T1 Bert And John (1966) Transatlantic Records TRA144
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Bert Jansch: Guitar, Vocal (4,10)
John Renbourn: Guitar
Bill Leader: Producer
Brian Shuel: Cover Photo, Design
[Side A]
1. East Wind * [Jansch, Renbourn]
2. Piano Tune * [Renbourn]
3. Goodbye Porkpie Hat * [C. Mingus] R20 T3 T17 V2
4. Soho [Jansch] T10
5. Tic-Tocative * [Jansch, Renbourn] Q35
6. Orlando * [Jansch, Renbourn] T10
[Side B]
7. Red's Favorite * [Jansch, Renbourn]
8. No Exit * [Jansch, Renbourn] T3
9. Along The Way * [Jansch, Renbourn]
10. The Time Has Come [Ann Briggs] T3 T10 T15 T17 Q6 Q35
11. Stepping Stones * [Jansch, Renbourn]
12. After The Dance * [Jansch, Renbourn]
1966年9月発売
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1960年代のギターデュオの名盤。バートとジョンが共同生活をしていたセント・エドムンズ・テラスのアパートで録音された作品で、親密度と生活感が感じられる演奏となった。自宅録音のため、部屋の空間と二人の息遣いが感じられ、とても生々しく自然な音作り。静かな所でじっと耳をすまして聴くと、屋外で鳴いている犬の声まで録音されている。ほとんどの曲がジャム・セッションの産物であるかの様な印象を受ける。短い曲が多いので、26分ほどで終わってしまう。互いに相手を引き立て合うリラックスした雰囲気ながら、即興演奏の部分では緊張感が漂い、相手のアタックに即反応してゆくラフなインタープレイはスリリングである。音楽面ではお得意のブルースを中心にジャズ、バロック等のジャンルに広がる。これらの音楽の融合が後のペンタングルの音楽に発展してゆく。バートとジョンが囲碁を楽しんでいるジャケット写真が面白い。知的な雰囲気で、西洋人にはとてもミステリアスに見えるようだ。ふたりの親密な雰囲気と東洋文化に対する興味がうかがえる。
1.「East Wind」はエキゾチックなフラメンコのようなバートの伴奏で、ジョンが豪快なリードをとる。バートのギターのタッチはとても力強くてリズムの歯切れも良く、躍動感にあふれた演奏。ジョンのリード・ギターはブルースのスケール(主にペンタトニック・スケールかな?)やジャズのモード音階を多用して、ピックを使わず指で弾いているようだ。ジョンのリードギターのタッチはとても強く、弦が指板にバシバシ当たる音が聞こえる。2.「PianoTune」はジョンお好みのジャズ・ブルースで、彼のリードが断然押している。当時の二人のグルーヴィーなリズム感、そして彼らが使用していたギターのチープで乾いた響きは、今の世の中にはないものだ。3.「Goodbye
Pork Pie Hat」は傑作。作者のチャーリー・ミンガスはモダン・ジャズの巨人の一人で、本職はベーシストであるが作曲者・クリエイターとしても反骨精神溢れる活動をした人。本曲は彼がテナーサックスの巨匠レスター・ヤング(ポークパイ・ハットは彼のあだ名)の死を悼んで作曲したリクイエムである。バートのユニゾンを多用したメロディックな伴奏とジョンのリードの緊張感あふれる絡みは、後のアコギによるジャズ演奏の手本となった素晴らしいもの。ちなみに1993年アレックス・ド・グラッシが「The
World's Getting Loud」で、2001年にはラルフ・タウナーが「Anthem」で、同曲のソロ演奏に挑戦しているのでそれらも必聴。4.「Soho」はバートの歌入りで、パブ、ライブハウスが乱立するロンドンの繁華街を描いたもの。5.「Tic-Tocative」はミディアム・テンポの歯切れ良いジャズブルース。6.「Orlando」は中世音楽風の静かな曲。
7.「Red's Favorite」はゴスペル風のブルースであるが、バートのギターが押しまくっている。8.「No Exit」は完全にペンタングル風の演奏(後年「Sweet
Child」 1968 T3 のライブに収録)。バートのギターは、1973年当時の日本盤における久保田麻琴氏の解説の通り「きらめくようなアルペジオはこういう曲においては魔術のよう」である。9.「Along
The Way」はバートお得意の変拍子の曲。2曲目の歌ものは11.「The Time Has Come」で、美人トラッドシンガー、アン・ブリッグスの作品。彼女はバートに大きな影響を与えた人で、「Go
Your Way My Love」(バートのソロアルバム「Nicola」1967 に収録) 等を共作、その後引退したが、近年の「Acoustic
Routes」1993 で再会、共演している。
単なる演奏面だけでなく、精神的でも非常に充実したこの作品はギター・ファン必携。本作は演奏時間があまりに短いため、何度か発売されたCDリイシュー盤には、他のレコードにおける2人のインストものをボーナストラックとして加えたものが多い。今のところ、アウトテイクが収められたものは出ていない。
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T2 The Pentangle (1968) Transatlantic Records TRA162
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Bert Jansch : Vocal, Guitar
John Renbourn : Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums
A Shel Talmy Production
Cover Design: Osiris(Visions) Ltd.
[Side A]
1. Let No Man Steal Your Thyme T3 T10 T15 T17 T18 T18 V7
2. Bells * [Pentangle] T3 T15 V7
3. Hear My Call [Staple Singers] T2 T3 T10 T15
4. Pentangling [Pentangle] T12 T15 T17 T18
[Side B]
5. Mirage [Pentangle] T15 T17
6. Way Behind The Sun T2 T2 T3
7. Bruton Town T2 T3 T10 T13 T15 T17 T18 T18 T18 T18
8. Waltz * [Pentangle] R4 T3
[Bonus Trucks from Sanctuary CD CMRCD131 2001]
9. Koan (Take 2) [Pentangle] T12
10. The Wheel [Jansch]
11. Veronica [Jansch]
12. Bruton Town (Take 3) T2 T3 T10 T13 T15 T17 T18 T18 T18 T18
13. Hear My Call [Staple Singers] T2 T3 T10 T15
14. Way Behind The Sun T2 T2 T3
15. Way Behind The Sun (Instrumental) * T2 T2 T3
注)11.の曲名はCD盤では「Casbah」と表示されているが、混乱を避けるため、当初タイトルの「 Veronica」とした。
特記ない場合、トラディショナル
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ペンタングルのデビュー作。バートにとって「Nicola」 1967、ジョンにとっては「Another Monday」 1966 R4 に続くレコード。「Pentangle」は造語で、「pentagram(星型5角形)」という言葉に「angle
(角度、視点)」の語尾を合成したものと思われる。この星型5角形は昔から哲学者や魔術師によって神秘的図形とされており、タロット・カードにもこの図形のカードがある。ペンタングルは特定のリーダーがいないことが特徴で、同グループによるオリジナル曲は総て5人の共作としてクレジットされる等、メンバーは音楽的に対等とする姿勢もこの星型5角形のイメージにぴったりであった。
グループの実質的結成は1967年で、当時共同生活を営んでいたバートとジョンは「Bert & John」1966 T1の音楽をさらに推し進め、当時のビートルズの「サージェント・ペッパーズ」に始まるサイケデリックとヒッピー・ムーブメントの流行を背景として、音楽に対する既存のジャンル分けを否定。トラッド、フォーク、ブルース、ジャズ、ロック、インド音楽、中世音楽を融合させた新しい音楽を作ろうとしたのだろう。ジャッキーは既にジョンとデュオで演奏活動を始めており、彼のソロアルバム「Another
Monday」 1966 R4にも参加していた。ダニーとテリーは当時のジャズ・ブルースで売れっ子のセッションマンで、アレクシス・コーナーのバンドの他、ハーモニカ奏者ダフィー・パワーのアルバムでは、ジャズギタリストとして大成するジョン・マクラグリンと共演している。バートとジョンのダブル・ギターの他に、器楽的な声の持ち主で歌心のある実力派女性ボーカリスト、ブルースのみならずジャズもこなす強靭かつ柔軟なリズム・セクションがそろって、初めてあの独特な音楽が可能となった。さらにキーボードのない編成がストリング・バンド特有の透明感あふれる音をもたらし、それがバンドの個性になった。
このファースト・アルバムはシェル・タルミー(ザ・フーのプロデュサー)のプロデュースにより録音されたが、4チャンネル録音特有の生々しい音作りである。デビュー盤ということもあり、演奏にかける各人の気迫がぐいぐいと伝わってきて、ジャズのインタープレイを聴いている様な迫力とスリルを味わうことができる。1.「Let
No Man Steal Your Thyme」の出だしは25年後の今日聴いてもなお衝撃的だ。「美しく優しいお嬢さんたち、気をつけなさい....あなたの庭を守りなさい。男達にタイム(じゃこう草)を摘まれないように....」という、純潔を説くトラッドによるオープニングはいかにもストイックで、当時のサイケでフリー世間にはどう受け止められたのだろうか。ミディアム・テンポの演奏は快調で、ダニーがアルコ(弓弾き)奏法でシンセサイザーの様な重低音をだして効果を上げている。2.「Bells」はジャズ・ブルース調のインスト物で、ジョンの音楽性がかなり出ており、ギターのスタイルに如実に現れている。ジャズ的なドラムソロをはさんだ進行。3.「Hear
My Call」はアメリカのゴスペル・グループ、ステイプル・シンガーの曲だが、4ビートの洗練されたアップテンポのアレンジには不思議な浮揚感がある。ダニーのよく動くベースが凄く、ジョンのリード・ギターもかっこいい。4.「Pentangling」のメロディーは当時のサイケデリック時代を感じさせるもの。歌はバートとジャッキーのデュエットで、途中ベースの独演が入り、最後は曲想が変わる。B面は5.「Mirage」はスローでストイックな歌詞とメロディーを持つラブソング。2.「Way
Behind The Sun」は典型的なアメリカン・ブルースをドラムのブラッシングによりアップテンポにし、ジャッキーのフルートのようなボーカルを乗せて個性的な出来上がり。7.「Bruton
Town」は唯一のトラッドで、残酷な兄達に愛する恋人を殺された娘のバラード。同じ様な伝承がヨーロッパのいたる所にあるそうだ。私はこの曲を聴くと、以前観たことのあるパゾリーニ監督の映画「デカメロン」のエピソードのひとつを鮮やかに思い出す。娘の怒りや嘆きが間奏におけるリズムセクションの緊張感とジョンのギターソロによって見事に表現された。8.「Waltz」は極めてジャズ的なインスト。テーマはジョンの3枚目のソロアルバム「Another
Monday」1966 R4 に収録されていたものの再演。中盤のバートのブンブン唸るギターはバート1枚目のソロに収録のインスト曲「Casbah」のモチーフが応用されている。
バートとジョンのギターの素晴らしさは言うまでもないが、特筆すべきはダニーとテリーのリズムセクションで、繊細でしなやかな切れ味とパワフルな重量感を併せ持ち、1968年という時代におけるロック音楽の水準の遥かに先を行っている。
サンクチュアリ・レコーズによるリイシュー盤について
2001年に発売された同 CDは既存曲については音質が大幅な向上し、より一層生々しいサウンドが楽しめることに加えて、貴重なアウトテイクが7曲も、ボーナストラックとして追加収録された。9.「Koan」はCDでは(Alternate
Version)と表示されているが、未発表曲だ。極めてジャズ的な演奏だが、他のインストものに比べて若干ラフな感じがする。10.「The Wheel」は、バートのソロアルバム「It
Don’t Bother Me」1965に収録されていたインストもので、ここではテリーのパーカッションと共演している。11.「Veronica」は、今回のボーナストラックの超目玉だ。バート1枚目のソロアルバム収録の傑作インスト曲を、ベースとドラムスをバックに、よりハードでソリッドな乗りで展開している。録音の良さもあって、ギターの切れ味の鋭さは比類のないものであり、全キャリアを通じ、彼のギター演奏の最高傑作と断言できるものだ。12.は、オリジナル版の7.ではバートとジャッキーで歌っているのに対し、ここではジャッキーひとりで歌っている。13.は3.とそれほど変わらないが、ジョンのリードギターの別テイクが聞けるだけで満足だ。14.は6.と比べて、ジョンのリードギターが自由気ままにプレイする他、ジャッキーのボーカルがワイルドだ。15.はインストメンタル・バージョンで、ジョンのボトルネック・ギターが活躍、サウンド的にはブルース曲の「Roll
And Tumblin’」そのものだ。
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T3 Sweet Child (1968) Transatlantic Records TRA178
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Bert Jansch: Guitar, Vocal (1.5.12.13.14.26)
John Renbourn: Guitar, Vocal (3,8,18,29)
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Glockenspiel, Vocal (21)
A Shel Talmy Production
Damon Lyon-Shaw: Engineer
Peter Blake: Album Design
[Side A]
1. Market Song [Pentangle] T13 T17 T18
2. No More My Lord T10 T17 Q6
3. Turn Your Money Green [Furry Lewis] R12 R27 T10 T15
4. Haitian Fight Song * [C. Mingus] T3 T15
5. A Woman Like You [Jansch] T13 15
6. Goodbye Porkpie Hat * [C. Mingus] R20 T1 T17 V2
[Side B]
7. Three Dances *
a Bransle Gay [Claude Gervaise] R6 T10 K1
b La Rotta R6 T10
c The Earl Of Solisbury [W. Bird] R5 R5 R13 T10 K5
8. Watch The Stars T14 Q6 V9 K2
9. So Early In The Spring R13 R17 R19 R20
10. No Exit * [Jansch, Renbourn] T1
11. The Time Has Come [Ann Briggs] T1 T10 T15 T17 Q6 Q35
12. Bruton Town T2 T2 T10 T13 T15 T17 T18 T18 T18 T18
[Side C]
13. Sweet Child [Pentangle] T10 T12 T18
14. I Loved A Lass T10
15. Three-Part Thing * [pentangle]
16. Sovay T10 T18 T18 T18
17. In Time * [Pentangle] T3 T9 T17 V7
[Side D]
18. In Your Mind [Pentangle] T10
19. I've Got A Feeling [Pentangle] T9 T10 T13 T14 T16 T17 T18 T18 T18
T18
20. The Trees They Do Grow High R5 R18 R19 R27 T3 T10 T16
21. Moon Dog [Cox] T10 T13
22. Hole In My Coal * [Ewan MacColl] T3
楽譜: 7. G1 G2,aのみ F3 8. F2
Side A & B Recorded Royal Festival Hall,London June 29, 1968
Side C & DRecorded At IBC Studios,London August, 1968
[Bonus Truck for CD by Sanctuary Record Group 2001 CMDDD132]
23. Hear My Call [Staple Singers] T2 T2 T10 T15
24. Let No Man Steal Your Thyme T2 T10 T15 T17 T18 T18 V7
25. Bells * [Pentangle] T2 T15 V7
26. Travelling Song [Pentangle] T8 T10 T15 V7
27. Waltz * [Pentangle] R4 T2
28. Way Behind The Sun T2 T2 T2
29. John Donne Song R2 R3
23〜29:Recorded At Royal Festival Hall, London June 29,1968
30. Hole In The Coal (Alt. Version) [Ewan MacColl] T3
31. The Trees They Do Grow High (Alt. Version) R5 R18 R19 R27 T3 T10
T16
32. Haitian Fight Song * (Studio Version) [C.Mingus] T3 T15
33. In Time * (Alt. Version) [Pentangle] T3 T9 T17 V7
30〜33: Recorded At IBC Studio, London August, 1968
4. 5. 9. 21. 32 はジョン不参加
特記ない場合、トラディショナル
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テリー・コックス「幸運なことに隣人は耳の不自由な人で....。」バート・ヤンシュ「この仕事はビールを飲むためにやっているのさ。」ジャッキー・マクシー「以前は妹と一緒に歌っていたけど別れて、男4人に替えたの。」ジョン・レンボーン「ビッグ・ビル・ブルーンジィの様に弾けるようになりたいと思って始めたんだ。そして今もそう頑張っているよ。」ダニー・トンプソン「私はファースト・グリーン・ジャケッツ・インファントリー・マーチング・バンドでリード・トロボーンを吹いていた。それからダブル・ベースを始めてから、行進しなくなったな。」ふたつ折りレコード・ジャケットの中の見開きに書かれた各人のコメントと写真が、それぞれの個性を実によく表している。ペンタングル2枚目のアルバムはデビュー作と同じ年に2枚組で発売された。売れ行きは1枚目と同じくまあまあで、初めての大ヒットは次作「Basket
Of Light」 1969 T4 になってから。
1枚目はロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールでのライブ録音。これはファースト・アルバム発売後、腕利きマネージャーのジョー・ラスティグにより大がかりに企画されたツアーの初期の頃で、観客の拍手の大きさから大盛況であったことがわかる。1968年という時代のため高性能のPAもなく、ピックアップも現在の様に進歩していなかった。そのためバートとジョンはエレキ・ギター或いはアコースティック・ギターにピックアップを付けて演奏しており、その音はエレキ・ギターに近い音。ダニーとテリーのリズムセクションの巧さは当時のフォークロックの技術水準では驚異的で、彼らが当時いかにユニークな存在であったかが想像できる。
1.「Market Song」はグループ名を紹介するアナウンスと聴衆の拍手に続いて始まる。市場の様子を描いたもので、ダニーによる印象的なベースのイントロから始まり、バートとジャッキーの二重唱とリズムセクションの変拍子が活気あふれる喧騒を表現している。2.「No
More My Lord」はアメリカの黒人労働歌で「Never Turn Back」としても知られる。同年のQ6ではドリス・ヘンダーソンが歌っている。ジョンのクールなブルース調のリード・ギターとテリーのティンパニの様なドラムスをバックに、ジャッキーが伸びのある声で厳粛に歌う。3.「Turn
Your Money Green」はアメリカのブルース・シンガー、ファリー・ルイスの作品で、ジョン得意のアップテンポで手数の多いギターをバックにジャッキーとジョンが歌う。ペンタングル結成前のデュエットを組んでいた頃の雰囲気が想像できる1曲。
4.「Haitian Fight Song」はダニーのベース・ソロ曲(曲の一部でテリーが軽くリズムを刻む)。ジャズ・ベーシストのチャリー・ミンガスの曲でダニーの強靱なリズムとタッチの強い太い音が大迫力だ。次の5.「A
Woman Like You」はバートのソロ作品「Birthday Blues」1969にも収録されたが、このライブでは彼の独演。ホールのエコーによる自然な音の広がりがDチューニングのギターのドローン・サウンドを一層際立たせている。バートの緊張気味のボーカルがとても印象的。「ラブソングと黒魔術が一緒になった感じ」とコメントされているように、耽美的な美しさとエキゾチックな怪しさを持った曲だ。6.「Goodbye
Pork Pie Hat」は「Bert & John」 1966 T1 での鮮烈な印象はなく、非常にクールで落ちついた演奏。途中リズムセクションが加わると俄然ジャズ調の乗りとなる。
7.「Three Dances: Bransel Gay, La Rotta, The Earl Of Solisbury」はジョンによる14〜16世紀の中世ダンス曲のインスト小品集。テリーがグロッケンスピエル(携帯鉄きん)で伴奏をつけている。これらの作品のスタジオ録音が収録されている傑作ソロアルバムR4
およびR5 は、ペンタングルとしてのグループ活動と並行して作られたことになる。当時の彼の創造力がいかに旺盛で凄いものであったかわかる。8.「Watch
The Stars」はジョンのお気に入りのアメリカン・クリスマスソング。ボーカルはジャッキーとの2重唱。この曲もQ6 でドリスと一緒に歌っている。9.「So
Early In The Spring」はジャッキーの無伴奏ソロ。その後のジョンによる同曲の弾き語りバージョンと比較すると面白い。10.「No
Exit」はバートとジョンのふたりだけの緊張感ある演奏。11.「The Time Has Come」は「Bert & John」T1
と異なりジャッキーがボーカルを担当し、しなやかなリズムセクションが曲に彩りを添える。このライブ録音はデビューアルバム T2に収録されていた12.「Bruton
Town」で幕を閉じる。
スタジオ盤は8チャンネルで録音されたため、4チャンネルのファースト・アルバムよりも厚みのある音になった。迫力ある1枚目と傑作である3枚目の間にはさまって、いまひとつ印象が薄い気がするが、おいしい曲もしっかりあるぞ。13.「Sweet
Child」はバートとジャッキーのデュエットによるモダンな印象の曲。ジョンのリード・ギターが見本の様に良い出来。14.「I Loved A Lass」は誰もが一度は耳にしたことがあるメロディーのスコットランド民謡。15.「Three-Part
Thing」はバート、ジョン、ダニーの弓弾きによるインスト。最初はバロック調の対位法から始まり途中テンポを上げてジョンのダンス調のソロが入り最後はテーマに戻って終わる、3人の息がぴったり合った快演。16.「Sovay」は恋人の愛を試すために男装して恋人を襲い、愛の証の指輪を取り上げようとする勇ましい娘の話。ジャッキーが低めのキーで歌っている。17.「In
Time」は少しハードなジャズワルツ。ここでもチョーキングやビブラートを多用したジョンのず太い音のリード・ギターは圧倒的。珍しくバートが弦をビシビシ言わせながらソロを取る。
18.「In Your Mind」はバートがメインを歌い、ジャッキーがハミング、ジョンがコーラスを歌う少しエキセントリックな雰囲気の曲。19.「I've
Got A Feeling」は60年代初頭のマイルス・デイビスでも出てきそうな(実際のところ彼の「All Blues」のモチーフを借用している)クールなジャズ・ワルツ調のブルースで、ジャッキーの低めに抑えた伸びのある声が魅力的。20.「The
Trees They Do Grow High」は印象的なメロディーと歌詞のトラッドで、政略結婚のため10歳も年下の少年と一緒になった娘が主人公。結婚当時14才の夫は子供を一人設けた後に16才で死んでしまい、彼女は生まれた息子に残りの人生をかける。ギターはジョン1本で演奏されていて、バートは参加していない。ちなみにジョンのソロアルバム「The
Lady And The Unicorn」1970 R6で素晴らしいインスト・バージョンを聴くことができる。21.「Moon Dog」は、テリーコックスのパーカッションとボーカルだけの曲。ヒッピー風の容貌と特異な音楽性でカリスマ的人気のあった盲目のジャズ・パーカッショニスト、ルイス・ハーディンに捧げたもので、途中のソロが聞き物。22.「Hole
In My Coal」はイワン・マッコールの作品をインストにしたもの。バートとダニーのベースが奏でるリフに、テリーのパーカッションが絡み、ジョンがアドリブを展開、ダニーのベース単独ソロの後にテーマに戻る。ペンタングルのシリアスなインスト作品が収録されるのは本アルバムが最後となった。
サンクチュアリー・レコーズからのリイシュー盤について
1988年にドイツのレーベルから再発されたCD盤では、CD1枚に収めるため、6. 21. 22.の3曲がカットされたが、その後全曲収録された完全盤が発売され、2001年サンクテュアリから発売された2枚組には多くのボーナストラックが収録された。
まずは、オリジナル盤で1枚目を構成していたフェスティバル・ホール・ライヴのアウトテイクが7曲(23〜29)も収録だ! 解説には場所の録音日の明記はないが、観客の歓声と音像が同じため、まず間違いないだろう。これは昔からこのライブ盤を愛聴していたファンにとっては、生唾ごっくんの興奮ものだ。23.「Hear
My Call」 をはじめとして、ほとんどの曲が前作P1に収録されていたもので、LPの場合は1枚両面で50分位が限度という収録時間の関係と、前作との重複を避けるためにカットされたもの。ダニーのベースの動きが独創的だ。バートが「これは警告の歌です」と言って始まる24.「Let
No Man Steal Your Thyme」は、ジャッキーの決然とした歌声が心に響く。25.「Bells」 27.「Waltz」は、オリジナル盤のライブには収録されていなかったアップテンポのジャズ・インストルメンタルで、レンボーンがエレキギターを使用しているため、サウンドはよりジャジーかつブルージー。バートのギターがフィーチャーされる部分や、ベース、ドラムソロなど緊密なインタープレイが楽しめる。
特にベースソロは T2のスタジオ録音よりもずっといい。26.「Travelling Song」はバートの紹介によると、酔っ払って車を運転するイメージだそうだ。シングルカットされ、オリジナルアルバム未収録になった曲で、CDでの初出はT8で、最近はサンクチュアリーから発売された「Light
Flight(Anthology)」で入手可能。28.「Way Behind The Sun」 はスタジオ盤よりも少しテンポを落としてじっくり演奏される。29.」「John
Donne Song」はジョンの弾き語り。当該ボーナストラックを追加するにあたり、LP盤において12.の終了後長々と入っていた拍手が短めにカットされ、23.へ自然につながるように修正された。なお2007年に発売されたペンタングルのボックスセットには、当該ライブ音源が収録されたが、ボックスセットでは曲数は同じものの、聴衆の拍手、バートやジョンによる曲の解説、チューニングノイズがカットされ、曲順も全く異なるものに並べ替えられた。詳細はT12
を参照してください。なおボックスセットの発売、および2007年2月のラジオ番組 「BBC Radio2 Folk Awards」でのリユニオンなどをきっかけとして再評価の機運が高まり、2008年6月29日に同じ場所で、再結成ペンタングルによる40周年記念コンサートが開催され、さらに7〜8月には英国12都市でコンサートが行われた。さらにバートとジョンの没後、2016年になって、その際のライブ盤「Finale」
T17が発売された。
30〜34はスタジオ録音のアウトテイク。30.「Hole In The Coal」におけるジョンのリードギターソロは全く違っていて、ここではシタールのようなオリエンタルなスケールによるサウンドだ。このバージョンではダニーのベースソロはなく、2分30秒で終わってしまう(22は5分を超える演奏時間)。31.「The
Trees They Do Grow High」はオリジナルの20.とほぼ同じ内容だ。32.「Haitian Fight Song」はオリジナルではライブ盤に収録されたいたダニーのベース・ソロのスタジオ録音版だ。テーマに続く部分テリーのブラッシュ・ワークによるサポートがしばらく続き、ダニーひとりの演奏になるところが少し異なっている。33.「In
Time」もジャズ調のインストで、残されたペンタングル録音にはこの手の演奏が少なかったので、大歓迎です。ちなみに30. 33.両方について、オリジナル版と異なって、リミックスの操作によりギターやベースのソロが左右のチャンネルを行ったり来たりしないので、より落ち着いて聞くことができる。
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T4 Basket Of Light (1969) Transatlantic Records TRA205 |
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Bert Jansch : Vocal, Guitar, Banjo(9)
John Renbourn : Guitar, Sitar (2,9), Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Glockenspiel
A Shel Talmy Production
Damon Lyon-Shaw, John Pantry: Engineer
Peter Smith : Photograph
Diogenic Attempts Ltd.:Album Design
[Side A]
1. Light Flight [Pentangle] T9 T9 T10 T13 T17 T18 T18 T18 T18
2. Once I Had A Sweetheart T17
3. Springtime Promises [Pentangle] T10
4. Lyke-Wake Dirge T10
5. Train Song [Pentangle] T9 T10 T13 T18 T18
[Side B]
6. Hunting Song [Pentangle] T9 T9 T14 T17
7. Sally Go Round The Roses [Sanders, Stevens] T4 T4 T10 T12
8. The Cuckoo R7 T9
9. House Carpenter T9 T10 T13 T17
[Bonus Trucks from Sanctuary CD 2001 CMRCD207]
10. Sally Go Round The Roses(Alternate Version) [Sanders, Stevens] T4
T4 T10 T12
11. Sally Go Round The Roses(Alternate Version) [Sanders, Stevens] T4
T4 T10 T12
(12. Cold Mountain)
(13. I Saw An Angel)
注)12,13 はシングルB面曲。本書ではT8に掲載したため、ここでは重複曲として()表示にした。
特記ない場合、トラディショナル
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このアルバムのふたつ折りジャケットの中開きに「All the instruments played on this album are acoustic」と書かれていてるが、現代のアンプラグド・ブームを予感させるコメントは、当時のロックブームの中での彼らの自負みたいなものを感じる。これは文句なしの傑作だ。イギリス本国では1969年10月の発売後大ヒットし、ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌の7位にランクされ、ニュージーランドでは何と1位になったそうだ。アルバムを聴いて感じるのは録音・ミキシングが良くなったことで、特に彼ら特有の弦を弾く音やシンバルの繊細な音が、透明感ある音場のなかでとても生々しくソリッドに捉えられている。演奏にかける意気込みも相当なもので、バンドの創造力がピークであったことは明らか。
1.「Light Flight」はBBCのテレビドラマ「Take Three Girls」のテーマとして作られたものを改作したもので、シングル・リリースされた。変拍子によるアップテンポの曲でバートのギター・リフとリズムセクションが大活躍する。ダニーのウッドベースによる強靱なリズムとテリーの複雑かつ繊細なジャズ・ドラミングは、アコースティックでありながら極めてハードなドライブ感があり、このグループに唯一無比の特徴をもたらしたことがよくわかる。2.「Once I Had A Sweetheart」はおなじみのメロディーのアメリカン・トラッドでジョーン・バエズの歌でも有名。ここでもテリーの演奏は光っていて、アイリッシュ調のパーカッションとグロッケンシュピールの音がこの曲に透明感と深みを与えている。なおここでは長調のメロディーだが、原曲のひとつイギリスのトラッド「As Sylvie Was Walking」のマイナー調のメロディー(バートのソロ作「Rosemary Lane」1971 に収録)と比較すると面白い。3.「Springtime Promises」はバートのリードボーカルでダニーのベースの存在感はさすが。4.「Lyke-Wake Dirge」はテリー、ジャッキー、ジョンによるほとんどアカペラに近いスコットランド方言による宗教歌。歌詞に「キリスト」の名が出てくるが、キリスト教以前の原始宗教の歌がルーツで、死者にむけて歌われる通夜の曲である。死後に魂が生前の善行によって裁きをうける話で、ハリエニシダにさされたり火に焼かれる様は日本の「三途の川」や「賽の河原」に近いイメージである。5.「Train Song」はダークなラブソングで、1.と同様のすさまじいリズムに乗ってバートが歌うとても印象的な曲。
6.「Hunting Song」はトラッド調の美しいメロディーで歌われる魔法の角をめぐる話。7.「Sally Go Round The Roses」はジャイネッツというフィル・スペクターのプロデュースによるグループの曲で、60年代を感じさせる歌詞とメロディー、軽やかなリズムが印象的。ボーカルはジョンとジャッキーの掛け合い。ジョンのギターが聴きもの。8.「The
Cuckoo」はバートがサセックスの隣人の子供に習ったというトラッド。男に捨てられた娘の嘆きが切々と歌われる。最後はアメリカのトラッド 9.「House
Carpenter」で、原曲は悪魔に変装した恋人の話であるイギリスの「The Demon Lover」。大工の妻が男と駆け落ちをするが、乗った船が暴風雨に遭い船は沈没し女は死んでしまう。捨てた子供を思い苦しむ母親、死に直面した時の後悔と地獄行きを観念する女の心情がやるせない。なおこの曲はジョーン・バエズも歌っているし、ボブ・ディランによる1964年録音の未発表テイクが「Bootleg
Series」に収録された。演奏面ではジョンによるシタールの演奏が効果的で興味深い。従来の作品と異なりインスト曲が全くないのに演奏面、特にリズム・セクションの存在感がはるかに強烈であることが面白く、グループとしての音楽的なまとまり、一体感、パワーという意味で当時の充実振りを物語っている。
サンクチュアリー・レコーズからのリイシュー盤について
2001年に発売されたリイシュー盤には、4曲のボーナストラックが収録された。うち12. 13.の2曲は、当時発売されたシングル盤のB面でオリジナルLPには未収録だったもの。いろんな会社がペンタングルのベスト盤を製作しているが、これらの曲が含まれたものはあまりなく、1992年にドイツのDemonが発売した「People
On The Highway」T8が初CD化だろう。それ以降でこの2曲が聞けるのは、本作品と2007年に発売されたボックスセット T12だ(詳細はT8の解説を参照してください)。
私にとって目玉は10. 11.の2曲で、これらは7.の別テイクだ! この曲は速いテンポで演奏されるレンボーン主導の曲で、途中フィーチャーされる、ギブソンJ-50の生音を生かした、ジョンのリードギターが売り物の曲。今回の別テイク2バージョンで、彼のインプロヴィゼイションの妙をたっぷり楽しむことができる。
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T5 Cruel Sister (1970) Transatlantic Records TRA228 |
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Bert Jansch: Vocal, Guitar, Recorder, Dulcimer (1), Concertina (3)
John Renbourn: Guitar, Sitar, Recorder, Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Tamborine, Vocal
Bill Leader: Producer
John Boys: Engineer
[Side A]
1. A Maid That's Deep In Love R12 T10 T17 V9
2. When I Was In My Prime
3. Lord Franklin R24 T10 V5 V7 K2
4. Cruel Sister R12 R27 T17 T18
[Side B]
5. Jack Orion Q2
〔楽譜掲載〕 3 G3 G11 K2
2.はレンボーン不参加
すべてトラッド、歌詞付
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ジャケットの中世風の版画からトラディショナルな雰囲気が匂うこの作品は、忙しいスケジュールによって満足な構想や曲作りの時間がない状態で製作したものと思われ、その出来は賛否両論である。トラッド好きのファンにとっては、以前東芝から発売された際に付けられた宣伝文句が当てはまると思うし、よりモダンなサウンドを嗜好する人は、リズム・セクションの自由奔放な動きが少なく、バートやジョンのギターも地味で見せ場がほとんどない単調な音作りと思うだろう。
以下1曲づつ解説してゆきたい。1.「A Maid That's Deep In Love」は恋する男を追うために男装して船員になった娘の話で、男と信じて「お前が女だったらなあ」とぼやく船長を尻目に、目的地に着くとさっさと着替えて陸に下りてしまい、その後に恋に落ちた船長が残されるという話が、魅力的な語り口で展開される。ただしジョンのエレキギターのオブリガードを含む演奏はペンタングルとしては地味で、バートによる始めてのダルシマー演奏が面白いかな。2.「When
I Was In My Prime」は、「Sweet Child」T3 の「So Early In The Spring」に続くジャッキーの無伴奏ソロ作品の2曲目。男の誘惑に心を乱され傷つく娘の話で、淡々とした彼女のボーカルには感情を押し殺した品性を感じる。ジョンのボーカルによる
3.「Lord Franklin」は、ジョンのスリーフィンガーとエレキギターのオーバーダビング、バートのコンサーティーナ(ピアニカのような音)、ジャッキーのハミング・ボーカルをバックにジョンが訥々と歌い、素晴らしい出来。1975年頃オーク出版から発売された楽譜集「John
Renbourn Songs For Guitar」G1における彼のコメントから。「『フランクリン婦人の嘆き』という名前でも知られるこの曲は、1845年にジョン・フランクリン卿によって行われた北極探検についての物語である。探検は北西航路を発見し成功を収めたが、彼と乗員はそのために命を落としたのである。」単なるフランクリン卿への思いだけでなく夢を追いかけた人間に対する畏敬と憧れが込められた佳曲で、その歌詞と印象的なメロディーは何度聴いても胸にしみるものがある。ボブ・ディランは英国滞在中にこの曲のメロディーと歌詞をマーチン・キャシーから教わり、後に一部を借用して「Bob
Dylan's Dream」という人生をやり直す夢を語る曲を作った(2枚目のアルバム「Freewheelin'」1963に収録)。
4.「Cruel Sister」は嫉妬のために妹を殺した残酷な姉の話で、妹の亡骸を見つけた吟遊詩人がその骨と髪で竪琴を作り、その竪琴が真実を語るという筋のバラッド。19番の歌詞のあい間毎に「草で箒を作りなさい……
ファラララララララララ」という囃子言葉が入る。これは踊り歌の形式でリーダーが歌い、周りの人々が囃すかたちの掛け合いを模したものだそうだ。LPのB面を占める5.「Jack
Orion」の進行について。最初のフィドル弾きジャックの紹介はバートのソロ・ギターとボーカル。ダニーのベースが加わりテリーのハーモニー・ボーカル。次にジョンのエレキギターのオブリガードが加わり、ボーカルがジャッキーに交代する。最後にドラムが揃って全員のコーラスとなり、娘がジャックと逢引きの約束をするあたりの盛り上がり。娘とジャックに成りすました下男との逢引きの会話ではメロディーとリズムが変わる。その後男の仕業に気づいた娘が自殺するところで間奏となるが、ジャックの激しい悲しみと怒りがバートの執拗なギター・リフとジョンのエレキギターのソロで表現され、狂おしいる感情の迸りがよく出ていて、本曲演奏部分最大の山場だ。バートのソロアルバム・バージョンと異なり、ジャックは悪い下男の首をはねた後、自らの命を絶つところでお終いとなる。
本作が好きか否かは、リスナーの音楽の志向によるものなので、是非トライして自分で確かめてみてください。
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T6 Reflection (1971) Transatlantic Records TRA240 |
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Bert Jansch: Vocal, Guitar, Banjo (1,5)
John Renbourn: Guitar, Sitar (5), Harmonica (3,8), Piano (5), Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Piano (7), Vocal
Bill Leader: Producer
Nic Kinsey: Engineer
[Side A]
1. Wedding Dress T11 T17
2. Omie Wise T13 Q28
3. Will The Circle Be Unbroken T10 T11 T13 T13 T17
4. When I Get Home [Pentangle] T13 T13
5. Rain And Snow T12 T13
[Side B]
6. Helping Hand [Pentangle]
7. So Clear [Pentangle] T12 T13 T13
8. Reflection [Pentangle] T11 T12 T13 T13
〔楽譜掲載〕 7. G3
特記ない場合すべてトラディショナル
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この時期のペンタングルのメンバーは度重なるコンサートやラジオ、テレビ出演に疲れ果て、メンバーの人間関係にひびが入りつつあった頃で、二日酔い、スタジオへの遅刻などが相次ぎ、プロデューサーのビル・リーダーはそのとりなしに相当苦労したらしい。ただしその緊張感が淡々とした雰囲気ながら、モダンな雰囲気に溢れ、それなりに良い作品を生み出した。ジャケットは中折りと合わせて計82枚に及ぶメンバーのスナップ写真がセンス良く配置されている。それらはコンサート、リハーサル、スタジオ風景や宣伝用スナップ等色々な表情のものがあり、数少ない彼らの写真が大量に入手できたことで有り難い贈り物であった。
トラッドの1.「Wedding Dress」はバートのバンジョーとダニーの弓弾きベースによる個性的なサウンド。ジャッキーのリードボーカルにテリーがハーモニーを付ける。2.「Omie
Wise」はドック・ワトソンの1963年の初ソロ・アルバムのバージョンとほとんど同じ歌詞。ジョン・ルイスがオミー・ワイズを誘惑し妊娠した彼女を殺してしまう殺人のバラッドで、トラッド独特の磨き上げられた語り口で事件の顛末を語っている。ボーカルはバート。3.「Will
The Circle Be Unbroken」の邦題は「永遠の絆」で、カーター・ファミリーの名演でお馴染みのもの。愛する人を見送る葬送の歌で、死後の天上の世界に思いをはせるアメリカのトラッドの名曲。ここでは正攻法のアレンジであるが、アメリカ人の泥臭い演奏とは一風異なる名演となった。ボーカルはジャッキーで、ジョがハーモニーを付ける。4.「When
I Get Home」はA面では唯一のペンタングルのオリジナルで、ゆるやかで小気味良いリズムから急転直下激しく変化し、またもとに戻るというしなやかで柔軟なリズム隊が素晴らしい。ジョンのエレキ・ギターのオブリガードも渋くて最高。5.「Rain
And Snow」は人生に疲れた男が「冷たい雨と雪の降る地に埋めてくれ」と訴えるトラッド曲で、バートのバンジョーとジョンのシタールのからみが面白い。この曲もジャッキーのボーカルにテリーのハーモニーが付く。本アルバムではテリーのハーモニー・ボーカルが大活躍する。珍しくピアノの音が聞こえるが、ジョンによる演奏。
B面は彼らのオリジナルで、当時の流行のせいか比較的抽象的で難解な歌詞。6.「Helping Hand」はテリーのリードボーカルで、ジャッキーがハーモニーを担当。しがらみや悩みを捨ててリラックスして愛する人と自由に生きようと諭す哲学的な歌。メロディーはジャズ的でリズムもモダンな感じ。7.「So
Clear」はペンタングル作とあるが、ジョン中心の曲で彼のソングブックに収められた。アコースティック・ギターとエレキ・ギターのアンサンブルが印象的な静かな歌だが、ジョンのボーカルは内に炎を秘めており、うまいとはいえないがとても味わいがある。ここではエレキ、アコギいずれもジョンが弾いていて、バートは不参加。8.「Reflection」は11分を超える大作で、プログレッシブ・ロック的な歌詞とサウンドで、テリー好みの曲。変拍子のクールなサウンドをバックにジャッキーが鏡面の様な声で歌う。ジョンによるブルース・ハープの伴奏が効果的。ダニーのベースはこの曲にプログレッシブなサウンドを与えることに大いに貢献している。最後のヴァースはまたもやテリーのハーモニーボーカルが加わる。
全体的にクールなサウンド。演奏面で興味深いのはジョンのリードギターで、本作はすべてエレキ・ギターによる演奏だが、抑制のきいた伴奏やソロは初期の頃のアコースティックによる豪胆なサウンドと比較すると対象的である。トラッドは正統的なアレンジ(ただし楽器はバンジョーやシタール等で工夫)である一方、オリジナルは思い切りモダンで歌詞も難解、めりはりのきいた面白い出来上がりとなった。当時流行のプログレッシヴ・ロック等の格調高い音楽を彼らなりに目指した個性的な意欲作。
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T7 Solomon's Seal (1972) Reprise K44197 |
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Bert Jansch: Vocal, Guitar, Banjo (4,9), Dulcimer (6)
John Renbourn: Guitar, Sitar (3), Vocal, Recorder (3,4), Harmonica (9)
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Vocal
John Wood & Pentangle: Producer
John Wood: Engineer
Chris Ayliffe: Cover Design
[Side A]
1. Sally Free And Easy [Tawney] R2 T12 T16 T17 T18
2. The Cherry Tree Carol T9
3. The Snows [Pentangle] R25 R26 T17 V8
4. High Germany R19
5. People On The Highway [Pentangle] T9 T11 T17 T18 T18
[Side B]
6. Willy O'Winsbury R7 R12 T11 T12 T16
7. No Loves Is Sorrow [Pentangle] T9 T11 T12
8. Jump Baby Jump [Pentangle] T9
9. Lady Of Carlisle T9 T10
〔楽譜〕 2,6 G3
特記ない場合はトラディショナル
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「ソロモンの封印:三角形の辺を互い違いに入り組ませた五角ないし六角の星型の印で神秘的、または魔除けの力があるとされた」初期ペンタングルの最後に相応しい神秘的なアルバム・タイトルである。表紙はその五角形・六角形の印のなかに収録曲のイメージが描かれたシンプルで品格のあるデザインである。この作品では初期の録音で感じられたメンバー間の濃密な一体感は感じられず、皆淡々と演奏しているように聞こえる。前作「Reflection」
1971 T6 での気負った姿勢はなく、ナチュラルな歌詞と音作りながらも本作のほうが深みがある。地味な演奏だが、良い曲も多くなかなかの出来と思う。リプリーズ・レコード(日本盤はワーナーパイオニア)から発売されたが早々に廃盤になり、マスターテープが誤って廃棄されたとのことで、長年CD化されず幻の名作と言われていたが、最近ジョンの自宅からテープが発見され、2004年にめでたくCD化された。
1.「Sally Free And Easy」はシリル・トーニー作の娘に恋した船乗りの歌で、バートのリードボーカルとジャッキーのハミング。ダニーのベースが強力な効果を上げ、モダンなサウンドを生み出している。3.「The
Snows」は「雪はじき溶ける、風がうたいはじめれば……」という出だしの季節感溢れるトラッド調の歌詞をバートが歌う。ジョンのシタールの演奏がいい雰囲気。5.「People
On The Highway」は印象的なメロディーと人生を感じさせる歌詞、完璧なアレンジと余裕のある演奏でペンタングルのオリジナル諸作品中で最高の出来のひとつとなった。7.「No
Loves Is Sorrow」は典型的なバート・スタイルのストイックなラブソング。8.「Jump Baby Jump」はギリシャ神話のイカルスの飛翔を連想させる歌詞で、独特の浮遊感のある佳曲。これら3つのオリジナル曲はバートとジャッキーのデュエットで、とても味のあるボーカルである。
次はトラッド曲にかんする解説。2.「The Cherry Tree Carol」は、上述のレンボーンの楽譜では「Joseph And Mary」というタイトルで紹介されている。そこから引用。「これは『Joseph And
Mary 』という伝承のキャロルの曲と、『The Cherry Tree』キャロルのふたつの異なるバージョンの歌詞を合わせたもの。ヨセフとマリアの会話はベツレヘムへの旅の途中のもので、15世紀の宗教劇『奇跡の誕生と助産婦』に記録された。」サクランボの木をめぐって腹中のイエスが起こした奇跡についての歌。4.「High
Germany」は悲惨な敗戦とそれに翻弄される女達の嘆きの歌。「高地ドイツ」とは南ドイツのこと。
6.「Willy O'Winsbury」は王様の娘と恋仲となった若者が娘と結ばれたが、領地持ちの貴族にしようとする王の誘いを振り切って、「女を純白の馬に乗せ自分は灰色の馬に跨り、彼女を長い夏の日の大地を駆け抜ける自由な貴婦人にした」というバラッド。歌詞とメロディーの美しさと爽やかなアレンジのために、日頃の束縛から開放されたようなカタルシスを感じる素晴らしい出来上がり。最後の曲
9.「Lady Of Carlisle」はジョーン・バエズも歌っていたアメリカのトラッドで、カーライルに住んでいた貴婦人が中尉と船長の二人から求愛を受けたが、真実の愛を確かめるためにライオンの穴に扇を投げ入れて、取り戻した人に総てを捧げると言う。中尉は「愛のために自分の命を賭けることはしない」と断ったが、船長は勇敢にも穴に入り無事に扇を取り戻して貴婦人の愛を獲得する。なんか教訓めいた寓話のようなお話である。ここではジャッキーを中心にジョンとテリーがボーカルを担当している。ジョンのハーモニカがブルースの味を出して、なかなかうまいのに驚かされる。
全体的な印象では、オリジナルはバートの音楽性が中心でトラッドではレンボーンがリーダーシップをとっているようだ。ともあれこの二人が組んだ最後の作品となった。
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T8 People On The Highway (1992) Demon TDEMCD |
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Bert Jansch : Guitar, Vocal
John Reburn : Guitar
Jacqui McShee : Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox : Drums
Colin Haper: Liner Notes
1. Travelling Song (1968) [Pentangle] T3 T10 T15 V7
2. I Saw An Angel (1969) [Pentangle]
3. Cold Mountain (1969) [Trad.] T10
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トランスアトランティック・レーベル作品のベスト盤。「The Pentangle」T2より4曲、「Sweet Child」T3より5曲、「Basket
Of Light」T4より4曲、「Reflection」T6より4曲収録されている。特にLP未収録だったシングル盤3曲が収録されたことはとても有り難いことであった。ペンタングルのベスト盤は、異なるレーベルよりたくさん発売されているが、これら3曲が含まれているものはあまりない。
1.「Travelling Song」は、デビューアルバム「The Pentangle」T2 に先がけて発売された最初のシングル盤のA面で、交通事故で亡くなったバートの友人を悼んで作られたもの。酒を飲んで車を飛ばしまくるイメージのアップテンポの曲。バートのリードとジャッキーのハーモニー・ボーカル、バートとジョンのギターの絡みも良い出来。途中バックでストリングスが流れることが面白く、シングル盤としてポップなサウンドで受けを狙ったらしいが、ヒットしなかった。1996年、BBCテレビ出演の際の本曲演奏場面が
V7 で発掘された。
2.「I Saw An Angel」はシングル「Once I Had A Sweetheart」(「Basket Of Light」T4 に収録)
のB面として1969年5月に発売された。コリン・ハーパー氏による解説にある通り、サウンド的にペンタングルというよりもバートのソロアルバム「Birthday
Blues」 1969 のものに近い。リードはバートで、ジャッキーのハミングボーカルが遠くで聞こえる。
3.「Cold Mountain」は1969年10月にリリースされたシングル「Lightflight」(「Basket Of Light」T4
に収録) のB面。当時のステージ・レパートリーだったようで、ワンテイクで録音された。ジョン主導によるアップテンポの軽快なアメリカン・ソングで、ボーカルはジョンとジャッキー。短く荒っぽいながらもなかなか面白い曲だ。
本作は現在廃盤になったようで、1.はサンクチュアリーから発売されたベスト盤「Light Flight(Anthorogy)」で、2. 3.が同レーベルからの「Basket
Of Light」T4のボーナストラックで入手可能。また2007年に発売されたCD4枚組ボックスセット「The Time Has Come 1967-1973」
T12 には3曲とも収められた。
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T9 Live At The BBC (1995) Windsong BIJCD013 |
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Bert Jansch: Vocal, Guitar
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Percussion, Vocal
1. Cuckoo Song R7 T4
2. Hunting Song [Pentangle] T4 T9 T14 T17
3. Light Flight [Pentangle] T4 T9 T10 T13 T17 T18 T18 T18 T18
4. People On The Highway [Pentangle] T7 T11 T17 T18 T18
5. No Love Is Sorrow [Pentangle] T7 T11 T12
6. Cherry Tree Carol T7
7. Jump Baby Jump [Pentangle] T7
8. Lady Of Carlisle T7 T10
9. Train Song [Pentangle] T4 T10 T13 T18 T18
10. Hunting Song [Pentangle] T4 T9 T14 T17
11. Light Flight [Pentangle] T4 T9 T10 T13 T17 T18 T18 T18 T18
12. In Time * [Pentangle] T3 T3 T17 V7
13. House Carpenter T4 T10 T13 T17
14. I've Got A Feeling [Pentangle] T3 T10 T13 T14 T16 T17 T18 T18 T18
T18
1.-3. Session on 1969.8.17
4.-8. Session on 1972.6.19
9.-14. Live on 1970.6.20
注) 青字が本作のみで入手可能なもの(他はT10と重複)
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昨今のBBC放送音源のCD化は、ビートルズの公式盤の発売によってピークを迎えたようだ。BBCもので個人的にもっとも愛着を感じる音源は、60年代末〜70年代初の録音で、その後日本でも何度かFM放送されたジェームス・テイラーとジョニ・ミッチェルの初期ジョイント・コンサート(未CD化)である。
1993年にバート・ヤンシュの「BBC Radio 1 Live In Concert」が発売されたとき、よっしゃ!今度はペンタングルのも出るかもしれないぞ。とつぶやいて待つこと2年、長くした首がのびきった感の95年秋、レコードコレクター誌で本作の広告をみて、それは興奮しまして、あわてて異なる店から2枚も買ってしまいましたね。 本作は3つのセッションから成り、2つが「BasketOf
Light」 1969 T4の頃、残りが「Solomon's Seal」 1972 T7のころの録音。既発売ライブが「Sweet Child」T3
における1968年の初期の録音であることを考えると、ペンタングルのファンにとっては正に国宝クラスの発掘だった。
69年8月17日録音とある1.-3.は聴衆なしのスタジオ・ライブ。当CD全体について言えることだが録音の良さは驚異的で、このセッションではテリーの繊細なドラムスと迫力あるダニーのベースはもちろん、バートとジョンのアコースティック・ギターの音が自然にかつ生々しく収録されている。そして適度かつ自然なリバーブがサウンドを包み、特にジャッキーのボーカルには浮揚感がある。「Basket
Of Light」 T4のレパートリーをライブで聴くのは初めてで、レコードにおけるあの緊張感あふれる演奏はどうなるのか大いに楽しみであったのだが、生演奏の水準の高さに全く驚いてしまった。あの「Sweet
Child」 T3でのライブをはるかに超える内容で、1969年という時代にこの様な演奏が展開されていたとはちょっと信じ難い。特にテリーとダニーのリズムセクションの強さ。ひとつの楽器からの音ではないかと思うほどベースとドラムのタイミングがぴったりと合っており、当時のロックの常識を超えている。それにバート、ジョンの跳ねる様なフィンガーピッキングによるアルベジオ、ブルース調のリフが絡み合って、おおきなうねりを生み出している。それに乗ってジャッキーのボーカルが舞うのである。まさにライブ録音ならではの音楽が生み出す至福の一瞬がここにはある。1.2.のテリーによるグロッケン(鉄琴の一種)のピュアな響き、3.「Light
Flight」のジャッキーのメインボーカルとバック(おそらくテリー)のスキャットボーカルの新鮮な響きがとても印象的。
72年6月19日録音の4.-8.は解散前の頃の演奏。ここでのスタジオライブは、ナチュラルな音作りでエコーも控えめ。5曲すべてが「Solomon's
Seal」T7の収録曲で、後述の「Captured Live」T11 と同様、異様に淡々としたクールな雰囲気が漂っていて当時のバンドの状況を余すことなく伝えている。リズムセクションの動きも少なく歌声も少し疲れ気味ではあるが、音の密度は相変わらず高く、奥深さを感じるのはさすが。4.5.7.がバートお好みのモダンサウンド(曲、アレンジ、演奏ともに最高!)、6,8,がジョン主導のトラッド。
最後の9.-14.は70年6月20日録音の聴衆を前にしたテレビ番組でのライブで、やはり熱気の様なものを感じる。特に9.「Train Song」では、もともとスタジオ録音でも驚異であった演奏が、このライブにおいて、より一層の迫力で再現されており奇跡的。12. 「In Time」 は「Rare Performances」 V7で収録された映像と全く同じ演奏。かつて、「ということは、他の5曲についても、BBCの倉庫のなかにビデオテープが眠っているということだ!!! ペンタングルの映像は極めて少ないので、いつか将来正式発売されることを願いたい」と書きましたが、2006年になってこれらの映像をインターネットで観ることができるようになりました。まずはめでたし。詳細は「その他音源・映像」のコーナーをご参照ください。
なお2004年発売の「The Lost Broadcasts 1968-1972」T10では、本作の1.-7.が収録されたが、収録曲の重複の関係で8.、テレビ放送用録音ということで9.-14.は収められなかった。その意味からこの作品の価値は決して衰えていない。ちなみに本作は当初
Windsongというレーベルから発売されたが、その後1997年にR18と同じ Strange Fruitレーベルから、少し異なるジャケットデザインと新しいタイトル「On
Air」にて再発売された
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T10 The Lost Broadcasts 1968-1972 (2004) HUX049 |
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[CD 1]
Bert Jansch : Vocal (3,5,8,14,15,16,19,21), Guitar
Jacqui McShee : Vocal (1,2,3,4,6,7,12,13,14,15,17,18,19,20)
John Renbourn : Vocal (2,15,18,20), Guitar
Terry Cox : Drums, Percussion
Danny Thompson: Bass
1. Hear My Call [Staple Singers] ▲ T2 T2 T3 T15
2. Turn Your Money Green [Furry Lewis] ▲ R28 R29 T3 T15
3. Travelling Song [Jansch, Thompson, McShee]▲ T3 T8 T15 V7
4. Let No Man Steal Your Thyme▲ T2 T3 T15 T17 T18 T18 V7
5. Soho [Jansch] ▲ T1
6. No More My Load [Pentangle]▲ T3 T17 Q6
7. Every Night When The Sun Goes In [McShee, Renbourn]▲ T19
8. I Am Lonely [Jansch] ▲ # T10 T13
9. Forty-Eight [Cox, Renbourn] ▲ * R5 R5
10. Orlando [Jansch, Renbourn] ▲ * T1
11. Three Dances ▲ *
Bransle Gay [Gervaise] R6 T3 K1
La Rotta R65 T3
The Earle Of Salisbury [William Byrd] R5 R5 R13 T3 K5
12. The Time Has Come [Ann Briggs] ▲ T1 T3 T15 T17 Q6 Q35
13. I've Got A Feeling [Pentangle] ▲ T3 T9 T13 T14 T16 T17 T18 T18 T18
T18
14. Sweet Child [Pentangle] ▲ T3 T12
15. In Your Mind [Pentangle] T3
16. I Loved A Lass T3
17. Sovay T3 T18 T18 T18
18. Sally Go Round The Roses [Sanders, Stevens] T4 T4 T4 T12
19. Bruton Town T2 T2 T3 T13 T15 T17 T18 T18 T18 T18
20. Cold Mountain T8
21. I Am Lonely [Jansch] # T10 T13
(22 The Cuckoo)
(23 Light Flight)
注) 22 23は、T9と同一録音。
[CD 2]
Bert Jansch : Vocal (5,6,10), Guitar, Banjo (3), Dulcimer (13)
Jacqui McShee : Vocal (2,3,4,5,8,9,11,12,13,15)
John Renbourn : Vocal (7,9,15), Guitar, Sitar (3)
Terry Cox: Drums, Percussion, Vocal (4.9.13)
Danny Thompson: Bass
(1. Hunting Song)
2. Moondog [Cox] ▲ T3 T13
3. House Carpenter ▲ T4 T9 T13 T17
4. Name Of The Game [Pentangle] ▲
5. Train Song [Pentangle]▲ T4 T9 T13 T18 T18
6. Springtime Promises [Pentangle] ▲ T4
7. Coutnry Blues ▲ R7
8. The Trees They Do Grow High ▲ R5 R18 R19 R27 T3 T3 T10 T16
9. Lyke Wake Dirge ▲ T4
10. Rynardine ▲ # R10
11. Light Flight [Pentangle] T4 T9 T9 T13 T17 T18 T18 T18 T18
12. A Maid That's Deep In Love R12 T5 T17 V9
13. Will The Circle Be Unbroken ? T6 T11 T13 T13 T17
14. Lord Franklin R24 T5 V5 V7 K2
15. Lady Of Carlisle T6 T9
(16. People On The Highway)
(17. No Love Is Sorrow)
(18. Jump Baby Jump)
(19. Cherry Tree Carol)
注)1,16,17,18,19は、T9と同一録音。
#はジョン不参加
▲はラジオからの録音
特記ない場合はトラディショナル
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35年ぶりにBBC放送録音が発掘された。CD2枚組に全42曲たっぷり収録されているが、曲目一覧にある通り、うち6曲は95年発売のT9と重複している。本作は今回新たに発見された放送録音と、デイブ・ムーアというファンによるAMラジオのエアー・チェックからなる。後者は当然音質が悪く、ひと昔の海賊版のようなサウンドだが、録音されたテープの保存状態は良かったようで、CD化に際して音質の改善がなされたこともあり、ラジオ放送を聞いているんだと割り切れば、それなりに聞ける。ということで、入門者には不適と思うが未発表曲やレコードと異なるアレンジの演奏もあり、ファンにはたまらない贈り物。
1〜4,6,11,12,19はT3のライブで聴くことができる初期のレパートリー(2,3は再発盤CDで収録されたボーナス・トラックでのみ)で、ここでは二人のギター、特にジョンのJ-50による生音のリードギターで録音されている。ラジオからの録音なので、音に奥行きがなく平面的なサウンドだが、ベースを含む各楽器の音はしっかり聞こえるし、テープの傷みによる回転ムラも感じない。5.はジョンとバート二人による演奏で、共演盤
T1曲のライブバージョンとして聞き物だ。6.は2.と同じタイプの、ジョンとジャッキーによるブルース曲のデュエットで、バートは悲参加。一方 7.と21.はバートのソロで、「Birthday
Blues」 1969 で発表されたメロディーのきれいな曲。典型的なバートのスリーフィンガー・サウンドが楽しめる。9,11はジョンのソロアルバムからのインスト曲で、バートはT1がオリジナルの10.でジョンと共演する。解説によると、6〜11が録音された68年7月2日はダニーが手を怪我して、ベースが弾けなかったために、このようないつもとは異なるソロ、デュエットによる選曲になったそうだ。道理で6.を聞いて何か違うなあと思ったのは、ベースの音が入っていないからだった。
13〜17はT3ではスタジオ録音で収録されていたもので、ライブでの演奏は珍しい。13.はジャズワルツの好アレンジで、ダニーのベースのソロが大活躍する。いつもはフルートのように高く囀るジャッキーが時たま見せる低い声もいいもんだ。14.はジョンのリードギター・オブリガードいっぱいのお得曲。13〜17は、68年9月放送の「Top
Gear」からの演奏だが、何故か15.から音が俄然良くなる。ジョンのリードギターのアタックが生々しく響く。アップテンポの18.はこのバンドの抜群の演奏能力を示すものだ。リズム感の切れ味が当時の時代を超えている。ジョンのリードギターのソロもスタジオ録音のものと異なり、さすがだ。20.はシングルのB面のみで発表されたため知名度が低い曲で、ジョン主導の軽めの演奏。続く22
23と、CD2の1.につきましては説明を省略します。
CD2について
2〜10は、69年12月に放送された4つのパートからなるペンタングル特集番組からで、珍しい曲が多い。2.はオリジナルのT3ではテリー・コックスのボーカルとパーカッションによるソロだったが、何と!ここではジャッキーのボーカルによるバンド・アレンジなのだ。3.ではバートのバンジョーとジョンのシタールのライブ演奏が楽しめる。4.は、映画のサウンドトラックとして作られながら、今まで未発表でファンの間で語り草になっていたという幻の曲で、本作の目玉のひとつ。曲中に少し雑音が入るが貴重な曲なので許しちゃう!
T6の表題曲や「Helping Hand」に似たテリー好みのモダンな曲で、ジャッキーのボーカルにテリーがハーモニーを付けている。6,9はT4でスタジオ録音された、ライブとしては珍しい曲で、スタジオ録音より少しテンポを落としたリラックスした演奏。ジョンのバンジョー風ギターが鮮やかな7.や、ジョンお好みのトラッド8.や宗教音楽風の9.ではバート不参加と思われる。10.はバートのソロアルバム「Rosemary
Lane」 1971 に収録された弾き語りの傑作で、貴重なライブ演奏。
11.から70年の録音でペンタングル後期にあたる。この曲からまた録音が良くなる。トラッドの12.ではバートがダルシマーを弾く。アタックの強いジョンのリードギターが聞きものだ。13.でもジョンのギターは素晴らしい。途中から聞こえるハーモニカはいったい誰が吹いているのだろう? 15.のライブが良い音質で聴けるなんて、幸せだな〜。あっとここはバートのディスコグラフィーだったけ。15.はT9の同曲と混同しかねないが、放送日も演奏も別だった。バートのバンジョーとジャッキーのボーカルのみで始まり、途中からベースとドラムスが加わる。ジョンのギターは僅かしか聞き取れない。一方T9のバージョンでは、左チャンネルのバンジョーに対し、右チャンネルのレンボーンのギターがフルに聞こえる。最も異なるのは、ダニーのベースで、本作のバージョンでは、指弾きであるのに対し、T9ではダニーのベースが全編弓弾き(アルコ奏法)で、その重低音が曲に異なる色合いを付加している。
コリン・ハーパー氏によるお馴染みの詳細な解説、グループのショット、ペンタングルおよび、うち2〜3名のメンバーでセッションで出演した、68年2月から73年7月までのラジオ放送の一覧リストが掲載されており、その良心的な態度には感心する。
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