A secret feeling ― もう一組のその後 ―





鏡に吸い込まれるように、ハウルが目の前から消え<ハウル>の輪郭が浮かび上がる。
<ソフィー>は知らず両手を握り締め、無事に戻った<ハウル>の姿に安堵しつつ身体が緊張で硬くなる。

<ハウル>は両目を閉じ、右手に握り締めた小瓶を胸にあて静かに息を吐く。知らず震える手に力を込めて。
硬質な空気の層を突き抜け、懐かしい・・・花の香りに包まれた空気が身体を包む。

・・・戻った・・・僕の世界に・・・

<ハウル>は体中の神経が、ある存在を探して総動員していることに驚く。
・・・それでも、瞳を開くことができずに立ちすくむ。

<ソフィー>は・・・ここに居る・・・!この城に・・・まだ居てくれる・・・!

右手の中の小瓶を痛いほどに握り締め、失うかもしれなかった存在がどれほど大切か・・・・今まで感じないフリをしてきた自分の想いが・・・どんなに胸を焦がすものであったかを・・・素直に認める。
しかしそうすることで、<ハウル>は今まで感じなかった不安が胸を締め付ける。
自分が<ソフィー>に今まで取ってきた態度を考えると・・・その傷は計り知れない・・・。
それでも、<ハウル>は・・・もはや<ソフィー>を手放すことが出来ないことを知ってしまった。

<ソフィー>を失ったら・・・僕は・・・。

ぐっとまぶたに力を込め、<ハウル>は意を決したように瞳を開く。

・・・愛しい君を・・・失うかもしれないと思っただけで・・・僕は逃げ出してしまったけれど・・・、もう、逃げることはやめるんだ。
ソフィーが・・・僕に・・・勇気をくれたから・・・。

<ハウル>が恐る恐る開けた視線の先には・・・涙で濡れた瞳が見つめていた。
今まで、目を逸らしてきたその存在の大きさに<ハウル>は圧倒される。
小さく震えるその華奢な身体を、気丈に奮い立たせているのがわかる。
まっすぐに<ハウル>を見つめ、どれほどの想いをその体中に封印していたのか・・・・。

今まで感情を押し殺してきたのは<ソフィー>も同じであった。
そうしなければ、一緒に過ごすことができなかったから。
<ハウル>の負担になることがわかっていたから・・・・。

・・・私は、もう自分の気持ちに嘘はつかないわ。あなたに・・・心が戻っていると・・・わかったから。
ハウルが・・・私じゃなければダメなんだと・・・そう言ってくれたから。
私は、もう一度、あなたに微笑んで欲しい。あの花に向けた笑顔を・・・私にも向けて欲しいから!

<ソフィー>の瞳に強い輝きが宿り、<ハウル>をまっすぐに射抜く。
<ハウル>の中に居る・・・臆病な<ハウル>を捕らえる。

見つけた・・・・!

<ソフィー>はふっと体中の力を抜き、涙を拭うこともせず微笑む。
どうしてよいのかわからずに立ち尽くす、<ハウル>の幾分濃くなった碧眼を覗きこむ。

臆病で・・・寂しがり屋で・・・傷付くことが怖くて・・・・心のないフリをしていた・・・<ハウル>!!

<ハウル>は微笑む<ソフィー>に、背中を押されたように<ソフィー>を抱きしめる。
右手の小瓶を握り締め心の中でそっと呟く。

ソフィー、僕に力を貸して!

「<ソフィー>・・・、今までごめん・・・。僕は君を・・・」
言いながら瞳に熱いものがこみ上げてくる。愛しさで胸が苦しくて、抱きしめる腕に力がこもる。
<ソフィー>の温もりを感じ心が満たされる。初めての気持ち。

ちゃんと言わなくちゃ!僕の気持ちを・・・伝えなくちゃいけない・・・!

「・・・!出て行かないで!僕の傍に居て・・・!<ソフィー>・・・今まで・・・君を傷つけて・・・ごめん!僕は・・・」
吐き出すように懺悔する<ハウル>に、<ソフィー>は腕を回し心ごと<ハウル>を抱きしめる。
「もう、いいの!<ハウル>・・・、私は・・・貴方を愛してるわ。どんな貴方でも・・・ね?」
そして、<ハウル>は・・・優しく微笑む。花ではなく<ソフィー>を見つめて。
「お帰りなさい・・・<ハウル>」
<ソフィー>がそう言うと、<ハウル>は強く抱きしめ、口付ける。
「・・・ずっと、僕と一緒に居てくれるかい?末永く・・・一緒に!」
右手から小瓶が落ち、足元に転がる。
<ソフィー>は涙でぐしゃぐしゃになりながらも、美しい笑顔で<ハウル>を見つめて囁く。
「時にはケンカをして、時には怒って・・・貴方と生きて行きたい!」
「今から僕たちの・・・恋をはじめよう?」
<ハウル>がもう一度口付けると、暖炉の炎が大きくなり懐かしい声が響く。
「おいら、戻って来てよかったのかい?お邪魔じゃないか?」
「<カルシファー>!戻ってきてくれたんだね!ああ、君にも謝らなくちゃ!!」
<ハウル>が暖炉の火の悪魔に駆け寄るのを、微笑みながら・・・・<ソフィー>は鏡に目を向ける。

ありがとう。ハウル・・・!あなたに会えて・・・本当によかった!!
どうか、あなたがソフィーと幸せでありますように!!









        end




挿絵・・・海が好きさん
ありがとうございます〜!


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