G1 Peggy Lipton (1968) Ode (CBS)





Peggy Lipton : Vocal
Larry Nechtel : Keyboards
Carole King : Piano, Back Chorus (Probably)
Mike Deasy : Guitar
Lou Morrell : Guitar
Joe Osbourn : Bass
Charles Larkey : Bass
Hal Blaine : Drums
Jim Gordon : Drums
Gary Coleman : Percussion
Jim Horn : Sax, Flute
The Blossoms : Back Vocal

Marty Paich : Horn And Strings Arragement
Lou Adler : Producer

[Side A]
1. Let Me Pass By [Peggy Lipton]
2. Natural Woman [Gary Goffin, Carole King] C3 C3 C4 C19 C21 O10 E2 E3 E4 E5 E8 S1
3. Memories Of A Golden Weekend [Peggy Lipton]
4. San Francisco Glide [Peggy Lipton]
5. Stoney End [Laura Nyro]
6. Who Needs It ? [Carole King, Tony Stern]

[Side B]
7. Hands Off The Man (Flim Flam Man) [Laura Nyro]
8. It Might As Well Rain Until September [Gary Goffin, Carole King] C21 E3 E8 S2
9. Wasn't It You ? [Gary Goffin, Carole King]
10. Lady Of The Lake [Carole King, Tony Stern]

11. Honey Won't Let Me [Peggy Lipton]

注:赤字 キャロルが参加したと思われるトラック(その他の曲にも参加しているかもしれません)

写真上: オリジナルLPの表紙
写真下: 2014年7月発売のCD「The Complete Ode Recordings」

ペギー・リプトン(1946-2019)の父は弁護士、母は芸術家で、ニューヨーク郊外のロングアイランドの中流家庭(Upper Middle Class)で子供時代を過ごした。育ちが良く、知的でクールな感じのブロンド美人に成長した彼女は、オーディションを受けてモデルになる。1964年家族がロサンゼルスに移住した際、彼女も新しい地で俳優を志し、ヒッピー風の若者による潜入捜査を描いた人気テレビドラマ「The Mod Squad」(1968〜1974)の主演で一世を風靡した。番組終了後は編曲・作曲家のクインシー・ジョーンズと結婚し、芸能界から引退して主婦業と2人の娘の子育てに専念したが、1982年夫がマイケル・ジャクソンの「スリラー」のプロデュースでとんでもない成功を収めてから生活が一変し、すれ違いが多くなった二人は1985年に離婚。その後彼女はテレビ俳優に復帰して、1991年のドラマ「ツイン・ピークス」へ出演、最近は自伝を出版するなど、がんばっていたが、2019年に亡くなった。クインシーとの二人の娘は、女優・デザイナーとして活躍している。

そんな彼女が「The Mod Squad」に出演し始めた前後に製作したアルバムが本作だ。彼女に関する記事の多くが「クインシー・ジョーンズの奥さん」であることに言及しているが、当時プロデューサーのルー・アドラーと同棲していたことが、本アルバム製作の経緯らしい(彼女の録音セッションに参加したことがあるというデビッド T. ウォーカーが、インタビューで「彼女はルウ・アドラーの妻だった」と言っているのは、彼の記憶違い)。ハル・ブレイン(ドラムス、クレジットでは「Under The Direction Of .....」とあるので、音楽監督の役割を担ったようだ)、ジョー・オズボーン(ベース)、ラリー・ネクテル(キーボード)といった西海岸の一流セッションマンを集めており、そのサウンドは、同じルウ・アドラーがプロデュースしたザ・ママス・アンド・ザ・パパスや、同じリズムセクションが伴奏を担当したフィフス・ディメンションに通じるものがある。ローラ・ニーロ、キャロル・キングと自己作品による曲目でありながら、サウンド的にはウエスト・コーストの明るい日差しを感じるポップスに仕上がっており、70年代のシンガー・アンド・ソングライター的なシンプルでストレートなサウンド作りに至る過渡期に作られた作品といえよう。その期間が短かったために、このような曲とサウンドのバランスを持った作品は少なく、それが音楽愛好家にとって本作をユニークなものにしたと言える。同じレーベル、同じ年に発表された、キャロル・キングがメンバーだったザ・シティのアルバムC1と共通した雰囲気があるが、本作のほうがマーティ・ペイチ(トトのデビッド・ペイチのお父さん)によるストリングス、自己のレコード以外にセッションでも活躍した黒人3人組のボーカルグループ、ザ・ブロッサムズのコーラスが多くフィーチャーされ、60年代的なエコーが効いたウォールサウンドになっている。

キャロルの作品から解説しよう。ジャケットに記載されたクレジットには、「Special Thanks To Carole King」とのみあり、録音セッションへの参加が言及されていないため、詳細不明だったが、彼女の公式サイトにおけるディスコグラフィーの「appears on」のコーナーには本作が含まれ、曲目として彼女の作による5曲が挙げられいる。そのためキャロルは、これらの曲の録音セッションでピアノを弾いたものと思われる(2010年に出版された彼女の自伝では、「Carole plays piano on all the tracks」とあるが、クレジットにラリー・ネクテルの名前があるし、曲によっては明らかにキャロルらしくないピアノも聞こえるので、少なくても全曲参加はないと思う)。そういう気持ちで聴くと、シンプルなコードを強いタッチで弾く彼女らしいプレイが耳に入ってくる。2.「Natural Woman」はアレサ・フランクリンが歌い、キャロル本人の歌は「Tapestry」で聴ける名曲であるが、ペギーによる素直な感じの歌唱も良く、バックで盛り上げるザ・ブロッサムズのコーラスがこれまた良い感じだ。6.「Who Need It ?」は、キャロルのサイトには曲名の表示があるものの、歌詞は掲載されていない。ロスにやってきてからコンビを組んだ作詞家のトニー・スターンとの共作で、エンディングのラララという声は何ともキャロルっぽい。そのバックでジム・ホーンによるフルートが聞こえる。8.「It Might As Well Rain Until September」は、キャロル自身の歌で1962年に22位のヒットを記録した初期の名曲で、ここではオリジナルのイントロのヴァースをカットして、テンポを落としてムードたっぷりに歌っている。9.「Wasn't It You ?」は、出だしがキャロルのアルバム「Simple Things」1977 C11に収録された「You're The One Who Knows」に似た感じのメロディーと少しピリッとした歌詞が魅力的な曲で、1966年のペトゥラ・クラークのアルバム「I Couldn't Live Without Your Love」が初出。他にジョージ・マーチンがプロデュースしたが売れなくて短命に終わったグループ、ザ・アクションのカバーがある。10.「The Lady Of The Lake」は、子供の頃のみ会うことができた「湖の乙女」を歌った幻想的な歌詞が印象的な曲で、ストロベリー・アラーム・クロックがアルバム「The World In A Sea Shell」で取り上げている。

次にローラ・ニーロのカバーについて。5.「Stoney End」はヴァンガードから発売された彼女の最初のアルバム「More Than A Discovery」1967に収められ、CBSに移籍後は「The First Songs」で再発売されたもの。10代で書いた失恋の歌というが、天才的な感性だ。この曲はバーバラ・ストレイサンドがカバーして1970年に全米7位のヒットを記録した。ペギーのカバーはそれよりも早く、シングルカットはヒットしなかったが、ペギー本人がローラ・ニーロに心酔していることがよくわかる歌唱で、ポップでいい出来であると思う。ローラ作品のカバーという意味では、ポップ度においてフィフス・ディメンションとローラ本人のちょうど中間といった感じかな?7.「Hands Off The Man (Flim Flam Man)」も同じアルバムからの曲で、これもバーバラ・ストレイサンドのバージョン(1971年のアルバム「Stoney End」に収録)が有名。最後にペギー・リプトンの自作曲について簡単に述べる。本作には4曲収録されているが、うち3.「Memories Of A Golden Weekend」は、次の曲の序曲といった感じなので、実質的には3曲となる。キャロル・キングとローラ・ニーロの作品に挟まれているが、その後作品を残さなかった人が書いた割に遜色ない出来になっているのは不思議。歌詞カードがないので、正確にはどんな内容が不明なんだけど、この人の才能というか感性の豊かさが感じられる。彼女が作った曲を聴くと、内面的にはキャロル・キングよりもローラ・ニーロにより近い感じがする。

60年代末期という、オールディーズとコンテンポラリーの境目に短期間だけ咲いた花というイメージの作品だ。現代的な音楽を期待して聴くと期待はずれになるが、当時でしか出せない音を探す人にとっては宝物のようなアルバムになるだろう。

[追伸 1]
ペギー・リプトンは、1968〜1969年に、オード・レーベルに4枚のシングル盤を残しているので簡単に説明しておこう。


A. Wear Your Love Live Heaven [Donovan Leitch] / Honey Won't Let Me (レコード番号 OD-66001) 1968年
これのみA&Mレコードからの配給となったOde70から発売されたシングル盤で、レコード番号の体系も異なる。A面はドノバンが1967年に発表した曲で、当時西海岸で流行したヒッピー・カルチャー、サイケデリックフォークの香り高い作品。B面は本アルバムからのカット。

B. Stoney End / San Francisco Glide (レコード番号 ZS7-114) 1968年
本アルバムからのシングルカット。

C. Red Clay County Line [Jimmy Webb] / Just A Little Lovin' [Barry Mann, Cynthia Weil] (レコード番号 ZS7-118) 1969年
A面がジム・ウェッブの曲で、彼自身がアレンジとオーケストラの指揮を担当している。他にザ・フォーチュンズが録音して1969年のアルバム「The Same Old Feeling」に収めている。B面はバリー・マン、シンシア・ウェイル夫妻の作で、ダスティ・スプリングフィールド が同時期に録音した「Dusty In Memphis」1969で聴くことができる。

D. Lu [Laura Nyro] / Let Me Pass By (レコード番号 ZS7-124) 1969年
「Lu」はアルバム未収録で、ローラ・ニーロ2枚目のアルバム「Eli And The Thirteenth Confession」1968に収められていた曲。 アレンジはローラ本人のオリジナルに近いが彼女のムードにピッタリ合っている。デビッド T. ウォーカーらしいギターが聞こえる。B面は本アルバムからのカット。

[追伸 2]
Now That Everything's Been Said (テレビ映像)
上述のテレビ番組「The Mod Squad」の「The Death Of Wild Bill Hannachek」(1969年11月25日放送)のなかで、ペギーが潜入捜査のために受けたライブハウスのオーディションのシーンで歌ったキャロルの曲(C1参照)。バンドに向かって「キャロル・キングの曲だけど」と言って、曲名を告げて歌いだすのが面白い。彼女の歌はもちろん口パクで撮影されているが、画面でドラムスを叩いているのはハル・ブレインという落ちまで着いたお宝映像だ。テレビ番組のために録音された割には、しっかりしたアレンジ・演奏で、歌も彼女のイメージに合っており素晴らしい出来。アルバムのために録音されながら使用されなかったアウトテイクか、デモテイクと推定される。最後は編集により中途半端な感じで終わるが、彼女のボーカル自体はたっぷり聴けるので、物足りなさはない。ここでのペギーのボーカルはナチュラルなサウンドであり、そのため彼女の声の魅力がより引き立っている。清楚なルックスにピッタリで惚れ惚れする声だ。

[追伸 3 - 2014年8月]
本作は予想に反してあまり売れず、OdeレーベルのCBSからA&Mへの移籍に伴い、早々に廃盤となってしまった。そし後CDの時代になっても再発されず、シティのアルバムとともに長い間コレクターズ・アイテムとなった。45年後の2013年10月に日本のヴィヴィッドでCD化された際は大きな話題となったが、翌2014年7月に本国で「The Complete Ode Recordings」が発売された。前者のCDを買わなかった私も、上述のシングル・オンリー4曲に加えて、未発表4曲が収録されたとあって、早速購入しました。ジャケット写真は、オリジナルアルバムと同じ写真を使用しているが、薄青の縁取りと下部のタイトルのロゴによって、オリジナル・デザインの良さが失われてしまったのは残念(裏面は同じ写真であるが、オリジナルは文字は一切なし。ただし見開きジャケットの内部は忠実に再現されている)。やはりオリジナルの、当時のアメリカのレコード特有のざらざらした紙に印刷されたLPサイズ彼女のポートレイトが最高。

ここでは未発表曲について簡単に述べる。

E. I Know Where I'm Going [Peggy Lipton]
F. Wanting Things [Burt Bacharach, Hal David]
G. I Just Wasn't Made For These Things [Brian Wilson, Tony Asher]
H. Now That Everything's Been Said [Carole King, Toni Stern]

E.「I Know Where I'm Going 」は彼女5番目の自作曲で、自分探しの旅に出る女性を描いた歌詞は、当時のフラワ・チルドレンの雰囲気を感じさせる。F.「Wanting Things」は、バート・バカラックとハル・デビッドが1968年のミュージカル「Promises, Promises」のために書いた曲で、ヒロインが内面の葛藤を歌っていたもの。同年ディオンヌ・ワーウィックが吹き込んでいる。「ペギー・リプトン、バカラックを歌う」なんてタイトルが頭に浮かぶ、素敵なボーナストラックだ。G.「I Just Wasn't Made For These Things」は、ビーチボーイズの問題作「Petsounds」1966に収録されていた曲で、日本語タイトルは「駄目な僕」。革新的な考えのために周囲と協調できない人の悩みを歌ったもので、作者のブライアン・ウィルソンの当時の心情が色濃く出ている。ペギーは「one of the best songs ever and one that I had to record」とコメントしている。H.「Now That Everything's Been Said」は、上述の通りテレビ番組「The Mod Squad」で使用されたが、今回は編集による唐突なエンディングでなく、自然な感じのフェイドアウトによる完全版が初めて日の目を見たことになり、目出度い事この上なしの事件なのだ!

当時の彼女の写真が掲載された親切で詳しい解説書も素晴らしく、ジャケット・デザインを除き満点の出来。

[2013年1月作成]

[追伸 4 - 2023年2月]
ペギー・リプトンは2019年に亡くなりました(享年72)。ご冥福をお祈りいたします。

[追伸 5 - 2023年2月]
「追伸1」のシングルにつき、表示順を入れ替え、発行年を追記。Dのレコード番号が誤っていたので、訂正しました。


 
G3 Odetta Sings Odetta (1970) Polydor   
 


Odetta : Vocal
Bernie Leadon : Guitar
John Boylan : Ryhtm Guitar, Producer
Carole King : Piano
Bob West : Bass
Russ Kunkel : Drums
Clydie King, Merry Clayton, Sherie Matthews, Vanetta Fields : Back Vocal
Jimmie Haskell : Strings, Horns Arragement

3. Every Night [Paul McCartney]
4. Hit Or Miss [Odetta Gordon]
5. Give A Gamn [Bob Droungh, Stuart Scharf]
6. My God And I [John Buckly Wilkin]
9. No Expectations [Mick Jagger, Keith Richard]

Recorded At Larabee Sound, Hollywood, California

注: 3,5,9について、クレジットにはキャロル参加とありますが、聴く限り、ピアノの音は聞こえません。

 

オデッタ (1930-2008) というと、フォーク、公民権運動、ブルース、ゴスペル、スピリチュアルを想起するが、本作では白人ミュージシャンをバックに、2曲のオリジナルを除き、当時のシンガー・アンド・ソングライターの作品をカバーするという異色の作品になっている。イメージ的に「えっ?」という感じなんだけど、実際聴いてみると意外なほどしっくり合っている。ただしフォーク・ブームが終わり、シンガー・アンド・ソングライターの時代が到来した当時、本アルバムを出した後は、1990年代に再評価されるまでアルバム制作が途絶えるので、彼女にとっては大変な時期だったじゃないかなと思う。

プロデューサーのジョン・ボイランは、初期のリンダ・ロンシュタットのボーイフレンドで、イーグルスに係る人達と縁が深かった人。本作はアラバマ州のマッスルショールズ・スタジオとカリフォルニア州ハリウッドとの2ヵ所でレコーディングされているが、キャロルが加わった後者のレコーディングには、ラス・カンケル、後にイーグルスのメンバーとなるバーニー・レイドン、ジェイムス・テイラーの「Sweet Baby James」1970でベースを弾いたボブ・ウエスト、バックコーラスにメリー・クレイトン、クライディー・キング等が参加している。ピーター・アッシャーとも親交があったというジョン・ボイランの人脈によるものだろう。

3.「Every Night」は、ポール・マッカートニーの最初のアルバム「McCartney」1970に入っていた曲で、比較的さらっとした歌唱・演奏。とは言えソウルフルな歌いっぷりで、ポールの原曲に新しい息吹を付加している。クレジットには参加とあるが、キャロルのピアノは聞こえない。4.「Hit Or Miss」はオデッタのオリジナルで、イントロのドラムスの演奏がグルーヴィーなR&B曲。ずっと後になってDJがドラム・パートをサンプリングしているそうだ。キャロルのピアノは途中からフィルインし、シンプルなR&Bコードを刻み、ホーンセクションが盛り上げる。5.「Give A Damn」はシカゴのフォーク・グループ、スパンキー・アンド・アワ・ギャング 1968年のヒット曲(全米43位)のカバー。原曲のママス・アンド・パパス風のサウンドに対し、ここでは異色のボサノバ風アレンジ。背景を埋めるエレキピアノ、シンセサイザーがない頃のバンド演奏で、各楽器の奏でる音がはっきり聴き分けられることができるのが、いかにもその時代っぽい。ここでもキャロルの音は聞こえないね〜。6.「My God And I」は、一転キャロルらしいピアノのイントロから始まる。ナッシュビルのシンガー・アンド・ソングライター、ジョン・バック・ウィルキンの1970年のアルバム「In Search Of Food, Clothing, Shelter And Sex」に入っていた曲。 後半コーラス隊とストリングが加わるが、ゴスペル臭さは抑えめで、むしろポップな仕上がり。9.「No Expectations」は、ローリング・ストーンズ「Beggars Banquet」1968からという意外な選曲。ここではリズムセクションとストリングスがバックをとり、ピアノの音は聞こえない。


全曲については以下のとおり。
[Side A]
1. Take Me To The Pilot [Elton John]
2. Mama Told Me Not To Come [Randy Newman]
3. Every Night [Paul McCartney]
4. Hit Or Miss [Odetta Gordon]
5. Give A Damn [Bob Droungh, Stuart Scharf]

[Side B}
6. My God And I [John Bucky Wilkin]
7. Lo & Behold [James Taylor]
8. Bless The Children [Don Cooper]
9. No Expectations [Mick Jagger, Keith Richards]
10. Movin' It On [Odetta Gordon]

(注:キャロル参加トラックは、3,4,5,6,9の5曲)

1,2,7,8,10は、マッスルショールズ・スタジオのミュージシャン達(エディー・ヒントン:ギター、バリー・ベケット:キーボード、デビッド・フッド:ベース、ロジャー・ホウキンス:ドラムス)とボーカル・グループのサザン・コンフォートがバックを担当し、よりアーシーでファンキーなサウンドになっている。本アルバムからシングルカットされた 1.「Take Me To The Pilot」はエルトン・ジョン初期の作品で、1970年の2枚目のアルバム「Elton John」、およびシングル盤「Your Song」のB面に収められた曲。個人的には1971年のライブ盤「11-17-70」での白熱した演奏が思い出深い。2.「Mama Told Me Not To Come」はランディ・ニューマンの曲で、スリー・ドッグ・ナイトにより1970年全米1位の大ヒットとなったが、私的には本アルバムのカバーのほうが好きだ。7.「Lo & Behold」はジェイムス・テイラー「Sweet Baby James」1970に収められた曲で、この手のゴスペル風音楽はオデッタにとってお手のもの。エレキシタールの音色が曲にピッタリで、最後に1節毎にキーアップしてゆくのがカッコイイ。8.「Bless The Children」は、シンガー・アンド・ソングライターで、後にフリーソウルからの評価が高まったドン・クーパーの作品で、オリジナルは1970年の同名タイトルのアルバムに収録されている。10.「Movin' It On」はオデッタの作曲で、ポジティブでいい感じの曲。彼女の作になる2曲の良さが際立っているね。ということで、マッスルショールズのミュージシャンと演っている曲も聴き応え十分だ。

「Tapestry」1971 C3でブレイクする前のキャロルがセッション・ミュージシャンとして参加したアルバムのひとつで、彼女の素のプレイを聴くことができる。

[2023年7月作成]


G4 Willard  John Stewart (1970) Capitol    

 

John Stewart : Guitar, Vocal
Mike Stewart : Guitar (2)
Daany Kooch : Electric Guitar (14)
Carole King : Piano
Bryan Garofaio : Bass
Russ Kunkel : Drums
Joel O'Brien : Drums (14)
"The People" : Back Vocal (14)

Peter Asher : Producer

2. Julie, Judy, Angel Rain [John Stewart]
14. Marshall Wind [John Stewart]

Recorded At Crystal Sound, Hollywood, CA

 

ディスコグラフィーで、他アーティストへの参加作品やオムニバスについての記事を書く際、以前は忙しくて十分な時間がなかったため、お目当ての曲だけを聴いて澄ませていた。それだと、作品全体におけるその曲の立ち位置がわからないままで書いているわけで、本当の姿を見ていないのでは、という後ろめたさがあった。現在十分な時間がとれるようになったので、この手の記事を書く場合は、アルバム全体をじっくり聴くようにしている。

本アルバムは、かなり以前にジェイムス・テイラー参加作品として書いたことがある(彼のディスコグラフィー 「ゲスト・セッション参加」の部参照)」が、今回はキャロル参加作品として取り上げるもの。ピーター・アッシャーのプロデュースなので、ジェイムスのバックを務めるミュージシャンとジョー・ママの連中が参加している。ただし本アルバムではジェイムスとキャロルが同席した曲はない。

2.「Julie, Judy, Angel Rain」はアコギ、ピアノ、ベース、ドラムスのみの編成によるシンプルな伴奏。本アルバム全体に漂う物理的・精神的放浪を歌った曲で、ジョニー・キャッシュを思わせる低音ヴォーカルは、憂いを帯びている。キャロルのピアノは綺麗なアルペジオを散りばめている。14.「Marshall Wind」はアルバム最後の曲で、キャロルのピアノのイントロが重厚で厳かな感じを引き出している。エンディングの「ラララ....」というコーラスのリフをバックにジョンがアドリブで歌う部分では、ダニー・クーチのエレキギターがソロを付けている。なお、ここでのバックコーラスのクレジットが「The People」となっているが、スタジオにいた人達が歌っていると思われ、おそらくキャロルも入っているじゃないかな?ベースのブライアン・ガロファロは、G5のB.B. キングにも参加しているセッション・ミュージシャン。

キャロルがゲストではなく、純粋なサイドマンとして参加した初期の作品。

以下、アルバム全体について簡単に述べる。

[Side A]
1. Big Joe ☆
2. Julie, Judy, Angel Rain ○
3. Belly Full Of Tennessee
4. Friend Of Jesus
5. Clack Clack ☆
6. Hero Frome The War
7. Back In Pomona *

[Side B]
8. Willard
9. Golden Rollin' Belly *
10. All American Girl ☆
11. Oldest Living Son ☆
12. Earth Rider
13. Great White Cathedrals
14. Marshall Wind ○*

○ = キャロル・キング参加曲
☆ = ジェイムス・テイラー参加曲
* = ダニー・クーチ参加曲

まず、2と12の2曲のみテネシー州ナッシュビルでの録音で、バックの顔ぶれが全く異なる。ジェイムス・テイラーの参加曲(☆)については、彼のディスコグラフィー「ゲスト・セッション参加」を参照ください。6と13は、ジョン・スチュアートとピーター・アッシャーのみでの録音。4ではジョーママのラルフ・シュケットとアビゲイル・ハーネスがオルガンとバック・コーラスで参加、エンディングでアビゲイルの張り切った歌声が聞こえる。

電車やトラックなどによる広範囲の移動、当時続いていたベトナム戦争の影、宗教との向き合いをテーマとする曲から、アメリカの広大な大地を想起させる内容。ナッシュビル録音は別として、ジョーママやJTの伴奏者など洗練されたミュージシャンがこれらの曲のバックを務めるという、ちょっと面白い組み合わせにより、個性あるサウンド作りができたのではないかと思う。

じっくり聴き込むといい感じのアルバムだ。

[2023年4月作成]


G5 Indianola Misssissippi Seeds  B.B. King (1970) Probe   
 



B.B. King : Vocal, Guitar
Carole King : Piano, Electric Piano
Bryan Garofalo : Bass
Russ Kunkel : Drums

Jimmie Haskell : Strings And Horn Arrangement
Bill Szymczyk : Producer

2. You're Still My Woman [Dave Clark]
4. Until I'm Dead And Cold [B.B. King]
6. Ain't Gonna Worry My Life Anymore [B.B. King]
7. Chains And Things [Dave Clark]

Recorded at Record Plant, Los Angeles 


B.B. King (1925-2015)は、ミシシッピー州生まれで、インディアノラは彼が十代を過ごした地。トラクター運転手をしながら教会で歌い、ギターを弾くようになった。地元のラジオ局で演奏するようになり「Blues Boy」というあだ名から「B.B.」という芸名が生まれた。レコード・デビューは1949年で、1950年代にはブルース音楽界で重要な地位を占めるようになる。1960年年代ロスアンゼルスに移住し、ビル・シムジクのプロデュースで 「Completely Well」1969を制作、そこから「Thrill Is Gone」の大ヒット(全米15位)が生まれ、より幅広いリスナー向けにブレイクする。「Indianola Mississippi Seeds」1970 は、次作として発表されたもので、彼の地位を不動のものにした。

プロデューサーのジム・シムジクは、後にイーグルスとの仕事で大成功する人。彼はアルバム制作にあたり、B.B. キングの音楽をより多くの人に聴いてもらえるよう画策した。まず伴奏者にロック畑の若手白人ミュージシャンを起用。キャロルの参加は、彼が以前働いていたスクリーン・ジェム社(ブリル・ビルディングにあった出版社)の頃からの知り合いだった関係。当時の彼女は「Tapestry」1971でブレイクする前だった。ベースのブライアン・ガルファロは、ジョン・スチュアート、ダン・フォーゲルバーグ、グレン・フェイ、ジョー・ウォルシュ等の録音に参加したセッション・ミュージシャン。また曲によりブラスセクション、ストリングスを入れて、キングがもつアーシーな音楽に洗練されたバックをかけ合わせて、新しい響きのブルースを生み出した。

キャロルが参加したトラックは9曲中4曲。2.「You're Still My Woman」は、彼女のセッション参加作品の魅力を知るための好例。B.B.キングはいつも通りギターを弾き歌っているが、その背景でガンガン鳴っているキャロルのピアノは、主にコード弾きのシンプルな演奏なんだけど、歌やギターに反応して強弱をつけてたり、弾き方を変えたりする様が、途中からフィーチャーされるストリングスと合わせて、繊細かつ巧み。彼女が弾くピアノのソウルがフルに伝わってくる。4.「Until I'm Dead And Cold」は、より正統的なサウンドで、比較的大人しめではあるが、キャロルのブルース・ピアノを楽しめるという美味しい曲。 6.「Ain't Gonna Worry My Life Anymore」では、エレキピアノを弾いている。ブラスセクションが加わったビックバンド的なアレンジで、後半からコードを弾きながらのソロプレイが聴ける。7.「Chains And Things」はスモーキーなエレキピアノがとてもいい感じ。ここでもバックに流れる大胆なアレンジによるストリングスが効果的。この曲はシングルカットされ、全米45位を記録している。

他の曲について。
[Side A]
1. Nobody Loves Me But My Mother [B.B. King]
2. You're Still My Woman [Dave Clark]
3. Ask Me No Questions [B.B. King]
4. Until I'm Dead And Cold [B.B. King]
5. King's Special [B.B. King]
[Side B]
6. Ain't Gonna Worry My Life Anymore [B.B. King]
7. Chains And Things [Dave Clark]
8. Go Underground [B.B. King]
9. Hummingbird [Leon Russell]

1.「Nobody Loves Me But My Mother」は、アルバムのイントロ的な短い曲で、キング自身がピアノを弾くオーソドックスなブルース。3.「Ask Me No Questions」はレオン・ラッセルがファンキーなピアノを弾き、よりスワンプ・ロック風なサウンド作りになっている。キャロルとレオンというスタイルの異なるピアノ奏者を使い分けることで、アルバムに変化を持たせようという意図が感じられる。それにしてもレオン・ラッセルという強者にひけをとっていないのは立派。少しクールな感じのインスト曲 5.「King's Special」では、ギターとレオンのピアノの掛け合いが聴ける。8.「Go Underground」はバック奏者が異なるが、「Completely Well」1969と同じ顔ぶれなので、前作のアウトテイクと思われる。レオン・ラッセル作の 9.「Hummingbird」は、作者のレオン・ラッセル主導による本アルバムでは唯一非ブルース的な曲で、リズム・ギターにジョー・ウォルシュ、コーラスにメリー・クレイトン、クライディー・キング等を加え、大いに盛り上がる。なおこの曲はシングルカットされ全米48位を記録した。ちなみに本作のジャケットデザインが面白い。表紙写真にはギターが写っているが、面白いのはよく見ると胴体がスイカになっていることで、ちょっと毛色が変わったブルースであることを象徴している。キング本人も本作がお気に入りだったとのこと。

ロック世代など、より幅広い人々にB.B. キングを聴いてもらうという試みが成功した作品。「Tapestry」 1971がブレイクする前の純粋なセッション・プレイヤーとしてのキャロルの実力、持ち味が十分に発揮されている。

[2023年3月作成]


G6 Sweet Baby James (1970) Warner Brothers  
 

James Taylor: Vocal, Guitar
Danny Kootch: Guitar (2,4,10,11)
Carole King : Piano (1,5,7,8,9,11)
Russ Kunkel: Drums (1,3,4,5,7,8,9,11)
Randy Meisner: Bass (4,5,8,11)
Bobby West: Bowed Bass (7)
John London: Bass (9)
Red Rhodes: Steel Guitar (1,9)
Chris Darrow: Fiddle (9)
Jack Bielan: Brass Arragement

Peter Asher: Producer

[Side A]
1. Sweet Baby James E6 
2. Lo And Behold
3. Sunny Skies  
4. Steamroller  
5. Country Road  G7 E6
6. Oh, Susannah [Stephen Foster]

[Side B]
7. Fire And Rain  E6
8. Blossom  
E6
9. Anywhere Like Heaven
10. Oh, Baby, Don't You Loose Your Lip On Me
11. Suite For 20G  

1970年2月発売

注: All songs composed by James Taylor except 6.
   赤字がキャロル参加曲

 

ここでは、キャロルからの視点でみた「Sweet Baby James」について書きます。アルバムの詳細はジェイムス・テイラーのディスコグラフィーを参照ください。

キャロルの自伝は刊行から10年が経ち、読む人も少なくなったと思われるので、少し引用したい。彼女がジェイムス・テイラーに初めて会ったのは、1967年のニューヨーク。音楽仲間に誘われてヴィレッジのライブハウスにフライング・マシーン(ジェイムスのディスコグラフィー「オムニバスなど」参照)を観に行った時だった。その時は挨拶だけで話すことはなかったが、ステージを観てぶっ飛んだそうだ。その後1969年、アップルを離れたピーター・アッシャーがジェイムスを伴ってLAに移住してアルバムを作ることになり、ダニー・クーチに白羽の矢を立てた(ダニーは、以前ピーター・アンド・ゴードンのアメリカ・ツアーで伴奏を務めたことがあり、その縁でジェイムスをピーターに紹介し、結果アップルと契約になった前段階がある)。そのダニーがキャロルをピアノ奏者として推薦したのが、本作参加の経緯。リハーサルから意気投合したという。

1.「Sweet Baby James」はギター主体の曲であるが、セカンド・ヴァースのコーラス部分から控え目なピアノが加わる。5.「Country Road」は、左チャンネルから聞こえるキャロルの力強いピアノが、右チャンネルのジェイムスのギターと互角に鳴っていて、曲の骨格を作り上げている。7.「Fire And Rain」では右チャンネルからで、シンプルなコードの打鍵が効果的。ヴァースが終わる際に彼女が単音で鍵盤を強打する部分がまことにドラマチックで、本曲が傑作になるための十分な貢献をしている。8.「Blossom」は、ジェイムスの綺麗なギターのアルペジオに対して対位的に絡むピアノが美しい。9.「Anywhere Like Heaven」はカントリー音楽風のピアノに徹し、間奏ではスティール・ギターとともにメロディーを奏でている。11.「Suite For 20G」は前半はジェイムスのアコギーの多重録音が主体で、間奏部分からダニーのエレキギターとピアノが加わる。

今回聴いて気が付いた点は、全員登場のフィナーレ的な11.「Suite For 20G」を除き、キャロルのピアノととダニーのギターが一緒に演奏する曲がないことだ。それがアルバムの演奏に変化と彩りを与えており、何度聴いても飽きがこない本作の奥深さを構成しているといっても過言ではないだろう。1969年に録音されたアルバムは翌年2月に発売され、キャロルはピーターに誘われて、秋に行われたプロモーションツアーに参加することになる。

本セッションへの参加は彼女の音楽に大きな影響を与え、プレイヤーとしてライブ活動に乗出すきっかけとなったことで、後の大きな飛躍のための踏み台となった作品。

[2023年3月作成]

[2024年1月追記]
曲毎のパーソナルが分かりましたので、追記しました。


 
G7 Country Road  Single (1971) Warner Brothers   
 


James Taylor: Guitar, Vocal
Carole King: Piano
Lee Sklar: Bass
Russ Kunkel: Drums

1. Country Road [James Taylor] G6 E6
 

「Sweet Baby James」からの2枚目のシングルは、アルバムとは別録音。1971年2月に発売され、全米37位のヒットを記録した。テンポが若干早めである事に加えて、最大の違いは後半になってからで、多重録音による「アー」という賛美歌調の単音コーラスが入ることだ。当時のコンサートでは、観客にそのパートを歌わせて演奏していた。

アルバム・バージョンよりもライブ感がある演奏で、キャロルの力強いピアノが印象に残る。

[2023年3月作成]


 
G8 J Is For Jump  Joe Mama (1971) Atlantic   
 







Abigle Haness : Vocal
Danny Kortchmer : Guitar, Back Vocal
Ralph Schuckett : Piano, Organ
Charles Larkey : Bass
Joel O'Brien : Drums
Carole King : Back Vocal

Memphis Horn (Uncredit) : Brass Section (11)

Tom Dowd, Albhy Galuten : Producer
Ahmet Ertegun (Uncredit) : Producer (6,11)

3. Smackwater Jack [Carole King] C3 C3 C3 C4 C19 C21 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8
6. When The Lights Are Way Down Low [Mac Rebenack]
11. Sho'Bout To Drive Me Wild [A. Robinson, J. Hill, F. King, M. Rebenack]


写真中: Abigale Haness が所属していたガールズ・グループ、 The Pussycats (1965〜1966年、アビゲイルは右端)

写真下: 「Rocky Horller Show, The Original Roxy Cast」 (1974) アルバム二つ折りジャケット内の一部
 

The City「Now That Everything's Been Said」1968 C1の後、ダニー・コーチマーとチャールズ・ラーキーは、以前ザ・キングビーで一緒だったドラマー、ジョエル・オブライエン (1943-2004、ただし結成当初のドラマーは別の人だったらしい)、トッド・ラングレン・ユートピアの創立メンバーだったラルフ・シュケット(1948-2021)、およびアビゲイル・ハーネスを誘い、ジョー・ママを結成する。グループ名は 「Yo Mama」(「Your Mama」の黒人言葉で、相手の母親を悪く言って侮辱するジョーク)をもじったもの。アルバム2枚を制作し、キャロル・キングのアルバム「Writer」1970 C2、「Tapestry」1971 C3、「Music」1971 C4 の録音、ジェイムス・テイラー1971年のツアーに参加した。

本作は2枚目のアルバム。私は1970年代に本アルバムを購入したが、当時聴いて気に入らなかった記憶がある。キャロル、ジェイムスの作品に比較して、中途半端で物足りない印象を持ったからで、その後アルバムは長い間レコードラックの片隅に眠ることになった(ジェイムス、キャロル関連なので売らなかったけどね)。その後は廃盤となり長い間忘れ去られた存在となったが、数十年後、CD再発とインターネット配信により再評価された。いま茶色のシミが浮き出たジャケットを観ながら聴き込んでみると、かなり良い感じで古臭さを感じないのだが、当時の違和感の理由がわかった。あの頃は本格派の音楽がもてはやされ、東海岸出身の知的な白人の若者が演奏する南部風R&Bを受け入れる土壌がなかったのだ。その後時代の変化により、異なる文化を融合させる事が粋となり、新しい音楽が生み出されてゆく。所謂AORと呼ばれる音楽ジャンルはその典型にあたる。そういう意味で本作は時代を先取し過ぎていたため、発表当時の評価が低かったのだ。当時の「先進的」とは、プログレッシブ・ロックの事を指していたんだよね。ここで思い出すのは、1970年ミュージックライフ誌でのジョー・ママ1枚目の評価が著しく低かったことで、その風潮は私のみでなかったことを物語っている。

本作は曲毎のクレジットがないので、キャロルがどの曲に参加したか不明であったが、アビゲイル・ハーネスのインタビュー(下述)を聞くことができたので、上記3曲で特定した。3.「Smackwater Jack」は 「Tapestry」1971 C3のカバー。オリジナルではピアノが派手に鳴っていたが、ここではダニーのギターが出張っている。残りの2曲はマック・レベナック(ドクター・ジョン)の曲で、ニューオリンズの香りがプンプンするサウンド。ゲイルのソウルフルなボーカルとキャロルの声を含むコーラスを楽しめる。6.「When The Lights Are Way Down Low」は、ドクター・ジョンでの演奏の所在を確認できなかった。11.「Sho'Bout To Drive Me Wild」は、ニューオリンズで活躍したギタリストで作者の一人でもあるアル・ロビンソンが1969年にシングルを出している。


他の曲についても簡単に述べる(括弧はボーカル)

[Side A]
1. Keep On Truckin' [Danny Kortchmar] (Abigale)
2. Back On The Street Again [Danny Korchmar] (Danny, Abigale)
3. Smackwater Jack [Caroke King] (Abigale)
4. If I Had A Million Dollars [Danny Korchmar] (Danny)
5. My Long Time [Danny Korchmar] (Abigale)
6. When The Lights Are Way Down Low [Mac Rebenack] (Abigale)
[Side B] 
7. Love Is Blind [Danny Korchmar] (Abigale)
8. 3 A.M. In L.A. [Danny Korchmar] (Abigale)
9. Sweet And Slow [Al Dublin, Harry Warren] (Abigale)
10. Have You Ever Been To Pittsburgh [D. Simon] (Danny)
11. Sho'Bout To Drive Me Wild [A. Robinson, J. Hill, F. King, M. Rebenack] (Abigale)

1.「Keep On Truckin'」は、変拍子による新しい感じの曲で、キャロルが演っていた「Rasberry Jam」(「Writer」1970 C2所収)に似た雰囲気がある。自己名義のアルバムなので、ダニーのソローギターも自由奔放、アビゲイルの伸びのある声も良い感じ。ダニーが歌う 2.「Back On The Street Again」は、ジェイムス・テイラーが「One Man Dog」1972でカバーした。4.「If I Had A Million Dollars」はファンク風のバックに都会的なダニーのボーカルが絡む。 5.「My Long Time」はサザンソウル。 7.「Love Is Blind」はストリングスが入り、AORの香り漂う洗練されたソウルに仕上がっている。8.「3 A.M. In L.A.」はホーンセクションをフィーチャーしたジャズ・ロック的なイントロ、アウトロ(ギターとベースがカッコイイ)と、その間のジャズバラードからなる曲。9.「Sweet And Slow」は、1935年ファッツ・ウォーラーまたはウィル・オズボーンが初演のジャズのスタンダード。マリア・マルダーのカバー 「Sweet And Slow」1983 ではドクター・ジョンがピアノを弾いていた。10.「Have You Ever Been To Pittsburgh」はダニーのちょっと投げやりなヴォーカルが魅力的。この曲の背景・作者についての情報は見つからなかった。

時代の先を行き過ぎたため、発表当時の評価は低かったが、後年の音楽多様化のなかで再評価された作品。


[付録] アビゲイル・ハーネス(へイネスとも言われていますね)について
ジョー・ママ解散後のアビゲイル・ハーネスは、ロッキー・ホラー・ショウのロスアンゼルス・ロキシー公演に出演してオリジナル・キャストのレコードを残し、またバック・ボーカリストとして活動したが、1970年代後半に音楽界から姿を消してしまう。その後についてはインターネットにも情報がなく、長らく謎だったが、2021年7月9日ニュージャージー、ニューヨークのラジオ局WFMUの番組「Sophisticated Boom Boom With Sheila B.」にゲスト出演していたことが判り、約90分にわたるインタビューのアーカイヴ音声を聞くことができた。

彼女はブルックリン生まれで、1965年オーディションに受かって、ザ・シャングリラズに似た感じのガールズ・グループ、ザ・プッシーキャッツの一員としてシングル2枚を発売、その後1966年に作曲家ジェフ・バリーの元でゲイル・ハーネスの名前で3枚のシングルを発売した(それらの一部をYouTubeで聴くことができる。いい時代になりましたね〜)。20歳の時、親離れを目指してロスアンゼルスに移住。ミュージカル「ヘアー」などに出演していたが、ニューヨークのフライング・マシーン時代から知り合いだったダニー・クーチが結成したジョーママに加入することになる。彼らは、フランク・シナトラの取り巻きの一人ピーター・ローフォードが経営していたクラブ、ファクトリーのハウスバンドとして活動を始める。そしてツアーでジェイムス・テイラーのバックをするようになり、キャロル・キングと知り合い、彼女のレコーディング「Writer」1970 C2、「Music」C5 1971に参加した。「Tapestry」C3 1971のレコーディングでは、彼女は病気で参加できず、代わりにメリー・クレイトンが歌った(当時のステージでは「Way Over Yonder」を二人で歌っていた。1972年のBBC In Concertの映像が残っている)。

ジョー・ママの6.「When The Lights Are Way Down Low」、11.「Sho'Bout To Drive Me Wild」は、フロリダのスタジオにアーメット・アーティガン(アトランティック・レコードのボス) とマック・レベナック(ドクター・ジョン)が現れ、アーメットのプロデュースで録音した。ホーンセクションはメンフィス・ホーン。彼がバンドに興味を持ち、メンバーの入れ替え提言など介入をしたため、グループ内に軋轢が発生し解散することになった。アビゲイルとダニーが結婚したのはその後。長雨で缶詰になったホテルでジョニ・ミッチェルと知り合い、彼女が自分のポートレイトを書いてくれた思い出(その絵はインターネットで観ることができる)。ルウ・アドラーが制作責任者だったロッキー・ホラー・ショウのロスアンゼルス・ロクシー・シアター公演にはオーディションで合格、主演級のジャネットで出演し、オリジナル・キャストのレコード制作にも参加した。

当時彼女の知り合いで、大成功した人達は皆 「もしこれができないなら、私は死ぬ」と言っていた。それに対して曲も書けない自分はどう?彼女はダニーと別れ、学校で農業を学び園芸を志す。「これは私が冷静に下した決断で、幸せな人生を過ごしてきた」と語り、音楽生活については、人間関係に馴染めなかったようで、彼女はジェイムス・テイラーの「Her Town Too」 (「Dad Loves His Work」1981収録)の歌詞の一節 「She gets the house and the garden, He gets the boys in the band」を印象深く引用している。最後に彼女がカーネギーホールで、デビッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、カーリー・サイモンと一緒に「Shower The People」のコーラスを歌った素晴らしい体験を語ってインタビューは終了。

彼女の年齢は非公表だけど、「20歳の時ロスアンゼルスに移住」という事実から、本番組の時点で75歳前後と推定される。本当に元気なおばあさんで、生き生きした話しっぷりで、面白い話が次々出てくる。インタビュアーのシェイラ・B氏とは以前からの知り合いのようで、交わされる会話の息はぴったり合っていて、完璧なインタビュー番組となっている。

ということで、いろいろ謎の多かったアビゲイル・ハーネス氏について、知り得たことを書きました。

[2023年3月作成]


 
G9 Sister Kate Kate Taylor (1971) Cotillion   
 


Kate Taylor : Vocal, Clapping (10)
Danny Kootch : Guitar (1,2,4,7,10,11), Congas (2,5,7)
John Bieland : Guitar (10)
John David Souther : Guitar (10), Clapping (10)
James Taylor : Guitar (11)
Carole King : Piano (1,2,5,7,11), Back Vocal (2,4,7,10), Strings Arragement (5)
Ralph Schuckett : Organ (2,7), Piano (4,10)
Lee Sklar : Bass (4,10,11)
Charles Larkey : Bass (1,2,5,7)
Joel O'Brien : Drums (1,2,5,7)
Russ Kunkel : Drums (4,10,11)
Sandra Crouch : Tambourine (2,4,7,10)
Kate Taylor : Clapping (10)

Wayne Johnson, Andrew Love, The Memphis Horns : Horns, Horn Arrangement (6)
John Tartaglia : Strings Arrangement

Merry Clayton, Oma Drake, Donna Prater : Back Vocal (2,4,7,10)
Linda Ronstadt, Gail Haness : Back Vocal (4)

Peter Asher : Producer, Clapping (10)

1. Home Again [Carole King] C3 C3 C4 O14 E1 E2 E7 E8
2. Ballad Of A Well Known Gun [Elton John , Bernie Taupin]
4. Handbags And Gladrags [Mike D'Abo]
5. You Can Close Your Eyes [James Taylor] E6
7. Where You Lead [Carole King, Toni Stern] C3 C21 O13 E5 E8
10. Lo And Behold/Jesus Is Just Alright [James Taylor/Arthur Reynolds]
11. Do I Still Figure In Your Life [Pete Dello]

 

ジェイムス・テイラー「Sweet Baby James」1970の成功により、1971年に彼の兄アレックス、妹ケイト、弟リヴィングストンのアルバムが次々発売され、テイラー・ファミリーとして大いに話題になった。本作はケイト・テーラーの初アルバムで、ピーター・アッシャーがプロデュース、ジョー・ママとジェイムスのバック・ミュージシャンが勢揃いしている。彼女は曲を書かないので、全曲カバーになっているが、選曲が面白く、ソウルフルな演奏と歌唱により、R&Bのアルバムと言ってもいい出来上がりになっている。録音にあたり、声がでなくなるほど緊張したとのことで、後年に比べて余裕のない固めな歌声であるが、一生懸命さが伝わってきて、それなりに良い出来になっている。

キャロルが参加したトラックは7曲。1.「Home Again」、7.「Where You Lead」は「Tapestry」1971 C3から。オリジナルよりもずっとソウルフルなサウンドで、1.ではキャロルの力強いピアノが聴ける。ジェイムス・テイラーの曲 5.「You Can Close Your Eyes」は、アコースティック・ギターを入れず、キャロルのピアノとストリングスによる伴奏で、ハーモニーはケイト自身による多重録音。10.「Lo And Behold/Jesus Is Just Alright」は面白いアレンジ。J.D. サウザーがギターと手拍子で参加している。メドレーでテンポを変え、「Jesus Is Just Alright」になるが、これは作者のアーサー・レイノルズ率いる合唱団1966年の録音がオリジナルのゴスペル・ソングで、ドゥービー・ブラザース1972年のヒット(全米35位)で有名な曲。曲の終盤で両方の曲を混ぜ合わせて歌っている点が大変ユニーク。

2.「Ballad Of A Well Known Gun」はエルトン・ジョン初期のアルバム「Tambleweed Connection」1970 がオリジナル。ファンキーなアレンジで、ワウワウを効かせたダニーのギターが頑張っている。メリー・クレイトンとキャロルを含むコーラスも強力。4.「Handbags And Gladrags」はマンフレッド・マンのマイク・ダボ作曲で、クリス・ファーロウ 1967で全英33位を記録。ロッド・ステュワート 1969、ステレオフォニック 2000 等のカバーがある。なお本人によるデモ録音は2004年に発掘された。リンダ・ロンシュタットとゲイル・ハーネスがコーラスに加わっている。11.「Do I Still Figure In Your Life」は、作者ピータ・デロ所属のグループ、ザ・ハニーバス 1967がオリジナルで、1969年にジョー・コッカーがカバーしている。ここでは少人数によるシンプルな伴奏(リンダ・ロンシュタット風)で、ジェイムスのギター、キャロルのピアノのコラボが楽しめる。

本セッションでタンバリンを叩いているサンドラ・クロウチは、シンガー、打楽器奏者としてゴスペル音楽界で活躍した人。特にタンブリンが得意のようで、ジャクソン・ファイブの「I Want You Back」、「ABC」でもそのプレイを聴くことができる。コーラスのオマ・ドレイクは、セッション・シンガーとして数多くのセッションに参加している。


他の曲についても簡単に述べる。

Side A
1. Home Again [Carole King]
2. Ballad Of A Well Known Gun [Elton John, Bernie Taupin]
3. Be That Way [Livingston Taylor]
4. Handbags And Gladrags [Mike D'Abo]
5. You Can Close Your Eyes [James Taylor]
6. Look At Granny Run, Run [Jerry Ragavoy, Mort Shuman]

Side B
7. Where You Lead [Carole King, Toni Stern]
8. White Lightning [Jape Richardson]
9. Country Comfort [Elton John, Bernie Taupin]
10. Lo And Behpd/Jesus Is Just Alright [James Taylor/Arthur Reynolds]
11. Do I Still Figure In Your Life [Pete Dello]
12. Sweet Honesty [Beverley Martyn]

3.「Be That Way」は弟リヴィングストン・テイラー2枚目のアルバム「Liv」からで、彼らしい軽妙な感じの曲。6.「Look At Granny Run, Run」は、 フィラデルフィアのソングライター・チームの二人が作曲し、ハワード・テイト1966の歌で全米67位を記録した曲。ここではダニーがガンガン弾いていて、ジェイムスのアコギも僅かながら聞こえる。8.「White Lightning」のオリジナル1958 を歌ったビッグ・ボッパーの本名は、本曲の作者ジェイプ・リチャードソンで、ここではブギー調のロックンロールにR&Bの味付けをした感じ。なお彼は、1959年バディー・ホリー、リッチー・ヴァレンスとともに飛行機事故で亡くなっている。9.「Country Comfort」は、2.と同じアルバムから。ジェイムスの「Rinding On The Railroad」と同じく、ジョン・ハートフォード (1937-2001、フォーク、ブルーグラス界で活躍した人)がバンジョーを弾いている。12.「Sweet Honesty」はブリティッシュ・フォーク界で活躍した、ベヴァリー、ジョン・マーティン夫妻の作品「Stormbringer」1970に収められた曲のカバー(ベヴァリー・マーティンについては、ジョン・レンボーン・ディスコグラフィーの「ゲスト参加作品・オムニバス等」Q4を参照ください)。ここではフォークソングを立派なR&Bに仕立て上げ、終盤でダニーのギターソロが暴れまくる。


本人の頑張りと、ミュージシャン達の盛り立てにより漂う、暖かい家庭的な手作り感が持ち味の作品。

[2023年3月作成]


 
G10 Let It All Out  Barry Mann (1971) New Design (CBS)   
 

Barry Mann : Vocal, Piano
Carole King : Harmony Vocal (2), Back Vocal (1), Piano
Danny Kooch : Electric Guitar
Al Gorgoni : Acoustic Guitar, Producer
Charles Larley : Bass
Joel O'Brien : Drums
Steve Tyrell : Percussion
Bobbie Hall Porter : Conga (2)
Merry Clayton, Patrice Holloway, Stephanie Spruill : Back Vocal (1)

1. When You Get Right Down To It [Barry Mann]
2. I Heard You Singing Your Song [Barry Mann]

 

バリー・マンは1939年ニューヨーク・ブルックリン生まれ。キャロルと同じく、マンハッタンのアルドン・ミュージックで奥さんのシンシア・ウェイルと一緒に作曲家として成功する。数えきれないほど多くのヒット曲・名曲があり、特に好きな曲を列挙しよう。アーロン・ネヴィルとリンダ・ロンシュタット「Don't Know Much」1989、ジェイムス・イングラム「Just Once」1981、セルジオ・メンデス「Never Gonna Let You Go」1983、ザ・ドリフターズ「On Broadway」1963、B.J. トーマス「Rock And Roll Lullaby」1972、リンダ・ロンシュタットとジェームス・イングラム「Somewhere Out There」1986、ダン・ヒル「Sometimes When We Touch」1977、ザ・ライチャス・ブラザースの「You've Lost That Lovin' Feelin'」1964 などなど、いやはや...凄いとしか言いようがない。

1970年代シンガー・アンド・ソングライターの時代が到来して、マンハッタンでの職業作曲家ビジネスが衰退し始めた時期、シンガーとして製作したのが本アルバムだ。日本盤の解説を書いた長門芳郎氏が言う通り、大変良い出来であると思うが、キャロルのような大ヒットにはならなかった。成功するための条件として、カリスマ性か野心のいずれかが必要と思われるが、彼の場合はどちらもなかったのではないかと思う。それでも作曲家としてこれだけの功績を残したわけだから、十分立派というべきだろう。

キャロルが参加した2曲については、当時レーベル・オーナーだったスティーブ・ティレル(後に歌手として成功、ジェイムス・テイラーが参加したアルバム「Back To Bachrach」 2008がある)がアルバムに寄せた文章のなかで経緯が語られている。キャロルが1971年8月19日にロサンゼルスのグリーク・シアターでコンサートを行うにあたり、バリーのゲスト出演を望んだため、バリーとスティーブ、それとプロデューサーのアル・ゴルゴーニの3人がニューヨークからロスに飛んだ。そしてコンサートに出演(「その他映像・音源」の部参照)し、その前後に現地でこの2曲を録音したとのこと。

ということで、この2曲のみバック・ミュージシャンの顔ぶれが異なり、キャロルの関係者(ジョーママやメリー・クレイントン)とアル・ゴルゴーニだった理由がわかった。1.「When You Get Right Down To It」は、1970年のデルフォニックスが初レコーディング(全米53位)。その後は ロニー・ダイソン 1971 (同94位)、スコット・ウォーカー 1973、アレサ・フランクリン 1974 のカバーがあるが、作者であるバリーの声とエモーションがこの曲にぴったり合っている。彼とキャロルの二人によるピアノの絡みが美しく、彼女を含むバックコーラスも効果的。2.「I Heard You Singing Your Song」は、バリーがキャロルに捧げた歌といって間違いないだろう。上手くいかない時、苦労している時、「力強く生きる君の歌を聞いたんだ、それまでの人生の間違いに気付いたよ、一緒に歌わずにはいられないよ、歌うよ...」という一節の後に、「バララ」というハミングとなり、キャロルがハーモニー・ヴォイスで加わってくる。はっとするほど魅惑的な場面だ!音楽好きの人にとって、エクスタシーを感じる瞬間。ちなみにこの曲は前述のグリーク・シアターでのコンサートで歌われた。他アーティストのカバーとしては、1973年のナンシー・ウィルソンやパートリッジ・ファミリー等がある。

この2曲が良すぎて、アルバムの他の曲がかすんでしまうほどだ。といっても、すでに過去のヒットでスタンダードになっていた「On Broadway」や「You've Lost The Lovin' Feelin'」のセルフ・カバーは聴きもの。

クレジット表記の一番最後にバリーの言葉で、「Special thanks to Carole King for "Being a Friend"」とある。もう最高!!キャロルの初期セッション参加曲の最高峰に位置する存在。


G11 Merry Clayton (1971) Ode (A&M)  
 

Merry Clayton : Vocal
Carole King, Billy Preston, Clarence McDonald, Jerry Peters, Joe Sample : Keyboards
David T. Walker : Guitar
Wilton Felder : Bass
Bobbye Porter, Gary Coleman, Sandra Crouch : Percussion
Paul Humphery : Drums
Curtis Amy : Sax
Abigail Haness, Jerry Peters, Merry Clayton, Patrice Holloway, James Cleveland Choir : Back Vocal

Carole King : Arragement
Marty Paich : String Arragement (3,8)
Lou Adler : Producer

2. Walk On In [Carole King]
3. After All This Time [Carole King] C4
8. Same Old Story [Carole King]

 

メリー・クレイトン(1948- 、「Merry」という名はクリスマスに生まれたから)は、ある夜中「ローリング何某のレコーディングで歌ってほしい」という突然の依頼を受け、ヘアカーラーを巻いたままスタジオに向かったそうだ。「Gimme Shelter」という曲で彼女が歌った「War, children, it's just a shot away」と、後半の「Rape, murder, it's just a shot away」というフレーズは、曲に強烈なインパククトを付与し、それにより彼女は音楽史に名を残すことになった。バックボーカリストの仕事が多かった彼女は、それがきっかけでソロシンガーとしての契約を結び、1970年ルウ・アドラーのオード・レコードより、「Gimme Shelter」というアルバムを出した。そして翌年出した2枚目のアルバムが本作だ。あ、そうだ。本作品と同時期に制作されたキャロルの「Tapestry」1971 C3の「Way Over Yonder」にメリーが参加し、「Sun shining golden」という、これまた印象的なフレーズを歌っていたな〜。

バック・ボーカリストとして多くのセッションに参加した経験により、通常のソウルシンガーとは一味異なる柔軟さを身に着けたようで、本作では幅広いジャンルの曲に取り組んでいる。特にキャロル・キングの作品3曲は、キャロル本人のアレンジとピアノでの参加と、メリーのソウルフルな歌唱がうまくブレンドして、(当時としては)新しい音楽を作り上げている。2.「Walk On In」は、「私を頼って、歩き続けましょう」という前向きな内容の明るい歌で、メリーはソウルを内に秘めて比較的さらっと歌っている。その懐の深い「溜め」が実にいい感じだ。なおこの曲は、ルー・ロウルズ 1972、リタ・クーリッジ 1981等がカバーしている。3.「After All This Time」は、この中では最もキャロルらしい曲で、彼女によるスタジオ録音はないが、1996年に発売された1971年のライブ「The Carnegie Hall Concert」 C4で歌っている。メリーの夫君であるカーチス・アミーのサックスがいい感じ。この曲はシングルカットされ、全米71位を記録した。8.「Same Old Story」はゴスペル調のバラード。3曲全体で、キャロルのピアノ以外にオルガンやエレキピアノの音も聞こえるが、曲毎のクレジット表示がないので、誰が弾いているかは不明。パーカッションも同様(ボビー・ポーターはキャロルの初期アルバムに参加しているボビー・ホールと同一人物で、「ポーター」は夫君の姓)。後に「Rhymes And Reasons」 1972 C6、「Fantasy」 1973 C7でギターを弾くデビッド T. ウォーカーが、何とも良い感じのギターを入れている。

他にもいい曲があるので、全体につき簡単に紹介する。

1. Southern Man [Neil Young] Arranged By Jerry Peter
2. Walk On In [Carole King] Arranged By Carole King
3. After All This Time [Carole King] Arranged By Carole King
4. Love Me Or Let Me Be Lonely [Anita Poree, Jerry Peters, Skip Scarborough] Arranged By Jerry Peter
5. A Song For You [Leon Russell]
6. Sho'Nuff [Billy Preston] Arranged By Billy Preston
7. Steamroller [James Taylor]
8. Same Old Story [Carole King] Arranged By Carole King
9. Light On The Hills [Richard Jones]
10. Grandma's Hands [Bill Withers]
11. Whatever [Leon Ware]

1.「Southern Man」はニール・ヤングの「After The Gold Rush」1970に入っていた曲で、個人的にはクロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤングのライブ「4 Way Street」1971の14分弱におよぶギターの掛け合いが想い出深い曲。4.「Love Me Or Let Me Be Lonely」はコーラス・グループ、ザ・フレンズ・オブ・ディスティンクションのヒット(1970年全米6位)のカバー。5.「A Song For You」は作者およびカーペンターズで有名。6.「Sho'Nuff」はビリー・プレストンによるグルーヴ感溢れる曲。7. 「Steamroller」はジェイムス・テイラー「Sweet Baby James」1970からで、この曲のカバーとしては相当いい出来。 10.「Grandma's Hands」は、ビル・ウィザーズ1971年42位の曲で、バーバラ・ストレイサンド、トニー・オーランド & ドーン、後では1985年シンプリー・レッドのカバーがある。演奏面では、ザ・クルセイダーズのウィントン・フェルダー(ベース)、デビット T ウォーカー(ギター)のプレイが素晴らしい。

なお、アルバムのジャケットデザインはメリーのソウルが見事に表現されたもので、「Tapestry」、「Music」、「Rhymes & Reasons」のジャケットを担当したジム・マックラリー(Jim McCrary)の撮影によるもの。

幅広い分野の音楽からの選曲を柔軟にこなしながら、圧倒的な歌唱力で自己の個性をしっかり反映させ切った作品。

[2023年3月作成]


   
G12 Billy Joe Thomas (1972) Scepter   
 


B.J. Thomas : Vocal
Hugh McCracken : Electric Guitar
Carole King : Piano
Charles Larkey : Bass
Ron Tutt : Drums
Dave Boone : Fiddle
Memphis Horns : Horns
Jimmy Maeulen, Steve Tyrell : Percussion
The Blossoms : Back Vocal

Al Gorgoni, Steve Tyrell : Producer

7. A Fine Way To Go [Crole King, Toni Stern]

 

B.J. トーマス(1942-2021) というと、バート・バカラックの「Raindrops Keep Fallin' On My Head」 (「雨に濡れても」 1968年全米1位)を思い出す。映画「明日に向かって撃て!」の挿入歌だったが、西部劇っぽくないモダンな曲調がいい感じだった。本作は、彼が1972年セプター・レコードから発表したアルバムで、アル・ゴルゴーニと後に歌手として大成するスティーブ・ティレルがプロデュースしている。B.J.は曲を書かないので、一流ソングライターの曲を集めて、当時流行し出したシンガー・アンド・ソングライター風の作品に仕上げている。一見地味そうなんだけど、当時の月刊誌「ミュージックライフ」の新作記事で、4ツ星半という高評価がついていたのを覚えている。

7.「A Fine Way To Go」は、「Now That Everything's Been Said」 1969 C1から「Rhymes & Reasons」 1972 C6までの間、共作者だった作詞家ト二・スターンとの作品で、男女の恋愛問題と現実逃避に良い方法(A Fine Way To Go) としての映画の世界をテーマとしたダークな歌詞・メロディーの曲で、キャロルの作品としては異色の存在。カントリー音楽界のギタリスト、シンガー、ロニー・マック(ギターインスト曲「Memphis」 1963 全米5位が有名)のアルバム「The Hill Of Indiana」収録がオリジナル(これも相当良い出来)。カントリー、ロック、ソウル等いろんなスタイルを柔軟に歌い分けるB.J.は、ここではシリアスな雰囲気を出している。バックを務めるのは、作者のキャロルと夫君のチャールズ・ラーキー、セッション・ギタリストのヒュー・マックラケンと、エルヴィス・プレスリーやマリア・マルダーなどのセッションに参加したドラムスのロン・タット等。そしてバックボーカルには、西海岸で活躍したダーレン・ラブがいたザ・ブロッサムズだ。間奏とエンディングで、キャロルらしいスタイルでのピアノ演奏があり、彼女のファンにとって美味しいところ。

他の曲については以下の通り。

[Side A]
1. That's What Friends Are For [Paul Williams]
2. Rock And Roll Lullaby [Barry Mann, Cynthia Weil]
3. Happier Than The Morning Sun [Stevie Wonder]
4. Roads [Barry Mann, Cynthia Weil]
5. Sweet Cherry Wine [Barry Mann, Cynthia Weil]
6. A Song For My Brother [Jim Webb]

[Side B]
7. A Fine Way To Go [Crole King, Toni Stern]
8. Just As Gone [Wayne Carson]
9. I Get Enthused [Mark James]
10. Are We Losing Touch [Mark James]
11. We Have Got To Get Our Ship Together [Bobby Weinstein, Jon Stroll]
12. The Stories We Can Tell [John Sebastian]

1.「That's What Friends Are For」は、バート・バカラック、キャロル・ベイヤー・セイガー作、ディオンヌ・ワーウィック、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダー、グラディス・ナイトが歌ったあの曲とは同名異曲で、ポール・ウィリアムスの作品。1974年のアルバム「Here Comes Inspiration」でセルフカバーしている。B.J.の歌もいいけど、自作を歌うポールも本当に素晴らしい。2.「Rock And Roll Lullaby」は名曲にして名演。子供が若いシングルマザーとの苦労の人生を振り返る様は感動的。ザ・ダイヤモンズのデイヴ・サマーヴィルとザ・ブロッサムズ等によるビーチボーイズ風のコーラスと、ギター・インストルメンタルのスター、デュアン・エディーによる味のあるギターが、なんとも気持ち良くさせてくれる。本曲はシングルカットされて全米15位を記録した。多くの歌手が歌っているが、作者のバリー・マン本人による「Soul & Inspiration」2000のセルフカバーが最高!また本作のプロデューサー、スティーヴ・タレルがB.J.を招いて録音したバージョン(B.J.の「Living Room Sessions」 2013、スティーヴの「That Loving Feeling」 2015に各収録)も素晴らしい。3.「Happier Than The Morning Sun」は、作者スティーヴィ−・ワンダーによる録音が同年の彼のアルバム「Music Of My Mind」に収められている。なおスティーヴィーは、本曲でハーモニカを吹いている。新感覚のソウルを歌いこなせるB.J.の柔軟さ、彼が歌えるような曲を書けるスティーヴィーと、どっちが凄いのかな? 4.「Roads」、5.「Sweet Cherry Wine」は、バリー・マン、シンシア・ウェイル(2023没)の作品で、他アーティストによる録音はないようだ。ここでもバリー・マンがピアノ、エレキピアノを弾いている。A面最後の曲 6.「A Song For My Brother」は、作者のジム・ウェッブ本人のピアノ伴奏のみで歌われる。今は亡き兄に対する行いを悔いる曲で、張り詰めた感じの歌声が痛々しい。 同曲はその後「Wooden Planes」という別タイトルで、アート・ガーファンクルのアルバム「Watermark」1977に収められた。そこではピアノにオーケストラとコーラスが加わっている。

B面最初の曲はキャロルの 7.「A Fine Way To Go」(上述)。8.「Just As Gone」を書いたウェイン・カーソン (1943-2015)は、カントリー音楽のプレイヤー、作曲家、プロデューサーで、代表作はボックス・トップスやジョー・コッカーの「The Letter」1967 全米1位、1970 全米7位、ウィリー・ネルソンの「Always On My Mind」 1982 全米5位がある。作者による録音は「Life Line」1972に収録。9.「I Get Enthused」は、B.J.の若い頃からの友人マーク・ジェイムスの作品で、リトルフィートのようなファンキーなリズムによるロック曲だ。彼はB.J.初期のヒット曲「Hooked On A Feeling」 1968 全米5位の作者でもある。 その他の作品としては、エルヴィス・プレスリーの「Suspicious Minds」1969 全米1位等がある。同じ作者による 10.「Are We Losing Touch」は一転してソフト・アンド・メロウなサウンドで、ソウル歌手ナンシー・ウィルソン1973年のカバー(アルバム「I Know I Love Him」に収録)がある。カントリーとソウルの垣根を低くした新感覚の作品だ。11. 「We Have Got To Get Our Ship Together」の作者ボビー・ワインスタインは、テディ・ランダゾと一緒にリトル・アンソニー・アンド・ザ・インペリアルズの「Goin' Out Of My Head」1964 全米6位、「Hurt So Bad」1964 全米10位、ザ・ロイヤレッツの「It's Gonna Take A Miracle」1965 全米41位を書いた人で、共作者のジョン・ストロールとは「Cook Me Up Your Taste」1970 というアルバムを出している。最後はジョン・セバスチャン作 12.「The Stories We Can Tell」。カントリー調のとてもいい曲ですね。エヴァリー・ブラザーズの同タイトル・アルバム1972、ジミー・バフェットの「A1A」1974、トム・ペティの1980年のライブ録音(シングルB面、アルバムは1985年)等のカバー、「Tarzana Kid」1974、「Explore The Spoonful Songbook」 2021 (マリア・マルダーとのデュエット)というセルフカバーがある。

ということで、曲良し、歌良し、演奏良しの三拍子揃ったアルバム。キャロルの曲も彼女の作風からは異色の作品であるが、とても良い出来で、お勧め盤です。

[2023年7月作成]


G13 Mud Slide Slim And The Blue Horizon James Taylor (1972) Warner Brothers  
 


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar (1,2,3,4,5,6), Piano (7)
Danny Kootch: Electric Guitar (1,4), Percussion (1,6)
Carole King : Piano, Back Vocal (4)
Russ Kunkel: Drums, Percussion (1,4)
Leland Sklar: Bass
John Hartford: Banjo (2)
Richard Green: Fiddle (2)
Peter Asher: Percussion (1), Back Vocal (7)
Joni Mitchell: Back Vocal (1,6)
Kate Taylor: Back Vocal (4,7)
Gale Haness: Back Vocal (4)
Wayne Jackson, Andrew Love, Memphis Horn: Horns (1)

Peter Asher: Producer

1. Love Has Brought Me Around [James Taylor]
2. Riding On The Railroad [James Taylor]
3. Soldiers [James Taylor]
4. Mud Slide Slim [James Taylor]
5. Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox [James Taylor]
6. Long Ago And Far Away   [James Taylor]
7. Highway Song   [James Taylor]

1971年4月発売

 

本作については、ジェイムス・テイラー・ディスコグラフィーで詳しく述べているので、ここではキャロルの視点に立った内容を書きます。

キャロルにとって、ジェイムスのアルバムへのピアノ参加は、「Sweet Baby James」1970 G6 に続くもので、次作「One Man Dog」1972 G14 では、クレイグ・ダーギーに替わるため、これが最後となる。ジェイムスのツアーに参加し、ステージで歌うようになった彼女はシンガーとしての自信を深め、「Tapestry」 1971 C3のレコーディングに入る。A&M レコーディング・スタジオBでの録音作業時、スタジオAではカーペンターズが「A Song For You」1972、スタジオCではジョニ・ミッチェルが「Blue」1971、そしてサンセット・ブルーバード沿いの7ブロック先ではジェイムスが本作を録音していた。そういう状況のもとで、カーペンターズを除く3作については、ミュージシャンが行き来して作品間で相互に登場するようになり、キャロルも自作の録音をしながら、ピアノ奏者、バックシンガーとして本作に参加した。以上がキャロルの自伝を読んでわかった背景。

1.「Love Has Brought Me Around」では、ダニーのギターが出張っているが、セカンド・ヴァースが終わりギターソロが始まる前のところで、ピアノが表に出て印象的な音を奏でる部分がある。なおアルバムでは次の曲となる 「You've Got A Friend」には、キャロルのピアノは入っていない。2.「Riding On The Railroad」は、ジョン・ハートフォードのバンジョー、リチャード・グリーンのバイオリンというフォーク、ブルーグラス界からの強力プレイが楽しめるが、バックで鳴っているピアノがきっちりサポートしている。3.「Soldiers」は次作「One Man Dog」1972 G14 の世界に通じるこじんまりした曲で、キャロルのピアノも控え目。スローなラテン・ジャズのような 4.「Mud Slide Slim」では、後半ピアノが前面に出る部分がある他、ケイト・テイラー、ゲイル・ハーネスと一緒にコーラスを担当している。
 

5.「Hey Mister, That's Me Up On The Jukebox」は、随所に聞こえるピアノによるアルペジオが効果的。6.「Long Ago And Far Away」は、ジョニ・ミッチェルがハーモニー・ボーカルを付けているが、1972年のライブではキャロルが歌っていた。7.「Highway Song」は、ジェイムスとキャロルの二人がピアノ演奏でクレジットされているが、これは連弾によるもので、彼女が高音部を担当している。これも1972年のライブで、二人が並んで弾く姿を観ることができる。バックボーカルはケイト・テイラーとピーター・アッシャー。

前作「Sweet Baby James」1970 G6と同じく、1.と4.を除き、キャロルとダニーが同席する曲はなく、ピアノとギターが主張する曲をはっきり分けて、アルバム全体にメリハリをつけている。前作の成功により、自信と余裕を持った曲作りと演奏が、後に「レイドバック」と呼ばれるリラックスした雰囲気を醸し出して、聴いていて何とも気持ちが良い作品だ。

[2023年3月作成]


 
G15 少女 (Girl) 五輪真弓 (Mayumi Itsuwa) (1972) UMI (CBS Sony)  
 

Mayumi Itsuwa : Vocal, Acoustic Guitar
Carole King : Piano
Loren Newkirk : Harpsichord (1)
Kevin Kelly : Organ (2)
Charles Larkey : Bass
Bugs Pemberton : Drums

John Fischbach : Producer

1. 少女 (Girl) [Mayumi Itsuwa]
2. はと (Dove) [Mayumi Itsuwa]

Recorded at Crystal Sound Studio, Hollywood, CA, From July 6 To August 15, 1972
 

五輪真弓は1951年生まれなので、本作は彼女が21才の時の作品ということになる。当時としては画期的な海外録音、「UMI」という自主レーベルからの発表など、鳴り物入りでのデビューだったが、とりわけキャロルがピアノで参加した事は衝撃的だった。なけなしの小遣いをはたいて購入したが、固めな音楽が気に食わなかった思い出がある。当時の私はジェイムスやキャロル、ライ・クーダー等のリラックス(レイドバック)した音楽や、オールマン・ブラザース、クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング、日本では、はっぴいえんどや小坂忠を好んで聞いていたからだ。それでも圧倒的な彼女の歌声、そしてあのエキゾチックな南国風の容貌に、若い私は魅せられた。正直言って、本当に彼女の音楽が好きになったのは、しなやかで伸びやかな音楽性が出てきたライブ盤「冬ざれた街」1974 や、細野晴臣や鈴木茂が参加した「Mayumity」1975の頃からだった。その後はあまり縁がなくなり、彼女の曲を聴くこともなくなった。テレビなどから流れてくる場合を別として、今回本当に久しぶりに彼女の音楽を真剣に聴いてみた。このディスコグラフィー作成のためなんだけど、数十年を経て、私の音楽を受け入れる器は相当広く深くなっていたようで、それなりの感慨をもって聴くことができたし、それはそれでうれしい事であった。今回改めて聴いてみて、「固いな」という印象は変わらなかったが、クリスタルのような透明度、かつ芯の強さを感じた。大半の曲で彼女はギターを弾いており、その演奏からジョニ・ミッチェルの影響を強く感じるが、後年フランスでのレコーディングや、代表曲「恋人よ」1980にみられるようなシャンソンの香りが、ジョニの世界との違いを生んでいることを今回納得できた。

キャロルは10曲中2曲にピアノで参加(旦那のチャールズ・ラーキーは全曲に参加している)。聞いた話では彼女が来日した際に真弓氏のデモテープを聞かされ、感銘を受けたことがセッション参加のきっかけだったらしい。ギャラは1時間150ドルの破格だったという(キャロルの来日初公演は1990年なので、1971年に宣伝目的等で来日していたのかな? これ本当かな?)。スタジオでのキャロルは裸足だったと、昔真弓氏が語っていた事を思い出した。当時のウェスト・コースト、ヒッピー・カルチャーを偲べるエピソードだ。2曲ともセッション・ドラマーのバグス・ペムバートン(ジャッキー・ロマックスなどの作品に参加)が叩く少し重めのリズムがついた曲で、キャロルお馴染みのピアノの音を聴くことができる。ただし旦那も含め、当時参加した他のセッションと比べて遠慮気味な感じで、でしゃばらず、真弓氏の邪魔にならないよう配慮したのだろう。

1.「少女」は初期の代表曲だけあって、聞いた後に鮮烈な印象が残る。初期のニール・ヤングのような重めのビートとキャロルのピアノが曲のイメージを引き立てている。聞こえるストリングスは、クレジットにはないけど、デビッド・キャンベルかな?ハープシコードを弾いているローレン・ニューカークは、ジョン・スチュアート(G4)やクリス・ダーロウ(本作の他の曲でギター、マンドリンを弾いている)などのアルバムに参加している人。歌詞をよく聴き込むと極めて和風な内容で、矢野顕子じゃないけど「日本少女 (Japanese Girl)」という感じだね。これは良い歌で、本アルバム・ジャケットの印象的な写真とシンクロするね。2.「はと」を聴いたら、エルトン・ジョンの「Skyline Pigeon」 1969を連想した。歌詞の内容は全然違うけどね....。オルガンを弾くケヴィン・ケリーはジョーン・バエズのバックなどをした人らしい。

1972年という時代の日本では画期的な作品であったことは間違いない。

[2023年3月作成]


G16 Oh No, Not My Baby  Merry Clayton (1972) Ode (A&M)
 


Merry Clayton : Vocal
Carole King : Piano, Harmony Vocal
Unknown : Keyboards
Unknown : Vibes
David T. Walker : Guitar
Wilton Felder : Bass
Unknown : Percussion
Unknown : Drums

Lou Adler : Producer

1. Oh No, Not My Baby [Gerry Goffin, Carole King] C14 C20 S1


「After All This Time」1971 (G11参照)に続いて出されたシングルで、全米72位を記録した。本盤に関してはクレジットの情報がなかったが、後に同曲のリハーサル、レコーディング風景の動画がYouTubeに投稿され、それによりキャロルの参加を確認することができた(動画は「その他映像・音源(断片)」参照)。

「Oh No, Not My Baby」は、不実の噂がある恋人の誠実さを疑わない切ない気持ちを歌った曲で、1964年当初ザ・シレルズで録音されたが没となり、同じバッキング・トラックを使用したマキシン・ブラウンの歌で発売され、全米24位のヒットとなった。ダスティ・スプリングフィールド、ロッド・ステュアート (1973 全米59位)、シェール、リンダ・ロンシュタット等、数多くのカバーがある。異色なのはデビッド・キャシディとパートリッジ・ファミリーのバージョンだね。キャロル本人によるデモ(「The Legendary Demos」2012 S1にボーナス・トラックとして収録)は、弾き語りによるシンプルな演奏だったが、完成度高く聴きごたえ十分。正式録音は「Pearls」1980 C14、「Love Makes The World」 2001 C20 がある。

メリーのバージョンは、テンポを落としてじっくり歌っていて、コーラスパートのキャロルのハーモニー・ボーカルもバッチリはまり、曲を盛り上げるストリングスやブラスも効果的で、個人的にはマキシンよりこちらの方が好み。クレジット資料がないので、動画で確認できた人以外のパーソナルは不明。

録音風景の動画により、キャロルの参加が確認できた逸品。

[2023年3月作成]

[2023年3月追記]
ジョイサウンドのカラオケに入っています。誰も知らない曲なので、一人カラオケで歌いますが、最高に気持ちいいよ!


 
G17 Essence To Essence  Donovan (1973) Epic
 


Donovan : Vocal, Acoustic Guitar
Carole King : Piano
Tom Scott : Woodwinds
Andrew Powell : Strings

11. Sailing Homeward [Donovan Leitch]

 

ドノヴァン(本名 Donovan Philips Leitch 1946- )はスコットランド生まれ。フォーク歌手でデビュー後、プロデューサーのミッキー・モストと組んで、ケルト、ジャズ、ポップス、ロック、中近東などの音楽を融合させ、1966年に「Sunshine Superman」や「Mellow Yellow」などの大ヒットを出して若者の支持を集め、ザ・ビートルズとの親交により「White Album」1968に影響を与えた。1970年以降はイメージチェンジを図ろうとしたが乗り切れず、人気が低下してゆく。本作は、グラム・ロックに取り組んだ「コズミック・ホイールズ」1973の後に発表されたアルバム(厳密にはその間に日本でのみ発売された「Live In Japan」1973がある)で、ミッキー・モストと別れて制作した初めての作品となる。アルバム・ジャケットの東洋的な白装束にある通り、精神的・瞑想的な内容となり、その地味さから評価が低く、あまり売れなかった。1999年ドノヴァン来日時のインタビューから、当時の状況を知ることができた。彼は1970年代初頭、育児のため天気の良い米国ロサンゼルス郊外に移住したとのことであるが、音楽的な転機を求める動機もあったんだと思う。ただしレコード中袋のクレジットによると、録音はイギリスのスタジオで行われたそうで、そうすると本作に登場するアメリカのミュージシャンはイギリスに呼び寄せたか、滞在中に参加したことになる。あるいはクレジットにはないが、一部の録音はアメリカで行われたかもしれない。

キャロル・キングが参加した曲は「Sailing Homeward」で、ドノヴァンのギター、キャロルのピアノ、トム・スコットの木管とストリングスという小編成での演奏。アルバム最後の曲で、シンプルながら聴いた後に何とも言えない余韻が残る。この曲は1972年頃からステージで歌われていたようで、前述の「Live In Japan」1973にも含まれ、同年彼が笛吹きの役で出演した映画「Pied Piper (ハルメンの笛吹き)」1972の挿入歌にもなっている。ドノヴァンが奏でるギターのアルペジオに、途中からキャロルのピアノが絡み、ブリッジでは強めのコード打鍵を入れて、曲にインパクトを与える大事な役を担っている。

歌に寄り添う演奏で本領を発揮するキャロルらしいプレイだ。


[他の曲について]

[Side A]
1. Operating Manual For Spaceship Earth
2. Lazy Daze
3. Life Goes On
4. There Is An Ocean
5. The Dignity Of Man

[Side B]
6. Yellow Star
7. The Divine Daze Of Deathless Delight
8. Boy For Every Girl
9. Saint Valentine Angel
10. Life Is A Merry-Go-Round
11. Sailing Homeward

All Composed By Donovan Leitch

本アルバムにはアメリカとイギリスのミュージシャンが参加している。エコを歌った 1.「Operating Manual For Spaceship Earth」からウェスト・コースト的な明るく乾いたサウンドとドノヴァンの陰影あるボーカル、メロディー、歌詞が混ざり合って独特な雰囲気を醸し出す。バックはピーター・フランプトン(ギター)、ニッキー・ホプキンス(エレキピアノ)、カール・レイドル(ベース)、ジム・ゴードン(ドラムス)。ピーターのギターソロが聴ける。2.「Lazy Daze」、3.「Life Goes On」にはボビー・ウィットロックがオルガンとバック・ボーカルで加わるが、そうなると1970〜1971年に活動したエリック・クラプトンのバンド、デルク・アンド・ドミノスの面々ということになる。ジム・ゴードンの跳ねるようなグルーブが効いている。一転してスピリチュアルな内容で重々しい感じの 4.「There Is An Ocean」でウッドベースを弾いているのは、イギリスのグループ、ペンタングルにいたダニー・トンプソン。

5.「The Dignity Of Man」、8.「Boy For Every Girl」、10.「Life Is A Merry-Go-Round」は、ジェイムス・テイラーのバックをやっていたザ・セクション(ダニー・クーチ:ギター、クレイグ・ドルギー:ピアノ、リー・スクラー:ベース、ラッセル・カンケル:ドラムス)が伴奏。クリアーで明るいサウンドながら、ジェイムスの時と全く異なるサウンドになっているのが面白い。特に8.「Boy For Every Girl」は、ザ・セクションとハンブル・パイのスティーブ・マリオット(リードギター)という異色の共演。

他の曲 6.7.9.は英米のセッション・ミュージシャンによる伴奏で、6.と9.のヘンリー・マックロウ(ギター)、デニー・セイウェル(ドラムス) は、ポール・マッカートニーのバンド、ウィングスにいた人。6.「Yellow Star」はレゲエ調のリズムで本アルバムの中では毛色が変わった曲で、口直し的な役割を担っているのだろう。7.「The Divine Daze Of Deathless Delight」は、この中ではしっとりとした雰囲気で、ブリティッシュ臭い音作り。9.「Saint Valentine Angel」のピアノを聴くと、キャロルのプレイとのタッチの違い(良し悪しでなく個性の違い)がよくわかる。

過去の作品に見られたロック、ケルト、中近東、ジャズ風をミックスした作為的な感じは影を潜め、当時の先進的なシンガー・アンド・ソングライターのサウンドに、彼独特の繊細なボーカル、ファルセット・ヴォイスを乗っけたナチュラルな仕上がりになっている。当時は評価が低かったというが、今改めて聴くと、それなりに個性的・創造的で決して悪くはないと思う。

[お礼]
ドノヴァンに係る貴重な資料を提供いただきましたJさん、ありがとうございました。

[2024年1月作成]


G18 Press On  David T Walker (1973) Ode (A&M)
 

David T. Walker : E. Guitar
Carole King : Piano (2,3,4), Vocal (1)
Joe Sample : Keyboards (2,3)
Jerry Peters : Keyboards (1,4), Strings (2)
Charles Larkey : Bass
Harvey Mason : Drums, Orchestra Bells (2), Vibes (3)
Ms. Bobbye Hall : Percussion

Oscar Brasher : Trumpet (1,2,3)
Ernie Watts : Sax (1,2), Woodwinds (1,3,4)
George Bohanon : Trombone (1,2,3)

Lou Adler : Producer

1. Brother, Brother [Carole King]  C5
2. Didn't I Blow Your Mind [T. Bell, W. Hart]
3. I Who Have Nothing [Leiber, Stoller, Mogol, Donida]
4. If That's The Way You Feel [Kayjay]


キャロルのアルバム「Fantasy」1973 C6でバックを担当したデビッド T. ウォーカー(1941- )のバンドによるアルバムで、同じルウ・アドラーのプロデュースによるオード・レーベルから発売された。デビッドは、ソウル、ジャズ、R&B等幅広いジャンルをカバーするギタリストで、躍動的なリズムギターとコクウマのオブリガードが絶品。1970年代より無数のセッションに参加、特に日本での人気が高く、多くの邦人ミュージシャンのアルバム録音に参加、2000年代は日本のレーベルからアルバムを発表している。また日本人の熱心なファンによる詳細なディスコグラフィーのサイトもある。本作のリズムセクションは、キーボードを除き当時ライブハウスなどで演奏していたバンド仲間で、ベーシストがキャロルの夫君だった縁もあり、彼女のレコーディングやツアーにも参加していた。ライブで演奏していたこともあって、各ミュージシャンの息がピッタリ合っており、そこから生まれるグルーヴィーでソウルフルな雰囲気が本当に素晴らしい。それに加えて、西海岸でトップのスタジオ・ミュージシャンによるブラスセクションが加わり、丁々発止のインタープレイを繰り広げるのだから、堪んないですね〜!

1.「Brother, Brother」は、キャロルの「Music」1971 C5からのカバーで、デビッドのタメの効いたギターがソウルフルにメロディーを奏でる。バックで時折「brother, brother」、「talkin' 'bout」といった声が入るが、クレジットにはないけどキャロルの声であることは明白。エレキピアノを弾いているジェリー・ピーターズはアレンジもこなす人で、ドナルド・バード、クインシー・ジョーンズ、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、マーヴィン・ゲイ、リー・リトナー、ボズ・スキャッグス、トム・スコット等のセッションに顔を出している。バックで聞こえるブラス、フルートがカッコイイ!チャールズ・ラーキーのベースラインも、とてもメロディックかつクリエイティブなもので、当時絶好調のハーヴェイ・メイソンのドラムス、ボビー・ホールのパーカッションとのコラボにより湧き出るグルーヴ感が最高。2.「Didn't I Blow Your Mind」は、ザ・デルフォニクス(「La La Means I Love You」で有名なフィラデルフィアのコーラスグループ)1970年のヒット(全米10位)で、作者のトム・ベルのレーベル、ベルレコードから発売された。ストリングスとブラスをバックに、ギターがゆったり・じっくりとバラードを歌い上げてゆく。クルセイダーズのジョー・サンプルはエレキピアノを弾き、キャロルはピアノを弾いているようだ。このようなポップ、ソウル調の曲が入ることにより、フュージョン、ジャズのアルバムと異なる雰囲気を作り上げるのがプロデューサーの狙いだ。3.「I Who Have Nothing」は、イタリアの歌曲「Uno Dei Tanti」にジェリー・リバーとマイク・ストーラーのコンビが英語の詩を付けた曲。1963年のベン E. キングがオリジナル(全米23位)で、イギリスのシャリー・バッシーも好んで歌った(全英6位)が、トム・ジョーンズによる1970年のカバー(全米14位)が最も有名。ここでも2.と同じような布陣で、最初はクールに、後半になるとだんだん熱を帯びてきて、エンディングでのデビッドのプレイは狂おしいほどエモーショナルになる。それを支えるキャロルの力強いピアノが効果的だ。4.「If That's The Way You Feel」については、曲の由来に関するデータが見当たらなったので詳細は不明。左右のチャンネルから各聞こえるエレキピアノは、ジェリー・ピーターズとジョー・サンプルと思われるが、3人目のキャロルらしい音はよく聞こえない。後半では当時流行ったワウワウ・ペダルによるギターサウンドが楽しめる。


キャロル非参加のトラックでも素晴らしい曲がたくさんある。冒頭の曲 「I Got Work To Do」による軽やかなグルーブ感!ブラスセクションの各プレイヤーがとるソロも味があっていいよ!「Press On」は、「前に向かって進もう」という意味のファンキーな感じの曲で、珍しくデビッドが歌っている。スティーヴィー・ワンダーの「Superstation」のアレンジも面白い。中でも一番なのは、ビートルズの「With A Little Help From My Friends」のカバーで、イメージ的にはジョー・コッカーのバージョンに近い。中盤でテンポが変わる場面で、デビッドがリズムを刻みながらメロディーを奏でる場面は、何度聞いてもスリリングで興奮させられる。

インストルメンタル・アルバムなのに、何度聴いても飽きないのは、デビッドのギターの歌心とバンドとブラスによるの心地よいグルーヴ感によるものだ。本作は長らく廃盤となっていたが、2007年に日本のみで、オードレーベルの他2作とともに初CD化された。キャロルの当時の夫君、チャールズ・ラーキーのベースプレイの凄さを、これでもかと味わえる逸品。

[2013年1月作成]


 
G19 Tufano - Giammarese (1973) Ode (A&M)  
 

Dennis Tufano : Vocal, Harmonica, Guitar
Carl Giammarese : Vocal, Electric Guitar
David T. Walker : Electric Guitar
Carole King : Piano
Wilton Felder : Bass
Jim Gordon : Drums
Miss Bobbye Hall : Bongs, Conga

Lou Adler : Producer

1. Music Everywhere [Carl Giammarese]
4. Rise Up [Dennis Tufano]

 

ザ・バッキンガムズは、1966年〜1968年の短期間に活躍したイリノイ州シカゴのグループで、後にシカゴを手掛けるジェームス・ウィリアム・ガルシオがプロデュースを担当、ブラスをフィーチャーしたサウンドで人気を博した。代表作は「Kind Of Drag」 1966 全米1位、「Don't You Care」 1967 同6位、ナット・アダレイのジャズ・チューンをアレンジした「Mercy, Mercy, Mercy」 1967 同5位などがある。

本作品は、ザ・バッキンガムズのメンバーだったデニス・トゥファノ とカール・ギアマレーゼが結成したデュオによる最初のアルバムで、プロデューサーを務めたルウ・アドラーのレーベル、オードから発売された。ブリティシュ・ポップ風だったザ・バッキンガムズとは打って変わり、爽やかなウェストコーストのサウンドになっている。そして爽やかなボーカル・ハーモニーと声がスティーブン・スティルスに似ていたため、「CSNY風」という評価をする人が多かった。

1.「Music Everywhere」は、アコースティックギターのカッティングから始まる軽快なナンバーで、リズムセクションの跳ね様が凄い。ドラムスのジム・ゴードンはセッション・ミュージシャンとして無数の録音に参加した他、エリック・クラプトン率いるデルク・アンド・ドミノスでの演奏が特に有名。1980年代以降は精神を病んで殺人を犯し、2023年亡くなるまで投獄されるという悲しい人生を送った。ベースのウィントン・フェルダーはクルセイダーズのメンバーで、セッション・ミュージシャンとしても有名。キャロルは当時行動を共にしていたデビッド T ウォーカー (ギター)と一緒に参加している。4.「Rise Up」では、デニス・トゥファノのハーモニカがフィーチャーされる。両曲ともアコースティック・ギター主体のサウンドで、ハーモニー・ボーカルが素晴らしい。そこに音を入れ込むキャロルのピアノがとてもいい感じで、デビッドのギターも短いパッセージながらも彼らしいプレイをみせている。

他の曲について。

[Side A}
1. Music Everywhere [Carl Giammarese]
2. Wednesday Down [Dennis Tufano]
3. I'm A Loser [Lennon, McCartney]
4. Rise Up [Dennis Tufano]
5. Just A Dream Away [Carl Giammarese]
6. Here We Are [Dennis Tufano]

[Side B]
7. Communicate [Dennis Tufano]
8. Show Me If You Can [Carl Giammarese]
9. She Takes Me There [Dennis Tufano]
10. Can You Say What You Need [Carl Giammarese]
11. Take Me Back [Carl Giammarese]
12. Give Youself A Dream [Carl Giammarese]

他の曲もアコースティックギターによるスリーフィンガー、コードストロークがメインの音作りで、ジム・ゴードンのドラムスが入らない静かな曲では、キャロルの初期のアルバムに参加したボビー・ホールがパーカッションを担当している。3.「I'm A Loser」は、ザ・ビートルズのアルバム「For Sale」1964に入っていた曲で、フォーク・チューンへのアレンジが見事。

彼らはその後 2枚のアルバムを発表して解散、その後カール・ギアマレーゼは、ソロ活動とザ・バッキンガムズの再結成、デニス・トゥファノはソロ活動を続けている。

50年経った今となっては、忘れ去られた感があるが、捨てがたい魅力のある作品。

[2023年10月作成]


G21 Los Cochinos  Cheech & Chong (1973) Ode (A&M)
 





Cheech Marin : Vocal (Falsetto)
George Harrison : Electric Guitar
Carole King : Electric Piano
Nicky Hopkins : Piano
Billy Preston : Organ
Klaus Voormann : Bass
Jim Karstein : Drums
Jim Keltner : Percussion
Tom Scott : Sax

George Bohanon, Dick "Slyde" Hyde, Paul Hubison : Brass (Horny Guys)
Darlene Love, Fanita James, Jean King, Michelle Phillips, Ronnie Spector: Back Vocal (Cheerleaders)

Lou Adler: Producer

1. Basketball Jones featuring Tyrone Shoelaces [Cheech Marin, Tommy Chong]


写真中: シングル盤ジャケット
写真下: シングル盤ラベル(いたずら書きが傑作)
 

チーチ・アンド・チョンは、チーチ・マリンとトミー・チョンからなる音楽、コメディ・コンビ。ロックバンド解散後にハリウッドに移り、1970年代〜1980年代にマリファナとヒッピーを取り扱ったコメディ、映画、音楽で人気を博した。「Los Cochinos」1973は3枚目のアルバムで、グラミー賞ベスト・コメディ・アルバムを受賞。そこからシングルカットされた「Basketball Jones」は、全米15位のヒットとなった。

マリファナの匂いがプンプンしそうな変形ジャケットが傑作なアルバムで、ほとんどのトラックが二人によるトークからなる。その中での音楽付きが 1.「Basketball Jones」だ。ホーン、コーラスを含む大編成のバンドをバックにチーチ・マリンがファルセットで語るように歌う。この曲には元歌があって、シカゴの R&Bボーカルグループ、Brighter Side Of Darkness のワンヒット・ワンダー(1972年全米16位) 「Love Jones」で、語りのボーカルとメロディアスなコーラスの対比が美しい曲だった。チーチ・アンド・チョンは、それを元にバスケットボール中毒のタイロン・シューレイセズ(「Tyrone」は「Tie Your Own」のもじり)というキャラクターの話を創りあげている。また「Jones」という言葉も、隠語で「中毒者」を指しているのもミソ。

もともとはトミー・チョンのピアノ伴奏のみで始まった曲だったが、プロデューサーのルウ・アドラーが同じビルの別スタジオにいたジョージ・ハリソン達にこの曲の話をしたところ、大いに乗り気になり、たちどころに音楽を創リ上げたという。キャロルの参加は、ルウが電話で彼女を呼び出したらしい。それにしても凄い面子で、ジョージ人脈のミュージシャンが勢揃いしている。ドラムスのジム・カーステインは、主にJ.J.ケールやエリック・クラプトンのバックをやっていた人。ホーンセクションはキャロルのレコーディングでもお馴染みのLAトップのセッションマン達、そしてチアリーダーとクレジットされたバックボーカルは、当時セッションで引っ張りだこだったザ・ブロッサムズの3人(ダーレン、ファニタ、ジーン)にママス・アンド・パパスのミシェル・フィリップス、ロネッツのロニー・スペクターといった錚々たる面々だ!キャロルはエレクトリック・ピアノで参加とあるが、大編成の音楽の中に埋もれている。ここではジョージのエレキギターが決まっているね。

それにしてもこんな曲がヒットするなんて、アメリカ人の笑いのツボは日本人とはちょっと違うんだろうな〜。向こうのショービジネスの奥の深さを感じてしまう。

キャロル参加曲の中でも珍品中の珍品。

[2023年4月作成]


 
G22 Playing Possum  Carley Simon (1975) Elektra  
 

Carly Simon : Piano, Vocal, Back Vocal
Andrew Gold : Guitar
Willie Weeks : Bass
Jim Gordon : Drums
Eddie Bongo : Conga
Carole King, Abigale Haness, Kenny Moore : Back Vocal
Paul Riser : Strings & Horn Arrangement
Richard Perry : Producer

6. Artitude Danceing [Carly Simon, Jacob Brackman]

 

本作はカーリー 5枚目のアルバムで、「Hotcakes」1974 と「Another Passenger」1976の間に位置する。リチャード・ペリーによるポップ路線3枚目かつ最後の作品だ。これまでの成功に安住せずに新たな世界を目指す過渡期の作品と位置づけられ、次作よりプロデューサーが変わり、よりアダルトなジャズ、R&B色を強めてゆく。白黒写真の名手ノーマン・シーフによる衝撃的なジャケット写真が本作を象徴していて、若き日の私は、アルバムを手にして彼女の大胆な大人の姿にドギマギした記憶がある。ジェイムス・テイラーとの結婚生活が順調だった頃の作品で、私小説的な色彩が強い曲には感情の細やかさ、激しさが垣間見え、当時の彼女の安定した精神状態がうかがえる。

キャロルが参加した6.「Artitude Dancing」は、本作から最初のシングルカットで、全米21位を記録した。カーリー独特のメロディー・ラインでありながら、ジム・ゴードンのドラムスとウィリー・ウィークスのベースのリズムセクションによるグルーヴを加えて、当時流行り始めたディスコ音楽の香り付けをしている。コーラス部分で、カーリーが「Artitude Dancing」というリフを担当する一方、キャロルは、ちょっと聴いただけで彼女とすぐにわかる声でメインの歌詞を歌っている。一緒に参加したジョー・ママのヴォーカリスト、アビゲイル・ハーネスは控え目であまり目立たない。

他の曲についても簡単に説明しよう。

Side A
1. After The Storm [Carly Simon]
2. Love Out In The Street [Carly Simon]
3. Look In My Eyes [Carly Simon]
4. More And More [Mac Rebennack, Alvin Robinson]
5. Slave [Carly Simon, Jacob Brackman]

Side B
6. Artitude Dancing [Carly Simon, Jacob Brackman]
7. Sons Of Summer [Carly Simon]
8. Waterfall [Carly Simon]
9. Are You Ticklish [Carly Simon]
10. Playing Possum [Carly Simon]

何と言っても、ジェイムス・テイラーがギター、ボーカルで参加している3曲がハイライト。以下彼のディスコグラフィーにおける本アルバムに関する記事を引用します。

1.「Look Me In The Eyes」はカーリー特有のメロディーに溢れた曲で、二人で弾くギターのアルペジオが曲調を決めている。「愛してくれるときは、目を見て」という歌詞が官能的な香りに満ちて印象的。2.「Slave」はストリングとピアノ主体の演奏で、ジェイムスのギターのアルペジオと、リー・リトナーのマンドリンが小さく聞こえる。「奴隷になるために生まれてきた女。貴方を求め、憧れ、恋焦がれる」という熱烈な歌詞だけど、ちょっと感情が空回りしているかな? 本作の中では文句なしベストの 3.「Waterfall」は、非常に印象的なメロディーと軽快なリズムの曲。彼のアコギも要所で聞こえるほかに、コーラスでカーリーと共に歌うジェイムスの声がはっきり聞こえる。中間部の彼の「アーアー」、特にエンディング部分の二人による「ラララ」はゴージャス。タイトル曲の 4.「Playing Possum」は「タヌキ寝入り」という意味で、昔知っていた人の様変わりをシニカルに歌う。「Now are you playing possum」というコーラスで、ジェイムスはハーモニー・ボーカルを担当、「possum」という言葉に特に力を込めて歌っているので、エキセントリックな雰囲気だ。

その他では、ドクター・ジョン(マック・レベナック)の曲で、彼がピアノで参加している 4.「More And More」がニューオリンズ風で異色。これはカーリーというよりも、プロデューサーのリチャード・ペリーが成した技だろう。


キャロル参加の 6.「Artitude Dancing」は、バックコーラスであるが、彼女の声がはっきり聞き取れるので、ファンにとって大変美味しい作品になった。

[2023年11月作成]


 
G23 Wind On The Water  Crosby & Nash (1975) ABC   
 

David Crosby : Vocal, Piano (3), Electric Guitar (9)
Graham Nash : Vocal, Organ (9)
Carole King : Electric Organ (3), Piano (9), Harmony Vocal (9)
Danny "Kootch" Kortchmar: Electric Guitar
Craig Doerge : Electric Piano
Leland Sklar : Bass
Russ Kunkel : Drums

3. Bittersweet [David Crosby]
9. Homeward Through The Haze [David Crosby]

 

1960年代末から1970年代初め、クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュ・アンド・ヤング(CSNY) は飛ぶ鳥を落とす勢いで、若い私にとってアメリカへの憧れそのものだった。アルバム「Deja Vu」1970、「4 Way Street」1971をよく聞いたものだ。4人のなかでは比較的地味だったデビッドとグラハムは、グループの活動停止後は 1971年に各々ソロアルバム、1972年二人で「Crosby & Nash」を出し、グラハムは1973年ソロ「Wild Tale」を発表した。その後1974年のCSNY再結成ツアーは大いに話題となったが、いろいろトラブルもあったようで、アルバム発売に至らず、1975年のデュオ2作目の本作となった。そして1977年以降はクロスビー・スティルス・アンド・ナッシュの活動開始という経緯をたどる。二人による最初のアルバムは少し地味な印象だったが、本作はとっつきやすくなった感がある。バックを務めるのは、ジェイムス・テイラーのバンドだったザ・セクションの連中に、当時ジャクソン・ブラウンと一緒に活動していたデビッド・リンドレー。そしてジェイムス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、キャロル・キングがゲスト参加している。

キャロルは2曲に参加。3.「Bittersweet」は愛と真実の確執を歌った曲で、デビッドらしい硬質のラブソングだ。キャロルはオルガンで参加とクレジットにあるが、聞こえてくるのはデビッドのピアノとクレイグ・ドルギーのエレクトリック・ピアノで、オルガンは背景に埋もれていて聴き取ることができなかった。9.「Homeward Through The Haze」でのピアノは、ちょっと聞いただけですぐにキャロルとわかる。またキャロルのハーモニー・ボーカルは、グラハムの声が控え目なため、はっきり聞き取ることができる。


他の曲について。

Side A
1. Carry Me [David Crosby]
2. Mama Lion [Graham Nash]
3. Bittersweet [David Crosby]
4. Take The Money And Run [Graham Nash]
5. Naked In The Rain [David Crosby, Graham Nash]
6. Love Worked Out [Graham Nash]

Side B
7. Low Down Payment [David Crosby]
8. Cowboy Of Dreams [Graham Nash]
9. Homeward Through Haze [David Crosby]
10. Fieldworker [Graham Nash]
11. To The Last Whale......
 a. Critical Mass [David Crosby]
 b. Wind On The Water [Graham Nash]

ジェイムス・テイラーが参加した 1「Carry Me」、 11「To The Last Whale.....a. Critical Mass b. Wind On The Water」がハイライトかな。前者はデビットの作品してはシンプルで聴きやすい曲で、シングルカットされ全米52位を記録している。後者はアカペラの「Critical Mass」と捕鯨反対を歌うトピカルソング 「Wind On The Water」からなる。捕鯨問題については本作発表後50年経過して、当時よりは大分好転したと思われるが、いろんな問題は残っているようだ。 ジェイムスは両者にギター、後者にバックボーカルで参加している。

2.「Mama Lion」、10 Fieldworker」では、デビッド・リンドレーのスライドギターのソロを聴くことができる。彼とザ・セクションとの共演という面白い取り合わせだ。4.「Take The Money And Run」はCSNYのツアーでのお金のゴタゴタを歌った厳しい感じの歌で、デビッド・リンドレーのフィドルがフィーチャーされる。6.「Love Worked Out」はジャクソン・ブラウンがコーラスで参加。またダニー・クーチのハードなギターソロを聴くことができる。7「Low Down Payment」では、ジェイムスの曲で聴ける。いつものダニーらしいギターソロがある。8「Cowboy Of Dreams」カントリーソング風。それにしてもこのアルバムでのザ・セクションンの演奏は、ジェイムスの伴奏の時と全く異なる音作りになっていて、彼らの演奏力、プロデューサー、アーティストの力量の凄さがわかるね。


ハーモニー・ボーカルでのキャロルの歌声が楽しめ、ジェイムス・テイラーが参加する曲もある。

[2023年12月作成]


G24 Glenda Griffith  Glenda Griffith (1977) Ariola   


 

Glenda Griffith : Vocal
Waddy Wachtel : Electric Guitar (7)
Carole King : Piano
Kenny Edwards : Bass (7)
Don Henley : Drums (7), Harmony Vocal (7)
J.D. Souther, Tim Schmit : Harmony Vocal (7)

Don Henley, Jim Ed Norman : Producer

7. Eagel [Carole King]  C13
8. Heavenly Island [Glenda Griffith]

 

グレンダ・グリフィスは、カリフォルニア州生まれで、アリゾナ、テキサス、カンサス等の南西部で育った。最初は絵画に夢中だったが、教会でゴスペルを歌いだし音楽を志すようになったそうだ。コロラド州アスペンのローカルバンドで歌っていたところをイーグルスのドン・ヘンリーに見いだされ、二人は恋に落ちる。そんな彼女が彼のプロデュースで制作したアルバムが本作だ。ドンの人脈により、イーグルスやウェストコーストの著名ミュージシャンが大勢参加した。しかし二人の蜜月は短期だったようで、豪華な顔ぶれで作られたにも関わらず、マイナー・レーベルから発売され、宣伝も十分になされなかったせいか、あまり売れずに忘れ去られてしまった。それでも熱心なイーグルス・ファン等から支持され続け、特に日本や韓国で再評価されてCD化された。彼女はその後も地道な音楽活動を続けていたそうで、2001年に「Secret Eyes」というアルバムを自主制作している。

キャロルは2曲に参加しているが、本作が発表された1977年は、彼女のアルバム「Simple Things」の頃で、リック・エヴァーズと出会い、これまでの音楽仲間と別れて公私ともに新しい世界を目指していた時期となる。そう言えば、リックと初めて会ったのは、ドン・ヘンリーのパーティー会場で、彼はイーグルスやJD サウザーの革ジャンを作っていると紹介されたという記載が自伝にあったな。ということで、本作への参加の経緯には何か因縁じみたものがある。キャロルが提供した7.「Eagle」は、後1977年の「Touch The Sky」C13でセルフカバーされる曲。力強い歌詞とメロディーから、新たな挑戦への強い決意が感じられる佳曲だ。ドン、JD、ティモシーのイーグルス人脈によるハーモニー・ボーカルが豪華。グレンダの自作曲 8.「Heavenly Island」 では、キャロルお馴染みの弾き語りピアノ伴奏を聴くことができる。

他の曲について

[Side A]
1. Angel Spread Your Wings [Danny O'Keefe]
2. The Valentne Pieces [Danny O'Keefe]
3. Night Eyes [Glenda Griffith]
4. Don't Worry [Marty Robbins]
5. Quits [Danny O'Keefe]

[Side B]
6. I Can't Dance [Tom T. Hall]
7. Eagle [Carole King]
8. Heavenly Island [Glenda Griffth]
9. Isn't That So? [Jesse Winchester]
10. All My Friends [Danny O'Keefe]

注: 上記の曲順はセカンド・プレスからで、ファースト・プレスはA面・B面が逆になっています。

キャロルの曲以外は、ワシントン州出身のシンガー・アンド・ソングライター、ダニー・オキーフの曲が4曲、ジェシー・ウィンチェスター、カントリー・シンガーのマーティーー・ロビンスとトム T. ホールの作品が1曲づつ、それと2曲の自作曲という構成。カントリー・ロック風の音楽からはギラギラした野心は感じられず、楽しんで歌っている様がうかがえる。この無欲な態度から、彼女がその後アルバムを出し続けるような強いパーソナリティーを持っていなかったことがわかる。そこが同じような音楽をやっていたリンダ・ロンシュタットと大きく異なるところ。しかし、その純粋な取り組み姿勢に豪華な参加メンバーによる良質なアレンジ、演奏が加わって、それなりに特異な作品になったといえる。

参加メンバーの点で特筆すべき曲は、1.「Angel Spread Your Wings」。この曲のみダニー・クーチ、ラス・カンケル、クレイグ・ドルギーのザ・セクションの連中(何故かベースのみリー・スクラーでなく、ケニー・エドワーズ)とダン・ダグモア(スティール・ギター)がバックを務めているのだ。ギターにダニー・クーチ、ドン・フェルダー、ジョー・ウォルシュ、ワディ・ワクテル、アンドリュー・ゴールド、スティール・ギターにダン・ダグモア、スヌーキー・ピート、ベースにティム・シュミット、ウィリー・ウィークス、ケニーエドワーズ、ドラムスにドン・ヘンリー、ラス・カンケル、パーカッションにホビー・ホール、スティーブ・フォアマン、そしてハーモニー・ボーカルにヴァレリー・カーター、カーラ・ボノフ、JD サウザー、ドン・ヘンリー、ティム・シュミットといった超豪華な人達が参加しており、彼らの演奏・歌声を聴くのも大きな楽しみになる。


キャロルの名曲「Eagle」のオリジナル・リリースを聴くことができる。

[2023年11月作成]


 
G25 Listen  Navarro (1977) Avatar (Capitol)   
 




Mark Hallman : Guitar, Keybords, Vocal
Robert McEntee : Lead Guitar, Keyboards, Back Vocal
Carole King : Piano (8), Harmony Vocal (9)
Rob Galloway : Bass
Miguel Rivera : Percussion
Michael Wooten : Drums, Timbales (9)
Richard Hardy : Flute

Navarro, Norm Kinney : Producer

8. Caught In The Door [Mark Hallman]
9. Laying My Life Down [Mark Hallman]


写真下: レーベル・デザイン  


キャロルのアルバム「Simple Things」1977 C11、「Welcome Home」1978 C12のバックを務めたナヴァロが、彼女のサポートを得て同時期に制作したファースト・アルバムで、C11と同じく彼女のレーベル、アバター(キャピタル配給)から発売された。プロデューサーやリック・エヴァースによるレーベル・デザインも同じだ(C11の写真参照)。キャロルの自伝にはナヴァロについての言及は1箇所しかなく、そこにはコロラド州ボルダーでダン・フォーゲルバーグのバックを担当していた彼らと親しくなった、ロサンゼルスとボルダーを行き来して一緒に演奏・曲作りをするうちに、彼らとその家族・友人達が彼女の団欒の場になった、と書かれている。彼らはコロラド州を活動拠点とするバンドであるが、ウェストコーストの洗練された香りが混じり合って、個性あるアダルト・ミュージックになっている。

キャロルは2曲に参加。8.「Caught In The Door」は、アコースティック・ギターとフルートによるイントロからマーク・ホールマンが歌う。 映像作品「One To One」 1982 E3で聴いたあの声だ。彼はその後も「One To One」1982 C15までキャロルのアルバムにプロデューサー、ミュージシャンとして参加し、その後は地元でプロデューサーとして活動を続けた。途中からピアノが加わり、キャロルだなとはっきり分かる演奏。9.「Laying My Life Down」は「命を賭けよう」という意味で、コーラス部分でキャロルのハーモニー・ボーカルが入り、精神面での力強さを感じられる曲。中袋に歌詞が載っているので有難いね。

他の曲について

Side A
1. Listen [Mark Hallman]
2. Newborn Highway [M. Hallman, M. Andes]
3. Both Ends Of The Game [Robert McEntee]
4. Trying For The Sun [Mark Hallman]
5. About You [Robert McEntee]

Side B
6. You [Robert McEntee]
7. One Of Those Days [Robert McEntee]
8. Caught On The Door [Mark Hallman]
9. Laying My Life Down [Mark Hallman]
10. What It Is [Robert McEntee]

マーク・ホールマンとギタリストのロバート・マッケンティーの作品が半分づつといった構成で、両者の作風の違いがはっきりわかる。1.「Listen」は自然との調和を歌う「Simple Things」 C11に近い内容で、爽やかなサウンド。ちなみにこのアルバムのクレジットには「地球のエネルギー・資源の保全に捧げる」、「砂糖や保存料無添加」といったエコ的なコメントが記されている。ロックというよりもアコースティックな曲が多いが、5.「About You」は短くシンプルな歌詞に対し、ロバートのギターとリチャードのフルートがラテン・ジャズ風に歌うAORの佳曲。シングルカットされた7.「One Of Those Days」もアダルトな感じの曲で、ストリングス・アレンジはデビッド・キャンベル。

ナヴァロは1978年にセカンド・アルバム「Straight To The Heart」を出したが、どちらもあまり売れなかったようだ。後の2005年にセカンドアルバムがCD化されたが、その際に本アルバムの「Listen」とB面5曲がボーナストラックとして収録された。


「Simple Things」1977 C11につながる音楽が楽しめる。AOR好きな人にもお勧め。キャロルのハーモニー・ボーカルが聴けるよ!

[2023年12月作成]


  
G26 Kid Blue  Louise Goffin (1979) Asylum    

 

Louise Goffin: Piano, Vocal
Carole King, Don Henley, J.D. Souther: Back Vocal
David Paich: Organ
Danny Kortchmar, Steve Lukather: Guitar
Ken Edwards: Bass
Michael Baird: Drums
Peter Asher: Percussion
Davis Campbell: Strings Arragement

Danny Kortchmar: Producer

10. Singing Out Alone [Louise Goffin, Billie Hipple]

 

ルイーズ・ゴフィン(1960- ) はキャロル・キングの長女で、本作は彼女が19歳の時のデビューアルバム。それ以前は母親のアルバム「Wrap Around Joy」1974 C8 の「Nightingale」や「Really Rosie」1975 C9に妹のシェリーと一緒にバック・ボーカルで参加している。彼女は1977年にキャロルがリック・エヴァースとアイダホに移住した際、すでにレコード会社と契約していたこともあり、ロサンゼルスに留まった。その頃彼女はトルバドーでジャクソン・ブラウンの前座としてステージ・デビューを果たしたが、アルバム制作・発表は彼女の高校卒業後の1979年となった。アルバムはダニー・コーチマーのプロデュースのもと、LAの一流スタジオ・ミュージシャンを集めて行われ、カバー2曲、ダニー作の1曲を除き彼女の作品または共作になっている。

キャロルが参加した10.「Singing Out Alone」は最後の曲で、ドン・ヘンリー、J.D. サウザーと一緒という豪華なバックコーラス隊になっている。デビッド・ペイチ、スティーブ・ルカサーといったTotoの連中とリンダ・ロンシュタットと演っていたケン・エドワーズがバックを担当している。

Side A
1. Kid Blue [Louise Goffin, Billy Hipple]
2. All I've Got To Do [Lennon, McCartney]
3. Hurt By Love [Danny Kortchmar]
4. Red Lite Fever [Danny Kortchmar, Louise Goffin]
5. Remember (Walking In The Sand) [George Morton]

Side B
6. Jimmy And The Tough Kids [Louise Goffin]
7. Angels Ain't For Keeping [Louise Goffin]
8. Long Distance [Louise Goffin]
9. Trapeze [Louise Goffin]
10. Singing Out Alone [Louise Goffin, Billy Hipple]

他の参加ミュージシャンは、ドン・グロルニック(キーボード)、ワディ・ワクテル、マイケル・ランドウ(ギター)、リー・スクラー、マイク・ポーカロ(ベース)、デビッド・ケンパー、ラス・カンケル(ドラムス、デビッドはスタジオ・ワークの他にフォーカス、ジェリー・ガルシア・バンド、ボブ・ディラン等と演奏した人)など。5.「Remember (Walking In The Sand)」は、「Leader Of The Pack」1964 全米1位が代表曲のザ・シャングリラス1964年全米5位のヒット曲のカバーで、シングルカットされて全米43位を記録した。ザ・ビートルズの 2.「All I've Got To Do」は 2枚目のアルバム「With The Beatles」1963に入っていたR&B調の曲で、ここではポップなアレンジが施されている。

ダニーとルイーズの作品(共作を含む)については標準的なレベルで、本人の歌唱・バックの演奏もいい感じに聞こえるが、残念ながら印象に残るような曲がなく、結果として本作からは歴史に残る曲が出なかった。キャロル・キングの娘という話題性よりも、レッテルを貼られて比較されるというハンディのほうが重かったはずで、これでは売れないね。聴いてて面白かったのは、6.「Jimmy And The Tough Kid」でJTの新旧ギタリスト、ダニー・コーチマーとマイケル・ランドウの共演が聴けることだ(といってもオーバーダビングだから一緒に演奏したわけではないと思うけど)。二人の共演は私が知る限りこれだけという珍品。

なお日本盤では、当時2枚目のアルバム「University Street」を出した竹内まりやが解説文を書いている。

ルイーズ・ゴフィンはその後もアルバムを発表し続け、2002年にはテレビドラマ「Gilmore Girls」の主題歌「Where You Lead」(「Tapestry」収録曲の再録音)O12で母親と共演、2008年に自身のレーベルを設立している。また2011年にキャロル最後のアルバム「A Holiday Carole」C22のプロデュースを担当した。現在は若者へのソングライティング指導や両親のレガシー保存のために設立された「ゴフィン&キング財団」の役員として活動している。

お馴染みの一流ミュージシャンの伴奏で、そこそこの曲をそこそこの歌唱で楽しむことができる。前述の通り、核になるような突出した曲があったら良かったのにと思われる作品。

[2024年3月作成]


G27 Too Old To Change  Jerry Jeff Walker (1979) Elektra    


 

Jerry Jeff Walker : Vocal, Acoustic Guitar
Carole King : Vocal
Dave Perkins : Acoustic Guitar
Leo LeBlanc : Pedal Steel Guitar
Reese Wynans : Piano
Johnny Gimble : Fiddle, Mandolin
Bobby Rambo : Bass
Richard Price : Bass (Over-Dub)
Mark Hallman : Drums

3. I'll Be Your San Antone Rose [Susanna Clark]

 

ジェリー・ジェフ・ウォーカー (1942-2020) は、ニューヨーク州オニオンタ(ニューヨークの北、オーバニーとシラキューズの中間にあり、ニューヨーク州立大学がある町)出身で、1960年代にグリニッジ・ビレッジに住んで音楽を志し、1968年にアルバム「Mr. Bojangle」を発表して成功を収める。その後1970年にテキサス州オースチンに移住して、現地のアウトロー派カントリー・ミュージシャンと親交を持った。1980年代以降は自己レーベルからアルバムを発表しながら、地元に根差した活動で多くの固定ファンを獲得し、特に誕生パーティーは同地における巨大イベントとなり、「テキサスのジミー・バフェット」と呼ばれた。

キャロルは当時恋人だった(後に結婚)リック・ソレンセンの勧めで、テキサス州オースチンを本拠地としていたジェリー・ジェフ・ウォーカーのバンドをアルバム「Touch The Sky」1979 C13のレコーディングに起用した。そのお返しとして彼女は同時期に録音された本アルバムにゲスト参加したものと思われる。

3.「I'll Be Your San Antone Rose」はカントリー・ソングそのものといった感じで、作者のスザンナ・クラーク(1939-2012)は、カントリー系フォーク・シンガーのガイ・クラークの奥さん。自身の録音はないが、1976年女性シンガーのドッツィー(Dottsy Brodt) の歌がカントリー・チャートでヒットした他、エミルー・ハリス1977年のカバーがある。もともと女性の歌なので、女性が歌うべき部分をキャロルに任せて交互に歌い、コーラスで一緒に歌うデュエットになっている。キャロルはジェフを引き立てる意図もあるようで、いつものエモーショナルな歌い方ではなく、さっぱりとした感じ。バックを務めるのはジェフのバンドだが、何故かドラムスのみマーク・ホールマンとなっていて、キャロルのアルバムのプロデューサーのマークって、ドラムスができるん?

その他の曲は、カントリー色の強いロックやフォーク調の曲が並ぶが、彼の自作曲はなく、シンガー・アンド・ソングライターというイメージが強かったので、少し意外だった。でもその後も作品には彼が書いた曲も入っているので、曲作りを止めたわけではないようだ。なおアルバム最後の曲で、クリス・クリストファーソンの名作「Me And Bobby McGee」をカバーしている。

キャロルが自作ではない曲、しかもカントリー・ソングを歌うという珍しいケース。

[2024年2月作成]


G29 Murphy's Romance (Movie) (1985) Columbia Pictures 
 



Carole King : Piano, Vocal (1,3)
David Sanborn : Sax
Brian Kerwin : Vocal (2)

David Richard Campbell : Music Director
Bill Marx : Music Supervisor
Lou Adler : Producer

Martin Ritt : Director
Laura Ziskin : Producer

[Cast]
Sally Field : Emma Moriarty 
James Garner : Murphy Jones
Brian Kerwin : Bobby Jack Moriarty
Corey Haim : Jake Moriarty
Carole King : Tillie

1. Running Lonely [Carole King]
2. I Love You Only [Carole King]
3. Love For The Last Time (Theme of Murphy's Romance) [Carole King]

Length : 107 Minites
Release : December, 1985 by Columbia Pictures

写真上: 日本製ビデオの表紙
写真下: アメリカ製DVDの表紙
 
 
映画「マーフィーズ・ロマンス」は、「Norma Ray」1979、「Place In The Heart」1984でアカデミー主演女優賞を取った絶頂期のサリー・フィールド(1946- )が、当時若手のプロデューサーだったローラ・ジスキン(1950-2011) と組んで製作したロマンチック・コメディー。サリーはその後、「Steel Magnolias」(マグノリアの花たち)1989、「Mrs. Doubtfire」1993に主演。日本では今一つ人気が出なかった女優さんという感があるが、最も有名な役は「Forrest Gump」1993の母親役で、近年では「Lincoln」2012で大統領の悪妻を演じている。ローラは、その後「Pretty Woman」(追いつめられて)1990で大当たりし、「As Good As It Gets」(恋愛小説家)1997、および2002年から始まるスパイダー・マンのシリーズのプロデュースを担当したが、2011年に乳がんで亡くなった。監督のマーチン・リット(1914-1990) は、「The Long Hot Summer」(熱く長い夜)1958、「Paris Blues」(パリの旅愁)1961、「Hud」1963、「The Outrage」(暴行)1964など、ポール・ニューマン主演の映画を多く監督した人で、サリーがアカデミー主演賞を獲得した「Norma Ray」1979でもメガホンを取っている。ジェームス・ガーナー(1928-2014) は、「Marverick」(1957〜1960)、「The Rockford Files」(1974〜1980) などのテレビシリーズで有名な人であるが、「The Great Escape」(大脱走)1963、「Victor/Victoria」1982、「Space Cowboy」2000などの映画にも出演、晩年では「The Notebook」2004の役が有名。本作は、彼の飄々とした役柄がピッタリはまり、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。当時コロンビア・ピクチャーズは、バイオレンスやセックス・シーンがないストーリー、および彼を主演させるという企画を渋ったという。サリーとローラは、キャロルの音楽が本作に相応しいと考え、スコアリングを依頼。キャロルはインタビューで、主人公のキャラクターは自分が入れ込むことができるものだったと話している。製作に携わった人達の華やかなキャリアからすると、地味な小品に見えるが、本当に作りたかった気持ちが伝わる、愛情溢れる作品に仕上がっている。

(以下ネタバレがあります)
映画は、主人公エマが軽トラックで夜明けの地方道を走るシーンから始まり、
1.「Running Lonely」が流れる。当時流行りのクロスオーバー・ミュージックを思わせる軽快なリズムの曲で、前向きな雰囲気と歌詞の内容から、彼女が息子と一緒に人生の再生を目指して、アリゾナ州の小さな牧場に引っ越してきたことがわかる。歌が終わった後も、ピアノ演奏が残るが、同じメロディーでありながら、これからの生活に対する不安のような色合いを出している。エマが家や馬屋の設備を修理してゆくうちに、音楽は再び明るくなり、リズムが戻る。彼女は馬の調教師で、町に出て顧客募集のチラシを配り、ドラッグストアを経営するマーフィーと知り合い、カリフォルニアからやってきたと話す。スクールバスから降りた子供(演じているのは当時、子供役として人気があったコーリー・ハイムで、代表作は「Lost Boys」1987。大人になってからは俳優として売れず、ドラッグ中毒になり2010年に死亡)は、田舎暮らしに不満そう。週末の夜、町をぶらぶらする二人は、バーのハウスバンドでマーフィーがフィドルを弾くのを聴き、彼がやもめであることを知る。ここでの演奏曲はスタンダードの「My Melancholy Baby」と「It's Only A Paper Moon」で、デビッド・キャンベルが演奏しているものと思われる。自宅で息子とカードゲームをするシーンで、メランコリックな響きのピアノが少し入る。

エマが町役場で営業許可証を得る手続きのシーンで、
受付係ティリー役でキャロルがカメオ出演する。顔がカウンターに隠れ、声しか聞こえないので、注意していないと気がつかないだろう。しかし起業のための融資が受けられず、マーフィーからも断られて一層の節約を強いられる。ここでマーフィーが自分の車を店の前に停めるため、役場を根負けさせてパーキングメーターを撤去させるエピソードが入り、彼の頑固な性格が示唆される。エマの息子ジェイクはアルバイトを探し(ここでピアノが入る)、マーフィーの店で皿洗いに雇われる。彼は彼女が優秀な調教師であることを見て、市場で競り落とした馬を彼女に預ける。馬の調教を始めるエマのシーンで、ピアノとサックスが入り、馬の調教が進むにつれ、音楽は明るく前向きなムードになってゆく。ちょっとした自動車事故で脳震盪を起こし入院したエマは、マーフィーに自分は33才であると告白し、無保険による医療費の不安と辛い生活をグチる。マーフィーは彼女に、知り合いが彼女に馬を預けたがっている旨を伝えて慰める。

エマが家に戻る(
ここでピアノが入る)と、元夫ボビーが待っていた。彼はよりを戻そうとするが、彼のろくでなしぶりに懲りたエマは応じない。子供が大喜びなので、しばらく一緒に暮らすことになり、彼は馬屋の手伝いをする(ここでピアノが入る)。エマはトイレの水もれを直したマーフィーを夕食に誘う。ここでピアノとサックスによる音楽が入る。食後のカードゲームで、マーフィーはイカサマをするボビーに注意する。皆でホラー映画を観に行ったが、ボビーを除き残酷描写が厭になって退席した3人は、ビンゴ会場に入りエマは200ドルを当てて喜ぶ。ここでのアメリカ田舎町の娯楽の景色が面白い。ボビーが町の人を家に招きパーティーを主催、エマとマーフィーは皿洗いの裏方に回る。エマはマーフィーに歳を訪ねるが、答えない。ボビーはマーフィーに嫉妬し、彼がエマと寝ていると疑いをかけ、マーフィーは腹を立てる。ボビーがギターの弾き語りで 2.「I Love You Only」を皆に聴かせる。スウィートでシンプルなラブソングだ。

町のダンスホールに行くが、ボビーとマーフィーはエマを取り合う。ここではサックスをメインとしたカントリー音楽が流れ、はっきり見えないがサックス奏者はデビッド・サンボーンのように思える。エマはマーフィーのために彼の友人とサプライズの誕生日パーティーを開き、ケーキの蝋燭のために歳を訪ねるが、彼はここでも答えない。馬屋の干し草のなかでボビーはエマに抱きつく(
ここでピアノが入る)が、彼女はくしゃみの発作を起こし、何もできずに終わる。エマからボビーに出て行ってもらうと話された息子は、機嫌を悪くする。ここでゴスペル調のサックスとピアノが入る。ある日家に帰ると、車が停まっていて、ボビーが双子の赤ん坊を抱え、自分の子供と告白し、追いかけてきた18才の女を紹介する。エマはボビーに彼女と一緒になることを勧め、彼らは家を出てゆく。エマはマーフィーの店に行ってグチるが、マーフィーはエマにキスして追い返す。帰りの車の中で、高揚してゆくエマのシーンを、ワクワクするようなサックスとピアノの調べが盛り上げる。マーフィーが乗馬から帰ってきたとき、彼は「ガキとは違い、私は年代ものだ。忍耐強く、堅実で誠実でもある。そして生涯最後の恋をしている」と言う(情感溢れるピアノが入る)。彼女は「私は人生最初の本当の恋をしている」と答え、彼を夕食に誘う。マーフィーは「朝食も一緒なら」と応じ、一緒に家に入る。「私は60才だ」という最後のセリフに続き、デビットのサックスをバックにキャロルが明るく力強く歌う 3.「Love For The Last Time」が流れる。

いろんなシーンで挿入されるピアノだけの演奏、ピアノとサックスによるインストルメンタルも情感に溢れ、聴く価値十分。エンドタイトルで、上記3曲以外にキャロルの曲として「Poetry」、「Hungry Howling At The Moon」(この曲のみボーカルはJoanne Christy Pierc)が表示されるが、映画では使用されなかったようだ。ちなみにキャロルのホームページのディスコグラフィーには、上記5曲全ての歌詞が掲載されている。私が聴く限り、取るに足らない 3.「I Love You Only」を除く 2曲は素晴らしい出来であり、何故サウンドトラックとしてレコード・CD化されなかったのか不思議。本作は日本でもビデオで発売・レンタルされたがDVD化されていない。アメリカ発売のDVDはリージョン1で、日本で観るにはリージョンフリーのプレイヤーが必要。

強い女性を演じるのが得意なサリー・フィールドが、弱さ・迷いを持ち合わせた女性を繊細に演じているところが異色で、ジェームス・ガーナーの味のある演技、キャロルとデビッドによる素晴らしい音楽により、何度観ても飽きない作品になった。

[2014年10月作成]

[2024年1月追記]
YouTubeで映画の全編を観ることができます。視聴者の立場からの視点で制作者の方々には申し訳ないのですが、いい世の中になったもんですね。