第8章 伊吹山(いぶきやま)の白イノシシ

 ヤマトタケルは、ミヤズヒメの家に草薙の剣を置いたまま、伊吹山(滋賀県と岐阜県の境にある山)の神を退治に出発されました。そこで、ヤマトタケルは、
「こんな山の神ぐらい、素手(すで)で殺してやろう。」
とおっしゃって、山に登ったときに、山の辺(へ)で牛のように大きな白いイノシシと出会いました。ヤマトタケルは、
「この白いイノシシに化けたやつは、この山の神の使いだろう。まあ、今殺さなくても、帰る時に殺してやろう。」
とおっしゃって、さらに山を登って行かれました。すると、突然、大雨が降って来て、ヤマトタケルの行く手をはばみました。実は、このイノシシは、神の使いではなくて、神そのものの正体であったのですが、ヤマトタケルがイノシシに向かって大きな声で威嚇(いかく)したために、邪魔をしようとしたのです。そこで、仕方なく山を降りられ、玉倉部(たまくらべ)の清水(滋賀県坂田郡米原町の醒が井)で休まれたところ、やや正気を取り戻されました。そこで、その清水のことを「居寤(いさめ)の清水」というのです。
 そして、ヤマトタケルは、そこを出発して、当芸野(たぎの=岐阜県養老郡)まで来られて、こうおっしゃいました。
「わたしの心は、いつも空を飛んで行くような思いであったのに、今は私の足も歩けなくなって、たぎたぎ(たどたど)しくなった。」
 それで、この血を当芸(たぎ)というのです。
 その地から少しいったところで、ヤマトタケルはとても疲れたとおっしゃって、杖をついてやっと歩けるような状態でありました。そこで、その坂のことを「杖衝坂(つえつきざか=三重県四日市市采女の西石薬師に至る坂)」というのです。
 

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