Concerts At Texas 1990




James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landou : Electric Guitar
Don Grolnick : Piano, Keyboards
Clifford Carter : Sythesizer, Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums
Valerie Carter, David Lasley, Kate Markowitz, Philip Ballou : Back Vocal

1. Secret O' Life 
2. You Can Close Your Eyes   
3. Traffic Jam
4. Sweet Potato Pie
5. Baby Boom Baby 
6. Riding On The Railroad 
7. Machine Gun Kelly [Danny Korchmer]
8. Everyday [[Norman Petty, Charles Hardin]
9. Sun On The Moon   
10. Like Everyone She Knows  
11. Hour That The Morning Comes
12. Handyman [Otis Blackwell, Jimmy Jones]  
13. Carolina In My Mind
14. Country Road
15. Only One 

16. Sweet Baby James 
17. That's Why I'm Here
18. Don't Let Me Be Lonely Tonight  
19. Never Die Young
20. Fire And Rain 
21. Only A Dream In Rio
22. Millworker
23. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
24. Mexico
25. Your Smiling Face
26. Shower The People  
27. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]   
28. You've Got A Friend [Carole King]
29. Steamroller
30. That Lonesome Road


収録:  1990年10月4日 Austin , Texas
     1990年10月5日 Starplex Amphitheater, Dallas, Texas (29, 30なし)
     1990年10月6日 Houston , Texas


1990年JTはコンサートツアーをやらなかったが、翌年9月に発売されたアルバム「New Moon Shine」A14 のための曲作りや製作のためと推測される。その年に行われた数少ないコンサートのひとつは、6月24日のテルーライド・ブルーグラス・フェスティバル (B20, E6) で、そこでは1989年と同じマーク・オコナー、ジェリー・ダグラス、エドガー・メイヤーといったブルーグラスのニュージシャンがバックを担当、コーラス隊にヴァレリー・カーターとケイト・マーコウィッツが初めて加入したものだった。その1ヶ月半後の8月10日に行われたニューヨーク、ジョーンズ・ビーチ・シアターでのコンサート(「その他映像」参照)は、その後長らくJTバンドの常連になるベースのジミー・ジョンソン、ギターのマイケル・ランドウ、キーボードのクリフォード・カーターが参加し、新アルバム製作およびその後のコンサートツアーのために結成された新バンドのリハーサルの成果、バンドの仕上がりを試すためのコンサートと推測できる。2013年になって、その2か月後にテキサス州の近接する3つの都市で連日行われた、同じメンバーによるコンサート音源を聴くことができた。テープ・ヒスノイズが若干気になるが、各楽器・ボーカルがクリアーな音で捉えられ、かつ各音の分離およびバランスが素晴らしいので、総体的な音質水準は上々といえよう。

1.「Secret O' Life」のバックは、ドン・グロルニック(ピアノ)とクリフォード・カーター(エレキピアノ)の二人が伴奏をつけており、その分JTのギターの音は小さめ。2曲目は、通常のコンサートでは最後に歌われる 2.「You Can Close Your Eyes」で、彼のギターとコーラス隊のみによる演奏だ。3.「Traffic Jam」でのドラムス、ピアノの切れ味は素晴らしく、後半入るベースランのソロは、3つのコンサート全て異なる音使いとなっており、いつもは地味なプレイに徹するジミー・ジョンソンの上手さを如実に物語っている。4.「Sweet Potato Pie」でのマイケル・ランドウは、かなりハードにロックしている。彼のプレイは、これまでのJTバンドのギタリストに比べてメタリックな響きが強かったため、当時のJTファンの間では賛否両論だったというが、今聴くとそれほど違和感は感じられない。コーラス隊の声もいつもと異なる感じで、それはアーノルド・マックラーの代わりにフィリップ・バルー (1950-2005)が歌っているためだ。彼は1970年代中頃にアーノルドと Revelationというコーラスグループを結成していた人で、ルーサー・バンドロス、ジョージ・ベンソン、ビリー・ジョエル、ジョン・ホール、カーリー・サイモンなどの作品に参加、「New Moon Shine」 1991 A14にも1曲だけ参加している。彼の声は、常連のアーノルド・マックラーよりも高いため、ファルセット専門のデビット・ラズリーと女性二人と合わせて、本音源におけるコーラスがより女性的に響くのが面白い。5.「Baby Boom Baby」イントロでのマイケルのコクのあるギタープレイは何度聴いても惚れ惚れする。6.「Riding On The Railroad」は、JTの弾き語りから始まり、セカンド・ヴァースでピアノ、リズムセクション、コーラスの順で加わり、盛り上がってメドレーで ハードにアレンジされた7.「Machine Gun Kelly」に移ってゆく。8.「Everyday」でのシンセサイザーは自然なサウンドで、1980年代の安っぽい感じとは異なり、当時すでに楽器の性能が格段に進歩していたことがわかる。9.「Sun On The Moon」は、各楽器およびコーラスの名手ぶりがよくわかる演奏だ。ここでもアーノルドとフィリップの声質の違いがよく出ている。「タイトルはまだありません」と紹介される 10.「Like Everyone She Knows」は、翌年発売の「New Moon Shine」に収録されるものとほぼ同じアレンジなので、レコードのための録音、リハーサルが終わった時点での演奏だろう。11.「Hour That The Morning Comes」は、「パーティーの歌」とのこと。エンディングでマイケルがピリッとした感じのソロを弾いている。12.「Handyman」、13.「Carolina In My Mind」と、比較的淡々とした雰囲気で進んだ後、14.「Country Road」のハードな演奏で盛り上がる。休憩の予告の後の15.「Only One」でファースト・セットはお終い。 

セカンド・セット最初の曲 16.「Sweet Baby James」は、マイケルによるペダルスティール・エフェクトが入る。17.「That's Why I'm Here」は、6日の屋外劇場におけるコンサートで、JTは「芝生にいる皆さんに捧げます」と語りかけて歌う。5日のコンサートでも他の曲の合間で、「芝生の人達はどう?」と問いかけている。18.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」で、エンディングにおけるドン・グロルニックのエレキピアノ・ソロが3つ聴けただけで最高!この人のソロは何時も全く違う音なので、本当にスリリングだ。19.「Never Die Young」の間奏のギターソロで、レコード・バージョンのボブ・マンと、ここでのマイケル・ランドウのスタイルの違いが出ているのが面白い。20.「Fire And Rain」では、イントロでオーディエンスから拍手と歓声が起きる。21.「Only A Dream In Rio」は、曲の由来が語られる。1985年のリオのコンサート「Rock In Rio」での感動、軍政が終わり民主政権が始まった当時のブラジルの熱い雰囲気が語られる。しかし何故か6日のみ、「また別の機会に話すから」と、途中で切り上げて演奏を始める。 22.「
Millworker」のイントロは、クリフォード・カーターのシンセサイザーがペニー・ホイッスルのような音を出している。23.「Up On The Roof」はいつもの演奏なんだけど、ここでの聴きものがジミー・ジョンソンのベースにある。何でもないプレイの中に、時折とてもユニーク、クリエイティブなランをさっと入れているのだ。通常この人にプレイはバックの演奏の中に埋もれて、はっきり聞き分けられない音源も多いけど、ここでの彼のプレイは絶妙のミキシングにより、全体の演奏にバランスを乱すことなく、はっきり聴こえるのだ。これはコンサート全般で言えることで、それが本音源の大きな魅力となっている。24.「Mexico」、25.「Your Smiling Face」と元気な曲が続いた後、本音源のハイライト、26.「Shower The People」が始まる。ここではエンディングのソロボーカルを予想通りフィリップ・バルーが歌いだす。以外と太い声で歌っており、この人のボイス・レンジの広さに感心。そして、途中からデビッド・ラズリーが引き継いでソロで歌うのだ!以前彼のホームページで、「どうしてJTのコンサートでソロを歌わないのか」というファンの質問に対し、彼は本曲で歌うことがあったと答えているが、ここでその模様を楽しむことができる。それにしても、ファルセット・ヴォイスでシャウトするなんて凄いね〜。

27.「How Sweet It Is」の間奏ソロは、マイケルがハード、シャープなサウンドで迫っている。後半におけるJTのアドリブ・ボーカル、コーラス隊との掛け合いもリラックスした感じで好調。28.「You've Got A Friend」からはアンコールでの演奏で、5日のダラスの音源は、この曲の途中で終わってしまう。29.「Steamroller」は、ジャズっぽくクールなドンのピアノソロと、思い切りロックしたマイケルのギターソロの対比が鮮やか。最後のJTのアドリブ・ボーカルと、アップテンポに転じるR&B調のエンディングもコッテリしている。最後の曲30.「That Lonesome Road」は、コーラス隊とアカペラで厳かに歌っている。

ヒューストンでは21.「Only A Dream In Rio」、29.「Steamroller」、ダラスでは22.「
Millworker」で、演奏途中でカットが入る他、ダラスでは一部の曲で雑音が入ったりするが、上述のとおり音質が良いので、とても楽しめる音源だし、3つ分ということでボリュームたっぷり。1990年という、珍しい年・メンバーによるものだしね!
 

Paramount Theatre, New York 1991 
 



James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar, Harmonica
Michael Landou : Electric Guitar
Don Grolnick : Piano
Clifford Carter : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums
Valerie Carter, David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal

1. Secret O' Life
2. Wandering [Traditional]
3. Traffic Jam  
4. You've Got A Friend  [Carole King]
5. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
6. Copperline [Reynolds Price, James Taylor] 
7. Down In The Hole
8. Carolina In My Mind 
9. Country Road
10. Sun On The Moon  
11. Don't Let Me Be Lonely Tonight  
12. Fire And Rain  
13. I Will Follow

14. Something In The Way She Moves 
15. Slap Leather  
16. Frozen Man
17. Shed A Little Light 
18. Walking Man 
19. Never Die Young
20. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  
21. Mexico  
22. Your Smiling Face  
23. Shower The People
24. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland]
25. Only One 
26. Steamroller

1991年10月31日 Paramount Theatre, New York にて収録

 

1991年9月にアルバム「New Moon Shine」A14 発売直後のコンサートで、当該アルバムからの新曲を(5,6,7,15,16,17)演奏している。会場のPramount Theatreは、昔タイムズ・スクェアにあった劇場ではなく、マディソン・スクェア・ガーデンのアリーナに隣接する収容人員5千人のイベント会場で、買収や命名権の変更後、現在は Theater At Madison Square Gardenという名前になっている。ドン・グロルニックをリーダーとするバックバンドは、1993年の公式ライブアルバム A15を経て1995年に彼がガンで倒れるまで続くが、1991年は1990年のJohn's Beachの映像と合わせて、初期の音源といえる。ドンとクリフォード・カーターの二人のキーボード奏者をはじめ、各楽器、バックコーラスの名手達が集まり、歴代のJTバンドの中でも最も安定感のある布陣だ。その演奏もさることながら、録音・ミキシングも完璧で、音に厚みと立体感があり、かつ各楽器・ボーカルのバランスおよび分離に優れたクリアーな音質となっている。

コンサートはJTの「Happy Halloween !」という言葉から始まり、彼は曲の紹介でも幽霊の真似をした声色を使っている。西洋のハロウィーンは、パンプキンの黄色と魔女の黒のデコレーションに覆われた店、仮装した子供達が「Treat or trick」と言ってお菓子をねだって家を回り、夜はパーティーのために仮装した大人達が行きかうなど、街には独特な雰囲気が漂っている。そのためか、このコンサートにおけるJT、バンドそしてオーディエンスからもザワザワ感が伝わってくるようだ。ドンのエレキピアノとJTのアコギのみによる1. 「Secret O' Life」からメドレーで 2.「Wandering」に移る。音の良さとミキシングにより、コーラス隊の4人の声をはっきり聞き分けることができるのが凄い。JTは「ここに来るまでの交通渋滞がひどかったね!」と言ってコーラス隊と一緒に 3.「Traffic Jam」を歌う。4.「You've Got A Friend」は、カルロス・ヴェガのコンガの繊細な響きと、ジミー・ジョンソンが時折入れるベースランがよく聞こえるのが面白い。ここでメンバー紹介のコーナーとなり、ヴァレリー・カーターは「今夜着ている服は自分で作った」と言われる。ケイト・マーコウィッツは、「最近ヨーロッパ大陸で成功したので、頭の中がグルグルしている」 と紹介されるが、それは1991年にKate Yanai の名義でドイツとオーストリアでNo.1ヒットとなった「Summer Dreamin'」のこと。もともとラムベースのバカルディ・カクテルのCMソングとして録音されたが、好評によりシングル発売したところ大ヒットになったものだ。彼女は、二匹目のどじょうを狙うレコード会社から契約オファーを受けたが、自分の音楽ができる余地がなかったため、結局セッションシンガーを続けるキャリアを選び、JTのバンドに残ることになる。ニューアルバムからの新曲 5.「
(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」のイントロはJTのアコギから(後年のライブは、マイケル・ランドウのエレキギターが担当)。ドンはアコーディオンを弾いている。6.「Copperline」は、クリフォード・カーターのシンセイザーが効果的で、スタジオ録音ではマーク・オコナーのバイオリンだった間奏はマイケルがソロをとっている。8.「Carolina In My Mind」は、最初からバックコーラスをフィーチャーしたアレンジ。9.「Country Road」では、ドラムを録音する複数のマイクがきっちりミキシングされ、切れ味抜群のサウンドだ。11.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」のエレキピアノとシンセサイザーのコラボレイションが最高で、ラストのドンのソロを聴くと、天国にいる彼のことを思ってしまう。ファーストセットの最後の曲 13.「I Will Follow」を演奏する前、JTは休憩について語り、会場にNRDC (Natual Resouces Deffence Council、1970年設立のNPOで、エネルギー問題、水質汚染、核兵器削減、自然保護等幅広い分野で活動を展開。海軍が水中で使用するソナーが海洋生物に悪影響を与えるとして訴訟を起こし、安全保障を優先するブッシュ政権と争ったエピソードは有名。JTは同団体のサポーターの一人)のコーナーがあるので立ち寄って欲しいと訴えている。

セカンドセットも15〜17で新曲を披露。17.「Shed A Little Light」のコーラス隊は、二人づつ左右のチャンネルに分かれて交互に歌う部分があり、男性は声質から左がアーノルド、右がデビッドとはっきり区別できる。女性の二人は似ているのではっきり断定できないが、メンバー紹介の際に、JTはケイトを「アーノルドの隣」といっているので、立ち位置と同じミキシングをしているならば、左がケイト、右がヴァレリーということになる。皆さん自分で聴いてみて考えましょうね! 21.
「Mexico」は、サルサ風になる前のストレートなアレンジによる演奏。23.「Shower The People」は、エンディングにおけるアーノルドのソロボーカルはいつもの事ながら、彼が歌う間に左チャンネルの女性がバックコーラスを一人で歌っていることがよくわかるのは、見っけものだ。24.「How Sweet It Is」でも、バックコーラスの4人が入れるアドリブボーカルがはっきり聴きとれるのが面白い。26.「Steamroller」では、ドンのジャズっぽいソロと、マイケルのヘビーロック調のソロとの対比が鮮やか。本音源でのマイケルのプレイは地味なんだけど、こういう時に思い切り弾きまくっている。私が聴いた音源はこの曲で最後になってしまうが、本当はこの後に「Sweet Baby James」、「You Can Close Your Eyes」、「That Lonesome Road」などの締めの曲を演っているはずで、最後のアンコール曲がカットされていることが本音源の唯一の弱点。

音質・演奏ともに申し分なく。当時のコンサートの様子を思う存分楽しむことができる。


Palasport, Vicenza, Italy 1992 
 
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Howard 'Buzz' Feiten : Electric Guitar
Don Grolnick : Piano, Electric Piano, Accordion (6)
Cliford Carter : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums, Percussion
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz, Valerie Carter : Back Vocal (2,3,6,8,9,10, 11,12,13)

1. Sweet Baby James
2. Something In The Way She Moves
3. Blossom
4. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
5. Slap Leather
6. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
7. You Make Me Easy
8. Love Songs
9. Long Ago And Far Away 
10. Hour That The Morning Comes 
11. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones] (Fade In) 
12. Never Die Young
13. Carolina In My Mind
14. Fire And Rain


1992年5月15日 Palasport Vicenza, Italy にて収録


 
ヴィチェンツァは、ミラノから約150キロ東、ヴェローナの近くにあるイタリア北部の都市で、資料によると 1992年5月15日の録音とあるが、資料の曲目が実際の音源のものと大きく異なるので、場所や日付の信憑性に疑念がある。ただし冒頭でJTが「Bonasera ! (こんばんは)That's It. That's all of my Italian .....」と言っているので、イタリアで行われたコンサートであることは確かであり、演奏曲目に「New Moon Shine」1991 A14の曲が多く入っているので、時期的にも合っている。ここでは普段あまり演らない曲が聴けること、いつもと違うギタリストが参加していることで、特異な音源となった。ハワード・バス・フィートンは、ジャズ、ブルース、ロック等、幅広い音楽をカバーする人で、ポール・バターフィールド・ブルース・バンドの加入や、ザ・ラスカルズのリードギターで有名となり、キーボード奏者のニール・ラーセンと組んで製作したアルバム「Full Moon」1971 は、ジャズロックの名作と言われている。さらに 1980年にはAORの名盤 「Larsen-Feiten Band」を出している。またセッション・ミュージシャンとしても華々しい経歴を持っていて、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、デビッド・サンボーン、スティーヴィー・ワンダー等の作品に参加、JTの弟リヴの作品「Over The Rainbow」 1973 C12にも名を連ねている。近年は自ら開発し、特許を取得したギター・チューニング・システムの販売で有名。彼はJTのアルバム録音には参加しておらず、他の時期のコンサートツアー参加の実績もないようなので、ボブ・マン、マイケル・ランドウの両者とも都合がつかなかったことによるピンチヒッター的な役割だったと思われる。

イタリアらしくオーディエンスは陽気で開けっぴろげだ。JTの曲をよく知っているようで、2.「Something In The Way She Moves」のイントロが始まっただけで大きな拍手が起きる。ここではセカンド・ヴァースからコーラスとバンドがフィルインする演奏。3.「Blossom」では最初からバンドとコーラスが入る賑やかなアレンジだ。エンディングの「ラララ.....」をコーラスと一緒に歌うのが新鮮。 お馴染みの 4.「Copperline」では、間奏でバズのギターソロが入る。5.「Slap Leather 」、6.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」とロック調の曲が続き、
7.「You Make Me Easy」では、バズのギターソロがストレートなプレイで素晴らしい。 8.「Love Songs」も「Gorilla」1975 A7からの曲で、ライブでの演奏は珍しい。ドン・グロルニックのイントロのソロ、曲中の伴奏が大変美しく、コーラスアレンジも最高。メドレーで 9.「Long Ago And Far Away」となる。ここでは初期の演奏のダークなムードは完全に消え去り、明るくドリーミーな感じの歌と演奏だ。10.「Hour That The Morning Comes」もオリジナル録音で感じられた暗い雰囲気はなく、ライ・クーダー風のアレンジが軽妙な曲に仕上がっている。ここでもコーラスが前面にフィーチャーされ、通常のバンドのシンガーとバックの垣根を超えた、両者の精神的な絆の深さを感じることができる。バズのギターソロがハードエッジなカミソリのよう。11.「Handy Man」は途中からフェイドインで始まる。メンバー紹介の後の 12.「Never Die Young」では、やはりバズのギタープレイが聴きもので、オリジナルと全く異なるソロを聴かせてくれる。 13.「Carolina In My Mind」、14.「Fire And Rain」でも、バズによるギター伴奏に個性があり楽しめる。本音源を聴き終えた後には、コンサートの一部でなく、全部だったらよかったのにという思いが残る。

アンユージュアルなギタリストの参加と珍しい選曲が面白い音源。オーディエンス録音で、深めのエコーと強調された高音に特徴はあるが、十分に楽しめる音質だと思う。



Bridge School Benefit, CA 1992
 
James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar

1. Something In The Way She Moves
2. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
3. Riding On A Railroad
4. Millworker
5. Carolina In My Mind
6. Sweet Baby James


Neil Young : Vocal (7), Back Vocal (8), Acoustic Guitar
James Taylor : Back Vocal, Acoustic Guitar
Elton John : Vocal (8), Back Vocal, Piano
Shawn Colvin, Sammy Hagar, Eddie Vedder : Back Vocal (8)

7. Unknown Legend [Neil Young]
8. Love Song [Lesley Duncan]


1992年11月1日 Shoreline Mountain View, CA にて収録

 

以下 「The Bridge Collection」B41からの引用。

「ブリッジ・スクールは、障害を持つ子供達の教育と社会的自立のために、母親達が1986年に設立した施設で、ニール・ヤングの奥さんのペギも創立者の一人に名を連ねている。ニール・ヤングは資金集めのために、豪華なゲストを招いたチャリティー・コンサートを開催。それは1986年から2016年まで続いた。電気楽器の大音響はコンサートに参加する子供達に良くないとして、出演者はアコースティック・サウンドで演奏するという。その模様は、1997年に「The Bridge School Concers」というタイトルの2枚組CDとして発売されたが、そこにはJTの演奏は収められていなかった。その後2006年、コンサート20周年を記念して、CD6枚分 81曲からなる「The Bridge Collection」が、ITunes オンライン・ストアでのみ発売された。日本でも1曲150円、アルバム全部で9000円という価格で、インターネットからのダウンロードにより入手するもの。 -中略-  2011年11月、Bridge School Benefit Concert 25周年を記念して、過去のコンサートの模様を収めた2枚組CDおよび3枚組DVDが発売された。そのDVDに2002年7月26日の 5.「Fire And Rain」が収録された。」

JTは、ブリッジ・ベネフィット・コンサートには、1992年と2002年の2回参加しており、本音源はその1回目。ニール・ヤング、ショーン・コルヴィン、サミー・ヘイガーに続く 4番目の出演(彼の後はパールジャム、エルトン・ジョン、そして再びニール・ヤングと続く)。ショアラインは、サン・フランシスコ・ベイ・エリアのマウンテン・ビューにある円形劇場だ。

1.「Something In The Way She Moves」のイントロを弾き始めてJTが語りを入れるが、その部分により 「The Bridge Collection」B41 の同曲の演奏が本コンサートのものであることが確定できた。オーディエンスが興奮気味で、弾き語りの曲にもかかわらず曲中で叫びを上げる人が多い。2.「Copperline」を弾き語りで演るのは珍しい。こんな曲でもギター1本でこれだけ聴かせるのだから、JTは本当に凄い。ちなみにこの演奏も前述の「The Bridge Collection」と同じものだ。「政治的な曲はないのか?と尋ねられたとき、代わりにこの曲があるよと答えるよ」と言って、3.「Riding On A Railroad」を歌う。その後 6弦をDにチューニング・ダウンして「2週間しか続かなかったブロードウェイ・ミュージカルの曲」という紹介で歌われる 4「Millworker」も珍しい弾き語りのパフォーマンス。シリアスな内容の曲なので、ここではオーディエンスもさすがに静まり返って聴き入っている。チューニングを元に戻して「古い歌だよ」と言って、 5.「Carolina In My Mind」を始めるが、イントロで無神経な叫び声を上げる客がいて、興を削ぐ。曲の由来に関するいつもの話をしたのちに 6.「Sweet Baby James」を歌って、ステージを終える。

オーディエンスの騒ぎ方が大きい気もするが、ノーカットで音質も良く、JTの弾き語りの妙が楽しめる。

[2023年4月追記]
本コンサートの映像を観ることができ、最後の2曲でJTの参加を確認できた。

出演者の順番は、ニール・ヤング、ショーン・コルヴィン、サミー・ヘイガー、ジェイムス・テイラー、パールジャム、エルトン・ジョン、ニール・ヤングで、トリのニールが3曲歌った後にギターを持ったJT、少し間を置いてエルトンが登場し、ニールのアルバム「Harvest Moon」1992に入っていた曲 7.「Unknown Legend」を歌う。最初はエルトンがコーラスを付け、後からJTが加わる。エルトンのピアノは聞こえるが、JTのギターは目立たない。

最後の曲 8.「Love Song」では、他の出演者 (パールジャムからはボーカルのエディー・ベッダー)も登場してバックコーラスに加わる。イギリスのシンガー・アンド・ソングライター、レスリー・ダンカン(1943-2010)作で、エルトン3枚目のアルバム「Tambleweed Connection」1970に二人のデュエットが、1971年の彼女のアルバム「Sing Children Sing」に彼女のソロが収められた「名作」と呼ぶに相応しい曲。ここでは最初エルトンがピアノを弾かずに歌い、ニールがハーモニーを担当する。セカンドヴァースからJTと他のシンガー達がコーラスに加わる。間奏ではニールがアコギでソロを弾くが、その時はJTのギターがはっきり聞こえる。そしてエルトンがピアノを弾き始め、バックコーラスが前に出てきて、音が広がってゆく。そしてコーラスのリフの中、エルトンのピアノとエディーのボーカルによる即興演奏が繰り広げられて終わる。コンサートは終了し、出演者が退場。「Greensleeves」のニール風ギターによるインスト演奏が流れ、障害を持つ子供たちが退席する様が写ってフィルムが終わる。

単なるスーパースターの共演に終わらない、心が籠った素晴らしい演奏。

[2021年11月作成]


Concord Pavilion, CA 1993






James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landou: Electric Guitar
Don Grolnick : Piano, Electric Piano, Accordion
Cliford Carter : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums, Percussion
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz, Valerie Carter : Back Vocal (2,3,6,8,9,10, 11,12,13)

1. Sweet Baby James
2. Secret O' Life
3. Riding On The Railroad
4. Something In The Way She Moves
5. Carolina In My Mind
6. She Caught The Katy (And Left Me A Mule To Ride) [Taj Mahal, Yank Rachel]
7. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
8. Only A Dream In Rio
9. Shed A Little Light
10. Country Road 
11. Fire And Rain
12. Shower The People

13. New Hymn [James Taylor, Reynolds Price]
14. Long Ago And Far Away 
15. Never Die Young
16. Memphis [Chuck Berry]
17. Everybody Loves To Cha Cha Cha [Sam Cook]
18. Slap Leather        
19. Frozen Man
20. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
21. Mexico
22. Your Smiling Face
23. Steamroller Blues
24. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
25. You've Got A Friend [Carole King]
26. That Lonesome Road


1993年9月17日 Concord Pavilion CA にて収録


1993年8月のライブ盤の発売直後に行われたコンサートで、公式盤と全く同じメンバーであるが、非重複曲が 3, 6, 7, 8, 14, 15, 16, 17, 19 の9曲と多いので、とても楽しめる。会場は、カリフォルニア州サンフランシクコ郊外のコンコードにあり、現在は「Sleep Train Pavilion」と呼ばれている。収容人数は12,500名。アコースティック・ギターやコーラスがきれいな音で録音されていて、各楽器のバランスが良く、大変聞きやすい音源だ。

コンサートは、「Hello concert goers ! Music lovers !」というJTのアナウンスから始まる。マイケル・ランドウのスティールギター風の伴奏が付く
1.「Sweet Baby James」から始まり、続く 2.「Secret O' Life」では、ドン・グロルニックのエレキピアノが綺麗に聞える。3.「Riding On The Railroad」の途中からコーラス隊とフルバンドが加わると、期待感・高揚感でウキウキする感じだ。曲は途切れなく4.「Something In The Way She Moves」に移り、ここでも厚みのあるコーラスが付くランドウのスティールギター風プレイとコーラスが付いた 5.「Carolina In My Mind」の後は、タージ・マハールの 6.「She Caught The Katy (And Left Me A Mule To Ride)」のカバーだ。JTのこの曲を演奏する音源は珍しく、他には 2006年5月録音のラジオ番組「etown」でのケブ・モーとの共演がある。マイケルのスライドギターがフィーチャーされ、ライ・クーダー風サウンドを楽しんでいるようだ。ここでバンドメンバーが紹介され、JTはドンのことをバンドの「リーダーであり、スピリチュアル・アドバイザー」と紹介している。アコギのイントロで始まり、曲中でドンがアコーディオンを弾く 7.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」、 8.「Only A Dream In Rio」、 9.「Shed A Little Light」と、コーラスをフィーチャーした曲が続き、コーラス隊が紹介される。カルロスのドラムスが暴れまくる 10.「Country Road」と 11.「Fire And Rain」の後、12.「Shower The People」のエンディングでは恒例のアーノルドのソロコーナーがあり、その健闘に対しオーディエンスが大喝采を贈る。
 

休憩後は、未だにスタジオ録音がない 13. 「New Hymn」と、コーラスがたっぷり入った 14. 「Long Ago And Far Away」から始まる。15.「Never Die Young」のスタジオ録音でのギターはボブ・マンが弾いているが、ここでのギターはマイケルで、聴き比べて両者の違いを楽しむことができる。チャック・ベリーの16.「Memphis」と、18.「Slap Leather」では、マイケルのギターが大活躍する。19.「Frozen Man」を始める前に、JTによって曲の由縁が語られるが、そのダークなユーモアにオーディエンスが笑い転げる。そのJT流と言える話術の妙は、後に「One Man Band」に結実することになる。 20.「Copperline」、21.「Mexico」、22.「Your Smiling Face」といった代表曲が続く。23.「Steamroller Blues」は、ブギー調のスローブルース・アレンジで、ナパーム弾の歌詞のところで、バンドによる強烈な爆発音が入る。エンディングは比較的さっぱりした感じ。24.「How Sweet It Is」ではマイケルのギターソロや、JTとコーラス隊との掛け合いが魅力的。アンコールでは、定番曲25.「You've Got A Friend」の後の 26.「That Lonesome Road」が面白く、ここではJTとコーラス隊によるアカペラで厳かに歌われる。

この時期のバンドが最高だった事がよくわかる音源。


Teatro de Verano, Urguay 1994



James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Electric Guitar
Don Grolnick : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Kate Markowitz, Dorian Holley : Back Vocal (3,4,5,6,8,9,12,14,16,18,20,21,22,23)


1. Sweet Baby James
2. Secret O' Life  
3. Riding On The Railroad
4. Something In The Way She Moves
5. Walking Man
6. Never Die Young
7. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
8. Only A Dream In Rio
9. Mexico
10. Copperline [Reynolds Price, James Taylor] 
11. Slap Leather
12. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
13. Don't Let Me Be Lonely Tonight
14. Only One
15. Country Road
16. Carolina In My Mind
17. Fire And Rain
18. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]          
19. Your Smiling Face
20. Shower The People
21. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
22. You've Got A Friend [Carole King]
23. You Can Close Your Eyes


1994年3月23, 24日 Teatro de Verano, Montevideo, Uruguay にて収録


ウルグアイの首都モンテビデオにあるTheatro de Verano (英訳すると「Summer Theater」)でのコンサート音源。当時JTは南米ツアー中で、3月27日にチリのサンチャゴで行ったスティングとのジョイントコンサートの映像が残されている(「その他断片 1990年代」のコーナー参照)。興味深い点として、リードギタリストが本音源ではボブ・マンであるのに対し、チリではマイケル・ランドウに交代していることだ。売れっ子セッションマンとして多忙なバックメンバーのスケジュール調整のためだろうか。両者とも長年JTバンドのメンバーで、名手でもあるので頻繁に入れ替わっても問題ないんだろうね!

このコンサートの最大の特徴はバックボーカルにある。今回は海外ツアー用の2人編成で、おそらくコストを勘案してのものだろう。しかも男性はいつものアーノルド・マックラーではなく、ドリアン・ホーレイが担当しているのがポイントだ。彼はホウィットニー・ヒューストン、スティーヴィー・ワンダー、アーロン・ネヴィル、ドン・ヘンリー、ケニー・G等の作品に参加しているバック・ボーカリストで、ケイト・マーコウィッツのソロアルバム「Map Of The World」 2003 C79 にも名を連ねている。彼が入ったJTのスタジオ録音は存在しないが、本音源の当時1994年のコンサート、および2002年の新作「October Road」 A17宣伝のためのTV出演などの音源・映像が残っている。彼の声はアーノルドよりも高いが、デビッド・ラズリーのようなファルセットではなく、ヴェルベットのような艶やかさがあるのが特徴。またケイト・マコーウィッツの歌声もはっきり聞こえるのも面白い。この二人によるバックコーラスをまとまった形で聴けるのは、私の知る限り本音源が決定盤といえよう。

1. 「Sweet Baby James」は最後に演奏されるのが通常であるが、ここでは珍しくオープニングで演奏している。片言のスペイン語を話してオーディエンスの受けを取り、2.「Secret O' Life」を演奏する。JTのボーカルは深めのリバーブがかかっているが、楽器の音は自然な感じで録音されている。JTのアコギとデュエットするドン・グロルニックのエレキピアノのプレイがはっきり聞き取れるのがうれしいね。 3.「Riding On The Railroad」の途中からフィーチャーされるコーラスのいつもと異なる味わいはとても新鮮だ。4人編成に比べ、よりストレートに歌い手の心が伝わってくるような気がする。いつもは弾き語りで演奏される4.「Something In The Way She Moves」は、ここでは珍しいバンドおよびコーラスのバック付きだ。5.「Walking Man」でもバックコーラスのアレンジがいつもと違っていて、そのために曲の雰囲気が変わっているのが楽しい。渋いオブリガードを付けるボブ・マンのエレキギターにも注目。6.「Never Die Young」、鳥の声を模したシンセサイザーから始まる 8.「Only A Dream In Rio」、9.「Mexico」でも、バックコーラスを聴くのが大きな楽しみだ。9.「Mexico」ではドンのシンセがアコーディオンのような響きでアメリアッチの雰囲気を醸し出している。 11.「Slap Leather」、 12.「
(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」といったロックンロール調の曲では、ボブ・マンのリードギターが俄然張り切ってロックしている。おなじみの13.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」では、エンディングのドン・グロルニックのソロに聞き惚れよう。ここでは珍しいアコースティック・ピアノでのプレイだぞ!メンバー紹介の後、コーラス隊と一緒に歌う 14.「Only One」 が始まる。16.「Carolina In My Mind」は、コーラス、バックバンド付きのアレンジ。私が聴いた媒体では、15.「Country Road」との収録順序が入り繰っていたが、JTの曲紹介の内容から上記が正しい順序と断定できる。おなじみのヒット曲が並ぶ終盤では、ドリアン・ホーレイがエンディングのソロをとる 20.「Shower The People」がお宝もの音源だ。ちなみに、これまでに聴いたことがあるこの曲のエンディング担当は、アーノルド・マックラーを筆頭に、ナタリー・メインズ(ディキシー・チックス)、ショーン・コルヴィン、アンドレア・ゾーン等があるが、ドリアンのボーカルも素晴らしい。アンコールで歌われる 21.「How Sweet It Is」は、バックバンドの躍動感、コーラスとの掛け合い、自由奔放なボーカルが最高。22. 「You've Got A Friend」が始まると熱狂したオーディエンスは大喜び。ここではボブマンのギター伴奏が新機軸だ。最後は、ギター一本とコーラス付きの 23.「You Can Close Your Eyes」で締めくくる。

この音源は、1993年発表のライブアルバム「(Live)」 A15と同時期にあたり、キーボードのドン・グロルニックをリーダーとしたバックバンドの全盛時代であることを考えると、ギタリスト、特にコーラスの異なるバリエーションを楽しむことができるし、全編にわたりドン・グロルニックのピアノがはっきり聞き分けられるのがうれしい。1996年の没後、10年以上が経ち、彼の新たなプレイを聴くことはできないのだから.........



Morning Becomes Eclectic 1994 

James Taylor : Vocal, A. Guitar 
Don Grolnick : Piano (2,3,5,6), Accordion (1,4)


1. Sweet Baby James
2. Valentine's Day
3. Secret O' Life
4.
Old Paint [Traditional]
5. Carolina In My Mind
6. Fire And Rain
7. Something In The Way She Moves (Incomplete)

収録: 1994年6月20日 KCRW Studio, Santa Monica


KCRWはカリフォルニア州サンタ・モニカのサンタ・モニカ・カレッジ内を本拠地とする若者向けのラジオ放送曲。JTは2002年9月14日にも同局に出演している。以前は、1997年に発売されたオムニバス盤「Rare On Air」 B28で 3. を、その他2. 4.のみ聴くことができたが、2008年になって、インタビューを含めた全放送を聴くことが出来た。ドン・グロルニックと二人で、ホストのインタビューをはさんだスタジオライブの演奏で進行してゆく。ホストのアナウンスによりこの番組への出演が、Universal Amphitheater での5日間のコンサートのための宣伝であることがわかる。ここではホストが番組名、放送局名、ゲスト名、コンサートの紹介を番組中何度も行うので、しつこい感じがするが、もともと何回も繰り返し聴かれる事を想定していないので、仕方がないかな。

1.「Sweet Baby James」では、ドンがアコーディオンで伴奏をつける。枯れた感じが出て、とてもいいですね。音楽界には同姓同名の人がいて、特にクール・アンヂ・ギャングの人とは混同されることが多いという話の後、JTは 2.「Valentine's Day」をピアノのみの伴奏で淡々と歌う。この曲は以前に録音したけど人前で演奏するのは初めてという。この曲のアルバム収録は、1988年の「Never Die Young」A13 なので、長い間ライブで演奏されなかったということだが、その後はコンサートなどで時々聴かれるようになったようだ。JTのボーカルはもちろんのこと、ドン・グロルニックにしか出せない、あの馥郁とした豊かな音の味わいは例えようがなく、リピートモードにして繰り返しずっと聴いていたい!ここでJTが、今弾いているギターはピーター・アッシャーの奥さんウェンディからの借り物であると言う。コンサートで使っているギターを調整に出したためだそうだ。道理でいつもと異なり、キラキラした感じの音がする。おそらくマーチンではないかな? 続く 3.「Secret O' Life」においても、前曲と同様ドンのピアノをたっぷり楽しむことができる。今は故人となった彼のプレイを聴けるだけで幸せというもんだ。 

4.「Old Paint」はカウボーイソングで、「I Ride An Old Paint」とも呼ばれ、ウッディー・ガスリー、ハリー・ベラフォンテ、ジョニー・キャッシュ、シスコ・ヒューストン、ピート・シーガーなどが歌っており、ロンダ・ロンシュタットのバージョンは、1977年のアルバム「Simple Dreams」に収録されている。JTがこの曲を歌う音源は、私が知る限りここだけ。ここでもドンはアコーディオンによる絶妙の伴奏を付けている。5.「Carolina In My Mind」も、ドンのピアノ伴奏がはっきり聴こえるバージョンとして有難い音源。この曲は、通常はJT1人の弾き語りや、バンドと一緒に伴奏されるからだ。ちなみに後年ワンマンバンド聴くことができる、ラリー・ゴールディングとのプレイと比べるのも面白い。インタビューで同じ曲を何度も演奏する話になり、これが千回目の演奏と冗談を言って、6.「Fire And Rain」を始める。最後の7. 「Something In The Way She Moves」は演奏中に司会者の結びの言葉が重なり、途中でフェイドアウトする。

インタビューの内容は大したものではなく、司会者が「貴方の歌はアメリカの良心ですね」などの質問に対し、JTは居心地が悪そうにしているのが印象的。とにかくJTとドン・グロルニックのセッションをじっくり堪能できる貴重な音源。



Great Woods, Massachusttes 1994






James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Electric Guitar, Mandolin
Don Grolnick : Keyboards
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Valerie Carter, Kate Markowitz, David Lasley, Dorian Holley : Back Vocal

[1st Set]
1. Lo And Behold
2. Mexico
3. Promised Land [Chuck Berry]
4. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
5. Rainy Day Man
6. Frozen Man
7. Sun On The Moon
8. Your Smiling Face
9. Shower The People
10. Country Road
11. Copperline [Reynolds Price, James Taylor] 

[2nd Set]
12. Carolina In My Mind
13. Wandering [Traditional]
14. Memphis [Chuck Berry]
15. Not Fade Away [Buddy Holly]
16. Never Die Young
17. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
18. You've Got A Friend [Carole King]
19. Steamroller
20. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
21. Shed A Little Light
22. Sweet Baby James           


1994年8月25日 Great Woods Performing Arts Center, Mansfield, Massachusttes にて収録


「The Columbia Records Radio Hour」は、1991年から始まったFMラジオ番組で、最初は小人数のオーディエンスをスタジオに招き、コロンビア・レコード所属のアーティストのライブを月1回放送していた。評判が高まるにつれ、ライブの規模は大きくなり、同レコード専属以外のアーティストも登場するようになった。1994年9月4日放送のJTの場合、2時間の特別番組として、同年8月25日録音の野外劇場でのライブ音源が放送された。会場のグレートウッズ・パフォーミング・アーツ・センターは、ボストンの南約50キロのマンスフィールドにある、収容人員約2万人の円形野外劇場だ。

この時期としては珍しいバンドアレンジによる 1.「Lo And Behold」から始まる。オリジナルよりもテンポをあげて、ゴスペルっぽいコーラスをバックに歌う。ボブ・マンはエレアコを弾いている。 2.「Mexico」のボーカルのバックで聴こえるアコーディオンのような音、間奏部分のマリンバのような音は、クリフォード・カーターのシンセサイザーだろう。3.「Promised Land」は、1974年の「Walking Man」 A6のストレートなロックンロールに対し、全く異なるニューオリンズ風のセカンドラインのアレンジが聴きもの。4.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」のキーボードは、ドン・グロルニックがアコーディオン風シンセ、クリフォードがオルガンを担当している。コーラス隊のサウンドが若干異なるのは、いつものアーノルド・マックラーに代わり、ドリアン・ホーレイが担当しているからで、彼がバンドに参加する場合はケイトとの2人コーラスのケースが多く、本音源のような4人コーラスのバージョンは、私が知る限りここだけだ。そういう意味で、数あるJTのライブ音源の中でも、大変ユニークな存在となった。コーラスが前面に出る7.「Sun On The Moon」、21.「Shed A Little Light」などでは、その音色の違いが顕著。特に9.「Shower The People」のエンディングではドリアンがソロボーカルをとっており、いつものアーノルド・マックラーとは異なる味わいを楽しむことができる。バンド・アレンジによる 5.「Rainy Day Man」も、オリジナルに比べて明るく洗練された音作りで、曲の雰囲気が全く異なるものとなり面白い出来だ。JTの解説の後に始まる 6.「Frozen Man」、8.「Your Smiling Face」、11.「Copperline」における ドンとクリフォードのダブル・キーボードとボブ・マンのエレキギターのコンビネーションは、同時期のライブ 「Squibnocket」 1993 E7や、「(Live)」 1993 A15におけるマイケル・ランドウのギターの場合と、かなり異なるサウンドが楽しめる。

12.「Carolina In My Mind」はJT 1人による弾き語り。公式発表ライブと異なり、リラックスした歌いまわし(崩し)が良い感じだ。13.「Wandering」で、アコーディオン風バックを付けているのは、ドンだろう。途中からボブのマンドリンとバックコーラスが加わる。 14.「Memphis」のアレンジは、1993年11月のサタデイ・ナイト・ライブでの音源(「その他断片編」参照)と同時期なので、それほど変わらないバディ・ホリーの 15. 「Not Fade Away」では、リズム隊、JTとコーラス隊のボーカル、ボブのスライドギターのグルーヴ感が凄い。コーラス隊は、歌いながらパーカッションも演奏しており、その音がはっきり聞こえるのがうれしい。いる。16.「Never Die Young」、17.「Up On The Roof」、18.「You've Got A Friend」と、滑らかでリラックスした演奏が進んでゆく。19.「Steamroller」はクリフォードのオルガン、ドンのピアノ、ボブのギターとソロが回る。ほぼ切れ目無しに始まる 17.「How Sweet It Is」でのJTとコーラス隊のボーカルは、随所にアドリブが入り、エンディングの掛け合いなど、実に自由奔放で開放感に溢れ、バックバンドのグルーヴ感と合わさって、ライブ演奏の傑作と言える出来栄えとなった。エンディングのアップテンポの部分など、全盛期のスタッフ(スティーブ・ガッド、エリック・ゲイル、リチャード・ティー等によるスーパーバンド)のようだ。最後の曲 22.「Sweet Baby James」は、興奮冷め止まないオーディエンスに対し、ドンのアコーディオン(風?)をバックに歌う。歌詞の「ボストン」という箇所では地元らしく大歓声が起きる。

録音・ミキシングの良さもあって、大編成のバックながらも、滑らかに聴くことができる。なお、ここでの音源から 4.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」のみ、1996年「Columbia Records Radio Hour Vol.2」 B29というオムニバスCDに収録され、公式発売された。

[2022年3月追記]
本音源は、音楽配信サービスで聴くことができます。


Symphonic Tour With Marvin Hamlisch 1995

James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Electric Guitar
Don Grolnick : Keyboards
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Valerie Carter, Kate Markowitz, David Lasley, Dorian Holley : Back Vocal

The Pittsburgh Symphony Pop : Orchestra
Marvin Hamlisch : Conductor

Stanley Silverman : Orchestration

[1st Set]
1. Don't Let Me Be Lonely Tonight
2. Getting To Know You [Richard Rogers, Oscar Hammerstein]
3. That's Why I'm Here
4. The Water Is Wide [Traditional]
5. Your Smiling Face
6. The Way You Look Tonight [Dorothy Fields, Jerome Kern]
7. Only A Dream In Rio
8. Shed A Little Light
9. Fire And Rain

[2nd Set]
10. Secret O' Life
11. Mexico
12. Enough To Be On Your Way
13. Promised Land [Chuck Berry]
14. Slap Leather
15. Fascinating Rhythm [Ira Gershwin, George Gershwin]
16. Carolina In My Mind
17. Millworker
18. Wasn't That A Might Storm [Traditional]
19. Not Fade Away [Buddy Holly]
20. Frozen Man
21. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
22. Steamroller           
23. Through The Eyes Of Love [Carole Bayer Sager, Marvin Hamlisch]
24. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
25. You Can Close Your Eyes
26. Sweet Baby James


1995年7月12日 Sony-Blockbuster Entertainment Center, Camden, New Jersey にて収録


1995年は、JTにとって活発な年ではなかったが、夏から秋にかけて行われた全米22箇所のツアーがハイライトとなった。このツアーは各地のオーケストラとの共演というユニークな試みとして、1993年の「Evening At The Pops」(「その他映像」の部参照)をもっと大掛かりにした感じ。このツアーのうち、フィラデルフィアで行われたコンサートの全貌を聴くことができた。会場はデラウェア川の対岸にあり、収容人員は2万5千人。1995年6月のオープン当時は「Sony-Blockbuster Entertainment Center」と呼ばれたが、現在は命名権が変わり「Susquehanna Bk Center」という名前になっている。

ピッツバーグ・シンフォニーは1985年創立、アンドレ・プレヴィン、ロリン・マゼール等を常任指揮者として全米屈指のステイタスを築いた。マーヴィン・ハムリッシュは、1995年に同オーケストラのポップ部門の指揮者に就任している。彼は1944年ニューヨーク生まれで、幼い頃から音楽の才能を発揮し、7才でジュリアード音楽院に入学したという。その後作曲家を志し、レスリー・ゴーア等にヒット曲を提供。ライザ・ミネリに認められブロードウェイに進出、バーバラ・ストレイサンドとロバート・レッドフォードの映画「The Way We Were」 1975でアカデミー賞を受賞する。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した映画「Sting」では、スコット・ジョップリンの作品を使用して、ラグタイム音楽復興ブームの立役者となった。ブロードウェイ・ミュージカルの代表作は、「Chorus Line」1975がある。個人的には、ニール・サイモン(脚本)、当時奥さんだったキャロル・ベイヤー・セイガー(作詞)と組んだ「They're Playing Our Song」1978が好き(舞台を観る機会はなかったが、出版された脚本とオリジナル・キャストのレコードから)。コンサートは、古今の名曲の他、マーヴィン・ハムリッシュの代表作をちりばめた、オーケストラによる「序曲」から始まる。

マーヴィンの紹介でJTが登場、 1.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」を歌い始める。オーケストラのスコアは、スタンリー・シルバーマン(C56参照)によるもので、1993年のテレビ番組「Evening At Pops」が初出(この番組と重複する他の曲は、4 6 16 22の4曲)。 2.「
Getting To Know You」は、1991年のチャリティー盤「For Our Children」 1991 B21 に収録された曲で、シャム(現在のタイ)に派遣されたイギリス人女性の家庭教師と王様との心の交流を描いたミュージカル「王様と私(King And I)」の挿入歌であり、1956年にユル・ブリナーとデボラー・カーの主演で映画化された。JTのライブ演奏として珍しいレパートリーで、間奏で彼の口笛を聴くことができる。3. 「That's Why I'm Here」では、では、曲の後半でオーケストラが入ってくる。本音源では、クリフォード・カーターのシンセサイザーが頑張っているで、オーケストラとの演奏の区別がはっきりつかない部分もある。4.「The Water Is Wide」は、イントロのバイオリンソロが切ない感じで美しい。5.「Your Smiling Face」はバンドのみでの演奏。 ジェローム・カーンの6.「The Way You Look Tonight」は、フレッド・アステアがジンジャー・ロジャースと共演したミュージカル映画「Swing Time」1936 で歌ったスタンダード曲。7.「Only A Dream In Rio」は、オーケストラが大きくフィーチャーされた演奏。8.「Shed A Little Light」はバンドとコーラスのみによる演奏。本音源のコーラス隊の特徴として、常連のアーノルド・マックラーが不参加で、その代わりにドリアン・ホーレイが歌っており、彼の声域の関係で、いつもより高音が強調されている。メンバー紹介の後に演奏される 9.「Fire And Rain」では、曲の雰囲気を変えるくらい大胆なオーケストラのアレンジを聴くことができる。ちなみにJTのDVD作品「One Man Band」2007 E14の「Outtakes」(本編でない特典映像)で、彼が言及しているマービン・ハムリッシュによるアレンジはこのこと。

セカンドセット最初の曲 10. 「Secret O' Life」はバンドのみの演奏。JTのアコギがオフ気味で、その分ドン・グロルニックのピアノがいつになく、はっきり聴こえる。11.「Mexico」はマリンバの音が聞こえるが、オーケストラのパーカッション奏者が演奏しているのかな?新曲と紹介される 12. 「Enough To Be On Your Way」は、本コンサート2年後のアルバム「Hourglass」1997 A16に収められた曲で、ここではJTやコーラス隊のボーカルが十分にこなれていない感じがする。チャック・ベリーの13.「Promised Land」は、初期のツアーのレパートリーで、「Walking Man」1974 A6にスタジオ録音が収録されたカバー曲。ここではニューオリンズのセカンドラインのリズムによるアレンジが施され、間奏ソロはオルガンとギター。14. 「
Slap Leather」では、ボブ・マンのギターソロが頑張っている。以上3曲は、バンドとコーラスのみのプレイ。 15.「Fascinating Rhythm」はガーシュウィン兄弟が、1924年のブリードウェイ・ミュージカル「Lady Be Good」のために作った曲で、フレッド・アステアが歌って有名になった。ピアノソロのあと、ストリングスによる間奏が入る。16.「Carolina In My Mind」は、JTの弾き語りから始まって、セカンドヴァースからコーラス、バンド、オーケストラが加わり、音の厚みを増す。17.「Millworker」でのイントロのメロディーは、クリフォード・カーターのシンセサイザーが担当、途中からオーケストラが前面に出てくる。18. 「Wasn't That A Might Storm」はエリック・フォン・シュミットが演奏していたスタンダードで、ドン・グロルニックはアコーディオンを弾いている。 バディ・ホリーの19.「Not Fade Away」では、ボブ・マンのスライドギターが大活躍する。なお18.と19.にはオーケストラは入っていない。20.「Frozen Man」はJTによる曲の解説の後、オーケストラのみによるイントロから始まる。21.「Up On The Roof」もオーケストラがしっかり入っている。オーケストラだけの演奏によるイントロの後に 22.「Steamroller」が始まると、驚いたオーディエンスは大喜び。間奏のボブ・マンのギターソロは思いっきりハードで、メリハリが効いた演奏だ。

ここでマーヴィン・ハムリッシュが「僕の曲を歌ってくれないかな?」とアナウンスし、JTが「やってみるよ」と答え始まるのが、 23. 「
Through The Eyes Of Love」 。フィギア・スケート選手の栄光と挫折そして復活を描いた映画「Ice Castle」1979の主題曲で、オリジナルはメリッサ・マンチェスターが歌った(全米76位)。キーを指定するなどハプニングっぽいセリフの割りには、JTは完璧に歌っており、予め仕組まれた筋書きだろう。ここからはバンドとコーラス隊のみによるアンコールとなる。24.「How Sweet It Is」は、エンディングの16ビートのR&B風演奏がユニーク。最後はコーラス隊と歌う 25.「You Can Close Your Eyes」、ドンがアコーディオンを弾く 26.「Sweet Baby James」で締めくくる。

大きな会場でコンサートを行っても、オーケストラと一緒では費用面で大きな利益をあげるのは難しいはず。しかもアメリカの交響楽団の多くは、財政面で問題を抱えているはずで、彼らを援助するためにJT側の報酬を少なくして実施したようだ。金稼ぎのためではなく、マンネリ防止のための新しい事への挑戦ということだろう。当時「Symphonic Tour」と呼ばれた、オーケストラとの共演コンサートの全貌を捉えた貴重な音源。


Summer Tour Reheasals 1996

James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Electric Guitar, Mandolin
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Valerie Carter, Kate Markowitz, David Lasley, Arnold McCuller : Back Vocal

1. If I Keep My Heart Out Of Sight
2. Little More Time With You 
3. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox
4. Riding On The Railroad 
5. Machine Gun Kelly  [Danny Kortchmar]
6. You've Got A Friend [Carole King]
7. Mighty Storm [Traditonal]
8. Valentine's Day
9. Don't Let Me Be Lonely Tonight   
10. Mexico
11. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]
12. Honey Don't Leave L.A. [Danny Kootchmar]
13. Steamroller 
14. Not Fade Away [Buddy Holly, Norman Petty]
15. Wild Mountain Thyme [Traditonal]
16. Looking For Love On Broadway
17. Traffic Jam
18. That's Why I'm Here
19. Native Son
20. Ananas
21. Carolina In My Mind
22. Enough To Be On Your Way
23. Line 'Em Up    
24. Slap Leather
25. Walking Man          
26. Country Road
27. I Will Follow


1996年7月から始まったサマー・コンサートツアーのためのリハーサル音源。資料によると、7月1日デンバーで行われた初回コンサートのセットリストは以下の通りで、本音源は、そこでの演奏曲をほぼすべて網羅したものだったことがわかる。

(1st Set) 1. Looking for Love on Broadway, 2. Traffic Jam, 3. That's Why I'm Here, 4. Native Son, 5. Ananas, 6.Carolina In My Mind, 7. It's Enough To Be On Your Way, 8. Line 'em Up, 9. Slap Leather, 10. Walking Man, 11. Country Road, 12. I Will Follow, 13. Fire & Rain,

(2nd Set) 14. If I Keep My Heart Out of Sight, 15. Little More Time With You, 16. Hey Mister That's Me Up On The Jukebox, 17. Riding on a Railroad, 18. Machine Gun Kelly, 19. You've Got a Friend, 20. Mighty Storm, 21.Valentine's Day, 22. Don't Let Me Be Lonely Tonight, 23. Mexico, 24. Handyman, 25. Honey Don't Leave L.A., 26. Steamroller

(Encore) 27. Your Smiling Face, 28. Not Fade Away, 29. Wild Mountain Thyme, 30. Sweet Baby James

録音日は6月14日とあるが、演奏の完成度からツアーの開始直前であることは明らかで、正しい情報だろう。しかしバンド・メンバーにつき誤りの資料が出回っているので、注意を要する。まずギタリストについて、マイケル・ランドウとしているものがあるが、正しくはボブ・マン。ギターの演奏スタイル、時折聴かれるマンドリンの音からも明らか。また、キーボード奏者をドン・グロルニックとしているのも間違い。彼は本音源の録音の前、6月1日にガンのために亡くなっており、そのため従来は2人目の奏者だったクリフォード・カーターがカバーしている。本音源全般に何となく漂うメランコリックな雰囲気は、そのせいだろうか?ここでの演奏は、コンサート時のオーディエンスに訴えかけるオープンさがなく、自分達のために演奏しているようだ。特にJTの歌は内省的な感じで、彼のダークな面が色濃くでている。いつものコンサート音源と全く異なるムードは、それなりに味わい深いものだ。各曲の演奏の完成度はかなり高く、皆まじめにプレイしているように思えるが、曲によっては、JTが歌いながらバンドに指示を出したり、歌いまわしに崩しを入れたり、バンドやコーラスがとちったりする場面もあり、いかにもリハーサルらしい、リラックスしたパフォーマンスとなっている。

1.「If I Keep My Heart Out Of Sight」は、1977年のアルバム「JT」の一番最後の曲で、ライブでの演奏は珍しい。陰影に富んだボブ・マンのギターとJTの歌が素晴らしい。2.「Little More Time With You」、 20
.「Ananas」、22.「Enough To Be On Your Way」、23. 「Line 'Em Up」は、当時製作中だったアルバム「Hourglass」(1997年5月発売)に収録される新曲。 3.「Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox」、4.「Riding On The Railroad」、5.「Machine Gun Kelly」は初期のアルバム「Mud Slide Slim」1971の曲で、メドレーで演奏される。「Machine Gun Kelly」で、JTは歌いながらバンドに指示を出している。6.「You've Got A Friend」のセカンド・ヴァースで、JTはいつになく大胆に崩した歌い方をする。試しているのかな?エリック・フォン・シュミットの7.「Mighty Storm」のカバーは、この頃が最初のようで、クリフォード・カーターの楽器はアコーディオンのように聞こえる。この曲は、コンサート・ビデオ「Live At Beacon Theatre」1998 E8や、ずっと後になって公式アルバム「Covers」2008 A20に収録される。8.「Valentine's Day」は、クリフォード・カーターのピアノ伴奏の他に、ボブ・マンがマンドリンを弾き、エンディングで短いソロも入れる珍しいバージョン。9. 「Don't Let Me Be Lonely Tonight」のエンディングのピアノソロを聴くと、亡くなったドン・グロルニックのことを思い出して、何とも言えない感傷にひたってしまう。10.「Mexico」のイントロでは、JTはギター演奏をとちっている。11.「Handy Man」の出だしでは、途中でJTが歌を飛ばしている箇所がある。 12.「Honey Don't Leave L.A.」は、シャウトするコーラス隊が好調。録音が良く、コーラス隊が立体的に聞こえるので、個々の声を聞き分けることできるのがうれしい。13.「Steamroller」は少しジャズっぽいアレンジで、ギターとピアノのソロがクール。

音源では途中から始まる 14.「Not Fade Away」は、ボブ・マンのスライドギターが冴えている。曲が終わった後に、JTが「キーボードが聞えない」と言っている。ドン・グロルニックの告別式で歌われたというトラッド曲 15.「Wild Mountain Thyme」は、途中でフェイドアウトしてしまい残念。16.「Looking For Love On Broadway」のライブ演奏は珍しい。17.「Traffic Jam」では、エンディングにおけるJTの締めのボーカルが、少し変わっているのが聴きもの。18.「That's Why I'm Here」はJTのボーカルがいつもと異なる歌いまわしだ。19.「Native Son」のライブ演奏もレアだと思う。 21.
Carolina In My Mind」で、JTは「キャロライナ」の発音を「キャノナイナ」と間違え、その照れ隠しのために、そのヴァースでの歌がヘロヘロになる。しかし後半持ち直して、しっかり演奏するところはさすが。ここでは、ギターやピアノがしっかり入ったフルバンドでの演奏だ。親しい人の死を歌った 22.「Enough To Be On Your Way」は、本音源のなかでもとりわけメランコリックな雰囲気を持つパフォーマンスで、ギターとピアノの凛とした響きが素晴らしい。演奏中にバンドメンバーの声が入っている。新曲 23.「Line 'Em Up」は、ドラムスがアルバムに収録されたアレンジと異なり、コーラスの雰囲気も違う。まだ慣れていないようで、ブリッジで歌いだしをとちり、コーラス隊の女性の一人が曲が終わった後でJTに謝っている。 24.「Slap Leather」では、JTは歌詞を間違えたせいか、途中スキャットで歌う部分がある。ここでのJTのアコギの音の入れ方は絶妙! 25.「Walking Man」でも、ボーカルのとちりや崩し、曲中の会話が入った演奏。 26.「Country Road」のイントロでJTは指示を出しながらギターを弾いている。クリフォードのピアノが生き生きとしていて良く、ボブ・マンのマンドリンの音も面白い。 27.「I Will Follow」では、エンディングでアーノルドのソロボーカルが楽しめる。

普段見られないJTとバンドの顔をうかがうことができる異色音源。


Harkness Memorial State Park 1997

James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar, Harmonica (23)
Bob Mann : Electric Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Valerie Carter, Kate Markowitz, David Lasley, Arnold McCuller : Back Vocal

[First Set]
1. Something In The Way She Moves
2. Another Day
3. Daddy's All Gone
4. Every Day [Norman Petty, Charles Hardin]  
5. Never Die Young  
6. Frozen Man
7. Carolina In My Mind
8. Ananas
9. Gaia
10. Little More Time With You 
11. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
12. Shower The People
13. You've Got A Friend [Carole King]

[Second Set]
14. Twelve Gates To The City [Traditional]
15. Me And My Guitar
16. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
17. Line 'Em Up
18. Jump Up Behind Me
19. Fire And Rain
20. Mexico
21. Up On The Roof
22. Sun On The Moon
23. Steamroller     
24. Shed A Little Light
25. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
26. Sweet Baby James

1997年8月9日 Harkeness Memorial State Park, Waterford, Connecticut にて収録


ハークネス・メモリアル・ステイトパークは、コネチカット州ウォーターフォードにある公園で、もともとは大富豪の邸宅・庭園だったもので、1950年に州に寄贈されたもの。夏には広大な芝生を利用したコンサートが開催され、JTは1997年のコンサートに出演した。テント張りのステージと、ロングアイランド湾が見える芝生のオーディエンス・スペースという開放的な気分の屋外コンサートだ。飲物売り場の近くで録音したらしく、時々カチャカチャという音が聞えるが、各楽器のバランスが良く、ジミー・ジョンソンのベースがはっきり聴こえるし、カルロス・ヴェガのドラムは生音に近い迫力ある響きだ。ボーカル、コーラス隊はもちろん、JTのアコギやクリフォード・カーターのピアノもきれいに聞えるので、聴き応え十分。

1.「Something In The Way She Moves」はバンドとコーラスの伴奏付き。「新曲を演奏するよ」と言って始める 2.「Another Day」はシンセサイザーがオーケストラのように響く。3.「Daddy's All Gone」、4.「Every Day」とコーラスを入れた曲が続く。 5.「Never Die Young」が終わった後で、JTが「芝生のほうはどうだい?」と聞き、観客から歓声があがる。ヤジを飛ばす人もいて、JTはユーモアたっぷりに、「Shut Up !」とやり返す。 6.「Frozen Man」では、JTによる曲の由来についての長い説明が入るが、「発掘現場にテントを建てた。1,000マイル四方は何もないので、プライバシーの問題はないけどね!」といって笑わせる。 後に製作される「One Man Band」の語りにはないセリフだ。ここではクリフォードがピアノとシンセを巧みに使い分けている。7.「Carolina In My Mind」は弾き語りから始まって、コーラスとバンドが加わる演奏パターン。オーディエンスから曲のリクエストがあったようだが、「それはセカンドセットでね !」と応えて、グルーヴがテーマというバイリンガル・ソング 8.「Ananas」を歌う。ボブ・マンのエレキギターがかっこいい。 9.「Gaia」でのシンセサイザーのイントロは、スタジオ録音と異なる。10.「Little More Time With You」、11.「Copperline」と続いた後に、バンドメンバーが紹介される。 12.「Shower The People」のエンディングでは、アーノルド・マックラーが音が割れるほど音圧のあるソロを歌う。JTは彼のことを「Sounds little bit Too good」と言い、笑わせてから他のシンガーを紹介する。オーディエンスから「Fire And Rain」のリクエストがあり、JTはイントロのギターフレーズを速いテンポで弾き、「また後でね!」と言って、13.「You've Got A Friend」を演奏する。

セカンドセットはトラディショナルの14.「Twelve Gates To The City」から。コーラス隊が4人になった分、ゴスペル調の合唱に厚みがある。JTのギター1本による伴奏は、ライ・クーダーを彷彿させる。15.「Me And My Guitar」は、JTのアコギとボブ・マンのワウワウのエレキギターの絡みが良い。 16.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」は、リズムセクションのグルーブ感が凄い。17.「Line 'Em Up」での語りは、「One Man Band」の原型といえよう。伴奏なしに始まる「I〜」 という発声が、虫の羽音のようだと言って、笑わせている。18.「Jump Up Behind Me」はクリフォードのシンセサイザーの軽やかなソロ、ラストでのジミー・ジョンソンのベースの素早い動きが聴きもの。 カルロス・ヴェガはカホーン(木製のパーカッション楽器)を叩いているようだ。20
.「Mexico」では、ボブマンのガット弦のエレアコをフィーチャーしたサルサ調のイントロがある。カルロス・ヴェガのビートがバンバン伝わってくる開放感に溢れた演奏。22.「Sun On The Moon」、 24.「Shed A Little Light」はコーラス隊をフィーチャーした演奏。23.「Steamroller」は、JTがブルースハープの腕前を披露する。リズムカルなR&B調のアレンジで、ドラムスがはねていてグルーヴィーなプレイだ!ギターとピアノのソロも最高。 25.「How Sweet It Is」ではラストのアドリブボーカルで、バンドメンバーの名前を紹介しながら歌っている。最後は 26.「Sweet Baby James」の弾き語りで締めくくる。 

臨場感溢れる雰囲気が魅力的な音源。


 
Saratoga Performing Arts Center, New York 1997
 
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar, Harmonica
Bob Mann : Electric Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion
Valerie Carter, Kate Markowitz, David Lasley, Arnold McCuller : Back Vocal

[First Set]
1. Long Ago And Far Away
2. Another Day
3. Daddy's All Gone
4. Every Day [Norman Petty, Charles Hardin]  
5. Never Die Young  
6. Frozen Man
7. Carolina In My Mind
8. Ananas
9. Little More Time With You 
10. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
11. Shower The People
12. You've Got A Friend [Carole King]

[Second Set]
13. Twelve Gates To The City [Traditional]
14. Me And My Guitar
15. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
16. Line 'Em Up
17. Jump Up Behind Me
18. Fire And Rain
19. Millworker
20. Mexico
21. Up On The Roof
22. Steamroller     
23. Shed A Little Light
24. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
25. Up From You Life
26. Sweet Baby James

1997年8月17日 Saratoga Performing Arts Center, Saratoga Springs, New York にて収録

 

サラトガ・パフォーミング・アーツ・センターは、ニューヨークの北、ハドソン川沿いにあるサラトガ・スプリングスの州立公園内にある円形劇場。オープンは1966年で、観客席前部・中部は席・屋根付き、後部は屋外の芝生になっている。オーディエンス録音で、近くにいる女の子の会話なクスクス笑い声が入り、音的にはリバーブが深めで厚みに欠けるが、JTのアコースティック・ギター、クリフォード・カーターのピアノ、および各プレイヤーの楽器の音がバランス良くきれいに録音されていて、ジミー・ジョンソンのベースラインもしっかり聞こえる。上述のハークネス・メモリアル・ステイトパークでのコンサートの8日後ということで、曲目や演奏内容はほとんど同じだ。

バンドの演奏の一体感が最高で、クリフォード・カーターのタッチがクリアーで透明感溢れるピアノプレイがいつもながら最高。ジミー・ジョンソンは普段は地味に弾いているけど、時折ギラッと見せるベースランに鋭さがある。

この頃のバンドの油が乗り切った演奏が存分に楽しめる。


Accademia Nazionale di Santa Cecilia, Rome 1998




James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion

[1st Set]
1. Something In The Way She Moves
2. Riding On The Railroad  
3. Machine Gun Kelly  [Danny Kortchmar]
4. Carolina In My Mind
5. Line 'Em Up  
6. Enough To Be On Your Way
7. Jump Up Behind Me  
8. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
9. Music
10. That's Why I'm Here  
11. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
12. Slap Leather  
13. Country Road

[2nd Set]
14. Secret O' Life  
15. Ananas
16. Another Day  
17. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
18. Fire And Rain
19. You've Got A Friend [Carole King]
20. Frozen Man
21. Don't Let Me Be Lonely Tonight  
22. Mexico
23. Your Smiling Face
24. Shower The People  
25. Steamroller
26. Sweet Baby James           


1998年2月11日 Rome にて収録


イタリアを本拠地とする世界で最も古い音楽団体 Accademia Nazionale di Santa Cecilia (英語では National Academy Of St Cecilia) が主宰したコンサートで、バンド編成・曲目から、以前に書いた同年3月9日アムステルダム・カレ・シアターのコンサートと同じツアーでの演奏のようだ。演奏曲目がアムステルダムのものとほとんど同じなため、曲毎の説明は省略する。唯一異なる点は、ここでは9.「Music」を演奏していることだで、小編成のバンドが生み出すサウンドは透明感に溢れ、特にクリフォード・カーターのエレキピアノのプレイが素晴らしい。

オーディエンス録音で、ベースが少しオフ気味であるが、綺麗な音で録音されている。特にクリフォードのピアノの凛としたタッチには惚れ惚れする。リードギターなし、バックコーラスなしの小編成のバンドの良さ、各プレイヤーの演奏水準の高さを存分に味わうことができる。12.「Slap Leather」、15.「Ananas」、17.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」などのロックな曲では、JTのアコギが頑張っているので物足りなさは全く無く、むしろ聴き応え十分となっている。リードギターがいない分、クリフォード・カーターのプレイを随所で楽しめることも本音源の魅力だ。またいつもは厚いバックコーラスがつく 5.「Line 'Em Up」、15. 「Ananas」 22.「Mexico」、などをJT一人のボーカルで聴けるのも新鮮だ。17.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」、24.「Shower The People」では、コーラスパートでハーモニー・ボーカルが付くが、誰が歌っているかは不明。



Theatre Carre, Amasterdam 1998 
 
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega: Drums, Percussion

[1st Set]
1. Something In The Way She Moves
2. Riding On The Railroad  
3. Machine Gun Kelly  [Danny Kortchmar]
4. Carolina In My Mind
5. Line 'Em Up  
6. Enough To Be On Your Way
7. Jump Up Behind Me  
8. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
9. That's Why I'm Here  
10. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
11. Slap Leather  
12. Country Road

[2nd Set]
13. Secret O' Life  
14. Ananas
15. Another Day  
16. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor]
17. Fire And Rain
18. You've Got A Friend [Carole King]
19. Frozen Man
20. Don't Let Me Be Lonely Tonight  
21. Mexico
22. Your Smiling Face
23. Shower The People  
24. Steamroller
25. Sweet Baby James           


1998年3月9日 Theatre Carre Amsterdam にて収録


アムステルダムのカレ・シアターは1888年にサーカス会場として建設され、後に音楽コンサート会場として広く使用されるようになった。1998年3月に行われたJTのコンサートは、リードギター、コーラス抜きの小編成のバンドによるもので、その分彼のアコギとクリフォード。カーターのキーボードの演奏が目立つサウンドとなった。本音源はオーディエンス・レコーディングと思われるが、その音質はクリアーかつ豊かで、ボーカルのリバーブ感、アコギの切れ味、ピアノの透明感、ドラムスの迫力が素晴らしく、ベースが少しオフ気味なのが唯一の不満(と言っても全然聴こえない訳ではない)。サウンドボード録音と比較して、むしろ実際のコンサート会場にいるような自然で臨場感がある音と言える位だ。昔コンサート会場にデンスケ(ポータブルレコーダー)を持ち込んで、カセットテープに録音していた頃を考えると、近年の録音機材の技術進歩はスゴイものだ。

コンサートは弾き語りによる 1.「Something In The Way She Moves」から始まる。本コンサートのオーディエンスは、JTの事を良く知っている人達のようで、これはという歌が始まると拍手が起き、曲間の声援や掛け声、JTのアナウンスに対する反応も気持ちのよいものだ。2.「Riding On The Railroad」の途中からバンドが加わり
メドレーで 3.「Machine Gun Kelly」となる。近年のコンサートでこの曲を取り上げるのは珍しい。1971年のオリジナル録音とは全く異なる自由なアレンジでの演奏で、ピアノが目立っている。途中からバンド演奏が加わる 4.「Carolina In My Mind」に続き、1997年の新作「Hourglass」A16から、 5.「Line 'Em Up」、6.「Enough To Be On Your Way」、7.「Jump Up Behind Me」の3曲を演奏する。ここではオーディエンスの反応は冷静だ。9.「That's Why I'm Here」が終わった後、観客席より「Fire And Rain」のリクエストが飛ぶが、JTは「それはセカンドセットだから待っててね」と切り返している。10.「Copperline」では透明感溢れるピアノ演奏が素晴らしい。11.「Slap Leather」はリードギターがいないため、何時もと異なるサウンドで、ロックンロール・スタイルのピアノが目一杯頑張っている。12「Country Road」は、ジミー・ジョンソンのベースとJTのアコギの絡みから始まる。ここでのカルロス・ヴェガのドラムスは迫力十分で、ラス・カンケルやスティーブ・ガッドが演奏するバージョンと比較すると、この曲のカラーはドラム奏者により決定付けられている事がわかる。   

セカンドセットは
エレキピアノの音がきれいな 13.「Secret O' Life」から。新曲と紹介される 14.「Ananas」はコーラス、E.ギターが抜けた穴をエレピとオルガンが補っている。JTのアコギ一本による長めのイントロが面白い 16.「(I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」で聞かれるハーモニー・ボーカルは誰かな? 17.「Fire And Rain」、18.「You've Got A Friend」でのオーディエンスの拍手は一際大きく、後者のコーラス部分では会場の歌声が加わる。19.「Frozen Man」でのピアノとアコギのコンビネーション、20.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」におけるエレピのサウンド(特に最後のエレピのソロ)は聞きもの。ピアノを主体としたサルサ調のアレンジがカッコイイ 21.Mexico」では、エンディングでレイ・チャールズの「Hit The Road Jack」の一節が飛び出す。 エレキギターのない 22.「Your Smiling Face」は初めて聴いたが、その不在はイントロではベースが、曲の中ではアコギがうまくカバーしている。23.「Shower The People」はバンドの伴奏が付くアレンジであるが、コーラスが聞こえるが、今回のバンドの人たちが歌うケースは他の音源では見られず、誰が歌っているのか不明。エンディングのソロボーカルはJT自身が取っている。ここでアンコールとなり、ニューオリンズ調の 24.「Steamroller」が演奏される。JTが達者なブルースハープを披露する他、クリフォード・カーターがかなりアグレッシブなニューオリンズ・スタイル・ピアノを弾きまくっている。最後は弾き語りによる 25.「Sweet Baby James」でお終い
 
コンサートの全編にわたり、クリフォード・カーターの素晴らしいプレイ、コーラス無しのJTのボーカルが楽しめる。ドラムスのカルロス・ヴェガは、本コンサートのしばらく後の4月7日に急死したため、私が知る限り、本音源が現在我々が聴く事ができる最後の演奏となる。



Musikhalle Hamburg 1999

James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Rus Kunkel: Drums, Percussion
Arnold McCuller : Back Vocal

1. Sweet Baby James
2. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
3. Line 'Em Up
4. Carolina In My Mind
5. Mighty Storm [Traditional]
6. Anywhere Like Heaven
7. Jump Up Behind Me
8. You've Got A Friend [Carole King]
9. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]
10. Shower The People
11. Steamroller
12. Daddy's All Gone
13. Me And My Guitar
14. Walking Man
15. Never Die Young
16. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]
17. Mexico
18. Country Road
19. Fire And Rain
20. Your Smiling Face
21. Not Fade Away [Buddy Holly, Norman Petty]
22. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
23. You Can Close Your Eyes


1999年5月20日 Musikhalle Hamburg にて収録


サウンドボード録音と思われ、音質が良くピアノの音もクリアーだが、耳を澄ませるとPAのジ〜という音が聴こえるのが難点。内容的には 7月15日のモントルー・ジャズ・フェスティバルとほとんど同じで、アーノルド・マックラーとJT2人によるボーカル、クリフォード・カーターの清涼感あるピアノプレイをたっぷり楽しむことができる。

4.
「Carolina In My Mindは、最初はJTの弾き語りで、途中からバンドの伴奏とアーノルドのコーラスが入る。 5.「Mighty Storm」におけるアコーディオンのような音は、クリフォード・カーターがシンセサイザーで出しているのだろう。6.「Anywhere Like Heaven」は初期の曲で、この時期のコンサートで演奏するのは珍しい。7.「Jump Up Behind Me」は色彩感溢れる演奏で、クリフォードの軽妙なシンセソロ、アーノルドのボーカルが前面に出てきて、そこそこインパクトがある。そのためかオーディエンスの拍手も大きい。9.「Copperline」におけるクリフォードのピアノの響きはクリスタルのような透明感がある。ここでJTはドイツ語で曲の紹介を行いオーディエンスの喝采を浴びる。11.「Steamroller」ではJTによるハーモニカ・ソロを聴くことができる。ここでのエンディングは比較的さっぱりしている。13. 「Me And My Guitar」もこの時期としては珍しいかな?19.「Fire And Rain」で聞えるチェロのような重低音は、クリフォードのシンセだろう。 ボブ・マンのスライドギターがゴキゲンな 21.「Not Fade Away」。22.「How Sweet It Is」では、エンディングのJTとアーノルドの掛け合いの部分で、JTが「Feels so good in Hamburg tonight」と歌っている。


Montreux Jazz Festival 1999

James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Guitar
Clifford Carter: Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Rus Kunkel: Drums, Percussion
Arnold McCuller : Back Vocal


1. Carolina In My Mind
2. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]
3. Line 'Em Up
4. Mighty Storm [Traditional]
5. Mexico
6. Jump Up Behind Me
7. You've Got A Friend [Carole King]
8. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]
9. Shower The People
10. Not Fade Away [Buddy Holly, Norman Petty]
11. Walking Man
12. Never Die Young
13. Handy Man [Otis Blackwell, Jimmy Jones]
14. Country Road
15. Fire And Rain
16. Your Smiling Face
17. Secret O' Life
18. How Sweet It Is [Holland, Dozier, Holland]
19. You Can Close Your Eyes


1999年7月15日 Montreux Jazz Festival、Switzerland にて収録


スイスのモントルーで開催されるモントルー・ジャズ・フェスティヴァルは、説明不要だと思う。ビル・エバンスをはじめ、多くのライブ録音の名盤が生まれているが、1980年代からはジャズ以外の音楽も招かれるようになり、よりスケールアップしている。

司会者の紹介により登場したプロデューサーのラス・タイトルマンが短いスピーチをする。そのなかで「ジェイムスの曲は、ホギー・カーマイケルやアーヴィング・バーリンと同じようにアメリカのポピュラー音楽に織り込まれている」というコメントが印象的だ。
本音源は、小編成のバンドによるシンプルなサウンドだ。メンバー的には2002年の映像作品「Pullover」E8から、コーラス隊3人とホーン・セクションを除いたもの。このコンサートの特徴は、コーラスがアーノルド・マックラー1人という点で、JTとの2人ボーカルをたっぷり楽しむことができる。 3.「Line 'Em Up」では、クリフォード・カーターの清涼感あるピアノプレイが聴きもので、コーラス部分では、片手でピアノを弾きながら、電子オルガンも弾いている。 4.「Mighty Storm」は、「エリック・フォン・シュミットが歌っていたテキサス州ガルヴェストンを襲った嵐についての歌です」と紹介される。アーノルドと一緒に歌われ、サウンドはライ・クーダーそのもの。ボブ・マンがワウワウ・ペダルを使ったギターソロを入れる。5.「Mexico」でもアーノルドとJTは、エンディングでの掛け合いや、レイ・チャールズの「Hit The Road Jack」の一節を引用してこの曲の種明かしをしたり、二人ボーカルの魅力全開だ。6.「Jump Up Behind Me」では、ブラジル風のサウンドに乗せてクリフォード・カーターのシンセがひらひらと舞う。ここでもアーノルドはボーカルで重要な役を担っている。7.「You've Got A Friend」では、録音の良さもあり、各プレイヤーの演奏をはっきり聞き分けることができるので大変楽しめる。フランス語を入れながら紹介される 8.「Up On The Roof」は、エンディングが盛り上がり、ボブ・マンのエレキギター・ソロとそれに応えるジミー・ジョンソンのベースの早いパッセージが鮮やかだ。9.「Shower The People」のエンディングでは、いつものようにバックにコーラスを入れずに、アーノルドが一人でソロを歌い、最後にJTが加わって終わる構成が面白い。バディ・ホリーの10.「Not Fade Away」では、ボブ・マンがスライドギターでハードにロックする。JTとアーノルドのハーモニーがカッコイイ。ベース・ソロから始まる 14.「Country Roadでは、エレキギターやドラムスが控え目でオリジナルのバージョンに近いサウンドだ。15.「Fire And Rain」では、クリフォード・カーターのピアノの響きが良い。16.「Your Smiling Face」は、エレキギターのディストーション・エフェクトが深めで、演奏自体も自由奔放だ。この曲の終了後司会者のアナウンスが入り、アンコールとなる。17. 「Secret O' Life」は、エレキピアノの他にベースが入った演奏。18.「How Sweet It Is」は、跳ねるようなピアノの伴奏が印象的で、間奏のギターソロ、2人のボーカルの掛け合いなど、聴き所はたくさんある。19.「You Can Close Your Eyes」はアーノルドとのデュエットだ!最後の司会者のスピーチまで入っていて、当日の演奏の全貌が収められているものと思われる。