Q1 It Don't Bother Me (1965) [Bert Jansch] Transatlantic Records TRA132

Q1 It Don't Bother Me


Bert Jansch: Vocal (1), Guitar
John Renbourn: Guitar


1. My Lover [Jansch]
2. Lucky Thirteen [Renbourn] *  R2

〔楽譜掲載〕 2. G1

        
バート・ヤンシュの2枚目のソロアルバムに2曲ゲスト参加。本作はジョンにとってトランスアトランティック・レーベルにおける初レコード(ただしジョンのソロデビュー作のほうが以前の録音と思われる)。1.「My Lover」はストイックで耽美的な内容のラブ・ソングで、多少オーバーな比喩が散りばめられた硬めの歌詞とメロディーを持った曲。2.「Lucky Thirteen」は、ドリス・ヘンダーソンとの共作による幻のデビュー盤「There You Go」 R2 1965 に収録されていたジョンのオリジナル曲「Something Lonesome」のインスト版。当時共同生活をしていたという彼らが、日頃のジャム・セッションのなかで作り上げていった音楽が生々しく収録されている。13テイク目でOKとなったことがタイトルの由来という。バートが伴奏で和音を散りばめジョンが奔放なリードをとるスタイルは後年のペンタングルの原点といえるもの。


Q2 Jack Orion  (1966) [Bert Jansch] Transatlantic Records  TRA143

Q2 Jack Orion


Bert Jansch: Vocal (2,4), Guitar, Banjo (1)
John Renbourn: Guitar


1.The Waggoner's Lad *
2.Jack Orion   T5
3.Henry Martin
4.Pretty Polly

   
バート・ヤンシュの3枚目のソロアルバム。トラッドが主体の本作におけるジョンのサポートは断然光っている。1.「The Waggoner's Lad」ではバートがバンジョーを弾きジョンがリードを担当。2.「Jack Orion」は演奏時間がとても長い曲であるが、ジョンがオブリガードを付けて単調になるのを防いでいる。3.「Henry Martin」や 4.「Pretty Polly」は、比較的控えめな伴奏。あの「Bert And John」と同一時期の録音で、いずれの曲もバートとジョンのコンビネーションはバッチリ。


Q3 Changes (1966) [Julie Felix] Fontana STL5368


Q3 Changes

Julie Felix: Vocal, Guitar
John Renbourn: Guitar
Martin Carthy: Guitar (4)
Dave Swarbrick: Violin (4) 


[Side A]
1. The Lost Children [Gordon Lightfoot]  
2. One Too Many Mornings [Bob Dylan]   
3. Gifts Are Giving [Sylvia Fricker]      
4. Geordie [Trad.]             
5. To Try For The Sun [Donovan]       
6. Brain Blood Volume [Mellon, Felix]
7. Rainy Day [J. Felix]

[Side B]
8. Changes [Phil Ochs]
9. Love Minus Zero - No Limit [Bob Dylan]
10. Ballad Of A Crystal Man [Donovan]
11. Get Together [Dino Valenti]
12. The Ones I Love The Most [J.Felix, D.Evans]
13. The Way I Feel [Gordon Lightfoot]
14. I Can't Touch The Sun [Shel Silverstein]

レンボーンは4.不参加
ドラムスとベースは不明


当時イギリスで活躍していた美人フォーク・シンガー、ジュリー・フェリックスのソロ・アルバムの伴奏を担当。ジャケットには「トランスアトランティック・レコードのご好意により」とあり、レンボーンのギターはあの初期のスカース・ギターの音(R2参照) そのもので、本作全編で聴けるその枯れた音は感涙もの。ライナーノーツによると彼女はカリフォルニア育ちのメキシコ系アメリカ人。ジョーン・バエズに共通するラテン系の「熱い血」を感じるが、バエズよりも声が低く陰影がある。ここではボブ・ディラン、ドノバン、ゴードン・ライトフット、フィル・オックスという当時評判のフォーク・シンガーの作品のカバーが大半だが、本人のオリジナルも少しある。30年以上も前の作品なので、古臭さを感じるのは否めないが、それさえ気にしなければ曲良し、伴奏良し、歌も良しの十分に楽しめる内容だと思う。レンボーンのギターはかなり自由奔放な乗りで、サウンド作りも含めて彼が好きにやった感じ。伴奏ということで録音は少しオフ気味ではあるが、若々しいギター演奏をタップリ味わえる。音量を大きめにして聴くといいよ!

2台のギターによる演奏を中心に、曲によってはベースやドラム、小編成のストリングスが加わる。エモーショナルに歌う正当派の彼女のボーカルに対し、ブルージーでひねりがきいたレンボーンのギターが適度な刺激となり、曲に深みと味わいをもたらしている。2.「One Too Many Mornings」はボブ・ディランの傑作「フリーホィーリン」に収録された名曲で、レンボーンによるディランの曲のギター演奏が聴けるのは本当に楽しい。5.「To Try For The Sun」、10.「Ballad Of A Crystal Man」のドノバンの作品のカバーやこの曲におけるレンボーンのギター演奏は、ややオーソドックスなスリー・フォンガー・スタイルであるが、それでも初期のスタイルの個性である低音の独特な動きがはっきり出ている。7 .8.などポップでモダンな感覚の曲もある。特に8.「Changes」は2台のギターのコンビネーションが素晴らしく、タイトル曲にふさわしい出来。

3.「Gifts Are Giving」はドラムスとベースが加わったコンボ編成の伴奏。レンボーンの R&B調のアコギがアグレッシブで最高にカッコイイ。彼女のボーカルも張りというか、ガッツがあって大変によろしい。9.「Love Minus Zero - No Limit」はディランのフォーク・ロックの幕開けとなった記念碑的な作品であるが、ブラッシングによるドラムスとベースが加わった洗練されたアレンジ。レンボーンの抑え気味のリードギターも素晴らしく、彼女の歌も曲に合っている。11.「Get Together」もリズムセクション付の演奏で、後のペンタングルのレパートリー(レンボーン主導の曲)のサウンドに近く、レンボーン好みのサウンド。途中のリードギター・ソロもリラックスしていて、とてもいいぞ。 12.「The Ones I Love The Most」、13.「The Way I Feel」でも彼女のボーカルのバックで流れる彼のギターをたっぷり楽しめる。ギターを持った彼女のクローズアップのジャケット写真が、いかにも60年代している感じで、何だかタイムマシーンに乗ったような気分になってしまった。最初はサウンドの古臭さが耳につき、イマイチかなと思っていたのだが、4 、5回と聞き込むうちに、だんだん良くなってきた。聴いていると、現代では決して再現できないような時代の空気を感じるのだ。レンボーンのギターのみならず、ジュリー・フェリックス本人の魅力によるものも大きいと思う。本作はCD化されておらずオリジナルのレコード盤を探すしか手はないが、それほど希少盤でもないようで、中古市場でもまあまあの値段で入手可能。レンボーン初期のギターが好きなマニアにはお勧めの一枚。

なお 4.のみレンボーン不参加で、その代わりにマーチン・キャシー(ギター)とデイブ・スワーブリック(バイオリン)がバックを務めている。


  
Q4 Where The Good Times Are (2018) [Bevery] Fly
 

Beverley Martyn : Vocal
Jimmy Page : Elecaric Guitar
John Renbourn : Acoustic Guitar
Nicky Hopkins : Piano
Mike Lease : Hammond Organ
John Paul Jones : Bass
Alan White : Drums

1. Picking Up The Sunshine [Donovan Leitch]  R1
2. Me And My Gin [Fletcher Henderson, Henry Troy]

Recorded at 1966 

2015年に発売された「The Attic Tapes」 R1は、ジョンの初期音源を発掘したアルバムで、その中にベヴァリー・マ−ティンとの共演ライブ音源が2曲含まれていた。ベヴァリー・マ−ティンについてはR1で詳しく説明したが、本アルバム発売後の2018年にスタジオ音源がリイシューされた。FLYというインディ・レーベルが同年のRecord Store Dayのために制作したもので、LPレコードによる500枚限定盤として発売された。


そこには、1966年 Deramレーベルからシングルとして発売された「Happy New Year」, B面の「Where The Good Times」や「Museum」の他に、スタジオ録音されたが未発表となった曲も収録され、「当時彼女がアルバムを制作していたらこんな風だった」という感じに仕上がっている。ジャケットデザインも1960年代のセンスで当時(18歳)の彼女の白黒写真を採用し、「Deram」というオリジナル・レーベルまで使用する凝りようだ。ただし、当時の彼女はジョン・マーティンとの結婚前で、旧姓はKunter という名前だったため、表紙の名前をファーストネームの「Beverly」だけにしているのが面白い。

全10曲(うち1曲はバックトラックのみ)には、当時売れっ子セッションマンで、後にレッド・ツェッペリンを結成するジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズ、ローリング・ストーンズ等のセッションで有名なニッキー・ホプキンス、アラン・ホワイト(おそらく後にYesに加入する人と思われるが、同性同名かもしれない)等がバックを担当しており、さらにシングル盤のために録音された 1.「Picking Up The Sunshine」と2.「Me And My Gin」には、当時ライブでベヴァリーの伴奏を担当していたジョン・レンボーンがアコースティック・ギターで加わったとのこと。1.「Picking Up The Sunshine」は、ドノヴァンのアルバム「Sunshine Superman」1966に収録された「Bert's Blues」のカバーで、2. 「Me And My Gin」はアメリカのシンガー、ベッシー・スミスが1928年に録音したブルースのカバーだ。

この2曲につき注意深く聴いたが、ジョンのアコースティッグ・ギターは、エレキ・ギターとピアノ、オルガンの音にかき消されて全く聴きとることができなかった。当時音作りでプロデューサーと対立して未発表になった経緯があるとはいえ、50年経った後にで本アルバムの曲を聴く限り、ベヴァリーのエッジが効いた歌声と存在感、ブルース色の濃いフォークロックのサウンドは十分聴きごたえがあるものだ。ちなみに、本アルバム発表の1年前のRecord Store Dayで、同じレーベルから 1.「Picking Up The Sunshine」(別テイク)、2.「Me And My Gin」のシングル盤が限定盤で発売されたが、私は買いそこなったので未聴。 インターネットによるコメントでは、バックトラックは同じでヴォーカルのみ別録音とのこと。

ジョン・レンボーンのファンにとって、演奏面で聴くべき点はないが、レッド・ツェッペリン・マニアのコレクターズ・アイテムだけにするには勿体ないと思う。

[2020年1月作成]


Q5 Rotterdam Blues   (1967) [Dorris Henderson]  Kant 
 






 
Dorris Henderson : Vocal, Autoharp
John Renbourn : Guitar

Tom Tholen : Sound Effects


1. Rotterdam Blues [Dorris Henderson]


注: 写真上 シングル盤のジャケット(ドリスの顔写真と右下に「'toets'」の表示)
    写真中 シングル盤のジャケット(映画のシーンの右横に「Rottersam Blues」の表示)
    写真下 シングル盤のラベル


1967年オランダ人のトム・トーレン(Tom Tholen)というの人が監督したドキュメンタリー映画「Toets」(英語で「Touch」という意味)のサウンドトラック盤で、Kantというレーベルから当時オランダのみで発売された。製作年を1968年としている資料もあるが、実際は「Watch The Stars」の前に作られたものらしいので、ここでは1967年とした。ドリスがロンドンのライブハウスで活動していた頃、Cobi Schreijerというオランダのフォークシンガーと知り合い、彼の招きでオランダのハーレン(Haareln)でコンサートを行った際に、トム・トーレンからドキュメンタリー作品の音楽を頼まれたらしい。

シングル盤で、A・B面とも同じ曲名「Rotterdam Blues」となっている。他の誰かによるチェンバロのような音のキーボード演奏から始まり、船の汽笛などからなる港の効果音が入る。その次にオートハープの伴奏によるドリスの歌が入る。陰影に富んでいるが、伸びのある歌声はアルバムと同じ雰囲気だ。水音などからなる港の効果音と、ロックバンドの音やセリフがコラージュされ、再びドリスの歌が少し入る。打楽器、マリンバやフルートなどによる陰鬱な感じの音が流れ、そこに彼女の歌がかぶさる。その後の後半でリードギター付きのドリスの歌になるが、ここでのギター演奏は大変シンプルなもので、ジョン・レンボーンのギター演奏として楽しむほどの特徴は出ていない。そしてキーボードの演奏が入り、ストリングスが入って盛り上がり、イントロと同じメロディーに戻って終わる。

両面合わせて 12分のトラックであるが、ドリスの演奏部分は3分の1、レンボーンの出番は1分ちょっと。


Q6 Watch The Stars   (1967) [Dorris Henderson] Fontana TL5385

Q4 Watch The Stars


Q4a Watch The Stars (CD Version)


Q4b Watch The Stars (Paper Cover)

Dorris Henderson: Vocal, Auto Harp (7,9,15)
John Renbourn: Guitar, Vocal (5,12)
Tim Walker: Guitar (2)
Danny Thompson: Bass (1,2,4,5,11,12)

Terry Brown: Liner Notes

[Side A]
1. When You Hear Them Cuckoos Hollerin'  
2. It's Been A Long Time [Tim Walker]
3, 30 Days In Jail
4. No More My Load  T3 T10 T17
5. Watch The Stars  T3 T14 V9 K2  
6. There's Anger In This Land [H. West, D. West]
7. Mosaic Patterns [A. Briggs, D. Henderson]
8. Tomorrow Is A Long Time [B. Dylan]

[Side B]
9. For Lovin' Me [Gordon Lightfoot]
10. Come Up Horsey
11. God Bless The Child [Holiday, Herzog]
12. The Time Has Come [A. Briggs]  T1 T3 T10 T15 T17
13. Poems Of Solitude [Music/ J. Renbourn]
 a Poems Of My Heart [Joan Chi]
 b Eighteen Tedious Ways [Pao Chao]
 c Magic Strings [Li Ho]
14. Lonely Mood [D. Henderson]
15. Gonna Tell My Lord [D. Henderson]
16. Message To Pretty [Arthur Lee]


レンボーンは 2.7.不参加
特記ない場合はトラディショナル
16.はCDリイシュー盤に収録されたボーナストラック(シングルA面)

注) 写真上は、オリジナルレコード盤、中はCDリイシュー盤(2005年 Fledg'ling Records)
   下は、CDリイシュー盤の紙カバー


「There You Go」 1965 R2に続く、ドリス・ヘンダーソン2枚目のアルバム。本作の頃には、ジョン・レンボーンはバート・ヤンシュとの共同作業を始めており、そのためか今回は彼女の単独名義になっており、音楽面でも彼女のカラーがより全面に出ている。といっても、前作同様ジョンの伴奏とコーラスをたっぷり楽しむことができる。本作で取り上げられた曲は、前作に増して幅広いジャンルからで、オールドタイミーなフォークはもちろんのこと、ゴスペル、ブルース、ジャズから現代音楽風の詩の朗読までまさに自由自在。アップテンポの1.「When You Hear Them Cuckoos Hollerin'」 におけるジョンのギターは走る汽車を思わせるグルーブ感溢れる演奏。ドリスは気持ち良さそうに歌い、途中ジョンのギターに感嘆して「フフッ」笑う。伸びがあって生き生きしたドリスの声の魅力が最大限に発揮されている。本作におけるダニーのベースは意外なほどにシンプルな演奏に専念している。2.は作者のティム・ウォーカーがギターを弾いているため、他の曲と雰囲気が異なり、ブルース臭さのない普通のフォークソングになっている。ティム・ウォーカーといえば「Another Monday」R4 の「Ladye Nothinge’s Toye Puffe」のライナーノーツで、レンボーンが共同作業の相手として言及していた人だ。3.「30 Days In Jail」は前作 R2 にはなかった正統的な感じのブルース・スタイルで、レンボーンのギターがツボに嵌りまくる。4.「No More My Load」はペンタングルでお馴染みの曲で、ジャッキーの歌との声質・スタイルの違いがよくわかり、とても興味深い。黒人のドリスが歌うとゴスペルのムードが色濃くでる。ジョンのギターもここではずっとブルージーに弾いている。5.「Watch The Stars」もペンタングルの「Sweet Child」T3のライブでジョンとジャッキーが歌っていた曲。ジョンのギターとボーカルはペンタングルのものとあまり変わらない。抑え気味に歌っていてもよく響くドリスの声が圧倒的。6.「There's Anger In This Land」はスローでエモーショナルな曲。ジョンのギター伴奏もシンプルだ。7.はドリスのオートハープによる弾き語り。当時フォーク界においてカリスマ的存在でバート・ヤンシュとも親交のあったアン・ブリッグスとの共作! 8.「Tomorrow Is A Long Time」はボブ・ディラン初期の名作で、本人による演奏は長く未発表のままで、70年代の「Greatest Hits Vol.2」でライブ録音が始めて収録された。ドリスのギター、ジョンのギターともに淡々としたプレイ。

B面1曲目の9.「For Lovin' Me」はカナダのシンガー・ソングライター、ゴードン・ライトフットの作品で、ジョンのギターのほかにドリスがオートハープを弾いている。彼女の声を聞いていると、本当に生理的な快感を覚える。10.「Come Up Horsey」はマザーグースのような面白い歌詞だ。子供向けの歌をリラックスして歌うドリスに対し、ジョンはブルースギターで対峙し、その対比がとてもいい効果をあげている。11.「God Bless The Child」はビリー・ホリデイの曲で、母親とお金の事で喧嘩した彼女が怒りに任せて作詞したという。ビリーホリデイのジャズを弾くレンボーンなんて、ここだけでしか聞けない。12.「The Time Has Come」もペンタングルのT1やT3でおなじみの、アン・ブリッグスの曲。ここでも5.と同じく、ドリスの歌にハーモニーをつけるジョンの歌が楽しめる。ジョンのギター伴奏とダニーのベース以外に、簡単なメロディーを弾くギターが入っている。かなり下手で、おそらくドリス本人が弾いているものと思われる。13.「Poems Of Solitude」は中国の詩(英訳版)をドリスが朗読しているもので、レンボーンが控えめに印象派風のギターのバッキングをつける。ドリスの声もさることながら、彼女のきれいな発音、素晴らしいヴォイス・プロジェクションが楽しめる。14.「Lonely Mood」は彼女のオリジナルで、深夜静けさの中で聞いてくると、彼女の歌声が身体の中にしみ込んでくるようだ。15.「Gonna Tell My Lord」も彼女の作品で、オートハープの弾き語りによる演奏だ。

ドリスのボーカルは前作 R2よりも伸び伸びリラックスしていて、いい感じなのだけど、ほとんどギター1本のみの伴奏という直球勝負で、聞きやすい大衆受けするサウンドでなかったため、レコードはヒットせず、すぐに廃盤になってしまう。彼女はその後も音楽活動を続けるが、ソロ、バンド活動両方ともレコード製作のチャンスもあまりなく、そのうちに忘れ去られてしまう。レンボーンのファンが彼女の存在の知ったのは、ずっと後の1993年「フォーク・ルーツ」誌における再評価の特集記事からだ。当時彼女が受けなかった理由として、当時黒人歌手に対して期待されたブルース、ソウルを歌わなかったためとされているが、要は彼女のクロスオーバーした幅広い音楽性が時代の先を行き過ぎていたのだ。

本作はずっと廃盤のままで、英フォーク界のレコードの中でも最も入手困難な作品だったが、2005年 Fledg'ling Recordsより再発売された。まずジャケット表紙のドリスの写真は同じものだがロゴが違っていて再発盤には曲目の表示がないかわりに、「With John Renbourn」の白抜きの表示がある。そしてBrian Shuel撮影による、前作R1と同じセッションで撮影された二人の写真がプラスチック・ケースを覆う紙カバーと説明書の中にも掲載された。特に後者の説明書に収められた2枚の白黒写真は当時愛用のスカース・ギターがはっきり写っており、ファンには大変貴重なものだ。またボーナストラックとして、同年発売されたというシングル盤 16.が収録された。他の曲とは雰囲気が全く異なり、バンドをバックとした演奏で、当時流行のフォークロックのサウンドだ。ベース、ドラムス、ハーモニカ、タンバリンのパーソナルは不明だが、エレキギターを弾いているのは、後半のオブリガードのチョーキングの感じからジョンに間違いないだろう。


Q30でも触れましたが、ドリス・ヘンダーソンは2005年5月、病気のため他界されました。心から冥福をお祈り申しあげます。


 
Q7  David Bowie (1967) Deram



David Bowie: Vocal
John Renbourn: Acoustic Guitar
Dick Feranley: Bass

Mike Vernon: Producer
Gus Dudgeon: Engineer

1. Come And Buy My Toy [David Bowie] 


Recorded at Decca's North Studios on December 12, 1966


2021年正月はコロナ禍のため、誰にも会えず近所の散歩以外は家に籠る事になってしまった。パソコンでネットサーフィンをした中で最大の収穫が本作の発見だ。アンクレジットだったため、ジョンがデビッド・ボウイのデビューアルバムでギターを弾いていた事が世間に知れたのは、2010年代後半になってからのようだ。ジョン・レンボーンとデビット・ボウイの取り合わせなんて、なんだかイメージがわかなかったけど、早速聴いてみた1.「Come And Buy My Toy」のイントロに流れるギターは、間違いなくジョンの音色で、彼独特のリズムの乗りでぐいぐい押してくる。伴奏がジョンのギターと、当時デビッドのバックバンドのメンバーだったディック・ファーンレイのベースのみなので、ギターの音がとてもクリアに聞こえる逸品だ。また玩具売りを歌った歌詞は、随所に感覚的な言葉が散りばめられ、そのイマジネーションの拡がりは、後の作品を彷彿させるものがあり、彼の少しエキセントリックな歌唱と合わせて、強烈な存在感を感じさせるものだ。

本アルバムはデビッド・ボウイのデビュー作で、デラムという先進的なフォーク、ロックを取り扱うレーベルにあって、フォークをベースとするシンガー・ソングライターで売り出そうという意図をもって制作されたので、後の理知に富んだグラムロックというスタイルとはかなり異なった音作りになっている。そのためか、当時はシングル2枚、アルバム1枚出しても鳴かず飛ばずで、その結果レーベルとの契約も解消されてしまう。その後彼は、1969年の「Space Oddity」を経てロック色を強め、その新しさが1970年の「The Man Who Sold The World」で一世を風靡することになる。本アルバムは、現在でもファンからは、売れる前の異質の作品と見做されているようであるが、アルバム全体では少しポップなアレンジも施されており、独特な歌詞の世界もあるので、進歩的フォーク音楽として聴けば、それなりの出来であるといえよう。

ちなみに同じ日の録音で、ジョンが参加した未発表曲があることがわかっている。2019年5月7日、オメガ・オークションという会社がYoutubeに出した「David Bowie 1967 Demos」という投稿で、デモテープのオークション出品の宣伝をしているが、アンペックスのオープンリール・テープの写真に付けられた3曲のサンプル音源のなかに、ジョンがギター伴奏をつけている曲があるのだ!「Bunny Thing」というタイトルで、見本のため26秒という短い時間ながら、ジョンのギターをバックにデビットの語りを聴くことができる。当該テープはオークションの結果誰かの手に渡ったはずであるが、本アルバムのリイシューで収録されなかった事もあり、残念ながら当該トラックが将来日の目を見る事はないと思われる。

50年以上前の音源を発掘できるなんて、今年はラッキーかも.......。ということはコロナ禍もお終いになる?

[2021年1月作成]


Q8  Sophisticated Beggar (1967) [Roy Harper] Strike
 







Roy Harper: Guitar, Vocal
John Renbourn: Guitar

1. Sophisticated Beggar [Roy Harper] Q29
2. Legend [Roy Harper]


写真上: オリジナル盤ジャケット
写真中・下: リイシュー盤ジャケット

ロイ・ハーパーというと、「Led Zeppelin III」1970 の最後の曲 「Hats Off To Roy Harper」を連想します。当時の私はロック、シンガー・アンド・ソングライター、ポップス狂いの男の子で、まだブルースには浸っていなかったので、アコギのボトルネックによる演奏とロバート・プラントのボーカルからは、エキセントリックな印象しか持たなかったことを覚えています。そのためか、その後ロイ・ハーパー氏との接点がないまま時が経ち、2010年代になってから、ジョンが参加しているトラック Q29曲があることがわかり、そこでの謎解き(Q29での演奏曲が再会セッションだったというくだり)から、2020年代に本作を見つけた次第。そのため彼について語る資格はないのですが、可能な範囲で挑戦してみます。

ロイ・ハーパー(1941- )は、その独特な歌詞とサウンドから「プログレッシブ・フォーク」と呼ばれている。ジミー・ペイジ、ポール・マッカトニー、デビッド・ギルモア(ピンク・フロイド)、ケイト・ブッシュなど多くのミュージシャンから支持され、影響を与えた玄人受けするアーティストだ。ひねりが効いた歌詞 (lyricというよりはpoem)とメロディー、フラット・ピック、フィンガー・ピックいずれも達者なギター演奏で、大衆受けはしないが、一定のファンの支持を受けた。

ジョンは2曲に参加。いずれもロイの歌とギターにオブリガードを付けている。その独特の音色からジョンが弾いていることがすぐに分かる。タイトル曲の1.「Sophisticated Beggar」は、約30年後の2001年にライブ Q29で再演された。2.「Legends」は、歌詞が抽象的でかなり難解な内容だ。

13曲の半分は彼の弾き語りで、そのなかには実質ギターソロ(歌詞はほんの少しだけ)という曲 「Blackpool」もある。伴奏つきの曲では、「Gold Fish」、「October 12th」の2曲は、当時行動を共にしていたルウ・ゴッダード(ジャケットのイラストを書いた人)が目立たないセカンド・ギターを弾いている。また「Forever」はオルガンをフューチャーしたバンド演奏。「Committed」はリッチー・ブラックモア(ディープ・パープル)がギターを弾くロックバンドの伴奏。ただし残念ながら彼のギターソロは入っていない。折角リッチーを呼んだのだから、派手なソロを入れて欲しかったね〜

本作は発売当初は全然売れなかったという。しかし年を経るにつれて評価が高まり、いろんなレーベルから、異なるジャケットデザインでリイシューされた。

本ディスコグラフィーを作ってから15年以上経つが、私の情報収集に引っかからず、2020年代になってやっと見つけたもの。まだまだ努力が足りないね!

[2022年10月作成]


Q9 Right Now   (1972) [Wizz Jones]  CBS Records 64809


Q5 Right Now

Wizz Jones: Guitar, Vocal
John Renbourn: Sitar, Hamonica (2), Producer

1.One Grain Of Sand [Pete Seeger]  
2.Right Now [Trad.]
3.American Land [Trad.]
  


         
盟友ウィズ・ジョーンズ (1939- ) のソロ・アルバムのプロデュースおよびアルバム解説を担当。イギリスとアメリカの中庸をゆく音楽性が彼の個性で、そのバランス感覚とリズム感覚抜群のギタープレイには素晴らしいものがあるのだが、欲のない性格のためか強烈さに欠ける。彼自身が言うとおり、「最も有名な無名ミュージシャン」という肩書がピッタリの玄人受けする人。本作も結局は余り売れず幻のレコードとして中古市場で高値を呼んでいる。レンボーンはプロデュース兼シタールとハーモニカを弾いている。2曲とも「Faro Annie」1971収録の「Buffaro Skinners」に似た感じのアメリカ的な古い感じの曲で、1.「One Grain Of Sand」はピート・シーガー作、2.「Right Now」ではウィズの12弦ギターの弾き語りにジョンの達者なハーモニカが聴ける。3.「American Land」はトラッドをペギー・シーガーがアレンジしたもので、不思議なリズムによる変わった雰囲気の曲だ。ジョンのシタールはウィズのギターとボーカルに寄り添うように元気なオブリガードを付けている。他の曲ではピーター・ベリイマン(ギター)やスー・ドレイハム(フィドル)などが参加して、いい曲がいっぱいある。なお90年代に一度CD化されたとのこと。


Q10  So Clear (1973) Transatlantic Records  TRASAM 28

Q6 So Clear

John Renbourn: Vocal, Guitar

1.Blues Run The Game [J. C. Frank]  R1 R3 R17 R29 Q17







トランスアトランティック時代のジョンのベスト盤。副題は「John Renbourn Sampler Vol.2」で、未発表曲を1曲収録。(「同 Vol.1」には未発表曲はない。)「Blues Run The Game」はステージでお馴染みのスリーフィンガーによる名曲。バート・ヤンシュもソロアルバム「Santa Barbara Honeymoon」1975に収録し、ライブの定番曲となっている。作者のジャクソン・C・フランクはアメリカ人で、1960年代イギリスに滞在し地元のミュージシャンに大きな影響を与えた。1965年にポール・サイモンのプロデュースでソロアルバムを発表(1996年に未発表曲を追加してCD化された)。アメリカ帰国後は不幸が続き、家族との死別や病気等の果てにホームレスになり、銃で撃たれて左目を失明する等悲惨な状況だったらしい。CDの発売などで再評価の機運高まり、ファンや音楽仲間のサポートにより復帰を図ったそうだが、1999年に亡くなった。

おなじみのスカース・ギターを持って、ぬかるんだ道を歩く表紙写真がとてもいい。


Q11 Head In The Clouds (1975)  [John James] Transatlantic Records TRA305

Q7 Head In The Clowds
 

John James : Guitar
John Renbourn : Guitar
                
1.Georgemas Junction * [James]    
2.Wormwood Tangle * [Renbourn]    
3.Stranger In The World * [James]


ジョン・ジェイムス (1947- ) の4枚目のアルバムにゲストとして3曲参加。当初はジェイムス一人による多重録音の企画だったのが、ある日街中でばったりレンボーンに会い、彼の家が近所であることを知り、ジャム・セッション等の親交を深め、本作へのゲスト参加になったという。当時のレンボーンはペンタングルの解散に絡む契約問題等で思う様にレコードが作れず、隠遁者のような生活を送っていた時期で、久しぶりのレコーディングのためか、ゲストとはいえ気合の入った演奏を聴かせてくれる。1.「Georgemas Junction」はモダンな感じのデュエット曲。2.「Wormwood Tangle」は二人の単弦ピッキングによるハモリでフィドル・テューン的な味わい。3.「Stranger In The World」は複数のギター演奏の多重録音による重厚な曲で、伴奏のアルペジオとテーマ、二人が交互にとるリードソロが大変に美しく耽美的な雰囲気。本当に何度聴いても飽きることのない傑作。本作はジェイムスのソロによるラグタイム曲のアレンジ、オリジナル曲いずれも素晴らしく彼の代表作といえる出来で、レンボーンが参加したデュエットも最高の仕上がり。1996年に他の作品とカップリングでCD化されたので是非聴いて欲しい。

自分の頭を凧上げている男のイラストの表紙が面白い。


 
Q12 Songs From The Dress Rehearsal (1977)  [Steve Tilson] Cornucopia 
 

Steve Tilson : Acoustic Guitar, Vocal
John Renbourn : Acoustic Guitar

Rupert Hine : Producer
Mike Giles : Engineer

1. The Greening Wind [Steve Tilson]

Recorded at Verwood Studio, Hampshire, England, Summer 0f 1976

写真 :2005 A Market Square Record から再発されたCD盤
 

スティーブ・ティルソン(1950- )は、リバプール生まれのシンガー・ソングライター、ギタリストで、1971年のレコードデビュー以来現在に至るまで元気に活動を続けている。ソロアルバムの他、1970年代末に結婚したアイルランドのシンガー、マギー・ボイルと一緒に製作した作品も発表している。彼はバートやジョンとの親交が厚く、1988年にはマギーと一緒にジョン・レンバーンのグループに参加して「Ship Of Fools」R23 というアルバムを残し、バート・ヤンシュのトラッド集「Ornament Tree」1990 の製作に参加、1996年にはバートと一緒に夫婦で来日している。

本作は彼の3枚目のアルバムで、コルノコピアという自主レーベルから発売され、すぐに廃盤になったため長らく入手困難だった作品。希少盤の発掘で定評があるマーケット・スクウェア・レコードにより、2005年に初CD化されたが、私はそれまで本作の存在すら知らなかった。30年以上も経った後に、70年代のジョンの演奏を聴くことができるということは、心躍る気分。1.「The Greening Wind」は、田舎で育った若者が都会に出て、その色に染まる様を歌った曲で、ジョンはセカンド・ヴァースからギターを入れている。間奏のソロ、歌の背後でのオブリガードなど、思いのままに弾いているようで、ジョン独特の音使いというか、指ぐせともいえるプレイをたっぷり楽しむことができる。スティーブの歌は決して上手いとはいえないが、味はある。伴奏ギターの上手さが際立っており、曲自体も良い出来。

プロデューサーのルパート・ハインは、後にキャメル、ウォーターボーイズ、ハワード・ジョーンズ、ラッシュ、ティナ・ターナー等のプロデューサーとして成功した人。エンジニアのマイク・ジャイルズは、キング・クリムゾンの「In The Court Of Crimson King」1969のドラマー、「McDonald & Giles」1971で有名な人で、本作は彼のスタジオで録音された。また数曲でドラムスを叩いている。

レンボ−ンのリードギターが好きな人にはお勧め。

[2011年12月作成]

Q13 Descritive Guitar Instrumentals (1977) [John James] Kicking Mule SNKF 128

Q9 Descriptive Guitar Instrumentals
       

John James: Guitar
John Renbourn: Guitar
              
1.New Nothynge * [Rebourn]   R4 R21 K1
2.From The Bridge * [Rebourn]     
3.Guitar Jump * [James]



ジョン・ジェイムスの5枚目のアルバム。今回も前作に劣らぬ素晴らしいデュエットが収められている。1.「New Nothynge」は「Another Monday」R4 に収録された「Ladye Nothynge's Toye Puffe」のデュエット・バージョン。ジェイムスが本来のパートを弾き、レンボーンがハーモニーをつけている。このパートは、もともとペンタングルのステージでバート・ヤンシュとのデュエットのために作られたものという。この素晴らしいアレンジは、後にレンボーンの「The Nine Maidens」1985 R21 に自身の多重録音で再録された。2.「From The Bridge」はレンボーン作曲によるジャズ調の曲。すこしメランコリックな雰囲気のメロディーで、スローなテンポで交互にソロを取り合う。とても良い曲なのに何故か録音されたのは本作のみで、そういう意味でも本作はファン必携。3.「Guitar Jump」はもっと軽快な感じのジャズっぽい曲。レンボーン参加以外の曲もよく、ソロ作品のタブ譜が添付されるなど、サービスも良く、フィンガースタイル・ギターの名盤といえよう。CD化が待たれる作品。ジョン・ジェイムスは1980年代途中からアルバムを発表しておらずファンを心配させたが、90年代にインタビュー付きの演奏ビデオや新作CDを発表している。

なお2004年にキャッスルから発売された「The Hermit」R9の再発盤に、1.2.がボーナストラックとして収録され、初CD化となった。


Q14 Fylde Acoustic   (1977) [Various Artists] Trailer LER 2105

Q10 Fylde Acoustic
             
John Renbourn : Guitar
Gordon Giltrap : Guitar

1. Mr. Southcote's Pavan * [Thomas Ford] 
  Mr. Southcote's Gilliard * [ 〃 ]




  
イギリスのギター・メイカーであるファイルドのオーナー、ロジャー・バックウェルがプロデュースした作品。他にジョン・ジェイムス、マーチン・シンプソン、マーチン・キャシー、アーチー・フィッシャー等、そうそうたるメンバーが参加している。当時はフォーク・ギタリストに人気があったモデルで、その後ジャズやロック・ギタリストも使うようになった。アコースティック楽器が流行らなくなったため、1980年にギター生産を中止し、ビリヤードのキューの製造でそれなりの名声を築いていたが、90年代のアンプラグドによるアコギ・ブーム再復活の機運を受けてギター製作を再開した。ファイルドギターについての詳細はギター・グラフィック第5号(1996年4月発行) に記事が掲載されているので、興味のある人は参照して下さい。本作に納められた1.は、名手ゴードン・ギルトラップとのデュエットで、珍しい取り合わせであるが、ごく普通のクラシック作品で、地味過ぎて印象が薄い感じがする。

今のところ未CD化で、インターネットの中古市場にも出回らない珍しいレコードだ。