知り合い、彼女の口利きで、「セックスアピールが必要」とされたイーヴン・ダズン・ジャグバンドに参加してレコーディングした事を話す。当時はウーマンリブが騒がれる前だったので、「セックスアピール」のくだりは気にならなかったこと。メンフィス・ミニーなど、当時ブルースを歌った女性たちは、もともと女性差別、人種差別の障害を超越した次元で、セックスなどのダーティーな内容を比喩を使って詩的に歌っていたと語っている。そしてカラオケのバンド演奏をバックに、1.「Handy Man」を歌う。

次のパネラーはカーレン・カーター (Carlene Carter 1955- )。彼女は、ジョニー・キャッシュの奥さんのジェーン・カーター・キャッシュの最初の夫との娘で、メイベル・カーターの孫。カーター・ファミリーの思い出を語り、オートハープで「Foggy Mountain Top」を歌う。そしてショーン・コルヴィン (Shawn Colvin 1956- ) がジョニ・ミッチェルのエピソードを語り、彼女の「For The Roses」を弾き語る。さらにこの中では若手のアミシスト・キア (Amythyst Kiah 1986- ) がカントリーブルース、ゴスペル、フォークシンガーのプレシャス・ブライアント(Precious Bryant 1942-2013)について語り、彼女の「Broke And Ain't Got A Dime」を歌う。

この後は逆の順番で自分の歌を披露する。アミシストの「Firewater」、ショーンの「Polaroids」、カーレンの「The Bitter End」と続き、最後は曲を書かないマリアが 2.「Don't You Feel My Leg」を歌う。その前に、この曲はドクター・ジョンの紹介でファーストアルバムに収録し大評判をとったが、「Red Hot Mama (セクシーな女)」のレッテルを貼られることを恐れてシングル盤にしなかったこと、著作権収益を作者であるバーカー夫妻に渡そうとしたら、管理会社に「故人なので会社宛に送るように」と言われたが、ドクター・ジョンに「ふざけんるんじゃない。2週間前ニューオリンズで彼らに会ったよ」(マリアが彼の声色を真似るのが傑作)と言われ、彼らに会いに行って小切手を渡し、とても喜ばれたというエピソードを語っている。

1時間50分弱という長い時間をかけて、じっくり語られ、歌われる。マリアが語るエピソードは内容的には初出ではないが、彼女の話術の上手さもあり、何度聴いても楽しめる。


 
Blues & All That Jazz 2020  映像
 
Maria Muldaur: Vocal, Tamburine (12)
Chris Burns: Piano 
Danny Caron: Electric Guitar
Ruth Davies : Bass
Ronnie Smith: Drums, Back Vocal

1. Everything Is Moving Too Fast [David Babour, Peggy Lee]
2. I Goota Right To Sing The Blues [Harold Arlen, Ted Kohler]
3. There's Going To Be The Devil To Pay [Bill Hueston, Bob Emmerich]
4. Adam & Eve Had The Blues [Sippie Wallace]
5. Leave My Man Alone [White]
6. Loan Me Your Husband [Danny Barker]
7. The Optimism Blues [Allen Toussaint]
8. Rockin' Chair [Hoagy Carmichael]
9. Richland Woman Blues [Mississippi John Hurt]
10. Never Brag About Your Man [Unknown]
11. Bessie's Advice [Eric Bibb, Maria Muldaur]
12. Midnight At The Oasis [David Nichtern]
13. Don't You Feel My Leg [L. Barker, J.M. Williams, D. Barker]

Recorded : September 20, 2020 at Piedmond Piano Company, San Francisco
 

2020年前半から発生したコロナ禍により、ミュージシャンはコンサートによる収入・自己表現の場を失い、大変辛い思いをすることになった。その状況打開策として、多くのミュージシャンがインターネットによるバーチャル・コンサートを行った。

ピエドモンド・ピアノ・カンパニーは、1978年サンフランシスコ創業のピアノ販売業者で、中古ピアノの取り扱いに成功して、新品ピアノ販売やピアノ教則の分野に業務拡大した。その過程で、生徒たちのリサイタルの場として店内に演奏会場を設けるようになり、ジャズやクラシックのコンサートを開催するようになった。2代目経営者であるジム・カラハンは、コロナ禍により苦境に陥ったミュージシャンをサポートすべく、自社のコンサート・スペースを提供したライブを配信するユーチューブ・チャンネルを設立し、地元のミュージシャンにパフォーマンスの機会を提供した。コンサートの模様はライブ配信された後も閲覧可能で、視聴者は、任意でペイパルによりミュージシャンへ寄付をすることができた。マリアも3月の途中から、すべての予定が延期・キャンセルになり、ここ9月20日の配信は、無観客とはいえ、久しぶりのライブだったようだ。

映像の最初の15分はスタンドバイ状態で、「Showroom Sessions」、「Maria Muldaur Will Begin Shortly」という予告の静止画像が続いた後、画面が切り替わってオーナーのジム・カラハンが登場して挨拶と紹介のスピーチをする。そして始まったコンサートは、明るい照明のもと、バンド全体の画像とクローズアップ用の2台の固定カメラによる撮影で、コストセーブとコロナのリスク回避のため、スタッフを最小限にしているものと思われる。画像がシンプルな分、視聴者は、より演奏に集中できるようだ。


なお各演奏曲が収録された初出アルバムは以下のとおり。

1. Everything Is Moving Too Fast  A Woman Alone With The Blues 2003 M22
2. I Goota Right To Sing The Blues         Love Wants Dance 2004 M24
3. There's Going To Be The Devil To Pay        Sweet And Slow 1983 M9
4. Adam & Eve Had The Blues               Sweet And Slow 1983 M9
5. Leave My Man Alone              Don't You Feel My Leg 2018 M35
6. Loan Me Your Husband             Don't You Feel My Leg 2018 M35
7. The Optimism Blues                        なし
8. Rockin' Chair                         Sweet Harmony 1976 M4
9. Richland Woman Blues           See Reverse Side For Title 1966 E5
10. Never Brag About Your Man        Don't You Feel My Leg 2018 M35
11. Bessie's Advice                   Sisters & Brothers 2004 M23
12. Midnight At The Oasis                  Maria Muldaur 1973 M1
13. Don't You Feel My Leg                  Maria Muldaur 1973 M1


7. 以外の曲の由来については、収録アルバムの記事を参照ください (M35は記事未作成です)。


ペギー・リー1942年の作品と紹介される1.「Everything Is Moving Too Fast」。マリアは椅子に座りながら歌う。花柄のドレスが綺麗だ。ダニーはソロを取る際のみ立ち上がる。画面左のクリスはイタリア製のファツィオリの高級ピアノを弾いている。ルースは、胴体がないエレクトリック・アップライトベースをニコニコしながら弾く。以上3人は、マリアの常連伴奏者だ。唯一マスクをつけているロニー・スミスについて、インターネットでいろいろ調べたが、同姓同名も多く、適切な資料に行き当らなかった。ここでは彼は、コンパクトなドラムセットを使って、シンプルで控えめなプレイに徹している。曲が終わった後起きる拍手は、スタッフ数名によるものだ。マリアは、生配信される本演奏は、ヨーロッパや日本など世界中の人々が観てくれると言い、ビリー・ホリデイの 2.「I Goota Right To Sing The Blues」をねっとりと歌う。次にドクター・ジョンと演った曲としてファッツ・ウォーラーの 3.「There's Going To Be The Devil To Pay」、シッピー・ウォレスの 4.「Adam & Eve Had The Blues」を演奏する。前者のエンディングでマリアはスキャットを披露。途中で少し噛んで、歌いながら笑っているのが面白い。5.「Leave My Man Alone」、6.「Loan Me Your Husband」は、ブルー・ルウ・バーカーの曲で、前者ではバックバンドがコーラスを入れる(といってもロニー以外はマイクなしであるが)。マリアは後者の紹介で、曲が作られた1942年では「飛んだ」内容の歌で、彼らは「Hipstar」だったとコメントしている。

7.「The Optimism Blues」は、本コンサートで唯一公式録音がない曲。ニューオリンズのシンガー・ソング・ライター、ピアニスト、アレンジャー、プロデューザーだったアレン・トゥーサン(1938-2015)が作者。マリアは過去に彼の作品として、スリー・ドック・ナイトの「Brickyard Blues」M1や、ポインター・シスターズの「Yes We Can Can」M29 を取り上げた事があるが、ここでは彼のトリビュートコンサートのためにリサーチして見つけた曲と紹介している。ちなみに 2019年の彼女の来日コンサートで、この曲が演奏された記録が残っている。彼のソロアルバム「Motion」に収録されたのがオリジナルで、その後1981年にヘレン・レディーがカヴァーしている。マリアが言うとおり、コロナ禍で困難な状況のなか(彼女によるとライブを開催するのは8カ月ぶりとのこと)、前向きなこの曲を聴くと気分が晴れるような気がする。ここではマリアはタンバリンを叩き、ロニーがハーモニー・ボーカルを付けている。

ここで、本コンサートへの投げ銭の依頼があり、ペイパルのアドレスが画面下部に表示される。8.「Rockin' Chair」で、マリアはベニー・カーター楽団との録音セッションに現れたホギー・カーマイケルが、 ハーモニー・ボーカルで加わることを申し入れてくれた、幸運で光栄な思い出を語っている。ここでのダニーのギター・ソロは最高!マリアも地声と裏声を巧みに使い分けてしっとりと歌っている。ミッシシッピー・ジョン・ハートの 9.「Richland Woman Blues」で、マリアはイギリスのビル・ワイマン、テリー・テイラー等のリズム・キングスとコンサートツアー(2013年)でこの曲を歌った思い出を語り、さらに本曲を愛奏するジョン・セバスチャンにも言及している。本来スリーフィンガーのアコギで演奏するギターを、ピック弾きのエレキギターでこなすダニーの演奏はご愛敬かな? ブルー・ルウ・バーカーの曲 10.「Never Brag About Your Man」では、出だしで演奏が合わず、やり直しているのが生配信らしい。エリック・ビブの 11.「Bessie's Advice」は、ベッシー・スミスの霊が降りてきて、夢のなかで若い女性にアドバイスする内容の歌とのことで、珍しい 4ビートでの演奏。皆が大好きなラクダの歌と紹介される 12.「Midnight At The Oasis」では、マリアはいつもようにタンブリンを叩きながら歌う。ダニーの間奏ソロはエイモス・ギャレットの敬意を表したもので、ほぼ同じ内容。それでもエンディングでは彼らしい気の利いたソロを弾いている。  

ここでメンバー紹介が入り、12月20日(日)に同所でクリスマス・コンサートの配信を行うことと、ニューオリンズのバンド、チューバ・スキニーと42枚目のアルバムを録音することが予告される。最後の曲、ブルー・ルウ・バーカーの13.「Don't You Feel My Leg」 では、曲中の語りの中で、いつもの「ダンスに連れていってくれる」部分を、アドリブで「ピエドモンド・ピアノ・カンパニー」に置き換えている。またクリスのピアノ・ソロに入る際、マリアは「ニューオリンズに連れて行って!」と叫んだり、エンディングでマリアがジェームス・ブラウンのパロディーをするなど見どころ満載の内容だ。マリアのお礼の言葉でコンサートは終了し、ジム・カラハン氏の締めで配信は終了する。本映像は、生配信後もYoutubeで試聴可能なのがうれしいね。

生配信という間違いが許されない状況であるが、腕達者なミュージシャンがリラックスして楽しそうに演奏している雰囲気が何とも良い感じのライブだ。


   
Christmas At The Oasis 2020  映像 
 
Maria Muldaur : Vocal, Tambourine
Danny Caron : Electric Guitar
John R. Burr : Piano
Kristen Strom : Tenor Sax, Soprano Sax, Clarinet, Flute
Ruth Davies : Bass
Derrick "D' Mar" Martin : Drums

1. Sleigh Ride [Leroy Anderson] (Instrumental)
2. Boogie Woogie Santa [Leon Rene]  
3. Christmas Blues [Charley Straight, Gus Kahn]  
4. Yule That's Cool [Steve Allen]
5. Santa Baby [J, Javits, P. Springer, T. Springer]
6. What Will Santa Claus Say [Louis Prima]
7. Zat You Santa Claus [Jack Fox]
8. Merry Christmas Baby [Charles Brown]
9. Winter Weather [Ted Shapiro] 
10. Gee Baby Ain't I Good To You [Don Redman, Andy Razaf] 
11. Christmas Night In Harlem [Mitchell Parish, R. Scott]
12. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield]
13. Holiday Dinner [Johnny Marks, Parody Lyrics by Sandy Riccardi]
14. Chirstmas At The Oasis [David Nichtern, Maria Muldaur]  

Recorded at December 20, 2020 at Piedmond Piano Company, San Francisco 

「Blues & All That Jazz 2020」に続く、ピエドモンド・ピアノ・カンパニーにおけるバーチャル・コンサートの第2弾で、会場のセッティング・撮影は前回とほぼ同じ。YouTubeによる生配信で、最初19分は待機時間。ステージ画面に切り替わり、マリアによる簡単な挨拶の後、序曲的なインスト曲 1.「Sleigh Ride」が始まる。演奏された14曲は、9,12,13を除き 「Chritmas At The Oasis」2010 M32に収録されているので、それらの曲についての詳細は、M32を参照してほしい。

バックバンド「Jazzabelle Quintet」は、ピアノとベースが前回と同じ。ギターのダニー・キャロンはマリア伴奏者の常連。ホーン奏者のクリスティン・ストロムは、録音・音源・映像上の付き合いでは、私の知る限り、2019年の「Just Like A Woman Concert」以来2回目で、これから常連になりそうな感じ。ドラムスのデリック・デマール・マーチンは、ドラム奏者、プロデューサー、作曲家、歌手、教育者、芸人などマルチな活躍をする人で、かつてリトル・リチャードのバンドでドラム奏者を長く務めていたという。ベースのルース・デイヴィースと同様、目立たないが堅実なプレイに専念している。コロナ猛威の真っ最中なので、マリアとクリスティン以外は全員マスクをしている。クリスマス・コンサートということで、メンバー全員が赤色が入った服を着ていて、ドラムスのデリックはサンタの帽子を被り、ギターのダニー・キャロンは、トナカイの角がついた被り物を付けている。

曲間のマリアのコメントから。5.「Santa Baby」: 9才の時、タイトルは忘れたけど映画を観に行って、そこでアーサー・キットの歌に魅せられた。家に帰って、年上の姉の派手な服を引っ張り出して身に纏い、ヘアーブラシをマイクに見立てて真似をした。7.「Zat You Santa Claus」: これはちょっと不気味な歌で、おそらくハロウィーンの頃に作り始めたが、忙しかったために12月になり、クリスマスの曲として仕上げたんだと思う。8. 「Merry Christmas Baby」: バンドのダニーとルースが、偉大なる故チャールス・ブラウンの伴奏をしていた。9.「Winter Weather」(マリアのアルバム「Woman Alone With The Blues」 2003 M22に収録されていた曲):ペギー・リーと、録音で共演したダン・ヒックスを偲んで歌います。10.「Gee Baby Ain't I Good To You」: チャールズとは彼が亡くなる少し前に共演(M19) した。クリスマス・ソングではないが、歌詞に出てくるので歌うことにしました。12.「Please Send Me Someone To Love」(マリアが昔からステージで歌っていた曲で、正式録音は2021年の「Steady Love」 M33) :コロナ禍の下で、早く光が戻ること、良き日になることを祈って歌います。

13.「Holiday Dinner」はマリアによる公式録音なし。原曲「Rundolh, The Red-Nosed Reindeer (赤鼻のトナカイ)」のパロディ・ソングで、サンフランシスコで活動するサンディ・アンド・リチャード・リカルディ(Sandy & Richard Riccardi) というコメディ・ソングの夫婦が歌詞を付け歌ったもの。コンサートの模様を撮影した動画や配信サービスで視聴できる。ダイエット、グルテン、塩分、ヴィーガン、添加物などの理由により、様々な食物を採れない事を面白おかしく歌ったもの。最後の曲 14.「Chirstmas At The Oasis」でのマリアの語り。クリスマス・コンサートをやるにあたり、セットリスト案を出したら、「どうしてこの曲をやらないの」と言われたので、鉛筆を取り出し歌詞を一部書き換えて、クリスマスの歌にした。

コンサート終了後、ピエドモンド・ピアノ・カンパニーの経営者ジム・カラハンによる挨拶とマリアとミュージシャン達への寄付(ペイパル経由で受付)の要請で配信を終える。演奏面では、名手揃いで文句の付けよう無し。コロナ禍でコンサートなどの演奏活動ができない辛い状況のなか、久しぶりのライブだったようで(マリアの場合は3ヵ月ぶりと言っている)、解放感が感じられ、演奏を楽しむ雰囲気に満ちている。彼らは、家に籠ってる間、楽器練習や勉強をみっちりしていたようで、各プレイヤーの演奏レベルが以前と比べて向上しているように思える。特にピアニストのジョン・バーのプレイがとても素晴らしく、強弱のタッチの微妙な使い分け、絶妙な音使いなど、この人はこんなに上手かったかな?と思わせる出来。

マリアが毎年地元限定でやっているクリスマス・コンサートを映像で堪能できる。

[2022年12月作成]


 
The Hall Of Fame Band  Grammy Museum, L.A. 2021 映像  
   
Maria Muldaur: Vocal (1-4), Tambourine (4)
Albert Lee: Mandolin (4)
Jeff Alan Ross: Acoustic Guitar (3), Electric Guitar (1,2), Keyboards (4), Back Vocal (3)
Rob Bonfiglio: Acoustic Guitar
Laurence Juber, Acoustic Gitar (1,3), Electric Guitar (4), Harmonica (2)
Bill Cinque: Bass, Back Vocal (1-3)
Christopher Ailis: Drums

1. Things We Said Today [Lennon, McCartney]
2. Love Me Do [Lennon, McCartney]
3. I've Just Seen A Face [Lennon, McCartney]
4. Midnight At The Oasis [David Nichtern]


以下はマリア非参加の曲について

Albert Lee: Vocal (5,6), Electric Guitar (5,6)
Mark Sebastian: Vocal (8)
Prescott Niles: Bass (9)
Jeff Alan Ross: Acoustic Guitar (5,8), Electric Guitar (9), Vocal (6,9) ,
Rob Bonfiglio: Acoustic Guitar (5-8), Electric Guitar (9), Back Vocal (9)
Laurence Juber, Acoustic Guitar (7,8), Electric Guitar (9)
Bill Cinque: Bass (5-8), Back Vocal (8,9)
Christopher Ailis: Drums

5. Honey Don't [Carl Perkins]
6. I Don't Want To Spoil The Party [Lennon, McCartney]
7. Yesterday [Lennon, McCartney]
8. You've Got To Hide Your Love Away [Lennon, McCartney]
9. My Sharona [Berton Averre, Doug Fieger]

注: 実際の曲順は不明

Recorded At Clive Davis Theater, Grammy Museum, Los Angeles, November 21, 2021

 
グラミー・ミュージアムは、2008年ロスアンゼルスに開館したアメリカ音楽、特にグラミー賞の歴史を専門とする博物館で、資料展示・楽器試奏・録音設備のほかに収容人員200人のクライブ・デイビス・シアターがある。本映像はこのシアターで行われた「ホール・オブ・フェイム・バンド」のコンサートにマリアがゲスト出演したもの。

このバンドは西海岸で活躍するベテランのセッション・ミュージシャン達が本コンサートのために集まったもののようだ。画像左端の人物はジェフ・アラン・ロスで、1980年代再結成後のバッドフィンガーのメンバーを経て、2000年代以降はピーター・アッシャーの音楽仲間として、ベテラン・ミュージシャンのコンサートやトリビュート・アクトで活躍している。彼の隣りの人物はロブ・ボンフィグリオ、ステージ右端の左利きのベース奏者はビル・クリックで、いずれもセッション・ミュージシャンだ。右から2人目のギタリストはローレンス・ジュベー。彼も腕利きのセッション・プレイヤーで、1979から2年間ポール・マッカートニーのウィングスのメンバーだったことで知られ、またその後始めたフィンガースタイル・アコースティック・ギターの世界で確固たる地位を築いた人だ。コンサートには数人のゲストが招かれ、彼らが若かりし時に夢中だったビートルズ初期の曲とゲストの曲を演奏している。

上記演奏曲について、ザ・ビートルズのオリジナルは以下のとおり (以下収録アルバムは英国盤仕様です)。

Please Please Me (1963) : 2.「Love Me Do」 
A Hard Day's Night (1964) : 1.「Things We Said Today」
For Sale (1964) : 5.「Honey Don't」、 6.「I Don't Want To Spoil The Party」
Help! (1965) : 3.「I've Just Seen A Face」、7.「Yesterday」、8.「You've Got To Hide Your Love Away」

ジャム・セッションのようなリラックスした雰囲気で、アコースティック・ギターを中心としたヘッドアレンジによる気楽な演奏であるが、曲に対する愛情がしっかり伝わってくるので、聴いていて気持ちが良い。ビートルズのクラシックをマリアが歌うということで、ファンにとってお宝・ご馳走だ!マリアは譜面(歌詞)を見ながら歌っていて、彼女にかかると何でもブルージーな色彩を帯びるのが面白い。 2.「Love Me Do」 はローレンス・ジュべーがハーモニカを吹いていて、あまり上手くないけど何か面白い。3.「I've Just Seen A Face」ではゲストのアルバート・リーがマンドリンを弾いていてソロもとり、ローレンスがフラット・ピッッキングによるブルーグラス風ソロを聴かせるのが見もの。そしてゲストの曲ということで 4.「Midnight At The Oasis」が演奏される。ローレンスのギターソロはエイモス・ギャレットに敬意を表して大方同じメロディーによるプレイで、曲の終わり間際に独自のフレーズを入れている。

マリア非参加の曲について。イギリス人で数多くのセッションやエリック・クラプトンのバンドで活躍した名手、アルバート・リーはカントリー風の曲 6.「I Don't Want To Spoil The Party」、ロカビリーの 5.「Honey Don't」で歌い、ゴキゲンなギタープレイを披露している。7.「Yesterday」は、ビートルズ曲のフィンガースタイル・アレンジのアルバムを出しているローレンスのアコギ独奏。8.「You've Got To Hide Your Love Away」はジョン・セバスチャンの弟マーク・セバスチャンをゲストに招いての演奏。9.「My Sharona」はロサンゼルスのバンド、ザ・ナック 1979年のヒット(全米1位)の曲で、オリジナル・メンバーのプレスコット・ナイルズがベースを弾いている。

マリアがビートルズの曲を歌う珍品映像。彼女が参加していない曲も最高に楽しいよ!

[2024年8月作成]
 

The Blues Broads at Rancho Nicasio Sunday 2022 映像 
 
Dorothy Morrison: Lead Vocal
Angela Strehli, Tracy Nelson, Annie Sampson, Marcia Ball, Maria Mulsaur, Sylvia Tepper, Bob Brown, Quantae Johnson: Back Vocal

Gary Vogensen: Guitar
Mike Emerson: Keyboards
Steve Ehrmann: Bass
Paul Revelli: Drums

1. Oh Happy Days [Edwin Hawkins Based On 1755 Hymn]

Recorded : June 19, 2022 at Rancho Nicasio, Nicasio, CA

   
2000年代初めにアンジェラ・ストレリ(E125参照)が、夫君のボブ・ブラウン経営のレストラン、ナイトクラブのランチョ・ニカシオ(本音源の会場)にトレイシー・ネルソン(E93参照)を招いた事から始まり、二人のデュオはゲストを交えながら発展して、ザ・ブルース・ブローズと名乗るようになったという。その後アーニー・サンプソンとドロシー・モリソン(西海岸で活動する黒人シンガーで、数多のスタジオ・セッションに参加、マリアとは1972年の「Steelyard Blues」 E18で共演)が加わって現在のラインアップになった。彼らは2012年にライブ・アルバムを発表し、その後も地元で活動を続けている。彼らと親交があるマリアは以前からコンサートにゲスト出演していたようで、本映像は2022年に撮影されたもの。

1.「Oh Happy Days」はエドウィン・ホウキンス (1941-2018)が古い讃美歌をゴスペル調にアレンジしたもので、1969年全米4位の大ヒットを記録した。その際にリード・ボーカルをとった人が、本映像で歌っているドロシー・モリソンだ。当時撮影された映像が残っており、彼女の若々しい姿と歌声を見聞きできる。ちなみに同曲は、後の1993年にウッピー・ゴールドバーグ主演の「Sister Act 2」で、当初やる気がなかった若者が歌う事の素晴らしさに目覚めるシーンで効果的に使われた。

ブルース・ブローズのステージにマルシア・ボール、マリア、シルヴィア・テッパー(地元で音楽活動をしている人のようであるが、彼女についての情報はなかった)が加わり、ドロシーのボーカルに対し掛け合いでサポートする。バックの演奏は地元のベテラン・ミュージシャン達で、2012年のCDとほぼ同じメンバーだ。途中から上述のボブ・ブラウンとクワンタメ・ジョンソン(現地のゴスペル、ブルース音楽会でベースを弾いてる人らしい)がステージに上がり、コーラスに加わる。

マリアは当日、同じ州のクックス・ヴァレーで開催されたThe 45th Annual Summer Arts And Music Festivalに18時から出演した記録があり、本映像は同地への移動の途中にニカシオに立ち寄り、ゲスト参加したものと思われる。

バックコーラスではあるが、マリアが親しい仲間達と「Oh Happy Days」を歌っている映像。

[2023年10月追記]

バンド名を間違えていました。「Blues Boards」ではなく「Blues Broads」でしたので訂正しました。「Broad」とは、スラングで「女の子」の意味だそうです。