Clark University, Worcester 1969   

James Taylor : Guitar, Vocal

1. With A Help From My Friends [John Lennon, Paul McCartney] (Fade In)
2. Carolina In My Mind
3. People Get Ready [Curtis Mayfield]
4. Circle Around The Sun [Traditional]
5. Knockin' Around The Zoo   
6. Diamond Joe [Traditional]
7. Fire And Rain
8. Steamroller
9. Hallelujah I Love Her So [Ray Charles] 
10. Oh Suzannah [Stephen Foster] 
11. Rainy Day Man 
12. Something Wrong 
13. Sunshine, Sunshine
14. Coca Cola Commercial [Unknown]
15. Will The Circle Be Unbroken [Ada R. Habershon, Charles H. Gabriel] 
16. The Blues Is Just A Bad Dream
17. Hushabye [Jessie Collin Young]

録音: 1969年5月5日 Atwood Hall, Clark University, Worcester, Massachusetts


アップルからのファーストアルバムが米国発売された1969年2月から3ヶ月後のコンサート音源。JTがピーター・アッシャーと一緒にロスアンゼルスに移住して、同地トルバドゥュールでのデビュー(7月)、アルバム「Sweet Baby James」録音の前の時期にあたる。ここでのJTは新人アーティストとして、アルヴィン・リー率いるテン・イヤーズ・アフターの前座として出演、無名人としてのJTの姿がありのまま捉えられており、誠実であるが、ダークで神経質な彼本来の気質がはっきり出ている。その不安を感じさせる内気なパフォーマンスは、この人が後40年以上も音楽界の荒波に耐えるとこができたとは信じ難い繊細さに満ちている。会場のアトウッド・ホールは、マサチューセッツ州ボストンの西約30キロにある都市ウォーセスターのクラーク大学キャンパス内にある古い講堂。本音源は、当日JTの面倒をみたプロのエンジニアが彼の演奏を録音したもので、当時のライブ音源としてはテープのヒスノイズもなく、ギター、ボーカル、オーディエンス、会場の立体感など、すべてにおいて素晴らしい音質だ。上記の曲のうち、2, 5, 7, 8 の4曲は、以前から出回っていたが、最近になって上記17曲を聴くことができた。ただし、唯一残念な点は、私が聴いた音源は曲間がカットされており、当日のセットリストの資料がないため、正確な曲順がわからないことだ。

私が聴いた音源では途中から始まる 1.
「With A Help From My Friends」から、彼の歌が大変陰影に富むものであることがわかる。 2.「Carolina In My Mind」は、デビューアルバムのバージョンに近い早めのテンポでの演奏。本コンサート全体を支配するムードは、8.「Steamroller」や 16.「The Blues Is Just A Bad Dream」のみならず、 3.「People Get Ready」、 4.「Circle Around The Sun」、そして9. 「Hallelujah I Love Her So」や 14.「Coca Cola Commercial」といったレイ・チャールズの曲を歌うJTの強烈なブルース・フィーリングだ。それこそがの音楽の本質であり、これらの曲をギター1本の弾き語りで表現してしまう才能なのだ。

「Couple of months ago, I've seen fire and rain」と言って始める 7.「Fire And Rain」は新鮮な感じで、JTのボーカルの味わい深さは筆舌に尽くしがたい。有名なってからの歌唱と明らかに異なる感じで、数あるこの曲のパフォ-マンスのなかでも、文句無しベストの逸品。 「妹のケイトのために作った」という 13.「Sunshine, Sunshine」、ステファン・フォスターの古い曲を、新しい感覚のジャズっぽいコードとタッチでカバーした10.「Oh Suzannah」、初期の佳曲 12.「Something Wrong」どれをとっても最高の出来だ。 15.「Will The Circle Be Unbroken」は、1907年に作曲された讃美歌で、多くのカントリー、フォーク・アーティストがカバーしているが、JTがこの曲を演奏しているのは、私が知る限り本音源と1970年のシラキューズだけだ。フライング・マシーン、デビューアルバムを除く最も初期の音源であり、デビューアルバムに入っていた 16.「The Blues Is Just A Bad Dream」をライブで聴くことができるのもここだけといった珍しい曲を演奏しているのも貴重。

演奏の素晴らしさと録音の良さで、JTの弾き語りマジックを楽しむことができる最高の音源。

 


Bobbie Gentry Show 1969

James Taylor : Guitar, Vocal (1,2,3,5)
Bobbie Gentry : Guitar (4), Vocal (3, 4), Back Vocal (2)
Unknown : Bass, Drums, Strings, Horn (2,3)

1. Something In The Way She Moves
2. Knockin' Around The Zoo 
3. Something Wrong  
4. Refractions [Bobbie Gentry]
5. Country Road

Host : Bobbie Gentry

放送: 1969年7月17日 BBC TV


ボビー・ジェントリーについては、「50〜90年代の名曲集→1967年→Ode To Billie Joe」のコーナーで紹介した。この曲が全米1位を獲得した後も、60年代末にグレン・キャンベルと共演して「Morning Glory」、「Let It Be Me」などの中ヒットを放ったが、大ヒットでの返り咲きは、1969年のイギリスだった。同年8月にはバート・バカラックとハル・デビッドの名曲「I'll Never Fall In Love Again」が全英トップに、12月はグレンとのデュエット「All I Have To Do Is Dream」が3位となり、同地での人気が沸騰した。ただしそれは一時的で、同じバカラックの「Raindrops Keep Fallin' On My Head」(70年 2月、40位)を最後にヒットからは遠ざかってしまう。その絶頂期に彼女をホストとした番組が短期間BBCテレビで製作され、そこにゲスト出演したのが若きJTである。私は映像でなく音源のみ聴くことができた

冒頭のボビーの紹介が大変情熱的で、「Good evening Ladies and Gentlemen. I'm so pleased to have my special guest James Talyor. He is from the United States. He was born in Boston and grew up in North Carolina. Last year he came to England, and signed by The Beatles, and recently released an album and I might add, the most beautiful album I've ever heard. I can't tell how impressed I am with his work, and what a pleasure to present him to you. Ladies and Gentlemen, James Taylor !」 とベタボメ! フォークやポップスを歌う彼女の奥底にある強力なR&Bのソウルが、JTのそれと相通じるものがあり、当時両者は音楽的に大変近いものがあったからだと思われる。 メジャー・デビュー間もないJTのみならず、ボビー自身もクリエイティブで生き生きしていた時代であり、両者の共演は大変魅力的な結果を生んでいる。1.「Something In The Way She Moves」はテンポが速めで、若々しさに溢れた演奏。 ギターの音が異なるが、これはいつものJ-55ではなく、ギブソンの別のモデルを弾いているため。2.「Knockin' Around The Zoo」ではリズムセクションとホーンのバックがついた演奏で、ボビーが付けるハーモニー・ボーカルがR&Bフィーリングに満ち、JTのボーカル、ギターもスタジオ録音版(A1)よりもはるかにグルーブがあり、最高の出来だ。3.「Something Wrong」はJTとボビーが交互に歌い、彼女が素晴らしいハーモニーを付ける。途中からストリングス、フルートとホーン(バスーンかな?)が加わるが、同じアレンジなのにスタジオ版のような違和感、よそよそしさがなく、いいな〜と聴けてしまうのは、音楽の持つ魔術だろうか?JTのボーカルの調子が良いのに加えて、ボビーのボーカルはこの曲に大変合っており、名演と思う。4.「Refractions」は、「屈折」という意味のタイトルの曲で、ボビーの2枚目のアルバム「The Delta Sweete」に収録されていた曲で、彼女らしいメランコリーな雰囲気のフォークソング。JTのギターが全面的にサポートするが、その隙間から彼女の小型マーチンの音も聞こえる。5.「Country Road」は当時は出来たばかりだったようで、歌い方やギターの伴奏が少し違っているのが興味深い、大変貴重なバージョンだ。

久しぶりに、聴いた時「生きていてよかったな〜」としみじみ思った音源だ。

[2010年10月追記]
「Something In The Way She Moves」につき、当初以下の通り書きました。

「2007年初めにBBCテレビで放送されたウェストコースト・ロックのドキュメンタリー「Hotel California」(Barney Hoskynsという人が書いた本をもとに作られたもの)でのJTのエピソードで、ほんの一部分だけ流された「Something In The Way She Moves」の映像の演奏が、ここでの1.と同じものであることが分かる。ということは本作のフィルムが、BBCの倉庫に眠っている事を意味しており、将来観る事ができるかも知れない。」

しかし、それが誤りであるこことが判りました。

2010年アップル・レコードは、JTのデビュ−アルバムのリマスター盤(未発表デモテイク付き)発売のためのプロモーションとして同曲を演奏する映像の全編を公開しました。それは前述のものと同じ撮影だったが、本音源の演奏内容とは微妙な歌いまわしが異なっており、別のものであることが確認できました。そこで本文を訂正しました。


Jabberwocky Club, Syracuse, NY  1970

James Taylor: Guitar

[Febuary 6]

(Middle Set)
1. Rainy Day Man  
2. Diamond Joe [Traditional]
3. Coca Cola Commercial [Unknown]
4. Machine Gun Kelly [Danny Korchmar] 
5. Anywhere Like Heaven  
6. Fire And Rain 
7. Circle Around The Sun 
8. Will The Circle Be Unbroken [Traditional]
9. Carolina In My Mind  
10. Sunshine, Sunshine 
11. Dixie [Daniel Decatur Emmett]
12. Hallelujah I Love Her So [Ray Charles]
13. Blossom  
14. Sunny Skies
15. Brighten Your Night With My Day  

(Late Set)
16. Pretty Boy Floyd [Woddy Guthrie]
17. Yesterday [John Lennon, Paul McCartney]
18 Steamroller  
19. Country Road 
20. Duncan & Brady [Traditional]
21. Hushabye [Jessie Collin Young]
22. Something In The Way She Moves  
23. Taking It In  
24. If I Needed Someone [George Harrison]
25. Sweet Baby James 
26. People Get Ready [Curtis Mayfield]
27. Sunshine, Sunshine
28. Diamonds In The Rough [A.P. Carter]


[Febuary 7]

(Middle Set)
29. Country Road  
30. Steamroller  
31. Pretty Boy Floyd [Woddy Guthrie]
32. Sunny Skies 
33. Sunshine, Sunshine
34. Sweet Baby James 
35. Duncan & Brady [Traditional]
36. Carolina In My Mind 
37. Dixie [Daniel Decatur Emmett]
38. Blossom  
39. Something Wrong  
40. Anywhere Like Heaven (Imcomplete) 

(Late Set)
41. Brighten Your Night With My Day  
42. Hushabye [Jessie Collin Young]
43. Coca Cola Commercial [Unknown]
44. Knockin' Around The Zoo  
45. Snuff Commercial [Unknown]
46. Circle Around The Sun  
47. Rainy Day Man  
48. Something In The Way She Moves  
49. Satisfied Mind [Joe 'Red' Hayes, Jack Rhodes]
50. Yesterday [John Lennon, Paul McCartney]
51. Hallelujah I Love Her So [Ray Charles]
52. Carolina In My Mind  
53. Diamonds In The Rough [A.P. Carter]
54. Sweet Baby James  


公式盤未収録曲は青字で表示

録音: 1970年2月6日〜7日 Jabberwocky Club, Syracuse, New York


JTの初期コンサート音源のひとつで、JTのアナウンスで、アルバム「Sweet Baby James」について語られているが、「Fire And Rain」を演奏する際の観客が無反応なので、同アルバム発売(1970年2月)から間もない頃であることがわかる。収録場所はニューヨーク州シラキューズで、シラキューズ大学構内のキンメル・ホールの地下にあった「Jabberwocky」というバー(席数200)での弾き語りライブを収録したもの。当時同大学のコンサート・コーディネイターで、WEARという同大学構内のラジオ局のディレクターだった人が、JTの承諾を得てサウンドボード録音したとのことで、音質は最高。彼のコメントによると、JTの出演は2月5日(木)、6日(金)、7日(土)の3日間で、木曜は2セット、金・土曜は各3セット演奏したそうだ。8つのセットのうち、初日の2セットおよび6〜7日のファーストセットは音質に問題があり、重複している曲も多かったので、結局上記4つを保存したとのこと。

ここでは未発表曲の多い2月6日のステージにそって解説しよう。2.
「Diamond Joe」はトラディショナルで、カータ・ファミリーやランブリン・ジャック・エリオットが取り上げ、1992年にはボブ・ディランが「Good As I Been To You」でカバーしている。3. 「Coca Cola Commercial」 はレイ・チャールズによるコカコーラのコマーシャル・ソングをカバーしたもので、躍動感とガッツに溢れたギター伴奏とボーカルが聞き物の一品。レイ本人による当時のラジオCMの音源と比較すると、JTはかなり自己流にアレンジしていることがよくわかり、単なるカバーを超える想像性が感じられる逸品。5.「Anywhere Like Heaven」はニューヨークについて歌ったものと紹介される。 8.「Will The Circle Be Unbroken」も有名なトラディショナルで、カーター・ファミリーを初め多くのミュージシャンが演奏している。 11.「Dixie」はヴォードヴィル全盛期に Daniel Decatur Emmettにより作曲されたもの。 12.「Hallelujah I Love Her So」はご存知レイ・チャールズ自作自演の名曲で、JTの素晴らしいカバーにより、R&Bとゴスペルが融合したソウル・ミュージックの醍醐味が味わえる。この曲は40年後の2010年、デビッド・サンボーンのアルバム「Only Everything」C90 のゲストとして、JTにより正式録音された。

16.「Pretty Boy Floyd」はウッディ・ガスリーの曲で、有名な義賊のバラッド。ジャック・エリオット、ジョーン・バエズやザ・バーズの他、1988年のオムニバス盤「Folkways: A Vision Shared A Tribute To Woody Guthrie & Leadbelly」ではボブ・ディランが歌っていた。JTのお気に入りらしく、その後もラジオやステージなどで演奏した音源が残っている。 17.「Yesterday」はポール・マッカートニーによる名曲のカバーで、比較的さらっとしたアレンジだ。 JTは、2012年の「Musicare Person Of The Year」のセレモニーで、ポールのためにこの曲を歌っている。20.「Duncan & Brady」はレッドベリーの曲で、デイブ・ヴァン・ロンクやトム・ラッシュが演奏している。 21.「Hushabye」は曲紹介によると、ジェシー・コリン・ヤング(「Get Together」で有名。「No Nukes」B12 E2にも参加)の曲とのことであるが、彼による録音の存在確認はできなかった。弟リヴィングストン・テイラーのデビュー・アルバム(1970年)のものとは同名異曲。24.「If I Needed Someone」はジョージ・ハリソン作曲によるビートルズの曲。26.「People Get Ready」はカーティス・メイフィールドがインプレッションズ在籍時に発表したゴスペル調の曲(1965年)で、当時公民権運動の象徴的となった偉大な曲。JTも原曲に敬意をこめてカバーしている。27.「Sunshine, Sunshine」は妹のケイトのために作った曲とのこと。デビューアルバム(A1)収録曲全般に言えるのだが、オーバーアレンジのオリジナル録音よりもはるかにいい出来だ。28.「Diamonds In The Rough」はカーター・ファミリーによる曲で、ジョニー・キャッシュ、ジョン・プライン、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドなどがカバーしている。

2月7日のステージ演奏された曲で、前日にないカバー曲は45.「Snuff Commercial」と 49.「Satisfied Mind」。前者は、JTが子供の頃に聞いて歌っていたコマーシャル・ソングを取り上げたもので、最初はオリジナルのカントリー調で演奏、次に「現
在ではこうなります」と、彼得意のジャズっぽいアレンジで披露し、喝采を浴びる。後者はジョーン・バエズ、パット・ブーン、ザ・バーズ、グレン・キャンベル、ボブ・ディランなどがカバーした曲。彼自身の曲では、39.「Something Wrong」、44.「Knockin' Around The Zoo」が7日のみで聴くことができる。

逆に6日でしか聴けない曲は、カバー曲では 2.「Diamond Joe」、 3.「Coca Cola Commercial」、 8.「Will The Circle Be Unbroken」、 24.「If I Needed Someone」、 26.「People Get Ready」。自作曲では 4.「Machine Gun Kelly」、6.「Fire And Rain」、23.「Taking It In」の他、7日の40.「Anywhere Like Heaven」は30秒位でカットされるため、完奏版としては6日の5.「Anywhere Like Heaven」のみとなる。     

若きJTのギターとボーカルの妙がたっぷり楽しめ、多くのカバー・バージョンを聴くことができる意味でも大変貴重な音源だ。

[2014年5月追記]
音源を録音した本人のコメントを読むことができましたので、日付などの間違いを修正し、書き直しました。


Gymnasium Worcester Jr. College (Solo) 1970

James Taylor: Guitar, Vocal


1. With A Help From My Friends [John Lennon, Paul McCartney]
2. Something In The Way She Moves
3. Country Road
4. Coca Cola Commercial [Unknown]
5. Greensleeves [Traditional]   
6. Hound Dog [Jerry Leiber, Mike Stoller]
7. Steamroller
8. Carolina In My Mind
9. Diamond Joe [Traditional]  
10. Rainy Day Man 
11. Oh Suzannah [Stephen Foster] 
12. For Free [Joni Mitchell]
13. Brighten Your Night With My Day 
14. Anywhere Like Heaven
15. Machine Gun Kelly  [Danny Kortchmar] 
16. Yesterday [John Lennon, Paul McCartney] 


録音: 1970年2月22日 Gymnasium at Worcester Junior College, Worcester, MA



マサチューセッツ州ウォーセスターは、ボストンの西約30キロの内陸部に位置する町で、そこの短期大学(後1989年に閉校)の体育館で行われたコンサート音源。資料によると当時JTのアイドルだったトム・ラッシュの前座としての出演という。地元での演奏とあって大変リラックスした雰囲気で、JTがファースト・アルバムからの曲を始めると拍手が起き、暖かいオーディエンスに囲まれて気持ち良さそうに歌っている。ギターの音質はイマイチだけど、ボーカルについては中音域が豊かにとらえられていて、JTの声がチェロのように響き、その心地良さが魅力的。体育館という場所のせいか自然なエコーがかかっているのも良い。

1.
「With A Help From My Friends」、2.「Something In The Way She Moves」では、歌の崩しが自然で、リラックスした暖かい雰囲気が広がる。3.「Country Road」を始めると拍手が起き、この時期では本曲がファンの間で認知されていることがわかる。JTはエンディングでギターを弾きながら、オーディエンスに対しDの音で「ア〜」と歌うよう頼んでいる。 レイ・チャールズが歌った 4.「Coca Cola Commercial」をギター1本にアレンジしたJTのセンスは秀逸。レイのオリジナルと聞き比べると、JTが如何に余分なものをそぎ落として磨き上げたかがよくわかる。音楽的には高度な演奏ながらユーモアにも溢れ、観客は大笑い。イングランドの古い民謡 5.「 Greensleeves」のインストメンタルの後に演奏される 6.「Hound Dog」は本音源のハイライト。少し冗談っぽいプレイではあるが、ギター1本の伴奏で、気だるいブルースとして歌う解釈はスゴイ! 最初の2ヴァースのみの短い演奏であるが、聴き応え十分。私が知る限り、彼が再びこの曲を取り上げるのは、30年以上経った後で2002年8月のテレビ出演(「その他断片 2000年代」の部参照)と、2008年の新作「Covers」となる。JTは、歌い終わった後にエルビス風に足を震わせ、「Get out of there Elvis !」とのたまう。

7.「Steamroller」では、間奏部分でのJTの語りが毎回僅かながら異なるので、その微妙な違いを楽しみましょう。 8.「Carolina In My Mind」は、イントロでの口笛がない演奏。 9.「Diamond Joe」はカーター・ファミリーの古い歌10.「Rainy Day Man」は、13.「Brighten Your Night With My Day」とともに、初期の陰影に富んだムードが真に魅惑的。後年の同曲の演奏とは同名異曲といってよいくらい雰囲気が違う。11.「Oh Suzannah」は当時のライブ音源は少ないので、貴重といえるが、ラストのギターの途中で切れてしまうのが残念。 12.「For Free」の紹介で、JTは「これは通常は女性が歌う曲なので、歌詞の一部を変えた」と語っているが、「女性」を「Chicks = 可愛い娘ちゃん」と言っているところが面白い。今の世の中で同じことを言うと女性蔑視発言として叩かれるだろうなあ! 友人のダニー・クーチが最初の奥さんとの結婚生活のトラウマを書いたといわれる 15.「Machine Gun Kelly」、ポールの名曲 16. 「Yesterday」は、私が聞いた音源では残念ながら、音質はイマイチだった。

人気が爆発する直前のJTの弾き語りコンサートを記録した貴重な音源。


Harvard University (Solo) 1970



James Taylor: Guitar, Vocal

[Set 1]
1. With A Help From My Friends [John Lennon, Paul McCartney]
2. Anywhere Like Heaven
3. Steamroller
4. Blossom  
5. I'm A Man [Ellas McDaniel] 
6. Okie From Muskogee [Merle Haggard, Edward Burris]
7. Greensleeves [Traditional]  
8. For Free [Joni Mitchell]
9. Fire And Rain    
10. Carolina In My Mind  
11. Riding On The Railroad  
12. Isn't It Nice To Be Home Again 

[Set 2]
13. Carolina In My Mind
14. Brighten Your Night With My Day 
15. Snuff Commercial [Unknown]
16. Sunny Skies 
17. In My Reply [Livingston Taylor]
18. Hallelujah I Love Her So [Ray Charles]
19. Oh, Susannah [Stephen Foster]
20. Sweet Baby James  
21. Fire And Rain
22. Sunshine, Sunshine
23. Diamonds In The Rough [A.P. Carter]


録音: 1970年4月25日 Sanders Theatre, Harvard University, Cambridge, MA



1970年3月にアルバム「Sweet Baby James」A2を発売し昇り調子にあったJTが、地元ボストン近郊ケンブリッジにあるハーバード大学構内で行ったコンサートの音源。会場のサンダーズ・シアターは席数1,166の小さなホールで音響効果が良く、クラシックのコンサートの他に、チャーチル、ルーズヴェルト、マーチン・ルーサー・キングなど歴代の偉人による講演でも有名。司会者による「良い音楽を聴かせるぞ!」といった感じの強気の紹介の後JTは、ビートルズのカバー 1. 「With A Little Help From My Friends」からスタートする。2. 「Anywhere Like Heaven」は、ニューヨークの事を書いた歌とコメントして歌う。3.「Steamroller」の解説は、1971年のBBCテレビ映像のものとほぼ同じ内容で、当時シャイなJTは話下手だったことがわかる。一方歌やギター演奏の崩し方やアドリブが微妙に異なり、ブルースの即興性が生かされている。飼っているブタのために作ったと言って聴衆を笑わせた 4.「Blossom」の後、ボ・ディドリーのブルース 5.「I'm A Man」を演奏する。 作者のエラス・マクダニエルはボ・ディドリーの本名で、1955年のヒットシングル「Bo Diddley」のB面として発表された。シンプルなフレーズの繰り返しが覚えやすく、ヤードバーズ、ザ・フー、トム・ペティなど多くのアーティストが演奏している。もともとはマディー・ウォータースの「She Moves Me」が原型というが、後にマディー本人も詩を一部書き直して「Mannish Boy」というタイトルでカバーした。本音源の資料では「Mannish Boy」というタイトルになっているものもあるが、JTが歌う歌詞は、ボ・ディドリーのものに近い。「Fire And Rain」のシングルの発売は同年8月で、9月に全米第3位のヒットを記録することになるが、この時点ではアルバムのみでシングル未発売だったにもかかわらず、かなり話題になっていたらしく、JTがこの曲の演奏を始めると聴衆から拍手が起き、彼がギターを弾きながらお礼を述べる。11.「Riding On The Railroad」、 12.「Isn't It Nice To Be Home Again」は、当時は新曲で、後に次作「Mud Slide Slim」A3に収められる。

セカンドセットもほぼ同じ聴衆だったようで、13. 21.の代表曲のみもう一度やっている。彼のアナウンスで面白いのは、16.「Sunny Skies」で、「ロンドンにいたパキスタン人のアーティストの名前からとった」と紹介している。17.は資料では曲名が「Matthew」となっていたが、作者である弟のリヴィングストンのデビューアルバム(1970)では、「In My Reply」となっているので、このタイトルとした。このセットで最も印象的な曲は、やはり 21.「Fire And Rain」で、JTが曲名を言っただけで大きな拍手が起きる。当夜2回目の演奏にもかかわらず、終わった後は割れるような拍手とウォーという声援が延々と続く。まさにJTの人気が爆発する直前の熱い雰囲気が感じられる一瞬。興奮が冷めたのちは、冷静な 22.「Sunshine, Sunshine」と、聖歌と紹介される 23. 「Diamonds In The Rough」でコンサートは終了する。

1970年は、コンサートの時期によりオーディエンスの反応や雰囲気が微妙に異なるのが面白いのだ。

 
Capitol Theater, Port Chester, NY (Solo) 1970 
 
James Taylor: Guitar, Vocal

1. With A Help From My Friends [John Lennon, Paul McCartney]
2. Anywhere Like Heaven  
3. Greensleeves [Traditional]  
4. Okie From Muskogee [Merle Haggard, Edward Burris]
5. Bloosom
6. Sunny Skies 

7. Up On The Roof [Gery Goffin, Carole King]
8. Brighten Your Night With My Day
9. Snuff Commercial [Unknown]
10. Hallelujah I Love Her So [Ray Charles]
11. Rainy Day Man 
12. Something In The Way She Moves
13. Riding On The Railroad  
14. Country Road
15. Carolina In My Mind
16. Machine Gun Kelly [Danny Kootch]
17. Isn't It Nice To Be Home Again
18. Mescalito

録音: 1970年5月16日 Capitol Theater, Port Chester, NY
 

「The Port Chester Resurrection (復活) Project」からの音源。ポート・チェスターは、ニューヨーク州ウエストチェスター郡にある町で、マンハッタンのグランドセントラル駅からニューヘブン線で30〜40分位の所。キャピタル・シアターは1926年建造、1,800人収容の古いコンサートホールで、著名アーティストによるコンサートが多く開催されている。

1970年から1971年にかけて、警備の仕事に就いていたケン・リーという男が、自身の趣味のためにボスの許しを得て、バルコニーの左右にマイクをセットしてコンサートを録音していた。後に彼のガールフレンドの弟がテープに興味を示し、説得されたケンは商業目的に使用しないことを条件に公開に同意した。かくして経年劣化していたテープは注意深く修復され、300〜500本分の音源がファンの間で流通するようになったという。そのなかではグレイトフル・デッドが最も有名とのことであるが、JTの音源は初期の弾き語りによるコンサートという貴重なものだ。資料によると、公演は15日、16日の2日間行われ、JTの他にサイケデリック・ロックのハミルトン・フェイス・バンド, ブルースを歌うイギリス人ジョー・アン・ケリーが出演した。そのためここでは短めのセットとなっている。

1.「With A Little Help From My Friends」は、JTギタースタイルの売り物であるベース音の動きが印象的。ギター1本でしっかりロックしているところは流石だ。JTの声はヴェルベットのようにソフトでまろやかで、本稿執筆時である2020年のものと大違い。現在の皺枯れた声は、加齢によるそれなりのものというところか。本音源はサウンドボードではないので、クリアーさには欠けるが、大変聴きやすく臨場感に富んでいて、聴いているとその場にいるような気分になる。2.「Anywhere Like Heaven」を歌い始めると、オーディエンスから拍手が起こり、彼らが3月に発売された「Sweet Baby James」を聴いている熱心なファンであることがわかる。 3.「Greensleeves」は、「私が作った曲です」と笑わせて演奏するインストルメンタル。シンプルな序盤から、JT流のジャズ・ブルースコードを取り入れた中盤、そして最後は4拍子という3部構成で、アレンジの妙が光り、当時愛用していたギブソンJ-50最良の音が楽しめる。4.「Okie From Muskogee」は、カントリー・シンガーのマール・ハガードが1969年にヒット(全米41位、カントリーチャート1位)させた曲で、ベトナム戦争で戦う兵士達のために書いた曲という。「Okie」はオクラホマ人、「Muskogee」はオクラホマ州の町のことで、アメリカ中西部に生きるスクウェア(保守的)な人々の想いと、戦争に抗議する都市部のヒッピー達に対するアンチテ−ゼの歌だ。一方でその歌詞に込められたユーモアから、パロディーとして捉える人々も多く、JTは歌詞を変えずに高田渡の「自衛隊に入ろう」的なアプローチで歌い、オーディエンスも笑いながら楽しんでいる。5.「Bloosom」は端正なギターをバックに、メロディーを崩しながら歌う様が自由で魅力的。 6.「Sunny Skies」は、イントロを長々と弾きながら「イギリスで、一部はマサチューセッツで書きました」等、曲の紹介をするのがカッコイイ。 

7.「Up On The Roof」は、私が知る限り音源として初めての登場。「良き友人のキャロル・キングの曲です」と紹介されているので、この時点で二人は既に知り合いだったことがわかる。アップルのファースト・アルバムからの8.「Brighten Your Night With My Day」は、始まりで拍手するオーディエンスが少ないので、このアルバムの認知度があまり高くなかったことを示している。9.「Snuff Commercial」は、「私が最初に習った曲です」と紹介され、ノースキャロライナで両親とテレビで観た記憶が語られる。最初のカントリー調のオリジナルに続く、JTアレンジによる洗練されたバージョンが面白い。続いて演奏される 10.「Hallelujah I Love You So」は本音源のハイライト!彼のアイドルであるレイ・チャールズへの愛慕に満ちたプレイで、ブルースフィーリング溢れる歌とギターが素晴らしく、後にフォーク、ロックのミュージシャンがブルース、ジャズを取り入れて発展させるAOR、フュージョン音楽の萌芽がここにあるといっても良いと思う。ちなみにJTがこの曲を公式録音するのは40年後の2010年で、デビッド・サンボーンのアルバム「Only Everything」 C90に収録されている。11. 「Rainy Day Man」、12.「Something In The Way She Moves」とアップル時代の曲が続くが、後者での拍手が比較的大きいのが興味深く、この曲がスタンダードになることを予言している。「新しい曲でまだ完成していない」と紹介される 13.「Riding On The Railroad」は、ブリッジの歌詞が異なっている。14.「Country Road」では、6弦をDにチューニング・ダウンして、イントロを弾きながら、JTはオーディエンスに対し終盤でDの音で「アー」と口ずさむよう頼んでいる。 これは同曲のシングル・バージョン B6 のアレンジだ。この曲での拍手はとりわけ大きい。チューニングを元に戻した後に歌われる 15.「Carolina In My Mind」で、JTはイントロとエンディングで口笛を吹いてる。

ここでアンコールとなり、大声援の後「友人のダニエル・コーチーマーが書いた曲です」と語り、16.「Machine Gun Kelly」を歌う。通常最後に演奏される 17.「Isn't It Nice To Be Home Again」の後、オーディエンスの拍手がやまず、JTはアカペラで 18.「Mescalito」を歌う。メキシコ産のサボテンから抽出され、飲むと幻覚を起こす向精神薬メスカリンのことを歌ったもので、モーターバイクの事故で骨折した際の治療で服用したと言っている。ここでもオーディンスに頼んで、彼が1節歌い終わった後に「パン」と手拍子を入れてもらっているのが面白い。なおこの曲は後の1973年になってアレンジされ「One Man Dog」に収録された。そしてずっと後に同アルバムがCD化された際、歌詞カードに「当社は本薬の服用を奨励するものではない」というレコード会社の問責文言が添えれられたのが、時代の移り変わりを物語っている。

「Fire And Rain」や「Steamroller Blues」を歌っていないが、JTがブレイクする直前の姿を捉えた良質の音源として大変貴重なものだ。

[2020年12月作成]


Berkeley Community Theater (Solo) 1970


James Taylor: Guitar, Vocal

1. Country Road  
2. Something In The Way She Moves
3. Coca Cola Commercial [Unknown]
4. Up On The Roof [Gery Goffin, Carole King]
5. Fire And Rain 
6. Greensleeves [Traditional]  
7. Steamroller Blues 
8. Carolina In My Mind
9. In My Reply [Livingston Taylor]
10. For Free [Joni Michell]Night Owl  
11. Oh Susannah [Stephen Foster] 
12. Blossom

13. Hallelujah I Love You So [Ray Charles]
14. Sweet Baby James
15. Rainy Day Man
16. Isn't It Nice To Be Home Again
17. Riding On A Railroad


録音: 1970年5月29日 The Berkeley Community Theatre, San Fransisco, CA



[2022年1月改訂]
本コンサートの(恐らく)完全版かつ音質最高の音源を聴くことができましたので、全面的に書き直しました。

バークリー・コミュニティー・シアターは高校のキャンパス内にある劇場で、席数は3500。グレイトフル・デッドやジョニ・ミッチェル等のロック・コンサートが多く開催されたという。5月29日のコンサートのポスターによると、当日はJTとイギリスのフォークロック・グループ、ペンタングルのダブルビルとなっており、ペンタングルの演奏についても音源が残されている。またポスターには、翌日5月30日の出演者として、ジミ・ヘンドリックスの名前が載っており、1970年代初めのロック台頭の時代の雰囲気にあふれている。

音量・音質ともに素晴らしいサウンドボード録音で、1.「Country Road」を聴くと、JTのギターとヴォーカルが生々しく迫ってきて、目の前で彼が弾き語っているようだ。2.「Something In The Way She Moves」は、残念ながら最初の40秒が欠落している。以前聴いた音源では、イントロ、「ちょっとしたラブソングです」という曲紹介の語り、ファーストヴァースという、正にその部分の音量・音質がひどく悪かった事があり、その録音の不調が今回の音源にも残っていて、恐らくカットされたのではないかと推測される。 レイ・チャールズのCMソングのカバーである 3.「
Coca Cola Commercial」 は、ソウルフルで伸びやかにシャウトするボーカルが最高で、公式録音がないので、本音源のバージョンが決定版になるだろう。4.「Up On The Roof」も素晴らしい演奏であるが、途中ちょっとだけ音量が増減して不安定な部分がある。5.「Fire And Rain」のギターは正にギブソンの音で、ボーカルと合わせて心に染み入ってくる。インストルメンタルの 6.「Greensleeves」もギターの音が綺麗かつクリアーだ。

7.「Steamroller Blues」では、この曲を演奏しますというアナウンスにオーディエンスは拍手で応じ、ファニーな歌詞と歌い方に笑いと歓声で反応し、それによりJTのボーカルの乗りが一層良くなってゆく一体感が本当に最高!以前聞いた音源では途中で切れてしまった最後のハミングと拍手も、しっかり入っている。一転して 8.「Carolina In My Mind」は淡々とした演奏。9.「In My Reply」は、弟リヴィングストン・テイラーの曲で、セルフタイトルの彼のファースト・アルバム(1970)に収録されている。10.「For Free」はジョニ・ミッチェル 1970年のアルバム「Ladies Of The Canyon」に収録されていた曲で、JTの彼女に対する愛情・尊敬の念が感じられて心地良い。11.「Oh Susannah」のライブ音源はあまりないので貴重。JTの弾き語りのジャズに通じる変幻自在さが如実に感じられる。12.「Blossom」は、以前聞いた音源では途中でフェイドアウトしていたが、ここでは最後までしっかり聴くことができる。

レイ・チャールズの13.「Hallelujah, I Love You So」からの5曲は、以前聴いた音源にはなかった部分で、これで恐らくコンサートの全部が揃ったものと思われる。14.「Sweet Baby James」では、一瞬音が切れる部分が2か所あるのが残念。15.「Rainy Day Man」は、出来栄えでは10月29日のBBCのほうに軍配が上がるかな?16.「Isn't It Nice To Be Home Again」、17.「Riding On A Railroad」 は録音の良さが、歌の持つ説得力に大きく関わることを証明するようなトラック。

曲間がカットされているので、コンサート参加の臨場感はなく、いくつかの箇所でカットや音切れ等があるが、抜群の録音と演奏、彼の音楽を理解している良質のオーディエンスが相乗効果となって、当時のJTの弾き語りの魔術を堪能できる最高の音源となった!


Berkeley Community Theater (With Carole King)  1970


James Taylor: Guitar (Except 14), Piano 14, Vocal (Except 6,8), Back Vocal (8)
Carole King: Piano (7,8,9,10,13,14,15), Vocal (8), Back Vocal (9,14)
Leland Sklar: Bass (8,9,10,13,14,15)
Russ Kunkel: Drums (8,9,10,13,14,15)

1. For Free [Joni Michell]
2. Carolina In My Mind
3. Okie From Muskogee [Merle Haggard, Edward Burris]
4. Sweet Baby James  
5. Circle Around The Sun  
6. Greensleeves [Traditional]  
7. Blossom  
8. Up On The Roof [Gery Goffin, Carole King]
9. Country Road  
10. Night Owl  
11. Something's Wrong 
12. Long Ago And Far Away  
13. Riding On The Railroad  
14. Highway Song  
15. Fire And Rain  
16. You Can Close Your Eyes  

録音: 1970年10月22日 The Berkeley Community Theatre, CA (2nd Show)



1970年の10月のコンサートということで、12.「Long Ago And Far Away」を紹介する際、「出来上がったばかりで、タイトルもエンディングもない」と言っているのが興味深い。この頃は上記の3人のミュージシャンからなるバンドによる最も初期のツアーと思われ、ダニー・クーチやジョー・ママが加わるのは、1971年のツアーからだ。音源の音質はまあまあ良く、ステレオになっている。

2.「Carolina In My Mind」では、イントロで彼の口笛を聴くことができる。 3.「
Okie From Muskogee」はカントリー・シンガーのマール・ハガードの曲。Okieとはオクラホマの住人の蔑称で、「オクラホマ州ムスコギーの住人であることを誇り思う」と歌う、レッドネック(田舎に住む無学の白人労働者)の賛歌。「ムスコギーではマリファナは吸わない セックスのためのパーティーはしない髪の毛を伸ばしてボサボサにしない サンフランシスコのヒッピーのようには」という歌詞が強烈で、1969年に全米41位を記録した。JTはこの曲をヒッピーの本場であり、歌でも名指しされたサンフランシスコで皮肉タップリに歌い、聴衆は大喜び。7.「Blossom」は、そこから加わるキャロル・キングのピアノがとても印象的だ。このあとJTの紹介を受けた彼女が 8.「Up On The Roof」を歌う。JTはギターの伴奏を付け、最後のヴァースでハーモニー・ボーカルを歌う。この曲におけるJTとキャロルの共演の音源はいくつか残されているが、JTがハーモニーをつけるバージョンはこれだけだ。9.「Country Road」はシングル・バージョン B6と同じアレンジで、観客にDの「アー」というコーラスを歌わせている。10.「Night Owl」はテンポを落としてキャロルのピアノを加えたため、全く異なる雰囲気の曲になった。13.「Riding On The Railroad」はバンドの伴奏つきのバージョンだ。14.「Highway Song」はJTがピアノを弾きながら歌うが、時々聞こえるオブリガードのピアノは、キャロルが隣に座って連弾しているものと推測される。アンコールの最後の曲で、JTは妹のケイトのために書いたと語り、16.「You Can Close Your Eyes」を演奏する。

演奏も録音もまあまあ良い音源。


BBC In Concert With Joni Mitchell  1970






James Taylor: Acoustic Guitar (3,4,7,8,9,10,11,12), Back Vocal (9,10), Vocal (3,4,7,11)
Joni Mitchell: Acoustic Guitar (1,2,5 6,10,11,12), Dulcimer (8), Piano (9), Vocal (4,5,6,7)

1. That Song About The Midway
2. The Gallery
3. Rainy Day Man 
4. Steamroller  
5. The Priest
6. Carey
7. Carolina In My Mind  
8. California [Joni Mitchell] 
9. For Free [Joni Mitchell]
10. Circle Game [Joni Mitchell]
11. You Can Close Your Eyes 


12. A Case Of You [Joni Mitchell]


録音: 1970年10月29日 
会場: Paris Theatre, London

注: JTのソロ(1,2,3)は、1970年11月16日の「BBC In Concert」(「その他映像」を参照)のもの。

12. はJTがギターを弾いているが、BBCの放送には含まれなかったトラック


写真上: 2007年に、Woodstock Tapes から発売されたCD盤のジャケット

写真下: BBC Transaction Serviceが作成したラジオ放送用レコードのラベル


ジョニ・ミッチェルとの共演のライブ。JTの放送音源のなかで最も有名なもの。1970年のBBCの放送以来、世界各地で繰り返し放送され、日本のFM放送曲でも何度かオンエアーされた。絶妙のエコーや臨場感、艶やかな音の厚みなど、録音が最高。当時二人は恋愛関係にあり、その濃密な雰囲気がそのままステージに反映されている。曲間の会話で、思わず観客が笑ってしまう程のおのろけ状態で、特にジョニの機嫌がすこぶる良い。その感じが二人が演奏する曲にそのまま反映され、本当に素晴らしい出来になっている。ただし、後にJTのBBC TVの映像版が出回って分かったことだが、JTの弾き語り3.4.7.は、実はJTのソロコンサートの録画の際に収録された音源を使用しており、1.2.5.6.8以降とは別の場所、日に録音されている。これら3曲の演奏(ボーカル、特にギター)および、曲間の語りがBBC映像版と全く同じこと、特に4.の間奏部分のアドリブの語り、ターンアラウンド部分のギター演奏のとちりまでが同じなので間違いない。よく聴くと、これらの曲につき観客の拍手や歓声の音質が、他の曲と異なっているのが分かる。といっても映像版とは別に、最高の音質での音源が入手できるわけなので、ここでの価値が減ずるものではないだろう。3.4.7.は数あるこれらの曲の演奏のなかでもベストの出来であると断言できる。

音源では、司会者の紹介に続きジョニのソロ演奏から始まる。1.「That Song About The Midway」、2.「The Gallery」(両方とも1969年の「Clouds」に収録されていた曲)に続いて、JTの 3.「Rainy Day Man」、4.「Steamroller」、ジョニの 5.「The Priest Song」、6.「Carey」、JTの7.「Carolina In My Mind」と続く。変則チューニングのギターの弾き語りで歌う初期のジョニも透明感にあふれ、最高だ。

1971年の「Blue」C6 収録の8.「California」から二人のジョイントとなる。ここでのJTのギター伴奏は最高にイマジナティブで、様々な変化に富んだフレーズが泉のように湧き出ており、彼のキャリアのなかでもベストの出来だ。 9.「
For Free」は路上のミュージシャンから受けた感銘を素直に語る佳曲で、1970年の「Ladies Of The Canyon」が初出。ここではJTは後半部分のコーラスでハーモニー・ボーカルをつける。9.と同じアルバムに収録されていた 10.「Circle Game」は、バフィー・セイント・メリーによる映画「いちご白書」の主題歌でも有名な傑作。人生をメリーゴーラウンドに例える、美しくも厳しい歌詞、比類のないメロディーの素晴らしさは天上の音楽と言っても過言ではない。演奏前の語りで、ジョニはカナダからフォーク・シンガーを目指して来た友人のストーリーを語る。そして彼が書いた曲の詩を朗読するのだが、若さの喪失を嘆いた「Sugar Mountain」という曲の作者はニール・ヤング。そしてジョニは、「この曲は彼のためと、私のために希望を込めて書きました」と言って、年をとり若さを失う事は悪いことだけではないと歌う。二人のギターのコラボレーションが最高で、歌いながら時にくすっと笑うジョニの声は天に届きそう。コーラス部分ではJTのハーモニー・ボーカルが優しく寄り添う。長い曲なんだけど、いつまでも終わって欲しくない、JT参加のセッション曲の最高峰だ。11.「You Can Close Your Eyes」は「これで最後の曲です」と二人が同時で言い出し、笑ってしまう。ここでは、最初のヴァースのリードはジョニがとる。以降はジョニがメロディーを歌い、JTはハーモニーを歌う。とても美しいデュエットだ。曲が終わりジョニの「グットナイト!」で終わる。

本音源は長い間公式発売されず、FM放送などのラジオ音源のエアーチェックか、ブートレッグでのみ聴くことができた。私も昔FM東京で放送された音源をオープンリール・テープレコーダーで録音したものを、カセットテープに落として大切に聴いていたものだ。ところが2007年になって、アメリカのWoodstock Tapesという会社から、本音源を収めた「The Circle Game」というタイトルのCDが発売され、輸入盤を取り扱う一般のCDショップで購入することが可能だった。聴く限りでは、針音が聞こえるので、おそらくは放送用のレコード盤から採取したものと推定される。音の生々しさや厚みという意味では、私が録音したFM放送のほうが勝っていると思われるが、近年のテクノロジーによるヒスノイズなどのカット処理や、曲間の編集などのそつのなさでそれなりに楽しめる。何よりも1枚のCDのなかに、70年代初頭の空気がいっぱい詰め込まれているのがうれしい。

とにかくお勧めの宝物。

[2009年9月追記]
最近、オリジナルのラジオ番組で放送されなかった曲を聴くことができた。ジョニのボーカルによる「The Good Samaritan (Hunter)」、「River」、「My Old Man」、「A Case Of You」の4曲で、最初の3曲はジョニの弾き語りによる演奏、そして最後の曲には、ジョニのボーカルとダルシマーと一緒にJTのギターがしっかり入っていました。もともとジョニの傑作ソロアルバム「Blue」1971 C6に、二人の演奏によるこの曲が収録されていたが、今回そのライブ・バージョンを聴けたので感慨深いものがありましたね..........。

JTとジョニの共演音源が増えるだけでもうれしい!


[2022年2月追記]
本音源は、その後もいろいろな所からCDが発売され、YouTubeでも聞くことができるようになったが、いずれも正規のものではなかった。そして 2021年発売の「Joni Mitchell Archives Vol.2 Reprise Years (1968 -1971)」 B4 のCD5 で、このパリス・シアターの全貌が公式発表された。これでJTの弾き語りによる3曲がパリスシアターのものではないことが正式に認知された。当日のセットリストは以下のとおり。

1. That Song About The Midway
2. The Gallery
3. Hunter #
4. River #
5. My Old Man #
6. The Priest
7. Carey
8. A Case Of You # *
9. Calolina *
10. For Free *
11. Circle Game *
12. You Can Close Your Eyes *
13. Both Sides Now #
14. Big Yellow Taxi #

* : JTがギターまたはボーカルで加わったトラック
# : BBC放送には含まれなかったトラック

注: 「Joni Mitchell Archives Vol.2 Reprise Years」 については「オムニバスなど」の部でB4として記事を書いたが、本音源についてもその歴史的な意義を評価して、一部内容書き直しの上、そのまま残すことにしました。


Fillmore East (Early Show) 1971

James Taylor: Acoustic Guitar, Piano (11), Vocal
Danny Kootch : Acoustic Guitar (12,13,14)
Leland Sklar: Bass (9,10,11,13,14)
Russ Kunkel: Drums (9,10,11,13,14)

1. Country Road
2. Knocking Round The Zoo
3. Okie From Muskogee [Merle Haggard, Edward Burris]
4. Bloosom
5. In My Reply [Livingston Taylor]
6. Sweet Baby James
7. Up On The Roof [Carole King, Gerry Goffin]
8. Carolina In My Mind
9. Riding On The Railroad
10. Fire And Rain
11. Highway Song
12. Lo And Behold
13. Machine Gun Kelly [Danny Kootch]
14. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox


録音: Fillmore East, New York 1971年1月25日 Early Show


フィルモア・イーストは、プロモーターのビル・グラハムがフィルモア・ウエストの東海岸版として、ニューヨーク・マンハッタンの2丁目イースト・ヴィレッジ地区に設立した約3600席のコンサート会場で、1968〜1971年という短期間ではあったが、ロックコンサートの殿堂として数多くの有名ミュージシャンが出演した。ここで録音されたライブアルバムはたくさんあるが、公式発売されたもので最も有名なものは、オールマン・ブラザースのものだろう。これは本当にエキサティングで素晴らしい作品だった。JTは1971年1月25日の月曜日、少なくても2回のコンサートを行ったと記録にあり、この音源はEarly Showのものとされている。下述のLate Showに比べ一部の曲、特に後半のエレクトリック・セットがカットされているのが残念。重複している曲についての解説はLate Show の部で行うとして、Early Showだけで演奏された曲について触れることとする。

1.「Country Road」は1971年2月6日付けで全米ヒットチャート37位を記録したことから、コンサート当時この曲がヒットの全盛期であったと思われる。そのため彼が演奏を始めると大きな拍手が起きる。ここでは曲の途中で、エンディングに入る前、ギターを弾きながら聴衆に対して、例のDのドローンの合唱を請いている。2.「Knocking Round The Zoo」は珍しい弾き語りでの演奏。テンポを落としてブルージーなギターの弾き語りで、じっくり歌いこむ。リクエストによりと始める 3. 「Okie From Muskogee」は、上述の「The Berkelay Community Center」で 解説済。マール・ハガード作によるこの歌は、台頭する若者のヒッピー文化に対する強力なアンチテーゼとして、カントリー・ミュージックを愛する保守的な人々の絶大な支持を受けたもので、ロックコンサートでJTがこの曲を歌うということは、リベラルな人々による大変な皮肉となるわけだ。5.「In My Reply」は弟のリビングストン・テイラーの曲で、セルフタイトルの彼のファースト・アルバム(1970)に収録されている。 キャロル・キングの名曲 7.「Up On The Roof」は、コンサートの常連曲だけど、初期の音源は珍しい。ギター1本で切々と歌っている。ニューヨークの聴衆に敬意を表して演奏したのかな?


Fillmore East (Late Show) 1971

James Taylor: Acoustic Guitar, Electric Guitar (17,18), Piano (13), Vocal
Danny Kootch : Acoustic Guitar (14,15,16), Electric Guitar (17,18)
Leland Sklar: Bass (11,12,13,15,16,17,18)
Russ Kunkel: Drums (11,12,13,15,16,17,18)

1. With A Help From My Friends [John Lennon, Paul McCartney]
2. Long Ago And Far Away
3. Something In The Way She Moves
4. Bloosom
5. Snuff Commercial [Unknown]
6. Greensleeves (Instrumental) [Traditional]
7. Sunny Skies
8. Diamond Joe [Traditional]
9. Coke Commercial [Unknown]
10. Carolina In My Mind
11. Riding On The Railroad
12. Fire And Rain
13. Highway Song
14. Lo And Behold
15. Machine Gun Kelly [Danny Kootch]
16. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox
17. Steamroller
18. Nigth Owl
19. You Can Close Your Eyes
20. Sweet Baby James


録音: Fillmore East, New York 1971年1月25日 Late Show


JTが1971年1月25日に行ったLate Showのものとされており、コンサートのほぼすべてが収録されていると思われる。

ビートルズの曲 1.「With A Help From My Friends」の弾き語りから始まり、曲後に「ポール・マッカートニが観に来ている」とJTが話し、場内は一瞬騒然となるが、その後の笑い声と拍手から冗談だろう。新曲と紹介される 2. 「Long Ago And Far Away」に続く、3.「 Something In The Way She Moves」ではイントロ部分を弾き延ばしながら、語りを入れるのがスマートだ。途中ちょっと間違えたかな?という箇所があるが、ギターの伴奏をうまく引き伸ばしてカバーしている。4.「Bloosom」を始める前にこのコンサートがアメリカン・インディアンのためのベネフィット・コンサートであることが話される。自分で思い通りにコントロールできる弾き語りの妙というか、適度な崩しを入れた自由な歌唱が心地よい。薬のコマーシャルソングで、最初に覚えた曲と紹介される 5.「 Snuff Commercial」はオリジナル・バージョンとしてシンプルに演奏され、続いて1971年版としてジャズコードをつけたJT風モダンバージョンで演奏される。 インストルメンタルの 6.「Greensleeves」では演奏しながら「自作の小品です」と言って笑いを取っている。ここでは約2分間の演奏で、お馴染みのメロディーを様々なパターンにアレンジして弾いている。JTのギターの上手さが伝わってくる。4ビートでのリズムで演奏される 7.「Sunny Skies」、カーター・ファミリーの曲とJTが言う 8.「Diamond Joe」。9.「Coke Commercial」はカッコイイR&Bをギター一本で見事にプレイする、何時聴いても心が躍るパフォーマンスだ。弾き語りは10.「Carolina In My Mind」までで、11.「Riding On The Railroad」からラス・カンケルとリー・スクラーが加わる。ベースの音がオンで録音されているので、彼の良く動くメロディックなラインが生々しい。12.「Fire And Rain」では大きな拍手が起き、1970年9月にヒットしたこの曲に聴衆が馴染んでいるのが分かる。13.「Highway Song」を始める前に兄のアレックスがこの曲を録音したこと、妹のケイトもレコードを出すと言う。この曲についてはスタジオ録音バージョンよりも、ライブのほうが彼の心がグイグイ伝わってくると思う。

ダニー・クーチがステージに現れ、14.「Lo And Behold」を二人で演奏する。2台のアコギのゴスペルロック風絡みが素晴らしい。15.「Machine Gun Kelly」は、女性にそそのかされて誘拐を働き終身刑で投獄されてしまう男の話とコメントされる。 「新曲です」と演奏される16.「
Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox」でもダニー・クーチはアコギを弾いている。ここで二人はエレキギターに持ち替えてブルース 17.「Steamroller」をプレイする。JTの歌詞に聴衆は笑う。JTの思いっきりブルージーなボーカルに観客は大喜び。ファースト・ヴァースが終わると、バンドがフィルインしダニーのギターソロがフィーチャーされる。4人の楽器が互いに刺激しあうインタープレイが味わえる快演。JTの初期のバンド演奏全般に言えることであるが、18.「Nigth Owl」はテンポをかなり落としてじっくり演奏される。アンコール曲 19.「You Can Close Your Eyes」、最後の曲 20.「Sweet Baby James」が始まると、ひときわ大きな拍手が起きる。

ピアノなしのバンドという構成で、ダニー・クーチとJTのギターの絡みが楽しく、サウンドボード録音もよい歴史的音源だ。


Taylor Made  1971

G4 Taylor Made

James Taylor: Acoustic Guitar (Except 6,8,18,19), Electric Guitar (6,18,19), Piano (8),Vocal
Danny Kootch: Electric Guitar (6,15,16,17,18,19), Back Vocal (17,18)
Carole King: Piano (12,13,14,15,16), Back Vocal (18,19)
Ralph Schkett: Organ (6,18,19)
Lee Sklar: Bass (6,13,14,15,16,17), Back Vocal (17)
Charles Larkey: Bass (19)
Russ Kunkel: Drums (6,13,14,15,16,17,19), Percussion (18)
Joel O'Brien: Drums (18,19)
Abigale Haness: Back Vocal (18,19)

[Side A]
1. Sweet Baby James  
2. Something In The Way She Moves  
3. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox  
4. Sunny Skies  
5. Chili Dog  
6. Steamroller Blues  

[Side B]
7. Riding On The Railroad  
8. Places In The Past  
9. You Can Close Your Eyes  
10. Soldiers  
11. Carolina In My Mind  
12. Long Ago And Far Away  

[Side C]
13. Country Road  
14. Fire And Rain  
15. Sixteen Candles [Dickson, Allysn R. Khent] 
16. Love Has Brought Me Around  
17. Woh, Don't You Know [James Taylor, Danny Kootch, Lee Sklar]  

[Side D]
18. Come On Brother, Help Me Find This Groove [Unkown]
19. The Promised Land [Chuck Berry] 
20. Isn't It Nice To Be Home Again  


録音: Anaheim Convention Center, 1971年3月21日


1973年の来日コンサートの素晴らしさが大きな話題となったが、当時JTのライブの音源はほとんどなく、ライブアルバム発売の噂も立ち消えとなってしまった。そんな状況のなかで、この海賊盤はキャロル・キングとリー・スクラー、ラス・カンケルのバックバンドと、ダニー・クーチ率いるジョーママとの1971年のツアーの模様をほぼ完全に収録したもので、大変に貴重なものであった。もちろんこれ以外でも数種類のブートレッグが出回ったが、ほとんどが酷い音質・品質のもので、音楽を楽しめるようなものはなかった。そのなかで本作はオーディエンス録音で、良質のライン録りが出回っている現在の基準からすると音質はかなり悪いのだが、それなりの臨場感と音の厚みがあったので、音楽的にじゅうぶん楽しむことができ、ワクワクして聴いたものだ。アナハイムはロスアンジェルス近郊の都市。聴衆の拍手から、数千人規模の会場のようだ。緑のデニム生地のようなジャケットにJTの写真が配され、いかにもブートレッグという手づくり感あふれるジャケット・デザインもいい感じ。当時表紙が白黒コピーのものも出回っていたが、それは海賊盤の海賊盤で、品質的にかなり落ちるものだった。

まずはJTによる弾き語りからコンサートはスタートする。1.「Sweet Baby James」、2.「Something In The Way She Moves」を聴いて曲のテンポがかなり遅めなのがわかる。当時の海賊盤によくあったテープスピードの狂いかなと思っていたが、近年発掘された良質な音源を聴く限り、当時のコンサートでは全体的に曲のテンポが遅かったことが分かった。個人的にはゆったりしていて好きだ。ちなみに2.は歌詞の1部から「I Feel Fine」と表記されている。 3.「
Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox」は他のライブ音源では余り耳にしない。JTのギターの上手さが光る演奏だ。曲間の語りもなく淡々と進行する。当時未発表だった5.「Chili Dog」が始まると、ナンセンスでユーモラスな歌詞に笑いと拍手が起きる。6.「Steamroller Blues」は実際は17.と18.の間に演奏されている曲で、ここでは収録時間の関係でA面に収めたようだ。7.「Riding On The Railroad」は弾き語りバージョン。レコードの表記ではこの後に「Conversation」となっているが、曲ではなくJTの語りだ。ギターを置いてピアノの前に座り、おどけた仕草で聴衆の笑いを誘う。「これはピアノです。スタインウェイといいます。上手くないので3本の指だけで弾きます」といって、訥々としたピアノの弾き語り8.「Places In The Past」をプレイする。再びギターに戻り、「短い曲です。3年前に書いたのですが、結局このままとなりました」と言って10. 「Soldiers」を歌う。 11.「Carolina In My Mind」を弾きだすと聴衆から拍手が起きる。 12.「Long Ago And Far Away」からキャロル・キングのピアノが加わる。美しい演奏だ。

ドラムスとベースが加わった13.「Country Road」聴衆にDのドローン・コーラスを歌ってもらっている。モノラルの低音質ではあるが、キャロルのピアノがきれいで、リー・スクラーのベースラインもはっきり聞き取れるので、満足すべきだろう。ヒット曲14.「Fire And Rain」のイントロでは大きな拍手が起き、JTが歌いだすとそれは歓声に変わる。JTが時代を代表する存在となった当時の空気がしっかり捕らえられていて、感慨深い。キャロルのシンプルで力強いピアノが誠に印象的だ。 15.「
Sixteen Candles」はドゥーワップ・グループのクレスツによる1958年の大ヒット(全米2位)のカバー。16.「Love Has Brought Me Around」をやりますよと言って、予告なしにこの曲を始め、少しふざけ気味の演奏に観客は大喜び。JTがこの曲を演奏する音源はこれだけという貴重なトラックだ。なお15.からダニー・クーチのエレキ・ギターが加わる。17. 「Woh, Don't You Know」も5.と同じく当時未発表で、A4のソウルっぽいファンキーな感じはなく、ほのぼのとしたカントリー・ロック風のサウンドだ。リーとダニーのバックコーラスが入る。JTはエレキギターに持ち替え6.「Steamroller Blues」を演奏する。観客の反応と掛け合いでボーカルも乗っている。間奏のダニーのブルースギターは、スタジオ録音とは異なり、饒舌なソロだ。途中ほんのちょっと4ビートのリズムになる。ラルフ・シュケットのオルガンの伴奏のなか、JTの伴奏ギターがメインとなるワンコーラスの後、ボーカルに戻り終わる。 18.「Come On Brother, Help Me Find This Groove」の曲については詳細不明なのだが、歌の内容からゴスペル・ソングと思われる。ここではロックっぽいR&Bの音作りとなっており、ラルフ・シュケットのオルガンと、ダニー・クーチの圧巻早弾きソロが聴ける。コーラスではジョー・ママのアビゲイル・ハーネス(ダニー・クーチの2度目の奥さんでその後離婚)が目立っている。ほぼ切れ目なくチャック・ベリーのロックンロール19.「The Promised Land」が始まるが、ここでは2ベース、2ドラムという大編成の演奏だ。さすがにこういうヘビーな演奏になると、この録音水準ではきちんと捕らえるのが難しい。ここでもダニー・クーチの早弾きソロが出色だ。アンコールの最後の曲はJTの弾き語りによる短い曲で、「ロスアンジェルスで書きました」と紹介して聴衆の歓声を買っている。

オーディエンス録音で音質は悪いが、それなりの臨場感があり、キャロル・キング、ジョーママとのコンサートの全貌を伝える記録として貴重であることは変わらない。なお本作ではボーナストラックとして、JTがカントリー歌手の大御所ジョニー・キャッシュのTV番組に出演した音源が収録されている。ジョニーの解説の背後で「Fire And Rain」が途中から始まる。「Country Road」と続き、「Oh Susannah」ではセカンド・ヴァースでジョニー・キャッシュがJTのギター伴奏で歌い、最後は一緒に歌うというデュエットバージョンになっている。最後は「Sweet Baby James」。この音源については、「その他断片(1970年代)」の「On Campus」をご参照ください。


Oakland Coliseum, Oakland, California 1972

James Taylor: Acoustic Guitar, Electric Guitar, Piano (9, 14), Vocal
Danny Kootch: Electric Guitar, Back Vocal (18, 20)
Carole King: Piano, Back Vocal (11, 14, 20)
Ralph Schkett: Organ (19, 20, 21)
Lee Sklar: Bass, Back Vocal (18, 20)
Charles Larkey: Bass (20, 21)
Russ Kunkel: Drums, Percussion
Joel O'Brien: Drums (20, 21)
Abigale Haness: Back Vocal (20, 21)


1. Sweet Baby James  
2. Something In The Way She Moves  
3. Greensleeves  
4. Snuff Commercial
5. Sunny Skies  
6. Chili Dog  
7. Rainy Day Man  
8. Riding On The Railroad
9. Places In My Past
10. Carolina In My Mind
11.Long Ago And Far Away
12. Blossom
13. Country Road
14. Highway Song  
15. On Broadway [Jerry Leiber, Barry Mann, Mike Stoller, Cynthia Weil]
16. Fire And Rain  
17. Love Has Brought Me Around  
18. Woh, Don't You Know [James Taylor, Danny Kootch, Lee Sklar]  
19. Steamroller Blues  
20. Come On Brother, Help Me Find This Groove [Unkown]
21. The Promised Land [Chuck Berry] 
22. You Can Close Your Eyes  


Live At Oakland Coliseum, Oakland, California In 1972 July 5


これはサンフランシスコ近郊の町オークランドにおける1972年7月5日の録音で、現存するオープンリール・テープは 4本のうち3本のみで、2本目が所在不明になっているとのこと。その失われた部分 8.〜13.(放送音源のため音質は劣る)を加えたコンサートの全貌が上記の曲目である。そのなかで 8.「Riding On The Railroad」については、オムニバス盤「Bitter End Years」B6に収録された演奏と比較し、ギター伴奏の癖などで両者が同一であることが確認された。また10.「Carolina In My Mind」についても、コンサートで撮影された同曲プロモ映像の演奏と同じであり、これら6曲が「失われた曲」であることは間違いないと思う。

大半の演奏については、前述の「Taylor Maid」と内容的に同じなので、記述につき重複する部分が多くなると思うが、ご容赦いただきたい。 コンサートはJTによる弾き語りからスタートする。1.「Sweet Baby James」、2.「Something In The Way She Moves」と続き、イギリスのトラッド 3.「
Greensleeves」のインスト版、子供の頃初めて歌った曲を紹介(そのなかで、母親のガートルード、父親のアイザックの名前が出てくる)して 4.「Snuff Commercial」を、オリジナル風とJT流ジャズコードによる70年代風の2通り披露する。当時新曲で、アルバム未収録曲(後に「One Man Dog」 1972 A4に収められた)だった 6.「Chili Dog」は、ギターの伴奏が凝っていて興味深い。ナンセンスでユーモラスな歌詞に笑いと拍手が起きる。弾き語りバージョンの 7.「Riding On The Railroad」の後、JTはギターを置いてピアノの前に座り、9.「Places In My Past」を訥々と演奏する。JTの弾き語りによる 10.「Carolina In My Mind」に続き演奏される 11.「Long Ago And Far Away」では、キャロル・キングが登場し、ピアノ伴奏と一部でハーモニー・ボーカルを付ける。美しくドリーミーな感じが素晴らしい。2人による 12.「Blossom」の後、リー・スクラーとラス・カンケルが登場し、4人で 13.「Country Road」を演奏する。 ここではエンディングのDのドローン・コーラスはないバージョン。JTのボーカルは崩しが多く、いつもより自由奔放な歌唱だ。14.「Highway Song」では、キャロルはJTの弾くピアノの横に座り、連弾で高音部のオブリガードを付け、ハーモニー・ボーカルも少し聞かせてくれる。 15.「On Broadway」は、1963年3月にザ・ドリフターズで全米第9位のヒットとなり、1978年11月にジョージ・ベンソンがリバイバル・ヒット(7位)させたバリー・マン、シンシア・ウェイル夫妻作の名曲のカバー。ちなみにJTは37年後のアルバム「Covers」2008 A20 で、この曲を録音した。

ヒット曲16.「Fire And Rain」のイントロが始まると大きな拍手が起きる。この曲が既にスタンダードになっていることがわかる。キャロルのシンプルで力強いピアノが誠に印象的だ。 ここでやっとダニー・クーチが登場、17.「Love Has Brought Me Around」を賑やかにプレイする。17. 「Woh, Don't You Know」も 5.と同じく当時未発表で、A4のソウルっぽいファンキーな感じはなく、ほのぼのとしたカントリー・ロック風のサウンドだ。リーとダニーによるバックコーラスが入る。JTはエレキギターに持ち替え、19.「Steamroller Blues」を演奏する。間奏のダニーのブルースギターは、饒舌なソロだ。途中ほんのちょっと4ビートリズムになる。ラルフ・シュケットのオルガンの伴奏と、JTのギターがメインとなるワンコーラスの後、ボーカルに戻り終わる。 20.「
Come On Brother, Help Me Find This Groove」の曲については詳細不明。ここではロックっぽいR&Bの音作りとなっており、ラルフ・シュケットのオルガンと、ダニー・クーチの圧巻早弾きソロが聴ける。コーラスではジョー・ママのアビゲイル・ハーネス(ダニー・クーチの2度目の奥さんでその後離婚)が目立っている。ほぼ切れ目なくチャック・ベリーのロックンロール21.「The Promised Land」が始まるが、ここでは高水準の録音が、2ベース、2ドラムという大編成によるハードな演奏を見事に捉えている。ここでもダニー・クーチの早弾きソロが出色だ。アンコールの最後の曲はJTの弾き語り。映像版の「BBC In Concert」 (Band Version)を併せ観るとイメージが湧いて面白いと思う。

8.〜13.以外は録音も非常に良く、初期のコンサートの記録として貴重な音源だ。


[2022年11月追記]
本コンサートの一部の曲につき、映像を見ることができます。いままでに観ることができた曲は、9.「Places In My Past」、 10.「Carolina In My Mind」、11.「Long Ago And Far Away」、14.「Highway Song」、16.「Fire And Rain」 、19. 「Steamroller Blues」の 6曲。1〜2曲毎の個別の動画がYouTubeに投稿されたもので、長い時間をかけて少しづつ増えていったもの。本来カラーなんだけど、動画では白黒だったり、画質・音質がイマイチのものなど、いろいろあるが、若々しいJT、キャロル・キングとバンドの姿を観て楽しめる。

昔インターネットがなかった約50年前は、海外アーティストの動画を観る機会は滅多になく、たまにNHKがスペシャルでテレビ放送してくれる位だった。そういう状況のなかで、海外アーティストの動画をまとめて上映するイベントに参加して、新宿の映画館で観た思い出があり、当夜上映されたひとつがこの動画だった。大好きなJTの姿を大きなスクリーンで観て感動したこと、ダブルドラムス(ラス・カンケルとジョエル・オブライエン)のシーンに凄いなあと思ったことを覚えている。今動画を観ると、青春の悩みと、将来に対する期待と不安に満ちていた日々の記憶が蘇ってきて、何とも言えない気分になる。

いつか、この映像を通しで観れるといいなあ。

[2023年3月追記]
キャロル・キング・ディスコグラフィー「その他映像・音源」に、本コンサートについてキャロルに焦点を当てて書いたものを掲載しました。


Radio City Music Hall, New York 1972
 
James Taylor : Acoustic Guitar, Electric Guitar (16, 24), Piano (9), Vocal
Danny Kootch: Acoustic Guitar (5, 11), Electric Guitar, Chorus (12)
Craig Doerge : Keyboard
Lee Sklar: Bass, Chorus (12)
Russ Kunkel: Drums, Percussion

[Part 1]
1. Sweet Baby James
2. Makin' Whoopee [Walter Donaldson, Gus Khan]
3. Riding On The Railroad
4. Long Ago And Far Away
5. Lo And Behold
6. Anywhere Like Heaven
7. Brighten Your Night With My Day
8. Something In The Way She Moves
9. Highway Song
10. Sunny Skies
11. Carolina In My Mind
12. Rainy Day Man
13. Instrumental II
14. Hymn
15. Fanfare

[Part 2]
16. Nobody But You
17. You've Got A Friend [Carole King]
18. Chili Dog
19. New Tune
20. Back On The Street Again [Danny Kortchmar]
21. Don't Let Me Be Lonely Tonight
22. Country Road
23. One Man Parade
24. Steamroller
25. Fire And Rain
26. You Can Close Your Eyes


録音: 1972年11月3〜4日 Radio City Music Hall, New York



「One Man Dog」A4 発売の直前・直後に、ニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで行われたコンサート。JTがザ・セクションと一緒に演奏する音源は少なく、「One Man Dog」に収録された曲を多く演奏している点でも貴重なものだ。当時彼はニューヨークに住んでいたはずで、地元コンサート特有のくつろぎ感があり、ファンの声援も暖かく人気絶頂期の雰囲気が味わえる。また11月3日はコンサートの場でカーリー・サイモンとの結婚を明らかにした日と言われており(音源のなかにはその箇所は見当たらない)、JTは幸せの絶頂期にあったはずで、彼の調子はすこぶる良い。

弾き語りによる 1.「Sweet Baby James」が始まると大きな歓声が起きる。オーディエンス録音で音質は決して良くないが、臨場感があってクセのない音なので、十分楽しめる。ポロポロとギターを弾いたあと 2.「Makin' Whoopee」が始まり、驚いたオーディエンスから拍手と笑いが起きる。当時のJTがこの手のスタンダード・ソングを歌うことは珍しかったからね!この曲は1928年の同名のミュージカルでエディ・キャンターが歌って有名になり、その後多くのシンガーにカバーされている。最近では1982年のドクター・ジョン、2006年のロッド・ステュワートとエルトン・ジョンのデュエット、2009年にはエルヴィス・コステロのテレビ番組「Spectacles」で、奥さんのダイアナ・クラール、エルトン・ジョンの3人で歌ったものがある。歌詞の内容は、甘い結婚式・新婚生活から、倦怠期を経て裁判による協議離婚に至る男女の関係をシニカルに描いたものであるが、ここでのJTは最初のスウィートな部分のみを歌って終わりにしているのが面白い。結婚したばかりの人が後半の歌詞を歌うなんて、さすがにあり得ないね〜 3.「Riding On The Railroad」、4.「Long Ago And Far Away」と弾き語りが続いた後で、ここでJTはダニー・クーチを呼び出し、アコギ2本で 5.「Lo And Behold」を演奏する。6.「Anywhere Like Heaven」はクレイグ・ドルギーのエレクトリック・ピアノとの演奏。7.「Brighten Your Night With My Day」からはリー・スクラーとラス・カンケルも加わる。エンディングでアドリブ・ボーカルを披露するなど、初期の曲をやっても以前のように暗さを感じないのは、当時のJTの精神状態が歌に反映しているからと思われる。8.「Something In The Way She Moves」は弾き語りの演奏が多い曲だが、ここではドラムス、ベースが入ったバンド・アレンジだ。9.「Highway Song」でJTはピアノを弾きながら歌うが、途中間違える箇所もあり、ギターとは違いヘタクソ。ここで気の早い聴衆からは「Fire And Rain」のリクエストが飛ぶが、「Sunny Skiesをやるよ」と言われ、皆大喜び。10.「Sunny Skies」はフォービートによる軽快なアレンジで、レコードのものと雰囲気がかなり異なる。いつもと変わったイントロから始まる、デビュー盤と同じくテンポが速めで、ダニー・クーチのアコースティック・ギターがゴキゲンな 11.「Carolina In My Mind」、ここで6. の後引っ込んでいたクレイグが再登場して、明るい感じの12.「Rainy Day Man」が始まる。イントロとエンディングでのバック・コーラスは、ダニーとリーだろう。本コンサート全体に言えることで、JTは随所に崩しやアドリブを入れて、自由な感じで歌っているね。13.「Instrumental II」はニューアルバムからで、JTのギターを主体としたインストルメンタル。昔「ヤング・ギター」の別冊に載っていたタブ譜を参考によく弾いたもんだった。 14.「Hymn」、15.「Fanfare」は、レコードと同じくメドレーで演奏される。スタジオ録音ではブラス・セクションがフィーチャーされるが、ここではエレキギターとピアノで賄っており、ライブ用アレンジの妙を楽しめる。

音源はふたつのパートに別れており、資料ではPart 1が11月3日、Part 2が4日のコンサートとなっているが、真偽は不明。16. 「Nobody But You」も「One Man Dog」からで、この曲のライブを聴けるなんてうれしいね〜。17.「You've Got A Friend」が始まるとオーディエンスは大騒ぎ。エンディングでJTのアドリブ・ボーカルがたっぷり入る。18.「Chili Dog」からは新アルバムからの曲が並ぶ。19.「New Tune」、20.「Back On The Street Again」 も私が知る限りライブで聴けるには本音源のみだ。 21.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」は、エンディングでサックスまたはエレキピアノのソロが入るのが普通であるが、ここではJTがスキャットを入れている。22.「Country Road」は、ダニー・クーチのギタープレイが聴きもの。後半でオーディエンスにDの音程によるコーラス参加を頼んでいる。 23.「One Man Parade」はJTのアコギのプレイが光り、24.「Steamroller」では間奏でダニー・クーチのギターが大暴れする。25. 「Fire And Rain」はアンコールで演奏され、最後は弾き語りによる 26.「You Can Close Your Eyes」で終わる。

「One Man Dog」発売時のコンサート音源として貴重、かつ結婚直後ということでJTの精神状態も良く、人気も最高という、いろんな好条件がそろった音源。



Koseinenkin Hall, Tokyo Japan  1974

James Taylor : Acoustic Guitar, Electric Guitar (13,14,19), Vocal, Back Vocal (21)
Carly Simon : Vocal
Danny Kootch: Acoustic Guitr (7), Electric Guitar
Craig Doerge : Keyboard
Lee Sklar: Bass
Russ Kunkel: Drums, Percussion (14)


1. Sweet Baby James
2. Blossom
3. Riding On The Railroad
4. Long Ago And Far Away
5. Greensleeves
6. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox
7. Lo And Behold
8. Something In The Way She Moves
9. Highway Song
10. Sunny Skies
11. Carolina In My Mind
12. Instrumental II
13. Hymn
14. Fanfare
15. Country Road
16. You've Got A Friend
17. One Man Parade
18. Don't Let Me Be Lonely Tonight
19. Steamroller
20. Fire And Rain
21. You're So Vain [Carly Simon]
22. You Can Close Your Eyes


録音: 1973年2月9日 新宿厚生年金会館



ジェイムス・テイラー初来日コンサートの音源。当時は現在のようなインターネットはおろか、テレビ局がロックの映像を放送することは滅多になく、ビデオのような映像媒体も一般的ではなかった時代。その頃は「フィルムコンサート」と呼ばれるイベントが開催され、劇場でアーティストのプロモーション・フィルムがまとめて上映されたものだった。グランドファンク・レイルロードが登場した時、前列に座っていた女性から黄色い声が飛んだことを覚えている。海外旅行も珍しく、ロックの大物アーティストのライブを観るなんて夢のようだと思っていた頃、1970年のブラッド・スウェット・アンド・ティアーズから始まり、1971年のフリー、シカゴ、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンと続いた来日公演は、ファンにとって驚天動地の出来事だった。集客力が大きくギャラが高い大物アーティストは、武道館や後楽園球場などがコンサート会場となったが、JTの東京コンサートは比較的こじんまりとして音響効果が良かった厚生年金会館で行われ、その質の高いパフォーマンスは大きな話題となった。

コンサートは前座として、ザ・セクションの演奏から始まった。これらの曲の音源も出回っているようだが私は未聴。JTのステージの最初は弾き語りだ。私が聴いた音源では、1.「Sweet Baby James」は途中からフェイドインする。サウンドボード録音と思われるが、テープダビングをかなり繰り返したらしく、音質的には劣化している。曲間のオーディエンスの拍手がほとんど聞こえないのは、ライブの雰囲気が味わえないが、その分鑑賞に集中できるメリットもある。静かな曲 2.「Blossom」では雑音が気になるが、3.「Riding On The Railroad」は十分に楽しめる状態だ。おなじみの曲が続き、7.「Lo And Behold」では、ダニー・クーチのアコギが加わる。8.「Something In The Way She Moves」は、ドラムスとベースをバックとした珍しいアレンジだ。リー・スクラーのよく動くベースラインが凄く、ラス・カンケルのブラッシュ・ワークと相まって、この曲にしてはグルーブ感に満ちたプレイとなっている。JTがピアノを弾きながら歌う 9.「Highway Song」は、バンドと一緒のせいか、JTの歌唱は何時になく自由奔放。曲の最後にベースがメロディーを奏でる短いインストメンタル・ブレイクが入っている。10.「Sunny Skies」もバンドと一緒のプレイで、ジャズ的なアレンジが面白い。私の聴いた音源では、曲の途中でカットが入っており残念。11.「Carolina In My Mind」は、リズムセクションに加えて、ダニー・クーチがアコギでリードギターを付けており、そういう意味でいつもとかなり異なるサウンドになっており、大変面白い。「One Man Dog」A4に収録されていた 12.「Instrumental II」のライブ演奏はお宝音源。ここからクレイグ・ドルギーの演奏がはっきり聞こえる(それ以前の曲でも演奏していると思われるが、はっきりとは聴こえないので、正確には判らない)。13.「Hymn」、14.「Fanfare」は本音源で最も印象に残るトラックで、「One Man Dog」A4のメドレー曲(の一部)がライブで聴けるなんて最高!特にレコードでは、13.「Hymn」でのブラスバンド、およびサックスソロのパートをダニーのエレキギターが、14.「Fanfare」のイントロのブラスのファンファーレはクレイグのピアノがカバーしている。どちらも達者な演奏で大変興味深く、「One Man Dog」A4マニアの私としては、感涙ものだ。15.「Country Road」でも、クレイグによる、オリジナル録音のキャロル・キングと異なるタッチのピアノプレイが前面に出ていて、そのニュアンスの違いを十分に楽しめる。バックの演奏(特にドラムス)がハードな分、JTのボーカルもしっかりロックしている。16.「You've Got A Friend」でのダニーの伴奏はアコギだ。クレイグのエレキピアノを聴いていると、彼が非常に個性的なスタイルのプレイヤーであることが判る。JTとの付き合いが短かったのはそのためかな?17.「One Man Parade」のザ・セクションとのライブ演奏を聴けるなんて、幸せだなあ〜。間奏部分ではアップテンポになり、ブラジル音楽風クロスオーバーサウンドの中でダニーが早弾きソロを展開する。18.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」を感動しながら聴いていたが、最後のソロの部分がカットされてしまい、あれ〜とずっこけてしまう。クレイグ(あるいはダニーの?)のソロが聴けると思ったのに.....残念無念。19.「Steamroller」もクレイグのブルース(エレキ)ピアノ、ダニーのギターソロの絡みをたっぷり堪能できる。20.「Fire And Rain」もザ・セクションがバックなので、いつになく跳ねたサウンドになっている。JTは11月に結婚したばかりのカーリー・サイモンと一緒に来日しており、アンコールで彼女が登場し、飛び入りで当時ヒット中だった12.「You're So Vain」を歌った。JTは、カーリーのレコード・バージョン(「No Secrets」 1972 C9 JTは不参加)ではミック・ジャガーが歌っていたバックボーカルのパートを担当している。最後は 22.「You Can Close Your Eyes」の弾き語りで締めくくる。

1972年11月に発売された「One Man Dog」A4のプロモーションとしての来日だ。同アルバムでバックを勤めたザ・セクションとのインタープレイが楽しめる。クレイグ・ドルギーがJTのバックでキーボードを担当した期間は意外に短く、残った音源は少ない。


Auditorium Theater, Chicago  1974
 
James Taylor : Acoustic Guitar, Vocal
David Spinozza : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Hugh McCracken : Electric Guitar, Acoustic Guitar, Harmonica
Don Grolnick : Keyboards
Andy Muson : Bass 
Rick Marotta : Drums, Percussion 
Carly Simon: Vocal

1. You Can Close Your Eyes
2. Riding On The Railroad  
3. Something In The Way She Moves
4. Long Ago And Far Away  
5. Sunshine Sunshine
6. Night Owl
7. Me And My Guitar  
8. Country Road  
9. You've Got A Friend
10. Promised Land [Chuck Berry]  
11. Carolina In My Mind
12. Migration  
13. Let It Fall Down  
14. Brighten Your Night With My Day    
15. Knockin' Around The Zoo
16. One Man Parade
17. Rock 'N' Roll Is Music Now
18. Anywhere Like Heaven
19. Don' t Let Me Be Lonley Tonight
20. Fire And Rain  
21. Mockingbird  [Inez & Charlie Foxx, Addtional Lyrics: James Taylor]  

録音: Auditorium Theater, Chicago, 1974年5月4日

 

ハワード・シルヴァという人の録音による音源で、ニール・ヤングやジョージハリソンなどもあるそうだ。同年のカーネギーホール公演の少し前のコンサートで、カーネギーの音源に比べて曲数が少なく、特にアンコール部分はカットされている。またオーディエンス録音なので音質も劣るが、当時の携帯録音機とマイクの性能を考慮すると、まあまあといったところかな。ベースの音がオフ気味ではあるが、他の楽器の音はしっかり聴こえる。ただし音が大きくなると歪み気味になるのが残念。

演奏曲、演奏内容はカーネギーとほぼ同じ(唯一の相違点はブラスセクションの参加がないこと)なので、記述を省略します。


Carnegie Hall  1974

James Taylor : Acoustic Guitar, Vocal
David Spinozza : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Hugh McCracken : Electric Guitar, Acoustic Guitar, Harmonica (7)
Don Grolnick : Keyboards
Andy Muson : Bass 
Rick Marotta : Drums, Percussion 

Jon Faddis : Trumpet
Alan Rubin : Trumpet
Barry Rogers : Trombone
Frank Vacari : Tenor Sax
Goerge Young : Alto Sax
Kenny Berger : Balitone Sax
Howard Johnson : Tuba

Carly Simon: Vocal , Back Vocal
Peter Asher: Back Vocal


[1974年5月26日]
1. Riding On The Railroad  
2. Something In The Way She Moves
3. Blossom  
4. Long Ago And Far Away  
5. Sunshine Sunshine
6. Night Owl
7. Me And My Guitar  
8. Country Road  
9. You've Got A Friend
10. Promised Land [Chuck Berry]  

11. Carolina In My Mind
12. Sunny Skies
13. Migration  
14. Let It Fall Down  
15. Brighten Your Night With My Day    
16. Knockin' Around The Zoo
17. One Man Parade
18. Anywhere Like Heaven
19. Don' t Let Me Be Lonley Tonight
20. You're The One [Deadric Malone] 
21. Rock 'N' Roll Is Music Now
22. Fire And Rain  
23. Mockingbird  [Inez & Charlie Foxx, Addtional Lyrics: James Taylor]  
24. Ain't No Song [David Spinozza, Joey Levine] 
25. Sweet Baby James  


[1974年5月27日]
26. You Can Close Your Eyes  
27. Riding On The Railroad  
28. Blossom  
29. Something In The Way She Moves
30. L
ong Ago And Far Away  
31. Sunshine Sunshine
32. Night Owl
33. Me And My Guitar
34. Country Road  
35. You've Got A Friend  
36. Promised Land [Chuck Berry]  

37. Carolina In My Mind
38. Never Never Land [Betty Comden, Adolph Green, Jule Styne]
39. Migration
40. Let It Fall Down  
41. Brighten Your Night With My Day  
42. Knocking Round The Zoo
43. One Man Parade  
44. Anywhere Like Heaven
45. Don' t Let Me Be Lonley Tonight  
46. Fire And Rain  
47. You're The One [Deadric Malone]
48. Rock 'N' Roll Is Music Now
49. Mockingbird  [Inez & Charlie Foxx, Addtional Lyrics: James Taylor]  
50. Ain't No Song [David Spinozza, Joey Levine]  
51. Sweet Baby James  


録音: Carnegie Hall, New York
1974年5月26日、27日



「Walking Man」A5 発売直前に行われたニューヨーク、カーネギー・ホールにおけるコンサートのサウンドボード録音。その模様はDIR Radio Network によって録音され、2日目(27日)の演奏が、同年6月30日に「King Biscuit Flower Hour」というラジオ番組で放送された。その後は当該放送をソースとするブードレッグが出回っていたが、30.「Sunshine Sunshine」、31.「Me And My Guitar」、35.「Migration」、39.「Anywhere Like Heaven」、42.「You're The One」、43.「Rock 'N' Roll Is Music Now」がカットされ、音質もいまひとつのものだった。それに対し近年、それらの曲を含む良質な音源が出回り、さらに1日目(26日)の演奏も聞くことができた。1〜25、26〜46のふたつの音源を聞き比べたところ、すべての曲につき異なる演奏であり、両者は別の日の録音ということで間違いないだろう。しかも26日の演奏は、27日にない曲 6. 「Night Owl」、 11.「Carolina In My Mind」、12.「Sunny Skies」、16.「Knockin' Around The Zoo」を含み、コンサートの模様をほぼ完全に収録したものと思われる。音質もばっちりで申し分なしの出来栄えだ。バックのメンバーは「Walking Man」の録音メンバーからなり、ニューヨーク派とも言える、ソリッドで洗練されたサウンドは、今までのJTサウンドのイメージを固めてきたウエスト・コースト風のザ・セクションのそれと比較して、JTにとり何か異質な感じがする。要するに当時「Walking Man」A5を初めて聴いたときの印象と共通しているわけであるが、名うてのセッション・ギタリスト2名によるバックの絡み、ドン・グロルニックの初期のプレイなど聴き所はそれなりにある。

1日目の26日の演奏を解説する。コンサートはふたつのパートからなり、1〜10 までがファーストセット。1.から3.までが弾き語りで、初期の初々しい雰囲気がまだ残っている。4.
「Long Ago And Far Away」 からピアノとベースが加わる。5.「Sunshine Sunshine」は、ラテン調のリズムが強調され、ボサノヴァ風の洗練された音作りになっており、初期の演奏と雰囲気が変わっているのが面白い。 6. 「Night Owl」から二人のギタリストがバックに加わる。左右のチャンネルからエレキギターが聞こえるが、全編を通して聴くと、左がデビッド・スピノザ、右がヒュー・マックラケンのように思える(注: 最初は反対に記載していましたが、26日の演奏を通して聴いて改めました)。7.「Me And My Guitar」ではレコードと同じサウンドが再現され、JTのギターも巧みだ。ワウワウを効かせた2台のエレキギターのファンキーな演奏は、当時流行ったニューソウルのスタイルだ。ここで聞こえるハーモニカは、「Walking Man」A6 と同じくヒュー・マックラケンの演奏だろう。 8.「Country Road」は、これまでにないヘビーなロック調の演奏で、JTのボーカルもワイルド。また 9.「You've Got A Friend」における、崩した歌い方にはビックリするぞ! ホーンセクションが加わった派手な演奏 10.「Promised Land」で前半を締めくくる。サックス、トランペット、トロンボーン、バリトンサックス、チューバなど7人のプレイヤーによるホーンセクションの厚みのある伴奏が聴ける。ここでもJTのボーカルは、「Walking Man」A5のバージョンと比べて自由奔放。

後半は弾き語りから始まる。 新曲 13.「Migration」における、ギター1本の弾き語りによる素晴らしい表現力は見事だ。「政治的な曲を歌います」と紹介された 14.「Let It Fall Down」はニクソン大統領のことを歌っているのは明らかで、随所で共感したオーディエンスの拍手が起きる。これ以降はあまり演奏しなくなる初期の曲 15.「Brighten Your Night With My Day」は、洗練されたサウンドで、初期の暗く、ひんやりとした感触は影を潜め、陽だまりの中のような暖かさに満ちている。17.「One Man Parade」はリック・マロッタのパーカッションの跳ねたリズムが、よりラテン的。男性コーラスは誰が歌っているのだろう? 18.「Anywhere Like Heaven」では、左チャンネルからスライド・ギターが聞こえる。19.「Don' t Let Me Be Lonley Tonight」のエンディングにおけるソロはドン・グロルニックだ!ここでは後年の円熟した貫禄とは異なる若々しい演奏だけど、インプロヴィゼイションにおける非凡なひらめきはさすがで、ひとつひとつの音の粒がキラキラと輝いている。20.「You're The One (That I Adore)」は、JTのアナウンスによると、「誰の作品か分からないが、ボビー・ブルー・ブランドにより有名になった曲」とある。Bobby 'Blue' Bland (1930- )はメンフィスを本拠地とするブルース・シンガー。ブルース音楽界でレーベルオーナー、プロデューサーとして活躍したデドリック・マローンの作曲によるゴスペル・ブルース調の曲で、ブラスセクションが加わり大いに盛り上がる。間奏にかなり派手なトランペットおよびギター・ソロが入る。21.「Rock 'N' Roll Is Music Now」も派手な演奏で、重厚なブラスセクション、シャウトするJTのボーカルが印象的。22.「Fire And Rain」は、ツインギターのリズミックな音作りが、いつもと異なる感じで面白い。23.「Mockingbird」では、イントロに続きカーリー・サイモンの声が聞こえると、1974年2月に全米5位を記録したばかりの曲でもあり、聴衆は大喜びだ。ブラスセクションも加わり賑やかな演奏。アンコールに入り、ギタリストのデビッド・スピノザが作曲した24.「Ain't No Song」では、カーリーに加えて、マネージャーのピーター・アッシャーのバック・ボーカルが楽しめる。ホーンセクションでフルートを演奏している人がいる。ライブ演奏としては珍しい曲で、洗練された上質のソウル音楽のような味わいがある。最後は弾き語りによる25.「Sweet Baby James」 で締めくくる。

2日目の5月27日の演奏自体は、26日と大差ないが、曲間のJTの語りと、各楽器のソロ演奏の違いを楽しむことができる。当初はラジオ放送された曲のみが出回っていたが、2008年に29, 32, 37, 38, 42の音源が追加された完全版を聴くことができるようになった。演奏曲や曲順はほとんど同じであるが、26日にない曲は、26.「You Can Close Your Eyes」と、38.「Never Never Land」の2曲。後者は1954年初演のブロードウェイ・ミュージカル「Peter Pan」で歌われた曲で、JTの演奏が聴けるのは本音源のみだ。 そして 40.「Don' t Let Me Be Lonley Tonight」のドン・グロルニックのエレキピアノは、19とは全く異なるもので、感涙ものだ。

ということで、従来よりもメロディーやリズムの崩し方が自由で奔放な歌い方が印象的で、ギター、ドラムスに顕著な躍動的なリズムなどソウル音楽への傾倒を深める中期のスタイルへの過渡期といえる。JTとしては評価が低い時期の音源だけど、今聞くとそれなりに素晴らしい内容だと思う。