C21 Ghost Writer (1977) [Garland Jeffreys]  A&M   


C21 Ghost Writer

Garland Geffreys: Vocal
Alan Freeman : E. Guitar
Don Grolnick : E. Piano
Anthony Jackson: Bass
Steve Gadd: Drums
Hugh McCracken: E. Guitar
Leon Pendarvis: Clavinet
James Taylor: Duet And Bass Vocal Harmonies
David Lasley, Lynn Pitney, Arnold McCuller : Harmonies

Garland Geffreys, David Spinozza: Producer 

1. Cool Down Boy

           

ガーランド・ジェフリーズ(GJ)は1944年ニューヨークのブルックリン生まれ。ルー・リードと親しく、1976年の彼のアルバム「Rock And Rock Heart」に参加。本作は2枚目のアルバムで、ニューヨークのスタジオ・ミュージシャンをバックに、デビッド・スピノザとの共同プロデュースで製作したもの。洗練された音楽センスと知性が感じられる。

JTは1.「Cool Down Boy」 で、彼のバンドのコーラス隊であるデビッド・ラズリー、アーノルド・マックラーと一緒にバックボーカルで参加している。リン・ピットニーはデビッド・ラズリーと一緒にコーラスグループ、ロージー(C22)を組んでいた人だ。ローラ・ステグマンによるデビッド・ラズリーへのインタビュー記事によると、これがデビッドとアーノルドの二人がJTと一緒に歌った最初のセッションだったとのこと。後に二人は、ソロアルバム「JT」 1977 A9の録音とプロモーション・ツアーに参加し、長い付き合いが始まることになる。

曲の中盤で、リズムが変わりレゲエになったところで、JTの声がセカンド・ボーカルで聞こえる。JTのレゲエは珍しいね! エンディングではリズムがアップテンポに変わり、コーラス隊が前面に出てきて活躍するが、そのなかに「クール・ダウンー」と低音で歌うJTのボーカルがはっきり聞こえる。

ちなみにGJは、ジョン・ホールのソロアルバム C27にゲスト参加、JTと一緒にバックで歌っている。


C22 Last Dance (1977) [Rosie]  RCA  


C22 Last Dance

David Lasley: Vocal, Piano
Lynn Pitney, Lana Marrano : Back Vocal
James Taylor : Guest Vocal
Cornell Dupree : Guitar
Mac Rebennack: E.Piano
John Siegler : Bass
Charlie Collins : Drums
Michael Mainieri : Vibe, Percussion
Michael Epstein : Percussion
David Sanborn : Sax

Michael Kamen : Producer

1. Out Of Pawn [Lasley, Marrano]


デトロイト出身で、70年代にセッション・シンガーとして活躍、シスター・スレッジの「We Are Family」などで歌ったデビット・ラズリーは後にJTバンドの同僚となるアーノルド・マックラーとともにヴァレンタインというグループを結成するが解散、残った女性二人とロージーを結成して1976、1977年に2枚のアルバムを発表して解散する。本作は2枚目の作品で、当時デビッドは、アーノルドと一緒にJTのバンドでバックボーカルを始めた頃で、その関係でJTが1曲に参加している。

1.「Out Of Pawn」は少しブルーな内容の歌で、非常に洗練されたブルーアイド・ソウルだ。最初にそのファルセット・ヴォイスを聞いた時は、てっきり女の人が歌っているものと思い込んでしまった。デビットのリードボーカルが濃密な雰囲気を醸し出し、女性二人はバックに専念している。後半からバックコーラスの一部にJTの声が聞こえるようになり、最後のエンディングでは彼の単独ボーカルを聞く事ができる。バックは、ドクター・ジョンのピアノ、コーネル・デュプリーのギターの他、デビッド・サンボーンのサックスソロがフィーチャーされるという豪華なものだ。

アメリカでは当時話題にならず、現在入手が難しいというが、日本では初期AORの名盤として人気が高く、CD化もされた。

[2021年12月追記]
デビッド・ラズリー氏は、2021年12月8日病気のため亡くなりました。2010年代後半から、JTのツアーなどに姿を見せなくなったが、闘病生活を送っていたらしい。ご冥福をお祈りいたします。


C23 Fork It Over (1977) [The Section]  Capitol

C23 Fork It Over


James Taylor: Vocal
Danny Kootch : E. Guitar
Craig Doerge : Keyboard
Lee Sklar: Bass
Russ Kunkel: Drums


1. Bad Shoes [C. Doerge, J. Henske]


JT初期のバックバンド、ザ・セクション3枚目のアルバムで、JTが1曲ボーカルを担当している。他のアーティストのバックを担当する時は控えめな彼らが、自己名義では伸び伸びと自由に演奏しているのが面白い。クロスオーバーと言っても、よりリズム・アンド・ブルースに傾倒したスタイルなので、今聴いても一時期のインスト物にありがちな古臭い感じはしない。上記 1.を除き、すべてインストルメンタルなので、ダニーやクレイグのアドリブがビンビン入り、ドラム、ベースもエキサイティングなプレイで、うねりのあるグルーブを醸し出している。個人的にはパイを切り取ったアルバムデザインが秀逸の1枚目が大好きなのだが、この作品もなかなかのものだ。

1.「Bad Shoes」はクレイグ・ダーギーと奥さんのジュディ・ヘンスケの作品。JTのメインボーカルと他のメンバーによるコーラスがフィーチャーされるが、少しオフ気味。もうちょっと大きな音でミックスして欲しかった。その後に続くダニーのギター・ソロなどのインストメンタル部分も入れて、2分50秒で終わってしまい、もうちょっとじっくり演奏してほしかったと思う。

中古市場で入手困難というが、1993年日本でのみ VividからCD化された



C24  Stolen Time (1977)[Lucy Simon]  RCA    

C24 Stolen Time


Lucy Simon: Vocal
James Taylor, Carly Simon: Back Vocal
Jeff Layton, Jimmy Ryan: Guitar
Kenny Ascher: Keyboards
John Miller: Bass
Rick Marotta: Drums
Neil Portnow : Producer

1. Father And Son

注)左ジャケット写真では、左上部に紙シール添付あり。


カーリー・サイモンのお姉さんのソロアルバム。カーリーがソロシンガーになる前は、彼女とデュエットで主にフォークソングを演奏、アルバムを発表したが、ルーシーの結婚を機会にデュオを解消したという。その後大成功したカーリーに対し、ルーシーは何枚かソロアルバムを発売したもののあまり売れず、その後はシンガーとしての活動はない。その代わりにセサミストリートのオムニバス・アルバム「In Harmony」 1980 B13のプロデュースなどを担当。また作曲家として、ブロードウェイのミュージカルなどで活躍した。

本作のプロデューサーであるニール・ポートナウは、プロデューサーとしては大成しなかったが、音楽ビジネス界では、ゾンバ・グループの経営者として、ブリットニー・スピアーズ、バックストリート・ボーイズ等を売り出し大成功を遂げ、またグラミー賞の運営に多大な貢献をなし、その後全米レコード協会の会長に就任した大物。作品自体は、多くの曲が人間関係の破綻を描いたもので、重く内省的な内容のために、心を打たれるが何度も聞くにはキツイものがある。彼女には、カーリーが持っている開き直った強さ、天性のエモーションが余り感じられない。そのインパクトに乏しくアクのない作風のために、同じ私小説風な作品でも痛々しい印象が勝ってしまうためだろうか。

1.「Father And Son」は家族を捨てて家を出てゆく男の生き様が、父から子供へ受け継がれてゆくのを歌ったもので、サイモン家の複雑な人間関係が彼女に与えたトラウマが背景にあると思われる。曲そのものの出来はなかなかのものと思う。バックに流れるJTとカーリーの声ははっきりと聞き取れる。

その他の曲では、キャロル・ベイヤー・セイガーが2曲歌詞を提供していたり、バリー・マンとシンシア・ウェイル夫妻の曲をカバーしている。バック・ミュージシャンはピアニストのケニー・アッシャーを中心として、上記の他にスティーブ・ガッド、トニー・レヴィン、ジェフ・ミロノフ、ポール・グリフィン、ヒュー・マックラケンなどの有名スタジオ・ミュージシャンが参加している。

[2022年10月追記]
2022年10月20日、ルーシー・サイモン氏は、乳がんのため亡くなりました(享年82)。ご冥福をお祈りいたします。


C25  Libby Titus  (1977) [Libby Titus]  Columbia

C25 Libby Titus



Libby Titus: Vocal
James Taylor: Back Vocal
Carly Simon : Back Vocal, Producer
Craig Doerge: Piano

1. Darkness 'Til Dawn [Brackman, Simon]


ノーマン・シーフ撮影による、大写しの白黒表紙写真の大きなクリクリした目が印象的なリビー・タイタス (1947-) は、ザ・バンドのレヴォン・ヘルムのガールフレンド。その後スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンの奥様となり、玄人受けするアーティストだった。本作のプロデューサーは、カーリー・サイモン、フィル・ラモーン、ポール・サイモン、ザ・バンドのロビー・ロバートソンという超豪華な顔ぶれだ!特にカーリーは彼女と親しかったようで、1976年の「Another Passenger」C20では、「Love You By Heart」を共作、リビーがバック・ボーカルに参加したほか、「Libby」というタイトルの曲まである。最後の曲 1.「Darkness 'Til Dawn」は、その「Another Passenger」収録のカーリー作品のカバーで、ここではクレイグ・ダーギーのピアノだけのシンプルな伴奏が素晴らしく、変に凝ったアレンジのオリジナル版より遥かに出来がいい。愛する人との喧嘩で気が滅入っている状態で、「嵐はいつまでも続かない、暗闇も夜明けまで」と希望を歌う歌詞は、カーリーの私小説ソングの真骨頂だ。ピアノが奏でるブルーなアルペジオのなかで、一条の希望の光がさすような、とても静謐なで厳粛な曲だ。リビーの声もこの曲にピッタリ合っていて、JTとカーリーのボーカルが優しくそっと寄り添う。私の大好きな1曲。

その他の曲では、初期のボニー・レイットやリンダ・ロンシュタットが歌った、エリック・カズとの共作によるバラードの名曲「Love Has No Pride」が素晴らしい。ポール・サイモンのプロデュース作品2曲の洗練された音作りは、彼のソロアルバム「Stil Crazy After All Years」 1975 を彷彿させる。特にアル・クーパーとの共作「Fool That I Am」は、日本で製作される70年代のシティー・ミュージックのオムニバス盤にも収録される隠れた名曲だ。ロビー・ロバートソンが担当した2曲は、意外にもスタンダード調のアレンジで、特に自作の「The Night You Took Me To Barbados In My Dreams」が、魂の解放感に満ちていて最高。カーリーのプロデュースは4曲あり、1.を除く3曲 (うち1曲は共作)はここでしか聴けないものだ。特に「Can't Belive You're Mine」、「Wish I Could」は、胸が熱くなるような深いエモーションを感じる佳作だ。1.でピアノを弾いているクレイグ・ダーギーとジュディ・ヘンスケ夫妻による曲 「Yellow Beach Umbrella」もいい。バックのメンバーもドン・グロルニック、ザ・バンドのガース・ハドソン(キーボード)、ヒュー・マックラケン、ジョー・ベック、ジョン・トロペア(ギター)、ジョン・グエラン、リック・マロッタ(ドラムス)、トニー・レヴィン、ビル・エバンストリオでの演奏が有名なジャズのチャック・イスラエル(ベース)など、強者ぞろい。

厳しい世の中をしっかり生きる女性の肖像画のような作品で、何よりも彼女の存在感というか、名うてのプロデューサー、一流のミュージシャンの協力により醸し出された濃密な空気が音間に漂っており、静かな夜に部屋を暗くして聴くと最高だ。ジャズやスタンダードのサウンドまで取り込んだ洗練されたサウンドは良質のAORといってもいい。同時代のフィービー・スノーの作品と共通するものを持っている。一部の熱心なファンでは名盤と言われているが、彼女の地味なキャラクターが災いしたためか、結局出したソロアルバムは本作を含む2枚だけで終わってしまったのが残念だった。



C26  Watermark (1978)  [Art Garfunkel]  Columbia

C26 Watermark


C26 (What A) Wonderful World (Single)



Art Garfunkel, Paul Simon, James Taylor: Vocal
Hugh McCracken: Guitar
Richard Tee: E. Piano
Tony Levin: Bass
Paul Simon: A. Guitar
Ralph MacDonald: Percussion,
Steve Gadd: Drums

Phil Ramone: Producer


1. (What A) Wonderful World  [S. Cooke, H. Alpert, L. Adler]



注)下の写真はシングル盤のレーベル。


サイモンとガーファンクルにJTという夢の顔合わせが実現した。この曲をラジオで初めて聴いたとき、予備知識がなかったので、その歌声を聴いてビックリしたものだ。1978年の初めに「Art Garfunkel With James Taylor And Paul Simon」という名義のシングル盤として発売され、全米17位まで上昇した。

1.「(What A) Wonderful World」曲は1964年に非業の死を遂げた天才ソウル歌手、サム・クックがハーブ・アルバート(トランペッターで、後にA&Mレコードを設立)、ルーアドラー(キャロル・キングで一世を風靡した Odeレコードを設立)と一緒に作曲した名曲だ(1960年全米12位)。「幾何学や地理など何にもしらないけど、君を愛していることは知っている。そして君が僕を愛してくれたら、何て素晴らしい世界なんだろう」という、前向きで明るい歌詞だ。サム・クック本人のバージョンと比較するとよく判るが、ここではオリジナルよりも洗練されたコードに編曲され、テンポを落としてじっくりと歌われる。プロデューサーおよびバック・ミュージシャンはポール・サイモンゆかりの人が中心なので、アートの名義でありながら音楽的にはポールの色彩が強い。イントロは3人のコーラス、最初のヴァースはアートとJTが歌い、途中からポールがファルセットで加わる。歌詞の2番ではアートと地声のポールが歌い、JTが加わる。ブリッジはポールのソロに続き、JTが後半部分のソロをとる。最後のヴァースではアートが一人で歌ったあと3人による合唱となる。という風に各個人の歌唱もしっかり楽しめるゴージャスな構成になっている。リチャード・ティー、スティーブ・ガッド等のプレイも最高。

個人的にはとても好きな曲であり、最高のカバー曲だと思うのだが、あまりヒットしなかったのは何故だろう? 当時のアメリカが楽観的で能天気な歌を欲していなかったのではないかと思う。そういう時代だったからこそ、彼らは敢えてカバーしたのではないかな?むしろ今の世の中にピッタリだなと思うんだけど、セプテンバー・イレブンやイラク戦争の事を考えると、まだまだ「素晴らしい世界」とはいえないけどね.......

本曲が収録されたLP盤「Watermark」は、ほとんどの曲がジム・ウェッブ作で、マッスル・ショールズのミュージシャンをバックに製作されたこともあり、この曲と他の収録曲とはかなり毛色が異なっている。他の曲については、実質的にジム・ウェッブのアルバムといえるほどトータル性が強く、B面最初に収められたこの曲は浮いているというか、全体的に張り詰めた雰囲気への息抜き的な存在となっている。アルバムとしての出来は決して悪くはないが、ジム・ウェッブが特に好きでない限り、この曲が収録されたアートのベスト盤CDの購入でも十分用が足りると思う。



C27  John Hall  (1978) [John Hall]  Asylum 

C27 John Hall

John Hall: Vocal, E. Guitar, Clavinet (1), Producer
Bill Payne: Synthesizer
David Paich : Electric Piano
David Hungate : Bass
Steve Gadd : Drums
James Taylor, Carly Simon : Back Vocal
Garland Jeffreys : Back Vocal (1)
Chuck Plotkin : Producer

1. The Fault [John Hall/Joanna Hall]
2. Voyagers [John Hall/Joanna Hall]



ジョン・ホール(1948- )は、セッションギタリストを経て1972年にオーリアンズを結成、「Dance With Me」や「Still The One」などのヒット曲を飛ばしたが、1979年に脱退してソロアーティストになる。本作はその第1作目で、ジョー・サンプル、ウィルトン・フェルダーのクルセイダーズの連中、スティーブ・ガッド、マイケル・ブレッカー、デビッド・サンボーンなどのセッションマンの他に、リトルフィートのローウェル・ジョージ、ビル・ペインや、Toto結成直前または直後のデビッド・ペイチ、デビッド・ハンゲイトらが参加している。

1. 2.とも奥さんのジョアンナとの共作で、人類の犯した過ちや人生と自然との共栄を歌う。一方でサウンドは当時流行りのファンキーなロック調で、歌詞が訴えるものにそぐわない感じがする。ここではまだソロアーティストとしてのスタイルが未確立で、豪華なミュージシャンのサポートを得ながら、残念ながら中途半端な出来上がりになってしまった。次作の「Power」C33は良かったけどね。1.「The Fault」の音作りはリトルフィートに近い感じで、コーラス部分でJTとカーリーの声が聞き取れる。ガーランド・ジェフリーは、C21でJTがゲスト参加していた人。中盤のブリッジでは、JTやカーリーが各ひとりでハーモニー・ボーカルをつける部分もある。ビル・ペイン、ジョン・ホールのソロが聞ける。2.「Voyagers」はジョンの奏でる短調のアルペジオとシンセサイザーが主体のスローな曲で、後半から長調になって明るい雰囲気に変わり、コーラスとリズムが入る。カーリーとJTのコーラスは、ジョンのリードボーカルとは掛け合いで歌われ、僅かながらカーリーとJTが単独で歌うパートもある。

環境問題に興味を持ち、スキーはプロ並みの腕前という多才な彼は、1979年の「No Nukes」B12 の企画の中心人物となり、ボニー・レイットやカーリー・サイモンなど他アーティストの作品に積極的に参加する。また作曲家としても活動し、リッキー・スキャッグスなどに曲を提供 (C42)、80年代以降はアルコールとドラッグ依存症に長く苦しんだが、90年代に克服。それからは政治活動を行った時期もあったが、自主レーベルからソロ作品を発表したり、2002年にはオーリアンズ30周年を記念して再結成するなど、現在も活動を続けている。


C28  Bartender's Blues (1978) [George Jones]  Epic 

C28 Bartender's Blues




George Jones : Vocal
James Taylor : Harmony Vocal
Billy Sanford, Phil Baugh, Reggie Young : Guitar, Steel Guitar
Hargus Robbins : Piano
Hnry Stzelecki : Bass
Jimmy Isbell : Drums

Billy Sherrill : Producer

1. Bartender's Blues [Taylor]  A9


注) 写真下は1979年発表の「My Very Special Guests」のジャケット写真


カントリー音楽界のスーパースター、ジョージ・ジョーンズ (1931-2013) に曲を提供し、ハーモニー・ボーカルで参加している。この曲が、JTがカントリー・ミュージシャンと共演する初めてのケースだった。彼は1931年生まれで50年代より亡くなるまで長いキャリアを誇ったが、その人生はアルコールとドラッグとの戦いだった。カントリーシンガーのタミー・ウィネットと結婚し、二人のデュオは大人気を博すが、1973年に離婚、アルコールとコカインへの依存が激しくなり、コンサートのドタキャンともしばしばだったという。そういうキャリアの低迷期にあった1978年に、JTのサポートで 1.「Bartender's Blues」をカバーし、同タイトルのアルバムを製作。シングルカットもされ、カントリー部門でヒットした。この曲のJT自身のバージョンは1977年のアルバム「JT」 A9 だったので、リリースは本作のほうが後だったが、JTは彼のためにこの曲を書いたように思う。酒場から離れることのできないバーテンダーの嘆きは、飲んだくれのジョーンズにぴったりの曲想で、バラード上手の彼の歌唱もコブシの効いた本音モードだ。

アルバム自体の評判はあまり良くないが、1979年に他の歌手とのデュエット特集「My Very Special Guests」が製作された際に、この曲が再収録され、その後CD化もされている。そこにはリンダ・ロンシュタット、エミールー・ハリス、タミー・ウィネット、ウィリー・ネルソン、エルヴィス・コステロ、ドクター・フック、メイビス・ステイプルなどの豪華メンバーなので、オリジナル盤にこだわらずに、こちらを購入したほうがいいだろう。

ジョーンズは、更生施設でリハビリを受けたというが、1999年には飲酒運転で事故を起こしており、中毒との戦いは終わらなかったようだ。JTは1993年のライブアルバム A15で、彼の1962年のヒット曲「She Thinks I Still Care」をカバーしている。

[2024年1月追記]
パーソナルがわかりましたので追記します。当該パーソナルはアルバム全体についてであり、曲毎のものではないため、全員を記載しています。


C29  Boys In The Trees (1978) [Carly Simon]  Elektra 


C30 Boys In The Trees

Carly Simon: Vocal, A. Guitar (2,3)
James Taylor: A.Guitar (2,3,4,5), Back Vocal, Vocal (4)
Jeff Mironov: A. Guitar (2), E.Guitar (3)
Cornell DuPree: Guitar (1,7)
Eric Gale: Guitar (1)
Hugh McCracken: Guitar (4)
Hamish Stuart: Guitar (6), Back Vocal (6)
Onnie McIntyre: Guitar (6)
John Hall: Lead E. Guitar (3), Back Vocal (5)
Richard Tee: Keyboards (1,3,4,7)
Don Grolnick: Keyboard (6)
Grodon Edawards: Bass (1,7)
Will Lee: Bass (3,4)
Tony Levin: Bass (6)
Steve Gadd: Drums (1,2,3,4,6,7)
David Sanborn: Alto Sax (1)
Michael Breacker: Tenor Sax (7)
David Carey: Marimba (2)
Crusher Bennett,Rubens Bassini: Percussion (5)
Luther Vandross,Rodereck George,Ken William: Back Vocal (5)
Cissy Houston: Back Vocal (6)

Arif Marden: Producer

1. You Belong To Me [Simon, McDonald]
2. Boys In The Trees
3. Back Down To Earth
4. Devoted To You [Boudleaux Bryant]
5. De Bat (Fly In Me Face)
6. Tranquillo (Melt My Heart) [Simon, Taylor, Mardin]
7. One Man Woman [Taylor] 


「No Secrets」C9、「Hot Cakes」C14 と並ぶ、カーリー・サイモンの代表作、前者2枚がリチャード・ペリーのプロデュースによるゴージャスな仕上りだったのに対し、ここではアリフ・マーディンの手によって、繊細で緻密な出来上がりで、当代きっての名手がそろったスーパー・グループ、スタッフ(コーネル・デュプリー、エリック・ゲイル、リチャード・ティー、ゴードン・エドワーズ、そしご存知スチーブ・ガッド)中心のバックのため、「Still Crazy After All Years」 1975のポール・サイモンに近いサウンドだ。

1.「You Belong To Me」はドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルドとの共作だが、カーリーによると作曲作業にあたり、一度も顔を合わせることはなかったという。このビジネスではこういう事もあるんだなあ。シングルカットされ、全米 6位までいったが、マイケル自身のボーカルによるドゥービーのバージョンもあり、彼の代表作のひとつになった。JTは、一節でほんの僅かだけセカンド・ボーカルを入れる他は、バック・ボーカルに混ざってよく判別できない。2.「Boys In The Trees」は彼女独特のメロディーに乗って、子供の頃の不思議な欲望を追憶する、まさに彼女にしか書けない傑作だ。彼女の場合、どちらかというと、こういったヒット曲に向かないものに名曲が多い。JTのアコギが曲の雰囲気作りに重要な役割を演じている。後半の「ラララ」はJTお得意のコーラスだ。3.「Back Down To Earth」は彼女の初期を彷彿させる、ダウン・トゥー・アースな感じの曲。4.「Devoted To You」はエヴァリー・ブラザースでヒット(1958年 10位)した曲で、とてもスウィートなデュエットだ。JTのギターも彼らしい演奏でとてもいい。ただし当時彼らの関係がうまくいっていない事を知っていた人達は、この曲を聞いて複雑な心境になったとか。ともあれシングルカットされて 36位のヒットとなった。

5.「De Bat」はコウモリが顔にぶつかったショックをユーモラスに書いた曲で、実経験の悪魔祓いのためのソングライティングだ。JTのギターがカリプソのリズムなのが珍しく、当時大人気のライ・クーダーの演奏にそっくりだ。バックコーラスには、何故かソウル界の大物歌手、ルーサー・バンドロスが加わっている。6.「Tranquillo」はテイラーとプロデューサーのマーディンの3者による共作で、アップテンポのクロスオーバー・サウンド。おそらく当時赤ちゃんだったベンの子育てのフラストレーションを題材にしているものと思われる。7.「One Man Woman」はJTの作によるR&B調の曲。彼は演奏のクレジットには入っていないが、途中の一節のみセコンドボーカル、ヴァースの合間の「Oh!」という掛け声はまさに彼のものだ。

カーリーとJTによる親密なコラボレーションは本作までで、以後の作品は両者の関係悪化を象徴して、バックコーラスなど部分的な協力に終始するようになる。ほぼ同時期に発売したロジャー・ムーア主演の007シリーズ「私を愛したスパイ」の主題歌「Nobody Does It Better」が、全米 2位の大ヒットとなった事もあり、本作発表前は少し停滞気味だった彼女の人気は復活し、本作もアルバムチャート10位とまあまあのセールスを記録した。ただしこの後の人気は下降線をたどることになる。