Atlantic City, New Jersey, 2008




James Taylor: Vocal, Guitar, Hamonica (16)
Michael Landou : Electric Guitar
Larry Goldings : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Luis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Flugelhorn, Additional Keyboards
Lou Marini Jr. : Sax
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Fiddle

[1st Set]
1. It's Growing [William Robinson Jr., Warren Moore] 
2. Get A Job [Richard Lewis, Earl Beal, Raymond Edwards, William Horton]
3. Country Road
4. Whiskey Before Breakfast [Traditional] (Instrumental)
5. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
6. Wichita Lineman [Jimmy Webb]
7. Why Baby Why [Darrell Edwards, George Jones]
8. Oh, What A Beautiful Morning [Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II]
9. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
10. You've Got A Friend  [Carole King]   
11. Mexico 
12. Shed A Little Light

[2nd Set]
13. Hound Dog [Jerry Leiber, Mike Stoller]
14. Only One   
15. Walking Man
16. (I'm A) Roadrunner [Edward Holland Jr., Lamont Dozier, Brian Holland]
17. Sweet Baby James 
18. Some Days You Gotta Dance [Troy Johnson, Marshall Morgan]
19. On Broadway [Jerry Leiber, Mike Stoller, Cynthia Weil, Barry Mann]
20. Steamroller
21. Carolina In My Mind
22. Shower The People 
23. Your Smiling Face

[Encore]
24. In The Midnight Hour [Wilson Pickett, Steve Cropper]
25. Knock On Wood [Eddie Floyd, Steve Cropper]
26. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]


録音: 2008年6月14日 Borgata Hotel Casino, Atlantic City, New Jersey


ニュージャージー州アトランティック・シティは、もともとは海岸のリゾート地として発展したが、1976年にギャンブルを合法化、ニューヨークの南75キロ、フィラデルフィアの南東40キロという地の利を生かして、観光都市として栄えている。同地最大のボルガタ・ホテルは、カジノの他に2400席のシアターを備え、著名アーティストによるコンサートが開催されている。JTが「Covers」A20を発表する 2008年9月の少し前の6月14日、同地で行われたコンサートが本音源である。5月から始まった「"James Taylor And His Band Of Legends" North American Tour」と銘打ったコンサートツアーは、コーラス、ブラス・セクション、パーカッションを加えたフルメンバーによるもので、他人の作品を取り上げる趣旨とともに、長年一緒に演奏してきたバックバンドにスポットライトをあてることもテーマだった。リラックスした雰囲気のなかでのびのびとした演奏が繰り広げられている。

「Covers」(1, 6, 7, 13, 16, 18, 19) 、「Other Covers」(2, 8, 24, 25)からの曲が多いため、その分彼の作品が少なくなっており、「Fire And Rain」、「Don't Let Me Be Lonely Tonight」、「Copperline」等の常連曲がカットされている。最初の曲 1.「It's Growing」からコーラスとブラス隊が全開、コーラス隊が主体となる ドゥワップ・ソング 2.「Get A Job」では、ルウ・マリニが間奏でサックスソロを入れる。 3.「Country Road」でのスティーブ・ガッドのドラムス、メドレーで演奏されるアイリッシュ・フィドル・チューンのインストルメンタル 4.「Whiskey Before Breakfast」でのアンドレア・ゾーンのプレイは、コンサートのハイライトのひとつ。曲のひとつひとつについて、演奏上の特色はないけど、ルイス・コンティとスティーブ・ガッド、そしてジミー・ジョンソンによる鉄壁のリズム・セクションの自然なグルーヴ感が本当に素晴らしく、本音源を聴いて感じる心地良さの源になっている。セカンドセット最初の曲 13.「Hound Dog」は、JTがステージに登場するまでの間、長めのイントロがあり、そこではギター、サックス、オルガン、トランペットがリラックスしたプレイを見せる。JTは 16.「(I'm A) Roadrunner」の歌の合間で、ブルージーなハーモニカを吹く。圧巻は24.「In The Midnight Hour」、25.「Knock On Wood」のR&B名曲メドレーで、このバンドのアンサンブルの素晴らしさを存分に堪能できる。20.「Steamroller」は、スローなブルースのアレンジで、ラリー・ゴールディングスのオルガン、マイケル・ランドウのギターに加えて、ウォルト・ファウアーのフリューゲル・ホーンのソロを聴くことができる。 そしてお決まりの26.「How Sweet It Is」で大いに盛り上がる。コンサートでは、最後に「You Can Close Your Eyes」あたりを演奏したかもしれないが、私が聴いた音源には入っていなかった。

個々の曲という観点では、特別印象的な演奏はないが、コンサート全体の雰囲気にどっぷり浸かって楽しむことができる音源。


St. Augustine Amphitheatre, Florida 2009

James Taylor: Vocal, Guitar, Hamonica
Michael Landou : Electric Guitar
Jeff Bebko : Piano, Electric Piano, Organ
Jimmy Johnson : Bass
Keith Carlock : Drums
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Fiddle

[1st Set]
1. It's Growing [William Robinson Jr., Warren Moore] 
2. Get A Job [Richard Lewis, Earl Beal, Raymond Edwards, William Horton]
3. Country Road
4. Whiskey Before Breakfast [Traditional]
5. Why Baby Why [Darrell Edwards, George Jones]
6. Wasn't That A Mighty Storm [Tradtional, Arranged By James Taylor]
7. Wichita Lineman [Jimmy Webb]
8. Seminole Wind [John Anderson]
9. Oh, What A Beautiful Morning [Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II]
10. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin] 
11. You've Got A Friend  [Carole King]  
12. Mexico 
13. Shed A Little Light

[2nd Set]
14. Sweet Potato Pie  
15. Down In The Hole  
16. (I'm A) Roadrunner [Edward Holland Jr., Lamont Dozier, Brian Holland]
17. Sweet Baby James 
18. Fire And Rain
19. Up On The Roof [Carole King, Gery Goffin]
20. Steamroller
21. Carolina In My Mind
22. Shower The People 
23. Your Smiling Face

[Encore]
24. Walking Man  
25. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]
26. You Can Close Your Eyes

録音: 2009年5月1日 St. Augustine Amphitheatre, Florida

 
2008年9月に発売された「Covers」に収められなかった曲を収録した「Other Covers」の発売に合わせ、2009年4月から5月にかけて南部の州16都市を巡る「Down Home Tour」が実施された。本音源は、その中盤にあたる5月1日に、フロリダ州北西部にあるセント・オウガスチンで行われたコンサートを録音したもの。セント・オウガスチン・アンフィシアターは、1965年同都市400年を記念して作られた約4,000席 の円形劇場だ。JTのバンドは、リラックスした雰囲気の中で「Covers」、「Other Covers」およびJTの代表曲を演奏している。本ツアーのキーボード奏者は、常連のラリー・ゴールディングスと、「Covers」で初めて録音に参加したジェフ・ベプコが交代で務めたというが、ここでは後者が演奏している。また若手セッション・ドラマーとして評価が高いキース・カーロックがドラムスを担当している。彼は1990年代の後半からポーラ・アブドゥル、スティーリ−・ダン、ダイアナ・ロスなどのアルバムに名を連ね、スティングのツアーに参加して名を高め、2009年のモダン・ドラマーズ誌人気投票で1位になった期待の若手プレイヤーだ。ここではあまりテクニックをひけらかすことはなく、パワフル・繊細の両方を持ち合わせたスタイルで着実なプレイを聴かせてくれる。特に 3.「Country Road」後半でのJTのボーカルとドラムスのみになる場面でのプレイは聴きもの。1.「It's Growing」、2.「Get A Job」、 6.「Wasn't That A Mighty Storm」、13.「Shed A Little Light」などにおけるコーラス隊の働きは、通常のバンドにおけるメインシンガーとの主従関係を超越した、精神的な絆を感じることができる。

最初の11曲が 3.「Country Road」を除きすべてカバーソングという面白い選曲で、JTとバンドの演奏力が成す技ですね。特にアンドレア・ゾーンのバイオリンの活躍が顕著で、3.「Country Road」とのメドレーで演奏されるフィドル・チューンのインストルメンタル「Whisly Before Breakfast」のみならず、 7.「Wichita Lineman」、8.「Seminole Wind」でのプレイが素晴らしい。 11.「
You've Got A Friend」のコーラスパートでは、オーディエンスの大合唱が起き、JTはそれに反応して自分の声を抑え目にしたり、ハーモニーを付けたりして歌っている。コーラス隊の紹介の後に演奏される 12.「Mexico」は、本コンサート2曲目の自作曲で、明るい曲調もあって開放感が感じられる。13.「Shed A Little Light」は、本コンサートでは地味なプレイに徹しているジェフ・ベプコのピアノプレイを聴くことができる。  

セカンド・セットのオープニング曲 14.「Sweet Potato Pie」は、イントロのインスト部分がしばらく続いた後、オーディエンスの大歓声に迎えられてJTが登場し、歌が始まる。ここではアーノルドとの掛け合いボーカル、マイケルの切れ味鋭いギターソロが楽しめる。15.「Down In The Hole」はステージ・レパートリーとしては珍しい曲。JTのハーモニカをフィーチャーしたR&B曲 16.「(I'm A) Roadrunner」の後は、定番曲のオンパレードとなる。 17.「Sweet Baby James」、18.「Fire And Rain」では、オーディエンスも一緒に歌っている。20.「Steamroller」はスロー・ブルース調の演奏で、ジェフ・ベプコとマイケル・ランドウのソロが楽しめる。この頃になるとオーディエンスの興奮は最高潮だ。コンサートは、アンコールの24.「Walking Man」で少し冷静になるが、25.「How Sweet It Is」で再び盛り上がり、コーラス隊と一緒に歌う 26.「You Can Close Your Eyes」で静かに終わる。 

バンドとの一体感が、聴く者も気持ち良くさせてくれる。


 
Tangelwood With Boston Pops Orchestra, Lenox MA 2009 




James Taylor: Vocal, Guitar
Larry Goldings : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal (4,5,11)
Andrea Zonn : Back Vocal (4,5,11), Violin (12,14)

John Williams : Conductor
Boston Pops Orchestra : Orchestra (2,3,6,7,8,9,10)
Tanglewood Festival Chorus : Chorus (4,5,11)

1. Sweet Baby James 
2. The Water Is Wild [Traditional]
3. Carolina In My Mind
4. My Traveling Star
5. Shower The People 
6. Enough To Be On Your Way
7. Caroline I See You
8. Mean Old Man
9. Fire And Rain
10. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
11. That Lonesome Road
12. Copperline [Reynolds Price, James Taylor] 
13. Sectert O' Life
14. Country Road

録音 : 2009年8月30日 The Koussevitzky Music Shed, Tanglewood Music Center, Lenox, Massachusetts 
放送 : FM WGBH/National Public Radio Broadcast


JTが毎夏にマサチューセッツ州レノックスにあるタングルウッド(ボストン・シンフォニーの本拠地)で行うイベントは、毎回趣向を凝らした内容となっている。8月27日から30日までの3日間行われた2009年のコンサートは、初日がバックコーラスの連中によるソロボーカルの披露、2日目がヨー・ヨー・マとシェリル・クロウのゲスト、そして最終日が恒例のボストン・ポップス・オーケストラとの共演だった。その模様は、FMラジオで生放送され、その後しばらくの間、ボストン・シンフォニー・オーケストラのホームページのオーディア・アーカイヴで聴くことができた。

番組は、日曜日の晴れた午後、オーケストラの音合わせを背景としたアナウンサーの番組紹介から始まり、彼は「JTのコンサートが生放送されるのは、おそらく初めてではないか」と述べている。そして常任指揮者のジョン・ウィリアムスのアナウンスでJTが登場、1.「Sweet Baby James」を歌う。ここでは途中からバンドの伴奏が加わるアレンジだ。 2.「The Water Is Wild」、JTにとってバークシャーと並ぶもうひとつの故郷であるノースキャロライナを歌った 3.「Carolina In My Mind」はオーケストラ付き。ここでオーケストラのアレンジを担当したスタンリー・シルバーマンが紹介される。タングルウッド・フェスティバル・コーラスと一緒の 4.「My Traveling Star」は、映像でも観ることができたが、ステージ向かって右に、いつものコーラス隊4人がいることを確認できた。夏らしく、JTを始め皆白い服装で決めている。 5.
「Shower The People」のエンディングでは、アーノルドがソロをとってオーディエンスの喝采を浴びている。6.「Enough To Be On Your Way」のオーケストラ、7.「Caroline I See You」でのピアノが美しい。後者の演奏前に奥様のキムへの感謝の言葉を述べ、演奏後には、ボストン・ポップスとの最初の共演(「その他映像」 Evening At The Pops 1993 参照)で彼女と出会ったエピソードを紹介している。そして愛が人間を変えた実話と紹介される 8.「Mean Old Man」では、ラリー・ゴールディングスのピアノ・ソロが軽妙で最高!JTは、9.「Fire And Rain」の紹介で、「バークシャーに初めて行ったのは治療のためだったけどね!」と言って、それが麻薬中毒絡みだったことを知っている地元のファンは笑いで応えている。曲後にJTがバンド・メンバー紹介をするが、ジョン・ウィリアムスのところで「キムを紹介してくれた有難う!」と言い、オーディエンスの喝采を浴びている。 10.「Up On The Roof」の後にJTは退場、アンコールの拍手の間、アナンウサーがステージの様子を中継する。再び登場したJTは、コンサートの直前 8月25日に亡くなったマサチューセッツ州上院議員テッド(エドワード)・ケネディについて言及し、タングルウッドのサポーターの一人だったと哀悼の意を述べている。

11.「That Lonesome Road」は、タングルウッド・フェスティバル・コーラスとJTによるアカペラ(この曲のリハーサルの模様を収録した映像も観ることができた)。ここでコンサートは終了し、オーケストラの団員は退席するが、JTは、交通渋滞のために途中からしか観れなかった人も多いとのことで、追加で演奏するとアナウンスし、オーディエンスは大喜び。いつものバンドによる演奏(リードギターなしのフォーメイション)で、12. 「Copperline」、13.「Sectert O' Life」、14.「Country Road」が演奏され、バイオリンのアンドレア・ゾーンが紹介される。ラジオ放送はここで終わり、私が聴いた音源もここまでなんだけど、資料によると、JTはその後も 「Whiskey Before Breakfast (Instrumental)」、「Something in the Way She Moves」、「Blossom」、「You've Got a Friend」、「You Can Close Your Eyes」、「Traffic Jam」を演奏したそうだ。

タングルウッドという地元における、夏の祝祭ムードに満ちた高揚感のあるパフォ−マンス。


   
Help For Haiti, Mahaiwe Performing Arts Center, Great Barrington, MA 2010






James Taylor: Vocal, Guitar (Except 17)
Owen Young : Cello (Except 11, 17, 18)
Arnold McCuller, Kate Markowitz, Kim Taylor : Back Vocal (Except 1, 2, 10, 11, 13, 16)

1. The Water Is Wide [Traditional]
2. Secret O' Life
3. Something In The Way She Moves
4. Enough To Be On Your Own
5. Here Comes The Sun [George Harrison]
6. Riding On The Railroad
7. Never Die Young
8. You've Got A Friend
9. Hard Times Come Again No More [Stephen Foster]
10. My Traveling Star
11. Belfast To Boston
12. (I'm A) Road Runner [Edward Holland Jr., Lamont Dozier, Brian Holland]
13. Fire And Rain
14. Carolina In My Mind
15. Shower The People
16. Sweet Baby James
17. That Lonesome Road
18. You Can Close Your Eyes

注: 10, 12 は予め録音された伴奏付きの演奏

収録: 2010年1月22日、Mahaiwe Performing Arts Center, Great Barrington, MA
放送: WAMC Northeast Public Radio


2010年1月12日ハイチで発生したマグネチュード7.0の大地震により、多くの建物の倒壊により20万人以上の人が犠牲になり、水道・電力などのライフラインも壊滅的な損害を受けた。その被害の大きさは衝撃的で、直後から各国政府、NPO、有名人による支援活動が展開され、JTも発生から僅か10日間で救援コンサートを開催した。ボストンを本拠地とする「Partners In Health」という医療支援を行うNPOと組んで、地元マサチューセッツ州内陸の小さな町グレート・バーリントンで、当日空きのあった古いシアターでチャリティー・コンサートを開催し、その模様を地元ラジオ局が東部7州に生放送、それらの収益金を寄付したのだ。コンサートの切符は即完売したため、翌1月23日の追加開催を急遽決めたという。本音源は放送のエアーチェックと思われ、当日演奏された曲の(おそらく)すべてと彼のアナウンスが収められている。私が聴いた音源では、曲が終わった後のオーディエンスの拍手でカットされていて、ライブの臨場感が損なわれている感があるが、間延びがない分、より音楽に集中できるというメリットもあるようだ。急遽企画されたコンサートなので、いつものバンドではなく、ボストン交響楽団のソリストで、JTの小規模ギグによく出演するオーウェン・ヤングのチェロと、アーノルド、ケイティと奥さんのキムによるバックコーラスという珍しい編成による、弾き語り向けレパートリーからなる地元開催コンサートとなった。小規模という意味では、2007年にピアニストのラリー・ゴールディングと二人で行った「One Band」 E14があるが、ここでのチェロとコーラス付きの演奏も深い味わいがあり、録音の良さもあってJTが弾くギターの音色の美しさが楽しめる。そしてコンサートの趣旨からか、彼の歌声に「思い」が込められているようで、それは素晴らしいパフォーマンスとなった。

1.「The Water Is Wide」という、此処と此の方の人(世界)が隔てられる様を歌った曲は、本コンサートの冒頭に相応しい。2.「Secret O' Life」を聞いていると、JTのギターとオーウェンのチェロの音の深みがよく捉えられた録音の良さに感心してしまう。3. 「Something In The Way She Moves」で、コーラス隊が紹介され、ファンにはお馴染みの曲の由来(アップルでのオーディション等)の後に演奏される。コーラスはアンドレア・ゾーンがいない分、いつもの違う感じに聞こえるし、背景に流れるチェロの朗々たる響きが美しい。(亡くなった兄)アレックスの事を歌ったが、歌詩ではアリスという名前にしたという 4.「Enough To Be On Your Own」は、資料では「Line 'em Up」とあったが間違い。チェロ奏者ヨーヨー・マのクリスマス・新年アルバム「Songs Of Joy & Peace」 2008 C89に収録された 5.「Here Comes The Sun」がコンサートで歌われるのは珍しいと思う。良く歌うチェロと控えめなコーラスをバックに、ワルツにアレンジされた演奏は平和な雰囲気に満ちている。チェロ伴奏付きの初期のレパートリー 6.「Riding On The Railroad」は新鮮。7.「Never Die Young」でJTは「私にとっては(若くして死ぬ)のには手遅れだけどね」と言って歌い出す。8.「You've Got A Friend」では、2007年のタングルウッド, 2008年のトルバドゥールで共演したキャロル・キングに言及して、彼女に捧げらるれている。なお本コンサートの年にはトルバドゥール・リユニオン・ツアーが行われるので、色んな思いがあったのだろう。曲のエンディングのアドリブの部分では、ハイチの人々への思いの言葉が聞かれる。9.「Hard Times Come Again No More」は、ヨーヨー・マ、マーク・オコナー、エドガー・メイヤーによるアメリカン・ルーツ音楽の共演盤「Appalachian Journey」2000 C72のゲストでJTが歌っていた曲で、ギターとチェロによる編成向きとして取り上げたのだろう。10.「My Traveling Star」は、2007年の「One Man Band」E14での「カラオケ」スタイル(予め録音した伴奏とJTのギター等のステージ演奏とのミックス)の再現で、歌っているのは当時と同じ「Tanglewood Festival Chorus」の16人。JTのギターの響きがキラキラした光の粒のようで美しい。

11.「Belfast To Boston」でJTは、「フランスでのコンサートを終えて、次のベルファストまで1週間空いたので、ルクセンブルグの森を散歩していたんだ。そしたらこの曲が降りてきた」と述べている。この曲は本コンサートの中で、唯一の純粋弾き語りだ。12.「(I'm A) Road Runner」は、10.と同じく「One Man Band」のバック録音(バンド演奏)を使用、コーラス隊も参加している。お馴染みの曲が続き、15.「Shower The People」で、JTは「何か良いことをしたければ、すぐに、身近な人にすべきだ」と語っているが、本コンサートの趣旨を念頭に置いているのだろう。JT、チェロとコーラスのコンビネーションが最高。エンディングではいつもの通りアーノルドがソロをとる。地元ソング 16.「Sweet Baby James」はオーディエンスに大受け。17.「That Lonesome Road」はコーラス隊とのアカペラによる厳かな歌唱。そしてコーラス隊との18.「You Can Close Your Eyes」でしっとりした雰囲気でコンサートが終わる。

ひとつのコンサートで、チェロがこれだけ多くの伴奏をした音源はなく、そういう意味で貴重であり、演奏・録音の質も高い。お勧め!

[2019年3月作成]


 
Pasifico Yokohama, Kanagawa, Japan [Carole King & James Taylor]  2010 
 




James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Carole King : Vocal, Piano
Danny Kootch: Electric Guitar, Acoustic Guitar (13)
Robbie Kondor : Keyboards, Accordion, Harmonica
Russ Kunkel: Drums
Leland Sklar: Bass

Arnold McCuller : Back Vocal
Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Violin

[Set 1]
1. Blossom 
2. So Far Away [Carole King]
3. Machine Gun Kelly [Danny Kortchmar]
4. Carolina In My Mind  
5. Way Out Yonder [Carole King]
6. Smackwater Jack [Gerry Goffin, Carole King]
7. Country Road
8. Sweet Seasons [Carole King, Toni Stern] 
9. Mexico
10. Song Of Long Ago [Carole King]
11. Long Ago And Far Away
12. Beautiful [Carole King]
13. Shower The People
14. (You Make Me Feel Like) A Natural Woman [Gerry Goffin, Carole King、Jerry Wexler]

[Set 2]
15. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]  
16. Crying In The Rain [Carole King, Howard Greenfield]
17. Chains [Carole King, Gerry Goffin]  
18. Sweet Baby James
19. Jazzman [Carole King, David Palmer]
20. Will You Love Me Tomorrow ? [Carole King, Gerry Goffin]  
21. Steamroller
22. It's Too Late [Carole King, Toni Stern] 
23. Fire And Rain  
24. I Feel The Earth Move [Carole King]  
25. You've Got A Friend  [Carole King]  

[Uncore]
26. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
27. How Sweet It Is (To Be Love By You) [Holland, Dozier, Holland]
28. You Can Close Your Eyes
29. Locomotion [Carole King, Gerry Goffin]  

収録: 2010年4月17日、Kokuritsu Dai Hall, Pasifico Yokohama, Kanagawa, Japan


2010年のJTとキャロル・キング(以後CK)の来日は、ファンにとって大きな出来事だった。特にJTは本当に久しぶりの来日で、しかもCKとのリユニオンということで、東京・横浜のみ3回の公演にファンが全国から駆けつけた。ツアーとしては、3月26日のオーストラリア・メルボルンを皮切りに、同国およびニュージーランドを7か所回った後にあたる。もともとは4月14, 16日の東京武道館のみの予定であったが、チケットの売れ行きがあまりに好調であったため、急遽17日の横浜公演が追加されたそうだ。そのため「James Taylor Online」の「Tour Dates」のコーナーには本コンサートが載っていない。横浜パシフィコ(横浜国際平和会議場)は、みなとみらいの再開発地域にあるコンベンション・センターで、約5000人を収容する国立大ホールは1994年オープン。音響設備の良いホールのようで、オーディエンス録音ではあるが、音質はとても良い。特にこの手の録音でオフになりがちなベースランが、フルバンドでの演奏の時でもはっきり聞こえる一方で、他の楽器とのバランスも申し分なく、すべての楽器やコーラス隊の各人の声を聴き分けるとができる位クリアーだ。リユニオン・ツアーの大半が大きなアリーナ会場だったため、このような比較的小さな音楽ホールでの音源は少ないはずで、演奏面も含めて当該ツアー音源の一番の出来と言えよう。

メンバーの登場に反応するオーディエンスの拍手から始まる。左右の拍手が立体的に捉えられていて、それがあたかも会場にいるかのような臨場感を生みだしている。CKの「
今晩は〜横浜に来れてうれしいです」(以降日本語によるアナウンスは青字で表示します)というコメントの後、JTが1.「Blossom」を歌い、CKがピアノで伴奏を付ける。2.「So Far Away」でのCKの声は少しかすれ気味だけど、味わい深く心に染み込んでくる。JTのアルペジオが繊細で、エンディングでは珍しくソロもとっている。JTによるバンドメンバーの紹介後、「ダニー・コーチマーの曲です」とアナウンスして、3.「Machine Gun Kelly」を始める。エレキギター、ドラムスとコーラス隊が加わるのはここからで、アンドレアのバイオリンの音も聞こえる。4.「Carolina In My Mind」は、ギター1本によるJTとコーラス隊の歌唱から始まり、ベース、ピアノ、ドラムスの順番で楽器が増えてゆく。5.「Way Out Yonder」はオルガンが入り、オリジナル録音でメリー・クレイトンが歌った「Sunshine gold」という一節はケイトが担当している。曲が終わると、ロビー・コンドウが紹介され、彼のピアノのイントロによる 6.「Smackwater Jack」は、リズムセクションの躍動感が素晴らしい。7.「Country Road」は、バイオリンとギターが聴きもの。「Troubador」での演奏は、オリジナルに忠実だったが。ここでのアレンジは後半でJTとドラムスによるブレイクが入る、後年のJTバンドのものだ。ここでCKが「あなたは美しいです。次の曲は美しいです」と話すが、演奏曲は 8.「Sweet Seasons」。恐らく12の前に入れるセリフを間違えたんじゃないかな? ロビーがブラスセクションのパートをシンセサイザーでカバーしている。CKが「私達はとてもうれしいです」、JTが「よくわかりませ〜ん」と言ってオーディエンスを笑わせる。9.「Mexico」で、JTは「行ったことはないんだけど.....」と語っているのが興味深い。マリンバのような音が聞こえるが、ロビーが弾くシンセによるものだ。「別々に書いたけど、同じような曲になりました」と紹介される 10. 「Song Of Long Ago」、11.「Long Ago And Far Away」は、メドレーで演奏される。後者ではオリジナル録音でジョニ・ミッチェルが歌っていたパートをCKが担当している。13.「Shower The People」は、コーラス隊の声色からCKが加わっているのがわかる。お馴染みアーノルド・マックラーのソロによるエンディングの後、JTがコーラス隊を紹介。CKが「次の曲は一緒に歌いましょうと言って、14. 「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」を始める。ファースヴァースの後CKは「いいです〜」と言う。バックのコーラスにはJTの声がはっきり聞きとれる。間奏はダニーのギターとキャロルのスキャットによる掛け合い。ダニーが難しいフレーズを弾き出すと、CKは「I gave up !」といって返すのを止める。終わると、CK「ありがとうございます」、JT「休憩です、20分」、CK「わかりました」で、ファーストセットが終わる。

セカンドセットは、本コンサートでは新しい曲 15.「Copperline」から。CKがピアノを弾くバージョンで、この曲が聴けるなんて幸せですね。ロビーはアコーディオンを弾いている。16.「Crying In The Rain」は、JTがメロディー、CKがハーモニーを、ブリッジでは交互にソロを取る。アンドレアのバイオリンが美しい。17.「Chains」の紹介で、CKがクッキーズとビートルズが歌ったと言うと、JTが「Food and bugs」と応えている。コーラス隊ではJTは低音を担当、間奏のハーモニカはロビーが吹いている。18.「Sweet Baby James」のコーラス部分は、CKがハーモニーを付ける。19.「Jazzman」は、コンサート毎に異なるダニーのギターソロ、ロビーのオルガンソロが聴きもの。CK「次の曲は、とても古い曲です」と紹介して歌う 20.「Will You Love Me Tomorrow ?」は、ピアノ、アコギのみの伴奏で、JTがコーラス部分のハーモニーを担当。21.「Steamroller」は、いつものJTバンドの演奏に比べてさっぱりした感じで、JTのハーモニカ、オルガン、エレキギターの順にソロが回る。22.「It's Too Late」も、ダニーの間奏ソロがハイライト。23.「Fire And Rain」は、やはりオリジナルと同じく、CKのピアノが最高。CKは 24.「I Feel The Earth Move」でピアノを弾かず、ステージを駆け回って盛り上げる。CK「ありがとうございます」。 25.「You've Got A Friend」は、JT→CKの順に歌われ、コーラスは合唱。ブリッジは掛け合いとなる。エンディングでCK「This is the last in Japan」とアドリブで歌う。 アンコールの26.「Up On The Roof」は、最初とブリッジはCKのシンプルなアレンジ、その他はキーを変えたJTのアレンジによる演奏。27.「How Sweet It Is (To Be Love By You)」もJTバンドほどコッテリしていないけど、それでも大いに盛り上がる。28.「You Can Close Your Eyes」は、JTのアコギと二人のボーカルのみによる演奏。最後に 29.「Locomotion」を賑やかに演奏して終わる。

日本ではJTよりCKの人気・知名度が高いので、CKはとても気持ち良さそう。JTはそれを知っていて、彼女を温かく支えているといった感じだ。曲良し、演奏良し、録音良しの宝物。なおコンサート以外に、「Never Die Young」、「Shed A Little Light」、「So Far Away」、「Blossom」、「Snow Queen」、「Will You Love Me Tommorow」を演奏したサウンドチェック音源が存在するが、私は未聴だ。


 
 Tangelwood, Lenox MA (With Vince Gill & Amy Grant) 2011 
 

James Taylor: Vocal, Guitar
Michael Landau : E. Guitar
Larry Goldings : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Chad Wackerman : Drums
Luis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Frugelhorn, Synthesizer

Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz, Kim Taylor: Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Violin

Vince Gill : Vocal (10, 15,17,23), Back Vocal (16,18,19), E. Guitar (10,15,16,17,18,23)
Amy Grant : Vocal (10, 16,18,23), Back Vocal (15,17)

[Set 1]
1. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
2. Something In The Way She Moves  
3. Walking Man
4. Your Smiling Face
5. Line 'Em Up  
6. Country Road
7. Carolina In My Mind
8. My Traveling Star
9. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
10. House Of Love [Wally Wilson, Kenny Greenberg, Greg Barnhill]

[Set 2]
11. Copperline [Reynolds Price, James Taylor] 
12. (I've Got To) Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
13. Don't Let Me Be Lonely Tonight  
14. Steamroller  
15. Pretty Little Adriana [Vince Gill]
16. Better Than A Hallelujah [Sarah Hart, Chapin Hartford]
17. Whenever You Come Around [Vince Gill, Pete Wasner]
18. Baby Baby [Keith Thomas, Amy Grant]

19. Sweet Baby James 
20. Fire And Rain
21. Mexico
22. Shed A Little Light
23. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]
24. Shower The People  
25. You Can Close Your Eyes  

録音 : 2011年7月4日 The Koussevitzky Music Shed, Tanglewood Music Center, Lenox, Massachusetts  


カントリー音楽界におけるシンガー・ソングライター、マルチ奏者(特にギター)の大物の一人であるヴィンス・ギル(1957- )は、オクラホマ州生まれ。1970年代のカントリーロック・バンド、ピュア・プレイリー・リーグで成功し、1983年からソロ活動で現在の地位を築いた。エイミー・グラント(1960- )はナッシュヴィルの生まれで、17才でレコードデビュー。長らくクリスチャン音楽界で活躍したが、1986年にピーター・セテラとのデュエット「The Next Time I Fall」が全米1位を獲得した後は世界的な人気を獲得した。出会った時は二人とも既婚者であったが、離婚後の2000年に結婚。1970年に姉が買ってきた「Sweet Baby James」 A2のレコードを聴いて以来、JTがヴィンスのアイドルになったそうで、本コンサートが初共演となる。実は、同じ年の4月12日に行われたJTのカーネギーホール公演へのゲスト出演が予定されていたが、エイミーの父親が危篤になったため急遽キャンセルになった経緯があり、その後JTが同年行われた恒例の夏行事であるタングルウッドでのコンサートに誘ったという。

JTのバックバンドは、トランペット、キーボードのウォルト・ファウアー、パーカッションのルイス・コンテ、バックコーラスにデビッド・ラズリーと奥様のキム・テイラーを含むフル編成(ただしサックスのルウ・マリニは何故かいない)であるが、ドラムスはスティーブ・ガッドの代わりチャド・ワッカーマン(1960- )が担当している。彼は、ジャズ、フュージョン、ロックと広い分野で活躍する人で、フランク・ザッパのバンドで名を上げた後、多くのセッションに参加。特にアラン・ホールズワースのバンドでは、ベースのジミー・ジョンソンと組んで鉄壁のリズムセクションを組んだ人だ。今回のJTバンドへの参加もジミーの口利きがあったんじゃないかな?ここでは歌伴ということで、控えめながらも、どっしりしたグルーブ感を出しているように感じられる。オーディエンス録音で、音質面では個々の楽器・ボーカルの分離がイマイチで、音量を大きくしないと聴きにくい難はあるが、全体的な音楽として楽しむにはまあまあといったところ。ちなみにアンドレア・ゾーンは、JTバンドに加入する前はヴィンスのバンドにいたそうで、JTから誘われた時は途中で辞められないとのことで、最初は断ったという。しかしアンドレアから相談を受けたヴィンスは、これは「chance of lifetime」と諭して逆に彼女を励まし、その結果バンド加入の申し出を受けたというエピソードがあるそうだ、

最初の曲 1.「Everyday」から、リラックスした演奏。JTが「finest place on earth」と言っているように、地元のオーディエンスとの信頼感・一体感は最高で、ここでしかない芳醇な雰囲気に満ちている。2.「Something In The Way She Moves」では、常連のはずの客に対し、毎度おなじみである曲の由来の紹介をするところがJTらしく、オーディエンスも知っているネタなのに、ちゃんと笑うところが微笑ましい。ファーストセットでの聴きものは、6.「Country Road」で、マイケル・ランドウによるテレキャスター・サウンドがバリバリのギタープレイと、エンディングのブレイクにおけるチャッドのドラミングが堪能できる。休憩前の最後に、ヴィンス・ギルとエイミー・グラント夫妻がステージに招かれ、デュエット曲
10.「House Of Love」を歌う。1994年発表のエイミーのアルバムのタイトルソングの録音にヴィンスがゲストで参加し、二人が知り合うきっかけになった曲だそうで、シングルカットされて全米37位を記録。前向きで明るい感じが素晴らしい。JTはバックでギターを弾き、ヴィンスがエレキギターで間奏でソロをとる。ヴィンスによると、JTのバンドはワールドクラスなので、ほんの少しのリハーサルのみでバッチリ決まったそうだ。

セカンドセットも悠々とした演奏が続く。13.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」のエンディング、14.「Steamroller」では、ウォルトがトランペット・ソロを聴かせてくれる。ここでゲストの二人が再登場。
15.「Pretty Little Adriana」は、彼のアルバム「High Lonesome Sound」1996に収められていた曲で、カントリーチャート2位のヒットとなり、同年のグラミー賞「Best male country vocal performance」を獲得している。16.「Better Than A Hallelujah」は、2000年のエイミーのアルバム「Somewhere Down The Road」からデジタルMP3シングルとして発売された。17.「Whenever You Come Around」は、ヴィンス1994年のアルバム「When Love Find You」から。18.「Baby Baby」は、エイミーのアルバム「Heart In Motion」1991からの曲で、シングルカットされて全米1位の大ヒットとなった。夫婦が交代で歌っているが、相方はコーラスに加わり、ヴィンスはリードギターを弾いているようだ。19.「Sweet Baby James」のコーラス部分では、ヴィンスが綺麗なハーモニー・ボーカルをつけている。しばらくJTの曲が続いた後、フィナーレの23.「How Sweet It」では、夫妻がまたまた登場してセカンド・ヴァースを歌い、ヴィンスは間奏のギターソロの前半を担当。なお後半はギターの音が異なるので、マイケルが弾いているようだ。アーノルドのボーカルが好調な 24.「Shower The People」の後、コーラス隊と 25.「You Can Close Your Eyes」を歌ってコンサートは幕を閉じる。終了後は打ち上げ花火の音が聞こえる。     

ヴィンス・ギル、エイミー・グラント夫妻を招き独立記念日に行われた、タングルウッド恒例の夏祭りです。なお、
6.「Country Road」、10.「House Of Love」、11.「Copperline」、19.「Sweet Baby James」、22.「Shed A Little Light」については、オーディエンス・ショットによる映像も観ることができた。

  
Heineken Music Hall, Amsterdam 2012    
 
James Taylor : A. Guitar, E. Guitar (8,9), Harmonica (8), Vocal, Back Vocal (by tape 14,22)
Larry Goldings : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass, Back Vocal
Steve Gadd : Drums, Percussion

[First Set]
1. Blossom
2. Sunny Skies
3. Carolina In My Mind
4. Everybody Has The Blues 
5. The Frozen Man
6. Walking Man 
7. Little More Time With You  
8. Steamroller Blues
9. Slap Leather   
10. Don't Let Me Be Lonely Tonight
11. Sweet Baby James 
12. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carle King]

[Second Set]
13. Another Day  
14. Lighthouse
15. Country Road 
16. Copperline 
17. Something In The Way She Moves
18. Mexico
19. Fire And Rain  
20. Your Smiling Face
21. You've Got A Friend  [Carole King] 
22. Shower The People  
23. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]
24. You Can Close Your Eyes  


収録: 2012年5月16日 Haineken Music Hall, Amsterdam
 

2012年のJTのコンサートツアーは、3月6日〜5月18日のヨーロッパ、6月26日〜7月28日の北米だった。本音源は、そのうちの前者で最後から2番目の公演にあたり、その前が5月15日のパリ、その後が5月18日のアイスランド・レイキャビク(最終)だった。ツアーバンドは、リードギター、コーラス隊、ホーンセクション、パーカッション無しという最小限の編成で、ワンマンバンドのツアーを除き、同じような編成によるものは、私が知る限り、1998年冬から春のヨーロッパ・ツアーくらいだ。少人数によるバンドと言っても、ジミー・ジョンソン、スティーヴ・ガッド、ラリー・ゴールディングスという常連で、JT自身のアコースティッック・ギターと合わせて、名手ぶりが一層引き立っていて、少人数によるバンド演奏の極致のようなサウンドなのだ。ニューアルバムの製作開始が噂される時期であり、演奏曲目は「JT 名曲集」そのもので、お馴染みのカバー曲もない。オーディエンスが聴きたがる曲を忠実に演奏しているという感じで、「James Taylor」1968 A1から2曲、「Sweet Baby James」1970 A2から6曲、「Mud Slide Slim And The Blue Horizon」1971 A3 から2曲、「One Man Dog」1972 A4、「Walking Man」 1974 A6 から各1曲、「Gorilla」 1975 A7から3曲、「In The Pocket」 1976 A8から2曲、「JT」 1977 A9より1曲、「Flag」 1978 A10、「New Moon Shine」 1991 A14より3曲、「Houglass」 1997 A15より2曲という選曲で、1970年代の代表曲がもれなく入っている。

1.「Blossom」から、エレキピアノ、ベース、ドラムスのバックがつく。2.「Sunny Skies」のコーラスパートでは、ジミー・ジョンソンのハーモニー・ボーカルが入るのが面白い。オーディエンス録音で、時々近くの人の会話の音が入るが、各楽器の分離が良く音質はクリアーで良好。聴衆は大変行儀よく静かにJTの音楽を楽しんでいる感じ。3.「Carolina In My Mind」を聴いていると、この頃のJTの声がドライ(枯れ気味)になったなと感じる。昔のようなつや、滑らかさがなくなったように思えるが、聴き込んでいるうちに気にならなくなった。4.「Everybody Has The Blues」では、JTのギターをたっぷり楽しもう。バックの余裕たっぷりの演奏も素晴らしい。ピアノとオルガンを巧みに使い分けるラリー、この手のリズムを叩かせると絶妙のスティーヴ。ここでもジミーのハーモニー・ボーカルが入る。バンド紹介の後に演奏される2曲は彼の父親をテーマに書かれたものという。 5.「The Frozen Man」でのバンド演奏は、名手達による味わい深いものだ。シェイカーを振りながら、スネア、シンバルを叩くスティーブの繊細な演奏が最高。 6.「Walking Man」を聴いていると、40年経っても瑞々しさを失わないなんて凄いことだなあと思う。いつもはバンドに埋もれてあまり聞こえないジミーのベースランを追うのも楽しみ。ラストの「オーオー」と歌うことろでは、ジミーも一緒に歌っている。7.「Little More Time With You」は、いつもに比べて静かで穏やかな演奏で、ここでもジミーがバックコーラスを少し付ける。ラリーのピアノとエレキピアノの使い分けが上手く、間奏ソロではハーモニカのような軽やかな音を出している。8.「Steamroller Blues」で、JTはエレキギターに持ち替えて、声色を付けてユーモラスに歌う。各プレイヤーのインタープレイが聴きもので、スローなテンポにおける「溜め」が効いたスティーヴのドラムス、ラリー得意のオルガンソロに加えて、年々上手くなるJTのハーモニカ・ソロが聴きもの。切れ目なしに演奏される 9.「Slap Leather」は、いつもより遅めのテンポで、これも各楽器の演奏が絶妙!間奏のピアノソロがきりっと締まっている。10.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」は、このような小編成のバンドで聴くのがいいですね〜。JTのギターもしっかり聞こえるし、ラリーのエレピの和音、ジミーのベースの動き、そしてスティーヴのリズム、どれをとっても最高!極め付きはエンディングでのラリーのエレピソロの味わいだ。11.「Sweet Baby James」の曲紹介で、JTは、曲が頭に浮かんだ際に運転していた車の後部座席には「弟のヒューが寝ていた」と言っており、いままで彼一人だったと思っていたので、少しビックリ。ここではラリーがアコーディオンのような音を出しているが、以前ワンマンバンドで使っていた足踏み式のポータブルなオルガン、本当のアコーディオン、またはシンセサイザーのどれを使っているかは不明。静か目のプレイが多い本コンサートのなかで、12.「Up On The Roof」のエンディングはドラムスとベースが跳ね回る元気な演奏だ。特にジミーのベースランが凄い。

セカンドセットは、音源ではバンドの演奏のエンディングからフィルインするが、JTが歌っている曲ではなさそうだ。13.「Another Day」の前半では、録音マイクを動かしたために擦れる音が入る。ラリーの間奏ソロはピアニカのような音を出している。14.「Lighthouse」では、昔のルボックス製オープンリール・レコーダーが登場、以前1976年のコンサートで使用していたが、その後しまい込んで居所不明だったのが、最近テープと一緒に見つかったので試してみたら、問題なく動くので、今回使うことにしたとのこと。テープ再生によるJT自身の多重録音によるコーラスに合わせてJTが歌い、バンドが演奏する。 15.「Country Road」は、スティーヴのドラムスがハイライトとなる演奏であるが、いつもよりテンポを落として、落ち着いた演奏となっているが、その分上手さが際立っている気がする。16. 「Copperline」での繊細な演奏は流石ですね。ラリーのさらさらした川の流れのようなピアノのアルペジオ、スティーヴによるスネアの何気ない名人芸が楽しめる。17.「Something In The Way She Moves」では、お馴染みの曲紹介で、「これは初めて作った曲では、それ以前のものは人前で演奏できるものではない」と断言している。ここでもセカンド・ヴァースからバンドがフィルインする。18. 「Mexico」は、いままでの中で最も賑やかな演奏であるが、それにしても余裕たっぷりなプレイだ。ジミーがコーラスを歌う。ラリーは、間奏のマリンバのようなシンセサイザーとピアノを器用に弾き分けている。19.「Fire And Rain」のしっとりしたの中には、スティーヴのスネアの独特な響きあり。元気な20.「Your Smiling Face」では、ドラムスとベースのコンビネーションに注目しましょう。ここでJTが「最後の曲」と言うとオーディエンスからため息が漏れる。曲の由来およびアムステルダムのオーディエンスに対する感謝の言葉の後、21.「You've Got A Friend」を歌う。アンコールでの 22.「Shower The People」は、14と同じテープレコーダーのバックコーラスを使った演奏。23.「How Sweet It Is」は、ジミーの他にオーディエンスもバックコーラスに加わる。会場が歌声に溢れると、連帯感が増して本当にいい感じだ。エンディングでのR&B風演奏パートでは、オーディエンスとの「オーオー」という掛け合いがイカシテいる。最後の曲24.「You Can Close Your Eyes」のみギター1本の弾き語りだ。オーディエンスの中には一緒に歌っている人もいて、この曲が多くの人に愛されていることがわかる。  

気心が知れた名手達との小編成によるバンド演奏の妙味がたっぷり楽しめる、珠玉の音源。


 
Moda Center, Portland, Oregon 2014




James Taylor: Vocal, Guitar
Jeff Babko : Piano, Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Louis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Keyboards
Lou Marini Jr. : Clarinet, Sax
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Voca, Violin


[Set 1]
1. Something In The Way She Moves 
2. Today, Today, Today
3. Lo And Behold
4. Believe Or Not
5. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
6. Country Road
7. Millworker
8. Never Die Young 
9. Carolina In My Mind
10. One More Go Rround
11. Sweet Baby James
12. You've Got A Friend  [Carole King]

[Set 2]
13. Stretch Of The Highway
14. You And I Again
15. Caroline I See You
16. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]
17. Hour That The Morning Comes
18. Only One
19. Fire And Rain
20. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
21. Mexico
22. Your Smilig Face
23. How Sweet It Is (To Be Love By You) [Holland, Dozier, Holland]  
24. Shower The People
25. Wild Mountain Thyme [Traditional]  

録音: 2014年5月30日 Moda Center, Portland, Oregon


2014年北米ツアー最初のコンサート(JTは、最初に「You are the first audience」と言っている)。会場のモーダ・センターは、オレゴン州ポートランドにあり、命名権の関係で名前変わる前は、ローズ・センター、ローズ・スクウェアと呼ばれていて、バスケットなどのスポーツイベントを主に行う所だ。

本音源(本ツアーにおけるコンサート)の特徴は、キーボード奏者がいつものラリー・ゴールディングスでなく、ジェフ・バブコであること (ラリーとしている資料は誤り)、コンサートではあまり演らない曲を取り上げていることだ。オーディエンス録音で、ベースが少しオフ気味ではあるが、自然で聴きやすい音だ。ヘッドフォンで聴いていると、JTのボーカルが右から中央に時々揺れ動くのが気になるが、スピーカーで聴く分には問題ないだろう。

ジェフ・バブコは南カリフォルニア生まれ・育ち。大学卒業後フリオ・イグレシアスのツアーバンドで演奏し、その後ロベン・フォード、ラリー・カールトン、トトなどのバンドで活躍、テレビ番組「ジミー・キンメル・ショー」のハウスバンドのリーダーを務めた。2010年代はシェリル・クロウのツアーとレコーディングに参加、JTのツアーにもラリー・ゴールディングスの代役として加わるようになり、「Covers」2008 A20のレコーディングにも参加した。マンドリン奏者のクリス・タイルのバックを務めるなど、ジャズからカントリーまで幅広い分野をカバーする人だ。ここでは比較的地味な伴奏に徹しているが、14.「You And I Again」、15. 「Caroline I See You」などのジャズ・クラシカル風の曲で、彼のプレイを味わうことができる。

演奏曲については、当日の演奏曲の初出アルバムのリストを示そう。

James Taylor (First Album) 1968 A1 : 1, 9
Sweet Baby James 1970 A2 : 3, 6, 11, 19
Mud Slide Slim And Blues Horizon 1971 A3 : 12
One Man Dog 1972 A4 : なし
Walking Man 1974 A6 : なし
Gorilla 1975 A7 : 21, 23
In The Pocket 1976 A8 : 24
JT 1977 A9 : 16, 22
Flag 1979 A10 : 7, 20
Dad Loves His Work 1981 A11: 4, 17
That's Why I'm Here 1985 A12 : 5, 18
Never Die Young 1988 A13 : 8
New Moon Shine 1991 A14 : 10
Hourglass 1997 A16 : なし
October Road 2002 A17 : 15
Before This World 2015 A22 (この時点では未発表): 2, 13, 14, 25

過去のアルバムから万遍なく選んだ感じで、当日演奏された曲のなかでは、3.「Lo And Behold」(Sweet Baby James)、4.「Believe Or Not」、17.「Hour That The Morning Comes」(Dad Loves His Work)、7.「Millworker」(Flag)、10.「One More Go Rround」(New Moon Shine)あたりが、コンサートでは珍しい曲で、さらに当時製作中だったアルバム「Before The World」 から4曲演奏されている。その代わりに「Don't Let Me Be Lonely Tonight」(One Man Dog)、「Seret O' Life」(JT)、「You Can Close Your Eyes」(Mud Slide...)、「Walking Man」(Walking Man)、「Copperline」、「Shed A Little Light」(New Moon Shine)、「Line 'Em Up」(Hourglass) などの常連曲が落とされている。この傾向は、JTのセットリストのなかでも異色といえよう。珍しい曲を演奏するためには、常連曲を落とさなくてはいけないなんて、贅沢な悩みですよね...

以下、目立った所だけ述べる。2.「Today, Today, Today」は、「物事の始まりの曲」と紹介されている。 3.「Lo And Behold」は、オルガン、ブラス、パーカッション、エレキギターが加わったアレンジで、スタジオ録音よりもずっとファンキーな仕上げになっている。11.「Sweet Baby James」の後で、JTはキーボード奏者の紹介をしていて、それで資料にあったラリー・ゴールディングでなく、ジェフ・バブコであると判った次第。セカンドセットの最初は、バンドによるイントロの演奏が6分近く続き、その間JTはサイン等のファン・サービスを行っていたらしい。 14.「You And I Again」、15.「Caroline I See You」では、ブラスセクションとバイオリンのアンサンブルがとても美しい。21.「Mexico」のイントロで、JTはカポの位置を間違えていたことに気づき、弾き直すシーンがあるのが面白い。23.「How Sweet It Is」のエンディングでは、いつもはないR&B風演奏(アーノルドが張り切ってシャウトしている)が付くのがこの頃の特徴。最後はトラッドの 25.「Wild Mountain Thyme」で、しっとりとした雰囲気で終わる。

珍しい選曲、キーボード奏者の演奏を楽しむことができる。

[2022年10月作成]


 
Schttenstein Center, Columbus, Ohio 2014 

 


James Taylor: Vocal, Guitar
Larry Goldings : Piano, Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Louis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Keyboards
Lou Marini Jr. : Clarinet, Sax
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Voca, Violin


[Set 1]
1. Something In The Way She Moves 
2. Today, Today, Today
3. Lo And Behold
4. Believe Or Not
5. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
6. Country Road
7. Millworker
8. Carolina In My Mind
9. One More Go Rround
10. Sweet Baby James
11. You've Got A Friend  [Carole King]

[Set 2]
12. Stretch Of The Highway
13. You And I Again
14. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]
15. Hour That The Morning Comes
16. Steamroller
17. Only One
18. Fire And Rain
19. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
20. Mexico
21. Your Smilig Face
22. How Sweet It Is (To Be Love By You) [Holland, Dozier, Holland]  
23. Shower The People
24. Wild Mountain Thyme [Traditional]  

録音: 2014年6月29日 Schottenstein Center, Colunbus, Ohio


5月末か8月初旬までの2014年北米ツアーの中盤にあたるコンサートで、会場ショッテンステイン・センターは、オハイオ大学のキャンパス内にある 1998年オープン、収容人員19,000人の多目的ホール。オーディエンス録音で、深めのリバーブは会場内で聴いている感じの音響だ。クリアさに欠けるけど、それなりに自然なサウンドで、最後まで疲れずに聴くことができる。

ツアー初めの5月30日モーダ・センター(上述)と比較すると、まずキーボード奏者がジェフ・ベプコからレギュラーのラリー・ゴールディングスに変わっているが、ツアーのどの時点で交替したかは不明。次に演奏曲について、5月に演奏された「Never Die Young」と「Caroline I See You」がはずれ、「Steamroller」が加わっている。一方6月14日のシンシア・ウッズ・ミッチェル・パビリオン(映像の部参照)と比べると、「Never Die Young」がはずれる代わりに、「Belive Or Not」が入っているのが相違点。

演奏面ではほぼ同じなので、上記2者のレビューを参照ください。本音源で面白かったのは、アーノルド・マックラー紹介の場面で、JTが彼の本拠地がオハイオ州であることをアナウンスすると、会場から大きな拍手が起きた点だね。

[2023年4月作成]