S11 Santa Barbara Honeymoon (1975) Charisma CAS110




Bert Jansch : Vocal, Guitar
Jim Baker, Jay Lacy : Guitar
Don Whaley, Ernie McDaniels, David Hungate: E.Bass
Danny R.Lane, Tris Imboden: Drums
Robert Greenidge: Steel Drum
Bill Smith, David Barry: Keyboard
George Seymour: Synthesizer
Craig Bulher, Darryl Leonard, Jim Gordon, David Hungate: Brass
Jim Baker, Beth Fichet, Dan Whaley, Danny R.Lane, Ron McGuire, Steve Wood: Back Vocals

Danny R.Lane : Producer

[Side A]
1. Love Anew
2. Mary And Joseph
3. Be My Friend
4. Baby Blue
5. Dance Lady Dance  S10 S11
6. You Are My Sunshine [Davis & Michell]

[Side B]
7. Lost And Gone
8. Blues Run The Game [Jackson C.Frank]  S1 S14 S17 S18 S25 S27 S29 S33 S36 S36 S36 S36 S36 O16
9. Build Another Band  S10 S11 O11 O43
10. When The Teardrops Fell  S11 O11
11. Dynamite
12. Buckrabbit  

1975年10月発売  


[Bonus Track For CD Reissue 2009]
13. Build Another Band (Alt. Version) 
S10 S11 O11 O43
14. When The Teardrops Fell (Live At Montreux)
S11 O11
15. Lady Nothing (Live At Montreux)
S9 S10
16. Dance Lady Dance (Live At Montreux) S10 S11
17. Angie (Live At Montreux)
S1 S2 S2 S10 S14 S17 S29 36 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O19
18. One For Jo (Live At Montreux) S9 S9 S10 S18 S23 S36 O10 O13

14〜18: Live At Montreux Jazz Festival July 4, 1975


バートのウェスト・コースト録音の第2弾。ますます明るくポップなサウンドに少しとまどいを覚える。イメージチェンジの前作に続きそれを大胆に押し進めたのが本作で、バートのヨーロッパ臭さも本作では影を潜め、オーバー・プロデュース気味のアメリカン・サウンドにどっぷりつかっている。プロデューサーは前作でドラムスを担当していたダニー・レイン。当時人気絶頂のライ・クーダーのサウンドに近く、ブリティッシュ・フォークを愛するファンは、これからどうなるのだろうかと不安になったに違いない。バートのギターもバンド・サウンドの一員に埋もれていて、コード・ストロークによる演奏やエフェクター処理されている音も多く、独立して聴くべき部分は少ない。ギターを弾いていない曲もある。彼のギター・プレイを期待して買う人は失望するかもしれない。

アレンジの特徴としては、シンセサイザーやキーボード、女性コーラスの多用により厚めのサウンドを作り上げていることで、ペンタングルを含めた過去の彼のレコードでは見られないもの。彼のボーカルもエコーがかかり、その分「普通のシンガー・アンド・ソングライターの音」というか、何か個性が感じられないものになった気もする。また製作予算の関係からか、ミュージシャンの知名度も前作に劣っている。バックのミュージシャンはマイク・ネスミスやイアン・マシューズのバックをやっていた人たちが中心で、有名な人は、売れっ子スタジオミュージシャンであり、後にTotoのメンバーにもなったベーシストのデビッド・ハンゲイトや、シカゴやケニーロギンスのセッションに参加したドラムスのトリス・インボーデン位かな? と言いながら個人的には愛聴盤になっているのは、その軽やかさと一部の曲の良さからであろうか。

1.「Love Anew」と 2.「Mary And Joseph」はぶ厚いアレンジで盛り上がる。1.のギター伴奏が完全なコードストロークで、早くも今までの作品と違う感じがする。3.「Be My Friend」は本作のなかでは地味な出来上がり。4.「Baby Blue」、9.「Build Another Band」ではスチィール・ドラムが心地よい効果を出し、曲自体のレベルも高い。5.「Dance Lady Dance」はニューオリンズ調のブラスと女性コーラス入りのポップな曲で、バートの曲としては珍品の部類に属する。6.「You Are My Sunshine」はご存じのカントリー界のスタンダードで、これも女性コーラスが入ってゴスペル調に歌い上げる。

7.「Lost And Gone」も女性コーラス、フルートやクラリネットが入っているが、彼の歌とギターはオーソドックスで以前からのスタイルに近い。初期からのレパートリーで、いまだにコンサートでよく演奏される 8.「Blues Run The Game」は、本作が初めての公式録音。作者のジャクソン C. フランクは、1943年ニューヨーク州バッファロー生まれのアメリカ人で、1965春に渡英。ブリティッシュ・フォーク界に多大な影響を与え、当時英国にいたポール・サイモンのプロデュースでソロアルバムを発表したが、アメリカ帰国後は全く認められず、フォーク音楽の衰退とともに忘れ去られてゆく。その後は精神を病んでホームレスとなり、片目の視力を失うなど、散々な状態だったらしい。90年代に再評価され、アルバムのCD化および未発表録音の発掘が行われ、アーティスト仲間によるサポートを得て復帰を図ったが、1999年3月に亡くなった。バンドサウンド主体の本作では、唯一ギターが全面にフィーチャーされたバートらしいストレートな仕上がりの曲だ。ベースのメロディーが後のナイジェル・ポートマン・スミスのフレットレス・ベースを連想させる。本曲はジョン・レンバーンの愛唱歌でもある。10.「When The Teardrops Fell」はライ・クーダーの曲にタイトルの似たものがあるが、別の曲。ハモンド・オルガンの響きが、かなりザ・バンド風のアレンジ。11.「Dynamite」は彼らしくはないが、アップテンポのグルーブ感溢れるアレンジで、バートのボーカルもボブ・ディランの様だ。12.「Buckrabbit」はブラスがフィーチャーされている R&B調アップテンポの曲。本作でひとつだけ残念なのは歌詞カードがついていないことで、何を歌っているのか一部しか理解できない点である。以上いろいろと述べたが、要するにバートのギターとイメージにこだわらなければ、楽しく聴ける作品。
                    
ちなみに私が買ったレコードの中には、バートの活動状況とプロフィールを記した、カリスマ・レコード製作による小さなパンフレットが入っていた。

[2009年9月追記]
過去25年以上も廃盤でCD化もされていなかった本作は、2009年6月ヴァージンレコードから復刻された。リマスターによって、音はよりクリアーになり、しかも歌詞カードが付いた事により、私にとっては30年ぶりに歌の内容をすべて理解できるようになった意義は大きい。バートの歌は聞き取りが難しい部分があるので、歌詞カードがないと苦労するのだ。さらに未発表の別バージョンが1曲、当時のライブ音源が5曲ボーナストラックとして追加収録された。13.「Build Another Band」は、9.よりもバートのギターを中心とした演奏で、よりシンプルな出来。サウンド的には前作「L.A. Turnaround」に近い。フィドルが入っているが誰が演奏していかは不明。14.からは、1975年 7月4日のモントルー・ジャズ・フェスティバルからの音源。彼一人の弾き語りによる演奏で、以前発売された「River Session」S10 で当時の彼の弾き語り演奏の凄さは体験済ではあったが、オリジナル録音ではバンド伴奏付きの曲を、彼一人のギターで見事に演奏し切っている。 14.「When The Teardrops Fell」は、珍しいコードストロークによる弾き語りであるが、大変自然で説得力のあるプレイ。あとは「River Session」の収録曲と重複する。5曲だけといわずに全曲リリースして欲しいですね!


S12 Poor Mouth (1976) ExLibris 20.011 (デンマーク) 
 

Bert Jansch: Vocal, Guitar
Rod Clements: Bass (7,10), Mandolin (7)
Mike Piggot: Violin (7)
Pick Withers: Drums, Percussion (7)

Rod Clements: Producer
Ole Fick: Cover Design

[Side A]
1. Poor Mouth
2. Saint Fiacre's Revenge *
3. Dragonfly [Bidwell]
4. Pretty Saro
5. Doctor Doctor
6. Lost Love
7. Candy Man [Trad.]  S36 O11

[Side B]
8. Daybreak
9. One To A Hundred
10. Three Dreamers  S24
11. Per's Hose Pipe [Trad.]
12. Curragh Of Kildare [Trad.] 
13. If You See My Love
14. Three Chord Trick                

デンマーク盤
注) S13未収録曲は赤字で表示、それ以外の曲はS13をメインとし、重複曲としてリスト対象外とした。


デンマークのレーベル ExLibrisから発売された作品(ただしフランス録音の5.「Doctor Doctor」以外はロンドン録音)。パンク・ロック全盛の時期にフォーク音楽のアルバムを出すのはバートといえども難しく、ペンタングル解散以降は本国イギリスよりもドイツ、ベネルクス、デンマークなどの大陸諸国のほうの人気が高かったようだ。イギリスのカリスマ・レーベルで S13として発売されたのは翌年3月。その際にジャケット・デザインおよび曲順が変更されたほか、3. 7. 10.の3曲がカットされ、その代わり新たに録音したものと思われる「3 A.M.」、「Looking For A Home」、「Cat And Mouse」に差し替えられた。また一部の曲のタイトルが異なり、2. 「Saint Fiacre's Revenge」は「St. Fiacre」に、11.「Per's Hose Pipe」は「Instrumentally Irish (Per's Hose Pipe)」に変更された。ジャケットはギターを持ち煙草を吹かすバートのイラストで、流れる煙が「Poor Mouth」というロゴになっている。酒に酔ってうつろな目をしているバートの表情はいかにも不健康な感じで、当時の酒浸りの生活をあらわしているようだ。

ここでは S13 未収録の3曲について説明する。3.「Dragonfly」は後にペンタングルが P14で録音したものとは同名異曲。ゆったりとしたオルタネイト・ベースのスリーフィンガーで演奏されるダークな感じの弾き語り小品。7.「Candy Man」はフォーク・ブルースの巨人ゲイリー・デイビスによるおなじみの曲で、ジョン・レンボーンやステファン・グロスマンもよく演奏している。バートによるイントロのギター演奏は、この曲いつものパターンなのだが、続くバンドの演奏は何とレゲエのリズムだ!!! ベース、ドラムスが刻むリズムはこの曲に合っているとは思えず、バート本人とバンドのメンバーによるものと思われる合いの手コーラスも浮かれた感じで、半分冗談のようだ。マイク・ピゴーのフィドルが、米国ブルーグラス界のトッププレイヤー、リチャード・グリーンを彷彿とさせるアグレッシブなプレイを披露している。彼唯一のレゲエ演奏という意味で珍品。 10.「Three Dreamers」は後に「The Ornament Tree」1990 S24で再録音され、そちらのほうがずっと出来が良い。このメロディーはアイルランドのトラッドで、曲名は思い出せないけど日本人にはおなじみのメロディーだ。ボブ・ディランも「Walls Of Red Wing」(初期の曲で海賊盤が出回っていたが、91年の「Bootleg Series Vol. 1-3」で公式発売された)で同じメロディーを使っていた。

これら3曲については、曲やアレンジの出来はともかくとしても、バート本人の心身状態が良くなかったようで、いまひとつ魂が入っていないような感じがする。そのため S13の発売に際して、もっと出来のよい曲に差し替えられたのは順当なところか。なおこれら3曲は、2010年にCD化された「A Rare Conundrum」にボーナストラックとして収録された。

なお同時期に同じレーベルExLibrisで、デンマークのシンガー、エリック・グリップのアルバムにマーチン・ジェンキンスと一緒に参加した作品が O12である。

 
S13 A Rare Conundrum (1977) Charisma CAS1127
 



Bert Jansch : Vocal, Guitar, Banjo (4)
Rod Clements: Bass, Guitar (2,3,6,7,13), Mandolin (6,10,12)
Mike Piggot: Violin
Pick Withers: Drums, Tabra, Percussion
Ralph McTell: Harmonica (10,11)
Dave Bainbridge: E.Piano (9)

Rod Clements: Producer
Danny Thompson: Producer (4)
Bert Jansch: Producer (5)
Frank Sansom: Art Direction
Nick Hockley: Illustration

[Side A]
1. Daybreak  S14 S36 O16
2. One To A Hundred
3. Pretty Saro  S14 S36
4. Doctor,Doctor
5. 3 A.M.
6. The Curragh Of Kildare [Trad.]  S18 S27 S29 O11
7. Instrumentally Irish (Per's Hose Pipe) * [Trad.]

[Side B]
8. St.Fiacre *
9. If You See My Love
10. Looking For A Home  O11
11. Poor Mouth  S17 S18 S19 S36 S36 O16
12. Cat And Mouse  S14
13. Three Chord Trick
14. Lost Love  S19 P14
                     
中袋に歌詞・本人による解説付き, 1977年 5月発売

[Bonus Track For CD Reissue 2009]
15. Three Dreamers  S24
16. Dragonfly [Bidwell]

17. Candy Man [Trad.] S36 O11


写真上: イギリス盤表紙
写真下: アメリカ盤表紙

 

平面的でシンプルなギターと立体的で緻密な手を鉛筆で描いた表紙のイラストがエッシャーの作品を連想させる(アメリカ盤はそれと異なりギターを持ったバートの写真だった)。米国西海岸録音の前2作を過渡期と考えると、本作は彼が中期のスタイルを確立した作品といえる。コナンドラムは「謎」という意味。S12で述べたとおり、本作は当初「Poor Mouth」というタイトルで1976年デンマークのみで発売されたが、その後3曲をカットし新録音の5. 10. 12.に差し替えて、英カリスマから発売された。

元リンディスファーンのロッド・クレメンツが大半のプロデュースを担当し、気心が知れたイギリスのミュージシャンの控えめなバッキングが良い雰囲気を作っている。彼はその後「Leather Launderette」 1988 S22、ペンタングルの「So Early In The Spring」 1988 P16 に参加し、バートにとって重要なパートナーになる。本作で印象的なフィドルを聞かせるマイク・ピゴットも、後の再編ペンタングル「Open The Door」 1985 P14や「In The Round」1986 P15のメンバーとなる、非常に繊細で美しい音色のバイオリンを演奏する人だ。ドラムスのピック・ウィザースは本作の後、マーク・ノップラー率いるダイアー・ストレイツに加入し一躍有名になった。

本作は落ち着きのあるサウンドで、初期の頃に比べて音楽の幅はぐっと広がった。1.「Daybreak」はフォーククラブでの徹夜の後、眩しい朝の街に出た時の経験を歌ったもので、雰囲気がとても良くでた佳曲。2.「One To A Hundred」は、子供の頃のかくれんぼと人の死のイメージを掛け合わせた印象的な歌詞。4.「Doctor, Doctor」のみ1974年の録音で、パリ滞在中ダニー・トンプソンのプロデュースにより録音され未発表になっていたもの。同時期に録音された2曲が「L.A. Turnaround] S9 に収録されている。10.「Looking For A Home」と 12.「Cat And Mouse」は、ホームレスを題材としている。11.「Poor Mouth」はアイルランドの飢餓を歌った厳しい曲で、フラン・オブライエンの同名の小説からインスピレーションを得て作ったとのこと。6.「The Curragh Of Kildare」はクリスティー・ムーアが得意とするアイリッシュ・トラッドで、キルデアはダブリンから車で1時間位のところにある町の名前。

13.「Three Chord Trick」は1993年発売カリスマ時代のベスト盤 O9のタイトルにもなったが、アルバム中袋の解説で次のようにコメントされている。「オールド・フォーク・クラブ(フォークシーン)のいんちきがテーマ。フォーク・クラブでの出来事を聞いたら、さぞかしびっくりするにちがいない。それらは音楽と全く関係のない事だ。夫婦の別れや、恋人との出会い、友人同士の殴り合いの喧嘩を見てきた。そこには人生があり、音楽があったのだ。」他の曲とは雰囲気が異なり、騒々しくシニカルな歌詞とサウンドで奇妙な存在感がある。14.「Lost Love」はブルース調のかっこいい曲でペンタングルの「Open The Door」 P14で再演された。トラッドは3.と6.の2曲。

彼のギターは前2作よりは鳴っているが、往年の鬼気迫る凄味は薄れ、枯れた味わいの音に変化してきている。1.「Daybreak」のきれいなアルペジオや14.「Lost Love」のジャズ・ブルース調の曲が伴奏としては特に印象的。ロッド・クレメンツと2台のギターによるオープン C メジャー・チューニングのインスト7.「Instrumentally Irish」は珍しくアイリッシュ・ジグに挑戦。8.「St. Fiacre」は、DADGAD チューニングのソロ演奏による小品。

[2009年9月追記]
過去25年以上も廃盤でCD化もされていなかった本作は、2009年6月ヴァージンレコードから復刻された。その際、本作オリジナル盤発売時に収録されなかった S12の3曲がボーナストラックとして追加収録された。めでたし、めでたし (曲についての詳細はS12をご参照ください)。

 
 
S14 Live In Italy (2020) Earth LP040 

 

Bert Jansch: Vocal, Back Vocal (9), Guitar
Martin Jenkins: Vocal (7, 9), Back Vocal (1, 12) Mandocello (1, 4, 6, 7, 9, 11, 12, 15, 16), Violin (2, 3, 5, 8, 10, 14)
Sam Mitchell: Slide Guitar (14, 15)
Leo Winkamp Jr.: Guitar (14, 15)

[Side 1]
1. Cat And Mouse  S13
2. Daybreak  S13 S36 O16
3. Blues Run The Game [Jackson C. Frank] S1 S11 S17 S18 S25 S27 S29 S33 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O16
4. Bittern*  S15 S17 O16
5. Kingfisher* S15 S18 S19 S23 S27 S36 P19 P22 O17

[Side 2]
6. Come Back Baby [Unknown] S1 S5 S18 S27 S29 S33 S36 S36 S36 P19 O13 O20
7. Running From Home S1 S17 S19 S23 S25 S36 S36 S36 O16
8. Pretty Saro  S13 S36
9. Alimony S17 S19 O16

[Side 3]
10. Avocet*  S15 S17 O13
11. Una Linea Di Dolcezza*  S16 S17 O17
12. Sweet Mother Earth [Unknown] S16 S17 P14

[Side 4]
13. Angie* [Davey Graham] S1 S2 S2 S10 S11 S17 S29 S36 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O19
14. Chuck Old Hen (Unreleased Number ith Martin Jenkins, Sam Mitchell & Leo Winkamp Jr.) [Traditional] S9
15. Encore No.1 (Improvised Number with Martin Jenkins, Sam Mitchell & Leo Winkamp Jr. ) → aka 「Mirage」 P2 P13 P20
16. Encore No.2 "Jigs" (Martin Jenkins Solo)

注: バートは16非参加

Recorded at: Teatro Corsso, Mestre-Venice, Italy, 1977

 
このアルバムには散々振り回された想い出がある。レコード店により世界規模で毎年開催されるイベント「Record Store Day」では、そのために特別に制作された限定盤レコードが売り出されるが、それらは過去作品の再発盤、CDで発売された作品のレコード化、未発表音源の発掘など様々で、カラーレコードや特別仕様のジャケットなどの工夫が施されている。2020年はバートの作品の再発・発掘で定評があるアース・レコードから 1977年の未発表ライブ音源のレコードが発売されるという情報が入り、 レコードのみの1,000枚限定ということで、予約受付のサイトを出した輸入盤専門店に早速予約した。ところが発売日が過ぎても一向に連絡がなく、私の予約は反故にされてしまったのだ。そこで他の店にあたったが、時すでに遅しで入手することができなかった。バート・ヤンシュの限定盤ということで売り惜しみの動きが出て、私が予約したレコード店は十分な量を確保できなかったのではないかと推測している。その後インターネットで探し回るうちに、海外のセラーでプレミアム価格で売られているのを見つけて購入したが、ほぼ同時に音源が各種配信サービスに公開されたのだ。本当に頭にくる話..........。

会場のテアトロ・コルッソはヴェニスの本土側にあるメストレ駅近くにあるコンサート・ホール(我々が観光で訪れるヴェニスは海側のヴェネタ潟にある島で、レコード・ジャケット・デザインはその古地図)。本作は録音時期がポイントで、これまで公開されたバートとマーチン・ジェンキンスのライブ音源・映像 (S17, S19, O16, O17)は全て1980年の収録であるのに対し、資料が正しければ、本音源はその3年前の1977年になるのだ。1977年というと、公式アルバムとしては5月発売の「A Rare Connundrum」S13に相当するが、当該アルバムの録音時期は1975年10月-1976年7月で、実は「Poor Mouth」S12というタイトルでデンマークで1976年に先行発売されていたもの。また1979年発売の「Avocet」 S15は、1978年2月録音で同年デンマークで先にリリースされている。一方マーチン・ジェンキンスはダンド・シャフト解散後にヘッジホッグ・パイというグループに参加し、1974年〜1975年の間に2枚のアルバムを発表。その後ダンド・シャフトが短期間再結成され、1977年に「Kingdom」というアルバムを発表している。以上鑑みると、当該音源はバートがマーチンと一緒に活動を始めてからすぐの録音で、上述諸アルバムの録音・発表時期から1977年の後半の収録と推定することができる。ということで本アルバムは、バートとマーチンがによる最初期の演奏ということになる。発掘音源ということで、音質面は問題ないが、この手の音源にありがちな問題としてピッチが若干速いようで、そのためスピードが早め・音が高めになっている。アース・レコードはアルバム制作にあたり補正してくればよかったのにと思うが、鑑賞上問題になるほどではないので、しかたないか.......。

1.「Cat And Mouse」は「A Rare Connundrum」1977 S13からで、1980年のライブ音源には含まれていない曲。ヴァース部分でマーチンがハーモニー・ボーカルを付けている。1980年のライブと重複する曲についての演奏内容はほぼ同じで、この段階で既にスタイルが確立されていた事を物語っている。また「Avocet」1979 S15や「Thirteen Down」 1980 S16など、当時未発表だったアルバムに収められた曲も演奏しており、それらは少し粗削りな感じ演奏になっている。6.「Come Back Baby」 (「Nicola」 1967 S5に収録)や 8.「Pretty Saro」も「A Rare Connundrum」1977 S13からで、1980年のライブ音源には含まれていない。9.「Alimony」のマーチンのマンドセロは絶好調だ。この曲が終わった後にバートが「Good Night」と言っているので、当アルバムの曲順は実際のものとは異なっていると思われる。10.「Avocet」は10分近くにおよぶ長いインストルメンタルで、「Live At La Foret」1980 S17との聴き比べが楽しい。11.「Una Linea Di Dolcezza」は、正式録音は1979年(「Thirteen Down」1980 S16)になるので、1977年には既に曲ができていたことになる。そのためか演奏面でまだこなれていないような感じがする。

14, 15の2曲は、当日のコンサートの前座で出演した人達との共演。サム・ミッチェル、レコ・ウィンキャンプ・ジュニアの両者とも、当時ステファン・グロスマンのキッキング・ミュール・レーベルからレコードを出していて、前者はスライド・ギターの達人としてアルバム「Bottleneck/Slide Guitar」1976、後者はラグタイム・ギターのアルバム「Rag To Riches」などを出している。14.「Chuck Old Hen」は、アルバムのクレジットでは「Unreleased」とあるが、正しくはバートの「Santa Barbara Honeymoon」1975 S11に収録されている曲。アース・レコードは資料面で甘い時があるね。コンサート用に即興で演奏している感じで、サムのスライド・ギターは聞こえるが、レオのギターの音はバートのものと混じって聞き分けることはできない。15.「Encore No.1 」も「Improvised Number」と表示されているが、ペンタングルのファースト・アルバム 1968 P2 に入っていた「Mirage」のテーマ部分を使ったジャムだ。最後の 16.「Encore No.2」はマーチンのマンドセロによるアイリッシュ・チューンの単独演奏。

いろいろ言ったが、バートとマーチンの二人コナンドラムの演奏をたっぷり聴けたということで、満足すべきだろう。


S15 Avocet (1979) Charisma CLASS6
 













Bert Jansch: Vocal, Guitar, Piano (2)
Martin Jenkins: Mandocello, Violin, Flute
Danny Thompson: Bass

Bert Jansch, Martin Jenkins, Danny Thompson: Producer
Bob Wagner: Album Design

[Side A]
1. Avocet  S14 S17 O13

[Side B]
2. Lapwing
3. Bittern S14 S17 O16
4. Kingfisher  S14 S18 S19 S23 S27 S36 P19 P22 O17
5. Osprey [Martin Jenkins]
6. Kittiwake

すべてインストルメンタル
Recorded in Feb.1978, Denmark
1979年 2月発売

写真上: Charisma から発売されたイギリス盤
写真中-1: ExLibris から発売されたデンマーク盤
写真中-2: Kiking Mule から発売されたアメリカ盤
写真中-3: Earth Recordsから発売された復刻版(CD仕様)
写真中-4:          同上           (CD+Book仕様)  
写真下:           同上           (LPレコード仕様) 

6枚のイラストの鳥について
 左上: Avocet (ソリハシセイタカシギ),  右上: Bittern (サンカノゴイ)
 左中: Lapwing(タゲリ), 右中: Kittiwake(ミツユビカモメ)
 左下: Kingfisher(カワセミ),  右下: Osprey(ミサゴ) 
 

自分はギタリストというよりもシンガー・アンド・ソングライターであると言うバートにとって、初めてかつ唯一の完全インスト・アルバム。以前から歌なしのアルバムを作る希望があり、製作のチャンスを伺っていたという。彼のギター、ダニー・トンプソンのウッド・ベース、マーチン・ジェンキンスのマンドセロ、バイオリン、フルートというシンプルなバンドの構成でぴったり息の合った演奏である。スウェーデンのテレビ番組のための音楽の仕事がきっかけとなり、それを聴いたデンマークのレーベル ExLibris( 「Poor Mouth」 S12 1976 を発売したところ)のオーナーの勧めでコペンハーゲンで制作し1978年同レーベルから発売。好評により、後にカリスマレーベルから新しいジャケットデザインにて発売になったという経緯がある。

アレンジは3人の共同作業によるもので、バートのギターというよりはバンドのアンサンブル・サウンドがポイントとなっている。じっくり書かれたスコア部分と各人がインプロヴァイズする部分が交互に設けられており、よく考えられた構成だ。プロデュースの手腕が光っている。本作は表紙のイラストの通り水鳥を題材とした表題音楽で、全編一貫したテーマのトータル・アルバム。各曲には鳥の名前がつけられ、そのイメージに合わせた曲作りとアレンジがなされていて、ストリング・バンドの透明感溢れるサウンドと水辺のイメージがピッタリである。

本作でレコード初登場のマーチン・ジェンキンスは、前作参加のマイク・ピゴットがツアーを嫌ったため、知人の紹介によりメンバーになったのがきっかけで当時33歳。以前はダンド・シャフトやヘッジホッグ・パイというトラッド系のフォーク・ロック・グループに在籍し、何枚かレコードを出している。バートとは気が合ったようで、その後もしばらく一緒に活動を続けることになる。マンドセロ、フィドル、フルートをこなす器用人で、特にマンドセロの演奏はエレクトリックと生音の両方で独特の音を生み出している。

1.「Avocet」はレコードのA面いっぱいを占める18分におよぶ大作だが、実質5〜6のパートに別れる。変則チューニングのギターによるゆったりしたテーマに始まり、テンポを上げて3拍子のギター・リフ(ペンタングル的)になってフィドルがソロをとる。リズムが4拍子に変わった後に、ギターがコード・ストローク→アルペジオと変わり、スローな独奏となる。フルートが入りアイリッシュ・ダンス・チューン風の2拍子のアップテンポに移る。最後にテーマに戻りエンド。3人のインタープレイは素晴らしく、特にベースのダニーが奏でるカウンター・メロディーと強靱なリズム感は圧倒的。

2.「Lapwing」(チドリ科のタゲリ)は、何とバートによるピアノ・ソロ。タッチが何とも素人くさいが、その訥々とした音はイメージに合っている。3.「Bittern」は3拍子のジャズ・ワルツで、ベース、マンドセロが頑張りバートもソロを取る。聞き物はダニーの独演部分。なおバートのソロによるイントロは、過去の作品「Chambertin」(「L.A. Turnaround」S9 1974 に収録) のモチーフを転用している。4.「Kingfisher」(カワセミ)はボサノバ調のリズムに、清涼感溢れる静かな音がとても印象的な佳曲で、全く同じメロディーで歌詞付きのバージョンを「Can't Hide Love」として「Sketches」1990 S23 で再発表、その後も様々なアレンジで再演される。5.「Osprey」(ミサゴ=トンビの仲間)はマーチンの作曲。他の鳥と毛色が異なるせいか、サウンドも変拍子を使用しアップテンポの変わった仕上げになっている。最後の 6.「Kittiwake」(ミツユビカモメ)は、ゆったりとしたリズムのなかで生録音のマンドセロの音が美しく、弦楽器のみのアンサンブルが持つ独特の透明感に満ちている。以上、シンプルで地味ではあるが、ごみごみした日常生活に疲れた都会人にとっての絶好のオアシスとなる作品である。

[2011年11月]
写真を追加し、注記の誤りを訂正しました。

[2016年11月追記]
2016年イギリスの独立レーベルEarth Recordsより復刻盤が発売された。表紙はシングル「Black Birds Of Brittany」1979 O14の復刻と同じHannah Alice氏によるもの。彼女は2009年 Camberwell College of Arts卒業の若手イラストレイターで、日本画を思わせる淡くシンプルな描き方の中に、鳥や動物が好きという対象に対する秘めた思いが感じられる。

復刻に際しては3通りのフォーマットで発売された。まず通常のCD仕様、次にCD+(各鳥のイラストと解説からなる)Book仕様、そしてLP仕様。LP仕様は、ジャケットが額縁のようになっていて、添えられた各鳥のイラスト6枚を自由に入れ替えられるようになっているアイデアが面白い。

[2023年1月追記]
マーチン・ジェンキンス氏は、2011年5月心臓発作で亡くなりました(享年65)。2022年に発売された「Bet Jansch At BBC」 S36の解説で、バートと所縁のあるミュージシャンの賛辞が寄せられているのですが、そこに彼の名前がなかったので、調べてみて判ったものです。


S16 Thirteen Down (1980)   Kicking Mule SNKF 162


S15 Thirteen Down


S15a Thirteen Down



[Bert Jansch Conundrum]
Bert Jansch: Vocal, Guitar
Martin Jenkins: Mandocello, Violin, Flute, Vocal (4,8)
Nigel Portman-Smith: Bass, Accordion, Fender Rhodes Piano
Luce Langridge: Drums, Percussion
Jacqui McShee: Vocal (5)

Nic Kinsey & Conundrum: Producer
Nic Kinsey: Enginner
Terry Eden: Sleeve Design

[Side A]
1. Una Linea Di Dolcezza *  S14 S17 O17
2. Let Me Sing  S17 S18 S19 S25 S27 S36 O16
3. Down River
4. Nightfall [Martin Jenkins]  O16
5. If I Had A Lover S36 P21 P21 P21
6. Time And Time
7. In My Mind

[Side B]
8. Sovay [Trad.]  S19 P3 P9 P21 P21 P21 O16
9. Where Did My Life Go
10. Single Rose
11. Ask Your Daddy  S17 S18 S36 O16
12. Sweet Mother Earth [Unknown]  S14 S16 S17 P14
13. Bridge * [Jansch, Jenkins]

1980年7月発売  
       

写真上: イギリス盤ジャケット
写真中: アメリカ盤ジャケット
写真下: 2011年2月の再発盤(CD)ジャケット


ステファン・グロスマン率いるキッキング・ミュール・レコードから発表されたバート・ヤンシュ・コナンドラムの唯一のスタジオ録音。エンジニア兼プロデューサーのニック・キンゼイは、トランスアトランティック・レコードにいた人だが、本作の頃はキッキング・ミュール・レコード専属。ジャケット・デザインのテリー・エデンは、ラグタイム時代のノスタルジックなデザインやロゴ、色使いを駆使して、同レコードの諸作のために素晴らしいカバーをデザインした人。本作ではセピア色のモノ・トーンの写真に人工着色をして昔の絵葉書のような雰囲気を出している(表紙デザインは英・米・オーストラリアで異なる。写真はイギリス盤で、ここでは真ん中にバートのサインが入っている)。ギター音楽専門のマイナー・レーベルであったキッキング・ミュール・レコードのポリシーであるアーティスト主導の自由な製作姿勢がこのアルバムにも満ちていて、リラックスして伸び伸びとした出来上がりとなった。

当時バートが使っていたギターは、イギリスのカスタム・ビルダーであるロブ・アームストロングによるもの。彼は1971年からギター製作を始め、年間20〜25台の弦楽器を製作したという。そのデザインはオリジナリティー溢れるもので同じ仕様のものはないという。このギターはビデオ作品「Conunndrum In Concert」1991 O16で見ることができる。ちなみにマーチンのマンドセロも同氏により製作されたもの。「Master Craftsmen」 1984 O26 という同氏のトリビュート・アルバムが製作され、バートが1曲、マーチンも2曲で参加している。 この作品で初登場し、その後10年以上にわたってバートをサポートしたナイジェル・ポートマン・スミスが演奏するエレキ・ベースと、特にフェンダー・ローズ・ピアノがサウンドに新しい色を添えている(フェンダー・ローズ・ピアノは、金属製の音叉を叩いてその音をピックアップでひろう構造。その生音を電気的に増幅したサウンドは、電子的に音を作り出す他のエレキピアノとは根本的に異なり、独特のサウンドが出せる)。ジャケットの写真を見て、当時の彼は後年と比べてすごくスリムであったことに驚く。マーチン・ジェンキンスはバンドのマルチ・ソロイストとして前作同様大活躍。

1.「Una Linea Di Dolcezza」はイタリア語で、英訳すると「A Line Of Sweetness」。出だしから活き活きとした好調なインスト。2.「Let Me Sing」は 1973年のクーデターの中で殺されたチリのシンガー、ヴィクトル・ハラ (Victor Jara 1932-1973) の事を歌ったもので、マイナー調のメロディーによるバートの愛唱曲。4.「Nightfall」はマーチン作曲による変拍子のダークな雰囲気の歌。5.「If I Had A Lover」はゲストでジャッキー・マクシーが参加したトラッド調の曲。6.「Time And Time」は1.の歌付版といえるもので、愛のうつろいを歌った曲。この曲はキッキング・ミュールよりシングル盤としてリリースされた。8.「Sovey」は強盗に扮して愛の指輪を奪おうとして恋人の愛情を試す女性のバラッドで、バートとマーチンが1バースずつ掛け合いで歌う。のちに後期ペンタングルのレパートリーにもなる曲。9.「Where Did My Life Go」はドラッグと飲酒の果てに亡くなった歌手サンディ・デニーのことを歌ったもの。10.「Single Rose」は久しぶりに初期スタイルを彷彿させる端正なラブ・ソング。11.「Ask Your Daddy」は父母の不和と無心な子供の関係の歌で、不幸な家庭環境だったというバートの幼児体験が反映、淡々とした悲しみに奥深さがある。12.「Sweet Mother Earth」は作者不明とクレジットされているが、正しくはブラジル音楽の巨人ミルトン・ナシメントスの作品。13.「Bridge」は前作 S15風のインスト。マーチンのマンドセロが生録音で、透明感ある曲だ。当時は、すでにアルコール依存症の問題を抱えていたはずだが、本作でのバートの歌声・ギターはしなやかで、とても良い出来だと思う。本作品は、彼の2度目の来日直後に発売されたこともあり、個人的にはとても思い入れが深い愛聴盤。

[2022年4月追記]
ブラジル音楽を探求する機会があり、その中でミルトン・ナシメントの音楽を集中的に聴いた。ブラジルの大地と自然感じさせる偉大な音楽・歌声で、アメリカのジャズ・ミュージシャンと組み、デオダード編曲で製作された傑作「Courage」 1969で世界的な名声を確立した。彼がチコ・ブアルキと共作した「O Cio da Terra」(直訳すると「大地の熱」)」 1976 (アルバム「Geraes」収録)が、12.「Sweet Mother Earth」のオリジナルだ。

[2022年11月追記]
2.「Let Me Sing」のチリのシンガーにつき追記しました。


S17 Live At La Foret (1980) 日コロンビア YX-7273-AX
 
 
[Bert Jansch With Martin Jenkins]
Bert Jansch: Vocal, Guitar
Martin Jenkins: Mandocello, Violin, Flute, Vocal (5,9)
  
[Side A]
1. Poor Mouth  S13 S18 S19 S36 S36 O16
2. Blues Run The Game [Jackson C Frank]  S1 S11 S14 S18 S25 S27 S29 S33 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O16
3. Bittern  S14 S15 O16
4. Ask Your Daddy  S16 S18 S36 O16
5. Running From Home  S1 S14 S19 S23 S25 S36 S36 S36 O16
6. Angie  S1 S2 S2 S10 S11 S14 S29 S36 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O19

[Side B]
7. Avocet  S14 S15 O13
8. Let Me Sing About Love  S16 S18 S19 S25 S27 S36 O16
9. Alimony [Tommy Tucker]  S14 S19 O16
10. Una Linea Di Dolcezza (A Line Of Sweetness)  S14 S16 O17
11. Mother Earth [M.Nascimento]  S14 S16 P14

1980年 3月22, 23日 原宿ラ・フォーレ・プラザで録音
歌詞付き     


1980年バートはマーチン・ジェンキンスとともに2回目の来日を果たし、ライブハウスでコンサートを行った(1回目は1978年9月で、伝説的ギタリストであるミッキー・ベイカーとの来日)。カントリー・フォーク系を得意とした小さなプロモーター、東和エンタープライズの招聘によるもので、私は3月18日に西千葉の喫茶店「ベルエポック」で観ることができた。当時は外国アーティストのライブハウス・ツアーがまだ珍しかった時代で、同社によってジョンレンボーン、ステファン・グロスマン、ドック・ワトソン等が来日してコンサートを開いたが、派手な宣伝もなく音楽誌も取り上げなかったので、一部の愛好家のみの情報に止まり、ほとんど話題にならなかった。

このアルバムは、バートのソロとしては最初のライブ録音(グループではペンタングルの「Sweet Child」 1969 P3 がある)。ただしバート自身が製作に関わったものではないようだ。当時日本コロンビアは、トランスアトランティック時代の諸作品を発売していた関係で契約にこぎつけたものと思われ、ジョン・レンボーンのスタジオ録音盤「So Early In The Spring」1980 と同じく、日本のみで発売されたが特に話題にはならず、すぐに廃盤となり忘れ去られていった。日本国内でも極めて珍しいレコードで、バート・ヤンシュ研究家のコリン・ハーパーは「ニワトリの歯の様に珍しい」と言っている。持っている人は大事にしましょう。

当初バートのソロの予定が、最終的にマーチンとの「2人コナンドラム」での来日となった。ビデオで発売された1980年のアメリカ・ツアー O16はベースを加えた3人組、後にCDで発売されたBBCでのライブ S19では、ドラムスを加えた4人組であり、それぞれの演奏ニュアンスの相違が面白い。2人組の場合はバートのギターがクリアーかつストレートに伝わるが、リズム面で乗りが劣るのは明らか。ただバートの歌や伴奏ギターとマーチンのプレイが生み出す音の「間」が、意外な魅力を生み出している。

1.「Poor Mouth」、2.「Blues Run The Game」とお好みナンバーが続く。当日の演奏曲の約半分が収録されているが、実際のライブとほぼ同じ曲順となっているため、演奏が進むにつれて段々と熱くなってゆく空気のようなものが感じられる。3.「Ask Your Daddy」は乗りが出てきて好調。5.「Running From Home」はマーチンとバートの輪唱が面白い効果を上げている。6.「Angie」での演奏は意外とあっさりしている。3.「Bittern」 (演奏時間 6:08) 、7.「Avocet」(同10:07) は、1979年のインスト・アルバム S15からのレパーリーであるが、ダニー・トンプソンのベース抜きで演奏するのは大変そうで、その分演奏時間が短くなっている。

9.「Alimony」はマーチン主導の曲で本作のハイライト。ライ・クーダーのファースト・アルバムでお馴染みの曲で、マーチンはエレキ・マンドセロの早弾きによってパワフルな曲にアレンジした。バートはギターとハーモニー・ボーカルで参加。10.「Una Linea Di Dolcezza」はスタジオ録音と異なり、ベース、ドラムス、エレキピア抜きの演奏のため、全く雰囲気が異なる曲になった。最後は11.「Mother Earth」で、解説書およびレーベルのクレジットに「チコ・ハミルトン」(ジャズのドラマー)とあるが間違い。ブラジル人のミルトン・ナシメント作が正解。曲によっては良い出来のものもあるが、、コンサートをそのまま録音した海賊版のような感じで、ありのままの姿ともいえるがプロデュース不在。全体的な印象としては淡々とし過ぎて、いまひとつ華やかさに欠ける。
          
なお本作は、その後1995年にヴィヴィッドよりCD化された。さらに 2006年2月には同レーベルから紙ジャケット使用で再発された。


 
S18  Heartbreak (1982)  Logo Records Gol1035 
 

Bert Jansch: Vocal, Guitar
Albert Lee: Guitar, Mandolin,
Randy Tico: Bass
Matt Betton: Drums
Jack Kelly: Drums (6,9)
Jennifer Warnes: Vocals (5)

John & Richard Chelew: Producer
Paul Chave: Sleeve Design

[Side A]         
1. Is It Real ?  S18 S19 S36 P22 O19 O22
2. Up To The Stars  S19
3. Give Me The Time    
4. If I Were A Carpenter [Tim Hardin]  S18 S19 S25
5. Wild Mountain Thyme [Trad.]  S18 

[Side B]      
6. Heartbreak Hotel [Axton, Durden, Presley]  S19 S25 S36
7. Sit Down Beside Me  S19
8. No Rhyme Nor Reason
9. Blackwaterside [Trad.]  S4 S18 S25 S27 S33 S36 S36 S36 P21 O11 O16 O42
10. And Not A Word Was Said *

Recorded at Los Angeles June 16-21,1981
1982年4月発売


2012年発売のCD再発盤に添付されたボーナスディスク

11. Curragh Of Kildare [Traditional]  S13 S27 S29 O11
12. Poor Mouth  S13 S17 S19 S36 S36 O16
13. Blackwaterside [Traditional]  S4 S18 S25 S27 S33 S36 S36 S36 P21 O11 O16 O42
14. One For Jo  S9 S9 S10 S11 S23 S36 O10 O13
15. Let Me Sing  S16 S17 S19 S25 S27 S36 O16
16. If I Were Carpenter [Tim Hardin]  S18 S19 S25
17. Blues Run The Game S1 S11 S14 S17 S25 S27 S29 S33 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O16
18. Is It Real ?  S18 S19 S36 P22 O19 O22
19. Ask Your Daddy  S16 S17 S36 O16
20. The First Time Ever I Saw Your Face [Evan MacCall]  S4 S8 S25
21. Kingfisher  S14 S15 S19 S23 S27 S36 P19 P22 O17
22. Wild Mountain Thyme [Traditional]  S18
23. Come Back Baby [Walter Davis]  S1 S5 S14 S27 S29 S33 S36 S36 S36 P19 O13 O20
24. I Am Lonely  S1 S6 P9 P9 P11

Recorded at Macabe's Guitar Shop, Santa Monica Jun 20,1981


本作はロスアンジェルスの録音で、ロゴ・レーベルからの発売(コロンビアから発売された日本盤はトランスアトランティックのラベルだった)。ジャケットの白黒写真の顔に刻まれた皺がデビュー以来の歳月を物語っている。裏面には「Bert Jansch Plays Yamaha L25A & Yamaha FG365SE Guitars」のコメントがヤマハの商標と共に記載されているが、それは同社が彼とギターの使用契約を結んでいたため (ただしジャケットに映っているギターは、プロデューサーのジョン・チェリューのものでヤマハ製でないそうだ)。このアルバムの特徴はソリッドな音作りにある。入念なアレンジと思われたが、実際は面識がなかったミュージシャンが集まって、3日半のスタジオ・ワークのみによって作られたというプロの音で、リバーブがかかった厚み・グルーヴのあるジャズ・ロック系のサウンド。バートのギターやボーカルにもガッツが感じられる。このハイストラングできちっとした音を好むか否かについては、聴く人の好みの問題ではあるが、水準の高い出来であることだけは確か。

バック・ミュージシャンも名うての人々が揃っている。ギターとマンドリンのアルバート・リー (1943- ) は、イギリスの渋好みバンドであったヘッズ・ハンズ・アンド・フィートにいた人で、その後はスタジオ・ミュージシャンとして鳴らし、本作品の頃はエリック・クラプトンのバンドにも参加していた。彼のエレキ・ギターはカントリー・ロック的なスタイルで、そのフレーズと感性の豊かさは本当に素晴らしい。数々のコンサート、録音セッションと教則ビデオでギター・ファンを喜ばせている。ランディ・ティコは、カリフォルニアのジャズ系のセッション・ミュージシャンで、録音の前日に参加が決まったという。フレットレス・ベースによる、メロディックでうねりのある音が素晴らしい。ドラムスのマット・ベットンは当時、フロリダのキーウエストを本拠地とするトロピカル・カントリー・ロックの雄ジミー・バフェットのバックバンドのメンバーだった。本作の伴奏は久しぶりのピアノレス編成であり、その分パンチのきいたストレートなサウンドが楽しめる。

1.「Is It Real?」は、イントロのギターのきれいなアルペジオから、おやっという感じで、フレットレス・ベースのうねり、シャウト気味のバートのボーカルと続くと思わず身を乗り出してしまう。2.「Up To The Stars」はさらにハードで、アルバートのエレキ・ギターが断然冴えていて、宇宙のイメージを取り入れたスケールの大きい仕上がり。3.「Give Me Time」はトラッド的なラブソングで、アルバートのマンドリンが控えめで良い雰囲気。4.「If I Were A Carpenter」はアメリカのシンガー・ソングライターの草分けであるティム・ハーディンのシンプルで力強い名曲。5.「Wild Mountain Thyme」はトラッドで、ボブ・ディランの愛唱歌(特に1969年のイギリス・ワイト島のコンサートでの演奏が有名)。ここではジュニファー・ワーンズのハーモニー・ボーカルと共に丁寧に歌っている。彼女はウェストコーストのシンガーで1977年に自作でヒット作を出した他に、本作の直後にジョー・コッカーと歌ったデュエット「Up Where Belong」(映画「愛と青春の旅立ち」のテーマ)が大ヒットしてブレイクした。

6.「Heartbreak Hotel」はご存じエルビス・プレスリー1956年のスタンダード。バンドの演奏は表面上クールであるが、バートのボーカルには気合が入り、内面はめらめらに燃えている。7.「Sit Down Beside Me」、8.「No Rhyme Nor Reason」でも同様。それにしてもアルバートのギターのオブリガードは決して派手ではないのだが、圧倒的だ。9.「Blackwaterside」は1966年の「Jack Orion」S4 以来の再演。今回はドラムス、ベース、マンドリンが加わったバンド演奏で、その分リズムが強力。彼のギター伴奏のスタイルは初演のものとほとんど変わらない。最後の曲 10.「And Not A Word Was Said 」はバート得意のアコースティック・ギターによるリフを中心とした8分を超えるジャムセッション風のインスト。ベースとエレキ・ギターの抑え気味のインタープレイが逆に緊張感を高め、後半ではバートのギター・ソロも聴くことができる。

[2013年1月追記]
2012年11月、Omnivore Recordingsから発売された本アルバムのリマスタリング再発盤には、ロサンゼルスのマッケイブス・ギター・ショップで行われたバートのライブがボーナス・ディスクとして添付された。またCDのブックレットには本作の製作に係る裏話が満載されており、ファンにとっては大変付加価値のあるものとなった。

大変面白い内容なので詳細は購入して読んでもらいたいが、プロデューサーのチェリュー兄弟がバートの音楽に惚れ込んで、プロデュースに挑戦。資金調達のために母親からお金を借りた事、バックを務めるミュージシャンを決めるくだり、レコーディング中はバートに酒を飲ませないようにした事などが語られている。当時ジョン・チュリューはサンタモニカにあるマッケイブス・ギター・ショップでコンサート・ブッキングの仕事をしており、オーナーから任されて数多くのアーティストによるコンサートを企画したそう(彼は、同年4月にマッケイブスで収録されたジョン・レンボーン・グループのライブ盤のアシスタント・プロデューサーも担当している)で、バートの渡米・滞在、録音費用を賄うために同地およびサンフランシスコでのコンサートを企画、その模様を録音していたのが本音源だ。店の裏にある小さなスペースでのライブで、6月20日という日付から、アルバム・レコーディングの最終段階、すなわち山を過ぎて一息ついたあたりで行われたライブという。そのためリラックスした演奏を聴くことができ、時折ギター演奏のミスもあるが、ボーカルが好調なのであまり気にならず、音質も良いので彼のライブ音源のなかでも質の良いものだと思う。演奏曲目は、初期のレパートリーから13, 17, 20, 23, 24 で、24.「I Am Lonely」が珍しいかな。カリスマ・レーベルの中期からは、11, 12, 14, 21、キッキングミュールの「Thirteen Down」 1980 S16から15, 19、そして録音中の本作から 16, 18, 22の新曲を歌っている。

バートはこの後、アルコール依存を原因とする体調不良のため、1985年まで新作の発表が途絶える。その間もペンタングルの再結成(「音源」の部1982年参照)などコンサートには出演していたと思われるが、他人の作品やオムニバス作品への参加も少なく、ギターショップの経営も短期間で終わるなど、かなり状況が悪かったようだ。なおジョン・チェリューは、その後ペンタングルのアルバム「Open The Door」1985 P14 や、ジョン・ハイアット、リチャード・トンプソン、ドノヴァン、アーロン・ネヴィル等の作品のプロデュースを担当する。なかでもジョン・ハイアットについては、マッケイブスでのライブの素晴らしさとレコードの出来のギャップに驚き、プロデュースを買って出たそうだ。

ボーナスディスク、解説だけでも、十分購入する価値あり。

[2021年12月追記]
2021年12月にYouTubeで公開されたプロデューサーのジョン・チェリュー(1951-2016)のインタビュー(Borderland Juke Box 配信)は、本作製作の裏話が生き生きと語られており、素晴らしい内容です(本インタビューに基づき、本文の一部を加筆修正しました)。以下のエピソードはその一部です。

・彼はバートとペンタングルを聴いて夢中になり、16歳の時にペンタングルのトゥラバドゥール(ロス・アンジェルス)でのコンサートにヒッチハイクして観に行った。連日最前列で観ていたら、ジャッキー・マクシーが「そんなお金ないでしょ」と言って、楽屋から入れてくれた。最後に連絡先を残して別れたら、後日サンフランシスコに移動中のバンドの車が自宅に寄ってくれた。

・バートのアルバムを製作するにあたり、バートの友人で、当時マッケイブスでコンサートを開催していたラルフ・マクテルのアドバイスと協力があった。

・「Hertbreak Hotel」の録音は、ジュークボックスから流れてきたエルヴィス・プレスリーの歌を聴いた弟のリックが、バートに強く勧めて、バートが自分なりのギターリフを見つけたので録音した。

・ドラムスのマット・ベットンは、最終日都合がつかなかったので、アレックス・アクナ (ウェザーリポートのドラマーとして有名な人)の進言により、ジャック・ケリーが参加した。

・当時バートはレコード会社との契約がなく、プロデューサーのジョー・ボイドがこの録音を聴いて気に入り、彼の働きかけにより大手レコード会社からの発売が決まった。


 
S19 BBC Radio 1 Live In Concert(1993)  Windsong WINCD 039 

 

[Bert Jansch Conundrum]
Bert Jansch : Vocal, Guitar
Martin Jenkins : Mandocello (2,6), Fiddle (1,3,4,5), Vocal (2,5,6)
Nigel Portman-Smith : Bass
Luce Langridge : Drums
Albert Lee : Guitar (7〜13)

Liner Notes: Colin Harper
           
1. Poor Mouth  S13 S17 S18 S36 S36 O16 
2. Running From Home  S1 S14 S17 S23 S25 S36 S36 S36 O16
3. Kingfisher  S14 S15 S18 S23 S27 S36 P19 P22 O17        
4. Let Me Sing  S16 S17 S18 S25 S27 S36 O16
5. Sovay [Trad.]  S16 P3 P9 P21 O16
6. Alimony [Tommy Tucker]  S14 S17 O16
7. Love Is Lost  S13 P14
8. Fresh As A Sweet Sunday Morning  S9 S10 S27 S33 S36
9. Up To The Stars  S18
10. If I Were A Carpenter [Tim Hardin]  S18 S18 S25
11. Sit Down Beside Me  S18
12. Is It Real ?  S18 S18 S36 P22 O19 O22
13. Heartbreak Hotel [Axton, Durden, Presley]  S18 S25 S36

Recorded At BBC Radio 1 'Live In Concert' At Paris Theatre, London
July,1980 (1〜6), April,1982 (7〜13)
1993年 9月発売

 

1990年代になって、60〜80年代のBBC ラジオにおける一流アーティストの放送用録音が次々とCDで発売され、1993年にバートの80代初めの録音が突然発売され、ファンにとってうれしいプレゼントになった。ソロでは、1980年に日本のみで発売された「Live At La Foret」 S17 を除くと初めてのライブ盤。

本作は1980年7月の録音 (1〜6) と1982年4月の録音 (7〜13) の二部構成。最初は「Thirteen Down」 1979 S16 発表後で、同ツアーの録音は他に「Live At La Foret」(1980 S17 バートとマーチンの2人)、ビデオで発売された「Conundrum In Concert 」(1991 O16、ナイジェルのベースを加えた3人組)のバージョンがある。4人編成のコナンドラムは本作のみで、バート、マーチン、ナイジェルの正式メンバーにドラムスのルース・ラングリッジを加えた4人は「Thirteen Down」録音時と同じメンバーで、息の合った演奏を聴くことができる。特にドラムスを加えたリズムは驚くほど強力で、2人や3人組のライブに比べて格段に乗りの良いパワフルな音になっている。また本作では録音的にもナイジェルのエレキ・ベースの音が大きくフィーチャーされており、フレットレス・ベースのうねりのあるメロディーはバンドのサウンドに厚みとグルーブ感を与えている。

特に興味深いのは3.「Kingfisher」で、オリジナル録音(「Avocet」1979 S15 所収) に対して、本作では原曲にないドラムスを加えたことによって全く異なる印象の曲になった。2.「Running From Home」も同様で、最後のコーダの部分でのインタープレイによって曲の余韻を広げる効果が出た。ライ・クーダーの演奏で有名な 6.「Alimony」は、「Live At La Foret」1980 S17 でのバージョンと同じく楽しく演奏される。ちなみに離婚のための慰謝料・生活費の支払いに苦しむ男の歌であるこの曲の紹介にあたり、マーチンが「この曲をミック・ジャガーに捧げます。」と言って聴衆を笑わしている。

後半は1982年の録音で、「Heartbreak」1982 S18発売後に企画されたプロモーショナル・ツアーのもの。ここではレコーディング・メンバーのアルバート・リーが参加した。またドラムスは当初は元ペンタングルのテリー・コックスと発表されたが自動車事故により参加不能となり、急遽ルース・ラングリッジが参加することになったようだ。アルバート・リーが参加したライブはこの作品のみで貴重。ライブにおける彼のギターは素晴らしく、派手に弾きまくるわけでもないけど、圧倒的としか言いようがない。7.「Love Is Lost」は「Lost Love」の曲名で「A Rare Conundrum」1977 S13 に収録されていたもので、この演奏を聴くと「Heartbreak」 1982 S18 所収と思い込んでしまうほど、アルバートのプレイは冴えている。ナイジェルのベースもそれに煽られたのか、いつになく気が入っている。ライブ特有のエキサイティングな雰囲気でありながら、抑制のきいたクールな姿勢を保つことにより、正に爆発寸前のエネルギーを凝縮することに成功した最高の演奏であると思う。

イギリス全土に放送される放送番組への出演ということもあり、バートを含むメンバー達の意気込みが感じられる演奏で、バートの数ある演奏のなかでも、最も気迫のこもった熱演といえよう。20年以上経過しても色褪せることのない49分34秒のお勧め品。このCDは発売期間が短かったこともあり、廃盤になった現在、中古市場では比較的高値で取引されている。

[2023年1月追記]
2022年に発売された「Bert Jansch At BBC」 S36に本CD全曲が収められています。


 
S20 From The Outside (1985 オリジナル盤)  Konexion KOMA 788088  
 

Bert Jansch : Vocal, Guitar,Banjo (11)
Jeff Watts : Producer (Except 5)
        
[Side A]                  
1. From The Outside *
2. Change The Song
3. Read All About It  
4. Shout
5. Ah Sure Wanna Know
6. Time Is An Old Friend  

[Side B]                   
7. If You're Thinking 'Bout Me [B. Jansch, P. Smith]
8. Silver Raindrops
9. Still Love Her Now That She's Gone  S22
10. Get Out' My Life
11. Sweet Rose S22 S36
12. Blues All Around Me ★  S23
13. From The Inside*

注)★=CD版でカットされた曲(ただし5.はS21の後に発売されたSanctuary Recordsの再発盤には追加収録された)

Recorded At Sweet Silence Studios, Copenhagen By Flemming Rasmussen (2,3,4,7,8,9,10)
Recorded At Hern Place Studios, Sunningdale By John Acock (1,6,11,12,13)
Recorded In London By Ralph McTell (5),

1985年9月発売

 

この頃のバートは、アルコール依存症でかなりのスランプだったようだ。当時の荒んだ絶望の日々のなかで、そこから抜け出そうともがく自分を歌ったのが、前作から3年振りに発表となった本作だ。これはバートにとって原点回帰の1作である。バック・ミュージシャンもゲストもない、彼自身のギター1本という厳しい条件のなかで録音された本作は、20年前のファースト・アルバムを彷彿させる純粋さがある。内容的に暗い曲もあるが、歌に対する誠実さが滲み出て、どっしりと胸に迫る説得力があり、いぶし銀の様な作品となった。

以下バート自身によるコメントを交えて解説しよう。1.「From The Outside」は序曲のようなインストもの。「これはアーチー・フィシャーから教わった『Oh Dear Me』という国境地帯の工場歌の伴奏で、歌なしでも十分鑑賞に耐えうるものである。」スリーフィンガー奏法によるラフでシンプルな出来。2.「Change The Song」は印象的なギターの伴奏ではっとするような声で歌われ、このアルバムのカラーを決定づける。「シンプルなブルースで、1960年エジンバラのエリザベス・クルックシャンクに教えてもらい、その後ジョン・レンボーンによって取り上げられた『Watch The Stars』の変形である。この曲は私の絶望と酒浸りの日々とそこから抜け出る願いを歌ったもの。」「 3.『Read All About It 』は未完成となった『60年代』というプロジェクトのために書いた数曲のうちのひとつ。60年代のイメージ、ミニスカート、プラットフォーム・シューズ、モッズ族とロッカー達、それらは総て業者とメディアによって作りだされ買わされたものであった。特にクリスマスにおいて。」4.「Shout」は爪弾きのカーターファミリー奏法の曲。「私は今でもプロテスト・ソングを書く。今や大小の核兵器開発能力を持つ国が増えつつあることに注意を払うことが大変重要であると思う。それらは大量殺戮兵器であり、強い放射能があるのだ!」 5.「Ah Sure Wanna Know」は、歌詞がないので正確な事は判らないが、死神に向かって歌っているような曲で、「次は誰を殺すんだい? もし俺だったら知りたいもんだね。」という部分が耳に残る。6.「Time Is An Old Friend 」「年寄りで孤独な人々にとって、パブに入り浸ることは残された唯一の楽しみであることが多い。彼らは愛した人と過ぎ去りし良き日々の話を、聞いてくれるのであれば誰にでもするのである。」

以下レコードのB面となるが、この手の作品は切れ目のないCDよりも、A/B面が分かれて息をつくことが出来るレコードのほうが向いていると思う。7.「If You're Thinking 'Bout Me」の伴奏ギターはいかしているぞ。「ナイジェル・ポートマン・スミスとの共作。愛についてのハードボイルドな歌で良い出来だと思う。ナイジェル、こんな感じでもっとやりたいな。」 8.「Silver Raindrops」。「我々が知らない、あるいは名前だけは聞いたことのある病気や伝染病はたくさんある。そしてある日それらの病気が身近な人を突然襲い、その現実に呆然とするのである。この歌は拒食症について歌ったもので、今は亡き愛する若い友人のために捧げる。」 9.「Still Love Her Now That's She's Gone」は、後の再録音および 1993年盤CD版では「Why Me?」という題名に変更された。「これは女性によって歌われるべきものである。歌詞の文法上の性を変えたので私でも歌えるが、そのつもりで聞いてほしい。これは報われない愛の歌ではなく、それとは反対に愛する人を失い捨てられてたことを歌ったもの。」 10.「Get Out' My Life」。「私にとって辛い曲。感情的な混乱をうまく出すために、この歌は粗削りのままにして手を加えなかった。といっても私のすべての歌はこんなもんだが。自分達は決して悪くなく、圧力をかけて理解してくれない世間が悪いのだと、アルコール中毒者は反駁する。それは抜け出すことが最も難しいドラッグのひとつであるが、その理由はそれが社会で容認されているからである。」パブに入り浸り、最後は仕事に支障をきたすようになった、アルコール依存症に苦しんだ彼の実体験が、語られている。11.「Sweet Rose」はトラッドの香りがする曲で、バートはバンジョーを弾く。「この曲のメロディーは『Pretty Saro 』の変形で、私の脳裏からずっと離れなかったもの。歌詞は、手が届かないことが明らかなものに対する憧れ、欲求を描いたもの。」 12.「Blues All Around Me」は、同じことの繰り返しに飽いてブルーになった気持ちを歌ったもの。1993年のCD版からカットされたが、1990年の「Sketches」S23には「The Old Routine」という新しいタイトルで別録音のものが収録された。13.「From The Inside」。「もうひとつのインスト作品。これはもともと歌詞付だったし、将来またそうなるかも。」

本作はベルギーの小レーベルで僅か500枚のみしかプレスされなかったということで、貴重盤として中古市場で高値を呼んでいる。


 
S21 From The Outside (1993 CD版、LP復刻盤) Hypertension HYCD 200 128 

 








Bert Jansch : Vocal, Guitar, Banjo (1),

Recorded At Sweet Silence Studios, Copenhagen By Flemming Rasmussen (2,3,4,5,7,8,9,10)
Recorded At Hern Place Studios, Sunningdale By John Acock (1,6,11,14)
Recorded In London By Bert Jansch, (12,13)

Jay Burnett: Remix
Kieran Jansch: Cover Art Work

          
1. Sweet Rose In The Garden  
2. Blackbird In The Morning ☆
3. Read All About It (One By One)      
4. Change The Song  
5. Shout  
6. From The Outside*
7. If You're Thinking 'Bout Me Babe  
8. Silver Raindrops  
9. Why Me ? 
10. Get Out Of My Life
11. Time Is An Old Friend   
12. River Running ☆         
13. High Emotion ☆  S25
14. From The Inside*  

注)☆ CD版で新たに追加された曲

歌詞・本人による解説付き


写真上: CD盤オリジナル・ジャケット(Hypertension)
写真中上: CD盤リイシュー・ジャケット (Sanctuary)
写真中下: 2016年 Earth Recordsによる復刻CD、およびLPレコード盤(黄色仕様)
写真下:  2016年 Earth Recordsによる復刻LPレコード盤(赤色仕様)

LP発売から8年後の1993年、ドイツのハイパーテンション・ミュージックからCDが再発された。ジャケットは最初の妻ヒザーとの間にできたバートの息子のキーランがデザインしたものに変更され、リミックスに加えて曲順や一部の曲名が変更になった。さらに今回はLP収録の2曲がカットされ、未収録の3曲が追加されるという大胆な改変がなされた。詳細は以下の通り。

(1)曲名が変更になったもの。「Still Love Her Now That's She's Gone」→「Why Me ?」その他数曲で細かな相違あり。(2)CD版未収録のもの。「Ah Sure Wanna Know」「Blues All Around Me」の2曲。(3)CD版に新たに追加されたもの。「Blackbird In The Morning」「River Running」「High Emotion」の3曲。

CDなので演奏時間の問題はなく、単なるアウトテイクの追加であればボーナス・トラックとすればよいのに、どうして2曲もカットしたのだろうか。CD版作成に際してはバート本人が製作作業に加わったようで、その後アルコール依存症を克服し、音楽キャリアの復帰に成功した一方で、最初の妻ヒザーとの離婚、長く一緒に暮らした恋人シャルロットとの離別など、多くの事があったようで、その歳月がこの作品に対する考えを変化させたものと思われる。LP版では冒頭のインストに続く「Change The Song」の登場は、この作品のムードを決定づけるほど強烈なものであったが、CD版ではどちらかといえば穏やかな曲が冒頭に並んでいる。厳しい曲は中間部に散らされて配置されているため、作品全体の印象がとても穏やかなものになった。といっても、作品の持つ重みはかえって増したかも知れない。

2.「Blackbird In The Morning」。「今回有り難いことに、リミックス作業中に発見されたラブソング。この歌は朝一番に目覚めて鳴き、夜おそくまで囀っているブラックバードの珍しい生態を描いたもの。とても変化に富む鳴き声である。」 12.「River Running」「世界中の多くの人に語られている自明なことを繰り返して恐縮している。この星は我々にとってかけがえのないものであり、生き残るために必要なありのままの姿が保存されなくてはいけないのだ。」 13.「High Emotion」は「Acoustic Routes」 1993 S25のバージョンとは別録音。「長年離れ離れになっていた人と再会することは、胸がわくわくするものだ。とても昔の事でも、互いにひかれあった思い出や、別れた時の心の傷が混ざり合った感情が刺激的なのである。」 12 .13.の2曲については、バートの落ち着いた歌声から推測するとLP製作当時のものではなくCD版制作時の90年代の録音だ。なお本作は、その後サンクチュアリーから新しいジャケットデザインにて再発され、そこには当初CD化にあたってオミットされた「Ah Sure Wanna Know」が13.と14.の間に追加収録されたが、もう1曲「Blues All Around Me」はバートの気に入らなかったようで、未だにレコード版のみでしか聴くことができない。


[2016年11月追記]
2016年ロンドンの独立レーベル Earth RecordsがCDおよびLPレコード仕様で復刻した。レコード盤は透明な黄色のものと赤色のものの2通りあり、各500枚の限定発売。曲目・曲順は、サンクチュアリから発売されたCDと同じ(オリジナル・レコードに比較して、「Blackbird In The Morning」、「River Running」、「High Emotion」が追加され、当初CD盤ではオミットされた「Ah Sure Wanna Know」は含まれているが、「Blues All Around Me」は除かれたまま)。